説明

薄板の再締結方法

【課題】薄板を締結しているタッピンネジを外した後、薄板をネジで繰り返し締結する場合であっても、薄板に形成された雌ネジが破壊や変形されることなく、所定の締結力が得られるようにする
【解決手段】薄板を締結していたタッピンネジに替えて、頭部11と、頭部11から垂下する円柱状の軸部12と、軸部12に形成された雄ネジ山と13を有するネジ1aであって、軸部12の先端部から頭部方向に所定距離D隔てた位置から雄ネジ山13が形成されているネジ1aで薄板を締結する。ここで、ネジ1aの雄ネジ山13は、軸部の先端部から頭部方向に2mm〜5mmの範囲隔てた位置から形成されているのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄板の再締結方法に関し、より詳細には、薄板を締結しているタッピンネジを外した後、薄板を再びネジで締結する場合に実施される再締結方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
事務機器や電子機器、通信機器などにおいて、樹脂製や金属製の部品を取り付ける際に、タッピンネジが広く使用されている。図7及び図8に示すように、タッピンネジ2a,2bは、軸部12の先端部まで雄ネジ山13が形成されており、被締結部材に雌ネジを螺刻可能なタップ機能を有する。このためタッピンネジを用いれば、被締結部材に雌ネジを螺刻する必要がなく部材加工が簡略化できる。
【0003】
ところが、被締結部材が薄板である場合、一度締結したタッピンネジを外し再び締結する際に、タッピンネジによって被締結部材の雌ネジが破壊あるいは変形されてタッピンネジが空転することがある。雌ネジの破壊や変形を回避するには、タッピンネジの締付トルクを小さくすればよいが、締付トルクを小さくすると所定の締結力が得られなくなる。
【0004】
特許文献1には、繰り返し締結可能でネジに軸力を確保できるようにするため、被締結部材の下穴周辺に、ネジ込み方向に対して凹む凹状部を設けたネジ締結構造が提案されている。また、特許文献2には、被締結部材の下穴の入口部をタッピンネジの雄ネジ山の略1ピッチ分の高さにおいて大径とすると共に、この大径部の底面を螺旋傾斜面とし、螺旋傾斜面の傾斜角度をタッピンネジの雄ネジ山の傾斜角度と等しくする構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-156775号公報
【特許文献2】特開2007-187305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記提案の締結構造はいずれも、タッピンネジを繰り返し使用するので、被締結部材に形成された雌ネジの破壊や変形を完全に防止することはできない。
【0007】
本発明はこのような従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、薄板をネジで繰り返し締結する場合であっても、薄板に形成された雌ネジが破壊や変形することなく、所定の締結力が得られる薄板の再締結方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、薄板を締結しているタッピンネジを外した後、前記タッピンネジに替えて、頭部と、頭部から垂下する円柱状の軸部と、軸部に形成された雄ネジ山とを有するネジであって、軸部の先端部から頭部方向に所定距離隔てた位置から雄ネジ山が形成されているネジで薄板を締結することを特徴とする薄板の再締結方法が提供される。
【0009】
ここで、前記ネジの雄ネジ山は、軸部の先端部から頭部方向に2mm〜5mmの範囲隔てた位置から形成されているのが好ましい。
【0010】
また、前記ネジの雄ネジ山が、頭部側から順に標準雄ネジ山と変形雄ネジ山とから構成され、変形雄ネジ山は、標準雄ネジ山との接続部から軸部の先端部に向かって高さが徐々に低く及び/又は進み側のフランク角が徐々に小さくなっているのが好ましい。
【0011】
変形雄ネジ山は、軸部に半回転以上形成されているのが好ましい。
【0012】
底面視において、変形雄ネジ山の形成開始点と軸部の中心とを結んだ直線と、変形雄ネジ山の立ち上がり傾斜面とのなす角が90°以下であるのが好ましい。
【0013】
変形雄ネジ山の立ち上がり傾斜面と稜線との角部は丸め処理されているのが好ましい。
【0014】
そしてまた、前記ネジを締結する薄板の板厚が0.8mm以下であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の薄板の再締結方法では、薄板を締結しているタッピンネジを外した後、薄板を再びネジで締結する場合、タッピンネジに替えて、軸部の先端部から頭部方向に所定距離隔てた位置から雄ネジ山が形成されたネジを用いるのでタップ機能は発揮されず、薄板に形成されている雌ネジが破壊・変形されることがなく、所定の締結力が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】電子機器の側面の斜視図を示す。
【図2】本発明で使用するネジの一例を示す斜視図である。
【図3】図2に示すネジの垂直断面図である。
【図4】本発明で使用するネジの他の例を示す斜視図である。
【図5】図4に示すネジの軸部の先端部の拡大斜視図である。
【図6】図4に示すネジの底面図である。
【図7】タッピンネジの一例を示す斜視図である。
【図8】タッピンネジの他の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を図に基づいてさらに詳しく説明するが本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。
【0018】
本発明の薄板の再締結方法の大きな特徴は、薄板を締結しているタッピンネジを外した後、再度薄板をネジで締結する場合には、タッピンネジに替えて、軸部の先端部から頭部方向に所定距離隔てた位置から雄ネジ山が形成されているネジを用いることにある。かかるネジはタップ機能を有しないので、被締結部材に形成されている雌ネジが破壊・変形されることがない。
【0019】
図1に、プリンターやファクシミリ等の電子機器の側面の斜視図を示す。この図に示す電気機器では外壁としての薄板がタッピンネジで締結されている。例えば、機器の保守点検やコントローラやメモリーの増設する場合には、タッピンネジ2aを外して薄板3が取り外される。そして、所定の作業が終了すると薄板3が再び取り付けられる。このとき、薄板3を取り付けるネジとして、タッピンネジ2aに替えて例えば図2に示すネジ1aを用いる。
【0020】
図2に示すネジ1aは、頭部11と、頭部11から垂下する円柱状の軸部12と、軸部12に形成された雄ネジ山13とを有する。軸部12の直径及び雄ネジ山13のピッチと高さは、取り外したタッピンネジと同じである。そして、ここで重要なことは、軸部12の先端部から所定距離D隔てた位置から雄ネジ山13が形成されていることである。これによってネジ1aによるタップ機能が奏されず、薄板に形成されている雌ネジが破壊・変形されることがない。
【0021】
軸部12の先端部から雄ネジ山13の形成開始位置までの距離Dとしては、通常、2mm〜5mmの範囲が好ましい。距離Dが2mm未満ではネジ1aがタップ機能を発揮するおそれがある一方、距離Dが5mmを超えると軸部12が必要以上に長くなるからである。
【0022】
また、ネジを締結する薄板の厚みに特に限定はないが、板厚が0.8mm以下の場合に本発明の再締結方法が好適に適用される。
【0023】
ネジによるタップ機能が確実に奏されないようにする観点からは、軸部12に形成する雄ネジ山13を頭部側から順に標準雄ネジ山と変形雄ネジ山とから構成し、変形雄ネジ山が標準雄ネジ山との接続部から軸部の先端部に向かって高さが徐々に低く及び/又は進み側のフランク角が徐々に小さくなるようにするのが好ましい。
【0024】
図3に、雄ネジ山13が、標準雄ネジ山131と変形雄ネジ山132とから構成されたネジ1cの垂直断面図を示す。この図のネジ1cは、頭部側から標準雄ネジ山131と変形雄ネジ山132と連続して形成されている。そして、変形雄ネジ山132の進み側フランク角が、軸部12の先端部に向かって徐々に小さくなり、最終的にはゼロとなっている。
【0025】
変形雄ネジ山132の形成長さに特に限定はないが、軸部12に対して半回転以上形成されているのが好ましい。これによりネジ1cによる雌ネジの破壊・変形が確実に防止できる。なお、変形雄ネジ山132の好ましい形成長さの上限値は1回転半である。
【0026】
図4に、本発明の再締結方法に使用できるネジの他の実施形態を示す斜視図を示す。この図に示すネジ1bは、頭部11と、頭部11から垂下する円柱状の軸部12と、軸部12に形成された雄ネジ山13とを有し、軸部12の先端部から距離D隔てた位置から雄ネジ山13が形成されている点は図2に示したネジ1aと同じであるが、変形雄ネジ山13の立ち上がりが傾斜面133となっている点が異なる。
【0027】
図5に、軸部12の先端部の拡大斜視図を、図6に底面図をそれぞれ示す。変形雄ネジ山132の立ち上がり傾斜面133と、変形雄ネジ山132の形成開始点と軸部12の中心O(図6に図示)とを結んだ直線Lとのなす角θは45°とされている。また、変形雄ネジ山132の立ち上がり傾斜面133と稜線との角部Rは丸め処理されている。これらにより、ネジ1bによるタップ機能が確実に奏されないようになる。なお、角度θは90°以下とするのが好ましく、角部Rの曲率半径は0.05mm程度が好ましい。
【0028】
以上説明したネジにおいて、タッピンネジかタップ機能を有さないネジかを容易に判別できるようにするために、ネジに色をつけてもよい。色つけ方法としては、例えばめっき処理などが好適に使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係る薄板の再締結方法では、薄板を締結しているタッピンネジを外した後、薄板を再びネジで締結する場合、タッピンネジに替えて、軸部の先端部から頭部方向に所定距離隔てた位置から雄ネジ山が形成されたネジを用いるので、ネジによるタップ機能は発揮されず、薄板に形成されている雌ネジが破壊・変形されることがなく、所定の締結力が得られ有用である。
【符号の説明】
【0030】
1a,1b,1c ネジ
R 角部
11 頭部
12 軸部
13 雄ネジ山
131 標準雄ネジ山
132 変形雄ネジ山
133 傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板を締結しているタッピンネジを外した後、前記タッピンネジに替えて、頭部と、頭部から垂下する円柱状の軸部と、軸部に形成された雄ネジ山とを有し、軸部の直径及び雄ネジ山のピッチと高さが前記タッピンネジと等しいネジであって、軸部の先端部から頭部方向に所定距離隔てた位置から雄ネジ山が形成されたネジで薄板を締結することを特徴とする薄板の再締結方法。
【請求項2】
前記ネジの雄ネジ山が、軸部の先端部から頭部方向に2mm〜5mmの範囲隔てた位置から形成されている請求項1記載の薄板の再締結方法。
【請求項3】
前記ネジの雄ネジ山が、頭部側から順に標準雄ネジ山と変形雄ネジ山とから構成され、変形雄ネジ山は、標準雄ネジ山との接続部から軸部の先端部に向かって高さが徐々に低く及び/又は進み側のフランク角が徐々に小さくなっている請求項1又は2記載の薄板の再締結方法。
【請求項4】
変形雄ネジ山が、軸部に半回転以上形成されている請求項3記載の薄板の再締結方法。
【請求項5】
底面視において、変形雄ネジ山の形成開始点と軸部の中心とを結んだ直線と、変形雄ネジ山の立ち上がり傾斜面とのなす角が90°以下である請求項3又は4記載の薄板の再締結方法。
【請求項6】
変形雄ネジ山の立ち上がり傾斜面と稜線との角部が丸め処理されている請求項3〜5のいずれかに記載の薄板の再締結方法。
【請求項7】
前記ネジを締結する薄板の板厚が0.8mm以下である請求項1〜6のいずれかに記載の薄板の再締結方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−104540(P2013−104540A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250950(P2011−250950)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】