薄切片搬送装置、薄切片掬い具及び薄切片の搬送方法
【課題】薄切片を液面に浮かべた際に気泡が混入するおそれが少なく、また、仮に気泡が混入した場合であっても、これらの気泡を速やかに除去する。
【解決手段】包埋ブロックBを薄切して作製された薄切片Sを、搬送方向Xに延びる縦糸28及び縦糸に対して直交する方向に延びる横糸を有する搬送ベルト23の上面に載置して液槽9まで搬送する。搬送ベルトの薄切片を載置する箇所23aは、縦糸のみから構成されている。
【解決手段】包埋ブロックBを薄切して作製された薄切片Sを、搬送方向Xに延びる縦糸28及び縦糸に対して直交する方向に延びる横糸を有する搬送ベルト23の上面に載置して液槽9まで搬送する。搬送ベルトの薄切片を載置する箇所23aは、縦糸のみから構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体や実験動物等から取り出した生体試料が包埋された包埋ブロックを薄切した薄切片を搬送する薄切片搬送装置、液槽の液面に浮かんだ薄切片を掬いとるための薄切片掬い具、及び薄切片搬送装置を用いた薄切片の搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、人体や実験動物等から取り出した生体試料を検査、観察する方法の1つとして、包埋剤によって生体試料を包埋した包埋ブロックを、厚さ数μmの極薄の薄切片に薄切した後に、包埋剤を溶した試料を観察する方法が知られている。この中で、薄切片を作製する工程として、試料台に包埋ブロックを固定し、カッターを所定の移動速度で移動させることで、厚さ3〜5μm程度の薄切片を作製し、このように作製した薄切片を細い糸などで引っ掛けて取出し、伸展工程、乾燥工程などの次工程に搬送するものがある。
従来、この作製された薄切片を取り出して、搬送する工程は、薄切片が極薄で、カール、しわ、破れなどの損傷が発生しやすいことから、手作業で行われてきた。一方、例えば、前臨床試験においては、一試験当たり数百個の包埋ブロックを作製し、さらに一包埋ブロック当たり数枚の薄切片を作製する。このため、作業者は膨大な枚数の薄切片を作製して、次工程に搬送する必要があり、これらの工程の自動化が試みられている。
【0003】
このような状況下において、例えば、クランプ機構によってクランプされた包埋ブロックを移動させ、固定してあるカッターにより包埋ブロックを薄切りして薄切片を作製し、この作製した薄切片を、ベルトにより水槽まで搬送して水槽中の水面に浮かせ、これによって薄切片を引き延ばすものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−273094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、ベルトによって搬送した薄切片を水面に浮かべる際に、薄切片と水面との間に気泡が混入してしまうことがある。水面に浮かんだ薄切片は、その後、スライドグラス上に載置され、湯伸展工程、乾燥工程を経て最終的にスライドグラスに密着することとなるが、スライドグラスと薄切片との間に気泡が混入すると、薄切片のスライドグラスへの密着性が低下し、後の染色工程で、はがれてしまうという問題が生じる。また、はがれないまでも、気泡混入部分が色の濃さの違いとなって現れてしまい、その後の検鏡時に支障が出てしまうという問題が生じる。
【0005】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、薄切片を液面に浮かべた際に気泡が混入するおそれが少なく、また、仮に気泡が混入した場合であっても、これらの気泡を速やかに除去することができる薄切片搬送装置、薄切片掬い具及び薄切片の搬送方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明に係る薄切片搬送装置は、包埋ブロックを薄切して作製された薄切片を、搬送方向に延びる縦方向の線状体及び該縦方向の線状体に対して直交する方向に延びる横方向の線状体を有する搬送ベルトの上面に載置して液槽まで搬送する薄切片搬送装置であって、
前記搬送ベルトの前記薄切片を載置する箇所の横方向の線状体密度が他の箇所の横方向の線状体密度に比べて、低くなっていることを特徴としている。
なお、ここでいう直交とは、正確な90度のみをさすのではなく、線状体同士を編むときに多少90度からずれて変化する角度変化も含んだものをさす。
また、ここでいう線状体とは、糸状に編まれたものや、フィルムを線状に切断したもの、釣糸のように射出機によって紡糸された樹脂製のモノフィラメント、あるいは金属製のモノフィラメントも含む、広く線形状をなしたものをさす。
【0007】
上記薄切片搬送装置によれば、搬送ベルトによって薄切片を液槽まで搬送するとき、搬送ベルトの搬送方向に延びる縦方向の線状体は先端側から液槽の液中に漸次侵入して当該縦方向の線状体に水が順次しみ込んだりなじんだりするため、基本的に空気が混入しにくい。これに対し、搬送ベルトの搬送方向に直交する横方向の線状体は全体が液槽の液中に一度に侵入するため、この横方向の線状体に液がしみ込んだりなじんだりする時間が極めて少なくなり、この結果、空気が混入しやすい。加えて、横方向の線状体が存することにより、該横方向の線状体と縦方向の線状体とが交差する部分で、縦方向の線状体や横方向の線状体自体に凹凸部分が生じることとなり、これら凹凸部分が生じることに起因して、空気が混入しやすくなる。
前記搬送ベルトの前記薄切片を載置する箇所では、横方向の線状体密度が他の箇所の横方向の線状体密度に比べて低くなっている。つまり、液中侵入時に空気が混入しやすい性質をもつ横方向の線状体が少なくなっているため、空気混入率を低下させることができ、結果的に、薄切片の下側に空気が混入するおそれが少なくなる。
【0008】
また、本発明に係る薄切片搬送装置は、包埋ブロックを薄切して作製された薄切片を搬送ベルトの上面に載置して、液槽まで搬送する薄切片搬送装置であって、前記搬送ベルトの前記薄切片を載置する箇所が、前記搬送ベルトの搬送方向に延びる複数の線状体のみからなっていることを特徴としている。
【0009】
上記薄切片搬送装置によれば、搬送ベルトの前記薄切片を載置する箇所が、搬送方向に延びる複数の縦方向の線状体のみからなっていて、該線状体に直交する方向に延びる横方向の線状体を有していないから、薄切片の下側に空気が混入するおそれがより一層少なくなる。
【0010】
また、本発明に係る薄切片搬送装置は、包埋ブロックを薄切して作製された薄切片を搬送ベルトの上面に載置して、液槽まで搬送する薄切片搬送装置であって、前記搬送ベルトが、1本の線状体を始点ローラと終点ローラとの間で搬送方向に延在させてかつ互いに平行となるよう間隔をあけて螺旋状に巻いて形成されたことを特徴としている。
ここでいう平行とは、狭義の意味の互いに180度をなす形のみをさすのではなく、線状体同士を間隔をあけて配置するとき、多少180度よりも広くあるいは狭くなったものを含むもの、例えば170度〜190度の範囲に配置されたものをさす。
【0011】
上記薄切片搬送装置によれば、搬送ベルトが横方向の線状体を有さず縦方向の線状体のみからなっているので、前述したとおり、薄切片の下側に空気が混入するおそれがより一層少なくなる。
また、搬送ベルトは基本的に1本の線状体を螺旋状に巻いて形成されているため、始点ローラと終点ローラと間の線状体はそれぞれつながっており、それら線状体どうしの間の張力調整は不要で、自動的に均一化される。
【0012】
また、本発明に係る薄切片搬送装置は、前記線状体が親水性を有することを特徴としている。
【0013】
上記薄切片搬送装置によれば、線状体に親水性を持たしているので、該線状体に載せて薄切片を液槽に搬送させて水に浮かばせるときに、線状体が水によりなじみ易くなり、薄切片の下側に空気が混入するおそれがさらに少なくなる。
【0014】
また、本発明に係る薄切片掬い具は、液槽の液面に浮かんだ薄切片を掬いとるため薄切片掬い具であって、互いに平行となるように前記薄切片の最大長よりも狭い間隔をあけて配置された複数の線状体を備えることを特徴としている。
【0015】
上記薄切片掬い具によれば、当該薄切片掬い具によって液槽の液面に浮かんだ薄切片を掬いとるが、このとき、薄切片の下側に気泡がある場合、これら気泡は掬いとった薄切片から除去される。その後、薄切片掬い具を押し下げることにより、気泡が除去された薄切片を再度液槽の液面に浮かべる。ここで、薄切片は最初液面に浮かぶ前はそれ自体がカールしたり、ところどころに凹凸があったりして、気泡が混入しやすい状況にあるが、一度液面に浮かべると、液の表面張力によって薄切片が伸展する。これにより、薄切片掬い具を押し下げて、再度薄切片を液面に浮かべるとき、薄切片の下側に気泡が混入しにくい状況となる。
また、この薄切片掬い具では、横方向の線状体を有さず縦方向の線状体のみ有しているので、液面から掬い取った薄切片の下側から気泡を速やかに開放することができ、これらの結果、薄切片を再度液槽の液面に浮かべる際に、気泡が混入するのを防止できる。
また、この薄切片掬い具では、複数の線状体を、薄切片の最大長よりも狭い間隔をあけて配置しており、このように薄切片の最大長よりも狭い間隔をあけて配置しておけば、薄切片を掬い取ることができる。
【0016】
本発明に係る薄切片掬い具は、前記線状体が、フレームの互いに対向する一対の線状体支持部間に、互いに平行となるよう間隔をあけて配置されることを特徴としている。
上記薄切片掬い具によれば、フレームの線状体支持部を利用して線状体を位置決めして支持しており、構成の簡素化と軽量化を実現できる。
【0017】
本発明に係る薄切片掬い具は、前記複数の線状体が、複数の板状部材を縦置きに並べたそれぞれの上縁部によって構成されることを特徴としている。
上記薄切片掬い具によれば、複数の縦置き板状部材の上縁部により線状体を構成しており、剛性の線状体が得られるため、耐久性の向上を図ることができる。
また、単なる線材によって線状体を構成する場合には、薄切片を掬ったときに、線材の下側で薄切片の一部が互いに密着して絡みつく現象が生じ、この場合、絡みついた薄切片を取り除く作業が大変面倒となる。これに対し、本発明に係る薄切片掬い具によれば、縦置き板状部材を用いるため、線状体の下側で薄切片同士が密着して絡みつくおそれはない。
【0018】
本発明に係る薄切片掬い具は、前記線状体を結ぶ仮想面が上側に凸となる凸状曲面を形成することを特徴としている。
上記薄切片掬い具によれば、当該薄切片掬い具によって液槽の液面に浮かんだ薄切片を掬いとるとき、仮想凸状曲面によって、薄切片の中央部分を強制的に伸展させることができる。
【0019】
本発明に係る薄切片掬い具は、前記線状体を結ぶ仮想面が上側に凹となる凹状曲面を形成することを特徴としている。
上記薄切片掬い具によれば、当該薄切片掬い具を押し下げて、一度掬い取った薄切片を再び液面に浮かべるときに、薄切片の中央部分から液面に浸すこととなり、薄切片の下側に空気を混入しにくくすることができる。
【0020】
また、本発明の薄膜片の搬送方法は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の薄切片搬送装置を用いた薄切片の搬送方法であって、前記薄切片搬送装置の搬送ベルトの上面に載置した薄切片を、該搬送ベルトを正回転させて液槽まで搬送させて該液槽の液面に浮かべる工程と、前記搬送ベルトを逆回転させて、液面に浮かべた前記薄切片を前記搬送ベルト上に載せて液面から掬い上げる工程と、前記搬送ベルトを正回転させて掬い上げた前記薄切片を液槽まで搬送させて再度前記液槽の液面に浮かべる工程と、を備えることを特徴としている。
【0021】
上記薄切片の搬送方法によれば、搬送ベルトによって薄切片を液槽まで搬送して液面に浮かべる際に、薄切片の下側にたとえ空気が混入した場合であっても、その後、搬送ベルを逆回転させて、液面から薄切片を掬い上げたときに、薄切片の下側にある気泡を開放させて除去することができる。その後、掬い上げた薄切片を、搬送ベルトを正回転させて液槽まで搬送するが、このとき、搬送ベルト自体は既に液に浸していて、液と充分になじんでいるため、空気が混入しにくい。つまり、薄切片の下側に混入した気泡を有効に除去できる。
【0022】
また、本発明の薄膜片の搬送方法は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の薄切片搬送装置を用いた薄切片の搬送方法であって、前記薄切片搬送装置の搬送ベルトの上面に載置した薄切片を、該搬送ベルトを正回転させて液槽まで搬送させて該液槽の液面に浮かべる工程と、互いに対向する一対の糸支持部を有するフレームおよび前記一対の線状体支持部間に互いに平行となるよう間隔をあけて掛け渡された線状体を備えた薄切片掬い具により、液面に浮かべた前記薄切片を液面から掬い上げる工程と、前記薄切片掬い具を押し下げることにより、該薄切片掬い具内にある掬い上げた前記薄切片を再度前記液槽の液面に浮かべる工程と、を備えることを特徴としている。
【0023】
上記薄切片の搬送方法によれば、一度、液面に浮かばせた薄切片を、掬い取って液面から引き上げた後、下降させて再度液面に浮かばせるので、前述と同様、薄切片の下側に混入する気泡を有効に除去できる。
また、薄切片を掬い上げ再度液面に浮かべるにあたり、搬送ベルトではなく、薄切片掬い具によって行うため、搬送ベルトによる薄切片の搬送工程と、薄切片掬い具による薄切片の掬い上げ及びその後の再度の液面浮かべる工程とを同時に並行して行うことができ、処理時間の短縮化を図ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、前記搬送ベルトの前記薄切片を載置する箇所で、横方向の線状体密度が他の箇所の横方向の線状体密度に比べて低くなっていたり、あるいは縦方向の線状体のみからなっているため、薄切片の下側に空気が混入するおそれを少なくすることができる。
また、一度液面に浮かべた薄切片を掬い上げて、その下側に混在している気泡を開放した後、再度、液面に浮かべることができるため、薄切片の下側に混入した気泡を有効に除去できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
<第1の実施形態>
図1及び図2は、この発明に係る薄切片搬送装置を備えた薄切片作製装置を示し、図1は薄切片作製装置の平面図、図2は薄切片作製装置の側面図である。これらの図に示す薄切片作製装置1は、生体試料Aが包埋された包埋ブロックBから厚さ3〜5μm程度の極薄の薄切片を作製し、薄切片に含まれる生体試料Aを検査、観察する過程において、自動的に、包埋ブロックBから薄切片を薄切し、次工程に搬送する装置である。生体試料Aは、例えば、人体や実験動物等から取り出した臓器などの組織であり、医療分野、製薬分野、食品分野、生物分野などで適時選択されるものである。また、包埋ブロックBは、上記のような生体試料Aを包埋剤B1によって包埋、すなわち周囲を覆い固めたものである。このような包埋ブロックBは、より詳しくは、以下のように作製されるものである。まず、上記の生体試料Aの塊をホルマリンに漬けて、生体試料Aを構成する蛋白質を固定する。そして、組織を固い状態にした後、適当な大きさに切断する。最後に、切断された生体試料Aの内部の水分を包埋剤B1に置き換えたものを、溶解した包埋剤B1の中に埋め込んで、固めることで作製される。ここで、包埋剤B1は、上記のように液状化と冷却固化が容易に可能とされるとともに、エタノールに浸漬することで溶解する材質であり、樹脂やパラフィンなどである。以下、薄切片作製装置1の構成について説明する。
【0026】
図1及び図2に示すように、薄切片作製装置1は、包埋ブロックBが載置されたカセットCを固定する試料台2と、包埋ブロックBを薄切するカッター3と、カッター3によって包埋ブロックBから薄切された薄切片Sを搬送する搬送手段(薄切片搬送装置)20とを備える。試料台2は、包埋ブロックBが載置されたカセットCを位置決めし、固定することが可能である。
また、試料台2の下方には、Xステージ4及びZステージ5を有する送り機構6が設けられ、試料台2に固定された包埋ブロックBを、薄切する送り方向(この方向は後述する薄切片の搬送方向と一致する)X及び高さ方向Zに位置調整するとともに、送り方向Xに所定の移動速度で送ることが可能である。また、薄切片作製装置1は、カッター3を支持する固定台7を備えるとともに、固定台7の上面7aにはホルダ8が設けられ、ホルダ8はカッター3の上面3aに当接することで、固定台7との間でカッター3を挟持して、固定している。カッター3は、先端部の切れ刃3bの向きを送り方向Xと直交するように固定されている。また、カッター3の後方には、水Wが満たされた液槽9が設けられている。
【0027】
搬送手段20は、カッター3の切れ刃3bの向きと略平行に、切れ刃3bと近接して設けられた方向切替部である方向切替ローラ21と、カッター3の後方に設けられた後部ローラ22と、方向切替ローラ21と後部ローラ22との間に巻回された無端状の搬送ベルト23とを備える。図1に示すように、方向切替ローラ21と後部ローラ22とは、それらの間に巻回される搬送ベルト23が送り機構6の送り方向Xと平面視略平行に走行可能となるように配置されている。また、図1及び図2に示すように、ホルダ8の上面には、一対の支持部材8aが上方に突出して設けられている。そして、方向切替ローラ21は、カッター3のホルダ8との間に搬送ベルト23を挿通可能な隙間を有して、支持部材8aに回転可能に軸着されている。また、後部ローラ22は、液槽9の内壁9aに回転可能に軸着されており、液槽9の水Wに浸漬された状態となっている。さらに、方向切替ローラ21と後部ローラ22との間には、方向切替ローラ21及び後部ローラ22よりも上方に位置し、フレーム24に回転可能に軸着された中間ローラ25、26が設けられている。なお、カッター3を支持する固定台7も前端部24aにおいて、フレーム24に固定されている。さらに、中間ローラ26には、駆動部であるモータ27が接続されている。
【0028】
すなわち、図1に示すように、搬送手段20の搬送ベルト23は、モータ27が駆動することによって、送り機構6の送り方向Xと平面視略平行となるように無限走行する。さらに、より詳しくは、図2に示すように、搬送ベルト23は、カッター3の後方の後部ローラ22からカッター3に向って走行し、中間ローラ25を経由して、方向切替ローラ21とホルダ8との間に挿通されて、カッター3の切れ刃3bに近接した位置まで誘導される。そして、方向切替ローラ21によって上方に折り返されるとともに、中間ローラ26を経由して後部ローラ22によってカッター3の後方へ巻き戻されることになる。なお、モータ27の回転数は、上記搬送ベルト23の走行速度が、送り機構6の送り方向Xへの移動速度と略等しくなるように設定されている。
ここで、搬送ベルト23は、図3に示すように、搬送方向Xに延びる縦糸(縦方向の線状体)28と縦糸28に対して直交する方向に延びる横糸(横方向の線状体)29を有する。そして、搬送ベルト23の薄切片Sを載置する箇所23aは、前記縦糸のみ28からなっていて横糸29を有していない。
また、縦糸28及び横糸29は、水をしみ込み易くするため、親水性を有するもの、例えばヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、カルボニル基を有する材料で作られたものが好ましい。
また、カッター3の前方の第1の折り返し軸22と対向する位置には、送風機30が設けられている。
【0029】
次に、この実施形態の薄切片搬送装置を備えた薄切片作製装置1の作用について説明する。図2に示すように、まず、送り機構6のZステージ5によって、包埋ブロックBの高さ方向Zの位置調整を行い、カッター3によって所定の厚さ(3〜5μm程度)に薄切できるように、カッター3と包埋ブロックBとの相対的位置を決定する。そして、送り機構6のXステージ4を駆動して、所定の移動速度で試料台2に固定された包埋ブロックBを送り方向Xに移動させるとともに、モータ27を駆動して搬送ベルト23を走行させる。カッター3は固定台7によって搬送手段20のフレーム24に固定されているので、カッター3及び搬送手段20に対して、包埋ブロックBが相対的に移動することになる。そして、図2に示すように、カッター3が包埋ブロックBを薄切することにより、薄切片Sが作製されていく。この際、包埋ブロックBの表面B2を押圧したりすることが無いので、包埋ブロックBの表面B2が変形してしまう恐れが無く、また、表面B2を観察しながら薄切することができる。このため、包埋ブロックBは、正確、かつ、均一な厚さで薄切されていく。そして、作製されていく薄切片Sは、カッター3によって上方に捲り上げられ、カッター3の後方へ移動する。
【0030】
次に、方向切替ローラ21は、カッター3の上方において、切れ刃3bに近接して設けられているので、薄切片Sがカッター3の後方に移動するのに伴って、薄切片Sの先端は、方向切替ローラ21で折り返されて送り方向Xへ巻き戻される搬送ベルト23に接触することになる。さらに、カッター3によって薄切片Sが作製されていくことで、作製された薄切片Sは、カッター3の後方へ走行する搬送ベルト23に載置された状態となる。
このとき、予め、薄切片を載置する箇所23aと定めた箇所に、薄切片Sが載置するよう、モータ27の回転と送り機構6によるXステージ4の駆動とを同期させる。
【0031】
ここで、送風機30によって、カッター3により薄切された薄切片Sに送風し、方向切替ローラ21で折り返された搬送ベルト23に薄切片Sを押し付ける。このため、カッター3により作製される薄切片Sは、より確実に搬送ベルト23に載置され、この搬送ベルト23によってカッター3の後方へ搬送される。特に、カッター3によって薄切する際に、カッター3の前方へカールしてしまう場合があるが、送風機30によって送風されることで、カールしてしまうのを防ぐことができる。
【0032】
そして、カッター3によって包埋ブロックBが完全に薄切されることで、薄切片Sは包埋ブロックBから切り離され、搬送ベルト23とともにカッター3の後方へ搬送される。なお、搬送ベルト23の走行速度は、送り機構6による移動速度、すなわちカッター3によって作製されていく薄切片Sの作製速度と略等しい速度である。このため、作製されていく薄切片Sは、搬送ベルト23の走行速度が早く、搬送ベルト23に引っ張られて切断されてしまうことが無い。あるいは、搬送ベルト23の走行速度が遅く、搬送ベルト23とカッター3の切れ刃3bとの間でしわになってしまうようなことが無い。
【0033】
そして、後部ローラ22が位置するところまで搬送されることで、搬送ベルト23に載置された薄切片Sは、搬送ベルト23とともに液槽9の水Wまで搬送され、搬送ベルト23から離脱し、水面に浮かべられることになる。
【0034】
搬送ベルト23によって薄切片Sを液槽9まで搬送するとき、搬送ベルト23の搬送方向に延びる縦糸28は先端側から液槽9の水中に漸次侵入して縦糸28の繊維に水がしみ込むため、基本的に空気が混入しにくい。これに対し、搬送ベルト23の搬送方向に直交する横糸29は液槽9の水中に横糸全体が一度に侵入するため、この横糸29の繊維に水Wがしみ込む時間が極めて少なくなり、この結果、空気が混入しやすい。加えて、横糸29が存することにより、縦糸28と横糸29とが交差する部分では、縦糸28や横糸29自体に凹凸部分が生じることとなり、これら凹凸部分が生じることに起因して、空気が混入しやすくなっている。
【0035】
ところで、搬送ベルト23の薄切片Sを載置する箇所23aでは、横糸29を有さず縦糸28のみからなっている。つまり、水中侵入時に空気が混入しやすい性質をもつ横糸29がないため、空気混入率を低下させることができ、結果的に、当該搬送ベルト23によって搬送される薄切片Sの下側に空気が混入するおそれを少なくすることができる。
また、薄切片Sは、液槽9において水Wに浮かべられることにより、水の表面張力が作用するので、薄切した際に生じてしまったしわ、反り、歪みなどの変形を修正することができる。
【0036】
このように薄切片Sを水面に浮かせて若干伸展させた後所定時間経過した時点で、図4に示すように、一旦停止させた搬送ベルト23を逆回転させる。このとき、搬送ベルト23の逆回転により液槽9内に水Wの流れが生じ、この水の流れによって、薄切片Sは搬送ベルト23側に引き寄せられ、ついにはその端部が搬送ベルト23上に乗り上がる。そして、搬送ベルト23のさらなる逆回転に伴い、薄切片S全体が、搬送ベルト23上に掬い上げられる。ここで、搬送ベルト23上に掬い上げられる箇所も縦糸28のみになっている。この結果、薄切片Sは、若干伸展していること、並びに、搬送ベルト23上に吸い上げられる箇所が縦糸28のみからなっていることから、たとえ、薄切片の下側に気泡が混入していたとしても、該気泡は速やかに開放される。
【0037】
その後、搬送ベルト23は、一旦停止し、所定時間(例えば、5秒〜20秒)経た時点で再度正回転される。この搬送ベルト23の正回転に伴い、掬い上げられた薄切片Sは、再度液槽9の水Wに侵入する。このとき、搬送ベルト23は既に水に浸していて、水と充分になじんでいるため、水中に侵入するときに気泡がより混入しにくくなっている。加えて、薄切片S自体も伸展されていて、気泡がより混入しにくくなっている。
これらの結果、薄切片Sの下側に気泡が混入しにくく、たとえ混入したとしても、該気泡を速やかに除去できる。
【0038】
<変形例>
なお、この第1の実施形態では、搬送ベルト23は、前記搬送ベルト23の前記薄切片を載置する箇所23aが、前記縦糸28のみからなっている構成としているが、これに限られることなく、搬送ベルト23の前記薄切片を載置する箇所23aの横糸29の密度が、他の箇所の横糸29密度に比べて、低くしてもよい。
【0039】
また、前述の第1の実施形態では、搬送ベルト23を構成する縦糸28のみによって、薄切片Sを載置する箇所23aを構成したが、これに限られることなく、図5に示すように、搬送ベルト23の一部に孔31をあけ、この孔31に、搬送ベルト23の搬送方向に延びるようにかつ互いに所定間隔をあけて平行に配置される縦糸(線状体)32を張り付けることで、薄切片Sを載置する箇所23aを構成してもよい。この場合、搬送ベルト23は布である必要は無く、フィルム状のものであってもあるいはメッシュ状のものであっても良く、その材質は問わない。
【0040】
また、この変形例における縦糸32及び前述の図1で示す縦糸28は、それぞれ糸により構成したが、薄切片Sを載置する箇所23aを構成する部材としては、必ずしも糸である必要は無く、例えば、フィルムを線状に切断したもの、釣糸のように射出機によって紡糸された樹脂製のモノフィラメント、あるいは金属製のモノフィラメントによって構成される線状体を用いても良い。なお、このことは、以下に説明する、第2、第3第実施形態においても同様である。
【0041】
<第2の実施形態>
図6及び図7は、この発明に係る薄切片搬送装置を備えた薄切片作製装置を示すもので、図6は平面図、図7は一部を断面した側面図である。この実施形態において、前述した実施形態で用いた部材と共通の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0042】
図6に示すように、この実施形態における薄切片作製装置40では、カッター3が搬送方向Xに直交する軸線Lに対して引き角θを有して設けられている。搬送手段(薄切片搬送装置)41は、方向切替ローラ(始点ローラ)21と、後部ローラ(終点ローラ)42と、それらローラ21、ローラ42との間に巻回された搬送ベルト43とを備えている。また、後部ローラ42は、図示せぬフレームに回転可能に軸着されており、搬送ベルト43を搬送方向Xに走行可能に支持している。また、搬送ベルト43は、1本の縦糸(線状体)44を方向切替ローラ21と後部ローラ42点との間で、途中中間ローラ25,26を介在させつつ、搬送方向に延在させてかつ互いに平行となるよう間隔をあけて螺旋状に巻いて形成されている。
【0043】
また、後部ローラ42の後方には、方向切替ローラ46及び方向切替ローラ46の上方に駆動用ローラ47が両アイドルローラ48、48に挟まれた状態で配置され、後部ローラに巻回される前記縦糸44は、その一部がこれらローラ46,47、48に巻回されて経由した後、再び後部ローラ42に戻されるように配置される。これら駆動用ローラ48及びアイドルローラ48は、それらの軸線が搬送方向Xと平行となるように配置される。そして、前記駆動用ローラ47が図示せぬモータにより駆動されることにより縦糸44に移送力を与え、移送力が与えられ縦糸44は、アイドルローラ48及び方向切替ローラ46を経て後部ローラ42に至り、後部ローラ42と方向切替ローラ21との間を複数回往復した後、方向切替ローラ46に至り、そこからアイドルローラ48を経て再び駆動用ローラ47に戻るよう移送する。
【0044】
このような構成の薄切片作製装置40においても、基本的に搬送ベルト43は、縦糸44のみからなっているので、薄切片Sを搬送して液槽9に侵入させる際に、空気の混入を防止することができる。また、搬送ベルト43を一本の縦糸44より構成しているので、方向切替ローラ21と後部ローラ42との間の複数の縦糸どうしの間の張力調整は不要で、自動的に均一化される。
なお、この実施形態においても、前述した第1の実施形態と同様に、搬送ベルト43を正回転、逆回転、正回転させることにより、1度水に浮かばせた薄切片Sを搬送ベルト43で掬い上げ再度水に浮かばせるようにしてもよい。
【0045】
<第3の実施形態>
図8及び図9は、この発明に係る薄切片搬送装置を備えた薄切片作製装置を示している。この実施形態において、前述した第1の実施形態で用いた部材と共通の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0046】
図8に示すように、この実施形態の薄切片作製装置50においては、液槽9の液面に浮かんだ薄切片Sを掬いとるため、搬送ベルト23とは別に、専用の薄切片掬い具51を用いている。この薄切片掬い具51は、図9に示すように、互いに対向する一対の糸支持部(線状体支持部)52a,52aを有するフレーム52と、一対の糸支持部52a,52a間に、互いに平行となるよう、掬いとる薄切片の直径よりも狭い間隔をあけて掛け渡された複数の縦糸(線状体)53とを備えている。また、54はハンドルを示す。
なお、この例では、平面視4角状のフレームを用いたが、フレームの形状はこれに限られることなく、円状や楕円、あるいは4以外の多角形状であっても良く、要は、互いに対向する一対の糸支持部52a,52aを有する形状であればよい。
【0047】
上記薄切片作製装置50による薄切片の搬送方法では、搬送ベルト23の上面に載置した薄切片Sを、搬送ベルト23を正回転させることにより、液槽9まで搬送させて水Wに浮かべる。ここまでは、前記第1の実施形態で説明した搬送方法と同様である。
ここでは、次に、薄切片掬い具51により、水Wに浮かんだ薄切片Sを水面から掬い上げる。このとき、薄切片Sの下側に気泡がある場合、これら気泡は掬いとった薄切片Sから除去される。その後、薄切片掬い具51を押し下げることにより、薄切片掬い具51内にある掬い上げた薄切片Sを再度液槽9の水に浮かべる。
【0048】
上述した薄切片の搬送方法によれば、一度、液面に浮かばせた薄切片Sを、掬い取って液面から引き上げた後、下降させて再度液面に浮かばせるので、第1の実施形態で説明したものと同様、薄切片Sの下側に混入する気泡を有効に除去できる。
また、薄切片Sを掬い上げ再度液面に浮かべるにあたり、搬送ベルト23ではなく、薄切片掬い具51によって行うため、搬送ベルト23による薄切片の搬送工程と、薄切片掬い具51による薄切片Sの掬い上げ及びその後の再度の液面浮かべる工程とを同時に並行して行うことができ、処理時間の短縮化を図ることができる。
前述した薄切片掬い具51では、複数の縦糸53を用いているが、これに限られることなく、前記第2の実施形態の搬送ベルト43の縦糸のように、一本の縦糸を螺旋状に巻いて成形したものであってもよい。
【0049】
図10は薄切片掬い具の他の例を示す斜視図である。
ここで示す薄切片掬い具61は、フレーム52内に、互いに平行となるようにかつ薄切片Sの最大長Laよりも狭い間隔をあけて複数の板状部材62が縦置きに並べられ、これら並べられた板状部材62の上縁部62aによって、薄切片を掬いとるための線状体が構成されるものである。また、各板状部材62の下端は共通の底板63によって互いに連結されている。
なお、複数の板状部材62のピッチPaが、上述したように、薄切片Sの最大長Laよりも狭い場合、当該薄切片掬い具61の薄切片Sに対する向きを考慮すれば、薄切片掬い具61によって薄切片Sを掬い取ることができる。しかしながら、実際の使い勝手を考えると、複数の板状部材62のピッチPaは、薄切片Sの最小長Lbよりも狭く設定するのが好ましい。
【0050】
具体的には、板状部材62のピッチPaは、0.2mm〜5mm程度とするのが好ましい。ピッチPaをこれよりも小さくすると、薄切片の下側に噛み込んだ空気が抜けにくくなり、また、これよりも大きくすると、薄切片を支持する部分が開きすぎて、掬いとるときに薄切片に過度の荷重が加わるおそれが出てくるからである。また、板状部材82の厚さTは10μm〜100μm程度が好ましい。厚さをこれよりも薄くすると、薄切片を支持する部分が狭くなりすぎて、掬いとるときに薄切片に過度の荷重が加わるおそれが出てきてしまい、また、これよりも厚くすると、薄切片の下側に噛み込んだ空気が抜けにくくなるからである。
この薄切片掬い具61によれば、複数の縦置きに並べられた板状部材62の上縁部62aにより線状体が構成されており、剛性の線状体が得られるため、耐久性に優れるものとなる。
【0051】
また、図9に示すような、単なる縦糸(線材)によって線状体を構成する場合には、薄切片を掬ったときに、線材の下側で薄切片の一部が互いに密着して絡みつく現象が生じ、この場合、絡みついた薄切片を取り除く作業が大変面倒となる。これに対し、この図に示す薄切片掬い具61によれば、縦置きの板状部材62を用いているため、線状体となる板状部材62の上縁部62aの下側で薄切片同士が密着して絡みつくおそれはなく、操作が容易になる。
【0052】
図11は薄切片掬い具の他の例を示す斜視図である。
ここで示す薄切片掬い具71が前記図10で示したものと異なるところは、各板状部材72の下端に連結用の共通底板を有しない点である。なお、各板状部材72は、長さ方向の両端がそれぞれフレーム52に固定されることによって、それ自体の位置が決定されている。この薄切片掬い具71によっても、図10で示した薄切片掬い具61と同様な効果を奏する。
【0053】
図12は薄切片掬い具の他の例を示す斜視図である。
ここで示す薄切片掬い具81が前記図11で示したものと異なるところは、各板状部材82の形状が、上方に向かうに従い漸次狭まる断面3角形状に形成されている点である。
このような構成にすることによって、線状体を構成する板状部材82の上縁部82aを許容される可能な範囲でできるだけ細く作製できることと、板状部材82の剛性を高く保持できることを同時に満足させることができる。
【0054】
図13は薄切片掬い具の他の例を示す斜視図である。
ここで示す薄切片掬い具91が前記図12で示したものと異なるところは、断面3角形状に形成された各板状部材92の底部92bが互いに連結されている点である。
このような構成にすることによって、板状部材92の剛性をより高めることができる。
【0055】
図14は薄切片掬い具の他の例を示す斜視図である。
ここで示す薄切片掬い具101が前記図10で示したものと異なるところは、線状体となる板状部材102の上縁部102aの形状である。
すなわち、前記図10で示した薄切片掬い具では、板状部材62の上縁部62aどうしを結んで得られる仮想面が単なる平面を形成しているが、ここで示す薄切片掬い具101では、板状部材102の上縁部102aどうしを結んで得られる仮想面Iaが、上側に凸となる凸状曲面を形成している。
このような構成にすることによって、当該薄切片掬い具101により液槽の液面に浮かんだ薄切片を掬いとるときに、薄切片がたとえ若干縮んでいる場合でも、板状部材102の上縁部102aどうしを結んで得られる仮想凸状曲面によって、この縮んだ薄切片の必要部分例えば中央部分を強制的に伸展させることができる。
【0056】
図15は薄切片掬い具の他の例を示す斜視図である。
ここで示す薄切片掬い具111では、板状部材112の上縁部112aどうしを結んで得られる仮想面Ibが、上側に凹となる凹状曲面を形成している。
このような構成にすることによって、当該薄切片掬い具111を押し下げて、一度掬い取った薄切片を再び液面に浮かべるときに、薄切片の例えば中央部分から液面に浸すことができ、これにより、薄切片の下側に空気を混入しにくくすることができる。
【0057】
図16は薄切片掬い具のさらに他の例を示す斜視図である。
ここで示す薄切片掬い具121が前記図10で示したものと異なるところは、互いに平行となるように間隔をあけて配置される複数の板状部材122のピッチである。
すなわち、前記図10で示した薄切片掬い具では、複数の板状部材62のピッチが、中央部と端部とに拘わらず一様に設定されているが、ここで示す薄切片掬い具121では、複数の板状部材122のピッチが、中央が最も広くそこから端部に向かうに従い漸次狭くなるように設定されている。
【0058】
このように薄切片を掬いとるときに最も空気の混入を防ぎたい部分に対応する、薄切片掬い具121の中央部に存する板状部材122の数を少なくし、空気の混入よりも確実な支持力を得たい部分である、薄切片掬い具121の端部に存する板状部材122の数を多くすることによって、薄切片を液面から掬う場合に、薄切片に対し場所場所に対応した最適な支持が行える。
【0059】
なお、前述した図9〜図16に示す薄切片掬い具は、すべてフレーム52を備えるが、それらのうち図10、図13、図14、図15に示す薄切片掬い具は、板状部材の下端がそれぞれ連結されているため、フレームは必ずしも必要な部材ではなく、フレームをなくするとともに、それら連結された板状部材に直接ハンドル54を取り付ける構成にしても良い。
【0060】
また、図14に示す板状部材102の上縁部どうしを結んで得られる仮想面Iaを凸状曲面に形成するもの、図15に示す板状部材112の上縁部どうしを結んで得られる仮想面Ibを凹状曲面に形成するもの、あるいは図16に示す板状部材122のピッチを中央部と端部で異ならせるものについては、これらの図に示すように、断面矩形状の板状部材に限られることなく、断面3角形状の板状部材を備えるものにも適用可能であり、さらに、図9で示す線材によって線状体を構成する場合にも適用可能である。
また、これらの薄切片掬い具は、人手によって直接操作される場合のほか、例えばロボットアームの先端に取り付けられて、コントローラにより自動的に操作される場合にも利用可能である。
【0061】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0062】
送り機構6による移動速度とベルトの走行速度は略等しく設定されているとした、搬送される薄切片Sを損傷しないように搬送ベルトに載置して搬送させる範囲において、これらの速度は相互に調整されるものである。
また、液槽9には水Wが満たされているとしたが、液槽9に満たす液体としては、水の他に水を主体とする液体でも良く、また、薄切片Sの包埋剤B1を溶解しない性質の液体であれば種々選択可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】この発明の第1の実施形態の薄切片搬送装置を備えた薄切片作製装置の平面図である。
【図2】この発明の第1の実施形態の薄切片搬送装置を備えた薄切片作製装置の断面図である。
【図3】この発明の第1の実施形態で用いた搬送ベルトの要部平面図である。
【図4】この発明の第1の実施形態の作用説明図である。
【図5】この発明の第1の実施形態の変形例を示す搬送ベルトの平面図である。
【図6】この発明の第2の実施形態の薄切片搬送装置を備えた薄切片作製装置の平面図である。
【図7】この発明の第2の実施形態の薄切片搬送装置を備えた薄切片作製装置の側面図である。
【図8】この発明の第3の実施形態の薄切片搬送装置を備えた薄切片作製装置の断面図である。
【図9】この発明の第3の実施形態で用いた薄切片掬い具の斜視図である。
【図10】この発明の第3の実施形態で用いた他の薄切片掬い具の斜視図である。
【図11】この発明の第3の実施形態で用いた他の薄切片掬い具の斜視図である。
【図12】この発明の第3の実施形態で用いた他の薄切片掬い具の斜視図である。
【図13】この発明の第3の実施形態で用いた他の薄切片掬い具の斜視図である。
【図14】この発明の第3の実施形態で用いた他の薄切片掬い具の斜視図である。
【図15】この発明の第3の実施形態で用いた他の薄切片掬い具の斜視図である。
【図16】この発明の第3の実施形態で用いたさらに他の薄切片掬い具の斜視図である。
【符号の説明】
【0064】
1、40、50 薄切片作製装置 2 試料台 3 カッター9 水槽(液槽) 20、41 搬送手段(薄切片搬送装置) 21 方向切替ローラ(始点ローラ) 42 後部ローラ(終点ローラ) 23、43 搬送ベルト 28、32、44、53 縦糸(線状体) 29 横糸(線状体) 51、61,71,81,91,101,111,121 薄切片掬い具 52 フレーム 52a、52b 糸支持部(線状体支持部) 62、72、82、92、102,112,122 板状部材 62a、82a、102a、112a 上縁部(線状体) A 生体試料 B 包埋ブロック B1 包埋剤
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体や実験動物等から取り出した生体試料が包埋された包埋ブロックを薄切した薄切片を搬送する薄切片搬送装置、液槽の液面に浮かんだ薄切片を掬いとるための薄切片掬い具、及び薄切片搬送装置を用いた薄切片の搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、人体や実験動物等から取り出した生体試料を検査、観察する方法の1つとして、包埋剤によって生体試料を包埋した包埋ブロックを、厚さ数μmの極薄の薄切片に薄切した後に、包埋剤を溶した試料を観察する方法が知られている。この中で、薄切片を作製する工程として、試料台に包埋ブロックを固定し、カッターを所定の移動速度で移動させることで、厚さ3〜5μm程度の薄切片を作製し、このように作製した薄切片を細い糸などで引っ掛けて取出し、伸展工程、乾燥工程などの次工程に搬送するものがある。
従来、この作製された薄切片を取り出して、搬送する工程は、薄切片が極薄で、カール、しわ、破れなどの損傷が発生しやすいことから、手作業で行われてきた。一方、例えば、前臨床試験においては、一試験当たり数百個の包埋ブロックを作製し、さらに一包埋ブロック当たり数枚の薄切片を作製する。このため、作業者は膨大な枚数の薄切片を作製して、次工程に搬送する必要があり、これらの工程の自動化が試みられている。
【0003】
このような状況下において、例えば、クランプ機構によってクランプされた包埋ブロックを移動させ、固定してあるカッターにより包埋ブロックを薄切りして薄切片を作製し、この作製した薄切片を、ベルトにより水槽まで搬送して水槽中の水面に浮かせ、これによって薄切片を引き延ばすものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−273094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、ベルトによって搬送した薄切片を水面に浮かべる際に、薄切片と水面との間に気泡が混入してしまうことがある。水面に浮かんだ薄切片は、その後、スライドグラス上に載置され、湯伸展工程、乾燥工程を経て最終的にスライドグラスに密着することとなるが、スライドグラスと薄切片との間に気泡が混入すると、薄切片のスライドグラスへの密着性が低下し、後の染色工程で、はがれてしまうという問題が生じる。また、はがれないまでも、気泡混入部分が色の濃さの違いとなって現れてしまい、その後の検鏡時に支障が出てしまうという問題が生じる。
【0005】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、薄切片を液面に浮かべた際に気泡が混入するおそれが少なく、また、仮に気泡が混入した場合であっても、これらの気泡を速やかに除去することができる薄切片搬送装置、薄切片掬い具及び薄切片の搬送方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明に係る薄切片搬送装置は、包埋ブロックを薄切して作製された薄切片を、搬送方向に延びる縦方向の線状体及び該縦方向の線状体に対して直交する方向に延びる横方向の線状体を有する搬送ベルトの上面に載置して液槽まで搬送する薄切片搬送装置であって、
前記搬送ベルトの前記薄切片を載置する箇所の横方向の線状体密度が他の箇所の横方向の線状体密度に比べて、低くなっていることを特徴としている。
なお、ここでいう直交とは、正確な90度のみをさすのではなく、線状体同士を編むときに多少90度からずれて変化する角度変化も含んだものをさす。
また、ここでいう線状体とは、糸状に編まれたものや、フィルムを線状に切断したもの、釣糸のように射出機によって紡糸された樹脂製のモノフィラメント、あるいは金属製のモノフィラメントも含む、広く線形状をなしたものをさす。
【0007】
上記薄切片搬送装置によれば、搬送ベルトによって薄切片を液槽まで搬送するとき、搬送ベルトの搬送方向に延びる縦方向の線状体は先端側から液槽の液中に漸次侵入して当該縦方向の線状体に水が順次しみ込んだりなじんだりするため、基本的に空気が混入しにくい。これに対し、搬送ベルトの搬送方向に直交する横方向の線状体は全体が液槽の液中に一度に侵入するため、この横方向の線状体に液がしみ込んだりなじんだりする時間が極めて少なくなり、この結果、空気が混入しやすい。加えて、横方向の線状体が存することにより、該横方向の線状体と縦方向の線状体とが交差する部分で、縦方向の線状体や横方向の線状体自体に凹凸部分が生じることとなり、これら凹凸部分が生じることに起因して、空気が混入しやすくなる。
前記搬送ベルトの前記薄切片を載置する箇所では、横方向の線状体密度が他の箇所の横方向の線状体密度に比べて低くなっている。つまり、液中侵入時に空気が混入しやすい性質をもつ横方向の線状体が少なくなっているため、空気混入率を低下させることができ、結果的に、薄切片の下側に空気が混入するおそれが少なくなる。
【0008】
また、本発明に係る薄切片搬送装置は、包埋ブロックを薄切して作製された薄切片を搬送ベルトの上面に載置して、液槽まで搬送する薄切片搬送装置であって、前記搬送ベルトの前記薄切片を載置する箇所が、前記搬送ベルトの搬送方向に延びる複数の線状体のみからなっていることを特徴としている。
【0009】
上記薄切片搬送装置によれば、搬送ベルトの前記薄切片を載置する箇所が、搬送方向に延びる複数の縦方向の線状体のみからなっていて、該線状体に直交する方向に延びる横方向の線状体を有していないから、薄切片の下側に空気が混入するおそれがより一層少なくなる。
【0010】
また、本発明に係る薄切片搬送装置は、包埋ブロックを薄切して作製された薄切片を搬送ベルトの上面に載置して、液槽まで搬送する薄切片搬送装置であって、前記搬送ベルトが、1本の線状体を始点ローラと終点ローラとの間で搬送方向に延在させてかつ互いに平行となるよう間隔をあけて螺旋状に巻いて形成されたことを特徴としている。
ここでいう平行とは、狭義の意味の互いに180度をなす形のみをさすのではなく、線状体同士を間隔をあけて配置するとき、多少180度よりも広くあるいは狭くなったものを含むもの、例えば170度〜190度の範囲に配置されたものをさす。
【0011】
上記薄切片搬送装置によれば、搬送ベルトが横方向の線状体を有さず縦方向の線状体のみからなっているので、前述したとおり、薄切片の下側に空気が混入するおそれがより一層少なくなる。
また、搬送ベルトは基本的に1本の線状体を螺旋状に巻いて形成されているため、始点ローラと終点ローラと間の線状体はそれぞれつながっており、それら線状体どうしの間の張力調整は不要で、自動的に均一化される。
【0012】
また、本発明に係る薄切片搬送装置は、前記線状体が親水性を有することを特徴としている。
【0013】
上記薄切片搬送装置によれば、線状体に親水性を持たしているので、該線状体に載せて薄切片を液槽に搬送させて水に浮かばせるときに、線状体が水によりなじみ易くなり、薄切片の下側に空気が混入するおそれがさらに少なくなる。
【0014】
また、本発明に係る薄切片掬い具は、液槽の液面に浮かんだ薄切片を掬いとるため薄切片掬い具であって、互いに平行となるように前記薄切片の最大長よりも狭い間隔をあけて配置された複数の線状体を備えることを特徴としている。
【0015】
上記薄切片掬い具によれば、当該薄切片掬い具によって液槽の液面に浮かんだ薄切片を掬いとるが、このとき、薄切片の下側に気泡がある場合、これら気泡は掬いとった薄切片から除去される。その後、薄切片掬い具を押し下げることにより、気泡が除去された薄切片を再度液槽の液面に浮かべる。ここで、薄切片は最初液面に浮かぶ前はそれ自体がカールしたり、ところどころに凹凸があったりして、気泡が混入しやすい状況にあるが、一度液面に浮かべると、液の表面張力によって薄切片が伸展する。これにより、薄切片掬い具を押し下げて、再度薄切片を液面に浮かべるとき、薄切片の下側に気泡が混入しにくい状況となる。
また、この薄切片掬い具では、横方向の線状体を有さず縦方向の線状体のみ有しているので、液面から掬い取った薄切片の下側から気泡を速やかに開放することができ、これらの結果、薄切片を再度液槽の液面に浮かべる際に、気泡が混入するのを防止できる。
また、この薄切片掬い具では、複数の線状体を、薄切片の最大長よりも狭い間隔をあけて配置しており、このように薄切片の最大長よりも狭い間隔をあけて配置しておけば、薄切片を掬い取ることができる。
【0016】
本発明に係る薄切片掬い具は、前記線状体が、フレームの互いに対向する一対の線状体支持部間に、互いに平行となるよう間隔をあけて配置されることを特徴としている。
上記薄切片掬い具によれば、フレームの線状体支持部を利用して線状体を位置決めして支持しており、構成の簡素化と軽量化を実現できる。
【0017】
本発明に係る薄切片掬い具は、前記複数の線状体が、複数の板状部材を縦置きに並べたそれぞれの上縁部によって構成されることを特徴としている。
上記薄切片掬い具によれば、複数の縦置き板状部材の上縁部により線状体を構成しており、剛性の線状体が得られるため、耐久性の向上を図ることができる。
また、単なる線材によって線状体を構成する場合には、薄切片を掬ったときに、線材の下側で薄切片の一部が互いに密着して絡みつく現象が生じ、この場合、絡みついた薄切片を取り除く作業が大変面倒となる。これに対し、本発明に係る薄切片掬い具によれば、縦置き板状部材を用いるため、線状体の下側で薄切片同士が密着して絡みつくおそれはない。
【0018】
本発明に係る薄切片掬い具は、前記線状体を結ぶ仮想面が上側に凸となる凸状曲面を形成することを特徴としている。
上記薄切片掬い具によれば、当該薄切片掬い具によって液槽の液面に浮かんだ薄切片を掬いとるとき、仮想凸状曲面によって、薄切片の中央部分を強制的に伸展させることができる。
【0019】
本発明に係る薄切片掬い具は、前記線状体を結ぶ仮想面が上側に凹となる凹状曲面を形成することを特徴としている。
上記薄切片掬い具によれば、当該薄切片掬い具を押し下げて、一度掬い取った薄切片を再び液面に浮かべるときに、薄切片の中央部分から液面に浸すこととなり、薄切片の下側に空気を混入しにくくすることができる。
【0020】
また、本発明の薄膜片の搬送方法は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の薄切片搬送装置を用いた薄切片の搬送方法であって、前記薄切片搬送装置の搬送ベルトの上面に載置した薄切片を、該搬送ベルトを正回転させて液槽まで搬送させて該液槽の液面に浮かべる工程と、前記搬送ベルトを逆回転させて、液面に浮かべた前記薄切片を前記搬送ベルト上に載せて液面から掬い上げる工程と、前記搬送ベルトを正回転させて掬い上げた前記薄切片を液槽まで搬送させて再度前記液槽の液面に浮かべる工程と、を備えることを特徴としている。
【0021】
上記薄切片の搬送方法によれば、搬送ベルトによって薄切片を液槽まで搬送して液面に浮かべる際に、薄切片の下側にたとえ空気が混入した場合であっても、その後、搬送ベルを逆回転させて、液面から薄切片を掬い上げたときに、薄切片の下側にある気泡を開放させて除去することができる。その後、掬い上げた薄切片を、搬送ベルトを正回転させて液槽まで搬送するが、このとき、搬送ベルト自体は既に液に浸していて、液と充分になじんでいるため、空気が混入しにくい。つまり、薄切片の下側に混入した気泡を有効に除去できる。
【0022】
また、本発明の薄膜片の搬送方法は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の薄切片搬送装置を用いた薄切片の搬送方法であって、前記薄切片搬送装置の搬送ベルトの上面に載置した薄切片を、該搬送ベルトを正回転させて液槽まで搬送させて該液槽の液面に浮かべる工程と、互いに対向する一対の糸支持部を有するフレームおよび前記一対の線状体支持部間に互いに平行となるよう間隔をあけて掛け渡された線状体を備えた薄切片掬い具により、液面に浮かべた前記薄切片を液面から掬い上げる工程と、前記薄切片掬い具を押し下げることにより、該薄切片掬い具内にある掬い上げた前記薄切片を再度前記液槽の液面に浮かべる工程と、を備えることを特徴としている。
【0023】
上記薄切片の搬送方法によれば、一度、液面に浮かばせた薄切片を、掬い取って液面から引き上げた後、下降させて再度液面に浮かばせるので、前述と同様、薄切片の下側に混入する気泡を有効に除去できる。
また、薄切片を掬い上げ再度液面に浮かべるにあたり、搬送ベルトではなく、薄切片掬い具によって行うため、搬送ベルトによる薄切片の搬送工程と、薄切片掬い具による薄切片の掬い上げ及びその後の再度の液面浮かべる工程とを同時に並行して行うことができ、処理時間の短縮化を図ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、前記搬送ベルトの前記薄切片を載置する箇所で、横方向の線状体密度が他の箇所の横方向の線状体密度に比べて低くなっていたり、あるいは縦方向の線状体のみからなっているため、薄切片の下側に空気が混入するおそれを少なくすることができる。
また、一度液面に浮かべた薄切片を掬い上げて、その下側に混在している気泡を開放した後、再度、液面に浮かべることができるため、薄切片の下側に混入した気泡を有効に除去できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
<第1の実施形態>
図1及び図2は、この発明に係る薄切片搬送装置を備えた薄切片作製装置を示し、図1は薄切片作製装置の平面図、図2は薄切片作製装置の側面図である。これらの図に示す薄切片作製装置1は、生体試料Aが包埋された包埋ブロックBから厚さ3〜5μm程度の極薄の薄切片を作製し、薄切片に含まれる生体試料Aを検査、観察する過程において、自動的に、包埋ブロックBから薄切片を薄切し、次工程に搬送する装置である。生体試料Aは、例えば、人体や実験動物等から取り出した臓器などの組織であり、医療分野、製薬分野、食品分野、生物分野などで適時選択されるものである。また、包埋ブロックBは、上記のような生体試料Aを包埋剤B1によって包埋、すなわち周囲を覆い固めたものである。このような包埋ブロックBは、より詳しくは、以下のように作製されるものである。まず、上記の生体試料Aの塊をホルマリンに漬けて、生体試料Aを構成する蛋白質を固定する。そして、組織を固い状態にした後、適当な大きさに切断する。最後に、切断された生体試料Aの内部の水分を包埋剤B1に置き換えたものを、溶解した包埋剤B1の中に埋め込んで、固めることで作製される。ここで、包埋剤B1は、上記のように液状化と冷却固化が容易に可能とされるとともに、エタノールに浸漬することで溶解する材質であり、樹脂やパラフィンなどである。以下、薄切片作製装置1の構成について説明する。
【0026】
図1及び図2に示すように、薄切片作製装置1は、包埋ブロックBが載置されたカセットCを固定する試料台2と、包埋ブロックBを薄切するカッター3と、カッター3によって包埋ブロックBから薄切された薄切片Sを搬送する搬送手段(薄切片搬送装置)20とを備える。試料台2は、包埋ブロックBが載置されたカセットCを位置決めし、固定することが可能である。
また、試料台2の下方には、Xステージ4及びZステージ5を有する送り機構6が設けられ、試料台2に固定された包埋ブロックBを、薄切する送り方向(この方向は後述する薄切片の搬送方向と一致する)X及び高さ方向Zに位置調整するとともに、送り方向Xに所定の移動速度で送ることが可能である。また、薄切片作製装置1は、カッター3を支持する固定台7を備えるとともに、固定台7の上面7aにはホルダ8が設けられ、ホルダ8はカッター3の上面3aに当接することで、固定台7との間でカッター3を挟持して、固定している。カッター3は、先端部の切れ刃3bの向きを送り方向Xと直交するように固定されている。また、カッター3の後方には、水Wが満たされた液槽9が設けられている。
【0027】
搬送手段20は、カッター3の切れ刃3bの向きと略平行に、切れ刃3bと近接して設けられた方向切替部である方向切替ローラ21と、カッター3の後方に設けられた後部ローラ22と、方向切替ローラ21と後部ローラ22との間に巻回された無端状の搬送ベルト23とを備える。図1に示すように、方向切替ローラ21と後部ローラ22とは、それらの間に巻回される搬送ベルト23が送り機構6の送り方向Xと平面視略平行に走行可能となるように配置されている。また、図1及び図2に示すように、ホルダ8の上面には、一対の支持部材8aが上方に突出して設けられている。そして、方向切替ローラ21は、カッター3のホルダ8との間に搬送ベルト23を挿通可能な隙間を有して、支持部材8aに回転可能に軸着されている。また、後部ローラ22は、液槽9の内壁9aに回転可能に軸着されており、液槽9の水Wに浸漬された状態となっている。さらに、方向切替ローラ21と後部ローラ22との間には、方向切替ローラ21及び後部ローラ22よりも上方に位置し、フレーム24に回転可能に軸着された中間ローラ25、26が設けられている。なお、カッター3を支持する固定台7も前端部24aにおいて、フレーム24に固定されている。さらに、中間ローラ26には、駆動部であるモータ27が接続されている。
【0028】
すなわち、図1に示すように、搬送手段20の搬送ベルト23は、モータ27が駆動することによって、送り機構6の送り方向Xと平面視略平行となるように無限走行する。さらに、より詳しくは、図2に示すように、搬送ベルト23は、カッター3の後方の後部ローラ22からカッター3に向って走行し、中間ローラ25を経由して、方向切替ローラ21とホルダ8との間に挿通されて、カッター3の切れ刃3bに近接した位置まで誘導される。そして、方向切替ローラ21によって上方に折り返されるとともに、中間ローラ26を経由して後部ローラ22によってカッター3の後方へ巻き戻されることになる。なお、モータ27の回転数は、上記搬送ベルト23の走行速度が、送り機構6の送り方向Xへの移動速度と略等しくなるように設定されている。
ここで、搬送ベルト23は、図3に示すように、搬送方向Xに延びる縦糸(縦方向の線状体)28と縦糸28に対して直交する方向に延びる横糸(横方向の線状体)29を有する。そして、搬送ベルト23の薄切片Sを載置する箇所23aは、前記縦糸のみ28からなっていて横糸29を有していない。
また、縦糸28及び横糸29は、水をしみ込み易くするため、親水性を有するもの、例えばヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、カルボニル基を有する材料で作られたものが好ましい。
また、カッター3の前方の第1の折り返し軸22と対向する位置には、送風機30が設けられている。
【0029】
次に、この実施形態の薄切片搬送装置を備えた薄切片作製装置1の作用について説明する。図2に示すように、まず、送り機構6のZステージ5によって、包埋ブロックBの高さ方向Zの位置調整を行い、カッター3によって所定の厚さ(3〜5μm程度)に薄切できるように、カッター3と包埋ブロックBとの相対的位置を決定する。そして、送り機構6のXステージ4を駆動して、所定の移動速度で試料台2に固定された包埋ブロックBを送り方向Xに移動させるとともに、モータ27を駆動して搬送ベルト23を走行させる。カッター3は固定台7によって搬送手段20のフレーム24に固定されているので、カッター3及び搬送手段20に対して、包埋ブロックBが相対的に移動することになる。そして、図2に示すように、カッター3が包埋ブロックBを薄切することにより、薄切片Sが作製されていく。この際、包埋ブロックBの表面B2を押圧したりすることが無いので、包埋ブロックBの表面B2が変形してしまう恐れが無く、また、表面B2を観察しながら薄切することができる。このため、包埋ブロックBは、正確、かつ、均一な厚さで薄切されていく。そして、作製されていく薄切片Sは、カッター3によって上方に捲り上げられ、カッター3の後方へ移動する。
【0030】
次に、方向切替ローラ21は、カッター3の上方において、切れ刃3bに近接して設けられているので、薄切片Sがカッター3の後方に移動するのに伴って、薄切片Sの先端は、方向切替ローラ21で折り返されて送り方向Xへ巻き戻される搬送ベルト23に接触することになる。さらに、カッター3によって薄切片Sが作製されていくことで、作製された薄切片Sは、カッター3の後方へ走行する搬送ベルト23に載置された状態となる。
このとき、予め、薄切片を載置する箇所23aと定めた箇所に、薄切片Sが載置するよう、モータ27の回転と送り機構6によるXステージ4の駆動とを同期させる。
【0031】
ここで、送風機30によって、カッター3により薄切された薄切片Sに送風し、方向切替ローラ21で折り返された搬送ベルト23に薄切片Sを押し付ける。このため、カッター3により作製される薄切片Sは、より確実に搬送ベルト23に載置され、この搬送ベルト23によってカッター3の後方へ搬送される。特に、カッター3によって薄切する際に、カッター3の前方へカールしてしまう場合があるが、送風機30によって送風されることで、カールしてしまうのを防ぐことができる。
【0032】
そして、カッター3によって包埋ブロックBが完全に薄切されることで、薄切片Sは包埋ブロックBから切り離され、搬送ベルト23とともにカッター3の後方へ搬送される。なお、搬送ベルト23の走行速度は、送り機構6による移動速度、すなわちカッター3によって作製されていく薄切片Sの作製速度と略等しい速度である。このため、作製されていく薄切片Sは、搬送ベルト23の走行速度が早く、搬送ベルト23に引っ張られて切断されてしまうことが無い。あるいは、搬送ベルト23の走行速度が遅く、搬送ベルト23とカッター3の切れ刃3bとの間でしわになってしまうようなことが無い。
【0033】
そして、後部ローラ22が位置するところまで搬送されることで、搬送ベルト23に載置された薄切片Sは、搬送ベルト23とともに液槽9の水Wまで搬送され、搬送ベルト23から離脱し、水面に浮かべられることになる。
【0034】
搬送ベルト23によって薄切片Sを液槽9まで搬送するとき、搬送ベルト23の搬送方向に延びる縦糸28は先端側から液槽9の水中に漸次侵入して縦糸28の繊維に水がしみ込むため、基本的に空気が混入しにくい。これに対し、搬送ベルト23の搬送方向に直交する横糸29は液槽9の水中に横糸全体が一度に侵入するため、この横糸29の繊維に水Wがしみ込む時間が極めて少なくなり、この結果、空気が混入しやすい。加えて、横糸29が存することにより、縦糸28と横糸29とが交差する部分では、縦糸28や横糸29自体に凹凸部分が生じることとなり、これら凹凸部分が生じることに起因して、空気が混入しやすくなっている。
【0035】
ところで、搬送ベルト23の薄切片Sを載置する箇所23aでは、横糸29を有さず縦糸28のみからなっている。つまり、水中侵入時に空気が混入しやすい性質をもつ横糸29がないため、空気混入率を低下させることができ、結果的に、当該搬送ベルト23によって搬送される薄切片Sの下側に空気が混入するおそれを少なくすることができる。
また、薄切片Sは、液槽9において水Wに浮かべられることにより、水の表面張力が作用するので、薄切した際に生じてしまったしわ、反り、歪みなどの変形を修正することができる。
【0036】
このように薄切片Sを水面に浮かせて若干伸展させた後所定時間経過した時点で、図4に示すように、一旦停止させた搬送ベルト23を逆回転させる。このとき、搬送ベルト23の逆回転により液槽9内に水Wの流れが生じ、この水の流れによって、薄切片Sは搬送ベルト23側に引き寄せられ、ついにはその端部が搬送ベルト23上に乗り上がる。そして、搬送ベルト23のさらなる逆回転に伴い、薄切片S全体が、搬送ベルト23上に掬い上げられる。ここで、搬送ベルト23上に掬い上げられる箇所も縦糸28のみになっている。この結果、薄切片Sは、若干伸展していること、並びに、搬送ベルト23上に吸い上げられる箇所が縦糸28のみからなっていることから、たとえ、薄切片の下側に気泡が混入していたとしても、該気泡は速やかに開放される。
【0037】
その後、搬送ベルト23は、一旦停止し、所定時間(例えば、5秒〜20秒)経た時点で再度正回転される。この搬送ベルト23の正回転に伴い、掬い上げられた薄切片Sは、再度液槽9の水Wに侵入する。このとき、搬送ベルト23は既に水に浸していて、水と充分になじんでいるため、水中に侵入するときに気泡がより混入しにくくなっている。加えて、薄切片S自体も伸展されていて、気泡がより混入しにくくなっている。
これらの結果、薄切片Sの下側に気泡が混入しにくく、たとえ混入したとしても、該気泡を速やかに除去できる。
【0038】
<変形例>
なお、この第1の実施形態では、搬送ベルト23は、前記搬送ベルト23の前記薄切片を載置する箇所23aが、前記縦糸28のみからなっている構成としているが、これに限られることなく、搬送ベルト23の前記薄切片を載置する箇所23aの横糸29の密度が、他の箇所の横糸29密度に比べて、低くしてもよい。
【0039】
また、前述の第1の実施形態では、搬送ベルト23を構成する縦糸28のみによって、薄切片Sを載置する箇所23aを構成したが、これに限られることなく、図5に示すように、搬送ベルト23の一部に孔31をあけ、この孔31に、搬送ベルト23の搬送方向に延びるようにかつ互いに所定間隔をあけて平行に配置される縦糸(線状体)32を張り付けることで、薄切片Sを載置する箇所23aを構成してもよい。この場合、搬送ベルト23は布である必要は無く、フィルム状のものであってもあるいはメッシュ状のものであっても良く、その材質は問わない。
【0040】
また、この変形例における縦糸32及び前述の図1で示す縦糸28は、それぞれ糸により構成したが、薄切片Sを載置する箇所23aを構成する部材としては、必ずしも糸である必要は無く、例えば、フィルムを線状に切断したもの、釣糸のように射出機によって紡糸された樹脂製のモノフィラメント、あるいは金属製のモノフィラメントによって構成される線状体を用いても良い。なお、このことは、以下に説明する、第2、第3第実施形態においても同様である。
【0041】
<第2の実施形態>
図6及び図7は、この発明に係る薄切片搬送装置を備えた薄切片作製装置を示すもので、図6は平面図、図7は一部を断面した側面図である。この実施形態において、前述した実施形態で用いた部材と共通の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0042】
図6に示すように、この実施形態における薄切片作製装置40では、カッター3が搬送方向Xに直交する軸線Lに対して引き角θを有して設けられている。搬送手段(薄切片搬送装置)41は、方向切替ローラ(始点ローラ)21と、後部ローラ(終点ローラ)42と、それらローラ21、ローラ42との間に巻回された搬送ベルト43とを備えている。また、後部ローラ42は、図示せぬフレームに回転可能に軸着されており、搬送ベルト43を搬送方向Xに走行可能に支持している。また、搬送ベルト43は、1本の縦糸(線状体)44を方向切替ローラ21と後部ローラ42点との間で、途中中間ローラ25,26を介在させつつ、搬送方向に延在させてかつ互いに平行となるよう間隔をあけて螺旋状に巻いて形成されている。
【0043】
また、後部ローラ42の後方には、方向切替ローラ46及び方向切替ローラ46の上方に駆動用ローラ47が両アイドルローラ48、48に挟まれた状態で配置され、後部ローラに巻回される前記縦糸44は、その一部がこれらローラ46,47、48に巻回されて経由した後、再び後部ローラ42に戻されるように配置される。これら駆動用ローラ48及びアイドルローラ48は、それらの軸線が搬送方向Xと平行となるように配置される。そして、前記駆動用ローラ47が図示せぬモータにより駆動されることにより縦糸44に移送力を与え、移送力が与えられ縦糸44は、アイドルローラ48及び方向切替ローラ46を経て後部ローラ42に至り、後部ローラ42と方向切替ローラ21との間を複数回往復した後、方向切替ローラ46に至り、そこからアイドルローラ48を経て再び駆動用ローラ47に戻るよう移送する。
【0044】
このような構成の薄切片作製装置40においても、基本的に搬送ベルト43は、縦糸44のみからなっているので、薄切片Sを搬送して液槽9に侵入させる際に、空気の混入を防止することができる。また、搬送ベルト43を一本の縦糸44より構成しているので、方向切替ローラ21と後部ローラ42との間の複数の縦糸どうしの間の張力調整は不要で、自動的に均一化される。
なお、この実施形態においても、前述した第1の実施形態と同様に、搬送ベルト43を正回転、逆回転、正回転させることにより、1度水に浮かばせた薄切片Sを搬送ベルト43で掬い上げ再度水に浮かばせるようにしてもよい。
【0045】
<第3の実施形態>
図8及び図9は、この発明に係る薄切片搬送装置を備えた薄切片作製装置を示している。この実施形態において、前述した第1の実施形態で用いた部材と共通の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0046】
図8に示すように、この実施形態の薄切片作製装置50においては、液槽9の液面に浮かんだ薄切片Sを掬いとるため、搬送ベルト23とは別に、専用の薄切片掬い具51を用いている。この薄切片掬い具51は、図9に示すように、互いに対向する一対の糸支持部(線状体支持部)52a,52aを有するフレーム52と、一対の糸支持部52a,52a間に、互いに平行となるよう、掬いとる薄切片の直径よりも狭い間隔をあけて掛け渡された複数の縦糸(線状体)53とを備えている。また、54はハンドルを示す。
なお、この例では、平面視4角状のフレームを用いたが、フレームの形状はこれに限られることなく、円状や楕円、あるいは4以外の多角形状であっても良く、要は、互いに対向する一対の糸支持部52a,52aを有する形状であればよい。
【0047】
上記薄切片作製装置50による薄切片の搬送方法では、搬送ベルト23の上面に載置した薄切片Sを、搬送ベルト23を正回転させることにより、液槽9まで搬送させて水Wに浮かべる。ここまでは、前記第1の実施形態で説明した搬送方法と同様である。
ここでは、次に、薄切片掬い具51により、水Wに浮かんだ薄切片Sを水面から掬い上げる。このとき、薄切片Sの下側に気泡がある場合、これら気泡は掬いとった薄切片Sから除去される。その後、薄切片掬い具51を押し下げることにより、薄切片掬い具51内にある掬い上げた薄切片Sを再度液槽9の水に浮かべる。
【0048】
上述した薄切片の搬送方法によれば、一度、液面に浮かばせた薄切片Sを、掬い取って液面から引き上げた後、下降させて再度液面に浮かばせるので、第1の実施形態で説明したものと同様、薄切片Sの下側に混入する気泡を有効に除去できる。
また、薄切片Sを掬い上げ再度液面に浮かべるにあたり、搬送ベルト23ではなく、薄切片掬い具51によって行うため、搬送ベルト23による薄切片の搬送工程と、薄切片掬い具51による薄切片Sの掬い上げ及びその後の再度の液面浮かべる工程とを同時に並行して行うことができ、処理時間の短縮化を図ることができる。
前述した薄切片掬い具51では、複数の縦糸53を用いているが、これに限られることなく、前記第2の実施形態の搬送ベルト43の縦糸のように、一本の縦糸を螺旋状に巻いて成形したものであってもよい。
【0049】
図10は薄切片掬い具の他の例を示す斜視図である。
ここで示す薄切片掬い具61は、フレーム52内に、互いに平行となるようにかつ薄切片Sの最大長Laよりも狭い間隔をあけて複数の板状部材62が縦置きに並べられ、これら並べられた板状部材62の上縁部62aによって、薄切片を掬いとるための線状体が構成されるものである。また、各板状部材62の下端は共通の底板63によって互いに連結されている。
なお、複数の板状部材62のピッチPaが、上述したように、薄切片Sの最大長Laよりも狭い場合、当該薄切片掬い具61の薄切片Sに対する向きを考慮すれば、薄切片掬い具61によって薄切片Sを掬い取ることができる。しかしながら、実際の使い勝手を考えると、複数の板状部材62のピッチPaは、薄切片Sの最小長Lbよりも狭く設定するのが好ましい。
【0050】
具体的には、板状部材62のピッチPaは、0.2mm〜5mm程度とするのが好ましい。ピッチPaをこれよりも小さくすると、薄切片の下側に噛み込んだ空気が抜けにくくなり、また、これよりも大きくすると、薄切片を支持する部分が開きすぎて、掬いとるときに薄切片に過度の荷重が加わるおそれが出てくるからである。また、板状部材82の厚さTは10μm〜100μm程度が好ましい。厚さをこれよりも薄くすると、薄切片を支持する部分が狭くなりすぎて、掬いとるときに薄切片に過度の荷重が加わるおそれが出てきてしまい、また、これよりも厚くすると、薄切片の下側に噛み込んだ空気が抜けにくくなるからである。
この薄切片掬い具61によれば、複数の縦置きに並べられた板状部材62の上縁部62aにより線状体が構成されており、剛性の線状体が得られるため、耐久性に優れるものとなる。
【0051】
また、図9に示すような、単なる縦糸(線材)によって線状体を構成する場合には、薄切片を掬ったときに、線材の下側で薄切片の一部が互いに密着して絡みつく現象が生じ、この場合、絡みついた薄切片を取り除く作業が大変面倒となる。これに対し、この図に示す薄切片掬い具61によれば、縦置きの板状部材62を用いているため、線状体となる板状部材62の上縁部62aの下側で薄切片同士が密着して絡みつくおそれはなく、操作が容易になる。
【0052】
図11は薄切片掬い具の他の例を示す斜視図である。
ここで示す薄切片掬い具71が前記図10で示したものと異なるところは、各板状部材72の下端に連結用の共通底板を有しない点である。なお、各板状部材72は、長さ方向の両端がそれぞれフレーム52に固定されることによって、それ自体の位置が決定されている。この薄切片掬い具71によっても、図10で示した薄切片掬い具61と同様な効果を奏する。
【0053】
図12は薄切片掬い具の他の例を示す斜視図である。
ここで示す薄切片掬い具81が前記図11で示したものと異なるところは、各板状部材82の形状が、上方に向かうに従い漸次狭まる断面3角形状に形成されている点である。
このような構成にすることによって、線状体を構成する板状部材82の上縁部82aを許容される可能な範囲でできるだけ細く作製できることと、板状部材82の剛性を高く保持できることを同時に満足させることができる。
【0054】
図13は薄切片掬い具の他の例を示す斜視図である。
ここで示す薄切片掬い具91が前記図12で示したものと異なるところは、断面3角形状に形成された各板状部材92の底部92bが互いに連結されている点である。
このような構成にすることによって、板状部材92の剛性をより高めることができる。
【0055】
図14は薄切片掬い具の他の例を示す斜視図である。
ここで示す薄切片掬い具101が前記図10で示したものと異なるところは、線状体となる板状部材102の上縁部102aの形状である。
すなわち、前記図10で示した薄切片掬い具では、板状部材62の上縁部62aどうしを結んで得られる仮想面が単なる平面を形成しているが、ここで示す薄切片掬い具101では、板状部材102の上縁部102aどうしを結んで得られる仮想面Iaが、上側に凸となる凸状曲面を形成している。
このような構成にすることによって、当該薄切片掬い具101により液槽の液面に浮かんだ薄切片を掬いとるときに、薄切片がたとえ若干縮んでいる場合でも、板状部材102の上縁部102aどうしを結んで得られる仮想凸状曲面によって、この縮んだ薄切片の必要部分例えば中央部分を強制的に伸展させることができる。
【0056】
図15は薄切片掬い具の他の例を示す斜視図である。
ここで示す薄切片掬い具111では、板状部材112の上縁部112aどうしを結んで得られる仮想面Ibが、上側に凹となる凹状曲面を形成している。
このような構成にすることによって、当該薄切片掬い具111を押し下げて、一度掬い取った薄切片を再び液面に浮かべるときに、薄切片の例えば中央部分から液面に浸すことができ、これにより、薄切片の下側に空気を混入しにくくすることができる。
【0057】
図16は薄切片掬い具のさらに他の例を示す斜視図である。
ここで示す薄切片掬い具121が前記図10で示したものと異なるところは、互いに平行となるように間隔をあけて配置される複数の板状部材122のピッチである。
すなわち、前記図10で示した薄切片掬い具では、複数の板状部材62のピッチが、中央部と端部とに拘わらず一様に設定されているが、ここで示す薄切片掬い具121では、複数の板状部材122のピッチが、中央が最も広くそこから端部に向かうに従い漸次狭くなるように設定されている。
【0058】
このように薄切片を掬いとるときに最も空気の混入を防ぎたい部分に対応する、薄切片掬い具121の中央部に存する板状部材122の数を少なくし、空気の混入よりも確実な支持力を得たい部分である、薄切片掬い具121の端部に存する板状部材122の数を多くすることによって、薄切片を液面から掬う場合に、薄切片に対し場所場所に対応した最適な支持が行える。
【0059】
なお、前述した図9〜図16に示す薄切片掬い具は、すべてフレーム52を備えるが、それらのうち図10、図13、図14、図15に示す薄切片掬い具は、板状部材の下端がそれぞれ連結されているため、フレームは必ずしも必要な部材ではなく、フレームをなくするとともに、それら連結された板状部材に直接ハンドル54を取り付ける構成にしても良い。
【0060】
また、図14に示す板状部材102の上縁部どうしを結んで得られる仮想面Iaを凸状曲面に形成するもの、図15に示す板状部材112の上縁部どうしを結んで得られる仮想面Ibを凹状曲面に形成するもの、あるいは図16に示す板状部材122のピッチを中央部と端部で異ならせるものについては、これらの図に示すように、断面矩形状の板状部材に限られることなく、断面3角形状の板状部材を備えるものにも適用可能であり、さらに、図9で示す線材によって線状体を構成する場合にも適用可能である。
また、これらの薄切片掬い具は、人手によって直接操作される場合のほか、例えばロボットアームの先端に取り付けられて、コントローラにより自動的に操作される場合にも利用可能である。
【0061】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0062】
送り機構6による移動速度とベルトの走行速度は略等しく設定されているとした、搬送される薄切片Sを損傷しないように搬送ベルトに載置して搬送させる範囲において、これらの速度は相互に調整されるものである。
また、液槽9には水Wが満たされているとしたが、液槽9に満たす液体としては、水の他に水を主体とする液体でも良く、また、薄切片Sの包埋剤B1を溶解しない性質の液体であれば種々選択可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】この発明の第1の実施形態の薄切片搬送装置を備えた薄切片作製装置の平面図である。
【図2】この発明の第1の実施形態の薄切片搬送装置を備えた薄切片作製装置の断面図である。
【図3】この発明の第1の実施形態で用いた搬送ベルトの要部平面図である。
【図4】この発明の第1の実施形態の作用説明図である。
【図5】この発明の第1の実施形態の変形例を示す搬送ベルトの平面図である。
【図6】この発明の第2の実施形態の薄切片搬送装置を備えた薄切片作製装置の平面図である。
【図7】この発明の第2の実施形態の薄切片搬送装置を備えた薄切片作製装置の側面図である。
【図8】この発明の第3の実施形態の薄切片搬送装置を備えた薄切片作製装置の断面図である。
【図9】この発明の第3の実施形態で用いた薄切片掬い具の斜視図である。
【図10】この発明の第3の実施形態で用いた他の薄切片掬い具の斜視図である。
【図11】この発明の第3の実施形態で用いた他の薄切片掬い具の斜視図である。
【図12】この発明の第3の実施形態で用いた他の薄切片掬い具の斜視図である。
【図13】この発明の第3の実施形態で用いた他の薄切片掬い具の斜視図である。
【図14】この発明の第3の実施形態で用いた他の薄切片掬い具の斜視図である。
【図15】この発明の第3の実施形態で用いた他の薄切片掬い具の斜視図である。
【図16】この発明の第3の実施形態で用いたさらに他の薄切片掬い具の斜視図である。
【符号の説明】
【0064】
1、40、50 薄切片作製装置 2 試料台 3 カッター9 水槽(液槽) 20、41 搬送手段(薄切片搬送装置) 21 方向切替ローラ(始点ローラ) 42 後部ローラ(終点ローラ) 23、43 搬送ベルト 28、32、44、53 縦糸(線状体) 29 横糸(線状体) 51、61,71,81,91,101,111,121 薄切片掬い具 52 フレーム 52a、52b 糸支持部(線状体支持部) 62、72、82、92、102,112,122 板状部材 62a、82a、102a、112a 上縁部(線状体) A 生体試料 B 包埋ブロック B1 包埋剤
【特許請求の範囲】
【請求項1】
包埋ブロックを薄切して作製された薄切片を、搬送方向に延びる縦方向の線状体及び該縦方向の線状体に対して直交する方向に延びる横方向の線状体を有する搬送ベルトの上面に載置して液槽まで搬送する薄切片搬送装置であって、
前記搬送ベルトの前記薄切片を載置する箇所の横方向の線状体密度が他の箇所の横方向の線状体密度に比べて、低くなっていることを特徴とする薄切片搬送装置。
【請求項2】
包埋ブロックを薄切して作製された薄切片を搬送ベルトの上面に載置して、液槽まで搬送する薄切片搬送装置であって、
前記搬送ベルトの前記薄切片を載置する箇所が、前記搬送ベルトの搬送方向に延びる複数の線状体のみからなっていることを特徴とする薄切片搬送装置。
【請求項3】
包埋ブロックを薄切して作製された薄切片を搬送ベルトの上面に載置して液槽まで搬送する薄切片搬送装置であって、
前記搬送ベルトが、1本の線状体を始点ローラと終点ローラとの間で搬送方向に延在させてかつ互いに平行となるよう間隔をあけて螺旋状に巻いて形成されたことを特徴とする薄切片搬送装置。
【請求項4】
前記線状体が親水性を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の薄切片搬送装置。
【請求項5】
液槽の液面に浮かんだ薄切片を掬いとるため薄切片掬い具であって、
互いに平行となるように前記薄切片の最大長よりも狭い間隔をあけて配置された複数の線状体を備えることを特徴とする薄切片掬い具。
【請求項6】
前記線状体は、フレームの互いに対向する一対の線状体支持部間に、互いに平行となるよう間隔をあけて配置されることを特徴とする請求項5に記載の薄切片掬い具。
【請求項7】
前記複数の線状体は、複数の板状部材を縦置きに並べたそれぞれの上縁部によって構成されることを特徴とする請求項5に記載の薄切片掬い具。
【請求項8】
前記線状体を結ぶ仮想面が上側に凸となる凸状曲面を形成することを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の薄切片掬い具。
【請求項9】
前記線状体を結ぶ仮想面が上側に凹となる凹状曲面を形成することを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の薄切片掬い具。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の薄切片搬送装置を用いた薄切片の搬送方法であって、
前記薄切片搬送装置の搬送ベルトの上面に載置した薄切片を、該搬送ベルトを正回転させて液槽まで搬送させて該液槽の液面に浮かべる工程と、
前記搬送ベルトを逆回転させて、液面に浮かべた前記薄切片を前記搬送ベルト上に載せて液面から掬い上げる工程と、
前記搬送ベルトを正回転させて掬い上げた前記薄切片を液槽まで搬送させて再度前記液槽の液面に浮かべる工程と、
を備えることを特徴とする薄切片の搬送方法。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の薄切片搬送装置を用いた薄切片の搬送方法であって、
前記薄切片搬送装置の搬送ベルトの上面に載置した薄切片を、該搬送ベルトを正回転させて液槽まで搬送させて該液槽の液面に浮かべる工程と、
互いに対向する一対の糸支持部を有するフレームおよび前記一対の線状体支持部間に互いに平行となるよう間隔をあけて掛け渡された線状体を備えた薄切片掬い具により、液面に浮かべた前記薄切片を液面から掬い上げる工程と、
前記薄切片掬い具を押し下げることにより、該薄切片掬い具内にある掬い上げた前記薄切片を再度前記液槽の液面に浮かべる工程と、
を備えることを特徴とする薄切片の搬送方法。
【請求項1】
包埋ブロックを薄切して作製された薄切片を、搬送方向に延びる縦方向の線状体及び該縦方向の線状体に対して直交する方向に延びる横方向の線状体を有する搬送ベルトの上面に載置して液槽まで搬送する薄切片搬送装置であって、
前記搬送ベルトの前記薄切片を載置する箇所の横方向の線状体密度が他の箇所の横方向の線状体密度に比べて、低くなっていることを特徴とする薄切片搬送装置。
【請求項2】
包埋ブロックを薄切して作製された薄切片を搬送ベルトの上面に載置して、液槽まで搬送する薄切片搬送装置であって、
前記搬送ベルトの前記薄切片を載置する箇所が、前記搬送ベルトの搬送方向に延びる複数の線状体のみからなっていることを特徴とする薄切片搬送装置。
【請求項3】
包埋ブロックを薄切して作製された薄切片を搬送ベルトの上面に載置して液槽まで搬送する薄切片搬送装置であって、
前記搬送ベルトが、1本の線状体を始点ローラと終点ローラとの間で搬送方向に延在させてかつ互いに平行となるよう間隔をあけて螺旋状に巻いて形成されたことを特徴とする薄切片搬送装置。
【請求項4】
前記線状体が親水性を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の薄切片搬送装置。
【請求項5】
液槽の液面に浮かんだ薄切片を掬いとるため薄切片掬い具であって、
互いに平行となるように前記薄切片の最大長よりも狭い間隔をあけて配置された複数の線状体を備えることを特徴とする薄切片掬い具。
【請求項6】
前記線状体は、フレームの互いに対向する一対の線状体支持部間に、互いに平行となるよう間隔をあけて配置されることを特徴とする請求項5に記載の薄切片掬い具。
【請求項7】
前記複数の線状体は、複数の板状部材を縦置きに並べたそれぞれの上縁部によって構成されることを特徴とする請求項5に記載の薄切片掬い具。
【請求項8】
前記線状体を結ぶ仮想面が上側に凸となる凸状曲面を形成することを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の薄切片掬い具。
【請求項9】
前記線状体を結ぶ仮想面が上側に凹となる凹状曲面を形成することを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の薄切片掬い具。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の薄切片搬送装置を用いた薄切片の搬送方法であって、
前記薄切片搬送装置の搬送ベルトの上面に載置した薄切片を、該搬送ベルトを正回転させて液槽まで搬送させて該液槽の液面に浮かべる工程と、
前記搬送ベルトを逆回転させて、液面に浮かべた前記薄切片を前記搬送ベルト上に載せて液面から掬い上げる工程と、
前記搬送ベルトを正回転させて掬い上げた前記薄切片を液槽まで搬送させて再度前記液槽の液面に浮かべる工程と、
を備えることを特徴とする薄切片の搬送方法。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の薄切片搬送装置を用いた薄切片の搬送方法であって、
前記薄切片搬送装置の搬送ベルトの上面に載置した薄切片を、該搬送ベルトを正回転させて液槽まで搬送させて該液槽の液面に浮かべる工程と、
互いに対向する一対の糸支持部を有するフレームおよび前記一対の線状体支持部間に互いに平行となるよう間隔をあけて掛け渡された線状体を備えた薄切片掬い具により、液面に浮かべた前記薄切片を液面から掬い上げる工程と、
前記薄切片掬い具を押し下げることにより、該薄切片掬い具内にある掬い上げた前記薄切片を再度前記液槽の液面に浮かべる工程と、
を備えることを特徴とする薄切片の搬送方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2008−51797(P2008−51797A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127858(P2007−127858)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
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