説明

蓋付ハースライナーおよび蓋付ハースライナーを用いた蒸着方法

【目的】本発明は、蓋付ハースライナーおよび蓋付ハースライナーを用いた蒸着方法に関し、簡単な構成で材料の突沸を防止し、材料がチャンバー内の広範囲に蒸着することを制限し、電子ビーム量を制御して温度制御して所望の蒸発速度にしたりすることを目的とする。
【構成】蒸着する対象の材料を入れる凹形状のハースライナーと、ハースライナーの上部に配置し、かつ1つ以上の孔を設けた蓋とを備え、ハースライナーの内部に材料を入れて蓋を載せて閉めた状態で、電子ビームを蓋の部分に照射して蓋を電子ビーム加熱し、加熱された蓋の熱によりハースライナーの内部の材料を間接加熱して蓋の1つ以上の孔から噴出させる蓋付ハースライナーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着装置において材料を加熱する際に用いる蓋付ハースライナーおよび蓋付ハースライナーを用いた蒸着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子ビーム蒸着装置に用いる、蒸着する材料を入れるハースライナーは、一般的にルツボに合わせた深皿形状で、この中に蒸発(溶解、昇華、蒸発)させる材料を装填して当該材料に電子ビームを直接照射して材料を加熱して蒸発させ、対向面に配置した基板に蒸着していた。
【0003】
また、上述の電子ビーム蒸着装置で首尾よく蒸発できない材料の場合、例えば粒状のCaや有機材料などを蒸着したい場合には、電子ビームを直接に照射すると飛び跳ねたりしてうまく蒸着(正確には昇華させて蒸着)できず、そのため、タングステンなどのボートまたはバスケットに材料を直接に装填し通電加熱によって材料を蒸発(例えば昇華)させて対向面に配置した基板上に蒸着をおこなう通電加熱蒸着装置を用いていた。
【0004】
このため使用する材料(例えば粒状のCa材料など)によって方式の異なる2つの装置を使い分けて使用する必要があり、時間、手間、費用がかかっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の電子ビーム蒸着装置では、電子ビームを直接に蒸着させたい材料に照射して加熱蒸発するために、特に昇華性などの材料では一気に加熱されてしまうために突沸が発生し材料が飛散し、都合よく蒸着がおこなえないといった問題があった。これを少しでも避けるためにX、Yの両方向に電子ビームを走査を行う電子ビーム走査機構を設けると装置の大幅なコストの上昇を招くと共に、制御が煩雑となったり、構造が複雑となったりなどするという問題が発生する。
【0006】
また、有機材料の場合には温度の制御が必要であるのに電子ビームを当該有機材料に直接照射したのでは温度の制御が極めて困難で蒸着がうまくできないという問題も発生する。
【0007】
更に、従来の電子ビーム蒸着装置では、ルツボ(ハースライナー)の上部が、電子ビームで材料を照射するために全面的に解放されており、材料がルツボから対向して配置した基板に向けて蒸発する際に大きな立体角で当該基板以外の広範囲に蒸発して必要以上に装置の真空チャンバー内に付着して汚染してしまうという問題もあった。
【0008】
また、一部の有機材料では通電加熱方式でしか蒸発できないために別の専用の通電加熱蒸着装置を用いて蒸着をおこなわなければならないため、例えば多層膜を作成する場合には、電子ビーム蒸着装置および通電加熱蒸着装置にロードロックのような機構を設けて試料の交換をそれぞれおこなわなければならないといった問題が発生した。
【0009】
このため使用する材料によって方式の異なる2つの装置を使い分けて使用する必要があり、1つの基板に電子ビーム蒸着装置でないと蒸着できない材料を当該基板上に蒸着した後に、通電加熱蒸着装置に基板を装着して蒸着するというように、2台の装置を使い分けて基板を装着して蒸着する必要があり、特に、多層膜を基板に蒸着する場合には両者の装置に基板をそれぞれ装着する手間、時間がかかってしまうという大きな問題が発生した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、これらの問題を解決するために、電子ビームを照射して蒸着する電子ビーム蒸着装置において、蒸着する対象の材料を入れる凹形状のハースライナーと、ハースライナーの上部に配置し、かつ1つ以上の孔を設けた蓋とを備え、ハースライナーの内部に材料を入れて蓋を載せて閉めた状態で、電子ビームを蓋の部分に照射して蓋を電子ビーム加熱し、加熱された蓋の熱によりハースライナーの内部の材料を間接加熱して蓋の1つ以上の孔から噴出させて対向して配置した基板上に蒸着させるようにしている。
【0011】
この際、ハースライナーの底部に、ハースライナーと外部との間にスペーサを配置し、スペーサにより外部に熱の逃げを少なくするようにしている。
【0012】
また、スペーサは、ハースライナーの内部に入れる材料の蒸着特性に応じて熱の逃げ量を調整した構造とするようにしている。
【0013】
また、ハースライナーは、材料よりも融点の高い材質で作成するようにしている。
【0014】
また、蓋は、ハースライナーの上部に載せ、かつ上部にはめ込んで、間接加熱して蒸発した材料による蓋の浮き上がりあるいはずれを防止するようにしている。
【0015】
また、蓋に設けた孔の大きさおよび孔の数および孔の角度のいずれか1つ以上を調整し、基板への蒸着速度、基板への蒸着箇所、基板への蒸着膜厚の均一性のいずれか1つ以上を調整するようにしている。
【0016】
また、蓋を載せたハースライナーを、電子ビームで直接加熱する材料を入れる、材料が空のルツボ内に裁置するようにしている。
【0017】
また、1つ以上の孔を設けた蓋の孔の部分に、電子ビームを照射しないでそれ以外の部分に照射し、電子ビームで材料を直接照射加熱することなく蓋を直接照射加熱するようにしている。
【0018】
また、ハースライナーの温度を測定する温度検出器を設け、温度検出器によって検出した温度が所定値に保持されるように電子ビームによる加熱量を制御するようにしている。
【0019】
また、電子ビームの照射位置に、蓋付きのハースライナー、および蓋のないハースライナーあるいはルツボを複数、自動的に真空外から移動可能な機構を設け、機構により蓋付きのハースライナーを電子ビームの照射位置に移動させて予め求めた電力で蓋に電子ビームを照射して加熱し、蓋の熱で内部の材料を間接加熱して蓋の孔から噴出させ、一方、機構により蓋なしのハースライナーあるいはルツボを電子ビームの照射位置に移動させて予め求めた電力でハースライナーあるいはルツボの内部の材料に電子ビームを照射して直接加熱し、材料を蒸発させるようにしている。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、蒸発する材料を入れる凹形状のハースライナーに蓋を取り付けられるカプセル形状とし、蓋を電子ビーム照射加熱して当該蓋の熱で材料を間接加熱すると共に、蓋に1つ以上の孔を開けてこの孔から材料を噴出させて対向して配置した基板に蒸着させる構造を持たせたことにより、
(1)蓋からの熱で材料を間接加熱して蒸発させて材料の突沸を防止し、万一に突沸しても蓋があるために周囲に飛散することがなく、
(2)更に蓋の1つ以上の孔を通して材料が基板に向けて噴出するために立体角を小さく(所望)に抑えることができ材料がチャンバー内の広範囲に蒸着することを制限しチャンバー内の汚染を防止でき、
(3)更に電子ビーム直接加熱蒸着が不適合な材料についても電子ビームで間接加熱蒸着で容易に可能となり、
(4)更に、間接加熱蒸着であることから熱電対等でハースライナーの温度を測定して電子ビーム量を制御して温度制御して所望の蒸発速度などを容易に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、蒸発する材料を入れる凹形状のハースライナーに蓋を取り付けられるカプセル形状とし、蓋を電子ビーム照射加熱して当該蓋の熱で材料を間接加熱すると共に、蓋に1つ以上の孔を開けてこの孔から材料を噴出させて対向して配置した基板に蒸着させる構造を持たせ、簡単な構成で材料の突沸を防止したり、材料がチャンバー内の広範囲に蒸着することを制限してチャンバー内の汚染を防止したり、電子ビームで間接加熱蒸着を可能にしたり、熱電対等でハースライナーの温度を測定して電子ビーム量を制御して温度制御して所望の蒸発速度したりなどを実現した。
【実施例1】
【0022】
図1は、本発明の蓋付ハースライナーの構造例を示す。
【0023】
図1において、蓋1は、蒸発させる材料4を入れたハースライナー2の蓋であって、当該ハースライナー2のはめ込み部分は密着する構造を有し、電子ビームが照射されて加熱される部分であり、材料4の蒸発に伴い浮き上がってずれたりしないように保持されるものであり、小さな孔3を1つ以上設けたものである。
【0024】
ハースライナー2は、蒸発させる材料4を入れる凹状の耐熱性の容器である。ここで、蓋1、およびハースライナー2は、通常、蒸着させる材料4と反応しないような高融点金属材料、たとえばタングステン、タンタルなどで製作する。
【0025】
孔3は、蓋1に設けた1つ以上の小さな孔であって、電子ビームで加熱された蓋1の熱がハースライナー2の内部に入れた材料4を加熱して蒸発させ外部に対向して配置した図示しない基板に向けて噴射する孔である。
【0026】
材料4は、蒸発させる材料であって、ハースライナー2の内部に入れて間接加熱で蒸発させる材料である。
【0027】
次に、図1の蓋付ハースライナーを用いた蒸着時の手順を、図2を用いて詳細に説明する。
【0028】
(1)蒸着させる材料4をハースライナー2の内部に装填した後、蓋1をはめ込む。蓋1とハースライナー2のはめ込み部分は寸法的に公差を有しており、着実に密着できるような構造となっている。
【0029】
(2)図2は、ルツボにハースライナー2を装着した実施形態の一例であり、フィラメント7から出た電子ビーム9はハースライナー2の蓋1に照射され蓋1を加熱する。
【0030】
(3)(2)で電子ビーム9により加熱された蓋1は、ハースライナー2の内部に装填された蒸着させる材料4を間接的に加熱する。加熱された材料4は蒸気となり蓋1に設けられた孔3より噴出し、上方に配置した図示外の基板上に蒸着し薄膜を形成する。蓋1に設ける孔3の大きさ、数、開ける角度など任意に変更することが可能で、
・蒸着箇所を制限したり、
・膜厚分布の均一性を制御したり、
・孔3を開ける角度を変えることで、垂直方向以外に配置した基板上に薄膜を形成させたり、
などすることができる。
【0031】
更に、蓋1の電子ビーム9による加熱に際して温度制御装置10によりフィードバック制御をおこない電子ビーム9の出力を変えることによりハースライナー2(あるいは蓋1)の温度を一定の幅の温度に維持することで蒸着させる材料4が一気に加熱され突沸することが防止したり、万一突沸しても蓋1で覆われているため、周囲に飛散させないようにすることができる。
【0032】
以上のように、蓋付ハースライナーを設けて電子ビームで蓋1の部分を照射して電子ビーム加熱することにより、当該蓋1の部分(更に蓋1から熱伝導で加熱されたハースライナー2の部分)の熱により、ハースライナー2の内部に入れた材料4を間接加熱して蒸発させ(例えば粒子状のCa(あるいはその酸化物)を昇華させ)、蓋1の孔3から噴射させて対向して配置した図示外の基板上に蒸着させることができた。この際、電子ビームで直接に粒子状のCaに照射して加熱したのでは、通常、飛び跳ねてしまい、正常に蒸着できなかった。
【0033】
尚、図2は、本発明の装置例であって、ルツボ6に本発明に係わるハースライナー2を装着した実施形態の一例を示す。図2中の蓋1、ハースライナー2は、図1の蓋1、ハースライナー2と同じであるので説明を省略する。
【0034】
図2において、ルツボ6は、従来の電子ビームを直接照射して直接加熱する材料を入れる耐熱性のルツボである。図2の例では、従来のルツボ6の中に、本願発明に係わる図1の蓋1の付いたハースライナー2を入れ、底部に後述する円錐型スペーサ11を挿入している。
【0035】
フィラメント7は、通電加熱して電子を放出させるものであって、通常はヘアピン型のタングステン線からなる公知のフィラメントである。
【0036】
アノード8は、正の高電圧を印加し、フィラメント7から放出された電子を加速(例えば数KV程度)して電子ビーム9を生成するための中心に孔の開いた電極である。
【0037】
電子ビーム9は、加速された電子ビームであって、ここでは、蓋1に照射して当該蓋1の照射部分を直接加熱するものである。本願発明では、数KVで数mAから数百mAの容量がある電子ビーム蒸着装置を用いて実験した。本願発明の例では、電子ビーム9は、例えば4KVで数mAから数十mAの程度の加熱電力(20W〜60W程度、材料により異なる)で蒸着でき、非常に小さな電子ビーム加熱電力でよかった。尚、同装置で従来の通常のルツボ6に材料(金属、例えばアルミニウム)を入れて電子ビームで直接照射加熱して溶解して蒸発させる場合には、1KW程度以上が必要となる。これら加熱電力は、ルツボ6、ハースライナー2の大きさ、内部に入れる材料の量、材料の溶解/昇華/蒸発温度などに大きく依存し、実際に実験して求めてその加熱電力を供給するように調整する。
【0038】
温度制御装置10は、ハースライナー2の温度(あるいは蓋1の温度)を熱電対などの温度検出器(高温の場合には光温度検出器)で検出し、当該検出した温度が蓋1付のハースライナー2の内部に入れた材料4を蒸発(昇華、蒸発)させるに適した温度(所望温度)に保持されるように図示外の電子ビーム9の電圧、電流の制御装置にフィードバックし、所望温度に制御するものである。これにより、蓋1(ハースライナー2)から間接加熱される材料4の温度が最適に制御され、材料4から安定した蒸気が蓋1の孔3から噴射され、対向して配置した図示外の基板上に安定した薄膜を形成することが可能となる。
【0039】
円錐型スペーサ11は、ハースライナー2の底部とルツボ6との間に入れる円錐型のスペーサであって、ハースライナー2からルツボ6に逃げる熱量を減少(あるいは熱量を調整)し、ハースライナー2の温度を所望温度に保持させるためのものである。この円錐型スペーサ11をルツボ6との間に入れて逃げる熱量を調整(減少)させることにより、ハースライナー2の温度を所望温度に保つ(あるいは逃げる温度を減少させて小さくする)ことにより、電子ビームで加熱された蓋1からの熱で間接加熱される材料4の温度を所望温度に保持でき、特に、有機材料などの材料4に最適な蒸発(昇華、蒸発)をさせることが可能となる。
【0040】
図3は、本発明の蓋付ハースライナーの構造例(その2)を示す。
【0041】
図3の(a)は、代表的な蓋付ハースライナーの断面図を示す。図示の例では、蓋1は2つの孔3を有し、当該蓋1の周辺に、下方向に凸状かつリング状の突起があって、ハースライナー2の上部の内側に接するように構成され、蓋1が例えば材料4の蒸発時の圧力で少し位浮き上がっても横方向にずれて外れてしまわないように構成されている。
【0042】
また、図示の形状の蓋1の付いたハースライナー2は、既述した図2の従来のルツボ6の内部に接触して置く構造となっている。
【0043】
図3の(b)は、図3の(a)の蓋付ハースライナーの底部に円錐型スペーサ11を入れた例を示す。図示の円錐型スペーサ11は、蒸発させたい材料4の蒸発温度により異なる形状のものを用意する場合の1例を示す。ここでは、図2で既述した円錐型スペーサ11の例であって、ハースライナー2をルツボ6から浮かび上がらせて当該ハースライナー2からルツボ6への熱の逃げを減少させ、当該ハースライナー2を所望の高温に保持させるためのものである。
【0044】
図3の(c)は、孔の数を増した蓋の例を示す。図示の蓋1は、図3の(a),(b)に比して4つの孔3に増やし、成膜レートを大きく取りたい場合(電子ビームによる間接加熱量を増大した場合)にハースライナー2の内圧が上昇して蓋1ががたがた動いたり、外れたりすることによる蒸発量の変動を防ぐことができる。孔3の数を増やす代わりに、孔3の径を増しても同様の効果が得られる。
【0045】
図4の(d)は、蓋1の厚みを増して重量を増加した例を示す。蓋1の厚みを増して重量を増加させる事態は、材料4の間接加熱時の突沸等でハースライナー2の内圧が上昇して蓋1ががたかが動いたり、更に、外れるような条件の場合に使用する。蓋1を深くして外れにくくしてもよい。
【0046】
また、蓋1に設けた孔3の大きさ、孔3の数を、間接加熱時の加熱量の増減(基板への蒸着速度の増減、基板への蒸着箇所(蒸着面積)の増減)の場合、更に、基板への蒸着膜厚の均一性の増減などの場合に対応して増減し、蓋1の浮き上がりを防止したり、蒸着膜の形成場所を増減したり、蒸着膜の均一性を向上させりなどする。同様に、孔3自体の角度や、孔3の内部から外部に向かうほど大きくしたラッパ状に形成し、基板への蒸着面積、膜厚の均一性などを適切に調整する。
【0047】
(1)本実施例では、ハースライナー2の内部に材料4を入れ、当該ハースライナー2に蓋1を載せて、電子ビーム9で蓋1を照射して加熱し、蓋1の熱で内部の材料を間接加熱して蒸発させ、蓋1の孔3から材料を噴射させたが、これに限らず、材料4を入れる凹状の容器(例えば図2のルツボ6や、板や棒などに設けた窪みなど)に材料4を入れてその上から蓋1を載せて電子ビームが直接に材料4を照射しないようにし、蓋1を電子ビームで照射して加熱し、当該蓋1(あるいはルツボ6、ハースライナー2)の熱で内部の材料4を間接加熱し、蓋1に設けた孔3から材料を噴射させるようにしてもよい。
【0048】
(2)本実施例の図2では、電子ビーム蒸着装置のルツボ6内に蓋1の付いたハースライナー2を円錐型スペーサ11を介して入れて蓋1を載せ、電子ビームで蓋1を照射して加熱し、当該蓋1(ハースライナー2)の熱でハースライナー2の内部の材料4を間接加熱し、蓋1の孔3から材料を噴射させたが、これに限らず、ルツボ6に直接に材料を入れ、当該ルツボ6に蓋1を載せて当該蓋1を電子ビーム9で加熱し、蓋1の熱でルツボ6の内部の材料4を間接加熱し、蓋1の孔3から材料を噴射させるようにしてもよい。
【0049】
更に、図2は、1個のルツボ6を示したが、ターレット状に複数(例えば6個)のルツボ6が電子ビーム9の照射位置に自動的に真空外から移動できる機構(ターレット機構21)を設け、
・(A)あるルツボ6には電子ビームで直接照射加熱する材料(例えばアルミニウム)を入れ、
・(B)他のルツボ6(あるいは図2に示すように、他のルツボ6の内部に入れた図1のハースライナー2)には電子ビーム9で直接照射加熱では蒸発不可(困難)な材料4(例えば本願の粒状のCa)を入れてこれに蓋1を載せ、
上記ターレット機構21で(A)を選択して直接照射加熱する材料(例えばアルミニウム)を基板(所定寸法の基板、複数の基板を順次所定蒸着位置に移動させるターレット機構に載せた基板、あるいは所定幅の長尺で一定速度で蒸着しながら巻き取るタイプの基板)に蒸着し、次に上記ターレット機構21で(B)を選択して間接照射加熱する材料4(例えば粒状のCa)を基板に蒸着することを繰り返し、基板上に直接照射加熱する材料と間接照射加熱する材料とを多層に蒸着することが簡単かつ効率的に行うことが可能となる。この際、電子ビームによる直接照射加熱する材料と、間接照射加熱する材料とについて、最適な電子ビームの電力(ルツボ、ハースライナー2の大きさなど、材料4の溶解温度/昇華温度などで決まる蒸着に最適な加速電圧、電子ビーム電流値)を実験で予め求めておき、その値に自動的に調整して蒸着する。
【産業上の利用分野】
【0050】
本発明は、蒸発する材料を入れる凹形状のハースライナーに蓋を取り付け、蓋を電子ビーム照射加熱して蓋の熱で材料を間接加熱すると共に、蓋に孔を開けて材料を噴出させて蒸着させ、簡単な構成で材料の突沸を防止し、材料がチャンバー内の広範囲に蒸着することを制限し、電子ビーム量を制御して温度制御して所望の蒸発速度にしたりする蓋付ハースライナーおよび蓋付ハースライナーを用いた蒸着方法に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の蓋付ハースライナーの構造例である。
【図2】本発明の装置例である。
【図3】本発明の蓋付ハースライナーの構造例(その2)である。
【符号の説明】
【0052】
1:蓋
2:ハースライナー
3:孔
4:材料
6:ルツボ
7:フィラメント
8:アノード
9;電子ビーム
10:温度制御装置
11:円錐型スペーサ
21:ターレット機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを照射して蒸着する電子ビーム蒸着装置において、
蒸着する対象の材料を入れる凹形状のハースライナーと、
前記ハースライナーの上部に配置し、かつ1つ以上の孔を設けた蓋とを備え、
前記ハースライナーの内部に材料を入れて前記蓋を載せて閉めた状態で、前記電子ビームを当該蓋の部分に照射して当該蓋を電子ビーム加熱し、当該加熱された蓋の熱により前記ハースライナーの内部の材料を間接加熱して当該蓋の1つ以上の孔から噴出させる
ことを特徴とする蓋付ハースライナー。
【請求項2】
前記ハースライナーの底部に、当該ハースライナーと外部との間にスペーサを配置し、当該スペーサにより外部に熱の逃げを少なくしたことを特徴とする請求項1記載の蓋付ハースライナー。
【請求項3】
前記スペーサは、前記ハースライナーの内部に入れる材料の蒸着特性に応じて熱の逃げ量を調整した構造としたことを特徴とする請求項2記載の蓋付ハースライナー。
【請求項4】
前記ハースライナーは、前記材料よりも融点の高い材質で作成したことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の蓋付ハースライナー。
【請求項5】
前記蓋は、前記ハースライナーの上部に載せ、かつ当該上部にはめ込んで、間接加熱して蒸発した材料による当該蓋の浮き上がりあるいはずれを防止することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の蓋付ハースライナー。
【請求項6】
前記蓋に設けた孔の大きさおよび孔の数および孔の角度のいずれか1つ以上を調整し、基板への蒸着速度、基板への蒸着箇所、基板への蒸着膜厚の均一性のいずれか1つ以上を調整したことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の蓋付ハースライナー。
【請求項7】
前記蓋を載せたハースライナーを、前記電子ビームで直接加熱する材料を入れる、当該材料が空のルツボ内に裁置したことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の蓋付ハースライナー。
【請求項8】
電子ビームを照射して蒸着する電子ビーム蒸着装置における蒸着方法において、
蒸着する材料を入れる凹形状のハースライナーと、
前記ハースライナーの上部に配置し、かつ1つ以上の孔を設けた蓋とを設け、
前記ハースライナーの内部に材料を入れて前記蓋を載せて閉めた状態で、前記電子ビームを当該蓋の部分に照射して当該蓋を電子ビーム加熱し、当該加熱された蓋の熱により前記ハースライナーの内部の材料を間接加熱して当該蓋の1つ以上の孔から噴出させる
ことを特徴とする蓋付ハースライナーを用いた蒸着方法。
【請求項9】
前記1つ以上の孔を設けた蓋の当該孔の部分に、前記電子ビームを照射しないでそれ以外の部分に照射し、電子ビームで前記材料を直接照射加熱することなく前記蓋を直接照射加熱することを特徴とする請求項8記載の蓋付ハースライナーを用いた蒸着方法。
【請求項10】
前記ハースライナーの温度を測定する温度検出器を設け、当該温度検出器によって検出した温度が所定値に保持されるように前記電子ビームによる加熱量を制御することを特徴とする請求項8から請求項9のいずれかに記載の蓋付ハースライナーを用いた蒸着方法。
【請求項11】
前記電子ビームの照射位置に、前記蓋付きのハースライナー、および蓋のないハースライナーあるいはルツボを複数、自動的に真空外から移動可能な機構を設け、
前記機構により蓋付きのハースライナーを電子ビームの照射位置に移動させて予め求めた電力で当該蓋に電子ビームを照射して加熱し、蓋の熱で内部の材料を間接加熱して蓋の孔から噴出させ、一方、前記機構により蓋なしのハースライナーあるいはルツボを電子ビームの照射位置に移動させて予め求めた電力で当該ハースライナーあるいはルツボの内部の材料に電子ビームを照射して直接加熱し、材料を蒸発させる
ことを特徴とする請求項8から請求項10のいずれかに記載の蓋付ハースライナーを用いた蒸着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−149290(P2012−149290A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7716(P2011−7716)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(591003208)サンユー電子株式会社 (9)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】