薄切片標本作製装置及び薄切片標本作製方法
【課題】簡単な構成で、配向制御しながら薄切片を基板に沿って基板上に掬い取って薄切片標本を作製し、作業者にかかる負担を極力減らすこと。
【解決手段】搬送体20から離脱しながら液面2b上に浮かぶ薄切片Mを基板G上に掬い取る装置であって、貯留した液体2aに搬送体の端部が浸かった液槽2と、薄切片の一辺に対して基板の横幅方向が平行になるように基板を把持する把持部3と、把持部を基板に沿って引き上げる引き上げ機構4と、該機構の作動タイミング及び引き上げ速度を制御する制御部6と、を備え、把持部は、薄切片が基板の表面に接触したタイミングで、薄切片の一部が搬送体に残った状態であるように基板を把持し、制御部は、基板に対する薄切片の相対的な移動が、前記横幅方向に対して平面視略垂直な方向に沿ってのみ所定の移動速度で生じ、且つ該速度と、引き上げ速度とが略等しくなるように制御する薄切片標本作製装置1を提供する。
【解決手段】搬送体20から離脱しながら液面2b上に浮かぶ薄切片Mを基板G上に掬い取る装置であって、貯留した液体2aに搬送体の端部が浸かった液槽2と、薄切片の一辺に対して基板の横幅方向が平行になるように基板を把持する把持部3と、把持部を基板に沿って引き上げる引き上げ機構4と、該機構の作動タイミング及び引き上げ速度を制御する制御部6と、を備え、把持部は、薄切片が基板の表面に接触したタイミングで、薄切片の一部が搬送体に残った状態であるように基板を把持し、制御部は、基板に対する薄切片の相対的な移動が、前記横幅方向に対して平面視略垂直な方向に沿ってのみ所定の移動速度で生じ、且つ該速度と、引き上げ速度とが略等しくなるように制御する薄切片標本作製装置1を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料が包埋された包埋ブロックを薄切して作製された薄切片をスライドガラス等の基板に転写して、薄切片標本を作製する薄切片標本作製装置及び薄切片標本作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、人体や実験動物等から取り出した生体試料を検査する方法の1つとして、該生体試料を極薄に薄切して各種の染色を施した後、顕微鏡観察によって検査する方法が知られている。この検査方法は、主に、新薬開発における臨床試験に先立つ検査の1つである、毒性検査や病理検査等を行う際に採られる手法として知られている。
この検査を行うにあたって一般的には、軟らかい組織や細胞の形態を壊さないように生体試料を薄切りするため、まず生体試料を予めパラフィン等の包埋材で包埋して包埋ブロックとしている。そして、この包埋ブロックを2μm〜5μm程度の厚さに薄くスライス(薄切)することで、薄切片を作製する。こうすることで、検査対象物が軟らかい組織等であっても、形態を壊さずに極薄にスライスすることができる。
そして、この薄切片を搬送した後、スライドガラス等の基板上に固定することで、薄切片標本とすることができる。通常、作業者は、この薄切片標本を顕微鏡観察することで、各種の検査を行っている。
また、例えば、前臨床試験においては、数百個の包埋ブロックから作製された膨大な数の薄切片を使用する場合がある。このため、作業者は、薄切片の作製に膨大な工数をとられていた。この工数を少しでも削減するために、薄切片作製における一連の工程を自動化し、連続して薄切片を作製することが試みられている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の装置は、作製された薄切片を自動的に液槽に搬送する装置である。よって、この装置を利用することで、薄切片作製において薄切片を搬送する工数を減らすことができる。
【特許文献1】特開平5−273094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述した従来の装置及び方法ではまだ以下の課題が残されていた。
初めに、高品質な薄切片標本を作製するためには、薄切片をスライドガラス等の基板ですくって該基板上に載置する際に、基板の向きと薄切片の向きとを一致させる必要があった。通常、この作業は作業者が行っている。
【0005】
ここで、特許文献1に記載の装置においては、薄切片全体を完全に液面に浮かべているため、薄切片の配向が任意に変化する。そのため、該装置で作製された薄切片をスライドガラスに掬い取る作業は、作業者によって以下のように行われていた。即ち、まず、一旦水中に基板を入れた後、水面に浮かんでいる薄切片の向きに基板の向きを合わせながら薄切片の一部を基板に接触させる。そして、ゆっくりと基板を水中から引き上げることで、基板の向きと薄切片の向きとを合わせながら、基板上に薄切片を掬い取ることができるものであった。
【0006】
このように、従来の装置においては、作業者が1枚1枚薄切片の向きを合わせる必要があるので、集中力を要し、非常に手間のかかる作業であった。特に、取り扱う薄切片の数が膨大である上、水面の揺らぎ等の影響を受けて薄切片の姿勢が容易に変化するので、作業者にかかる負担が大きいものであった。
【0007】
即ち、特許文献1に記載されている装置を利用することで、薄切片の搬送における作業者の負担を若干減らすことができるが、薄切片を掬い取る作業については自動化を行うことが困難であった。つまり、ロボット等を利用して自動化を行う場合には、水面に浮かんだ薄切片の位置や向き等を常に確認し、これらの情報に基づいて基板の位置や向きを制御しながら薄切片を掬い取る等の複雑な制御を行う必要がある。ところが、これを行うには高度なプログラミング制御や複雑な機械的機構等が必要とされ、現実的に実現させることが難しいものであった。そのため、薄切片の向きを確認しながら該薄切片を基板上に載置する作業に関しては、かわらず作業者が行う必要があった。
【0008】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、簡単な構成で、薄切片を、基板に対して平行になるように薄切片の向きを配向制御しながら基板上に掬い取って薄切片標本を作製することができ、作業者にかかる負担を極力減らすことができる薄切片標本作製装置及び薄切片標本作製方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明は、生体試料が包埋された包埋ブロックを薄切して作製され、搬送体の上面において矩形状の仮想平面内に接するように収まった状態で載置された後に搬送されてくる薄切片が該搬送体から離脱しながら液面上に浮かぶ際に、該薄切片を基板上に掬い取って薄切片標本を作製する薄切片標本作製装置であって、前記搬送体の進行方向側に配置され、貯留した液体に搬送体の端部が浸かった液槽と、前記基板を把持すると共に、搬送されてくる前記薄切片が収まる前記仮想平面の一辺に対して基板の横幅方向が平行になるように、該基板を前記液体に浸けた状態で前記搬送体の近傍に位置させる把持部と、該把持部を、把持している前記基板の横幅方向に対して平面視略垂直な引き上げ方向に沿って前記液体から斜めに引き上げる引き上げ機構と、前記引き上げ機構の作動タイミング及び引き上げ速度を制御する制御部と、を備え、前記把持部が、前記薄切片が前記搬送体から離脱して前記液体の液面に浮かび、前記薄切片が収まる前記仮想平面の一辺が前記基板の表面に接触したときに、前記薄切片の一部が前記搬送体の上面に残った状態であるように前記基板を把持し、前記制御部が、前記薄切片が前記搬送体から離脱して前記液体の液面に浮かび、前記薄切片が収まる前記仮想平面の一辺が前記基板の表面に接触したときに、前記搬送体によって前記薄切片が前記液面に搬送されることで生ずる前記基板に対する前記薄切片の相対的な移動が、前記基板の横幅方向に対して平面視略垂直な方向に沿ってのみ所定の移動速度で生じ、且つ該移動速度と、前記薄切片が前記引き上げ機構によって前記引き上げ方向に沿って引き上げられる引き上げ速度とが略等しくなるように、前記引き上げ機構を制御すること、を特徴とする。
【0010】
また、本発明は、生体試料が包埋された包埋ブロックを薄切して作製され、搬送体の上面において矩形状の仮想平面内に接するように収まった状態で載置された後に搬送されてくる薄切片が該搬送体から離脱しながら液面上に浮かぶ際に、該薄切片を基板上に掬い取って薄切片標本を作製する薄切片標本作製方法であって、前記搬送体の進行方向側に配置され、貯留した液体に搬送体の端部が浸かった液槽内において、搬送されてくる薄切片が収まる仮想平面の一辺に対して基板の横幅方向が平行になるように該基板を液体に浸けた状態で搬送体の近傍に位置させる基板セット工程と、該基板セット工程後、前記薄切片を前記液槽に向けて搬送すると共に、該薄切片を搬送体から離脱させて前記液体の液面に浮かべる離脱工程と、該離脱工程で前記液面に浮かんだ前記薄切片が収まる前記仮想平面の一辺が前記基板の表面に接触したときに、前記基板を横幅方向に対して平面視略垂直な引き上げ方向に沿って前記液体から斜めに引き上げて薄切片を基板上に掬い取る引き上げ工程と、を備え、前記基板セット工程の際には、前記引き上げ工程において前記仮想平面の一辺が前記基板の表面に接触したときに前記薄切片の一部が前記搬送体の上面に残った状態であるように前記基板をセットし、前記引き上げ工程の際に、前記搬送体によって前記薄切片が前記液面に搬送されることで生ずる前記基板に対する前記薄切片の相対的な移動が、前記基板の横幅方向に対して平面視略垂直な方向に沿ってのみ所定の移動速度で生じ、且つ該移動速度と、前記薄切片が前記引き上げ機構によって前記引き上げ方向に沿って引き上げられる引き上げ速度とが略等しくなるように、前記基板の作動タイミング及び引き上げ速度を制御すること、を特徴とする。
【0011】
この発明に係る薄切片標本作製装置及び薄切片標本作製方法によれば、まず、搬送体の端部が浸かった液体に、基板を同様に浸けた状態で搬送体の近傍に位置させる基板セット工程を行う。この際、搬送されてくる薄切片が接するように収まった仮想平面の一辺(短辺或いは長辺)に対して、基板の横幅方向が平行になるように向きを調整した状態でセットする。
基板をセットした後、搬送体を作動させて、上面に置かれた薄切片を進行方向に沿って液槽まで搬送する。この際、搬送体は端部が液体に浸かっているので、液槽まで搬送されてきた薄切片は、液体に浸かった状態となる。これにより、薄切片は、搬送体から離脱して液体の液面に浮かんだ状態となる。すると、液面に浮かんだ薄切片の一部は、搬送体の近傍にセットされている基板の表面に付着する。しかも、この基板は、横幅方向が仮想平面の一辺に対して平行になるようにセットされており、且つ薄切片は仮想平面に接するように収まっているので、薄切片の一辺が基板の表面に付着する。このように、薄切片を搬送体から離脱させて液面に浮かべる離脱工程を行うことで、薄切片の一辺を基板の表面に付着させることができる。
【0012】
そして、薄切片の一辺が基板の表面に付着したタイミングで、基板を液面から斜めに引き上げる引き上げ工程を行う。この引き上げ工程を行うことで、搬送体から徐々に離脱して液面に浮かび始める薄切片を、浮かんだそばから基板上に掬い取って転写することができる。その結果、基板上に薄切片を完全に掬い取って薄切片標本を作製することができる。
【0013】
特に、前述した基板セット工程の際には、引き上げ工程において薄切片の一辺が基板の表面に接触したときに薄切片の一部が搬送体の上面に残った状態であるように、把持部が基板をセットする。従って、薄切片全体を完全に液面に浮かべることがないため、薄切片の配向が変化する前に基板に受け渡すことができる。これにより、引き上げ工程の際に、薄切片の配向が変化することがない。
【0014】
更に、前述した引き上げ工程の際、薄切片の一辺が基板の表面に接触した時点で、引き上げ機構の作動タイミングと引き上げ速度を以下に示すように制御する。
即ち、搬送体によって薄切片が液面に搬送されることで生ずる基板に対する薄切片の相対的な移動が、基板の横幅方向に対して平面視略垂直な方向に沿ってのみ所定の移動速度で生じ、且つ該移動速度と、薄切片が引き上げ機構によって引き上げ方向に沿って引き上げられる引き上げ速度とが略等しくなるように制御する。
従って、まだ搬送体の上面に残っている薄切片の一部と、搬送体から離脱して基板の表面に既に転写された薄切片の一部とには、いずれも同一の基板の横幅方向に対して平面視略垂直な方向に沿って同一の移動速度が働く。また、基板に対して薄切片がこの方向以外に相対的に移動することは無い。
【0015】
つまり、1枚の薄切片内において、まだ転写されていない一部と、既に転写された一部との間で移動速度及び移動方向の差が発生しない。更に、前述のように、薄切片の一辺が基板の横幅方向に平行な状態で転写されているので、基板と薄切片との位置関係は基板の横幅方向において変わることはない。従って、薄切片を基板に沿って平行に掬い上げることが可能となる。
【0016】
前述したように、この発明に係る薄切片標本作製装置及び薄切片標本作製方法によれば、薄切片の向きを基板に対して平行にした状態で、該薄切片を掬い取ることができる。即ち、薄切片の向きを自動的に配向制御した状態で掬い取ることができるので、高品質な薄切片標本を作製することが可能となる。
また、引き上げ機構を作動させるだけの簡単な構成であり、薄切片の向きを毎回確認して、これに対応した制御を行うといった複雑な制御とは異なるので、構成の簡略化を図ることができ、低コストで実現することができる。
また、作業者は従来のように薄切片の向きを確認しながら該薄切片を掬い取る必要がないので、作業者にかかる負担を大幅に軽減でき、作業効率を向上することができる。更に、薄切片を液面上から掬い取る際に、薄切片を液体の表面張力を利用して伸展させることができる。この点においても、高品質化を図ることができる。
【0017】
また、上記本発明における薄切片標本作製装置において、前記搬送体と前記把持部とを前記液面に平行な面内に沿って相対的にスライド移動させるスライド機構を備え、前記制御部は、前記スライド機構の作動タイミング、スライド方向及びスライド速度を制御することで、前記基板に対する前記薄切片の相対的な移動を制御すること、が好ましい。
【0018】
また、上記本発明における薄切片標本作製方法において、前記引き上げ工程の際に、前記搬送体と前記把持部とを前記液面に平行な面内に沿って相対的にスライド移動させ、該スライド移動の作動タイミング、スライド方向及びスライド速度を制御することで、前記基板に対する前記薄切片の相対的な移動を制御すること、が好ましい。
【0019】
この発明に係る薄切片標本作製装置及び薄切片標本作製方法によれば、制御部は、引き上げ工程の際に、搬送体と基板を把持する把持部とを液面に平行な面内に沿って相対的にスライド移動させるスライド機構の作動タイミング、スライド方向及びスライド速度を制御する。
更に、制御部は、スライド機構を制御することで、基板に対する薄切片の相対的な移動を制御する。即ち、制御部は、搬送体によって薄切片が液面に搬送されることで生ずる基板に対する薄切片の相対的な移動が、基板の横幅方向に対して平面視略垂直な方向に沿ってのみ所定の移動速度で生じ、且つ該移動速度と、薄切片が引き上げ機構によって引き上げ方向に沿って引き上げられる引き上げ速度とが略等しくなるように制御する。つまり、制御部は、スライド機構を制御することで、基板に対する薄切片の相対的な移動において、基板の横幅方向に対して平面視略垂直な方向以外に沿って生じる移動を相殺し、且つ基板の横幅方向に対して平面視略垂直な方向に沿って生じる移動の移動速度を調整する。
【0020】
従って、この発明に係る薄切片標本作製装置及び薄切片標本作製方法によれば、スライド機構を作動させるだけの簡単な構成であり、薄切片の向きを毎回確認して、これに対応した制御を行うといった複雑な制御とは異なるので、構成の簡略化を図ることができ、より低コストで高品質な薄切片標本を作製することができる。
【0021】
また、上記本発明における薄切片標本作製装置において、前記制御部は、前記搬送体を前記薄切片の一辺に沿ってスライドさせるように、前記スライド機構を移動させること、が好ましい。
【0022】
また、上記本発明における薄切片標本作製方法において、前記引き上げ工程の際に、前記搬送体を前記薄切片の一辺に沿ってスライドさせること、が好ましい。
【0023】
この発明に係る薄切片標本作製装置及び薄切片標本作製方法によれば、引き上げ工程の際、制御部によって、搬送体を薄切片の一辺に沿ってスライドさせるように、スライド機構を移動させる。これにより、制御部により速度制御をする際に、搬送体の進行方向に対しての薄切片の傾きがわかれば制御することができる。よって、制御部での演算を簡単に行うことができる。
【0024】
また、上記本発明における薄切片標本作製装置において、前記制御部は、前記搬送体を前記進行方向と略垂直な方向に沿ってスライドさせるように、前記スライド機構を移動させること、が好ましい。
【0025】
また、上記本発明における薄切片標本作製方法において、前記引き上げ工程の際に、前記搬送体を前記進行方向と略垂直な方向に沿ってスライドさせること、が好ましい。
【0026】
この発明に係る薄切片標本作製装置及び薄切片標本作製方法によれば、引き上げ工程の際、制御部によって、搬送体を進行方向と略垂直な方向に沿ってスライドさせるように、スライド機構を移動させる。これにより、制御部により速度制御をする際に、搬送体の進行方向に対しての薄切片の傾きがわかれば制御することができる。よって、制御部での演算を簡単に行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の薄切片標本作製装置及び薄切片標本作製方法によれば、簡単な構成で、搬送体に対して薄切片を、基板に対して平行になるように薄切片の向きを配向制御しながら基板上に掬い取って薄切片標本を作製することができ、作業者にかかる負担を極力減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る薄切片標本作製装置1の一実施形態を、図1から図11を参照して説明する。この薄切片標本作製装置1は、生体試料Sが包埋された包埋ブロックBを薄切して作製され、無端ベルト(搬送体)20の上面20aに進行方向Tに対して斜めになった状態で搬送されてくる平面視矩形状の薄切片Mが該無端ベルト20から離脱しながら液面2b上に浮かぶ際に、該薄切片Mをスライドガラス(基板)G上に掬い取って薄切片Mを作製する装置である。
【0029】
初めに、包埋ブロックBは、図1に示すように、ホルマリン固定された生体試料S内の水分をパラフィン置換した後、さらに周囲をパラフィン等の包埋剤Nによってブロック状に固めたものである。これにより、生体試料Sがパラフィン内に包埋された状態となっている。なお、生体試料Sとしては、例えば、人体や実験動物等から取り出した臓器等の組織であり、医療分野、製薬分野、食品分野、生物分野等で適時選択させるものである。
また、薄切片Mは、この包埋ブロックBを図示しない切断刃によって、例えば3μm〜5μmの極薄に薄切することで矩形状に作製されたものである。なお、以降の図面では、説明を平易に行うため、薄切片Mにおける生体試料Sの図示を省略する。
【0030】
本実施形態の薄切片標本作製装置1は、図2に示すように、無端ベルト20の進行方向T側に配置され、貯留した液体2aに無端ベルト20の一端側(端部)が浸かった液槽2と、スライドガラスGを把持すると共に、搬送されてくる薄切片Mの一辺に対してスライドガラスGの横幅方向Wが平行になるように、該スライドガラスGを液体2aに浸けた状態で無端ベルト20の近傍に位置させる把持ロボット(把持部)3と、該把持ロボット3を、把持しているスライドガラスGの長手方向に沿って液体2aから斜めに引き上げる引き上げ機構4と、無端ベルト20を液面2bに平行な面内に沿ってスライド移動させるスライド機構5と、引き上げ機構4及びスライド機構5の作動タイミングを制御すると共に、引き上げ機構4の引き上げ速度V4、スライド機構5のスライド方向X及びスライド速度V2を制御する制御部6と、を備えている。
【0031】
液槽2は、所定の液体2aを貯留している。該液体2aは、無端ベルト20の一端及びスライドガラスGを浸けたときに底面に達しない深さだけ、液槽2に貯留されている。液体2aとしては、例えば、水、お湯などが挙げられる。また、液槽2は、図4に示すように、後述するスライド方向X及び引き上げ方向Yに沿って無端ベルト20及び把持ロボット3が移動するときに干渉しないように、両方向(スライド方向X及び引き上げ方向Y)に十分広く設計されている。
また、無端ベルト20は、図3に示すように、液槽2に浸かった一端側のローラ20bと、図示しない他端側のローラとに、液槽2内の液体2aの液面2bに対して、搬送傾斜θ1だけ傾いた状態で巻回されている。各ローラは、図4に示すように、各ローラの両端に平行に配置された1対のフレーム20cによって、回転自在に軸止されている。そして、無端ベルト20は、図示しない他端側のローラが走行部によって回転されることで、他端側から一端側へ向かう進行方向Tに沿って搬送速度V1で無限走行する。無端ベルト20の上面20aには、図示しない切断刃によって包埋ブロックBから切断された薄切片Mが、進行方向Tに対して搬送角度θ2だけ斜めになった状態で搬送されてくるようになっている。
【0032】
ところで、液槽2の隣には、図2に示すように、未使用のスライドガラスGを予め複数枚収納するスライドガラス収納棚9aと、スライドガラスG上に薄切片Mが転写された薄切片Mを複数枚収納する薄切片標本収納棚9bとが順に設けられている。
【0033】
把持ロボット3は、図2に示すように、一定距離離間した状態で平行に配されると共に、互いの距離を接近離間自在に調整可能な一対のアーム3aを有する。また、把持ロボット3は、鉛直方向であるZ軸回り、及びZ方向に直交する一軸回りにそれぞれ回転可能な状態で、後述する水平ステージ41に取り付けられている。
即ち、把持ロボット3は、一対のアーム3aを接近離間させることによってスライドガラスGの端部を挟持しながら、Z軸回りに回転させることによって搬送されてくる薄切片Mの一辺に対してスライドガラスGの横幅方向Wが平行になるように調整可能である。
【0034】
また、把持ロボット3が取り付けられている水平ステージ41は、図4に示すように、無端ベルト20の進行方向Tに対して平面視、搬送角度θ2だけ傾いた後述する引き上げ方向Y沿った状態で水平方向に延びた水平ガイドレール42に取り付けられている。水平ガイドレール42の直下には、図2に示すように、スライドガラス収納棚9a及び薄切片標本収納棚9bが配置されている。水平ステージ41は、水平ガイドレール42に沿って移動することで、水平方向に沿って移動可能である。更に、水平ガイドレール42は、昇降ステージ43に取り付けられている。そして、この昇降ステージ43は、Z軸方向に延びたZ軸ガイドレール44に取り付けられており、水平ステージ41と同様に、Z軸ガイドレール44に沿って移動することで、Z軸方向に沿って移動可能である。
【0035】
即ち、昇降ステージ43と水平ステージ41とを適宜作動させることで、水平ステージ41に取り付けられている把持ロボット3によって、スライドガラス収納棚9aから未使用のスライドガラスGを把持することができる。そして、スライドガラスGを液槽2内の液体2aに浸けた後、液槽2内に浮いている薄切片Mを、把持したスライドガラスG上に転写して、スライドガラスGの長手方向に沿って液体2aから斜めに引き上げながら掬い上げることで薄切片Mを作製することができるようになっている。更には、作製した薄切片Mを薄切片標本収納棚9bに収納することができるようになっている。これについては、後に詳細に説明する。
つまり、前述した水平ステージ41、水平ガイドレール42、昇降ステージ43及びZ軸ガイドレール44は、引き上げ機構4を構成している。なお、引き上げ機構4は、制御部6によって後述するように制御される。
【0036】
スライド機構5は、図4に示すように、フレーム20cを介して、無端ベルト20が巻回されている各ローラを、液面2bと平行な面内で進行方向Tと略垂直なスライド方向Xに沿って移動させる機構である。スライド機構5としては、例えば、フレーム20cを支持する図示しない筐体と、該筐体を支持する図示しないステージを設け、ステージをサーボモータで移動させる機構などが挙げられる。なお、スライド機構5は、制御部6によって後述するように制御される。
【0037】
制御部6は、引き上げ機構4及びスライド機構5の作動タイミングを制御すると共に、引き上げ機構4の引き上げ速度V4及びスライド機構5のスライド速度V2を以下に示すように制御する。
即ち、制御部6は、図5に示すように、無端ベルト20によって薄切片Mが液面2bに搬送されることで生ずるスライドガラスGに対する薄切片Mの相対的な移動が、スライドガラスGの横幅方向Wに対して平面視略垂直な方向に沿ってのみ所定の移動速度V3で生じ、且つ該移動速度V3と、薄切片Mが引き上げ機構4によって引き上げ方向Yに沿って引き上げられる引き上げ速度V4とが略等しくなるように、薄切片Mの一辺がスライドガラスGの表面に付着したタイミングで、引き上げ機構4及びスライド機構5を制御する。以下に詳細を説明する。
【0038】
まず、制御部6は、引き上げ機構4及びスライド機構5の作動タイミングを検出する。作動タイミングは、薄切片Mの一辺が接触したタイミングである。検出方法としては、例えば、無端ベルト20に薄切片Mを載置したタイミングを起点として、無端ベルト20の搬送速度V1と、無端ベルト20が薄切片Mを搬送する距離と、薄切片Mの大きさと、把持ロボット3によって把持されているスライドガラスGの位置とからタイミングを演算して求める方法がある。また、図示しない光センサを配置し、所定の位置で薄切片Mを検出し、無端ベルト20の搬送速度V1と、把持ロボット3によって把持されているスライドガラスGの位置とからタイミングを演算する方法などでもかまわない。
【0039】
そして、薄切片MとスライドガラスGとの接触を検出した制御部6は、移動速度V3と、引き上げ速度V4とが略等しくなるように、引き上げ機構4とスライド機構5とを制御する。より具体的には、引き上げ機構4の水平ステージ41及び昇降ステージ43をそれぞれ水平ガイドレール42及びZ軸ガイドレール44に沿って移動させ、スライドガラスGと液面2bとがなす基板傾斜θ3だけ水平方向に対して斜めに引き上げる。即ち、引き上げ方向Yは、水平方向から基板傾斜θ3だけ傾いている。また、並行して、スライド機構5を作動させ、無端ベルト20をスライド方向Xにスライドさせる。そして、スライド速度V2と引き上げ速度V4のそれぞれの速さを、搬送角度θ2を用いて、|V2|=|V1|cosθ2/sinθ2、|V4|=|V3|=|V1|/sinθ2、にそれぞれ制御する。
【0040】
上記に示したようにスライド速度V2を制御することで、無端ベルト20によって薄切片Mが液面2bに搬送されることで生ずるスライドガラスGに対する薄切片Mの相対的な移動が、搬送速度V1とスライド速度V2との差分である、スライドガラスGの横幅方向Wに対して平面視略垂直な方向に沿った移動速度V3に制御される。また、該移動速度V3に合わせて、引き上げ速度V4が制御される。
つまり、制御部6は、スライド機構5及び引き上げ機構4を制御することで、スライドガラスGに対する薄切片Mの相対的な移動において、スライドガラスGの横幅方向Wに対して平面視略垂直な方向以外に沿って生じる移動をスライド速度V2によって相殺し、且つスライドガラスGの横幅方向Wに対して平面視略垂直な方向に沿って生じる移動における移動速度V3と、引き上げ速度V4とが等しくなるように調整する。
なお、前述のように、制御部6は搬送傾斜θ1及び基板傾斜θ3に関係なく、搬送角度θ2にのみ依存させてスライド速度V2と引き上げ速度V4とを設定することができる。
【0041】
次に、本実施形態の薄切片標本作製装置1を用いた薄切片Mの作製方法について説明する。図6は、本発明に係る薄切片Mの作製方法を示すフローチャートである。
まず、液槽2内の液体2aに把持ロボット3によってスライドガラスGを浸ける基板セット工程S1を行う。まず、把持ロボット3は、スライドガラス収納棚9aに収納されている未使用のスライドガラスGを1枚把持する。即ち、水平ステージ41と昇降ステージ43とをそれぞれ水平ガイドレール42及びZ軸ガイドレール44とに沿って移動させ、水平ステージ41に取り付けられている把持ロボット3をスライドガラス収納棚9aのスライドガラスGに対して位置決めし、把持ロボット3の一対のアーム3aを互いに接近させることで、スライドガラスGを把持する。そして、引き上げ機構4を同様に制御し、把持したスライドガラスGを液槽2内の液体2aに浸ける。この際、引き上げ機構4は、スライドガラスGを無端ベルト20の近傍に位置させると共に、搬送されてくる薄切片Mの一辺に対して、スライドガラスGの横幅方向Wが平行になるように向きを調整した状態でスライドガラスGをセットする。
【0042】
基板セット工程S1と並行して、図示しない切断刃によって包埋ブロックBから切断された薄切片Mを無端ベルト20の上面20aに進行方向Tに対して搬送角度θ2だけ斜めになった状態で載置する。続いて、図示しない走行部を駆動させることにより、無端ベルト20を進行方向Tに搬送速度V1で走行させ、上面20aに載置された薄切片Mを液槽2に向けて搬送する。
【0043】
そして、薄切片Mの搬送と連続的に離脱工程S2を行う。即ち、図7及び図8に示すように、無端ベルト20は一端側が液体2aに浸かっているので、液槽2まで搬送されてきた薄切片Mは、液体2aに浸かった状態となる。これにより、薄切片Mは、無端ベルト20から離脱して液体2aの液面2bに浮かんだ状態となる。無端ベルト20から離脱した薄切片Mは、液体2aに浮かびながら、液体2aの表面張力によって伸展される。
【0044】
無端ベルト20が更に走行を続けると、液面2bに浮かんだ薄切片Mの一部は、無端ベルト20の近傍にセットされているスライドガラスGの表面に付着する。しかも、このスライドガラスGは、基板セット工程S1において、横幅方向Wが薄切片Mの一辺に対して平行になるようにセットされているので、薄切片Mの一辺がスライドガラスGの表面に付着する。このように、薄切片Mを無端ベルト20から離脱させて液面2bに浮かべる離脱工程S2を行うことで、薄切片Mの一辺をスライドガラスGの表面に付着させることができる。
【0045】
続いて、引き上げ工程S3を行う。即ち、まず、制御部6が、前述の方法により、スライドガラスGの表面に、離脱工程S2で液面2bに浮かんだ薄切片Mの一辺が接触したタイミングを検出する。そして、検出と共に、図9から図11に示すように、スライドガラスGを液面2bから斜めに引き上げる。即ち、水平ステージ41及び昇降ステージ43をそれぞれ水平ガイドレール42及びZ軸ガイドレール44に沿って移動させることで、スライドガラスGを基板傾斜θ3だけ斜めに引き上げる。これにより、無端ベルト20から徐々に離脱して液面2bに浮かび始める薄切片Mを、浮かんだそばからスライドガラスG上に掬い取って転写することができる。その結果、スライドガラスG上に薄切片Mを完全に掬い取って薄切片標本Hを作製することができる。
【0046】
また、特に、基板セット工程S1の際には、引き上げ工程S3において薄切片Mの一辺がスライドガラスGの表面に接触したときに薄切片Mの一部が無端ベルト20の上面20aに残った状態であるようにスライドガラスGをセットする。従って、薄切片M全体を完全に液面2bに浮かべることがないため、薄切片Mの配向が変化する前にスライドガラスGに受け渡すことができる。これにより、引き上げ工程S3の際に、薄切片Mの配向が変化することがない。
【0047】
更に、引き上げ工程S3の際、制御部6がスライドガラスGと薄切片Mとの接触を検出した時点で、引き上げ機構4の作動と共に、スライド機構5を作動させ、無端ベルト20をスライド方向Xに沿ってスライド移動させる。即ち、スライド機構5は、フレーム20cを介して、無端ベルト20が巻回されている各ローラを、スライド方向Xに沿ってスライド移動させる。
この際、制御部6は、無端ベルト20によって薄切片Mが液面2bに搬送されることで生ずるスライドガラスGに対する薄切片Mの相対的な移動が、スライドガラスGの横幅方向Wに対して平面視略垂直な方向に沿ってのみ所定の移動速度V3で生じ、且つ該移動速度V3と、薄切片Mが引き上げ機構4によって引き上げ方向Yに沿って引き上げられる引き上げ速度V4とが略等しくなるように、引き上げ機構4とスライド機構5とを制御する。
従って、図5に示すように、まだ無端ベルト20の上面20aに残っている薄切片Mの一部P1と、無端ベルト20から離脱して、スライドガラスGの表面に既に転写された薄切片Mの一部P2とには、いずれも同一のスライドガラスGの横幅方向Wに対して平面視略垂直な方向に沿って同一の移動速度V3が働く。また、スライドガラスGに対して薄切片Mがこの方向以外に相対的に移動することは無い。
【0048】
即ち、1枚の薄切片M内において、まだ転写されていない一部P1と、既に転写された一部P2との間で移動速度及び移動方向の差が発生しない。更に、前述のように、薄切片Mの一辺がスライドガラスGの横幅方向Wに平行な状態で転写されているので、スライドガラスGと薄切片Mとの位置関係は、スライドガラスGの横幅方向Wにおいて変わることはない。従って、薄切片Mが斜めになった状態で無端ベルト20によって搬送されてきたとしても、薄切片MをスライドガラスGの長手方向に沿って平行に掬い上げることが可能となる。
【0049】
最後に、引き上げた薄切片Mは、引き上げ機構4によって、薄切片標本収納棚9bに収納される。即ち、スライド機構5の作動と共に、水平ステージ41及び昇降ステージ43をそれぞれ水平ガイドレール42及びZ軸ガイドレール44に沿って移動させ、薄切片標本収納棚9bの所定の位置に把持ロボット3を位置決めし、一対のアーム3aの挟持を開放して、薄切片Mを収納する。
【0050】
前述したように、この発明に係る薄切片標本作製装置1及び薄切片標本作製方法によれば、無端ベルト20に対して斜めになった状態で搬送されてくる薄切片Mを、該薄切片Mの向きをスライドガラスGに対して平行にした状態で掬い取ることができる。即ち、薄切片Mの向きを自動的に配向制御した状態で掬い取ることができるので、高品質な薄切片標本Hを作製することが可能となる。
また、引き上げ機構4及びスライド機構5を作動させるだけの簡単な構成であり、薄切片Mの向きを毎回確認して、これに対応した制御を行うといった複雑な制御とは異なるので、構成の簡略化を図ることができ、低コストで実現することができる。
また、作業者は従来のように薄切片Mの向きを確認しながら該薄切片Mを掬い取る必要がないので、作業者にかかる負担を大幅に軽減でき、作業効率を向上することができる。更に、薄切片Mを液面2b上から掬い取る際に、薄切片Mを液体2aの表面張力を利用して伸展させることができる。この点においても、高品質化を図ることができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0052】
例えば、本実施形態において、スライド方向Xは、液槽2内の液体2aの液面2bに平行な面内で進行方向Tと略垂直な方向としてスライド機構5を作動させたが、これに限らない。例えば、薄切片Mの一辺に沿ったスライド方向X1(即ち、スライドガラスGの横幅方向W)に沿って搬送させてもかまわない。この場合、図12に示すように、制御部6は、スライド速度V21と引き上げ速度V41のそれぞれの速さを、搬送角度θ2を用いて、|V21|=|V1|cosθ2、|V41|=|V31|=|V1|sinθ2、にそれぞれ制御する。
また、スライド方向Xは、これら以外の方向でもかまわない。その場合、制御部6によって、別の演算方法にてスライド機構5及び引き上げ機構4の速度制御をする必要がある。
【0053】
また、本実施形態では、引き上げ工程S3の際に、無端ベルト20をスライド移動させたが、これに限らず、スライドガラスGを把持している把持ロボット3をスライド移動させても構わない。
【0054】
また、本実施形態では、スライド機構5を設けたが、スライド機構5は無くても構わない。この際には、例えば、無端ベルト20の上面20aに、無端ベルト20に沿って薄切片Mを載置するなどすればよい。
【0055】
また、本実施形態では、スライドガラスGと液面2bとがなす角度である基板傾斜θ3だけ、引き上げ方向Yが液面2bより傾けた方向であったが、これに限らない。例えば、基板傾斜θ3が80度以上のときは、引き上げ方向Yが鉛直方向でもかまわない。また、スライドガラスGを無端ベルト20方向に引き上げても構わない。この際には、水平ガイドレール42などの配置を変更する必要がある。
【0056】
また、本実施形態では、スライドガラスGの長手方向の一端が液槽2内の液体2aに浸漬されているが、これに限らない。例えば、把持ロボット3によって把持する方向を90度回転させ、スライドガラスGの短辺方向の一端を浸漬するように把持しても構わない。この際には、無端ベルト20及び把持ロボット3の配置の変更を要する場合もある。
【0057】
また、本実施形態では、薄切片Mが、図13に示すように、平面視矩形状であったが、これに限らない。例えば、仮想平面Fに接するように収まった状態で無端ベルト20の上面20aに載置することができれば、図14に示すような平面視矩形状ではない薄切片M1であっても構わない。
【0058】
また、本実施形態において、制御部6は、無端ベルト20から薄切片Mが離れた後もスライド機構5及び引き上げ機構4をそれぞれスライド方向X及び引き上げ方向Yに作動するように制御していた。しかし、無端ベルト20から薄切片Mが離れた後、スライド機構5は作動させなくてもよく、また、引き上げ機構4は薄切片MがスライドガラスGに転写されるように、Z軸方向に作動させるだけでもかまわない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る薄切片標本作製装置で搬送される薄切片を示す図である。
【図2】本発明に係る薄切片標本作製装置の一実施形態を示す側面図である。
【図3】図2に示す薄切片標本作製装置の液槽付近を側面図である。
【図4】図2に示す薄切片標本作製装置の液槽付近の上面図である。
【図5】図2に示す薄切片標本作製装置の制御部の作用を説明するための図である。
【図6】本発明に係る薄切片標本作製方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図7】図2に示す薄切片標本作製装置により薄切片標本を作製する際の、離脱工程を説明するための図である。
【図8】図2に示す薄切片標本作製装置により薄切片標本を作製する際の、離脱工程を説明するための図である。
【図9】図2に示す薄切片標本作製装置により薄切片標本を作製する際の、引き上げ工程を説明するための図である。
【図10】図2に示す薄切片標本作製装置により薄切片標本を作製する際の、引き上げ工程を説明するための図である。
【図11】図2に示す薄切片標本作製装置により薄切片標本を作製する際の、引き上げ工程を説明するための図である。
【図12】本発明に係る薄切片標本作製方法の変形例における制御部の作用を説明するための図である。
【図13】図1に示した薄切片の上面図である。
【図14】本発明に係る薄切片標本作成方法において配向制御して掬い上げることが可能な薄切片の変形例を示す上面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 薄切片標本作製装置
2 液槽
2a 液体
2b 液面
20 無端ベルト(搬送体)
20a 無端ベルトの上面
3 把持ロボット(把持部)
4 引き上げ機構
5 スライド機構
6 制御部
B 包埋ブロック
F 仮想平面
G スライドガラス(基板)
H 薄切片標本
M、M1 薄切片
S 生体試料
T 進行方向
W 基板の横幅方向
X、X1 スライド方向
Y 引き上げ方向
S1 基板セット工程
S2 離脱工程
S3 引き上げ工程
V1 搬送速度
V2、V21 スライド速度
V3 移動速度
V4、V41 引き上げ速度
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料が包埋された包埋ブロックを薄切して作製された薄切片をスライドガラス等の基板に転写して、薄切片標本を作製する薄切片標本作製装置及び薄切片標本作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、人体や実験動物等から取り出した生体試料を検査する方法の1つとして、該生体試料を極薄に薄切して各種の染色を施した後、顕微鏡観察によって検査する方法が知られている。この検査方法は、主に、新薬開発における臨床試験に先立つ検査の1つである、毒性検査や病理検査等を行う際に採られる手法として知られている。
この検査を行うにあたって一般的には、軟らかい組織や細胞の形態を壊さないように生体試料を薄切りするため、まず生体試料を予めパラフィン等の包埋材で包埋して包埋ブロックとしている。そして、この包埋ブロックを2μm〜5μm程度の厚さに薄くスライス(薄切)することで、薄切片を作製する。こうすることで、検査対象物が軟らかい組織等であっても、形態を壊さずに極薄にスライスすることができる。
そして、この薄切片を搬送した後、スライドガラス等の基板上に固定することで、薄切片標本とすることができる。通常、作業者は、この薄切片標本を顕微鏡観察することで、各種の検査を行っている。
また、例えば、前臨床試験においては、数百個の包埋ブロックから作製された膨大な数の薄切片を使用する場合がある。このため、作業者は、薄切片の作製に膨大な工数をとられていた。この工数を少しでも削減するために、薄切片作製における一連の工程を自動化し、連続して薄切片を作製することが試みられている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の装置は、作製された薄切片を自動的に液槽に搬送する装置である。よって、この装置を利用することで、薄切片作製において薄切片を搬送する工数を減らすことができる。
【特許文献1】特開平5−273094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述した従来の装置及び方法ではまだ以下の課題が残されていた。
初めに、高品質な薄切片標本を作製するためには、薄切片をスライドガラス等の基板ですくって該基板上に載置する際に、基板の向きと薄切片の向きとを一致させる必要があった。通常、この作業は作業者が行っている。
【0005】
ここで、特許文献1に記載の装置においては、薄切片全体を完全に液面に浮かべているため、薄切片の配向が任意に変化する。そのため、該装置で作製された薄切片をスライドガラスに掬い取る作業は、作業者によって以下のように行われていた。即ち、まず、一旦水中に基板を入れた後、水面に浮かんでいる薄切片の向きに基板の向きを合わせながら薄切片の一部を基板に接触させる。そして、ゆっくりと基板を水中から引き上げることで、基板の向きと薄切片の向きとを合わせながら、基板上に薄切片を掬い取ることができるものであった。
【0006】
このように、従来の装置においては、作業者が1枚1枚薄切片の向きを合わせる必要があるので、集中力を要し、非常に手間のかかる作業であった。特に、取り扱う薄切片の数が膨大である上、水面の揺らぎ等の影響を受けて薄切片の姿勢が容易に変化するので、作業者にかかる負担が大きいものであった。
【0007】
即ち、特許文献1に記載されている装置を利用することで、薄切片の搬送における作業者の負担を若干減らすことができるが、薄切片を掬い取る作業については自動化を行うことが困難であった。つまり、ロボット等を利用して自動化を行う場合には、水面に浮かんだ薄切片の位置や向き等を常に確認し、これらの情報に基づいて基板の位置や向きを制御しながら薄切片を掬い取る等の複雑な制御を行う必要がある。ところが、これを行うには高度なプログラミング制御や複雑な機械的機構等が必要とされ、現実的に実現させることが難しいものであった。そのため、薄切片の向きを確認しながら該薄切片を基板上に載置する作業に関しては、かわらず作業者が行う必要があった。
【0008】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、簡単な構成で、薄切片を、基板に対して平行になるように薄切片の向きを配向制御しながら基板上に掬い取って薄切片標本を作製することができ、作業者にかかる負担を極力減らすことができる薄切片標本作製装置及び薄切片標本作製方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明は、生体試料が包埋された包埋ブロックを薄切して作製され、搬送体の上面において矩形状の仮想平面内に接するように収まった状態で載置された後に搬送されてくる薄切片が該搬送体から離脱しながら液面上に浮かぶ際に、該薄切片を基板上に掬い取って薄切片標本を作製する薄切片標本作製装置であって、前記搬送体の進行方向側に配置され、貯留した液体に搬送体の端部が浸かった液槽と、前記基板を把持すると共に、搬送されてくる前記薄切片が収まる前記仮想平面の一辺に対して基板の横幅方向が平行になるように、該基板を前記液体に浸けた状態で前記搬送体の近傍に位置させる把持部と、該把持部を、把持している前記基板の横幅方向に対して平面視略垂直な引き上げ方向に沿って前記液体から斜めに引き上げる引き上げ機構と、前記引き上げ機構の作動タイミング及び引き上げ速度を制御する制御部と、を備え、前記把持部が、前記薄切片が前記搬送体から離脱して前記液体の液面に浮かび、前記薄切片が収まる前記仮想平面の一辺が前記基板の表面に接触したときに、前記薄切片の一部が前記搬送体の上面に残った状態であるように前記基板を把持し、前記制御部が、前記薄切片が前記搬送体から離脱して前記液体の液面に浮かび、前記薄切片が収まる前記仮想平面の一辺が前記基板の表面に接触したときに、前記搬送体によって前記薄切片が前記液面に搬送されることで生ずる前記基板に対する前記薄切片の相対的な移動が、前記基板の横幅方向に対して平面視略垂直な方向に沿ってのみ所定の移動速度で生じ、且つ該移動速度と、前記薄切片が前記引き上げ機構によって前記引き上げ方向に沿って引き上げられる引き上げ速度とが略等しくなるように、前記引き上げ機構を制御すること、を特徴とする。
【0010】
また、本発明は、生体試料が包埋された包埋ブロックを薄切して作製され、搬送体の上面において矩形状の仮想平面内に接するように収まった状態で載置された後に搬送されてくる薄切片が該搬送体から離脱しながら液面上に浮かぶ際に、該薄切片を基板上に掬い取って薄切片標本を作製する薄切片標本作製方法であって、前記搬送体の進行方向側に配置され、貯留した液体に搬送体の端部が浸かった液槽内において、搬送されてくる薄切片が収まる仮想平面の一辺に対して基板の横幅方向が平行になるように該基板を液体に浸けた状態で搬送体の近傍に位置させる基板セット工程と、該基板セット工程後、前記薄切片を前記液槽に向けて搬送すると共に、該薄切片を搬送体から離脱させて前記液体の液面に浮かべる離脱工程と、該離脱工程で前記液面に浮かんだ前記薄切片が収まる前記仮想平面の一辺が前記基板の表面に接触したときに、前記基板を横幅方向に対して平面視略垂直な引き上げ方向に沿って前記液体から斜めに引き上げて薄切片を基板上に掬い取る引き上げ工程と、を備え、前記基板セット工程の際には、前記引き上げ工程において前記仮想平面の一辺が前記基板の表面に接触したときに前記薄切片の一部が前記搬送体の上面に残った状態であるように前記基板をセットし、前記引き上げ工程の際に、前記搬送体によって前記薄切片が前記液面に搬送されることで生ずる前記基板に対する前記薄切片の相対的な移動が、前記基板の横幅方向に対して平面視略垂直な方向に沿ってのみ所定の移動速度で生じ、且つ該移動速度と、前記薄切片が前記引き上げ機構によって前記引き上げ方向に沿って引き上げられる引き上げ速度とが略等しくなるように、前記基板の作動タイミング及び引き上げ速度を制御すること、を特徴とする。
【0011】
この発明に係る薄切片標本作製装置及び薄切片標本作製方法によれば、まず、搬送体の端部が浸かった液体に、基板を同様に浸けた状態で搬送体の近傍に位置させる基板セット工程を行う。この際、搬送されてくる薄切片が接するように収まった仮想平面の一辺(短辺或いは長辺)に対して、基板の横幅方向が平行になるように向きを調整した状態でセットする。
基板をセットした後、搬送体を作動させて、上面に置かれた薄切片を進行方向に沿って液槽まで搬送する。この際、搬送体は端部が液体に浸かっているので、液槽まで搬送されてきた薄切片は、液体に浸かった状態となる。これにより、薄切片は、搬送体から離脱して液体の液面に浮かんだ状態となる。すると、液面に浮かんだ薄切片の一部は、搬送体の近傍にセットされている基板の表面に付着する。しかも、この基板は、横幅方向が仮想平面の一辺に対して平行になるようにセットされており、且つ薄切片は仮想平面に接するように収まっているので、薄切片の一辺が基板の表面に付着する。このように、薄切片を搬送体から離脱させて液面に浮かべる離脱工程を行うことで、薄切片の一辺を基板の表面に付着させることができる。
【0012】
そして、薄切片の一辺が基板の表面に付着したタイミングで、基板を液面から斜めに引き上げる引き上げ工程を行う。この引き上げ工程を行うことで、搬送体から徐々に離脱して液面に浮かび始める薄切片を、浮かんだそばから基板上に掬い取って転写することができる。その結果、基板上に薄切片を完全に掬い取って薄切片標本を作製することができる。
【0013】
特に、前述した基板セット工程の際には、引き上げ工程において薄切片の一辺が基板の表面に接触したときに薄切片の一部が搬送体の上面に残った状態であるように、把持部が基板をセットする。従って、薄切片全体を完全に液面に浮かべることがないため、薄切片の配向が変化する前に基板に受け渡すことができる。これにより、引き上げ工程の際に、薄切片の配向が変化することがない。
【0014】
更に、前述した引き上げ工程の際、薄切片の一辺が基板の表面に接触した時点で、引き上げ機構の作動タイミングと引き上げ速度を以下に示すように制御する。
即ち、搬送体によって薄切片が液面に搬送されることで生ずる基板に対する薄切片の相対的な移動が、基板の横幅方向に対して平面視略垂直な方向に沿ってのみ所定の移動速度で生じ、且つ該移動速度と、薄切片が引き上げ機構によって引き上げ方向に沿って引き上げられる引き上げ速度とが略等しくなるように制御する。
従って、まだ搬送体の上面に残っている薄切片の一部と、搬送体から離脱して基板の表面に既に転写された薄切片の一部とには、いずれも同一の基板の横幅方向に対して平面視略垂直な方向に沿って同一の移動速度が働く。また、基板に対して薄切片がこの方向以外に相対的に移動することは無い。
【0015】
つまり、1枚の薄切片内において、まだ転写されていない一部と、既に転写された一部との間で移動速度及び移動方向の差が発生しない。更に、前述のように、薄切片の一辺が基板の横幅方向に平行な状態で転写されているので、基板と薄切片との位置関係は基板の横幅方向において変わることはない。従って、薄切片を基板に沿って平行に掬い上げることが可能となる。
【0016】
前述したように、この発明に係る薄切片標本作製装置及び薄切片標本作製方法によれば、薄切片の向きを基板に対して平行にした状態で、該薄切片を掬い取ることができる。即ち、薄切片の向きを自動的に配向制御した状態で掬い取ることができるので、高品質な薄切片標本を作製することが可能となる。
また、引き上げ機構を作動させるだけの簡単な構成であり、薄切片の向きを毎回確認して、これに対応した制御を行うといった複雑な制御とは異なるので、構成の簡略化を図ることができ、低コストで実現することができる。
また、作業者は従来のように薄切片の向きを確認しながら該薄切片を掬い取る必要がないので、作業者にかかる負担を大幅に軽減でき、作業効率を向上することができる。更に、薄切片を液面上から掬い取る際に、薄切片を液体の表面張力を利用して伸展させることができる。この点においても、高品質化を図ることができる。
【0017】
また、上記本発明における薄切片標本作製装置において、前記搬送体と前記把持部とを前記液面に平行な面内に沿って相対的にスライド移動させるスライド機構を備え、前記制御部は、前記スライド機構の作動タイミング、スライド方向及びスライド速度を制御することで、前記基板に対する前記薄切片の相対的な移動を制御すること、が好ましい。
【0018】
また、上記本発明における薄切片標本作製方法において、前記引き上げ工程の際に、前記搬送体と前記把持部とを前記液面に平行な面内に沿って相対的にスライド移動させ、該スライド移動の作動タイミング、スライド方向及びスライド速度を制御することで、前記基板に対する前記薄切片の相対的な移動を制御すること、が好ましい。
【0019】
この発明に係る薄切片標本作製装置及び薄切片標本作製方法によれば、制御部は、引き上げ工程の際に、搬送体と基板を把持する把持部とを液面に平行な面内に沿って相対的にスライド移動させるスライド機構の作動タイミング、スライド方向及びスライド速度を制御する。
更に、制御部は、スライド機構を制御することで、基板に対する薄切片の相対的な移動を制御する。即ち、制御部は、搬送体によって薄切片が液面に搬送されることで生ずる基板に対する薄切片の相対的な移動が、基板の横幅方向に対して平面視略垂直な方向に沿ってのみ所定の移動速度で生じ、且つ該移動速度と、薄切片が引き上げ機構によって引き上げ方向に沿って引き上げられる引き上げ速度とが略等しくなるように制御する。つまり、制御部は、スライド機構を制御することで、基板に対する薄切片の相対的な移動において、基板の横幅方向に対して平面視略垂直な方向以外に沿って生じる移動を相殺し、且つ基板の横幅方向に対して平面視略垂直な方向に沿って生じる移動の移動速度を調整する。
【0020】
従って、この発明に係る薄切片標本作製装置及び薄切片標本作製方法によれば、スライド機構を作動させるだけの簡単な構成であり、薄切片の向きを毎回確認して、これに対応した制御を行うといった複雑な制御とは異なるので、構成の簡略化を図ることができ、より低コストで高品質な薄切片標本を作製することができる。
【0021】
また、上記本発明における薄切片標本作製装置において、前記制御部は、前記搬送体を前記薄切片の一辺に沿ってスライドさせるように、前記スライド機構を移動させること、が好ましい。
【0022】
また、上記本発明における薄切片標本作製方法において、前記引き上げ工程の際に、前記搬送体を前記薄切片の一辺に沿ってスライドさせること、が好ましい。
【0023】
この発明に係る薄切片標本作製装置及び薄切片標本作製方法によれば、引き上げ工程の際、制御部によって、搬送体を薄切片の一辺に沿ってスライドさせるように、スライド機構を移動させる。これにより、制御部により速度制御をする際に、搬送体の進行方向に対しての薄切片の傾きがわかれば制御することができる。よって、制御部での演算を簡単に行うことができる。
【0024】
また、上記本発明における薄切片標本作製装置において、前記制御部は、前記搬送体を前記進行方向と略垂直な方向に沿ってスライドさせるように、前記スライド機構を移動させること、が好ましい。
【0025】
また、上記本発明における薄切片標本作製方法において、前記引き上げ工程の際に、前記搬送体を前記進行方向と略垂直な方向に沿ってスライドさせること、が好ましい。
【0026】
この発明に係る薄切片標本作製装置及び薄切片標本作製方法によれば、引き上げ工程の際、制御部によって、搬送体を進行方向と略垂直な方向に沿ってスライドさせるように、スライド機構を移動させる。これにより、制御部により速度制御をする際に、搬送体の進行方向に対しての薄切片の傾きがわかれば制御することができる。よって、制御部での演算を簡単に行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の薄切片標本作製装置及び薄切片標本作製方法によれば、簡単な構成で、搬送体に対して薄切片を、基板に対して平行になるように薄切片の向きを配向制御しながら基板上に掬い取って薄切片標本を作製することができ、作業者にかかる負担を極力減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る薄切片標本作製装置1の一実施形態を、図1から図11を参照して説明する。この薄切片標本作製装置1は、生体試料Sが包埋された包埋ブロックBを薄切して作製され、無端ベルト(搬送体)20の上面20aに進行方向Tに対して斜めになった状態で搬送されてくる平面視矩形状の薄切片Mが該無端ベルト20から離脱しながら液面2b上に浮かぶ際に、該薄切片Mをスライドガラス(基板)G上に掬い取って薄切片Mを作製する装置である。
【0029】
初めに、包埋ブロックBは、図1に示すように、ホルマリン固定された生体試料S内の水分をパラフィン置換した後、さらに周囲をパラフィン等の包埋剤Nによってブロック状に固めたものである。これにより、生体試料Sがパラフィン内に包埋された状態となっている。なお、生体試料Sとしては、例えば、人体や実験動物等から取り出した臓器等の組織であり、医療分野、製薬分野、食品分野、生物分野等で適時選択させるものである。
また、薄切片Mは、この包埋ブロックBを図示しない切断刃によって、例えば3μm〜5μmの極薄に薄切することで矩形状に作製されたものである。なお、以降の図面では、説明を平易に行うため、薄切片Mにおける生体試料Sの図示を省略する。
【0030】
本実施形態の薄切片標本作製装置1は、図2に示すように、無端ベルト20の進行方向T側に配置され、貯留した液体2aに無端ベルト20の一端側(端部)が浸かった液槽2と、スライドガラスGを把持すると共に、搬送されてくる薄切片Mの一辺に対してスライドガラスGの横幅方向Wが平行になるように、該スライドガラスGを液体2aに浸けた状態で無端ベルト20の近傍に位置させる把持ロボット(把持部)3と、該把持ロボット3を、把持しているスライドガラスGの長手方向に沿って液体2aから斜めに引き上げる引き上げ機構4と、無端ベルト20を液面2bに平行な面内に沿ってスライド移動させるスライド機構5と、引き上げ機構4及びスライド機構5の作動タイミングを制御すると共に、引き上げ機構4の引き上げ速度V4、スライド機構5のスライド方向X及びスライド速度V2を制御する制御部6と、を備えている。
【0031】
液槽2は、所定の液体2aを貯留している。該液体2aは、無端ベルト20の一端及びスライドガラスGを浸けたときに底面に達しない深さだけ、液槽2に貯留されている。液体2aとしては、例えば、水、お湯などが挙げられる。また、液槽2は、図4に示すように、後述するスライド方向X及び引き上げ方向Yに沿って無端ベルト20及び把持ロボット3が移動するときに干渉しないように、両方向(スライド方向X及び引き上げ方向Y)に十分広く設計されている。
また、無端ベルト20は、図3に示すように、液槽2に浸かった一端側のローラ20bと、図示しない他端側のローラとに、液槽2内の液体2aの液面2bに対して、搬送傾斜θ1だけ傾いた状態で巻回されている。各ローラは、図4に示すように、各ローラの両端に平行に配置された1対のフレーム20cによって、回転自在に軸止されている。そして、無端ベルト20は、図示しない他端側のローラが走行部によって回転されることで、他端側から一端側へ向かう進行方向Tに沿って搬送速度V1で無限走行する。無端ベルト20の上面20aには、図示しない切断刃によって包埋ブロックBから切断された薄切片Mが、進行方向Tに対して搬送角度θ2だけ斜めになった状態で搬送されてくるようになっている。
【0032】
ところで、液槽2の隣には、図2に示すように、未使用のスライドガラスGを予め複数枚収納するスライドガラス収納棚9aと、スライドガラスG上に薄切片Mが転写された薄切片Mを複数枚収納する薄切片標本収納棚9bとが順に設けられている。
【0033】
把持ロボット3は、図2に示すように、一定距離離間した状態で平行に配されると共に、互いの距離を接近離間自在に調整可能な一対のアーム3aを有する。また、把持ロボット3は、鉛直方向であるZ軸回り、及びZ方向に直交する一軸回りにそれぞれ回転可能な状態で、後述する水平ステージ41に取り付けられている。
即ち、把持ロボット3は、一対のアーム3aを接近離間させることによってスライドガラスGの端部を挟持しながら、Z軸回りに回転させることによって搬送されてくる薄切片Mの一辺に対してスライドガラスGの横幅方向Wが平行になるように調整可能である。
【0034】
また、把持ロボット3が取り付けられている水平ステージ41は、図4に示すように、無端ベルト20の進行方向Tに対して平面視、搬送角度θ2だけ傾いた後述する引き上げ方向Y沿った状態で水平方向に延びた水平ガイドレール42に取り付けられている。水平ガイドレール42の直下には、図2に示すように、スライドガラス収納棚9a及び薄切片標本収納棚9bが配置されている。水平ステージ41は、水平ガイドレール42に沿って移動することで、水平方向に沿って移動可能である。更に、水平ガイドレール42は、昇降ステージ43に取り付けられている。そして、この昇降ステージ43は、Z軸方向に延びたZ軸ガイドレール44に取り付けられており、水平ステージ41と同様に、Z軸ガイドレール44に沿って移動することで、Z軸方向に沿って移動可能である。
【0035】
即ち、昇降ステージ43と水平ステージ41とを適宜作動させることで、水平ステージ41に取り付けられている把持ロボット3によって、スライドガラス収納棚9aから未使用のスライドガラスGを把持することができる。そして、スライドガラスGを液槽2内の液体2aに浸けた後、液槽2内に浮いている薄切片Mを、把持したスライドガラスG上に転写して、スライドガラスGの長手方向に沿って液体2aから斜めに引き上げながら掬い上げることで薄切片Mを作製することができるようになっている。更には、作製した薄切片Mを薄切片標本収納棚9bに収納することができるようになっている。これについては、後に詳細に説明する。
つまり、前述した水平ステージ41、水平ガイドレール42、昇降ステージ43及びZ軸ガイドレール44は、引き上げ機構4を構成している。なお、引き上げ機構4は、制御部6によって後述するように制御される。
【0036】
スライド機構5は、図4に示すように、フレーム20cを介して、無端ベルト20が巻回されている各ローラを、液面2bと平行な面内で進行方向Tと略垂直なスライド方向Xに沿って移動させる機構である。スライド機構5としては、例えば、フレーム20cを支持する図示しない筐体と、該筐体を支持する図示しないステージを設け、ステージをサーボモータで移動させる機構などが挙げられる。なお、スライド機構5は、制御部6によって後述するように制御される。
【0037】
制御部6は、引き上げ機構4及びスライド機構5の作動タイミングを制御すると共に、引き上げ機構4の引き上げ速度V4及びスライド機構5のスライド速度V2を以下に示すように制御する。
即ち、制御部6は、図5に示すように、無端ベルト20によって薄切片Mが液面2bに搬送されることで生ずるスライドガラスGに対する薄切片Mの相対的な移動が、スライドガラスGの横幅方向Wに対して平面視略垂直な方向に沿ってのみ所定の移動速度V3で生じ、且つ該移動速度V3と、薄切片Mが引き上げ機構4によって引き上げ方向Yに沿って引き上げられる引き上げ速度V4とが略等しくなるように、薄切片Mの一辺がスライドガラスGの表面に付着したタイミングで、引き上げ機構4及びスライド機構5を制御する。以下に詳細を説明する。
【0038】
まず、制御部6は、引き上げ機構4及びスライド機構5の作動タイミングを検出する。作動タイミングは、薄切片Mの一辺が接触したタイミングである。検出方法としては、例えば、無端ベルト20に薄切片Mを載置したタイミングを起点として、無端ベルト20の搬送速度V1と、無端ベルト20が薄切片Mを搬送する距離と、薄切片Mの大きさと、把持ロボット3によって把持されているスライドガラスGの位置とからタイミングを演算して求める方法がある。また、図示しない光センサを配置し、所定の位置で薄切片Mを検出し、無端ベルト20の搬送速度V1と、把持ロボット3によって把持されているスライドガラスGの位置とからタイミングを演算する方法などでもかまわない。
【0039】
そして、薄切片MとスライドガラスGとの接触を検出した制御部6は、移動速度V3と、引き上げ速度V4とが略等しくなるように、引き上げ機構4とスライド機構5とを制御する。より具体的には、引き上げ機構4の水平ステージ41及び昇降ステージ43をそれぞれ水平ガイドレール42及びZ軸ガイドレール44に沿って移動させ、スライドガラスGと液面2bとがなす基板傾斜θ3だけ水平方向に対して斜めに引き上げる。即ち、引き上げ方向Yは、水平方向から基板傾斜θ3だけ傾いている。また、並行して、スライド機構5を作動させ、無端ベルト20をスライド方向Xにスライドさせる。そして、スライド速度V2と引き上げ速度V4のそれぞれの速さを、搬送角度θ2を用いて、|V2|=|V1|cosθ2/sinθ2、|V4|=|V3|=|V1|/sinθ2、にそれぞれ制御する。
【0040】
上記に示したようにスライド速度V2を制御することで、無端ベルト20によって薄切片Mが液面2bに搬送されることで生ずるスライドガラスGに対する薄切片Mの相対的な移動が、搬送速度V1とスライド速度V2との差分である、スライドガラスGの横幅方向Wに対して平面視略垂直な方向に沿った移動速度V3に制御される。また、該移動速度V3に合わせて、引き上げ速度V4が制御される。
つまり、制御部6は、スライド機構5及び引き上げ機構4を制御することで、スライドガラスGに対する薄切片Mの相対的な移動において、スライドガラスGの横幅方向Wに対して平面視略垂直な方向以外に沿って生じる移動をスライド速度V2によって相殺し、且つスライドガラスGの横幅方向Wに対して平面視略垂直な方向に沿って生じる移動における移動速度V3と、引き上げ速度V4とが等しくなるように調整する。
なお、前述のように、制御部6は搬送傾斜θ1及び基板傾斜θ3に関係なく、搬送角度θ2にのみ依存させてスライド速度V2と引き上げ速度V4とを設定することができる。
【0041】
次に、本実施形態の薄切片標本作製装置1を用いた薄切片Mの作製方法について説明する。図6は、本発明に係る薄切片Mの作製方法を示すフローチャートである。
まず、液槽2内の液体2aに把持ロボット3によってスライドガラスGを浸ける基板セット工程S1を行う。まず、把持ロボット3は、スライドガラス収納棚9aに収納されている未使用のスライドガラスGを1枚把持する。即ち、水平ステージ41と昇降ステージ43とをそれぞれ水平ガイドレール42及びZ軸ガイドレール44とに沿って移動させ、水平ステージ41に取り付けられている把持ロボット3をスライドガラス収納棚9aのスライドガラスGに対して位置決めし、把持ロボット3の一対のアーム3aを互いに接近させることで、スライドガラスGを把持する。そして、引き上げ機構4を同様に制御し、把持したスライドガラスGを液槽2内の液体2aに浸ける。この際、引き上げ機構4は、スライドガラスGを無端ベルト20の近傍に位置させると共に、搬送されてくる薄切片Mの一辺に対して、スライドガラスGの横幅方向Wが平行になるように向きを調整した状態でスライドガラスGをセットする。
【0042】
基板セット工程S1と並行して、図示しない切断刃によって包埋ブロックBから切断された薄切片Mを無端ベルト20の上面20aに進行方向Tに対して搬送角度θ2だけ斜めになった状態で載置する。続いて、図示しない走行部を駆動させることにより、無端ベルト20を進行方向Tに搬送速度V1で走行させ、上面20aに載置された薄切片Mを液槽2に向けて搬送する。
【0043】
そして、薄切片Mの搬送と連続的に離脱工程S2を行う。即ち、図7及び図8に示すように、無端ベルト20は一端側が液体2aに浸かっているので、液槽2まで搬送されてきた薄切片Mは、液体2aに浸かった状態となる。これにより、薄切片Mは、無端ベルト20から離脱して液体2aの液面2bに浮かんだ状態となる。無端ベルト20から離脱した薄切片Mは、液体2aに浮かびながら、液体2aの表面張力によって伸展される。
【0044】
無端ベルト20が更に走行を続けると、液面2bに浮かんだ薄切片Mの一部は、無端ベルト20の近傍にセットされているスライドガラスGの表面に付着する。しかも、このスライドガラスGは、基板セット工程S1において、横幅方向Wが薄切片Mの一辺に対して平行になるようにセットされているので、薄切片Mの一辺がスライドガラスGの表面に付着する。このように、薄切片Mを無端ベルト20から離脱させて液面2bに浮かべる離脱工程S2を行うことで、薄切片Mの一辺をスライドガラスGの表面に付着させることができる。
【0045】
続いて、引き上げ工程S3を行う。即ち、まず、制御部6が、前述の方法により、スライドガラスGの表面に、離脱工程S2で液面2bに浮かんだ薄切片Mの一辺が接触したタイミングを検出する。そして、検出と共に、図9から図11に示すように、スライドガラスGを液面2bから斜めに引き上げる。即ち、水平ステージ41及び昇降ステージ43をそれぞれ水平ガイドレール42及びZ軸ガイドレール44に沿って移動させることで、スライドガラスGを基板傾斜θ3だけ斜めに引き上げる。これにより、無端ベルト20から徐々に離脱して液面2bに浮かび始める薄切片Mを、浮かんだそばからスライドガラスG上に掬い取って転写することができる。その結果、スライドガラスG上に薄切片Mを完全に掬い取って薄切片標本Hを作製することができる。
【0046】
また、特に、基板セット工程S1の際には、引き上げ工程S3において薄切片Mの一辺がスライドガラスGの表面に接触したときに薄切片Mの一部が無端ベルト20の上面20aに残った状態であるようにスライドガラスGをセットする。従って、薄切片M全体を完全に液面2bに浮かべることがないため、薄切片Mの配向が変化する前にスライドガラスGに受け渡すことができる。これにより、引き上げ工程S3の際に、薄切片Mの配向が変化することがない。
【0047】
更に、引き上げ工程S3の際、制御部6がスライドガラスGと薄切片Mとの接触を検出した時点で、引き上げ機構4の作動と共に、スライド機構5を作動させ、無端ベルト20をスライド方向Xに沿ってスライド移動させる。即ち、スライド機構5は、フレーム20cを介して、無端ベルト20が巻回されている各ローラを、スライド方向Xに沿ってスライド移動させる。
この際、制御部6は、無端ベルト20によって薄切片Mが液面2bに搬送されることで生ずるスライドガラスGに対する薄切片Mの相対的な移動が、スライドガラスGの横幅方向Wに対して平面視略垂直な方向に沿ってのみ所定の移動速度V3で生じ、且つ該移動速度V3と、薄切片Mが引き上げ機構4によって引き上げ方向Yに沿って引き上げられる引き上げ速度V4とが略等しくなるように、引き上げ機構4とスライド機構5とを制御する。
従って、図5に示すように、まだ無端ベルト20の上面20aに残っている薄切片Mの一部P1と、無端ベルト20から離脱して、スライドガラスGの表面に既に転写された薄切片Mの一部P2とには、いずれも同一のスライドガラスGの横幅方向Wに対して平面視略垂直な方向に沿って同一の移動速度V3が働く。また、スライドガラスGに対して薄切片Mがこの方向以外に相対的に移動することは無い。
【0048】
即ち、1枚の薄切片M内において、まだ転写されていない一部P1と、既に転写された一部P2との間で移動速度及び移動方向の差が発生しない。更に、前述のように、薄切片Mの一辺がスライドガラスGの横幅方向Wに平行な状態で転写されているので、スライドガラスGと薄切片Mとの位置関係は、スライドガラスGの横幅方向Wにおいて変わることはない。従って、薄切片Mが斜めになった状態で無端ベルト20によって搬送されてきたとしても、薄切片MをスライドガラスGの長手方向に沿って平行に掬い上げることが可能となる。
【0049】
最後に、引き上げた薄切片Mは、引き上げ機構4によって、薄切片標本収納棚9bに収納される。即ち、スライド機構5の作動と共に、水平ステージ41及び昇降ステージ43をそれぞれ水平ガイドレール42及びZ軸ガイドレール44に沿って移動させ、薄切片標本収納棚9bの所定の位置に把持ロボット3を位置決めし、一対のアーム3aの挟持を開放して、薄切片Mを収納する。
【0050】
前述したように、この発明に係る薄切片標本作製装置1及び薄切片標本作製方法によれば、無端ベルト20に対して斜めになった状態で搬送されてくる薄切片Mを、該薄切片Mの向きをスライドガラスGに対して平行にした状態で掬い取ることができる。即ち、薄切片Mの向きを自動的に配向制御した状態で掬い取ることができるので、高品質な薄切片標本Hを作製することが可能となる。
また、引き上げ機構4及びスライド機構5を作動させるだけの簡単な構成であり、薄切片Mの向きを毎回確認して、これに対応した制御を行うといった複雑な制御とは異なるので、構成の簡略化を図ることができ、低コストで実現することができる。
また、作業者は従来のように薄切片Mの向きを確認しながら該薄切片Mを掬い取る必要がないので、作業者にかかる負担を大幅に軽減でき、作業効率を向上することができる。更に、薄切片Mを液面2b上から掬い取る際に、薄切片Mを液体2aの表面張力を利用して伸展させることができる。この点においても、高品質化を図ることができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0052】
例えば、本実施形態において、スライド方向Xは、液槽2内の液体2aの液面2bに平行な面内で進行方向Tと略垂直な方向としてスライド機構5を作動させたが、これに限らない。例えば、薄切片Mの一辺に沿ったスライド方向X1(即ち、スライドガラスGの横幅方向W)に沿って搬送させてもかまわない。この場合、図12に示すように、制御部6は、スライド速度V21と引き上げ速度V41のそれぞれの速さを、搬送角度θ2を用いて、|V21|=|V1|cosθ2、|V41|=|V31|=|V1|sinθ2、にそれぞれ制御する。
また、スライド方向Xは、これら以外の方向でもかまわない。その場合、制御部6によって、別の演算方法にてスライド機構5及び引き上げ機構4の速度制御をする必要がある。
【0053】
また、本実施形態では、引き上げ工程S3の際に、無端ベルト20をスライド移動させたが、これに限らず、スライドガラスGを把持している把持ロボット3をスライド移動させても構わない。
【0054】
また、本実施形態では、スライド機構5を設けたが、スライド機構5は無くても構わない。この際には、例えば、無端ベルト20の上面20aに、無端ベルト20に沿って薄切片Mを載置するなどすればよい。
【0055】
また、本実施形態では、スライドガラスGと液面2bとがなす角度である基板傾斜θ3だけ、引き上げ方向Yが液面2bより傾けた方向であったが、これに限らない。例えば、基板傾斜θ3が80度以上のときは、引き上げ方向Yが鉛直方向でもかまわない。また、スライドガラスGを無端ベルト20方向に引き上げても構わない。この際には、水平ガイドレール42などの配置を変更する必要がある。
【0056】
また、本実施形態では、スライドガラスGの長手方向の一端が液槽2内の液体2aに浸漬されているが、これに限らない。例えば、把持ロボット3によって把持する方向を90度回転させ、スライドガラスGの短辺方向の一端を浸漬するように把持しても構わない。この際には、無端ベルト20及び把持ロボット3の配置の変更を要する場合もある。
【0057】
また、本実施形態では、薄切片Mが、図13に示すように、平面視矩形状であったが、これに限らない。例えば、仮想平面Fに接するように収まった状態で無端ベルト20の上面20aに載置することができれば、図14に示すような平面視矩形状ではない薄切片M1であっても構わない。
【0058】
また、本実施形態において、制御部6は、無端ベルト20から薄切片Mが離れた後もスライド機構5及び引き上げ機構4をそれぞれスライド方向X及び引き上げ方向Yに作動するように制御していた。しかし、無端ベルト20から薄切片Mが離れた後、スライド機構5は作動させなくてもよく、また、引き上げ機構4は薄切片MがスライドガラスGに転写されるように、Z軸方向に作動させるだけでもかまわない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る薄切片標本作製装置で搬送される薄切片を示す図である。
【図2】本発明に係る薄切片標本作製装置の一実施形態を示す側面図である。
【図3】図2に示す薄切片標本作製装置の液槽付近を側面図である。
【図4】図2に示す薄切片標本作製装置の液槽付近の上面図である。
【図5】図2に示す薄切片標本作製装置の制御部の作用を説明するための図である。
【図6】本発明に係る薄切片標本作製方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図7】図2に示す薄切片標本作製装置により薄切片標本を作製する際の、離脱工程を説明するための図である。
【図8】図2に示す薄切片標本作製装置により薄切片標本を作製する際の、離脱工程を説明するための図である。
【図9】図2に示す薄切片標本作製装置により薄切片標本を作製する際の、引き上げ工程を説明するための図である。
【図10】図2に示す薄切片標本作製装置により薄切片標本を作製する際の、引き上げ工程を説明するための図である。
【図11】図2に示す薄切片標本作製装置により薄切片標本を作製する際の、引き上げ工程を説明するための図である。
【図12】本発明に係る薄切片標本作製方法の変形例における制御部の作用を説明するための図である。
【図13】図1に示した薄切片の上面図である。
【図14】本発明に係る薄切片標本作成方法において配向制御して掬い上げることが可能な薄切片の変形例を示す上面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 薄切片標本作製装置
2 液槽
2a 液体
2b 液面
20 無端ベルト(搬送体)
20a 無端ベルトの上面
3 把持ロボット(把持部)
4 引き上げ機構
5 スライド機構
6 制御部
B 包埋ブロック
F 仮想平面
G スライドガラス(基板)
H 薄切片標本
M、M1 薄切片
S 生体試料
T 進行方向
W 基板の横幅方向
X、X1 スライド方向
Y 引き上げ方向
S1 基板セット工程
S2 離脱工程
S3 引き上げ工程
V1 搬送速度
V2、V21 スライド速度
V3 移動速度
V4、V41 引き上げ速度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料が包埋された包埋ブロックを薄切して作製され、搬送体の上面において矩形状の仮想平面内に接するように収まった状態で載置された後に搬送されてくる薄切片が該搬送体から離脱しながら液面上に浮かぶ際に、該薄切片を基板上に掬い取って薄切片標本を作製する薄切片標本作製装置であって、
前記搬送体の進行方向側に配置され、貯留した液体に搬送体の端部が浸かった液槽と、
前記基板を把持すると共に、搬送されてくる前記薄切片が収まる前記仮想平面の一辺に対して基板の横幅方向が平行になるように、該基板を前記液体に浸けた状態で前記搬送体の近傍に位置させる把持部と、
該把持部を、把持している前記基板の横幅方向に対して平面視略垂直な引き上げ方向に沿って前記液体から斜めに引き上げる引き上げ機構と、
前記引き上げ機構の作動タイミング及び引き上げ速度を制御する制御部と、を備え、
前記把持部は、前記薄切片が前記搬送体から離脱して前記液体の液面に浮かび、前記薄切片が収まる前記仮想平面の一辺が前記基板の表面に接触したときに、前記薄切片の一部が前記搬送体の上面に残った状態であるように前記基板を把持し、
前記制御部は、前記薄切片が前記搬送体から離脱して前記液体の液面に浮かび、前記薄切片が収まる前記仮想平面の一辺が前記基板の表面に接触したときに、前記搬送体によって前記薄切片が前記液面に搬送されることで生ずる前記基板に対する前記薄切片の相対的な移動が、前記基板の横幅方向に対して平面視略垂直な方向に沿ってのみ所定の移動速度で生じ、且つ該移動速度と、前記薄切片が前記引き上げ機構によって前記引き上げ方向に沿って引き上げられる引き上げ速度とが略等しくなるように、前記引き上げ機構を制御すること、
を特徴とする薄切片標本作製装置。
【請求項2】
請求項1に記載の薄切片標本作成装置において、
前記搬送体と前記把持部とを前記液面に平行な面内に沿って相対的にスライド移動させるスライド機構を備え、
前記制御部は、前記スライド機構の作動タイミング、スライド方向及びスライド速度を制御することで、前記基板に対する前記薄切片の相対的な移動を制御すること、
を特徴とする薄切片標本作製装置。
【請求項3】
請求項1に記載の薄切片標本作製装置において、
前記制御部は、前記搬送体を前記薄切片の一辺に沿ってスライドさせるように、前記スライド機構を移動させること、
を特徴とする薄切片標本作製装置。
【請求項4】
請求項1に記載の薄切片標本作製装置において、
前記制御部は、前記搬送体を前記進行方向と略垂直な方向に沿ってスライドさせるように、前記スライド機構を移動させること、
を特徴とする薄切片標本作製装置。
【請求項5】
生体試料が包埋された包埋ブロックを薄切して作製され、搬送体の上面において矩形状の仮想平面内に接するように収まった状態で載置された後に搬送されてくる薄切片が該搬送体から離脱しながら液面上に浮かぶ際に、該薄切片を基板上に掬い取って薄切片標本を作製する薄切片標本作製方法であって、
前記搬送体の進行方向側に配置され、貯留した液体に搬送体の端部が浸かった液槽内において、搬送されてくる薄切片が収まる仮想平面の一辺に対して基板の横幅方向が平行になるように該基板を液体に浸けた状態で搬送体の近傍に位置させる基板セット工程と、
該基板セット工程後、前記薄切片を前記液槽に向けて搬送すると共に、該薄切片を搬送体から離脱させて前記液体の液面に浮かべる離脱工程と、
該離脱工程で前記液面に浮かんだ前記薄切片が収まる前記仮想平面の一辺が前記基板の表面に接触したときに、前記基板を横幅方向に対して平面視略垂直な引き上げ方向に沿って前記液体から斜めに引き上げて薄切片を基板上に掬い取る引き上げ工程と、を備え、
前記基板セット工程の際には、前記引き上げ工程において前記仮想平面の一辺が前記基板の表面に接触したときに前記薄切片の一部が前記搬送体の上面に残った状態であるように前記基板をセットし、
前記引き上げ工程の際に、前記搬送体によって前記薄切片が前記液面に搬送されることで生ずる前記基板に対する前記薄切片の相対的な移動が、前記基板の横幅方向に対して平面視略垂直な方向に沿ってのみ所定の移動速度で生じ、且つ該移動速度と、前記薄切片が前記引き上げ機構によって前記引き上げ方向に沿って引き上げられる引き上げ速度とが略等しくなるように、前記基板の作動タイミング及び引き上げ速度を制御すること、
を特徴とする薄切片標本作製方法。
【請求項6】
請求項5に記載の薄切片標本作成方法において、
前記引き上げ工程の際に、前記搬送体と前記把持部とを前記液面に平行な面内に沿って相対的にスライド移動させ、該スライド移動の作動タイミング、スライド方向及びスライド速度を制御することで、前記基板に対する前記薄切片の相対的な移動を制御すること、
を特徴とする薄切片標本作製方法。
【請求項7】
請求項4に記載の薄切片標本作製方法において、
前記引き上げ工程の際に、前記搬送体を前記薄切片の一辺に沿ってスライドさせること、
を特徴とする薄切片標本作製方法。
【請求項8】
請求項4に記載の薄切片標本作製方法において、
前記引き上げ工程の際に、前記搬送体を前記進行方向と略垂直な方向に沿ってスライドさせること、
を特徴とする薄切片標本作製方法。
【請求項1】
生体試料が包埋された包埋ブロックを薄切して作製され、搬送体の上面において矩形状の仮想平面内に接するように収まった状態で載置された後に搬送されてくる薄切片が該搬送体から離脱しながら液面上に浮かぶ際に、該薄切片を基板上に掬い取って薄切片標本を作製する薄切片標本作製装置であって、
前記搬送体の進行方向側に配置され、貯留した液体に搬送体の端部が浸かった液槽と、
前記基板を把持すると共に、搬送されてくる前記薄切片が収まる前記仮想平面の一辺に対して基板の横幅方向が平行になるように、該基板を前記液体に浸けた状態で前記搬送体の近傍に位置させる把持部と、
該把持部を、把持している前記基板の横幅方向に対して平面視略垂直な引き上げ方向に沿って前記液体から斜めに引き上げる引き上げ機構と、
前記引き上げ機構の作動タイミング及び引き上げ速度を制御する制御部と、を備え、
前記把持部は、前記薄切片が前記搬送体から離脱して前記液体の液面に浮かび、前記薄切片が収まる前記仮想平面の一辺が前記基板の表面に接触したときに、前記薄切片の一部が前記搬送体の上面に残った状態であるように前記基板を把持し、
前記制御部は、前記薄切片が前記搬送体から離脱して前記液体の液面に浮かび、前記薄切片が収まる前記仮想平面の一辺が前記基板の表面に接触したときに、前記搬送体によって前記薄切片が前記液面に搬送されることで生ずる前記基板に対する前記薄切片の相対的な移動が、前記基板の横幅方向に対して平面視略垂直な方向に沿ってのみ所定の移動速度で生じ、且つ該移動速度と、前記薄切片が前記引き上げ機構によって前記引き上げ方向に沿って引き上げられる引き上げ速度とが略等しくなるように、前記引き上げ機構を制御すること、
を特徴とする薄切片標本作製装置。
【請求項2】
請求項1に記載の薄切片標本作成装置において、
前記搬送体と前記把持部とを前記液面に平行な面内に沿って相対的にスライド移動させるスライド機構を備え、
前記制御部は、前記スライド機構の作動タイミング、スライド方向及びスライド速度を制御することで、前記基板に対する前記薄切片の相対的な移動を制御すること、
を特徴とする薄切片標本作製装置。
【請求項3】
請求項1に記載の薄切片標本作製装置において、
前記制御部は、前記搬送体を前記薄切片の一辺に沿ってスライドさせるように、前記スライド機構を移動させること、
を特徴とする薄切片標本作製装置。
【請求項4】
請求項1に記載の薄切片標本作製装置において、
前記制御部は、前記搬送体を前記進行方向と略垂直な方向に沿ってスライドさせるように、前記スライド機構を移動させること、
を特徴とする薄切片標本作製装置。
【請求項5】
生体試料が包埋された包埋ブロックを薄切して作製され、搬送体の上面において矩形状の仮想平面内に接するように収まった状態で載置された後に搬送されてくる薄切片が該搬送体から離脱しながら液面上に浮かぶ際に、該薄切片を基板上に掬い取って薄切片標本を作製する薄切片標本作製方法であって、
前記搬送体の進行方向側に配置され、貯留した液体に搬送体の端部が浸かった液槽内において、搬送されてくる薄切片が収まる仮想平面の一辺に対して基板の横幅方向が平行になるように該基板を液体に浸けた状態で搬送体の近傍に位置させる基板セット工程と、
該基板セット工程後、前記薄切片を前記液槽に向けて搬送すると共に、該薄切片を搬送体から離脱させて前記液体の液面に浮かべる離脱工程と、
該離脱工程で前記液面に浮かんだ前記薄切片が収まる前記仮想平面の一辺が前記基板の表面に接触したときに、前記基板を横幅方向に対して平面視略垂直な引き上げ方向に沿って前記液体から斜めに引き上げて薄切片を基板上に掬い取る引き上げ工程と、を備え、
前記基板セット工程の際には、前記引き上げ工程において前記仮想平面の一辺が前記基板の表面に接触したときに前記薄切片の一部が前記搬送体の上面に残った状態であるように前記基板をセットし、
前記引き上げ工程の際に、前記搬送体によって前記薄切片が前記液面に搬送されることで生ずる前記基板に対する前記薄切片の相対的な移動が、前記基板の横幅方向に対して平面視略垂直な方向に沿ってのみ所定の移動速度で生じ、且つ該移動速度と、前記薄切片が前記引き上げ機構によって前記引き上げ方向に沿って引き上げられる引き上げ速度とが略等しくなるように、前記基板の作動タイミング及び引き上げ速度を制御すること、
を特徴とする薄切片標本作製方法。
【請求項6】
請求項5に記載の薄切片標本作成方法において、
前記引き上げ工程の際に、前記搬送体と前記把持部とを前記液面に平行な面内に沿って相対的にスライド移動させ、該スライド移動の作動タイミング、スライド方向及びスライド速度を制御することで、前記基板に対する前記薄切片の相対的な移動を制御すること、
を特徴とする薄切片標本作製方法。
【請求項7】
請求項4に記載の薄切片標本作製方法において、
前記引き上げ工程の際に、前記搬送体を前記薄切片の一辺に沿ってスライドさせること、
を特徴とする薄切片標本作製方法。
【請求項8】
請求項4に記載の薄切片標本作製方法において、
前記引き上げ工程の際に、前記搬送体を前記進行方向と略垂直な方向に沿ってスライドさせること、
を特徴とする薄切片標本作製方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−180546(P2009−180546A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17890(P2008−17890)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
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