説明

薄板の固定構造

【課題】部品点数を増加させることなく、また薄板材の平面度を損なうことなく、薄板同士を緩みなくしっかりとネジ部材で固定する。
【解決手段】薄板1に、薄板2aとの接触面側と反対側に突出する円錐台状の第1絞り部11を形成し、第1絞り部11の中心に、ネジ部材3の軸部31の直径よりも大きい直径の通し穴12を形成する。一方、薄板2aには、ネジ部材3の軸部31が螺合する締結穴21と、この締結穴21と同心円状に第1絞り部11の直径よりも大きい直径の溝22を形成する。そして、薄板1の通し穴12と薄板2aの締結穴21との中心軸が一致するように薄板1と薄板2aとを重ね合わし、第1薄板側からネジ部材3の軸部31を通し、薄板2aの締結穴21に螺合させて薄板1と薄板2aとをネジ部材3で固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重ね合わせた薄板同士をネジ部材で固定する構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器等の筐体には板金などの薄板が多く使用されており、薄板同士の接合は、通常、薄板同士を重ね合わせてネジ部材で締結していた。また、薄板同士の締結強度を上げるために、バーリング加工によって薄板のネジ穴の周縁部分を立ち上げて筒状部(以下、「バーリング部」と記すことがある)を形成し、ネジ部材と薄板との螺合部分を長くすることも行われている。
【0003】
例えば特許文献1では、バーリング部を結合相手側に突出させると共に、結合相手側の取付穴を、バーリング部がすきまばめで嵌合できる内径とした薄板の締結方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-214911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記提案技術では、バーリング部の径方向の変形は起こりにくいものの、ネジ部材による締結箇所が複数ある場合には、バーリング部及び取付穴の形成位置について高い精度が要求される。
【0006】
また従来、薄板同士の締結強度を上げるために、スプリングワッシャをネジ部材の頭部と薄板との間に介挿することも行われているが、部品点数が増えると共に締結作業が煩雑になる。
【0007】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、部品点数を増加させることなく、また薄板の平面度を損なうことなく、薄板同士を緩みなくしっかりとネジ部材で固定できる固定構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、通し穴が形成された第1薄板と締付穴が形成された第2薄板とを、通し穴と締付穴との中心軸が略一致するように重ね合わせ、第1薄板側からネジ部材の軸部を通し第2薄板の締付穴に螺合させて薄板同士をネジ部材で固定する構造であって、第1薄板の通し穴と第2薄板の締付穴との間に空間が生じるように、第1薄板及び第2薄板の少なくとも一方に外方に突出する絞り部を形成すると共に、締付穴と同心円状の溝を第2薄板に形成したことを特徴とする薄板の固定構造が提供される。
【0009】
ここで、第1薄板に外方に突出する円錐台状又は円柱状の第1絞り部を設けると共に、前記溝を第1絞り部よりも外側に形成するようにしてもよい。
【0010】
また、第1薄板に外方に突出する円錐台状又は円柱状の第1絞り部を設けると共に、第2薄板にも外方に突出する円錐台状又は円柱状の第2絞り部を設けると共に、第2絞り部の直径を第1絞り部の直径よりも小さくし、前記溝を第1絞り部よりも外側に形成するようにしてもよい。
【0011】
さらに、第1薄板に外方に突出する円錐台状又は円柱状の第1絞り部を設けると共に、第2薄板に内方に突出する円錐台状又は円柱状の第3絞り部を設け、第3絞り部の深さを、第1絞り部の深さよりも浅くし、且つ第3絞り部の直径を第1絞り部の直径よりも小さくし、前記溝を第1絞り部よりも外側に形成するようにしてもよい。
【0012】
そしてまた、前記溝を分断するように周方向に所定間隔で複数の貫通穴を形成してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る固定構造では、第1薄板の通し穴と第2薄板の締付穴との間に空間が生じるように、第1薄板及び第2薄板の少なくとも一方に外方に突出する絞り部を形成し、ネジ部材が締結することによって第2薄板が前記空間の内方に撓むようにする。第2薄板が撓むことによって元に戻ろうとする弾性力が第2薄板に生じ、部品点数を増加させることなく、薄板同士をネジ部材でしっかりと固定できる。また、締付穴と同心円状の溝が第2薄板に形成されているので、第2薄板の撓みは溝よりも内側部分に限定され、第2薄板の他の部分の平面度は維持される。さらには、第1薄板と第2薄板とがネジ部材の軸方向に対して垂直方向に相対的に移動しようとすると、第2薄板の、前記空間の内方に円錐状に撓んだ溝よりも内側部分と第1薄板との摩擦が大きくなるので、第1薄板と第2薄板との相対的な移動は従来に比べて格段に抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る固定構造の一実施形態を示す垂直断面図である。
【図2】図1に示す2枚の薄板をネジ部材で固定した状態の斜視図である。
【図3】溝を分断するように周方向に所定間隔で複数の貫通穴を形成した第2薄板の斜視図である。
【図4】本発明に係る固定構造の他の実施形態を示す垂直断面図である。
【図5】図4に示す2枚の薄板をネジ部材で固定した状態の斜視図である。
【図6】本発明に係る固定構造の他の実施形態を示す垂直断面図である。
【図7】図6に示す2枚の薄板をネジ部材で固定した状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る薄板の固定構造について図に基づいてより詳しく説明するが本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。
【0016】
図1及び図2に、本発明に係る薄板の固定構造の一実施形態を示す。図1は、薄板1と薄板2aとをネジ部材3で固定したときの垂直断面図、図2は斜視図である。
【0017】
薄板1には、薄板2aとの接触面側と反対側に突出する円錐台状の第1絞り部11が形成され、第1絞り部11の中心に、ネジ部材3の軸部31の直径よりも大きい直径の通し穴12が形成されている。一方、薄板2aには、ネジ部材3の軸部31が螺合する締結穴21と、この締結穴21と同心円状に第1絞り部11の直径よりも大きい直径の溝22が形成されている。そして、薄板1の通し穴12と薄板2aの締結穴21との中心軸が一致するように薄板1と薄板2aとが重ね合わされると、薄板1と薄板2aの間には第1絞り部11による空間4aが形成される。
【0018】
そして、図1(a)に示すように、第1薄板側からネジ部材3の軸部31が通され、薄板2aの締結穴21に螺合される。ネジ部材3の座面が薄板1に当接した後、さらにネジ部材3を締め付けると、図1(b)に示すように、薄板2aの締結穴21の部分がネジ部材3の雄ネジ山によって頭部方向へ引き上げられ、溝22よりも内側部分が締結穴21を中心として円錐状に第1薄板方向に撓む。
【0019】
薄板2aの溝22よりも内側部分が撓むことによって、元に戻ろうとする弾性力が薄板2aに生じ、ネジ部材3と薄板2aとの締結力がより強くなる。また、薄板2aの撓みは、溝22よりも内側部分に限定され、薄板2aの他の部分の平面度は維持される。さらには、ネジ部材3の軸部31と薄板1の通り穴12との間には隙間があるため、ネジ部材3の軸方向に対して垂直方向の力が薄板1又は薄板2aに加わると、前記隙間の分だけ薄板1及び薄板2aは相対移動し得るが、薄板2aの溝22よりも内側部分が撓むことによって、薄板1及び薄板2aが相対的に移動しようとすると、第1絞り部11内に入り込んだ薄板2aの溝22より内側部分と薄板1とが接触するので、薄板1と薄板2aとの前記相対的移動は従来に比べて格段に抑制される。
【0020】
薄板1に形成する第1絞り部11の深さは、薄板1の材質や厚み、薄板2aの撓み度合い等を考慮して適宜決定すればよいが、通常、0.5mm〜5mmの範囲が好ましい。また、第1絞り部11の直径は、薄板1の材質や厚み等を考慮して適宜決定すればよいが、通常、ネジ部材3の軸部31の直径に対して3倍〜6倍の範囲が好ましい。
【0021】
なお、薄板1及び薄板2aの材質としては金属材料や樹脂材料など従来公知の材料を用いることができるが、本発明は、薄板2aの剛性が薄板1の剛性よりも低い場合に好適に適用される。また、薄板2aを撓ませる観点からは、厚みは0.8mm以下であるのが好ましい。
【0022】
本発明で使用するネジ部材3に特に限定はなく、従来公知のものが使用できる。例えば、小ネジや座金組込みネジ、タッピンネジなどが挙げられる。
【0023】
薄板2aの溝22よりも内側部分の弾性的な撓み変形を容易に生じさせる観点からは、図3に示すように、溝22を分断するように周方向に所定間隔で複数の貫通穴23を形成してもよい。貫通穴23の形状に特に限定はない。溝22の幅よりも大きい直径の円形状の貫通穴の他、溝22の幅より狭い直径や幅の貫通穴を、溝22の底面に形成するようにしてもよい。
【0024】
図4及び図5に、本発明に係る薄板の固定構造の他の実施形態を示す。図4は、薄板1と薄板2bとをネジ部材3で固定したときの垂直断面図、図5は斜視図である。
【0025】
これらの図に示す薄板の固定構造が前記実施形態と異なる点は、薄板2bが、薄板1との接触面側と反対側に円錐台状に突出し、且つその中心に締結穴21が形成された第2絞り部24を有する点である。このような外方に突出する第2絞り部24を薄板2bが有することによって、薄板1と薄板2bとの間に形成される空間4bの容積が大きくなり、ネジ部材3を薄板2bに締結した際の薄板2bの撓み許容量が大きくなる。
【0026】
薄板2bの撓み量が大きくなると、元に戻ろうとする弾性力も大きくなり、ネジ部材3と薄板2bとの締結力はより強くなる。また、前記実施形態と同様に、薄板2bの撓みは、溝22よりも内側部分に限定されるので、薄板2bの他の部分の平面度は維持される。また、ネジ部材3の軸方向に対して垂直方向への薄板1と薄板2bとの相対的な移動も抑制される。なお、この実施形態では第2絞り部24の直径を第1絞り部11の直径よりも小さくしているが、第2絞り部24の直径を第1絞り部11の直径と同じ又はそれより大きくしても構わない。ただし、この場合には、薄板2bが撓んでも第1絞り部11内には入り込まないので、ネジ部材3の軸方向に対して垂直方向への薄板1と薄板2bとの相対的な移動は充分には抑制されないことがある。
【0027】
図6及び図7に、本発明に係る薄板の固定構造の他の実施形態を示す。図6は、薄板1と薄板2cとをネジ部材3で固定したときの垂直断面図、図7は斜視図である。
【0028】
これらの図に示す薄板の固定構造が図1及び図2に示した実施形態と異なる点は、薄板2cが、薄板1との接触面側に円錐台状に突出し、且つその中心に締結穴21が形成された第3絞り部25を有し、第3絞り部25の深さが第1絞り部11の深さよりも浅く、第3絞り部25の直径が第1絞り部11の直径よりも小さい点である。これにより、薄板1と薄板2cとを重ね合わせると、第1絞り部11の内方に第3絞り部25が入り込んだ状態となる。これにより、ネジ部材3の軸方向に対して垂直方向に薄板1と薄板2cとが相対的に移動しようとした場合、第1絞り部11内に入り込んだ第3絞り部25と薄板1とが直ちに強く接触するので、薄板1と薄板2cとの前記相対的移動は確実により小さなものに抑えられる。また、この実施形態においても、前記2つの実施形態と同様に、薄板2cの撓み変形による弾性力でネジ部材3と薄板2cとの締結力が強くなる。また、薄板2cの撓みは、溝22よりも内側部分に限定されるので、薄板2cの他の部分の平面度は維持される。
【0029】
以上説明したすべての実施形態では、薄板1は外方に突出する第1絞り部11を有していたが、これに限定されるものではなく、第1絞り部11を有さず平板に通し穴12が形成されたものであってももちろん構わない。また、第2薄板に形成される締結穴21は、内周面に雌ネジが螺刻されたものであってもよいし、例えばタッピンネジによってネジ部材との締結時に雌ネジが形成されるものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の固定構造では、第2薄板が撓むことによって元に戻ろうとする弾性力が第2薄板に生じ、部品点数を増加させることなく、薄板同士をネジ部材でしっかりと固定でき有用である。
【符号の説明】
【0031】
1 薄板(第1薄板)
2a,2b,2c 薄板(第2薄板)
3 ネジ部材
4a,4b,4c 空間
11 第1絞り部
12 通し穴
21 締結穴
22 溝
23 貫通穴
24 第2絞り部
25 第3絞り部
31 軸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通し穴が形成された第1薄板と締付穴が形成された第2薄板とを、通し穴と締付穴との中心軸が略一致するように重ね合わせ、第1薄板側からネジ部材の軸部を通し第2薄板の締付穴に螺合させて薄板同士をネジ部材で固定する構造であって、
第1薄板の通し穴と第2薄板の締付穴との間に空間が生じるように、第1薄板及び第2薄板の少なくとも一方に外方に突出する絞り部を形成すると共に、締付穴と同心円状の溝を第2薄板に形成したことを特徴とする薄板の固定構造。
【請求項2】
第1薄板に外方に突出する円錐台状又は円柱状の第1絞り部を設け、前記溝を第1絞り部よりも外側に形成した請求項1記載の薄板の固定構造。
【請求項3】
第1薄板に外方に突出する円錐台状又は円柱状の第1絞り部を設けると共に、第2薄板にも外方に突出する円錐台状又は円柱状の第2絞り部を設け、第2絞り部の直径を第1絞り部の直径よりも小さくし、前記溝を第1絞り部よりも外側に形成した請求項1記載の薄板の固定構造。
【請求項4】
第1薄板に外方に突出する円錐台状又は円柱状の第1絞り部を設けると共に、第2薄板に内方に突出する円錐台状又は円柱状の第3絞り部を設け、第3絞り部の深さを、第1絞り部の深さよりも浅くし、且つ第3絞り部の直径を第1絞り部の直径よりも小さくし、前記溝を第1絞り部よりも外側に形成した請求項1記載の薄板の固定構造。
【請求項5】
前記溝を分断するように周方向に所定間隔で複数の貫通穴を形成した請求項1〜4のいずれかに記載の薄板の固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−104494(P2013−104494A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249197(P2011−249197)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】