説明

蓮植物体から得られた抽出物、該抽出物の製造方法及び肥満防止剤

【課題】本発明の課題は、運動療法や食事療法に頼ることなく、肥満が解消できる薬物を提供することにある。
【解決手段】蓮植物体を含水アルコールで抽出した抽出液を合成高分子系樹脂又はイオン交換樹脂に通液させることによって総アルカロイドと総ポリフェノールを高濃度に溶出させて得られる抽出物は、脂肪や澱粉の体内における分解を阻害し、かつ代謝を高めて肥満を解消する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内の代謝機能を高め、脂肪の吸収を阻害しかつ代謝を上げることにより、肥満防止に有用な抽出物及び該抽出物の製造方法及び肥満防止剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
〔発明の背景〕
高カロリー食の蔓延及び運動不足により、肥満は世界的に広がりを見せている。肥満は、糖尿病、高血圧、動脈硬化などの生活習慣病につながるために解決すべき社会問題である。これまで、肥満を解決するために、運動療法、食事療法、食欲抑制剤を用いた薬剤治療が施されてきたが、肥満の増加を食い止められないことが証明するとおり、解決にはほど遠い状況である。運動療法は、忙しい現代人にとって継続することが困難なために、食事療法は、好きでもない食べ物を強要されるストレスから、食欲抑制剤は、強い副作用があるために、それぞれ効果を上げることができていない。
【0003】
〔従来の技術〕
桑葉やシソ抽出物が肥満防止作用を有することが見出されており(例えば特許文献1〜3参照)、またアカショウマ、サトウキビ、ホップ、月見草種子等に含有するポリフェノールに肥満防止作用があり(例えば特許文献4〜7参照)、更に黒米由来の抽出物が糖質吸収阻害作用を有することも見出されている(例えば特許文献8〜9参照)。
またハス科のハス属植物やスイレン科ハスの抽出物が肥満予防に用いられているが(例えば特許文献10〜11参照)、本発明者等は、蓮の葉の抽出物に肥満防止作用があり、脂肪吸収阻害作用を総ポリフェノールが持つことをすでに発見している(例えば非特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−281583号公報
【特許文献2】特開2004−217532号公報
【特許文献3】特開2000−102383号公報
【特許文献4】特開2003−342185号公報
【特許文献5】特開2003−137803号公報
【特許文献6】特開2001−321166号公報
【特許文献7】再表02−009734号公報
【特許文献8】特開2004−143130号公報
【特許文献9】特開2004−091462号公報
【特許文献10】特開2003−113100号公報
【特許文献11】特開平8−198769号公報
【非特許文献1】New Food Industry 2003 Vol.45 No.5 41−48
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしその作用機序については、総ポリフェノールに脂肪吸収阻害作用があることが判っているのみで、精査されてはいない。また単に蓮の葉の抽出物では、運動療法を併用しないとその効果が発揮できないことも述べている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、作用機序が明白であり、且つ運動療法を必要としない肥満防止剤を開発するため、鋭意研究を重ねた結果、蓮の葉などに含まれる総アルカロイドが熱産生を促し代謝を著しく上げることが明らかになり、総アルカロイドと総ポリフェノールを有効成分としてある一定量以上を投与すると目的とする肥満防止作用が得られることを見出し本発明を完成した。
即ち本発明は、副作用が少なく、運動や食事制限を必要としない肥満防止剤を提供することを目的とし、総アルカロイドを固形分中に1.0質量%以上含有し、且つ総ポリフェノールを固形分中に10質量%以上含有する抽出物を提供するものである。上記抽出物は蓮植物体を含水アルコールで抽出した抽出液を合成高分子系樹脂又はイオン交換樹脂に通液させることによって総アルカロイドと総ポリフェノールを高濃度に溶出させることによって製造される。蓮植物体としては蓮の葉を使用することが望ましい。更に本発明では上記抽出物を含有し、1日服用量中に総アルカロイドとして10mg以上且つ総ポリフェノールとして100mg以上含有する肥満防止剤が提供される。
【発明の効果】
【0007】
〔作用〕
蓮植物体に含まれるポリフェノールは澱粉分解酵素や脂肪分解酵素に対して阻害作用を有し、これらを生体に投与すると、澱粉や脂肪を摂取しても消化吸収を阻害し、大部分は分解されることなく、体外へ排出させる。蓮植物体から有効成分であるアルカロイドとポリフェノールを高濃度に溶出させた抽出物を生体に投与すると熱産生を促し、代謝を著しく上げることが明らかになった。
【0008】
〔効果〕
したがって本発明では、運動療法や食事療法をすることなく、肥満を有効に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明について詳細に説明する。
本発明の原料に使用される蓮(Nelumbo nucifera)植物体としては、蓮の種子(蓮肉又は蓮子)、胚芽(蓮子心又は蓮心)、果実(石蓮子)、花托(蓮房)、葉(荷葉)、葉柄又は花柄(蓮梗)、雄蕊(蓮須)などの1種又は2種以上を使用することが出来、中でも葉を用いることが好ましい。
【0010】
上記蓮植物体からの有効成分の抽出は常法によって行なえばよい。例えば上記蓮植物体の1種または2種以上を乾燥して刻み、又は粉末状にして抽出溶媒を加え、冷浸又は加熱することによって行うことが出来る。抽出溶媒としては、水、アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、ニトリル類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化脂肪族炭化水素類等の1種または2種以上の混合溶媒を使用することができ、中でも水/エタノール混合溶媒(7:3)〜(5:5)、水/メタノール混合溶媒(5:5)〜(1:9)及び水/アセトン混合溶媒(9:1)〜(5:5)が好ましい。
【0011】
尚、本発明における抽出物とは、抽出液、該抽出液の希釈液、濃縮液、該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又は抽出エキスの何れも意味するものとする。上記抽出物の粗生成及び精製は常法によって行なえばよく、例えば吸着剤による吸着及び溶出、イオン交換によるクロマトなどを組み合わせて実施することができる。中でもスチレン−ジビニルベンゼン樹脂や陽イオン交換樹脂が好ましい。
【0012】
このようにして得られる抽出物は、経口可能な形態、例えば、粉末、散剤、細粒剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、トローチ剤、ムース剤などの剤型にすることができ、またそれ以外の菓子や清涼飲料など様々な使用形態の食品とすることができる。
【実施例1】
【0013】
(蓮の葉から抽出物の製造)
蓮の葉の乾燥物を刻んだもの5kgに15体積%の含水エタノール100Lを加えて、加熱し、30分間沸騰抽出を行った。抽出液を熱時ナイロン布で濾し、ろ液90kgを得た。これを減圧濃縮した後噴霧乾燥し、乾燥物600gを得た。
この乾燥物は前記非特許文献1の中で抗肥満作用があると証明されたものであるが、運動療法を併用しないとその効果は持続されないことが判っている。
【実施例2】
【0014】
蓮の葉の乾燥物を刻んだもの5kgに40体積%の含水エタノール100Lを加えて、時々攪拌しながら、室温で2日間抽出を行った。抽出液はナイロン布で濾し、ろ液88kgを得た。これを減圧濃縮して5kgにしたものに、水5.9kgと未変性エタノール5.7kgを加えて攪拌し、一晩静置した後、ろ紙(No.63)ろ過し、ろ液16.5kgを得た。ろ液16.5kgをスチレン−ジビニルベンゼン系樹脂充填剤(DIAION HP−20 商品名)16.5kgに負荷した後、水33L、10体積%エタノール33Lで洗浄後、95体積%エタノール33Lで溶出させ、溶出液は減圧濃縮し、凍結乾燥して乾燥物170gを得た。この操作を更に3回繰り返し、合計700gの乾燥物を得た。
【0015】
(抽出物の品質評価)
(1) 総アルカロイド定量法
試料2gを精密に量り、水15mL、濃塩酸0.3mL及びエーテル30mLを加えて激しく振り混ぜ、遠心分離後エーテル層を廃棄する。水層はアンモニア水1mLを加え、エーテル30mLを加えて激しく振り混ぜ、遠心分離後エーテル層を分取する。水層は更にエーテル30mLを加えて激しく振り混ぜ、遠心分離後エーテル層を分取する。水層は更にエーテル30mLを加えて激しく振り混ぜ、遠心分離後エーテル層を分取する。全エーテル層を合わせ、水浴上で溶媒を留去する。残留物にエタノール(95)5mL、水30mL、指示薬としてメチルレッドエタノール(95)溶液(1→1000)8滴及びメチレンブルー水溶液(1→1000)1滴を加えて、0.01mol/L塩酸で紅紫色を呈するまで滴定を行う。
0.01mol/L塩酸1mL=2.95mg×1/0.86(*1)
(C19212N:Nuciferine)
*1:平均添加回収率が86%であったため1/0.86を乗ずる。
(2) 総ポリフェノール定量法
茶のカテキン定量法として一般的試験方法(参考文献:中川到之ら、Agric.Biol.Chem.,28,160(1964))になっている方法に準じて試験を行った。
【0016】
実施例1及び2の乾燥物を上の定量法で評価を行った。結果を表1に示す。
【表1】

【実施例3】
【0017】
(実施例1,2の乾燥物の単回経口投与毒性試験)
実施例1,2の乾燥物について、マウスに経口投与した時の単回経口投与毒性試験(n=5)を実施した。その結果、最大経口可能投与量を投与しても死亡例はみられず、何れの乾燥物共にLD50値は4g/kg以上であった。また、全てのマウスについて解剖所見を実施したが、異常は見られなかった。この結果から、両乾燥物は、安全性の高い抽出物であると考えられた。
【実施例4】
【0018】
(UPC3mRNA発現に及ぼす影響)
マウス骨格筋由来C2C12細胞を低栄養培地(2%Horse serum含有DMEM high glucose培地)で4日間培養して筋管細胞に分化させる。実施例2の乾燥物、実施例2の乾燥物から得られた総アルカロイド(*2)、は0.2%DMSO入り血清Free DMEM high glucose培地で各濃度に希釈して試料含有培地とし、試料含有培地もしくは0.2%DMSO入り血清Free DMEM high glucose培地で前述の細胞を24時間培養した。培養後、回収した細胞から得たtotal RNAを用いてRT−PCR法によりUPC3mRNA発現に及ぼす作用を検討した。結果を図1に示す。
*2:実施例2の乾燥物から得た総アルカロイド;実施例2の乾燥物を水に懸濁させ、塩酸酸性とし、エーテル抽出した後の水層を、アンモニアアルカリ性とした後、エーテル抽出して得られた乾燥物。実施例2の乾燥物から6%の収率で得られた。
【0019】
図1から実施例2の乾燥物並びに総アルカロイドは濃度依存的にUPC3mRNA発現を上昇させていた。この結果から、実施例2の乾燥物のUPC3mRNA発現上昇に伴う熱産生亢進作用の活性成分は総アルカロイドにあることが判った。
【実施例5】
【0020】
(高脂肪食マウスの体重に及ぼす影響)
5週間高脂肪食(40%牛脂、9%グラニュー糖含有 CE−2)を負荷して肥満を惹起した雌性ICR系マウス(8週齢)に、5%の濃度になるよう実施例1及び2の乾燥物をそれぞれ加えた高脂肪食に切り替えた群(1群14匹)を作成し、1週間毎に5週間体重測定を行い変化をグラフ化した。対照群として、高脂肪食のみの群及び最初から普通食を自由摂取させた群をおいた。その結果を図2に示す。
【0021】
図2から、実施例1の乾燥物は、投与後2週間目までは体重増加抑制効果はみられたが、3週間目以降は体重増加に転じ、効果が持続しなかった。一方実施例2の乾燥物は体重増加を5週間にわたって抑制し、普通食群とほぼ同程度まで抑制することが分かった。実施例2の乾燥物投与群の摂食抑制はみられずむしろ他の群に比べて多かったので、食欲抑制による体重減少ではなかった。また全ての群について実験後解剖所見を行ったが、実施例2の乾燥物を投与した群は、内臓脂肪の付着量が高脂肪食のみの群に比べて明らかに少なかった。また、内臓諸器官に異常は認められなかった。したがって実施例2の乾燥物は、安全性が高く、食事・運動療法を要しない肥満防止剤であると考えられた。
【実施例6】
【0022】
(健常人による試験)
実施例2の乾燥エキスを1日1回1gずつ、12週間連続して服用してもらい、実験開始時、4,8及び12週間後にそれぞれ体重、体脂肪と血液生化学検査(総コレステロール、中性脂肪、HDL−コレステロール、β−リボタンパク)を行った。実験期間中は、通常の生活状態を維持してもらい、肥満防止につながる運動療法並びに食事療法は一切行っていない。その結果を表2〜表7に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

【0025】
【表4】

【0026】
【表5】

【0027】
【表6】

【0028】
【表7】

【0029】
表2〜表7および図3〜図6に示されるように、投与後12週においては、体重、体脂肪率、中性脂肪及びβ−リボタンパク質値が有意に抑制される結果となった。動物実験と同様に、実施例2の乾燥物は、健常人においても、運動・食事療法を必要とせず、肥満防止に効果のあることが証明された。
【0030】
蓮の葉などに含まれる総アルカロイドと総ポリフェノールは肥満防止作用の有効成分であることが証明された。即ち、総アルカロイドが骨格筋の熱産生タンパクの活動を亢進させ脂肪の燃焼を促し、総ポリフェノールが脂肪の吸収を阻害し、その結果体重増加を抑える機序が解明された。また一定量以上の総アルカロイドと総ポリフェノールを含有する抽出物は、食事・運動療法を必要としない肥満防止剤であることが証明された。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の抽出物は運動療法や食事療法を特に必要とせず、忙しい現代人にとってストレスを与えることなく肥満を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】乾燥物並びに総アルカロイド濃度とUPC3mRNA発現との関係を示すグラフ。
【図2】薬物(実施例1及び2の乾燥物)投与後の時間と体重との関係を示すグラフ。
【図3】表2の結果をグラフで示した図
【図4】表3の結果をグラフで示した図
【図5】表5の結果をグラフで示した図
【図6】表7の結果をグラフで示した図
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内の代謝機能を高め、脂肪の吸収を阻害しかつ代謝を上げることにより、肥満防止に有用な蓮植物体から得られた抽出物及び該抽出物の製造方法及び肥満防止剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
〔発明の背景〕
高カロリー食の蔓延及び運動不足により、肥満は世界的に広がりを見せている。肥満は、糖尿病、高血圧、動脈硬化などの生活習慣病につながるために解決すべき社会問題である。これまで、肥満を解決するために、運動療法、食事療法、食欲抑制剤を用いた薬剤治療が施されてきたが、肥満の増加を食い止められないことが証明するとおり、解決にはほど遠い状況である。運動療法は、忙しい現代人にとって継続することが困難なために、食事療法は、好きでもない食べ物を強要されるストレスから、食欲抑制剤は、強い副作用があるために、それぞれ効果を上げることができていない。
【0003】
〔従来の技術〕
桑葉やシソ抽出物が肥満防止作用を有することが見出されており(例えば特許文献1〜3参照)、またアカショウマ、サトウキビ、ホップ、月見草種子等に含有するポリフェノールに肥満防止作用があり(例えば特許文献4〜7参照)、更に黒米由来の抽出物が糖質吸収阻害作用を有することも見出されている(例えば特許文献8〜9参照)。
またハス科のハス属植物やスイレン科ハスの抽出物が肥満予防に用いられているが(例えば特許文献10〜11参照)、本発明者等は、蓮の葉の抽出物に肥満防止作用があり、脂肪吸収阻害作用を総ポリフェノールが持つことをすでに発見している(例えば非特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−281583号公報
【特許文献2】特開2004−217532号公報
【特許文献3】特開2000−102383号公報
【特許文献4】特開2003−342185号公報
【特許文献5】特開2003−137803号公報
【特許文献6】特開2001−321166号公報
【特許文献7】再表02−009734号公報
【特許文献8】特開2004−143130号公報
【特許文献9】特開2004−091462号公報
【特許文献10】特開2003−113100号公報
【特許文献11】特開平8−198769号公報
【非特許文献1】New Food Industry 2003 Vol.45 No.5 41−48
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしその作用機序については、総ポリフェノールに脂肪吸収阻害作用があることが判っているのみで、精査されてはいない。また単に蓮の葉の抽出物では、運動療法を併用しないとその効果が発揮できないことも述べている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、作用機序が明白であり、且つ運動療法を必要としない肥満防止剤を開発するため、鋭意研究を重ねた結果、蓮の葉などに含まれる総アルカロイドが熱産生を促し代謝を著しく上げることが明らかになり、総アルカロイドと総ポリフェノールを有効成分としてある一定量以上を投与すると目的とする肥満防止作用が得られることを見出し本発明を完成した。
即ち本発明は、副作用が少なく、運動や食事制限を必要としない肥満防止剤を提供することを目的とし、総アルカロイドを固形分中に1.0質量%以上含有し、且つ総ポリフェノールを固形分中に10質量%以上含有する蓮植物体から得られた抽出物を提供するものである。上記抽出物は蓮植物体を含水アルコールで抽出した抽出液を合成高分子系樹脂又はイオン交換樹脂に通液させることによって総アルカロイドと総ポリフェノールを高濃度に溶出させることによって製造される。蓮植物体としては蓮の葉を使用することが望ましい。更に本発明では上記抽出物を含有し、1日服用量中に総アルカロイドとして10mg以上且つ総ポリフェノールとして100mg以上含有する肥満防止剤が提供される。
【発明の効果】
【0007】
〔作用〕
蓮植物体に含まれるポリフェノールは澱粉分解酵素や脂肪分解酵素に対して阻害作用を有し、これらを生体に投与すると、澱粉や脂肪を摂取しても消化吸収を阻害し、大部分は分解されることなく、体外へ排出させる。蓮植物体から有効成分であるアルカロイドとポリフェノールを高濃度に溶出させた抽出物を生体に投与すると熱産生を促し、代謝を著しく上げることが明らかになった。
【0008】
〔効果〕
したがって本発明では、運動療法や食事療法をすることなく、肥満を有効に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明について詳細に説明する。
本発明の原料に使用される蓮(Nelumbo nucifera)植物体としては、蓮の種子(蓮肉又は蓮子)、胚芽(蓮子心又は蓮心)、果実(石蓮子)、花托(蓮房)、葉(荷葉)、葉柄又は花柄(蓮梗)、雄蕊(蓮須)などの1種又は2種以上を使用することが出来、中でも葉を用いることが好ましい。
【0010】
上記蓮植物体からの有効成分の抽出は常法によって行なえばよい。例えば上記蓮植物体の1種または2種以上を乾燥して刻み、又は粉末状にして抽出溶媒を加え、冷浸又は加熱することによって行うことが出来る。抽出溶媒としては、水、アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、ニトリル類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化脂肪族炭化水素類等の1種または2種以上の混合溶媒を使用することができ、中でも水/エタノール混合溶媒(7:3)〜(5:5)、水/メタノール混合溶媒(5:5)〜(1:9)及び水/アセトン混合溶媒(9:1)〜(5:5)が好ましい。
【0011】
尚、本発明における抽出物とは、抽出液、該抽出液の希釈液、濃縮液、該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又は抽出エキスの何れも意味するものとする。上記抽出物の粗生成及び精製は常法によって行なえばよく、例えば吸着剤による吸着及び溶出、イオン交換によるクロマトなどを組み合わせて実施することができる。中でもスチレン−ジビニルベンゼン樹脂や陽イオン交換樹脂が好ましい。
【0012】
このようにして得られる抽出物は、経口可能な形態、例えば、粉末、散剤、細粒剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、トローチ剤、ムース剤などの剤型にすることができ、またそれ以外の菓子や清涼飲料など様々な使用形態の食品とすることができる。
【実施例1】
【0013】
(蓮の葉から抽出物の製造)
蓮の葉の乾燥物を刻んだもの5kgに15体積%の含水エタノール100Lを加えて、加熱し、30分間沸騰抽出を行った。抽出液を熱時ナイロン布で濾し、ろ液90kgを得た。これを減圧濃縮した後噴霧乾燥し、乾燥物600gを得た。
この乾燥物は前記非特許文献1の中で抗肥満作用があると証明されたものであるが、運動療法を併用しないとその効果は持続されないことが判っている。
【実施例2】
【0014】
蓮の葉の乾燥物を刻んだもの5kgに40体積%の含水エタノール100Lを加えて、時々攪拌しながら、室温で2日間抽出を行った。抽出液はナイロン布で濾し、ろ液88kgを得た。これを減圧濃縮して5kgにしたものに、水5.9kgと未変性エタノール5.7kgを加えて攪拌し、一晩静置した後、ろ紙(No.63)ろ過し、ろ液16.5kgを得た。ろ液16.5kgをスチレン−ジビニルベンゼン系樹脂充填剤(DIAION HP−20 商品名)16.5kgに負荷した後、水33L、10体積%エタノール33Lで洗浄後、95体積%エタノール33Lで溶出させ、溶出液は減圧濃縮し、凍結乾燥して乾燥物170gを得た。この操作を更に3回繰り返し、合計700gの乾燥物を得た。
【0015】
(抽出物の品質評価)
(1) 総アルカロイド定量法
試料2gを精密に量り、水15mL、濃塩酸0.3mL及びエーテル30mLを加えて激しく振り混ぜ、遠心分離後エーテル層を廃棄する。水層はアンモニア水1mLを加え、エーテル30mLを加えて激しく振り混ぜ、遠心分離後エーテル層を分取する。水層は更にエーテル30mLを加えて激しく振り混ぜ、遠心分離後エーテル層を分取する。水層は更にエーテル30mLを加えて激しく振り混ぜ、遠心分離後エーテル層を分取する。全エーテル層を合わせ、水浴上で溶媒を留去する。残留物にエタノール(95)5mL、水30mL、指示薬としてメチルレッドエタノール(95)溶液(1→1000)8滴及びメチレンブルー水溶液(1→1000)1滴を加えて、0.01mol/L塩酸で紅紫色を呈するまで滴定を行う。
0.01mol/L塩酸1mL=2.95mg×1/0.86(*1)
(C19212N:Nuciferine)
*1:平均添加回収率が86%であったため1/0.86を乗ずる。
(2) 総ポリフェノール定量法
茶のカテキン定量法として一般的試験方法(参考文献:中川到之ら、Agric.Biol.Chem.,28,160(1964))になっている方法に準じて試験を行った。
【0016】
実施例1及び2の乾燥物を上の定量法で評価を行った。結果を表1に示す。
【表1】

【実施例3】
【0017】
(実施例1,2の乾燥物の単回経口投与毒性試験)
実施例1,2の乾燥物について、マウスに経口投与した時の単回経口投与毒性試験(n=5)を実施した。その結果、最大経口可能投与量を投与しても死亡例はみられず、何れの乾燥物共にLD50値は4g/kg以上であった。また、全てのマウスについて解剖所見を実施したが、異常は見られなかった。この結果から、両乾燥物は、安全性の高い抽出物であると考えられた。
【実施例4】
【0018】
(UCP3mRNA発現に及ぼす影響)
マウス骨格筋由来C2C12細胞を低栄養培地(2%Horse serum含有DMEM high glucose培地)で4日間培養して筋管細胞に分化させる。実施例2の乾燥物、実施例2の乾燥物から得られた総アルカロイド(*2)、は0.2%DMSO入り血清Free DMEM high glucose培地で各濃度に希釈して試料含有培地とし、試料含有培地もしくは0.2%DMSO入り血清Free DMEM high glucose培地で前述の細胞を24時間培養した。培養後、回収した細胞から得たtotal RNAを用いてRT−PCR法によりUCP3mRNA発現に及ぼす作用を検討した。結果を図1に示す。
*2:実施例2の乾燥物から得た総アルカロイド;実施例2の乾燥物を水に懸濁させ、塩酸酸性とし、エーテル抽出した後の水層を、アンモニアアルカリ性とした後、エーテル抽出して得られた乾燥物。実施例2の乾燥物から6%の収率で得られた。
【0019】
図1から実施例2の乾燥物並びに総アルカロイドは濃度依存的にUCP3mRNA発現を上昇させていた。この結果から、実施例2の乾燥物のUCP3mRNA発現上昇に伴う熱産生亢進作用の活性成分は総アルカロイドにあることが判った。
【実施例5】
【0020】
(高脂肪食マウスの体重に及ぼす影響)
5週間高脂肪食(40%牛脂、9%グラニュー糖含有 CE−2)を負荷して肥満を惹起した雌性ICR系マウス(8週齢)に、5%の濃度になるよう実施例1及び2の乾燥物をそれぞれ加えた高脂肪食に切り替えた群(1群14匹)を作成し、1週間毎に5週間体重測定を行い変化をグラフ化した。対照群として、高脂肪食のみの群及び最初から普通食を自由摂取させた群をおいた。その結果を図2に示す。
【0021】
図2から、実施例1の乾燥物は、投与後2週間目までは体重増加抑制効果はみられたが、3週間目以降は体重増加に転じ、効果が持続しなかった。一方実施例2の乾燥物は体重増加を5週間にわたって抑制し、普通食群とほぼ同程度まで抑制することが分かった。実施例2の乾燥物投与群の摂食抑制はみられずむしろ他の群に比べて多かったので、食欲抑制による体重減少ではなかった。また全ての群について実験後解剖所見を行ったが、実施例2の乾燥物を投与した群は、内臓脂肪の付着量が高脂肪食のみの群に比べて明らかに少なかった。また、内臓諸器官に異常は認められなかった。したがって実施例2の乾燥物は、安全性が高く、食事・運動療法を要しない肥満防止剤であると考えられた。
【実施例6】
【0022】
(健常人による試験)
実施例2の乾燥エキスを1日1回1gずつ、12週間連続して服用してもらい、実験開始時、4,8及び12週間後にそれぞれ体重、体脂肪と血液生化学検査(総コレステロール、中性脂肪、HDL−コレステロール、β−リボタンパク)を行った。実験期間中は、通常の生活状態を維持してもらい、肥満防止につながる運動療法並びに食事療法は一切行っていない。その結果を表2〜表7に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

【0025】
【表4】

【0026】
【表5】

【0027】
【表6】

【0028】
【表7】

【0029】
表2〜表7および図3〜図6に示されるように、投与後12週においては、体重、体脂肪率、中性脂肪及びβ−リボタンパク質値が有意に抑制される結果となった。動物実験と同様に、実施例2の乾燥物は、健常人においても、運動・食事療法を必要とせず、肥満防止に効果のあることが証明された。
【0030】
蓮の葉などに含まれる総アルカロイドと総ポリフェノールは肥満防止作用の有効成分であることが証明された。即ち、総アルカロイドが骨格筋の熱産生タンパクの活動を亢進させ脂肪の燃焼を促し、総ポリフェノールが脂肪の吸収を阻害し、その結果体重増加を抑える機序が解明された。また一定量以上の総アルカロイドと総ポリフェノールを含有する抽出物は、食事・運動療法を必要としない肥満防止剤であることが証明された。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の抽出物は運動療法や食事療法を特に必要とせず、忙しい現代人にとってストレスを与えることなく肥満を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】乾燥物並びに総アルカロイド濃度とUCP3mRNA発現との関係を示すグラフ。
【図2】薬物(実施例1及び2の乾燥物)投与後の時間と体重との関係を示すグラフ。
【図3】表2の結果をグラフで示した図
【図4】表3の結果をグラフで示した図
【図5】表5の結果をグラフで示した図
【図6】表7の結果をグラフで示した図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
総アルカロイドを固形分中に1.0質量%以上含有し、且つ総ポリフェノールを固形分中に10質量%以上含有することを特徴とする抽出物。
【請求項2】
蓮植物体を含水アルコールで抽出した抽出液を合成高分子系樹脂又はイオン交換樹脂に通液させることによって総アルカロイドと総ポリフェノールを高濃度に溶出させて得られる抽出物。
【請求項3】
上記蓮植物体は蓮の葉である請求項2に記載の抽出物。
【請求項4】
蓮植物体を含水アルコールで抽出した抽出液を合成高分子系樹脂又はイオン交換樹脂に通液させることによって総アルカロイドと総ポリフェノールを高濃度に溶出させることを特徴とする請求項2または3に記載の抽出物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3に記載の抽出物を含有し、1日服用量中に総アルカロイドとして10mg以上且つ総ポリフェノールとして100mg以上含有することを特徴とする肥満防止剤。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
総アルカロイドを固形分中に1.0質量%以上含有し、且つ総ポリフェノールを固形分中に10質量%以上含有することを特徴とする蓮植物体から得られた抽出物。
【請求項2】
蓮植物体を含水アルコールで抽出した抽出液を合成高分子系樹脂又はイオン交換樹脂に通液させることによって総アルカロイドと総ポリフェノールを高濃度に溶出させて得られる抽出物。
【請求項3】
上記蓮植物体は蓮の葉である請求項2に記載の抽出物。
【請求項4】
蓮植物体を含水アルコールで抽出した抽出液を合成高分子系樹脂又はイオン交換樹脂に通液させることによって総アルカロイドと総ポリフェノールを高濃度に溶出させることを特徴とする請求項2または3に記載の抽出物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の抽出物を含有し、1日服用量中に総アルカロイドとして10mg以上且つ総ポリフェノールとして100mg以上含有することを特徴とする肥満防止剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−131578(P2006−131578A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−324534(P2004−324534)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【特許番号】特許第3671190号(P3671190)
【特許公報発行日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(000187471)松浦薬業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】