薄型アンテナおよびアンテナユニット
【課題】UHF帯の電波で用いられ、金属部材に取り付けられていても通信を良好に行うことができるRFIDタグの読み取り用の薄型アンテナを提供する。
【解決手段】薄型アンテナ1は、磁性シート2と、磁性シート2の一方の面2a上に配置されたアンテナ部3と、磁性シート2の他方の面2b上に配置された導体地板4と、を備え、磁性シート2の厚さ方向Dに見たときに、アンテナ部3および導体地板4は少なくとも一部が重なるように配置され、磁性シート2の厚さが200μm以上600μm以下である。
【解決手段】薄型アンテナ1は、磁性シート2と、磁性シート2の一方の面2a上に配置されたアンテナ部3と、磁性シート2の他方の面2b上に配置された導体地板4と、を備え、磁性シート2の厚さ方向Dに見たときに、アンテナ部3および導体地板4は少なくとも一部が重なるように配置され、磁性シート2の厚さが200μm以上600μm以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UHF帯で用いられるRFIDタグの読み取り装置の薄型アンテナおよびアンテナユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、RFID(Radio Frequency IDentification)タグと読み取り装置などとの間で無線通信が行われている。
RFIDタグの普及に伴い読み取り装置のバリエーションも増加しており、利便性を優先させるケースとして、専用の読み取り装置では無く、携帯電話、PDA(Personal Digital Assistant)などの携帯端末内にRFIDタグの読み取り機能(アンテナおよび読み取り回路)を内蔵させ、携帯端末に機能を付加したものが商品化されている。
【0003】
この場合、読み取りアンテナとして小型のパッチアンテナが搭載されている場合が多く、パッチアンテナはその構造上、厚みが必要になるため、携帯端末ではアンテナが装置本体からはみ出た造形になっている。携帯電話の場合では、読み取り機能の全てが外部のアタッチメント内に納められており、そのアタッチメントを携帯電話の本体と合体させるなどしている。
その理由は、多くの携帯電話および一部のPDAなどでは、情報表示面とは反対側の面(裏面)の内側にアルミニウム製の金属ケース(金属部材)に封入されたリチウムイオン型などの蓄電池が搭載されており、裏面側の大部分はこの蓄電池の金属ケースで占められている。よって、装置の裏面側にはRFIDタグの情報を読み取るための小型パッチアンテナを組み込むスペースがないからである。
【0004】
近年、携帯端末の中でも、表示面を大型にしてタッチパネル入力が可能なスマートフォン(多機能携帯電話)の増加が著しい。スマートフォンでは、大型化した表示面の発光電力の増大と、高速描画処理のためCPU、グラフィック処理ICなどの消費電力の増大により、中型の畜電池が内蔵されている。表示面の大型化にともないスマートフォンの本体の外形も大きくなっているが、それに伴って内蔵する畜電池も大きくなっており、前述の携帯電話および一部のPDAなどと同様に、小型パッチアンテナを組み込むためのスペースはない。さらにこのスマートフォンにおいては、稼働時間を伸ばすために畜電池の大型化も検討されている。
【0005】
携帯電話および一部のPDAなどに、RFIDタグの読み取り機能を組み込むことで、読み取り機能を稼動するための電力も必要になるので、内蔵される畜電池はさらに大型化すると予想される。よって、携帯端末の中に大型の畜電池があっても組み込み可能な、薄型のRFIDタグの読み取りアンテナが待ち望まれている。
【0006】
薄型パッチアンテナとしては、例えば特許文献1に示すように、パッチアンテナの広帯域化を目指し、パッチアンテナ構造で放射アンテナと導体地板との間に磁性体を設ける構成も提案されている。
特許文献1のパッチアンテナでは、アンテナ特性の中心周波数が4GHzにおいて磁性体の厚さは2mmであった。RFIDタグのUHF帯の周波数は860〜960MHzであることから、この周波数に対応した場合では波長が4倍近く長くなり、磁性体の厚さはさらに厚くなってしまうことが想定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4379470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、UHF帯の電波で用いられ、金属部材に取り付けられていても通信を良好に行うことができるRFIDタグの読み取り用の薄型アンテナ、およびこの薄型アンテナを用いたアンテナユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の薄型アンテナは、磁性シートと、前記磁性シートの一方の面上に配置されたアンテナ部と、前記磁性シートの他方の面上に配置された導体地板と、を備え、前記磁性シートの厚さ方向に見たときに、前記アンテナ部および前記導体地板は少なくとも一部が重なるように配置され、前記磁性シートの厚さが200μm以上600μm以下であることを特徴としている。
【0010】
また、上記の薄型アンテナにおいて、前記アンテナ部および前記導体地板が自身の主面上に形成されたフィルム状の基材を備え、前記主面が内側になるように折り返された前記基材の間に前記磁性シートが挟まれていることがより好ましい。
また、上記の薄型アンテナにおいて、前記アンテナ部および前記導体地板が自身の主面上に形成されたフィルム状の基材を備え、前記主面が外側になるように折り返された前記基材の間に前記磁性シートが挟まれていることがより好ましい。
【0011】
また、本発明のアンテナユニットは、上記に記載のアンテナと、前記薄型アンテナにおける前記磁性シートの他方の面側に取り付けられた金属部材と、を備えることを特徴としている。
また、上記のアンテナユニットにおいて、前記導体地板は前記金属部材に電気的に統合されていることがより好ましい。
また、上記のアンテナユニットにおいて、前記金属部材は、携帯端末に内蔵されている蓄電池の外装部材であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の薄型アンテナおよびアンテナユニットによれば、UHF帯の電波で用いられ、金属部材に取り付けられていても通信を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態の薄型アンテナの平面図である。
【図2】図1におけるA方向矢視図である。
【図3】同薄型アンテナを展開した平面図である。
【図4】同薄型アンテナを用いた実験の手順を説明する側面図である。
【図5】実験に用いた金属板および給電部の平面図である。
【図6】同金属板および給電部の側面図である。
【図7】金属板の上に磁性シートと三角形状のアンテナエレメントとを順に重ねて置いた状態を示す平面図である。
【図8】金属板の上に磁性シートと長方形状のアンテナエレメントとを順に重ねて置いた状態を示す平面図である。
【図9】三角形状のアンテナエレメントを用いた実験結果を示す図である。
【図10】長方形状のアンテナエレメントを用いた実験結果を示す図である。
【図11】本発明の第2実施形態のアンテナユニットを内蔵した携帯電話における要部の断面図である。
【図12】本発明の第3実施形態のアンテナユニットを内蔵した携帯電話における要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る薄型アンテナの第1実施形態を、図1から図10を参照しながら説明する。本薄型アンテナは、RFIDタグとの間で非接触にて通信を行うものである。
図1から図3に示すように、本実施形態の薄型アンテナ1は、磁性シート2と、磁性シート2の一方の面2a上に配置されたアンテナエレメント(アンテナ部)3と、磁性シート2の他方の面2b上に配置された導体地板4とを備えている。
なお、図1においては、後述する基材6は示していなく、全ての図ではアンテナエレメントはハッチングを付して示している。また、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の厚さや寸法の比率は適宜異ならせてある。
【0015】
磁性シート2としては、磁性粒子、または磁性フレークとプラスチックまたはゴムとの複合材からなる、柔軟性に富んだ公知の材料を用いることができる。図3に示すように、磁性シート2の厚さ方向D(図2参照。)に見た平面視において、磁性シート2は長方形状に形成されている。
本実施形態では、アンテナエレメント3および導体地板4は、フィルム状の基材6の主面6a上に形成されている。
【0016】
基材6を形成する材料としては、PETなどの樹脂を好適に用いることができる。基材6の厚さは、例えば50μmである。
アンテナエレメント3および導体地板4は、基材6上に配したアルミ薄膜をエッチング法にて成形したり、基材6に銀ペーストインキをパターン印刷したりすることで形成されている。
平面視において、アンテナエレメント3は三角形状に形成され、導体地板4は長方形状に形成されている。
基材6は、主面6aが内側になるように折り線Lで折り返されていて、折り返された基材6の間に磁性シート2を挟んで不図示の接着剤などで接着することで、磁性シート2にアンテナエレメント3および導体地板4が取り付けられている。言い換えれば、基材6は磁性シート2に巻きつけられている。
なお、実際には薄型アンテナ1は非常に薄く構成されているため、基材6を折り返す折り線Lが1つとなる場合もある。
【0017】
平面視において、アンテナエレメント3は導体地板4の輪郭の内部に配置されている。
アンテナエレメント3、導体地板4には、接続線7、8の一端がそれぞれ接続されている。接続線7、8の他端は、不図示の読み取り回路部に接続されている。
薄型アンテナ1、接続線7、8、および読み取り回路部は、データ読み取り装置を構成する。
このデータ読み取り装置は、読み取り回路部で生成した問い合わせ信号を、接続線7、8を介して薄型アンテナ1に送ることで、その信号は薄型アンテナ1から電磁波として空間に放射される。問い合わせ信号を受信したRFIDタグの内部では、この問い合わせに対する応答信号が生成される。RFIDタグからの応答信号は同薄型アンテナ1にて受信され、接続線7、8を介して読み取り回路部に送られ解読されることで、RFIDタグに記憶された情報を読み取ることができる。
【0018】
以上のように構成された薄型アンテナ1を薄型にするために、磁性シート2の厚さを検討する以下に説明する実験を行った。
なお、アンテナエレメントは三角形状の場合だけでなく、長方形状にした実験も行っている。
また、薄型アンテナ1では、磁性シート2の他方の面2bが金属部材側となるように金属部材に取り付けられたとき、金属部材と導体地板4とは、基材6および接着層を介した静電容量結合効果で電気的に接続され、この作用より導体地板4と金属部材は、アンテナエレメントに対する統合された一つの導体地板となる。
このため、以下の実験では、導体地板4および基材6を備えない薄型アンテナ1を、磁性シート2の他方の面2bが金属部材側となるように、前述の統合された一つの導体地板に相当する金属板に取り付けて実験を行った。
【0019】
(実験)
実験には、下記および図4に示す機材および材料を使用した。
・磁性シート2:大同特殊鋼(株)製 NRC010(厚さ100μm)
磁性シート2の寸法 35mm×30mm 比透磁率=17(1GHz)
・アンテナエレメント3:厚さ12μmのアルミニウムの薄膜
三角形状の各辺の長さは、23mm、23mm、26mm
長方形状のアンテナエレメント3A(図8参照。)の寸法は、32mm×9mm
・読み取り装置(読み取り回路部)R1:950MHz帯RFID用読み取り装置 三菱電機(株)製
RF−RW002(最大出力1W 30dBm)
・固定減衰器R2:ヒロセ電機(株)製 AT−103(減衰量 3dB)
・金属板(金属部材)11:アルミニウム製 180mm(長さ)×80mm(幅)×3mm(厚さ)
・RFIDタグT:UPM(株)製 Belt
【0020】
図5および6に示すように、金属板11の中心部にSMA規格に準じた同軸コネクタR11を設け、金属板11の厚さ方向に同軸コネクタR11の心線部を貫通させ、その心線部の先端をアンテナエレメント3に電気的に接続する給電部R12とした。
図4に示すように、同軸コネクタR11とRFIDタグの読み取り装置R1とは、固定減衰器R2が設けられた同軸ケーブルR3で接続される。
これら、薄型アンテナ1、読み取り装置R1、固定減衰器R2、同軸ケーブルR3、同軸コネクタR11、および給電部R12で、データ読み取り装置Rを構成する。
【0021】
続いて、実験を行った手順について説明する。
まず、図7に示すように金属板11上に磁性シート2を置き、その磁性シート2の上に三角形状のアンテナエレメント3を、その先端部分に給電部R12の心線が接触するようにして重ねた。
この実験では、アンテナエレメント3、磁性シート2、および金属板11を厚さ方向に密着させるために、不図示の発砲スチロールをアンテナエレメント3上に置き、その発泡スチロールの両端と金属板11とを薄い粘着テープで止めた。
RFIDタグTを金属板11上のアンテナエレメント3に向け回転させ、データ読み取り装置Rが非接触でRFIDタグTから情報を読み取ることができる距離の最大値(通信距離)を求めた。なお、発泡スチロールは通信距離の測定結果にはほとんど影響を与えないことが分かっている。
【0022】
実験に使用した読み取り装置R1の最高出力は1W(30dBm)であるが、実験環境の都合上、同軸ケーブルR3上に−3dBの固定減衰器R2を接続し、読み取り装置R1の出力を0.5W(27dBm)に減衰させて実験をおこなった。
磁性シート2の厚さを100μm〜700μmに変化させ、厚さの違いによる通信距離の変動を測定し記録した。磁性シート2の厚さを変化させるために、同一形状に加工された100μm厚の磁性シートを複数枚重ね合わせて、厚さが100μm〜700μmの磁性シート2とした。なお、本実験で使用した磁性シート2は、1GHz付近における比透磁率が17と、市販されている磁性シートの中では高い値を示すものである。
【0023】
図8に示すように、長方形状のアンテナエレメント3Aを用いた実験の場合でも、磁性シート2の上に、長方形状のアンテナエレメント3Aを、その短辺の中心に給電部R12の心線が接触するようにして重ねた。
【0024】
(実験結果)
三角形状のアンテナエレメント3を用いて、磁性シート2の厚さを100μm〜700μmに変化させた実験の結果(グラフ)を図9に示す。図9より、磁性シート2の厚さが100μmでは通信距離が50mmと低い値を示すが、通信距離が95mmと高い値を示す300〜400μmをピークとして、200〜600μmの間では良好な結果となった。
【0025】
長方形状のアンテナエレメント3Aを用いた場合の実験結果を図10に示す。
前述の三角形状のアンテナエレメント3を用いた実験結果と比較すると、通信距離は全体的に短くなってしまった。通信距離が70mmと高い値を示す300μmをピークとして、全体に山型の特性を示す結果となった。
これらの結果より、アンテナエレメントの形状の違いによる通信距離の差はあるものの、磁性シート2の厚さを200〜600μmにすることで良好な通信結果が得られることがわかった。
【0026】
なお、薄型アンテナ1の実際の使用に際しては、同軸ケーブルR3から固定減衰器R2を取り外すことで読み取り装置R1の出力を最大の1W(30dBm)まで上げられるので、通信距離がさらに長くなるのは言うまでもない。
その他、読み取り装置R1の装置側の入出力インピーダンスは50Ωであり、実験に用いた薄型アンテナ1のインピーダンスとは整合が取れていないと思われる。このため、インピーダンス整合回路を付加すること、磁性シート2の電気的な物性値(透磁率、磁性損失、誘電率、誘電損失など)を好適なものにすること、アンテナエレメント3の形状を最適化することなどで、通信距離はさらに長くできると考えられる。
【0027】
以上説明したように、本実施形態の薄型アンテナ1によれば、磁性シート2において、アンテナエレメント3が配置された一方の面2aとは反対側の他方の面2bに導体地板4が配置されるとともに、厚さ方向Dに見てアンテナエレメント3は導体地板4の輪郭の内部に配置されている。
このため、導体地板4側に金属板11を取り付けて薄型アンテナ1を使用した場合であっても、導体地板4に対してアンテナエレメント3とは反対側に配置された金属板11の影響がアンテナエレメント3に及ぶのを抑えて、アンテナエレメント3とRFIDタグTとの間で通信を良好に行うことができる。
また、磁性シート2の厚さが200μm以上600μm以下であるため、薄型アンテナ1の厚さを、従来型のアンテナと比較した場合に1/3〜1/10と非常に薄く形成することができる。
さらに、薄型アンテナ1には高価な部材も使われていないことから、薄型アンテナ1を安価に製造することもできる。
【0028】
主面6a上にアンテナエレメント3および導体地板4が形成された基材6が、主面6aが内側になるように折り返されて磁性シート2を挟むように配置される。したがって、アンテナエレメント3、導体地板4に直接触れなくても、基材6を介してアンテナエレメント3、導体地板4を扱うことができ、磁性シート2上にアンテナエレメント3および導体地板4を容易に配置することができる。
【0029】
なお、本実施形態の薄型アンテナ1では、基材6を、アンテナエレメント3および導体地板4が形成された主面6aが外側になるように折り線Lで折り返し、折り返した基材6の間に磁性シート2を挟んでもよい。このように構成しても、本実施形態の薄型アンテナ1と同様の効果を奏することができる。
【0030】
本実施形態の薄型アンテナ1では、本発明のアンテナ機能をわかりやすくするための造形としている。実際の使用に際しては、例えば薄型アンテナと読み取り回路部とのインピーダンス整合方法(例えば50−j0Ω化)、給電方法などを考慮し、装置の仕様に合わせた設計が必要となる。
本発明の薄型アンテナは、UHF帯(860〜960MHz)のRFIDタグの読み取り用に限定されるので、広帯域アンテナである必要はなく、アンテナ利得優先の狭帯域アンテナの特性を有している。
【0031】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図11を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
この例では、図11に示すように、携帯電話(携帯端末)21に、リチウムイオン型などの蓄電池31、および前述の薄型アンテナ1が内蔵された構成となっている。
【0032】
携帯電話21の外装ケース22は、プラスチックなどの比誘電率の小さい材料で形成されている。
蓄電池31の収容ケース(金属部材、外装部材)32は、アルミニウムや鉄などの金属で形成されている。
薄型アンテナ1は、磁性シート2の他方の面2b側に収容ケース32が配されるように、外装ケース22と収容ケース32との間に取り付けられている。薄型アンテナ1は、収容ケース32に密着した状態で取り付けられている。
薄型アンテナ1は、収容ケース32とともに、本実施形態のアンテナシステム36を構成する。
【0033】
このように構成された本実施形態のアンテナシステム36によれば、導体地板4と収容ケース32は、基材6および接着層を介した静電容量結合効果で電気的に接続され、この作用より導体地板4と収容ケース32は、アンテナエレメント3に対する統合された一つの導体地板となる。よって、アンテナエレメント3、磁性シート2、および統合された一つの導体地板という順に形成された3層構造のアンテナとなり、RFIDタグTとの間で通信を良好に行うことができる。
収容ケース32と導体地板4とは、厚さが50μm程度の誘電体である基材6を介した静電容量結合効果により、高周波的に接続される。これにより、導体地板4の面積を静電容量結合可能な程度にまで小さくすることもできる。
【0034】
携帯電話21の主回路(処理機能、電話機能、表示機能等の回路)は、図示はしないが通常は導体地板4に対してアンテナエレメント3とは反対側に配置されているため、アンテナエレメント3からの電波放射の影響を受けにくい。このことから、RFIDタグTの読み取り時の電磁波放射に対する内部の電磁波吸収体、遮蔽板(シールド版)等の電波障害対策を軽減することができる。
【0035】
本実施形態の薄型アンテナ1は、導体地板4側に金属が配置されていてもよいことから、携帯電話21の収容ケース32と外装ケース22との間に、携帯電話21の外形厚さの増大を極力抑えて組み込むことができる。なお、この組み込み方法は、スマートフォンなどの畜電池の大型化(縦および横方向)の流れにおいても支障をきたさない組み込み方法である。
【0036】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について図12を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
この例では、図12に示すように、携帯電話41に、前述の蓄電池31および薄型アンテナ51が内蔵された構成となっている。
【0037】
薄型アンテナ51は、主面6aにアンテナエレメント3が形成された基材6を、主面6aが外側になるように折り返し、折り返した基材6の間に磁性シート2を挟んだ構成となっている。
本実施形態では、薄型アンテナ51の導体地板は、収容ケース32に基材6が密着した状態に配置されることで収容ケース32に電気的に統合されている。すなわち、導体地板は収容ケース32に一体化されている。
薄型アンテナ51は、収容ケース32とともに、本実施形態のアンテナシステム56を構成する。
この場合、蓄電池31の収容ケース32に接続した不図示の既存電源ライン(グランドライン)を読み取り装置に接続することになる。
【0038】
このように構成された本実施形態のアンテナシステム56においても、前記実施形態のアンテナシステム36と同様の効果を奏することができる。
薄型アンテナ51の導体地板が収容ケース32に電気的に統合されているため、薄型アンテナ51の性能を維持しつつ、薄型アンテナ51をさらに薄型化することができる。
また、金属部材が蓄電池31の収容ケース32であるため、薄型アンテナ51を蓄電池31と組み合わせたアンテナシステム56を薄型化することができる。
【0039】
本実施形態では、薄型アンテナ51は基材6を備えなくてもよいし、さらに、収容ケース32と磁性シート2との間に隙間が形成されていてもよい。
磁性シート2とアンテナエレメント3との密着が保たれていれば、磁性シート2を収容ケース32に貼り付けてもよい。この場合、薄型アンテナの導体地板4および磁性シート2の機能が蓄電池31側に移行した状態になるため、薄型アンテナはアンテナエレメント3および基材6のみを備える構成となる。
携帯電話の外形厚さを極限まで抑えたいということであれば、アンテナエレメント3をアンテナ形状に加工したアルミ薄膜または銀ペーストインキでパターン印刷するなどして、プラスチックで形成された外装ケース22の内側の面上に設けることで、薄型アンテナが基材6を備えない構成とすることができる。よって、携帯電話の外形厚さを基材6の厚さ分だけさらに薄くすることができる。
【0040】
このように、携帯電話における収容ケース32と外装ケース22との間に配置された薄型アンテナは、自身には備えないようにした構成要素を収容ケース32や外装ケース22に適宜設けることができる。したがって、携帯電話の外形厚さを極限まで抑えた形、利便性優先の形態、経済性優先の形態など様々に対応が可能である。
携帯電話の中に薄型アンテナを組み込む場合、金属製の収容ケース32は、スペース的にも電気的には大きな障害になっている。このような状況において発明者が着目したのが、障害になっている収容ケース32であった。この収容ケース32を薄型アンテナの導体地板にして、非常に薄い薄型アンテナを作ることが、本発明の発想の一つである。
【0041】
以上、本発明の第1実施形態から第3実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更なども含まれる。さらに、各実施形態で示した構成のそれぞれを適宜組み合わせて利用できることは、言うまでもない。
たとえば、前記第2実施形態および第3実施形態では、携帯端末は携帯電話であるとした。しかし、携帯端末はこれに限ることなく、PDAやスマートフォンなどでもよいし、薄型アンテナが携帯端末以外の、自動車などの乗り物や、家庭用電気製品などに用いられてもよい。
【0042】
前記第1実施形態および第2実施形態では、厚さ方向Dに見たときに、アンテナエレメント3は導体地板4の輪郭の内部に配置されているように構成した。しかし、厚さ方向Dに見たときに、アンテナエレメント3および導体地板4は少なくとも一部が重なるように配置されていればよい。
この理由は、金属部材である金属板11、収容ケース32と導体地板4とは、基材および接着層を介した静電容量結合効果で電気的に接続され、この作用よりこれら金属部材と導体地板4とがアンテナエレメント3に対する統合された一つの導体地板となり、アンテナエレメント3は必然的に前述の導体地板の輪郭内に配置されることになるからである。
また、アンテナエレメントの形状は三角形状や長方形状に限定されず、円形状、楕円形状、多角形状、メアンダ形状、アレーアンテナ形状などであってもよい。導体地板4の形状も長方形状に限定されず、厚さ方向Dに見たときに少なくとも一部がアンテナエレメントに重なっていれば、その形状は、円形状、楕円形状、多角形状などであってもよい。
【符号の説明】
【0043】
1、51 薄型アンテナ
2 磁性シート
2a 一方の面
2b 他方の面
3、3A アンテナエレメント(アンテナ部)
4 導体地板
6 基材
6a 主面
11 金属板(金属部材)
21、41 携帯電話(携帯端末)
31 蓄電池
32 収容ケース(金属部材、外装部材)
36、56 アンテナシステム
【技術分野】
【0001】
本発明は、UHF帯で用いられるRFIDタグの読み取り装置の薄型アンテナおよびアンテナユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、RFID(Radio Frequency IDentification)タグと読み取り装置などとの間で無線通信が行われている。
RFIDタグの普及に伴い読み取り装置のバリエーションも増加しており、利便性を優先させるケースとして、専用の読み取り装置では無く、携帯電話、PDA(Personal Digital Assistant)などの携帯端末内にRFIDタグの読み取り機能(アンテナおよび読み取り回路)を内蔵させ、携帯端末に機能を付加したものが商品化されている。
【0003】
この場合、読み取りアンテナとして小型のパッチアンテナが搭載されている場合が多く、パッチアンテナはその構造上、厚みが必要になるため、携帯端末ではアンテナが装置本体からはみ出た造形になっている。携帯電話の場合では、読み取り機能の全てが外部のアタッチメント内に納められており、そのアタッチメントを携帯電話の本体と合体させるなどしている。
その理由は、多くの携帯電話および一部のPDAなどでは、情報表示面とは反対側の面(裏面)の内側にアルミニウム製の金属ケース(金属部材)に封入されたリチウムイオン型などの蓄電池が搭載されており、裏面側の大部分はこの蓄電池の金属ケースで占められている。よって、装置の裏面側にはRFIDタグの情報を読み取るための小型パッチアンテナを組み込むスペースがないからである。
【0004】
近年、携帯端末の中でも、表示面を大型にしてタッチパネル入力が可能なスマートフォン(多機能携帯電話)の増加が著しい。スマートフォンでは、大型化した表示面の発光電力の増大と、高速描画処理のためCPU、グラフィック処理ICなどの消費電力の増大により、中型の畜電池が内蔵されている。表示面の大型化にともないスマートフォンの本体の外形も大きくなっているが、それに伴って内蔵する畜電池も大きくなっており、前述の携帯電話および一部のPDAなどと同様に、小型パッチアンテナを組み込むためのスペースはない。さらにこのスマートフォンにおいては、稼働時間を伸ばすために畜電池の大型化も検討されている。
【0005】
携帯電話および一部のPDAなどに、RFIDタグの読み取り機能を組み込むことで、読み取り機能を稼動するための電力も必要になるので、内蔵される畜電池はさらに大型化すると予想される。よって、携帯端末の中に大型の畜電池があっても組み込み可能な、薄型のRFIDタグの読み取りアンテナが待ち望まれている。
【0006】
薄型パッチアンテナとしては、例えば特許文献1に示すように、パッチアンテナの広帯域化を目指し、パッチアンテナ構造で放射アンテナと導体地板との間に磁性体を設ける構成も提案されている。
特許文献1のパッチアンテナでは、アンテナ特性の中心周波数が4GHzにおいて磁性体の厚さは2mmであった。RFIDタグのUHF帯の周波数は860〜960MHzであることから、この周波数に対応した場合では波長が4倍近く長くなり、磁性体の厚さはさらに厚くなってしまうことが想定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4379470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、UHF帯の電波で用いられ、金属部材に取り付けられていても通信を良好に行うことができるRFIDタグの読み取り用の薄型アンテナ、およびこの薄型アンテナを用いたアンテナユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の薄型アンテナは、磁性シートと、前記磁性シートの一方の面上に配置されたアンテナ部と、前記磁性シートの他方の面上に配置された導体地板と、を備え、前記磁性シートの厚さ方向に見たときに、前記アンテナ部および前記導体地板は少なくとも一部が重なるように配置され、前記磁性シートの厚さが200μm以上600μm以下であることを特徴としている。
【0010】
また、上記の薄型アンテナにおいて、前記アンテナ部および前記導体地板が自身の主面上に形成されたフィルム状の基材を備え、前記主面が内側になるように折り返された前記基材の間に前記磁性シートが挟まれていることがより好ましい。
また、上記の薄型アンテナにおいて、前記アンテナ部および前記導体地板が自身の主面上に形成されたフィルム状の基材を備え、前記主面が外側になるように折り返された前記基材の間に前記磁性シートが挟まれていることがより好ましい。
【0011】
また、本発明のアンテナユニットは、上記に記載のアンテナと、前記薄型アンテナにおける前記磁性シートの他方の面側に取り付けられた金属部材と、を備えることを特徴としている。
また、上記のアンテナユニットにおいて、前記導体地板は前記金属部材に電気的に統合されていることがより好ましい。
また、上記のアンテナユニットにおいて、前記金属部材は、携帯端末に内蔵されている蓄電池の外装部材であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の薄型アンテナおよびアンテナユニットによれば、UHF帯の電波で用いられ、金属部材に取り付けられていても通信を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態の薄型アンテナの平面図である。
【図2】図1におけるA方向矢視図である。
【図3】同薄型アンテナを展開した平面図である。
【図4】同薄型アンテナを用いた実験の手順を説明する側面図である。
【図5】実験に用いた金属板および給電部の平面図である。
【図6】同金属板および給電部の側面図である。
【図7】金属板の上に磁性シートと三角形状のアンテナエレメントとを順に重ねて置いた状態を示す平面図である。
【図8】金属板の上に磁性シートと長方形状のアンテナエレメントとを順に重ねて置いた状態を示す平面図である。
【図9】三角形状のアンテナエレメントを用いた実験結果を示す図である。
【図10】長方形状のアンテナエレメントを用いた実験結果を示す図である。
【図11】本発明の第2実施形態のアンテナユニットを内蔵した携帯電話における要部の断面図である。
【図12】本発明の第3実施形態のアンテナユニットを内蔵した携帯電話における要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る薄型アンテナの第1実施形態を、図1から図10を参照しながら説明する。本薄型アンテナは、RFIDタグとの間で非接触にて通信を行うものである。
図1から図3に示すように、本実施形態の薄型アンテナ1は、磁性シート2と、磁性シート2の一方の面2a上に配置されたアンテナエレメント(アンテナ部)3と、磁性シート2の他方の面2b上に配置された導体地板4とを備えている。
なお、図1においては、後述する基材6は示していなく、全ての図ではアンテナエレメントはハッチングを付して示している。また、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の厚さや寸法の比率は適宜異ならせてある。
【0015】
磁性シート2としては、磁性粒子、または磁性フレークとプラスチックまたはゴムとの複合材からなる、柔軟性に富んだ公知の材料を用いることができる。図3に示すように、磁性シート2の厚さ方向D(図2参照。)に見た平面視において、磁性シート2は長方形状に形成されている。
本実施形態では、アンテナエレメント3および導体地板4は、フィルム状の基材6の主面6a上に形成されている。
【0016】
基材6を形成する材料としては、PETなどの樹脂を好適に用いることができる。基材6の厚さは、例えば50μmである。
アンテナエレメント3および導体地板4は、基材6上に配したアルミ薄膜をエッチング法にて成形したり、基材6に銀ペーストインキをパターン印刷したりすることで形成されている。
平面視において、アンテナエレメント3は三角形状に形成され、導体地板4は長方形状に形成されている。
基材6は、主面6aが内側になるように折り線Lで折り返されていて、折り返された基材6の間に磁性シート2を挟んで不図示の接着剤などで接着することで、磁性シート2にアンテナエレメント3および導体地板4が取り付けられている。言い換えれば、基材6は磁性シート2に巻きつけられている。
なお、実際には薄型アンテナ1は非常に薄く構成されているため、基材6を折り返す折り線Lが1つとなる場合もある。
【0017】
平面視において、アンテナエレメント3は導体地板4の輪郭の内部に配置されている。
アンテナエレメント3、導体地板4には、接続線7、8の一端がそれぞれ接続されている。接続線7、8の他端は、不図示の読み取り回路部に接続されている。
薄型アンテナ1、接続線7、8、および読み取り回路部は、データ読み取り装置を構成する。
このデータ読み取り装置は、読み取り回路部で生成した問い合わせ信号を、接続線7、8を介して薄型アンテナ1に送ることで、その信号は薄型アンテナ1から電磁波として空間に放射される。問い合わせ信号を受信したRFIDタグの内部では、この問い合わせに対する応答信号が生成される。RFIDタグからの応答信号は同薄型アンテナ1にて受信され、接続線7、8を介して読み取り回路部に送られ解読されることで、RFIDタグに記憶された情報を読み取ることができる。
【0018】
以上のように構成された薄型アンテナ1を薄型にするために、磁性シート2の厚さを検討する以下に説明する実験を行った。
なお、アンテナエレメントは三角形状の場合だけでなく、長方形状にした実験も行っている。
また、薄型アンテナ1では、磁性シート2の他方の面2bが金属部材側となるように金属部材に取り付けられたとき、金属部材と導体地板4とは、基材6および接着層を介した静電容量結合効果で電気的に接続され、この作用より導体地板4と金属部材は、アンテナエレメントに対する統合された一つの導体地板となる。
このため、以下の実験では、導体地板4および基材6を備えない薄型アンテナ1を、磁性シート2の他方の面2bが金属部材側となるように、前述の統合された一つの導体地板に相当する金属板に取り付けて実験を行った。
【0019】
(実験)
実験には、下記および図4に示す機材および材料を使用した。
・磁性シート2:大同特殊鋼(株)製 NRC010(厚さ100μm)
磁性シート2の寸法 35mm×30mm 比透磁率=17(1GHz)
・アンテナエレメント3:厚さ12μmのアルミニウムの薄膜
三角形状の各辺の長さは、23mm、23mm、26mm
長方形状のアンテナエレメント3A(図8参照。)の寸法は、32mm×9mm
・読み取り装置(読み取り回路部)R1:950MHz帯RFID用読み取り装置 三菱電機(株)製
RF−RW002(最大出力1W 30dBm)
・固定減衰器R2:ヒロセ電機(株)製 AT−103(減衰量 3dB)
・金属板(金属部材)11:アルミニウム製 180mm(長さ)×80mm(幅)×3mm(厚さ)
・RFIDタグT:UPM(株)製 Belt
【0020】
図5および6に示すように、金属板11の中心部にSMA規格に準じた同軸コネクタR11を設け、金属板11の厚さ方向に同軸コネクタR11の心線部を貫通させ、その心線部の先端をアンテナエレメント3に電気的に接続する給電部R12とした。
図4に示すように、同軸コネクタR11とRFIDタグの読み取り装置R1とは、固定減衰器R2が設けられた同軸ケーブルR3で接続される。
これら、薄型アンテナ1、読み取り装置R1、固定減衰器R2、同軸ケーブルR3、同軸コネクタR11、および給電部R12で、データ読み取り装置Rを構成する。
【0021】
続いて、実験を行った手順について説明する。
まず、図7に示すように金属板11上に磁性シート2を置き、その磁性シート2の上に三角形状のアンテナエレメント3を、その先端部分に給電部R12の心線が接触するようにして重ねた。
この実験では、アンテナエレメント3、磁性シート2、および金属板11を厚さ方向に密着させるために、不図示の発砲スチロールをアンテナエレメント3上に置き、その発泡スチロールの両端と金属板11とを薄い粘着テープで止めた。
RFIDタグTを金属板11上のアンテナエレメント3に向け回転させ、データ読み取り装置Rが非接触でRFIDタグTから情報を読み取ることができる距離の最大値(通信距離)を求めた。なお、発泡スチロールは通信距離の測定結果にはほとんど影響を与えないことが分かっている。
【0022】
実験に使用した読み取り装置R1の最高出力は1W(30dBm)であるが、実験環境の都合上、同軸ケーブルR3上に−3dBの固定減衰器R2を接続し、読み取り装置R1の出力を0.5W(27dBm)に減衰させて実験をおこなった。
磁性シート2の厚さを100μm〜700μmに変化させ、厚さの違いによる通信距離の変動を測定し記録した。磁性シート2の厚さを変化させるために、同一形状に加工された100μm厚の磁性シートを複数枚重ね合わせて、厚さが100μm〜700μmの磁性シート2とした。なお、本実験で使用した磁性シート2は、1GHz付近における比透磁率が17と、市販されている磁性シートの中では高い値を示すものである。
【0023】
図8に示すように、長方形状のアンテナエレメント3Aを用いた実験の場合でも、磁性シート2の上に、長方形状のアンテナエレメント3Aを、その短辺の中心に給電部R12の心線が接触するようにして重ねた。
【0024】
(実験結果)
三角形状のアンテナエレメント3を用いて、磁性シート2の厚さを100μm〜700μmに変化させた実験の結果(グラフ)を図9に示す。図9より、磁性シート2の厚さが100μmでは通信距離が50mmと低い値を示すが、通信距離が95mmと高い値を示す300〜400μmをピークとして、200〜600μmの間では良好な結果となった。
【0025】
長方形状のアンテナエレメント3Aを用いた場合の実験結果を図10に示す。
前述の三角形状のアンテナエレメント3を用いた実験結果と比較すると、通信距離は全体的に短くなってしまった。通信距離が70mmと高い値を示す300μmをピークとして、全体に山型の特性を示す結果となった。
これらの結果より、アンテナエレメントの形状の違いによる通信距離の差はあるものの、磁性シート2の厚さを200〜600μmにすることで良好な通信結果が得られることがわかった。
【0026】
なお、薄型アンテナ1の実際の使用に際しては、同軸ケーブルR3から固定減衰器R2を取り外すことで読み取り装置R1の出力を最大の1W(30dBm)まで上げられるので、通信距離がさらに長くなるのは言うまでもない。
その他、読み取り装置R1の装置側の入出力インピーダンスは50Ωであり、実験に用いた薄型アンテナ1のインピーダンスとは整合が取れていないと思われる。このため、インピーダンス整合回路を付加すること、磁性シート2の電気的な物性値(透磁率、磁性損失、誘電率、誘電損失など)を好適なものにすること、アンテナエレメント3の形状を最適化することなどで、通信距離はさらに長くできると考えられる。
【0027】
以上説明したように、本実施形態の薄型アンテナ1によれば、磁性シート2において、アンテナエレメント3が配置された一方の面2aとは反対側の他方の面2bに導体地板4が配置されるとともに、厚さ方向Dに見てアンテナエレメント3は導体地板4の輪郭の内部に配置されている。
このため、導体地板4側に金属板11を取り付けて薄型アンテナ1を使用した場合であっても、導体地板4に対してアンテナエレメント3とは反対側に配置された金属板11の影響がアンテナエレメント3に及ぶのを抑えて、アンテナエレメント3とRFIDタグTとの間で通信を良好に行うことができる。
また、磁性シート2の厚さが200μm以上600μm以下であるため、薄型アンテナ1の厚さを、従来型のアンテナと比較した場合に1/3〜1/10と非常に薄く形成することができる。
さらに、薄型アンテナ1には高価な部材も使われていないことから、薄型アンテナ1を安価に製造することもできる。
【0028】
主面6a上にアンテナエレメント3および導体地板4が形成された基材6が、主面6aが内側になるように折り返されて磁性シート2を挟むように配置される。したがって、アンテナエレメント3、導体地板4に直接触れなくても、基材6を介してアンテナエレメント3、導体地板4を扱うことができ、磁性シート2上にアンテナエレメント3および導体地板4を容易に配置することができる。
【0029】
なお、本実施形態の薄型アンテナ1では、基材6を、アンテナエレメント3および導体地板4が形成された主面6aが外側になるように折り線Lで折り返し、折り返した基材6の間に磁性シート2を挟んでもよい。このように構成しても、本実施形態の薄型アンテナ1と同様の効果を奏することができる。
【0030】
本実施形態の薄型アンテナ1では、本発明のアンテナ機能をわかりやすくするための造形としている。実際の使用に際しては、例えば薄型アンテナと読み取り回路部とのインピーダンス整合方法(例えば50−j0Ω化)、給電方法などを考慮し、装置の仕様に合わせた設計が必要となる。
本発明の薄型アンテナは、UHF帯(860〜960MHz)のRFIDタグの読み取り用に限定されるので、広帯域アンテナである必要はなく、アンテナ利得優先の狭帯域アンテナの特性を有している。
【0031】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図11を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
この例では、図11に示すように、携帯電話(携帯端末)21に、リチウムイオン型などの蓄電池31、および前述の薄型アンテナ1が内蔵された構成となっている。
【0032】
携帯電話21の外装ケース22は、プラスチックなどの比誘電率の小さい材料で形成されている。
蓄電池31の収容ケース(金属部材、外装部材)32は、アルミニウムや鉄などの金属で形成されている。
薄型アンテナ1は、磁性シート2の他方の面2b側に収容ケース32が配されるように、外装ケース22と収容ケース32との間に取り付けられている。薄型アンテナ1は、収容ケース32に密着した状態で取り付けられている。
薄型アンテナ1は、収容ケース32とともに、本実施形態のアンテナシステム36を構成する。
【0033】
このように構成された本実施形態のアンテナシステム36によれば、導体地板4と収容ケース32は、基材6および接着層を介した静電容量結合効果で電気的に接続され、この作用より導体地板4と収容ケース32は、アンテナエレメント3に対する統合された一つの導体地板となる。よって、アンテナエレメント3、磁性シート2、および統合された一つの導体地板という順に形成された3層構造のアンテナとなり、RFIDタグTとの間で通信を良好に行うことができる。
収容ケース32と導体地板4とは、厚さが50μm程度の誘電体である基材6を介した静電容量結合効果により、高周波的に接続される。これにより、導体地板4の面積を静電容量結合可能な程度にまで小さくすることもできる。
【0034】
携帯電話21の主回路(処理機能、電話機能、表示機能等の回路)は、図示はしないが通常は導体地板4に対してアンテナエレメント3とは反対側に配置されているため、アンテナエレメント3からの電波放射の影響を受けにくい。このことから、RFIDタグTの読み取り時の電磁波放射に対する内部の電磁波吸収体、遮蔽板(シールド版)等の電波障害対策を軽減することができる。
【0035】
本実施形態の薄型アンテナ1は、導体地板4側に金属が配置されていてもよいことから、携帯電話21の収容ケース32と外装ケース22との間に、携帯電話21の外形厚さの増大を極力抑えて組み込むことができる。なお、この組み込み方法は、スマートフォンなどの畜電池の大型化(縦および横方向)の流れにおいても支障をきたさない組み込み方法である。
【0036】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について図12を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
この例では、図12に示すように、携帯電話41に、前述の蓄電池31および薄型アンテナ51が内蔵された構成となっている。
【0037】
薄型アンテナ51は、主面6aにアンテナエレメント3が形成された基材6を、主面6aが外側になるように折り返し、折り返した基材6の間に磁性シート2を挟んだ構成となっている。
本実施形態では、薄型アンテナ51の導体地板は、収容ケース32に基材6が密着した状態に配置されることで収容ケース32に電気的に統合されている。すなわち、導体地板は収容ケース32に一体化されている。
薄型アンテナ51は、収容ケース32とともに、本実施形態のアンテナシステム56を構成する。
この場合、蓄電池31の収容ケース32に接続した不図示の既存電源ライン(グランドライン)を読み取り装置に接続することになる。
【0038】
このように構成された本実施形態のアンテナシステム56においても、前記実施形態のアンテナシステム36と同様の効果を奏することができる。
薄型アンテナ51の導体地板が収容ケース32に電気的に統合されているため、薄型アンテナ51の性能を維持しつつ、薄型アンテナ51をさらに薄型化することができる。
また、金属部材が蓄電池31の収容ケース32であるため、薄型アンテナ51を蓄電池31と組み合わせたアンテナシステム56を薄型化することができる。
【0039】
本実施形態では、薄型アンテナ51は基材6を備えなくてもよいし、さらに、収容ケース32と磁性シート2との間に隙間が形成されていてもよい。
磁性シート2とアンテナエレメント3との密着が保たれていれば、磁性シート2を収容ケース32に貼り付けてもよい。この場合、薄型アンテナの導体地板4および磁性シート2の機能が蓄電池31側に移行した状態になるため、薄型アンテナはアンテナエレメント3および基材6のみを備える構成となる。
携帯電話の外形厚さを極限まで抑えたいということであれば、アンテナエレメント3をアンテナ形状に加工したアルミ薄膜または銀ペーストインキでパターン印刷するなどして、プラスチックで形成された外装ケース22の内側の面上に設けることで、薄型アンテナが基材6を備えない構成とすることができる。よって、携帯電話の外形厚さを基材6の厚さ分だけさらに薄くすることができる。
【0040】
このように、携帯電話における収容ケース32と外装ケース22との間に配置された薄型アンテナは、自身には備えないようにした構成要素を収容ケース32や外装ケース22に適宜設けることができる。したがって、携帯電話の外形厚さを極限まで抑えた形、利便性優先の形態、経済性優先の形態など様々に対応が可能である。
携帯電話の中に薄型アンテナを組み込む場合、金属製の収容ケース32は、スペース的にも電気的には大きな障害になっている。このような状況において発明者が着目したのが、障害になっている収容ケース32であった。この収容ケース32を薄型アンテナの導体地板にして、非常に薄い薄型アンテナを作ることが、本発明の発想の一つである。
【0041】
以上、本発明の第1実施形態から第3実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更なども含まれる。さらに、各実施形態で示した構成のそれぞれを適宜組み合わせて利用できることは、言うまでもない。
たとえば、前記第2実施形態および第3実施形態では、携帯端末は携帯電話であるとした。しかし、携帯端末はこれに限ることなく、PDAやスマートフォンなどでもよいし、薄型アンテナが携帯端末以外の、自動車などの乗り物や、家庭用電気製品などに用いられてもよい。
【0042】
前記第1実施形態および第2実施形態では、厚さ方向Dに見たときに、アンテナエレメント3は導体地板4の輪郭の内部に配置されているように構成した。しかし、厚さ方向Dに見たときに、アンテナエレメント3および導体地板4は少なくとも一部が重なるように配置されていればよい。
この理由は、金属部材である金属板11、収容ケース32と導体地板4とは、基材および接着層を介した静電容量結合効果で電気的に接続され、この作用よりこれら金属部材と導体地板4とがアンテナエレメント3に対する統合された一つの導体地板となり、アンテナエレメント3は必然的に前述の導体地板の輪郭内に配置されることになるからである。
また、アンテナエレメントの形状は三角形状や長方形状に限定されず、円形状、楕円形状、多角形状、メアンダ形状、アレーアンテナ形状などであってもよい。導体地板4の形状も長方形状に限定されず、厚さ方向Dに見たときに少なくとも一部がアンテナエレメントに重なっていれば、その形状は、円形状、楕円形状、多角形状などであってもよい。
【符号の説明】
【0043】
1、51 薄型アンテナ
2 磁性シート
2a 一方の面
2b 他方の面
3、3A アンテナエレメント(アンテナ部)
4 導体地板
6 基材
6a 主面
11 金属板(金属部材)
21、41 携帯電話(携帯端末)
31 蓄電池
32 収容ケース(金属部材、外装部材)
36、56 アンテナシステム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性シートと、
前記磁性シートの一方の面上に配置されたアンテナ部と、
前記磁性シートの他方の面上に配置された導体地板と、
を備え、
前記磁性シートの厚さ方向に見たときに、前記アンテナ部および前記導体地板は少なくとも一部が重なるように配置され、
前記磁性シートの厚さが200μm以上600μm以下であることを特徴とする薄型アンテナ。
【請求項2】
前記アンテナ部および前記導体地板が自身の主面上に形成されたフィルム状の基材を備え、
前記主面が内側になるように折り返された前記基材の間に前記磁性シートが挟まれていることを特徴とする請求項1に記載の薄型アンテナ。
【請求項3】
前記アンテナ部および前記導体地板が自身の主面上に形成されたフィルム状の基材を備え、
前記主面が外側になるように折り返された前記基材の間に前記磁性シートが挟まれていることを特徴とする請求項1に記載の薄型アンテナ。
【請求項4】
請求項1または3に記載の薄型アンテナと、
前記薄型アンテナにおける前記磁性シートの他方の面側に取り付けられた金属部材と、
を備えることを特徴とするアンテナユニット。
【請求項5】
前記導体地板は前記金属部材に電気的に統合されていることを特徴とする請求項4に記載のアンテナユニット。
【請求項6】
前記金属部材は、携帯端末に内蔵されている蓄電池の外装部材であることを特徴とする請求項4または5に記載のアンテナユニット。
【請求項1】
磁性シートと、
前記磁性シートの一方の面上に配置されたアンテナ部と、
前記磁性シートの他方の面上に配置された導体地板と、
を備え、
前記磁性シートの厚さ方向に見たときに、前記アンテナ部および前記導体地板は少なくとも一部が重なるように配置され、
前記磁性シートの厚さが200μm以上600μm以下であることを特徴とする薄型アンテナ。
【請求項2】
前記アンテナ部および前記導体地板が自身の主面上に形成されたフィルム状の基材を備え、
前記主面が内側になるように折り返された前記基材の間に前記磁性シートが挟まれていることを特徴とする請求項1に記載の薄型アンテナ。
【請求項3】
前記アンテナ部および前記導体地板が自身の主面上に形成されたフィルム状の基材を備え、
前記主面が外側になるように折り返された前記基材の間に前記磁性シートが挟まれていることを特徴とする請求項1に記載の薄型アンテナ。
【請求項4】
請求項1または3に記載の薄型アンテナと、
前記薄型アンテナにおける前記磁性シートの他方の面側に取り付けられた金属部材と、
を備えることを特徴とするアンテナユニット。
【請求項5】
前記導体地板は前記金属部材に電気的に統合されていることを特徴とする請求項4に記載のアンテナユニット。
【請求項6】
前記金属部材は、携帯端末に内蔵されている蓄電池の外装部材であることを特徴とする請求項4または5に記載のアンテナユニット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−110685(P2013−110685A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256165(P2011−256165)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]