説明

薄層シート

【課題】補強材としてピリドビスイミダゾール繊維を含有する薄層シートであって、より品質の高い薄層シートを提供する。
【解決手段】本発明の薄層シートは、繊維表面の二乗平均粗さが30nm以下であるピリドビスイミダゾール繊維と、樹脂とを含有することを特徴とする。繊維表面の二乗平均粗さが小さい、すなわち、繊維表面が平滑であれば、繊維を一軸方向に揃えて並べる際に、繊維間の隙間をより低減することができる。そのため、より品質の高い薄層シートが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強材としてピリドビスイミダゾール繊維を含有する薄層シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高強度、高耐熱性を有する繊維として、ピリドビスイミダゾール繊維や、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾールなどからなるポリベンザゾール繊維が知られている。このような繊維については、例えば、特定の繰り返し基を含むピリドビスイミダゾール繊維(特許文献1(請求項14)参照);特定の結晶の存在状態を有するポリベンザゾール繊維およびピリドビスイミダゾール繊維(特許文献2(請求項1、6)参照);が開発されている。
【0003】
ピリドビスイミダゾール繊維は強度、弾性率、耐熱性、難燃性、全ての点において有機繊維の中で最高レベルの性能を有しているため、これらの特徴を生かした様々な用途に展開されている。ここで、一般的に、ピリドビスイミダゾール繊維を樹脂などとともに複合材料として製品を加工する場合には、フィラメントワインディングなどの方法が採用される。しかし、このような方法では、製品の製造に長時間を要するという問題がある。そのため、複合材料の加工性を向上させる観点から、複数のピリドビスイミダゾール繊維をシート状に並べたものに、樹脂を含浸させ、半硬化させた薄層シートが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平8−509516号公報
【特許文献2】国際公開第2008/023719号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような薄層シートを形成する場合、ピリドビスイミダゾール繊維の優れた耐熱性、難燃性を発揮させるためには、繊維を一軸方向に揃えて、隙間なく並べることが好ましい。しかしながら、従来のピリドビスイミダゾール繊維では、その表面が粗く、平滑でないため、隙間なく並べることが困難であった。そのため、従来のピリドビスイミダゾール繊維を用いた薄層シートは、繊維間の隙間が大きく品質が不充分であった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、補強材としてピリドビスイミダゾール繊維を含有する薄層シートであって、より品質の高い薄層シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することができた本発明の薄層シートは、繊維表面の二乗平均粗さが30nm以下であるピリドビスイミダゾール繊維と樹脂とを含有することを特徴とする。繊維表面の二乗平均粗さが小さい、すなわち、繊維表面が平滑であれば、繊維を一軸方向に揃えて並べる際に、繊維間の隙間をより低減することができる。そのため、本発明の薄層シートは、ピリドビスイミダゾール繊維の隙間が低減され、品質が高い。
【0008】
前記ピリドビスイミダゾール繊維は、JIS L1095(1999)−9.10.2Bに準拠して測定した摩耗強さ試験における破断時の往復摩耗回数が4000回以上であることが好ましい。本発明の薄層シートの厚みは5μm以上100μm以下が好ましい。
【0009】
前記ピリドビスイミダゾール繊維は、ピリドビスイミダゾールポリマーとポリリン酸とを含有する紡糸ドープを、紡糸口金から紡出する紡出工程;および、紡出された紡出糸条を、濃度50質量%以上80質量%以下のリン酸水溶液に浸漬して、ピリドビスイミダゾールポリマーを凝固させる凝固工程;を経て製造されたものが好ましい。また、この場合、前記凝固工程におけるリン酸水溶液の温度は−30℃以上5℃以下が好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、補強材としてピリドビスイミダゾール繊維を含有する薄層シートであって、より品質の高い薄層シートが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.薄層シート
本発明の薄層シートは、繊維表面の二乗平均粗さが30nm以下であるピリドビスイミダゾール繊維と、樹脂とを含有することを特徴とする。
【0012】
本発明の薄層シートとは、前記ピリドビスイミダゾール繊維に樹脂を含浸させたシート状材料であり、具体的には、例えば、繊維束と熱可塑性樹脂とを含有するシート状材料;繊維束と熱硬化性樹脂組成物とを含有し、当該硬化性樹脂をBステージまで硬化させたシート状材料が挙げられる。なお、Bステージとは、例えば、硬化性樹脂組成物として熱硬化性樹脂を用いた場合においては、当該熱硬化性樹脂の硬化中間状態を指し、この状態での樹脂は加熱すると軟化し、ある種の溶剤に触れると膨潤するが、完全に溶融、溶解することはない。
【0013】
薄層シートの態様としては、例えば、(I)ピリドビスイミダゾール繊維束が、一定の方向に配向された繊維層に、樹脂を含浸させて成る態様;(II)ピリドビスイミダゾール繊維束から構成される織物に、樹脂を含浸させて成る態様;(III)樹脂中に、ピリドビスイミダゾール繊維が単繊維、紡績糸、チョップドファイバー、ステープルファイバーなどの繊維状で分散して成る態様;などが挙げられる。これらの中でも、上記(I)または(II)の態様が好ましい。
【0014】
本発明の薄層シートの厚みは、5μm以上が好ましく、より好ましくは8μm以上、さらに好ましくは10μmであり、100μm以下が好ましく、より好ましくは60μm以下、さらに好ましくは40μm以下である。薄層シートの厚みが100μmを超えると、薄層シートのしなやかさがなくなるため、繊維が補強剤としての役割を果たさない。一方、厚みを5μm未満にするには、薄層シートに過大な圧力をかける必要が生じ、この際繊維が破壊してしまうおそれがある。
【0015】
2.ピリドビスイミダゾール繊維
本発明に用いられるピリドビスイミダゾール繊維について説明する。前記ピリドビスイミダゾール繊維は、二乗平均粗さが30nm以下である。繊維表面の二乗平均粗さが30nm以下であれば、繊維表面の平滑性が高くなり、繊維を一軸方向に揃えて並べる際に、繊維間の隙間をより低減することができる。ピリドビスイミダゾール繊維の二乗平均粗さは、より好ましくは22nm以下、さらに好ましくは15nm以下である。なお、繊維の二乗平均粗さの測定方法は後述する。
【0016】
前記ピリドビスイミダゾール繊維とは、ピリドビスイミダゾールポリマーから形成される繊維である。前記ピリドビスイミダゾールポリマーは、繰り返し基の少なくとも50モル%が2,6−ジイミダゾ[4,5−b:4',5'−e]−ピリジニレン−1,4(2,5−ジヒドロキシ)フェニレンである。また、前記ピリドビスイミダゾールポリマーは、繰り返し基の75モル%以上が2,6−ジイミダゾ[4,5−b:4',5'−e]−ピリジニレン−1,4(2,5−ジヒドロキシ)フェニレンであるラダーポリマーが好ましい。前記ピリドビスイミダゾールポリマーとしては、2,6−ジイミダゾ[4,5−b:4',5'−e]−ピリジニレン−1,4(2,5−ジヒドロキシ)フェニレンのみからなるポリマーが特に好ましい。ここで、2,6−ジイミダゾ[4,5−b:4',5'−e]−ピリジニレン−1,4(2,5−ジヒドロキシ)フェニレンは下記化学式(1)で表される。
【0017】
【化1】

【0018】
なお、前記ピリドビスイミダゾールポリマー中の残りの繰り返し基は、前記2,6−ジイミダゾ[4,5−b:4',5'−e]−ピリジニレン−1,4(2,5−ジヒドロキシ)フェニレンにおいて、1,4(2,5−ジヒドロキシ)フェニレン部分が、置換もしくは非置換のアリーレンにより置き換えられ、および/または、2,6−ジイミダゾ[4,5−b:4',5'−e]−ピリジニレン部分が、ベンゾビスイミダゾール、ベンゾビスチアゾール、ベンゾビスオキサゾール、ピリドビスチアゾール若しくはピリドビスオキサゾールにより置き換えられたものである。
【0019】
ここで、前記2,6−ジイミダゾ[4,5−b:4',5'−e]−ピリジニレン−1,4(2,5−ジヒドロキシ)フェニレンの1,4(2,5−ジヒドロキシ)フェニレン部分が置き換えられる場合(最大でも50モル%)には、置き換える基としては、アリーレンジカルボン酸(例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、2,5−ピリジンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4'−ジフェニルジカルボン酸、2,6−キノリンジカルボン酸または2,6−ビス(4−カルボキシフェニル)ピリドビスイミダゾール)の2つのカルボキシル基を除いた2価の残基が好適である。
【0020】
前記ピリドビスイミダゾールポリマーの極限粘度は10dl/g以上が好ましく、より好ましくは15dl/g以上であり、30dl/g以下が好ましく、より好ましくは25dl/g以下である。
【0021】
前記ピリドビスイミダゾール繊維は、JIS L1095(1999)−9.10.2Bに準拠して測定した摩耗強さ試験における破断時の往復摩耗回数が4000回以上であることが好ましく、より好ましくは4500回以上、さらに好ましくは5000回以上である。前記破断時の往復摩耗回数が4000回以上であれば、薄層シート作製時に毛羽の発生が抑制され、より品位の高い薄層シートが得ることができる。
【0022】
前記ピリドビスイミダゾール繊維の繊維径は、8μm以上が好ましく、より好ましくは9μm以上、さらに好ましくは10μm以上であり、20μm以下が好ましく、より好ましくは15μm以下、さらに好ましくは12μm以下である。ピリドビスイミダゾール繊維の繊維径が上記範囲内であれば、より薄く、厚みが均一である薄層シートが得られる。
【0023】
前記ピリドビスイミダゾール繊維の引張強度は、2.0GPa以上が好ましく、より好ましくは3.0GPa以上、さらに好ましくは3.8GPa以上であり、6.0GPa以下が好ましく、より好ましくは5.5GPa以下、さらに好ましくは5.0GPa以下である。ピリドビスイミダゾール繊維の引張強度が上記範囲内であれば、切断などの加工が容易となり、かつ、毛羽などが少なくなり、より品位の高い薄層シートを得ることができる。
【0024】
前記ピリドビスイミダゾール繊維の弾性率は、100GPa以上が好ましく、より好ましくは130GPa以上、さらに好ましくは160GPa以上であり、400GPa以下が好ましく、より好ましくは350GPa以下、さらに好ましくは300GPa以下である。ピリドビスイミダゾール繊維の弾性率が上記範囲内であれば、切断などの加工が容易となり、かつ、毛羽などが少なくなり、より品位の高い薄層シートを得ることができる。なお、前記ピリドビスイミダゾール繊維の弾性率とは、JIS L 1013に規定されている見掛けヤング率を指すものとする。
【0025】
3.ピリドビスイミダゾール繊維の製造方法
前記ピリドビスイミダゾール繊維束の製造方法の一例を説明する。ピリドビスイミダゾール繊維束の製造方法は、例えば、紡糸ドープ調製工程、紡出工程、凝固・洗浄工程、中和工程および乾燥工程を有する。
【0026】
前記紡糸ドープ調製工程では、前記ピリドビスイミダゾールポリマーを、溶媒に溶解させ紡糸ドープを調製する。前記溶媒としては、ピリドビスイミダゾールポリマーを溶解し得る非酸化性の酸が挙げられる。前記溶媒としては、例えば、ポリリン酸、メタンスルホン酸、高濃度の硫酸、または、これらの混合液が挙げられる。これらの中でも、溶媒としては、ポリリン酸及びメタンスルホン酸が好ましく、より好ましくはポリリン酸である。
【0027】
前記紡糸ドープ中のポリマー濃度は、7質量%以上が好ましく、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは14質量%以上である。前記紡糸ドープ中のポリマー最大濃度は、例えばポリマーの溶解性やドープ粘度といった実際上の取り扱い性により限定される。それらの限界要因のために、ポリマー濃度は通常では20質量%を超えることはない。
【0028】
なお、本発明で使用するピリドビスイミダゾールポリマーや、紡糸ドープは公知の方法で合成される(特表平8−509516号公報等参照)。例えば、好適なピリドビスイミダゾールモノマーは、非酸化性で脱水性の酸溶液中、非酸化性雰囲気で高速撹拌および高剪断条件のもと、約60℃から230℃までの段階的または一定昇温速度で温度を上げることで合成できる。
【0029】
前記紡出工程では、前記紡糸ドープを装置の紡糸部に供給し、紡糸口金から紡出する。紡出工程には、公知の装置を用いることができる。紡糸口金から紡出する際の紡糸ドープの温度は通常100℃以上250℃以下である。紡糸口金の細孔は、通常円周状、格子状に複数個配列されるが、その他の配列でもよい。また、紡糸口金に形成される細孔の個数は、特に限定されず、紡出された紡出糸条同士の融着が発生しないように適宜調整すればよい。
【0030】
紡出された紡出糸条は、十分な延伸比(SDR(spin-draw ratio))を得るため、米国特許第5296185号に記載されたように、十分な長さのドローゾーンで比較的高温度(紡糸ドープの固化温度以上、紡出温度以下)の整流された冷却風で均一に冷却されることが望ましい。ドローゾーンの長さは、窒素、アルゴン、空気などの非凝固性の気体中で固化が完了する長さが好ましく、通常は単孔吐出量によって決定される。良好な繊維物性を得るにはドローゾーンの取り出し応力を、ポリマー換算で(ポリマーのみに応力がかかるとして)2g/dtex以上とすることが好ましい。なお、本発明において「固化」とは、紡糸原液が冷却されて、単に溶融状態から固体状態になることをいい、この段階ではポリマーからドープ溶媒は除去しきれていない。
【0031】
前記凝固・洗浄工程では、紡出糸条を凝固液に浸漬し、酸溶媒を溶出させることにより、ポリマーを凝固させる。なお、本発明において「凝固」とは、酸溶媒に溶解しているピリドビスイミダゾールを、析出させることをいう。上述のようにドローゾーンで延伸された紡出糸条は、凝固浴に導かれ凝固液に浸漬される。前記凝固液としては、例えば、水;メタノール、エタノールなどのアルコール類;アセトンなどのケトン類;エチレングリコールなどのグリコール類;などが挙げられる。これらの中でも、安全性、簡便性の点で、水が好適である。
【0032】
ここで、本発明の表面平滑性に優れたピリドビスイミダゾール繊維を製造するには、繊維表面構造を緻密に変化させるために、ピリドビスイミダゾールポリマーの凝固速度を遅くすることが重要となる。すなわち、ポリマーの凝固速度を遅くすることにより、繊維の内外層で構造に変化をつけることができ、繊維表面の高結晶配向が実現される。このように、繊維表面の結晶配向が高くなれば、繊維表面の構造が緻密になり、表面平滑性が向上する。
【0033】
ポリマーの凝固速度を遅くする方法としては、例えば、紡出糸条に含まれる酸溶媒と同様の酸(例えば、ポリリン酸)を凝固液中に含有させる方法;凝固液温度を低くする方法;凝固液として非水系の凝固液を用いる方法;が挙げられる。これらの方法は2種以上を組み合わせることもできる。
【0034】
凝固液中に酸溶媒を含有させる場合、その凝固液中の酸濃度は50質量%以上が好ましく、より好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上であり、80質量%以下が好ましく、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは65質量%以下である。凝固液中のドープ溶媒濃度が50質量%以上であれば、ポリマーの凝固が遅くなり、得られる繊維の表面粗さがより小さくなり、80質量%以下であれば繊維強度の低下が抑制される。
【0035】
凝固液温度を低くする場合、その温度は5℃以下が好ましく、より好ましくは4℃以下、さらに好ましくは0℃以下であり、−30℃以上が好ましく、より好ましくは−15℃以上である。凝固液温度が5℃以下であれば、ポリマーの凝固が遅くなり、得られる繊維の表面粗さがより低くなり、−30℃以上であれば、凝固浴のまわりに発生する結露を低減できるため、製造機械の運転上好ましい。
【0036】
凝固液として非水系の凝固液を用いる場合、非水系の凝固液としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;アセトンなどのケトン類;エチレングリコールなどのグリコール類;などの水と親和性のある有機溶媒が好ましい。なお、非水系の凝固剤は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、凝固液として水を併用してもよい。
【0037】
前記中和工程では、凝固・洗浄工程で得られたピリドビスイミダゾール繊維中に残留する酸溶媒を中和する。中和工程において用いられる中和液は、特に限定されず、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水、炭酸ナトリウム水溶液などが挙げられる。なお、中和後はピリドビスイミダゾール繊維を、再度水洗することが望ましい。
【0038】
前記乾燥工程では、ピリドビスイミダゾール繊維中の凝固液など(中和されたドープ溶媒を含む意味である)を揮発させる。乾燥温度は、凝固液などが揮発する温度であれば特に限定されないが、150℃以上が好ましく、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは220℃以上であり、400℃以下が好ましく、より好ましくは300℃以下、さらに好ましくは270℃以下である。乾燥後のピリドビスイミダゾール繊維の水分率は、3質量%以下が好ましく、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。なお、ピリドビスイミダゾール繊維の水分率は、JIS L 1013に準じて測定すればよい。
【0039】
また、乾燥後のピリドビスイミダゾール繊維は、弾性率を向上させる目的で、必要に応じて張力下にて熱処理を施してもよい。この場合、熱処理温度は、400℃以上が好ましく、より好ましくは500℃以上、さらに好ましくは550℃以上であり、700℃以下が好ましく、より好ましくは680℃以下、さらに好ましくは630℃以下である。また、熱処理時の張力は0.3g/dtex以上が好ましく、より好ましくは0.5g/dtex以上、さらに好ましくは0.6g/dtex以上であり、1.2g/dtex以下が好ましく、より好ましくは1.1g/dtex以下、さらに好ましくは1.0g/dtex以下である。
【0040】
4.樹脂
次に、前記樹脂について説明する。前記樹脂としては、熱可塑性樹脂、未硬化(半硬化を含む)の熱硬化性樹脂組成物の何れでも用いることができる。前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド・イミド樹脂、剛直性ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂が挙げられる。
【0041】
前記熱硬化性樹脂組成物の例としては硬化性エポキシ樹脂組成物が挙げられる。前記硬化性エポキシ樹脂組成物に使用されるエポキシ樹脂の代表例としては、フェノール類またはアルコール類とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;カルボン酸類とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;アミン類またはシアヌル酸とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるグリシジル型エポキシ樹脂;2重結合の酸化によって得られる内部エポキシ樹脂;エポキシ樹脂変成BT樹脂;エポキシ樹脂変成シアネートエステル樹脂などである。
【0042】
前記硬化性エポキシ樹脂の硬化剤としては、エポキシ樹脂の通常の硬化剤、例えば、ポリアミン系硬化剤、ポリメルカプタン系硬化剤、アニオン重合触媒型硬化剤、カチオン重合触媒型硬化剤、潜在型硬化剤などが使用できる。また、前記硬化性エポキシ樹脂組成物は、用途に応じて所望の性能を付与するために、本来の性質を損なわない範囲の量の充填剤や添加物を配合して用いてもよい。
【0043】
薄層シート中の樹脂(熱可塑性樹脂または未硬化(半硬化を含む)の硬化性樹脂組成物)の含有率は30質量%以上が好ましく、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは45質量%以上であり、75質量%以下が好ましく、より好ましくは65質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。
【0044】
5.薄層シートの製造方法
以下、前記ピリドビスイミダゾール繊維束を用いて薄層シートを作製する方法の一例として、上記(I)ピリドビスイミダゾール繊維束が、一定の方向に配向された繊維層に、樹脂を含浸させて成る態様;または、(II)ピリドビスイミダゾール繊維束から構成される織物に、樹脂を含浸させて成る態様;の薄層シートの製造方法について説明する。
【0045】
薄層シートを作製する場合、まず、ピリドビスイミダゾール繊維束を開繊または扁平化する。このように、繊維束を開繊または扁平化することにより、得られる薄層シートの厚みをより薄くできる。繊維束を開繊する方法は特に限定されず、例えば、電気開繊法などを採用すればよい。また、繊維束を扁平化する方法は特に限定されず、例えば、空気を用いる方法、水流を利用する方法、静電気を用いる方法、バーに押しつける方法などが挙げられる。
【0046】
開繊または扁平化したピリドビスイミダゾール繊維束は、リールに巻き取る。この際、扁平化された繊維束では、張力をかけない状態で繊維束をリールに巻いた状態で放置すると、折角幅広になった状態が少し元に戻ることがある。これを防ぐために、ピリドビスイミダゾール繊維束に、油剤や接着剤を付与して巻き取ってもよい。
【0047】
次に、開繊または扁平化処理した繊維束を並べ、繊維層を形成する。繊維束を並べる方法としては、特に限定されず、例えば、繊維束を一軸方向に揃えて平行に並べる;あるいは繊維束を平織りにする;などが挙げられる。なお、繊維束を一軸方向に揃えて平行に並べる場合、例えば、織機を用いて繊維束をすだれ織りにした後、横糸が走っている部分を切り取ればよい。
【0048】
上述のようにして形成した繊維層に樹脂を含浸させる。前記樹脂を繊維層に含浸させる方法は特に限定されず、樹脂を含有するワニスを繊維層に吹き付ける方法;繊維層に樹脂シートを貼り付けた後、圧力をかける方法;などが挙げられる。なお、繊維層に対して樹脂を均一に含浸させるために、温度と圧力をかけながら一定時間保持することが好ましい。
【0049】
また、樹脂を繊維層に含浸させる際には、樹脂を溶剤で希釈することが好ましい。前記溶剤としては、メチルエチルケトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどが用いられる。前記溶剤を用いた場合には、樹脂含浸後に当該溶剤を揮発させる必要があるが、この際の乾燥方法についても、特に限定されず、公知の方法を採用すればよい。
【0050】
本発明の薄層シートは、補強材としてピリドビスイミダゾール繊維を含有し、かつ、ピリドビスイミダゾール繊維間の隙間が低減された品質の高いものである。従って、本発明の薄層シートは、プリント配線板を構成する樹脂基板;釣竿、テニスラケット、卓球ラケット、バトミントンラケット、ゴルフクラブ、競技(走)用自転車車体、コンポジットホイール、プロテクター、スキーストック、ヘルメットなどのスポーツ関係資材;ロケット用インシュレーション、ロケットケイシング、圧力容器、宇宙服などの航空・宇宙資材;スピーカーコーンなどに適用可能である。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。各種測定は、下記の方法を採用した。
【0052】
1.極限粘度
ピリドビスイミダゾールポリマーを、溶媒にメタンスルホン酸を用いて、0.5g/lの濃度に調整した。得られたポリマー溶液の粘度を、オストワルド粘度計を用いて25℃恒温槽中で測定し、極限粘度を求めた。
【0053】
2.表面粗さ
ピリドビスイミダゾール繊維は、エタノールとn−ヘキサンの混合液で洗浄し、乾燥させた後、試験に供した。
繊維表面の二乗平均粗さは原子間力顕微鏡(Seiko Instruments(SII)社製、「SPI3800N-SPA300」)を用いて評価した。探針には、Si製矩形型カンチレバー(SII社製、「SI−DF3」、バネ定数2N/m、長さ450μm・幅60μm・厚さ4μm)を用いた。スキャナーには100μmスキャナーを使用し、観察モードはDFMモードを採用した。
走査は速度0.5Hz、走査方向は繊維軸に平行とし、大気中、温度20℃、相対湿度65%の条件で測定した。観察視野範囲は一片5μm四方の正方形領域とし、観察後、原子間力顕微鏡に付属のソフトウェアの三次元傾斜補正等を施し平面化処理を行った。ただし、繊維の曲率の存在により画像を平面化した時に生じる歪みを考慮するため、視野中心部の3μm四方の正方形領域のみの二乗平均粗さを算出した。
なお、測定は各繊維について、ランダムに10点以上の箇所で行った。各測定箇所における二乗平均粗さを求め、平均値を算出し、その繊維の測定値とした。ここで、本発明において、二乗平均粗さとは、下記式(1)により表現される二乗平均平方根粗さ(Rms(Root mean square))である。
【0054】
【数1】


式中、Ziは各測定箇所における高さ、Z0は測定箇所全体にわたる平均高さ、Nは測定箇所点数を表す。
【0055】
3.繊維の引張強度・弾性率
ピリドビスイミダゾール繊維を、標準状態(温度:20±2℃、相対湿度(RH):65±2%)の試験室内に、紫外光および可視光を遮断した状態で24時間以上放置した後、繊維の引張強度および弾性率(見掛けヤング率)を、JIS L 1013(1999)に準じて測定した。試験機には定速伸長型を用い、試料長200mm、引張速度200mm/minの条件で測定を行った。
【0056】
4.摩耗強さ
ピリドビスイミダゾール繊維の摩耗強さは、JIS L 1095(1999)−9.10.2Bに準拠して、測定した。
【0057】
5.薄層シート厚み
薄層シートの厚みは、アプライトダイヤルゲージ(尾崎製作所製、PEACOCK(登録商標) Rシリーズ)を用いて測定した。
【0058】
6.シート品位
製造例により得られたシートについて、目視による外観検査にて評価した。具体的には、シートを光に透かして観察し、シート中においてピリドビスイミダゾール繊維がどの程度敷き詰められているかを、下記の基準にて評価した。
○:光に透かして観察したとき、光がもれない。
×:光に透かして観察したとき、光がもれる。
【0059】
ピリドビスイミダゾール繊維の製造
製造例1
極限粘度[η]が22dl/gのピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)をポリリン酸に溶解させて、ポリマー濃度14質量%の紡糸ドープを調製した。
この紡糸ドープを用いて、単糸フィラメント径が11.5μm、繊度が1.65dtexとなるような条件で紡糸を行った。すなわち、得られた紡糸ドープを紡糸温度175℃で孔径0.20mm、孔数166の紡糸口金から紡出し、紡出された紡出糸条をクエンチ温度60℃のクエンチチャンバー内(ドローゾーン)を通過させて冷却した。クエンチチャンバーを通過した紡出糸条を、マルチフィラメントに収束させながら、凝固浴中に浸漬し、フィラメントを凝固させた。なお、凝固液には、濃度60質量%のリン酸水溶液を使用し、凝固液温度は−5℃とした。
凝固された紡出糸条を、フィラメント中の残留リン濃度が5000ppm以下になるまで水洗し、1%NaOH水溶液で5秒間中和し、さらに10秒間水洗した。水洗後、水分率が2質量%になるまで乾燥させ、ピリドビスイミダゾール繊維No.1を得た。得られたピリドビスイミダゾール繊維についての評価結果を表1に示した。
【0060】
製造例2
凝固工程において、凝固液温度を4℃に変更したこと以外は、製造例1と同様にしてピリドビスイミダゾール繊維No.2を得た。得られたピリドビスイミダゾール繊維についての評価結果を表1に示した。
【0061】
製造例3
凝固工程において、凝固液を濃度20質量%のリン酸水溶液に変更し、凝固液温度を20℃に変更したこと以外は、製造例1と同様にしてピリドビスイミダゾール繊維No.3を得た。得られたピリドビスイミダゾール繊維についての評価結果を表1に示した。
【0062】
薄層シートの製造
上記製造例1〜3で得られたピリドビスイミダゾール繊維を開繊した。開繊は電気開繊装置を用いて行った。すなわち、ピリドビスイミダゾール繊維を、ガイドを介して電極内に導き、−300Vの電圧を印加して開繊させた後、リールに巻き取った。
次に、開繊糸を前記リールから巻き出し、全体の幅が30cmとなるように、開繊糸を平行に並べた。一方、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、jER(登録商標) 828EL)100質量部、2−メチル−4−メチルイミダゾール3質量部を、メチルエチルケトン100質量部に溶解しワニスを調製した。得られたワニスを、上述のように平行に並べた開繊糸に含浸させてプリプレグを作製した。なお、得られたプリプレグ中の樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂および2−メチル−4−メチルイミダゾール)含有量は、50質量%であった。得られたプリプレグを、プレス機を用いて、温度80℃、圧力2.0MPa(20kgf/cm2)の条件で1時間プレス成型し、樹脂をBステージまで硬化させて薄層シートを得た。得られた薄層シートについて評価し、結果を表1に示した。
【0063】
【表1】

【0064】
ピリドビスイミダゾール繊維No.1,2は、繊維表面の二乗平均粗さが30nm以下である。これらの繊維を用いて薄層シートを用いた場合、繊維の整序性が高いため、繊維間の隙間がより低減された品質の高い薄層シートが得られた。一方、繊維表面の二乗平均粗さが30nmを超えるピリドビスイミダゾール繊維No.3を用いた場合、繊維の整序性が低く、繊維間の隙間が増大するため、得られる薄層シートの品位は低かった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の薄層シートは、薄く、任意の形状に成型しやすい。そのため、本発明のピリドビスイミダゾール繊維を含有する薄層シートは、耐熱性や難燃性を要求される様々な用途へと利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面の二乗平均粗さが30nm以下であるピリドビスイミダゾール繊維と、樹脂とを含有することを特徴とする薄層シート。
【請求項2】
前記ピリドビスイミダゾール繊維が、JIS L1095(1999)−9.10.2Bに準拠して測定した摩耗強さ試験における破断時の往復摩耗回数が4000回以上である請求項1に記載の薄層シート。
【請求項3】
厚みが5μm以上100μm以下である請求項1または2に記載の薄層シート。
【請求項4】
前記ピリドビスイミダゾール繊維が、
ピリドビスイミダゾールポリマーとポリリン酸とを含有する紡糸ドープを、紡糸口金から紡出する紡出工程;および、
紡出された紡出糸条を、濃度50質量%以上80質量%以下のリン酸水溶液に浸漬して、ピリドビスイミダゾールポリマーを凝固させる凝固工程;を経て製造されたものである請求項1〜3のいずれか一項に記載の薄層シート。
【請求項5】
前記ピリドビスイミダゾール繊維が、凝固工程におけるリン酸水溶液の温度を−30℃以上5℃以下として製造されたものである請求項4に記載の薄層シート。

【公開番号】特開2011−46814(P2011−46814A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195949(P2009−195949)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】