説明

蓄電装置

【課題】最小限のサイズおよびコストで、直流電圧を低い電圧領域に下げても電圧変換が可能で、簡易な構成の蓄電装置を提供する。
【解決手段】基準交流電圧を直流電圧に変換して少なくとも1つのバッテリセル2に電気エネルギーを蓄積することができる蓄電装置1であって、基準交流電圧を変圧交流電圧に変圧する変圧手段3と、変圧交流電圧を前記直流電圧に変換する電圧変換手段4とを備え、変圧手段3は一次巻線または二次巻線のいずれか一方にそれぞれ巻数の異なる位置から引き出された複数のタップ8、9を有するトランス10と、複数のタップ8、9のうちのいずれかのタップが選択されるように接続を切り替えるためのスイッチ11とを有し、スイッチ11の切り替えにより、基準交流電圧と変圧交流電圧との変圧比が変化することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電力と直流電力とを相互変換し、該直流電力を用いて、バッテリセルまたは複数のバッテリセルを直列に接続してなる組電池に電気エネルギーを蓄積し、バッテリセルまたは組電池から電気エネルギーを放出する蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、リチウムイオン電池等のバッテリセルに電気エネルギーを蓄積し、バッテリセルから電気エネルギーを放出する蓄電装置がある。この蓄電装置は、交流電圧と直流電圧とを相互に変換するAC−DC双方向コンバータからなる電圧変換手段を備えている。
一般に、双方向電圧変換を行う電圧変換手段には、フルブリッジ回路で構成されたAC−DC双方向コンバータが用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
フルブリッジ回路で構成されたAC−DC双方向コンバータは、交流電圧に対して直流電圧を一定値より高くすることが要求される。このため、一般には、交流電圧を考慮して直流電圧(バッテリ直列数)を決定する、直流電圧の下限を考慮した交流電圧を生成するトランスを用いる、または直流電圧を交流電圧に適した電圧に昇降圧するDC−DCコンバータを用いる等の手法がとられる。
【0004】
一般に、リチウムイオン電池等のバッテリセルは、図1に示すようにSOC(State of Charge(残存容量))に対してセル電圧が変化する特性を有する。
同図に示すように、バッテリセルには、SOCの変化に対するセル電圧の変化率が相対的に小さい第1領域と、変化率が第1領域よりも大きい第2領域とが存在する。
SOCが小さい第2領域でバッテリセルを使用するとセル電圧が急速に低下するため、過放電のおそれや、セルの劣化が促進されるおそれがある。このため、バッテリセルを第2領域で使用せず、第1領域のみで使用することが合理的であり、そのように設計された蓄電装置が実用化されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
上記蓄電装置において、フルブリッジ回路で構成されたAC−DC双方向コンバータを用いる場合、バッテリセルを第1領域のみで使用することにより、考慮すべき直流電圧の下限を高く設定することができる。このため、AC−DC双方向コンバータの交流電圧を高く設定することができ、交流電流を少なくすることができる。
さらに、交流電流を少なくすることで、より低容量、小形、低コストのスイッチング素子を用いることができ、第2領域まで使用する場合と比べて無駄の少ない合理的な設計が可能となる。
【0006】
また、リチウムイオン電池等のバッテリセルを直列に接続した組電池では、長時間使用すると、自己放電の僅かな違いにより各々のバッテリセルのSOCにバラツキが生じる。バラツキが生じると、使用可能なSOCの領域が狭まるためバラツキを是正する必要がある。このため、一般に組電池を使用する場合は、SOCのバラツキを是正する機能がBMS(Battery Management System)に付加される。
BMSでは、バッテリセルのSOCを直接検出することはできないため、SOCと一定の相関関係のあるバッテリセルのセル電圧を検出し、そのバラツキを是正することにより、SOCのバラツキを是正している(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−272121号公報
【特許文献2】特開2005−65352号公報
【特許文献3】特開2004−173345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、リチウムイオン電池等のバッテリセルは、図1に示すようなSOCとセル電圧との相関関係があるため、SOCの変化に対してバッテリセルのセル電圧の変化が相対的に大きい第2領域においてバッテリセルのセル電圧のバラツキを是正した方が、より高精度かつ迅速に行うことができる。
【0009】
しかしながら、フルブリッジ回路で構成されたAC−DC双方向コンバータのような交流電圧に対して直流電圧を一定値より高くすることが要求される電圧変換手段を用いた場合、第1領域のみで使用することを前提として設計すると、第2領域で正常に電圧変換を行うことができない。
【0010】
このため、電圧変換手段が第2領域でも正常に電圧変換を行うためには、直流電圧の下限が第2領域に含まれるよう電圧変換手段を設計する必要がある。しかしながら、このような設計をすると、第1領域のみで使用する電圧変換手段と比較して、電流定格の大きな部品を用いる必要があるため設計上の無駄が多くなり、サイズおよびコストの面で劣ることになる。
【0011】
一方、第2領域でも使用できるようにし、かつ、電流定格の大きな部品を用いることを避けるために、AC−DC双方向コンバータの直流側にDC−DCコンバータを設けて、AC−DC双方向コンバータの直流電圧を昇降圧する方法がある。しかし、このように構成した場合でも、システムが複雑になり、サイズおよびコストの面で劣ることになる。
【0012】
上記の問題に鑑みて、本発明は、最小限のサイズおよびコストで、直流電圧を低い電圧領域に下げても電圧変換が可能で、簡易な構成の蓄電装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明に係る蓄電装置は、基準交流電圧を直流電圧に変換して少なくとも1つのバッテリセルに電気エネルギーを蓄積することができる蓄電装置であって、基準交流電圧を該基準交流電圧と電圧値が異なる変圧交流電圧に変圧する変圧手段と、変圧交流電圧を直流電圧に変換する電圧変換手段とを備え、変圧手段は、一次巻線または二次巻線のいずれか一方にそれぞれ巻数の異なる位置から引き出された複数のタップを有するトランスと、複数のタップのうちのいずれかのタップが選択されるように接続を切り替えるためのスイッチとを有し、スイッチの切り替えにより、基準交流電圧と変圧交流電圧との変圧比が変化することを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、簡易な構成で、基準交流電圧から電圧値が異なる複数の変圧交流電圧を発生させることができ、タップとスイッチとの接続を切り替えることにより、変圧手段から電圧変換手段に複数の変圧交流電圧のうちの1つを供給することができる。
その結果、基準交流電圧から広範囲にわたる直流電圧を出力することができる。これにより、最小限のサイズおよびコストで、直流電圧を低い電圧領域に下げても電圧変換が可能で、簡易な構成の蓄電装置を提供することができる。
【0015】
ここで、上記蓄電装置として、複数のタップは、第1タップおよび第2タップからなり、スイッチを第1タップに接続すると、変圧手段が、基準交流電圧を第1変圧交流電圧に変圧するとともに、電圧変換手段が第1変圧交流電圧を第1直流電圧に変換する一方、スイッチを第2タップに接続すると、変圧手段が基準交流電圧を第1変圧交流電圧よりも電圧値が低い第2変圧交流電圧に変圧するとともに、電圧変換手段が第2変圧交流電圧を第1直流電圧よりも低い第2直流電圧に変換することを特徴とする蓄電装置を例示することができる。
【0016】
さらに、上記蓄電装置として、電圧変換手段は、フルブリッジ回路で構成されたAC−DC双方向コンバータであり、少なくとも1つのバッテリセルから電気エネルギーを放出させて、直流電圧を基準交流電圧に変換することもできる。
【0017】
また、上記蓄電装置として、バッテリセルは、残存容量に対するセル電圧の変化特性において、残存容量に対するセル電圧の変化率が相対的に小さい第1領域と、変化率が第1領域よりも大きく、かつ残存容量が第1領域よりも小さい第2領域とを有するものであり、第1領域と第2領域の一方端との境界におけるセル電圧を通常使用時下限設定電圧とし、第2領域の他方端における残存容量がゼロのときのセル電圧をバッテリセル最低電圧としたとき、第1直流電圧の下限は通常使用時下限設定電圧以上に設定され、第2直流電圧の下限はバッテリセル最低電圧以上、かつ通常使用時下限設定電圧よりも低く設定されることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、スイッチが第1タップに接続されると、第1直流電圧の下限は通常使用時下限設定電圧以上に設定され、スイッチが第2タップに接続されると、第2直流電圧の下限はバッテリセル最低電圧以上、かつ通常使用時下限設定電圧よりも低く設定される。
このため、バッテリセルを第1領域で使用する場合、スイッチを第1タップに接続して、電圧変換手段に入力される第1直流電圧の下限または電圧変換手段から出力される第1直流電圧の下限を通常使用時下限設定電圧以上にすることができる。これにより、第2領域まで使用する電圧変換手段と比べて、入出力される交流電圧を高く設定することができ、無駄の少ない合理的な設計が可能となる。
【0019】
その一方で、スイッチが第2タップに接続されると、第1領域のみで使用することを前提とした電圧変換手段が有する設計上の合理性を大きく損なうことなく、第2領域でも正常に電圧変換を行うことができる。
【0020】
さらに、上記の蓄電装置として、少なくとも1つのバッテリセルは、複数のバッテリセルを直列に接続してなる組電池であり、組電池を構成する各バッテリセルのセル電圧を検出する電圧検出手段と、各バッテリセルを充放電させて各バッテリセル間のセル電圧の電圧差を小さくするバランス動作を行うバランス手段とをさらに備え、バランス手段は、電圧検出手段により検出された電圧差が許容のバラツキ範囲を超え、かつスイッチが第2タップに接続されて組電池の総電圧が通常使用時下限設定電圧よりも低くなるまで各バッテリセルから電気エネルギーが放出された後に、バランス動作を行うように構成することが好ましい。
【0021】
この構成によれば、バランス動作を行う前に、スイッチが第2タップに接続され、各バッテリセルのセル電圧が第2領域に含まれるまで各バッテリセルから電気エネルギーが放出される。これにより、バッテリセル間のSOCのバラツキ是正に適した低い電圧領域(第2領域)で電圧変換を行うことができる。
【0022】
また、上記の蓄電装置のバッテリセルは、リチウムイオン電池であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、基準交流電圧と直流電圧とを相互に変換し、バッテリセルに電気エネルギーを蓄積することが可能な蓄電装置において、最小限のサイズおよびコストで、直流電圧を低い電圧領域に下げても電圧変換が可能で、簡易な構成の蓄電装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】SOCに対するセル電圧の変化特性を示す図である。
【図2】第1実施形態に係る蓄電装置の構成を示す回路図である。
【図3】AC−DC双方向コンバータの構成を示す回路図である。
【図4】第2実施形態に係る蓄電装置の構成を示す回路図である。
【図5】SOCに対する組電池の電圧の変化特性を示す図である。
【図6】風力発電装置とともに使用される第2実施形態に係る蓄電装置の構成を示す回路図である。
【図7】第2実施形態における組電池に含まれるバッテリセルのセル電圧のバラツキを是正する第1の手法を示す図である。
【図8】第2実施形態における組電池に含まれるバッテリセルのセル電圧のバラツキを是正する第2の手法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
【0026】
[第1実施形態]
本実施形態に係る蓄電装置1は、図2に示すように変圧手段3と、電圧変換手段4と、電圧検出手段5と、制御手段6とからなり、交流電源7を用いてバッテリセル2に電気エネルギーを蓄積(充電)し、交流電源7側に電気エネルギーを回生させるためにバッテリセル2から電気エネルギーを放出(放電)するものである。
【0027】
バッテリセル2は、例えばリチウムイオン電池からなり、図1に示すようにSOC(残存容量)に対してセル電圧が変化する特性を有する。
同図に示すように、バッテリセル2には、SOCの変化に対するセル電圧の変化率が相対的に小さい第1領域と、第1領域よりも変化率が大きく、かつ第1領域よりもSOCが小さい第2領域とが存在する。
【0028】
変圧手段3は、図2に示すように一次側に第1タップ8および第2タップ9を有するトランス10と、外部の交流電源7から供給される基準交流電圧を第1タップ8または第2タップ9を介してトランス10に入力するリレーやFET等のスイッチ11とからなる。変圧手段3は、スイッチ11を切り替えることにより変圧比を変えることができる。
具体的には、変圧手段3は、充電時にスイッチ11が第1タップ8に接続されている場合、基準交流電圧を第1変圧交流電圧に変圧し、スイッチ11が第2タップ9に接続されている場合、基準交流電圧を第2変圧交流電圧に変圧する。
一方、変圧手段3は、回生時にスイッチ11が第1タップ8に接続されている場合、第1変圧交流電圧を基準交流電圧に変圧し、第2タップ9に接続されている場合、第2変圧交流電圧を基準交流電圧に変圧する。
スイッチ11が第1タップ8に接続されている場合と、第2タップ9に接続されている場合とでは、前者の方が一次巻線の巻数が少なくなる。このため、トランス10の二次側に発生する第2変圧交流電圧は第1変圧交流電圧よりも電圧値が低くなる。
【0029】
電圧変換手段4は、交流電圧と直流電圧との間で電圧変換を行うもので、交流電圧に対して直流電圧を一定値より高くすることが要求されるものである。電圧変換手段4は、充電時に、第1変圧交流電圧を、第1直流電圧に変換するか、または第2変圧交流電圧を第1直流電圧より低い第2直流電圧に変換する。
一方、電圧変換手段4は、回生時に、第1直流電圧を、第1変圧交流電圧に変換し、第2直流電圧を、第2変圧交流電圧に変換する。
【0030】
図1に示すように、第1領域と第2領域の一方端との境界におけるセル電圧を通常使用時下限設定電圧とし、第2領域の他方端におけるSOCがゼロのときのセル電圧をバッテリセル最低電圧としたとき、第1直流電圧の下限は通常使用時下限設定電圧以上になる(第1領域に含まれる)ように設定され、第2直流電圧の下限はバッテリセル最低電圧以上、かつ通常使用時下限設定電圧よりも低くなる(第2領域に含まれる)ように設定される。
なお、バッテリセル2は、セル電圧がバッテリセル最低電圧より低くなると過放電を起こしてしまう。
【0031】
また、電圧変換手段4としては、例えば、図3に示すようにフルブリッジ回路で構成された三相のAC−DC双方向コンバータ4Aが使用される。同図に示すように、三相のAC−DC双方向コンバータ4Aは、交流電圧を整流する交流スイッチS1〜S6と、交流スイッチS1〜S6を通過した電圧を平滑化するコンデンサC1と、ノイズを吸収するコンデンサC2〜C4およびコイルL1〜L3とからなる。
なお、交流スイッチS1〜S6の切り替えは制御手段6により行われる。このAC−DC双方向コンバータ4Aは、充電時にはAC−DCコンバータとして動作し、回生時にはDC−ACインバータとして動作する。
【0032】
電圧検出手段5は、バッテリセル2のセル電圧を検出するもので、バッテリセル2に対して並列に接続される。
【0033】
なお、蓄電装置1は、通常、バッテリセル2のセル電圧が図1に示す通常使用時下限設定電圧(本実施形態では3.7V)よりも低くならないように、制御手段6の制御下でバッテリセル2が充放電される。このため、電圧変換手段4は、バッテリセル2が第1領域で充放電されることを前提に設計される。
したがって、第1領域だけでなく第2領域でも充放電されることも考慮して設計された電圧変換手段と比べると、本実施形態における電圧変換手段4は、考慮すべき直流電圧の下限(第1直流電圧の下限)が高くなるため、サイズおよびコストを増大させることなく、無駄の少ない合理的な設計が可能となる。
【0034】
さらに、蓄電装置1は、変圧手段3を備えているため、外部の交流電源7から供給される基準交流電圧を変圧することにより電圧変換手段4に入力される交流電圧を低くすることができる。これにより、バッテリセル2が第2領域で充放電される場合であっても、蓄電装置1は、第1領域のみで使用することを前提とした電圧変換手段4が有する設計上の合理性を大きく損なうことなく、第2領域でも正常に電圧変換を行うことができる。
【0035】
次に、バッテリセル2や蓄電装置1を運送するために、バッテリセル2を意図的に放電させてバッテリセル2のセル電圧を第2領域まで下げ、運送後、再びセル電圧を第1領域に戻す手法について説明する。
【0036】
蓄電装置1では、通常、バッテリセル2のセル電圧が通常使用時下限設定電圧よりも低くならないようにバッテリセル2が充放電されるため、スイッチ11は第1タップ8に接続されている。したがって、まず、スイッチ11を切り替えて第2タップ9に接続させてバッテリセル2を放電させる。
または、バッテリセル2を放電させながら、バッテリセル2のセル電圧が使用時下限設定電圧より低くなる前にスイッチ11を切り替えて第2タップ9に接続させる。
なお、放電は、バッテリセル2に蓄電された電気エネルギーを交流電源7側に回生させる方式により行う。
【0037】
そして、バッテリセル2のセル電圧が、第2領域内の所定の電圧値、例えば、SOC5%(本実施形態では3.5V)になるまでバッテリセル2を放電させる。
放電完了後、バッテリセル2や蓄電装置1を運送する。
【0038】
運送後に、バッテリセル2のセル電圧を第1領域に戻す場合、スイッチ11を第2タップ9に接続させたまま、電圧変換手段4から出力される第2直流電圧を用いてバッテリセル2を充電させる。
そして、バッテリセル2のセル電圧が第1領域まで戻ると、スイッチ11を切り替えて第1タップ8に接続させる。
【0039】
上記のように、蓄電装置1では、スイッチ11を第2タップ9に接続させて、バッテリセル2を放電させることにより、バッテリセル2のセル電圧を第2領域まで下げることができる。
さらに、蓄電装置1では、スイッチ11を第2タップ9に接続させたまま、バッテリセル2を充電させることにより、バッテリセル2のセル電圧を第1領域まで戻すことができる。すなわち、蓄電装置1は、スイッチの切り替えにより、第1領域のみで使用することを前提とした電圧変換手段4が有する設計上の合理性を大きく損なうことなく、第2領域でも正常に電圧変換を行うことができる。
【0040】
[第2実施形態]
本実施形態に係る蓄電装置21は、図4に示すように、複数(本実施形態では3つ)のバッテリセル2A、2B、2Cを直列に接続した組電池22に、交流電源27を用いて電気エネルギーを蓄積(充電)し、交流電源27側に電気エネルギーを回生させるために組電池22から電気エネルギーを放出(放電)するものである。
【0041】
この蓄電装置21の基本的な構成は、電圧検出手段25および電圧バランス手段28を除いて第1実施形態に係る蓄電装置1と同じである。
【0042】
電圧検出手段25は組電池22の電圧および該組電池22に含まれるバッテリセル2A、2B、2C毎のセル電圧を検出する。なお、電圧検出手段25には、バッテリセル2A、2B、2C間のセル電圧の電圧差が許容のバラツキ範囲を超えた場合に、アラーム信号を出力してユーザーに知らせる通知手段が設けられている。
なお、許容のバラツキ範囲を超えた場合とは、例えば、バッテリセル2A、2B、2Cのセル電圧の最高値と最低値との電圧差が0.1V以上になった場合、またはバッテリセル2A、2B、2Cのセル電圧の平均値に対して、バッテリセル2A、2B、2Cのうちの少なくとも一つのバッテリセルのセル電圧が0.1V以上乖離した場合等である。
【0043】
電圧バランス手段28は、バッテリセル2A、2B、2Cのセル電圧のバラツキを是正するためのバランス動作を行うものである。具体的には、電圧バランス手段28は、バッテリセル2A、2B、2Cを充放電させて、バッテリセル2A、2B、2C間のセル電圧の電圧差を小さくするものである。
【0044】
ところで、組電池22に含まれるそれぞれのバッテリセル2A、2B、2Cは、図1に示すようにSOCに対してセル電圧が変化する特性を有する。このため、図5に示すように、組電池22は全体としてもSOCに対して電圧が変化する特性を有する。
なお、蓄電装置21では、組電池22の電圧は、各バッテリセル2A、2B、2Cのセル電圧の和となる。
【0045】
なお、蓄電装置21では、通常、組電池22の電圧が図5に示す第1領域と第2領域の一方端との境界における電圧である通常使用時下限設定電圧よりも低くならないように、制御手段26の制御下で第1直流電圧を用いて組電池22が充放電される。このため、電圧変換手段24は、組電池22が第1領域で使用されることを前提に設計される。
したがって、第1領域だけでなく第2領域で使用されることも考慮して設計された電圧変換手段と比べると、本実施形態における電圧変換手段24は、考慮すべき直流電圧の下限(第1直流電圧の下限)が高くなるため、無駄の少ない合理的な設計が可能となる。
【0046】
さらに、蓄電装置21は、変圧手段23を備えているため、外部の交流電源27から供給される基準交流電圧を変圧することにより電圧変換手段24に入力される交流電圧を低くすることができる。これにより、組電池22が第2領域で充放電される場合であっても、蓄電装置21は、第1領域のみで使用することを前提とした電圧変換手段24が有する設計上の合理性を大きく損なうことなく、第2領域でも正常に電圧変換を行うことができる。
【0047】
次に、組電池22のバッテリセル2A、2B、2C間に生じるセル電圧のバラツキを是正する手法について、図6〜図8を参照して説明する。
【0048】
同図に示す蓄電装置21は、系統29および風力発電装置30と連系している。風力発電装置30は風速の変化により発電電力が変動するので、発電電力の平滑化を行う必要がある。具体的には、発電電力が所定の出力範囲を上回る場合は組電池22が充電され、発電電力が所定の出力範囲を下回る場合は組電池22が放電される。
なお、発電電力の平滑化は、組電池22のSOCを大きく変動させる場合があるため、平滑化が行われる場合には、組電池22のSOCを所定のSOC(容量フィードバック目標値)に近づけていく容量フィードバック制御も併せて実行される。
したがって、セル電圧のバラツキを是正する手法には、容量フィードバック制御が停止された状態でバランス動作が実行される第1の手法(図7参照)と、容量フィードバック制御とともにバランス動作が実行される第2の手法(図8参照)とがある。
【0049】
これらの手法ではともに、バラツキ検出後、バッテリセル2A、2B、2Cのセル電圧が、容量フィードバック制御により容量フィードバック目標値に向かって下げられる。そして、バッテリセル2A、2B、2Cのセル電圧が第2領域に含まれる前にスイッチ11が切り替えられて第2タップ9に接続される(タップ切替)。
【0050】
第1の手法では、これに続いて、図7に示すようにバッテリセル2A、2B、2Cのセル電圧の最低値が、第2領域内のあらかじめ設定された下限電圧(例えば、3.0V)に達するまで、容量フィードバック制御により下げられる。
最低値が下限電圧に達すると、容量フィードバック制御は停止され、電圧バランス手段28によるバランス動作が開始される(バランス動作開始)。そして、バランス動作がしばらく行われた後、バッテリセル2A、2B、2Cの電力が系統29に回生されることにより(回生開始)、バッテリセル2A、2B、2Cのセル電圧が下げられる。
そして、このバランス動作と回生とが繰り返し行われ、バッテリセル2A、2B、2Cのセル電圧が下限電圧付近で実質的に一致し、バラツキが是正される。
なお、バラツキ検出から最初のバランス動作開始までは、容量フィードバック制御に替えて、バッテリセル2A、2B、2Cの電力を系統29に回生させることにより、バッテリセル2A、2B、2Cのセル電圧を下げる場合もある。
【0051】
一方、第2の手法では、図8に示すようにバッテリセル2A、2B、2Cのセル電圧の最低値が、第2領域内であらかじめ設定された下限電圧(例えば、3.0V)を下回らないように、容量フィードバック制御により下げられる。
そして、容量フィードバック制御の実行中に、電圧バランス手段28によるバランス動作が開始され(バランス動作開始)、バッテリセル2A、2B、2Cのセル電圧のバラツキが是正される。
【0052】
上記のように、蓄電装置21では、スイッチ11が第2タップ9に接続された後、容量フィードバック制御、または系統29への電力の回生により、バッテリセル2A、2B、2Cのセル電圧を第2領域まで下げることができる。
そして、SOCの変化に対するセル電圧の変化率が相対的に大きい第2領域でバランス動作が実行されることで、より高精度かつ迅速にバッテリセル2A、2B、2Cのセル電圧のバラツキを是正することができる。
【0053】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0054】
例えば、上記実施形態に係る蓄電装置1、21では、SOCに対するセル電圧の変化特性において、第1領域と第2領域とが存在するバッテリセル2、2A、2B、2Cを用いているため、スイッチ11が第1タップ8に接続されると、基準交流電圧に基づいて第1変圧交流電圧を生成され、第2タップ9に接続されると、第1変圧交流電圧よりも電圧値が低い第2変圧交流電圧を生成される2段階切替方式を採用したが、SOCに対するセル電圧の変化特性において、3つ以上の領域が存在するバッテリセルを用いる場合は、3段階以上の切替方式を採用することもできる。
【0055】
また、蓄電装置1、21では、交流電源7、27(系統29)に対して蓄電した電気エネルギーを回生させる方式によりバッテリセル2、2A、2B、2Cの放電を行っているが、交流電源7に替えて放電手段を接続するか、バッテリセル2、2A、2B、2Cに放電手段を接続してバッテリセル2、2A、2B、2Cを放電させる等の方式により行ってもよい。
【0056】
さらに、蓄電装置1、21では、三相に対応した変圧手段3、23および電圧変換手段4、24を用いたが、単相に対応したものを用いてもよい。
【0057】
また、変圧手段3、23では、二次側の電圧に比べて一次側の電圧の方が高くなることが多いため、第1タップ8および第2タップ9をトランス10の一次側に設けたが、二次側の電圧の方が高くなる場合は、二次側にタップを設けてもよい。
【0058】
また、バッテリセル2、2A、2B、2Cは、リチウムイオン電池に限らず、様々な二次電池を用いることができる。
【0059】
また、変圧手段3、23のスイッチ11や、電圧バランス手段28は、制御手段6、26によって制御されていてもよく、外部から手動により制御されていてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1、21 蓄電装置
2、2A、2B、2C バッテリセル
22 組電池
3、23 変圧手段
4、24 電圧変換手段
5、25 電圧検出手段
6、26 制御手段
7、27 交流電源
8 第1タップ
9 第2タップ
10 トランス
11 スイッチ
28 電圧バランス手段
29 系統
30 風力発電装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準交流電圧を直流電圧に変換して少なくとも1つのバッテリセルに電気エネルギーを蓄積することができる蓄電装置であって、
前記基準交流電圧を該基準交流電圧と電圧値が異なる変圧交流電圧に変圧する変圧手段と、
前記変圧交流電圧を前記直流電圧に変換する電圧変換手段とを備え、
前記変圧手段は、一次巻線または二次巻線のいずれか一方にそれぞれ巻数の異なる位置から引き出された複数のタップを有するトランスと、前記複数のタップのうちいずれかのタップが選択されるように接続を切り替えるためのスイッチとを有し、
前記スイッチの切り替えにより、前記基準交流電圧と前記変圧交流電圧との変圧比が変化することを特徴とする蓄電装置。
【請求項2】
前記複数のタップは、第1タップおよび第2タップからなり、
前記スイッチを前記第1タップに接続すると、前記変圧手段が、前記基準交流電圧を第1変圧交流電圧に変圧するとともに、前記電圧変換手段が、前記第1変圧交流電圧を、第1直流電圧に変換する一方、
前記スイッチを前記第2タップに接続すると、前記変圧手段が、前記基準交流電圧を前記第1変圧交流電圧よりも電圧値が低い第2変圧交流電圧に変圧するとともに、前記電圧変換手段が、前記第2変圧交流電圧を前記第1直流電圧よりも低い第2直流電圧に変換することを特徴とする請求項1に記載の蓄電装置。
【請求項3】
前記電圧変換手段は、フルブリッジ回路で構成されたAC−DC双方向コンバータであり、
前記少なくとも1つのバッテリセルから電気エネルギーを放出させて、前記直流電圧を前記基準交流電圧に変化することもできることを特徴とする請求項1または2に記載の蓄電装置。
【請求項4】
前記バッテリセルは、残存容量に対するセル電圧の変化特性において、残存容量に対するセル電圧の変化率が相対的に小さい第1領域と、前記変化率が前記第1領域よりも大きく、かつ残存容量が前記第1領域よりも小さい第2領域とを有するものであり、
前記第1領域と前記第2領域の一方端との境界におけるセル電圧を通常使用時下限設定電圧とし、前記第2領域の他方端における残存容量がゼロのときのセル電圧をバッテリセル最低電圧としたとき、
前記第1直流電圧の下限は、前記通常使用時下限設定電圧以上に設定され、
前記第2直流電圧の下限は、前記バッテリセル最低電圧以上、かつ前記通常使用時下限設定電圧よりも低く設定されることを特徴とする請求項3に記載の蓄電装置。
【請求項5】
前記少なくとも1つのバッテリセルは、複数のバッテリセルを直列に接続してなる組電池であり、
前記組電池を構成する各バッテリセルのセル電圧を検出する電圧検出手段と、
前記各バッテリセルを充放電させて前記各バッテリセル間のセル電圧の電圧差を小さくするバランス動作を行うバランス手段とをさらに備え、
前記バランス手段は、前記電圧検出手段により検出された前記電圧差が許容のバラツキ範囲を超え、かつ前記スイッチが前記第2タップに接続されて前記各バッテリセルのセル電圧が前記通常使用時下限設定電圧よりも低くなるまで前記各バッテリセルから電気エネルギーが放出された後に、前記バランス動作を行うことを特徴とする請求項4に記載の蓄電装置。
【請求項6】
前記バッテリセルは、リチウムイオン電池であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の蓄電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−239581(P2011−239581A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109342(P2010−109342)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】