説明

蓄電装置

【課題】容量が大きく、放電電圧が高く、エネルギー密度の高い蓄電装置を得ることを課題の一とする。
【解決手段】正極活物質を正極集電体上に有する正極と、正極と電解質を介して対向する負極とを有し、正極活物質は、リチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物で形成される第1の領域と、第1の領域を覆い、且つリチウムと鉄とを含む化合物で形成される第2の領域とを有する、蓄電装置である。正極活物質の表層部が鉄を含む第2の領域で形成されていることで、正極活物質表面でのリチウムの挿入脱離におけるエネルギー障壁を下げることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示される発明の一様態は、蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータや携帯電話などの携帯可能な電子機器の分野が著しく進歩している。携帯可能な電子機器において、小型軽量で信頼性を有し、高エネルギー密度且つ充電可能な蓄電装置が必要になっている。このような蓄電装置として、例えばリチウムイオン二次電池が知られている。また、環境問題やエネルギー問題の認識の高まりから二次電池を搭載した電気推進車両の開発も急速に進んでいる。
【0003】
リチウムイオン二次電池において、正極活物質として、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、リン酸コバルトリチウム(LiCoPO)、リン酸ニッケルリチウム(LiNiPO)などの、リチウム(Li)と鉄(Fe)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)またはニッケル(Ni)とを含むオリビン構造を有するリン酸化合物などが知られている(特許文献1、非特許文献1、及び非特許文献2参照)。
【0004】
リン酸鉄リチウムは組成式LiFePOで表され、リチウムがすべて引き抜かれたFePOも安定であるため安全に高容量が実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−25983号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Byoungwoo Kang、Gerbrand Ceder、「Nature」、(英国)、2009年3月、第458巻、p.190−193
【非特許文献2】F. Zhou et al.、「Electrochemistry Communications」、(オランダ)、2004年11月、第6巻、第11号、p.1144−1148
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のリチウムとマンガンとを含むオリビン構造を有するリン酸化合物で形成される正極活物質は、リチウムと鉄とを含むオリビン構造を有するリン酸化合物で形成される正極活物質と比較して放電電位が高いことが実現されている。また、リチウムとマンガンとを含むオリビン構造を有するリン酸化合物(例えば、一般式LiMnPO)と、リチウムと鉄とを含むオリビン構造を有するリン酸化合物(例えば、一般式LiFePO)とは、理論容量がほぼ同じである。これらのことから、リチウムとマンガンとを含むオリビン構造を有するリン酸化合物で形成される正極活物質は、エネルギー密度が高いことが期待されている。
【0008】
しかし、リチウムとマンガンとを含むオリビン構造を有するリン酸化合物で形成される正極活物質を用いても、期待された容量が発現できていない。これは、活物質表面でのリチウムの挿入脱離を行う際にエネルギー障壁が存在することが一つの原因と考えられる。
【0009】
上記の課題に鑑み、開示される発明の一様態では、容量が大きく、放電電圧が高く、エネルギー密度の高い蓄電装置を得ることを課題の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、正極活物質を正極集電体上に有する正極と、正極と電解質を介して対向する負極とを有し、正極活物質は、リチウム(Li)とマンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)の一以上とを含む化合物で形成される第1の領域と、第1の領域を覆い、且つリチウム(Li)と鉄(Fe)とを含む化合物で形成される第2の領域とを有する蓄電装置である。
【0011】
また、本発明の一態様は、リチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物で形成される第1の領域と、第1の領域を覆い、且つリチウムと鉄とを含む化合物で形成される第2の領域とを有する蓄電装置用の正極活物質である。
【0012】
正極活物質は粒子状であり、後述の正極活物質層は複数の粒子を含んで形成しても良い。
【0013】
また、第1の領域と第2の領域は膜状であり、後述の正極活物質層は膜状の正極活物質で形成しても良い。
【0014】
粒子状の正極活物質または膜状の正極活物質において、第1の領域はリチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含むリン酸化合物を用いても良い。また、第2の領域はリチウムと鉄とを含むリン酸化合物を用いても良い。リン酸化合物の代表例としてオリビン構造を有するリン酸化合物があり、第1の領域を形成するリチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含むリン酸化合物にオリビン構造を有する領域が含まれていても良い。また、第2の領域を形成するリチウムと鉄とを含むリン酸化合物にオリビン構造を有する領域が含まれていても良い。さらに、第1の領域と第2の領域のどちらにもオリビン構造を有するリン酸化合物が含まれていても良い。また、第1の領域は単結晶、多結晶、微結晶であっても良いし、アモルファスを含んでいても良い。また、第2の領域は単結晶、多結晶、微結晶であっても良いし、アモルファスを含んでいても良い。
【0015】
粒子状の正極活物質または膜状の正極活物質において、第2の領域は膜状であり、第2の領域は第1の領域の少なくとも一部を覆っていれば良い。第2の領域は、好ましくは第1の領域の表面の30%以上、より好ましくは第1の領域の表面の100%を覆っていれば良い。
【0016】
また、リチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含むリン酸化合物は、一般式Li1−x1Fey11−y1PO(x1は0以上1以下)(Mは、Mn、Co、及びNiの一以上)(y1は0以上1未満)で表される物質を含んでいても良い。また、リチウムと鉄とを含むリン酸化合物は、一般式Li1−x2Fey2Me1−y2PO(x2は0以上1以下)(Meは、Mn、Co、及びNiの一以上)(y2は0より大きく1以下)で表される物質を含んでいても良い。M、及びMeはMn、Co及びNiのうち単一の元素または複数の元素を取りうるとする。複数の元素の場合、その構成元素の比率は任意とすることが出来る。
【0017】
一般式Li1−x1Fey11−y1PO(x1は0以上1以下)(Mは、Mn、Co、及びNiの一以上)(y1は0以上1未満)で表される物質について、Mが単一の元素または複数の元素のそれぞれの場合について以下に示す。
【0018】
MがMn、Co、及びNiのうち単一の元素である場合には、第1の領域を形成する物質は、一般式Li1−x1Fe(M1)PO(x1は0以上1以下)(M1は、Mn、Co、又はNiいずれか一)(a+b=1、aは0以上1未満、かつbは0より大きく1以下)で表される。
【0019】
MがMn、Co、及びNiのうち二つの元素である場合には、第1の領域を形成する物質は、一般式Li1−x1Fe(M1)(M2)PO(x1は0以上1以下)(M1≠M2、M1及びM2は、それぞれMn、Co、及びNiのいずれか一)(a+b+c=1、aは0以上1未満、bは0より大きく1未満、かつcは0より大きく1未満)で表される。
【0020】
MがMn、Co、及びNiの三つの元素である場合には、第1の領域を形成する物質は、一般式Li1−x1Fe(M1)(M2)(M3)PO(x1は0以上1以下)(M1≠M2、M1≠M3、M2≠M3、かつM1、M2及びM3は、それぞれMn、Co、及びNiのいずれか一)(a+b+c+d=1、aは0以上1未満、bは0より大きく1未満、cは0より大きく1未満、かつdは0より大きく1未満)で表される。
【0021】
一般式Li1−x2Fey2Me1−y2PO(x2は0以上1以下)(Meは、Mn、Co、及びNiの一以上)(y2は0より大きく1以下)で表される物質について、Meが単一の元素または複数の元素のそれぞれの場合について以下に示す。
【0022】
MeがMn、Co、及びNiのうち単一の元素である場合には、第2の領域を形成する物質は、一般式Li1−x2Fe(Me1)PO(x2は0以上1以下)(Me1は、Mn、Co、又はNiいずれか一)(a+b=1、aは0より大きく1以下、かつbは0以上1未満)で表される。
【0023】
MeがMn、Co、及びNiのうち二つの元素である場合には、第2の領域を形成する物質は、一般式Li1−x2Fe(Me1)(Me2)PO(x2は0以上1以下)(Me1≠Me2、Me1及びMe2は、それぞれMn、Co、及びNiのいずれか一)(a+b+c=1、aは0より大きく1未満、かつbは0より大きく1未満、かつcは0より大きく1未満)で表される。
【0024】
MeがMn、Co、及びNiの三つの元素である場合には、第2の領域を形成する物質は、一般式Li1−x2Fe(Me1)(Me2)(Me3)PO(x2は0以上1以下)(Me1≠Me2、Me1≠Me3、Me2≠Me3、かつMe1、Me2及びMe3は、それぞれMn、Co、及びNiのいずれか一)(a+b+c+d=1、aは0より大きく1未満、かつbは0より大きく1未満、かつcは0より大きく1未満、かつdは0より大きく1未満)で表される。
【0025】
一般式Li1−x1Fey11−y1PO(x1は0以上1以下)(Mは、Mn、Co、及びNiの一以上)(y1は0以上1未満)で表される物質はオリビン構造であってもよい。
【0026】
一般式Li1−x2Fey2Me1−y2PO(x2は0以上1以下)(Meは、Mn、Co、及びNiの一以上)(y2は0より大きく1以下)で表される物質はオリビン構造であってもよい。
【0027】
また、第1の領域及び第2の領域の結晶格子の軸方向が一致していることでリチウムの拡散パス(チャネル)が屈曲することなく一次元的に揃うので充放電しやすい。なお、本明細書において一致とは、上記第1の領域と上記第2の領域の間で結晶格子の軸方向の差が10度以下で略一致している場合を含む。
【0028】
さらに、第1の領域と第2の領域の間で格子定数が連続的に変化するように、第1の領域と第2の領域の間には遷移金属の濃度勾配があることがより望ましい。格子定数が連続的に変化することで応力や歪みが低減され、リチウムの拡散が行いやすくなる。
【0029】
粒子状の正極活物質の場合、粒子の粒径は、10nm以上200nm以下、好ましくは、20nm以上80nm以下が好ましい。正極活物質の粒径が上記範囲であると正極活物質粒子が小さいため、リチウムイオンの挿入脱離がしやすくなり、二次電池のレート特性が向上し、短時間での充放電が可能である。
【0030】
また、粒子状の正極活物質の場合、第2の領域が膜状であることで、正極活物質の粒子が小さくても、薄い被膜とすることが可能である。薄い被膜とすることで第2の領域の占める割合を少なく出来て、エネルギー密度の低下を抑えることが出来る。
【0031】
また、粒子状の正極活物質または膜状の正極活物質において、第2の領域の膜厚は好ましくは1nmから8nmであると、正極活物質に対して第2の領域が占める割合が少なく、単位重量あたりのエネルギー密度の低下を抑えることが出来る。
【0032】
本発明の一態様は、リチウム(Li)と鉄(Fe)とマンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)の一以上とを含む化合物で形成され、正極活物質の中心部より表層部の方が鉄の濃度が高い粒子状の正極活物質である。
【0033】
本発明の一態様は、リチウムと鉄とマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物で形成され、正極活物質の第1の部分より第2の部分の方が鉄の濃度が高く、第1の部分は第2の部分より中心に近い粒子状の正極活物質である。
【0034】
正極活物質は粒子状であり、後述の正極活物質層は複数の粒子を含んで形成しても良い。
【0035】
本発明の一態様は、正極活物質を正極集電体上に有する正極と、正極と電解質を介して対向する負極とを有し、正極活物質は膜状であり、正極活物質は、リチウム(Li)と鉄(Fe)とマンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)の一以上とを含む化合物で形成され、正極活物質の正極集電体に近い側より表層部の方が鉄の濃度が高い蓄電装置である。
【0036】
本発明の一態様は、正極活物質を正極集電体上に有する正極と、正極と電解質を介して対向する負極とを有し、正極活物質は膜状であり、正極活物質は、リチウムと鉄とマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物で形成され、正極活物質の第1の部分より第2の部分の方が鉄の濃度が高く、第2の部分は前記第1の部分より表面に近い蓄電装置である。
【0037】
後述の正極活物質層は膜状の正極活物質で形成しても良い。
【0038】
粒子状の正極活物質または膜状の正極活物質において、リチウムと鉄とマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物はリン酸化合物を用いても良い。リン酸化合物の代表例としてオリビン構造を有するリン酸化合物があり、リチウムと鉄とマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含むリン酸化合物にオリビン構造を有する領域を含んでいても良い。また、リチウムと鉄とマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物は単結晶、多結晶、微結晶であっても良いし、アモルファスを含んでいても良い。
【0039】
また、リチウムと鉄とマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含むリン酸化合物は、一般式Li1−xFe1−yPO(xは0以上1以下)(Mは、Mn、Co、及びNiの一以上)(yは0より大きく1未満)で表される物質を含んでいても良い。MはMn、Co及びNiのうち単一の元素または複数の元素を取りうるとする。複数の元素の場合、その構成元素の比率は任意とすることが出来る。
【0040】
一般式Li1−xFe1−yPO(xは0以上1以下)(Mは、Mn、Co、及びNiの一以上)(yは0より大きく1未満)で表される物質について、Mが単一の元素または複数の元素のそれぞれの場合について以下に示す。
【0041】
MがMn、Co、及びNiのうち単一の元素である場合には、正極活物質を形成する物質は、一般式Li1−xFe(M1)PO(xは0以上1以下)(M1は、Mn、Co、又はNiいずれか一)(a+b=1、aは0より大きく1未満、かつbは0より大きく1未満)で表される。
【0042】
MがMn、Co、及びNiのうち二つの元素である場合には、正極活物質を形成する物質は、一般式Li1−xFe(M1)(M2)PO(xは0以上1以下)(M1≠M2、M1及びM2は、それぞれMn、Co、及びNiのいずれか一)(a+b+c=1、aは0より大きく1未満、かつbは0より大きく1未満、かつcは0より大きく1未満)で表される。
【0043】
MがMn、Co、及びNiの三つの元素である場合には、正極活物質を形成する物質は、一般式Li1−xFe(M1)(M2)(M3)PO(xは0以上1以下)(M1≠M2、M1≠M3、M2≠M3、かつM1、M2及びM3は、それぞれMn、Co、及びNiのいずれか一)(a+b+c+d=1、aは0より大きく1未満、かつbは0より大きく1未満、かつcは0より大きく1未満、かつdは0より大きく1未満)で表される。
【0044】
一般式Li1−xFe1−yPO(xは0以上1以下)(Mは、Mn、Co、及びNiの一以上)(yは0より大きく1未満)で表される物質はオリビン構造であってもよい。
【発明の効果】
【0045】
開示される発明の一形態により、容量が大きく、放電電圧が高く、エネルギー密度の大きな蓄電装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】正極活物質(粒子)の断面図の一例である。
【図2】正極活物質(粒子)の断面図の一例である。
【図3】蓄電装置の断面図の一例である。
【図4】正極活物質を含む正極の断面図の一例である。
【図5】正極活物質を含む正極の断面図の一例である。
【図6】正極活物質を含む正極の断面図の一例である。
【図7】正極活物質を含む正極の断面図の一例である。
【図8】正極活物質を含む正極の断面図の一例である。
【図9】正極活物質を含む正極の作製方法の一例を示す図である。
【図10】蓄電装置の応用の形態の一例を説明するための図である。
【図11】蓄電装置の応用の形態の一例を説明するための斜視図である。
【図12】蓄電装置の応用の形態の一例を説明するための図である。
【図13】無線給電システムの構成の一例を示す図である。
【図14】無線給電システムの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明の実施の形態について、図面を参照して以下に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されるものではない。本発明の趣旨およびその範囲から逸脱することなくその形態および詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解されるからである。したがって、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容のみに限定して解釈されるものではない。なお、図面を用いて本発明の構成を説明するにあたり、同じものを指す符号は異なる図面間でも共通して用いる。
【0048】
なお、各実施の形態の図面等において示す各構成の、大きさ、層の厚さ、または領域は、明瞭化のために誇張されて表記している場合がある。よって、必ずしもそのスケールに限定されない。
【0049】
なお、本明細書にて用いる第1、第2、第3といった序数を用いた用語は、構成要素を識別するために便宜上付したものであり、その数を限定するものではない。
【0050】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一形態である粒子状の正極活物質の構造について図1を用いて説明する。
【0051】
図1は本発明の一形態である粒子状の正極活物質の断面模式図に相当する。
【0052】
図1に示すように、本実施の形態では、正極活物質100は、リチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物で形成される第1の領域(以下、当該領域を第1の領域102という。)と、第1の領域102の表面を覆い、且つリチウムと鉄とを含む化合物で形成される第2の領域(以下、当該領域を第2の領域104という。)とを有する。
【0053】
正極活物質は粒子状であり、後述の正極活物質層は当該粒子状の正極活物質を複数用いて形成しても良い。
【0054】
すなわち、正極活物質100は、中心側に位置し、リチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物で形成される第1の領域102と、第1の領域102の表面を覆い、且つリチウムと鉄とを含む化合物で形成される第2の領域104とを有する正極活物質粒子である。第2の領域104は膜状であり、第2の領域104は第1の領域102の少なくとも一部を覆っていれば良い。第2の領域104は、好ましくは第1の領域102の表面の30%以上、より好ましくは第1の領域102の表面の100%を覆っていれば良い。正極活物質粒子の表層部が鉄を含む膜状の第2の領域104で形成されていることで、正極活物質表面でのリチウムの挿入脱離におけるエネルギー障壁を下げることが可能である。その結果、正極活物質100は、利用できる容量を理論容量に近づけることができ、且つマンガン、コバルト、ニッケルの一以上の持つ高い放電電位を利用することが出来る。
【0055】
第1の領域102はリチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含むリン酸化合物を用いても良い。リン酸化合物の代表例としてオリビン構造を有するリン酸化合物があり、第1の領域102を形成するリチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含むリン酸化合物はオリビン構造を有する領域を含んでいても良い。
【0056】
第1の領域102がオリビン構造を有する領域を含むリン酸化合物の場合、リチウム、遷移金属、及びリン酸(PO)で構成される。第1の領域102の遷移金属としては鉄、マンガン、コバルト、ニッケルの一以上で、且つマンガン、コバルト、ニッケルの一以上を含むものが挙げられる。酸化還元電位の大きいマンガン、コバルト、ニッケルの一以上を含むことで高い放電電位が実現される。更には、正極活物質中のマンガン、コバルト、ニッケルの一以上の比率が高いほどマンガン、コバルト、ニッケルの一以上の酸化還元による放電容量の比率が高くなるため高エネルギー密度が実現できる。
【0057】
第1の領域102を形成するリチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含むリン酸化合物は、一般式Li1−x1Fey11−y1PO(x1は0以上1以下)(Mは、Mn、Co、及びNiの一以上)(y1は0以上1未満)で表される物質を含んでいても良い。上記一般式で表される物質はオリビン構造であってもよい。y1の値は0以上1未満、好ましくは0.1以下、より好ましくは0とすることで、より高エネルギー密度が実現できる。
【0058】
また、第2の領域104はリチウムと鉄とを含むリン酸化合物を用いても良い。リン酸化合物の代表例としてオリビン構造を有するリン酸化合物があり、第2の領域104を形成するリチウムと鉄とを含むリン酸化合物はオリビン構造を有する領域を含んでいても良い。
【0059】
第2の領域104がオリビン構造を有する領域を含むリン酸化合物の場合、リチウム、遷移金属、及びリン酸(PO)で構成される。第2の領域104の遷移金属としては鉄、マンガン、コバルト、ニッケルの一以上で、且つ鉄を含むものが挙げられる。
【0060】
第2の領域104を形成するリチウムと鉄とを含むリン酸化合物は、一般式Li1−x2Fey2Me1−y2PO(x2は0以上1以下)(Meは、Mn、Co、及びNiの一以上)(y2は0より大きく1以下)で表される物質を含んでいても良い。上記一般式で表される物質はオリビン構造であってもよい。
【0061】
第2の領域104は充放電に寄与する正極活物質となりうる化合物であれば容量低下を招かず良い。第2の領域104にオリビン構造を有するリン酸化合物を用いた場合には、充放電において高い容量が実現できる。
【0062】
一方、第2の領域104は、鉄を含むため、放電電位が低くなり、エネルギー密度は下がる。よって、正極活物質100の粒子の粒径rに対し、第2の領域104の膜厚dの比率c(c=d/r)は低いほど好ましい。比率cの値として、好ましくは0.005以上0.25以下、より好ましくは0.01以上0.1以下を用いることが出来る。具体的には第2の領域の膜厚としては1nmから8nm程度が好ましい。また、比率cを変えると所望のエネルギー密度を有する正極活物質を作製できる。また、一般式Li1−x2Fey2Me1−y2PO(x2は0以上1以下)(Meは、Mn、Co、及びNiの一以上)において、y2の値は0より大きく1以下、好ましくは0.15以上0.5以下、より好ましくは0.2以上0.3以下とすることで、より高エネルギー密度が実現できる。
【0063】
第1の領域102及び第2の領域104における化合物は、充放電に伴いリチウムが脱離挿入される。そのため、一般式Li1−x1Fey11−y1PO(x1は0以上1以下)(Mは、Mn、Co、及びNiの一以上)(y1は0以上1未満)、及び一般式Li1−x2Fey2Me1−y2PO(x2は0以上1以下)(Meは、Mn、Co、及びNiの一以上)(y2は0より大きく1以下)において、x1、x2の値は0以上1以下の範囲で任意の値となる。また、それぞれの領域内においてリチウムの濃度は勾配を有する場合もある。
【0064】
第1の領域102内において、化合物中に含まれる遷移金属の濃度は一定でなくても良い。また、第2の領域104内において、化合物中に含まれる遷移金属の濃度は一定でなくても良い。
【0065】
第1の領域102及び第2の領域104における化合物はリチウムの代わりに、アルカリ金属(例えば、ナトリウム(Na)やカリウム(K)など)やアルカリ土類金属(例えば、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)など)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)を用いることも出来る。または、第1の領域102及び第2の領域104における化合物は、リチウムとアルカリ金属またはアルカリ土類金属の一以上とを含む化合物を用いることもできる。
【0066】
第2の領域104が膜状であることで、正極活物質100の粒子が小さくても、薄い被膜とすることが可能である。薄い被膜とすることで第2の領域104の占める割合を少なく出来て、エネルギー密度の低下を抑えることが出来る。また、第2の領域104が膜状であることで、第2の領域104の体積に対して第1の領域102との界面の比が大きいので、第2の領域104の体積を多くすること無く被覆率を高めることが出来る。
【0067】
本実施の形態に示す正極活物質100は、中心側に位置し、リチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物で形成される第1の領域102と、第1の領域102の表面を覆い、且つリチウムと鉄とを含む化合物で形成される第2の領域104とを有する正極活物質粒子である。第2の領域104は膜状であり、第2の領域104は第1の領域102の少なくとも一部を覆っていれば良い。第2の領域104は、好ましくは第1の領域102の表面の30%以上、より好ましくは第1の領域102の表面の100%を覆っていれば良い。正極活物質粒子の表層部が鉄を含む膜状の第2の領域104で形成されていることで、正極活物質表面でのリチウムの挿入脱離におけるエネルギー障壁を下げることが可能である。その結果、正極活物質100は、利用できる容量を理論容量に近づけることができ、且つマンガン、コバルト、ニッケルの一以上の持つ高い放電電位を利用することが出来る。
【0068】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1と比較して、より放電容量及びエネルギー密度の高い正極活物質について、説明する。
【0069】
本実施の形態では、第1の領域102及び第2の領域104が共に、オリビン構造を有するリン酸化合物で形成された正極活物質について説明する。
【0070】
第1の領域102を形成する物質は、オリビン構造であり、リチウム、遷移金属、及びリン酸(PO)で構成される。第1の領域102の遷移金属としては鉄、マンガン、コバルト、ニッケルの一以上で、且つマンガン、コバルト、ニッケルの一以上を含む。また、第1の領域102を形成する物質は、一般式Li1−x1Fey11−y1PO(x1は0以上1以下)(Mは、Mn、Co、及びNiの一以上)(y1は0以上1未満)で表される。
【0071】
第2の領域104を形成する物質は、オリビン構造であり、リチウム、遷移金属、及びリン酸(PO)で構成される。第2の領域104の遷移金属としては鉄、マンガン、コバルト、ニッケルの一以上で、且つ鉄を含む。また、第2の領域104を形成する物質は、一般式Li1−x2Fey2Me1−y2PO(x2は0以上1以下)(Meは、Mn、Co、及びNiの一以上)(y2は0より大きく1以下)で表される。
【0072】
第1の領域102及び第2の領域104における化合物は、充放電に伴いリチウムが脱離挿入される。そのため、一般式Li1−x1Fey11−y1PO(x1は0以上1以下)(Mは、Mn、Co、及びNiの一以上)(y1は0以上1未満)、及び一般式Li1−x2Fey2Me1−y2PO(x2は0以上1以下)(Meは、Mn、Co、及びNiの一以上)(y2は0より大きく1以下)において、x1、x2の値は0以上1以下の範囲で任意の値となる。また、それぞれの領域内においてリチウムの濃度は勾配を有する場合もある。
【0073】
オリビン構造はリチウムの拡散パス(チャネル)が<010>方向に1次元的である。第1の領域102及び第2の領域104が共にオリビン構造を有するリン酸化合物の場合、第1の領域102と第2の領域104の間で、結晶格子の軸方向が一致しているとリチウムの拡散パス(チャネル)が屈曲することなく揃うので充放電がよりし易くなる。第1の領域102と第2の領域104の間で結晶格子の軸方向の差が10度以下で略一致していることが望ましい。
【0074】
さらに、第1の領域102と第2の領域104は構成元素やその比率が異なるため、それぞれの領域における結晶の格子定数が異なる。格子定数が異なる領域が接することで境界面に応力や格子歪み、格子のずれが発生するなど、リチウムの拡散を阻害する可能性がある。そこで、第1の領域102と第2の領域104の間で格子定数が連続的に変化するように、第1の領域102と第2の領域104の間には遷移金属の濃度勾配があることがより望ましい。格子定数が連続的に変化することで応力や歪みが低減され、リチウムの拡散が行いやすくなる。
【0075】
本実施の形態に示す正極活物質は、第1の領域102及び第2の領域104が共に、オリビン構造を有するリン酸化合物を有するため、正極活物質表面でのリチウムの挿入脱離におけるエネルギー障壁を下げることが可能である。その結果、正極活物質100は、利用できる容量を理論容量に近づけることができ、且つマンガン、コバルト、ニッケルの一以上の持つ高い放電電位を利用することが出来る。
【0076】
(実施の形態3)
本実施の形態では、本発明の一形態である正極活物質の構造について図2を用いて説明する。
【0077】
図2は本発明の一形態である粒子状の正極活物質の断面模式図に相当する。
【0078】
図2に示すように、本実施の形態は、リチウム(Li)と鉄(Fe)と遷移金属(マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)の一以上)とを含む化合物で形成され、正極活物質の中心部より表層部の方が鉄の濃度が高い粒子状の正極活物質(以下、当該正極活物質を正極活物質106という。)である。または、リチウムと鉄と遷移金属(マンガン、コバルト、ニッケルの一以上)とを含む化合物で形成され、正極活物質の第1の部分より第2の部分の方が鉄の濃度が高く、第1の部分は第2の部分より中心に近い粒子状の正極活物質である。正極活物質粒子の表層部が鉄を含む化合物で形成されていることで、正極活物質表面でのリチウムの挿入脱離におけるエネルギー障壁を下げることが可能である。その結果、正極活物質106は、利用できる容量を理論容量に近づけることができ、且つマンガン、コバルト、ニッケルの一以上の持つ高い放電電位を利用することが出来る。
【0079】
正極活物質は粒子状であり、後述の正極活物質層は複数の粒子を含んで形成される。
【0080】
正極活物質106はリチウムと鉄とマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含むリン酸化合物を用いても良い。リン酸化合物の代表例としてオリビン構造を有するリン酸化合物があり、リチウムと鉄とマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物はオリビン構造を有する領域を含んでいても良い。
【0081】
正極活物質106がオリビン構造を有する領域を含むリン酸化合物の場合、リチウム、遷移金属、及びリン酸(PO)で構成される。遷移金属としては鉄、マンガン、コバルト、ニッケルの一以上で、且つ鉄とマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含むものが挙げられる。酸化還元電位の大きいマンガン、コバルト、ニッケルの一以上を含むことで高い放電電位が実現される。更には、正極活物質中のマンガン、コバルト、ニッケルの一以上の比率が高いほどマンガン、コバルト、ニッケルの一以上の酸化還元による放電容量の比率が高くなるため高エネルギー密度が実現できる。
【0082】
正極活物質106を形成するリチウムと鉄とマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含むリン酸化合物は、一般式Li1−xFe1−yPO(xは0以上1以下)(Mは、Mn、Co、及びNiの一以上)(yは0より大きく1未満)で表される物質を含んでいても良い。上記一般式で表される物質はオリビン構造であってもよい。また、yの値は、表面では0より大きく1未満、好ましくは0.15以上0.5以下、より好ましくは0.2以上0.3以下とすることで、より高エネルギー密度が実現できる。
【0083】
正極活物質106を形成する化合物は、充放電に伴いリチウムが脱離挿入される。そのため、一般式Li1−xFe1−yPO(xは0以上1以下)(Mは、Mn、Co、及びNiの一以上)(yは0より大きく1未満)において、xの値は0以上1以下の範囲で任意の値となる。また、リチウムの濃度は勾配を有する場合もある。
【0084】
正極活物質106における化合物はリチウムの代わりに、アルカリ金属(例えば、ナトリウム(Na)やカリウム(K)など)やアルカリ土類金属(例えば、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)など)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)を用いることも出来る。または、正極活物質106における化合物は、リチウムとアルカリ金属またはアルカリ土類金属の一以上とを含む化合物を用いることもできる。
【0085】
本実施の形態に示す正極活物質106は、正極活物質粒子の表層部が鉄を含む化合物で形成されていることで、正極活物質表面でのリチウムの挿入脱離におけるエネルギー障壁を下げることが可能である。その結果、正極活物質106は、利用できる容量を理論容量に近づけることができ、且つマンガン、コバルト、ニッケルの一以上の持つ高い放電電位を利用することが出来る。
【0086】
(実施の形態4)
本実施の形態では、本発明の一形態である正極活物質の作製方法について、以下に説明する。
【0087】
まず、第1の領域102を作製する。
【0088】
実施の形態1及び2に示すようなリチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物の一般式の化学量論比に合わせて、各原料において所望のモル比を得られる量を秤量する。例えば、上記オリビン構造を有するリン酸化合物の場合では、実施の形態1及び2に示す一般式でリチウム:鉄:M:リン酸基=1:y1:(1−y1):1(ただし、y1は0以上1未満、好ましくは0.1以下、より好ましくは0)であり、このモル比に合わせて、各原料の重量を正確に秤量する。
【0089】
リチウムの原料として、炭酸リチウム(LiCO)、水酸化リチウム(Li(OH))、水酸化リチウム水和物(Li(OH)・HO)、硝酸リチウム(LiNO)等がある。鉄の原料として、シュウ酸鉄2水和物(Fe(COO)・2HO)、塩化鉄(FeCl)等がある。またリン酸の原料として、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)、五酸化二リン(P)等がある。
【0090】
また、マンガンの原料として、炭酸マンガン(MnCO)、塩化マンガン四水和物(MnCl・4HO)等がある。ニッケルの原料として、酸化ニッケル(NiO)、水酸化ニッケル(Ni(OH))等がある。コバルトの原料として、炭酸コバルト(CoCO)、塩化コバルト(CoCl)等がある。
【0091】
ただし、リチウム、鉄、マンガン、ニッケル、コバルトなどの各金属のいずれかを含む原料であれば、上記の原料に限定されず、他の酸化物、炭酸塩、シュウ酸塩、塩化物、硫酸塩などを用いてもよい。
【0092】
また、リン酸の原料としては、上記原料に限定されず、他のリン酸を含む原料を用いることができる。
【0093】
秤量された各原料を粉砕機に入れ微細な粉体になるまで粉砕する(第1の粉砕工程)。その時には原料に他の金属が混入しないように配慮された材料(例えばメノウなど)からなる粉砕機を使用した方がよい。この時に微量のアセトン、アルコールなどを加えると、原料はまとまり易くなり、粉体として飛散することを抑制できる。
【0094】
その後、粉体を第1の圧力での加圧工程を行い、ペレット状に成型する。これを焼成炉に入れ、加熱して第1の焼成工程を行う。原料における様々な脱ガス及び熱分解は、ほぼ当該工程で行われている。また、当該工程においてリチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物が形成される。例えばリチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含むオリビン構造を有するリン酸化合物である。
【0095】
その後、アセトンなどの溶剤と共にペレットを粉砕機に入れ再度粉砕する(第2の粉砕工程)。以上により、第1の領域102を形成する。
【0096】
次に、膜状の第2の領域104を形成する。
【0097】
実施の形態1及び2に示すようなリチウムと鉄とを含む化合物の一般式の化学量論比に合わせて、各原料において所望のモル比を得られる量を秤量する。例えばオリビン構造を有するリン酸化合物の場合では、上記一般式でリチウム:鉄:Me:リン酸基=1:y2:(1−y2):1(ただし、y2の値は0より大きく1以下、好ましくは0.15以上0.5以下、より好ましくは0.2以上0.3以下)であり、このモル比に合わせて、各原料の重量を正確に秤量する。
【0098】
秤量された各原料を粉砕機に入れ微細な粉体になるまで粉砕する(第3の粉砕工程)。その時には原料に他の金属が混入しないように配慮された材料(例えばメノウなど)からなる粉砕機を使用した方がよい。この時に微量のアセトン、アルコールなどを加えると、原料はまとまり易くなり、粉体として飛散することを抑制できる。
【0099】
その後、第2の粉砕工程で得られた粉体(第1の領域102となる部分)と第3の粉砕工程で得られた粉体(第2の領域104を形成する原料)をよく混合し、第2の圧力での加圧工程を行い、ペレット状に成型する。これを焼成炉に入れ、加熱して第2の焼成工程を行う。リチウムと鉄とを含む化合物の原料における様々な脱ガス及び熱分解は、ほぼ当該工程で行われている。また、当該工程においてリチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物で形成される第1の領域102と、第1の領域102の表面を覆い、且つリチウムと、鉄を含む化合物で形成される第2の領域104とを有する正極活物質100が形成される。例えば、リチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含むオリビン構造を有するリン酸化合物で形成される第1の領域102と、第1の領域102の表面を覆い、且つリチウムと鉄とを含むオリビン構造を有するリン酸化合物で形成される第2の領域104とを有する正極活物質100が形成される。
【0100】
その後、アセトンなどの溶剤と共にペレットを粉砕機に入れ再度粉砕する(第4の粉砕工程)。次に、微細な粉体を再度ペレット状に成型し、焼成炉にて第3の焼成工程を行う。第3の焼成工程により、リチウムと、マンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物で形成される第1の領域102と、第1の領域102の表面を覆い、且つリチウムと鉄とを含む化合物で形成される第2の領域104とを有する正極活物質100の粒子を複数作製することができる。例えば、リチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む結晶性の良いオリビン構造を有するリン酸化合物で形成される第1の領域102と、第1の領域102の表面を覆い、且つリチウムと鉄とを含む結晶性の良いオリビン構造を有するリン酸化合物で形成される第2の領域104とを有する正極活物質100の粒子を複数作製することができる。
【0101】
第3の焼成工程の条件を調整することで、第1の領域102と第2の領域104に含まれる元素がお互いの領域に拡散し、第1の領域102と第2の領域104の境界が不明瞭となり、実施の形態3に示す構造(正極活物質106)を形成することが可能である。
【0102】
なお第3の焼成工程の際に、グルコースなどの有機化合物を添加してもよい。グルコースを添加して以後の工程を行うと、グルコースから供給された炭素が、正極活物質の表面に担持される。
【0103】
なお本明細書中では、正極活物質の表面に炭素材料が担持されることを、リン酸鉄化合物がカーボンコートされるとも言う。
【0104】
担持される炭素(炭素層)の厚さは、0nmより大きく100nm以下、好ましくは2nm以上10nm以下が好ましい。
【0105】
正極活物質の表面に炭素を担持させることで、正極活物質表面の導電率を上昇させることができる。また、正極活物質同士が、表面に担持された炭素を介して接すれば、正極活物質同士が導通し、正極活物質の導電率をさらに高めることができる。
【0106】
なお、本実施の形態では、グルコースはリン酸基と容易に反応するため、炭素の供給源としてグルコースを用いたが、グルコースの代わりに、リン酸基との反応性のよい環状単糖類、直鎖単糖類、または多糖類を用いてもよい。
【0107】
第3の焼成工程を経て得られた正極活物質100の粒子の粒径は、10nm以上100nm以下、好ましくは、20nm以上60nm以下が好ましい。正極活物質の粒径が上記範囲であると正極活物質粒子が小さいため、リチウムイオンの挿入脱離がしやすくなり、二次電池のレート特性が向上し、短時間での充放電が可能である。
【0108】
なお、第1の領域の形成方法として、本実施の形態の代わりに、ゾルゲル法、水熱法、共沈法、スプレードライ法などを用いることも可能である。また、膜状の第2の領域の形成方法として、本実施の形態の代わりに、スパッタリング法、CVD法、ゾルゲル法、水熱法、共沈法などを用いることも可能である。
【0109】
本実施の形態により、正極活物質表面でのリチウムの挿入脱離におけるエネルギー障壁を下げることが可能である。その結果、利用できる容量を理論容量に近づけることができ、且つマンガン、コバルト、ニッケルの一以上の持つ高い放電電位を利用することが可能な正極活物質を形成することが出来る。
【0110】
(実施の形態5)
上述の作製工程によって得られた正極活物質を用いた蓄電装置の例としてリチウムイオン二次電池について、以下に説明する。リチウムイオン二次電池の概要を図3に示す。
【0111】
図3に示すリチウムイオン二次電池は、正極202、負極207、及びセパレータ210を外部と隔絶する筐体220の中に設置し、筐体220中に電解液211が充填されている。また、正極202及び負極207との間にセパレータ210を有する。
【0112】
正極集電体200に接して正極活物質層201が形成されている。正極活物質層201には、実施の形態1及び2及び4で示した、リチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物で形成される第1の領域102と、第1の領域102の表面を覆い、且つリチウムと鉄とを含む化合物で形成される第2の領域104とを有する正極活物質100が含まれている。あるいは、正極活物質層201には、実施の形態3及び4で示した、リチウムと鉄と遷移金属(マンガン、コバルト、ニッケルの一以上)とを含む化合物で形成され、正極活物質の中心部より表層部の方が鉄の濃度が高い粒子状の正極活物質106、または、リチウムと鉄と遷移金属(マンガン、コバルト、ニッケルの一以上)とを含む化合物で形成され、正極活物質の第1の部分より第2の部分の方が鉄の濃度が高く、第1の部分は第2の部分より中心に近い粒子状の正極活物質106が含まれている。本明細書では、正極活物質層201と、それが形成された正極集電体200を合わせて正極202と呼ぶ。
【0113】
一方、負極集電体205に接して負極活物質層206が形成されている。本明細書では、負極活物質層206と、それが形成された負極集電体205を合わせて負極207と呼ぶ。
【0114】
正極集電体200には第1の電極221が、負極集電体205には第2の電極222が接続されており、第1の電極221及び第2の電極222より、充電や放電が行われる。
【0115】
また、正極活物質層201及びセパレータ210の間と負極活物質層206及びセパレータ210との間とはそれぞれは一定間隔をおいて示しているが、これに限らず、正極活物質層201及びセパレータ210と負極活物質層206及びセパレータ210とはそれぞれが接していても構わない。また、正極202及び負極207は間にセパレータ210を配置した状態で筒状に丸めても構わない。
【0116】
なお、活物質とは、キャリアであるイオンの挿入及び脱離に関わる物質を指し、グルコースを用いた炭素層などを含むものではない。後に説明する塗布法により正極202を作製する時には、炭素層が形成された活物質と共に、導電助剤やバインダ、溶媒等の他の材料を混合したものを正極活物質層201として正極集電体200上に形成する。よって、活物質と正極活物質層201は区別される。
【0117】
正極集電体200としては、アルミニウム、ステンレス等の導電性の高い材料を用いることができる。正極集電体200は、箔状、板状、網状あるいはガラスなどの絶縁性基板上に形成された薄膜状等の形状を適宜用いることができる。
【0118】
正極活物質としては、リチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物で形成される第1の領域102と、第1の領域102の表面を覆い、且つリチウムと鉄とを含む化合物で形成される第2の領域104とを有する正極活物質100を用いる。例えば、オリビン構造であって、一般式Li1−x1Fey11−y1PO(x1は0以上1以下)(Mは、Mn、Co、及びNiの一以上)(y1は0以上1未満)で表される物質で形成される第1の領域102と、第1の領域102を覆い、且つオリビン構造であって、一般式Li1−x2Fey2Me1−y2PO(x2は0以上1以下)(Meは、Mn、Co、及びNiの一以上)(y2は0より大きく1以下)で表される物質で形成される第2の領域104とを有する正極活物質100を用いる。
【0119】
あるいは、正極活物質としては、リチウムと鉄と遷移金属(マンガン、コバルト、ニッケルの一以上)とを含む化合物で形成され、正極活物質の中心部より表層部の方が鉄の濃度が高い粒子状の正極活物質106、または、リチウムと鉄と遷移金属(マンガン、コバルト、ニッケルの一以上)とを含む化合物で形成され、正極活物質の第1の部分より第2の部分の方が鉄の濃度が高く、第1の部分は第2の部分より中心に近い粒子状の正極活物質106を用いる。例えば、オリビン構造であって、一般式Li1−xFe1−yPO(xは0以上1以下)(Mは、Mn、Co、及びNiの一以上)(yは0より大きく1未満)で表される物質で形成される正極活物質106を用いる。
【0120】
実施の形態4に示す第3の焼成工程後、得られた正極活物質を再度粉砕機で粉砕して(第5の粉砕工程)、微粉体を得る。得られた微粉体を正極活物質として用い、導電助剤やバインダ、溶媒を加えてペースト状に調合する。
【0121】
導電助剤は、その材料自身が電子導電体であり、電池装置内で他の物質と化学変化を起こさないものであればよい。例えば、黒鉛、炭素繊維、カーボンブラック、アセチレンブラック、VGCF(登録商標)などの炭素系材料、銅、ニッケル、アルミニウムもしくは銀などの金属材料またはこれらの混合物の粉末や繊維などがそれに該当する。導電助剤とは、活物質間の導電性を助ける物質であり、離れている活物質の間に充填され、活物質同士の導通をとる材料である。
【0122】
バインダとしては、澱粉、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ジアセチルセルロース、ポリビニルクロリド、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、EPDM(Ethylene Propylene Diene Monomer)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴムもしくはポリエチレンオキシドなどの多糖類、熱可塑性樹脂またはゴム弾性を有するポリマーなどがある。
【0123】
活物質、導電助剤、及びバインダは、それぞれ80〜96重量%、2〜10重量%、2〜10重量%の割合で、且つ全体で100重量%になるように混合する。更に、活物質、導電助剤、及びバインダの混合物と同体積程度の有機溶媒を混合し、スラリー状に加工する。なお、活物質、導電助剤、バインダ、及び有機溶媒をスラリー状に加工して得られたものを、スラリーと呼ぶ。溶媒としては、Nメチル−2ピロリドンや乳酸エステルなどがある。成膜した時の活物質および導電助剤の密着性が弱い時にはバインダを多くし、活物質の抵抗が高い時には導電助剤を多くするなどして、活物質、導電助剤、バインダの割合を適宜調整するとよい。
【0124】
ここでは、正極集電体200としてアルミ箔を用い、その上にスラリーを滴下してキャスト法により薄く広げた後、ロールプレス器で更に延伸し、厚みを均等にした後、真空乾燥(10Pa以下)や加熱乾燥(150〜280℃)して、正極集電体200上に正極活物質層201を形成する。正極活物質層201の厚さは、20〜100μmの間で所望の厚さを選択する。クラックや剥離が生じないように、正極活物質層201の厚さを適宜調整することが好ましい。さらには、電池の形態にもよるが、平板状だけでなく、筒状に丸めた時に、正極活物質層201にクラックや剥離が生じないようにすることが好ましい。
【0125】
負極集電体205としては、銅、ステンレス、鉄、ニッケル等の導電性の高い材料を用いることができる。
【0126】
負極活物質層206としては、リチウム、アルミニウム、黒鉛、シリコン、ゲルマニウムなどが用いられる。負極集電体205上に、塗布法、スパッタ法、蒸着法などにより負極活物質層206を形成してもよい。負極集電体205を用いずそれぞれの負極活物質層206を単体で負極として用いてもよい。黒鉛と比較すると、ゲルマニウム、シリコン、リチウム、アルミニウムの理論リチウム吸蔵容量が大きい。吸蔵容量が大きいと小面積でも十分に充放電が可能であり、負極として機能するため、コストの節減及び二次電池の小型化につながる。ただし、シリコンなどはリチウムを吸蔵することにより体積が最大で4倍程度まで増加し、材料自身が脆くなったり、充放電を繰り返すことにより充放電の容量の低下(サイクル劣化)が顕著になるなどの問題があり劣化対策は必要である。
【0127】
電解液は、キャリアイオンであるアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンを含み、このキャリアイオンが電気伝導を担っている。アルカリ金属イオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、若しくはカリウムイオンがある。アルカリ土類金属イオンとしては、例えばベリリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、若しくはバリウムイオンがある。
【0128】
電解液211は、例えば溶媒と、その溶媒に溶解するリチウム塩またはナトリウム塩とから構成されている。リチウム塩としては、例えば、塩化リチウム(LiCl)、フッ化リチウム(LiF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、硼弗化リチウム(LiBF)、LiAsF、LiPF、Li(CSON等がある。ナトリウム塩としては、例えば、塩化ナトリウム(NaCl)、フッ化ナトリウム(NaF)、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、硼弗化ナトリウム(NaBF)等がある。
【0129】
電解液211の溶媒として、環状カーボネート類(例えば、エチレンカーボネート(以下、ECと略す)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、およびビニレンカーボネート(VC)など)、非環状カーボネート類(ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、メチルイソブチルカーボネート(MIBC)、およびジプロピルカーボネート(DPC)など)、脂肪族カルボン酸エステル類(ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、およびプロピオン酸エチルなど)、非環状エーテル類(γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,2−ジエトキシエタン(DEE)、およびエトキシメトキシエタン(EME)など)、環状エーテル類(テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等)、環状スルホン(スルホランなど)、アルキルリン酸エステル(ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン等やリン酸トリメチル、リン酸トリエチル、およびリン酸トリオクチルなど)やそのフッ化物があり、これらの一種または二種以上を混合して使用する。
【0130】
セパレータ210として、紙、不織布、ガラス繊維、あるいは、ナイロン(ポリアミド)、ビニロン(ビナロンともいう)(ポリビニルアルコール系繊維)、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタンといった合成繊維等を用いればよい。ただし、上記した電解液211に溶解しない材料を選ぶ必要がある。
【0131】
より具体的には、セパレータ210の材料として、例えば、フッ素系ポリマ−、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリメタクリロニトリル、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリイソプレン、ポリウレタン系高分子およびこれらの誘導体、セルロース、紙、不織布から選ばれる一種を単独で、または二種以上を組み合せて用いることができる。
【0132】
上記に示すリチウムイオン二次電池に充電をする時には、第1の電極221に正極端子、第2の電極222に負極端子を接続する。正極202からは電子が第1の電極221を介して奪われ、第2の電極222を通じて負極207に移動する。加えて、正極からはリチウムイオンが正極活物質層201中の正極活物質から溶出し、セパレータ210を通過して負極207に達し、負極活物質層206内の負極活物質に取り込まれる。同時に正極活物質層201では、正極活物質から電子が放出され、正極活物質に含まれる遷移金属(鉄、マンガン、コバルト、ニッケルの一以上)の酸化反応が生じる。
【0133】
放電する時には、負極207では、負極活物質層206がリチウムをイオンとして放出し、第2の電極222に電子が送り込まれる。リチウムイオンはセパレータ210を通過して、正極活物質層201に達し、正極活物質層201中の正極活物質に取り込まれる。その時には、負極207からの電子も正極202に到達し、正極活物質に含まれる遷移金属(鉄、マンガン、コバルト、ニッケルの一以上)の遷移金属の還元反応が生じる。
【0134】
本実施の形態によって得られるエネルギー密度は、正極活物質100の粒子の粒径rに対し、第2の領域104の膜厚dの比率c(c=d/r)が低いほど大きくなる。比率cの値として、好ましくは0.005以上0.25以下、より好ましくは0.01以上0.1以下を用いることが出来る。具体的には第2の領域の膜厚としては1nmから8nm程度が好ましい。また、比率cを変えると所望のエネルギー密度を有する正極活物質を作製できる。
【0135】
以上のようにして作製したリチウムイオン二次電池は、マンガン、コバルト、ニッケルの一以上を含む化合物を正極活物質の第1の領域102、あるいは正極活物質106として有している。正極活物質にマンガン、コバルト、ニッケルの一以上を含むため高い放電電位が実現される。例えば、オリビン構造を有する正極活物質では、含まれる遷移金属の種類によって多少の違いはあるが、活物質単位重量あたりの理論容量は、含まれる遷移金属の種類に関係なくほぼ同じ理論容量を示す。そのため、放電電位が高いほど高いエネルギー密度が期待される。
【0136】
しかし、リチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含むオリビン構造を有するリン酸化合物で形成される正極活物質を用いても、期待された容量が発現できていない。これは、活物質表面でのリチウムの挿入脱離を行う際にエネルギー障壁が存在することが一つの原因と考えられる。
【0137】
一方、本実施の形態で得られた、リチウム及びマンガン、コバルト、ニッケルの一以上を含む化合物で形成される第1の領域102と、第1の領域102の表面を覆い、且つリチウムと鉄とを含む化合物で形成される第2の領域104とを有する正極活物質100、あるいはリチウムと鉄と遷移金属(マンガン、コバルト、ニッケルの一以上)とを含む化合物で形成され、正極活物質の中心部より表層部の方が鉄の濃度が高い粒子状の正極活物質106、または、リチウムと鉄と遷移金属(マンガン、コバルト、ニッケルの一以上)とを含む化合物で形成され、正極活物質の第1の部分より第2の部分の方が鉄の濃度が高く、第1の部分は第2の部分より中心に近い粒子状の正極活物質106を用いることで、正極活物質表面でのリチウムの挿入脱離におけるエネルギー障壁を下げることが可能である。その結果、正極活物質100、あるいは正極活物質106は、利用できる容量を理論容量に近づけることができ、且つマンガン、コバルト、ニッケルの一以上の持つ高い放電電位を利用することが出来る。
【0138】
(実施の形態6)
実施の形態5に記載の正極活物質層201は膜状の正極活物質で形成しても良い。正極活物質層201を膜状の正極活物質で形成する場合について以下の実施の形態で述べる。
【0139】
図4に示すように、本実施の形態は、正極活物質層201として、リチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物で形成される膜状の第1の領域(以下、当該領域を第1の領域112という。)と、リチウムと鉄とを含む化合物で形成される膜状の第2の領域(以下、当該領域を第2の領域114という。)とを有する。第1の領域112は第2の領域114で覆われている。
【0140】
すなわち、リチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物で形成される膜状の第1の領域112の上面もしくは上面及び側面が、リチウムと鉄とを含む化合物で形成される膜状の第2の領域114で覆われている。正極活物質層201の表層部が鉄を含む第2の領域114で形成されていることで、正極活物質表面でのリチウムの挿入脱離におけるエネルギー障壁を下げることが可能である。その結果、正極活物質層201は、利用できる容量を理論容量に近づけることができ、且つマンガン、コバルト、ニッケルの一以上の持つ高い放電電位を利用することが出来る。
【0141】
また、正極活物質を膜状に形成することで正極活物質層に対する正極活物質の占める割合を高く出来る。正極活物質層201が膜状の第1の領域112と膜状の第2の領域114のみで形成されているため、正極活物質層201に占める正極活物質の割合は理想的には100%にすることが可能である。そのため、単位体積あたりのエネルギー密度を高くすることが出来る。
【0142】
第1の領域112はリチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含むリン酸化合物を用いても良い。リン酸化合物の代表例としてオリビン構造を有するリン酸化合物があり、第1の領域112を形成するリチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含むリン酸化合物はオリビン構造を有する領域を含んでいても良い。また、第1の領域112は単結晶、多結晶、微結晶であっても良いし、アモルファスを含んでいても良い。
【0143】
第1の領域112がオリビン構造を有する領域を含むリン酸化合物の場合、リチウム、遷移金属、及びリン酸(PO)で構成される。遷移金属としては鉄、マンガン、コバルト、ニッケルの一以上で、且つマンガン、コバルト、ニッケルの一以上を含むものが挙げられる。酸化還元電位の大きいマンガン、コバルト、ニッケルの一以上を含むことで高い放電電位が実現される。更には、正極活物質中のマンガン、コバルト、ニッケルの一以上の比率が高いほどマンガン、コバルト、ニッケルの一以上の酸化還元による放電容量の比率が高くなるため高エネルギー密度が実現できる。
【0144】
第1の領域112を形成するリチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含むリン酸化合物は、一般式Li1−x1Fey11−y1PO(x1は0以上1以下)(Mは、Mn、Co、及びNiの一以上)(y1は0以上1未満)で表される物質を含んでいても良い。上記一般式で表される物質はオリビン構造であってもよい。y1の値は0以上1未満、好ましくは0.1以下、より好ましくは0とすることで、より高エネルギー密度が実現できる。
【0145】
また、第2の領域114はリチウムと鉄とを含むリン酸化合物を用いても良い。リン酸化合物の代表例としてオリビン構造を有するリン酸化合物があり、第2の領域114を形成するリチウムと鉄とを含むリン酸化合物はオリビン構造を有する領域を含んでいても良い。また、第2の領域114は単結晶、多結晶、微結晶であっても良いし、アモルファスを含んでいても良い。
【0146】
第2の領域114がオリビン構造を有する領域を含むリン酸化合物の場合、リチウム、遷移金属、及びリン酸(PO)で構成される。遷移金属としては鉄、マンガン、コバルト、ニッケルの一以上で、且つ鉄を含むものが挙げられる。
【0147】
第2の領域114を形成するリチウムと鉄とを含むリン酸化合物は、一般式Li1−x2Fey2Me1−y2PO(x2は0以上1以下)(Meは、Mn、Co、及びNiの一以上)(y2は0より大きく1以下)で表される物質を含んでいても良い。上記一般式で表される物質はオリビン構造であってもよい。
【0148】
第2の領域114は充放電に寄与する正極活物質となりうる化合物であれば容量低下を招かず良い。第2の領域114にオリビン構造を有する領域を含むリン酸化合物を用いた場合には、充放電において高い容量が実現できる。
【0149】
一方、第2の領域114は、鉄を含むため、放電電位が低くなり、エネルギー密度は下がる。よって、正極活物質層201の膜厚rに対し、第2の領域114の膜厚dの比率c(c=d/r)は低いほど好ましい。比率cの値として、好ましくは0.005以上0.25以下、より好ましくは0.01以上0.1以下を用いることが出来る。具体的には第2の領域の膜厚としては1nmから8nm程度が好ましい。また、比率cを変えると所望のエネルギー密度を有する正極活物質を作製できる。また、一般式Li1−x2Fey2Me1−y2PO(x2は0以上1以下)(Meは、Mn、Co、及びNiの一以上)において、y2の値は0より大きく1以下、好ましくは0.15以上0.5以下、より好ましくは0.2以上0.3以下とすることで、より高エネルギー密度が実現できる。
【0150】
第1の領域112及び第2の領域114における化合物は、充放電に伴いリチウムが脱離挿入される。そのため、一般式Li1−x1Fey11−y1PO(x1は0以上1以下)(Mは、Mn、Co、及びNiの一以上)(y1は0以上1未満)、一般式Li1−x2Fey2Me1−y2PO(x2は0以上1以下)(Meは、Mn、Co、及びNiの一以上)(y2は0より大きく1以下)において、x1、x2の値は0以上1以下の範囲で任意の値となる。また、それぞれの領域内においてリチウムの濃度は勾配を有する場合もある。
【0151】
第1の領域112内において、化合物中に含まれる遷移金属の濃度は一定でなくても良い。また、第2の領域114内において、化合物中に含まれる遷移金属の濃度は一定でなくても良い。
【0152】
第1の領域112及び第2の領域114における化合物はリチウムの代わりに、アルカリ金属(例えば、ナトリウム(Na)やカリウム(K)など)やアルカリ土類金属(例えば、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)など)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)を用いることも出来る。または、第1の領域112及び第2の領域114における化合物は、リチウムとアルカリ金属またはアルカリ土類金属の一以上とを含む化合物を用いることもできる。
【0153】
本実施の形態に示す正極活物質層201は、リチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物で形成される膜状の第1の領域112の上面もしくは上面及び側面が、リチウムと鉄とを含む化合物で形成される膜状の第2の領域114で覆われている。正極活物質層201の表層部が鉄を含む第2の領域114で形成されていることで、正極活物質表面でのリチウムの挿入脱離におけるエネルギー障壁を下げることが可能である。その結果、正極活物質層201は、利用できる容量を理論容量に近づけることができ、且つマンガン、コバルト、ニッケルの一以上の持つ高い放電電位を利用することが出来る。
【0154】
(実施の形態7)
本実施の形態では、本発明の一形態である蓄電装置が有する正極の構造について図4とは異なる例を図5、図6、図7を用いて説明する。
【0155】
図5、図6、図7は本発明の一形態である蓄電装置が有する正極の断面模式図に相当する。
【0156】
図5に示すように、本実施の形態は、正極活物質層201として、リチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物で形成される膜状の第1の領域112と、リチウムと鉄とを含む化合物で形成される膜状の第2の領域114とを有し、第1の領域112は第2の領域114で覆われている。第1の領域112の上面もしくは上面及び側面が、第2の領域114で覆われており、且つ第1の領域112と正極集電体200との間に、第2の領域114が存在する。
【0157】
また、図6、図7はそれぞれ図4、図5における第1の領域112を複数有する場合を示す。
【0158】
その他の構成は実施の形態6と同様とすることが出来る。
【0159】
(実施の形態8)
本実施の形態では、本発明の一形態である蓄電装置が有する正極の構造について図8を用いて説明する。
【0160】
図8は本発明の一形態である蓄電装置が有する正極の断面模式図に相当する。
【0161】
図8に示すように、本実施の形態は、リチウム(Li)と鉄(Fe)と遷移金属(マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)の一以上)とを含む化合物で形成され、正極活物質の正極集電体に近い側より表層部の方が鉄の濃度が高い正極活物質層(以下、当該正極活物質層を正極活物質層203という。)である。または、リチウムと鉄と遷移金属(マンガン、コバルト、ニッケルの一以上)とを含む化合物で形成され、正極活物質の第1の部分より第2の部分の方が鉄の濃度が高く、第2の部分は前記第1の部分より表面に近い正極活物質層203である。
【0162】
正極活物質層203の表層部が鉄を含む化合物で形成されていることで、正極活物質表面でのリチウムの挿入脱離におけるエネルギー障壁を下げることが可能である。その結果、正極活物質層203は、利用できる容量を理論容量に近づけることができ、且つマンガン、コバルト、ニッケルの一以上の持つ高い放電電位を利用することが出来る。
【0163】
また、正極活物質を膜状に形成することで正極活物質層に対する正極活物質の占める割合を高く出来る。正極活物質層203が膜状の正極活物質で形成されているため、正極活物質層203に占める正極活物質の割合は理想的には100%にすることが可能である。そのため、単位体積あたりのエネルギー密度を高くすることが出来る。
【0164】
リチウムと鉄とマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物はリン酸化合物を用いても良い。リン酸化合物の代表例としてオリビン構造を有するリン酸化合物があり、リチウムと鉄とマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物はオリビン構造を有する領域を含んでいても良い。
【0165】
正極活物質層203がオリビン構造を有する領域を含むリン酸化合物の場合、リチウム、遷移金属、及びリン酸(PO)で構成される。遷移金属としては鉄、マンガン、コバルト、ニッケルの一以上で、且つ鉄とマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含むものが挙げられる。酸化還元電位の大きいマンガン、コバルト、ニッケルの一以上を含むことで高い放電電位が実現される。更には、正極活物質中のマンガン、コバルト、ニッケルの一以上の比率が高いほどマンガン、コバルト、ニッケルの一以上の酸化還元による放電容量の比率が高くなるため高エネルギー密度が実現できる。
【0166】
正極活物質層203を形成するリチウムと鉄とマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含むリン酸化合物は、一般式Li1−xFe1−yPO(xは0以上1以下)(Mは、Mn、Co、及びNiの一以上)で表される物質を含んでいても良い。上記一般式で表される物質はオリビン構造であってもよい。また、yの値は、表面では0より大きく1未満、好ましくは0.15以上0.5以下、より好ましくは0.2以上0.3以下とすることで、より高エネルギー密度が実現できる。
【0167】
正極活物質層203を形成する化合物は、充放電に伴いリチウムが脱離挿入される。そのため、一般式Li1−xFe1−yPO(xは0以上1以下)(Mは、Mn、Co、及びNiの一以上)(yは0より大きく1未満)、において、xの値は0以上1以下の範囲で任意の値となる。また、リチウムの濃度は勾配を有する場合もある。
【0168】
正極活物質層203における化合物はリチウムの代わりに、アルカリ金属(例えば、ナトリウム(Na)やカリウム(K)など)やアルカリ土類金属(例えば、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)など)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)を用いることも出来る。または、正極活物質層203における化合物は、リチウムとアルカリ金属またはアルカリ土類金属の一以上とを含む化合物を用いることもできる。
【0169】
本実施の形態に示す正極活物質層203は、正極活物質の表層部が鉄を含む化合物で形成されていることで、正極活物質表面でのリチウムの挿入脱離におけるエネルギー障壁を下げることが可能である。その結果、正極活物質層203は利用できる容量を理論容量に近づけることができ、且つマンガン、コバルト、ニッケルの一以上の持つ高い放電電位を利用することが出来る。
【0170】
(実施の形態9)
本実施の形態では、本発明の一形態である蓄電装置が有する正極の作製方法について、以下に説明する。
【0171】
まず、正極集電体200を準備する(図9(A))。
【0172】
正極集電体200の材料は、特に限定されないが、白金、アルミニウム、銅、チタン等の導電性の高い材料を用いることができる。本実施の形態では、チタンを用いる。
【0173】
次に、正極集電体200上に、リチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物で形成される第1の領域112を形成する(図9(B))。
【0174】
リチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物で形成される第1の領域112の作製方法としては、PVD法(例えばスパッタリング法)、真空蒸着法、又はCVD法(例えばプラズマCVD法や熱CVD法、LPCVD法)などの乾式法を用いることができる。乾式法を用いてリチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物で形成される第1の領域112を形成することで、均質且つ薄膜の、リチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物で形成される第1の領域112を得ることができる。そのため、正極の充放電特性を安定させることができる。
【0175】
本実施の形態では、スパッタリング法により、例えばリン酸化合物で形成される第1の領域112を作製する。例えば、一般式LiFey11−y1PO(Mは、Mn、Co、及びNiの一以上)(y1は0以上1未満)で表される物質で形成されたターゲットを用いて、膜厚10nm〜3μmのリン酸化合物膜を形成する。
【0176】
なお、第1の領域112を形成後に加熱処理を行ってもよい。例えば、加熱処理を行うことで第1の領域112を結晶化させることが出来る。又は結晶性を高めることが出来る。
【0177】
加熱処理の温度としては、450℃以上700℃以下で行うことが好ましい。また、加熱処理の時間としては、30分以上40時間以下、好ましくは2時間以上10時間以下で行えばよい。また、加熱処理の雰囲気としては、希ガス雰囲気、窒素雰囲気等を用いることが好ましい。例えば、加熱処理は、窒素雰囲気中において、600℃、4時間行うことが出来る。
【0178】
以上により、第1の領域112を形成する。
【0179】
次に、第1の領域112が形成された正極集電体200上に、リチウムと鉄とを含む化合物で形成される第2の領域114を形成する(図9(C))。
【0180】
リチウムと鉄とを含む化合物で形成される第2の領域114の作製方法としては、PVD法(例えばスパッタリング法)、真空蒸着法、又はCVD法(例えばプラズマCVD法や熱CVD法、LPCVD法)などの乾式法を用いることができる。乾式法を用いてリチウムと鉄とを含む化合物で形成される第2の領域114を形成することで、均質且つ薄膜の、リチウムと鉄とを含む化合物で形成される第2の領域114を得ることができる。そのため、正極の充放電特性を安定させることができる。
【0181】
本実施の形態では、スパッタリング法により、例えばリン酸化合物で形成される第2の領域114を作製する。例えば、一般式LiFey2Me1−y2PO(Meは、Mn、Co、及びNiの一以上)(y2は0より大きく1以下)で表される物質で形成されたターゲットを用いて、膜厚1nm〜3μmのリン酸化合物膜を形成する。
【0182】
第2の領域114は充放電に寄与する正極活物質となりうる化合物であれば容量低下を招かず良い。第2の領域114にオリビン構造を有する領域を含むリン酸化合物を用いた場合には、充放電において高い容量が実現できる。
【0183】
一方、第2の領域114は鉄を含むため、放電電位が低くなり、エネルギー密度は下がる。よって、正極活物質層201の膜厚rに対し、第2の領域114の膜厚dの比率c(c=d/r)は低いほど好ましい。比率cの値として、好ましくは0.005以上0.25以下、より好ましくは0.01以上0.1以下を用いることが出来る。具体的には第2の領域の膜厚としては1nmから8nm程度が好ましい。また、比率cを変えると所望のエネルギー密度を有する正極活物質を作製できる。また、一般式Li1−x2Fey2Me1−y2PO(x2は0以上1以下)(Meは、Mn、Co、及びNiの一以上)において、y2の値は0より大きく1以下、好ましくは0.15以上0.5以下、より好ましくは0.2以上0.3以下とすることで、より高エネルギー密度が実現できる。
【0184】
本明細書では、第1の領域112と第2の領域114をあわせて正極活物質層201と呼ぶ。また、正極活物質層201と、それが形成された正極集電体200を合わせて正極202と呼ぶ。
【0185】
なお、第2の領域114を形成後に加熱処理を行ってもよい。例えば、加熱処理を行うことで第1の領域112と第2の領域114とを含む正極活物質層201を結晶化させることが出来る。又は結晶性を高めることができる。
【0186】
加熱処理の温度としては、450℃以上700℃以下で行うことが好ましい。また、加熱処理の時間としては、30分以上40時間以下、好ましくは2時間以上10時間以下で行えばよい。また、加熱処理の雰囲気としては、希ガス雰囲気、窒素雰囲気等を用いることが好ましい。例えば、加熱処理は、窒素雰囲気中において、600℃、4時間行うことが出来る。
【0187】
第2の領域114の形成後の加熱処理の条件を調整することで、第1の領域112と第2の領域114に含まれる元素がお互いの領域に拡散し、第1の領域112と第2の領域114の境界が不明瞭となり、実施の形態6に示す構造(正極活物質層203)を形成することが可能である。
【0188】
カーボンなどで正極活物質層201の表面に被膜を形成しても良い。PVD法(例えばスパッタリング法)、真空蒸着法、又はCVD法(例えばプラズマCVD法や熱CVD法、LPCVD法)などの乾式法を用いることができる。あるいは塗布法などの湿式法を用いてもよい。また、被覆後に加熱処理を行っても良い(図示なし)。
【0189】
なお、活物質とは、キャリアであるイオンの挿入及び脱離に関わる物質を指し、カーボンなどの被膜を含むものではない。
【0190】
以上のようにして、正極活物質層201を含む正極202を作製する。
【0191】
本実施の形態により、正極活物質表面でのリチウムの挿入脱離におけるエネルギー障壁を下げることが可能である。その結果、利用できる容量を理論容量に近づけることができ、且つマンガン、コバルト、ニッケルの一以上の持つ高い放電電位を利用することが可能な正極202を形成することが出来る。
【0192】
(実施の形態10)
本実施の形態では、実施の形態5で説明した蓄電装置の応用形態について説明する。
【0193】
実施の形態5で説明した蓄電装置は、デジタルカメラやビデオカメラ等のカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置等の電子機器に用いることができる。また、電気自動車、ハイブリッド自動車、鉄道用電気車両、作業車、カート、車椅子、自転車等の電気推進車両に用いることができる。
【0194】
図10(A)は、携帯電話機の一例を示している。携帯電話機410は、筐体411に表示部412が組み込まれている。筐体411は、さらに操作ボタン413、操作ボタン417、外部接続ポート414、スピーカー415、及びマイク416等を備えている。また、蓄電装置418は筐体411内に配置されており、外部接続ポート414より充電を行える。実施の形態5で説明した蓄電装置を携帯電話機410の蓄電装置418として用いることができる。
【0195】
図10(B)は、電子書籍用端末の一例を示している。電子書籍用端末430は、第1の筐体431及び第2の筐体433の2つの筐体で構成されて、2つの筐体が軸部432により一体にされている。第1の筐体431及び第2の筐体433は、軸部432を軸として開閉動作を行うことができる。第1の筐体431には第1の表示部435が組み込まれ、第2の筐体433には第2の表示部437が組み込まれている。その他、第2の筐体433に、操作ボタン439、電源443、及びスピーカー441等を備えている。また、蓄電装置444は第2の筐体433内に内蔵されており、電源443より充電が可能である。実施の形態5で説明した蓄電装置を電子書籍用端末430の蓄電装置444として用いることができる。
【0196】
図11は電動式の車椅子501の斜視図である。電動式の車椅子501は、使用者が座る座部503、座部503の後方に設けられた背もたれ505、座部503の前下方に設けられたフットレスト507、座部503の左右に設けられたアームレスト509、背もたれ505の上部後方に設けられたハンドル511を有する。アームレスト509の一方には、車椅子の動作を制御するコントローラ513が設けられる。座部503の下方のフレーム515を介して、座部503前下方には一対の前輪517が設けられ、座部503の後下方には一対の後輪519が設けられる。後輪519は、モータ、ブレーキ、ギア等を有する駆動部521に接続される。座部503の下方には、バッテリー、電力制御部、制御手段等を有する制御部523が設けられる。制御部523は、コントローラ513及び駆動部521と接続しており、使用者によるコントローラ513の操作により、制御部523を介して駆動部521が駆動し、電動式の車椅子501の前進、後進、旋回等の動作及び速度を制御する。
【0197】
実施の形態5で説明した蓄電装置を制御部523のバッテリーに用いることができる。制御部523のバッテリーは、プラグイン技術による外部から電力供給により充電をすることができる。
【0198】
図12は、電気自動車の一例を示している。電気自動車650には、蓄電装置651が搭載されている。蓄電装置651の電力は、制御回路653により出力が調整されて、駆動装置657に供給される。制御回路653は、コンピュータ655によって制御される。
【0199】
駆動装置657は、直流電動機若しくは交流電動機単体、又は電動機と内燃機関と、を組み合わせて構成される。コンピュータ655は、電気自動車650の運転者の操作情報(加速、減速、停止など)や走行時の情報(登坂や下坂等の情報、駆動輪にかかる負荷情報など)の入力情報に基づき、制御回路653に制御信号を出力する。制御回路653は、コンピュータ655の制御信号により、蓄電装置651から供給される電気エネルギーを調整して駆動装置657の出力を制御する。交流電動機を搭載している場合は、直流を交流に変換するインバータも内蔵される。
【0200】
実施の形態5で説明した蓄電装置を蓄電装置651のバッテリーに用いることができる。蓄電装置651は、プラグイン技術による外部からの電力供給により充電することができる。
【0201】
なお、電気推進車両が鉄道用電気車両の場合、架線や導電軌条からの電力供給により充電をすることができる。
【0202】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせることができる。
【0203】
(実施の形態11)
本実施の形態では、本発明の一態様に係る蓄電装置を、無線給電システム(以下、RF給電システムと呼ぶ。)に用いた場合の一例を、図13及び図14のブロック図を用いて説明する。なお、各ブロック図では、受電装置および給電装置内の構成要素を機能ごとに分類し、互いに独立したブロックとして示しているが、実際の構成要素は機能ごとに完全に切り分けることが困難であり、一つの構成要素が複数の機能に係わることもあり得る。
【0204】
はじめに、図13を用いてRF給電システムについて説明する。
【0205】
受電装置800は、給電装置900から供給された電力で駆動する電子機器または電気推進車両であるが、この他電力で駆動するものに適宜適用することができる。電子機器の代表的としては、デジタルカメラやビデオカメラ等のカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、表示装置、コンピュータ等がある。また、電気推進車両の代表例としては、電気自動車、ハイブリッド自動車、鉄道用電気車両、作業車、カート、車椅子等がある。また、給電装置900は、受電装置800に電力を供給する機能を有する。
【0206】
図13において、受電装置800は、受電装置部801と、電源負荷部810とを有する。受電装置部801は、受電装置用アンテナ回路802と、信号処理回路803と、蓄電装置804とを少なくとも有する。また、給電装置900は、給電装置用アンテナ回路901と、信号処理回路902とを有する。
【0207】
受電装置用アンテナ回路802は、給電装置用アンテナ回路901が発信する信号を受け取る、あるいは、給電装置用アンテナ回路901に信号を発信する役割を有する。信号処理回路803は、受電装置用アンテナ回路802が受信した信号を処理し、蓄電装置804の充電、および、蓄電装置804から電源負荷部810への電力の供給を制御する。電源負荷部810は、蓄電装置804から電力を受け取り、受電装置800を駆動する駆動部である。電源負荷部810の代表例としては、モータ、駆動回路等があるが、その他の電源負荷部を適宜用いることができる。また、給電装置用アンテナ回路901は、受電装置用アンテナ回路802に信号を送る、あるいは、受電装置用アンテナ回路802からの信号を受け取る役割を有する。信号処理回路902は、給電装置用アンテナ回路901の動作を制御する。すなわち、給電装置用アンテナ回路901から発信する信号の強度、周波数などを制御することができる。
【0208】
本発明の一態様に係る蓄電装置は、RF給電システムにおける受電装置800が有する蓄電装置804として利用される。
【0209】
RF給電システムに本発明の一態様に係る蓄電装置を利用することで、従来の蓄電装置に比べて蓄電量を増やすことができる。よって、無線給電の間隔を延ばすことができる(何度も給電する手間を省くことができる)。
【0210】
また、RF給電システムに本発明の一態様に係る蓄電装置を利用することで、電源負荷部810を駆動することができる蓄電量が従来と同じであれば、受電装置800の小型化及び軽量化が可能である。従って、トータルコストを減らすことができる。
【0211】
次に、RF給電システムの他の例について図14を用いて説明する。
【0212】
図14において、受電装置800は、受電装置部801と、電源負荷部810とを有する。受電装置部801は、受電装置用アンテナ回路802と、信号処理回路803と、蓄電装置804と、整流回路805と、変調回路806と、電源回路807とを、少なくとも有する。また、給電装置900は、給電装置用アンテナ回路901と、信号処理回路902と、整流回路903と、変調回路904と、復調回路905と、発振回路906とを、少なくとも有する。
【0213】
受電装置用アンテナ回路802は、給電装置用アンテナ回路901が発信する信号を受け取る、あるいは、給電装置用アンテナ回路901に信号を発信する役割を有する。給電装置用アンテナ回路901が発信する信号を受け取る場合、整流回路805は受電装置用アンテナ回路802が受信した信号から直流電圧を生成する役割を有する。信号処理回路803は受電装置用アンテナ回路802が受信した信号を処理し、蓄電装置804の充電、蓄電装置804から電源回路807への電力の供給を制御する役割を有する。電源回路807は、蓄電装置804が蓄電している電圧を電源負荷部810に必要な電圧に変換する役割を有する。変調回路806は受電装置800から給電装置900へ何らかの応答を送信する場合に使用される。
【0214】
電源回路807を有することで、電源負荷部810に供給する電力を制御することができる。このため、電源負荷部810に過電圧が印加されることを低減することが可能であり、受電装置800の劣化や破壊を低減することができる。
【0215】
また、変調回路806を有することで、受電装置800から給電装置900へ信号を送信することが可能である。このため、受電装置800の充電量を判断し、一定量の充電が行われた場合に、受電装置800から給電装置900に信号を送信し、給電装置900から受電装置800への給電を停止させることができる。この結果、蓄電装置804を100%充電しないことが可能であり、過充電による劣化や破壊を低減し、蓄電装置804の充電回数を増加させることが可能である。
【0216】
また、給電装置用アンテナ回路901は、受電装置用アンテナ回路802に信号を送る、あるいは、受電装置用アンテナ回路802から信号を受け取る役割を有する。受電装置用アンテナ回路802に信号を送る場合、信号処理回路902は、受電装置800に送信する信号を生成する回路である。発振回路906は一定の周波数の信号を生成する回路である。変調回路904は、信号処理回路902が生成した信号と発振回路906で生成された一定の周波数の信号に従って、給電装置用アンテナ回路901に電圧を印加する役割を有する。そうすることで、給電装置用アンテナ回路901から信号が出力される。一方、受電装置用アンテナ回路802から信号を受け取る場合、整流回路903は受け取った信号を整流する役割を有する。復調回路905は、整流回路903が整流した信号から受電装置800が給電装置900に送った信号を抽出する。信号処理回路902は復調回路905によって抽出された信号を解析する役割を有する。
【0217】
なお、RF給電を行うことができれば、各回路の間にどんな回路が有っても良い。例えば、受電装置800が電磁波を受信し整流回路805で直流電圧を生成したあとに、DC−DCコンバータやレギュレータといった回路を設けて、定電圧を生成してもよい。そうすることで、受電装置800内部に過電圧が印加されることを抑制することができる。
【0218】
本発明の一態様に係る蓄電装置は、RF給電システムにおける受電装置800が有する蓄電装置804として利用される。
【0219】
RF給電システムに本発明の一態様に係る蓄電装置を利用することで、従来の蓄電装置に比べて蓄電量を増やすことができるので、無線給電の間隔を延ばすことができる(何度も給電する手間を省くことができる)。
【0220】
また、RF給電システムに本発明の一態様に係る蓄電装置を利用することで、電源負荷部810を駆動することができる蓄電量が従来と同じであれば、受電装置800の小型化及び軽量化が可能である。従って、トータルコストを減らすことができる。
【0221】
なお、RF給電システムに本発明の一態様に係る蓄電装置を利用し、受電装置用アンテナ回路802と蓄電装置804を重ねる場合は、蓄電装置804の充放電に伴い形状が変化し、受電装置用アンテナ回路802のインピーダンスが変化しないようにすることが好ましい。アンテナのインピーダンスが変化してしまうと、十分な電力供給がなされない可能性があるためである。例えば、蓄電装置804を金属製あるいはセラミックス製の電池パックに装填するようにすればよい。なお、その際、受電装置用アンテナ回路802と電池パックは数十μm以上離れていることが望ましい。
【0222】
また、本実施の形態では、充電用の信号の周波数に特に限定はなく、電力が伝送できる周波数であればどの帯域であっても構わない。充電用の信号は、例えば、135kHzのLF帯(長波)でも良いし、13.56MHzのHF帯でも良いし、900MHz〜1GHzのUHF帯でも良いし、2.45GHzのマイクロ波帯でもよい。
【0223】
また、信号の伝送方式は電磁結合方式、電磁誘導方式、共鳴方式、マイクロ波方式など様々な種類があるが、適宜選択すればよい。ただし、雨や泥などの、水分を含んだ異物によるエネルギーの損失を抑えるためには、本発明の一態様では、周波数が低い帯域、具体的には、短波である3MHz〜30MHz、中波である300kHz〜3MHz、長波である30kHz〜300kHz、及び超長波である3kHz〜30kHzの周波数を利用した電磁誘導方式や共鳴方式を用いることが望ましい。
【0224】
本実施の形態は、上記実施の形態と組み合わせて実施することが可能である。
【符号の説明】
【0225】
100 正極活物質
102 第1の領域
104 第2の領域
106 正極活物質
112 第1の領域
114 第2の領域
200 正極集電体
201 正極活物質層
202 正極
203 正極活物質層
205 負極集電体
206 負極活物質層
207 負極
210 セパレータ
211 電解液
220 筐体
221 第1の電極
222 第2の電極
410 携帯電話機
411 筐体
412 表示部
413 操作ボタン
414 外部接続ポート
415 スピーカー
416 マイク
417 操作ボタン
418 蓄電装置
430 電子書籍用端末
431 筐体
432 軸部
433 筐体
435 表示部
437 表示部
439 操作ボタン
441 スピーカー
443 電源
444 蓄電装置
501 電動式の車椅子
503 座部
505 背もたれ
507 フットレスト
509 アームレスト
511 ハンドル
513 コントローラ
515 フレーム
517 一対の前輪
519 一対の後輪
521 駆動部
523 制御部
650 電気自動車
651 蓄電装置
653 制御回路
655 コンピュータ
657 駆動装置
800 受電装置
801 受電装置部
802 受電装置用アンテナ回路
803 信号処理回路
804 蓄電装置
805 整流回路
806 変調回路
807 電源回路
810 電源負荷部
900 給電装置
901 給電装置用アンテナ回路
902 信号処理回路
903 整流回路
904 変調回路
905 復調回路
906 発振回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を正極集電体上に有する正極と、
前記正極と電解質を介して対向する負極とを有し、
前記正極活物質は、
リチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物で形成される第1の領域と、
前記第1の領域を覆い、且つリチウムと鉄とを含む化合物で形成される第2の領域とを有することを特徴とする蓄電装置。
【請求項2】
正極活物質を正極集電体上に有する正極と、
前記正極と電解質を介して対向する負極とを有し、
前記正極活物質は、
リチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含むリン酸化合物で形成される第1の領域と、
前記第1の領域を覆い、且つリチウムと鉄とを含むリン酸化合物で形成される第2の領域とを有することを特徴とする蓄電装置。
【請求項3】
請求項2において、前記リチウムとマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含むリン酸化合物はオリビン構造を有する領域を含むことを特徴とする蓄電装置。
【請求項4】
請求項2または3において、前記リチウムと鉄とを含むリン酸化合物は、オリビン構造を有する領域を含むことを特徴とする蓄電装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項において、前記正極活物質の前記第1の領域と前記第2の領域は結晶格子の軸方向が一致していることを特徴とする蓄電装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項において、前記正極活物質は粒子状であることを特徴とする蓄電装置。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか一項において、前記第1の領域と前記第2の領域は膜状であることを特徴とする蓄電装置。
【請求項8】
請求項7において、前記第1の領域は正極活物質中において複数の領域を有することを特徴とする蓄電装置。
【請求項9】
正極活物質を正極集電体上に有する正極と、
前記正極と電解質を介して対向する負極とを有し、
前記正極活物質は粒子状であり、
前記正極活物質は、
リチウムと鉄とマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物で形成され、
前記正極活物質の中心部より表層部の方が鉄の濃度が高いことを特徴とする蓄電装置。
【請求項10】
正極活物質を正極集電体上に有する正極と、
前記正極と電解質を介して対向する負極とを有し、
前記正極活物質は粒子状であり、
前記正極活物質は、
リチウムと鉄とマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物で形成され、
前記正極活物質の第1の部分より第2の部分の方が鉄の濃度が高く、
前記第1の部分は前記第2の部分より中心に近いことを特徴とする蓄電装置。
【請求項11】
正極活物質を正極集電体上に有する正極と、
前記正極と電解質を介して対向する負極とを有し、
前記正極活物質は膜状であり、
前記正極活物質は、
リチウムと鉄とマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物で形成され、
前記正極活物質の前記正極集電体に近い側より表層部の方が鉄の濃度が高いことを特徴とする蓄電装置。
【請求項12】
正極活物質を正極集電体上に有する正極と、
前記正極と電解質を介して対向する負極とを有し、
前記正極活物質は膜状であり、
前記正極活物質は、
リチウムと鉄とマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物で形成され、
前記正極活物質の第1の部分より第2の部分の方が鉄の濃度が高く、
前記第2の部分は前記第1の部分より表面に近いことを特徴とする蓄電装置。
【請求項13】
請求項9乃至12のいずれか一項において、前記リチウムと鉄とマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含む化合物はリン酸化合物であることを特徴とする蓄電装置。
【請求項14】
請求項13において、前記リチウムと鉄とマンガン、コバルト、ニッケルの一以上とを含むリン酸化合物はオリビン構造を有する領域を含むことを特徴とする蓄電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−18914(P2012−18914A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105860(P2011−105860)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】