説明

薄地織物

【課題】本発明は、非常に軽量、薄地でありながら、引き裂き強度や摩耗強度に優れたスポーツ用衣料、或いはふとん側地又は中袋用織物を提供するものであり、非常に細い糸を用いて織物を作成した場合に、引き裂き強度や摩耗強度が小さいという問題を解決しようとするものである。
【解決手段】少なくとも織物の経糸又は緯糸の一部に、繊度が5〜30dtexの熱可塑性合成繊維が配置された薄地織物であって、該織物の経糸と緯糸による交点の数が23000〜70000個/(2.54cm平方)であり、及び該織物がシリコン樹脂加工が施されている、上記薄地織物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダウンジャケットの側地やウインドブレーカーなど薄地のスポーツ用衣料、寝袋やふとんの側地、又はその中袋用の織物に用いる薄地織物に関する。更に詳しくは、軽量で非常に薄地でありながら、引き裂き強度や摩耗強度に優れた薄地織物、及びそれを用いた、スポーツ用衣料、ふとん等の側地、又は中袋用織物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、スポーツ用衣料用織物は、動きやすさの観点から軽量、薄地でありながら引き裂き強度に優れることが望まれてきた。また、ふとんカバーやふとん中袋などふとん側地用途には、睡眠時の負荷やふとんの上げ下ろしの負荷を低減するため、又は寝袋用途に用いる為に、軽量、薄地であり、引き裂き強度を保持することが望まれてきた。しかし、織物を構成する糸の繊度を小さくし、織物を軽量、薄地にした場合には引き裂き強度や摩耗強度も低下し、実用に支障をきたすという問題点があった。特にスポーツ用衣料の中でもダウンジャケット用生地や、寝袋、羽毛ふとん側地、羽毛ふとん中袋の場合には、軽量、薄地化に加えダウンプルーフ性が要求されるが、ダウンプルーフ性を満足するためには織物を緻密な構造にする必要があり、織物が硬くなるという問題点もあった。
【0003】
特許文献1には、繊度が25dtex(デシテックス)以下で詰め綿の側地として用いられ、樹脂加工が施されていない織物が開示されているが、25dtex以下の糸を使用した織物で、シリコン樹脂加工が施されていない場合は、特許文献1に記載のようにポリアミド繊維を用いて織物にした場合は、引き裂き強度を8N以上にすることが可能であるが、特許文献1に開示されていない、例えば、ポリエステル繊維を用いた場合には、織物の引き裂き強度を8N以上にすることは困難であるという問題があった。さらに、特許文献1には繊度が22dtexの織物は記載されているが10dtexの織物では引き裂き強度が小さいと開示されるなど、繊度が22dtexより小さい織物でかつ十分な引き裂き強力を有する織物は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−48298
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、非常に軽量、薄地でありながら、引き裂き強度や摩耗強度に優れたスポーツ用衣料、或いはふとん側地又は中袋用織物を提供するものであり、非常に細い糸を用いて織物を作成した場合に、引き裂き強度や摩耗強度が小さいという問題を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題を解決する上で、特定の細繊度繊維を用い、織物中の経糸と緯糸の交点の数を一定範囲にしたうえでシリコン系樹脂による樹脂加工をすることで薄地軽量織物においても十分な引き裂き強度を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は次のとおりのものである。
(1)少なくとも織物の経糸又は緯糸の一部に、繊度が5〜30dtexの熱可塑性合成繊維が配置された薄地織物であって、該織物の経糸と緯糸による交点の数が23000〜70000個/(2.54cm平方)であり、及び該織物がシリコン樹脂加工が施されている、上記薄地織物。
(2)前記熱可塑性合成繊維の単糸繊度が0.5〜2.5dtexのポリエステル系合成繊維又はポリアミド系合成繊維である、(1)に記載の薄地織物。
(3)前記熱可塑性合成繊維の固有粘度[η]が、0.65〜1.30であるポリエステル系繊維である、(1)又は(2)に記載の薄地織物。
(4)前記熱可塑性合成繊維の相対粘度が、2.5〜3.5のポリアミド系繊維である、(1)又は(2)に記載の薄地織物。
(5)前記織物の目付けが15〜50g/mである、(1)〜(4)のいずれか一項に記載の薄地織物。
(6)前記織物の通気度が0.3〜1.5cc/cm・secである、(1)〜(5)のいずれか一項に記載の薄地織物。
(7)前記織物の引き裂き強度が8〜20Nである、(1)〜(6)のいずれか一項に記載の薄地織物。
(8)前記織物の組織がリップストップ組織である、(1)〜(7)のいずれか一項に記載の薄地織物。
(9)前記織物の経糸と緯糸による交点のうち、非拘束点の割合が2〜40%である、(8)に記載の薄地織物。
(10)前記織物の摩耗強度が1万回以上である、(1)〜(9)のいずれか一項に記載の薄地織物。
(11)前記シリコン樹脂加工が、DIP−NIP方式によって施されている、(1)〜(10)のいずれか一項に記載の薄地織物。
(12)シリコン樹脂の付着量が0.1〜10.0wt%である、(1)〜(11)のいずれか一項に記載の薄地織物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の薄地織物は、非常に軽量、薄地でありながら、引き裂き強度や摩耗強度に優れ、やわらかく、ダウンプルーフ性にも優れる非常に薄地の織物であり、ダウンジャケット、ウインドブレーカーなどのスポーツ用衣料、寝袋やふとんの側地、又は中袋用の織物に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の織物の組織図(図1A)、及び糸の重なり状態を表す図(図1B、図1C)の一例を示す。
【図2】実施例2の織物の組織図を示す。
【図3】実施例3の織物の組織図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の薄地織物は、少なくとも織物の経糸もしくは緯糸の一部に、繊度が5〜30dtexの熱可塑性合成繊維が配置された薄地織物である。熱可塑性合成繊維は、経糸もしくは緯糸のいずれか一方に配置されていてもよく、又は、経糸及び緯糸の両方に配置されていてもよい。本発明でいう熱可塑性合成繊維は、特に限定されず、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維又はポリオレフィン系繊維等が好適に用いられる。ポリエステル系繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートやこれらを主成分とした共重合ポリエステル系繊維等が含まれ、また、ポリアミド系繊維としては、ナイロン6、ナイロン66及び第3成分を共重合したもの等が含まれる。ポリオレフィン系繊維としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等が含まれる。このうち特に耐熱性、染色性の観点からポリエステル系繊維、やわらかさの観点からポリアミド系繊維が好ましい。また、一部に熱可塑性合成繊維以外の繊維が用いられていてもよい。
【0011】
本発明の織物に用いる熱可塑性合成繊維は分子量が大きいことが好ましく、該繊維を構成するポリマーの分子量は通常粘度で表すことができるため、高粘度であることが望ましい。例えばポリエステル系繊維の場合には、固有粘度[η]が0.65〜1.30であることが好ましく、より好ましくは0.8〜1.1である。ここで固有粘度[η]はオルソクロロフェノール中、1重量%で測定した極限粘度をいい、固有粘度[η]を0.65〜1.30にすることで、本発明に使用する細い糸繊度ポリエステル系繊維でも目標の引き裂き強力を得ることが可能になる。固有粘度[η]が0.65以上であれば、糸強度、糸の摩耗強度が大きく、特に単糸繊度が細い糸を織物にした場合の引き裂き強度、摩耗強度も十分となり、固有粘度[η]が1.3以下であれば、織物にした場合に風合いが硬くなるという問題も生じにくい。経糸又は緯糸に固有粘度[η]が0.65〜1.30のポリエステル系繊維を使用するのが好ましく、経糸、緯糸共に該ポリエステル繊維を用いるとさらに好ましい。
【0012】
また、ポリアミド系繊維の場合には、相対粘度が2.5〜3.5であることが好ましい。ここでいう相対粘度は85.5%特級濃硫酸中に重合体濃度が1.0g/dlの濃度でポリマー又はプレポリマーを溶解し25℃でオストワルド粘度計を用い、溶液相対粘度を測定したものである。相対粘度が2.5以上であれば、糸強度、糸の摩耗強度が大きく、特に繊度が細い糸を織物にした場合の引き裂き強度、摩耗強度も十分となり、相対粘度が3.5以下であれば、織物にした場合に風合いが硬くなるという問題も生じにくい。経糸又は緯糸に相対粘度が2.5〜3.5のポリアミド繊維を使用するのが好ましく、経糸、緯糸共に該ポリアミド繊維を用いるとさらに好ましい。
【0013】
本発明の織物の経糸又は緯糸の一部に配置される繊維の繊度は5〜30dtexとする必要がある。好ましくは8〜25dtexである。30dtexを超えると糸が太く、織物にした場合に、厚く、硬くなり本発明の目的を達することができない。5dtexより小さい場合には織物組織を調整して樹脂加工を施しても引き裂き強度を8N以上にすることは困難である。ポリエステル系繊維であれば18dtex以下がより好ましい。ポリアミド系繊維であれば15dtex未満がより好ましい。単糸繊度は0.5〜2.5dtexが好ましく、より好ましくは0.7〜2.0dtexである。
【0014】
本発明の織物で使用される繊維の単糸断面の形状は、特に限定されないが、異型度が2〜7の異型断面糸が好ましく、特にW型断面、V型断面繊維は、織物にした場合には、所謂レンガ積み構造に配置され、最密充填に似た構造を呈し、そのため、単糸と単糸との間隙が小さくなり、通気性を低減させることができ、好ましい。また、W型断面など扁平形状の単糸を用いると,糸による曲げ応力の低減効果の為、風合いがやわらかい織物となる。
【0015】
また、W断面、V断面、めがね型断面等、異型断面繊維が溝、すなわち単糸断面に凹部を有する形状の場合、織物としての吸汗速乾性にも優れるため、汗をかいてもさらっとした衣料用織物又はふとん側地等となり、好ましい。
【0016】
上述の熱可塑性合成繊維は、織物の経糸又は緯糸の少なくとも一部に用いられていればよく、織物すべてがこの糸から構成されるものでもよい。
【0017】
本発明の織物は、目付けが15〜50g/mであることが好ましい。より好ましくは35g/m以下である。織物をスポーツ衣料やふとん側地、特にダウンジャケットや羽毛ふとんの側地として使用した際に軽量感を感じる為には、目付が50g/m以下であればよい。15g/m以上であれば、織物組織を調整して樹脂加工を施すことにより引き裂き強度を8N以上にすることができる。
【0018】
本発明の織物は軽量薄地でありながら、引き裂き強度が大きいことが好ましい。本発明でいう引き裂き強度は、JIS−L−1096:8.15.5 D法(ベンジュラム法)で測定されるもので、織物がスポーツ衣料やふとん側地等の実用に耐えるために、引き裂き強度は8N〜20N程度が好ましい。8N以上であれば使用中に破れるおそれもなく、また、20N以下であれば本発明の細い糸を用いた薄地織物を可能とし、実用上も有用である。
【0019】
極軽量薄地でありながら引き裂き強度を8N〜20Nにするために、本発明の織物は特定の構造をもち、なおかつシリコン系の樹脂加工が施されていることを特徴としている。従来は樹脂加工によって風合いが硬くなったり、耐久性が劣る等の問題があるとされていたが、本発明では、このような細繊度高密度織物にシリコン系の樹脂加工を施すことにより、織物の引き裂き強度が格段に向上するうえに、風合いが柔らかく耐久性に優れた樹脂皮膜を付与することができることを見出した。これは従来の樹脂加工が主として織物表面に皮膜を形成することを目的としていたのに対して、本発明ではシリコン系の樹脂が細い繊度の繊維どうしの滑り性を改善させるためである。
【0020】
シリコン系の樹脂加工剤はシリコンを含む樹脂であれば特に限定されないが、特に耐久性と加工性の観点から変性シリコン樹脂と界面活性剤のエマルジョンが好ましい。変性シリコンの具体例としては、日華化学(株)のニッカシリコンDM−100E、京浜化学(株)のシリコランEC、パラジンMB、明成化学(株)のハイソフターKR−50、クラリアントジャパンのSolusoft WAなどが挙げられるがそれらに限定されるものではない。界面活性剤はシリコン樹脂のイオン性を考慮して適宜選定すればよい。
【0021】
シリコン系の樹脂を薄地織物に加工することにより引き裂き強度が向上する理由としては、シリコン系の樹脂加工により糸のすべり性が向上することに起因している。一般に、織物の引裂きは、引裂かれる点に応力が集中すると比較的小さい応力で引き裂かれてしまうが、シリコン系の樹脂加工により糸が滑ることにより引裂かれる点における応力が分散され、結果として、引き裂き強度を8N以上とすることが可能になる。
【0022】
この糸が滑る効果は織物の構造によりその効果が異なる。本発明のもう一つの特徴として、織物の経糸と緯糸の交点の数が23000個/inch〜70000個/inch、好ましくは27000個/inch〜62000個/inchであることが挙げられる。本発明でいう織物の経糸と緯糸の交点の数とは、1inch四方に経糸と緯糸の交差する点の数をいい、タフタやリップストップタフタの場合には、経糸密度(本/inch)×緯糸密度(本/inch)で表すことができる。経糸と緯糸の交点の数が23000個/inchより少ない場合には、織物中の糸と糸の間隙が大きくなり、通気性を1.5cc/cm・sec以下にすることが困難である。また、縫い目滑脱抵抗も小さくなり、可縫製にも問題が生じる場合がある。経糸と緯糸の交点の数が70000個/inchを超えると風合いが硬くなり、樹脂加工を行っても引き裂き強度が向上せず、本発明の目標を達成し難い。
【0023】
さらに本発明では織物の経糸と緯糸の交点のうち非拘束点の割合が2%〜40%の範囲であることが好ましい。より好ましくは4%〜35%である。織物の交点は拘束点と非拘束点に区分される。
【0024】
ここでいう拘束点とは経糸と緯糸が交差している点をいい、非拘束点とは経糸又は緯糸が並んで配置されている部分をいう。図1の織物構造を例として以下に説明する。織物組織図では経糸が表側に表れている交点を黒色、緯糸が表側に表れている交点を白色で表している。図1Aの経糸と緯糸の重なりを示したのが図1Bである。また、図1Bの最下行の糸状態の重なりを断面方向からみると図1Cのようになっている。非拘束点とはタテ又はヨコのいずれかの糸が並んでいる場合をいう。図1A(図1B)では最下行の場合左の2か所で経糸が並んでおり、非拘束点が2、拘束点が4である。図1Aの8つの行はどの行も2か所ずつ非拘束点が存在しているため、緯方向の非拘束点は16、拘束点は32となる。同様に最左列では下の2か所が非拘束点であるため、非拘束点が2、拘束点が6となる。どの列も同様であるから経方向の非拘束点は12、拘束点は36となる。従って単位組織あたり交点96ヶ所中非拘束点は28ヶ所となり、非拘束点の割合は29.2%となる。非拘束点にシリコン系の樹脂が作用することにより、すべり効果は飛躍的に増大し、引裂きにおける応力の分散が起こりやすく、細い繊度でありながらも引き裂き強度を高めることができる。本発明のような細い繊度での織物は必然的に高密度になり、拘束点の多い織物となるが、本発明では特定の割合の非拘束点を持たせることで糸の自由度を高め引き裂き強度を高めることができる。さらに引裂きにおける滑り効果を高めるには、特に極細繊度使いや極低目付け織物では、非拘束点を密集、或いは、集合して存在させることで、集合域としての自由度が高まり、引裂きを高めることができる。すなわち、2〜3ヶ所連続して非拘束点を持たせる構造が有効である。
【0025】
特に本発明の織物を、ダウンジャケットや羽毛ふとんの側地に用いる場合、ダウンプルーフ性を満足させる為、通気度が0.3〜1.5cc/cm・secであることが好ましいが、軽量でかつ通気度を0.3〜1.5cc/cm・secにするには、細い糸で緻密にする必要があり、織物は動きにくい構造でかたい織物になりやすい。非拘束点が2〜3ヶ所連続する構造にすることで、軽量で低通気でありながら引き裂き強度が大きい織物が可能になる。特に好ましくは、通気度は0.5〜1.0cc/cm・secである。
【0026】
非拘束点の割合が織物の交点のうち2%以上であれば、滑り効果が乏しくなることはない。非拘束点の割合が40%以下であれば、縫い目滑脱抵抗も大きくなり、可縫性に問題が生じる場合もない。
【0027】
本発明の織物の織り組織は特に限定されないが、リップストップタフタ、綾組織、朱子組織等任意の組織を用いることができる。このうち特にリップストップタフタは非拘束点を持つため、好適に用いられる。リップストップタフタの場合は、織組織の特異性とシリコン樹脂の作用が、互いに相乗効果を発揮し、樹脂なしの生地に対し、30〜50%もの大幅な引き裂き強度の向上がみられる。リップストップタフタ組織の場合には、経糸又は緯糸に、糸が2〜3本、多重で配列されているため、シリコン樹脂での滑り効果が顕著に生じやすくなるため、この様な優れた効果を生じたものと思われる。リップストップの格子柄の大きさは、0.2〜5mmであることが好ましい。
【0028】
滑り効果を発揮させるためのシリコン系樹脂の付着量は、生地に対し、0.1〜10.0wt%が好ましい。特に0.5〜3.0wt%が、目よれなど他の欠点が起こりにくく好ましい。付着量がこの範囲であると、シリコン樹脂のない場合に比較して、引き裂き強度が10〜50%増加する。
【0029】
樹脂加工の方法は特に限定されないが、染色後にDIP−NIP法で加工する方法、吸尽法で加工する方法、コーティング剤中に混ぜて加工するなどの方法が好適に用いられる。加工工程の最終段階で生地表面にしっかり加工剤を付着させるという点でDIP−NIP法で加工する方法が特に好適に用いられる。乾燥温度も通常の織物の仕上げ温度で特に問題はない。
【0030】
シリコン系の樹脂加工を施すことで、引き裂き強度向上効果に加えて、風合いをなめらかかつやわらかくする効果も同時に達成できる。この効果によりスポーツ衣料やふとん側地として用いた場合にがさがさ感がなく、肌触りが良好となる。
【0031】
本発明の薄地織物は引き裂き強度に加え、摩耗強度にも優れる。摩耗強度は摩耗の相手布を毛芯としたマーチンデール摩耗法で評価する。この方法で好ましくは1万回以上、より好ましくは15000回以上の摩耗強度があればダウンジャケットやウインドブレーカーなどのスポーツ用途に使用する場合にも十分な耐久性があるといえる。薄地織物でありながら摩耗強度を高めるためには、高粘度のポリアミド又はポリエステル系繊維を使い、単糸繊度を好ましくは0.5dtex〜2.5dtex、より好ましくは0.7dtex〜2.5dtexにする方法や、熱リラックス処理を糸又は織物に施すことが効果的である。
【0032】
織物の製織時に使用する織機も特に制限は無く、ウォータージェットルーム織機やエアージェットルーム織機、レピア織機を使用することができる。製織後の織物は常法に従って精錬、リラックス、プレセット、染色し必要に応じて撥水処理、吸水加工、抗菌、消臭などの機能付与加工やコーティング加工、カレンダー加工等の後加工を付与する事ができる。
【0033】
こうして得られた織物は、従来のスポーツ用衣料或いはふとん側地用織物よりも軽量でかつ引き裂き強度や摩耗強度が大きく、風合いもなめらかでやわらかいという特徴がある。さらに通気性を小さくすることが可能であり、ダウンプルーフ性を併せ持つことができる。
【実施例】
【0034】
本発明を、実施例に基づいて説明する。
実施例で用いた測定項目、方法は以下の通りである。
(1)繊維のポリマー粘度
ポリエステル系繊維の場合:固有粘度[η]はオルソクロロフェノール中、1重量%で測定した極限粘度で示した。
ポリアミド系繊維の場合:相対粘度は85.5%特級濃硫酸中に重合体濃度が1.0g/dlの濃度でポリマー又はプレポリマーを溶解し25℃でオストワルド粘度計を用い、溶液相対粘度を測定した。
(2)目付け
JIS−L−1096 8.4.2 織物の標準状態における単位面積当たりの質量により求めた。
(3)引き裂き強度
JIS−L−1096 8.15.5 D法(ベンジュラム法)により測定した。単位はNである。
(4)摩耗強度
JIS−L−1096 8.17.5 E法(マーチンデール法)に準じ、ただし、摩擦相手布を毛芯に変更して測定した。穴があく、又は減耗率が5%以上になるまでの摩耗回数を測定した。
(5)通気度
JIS−L−1096 8.27.1 A法(フラジール法)により測定した。単位はcc/cm・secである。
(6)異型度
織物の断面写真を撮影し、その断面写真から織物を構成する単糸繊維の断面の長径(最も長い部分の径)/短径(長径と垂直方向の径)より算出した。
(7)シリコン樹脂加工の有無
加工の有る場合は「有」、加工の無い場合は「無」とした。
(8)生地の風合い(やわらかさ)
5名の官能評価(1:硬い 2:やや硬い 3:どちらともいえない 4:やややわらかい 5:やわらかい)の平均とした。
【0035】
実施例1
固有粘度[η]が0.85で11デシテックス10フィラメントのポリエステルフィラメントを経、緯糸に図1のリップストップ組織の織物を、ウォータージェットルーム織機にて製織した。得られた織物を、常法に従って精練、プレセットした後、液流染色機にて染色、乾燥した後、変性シリコン樹脂として日華化学(株)のニッカシリコンDM−100Eを1%とアニオン系の界面活性剤0.5%のエマルジョンをDIP−NIP法で加工し、140℃で乾燥させた後、160℃の熱カレンダー加工を施した。シリコン樹脂の付着量は0.8wt%であった。
得られた織物の特性は表1に示す通り、織物の目付けは32g/mであり、経糸と緯糸の交点の数は60025個/inchであり、非拘束点の割合は29.2%であり、引き裂き強度は、タテが10.5N、ヨコが12Nであった。
生地の風合いは非常に良好であり、この織物を、ダウンジャケットに用いると軽く薄くやわらかく、強度も十分であった。
【0036】
実施例2
経糸、緯糸に固有粘度[η]が0.87で17デシテックス18フィラメントの異型度が3.2であるW型断面のポリエステルフィラメントを用い、図2の組織で製織した他は、実施例1と同様の方法で製織、加工を行った。
得られた織物の特性は表1に示す通り、織物の目付けは、31g/mであり、経糸と緯糸の交点の数は44000個/inchであり、非拘束点の割合は4.5%であり、引き裂き強度は、タテが9.1N、ヨコが8.2Nであった。
生地の風合いは非常に良好であり、織物をダウンジャケットに用いると軽く薄くやわらかく、強度も十分であった。
【0037】
実施例3
経糸に固有粘度[η]が0.87で24デシテックス18フィラメントの異型度が3.2であるW型断面のポリエステルフィラメントを用い、図3の組織で製織した他は、実施例1と同様の方法で製織、加工を行った。
得られた織物の特性は表1に示す通り、織物の目付けは、37g/mであり、経糸と緯糸の交点の数は30960個/inchであり、非拘束点の割合は10.6%であり、引き裂き強度は、タテが10.1N、ヨコが11Nであった。織物をダウンジャケットに用いると軽く薄くやわらかく、強度も十分であった。
【0038】
実施例4
経糸、緯糸に相対粘度が2.8で24デシテックス26フィラメントの丸断面ナイロン66フィラメントを用い、織組織を2/1ツイルとした他は、実施例1と同様の方法で製織、加工を行った。
得られた織物の特性は表1に示す通り、織物の目付けは、38g/mであり、経糸と緯糸の交点の数は27200個/inchであり、非拘束点の割合は33.3%であり、引き裂き強度は、タテが10N、ヨコが11Nであった。
生地の風合いは良好であり、織物をダウンジャケットに用いると軽く薄くやわらかく、強度も十分であった。
【0039】
実施例5
経糸、緯糸に相対粘度が3.1で15デシテックス13フィラメントの丸断面ナイロン66フィラメントを用いた他は、実施例1と同様の方法で製織、加工を行った。
得られた織物の特性は表1に示す通り、織物の目付けは、33g/mであり、経糸と緯糸の交点の数は52900個/inchであり、非拘束点の割合は29.2%であり、引き裂き強度は、タテが8.5N、ヨコが9Nであった。
生地の風合いは良好であり、織物をダウンジャケットに用いると軽く薄くやわらかく、強度も十分であった。
【0040】
実施例6
経糸、緯糸に固有粘度[η]が0.85で11デシテックス24フィラメントのポリエステルフィラメントを用いた他は、実施例1と同様の方法で製織、加工を行った。
得られた織物の目付けは、25g/mと軽く、通気度も0.7cc/cm・secでありダウンプルーフ性を備えていたが、引き裂き強度は8Nに満たなかった。
【0041】
実施例7
経糸、緯糸に固有粘度[η]が0.62でのポリエステルフィラメントを用いた他は、実施例1と同様の方法で製織、加工を行った。
得られた織物の目付けは、30g/mと軽く、通気度も0.7cc/cm・secでありダウンプルーフ性を備えていたが、引き裂き強度は8Nに満たなかった。
【0042】
比較例1
実施例2と同様の織物を製織し、染色後、シリコン系の樹脂加工を行わずに、カレンダー加工を行った。
得られた織物の目付けは、30g/mであったが、引き裂き強度は8Nに満たなかった。また風合いもがさがさ感があった。
【0043】
比較例2
経糸、緯糸に固有粘度[η]が0.83で34デシテックス24フィラメントのポリエステルフィラメントを用いた他は、実施例1と同様の織物を製織し、加工を行った。
得られた織物の目付けは、40g/mと重く、経糸と緯糸の交点の数は19180個/inchであり、通気度が大きく、縫い目滑脱抵抗が小さい結果となった。
【0044】
比較例3
織密度を経280本/inch、緯270本/inchとした他は実施例1と同様の織物を製織し、加工を行った。
得られた織物の目付けは、34g/mであったが、引き裂き強度は8Nに満たなかった。また風合いも硬かった。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の織物は、非常に軽量薄地かつ引き裂き強度、摩耗強度に優れた織物であり、スポーツ用衣料、寝袋、ふとん側地、ふとん中袋に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも織物の経糸又は緯糸の一部に、繊度が5〜30dtexのポリアミド系合成繊維が配置された薄地織物であって、該織物の経糸と緯糸による交点の数が23000〜70000個/(2.54cm平方)であり、及び該織物がシリコン樹脂加工が施されている、上記薄地織物。
【請求項2】
前記ポリアミド系合成繊維の単糸繊度が0.5〜2.5dtexである、請求項1に記載の薄地織物。
【請求項3】
前記ポリアミド系合成繊維の相対粘度が、2.5〜3.5である、請求項1又は2に記載の薄地織物。
【請求項4】
前記織物の目付けが15〜50g/mである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の薄地織物。
【請求項5】
前記織物の通気度が0.3〜1.5cc/cm・secである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の薄地織物。
【請求項6】
前記織物の引き裂き強度が8〜20Nである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の薄地織物。
【請求項7】
前記織物の組織がリップストップ組織である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の薄地織物。
【請求項8】
前記織物の経糸と緯糸による交点のうち、非拘束点の割合が2〜40%である、請求項7に記載の薄地織物。
【請求項9】
前記織物の摩耗強度が1万回以上である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の薄地織物。
【請求項10】
前記シリコン樹脂加工が、DIP−NIP方式によって施されている、請求項1〜9のいずれか一項に記載の薄地織物。
【請求項11】
シリコン樹脂の付着量が0.1〜10.0wt%である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の薄地織物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−122188(P2012−122188A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−69373(P2012−69373)
【出願日】平成24年3月26日(2012.3.26)
【分割の表示】特願2010−509238(P2010−509238)の分割
【原出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】