説明

薄型ブラシ及び薄型ブラシの製造方法

【課題】 使用時に繰り返し外力を受けてもブラシ毛の抜けが発生せず、耐久性および除塵効果にも優れ、しかも、歩留りや作業効率の向上によって低コスト化も図れる薄型ブラシ、および薄型ブラシの製造方法を提供すること。
【解決手段】 ピンカーブ状に折り返されたフィラメント束Fを並べて形成されたブラシ毛11・11…と前記フィラメント束Fの折返し部を鎖編組織Cで拘束してブラシ毛11・11…を固定したブラシ基部12とから成る薄型ブラシにおいて、ブラシ基部12の幅方向における鎖編組織の密度と、各鎖編組織に拘束されたフィラメント束Fの断面積とを次式の関係とし、かつ、ブラシ基部12の両端部には、鎖編組織のみから成る鎖編単独部Nが少なくとも1コース分設けて、鎖編組織の編糸同士の交点、および鎖編組織の編糸とフィラメント束の交点において接着剤により点状、または線状で接着一体化した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄型ブラシ及び薄型ブラシの製造方法の改良、詳しくは、掃除機の回転ブラシに使用してもブラシ毛の抜けが発生し難く、また歩留りの向上も図れる薄型ブラシ及び薄型ブラシの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭用または業務用掃除機の多くに、回転ブラシを備えた吸引ノズルが用いられている。また、吸引ノズルに用いる回転ブラシの構造としては、ブラシ毛束をローラに螺旋状に植設したものや、複数列で螺旋状に配置した毛束間に絨毯等の塵埃を叩きだすための突起を設けたものが知られている。
【0003】
ところが、上記のようにブラシ毛束をローラに直接植設する構造では、ローラの表面に多数の孔を設けた後、その孔に毛束を接着固定する作業が必要となるため、製造工程が複雑になり易い。また、ブラシ毛の抜けや摩耗によって集塵効果が低下した場合には、回転ブラシそのものを交換しなければならなくなる。
【0004】
一方、従来においては、ブラシ毛束をローラに植設する方法として、ローラ外周面に螺旋状に設けた溝に、ブラシ毛束が直線状に並んだ薄型ブラシの基部を嵌め込む方法も提案されており(特許文献1参照)、この方法は、多くのブラシ毛束を一度に植設できる点、及びブラシ毛の摩耗時に薄型ブラシのみの交換が可能な点でメリットがある。
【0005】
しかし、上記薄型ブラシが、基部に多数の孔を設けてブラシ毛束を固定する構造だと、煩雑な孔開け作業や接着作業が必要となるため、製造面の問題は解消されない。また、そもそもローラやブラシ基部にブラシ毛束を接着して固定する構造は、使用時に毛束が強く引っ張られた際に剥離が生じてブラシ毛の抜けが発生し易い。
【0006】
そこで、従来、上記問題点を解消するために、ピンカーブ状に折り返したブラシ毛束の折返し部分を織組織、または編組織で拘束して多数の毛束を一体化した薄型ブラシが提案されたが(特許文献2〜4参照)、この薄型ブラシには使用面や製造面において無視できない問題があった。
【0007】
具体的には、所定長さに切断した薄型ブラシの両側の織組織(または編組織)が、使用時に外力が繰り返し作用した際に解けたり緩んだりして端側のブラシ毛の抜け落ちが発生し易かった。これは特に、高速で回転させる掃除機の回転ブラシに薄型ブラシを使用する場合に顕著であった。
【0008】
また、文献4にあるように、薄型ブラシを切断する際、使用時に両端側のブラシ毛に外力が及ばないように端側のブラシ毛を中央部分よりも短くする工夫も考えられたが、これだと切断作業や飛散した切断屑の掃除が面倒なだけでなく、材料のロスも大きかった。
【0009】
そしてまた、上記のように端側のブラシ毛を短く切断すると、ブラシ全体の長さに対して除塵機能が発揮される部分が短くなってしまうため、通常よりもブラシを長く設計する必要が生じ、それが結果的に材料の無駄となってコスト高に繋がった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭61―154607号公報
【特許文献2】特開昭59―105408号公報
【特許文献3】特開2001―70050号公報
【特許文献4】特開平10―23927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記ブラシ材の問題に鑑みて為されたものであり、使用時に繰り返し外力を受けてもブラシ毛の抜けが発生せず、耐久性および除塵効果にも優れ、また掃除機の回転ブラシ等への取付け・交換も容易で、しかも、歩留りや作業効率の向上によって低コスト化も図れる薄型ブラシ、および薄型ブラシの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段について添付図面を参照して説明すれば次の通りである。
【0013】
即ち、本発明の薄型ブラシは、ピンカーブ状に折り返されたフィラメント束Fを並べて形成されたブラシ毛11・11…と前記フィラメント束Fの折返し部を鎖編組織Cで拘束してブラシ毛11・11…を固定したブラシ基部12とから成る薄型ブラシにおいて、ブラシ基部12の幅方向における鎖編組織の密度と、各鎖編組織に拘束されたフィラメント束Fの断面積とを次式の関係とし、かつ、ブラシ基部12の両端部には、鎖編組織のみから成る鎖編単独部Nが少なくとも1コース分設けて、鎖編組織の編糸同士の交点、および鎖編組織の編糸とフィラメント束の交点において接着剤により点状、または線状で接着一体化されていることに特徴がある。
【数1】

【0014】
また本発明では、上記フィラメント束Fに、破壊歪エネルギーが40MJ/m3以上、フィラメント数が6,000〜24,000本の炭素繊維を使用することができる。なお、破壊歪エネルギーを40MJ/m3以上としたのは、編成時にフィラメント束Fをピンカーブ状に折返してもその個所で単糸切れを起こすことがなく、また、高速回転によりブラシ毛に衝撃荷重が加わっても容易に切れない耐久性を確保するためである。また、ブラシ毛を導電性の有した炭素繊維としたのは、敷物等との摩擦による静電気を抑制するためである。また、フィラメント数を6,000〜24,000本としたのは、除塵効率の高いブラシ毛密度とするためである。
【0015】
また更に、本発明では、上記ブラシ基部12の鎖編組織Cに、弾性率が10〜300GPaの補強糸Rをブラシ毛11・11…の配列方向に挿入すると共に、この補強糸Rとフィラメント束F・F…、鎖編組織Cとを接着一体化することにより、鎖編組織Cの伸長を阻止して寸法安定性の優れた薄型ブラシを提供することができる。
【0016】
一方、本発明は、上記薄型ブラシの製造方法に関して、ブラシ毛となるフィラメント束を緯糸Pとし、この緯糸Pを左右に折り返しながら折返し部付近を鎖編糸Qで編成される鎖編組織Cに挿入して、各コースの緯糸P1・P2…両側を鎖編組織Cで拘束する第一のステップと;この第一のステップを所定コース数行った後、緯糸Pの挿入を少なくとも2コース以上の停止、または2コース以上に亙って斜めに挿入して鎖編組織Cの編成のみを行う第二のステップと;前記第一のステップと第二のステップを繰り返し行って長尺の帯状体L1を作製する第三のステップと;この第三のステップで得られた帯状体L1の短手方向の中央部Aを長手方向に切断すると共に、前記第二のステップにより鎖編組織Cのみが編成された部位Bを短手方向に切断する第四のステップを含む方法を採用した点にも特徴がある。
【0017】
また、本発明においては、鎖編組織Cのほつれや緩みを防止するために、上記第三のステップと第四のステップの間において、緯糸Pであるフィラメント束とこの緯糸Pが挿入された鎖編組織Cとを接着一体化することができる。
【0018】
そして更に、上記接着一体化を行う際には、鎖編糸Qに耐熱性糸と低融点ポリマー糸とを引き揃えた糸材を使用し、鎖編組織Cの形成後において前記低融点ポリマー糸を熱融着させることにより、鎖編糸(Q)同士、および鎖編糸(Q)と緯糸Pとを効率良く接着することができる。
【発明の効果】
【0019】
まず本発明では、薄型ブラシのブラシ毛となる各フィラメント束の断面積と、このフィラメント束を拘束する鎖編組織のコース密度との関係を所定の数値範囲に限定したことにより、フィラメント束を円形断面に収束させつつ、鎖編組織で強固に保持することが可能となるため、ブラシ毛の抜けを防止することができる。またブラシ毛は、フィラメント束がほぼ隙間なく密に並んで形成されるため高い除塵効果を発揮する。
【0020】
一方、上記薄型ブラシの両端部には、少なくとも1コース分の鎖編単独部を設けて、この鎖編単独部と隣接する鎖編組織との交点を接着したことにより、端側のフィラメント束もしっかりと拘束することができるため、使用時にブラシ毛が繰り返しの外力を受けた場合でも両側の鎖編組織が解けてブラシ毛が脱落する心配がない。
【0021】
また上記の効果により、薄型ブラシを掃除機の回転ブラシに使用すれば回転ブラシの耐久性を向上することもできる。また更に、薄型ブラシは回転ブラシのローラに対して容易に取付けや交換が行えるため、回転ブラシの摩耗時には薄型ブラシを取り替えるだけで簡単に修理を行える。
【0022】
他方また、本発明の製造方法においては、フィラメント束の緯糸挿入を少なくとも2コース分の停止、または斜め挿入して、フィラメント束を含まない鎖編単独部を設け、更にその部位を切断して薄型ブラシを作製する方法を採用したことにより、炭素繊維フィラメントの無駄なロスを抑えることができるため、歩留りを向上することができる。また、両側のフィラメント束を斜めにカットする工程もないため、切断作業や飛散した切断屑の掃除等も不要となって製造効率の向上も図れる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例1における薄型ブラシを表わす全体正面図である。
【図2】本発明の実施例1における薄型ブラシの製造工程を表わす説明図である。
【図3】本発明の実施例3における薄型ブラシを表わす全体正面図である。
【図4】本発明の実施例3における薄型ブラシの製造工程を表わす説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
『実施例1』
本発明の実施例1について図1及び図2に基づいて説明する。なお図中において、符号1で指示するものは、ブラシ毛11・11…とブラシ基部12とを備えた薄型ブラシである。
【0025】
[薄型ブラシの構成]
まず、この実施例1では、ピンカーブ状に折り返したフィラメント束F・F…を並べて薄型ブラシ1のブラシ毛11・11…を形成している(図1参照)。また、これらのブラシ毛11・11…を固定するブラシ基部12は、鎖編組織Cによって前記フィラメント束F・F…の折返し部を拘束して形成している。
【0026】
また実施例1では、上記フィラメント束Fに炭素繊維を用いると共に、一束のフィラメント数を12,000本としている、また、鎖編組織Cを構成する糸材には、耐熱性を有する280dtexのナイロン繊維糸を使用している。
【0027】
ちなみに、フィラメント束Fに用いる炭素繊維は、導電性を有しているため床やカーペットなどの摩擦による静電気発生を抑制することができる。一方、炭素繊維は高い引っ張り強度を有するが、屈曲に対しては比較的弱い。そのため、炭素繊維には高靭性を有するもの、すなわち破壊歪エネルギーにおいて40MJ/m3以上のものを使用している。
【0028】
そして、上記条件に合った炭素繊維を使用することにより、ピンカーブ状に折返した部分で繊維が切断して抜け落ちる問題を解消できるため、使用時の衝撃負荷によって、毛羽やブラシ毛の抜けが発生しない耐久性のあるブラシ製品を提供することが可能となる。
【0029】
なお、「破壊歪エネルギー」とは、破壊するまでに材料に加えられる総エネルギーであって、各種材料の引張試験により得られる応力−歪曲線の下側の面積であり、応力−歪曲線は縦軸を応力σ、横軸を歪εとして表わされる。
また、応力−歪曲線において応力と歪の関係を表わす関数をσ=f(ε)とすると、破壊歪エネルギーUは次式で求めることができる。
【数2】

【0030】
また、炭素繊維は合成繊維と比較して高い弾性率を有しているため、除塵等でブラシ毛に衝撃が加わっても毛先が折れ曲がり難く、優れた耐久性によって長期間高い除塵効果を維持できる点でも好ましい材料である。特に引っ張り弾性率が低く、引っ張り強度の高い炭素繊維ほど高い靭性を発揮するため、ブラシ毛として好ましい。
【0031】
そしてまた、上記フィラメント束Fに用いる炭素繊維は単糸直径が5〜12ミクロンであることが好ましい。これは、炭素繊維の単糸直径を5ミクロンよりも小さくすると、屈曲に対する強度は向上するものの曲げ剛性が小さくなって高速回転での除塵効果が低下する一方、単糸直径を12ミクロン以上とすると、ピンカーブ状の折返し部で炭素繊維が切れ易くなって、この切断されたブラシ毛11が使用時に抜け易くなるためである。
【0032】
また更に、上記炭素繊維を用いたフィラメント束Fは、フィラメント数を6,000〜24,000本とするのが好ましい。これは、フィラメント束Fのフィラメント数が6,000本以下とすると、鎖編の編成コース密度を大きくしないと、好適なブラシ密度が得られず、生産性が低下して製造コストが高くなるためである。しかも、炭素繊維自体もフィラメント数が少ない程高価になるのでブラシ毛密度を同じにすると材料コストが高くなる。
【0033】
一方、フィラメント数を24,000本以上とすると、鎖編のコース密度が粗くなり生産性が高まるが、鎖編目の長さが長くなるのでフィラメント束Fの締め付けが弱くなってブラシ毛11が抜け易くなり、またフィラメント束Fの中央部と端部の繊維数にも差が生じて除塵効果が低下する。ゆえに、炭素繊維を用いたフィラメント束Fのフィラメント数としては6,000〜24,000本であることが好ましい。
【0034】
他方また、上記鎖編組織Cのコース密度D(コース方向における鎖編組織の密度)に関しては、フィラメント束Fの断面積をSとするとD=K√S(常数K=3〜6)の関係となるように設定している。具体的には、常数K=3.32でコース密度4.90コース/cmに設定している。
【0035】
そして、上記の関係式で鎖編組織Cのコース密度とフィラメント束Fの断面積を設定したことにより、鎖編糸Qによってフィラメント束Fを略円形断面となるように束ねた上で強固に締め付けることができるため、ブラシ毛11・11…としての剛性を確保することができる。また、ブラシ毛11・11…のほぼ隙間のない配列密度とすることにより除塵効果を高めることもできる。
【0036】
なお、上記常数Kを3以下とすると、鎖組織をなす編目が長くなってフィラメント束Fを締め付ける力が不足してしまい、結果的にブラシ毛11・11…の抜けが発生し易くなる。また、ブラシ毛11・11…が除塵作用する方向への締め付けが弱くなり、ブラシ毛11・11…の密度も粗くなるので除塵効果が低下する。
【0037】
一方、上記常数Kを6以上とすると、フィラメント束Fを締め付ける力が一層強固になるものの、炭素繊維の使用量が増大するため、結局コスト高となってブラシ製品が高価になる問題がある。また常数Kが6を大きく上回るとフィラメント束の太さに対してコース密度が高すぎてその密度内に収まりきらず編成が不可能となる。よって、常数Kは3〜6が好ましい範囲といえる。
【0038】
なお、以下の表1に、炭素繊維の単糸径を7ミクロンとした場合のフィラメント束Fのフィラメント数、断面積Sおよび常数Kの関係を示す。
【表1】

【0039】
また、上記薄型ブラシ1の両側には、フィラメント束Fを挿入していない鎖編組織である鎖編単独部Nを1コース分設けており、この鎖編単独部Nの編糸同士の交点、および鎖編組織の編糸とフィラメント束Fの交点において接着剤により点状、または線状で接着一体化されている。
【0040】
なお、上記のように鎖編単独部Nと隣接する鎖編組織との交点を接着したのは、フィラメント束Fを強固に締め付けている鎖編組織Cに、使用時に大きな負荷がかかるためである。また、この接着を行わないとブラシ両側の鎖編組織Cが解け易くなり。繰り返しの負荷によって鎖編組織Cが解けると両端部のブラシ毛11が抜け落ちてしまう。
【0041】
本発明の薄型ブラシにおいては、ブラシの両端部で少なくとも1コース分は炭素繊維フィラメント束Fが存在しない鎖編単独部Nを設けることにより、前述したような反発応力が鎖編糸Q作用しておらず、また鎖編糸Q同士で接着されているので繰り返しの負荷を受けても鎖編組織Cが解けるようなことがない。
【0042】
また、編糸同士の交点、および鎖編組織の編糸とフィラメント束Fの交点の接着は、例えば融点が80〜160℃程度の低融点ポリマーが編糸に沿って点状、または線状に配置して、交点を接着している。低融点ポリマーとしては、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリオレフィン系のもので、特に僅かな量で接着効果の高い共重合ナイロンが好ましく、その使用量としては鎖編糸重量の20%以上が好ましいものである。
【0043】
これは使用量が使用鎖編糸の20%以下では十分な接着力が得られず、僅かな外力を受けて鎖編組織が解れる問題がある。一方、接着剤の使用量が多くなるに従って強固な接着となるが、鎖編組織の解れ防止の目的からすれば、鎖編糸の50%以下で十分である。
【0044】
また実施例1では、上記鎖編組織Cに弾性率が10〜300GPaの補強糸Rをウェール方向に挿入している。これは補強糸Rによって鎖編組織Cの伸縮を抑えるためである。また、補強糸Rの挿入は、一針挿入や0°挿入によって行うことができる。このように、伸縮を抑えて寸法安定性を得ることで掃除機のローラ等に精度良く装着させることができる。
【0045】
なお、上記補強糸Rの弾性率の数値範囲に関しては、10GPa未満とすると糸材をかなり太くしないと充分な剛性を得られず、補強糸Rを太くし過ぎるとブラシ基部12に大きな凹凸ができて平坦な形状に賦形することが難くなるためである。
【0046】
また、上記補強糸Rの弾性率の上限を300GPaとした理由は、300GPaよりも大きくすると材料の特性上、製造時にケバが発生し易くなり、また高機能材料を使用すると材料コストも高く付くためである。ちなみに、「10GPa」とは、手で強く引っ張った時の力を10kgfとして、CF24K相当の太さの糸を引っ張った際に糸の長さが1%伸びる程度弾性率である。
【0047】
[薄型ブラシの製造方法]
次に、上記薄型ブラシ1の製造方法について説明する。まず、製造工程の第一のステップとして、ブラシ毛11となるフィラメント束Fを経編機の緯糸Pとし、この緯糸Pを左右に折り返しながら折返し部付近を鎖編糸Qで編成される鎖編組織Cに挿入して、各コースの緯糸P1・P2…両側を鎖編組織Cで拘束する。
【0048】
また、上記第一のステップにおいては、フィラメント束Fの折り返し付近で編成した鎖編組織同士の間隔を約2.0mmとなるようにし、鎖編組織Cの配列を5列としてブラシ基部12を構成している。
【0049】
次に、第二のステップとして、上記第一のステップを所定コース数(本実施例では、31コース)行った後、緯糸Pの挿入を少なくとも2コース以上(本実施例では、2コース)停止して鎖編組織Cの編成のみを行う。次いで第三のステップとして、第一のステップと第二のステップを繰り返し行って長尺の帯状体L1を作製する。
【0050】
そして最後に、第四のステップとして、第三のステップで得られた帯状体L1を、短手方向の中央部Aを長手方向に切断すると共に、この切断によって得られたブラシ長尺体L2・L2を、第二のステップにより鎖編組織のみが編成された部位Bで更に短手方向に切断して薄型ブラシ1を製造する。
【0051】
なお実施例1では、上記第一のステップの際、鎖編糸Qに耐熱性糸と低融点ポリマー糸とを引き揃えた糸材を使用し、更に第三のステップの後に、低融点ポリマー糸を加熱処理して熱融着させることにより鎖編組織の編糸同士、およびフィラメント束Fと鎖編組織Cの接着を行っている。これは鎖編組織の緩みやほつれを防止するためである。また本実施例では、低融点ポリマー糸に融点が120℃、繊度が100dtexの低融点ナイロン繊維を使用している。
【0052】
『実施例2』
次に本発明の実施例2について以下に説明する。この実施例2では、実施例1の構成における常数Kと鎖編組織Cのコース密度の数値を、常数K=5.76、コース密度=8.50コース/cmに変更したが、使用時におけるブラシ毛11・11…の乱れは発生せず、使用前と使用後で形状に大きな変化はなかった。これはフィラメント束Fが確実に鎖編組織Cにより拘束されていたためである。
【0053】
『効果の実証試験(I)』
次に本発明の効果を実証するために行った実証試験(I)の結果を以下に示す。まず実証試験(I)では、比較例Aとして実施例1における常数Kと鎖編組織Cのコース密度の数値を、常数K=2.37、コース密度=3.50コース/cmに変更して薄型ブラシを作製した。
【0054】
また、比較例Bとして、実施例1の構成における常数Kと鎖編組織Cのコース密度の数値を、常数K=6.24、コース密度=9.20コース/cmに変更して薄型ブラシを作製してみたが、こちらは、フィラメント束の太さに対してコース密度が高すぎてその密度内に収まりきらず、編成部と引き取りローラー間で編地が弛み編成すること自体できなかった。
【0055】
そして、実施例1・2と上記比較例Aの3種類の薄型ブラシを掃除機のローラに取り付けて使用し、木製の床に繰り返し接触させたブラシ毛11・11…がどの程度乱れるかを外観によって比較した。
【0056】
その結果、下記の表2に示すように、実施例1・2の薄型ブラシは、使用前と使用後のブラシ毛の形状に大きな変化がなかったのに対し、比較例Aの薄型ブラシでは、使用前に一様に揃っていたブラシ毛の長さが使用後に乱れていた。
【表2】

【0057】
これは比較例Aのコース密度が粗く、ブラシ毛の拘束が緩すぎて鎖編のループ内を炭素繊維がある程度自由に動く隙間があったためであり、拘束力が小さいブラシ毛が遠心力のかかる方向へ動いたためと考えられる。
【0058】
また、薄型ブラシの生産性に関しては、製造機の回転数が同じ場合、コース密度を低くするほど生産性が良くなるため、比較例A>実施例A>実施例B>比較例Bの結果となったが、上記ブラシ毛の乱れを考慮すると、D=K/√S(K=3〜6)で設計することが好ましい。
【0059】
『効果の実証試験(II)』
次に本発明の効果を実証するために行った実証試験(II)の結果を以下に示す。この実証試験(II)では、比較例Cとして実施例2と鎖編組織のコース密度および常数Kの条件を揃えた上で、切断工程においてブラシ長尺体L2を短手方向に切断する際、フィラメント束が挿入された鎖編組織同士の交点を切断して薄型ブラシを作製した。
【0060】
また、比較例Dとして、ブラシ長尺体L2を短手方向に切断する際、フィラメント束が挿入された鎖編組織の真ん中を切断して薄型ブラシを作製した。そして、実施例2と比較例C・Dの3種類の薄型ブラシを使用して、ブラシ両端のブラシ毛に脱落があるかどうかを外観により比較した
【0061】
その結果、表2に示すように、実施例2の薄型ブラシではブラシ両端の鎖編単独部Nによってフィラメント束の両端が確実に拘束されていたため、ブラシ毛の脱落は起こらなかったが、比較例C・Dの薄型ブラシはブラシ毛の脱落が確認された。
【表3】

【0062】
具体的に説明すると、比較例Cの薄型ブラシは、ブラシ両端のフィラメント束が鎖編組織によってかろうじて拘束されているものの、切断の入れ方によっては鎖編組織の一部が切断されてしまうため、使用時に繰り返し負荷が加わると鎖編組織の拘束が外れてブラシ毛が少しずつ脱落していった。また、比較例Dの薄型ブラシは、鎖編組織の真ん中を切断した瞬間にフィラメント束の拘束が外れてしまうため、使用前からブラシ毛の脱落が起こる結果となった。
【0063】
また、実施例2の薄型ブラシは、鎖編単独部が切り代として存在するため、ブラシ長尺体L2の切断作業が容易であったが、比較例Cの薄型ブラシは、フィラメント束が挿入された鎖編組織の交点のみ切断する精密な技術が必要となり、精度が粗いと鎖編組織の拘束を切れてしまうこともあった。また比較例Dについては、切断作業は容易に行えたが上記のようにブラシ毛の脱落の問題があった。
【0064】
『実施例3』
次に本発明の実施例3について図3及び図4に基いて以下に説明する。この実施例3では、薄型ブラシ1の両サイドのブラシ毛11’・11’を、折り返されたフィラメント束F・Fによって構成したことにより、フィラメント束Fの折返し部をストッパーとして両サイドのブラシ毛11’・11’を更に抜け難くしている(図3参照)。
【0065】
また、上記薄型ブラシ1の製造については、実施例1の第一のステップを所定コース数行った後、緯糸Pが左右の鎖編組織群間で少なくとも2コース以上に亙って斜めに挿入する工程を実施例1の第二のステップの代わりに行うことで容易に製造できる(図4参照)。
【0066】
本発明は、概ね上記のように構成されるが、本発明は図示の実施形態に限定されるものではなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、薄型ブラシ1のブラシ毛11として使用するフィラメント束Fの材料には、アラミド繊維やポリスルホン繊維などの高融点または高張力繊維を使用することができ、必要に応じて、サンダーロン、SA-7、ナスロン等の導電性機能を有する材料、またはガラス繊維等を使用することもでき、鎖編糸Qや補強糸Rの材料に関しても、強度や耐熱性等を考慮して適宜選択することができる。
【0067】
また、緯糸Pと鎖編組織Cの接着に関しても、本実施例においては低融点ポリマー糸を鎖編糸と引き揃えた糸材を使用したが、鎖編糸に低融点ポリマー糸をカバーリングさせてもよく、また必ずしも低融点ポリマーの熱融着を利用する必要はなく、例えば、接着剤の塗布や吹き付けによって行ってもよく、上記何れのものも本発明の技術的範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の薄型ブラシの製造方法は、耐久性に優れた除電ブラシの製造が可能で、しかも、歩留りの向上により製造コストを抑えることができる有用な技術であるため、その産業上の利用価値は非常に高い。
【符号の説明】
【0069】
1 薄型ブラシ
11 ブラシ毛
12 ブラシ基部
F フィラメント束
P 緯糸
Q 鎖編糸
N 鎖編単独部
C 鎖編組織
R 補強糸
1 帯状体
2 ブラシ長尺体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピンカーブ状に折り返されたフィラメント束(F)を並べて形成されたブラシ毛(11・11…)と前記フィラメント束(F)の折返し部を鎖編組織(C)で拘束してブラシ毛(11・11…)を固定したブラシ基部(12)とから成る薄型ブラシにおいて、ブラシ基部(12)の幅方向における鎖編組織の密度と、各鎖編組織に拘束されたフィラメント束(F)の断面積とが次式の関係をなし、かつ、ブラシ基部(12)の両端部には、鎖編組織のみから成る鎖編単独部(N)が少なくとも1コース分設けられて、鎖編組織の編糸同士の交点、および鎖編組織の編糸とフィラメント束の交点において接着剤により点状、または線状で接着一体化されていることを特徴とする薄型ブラシ。
【数1】

【請求項2】
フィラメント束(F)は破壊歪エネルギーが40MJ/m3以上、フィラメント数が6,000〜24,000本の炭素繊維からなることを特徴とする請求項1記載の薄型ブラシ。
【請求項3】
ブラシ基部(12)の鎖編組織(C)に、弾性率が10〜300GPaの補強糸(R)をブラシ毛(11・11…)の配列方向に挿入すると共に、この補強糸(R)とフィラメント束(F・F…)、鎖編組織(C)とを接着一体化したことを特徴とする請求項1または2記載の薄型ブラシ。
【請求項4】
ブラシ毛となるフィラメント束を緯糸(P)とし、この緯糸(P)を左右に折り返しながら折返し部付近を鎖編糸(Q)で編成される鎖編組織(C)に挿入して、各コースの緯糸(P1・P2…)両側を鎖編組織(C)で拘束する第一のステップと;この第一のステップを所定コース数行った後、緯糸(P)の挿入を少なくとも2コース以上の停止、または2コース以上に亙って斜めに挿入して鎖編組織(C)の編成のみを行う第二のステップと;前記第一のステップと第二のステップを繰り返し行って長尺の帯状体(L1)を作製する第三のステップと;この第三のステップで得られた帯状体(L1)の短手方向の中央部(A)を長手方向に切断すると共に、前記第二のステップにより鎖編組織(C)のみが編成された部位(B)を短手方向に切断する第四のステップを含むことを特徴とする薄型ブラシの製造方法。
【請求項5】
第三のステップと第四のステップの間において、緯糸(P)であるフィラメント束とこの緯糸(P)が挿入された鎖編組織(C)とを接着一体化することを特徴とする請求項4に記載の薄型ブラシの製造方法。
【請求項6】
鎖編糸(Q)に耐熱性糸と低融点ポリマー糸とを引き揃えた糸材を使用し、鎖編組織(C)の形成後において前記低融点ポリマー糸を熱融着させることにより、鎖編糸(Q)同士、および鎖編糸(Q)と緯糸(P)を接着することを特徴とする請求項5に記載の薄型ブラシの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−205854(P2012−205854A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75874(P2011−75874)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(591168932)株式会社SHINDO (22)
【Fターム(参考)】