説明

蓄電装置

【課題】導電助剤及びバインダの含有量が低減された正極活物質層、及び当該正極活物質層を有する蓄電装置を提供する。
【解決手段】正極活物質層を有する正極、及び負極活物質層を有する負極を備え、当該正極活物質層は、複数の粒子状の正極活物質x[LiMnO]−(1−x)[LiCo1/3Mn1/3Ni1/3](例えば、x=0.5)と、当該複数の正極活物質と少なくとも一部が着接する多層グラフェンとを有し、当該多層グラフェンは、炭素で構成される六員環と、炭素で構成される七員環以上の多員環と、当該六員環または当該七員環以上の多員環を構成する炭素に結合する酸素と、を有する複数のグラフェンが層状に重なる蓄電装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示される発明の一態様は、蓄電装置に関する。
【0002】
なお、本明細書における蓄電装置とは、蓄電機能を有する素子または装置全般を指すものである。
【背景技術】
【0003】
近年、環境技術への意識の高まりにより、従来の発電方式よりも環境への負荷が小さい発電方式を用いる発電装置(例えば、太陽光発電装置)の開発が盛んに行われている。発電装置の開発と並行して蓄電装置(あるいは蓄電デバイスともいう)の開発も進められている。
【0004】
蓄電装置の一つとして、二次電池、例えば、リチウムイオン二次電池(リチウムイオン蓄電池、リチウムイオン電池、リチウムイオンバッテリーなどともいう)が挙げられる(特許文献1参照)。リチウムイオン二次電池はエネルギー密度が高く、小型化に適しているため広く普及している。
【0005】
リチウムイオン二次電池において、正極にはリチウム金属酸化物を用い、負極にはグラファイトなどの炭素材を用いる。リチウムイオン二次電池の正極活物質として、例えば、少なくともアルカリ金属と遷移金属を含有する複合酸化物でなる正極活物質が挙げられる。
【0006】
リチウムイオン二次電池は、充電の際に正極材料のリチウムがリチウムイオンとなり、電解液を経由して負極材料の炭素材内に移動する。一般的に活物質は、同じ体積であれば、イオンの出入りが可能な材料の割合が多いほど、出入り可能なイオンの量が増えるため、電池としての容量を増大させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−29000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に示される正極活物質をリチウムイオン二次電池に用いるには、導電性を向上させるために配合される導電助剤、及び、活物質同士または活物質と集電体とを結着させて電極構造を維持するバインダが必要である。正極活物質、導電助剤、及びバインダを有する正極活物質層を正極集電体上に設けることにより、リチウムイオン二次電池の正極が作製される。
【0009】
しかしながら、正極活物質層中に導電助剤及びバインダが含まれていると、正極活物質層重量あたりの放電容量の低減の原因となる。さらには、正極活物質層に含まれるバインダは、電解液と接触すると膨潤してしまい、正極が変形し、破壊されやすい。
【0010】
以上を鑑みて、開示される発明の一態様では、導電助剤及びバインダの含有量が低減された正極活物質層を提供することを課題の一とする。
【0011】
また開示される発明の一態様では、導電助剤及びバインダの含有量が低減された正極活物質層を用いることにより、信頼性及び耐久性の高い蓄電装置を提供することを課題の一とする。
【0012】
また開示される発明の一態様は、放電容量が大きく特性の良好な蓄電装置を得ることを課題の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
開示される発明の一態様では、正極活物質として、x[LiMnO]−(1−x)[LiCo1/3Mn1/3Ni1/3]、例えば、x=0.5である固溶体、0.5LiMnO−0.5LiCo1/3Mn1/3Ni1/3、すなわち、Li1.2Mn0.53Ni0.13Co0.13を用いる。x[LiMnO]−(1−x)[LiCo1/3Mn1/3Ni1/3]は、放電容量の大きな正極活物質材料である。そのため、正極活物質としてx[LiMnO]−(1−x)[LiCo1/3Mn1/3Ni1/3]を有する蓄電装置は、大きな放電容量を得ることができる。
【0014】
しかしながら、このような放電容量の大きいx[LiMnO]−(1−x)[LiCo1/3Mn1/3Ni1/3]を正極活物質として用いても、正極活物質層を作製するには、正極活物質x[LiMnO]−(1−x)[LiCo1/3Mn1/3Ni1/3]に加えて、導電性を向上させる導電助剤、及び、活物質同士または活物質と集電体とを結着させて電極構造を維持するバインダが必要である。
【0015】
上述のように、正極活物質層中に導電助剤及びバインダが含まれていると、正極活物質層重量あたりの放電容量の低減の原因となる。さらには、正極活物質層に含まれるバインダは、電解液と接触すると膨潤してしまい、正極が変形し、破壊されやすい。
【0016】
そのため、以下に説明するように、正極活物質層を作製するために、複数層のグラフェンを有する多層グラフェンを用いる。これにより、導電助剤及びバインダの含有量を低減させることが可能である。
【0017】
グラフェンとは、グラファイトの水平層、即ち、炭素で構成される六員環が平面方向に連続した炭素層であり、特に、当該炭素層が2層以上100層以下積層される場合を、本明細書において多層グラフェンという。グラフェンは化学的に安定であり、且つ電気特性が良好である。
【0018】
グラフェンにおいて導電性が高いのは、炭素で構成される六員環が平面方向に連続しているためである。即ち、グラフェンは平面方向において、導電性が高い。また、グラフェンはシート状であるため、積層されるグラフェンにおいて平面に平行な方向に隙間を有し、当該領域においてイオンの移動は可能であるが、グラフェンの平面に垂直な方向においてのイオンの移動が困難である。
【0019】
なお、本明細書において、グラフェンとは、sp結合を有する1原子層の炭素分子のシートのことをいう。また、グラフェンは柔軟性を有する。また、シート状のグラフェンの形状は、矩形、円形、その他任意の形状である。
【0020】
多層グラフェンは、2層以上100層以下のグラフェンを有する。また、各グラフェンは、基体の表面に対して平行に積層している。また、多層グラフェンに含まれる酸素は、全体の3atomic%以上10atomic%以下である。また、多層グラフェンはシート状または網目状(ネット状)である。
【0021】
グラフェンにおいては、六員環の一部の炭素−炭素結合が切断され多員環となる。当該多員環は、グラフェンにおいて間隙となり、イオンの移動が可能な領域である。また、多層グラフェンにおいて、隣り合うグラフェンの距離は、0.34nmより大きく0.5nm以下である。このため、グラファイトと比較して、グラフェンの間におけるイオンの移動が容易となる。
【0022】
多層グラフェンはシート状または網目状である。ここでの網目状とは、二次元的形状及び三次元的形状の両方を含む。同一の多層グラフェンまたは複数の多層グラフェンにより、複数の粒子状の正極活物質の一部が着接されている。あるいは、複数の粒子状の正極活物質の一部は、同一の多層グラフェンまたは複数の多層グラフェンに、密接して覆われている。即ち、複数の粒子状の正極活物質一部が、同一の多層グラフェンまたは複数の多層グラフェンの間に、保持されている。なお、多層グラフェンは袋状になっており、該内部において、複数の粒子状の正極活物質を保持する場合がある。また、多層グラフェンは、一部開放部があり、当該領域において、粒子状の正極活物質が露出している場合がある。多層グラフェンは粒子状の正極活物質の分散や、正極活物質層の崩落を妨げることが可能であり、このため、多層グラフェンは、充放電にともない粒子状の正極活物質の体積が増減しても、粒子状の正極活物質同士の結合を維持する機能を有する。
【0023】
また、正極活物質層において、複数の粒子状の正極活物質は多層グラフェンに接するため、多層グラフェンを介して電子の移動が可能である。即ち、多層グラフェンは導電助剤の機能を有する。
【0024】
このため、正極活物質層に多層グラフェンを有することで、正極活物質層におけるバインダや導電助剤の含有量を低減することが可能である。
【0025】
また、バインダの含有量を低減することが可能であるため、耐久性を高めることができる。これにより、信頼性及び耐久性の高い蓄電装置を提供することが可能である。
【0026】
また、正極活物質層におけるバインダや導電助剤の含有量を低減することが可能であるため、正極活物質層に含まれる正極活物質量を高めることができる。これにより、放電容量が大きく特性の良好な蓄電装置を得ることが可能となる。
【0027】
なお、開示される発明の一態様において、正極活物質のみならず、負極活物質に対しても多層グラフェンを用いると、上述の正極活物質に対する効果と同様の効果を得られる。よって、負極活物質層においても、バインダや導電助剤の含有量を低減することができ、負極活物質層に含まれる負極活物質量を高めることができる。これにより、さらに信頼性及び耐久性が高く、放電容量が大きく特性の良好な蓄電装置を得ることが可能となる。
【0028】
開示される発明の一態様は、正極活物質層を有する正極、及び負極活物質層を有する負極を備え、当該正極活物質層は、複数の粒子状の正極活物質x[LiMnO]−(1−x)[LiCo1/3Mn1/3Ni1/3]と、当該複数の正極活物質と少なくとも一部が着接する多層グラフェンとを有し、当該多層グラフェンは、炭素で構成される六員環と、炭素で構成される七員環以上の多員環と、当該六員環または当該七員環以上の多員環を構成する炭素に結合する酸素と、を有する複数のグラフェンが層状に重なることを特徴とする蓄電装置に関する。
【0029】
開示される発明の一態様は、正極活物質層を有する正極、及び負極活物質層を有する負極を備え、当該正極活物質層は、複数の粒子状の正極活物質x[LiMnO]−(1−x)[LiCo1/3Mn1/3Ni1/3]と、当該複数の正極活物質と少なくとも一部が着接する多層グラフェンとを有し、当該多層グラフェンは、炭素で構成される六員環と、炭素及び酸素で構成される七員環以上の多員環と、当該六員環または当該七員環以上の多員環を構成する炭素に結合する酸素と、を有する複数のグラフェンが層状に重なることを特徴とする蓄電装置に関する。
【0030】
開示される発明の一態様は、正極活物質層を有する正極、及び負極活物質層を有する負極を備え、当該正極活物質層は、複数の粒子状の正極活物質x[LiMnO]−(1−x)[LiCo1/3Mn1/3Ni1/3]と、当該複数の正極活物質と少なくとも一部が着接する多層グラフェンとを有し、当該多層グラフェンは、炭素で構成される六員環と、炭素で構成される七員環以上の多員環とが平面方向に複数連続し、当該六員環または当該七員環以上の多員環を構成する炭素に結合する酸素を有する炭素層が層状に重なることを特徴とする蓄電装置に関する。
【0031】
開示される発明の一態様は、正極活物質層を有する正極、及び負極活物質層を有する負極を備え、当該正極活物質層は、複数の粒子状の正極活物質x[LiMnO]−(1−x)[LiCo1/3Mn1/3Ni1/3]と、当該複数の正極活物質と少なくとも一部が着接する多層グラフェンとを有し、当該多層グラフェンは、炭素で構成される六員環と、炭素及び酸素で構成される七員環以上の多員環とが平面方向に複数連続し、当該六員環または当該七員環以上の多員環を構成する炭素に結合する酸素を有する炭素層が層状に重なることを特徴とする蓄電装置に関する。
【0032】
開示される発明の一態様において、当該x=0.5であり、当該x[LiMnO]−(1−x)[LiCo1/3Mn1/3Ni1/3]は、0.5LiMnO−0.5LiCo1/3Mn1/3Ni1/3、すなわち、Li1.2Mn0.53Ni0.13Co0.13であることを特徴とする。
【0033】
開示される発明の一態様において、当該負極活物質層は、負極活物質と、当該負極活物質と少なくとも一部が着接する多層グラフェンとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
開示される発明の一態様により、導電助剤及びバインダの含有量が低減された正極活物質層を提供することができる。
【0035】
また開示される発明の一態様により、導電助剤及びバインダの含有量が低減された正極活物質層を用いることにより、信頼性及び耐久性の高い蓄電装置を提供することができる。
【0036】
また開示される発明の一態様により、放電容量が大きく特性の良好な蓄電装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】多層グラフェンを説明する図。
【図2】正極を説明する図。
【図3】負極を説明する図。
【図4】蓄電装置を説明する図。
【図5】電気機器を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本明細書に開示された発明の実施の態様について、図面を参照して説明する。但し、本明細書に開示された発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、本明細書に開示された発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、以下に示す図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0039】
なお、図面等において示す各構成の、位置、大きさ、範囲などは、説明を分かりやすくするために、実際の位置、大きさ、範囲などを表していない場合がある。このため、開示する発明は、必ずしも、図面等に開示された位置、大きさ、範囲などに限定されない。
【0040】
なお、本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの序数は、構成要素の混同を避けるために付すものであり、数的に限定するものではないことを付記する。
【0041】
<x[LiMnO]−(1−x)[LiCo1/3Mn1/3Ni1/3]>
本実施の形態では、正極活物質として、放電容量の大きい、x[LiMnO]−(1−x)[LiCo1/3Mn1/3Ni1/3]、例えば、x=0.5である固溶体0.5LiMnO−0.5LiCo1/3Mn1/3Ni1/3)、すなわち、Li1.2Mn0.53Ni0.13Co0.13を用いる。以下にLi1.2Mn0.53Ni0.13Co0.13の合成方法について説明する。
【0042】
(a)原料の混合
まず、リチウム(Li)源として炭酸リチウム(LiCO)、マンガン(Mn)源として二酸化マンガン(MnO)、ニッケル(Ni)源として酸化ニッケル(NiO)、コバルト(Co)源として酸化コバルト(Co)を用い、所定のモル比で秤量する。
【0043】
秤量した上記原料を、湿式ボールミルにて粉砕及び混合分散する。溶媒としてアセトンを用い、ジルコニアボール径がφ3mmのボールミルにて、回転数400rpm、回転時間2時間の条件で、粉砕及び混合分散し、上記混合原料を有するスラリーを作製する。
【0044】
(b)乾燥及び成型
上記作製したスラリーを、50℃にてアセトンを揮発させ乾燥する。乾燥した混合原料を、圧力14.7MPaで加圧し、ペレット状に成型する。
【0045】
(c)焼成
成型したペレットをアルミナ坩堝に入れ、大気雰囲気中で、焼成温度950℃、焼成時間5時間で焼成する。
【0046】
得られたLi1.2Mn0.53Ni0.13Co0.13を正極活物質として正極を得る方法の例として、焼成したペレットを粉砕し、導電助剤及びバインダと共に混合する。混合後、再度焼成を行い、正極活物質、導電助剤、及びバインダを有する正極活物質層を得る方法がある。
【0047】
このようにして得られた正極活物質層を有する正極を用いると、放電容量の大きい蓄電装置が得られる。しかしながら、正極活物質層中に導電助剤及びバインダが含まれていると、正極活物質層重量あたりの放電容量の低減の原因となる。さらには、正極活物質層に含まれるバインダは、電解液と接触すると膨潤してしまい、正極が変形し、破壊されやすい。
【0048】
そこで、本実施の形態では、複数の粒子状の正極活物質の一部を、同一の多層グラフェンまたは複数の多層グラフェンにより着接させる。あるいは、本実施の形態の複数の粒子状の正極活物質の一部は、同一の多層グラフェンまたは複数の多層グラフェンに、密接して覆われている。つまり、複数の粒子状の正極活物質の一部は、同一の多層グラフェンまたは複数の多層グラフェンの間に保持されている。なお、多層グラフェンは袋状になっており、該内部において、複数の粒子状の正極活物質を保持する場合がある。すなわち、多層グラフェンが複数の粒子状の正極活物質を結合する機能を有すると言える。
【0049】
また、多層グラフェンは、一部開放部があり、当該領域において、粒子状の正極活物質が露出している場合がある。多層グラフェンは粒子状の正極活物質の分散や、正極活物質層の崩落を妨げることが可能であり、このため、多層グラフェンは、充放電にともない粒子状の正極活物質の体積が増減しても、粒子状の正極活物質同士の結合を維持する機能を有する。
【0050】
以上のように、多層グラフェンが複数の粒子状の正極活物質を結合するため、正極活物質層に含まれるバインダの量を低減することができる。
【0051】
また、バインダの含有量を低減することが可能であるため、当該正極活物質層を有する蓄電装置の耐久性を高めることができる。
【0052】
また、正極活物質層では、複数の粒子状の正極活物質が多層グラフェンに接するため、多層グラフェンを介して電子の移動が可能である。即ち、多層グラフェンは導電助剤の機能を有する。
【0053】
よって、多層グラフェンを用いることにより、正極活物質層に含まれる導電助剤の量を低減することができる。
【0054】
以上、本実施の形態により、信頼性及び耐久性の高い蓄電装置を提供することが可能である。
【0055】
以下に、多層グラフェン、多層グラフェンに保持された正極活物質を有する正極、及び、当該正極を有する蓄電装置について説明する。
【0056】
<多層グラフェン>
本実施の形態では、多層グラフェンの構造及び作製方法について、図1を用いて説明する。
【0057】
図1(A)は、多層グラフェン101の断面模式図である。多層グラフェン101は、複数のグラフェン103が略平行に重なっている。このときの、グラフェン103の層間距離105は0.34nmより大きく0.5nm以下、好ましくは0.38nm以上0.42nm以下、更に好ましくは0.39nm以上0.41nm以下である。また、多層グラフェン101には、グラフェン103が2層以上100層以下含まれる。
【0058】
図1(B)は、図1(A)に示すグラフェン103の斜視図である。グラフェン103は、長さが数μmのシート状であり、ところどころに間隙107を有する。当該間隙107は、イオンの移動が可能な通路として機能する。このため、図1(A)に示す多層グラフェン101は、グラフェン103の表面と平行な方向、即ちグラフェン103同士の隙間と共に、多層グラフェン101の表面に対する垂直方向、即ちグラフェン103それぞれに設けられる間隙107の間をイオンが移動することが可能である。
【0059】
図1(B)に示すグラフェン103の分子模式図を図1(C)に示す。グラフェン103は、炭素113で構成される六員環111が平面方向に広がっており、一部に、七員環、八員環、九員環、十員環等の、六員環の一部の炭素結合が切断された多員環が形成される。当該多員環が図1(B)に示す間隙107に相当し、炭素113で構成される六員環111が結合する領域が図1(B)のハッチング領域に相当する。なお、多員環は、炭素113のみで構成される場合がある。または、炭素113及び酸素115で構成される場合がある。または、多員環の炭素113に酸素115が結合する場合がある。
【0060】
多層グラフェン101に含まれる酸素は、全体の2atomic%以上11atomic%以下、好ましくは3atomic%以上10atomic%以下である。酸素の割合が低い程多層グラフェンの導電性を高めることができる。また、酸素の割合を高める程、グラフェンにおいてイオンの通路となる間隙をより多く形成することができる。
【0061】
通常のグラファイトを構成するグラフェンの層間距離は0.34nmであり、また層間距離のばらつきが少ない。一方、多層グラフェンは、炭素で構成される六員環の一部に酸素が含まれる。または、炭素、若しくは炭素及び酸素で七員環以上の多員環を有する。即ち、酸素を含むため、多層グラフェンにおいて、各グラフェンの層間距離がグラファイトと比較して長い。このため、グラフェンの各層の間において、グラフェンの表面と平行な方向におけるイオンの移動が容易となる。また、グラフェンには空隙を有するため、当該空隙を介してグラフェンの厚さ方向のイオンの移動も容易となる。
【0062】
なお、多層グラフェンに、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属を添加することで、導電率を1×10S/cm以上に高めることができる。このことは、蓄電装置の正極または負極において、導電助剤として用いる上で有効である。
【0063】
次に、多層グラフェンの作製方法について、以下に説明する。
【0064】
はじめに、酸化グラフェンを含む溶液を形成する。
【0065】
本実施の形態では、Hummers法と呼ばれる酸化法を用いて酸化グラフェンを形成する。Hummers法は、単結晶グラファイト粉末に過マンガン酸カリウムの硫酸溶液、過酸化水素水等を加えて酸化反応させて酸化グラファイト溶液を形成する。酸化グラファイトは、グラファイトの炭素の酸化により、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基等の官能基を有する。このため、複数のグラフェンの層間距離がグラファイトと比較して長い。次に、酸化グラファイト溶液に超音波振動を加えることで、層間距離の長い酸化グラファイトを劈開し、酸化グラフェンを形成することができる。なお、市販の酸化グラフェンを用いてもよい。
【0066】
なお、酸化グラフェンは極性を有する溶液中においては、当該酸素がマイナスに帯電するため、異なる多層グラフェン同士が凝集しにくい。
【0067】
次に、酸化グラフェンを含む溶液を、基体上に設ける。基体上に酸化グラフェンを含む溶液を設ける方法としては、塗布法、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、電気泳動法等がある。また、これらの方法を複数組み合わせてもよい。例えば、ディップ法により、基体上に酸化グラフェンを含む溶液を設けた後、スピンコート法と同様に基体を回転させることで、酸化グラフェンを含む溶液の厚さの均一性を高めることができる。
【0068】
次に、還元処理により、基体に設けられた酸化グラフェンから酸素の一部を脱離させる。還元処理としては、真空中あるいは不活性ガス(窒素あるいは希ガス等)中等の還元性の雰囲気で、150℃以上、好ましくは200℃以上の温度で加熱する。加熱する温度が高い程、また、加熱する時間が長いほど、酸化グラフェンが還元されやすく、純度の高い(すなわち、炭素以外の元素の濃度の低い)多層グラフェンが得られる。
【0069】
なお、Hummers法では、グラファイトを硫酸で処理するため、酸化グラファイトは、スルホン基等も結合しているが、この分解(脱離)は、300℃前後で開始する。したがって、酸化グラフェンの還元は300℃以上で行うことが好ましい。
【0070】
上記還元処理において、隣接するグラフェン同士が結合し、より巨大な網目状あるいはシート状となる。また、当該還元処理において、酸素の脱離により、グラフェンには間隙が形成される。更には、グラフェン同士が基体の表面に対して、平行に重なり合う。この結果、イオンの移動が可能な多層グラフェンが形成される。
【0071】
以上の工程により、導電性が高く、且つ表面と平行な方向及び表面に対し垂直方向にイオン移動が可能な、多層グラフェンを作製することができる。
【0072】
複数の粒子状の正極活物質Li1.2Mn0.53Ni0.13Co0.13を、多層グラフェンに保持させるには、酸化グラフェンに還元処理を行う前に、粒子状の正極活物質Li1.2Mn0.53Ni0.13Co0.13及び酸化グラフェンを含むスラリーを形成する。次に、基体あるいは正極集電体上に、当該スラリーを塗布した後、還元雰囲気での加熱により還元処理を行って、正極活物質Li1.2Mn0.53Ni0.13Co0.13を焼成すると共に、酸化グラフェンに含まれる酸素を脱離させ、グラフェンに間隙を形成する。なお、酸化グラフェンに含まれる酸素は全て還元されず、一部の酸素はグラフェンに残存する。以上の工程により、基体あるいは正極集電体上に、正極活物質Li1.2Mn0.53Ni0.13Co0.13及び多層グラフェンを有する正極活物質層を形成することができる。この結果、正極活物質層の導電性が高まる。
【0073】
また、作製された多層グラフェンに複数の粒子状の正極活物質を保持させる別の方法として、上述の焼成した正極活物質Li1.2Mn0.53Ni0.13Co0.13のペレットを粉砕し、作製された多層グラフェンと共に混合する。混合後、再度焼成を行い、正極活物質Li1.2Mn0.53Ni0.13Co0.13、及び多層グラフェンを有する正極活物質層を得ることができる。
【0074】
<正極>
図2(A)は正極311の断面図である。正極311は、正極集電体307上に正極活物質層309が形成される。
【0075】
なお、活物質とは、キャリアであるイオンの挿入及び脱離に関わる物質を指す。よって、活物質と活物質層は区別される。
【0076】
正極集電体307は、白金、アルミニウム、銅、チタン、ステンレス等の導電性の高い材料を用いることができる。また、正極集電体307は、箔状、板状、網状等の形状を適宜用いることができる。
【0077】
図2(B)は、正極活物質層309として、キャリアイオンの吸蔵放出が可能な粒子状の正極活物質321である、上述のx[LiMnO]−(1−x)[LiCo1/3Mn1/3Ni1/3]、例えば、Li1.2Mn0.53Ni0.13Co0.13と、当該正極活物質321の複数を覆いつつ、当該正極活物質321が内部に詰められた多層グラフェン323で構成される正極活物質層309の平面図である。複数の正極活物質321の表面を異なる多層グラフェン323が覆う。また、一部において、正極活物質321が露出していてもよい。
【0078】
正極活物質321の粒径は、20nm以上100nm以下が好ましい。なお、正極活物質321内を電子が移動するため、正極活物質321の粒径はより小さい方が好ましい。
【0079】
また、正極活物質321の表面に炭素膜が被覆されていなくとも十分な特性が得られるが、炭素膜が被覆されている正極活物質と多層グラフェンを共に用いると、電子が正極活物質間をホッピングしながら伝導するためより好ましい。
【0080】
図2(C)は、図2(B)の正極活物質層309の一部における断面図である。正極活物質層309は正極活物質321及び該正極活物質321を覆う多層グラフェン323を有する。多層グラフェン323は断面図においては線状で観察される。複数の正極活物質321の一部は、同一の多層グラフェンまたは複数の多層グラフェン323に着接されている。あるいは、複数の粒子状の正極活物質321の一部は、多層グラフェン323に、密接して覆われている。即ち、同一の多層グラフェン323または複数の多層グラフェン323の間に、複数の正極活物質321の一部が保持されている。なお、多層グラフェン323は袋状になっており、該内部において、複数の正極活物質321を保持する場合がある。また、多層グラフェン323は、一部開放部があり、当該領域において、正極活物質321が露出している場合がある。
【0081】
正極活物質層309の厚さは、20μm以上100μm以下の間で所望の厚さを選択する。なお、クラックや剥離が生じないように、正極活物質層309の厚さを適宜調整することが好ましい。
【0082】
なお、本実施の形態では、正極活物質層309に多層グラフェン323を用いるため、正極活物質に混合する導電助剤及びバインダの量を低減させることができる。よって、アセチレンブラック(AB)粒子やカーボンナノファイバー等の導電助剤の添加量や、公知のバインダの添加量を低減させることができる。
【0083】
なお、正極活物質321は、キャリアとなるイオンの吸蔵により体積が膨張する場合がある。このため、充放電により、正極活物質層309が脆くなり、正極活物質層309の一部が崩落してしまい、この結果蓄電装置の信頼性が低下する。しかしながら、正極活物質321が体積膨張しても、当該周囲を多層グラフェン323が覆うため、多層グラフェン323は正極活物質321の分散や正極活物質層309の崩落を妨げることが可能である。即ち、多層グラフェン323は、充放電にともない正極活物質321の体積が増減しても、正極活物質321同士の結合を維持する機能を有する。
【0084】
また、多層グラフェン323は、複数の正極活物質321と接しており、導電助剤としても機能する。また、キャリアイオンの吸蔵放出が可能な正極活物質321を保持する機能を有する。このため、正極活物質層309に混合するバインダの量を低減させることができるため、正極活物質層309当たりの正極活物質量を増加させることが可能である。これにより、蓄電装置の放電容量を高めることができる。
【0085】
次に、正極活物質層309の作製方法について説明する。
【0086】
粒子状の正極活物質321及び酸化グラフェンを含むスラリーを形成する。次に、正極集電体307上に、当該スラリーを塗布した後、上述の多層グラフェン323の作製方法と同様に、還元雰囲気での加熱により還元処理を行って、正極活物質321を焼成すると共に、酸化グラフェンに含まれる酸素を脱離させ、グラフェンに間隙を形成する。なお、酸化グラフェンに含まれる酸素は全て還元されず、一部の酸素はグラフェンに残存する。以上の工程により、正極集電体307上に正極活物質層309を形成することができる。この結果、正極活物質層309の導電性が高まる。
【0087】
酸化グラフェンは酸素を含むため、極性溶媒中では負に帯電する。この結果、酸化グラフェンは互いに分散する。このため、スラリーに含まれる正極活物質321が凝集しにくくなり、焼成による正極活物質321の粒径の増大を低減することができる。このため、正極活物質321内の電子の移動が容易となり、正極活物質層309の導電性を高めることができる。
【0088】
<負極>
図3(A)は負極205の断面図である。負極205は、負極集電体201上に負極活物質層203が形成される。
【0089】
なお、活物質とは、キャリアであるイオンの挿入及び脱離に関わる物質を指す。よって、活物質と活物質層は区別される。
【0090】
負極集電体201は、銅、ステンレス、鉄、ニッケル等の導電性の高い材料を用いることができる。また、負極集電体201は、箔状、板状、網状等の形状を適宜用いることができる。
【0091】
負極活物質層203には、キャリアであるイオンの吸蔵放出が可能な負極活物質211を用いる。負極活物質211の代表的には、リチウム、アルミニウム、黒鉛、シリコン、錫、及びゲルマニウムなどがある。または、リチウム、アルミニウム、黒鉛、シリコン、錫、及びゲルマニウムから選ばれる一以上を含む化合物がある。なお、負極集電体201を用いずそれぞれの負極活物質層203を単体で負極として用いてもよい。負極活物質211として、黒鉛と比較すると、ゲルマニウム、シリコン、リチウム、アルミニウムの方が、理論容量が大きい。吸蔵容量が大きいと小面積でも十分に充放電が可能であり、コストの節減及び金属イオン二次電池、代表的にはリチウムイオン二次電池の小型化につながる。
【0092】
なお、リチウムイオン二次電池以外の金属イオン二次電池を得る場合、当該金属イオン二次電池に用いるキャリアイオンとしては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、またはマグネシウムイオン等がある。
【0093】
本実施の形態では、負極活物質層203として、上述の負極活物質211に導電助剤及びバインダを加え、粉砕、混合、焼成して作製した負極活物質層を用いてもよい。
【0094】
また、負極205の作製方法の別の例として、負極205においても、正極311と同様に、多層グラフェンに負極活物質211を保持させることにより、負極活物質層203中のバインダ及び導電助剤の含有量を低減させることができる。負極活物質層203に多層グラフェンを用いた例について、以下に説明する。
【0095】
図3(B)は、負極活物質層203として、キャリアイオンの吸蔵放出が可能な粒子状の負極活物質211と、当該負極活物質211の複数を覆いつつ、当該負極活物質211が内部に詰められた多層グラフェン213で構成される負極活物質層203の平面図である。複数の負極活物質211の表面を異なる多層グラフェン213が覆う。また、一部において、負極活物質211が露出していてもよい。
【0096】
図3(C)は、図3(B)の負極活物質層203の一部における断面図である。負極活物質211、及び該負極活物質211を保持する多層グラフェン213を有する。多層グラフェン213は断面図においては線状で観察される。同一の多層グラフェン213または複数の多層グラフェン213により、複数の負極活物質211を内包する。即ち、同一の多層グラフェン213または複数の多層グラフェン213の間に、複数の負極活物質211が内在する。なお、多層グラフェン213は袋状になっており、該内部において、複数の負極活物質211を内包する場合がある。また、多層グラフェン213は、一部開放部があり、当該領域において、負極活物質211が露出している場合がある。
【0097】
負極活物質層203の厚さは、20μm以上100μm以下の間で所望の厚さを選択する。
【0098】
なお、負極活物質層203には、多層グラフェンの体積の0.1倍以上10倍以下のアセチレンブラック粒子や1次元の拡がりを有するカーボン粒子(カーボンナノファイバ等)、公知のバインダを有してもよい。
【0099】
なお、負極活物質層203にリチウムをプレドープしてもよい。リチウムのプレドープ方法としては、スパッタリング法により負極活物質層203表面にリチウム層を形成してもよい。または、負極活物質層203の表面にリチウム箔を設けることで、負極活物質層203にリチウムをプレドープすることができる。
【0100】
なお、負極活物質211においては、キャリアとなるイオンの吸蔵により体積が膨張するものがある。このため、充放電により、負極活物質層203が脆くなり、負極活物質層203の一部が崩落してしまい、この結果蓄電装置の信頼性が低下する。しかしながら、負極活物質211が体積膨張しても、当該周囲を多層グラフェン213が覆うため、多層グラフェン213は負極活物質211の分散や負極活物質層203の崩落を妨げることが可能である。即ち、多層グラフェン213は、充放電にともない負極活物質211の体積が増減しても、負極活物質211同士の結合を維持する機能を有する。
【0101】
例えば、負極活物質の一例であるシリコンは、キャリアとなるイオンの吸蔵により体積が4倍程度まで増える。このため、充放電により、負極活物質211が脆くなり、負極活物質層203の一部が崩落してしまい、この結果蓄電装置の信頼性が低下する。しかしながら、シリコンが体積膨張しても、負極活物質211の周囲を多層グラフェン213が覆うため、体積膨張による負極活物質層203の崩落を防ぐことができる。
【0102】
また、多層グラフェン213は、複数の負極活物質211と接しており、導電助剤としても機能する。また、キャリアイオンの吸蔵放出が可能な負極活物質211を保持する機能を有する。このため、負極活物質層203にバインダを混合する必要が無く、負極活物質層203当たりの負極活物質量を増加させることが可能であり、蓄電装置の放電容量を高めることができる。
【0103】
次に、図3(B)及び図3(C)に示す負極活物質層203の作製方法について説明する。
【0104】
粒子状の負極活物質及び酸化グラフェンを含むスラリーを形成する。次に、負極集電体201上に、当該スラリーを塗布した後、上述の多層グラフェンの作製方法と同様に、還元雰囲気での加熱により還元処理を行って、負極活物質211を焼成すると共に、酸化グラフェンから酸素の一部を脱離させ、グラフェンに間隙を形成する。なお、酸化グラフェンに含まれる酸素は全て還元されず、一部の酸素はグラフェンに残存する。以上の工程により、負極集電体201上に負極活物質層203を形成することができる。
【0105】
図3(D)に、表面が凹凸状である負極活物質221と、当該負極活物質221の表面を覆う多層グラフェン223を有する負極205の構造について説明する。
【0106】
このように表面が凹凸状である負極活物質221の例として、例えば、エッチング等で表面に凸部が形成されたシリコンが挙げられる。このように表面が凹凸状である負極活物質221の例を、以下に説明する。
【0107】
図3(D)は、負極集電体201に負極活物質層203が形成される負極205の断面図である。負極活物質層203は、表面が凹凸状である負極活物質221と、当該負極活物質221の表面を覆う多層グラフェン223を有する。
【0108】
凹凸状の負極活物質221は、共通部221aと、共通部221aから突出する凸部221bとを有する。凸部221bは、円柱状、角柱状等の柱状、円錐状または角錐状の針状等の形状を適宜有する。なお、凸部の頂部は湾曲していてもよい。また、負極活物質221は、負極活物質211と同様に、キャリアであるイオン、代表的にはリチウムイオンの吸蔵放出が可能な負極活物質を用いて形成される。なお、共通部221a及び凸部221bが同じ材料を用いて構成されてもよい。または、共通部221a及び凸部221bが異なる材料を用いて構成されてもよい。
【0109】
上述したように、図3(D)の負極活物質221の例としてシリコンが挙げられる。凸部221bは、シリコン層をエッチングすることにより形成すればよい。凸部221bを形成後、凸部221b及び共通部221aを覆う多層グラフェン223を形成する。
【0110】
また、図3(E)に示されるように、表面が凹凸状である負極集電体201を覆って、負極活物質層203を形成してもよい。図3(E)において、負極集電体201は、共通部201aと、共通部201aから突出する凸部201bとを有する。凸部201bは、円柱状、角柱状等の柱状、円錐状または角錐状の針状等の形状を適宜有する。なお、凸部の頂部は湾曲していてもよい。このような凸部201bは、負極集電体201となる材料層にエッチング等を行うことにより形成すればよい。
【0111】
共通部201a及び凸部201bを有する負極集電体201を覆って形成する負極活物質221も、共通部221a及び凸部221bを有する構造となる。さらに凸部221bを形成後、凸部221b及び共通部221aを覆う多層グラフェン223を形成する。
【0112】
また、負極活物質層203表面が電解質と接触することにより、電解質及び負極活物質が反応し、負極の表面に被膜が形成される。当該被膜はSEI(Solid Electrolyte Interface)と呼ばれ、電極と電解質の反応を和らげ、安定化させるために必要であると考えられている。しかしながら、当該被膜が厚くなると、キャリアイオンが負極に吸蔵されにくくなり、電極と電解質間のキャリアイオン伝導性の低下、電解質の消耗などの問題がある。
【0113】
負極活物質層203表面を多層グラフェン213で被覆することで、当該被膜の膜厚の増加を抑制することが可能であり、放電容量の低下を抑制することができる。
【0114】
<蓄電装置>
図4は、リチウムイオン二次電池の断面図である。
【0115】
リチウムイオン二次電池400は、負極集電体401及び負極活物質層403で構成される負極405と、正極集電体407及び正極活物質層409で構成される正極411と、負極405及び正極411で保持されるセパレータ413とで構成される。なお、セパレータ413中には電解質415が含まれる。また、負極集電体401は外部端子417と接続し、正極集電体407は外部端子419と接続する。外部端子419の端部はガスケット421に埋没されている。即ち、外部端子417、419は、ガスケット421によって絶縁化されている。
【0116】
正極集電体407及び正極活物質層409はそれぞれ、上述の正極集電体307及び正極活物質層309を適宜用いることができる。
【0117】
負極集電体401及び負極活物質層403は、上述の負極集電体201及び負極活物質層203を適宜用いて形成すればよい。
【0118】
セパレータ413は、絶縁性の多孔体を用いる。セパレータ413の代表例としては、セルロース(紙)、ポリエチレン、ポリプロピレン等がある。
【0119】
電解質415の溶質は、キャリアイオンであるリチウムイオンを有する材料を用いる。電解質の溶質の代表例としては、LiClO、LiAsF、LiBF、LiPF、Li(CSON等のリチウム塩がある。
【0120】
なお、キャリアイオンが、リチウムイオン以外のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、またはマグネシウムイオンの場合、電解質415の溶質として、上記リチウム塩において、リチウムの代わりに、アルカリ金属(例えば、ナトリウムやカリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等)、ベリリウム、またはマグネシウムを用いてもよい。
【0121】
また、電解質415の溶媒としては、キャリアイオンの移送が可能な材料を用いる。電解質415の溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ましい。非プロトン性有機溶媒の代表例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γーブチロラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等があり、これらの一つまたは複数を用いることができる。また、電解質415の溶媒としてゲル化される高分子材料を用いることで、漏液性を含めた安全性が高まる。また、リチウムイオン二次電池400の薄型化及び軽量化が可能である。ゲル化される高分子材料の代表例としては、シリコンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、フッ素系ポリマー等がある。
【0122】
また、電解質415として、LiPO等の固体電解質を用いることができる。
【0123】
外部端子417及び外部端子419は、ステンレス鋼板、アルミニウム板なとの金属部材を適宜用いることができる。
【0124】
なお、本実施の形態では、リチウムイオン二次電池400として、ボタン型リチウムイオン二次電池を示したが、封止型リチウムイオン二次電池、円筒型リチウムイオン二次電池、角型リチウムイオン二次電池等様々な形状のリチウムイオン二次電池を用いることができる。また、正極、負極、及びセパレータが複数積層された構造、正極、負極、及びセパレータが捲回された構造であってもよい。
【0125】
リチウムイオン二次電池は、メモリー効果が小さく、エネルギー密度が高く、容量が大きい。また、出力電圧が高い。これらのため、小型化及び軽量化が可能である。また、充放電の繰り返しによる劣化が少なく、長期間の使用が可能であり、コスト削減が可能である。
【0126】
次に、本実施の形態に示すリチウムイオン二次電池400の作製方法について説明する。
【0127】
上述の作製方法により、正極411及び負極405を作製する。
【0128】
次に、正極411、セパレータ413、及び負極405を電解質415に含浸させる。次に、外部端子417に、負極405、セパレータ413、ガスケット421、正極411、及び外部端子419の順に積層し、「コインかしめ機」で外部端子417及び外部端子419をかしめてコイン型のリチウムイオン二次電池を作製することができる。
【0129】
なお、外部端子417及び負極405の間、または外部端子419及び正極411の間に、スペーサ、及びワッシャを入れて、外部端子417及び負極405の接続、または外部端子419及び正極411の接続をより高めてもよい。
【0130】
<電気機器>
開示される発明の一態様に係る蓄電装置は、電力により駆動する様々な電気機器の電源として用いることができる。
【0131】
開示される発明の一態様に係る蓄電装置を用いた電気機器の具体例として、表示装置、照明装置、デスクトップ型或いはノート型のパーソナルコンピュータ、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体に記憶された静止画または動画を再生する画像再生装置、携帯電話、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、電子書籍、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器、電気洗濯機、エアコンディショナーなどの空調設備、電気冷蔵庫、電気冷凍庫、電気冷凍冷蔵庫、DNA保存用冷凍庫、透析装置などが挙げられる。また、蓄電装置からの電力を用いて電動機により推進する移動体なども、電気機器の範疇に含まれるものとする。上記移動体として、例えば、電気自動車、内燃機関と電動機を併せ持った複合型自動車(ハイブリッドカー)、電動アシスト自転車を含む原動機付自転車などが挙げられる。
【0132】
なお、上記電気機器は、消費電力の殆ど全てを賄うための蓄電装置(主電源と呼ぶ)として、開示される発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。或いは、上記電気機器は、上記主電源や商用電源からの電力の供給が停止した場合に、電気機器への電力の供給を行うことができる蓄電装置(無停電電源と呼ぶ)として、開示される発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。或いは、上記電気機器は、上記主電源や商用電源からの電気機器への電力の供給と並行して、電気機器への電力の供給を行うための蓄電装置(補助電源と呼ぶ)として、開示される発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。
【0133】
図5に、上記電気機器の具体的な構成を示す。図5において、表示装置5000は、開示される発明の一態様に係る蓄電装置5004を用いた電気機器の一例である。具体的に、表示装置5000は、TV放送受信用の表示装置に相当し、筐体5001、表示部5002、スピーカ部5003、蓄電装置5004等を有する。開示される発明の一態様に係る蓄電装置5004は、筐体5001の内部に設けられている。表示装置5000は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5004に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、開示される発明の一態様に係る蓄電装置5004を無停電電源として用いることで、表示装置5000の利用が可能となる。
【0134】
表示部5002には、液晶表示装置、有機EL素子などの発光素子を各画素に備えた発光装置、電気泳動表示装置、DMD(Digital・Micromirror・Device)、PDP(Plasma・Display・Panel)、FED(Field・Emission・Display)などの、半導体表示装置を用いることができる。
【0135】
なお、表示装置には、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用など、全ての情報表示用表示装置が含まれる。
【0136】
図5において、据え付け型の照明装置5100は、開示される発明の一態様に係る蓄電装置5103を用いた電気機器の一例である。具体的に、据え付け型の照明装置5100は、筐体5101、光源5102、蓄電装置5103等を有する。図5では、蓄電装置5103が、筐体5101及び光源5102が据え付けられた天井5104の内部に設けられている場合を例示しているが、蓄電装置5103は、筐体5101の内部に設けられていても良い。据え付け型の照明装置5100は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5103に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、開示される発明の一態様に係る蓄電装置5103を無停電電源として用いることで、据え付け型の照明装置5100の利用が可能となる。
【0137】
なお、図5では天井5104に設けられた据え付け型の照明装置5100を例示しているが、開示される発明の一態様に係る蓄電装置は、天井5104以外、例えば側壁5105、床5106、窓5107等に設けられた据え付け型の照明装置に用いることもできるし、卓上型の照明装置などに用いることもできる。
【0138】
また、光源5102には、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を用いることができる。具体的には、白熱電球、蛍光灯などの放電ランプ、LEDや有機EL素子などの発光素子が、上記人工光源の一例として挙げられる。
【0139】
図5において、室内機5200及び室外機5204を有するエアコンディショナーは、開示される発明の一態様に係る蓄電装置5203を用いた電気機器の一例である。具体的に、室内機5200は、筐体5201、送風口5202、蓄電装置5203等を有する。図5では、蓄電装置5203が、室内機5200に設けられている場合を例示しているが、蓄電装置5203は室外機5204に設けられていても良い。或いは、室内機5200と室外機5204の両方に、蓄電装置5203が設けられていても良い。エアコンディショナーは、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5203に蓄積された電力を用いることもできる。特に、室内機5200と室外機5204の両方に蓄電装置5203が設けられている場合、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、開示される発明の一態様に係る蓄電装置5203を無停電電源として用いることで、エアコンディショナーの利用が可能となる。
【0140】
なお、図5では、室内機と室外機で構成されるセパレート型のエアコンディショナーを例示しているが、室内機の機能と室外機の機能とを1つの筐体に有する一体型のエアコンディショナーに、開示される発明の一態様に係る蓄電装置を用いることもできる。
【0141】
図5において、電気冷凍冷蔵庫5300は、開示される発明の一態様に係る蓄電装置5304を用いた電気機器の一例である。具体的に、電気冷凍冷蔵庫5300は、筐体5301、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303、蓄電装置5304等を有する。図5では、蓄電装置5304が、筐体5301の内部に設けられている。電気冷凍冷蔵庫5300は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5304に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、開示される発明の一態様に係る蓄電装置5304を無停電電源として用いることで、電気冷凍冷蔵庫5300の利用が可能となる。
【0142】
なお、上述した電気機器のうち、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器などの電気機器は、短時間で高い電力を必要とする。よって、商用電源では賄いきれない電力を補助するための補助電源として、開示される発明の一態様に係る蓄電装置を用いることで、電気機器の使用時に商用電源のブレーカーが落ちるのを防ぐことができる。
【0143】
また、電気機器が使用されない時間帯、特に、商用電源の供給元が供給可能な総電力量のうち、実際に使用される電力量の割合(電力使用率と呼ぶ)が低い時間帯において、蓄電装置に電力を蓄えておくことで、上記時間帯以外において電力使用率が高まるのを抑えることができる。例えば、電気冷凍冷蔵庫5300の場合、気温が低く、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303の開閉が行われない夜間において、蓄電装置5304に電力を蓄える。そして、気温が高くなり、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303の開閉が行われる昼間において、蓄電装置5304を補助電源として用いることで、昼間の電力使用率を低く抑えることができる。
【0144】
以上本実施の形態により、導電助剤及びバインダの含有量が低減された正極活物質層得ることができる。
【0145】
また本実施の形態により、導電助剤及びバインダの含有量が低減された正極活物質層を用いることにより、信頼性及び耐久性の高い蓄電装置を提供することができる。
【0146】
また本実施の形態により、放電容量が大きく特性の良好な蓄電装置を得ることができる。
【符号の説明】
【0147】
101 多層グラフェン
103 グラフェン
105 層間距離
107 間隙
111 六員環
113 炭素
115 酸素
201 負極集電体
201a 共通部
201b 凸部
203 負極活物質層
205 負極
211 負極活物質
213 多層グラフェン
221 負極活物質
221a 共通部
221b 凸部
223 多層グラフェン
307 正極集電体
309 正極活物質層
311 正極
321 正極活物質
323 多層グラフェン
400 リチウムイオン二次電池
401 負極集電体
403 負極活物質層
405 負極
407 正極集電体
409 正極活物質層
411 正極
413 セパレータ
415 電解質
417 外部端子
419 外部端子
421 ガスケット
5000 表示装置
5001 筐体
5002 表示部
5003 スピーカ部
5004 蓄電装置
5100 照明装置
5101 筐体
5102 光源
5103 蓄電装置
5104 天井
5105 側壁
5106 床
5107 窓
5200 室内機
5201 筐体
5202 送風口
5203 蓄電装置
5204 室外機
5300 電気冷凍冷蔵庫
5301 筐体
5302 冷蔵室用扉
5303 冷凍室用扉
5304 蓄電装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層を有する正極、及び負極活物質層を有する負極を備え、
前記正極活物質層は、複数の粒子状の正極活物質x[LiMnO]−(1−x)[LiCo1/3Mn1/3Ni1/3]と、前記複数の正極活物質と少なくとも一部が着接する多層グラフェンとを有し、
前記多層グラフェンは、
炭素で構成される六員環と、
炭素で構成される七員環以上の多員環と、
前記六員環または前記七員環以上の多員環を構成する炭素に結合する酸素と、
を有する複数のグラフェンが層状に重なることを特徴とする蓄電装置。
【請求項2】
正極活物質層を有する正極、及び負極活物質層を有する負極を備え、
前記正極活物質層は、複数の粒子状の正極活物質x[LiMnO]−(1−x)[LiCo1/3Mn1/3Ni1/3]と、前記複数の正極活物質と少なくとも一部が着接する多層グラフェンとを有し、
前記多層グラフェンは、
炭素で構成される六員環と、
炭素及び酸素で構成される七員環以上の多員環と、
前記六員環または前記七員環以上の多員環を構成する炭素に結合する酸素と、
を有する複数のグラフェンが層状に重なることを特徴とする蓄電装置。
【請求項3】
正極活物質層を有する正極、及び負極活物質層を有する負極を備え、
前記正極活物質層は、複数の粒子状の正極活物質x[LiMnO]−(1−x)[LiCo1/3Mn1/3Ni1/3]と、前記複数の正極活物質と少なくとも一部が着接する多層グラフェンとを有し、
前記多層グラフェンは、炭素で構成される六員環と、炭素で構成される七員環以上の多員環とが平面方向に複数連続し、前記六員環または前記七員環以上の多員環を構成する炭素に結合する酸素を有する炭素層が層状に重なることを特徴とする蓄電装置。
【請求項4】
正極活物質層を有する正極、及び負極活物質層を有する負極を備え、
前記正極活物質層は、複数の粒子状の正極活物質x[LiMnO]−(1−x)[LiCo1/3Mn1/3Ni1/3]と、前記複数の正極活物質と少なくとも一部が着接する多層グラフェンとを有し、
前記多層グラフェンは、炭素で構成される六員環と、炭素及び酸素で構成される七員環以上の多員環とが平面方向に複数連続し、前記六員環または前記七員環以上の多員環を構成する炭素に結合する酸素を有する炭素層が層状に重なることを特徴とする蓄電装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項において、
前記x=0.5であり、
前記x[LiMnO]−(1−x)[LiCo1/3Mn1/3Ni1/3]は、0.5LiMnO−0.5LiCo1/3Mn1/3Ni1/3、すなわち、Li1.2Mn0.53Ni0.13Co0.13であることを特徴とする蓄電装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項において、
前記負極活物質層は、負極活物質と、前記負極活物質と少なくとも一部が着接する多層グラフェンとを有することを特徴とする蓄電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−93319(P2013−93319A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−221174(P2012−221174)
【出願日】平成24年10月3日(2012.10.3)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】