説明

薄板金属の開先加工方法とその開先加工装置

【課題】薄板金属の開先加工において歪やそり、粉塵や切粉等の発生をなくし、開先加工箇所の表面処置被膜を除去して開先の溶接箇所にピンホールを発生させない薄板金属の加工方法と薄板金属の加工装置を提供する。
【解決手段】直線状または円弧状の突出部32を形成した第1金型10と直線状または円弧状の溝部38を形成した第2金型12とによって、薄板金属18の第1面18aに突出部32で山形の凹部40を形成する。その山形の凹部40を形成する際に、凹部40が形成される第1面18aの反対側の第2面18bに第2金型12に形成した溝部38に突出する膨らみ部42を形成する。この膨らみ部42の形成により薄板金属18に歪が発生しなくなる。凹部40と膨らみ部42とを通る位置で薄板金属18を切断すれば、山形の凹部40の壁面が傾斜面46となり、その傾斜面46が開先面となり、2枚の薄板金属18の例えば90度の角度での溶接が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄板金属の開先を加工するための開先加工方法とその開先加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接を行う場合には、母材の溶接すべき面(互いに接合させるための面)を削り取る開先加工が一般に行なわれている。 例えば鋼板の開先加工においては、従来から種々の方法が存在するが、その中でもサンダー研削や切削加工等による開先加工が一般的な開先加工方法としてよく用いられている(特許文献1並びに特許文献2)。これらの開先加工は、通常、所定の長さや大きさに鋼板を切断した後、次工程にてその切断した端縁を所定の形状に研削や切削するものである。
【0003】
鋼板には厚板鋼板と薄板鋼板とがあり、一般に板厚が約3.2mm以下のものが「薄板鋼板」といわれている。厚板鋼板では、溶接すべき面を削り取る開先加工は簡単に行なうことができるが、薄板鋼板においてはその厚みが薄いため、開先加工は簡単に行なうことができない(開先加工を施すと歪やそりが発生する)ものであった。このため、従来から2枚の薄板鋼板を例えば90度の角度で溶接する場合には、図8に示すように、一方の薄板鋼板70の一方の面72に、他方の薄板鋼板74の端縁76(薄板鋼板74の厚みの箇所)を当接させ、その当接面を一般には溶融金属またはろうで溶接を行なっていた。
【0004】
【特許文献1】特開2000−317712
【特許文献2】特開2001−232509
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近では、厚板鋼板にも薄板鋼板にも、サビ止めや塗装性の向上のために表面加工処理が施されている。このため、溶接を行なう一方の面に表面処理被膜が存在している場合(図8において薄板鋼板70の面72に表面処理被膜を有している場合)には、表面処理被膜(薄板鋼板70の面72)が溶接面になり、溶接箇所に表面処理被膜が邪魔をしてピンホールが発生し、溶接不良になるという事態が発生していた。
【0006】
本発明は、薄板金属における開先加工を歪やそりを発生せずに容易行うことができ、従来のような粉塵や切粉等の発生が無く、しかも開先加工箇所の表面処置被膜を除去して開先の溶接箇所にピンホールが発生することがない薄板金属の加工方法と薄板金属の加工装置とを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の薄板金属の開先加工方法は、第1挟持面とその第1挟持面より外方に突出する突出部とを有する第1押圧部材と第2挟持面とその第2挟持面に形成した溝部とを有する第2押圧部材とを用いて、前記突出部と前記溝部とを対向する位置に配置して前記第1押圧部材と前記第2押圧部材部とで薄板金属をプレス加工するものであり、前記突出部で前記薄板金属の一方の面に凹部を形成すると共に前記薄板金属の他方の面に前記溝部内に突出する膨らみ部を形成し、前記凹部の断面箇所と前記膨らみ部の断面箇所とを結ぶ位置で前記薄板金属を切断することを特徴とするものである。本発明は、前記第1押圧部材の前記第1挟持面を平面とし、前記第1挟持面より外方に突出する前記突出部を直線状または円弧状とし、前記第2押圧部材の前記第2挟持面を平面とし、前記第2挟持面に形成される前記突出部を直線状または円弧状とし、前記第2押圧部材の前記溝部の直線状または円弧状の長さを前記第1押圧部材の前記突出部の直線状または円弧状の長さよりも長くすると共に前記溝部が前記第2押圧部材を貫通した形状とし、前記薄板金属に前記凹部と前記膨らみ部とを形成した後、前記薄板金属を前記突出部の長さかそれよりやや短い長さだけ前記第1押圧部材や前記第2押圧部材に対して移動させ、その後、前記第1押圧部材と前記第2押圧部材とによって前記薄板金属に形成した前記凹部に連絡する新たな凹部と前記膨らみ部に連絡する新たな膨らみ部とを形成し、その後順に以前に形成した凹部に連絡する新たな凹部と以前に形成した膨らみ部に連絡する新たな膨らみ部とを形成し、その後、前記薄板金属を切断することを特徴とするものである。本発明は、前記第1押圧部材を第1軸を中心として回転する第1ローラとし、前記第1挟持面を円筒の円周面の形状とする第1外周面とし、前記突出部を前記第1外周面の円周の全域にわたって形成し、前記第2押圧部材を第2軸を中心として回転する第2ローラとし、前記第2挟持面を円筒の円周面の形状とする第2外周面とし、前記溝部を前記第2外周面の円周の全域にわたって形成し、第1ローラと前記第2ローラとの間を前記薄板金属を通過させることによって、前記突出部で前記薄板金属の一方の面に凹部を形成すると共に前記薄板金属の他方の面に前記溝部内に突出する膨らみ部を形成することを特徴とするものである。本発明は、前記凹部の断面箇所と前記膨らみ部の断面箇所とを結ぶ位置で前記薄板金属を切断する際に、前記膨らみ部から前記凹部に向けてレーザー光を照射して前記薄板金属を切断することを特徴とするものである。本発明は、前記薄板金属の両面に表面処理被膜を有することを特徴とするものである。
【0008】
本発明の薄板金属の開先加工装置は、第1押圧部材と第2押圧部材とで薄板金属をプレス加工するためのものであって、前記第1押圧部材に備えられる第1挟持平面と、その第1挟持面より外方に突出する直線状または円弧状の突出部と、前記第2押圧部材に備えられるものであって前記第1押圧部材の前記第1挟持面とで前記薄板金属を挟持するための第2挟持平面と、その第2挟持面に形成されるものであって前記突出部とに対向して配置される直線状または円弧状の溝部と、を有することを特徴とするものである。本発明は、前記第1押圧部材は、ハウジングと、前記突出部を備える前記第1挟持平面を有するものであって前記ハウジングに固定される固定部材と、外力によって長さが変位する弾性部材と、前記弾性部材によって付勢されるものであってかつその付勢による移動位置を前記ハウジングによって規制される可動部材と、前記可動部材における外部に露出する位置に備えられるものであって前記第1挟持平面と平行に配置される可動平面部とを有し、前記可動部材に前記弾性部材に抗する外力が働かない場合に前記可動部材の前記可動平面部が前記第1挟持平面の前記突出部より外側に突出し、前記可動部材に前記弾性部材に抗する前記第2押圧部材による外力が働いて前記可動部材を移動させた場合に前記可動部材の前記可動平面部が前記固定部材の前記第1挟持平面と同一平面位置まで移動することを特徴とするものである。本発明は、前記第2押圧部材の前記溝部の形状長さを前記第1押圧部材の突出部の長さよりも長くすると共に前記溝部が第2押圧部材の側面を貫通した形状とすることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の他の薄板金属の開先加工装置は、円筒の円周面の形状である第1外周面を有すると共に前記第1外周面の中央部に前記第1外周面の全域にわたって突出部を形成した第1押圧部材と、前記第1押圧部材とで薄板金属をプレスするためのものであって、円筒の円周面の形状である第2外周面を有する共に前記第2外周面の中央部に前記第2外周面の全域にわたって溝部を形成した第2押圧部材とを有することを特徴とするものである。本発明は、前記第1押圧部材が第1軸を中心に回転し、前記第2押圧部材が第2軸を中心に回転し、前記第1軸と前記第2軸とが互いに平行な状態を保ちながら同一角度で変位できるようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の薄板金属の開先加工方法によれば、第1押圧部材と第2押圧部材で薄板金属に加圧し、表面処理被膜を施した薄板金属に第1押圧部材の突出部で薄板金属の厚みに近い厚さの山形の凹部を形成し、突出部による凹部の形成時に凹部の壁面から表面処理被膜は引き伸ばされ更に加圧による摩擦熱によって消滅させられる。薄板金属の厚みに山形の凹部を形成する際に、突出部によって薄板金属に形成された凹部に加えられる応力を、第2押圧部材に設けた溝部に膨らみ部(薄板金属における凹部の形成面と反対側の面に設ける)として逃がすので、薄板金属に反りや歪みを発生させることがない。その後、山形の凹部の中央位置で薄板金属を切断するので、切断された薄板金属のそれぞれに、開先面に表面処理被膜の無い傾斜面(山形の凹部の半分の面)が形成される。従って、表面処理被膜の無い傾斜面同士を開先面として接合させることで、表面処理被膜の無い箇所同士の溶接が可能となり、溶接箇所にピンホールが発生せず、薄板金属同士の強固な溶接が可能になる。
【0011】
第1押圧部材と第2押圧部材が第1金型や第2金型の場合には、薄板金属に次の追い加工を施そうとして薄板金属を移動した場合には、薄板金属の第2面に先に形成された膨らみ部は、第2金型の溝部の中や第2金型の外部の空間に位置するようになるので、先に形成された膨らみ部が第2金型の押圧平面部による圧力によってつぶされることが無い。これによって、先に形成された膨らみ部が潰されることが無いことから、先に形成された凹部の形状が変形することが無く、開先面の形状を安定した形状に保つことができる。本発明では、薄板鋼板を切断した開先同士を90度の角度で突き合わせて溶接(YAG溶接やTIG溶接)を行う際に、開先の外側が溶融金属(ロウ)を開先に向けて流し込むのに便利な空間となっているので、溶接作業が行い易く、しかも開先に溶融金属やロウが溶け込み易い。その結果、裏ビートも出て強度の高い溶接加工を簡単に行うことができる。以上のように本発明では、プレス行程と切断行程とで薄板金属に容易に開先加工を行なうことができるものである。本発明では、溶接すべき面である開先を削り取るものではない(サンダー研削や切削加工をしない)ので、粉塵や切粉等が発生せず、作業の安全性を確保することができる。
【0012】
本発明の実施例1の薄板金属の開先加工装置によれば、第1押圧部材(第1金型)の突出部に対応する第2押圧部材(第2金型)の位置に溝部を設けることで、第1押圧部材の突出部によって薄板金属に凹部を形成した加工(コイニング加工)を行なうと、薄板金属に加えられた応力を第2押圧部材の溝部に薄板金属の膨らみ部を形成して逃がすことができるので、膨らみ部以外の薄板金属に反りや歪みを発生させることがない。この結果、薄板金属に反りや歪みが発生することが無く、反りや歪みの修正作業も不要となる。薄板金属を第1押圧部材や第2押圧部材に対して移動させて順次追い加工(ニブリング加工)を行なうことにより、小さい金型で長い薄板金属(自在な距離の凹部)を加工することができ、大型の金型は不要となり、部品コストの低減を図ることができる。本発明の実施例2の薄板金属の開先加工装置によれば、第1押圧部材も第2押圧部材もローラとすることで、連続的な凹部と膨らみ部とを薄板金属に形成することができるので、薄板金属の開先加工の加工時間を実施例1に比べて短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、第1押圧部材と第2押圧部材とで薄板金属をプレスし、一方の押圧部材によって薄板金属の一方の面に溝を形成すると共に他方の押圧部材によって薄板金属の他方の面に溝の形成による押圧力を逃がすための膨らみ部を形成し、溝部と膨らみ部とを結ぶ位置で薄板金属を切断することで、薄板金属の開先を形成するものである。
【実施例1】
【0014】
次に、本発明を図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施例1に係る薄板金属加工装置の断面図、図2は図1に示した実施例1に係る薄板金属加工装置に使用する第1押圧部材と第2押圧部材の斜視図である。薄板金属加工装置は、第1押圧部材としての第1金型10と、第2押圧部材としての第2金型12と、第2金型12を駆動させる駆動部材14とを有する。第1金型10は基部16に固定されており、装置に固定された状態となっている。第2金型12は駆動手段16によって駆動されて、図1で上下方向に移動できるよう設定されている。薄板金属加工装置は、第1金型10と第2金型12とを備えているだけでなく、図示しないレーザー切断手段(レーザー光によって加工物を切断するもの)も備えているのが望ましい。第1金型10と第2金型12とによって加工されるものは薄板鋼板等の薄板金属18であり、薄板金属18は第1金型10と第2金型12との間に配置され、第1金型10と第2金型12とでプレス加工されるものである。薄板金属18は、第1金型10に対向する第1面18aと、第2金型12に対向する第2平面18bとを有する。薄板金属18は、それが薄板鋼板の場合には、厚みが3.2mm以下のものである。
【0015】
図1に示すように、第1金型10は、互いに固定される第1ハウジング20並びに第2ハウジング22と、第1ハウジング20並びに第2ハウジング22によって形成される空間内の中央に備えられるものであって第1ハウジング20にボルト25で固定される固定部材24と、固定部材24の外周付近に備えられる中空円柱状の弾性部材26と、弾性部材26によって常に外側に向けて付勢されるものであって第2ハウジング22によって外側への移動を規制される環状の可動部材28とを有する。
【0016】
図1及び図2に示すように、固定部材24は外部に露出する円形の固定平面部(第1挟持面(第1挟持平面))30を有し、その円形の固定平面部30の中央には、円形の直径にほぼ近い長さの直線状の突出部32(図3参照)が一体に形成されている。突出部32の横幅の断面は左右対称の山形形状となっており、山形の頂部の角度が例えば90度に形成されている。突出部32の高さは、薄板金属18の厚みよりも薄く(低く)設定されており、突出部32によって薄板金属18が切断されることがないようにする。なお、突出部32の山形の角度は90度に限るものではない。
【0017】
固定部材24を囲むように配置される中空円柱状の弾性部材26は、弾力性のあるゴムや合成樹脂材で形成され、荷重によってその中空円柱の高さを変化させるものである。弾性部材26は、通常時には可動部材28を常に外側に向けて付勢している。弾性部材26によって常に外側に付勢される可動部材28は、第2ハウジング22がストッパとなって、外側への移動範囲が規制される。可動部材28には外側に露出するものであって薄板金属18の第1面18aと接触可能な可動平面部34を有している。可動部材28に外力が働かない状態においては、固定部材24の突出部32の頂点は、可動部材28の可動平面部34の位置より外側に突出しない(可動部材28の可動平面部34の位置より内側に位置する)ように設定されている。
【0018】
図1及び図2に示すように、第2金型12には、薄板金属18の第2平面18bと接触するための円形の衝突平面部(第2挟持面(第2挟持平面))36を有し、その円形の衝突平面部36の直径は、固定部材24の固定平面部30の直径より大きくかつ環状の可動部材28の外径より小さく設定されている。第2金型12の円形の衝突平面部36には、直径全域にわたる直線状の溝部38が形成されている。この溝部38は第2金型12の側面を貫通した状態で形成されている。溝部38の幅は山形の突出部32の幅とほぼ同じかやや狭い幅に設定されている。第1金型10と第2金型12とを薄板金属加工装置に設置した状態では、第1金型10の突出部32の直線方向と第2金型12の溝部38の直線方向とは対向する位置に配置される。
【0019】
次に、第1金型10と第2金型12とによる薄板金属18の加工手順について説明する。図1及び図3(a)に示すように、先ず、薄板金属18は、第1金型10と第2金型12の間に配置される。この際、薄板金属18は保持手段(図示せず)によって保持され、しかも第1金型10にも第2金型12にも接触しない状態に設定される。即ち、第1金型10と第2金型12との間隔を薄板金属18の厚みよりほんの少し広くする。この状態から、駆動手段14によって第2金型12を第1金型10に向けて移動させ、第2金型12で薄板金属18を第1金型10に衝突させる(図3(b))。第2金型12による薄板金属18への衝突によって、可動部材28は図1及び図3(a)で下方に押し下げられ、薄板金属18が固定部材24の固定平面部30に当接した時点で、第2金型12並びに可動部材28の移動は停止する。可動部材28の移動が停止した時点では、可動部材28の可動平面部34は固定部材24の固定平面部30と同一平面内に位置する。薄板金属18は図3(a)の位置から下方に移動して図3(b)の位置に変位するが、横幅の広い薄板金属18を使用すれば、薄板金属18の下方への変位はその撓みによって吸収することができる。
【0020】
第2金型12で薄板金属18を第1金型10側に衝突させた場合に、第2金型12で押された薄板金属18は第1金型10に衝突するが、薄板金属18は第1金型10の可動部材34を弾性部材26に抗して図1で下方に移動させ、薄板金属18の第1面18aが固定部材24の固定平面部30に衝突した状態で、第2金型12と薄板金属18との下方への移動が停止する。第2金型12と薄板金属18との移動が停止した状態を図4で示し、この図4の要部拡大図を図3(b)で示す。第1金型10の固定部材24の固定平面部30に薄板金属18の第1面18aが衝突した状態では、図3(b)に示すように、固定部材24の突出部32は薄板金属18の第1面18aから薄板金属18の内部に食い込み、薄板金属18の第1面18aに直線状で断面山形状の凹部40が形成される。薄板金属18の第1面18aに表面処理被膜が形成されていた場合に、凹部40の形成位置に存在した表面処理被膜は、突出部32によって薄く引き伸ばされて更に加圧による摩擦熱によって溶解される。その結果、凹部40の壁面には表面処理被膜が存在しなくなる。
【0021】
第1金型10の固定部材24の突出部32で薄板金属18の第1面18aに凹部40を形成すると、その凹部40を形成した応力が薄板金属18の第2面18b側に及ぶが、その応力は第2金型12の溝部38の存在によって、第2金型12の溝部38に向けて突出膨らみ部42となって、薄板金属18の第2面18bに現われる。即ち、第2金型12の溝部38の存在によって薄板金属18の第1面18aに加わる応力を、第2面18bに膨らみ部42となって逃がすことができる。
【0022】
第1金型10の突出部32で薄板金属18の第1面18aに凹部40を形成すると共に薄板金属18の第2面18bに膨らみ部42を形成した後、第2金型12を図1の位置に戻す。これによって、撓んでいた薄板金属18は元の平らな板に戻り、薄板金属18は第1金型10や第2金型12から離れた状態となる。その後、薄板金属18を図1の上面から裏面に向けて所定の距離(突出部32の長さより僅かに短い距離)だけ移動させて、薄板金属18に新たに凹部40や膨らみ部42を形成する位置を第1金型10や第2金型12に対向する位置に移動する。その後、第1金型10と第2金型12とで薄板金属18を挟み(図5)、駆動手段14を作動させて、第2金型12で薄板金属18を第1金型10に衝突させる。これによって、第1金型10の突出部32で薄板金属18の第1面18aに新たな凹部40(先に形成された凹部40と接続する)を形成し、薄板金属18の第2面18bに新たな膨らみ部42(先に形成された膨らみ部42と接続する)を形成する。これを順次繰り返す加工(追い加工)を行なうことで、薄板金属18の第1面18aに長尺の凹部40を形成し、薄板金属18の第2面18bに長尺の膨らみ部42を形成することができる。
【0023】
この追い加工を行なう場合、第2金型12の衝突平面部36には直径全域にわたる溝部38が形成されており、しかもその溝部38の長さは第1金型10の突出部32の長さよりも長くしてある。また、溝部38は第2金型12を貫通した状態で形成されている。この結果、薄板金属18に次の追い加工を施そうとして薄板金属18を移動した場合でも、薄板金属18の第2面18bに先に形成された膨らみ部42は、第2金型12の溝部38の中や第2金型12の側面外部の空間に位置するので、先に形成された膨らみ部42が第2金型12の衝突平面部36による圧力によってつぶされることが無い。先に形成された膨らみ部42がつぶされることが無いことから、先に形成された凹部40の形状が変形することが無く、後述する開先(傾斜面46)の形状を安定した形状に保つことができる。
【0024】
薄板金属18の第1面18aに長尺の凹部40を形成すると共に薄板金属18の第2面18bに長尺の膨らみ部42を形成した後、図5(a)に示すように、薄板金属18の第2面18bの膨らみ部42からV字状の凹部40の中央位置に向けて、図示しないレーザー切断装置によって、薄板金属18の厚みを切断する。図5(b)に示すように、薄板金属18を2つに切断したものを薄板金属18Xとすると、薄板金属18Xの切断箇所は、第1面18aや第2面18bに対して垂直方向のレーザー光による切断面44と、突出部32によって形成されたものであって第1面18aや第2面18bに対して約45度に傾斜した平面としての傾斜面46(表面処理被膜を有しない)とから構成される。この平面としての傾斜面46が、2つの薄板金属18Xを溶接する際に接合する開先面となる。固定部材24の山形の突出部32は、2箇所の平面部を有し、1個の薄板金属18を切断して2つの薄板金属18Xとした場合に、それぞれの薄板金属18Xに溶接の際の開先面となる平面を設けるような形状であれば、山形の形状に限定するものではない。なお、第2面18bにおける切断面44と交叉する位置には、切断された半分の膨らみ部42(図面で分かり易くするために大きな形状としてあるが、実際にはもっと小さいものである)が、第2面18bより外側に突出して残っている。
【0025】
その後、図6(a)に示すように、2つの薄板金属18Xを例えば90度の角度で溶接する場合に、切断した2つの薄板金属18Xの平面である傾斜面46(表面処理被膜を有しない)同士を接合させる。2つの薄板金属18Xの傾斜面46同士を接合させてL字形状にした状態では、一方の薄板金属18Xの切断面44と他方の薄板金属18Xの切断面44は接合した傾斜面46同士の外側に位置し、一方の切断面44と他方の切断面44との間に空間48が形成される。その後、図6(b)に示すように、空間48側から溶融金属またはろう50で2つの薄板金属18X同士の溶接を行う。本発明では、一方の切断面44と他方の切断面44との間で形成された空間48から開先としての傾斜面46同士の接合箇所に溶剤を流し込むことができ、溶接作業を容易に行うことができ、かつ傾斜面46同士の接合箇所の接着を強固にすることができる。また、図6(a)では、切断箇所の第2面18bには、切断された半分の膨らみ部42が外方に突出して残っているが、溶接の際に、切断された半分の膨らみ部42が溶けて無くなり、角部を滑らかな溶接面とすることができる。
【0026】
以上のように本発明によれば、直線状の突出部32を形成した第1金型10と、直線状の溝部38を形成した第2金型12とによって、薄板金属18の第1面18aから薄板金属18の厚みに向けて山形の凹部40を形成する。この際、薄板金属18の表面に表面処理被膜が施されていたとしても、凹部40の壁面からは表面処理被膜を無くすことができる。薄板金属18に形成した山形の凹部40を形成した応力の影響は、凹部40の位置の反対側の第2面18bに現われるが、凹部40の位置の反対側の位置の第2金型12に溝部38を形成することによって、山形の凹部40を形成した応力の影響を、第2金型12の溝部38に突出する膨らみ部42(薄板金属18の第2面18b)として 逃がすことができる。薄板金属18に膨らみ部42を形成させることで、薄板金属18に山形の凹部40を形成しても薄板金属18に歪やそりが発生することがなく、薄板金属18をそのまま利用することができる。その後、凹部40の中心位置と膨らみ部42の中心位置とを通る位置で薄板金属18をレーザー装置で切断すれば、山形の凹部40の壁面が表面処理被膜の無い傾斜面46となる。その傾斜面46が開先面となり、開先面同士の溶接を行なうとピンホールの無い溶接が可能になる。以上のように本発明では、薄板金属の開先加工を簡単に行うことができ、しかも開先加工を行なった薄板金属に歪やそりを発生させることがないものである。
【0027】
なお、表面に表面処理被膜を有している薄板金属18について説明してきたが、本発明は表面処理被膜を有していない薄板金属18についても適用できるものである。更に、前述の説明では、薄板金属18に形成する凹部40の形状を直線状のものとして説明したが、凹部40の形状を円弧状のものとしても良い。薄板金属18に形成する凹部40の形状を円弧状とした場合に、その薄板金属18と開先を合わせるものは、円筒形の筒を薄板金属18の円弧状の角度に合わせて軸方向に切断したものとする。
【実施例2】
【0028】
次に、本発明に係る薄板金属加工装置の実施例2について説明する。本発明に係る薄板金属加工装置は、第1押圧部材としての第1ローラ52と第2押圧部材としての第2ローラ54とを有する。第1ローラ52は円筒の円周面の形状である第1外周面56(第1挟持面)を有し、その第1外周面56には全域にわたって外側に突出する断面山形の突出部58を有する。第1ローラ52には第1外周面56の中心位置に第1軸60を備え、その第1軸60を中心にして第1ローラ52が回転するよう設定されている。第2ローラ54は円筒の円周面の形状である第2外周面62(第2挟持面)を有し、その第2外周面62には全域にわたって内側に凹んだ溝部64を有する。第2ローラ54には第2外周面62の中心位置に第2軸66を備え、その第2軸66を中心にして第2ローラ54が回転するよう設定されている。1ローラ52と第2ローラ54とは、薄板金属18の厚みの間隔だけ隙間を開けて配置する。
【0029】
実施例2の薄板金属加工装置で薄板金属18を加工する場合には、1ローラ52と第2ローラ54を回転させた状態で、薄板金属18を1ローラ52と第2ローラ54の間に移動させる。これによって、第1ローラ52の断面山形の突出部58が薄板金属18の第1面18aの内部に食い込み、薄板金属18の第1面18aに直線状で断面山形状の凹部40が形成される(図5(a))。第1ローラ52の突出部58で薄板金属18の第1面18aに凹部40を形成した状態では、その凹部40を形成した応力が薄板金属18の第2面18b側に及ぶが、その応力は薄板金属18の第2面18b側に、第2ローラ54の溝部64に向けて突出する膨らみ部42となって現われる。即ち、第2ローラ54の溝部64の存在によって薄板金属18の第1面18aに加わる応力が第2面18bに膨らみ部42となって突出して形成される(図5(a))。
【0030】
その後、薄板金属18の第2面18bの膨らみ部42からV字状の凹部40の中央位置に向けて、図示しないレーザー切断装置によって、薄板金属18の厚みを切断すると、図5(b)に示すように、2つの薄板金属18Xが形成され、その2つの薄板金属18Xに開先となる平面即ち傾斜面46が形成される。この実施例2では、第1押圧部材も第2押圧部材もローラとすることで、薄板金属18に凹部40と膨らみ部42とを連続的に形成することができるので、薄板金属18の開先加工の加工時間を実施例1に比べて短縮することができる。
【0031】
なお、この実施例2においては、第1ローラ52の第1軸60の角度と、第2ローラ54の第2軸66の角度とを変える(第1軸60と第2軸66とが薄板金属18に平行な状態を保った状態で同一角度で角度を変える)ことによって薄板金属18に、曲線状の凹部40を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る薄板金属加工装置の一実施例を示す断面図である。
【図2】図1の薄板金属加工装置に使用する第1金型と第2金型の斜視図である。
【図3】第2金型で薄板金属を第1金型側に衝突させた状態を示す要部断面図である。
【図4】第2金型で薄板金属を第1金型側に衝突させた状態を示す図1相当図である。
【図5】凹部と膨らみ部とを形成した薄板金属を切断する状態を示す断面図である。
【図6】図5で切断した薄板金属の開先同士を溶接する状態を示す断面図である。
【図7】本発明に係る薄板金属加工装置の他の実施例を示す部分断面正面図である。
【図8】従来の薄板金属同士を溶接する状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0033】
10 第1金型
12 第2金型
14 駆動手段
18 薄板金属
18a 第1面
18b 第2面
24 固定部材
26 弾性部材
28 可動部材
30 固定平面部
32 突出部
34 可動平面部
36 衝突平面部
38 溝部
40 凹部
42 膨らみ部
44 切断面
46 傾斜面
48 空間
52 第1ローラ
54 第2ローラ
56 第1外周面
58 突出部
62 第2外周面
64 溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1挟持面とその第1挟持面より外方に突出する突出部とを有する第1押圧部材と第2挟持面とその第2挟持面に形成した溝部とを有する第2押圧部材とを用いて、前記突出部と前記溝部とを対向する位置に配置して前記第1押圧部材と前記第2押圧部材部とで薄板金属をプレス加工するものであり、前記突出部で前記薄板金属の一方の面に凹部を形成すると共に前記薄板金属の他方の面に前記溝部内に突出する膨らみ部を形成し、前記凹部の断面箇所と前記膨らみ部の断面箇所とを結ぶ位置で前記薄板金属を切断することを特徴とする薄板金属の開先加工方法。
【請求項2】
前記第1押圧部材の前記第1挟持面を平面とし、前記第1挟持面より外方に突出する前記突出部を直線状または円弧状とし、前記第2押圧部材の前記第2挟持面を平面とし、前記第2挟持面に形成される前記突出部を直線状または円弧状とし、前記第2押圧部材の前記溝部の直線状または円弧状の長さを前記第1押圧部材の前記突出部の直線状または円弧状の長さよりも長くすると共に前記溝部が前記第2押圧部材を貫通した形状とし、前記薄板金属に前記凹部と前記膨らみ部とを形成した後、前記薄板金属を前記突出部の長さかそれよりやや短い長さだけ前記第1押圧部材や前記第2押圧部材に対して移動させ、その後、前記第1押圧部材と前記第2押圧部材とによって前記薄板金属に形成した前記凹部に連絡する新たな凹部と前記膨らみ部に連絡する新たな膨らみ部とを形成し、その後順に以前に形成した凹部に連絡する新たな凹部と以前に形成した膨らみ部に連絡する新たな膨らみ部とを形成し、その後、前記薄板金属を切断することを特徴とする請求項1記載の薄板金属の開先加工方法。
【請求項3】
前記第1押圧部材を第1軸を中心として回転する第1ローラとし、前記第1挟持面を円筒の円周面の形状とする第1外周面とし、前記突出部を前記第1外周面の円周の全域にわたって形成し、前記第2押圧部材を第2軸を中心として回転する第2ローラとし、前記第2挟持面を円筒の円周面の形状とする第2外周面とし、前記溝部を前記第2外周面の円周の全域にわたって形成し、第1ローラと前記第2ローラとの間を前記薄板金属を通過させることによって、前記突出部で前記薄板金属の一方の面に凹部を形成すると共に前記薄板金属の他方の面に前記溝部内に突出する膨らみ部を形成することを特徴とする請求項1記載の薄板金属の開先加工方法。
【請求項4】
前記凹部の断面箇所と前記膨らみ部の断面箇所とを結ぶ位置で前記薄板金属を切断する際に、前記膨らみ部から前記凹部に向けてレーザー光を照射して前記薄板金属を切断することを特徴とする請求項1乃至3記載の薄板金属の開先加工方法。
【請求項5】
前記薄板金属の両面に表面処理被膜を有することを特徴とする請求項1乃至4記載の薄板金属の開先加工方法
【請求項6】
第1押圧部材と第2押圧部材とで薄板金属をプレス加工するためのものであって、前記第1押圧部材に備えられる第1挟持平面と、その第1挟持面より外方に突出する直線状または円弧状の突出部と、前記第2押圧部材に備えられるものであって前記第1押圧部材の前記第1挟持面とで前記薄板金属を挟持するための第2挟持平面と、その第2挟持面に形成されるものであって前記突出部とに対向して配置される直線状または円弧状の溝部と、を有することを特徴とする薄板金属の開先加工装置。
【請求項7】
前記第1押圧部材は、ハウジングと、前記突出部を備える前記第1挟持平面を有するものであって前記ハウジングに固定される固定部材と、外力によって長さが変位する弾性部材と、前記弾性部材によって付勢されるものであってかつその付勢による移動位置を前記ハウジングによって規制される可動部材と、前記可動部材における外部に露出する位置に備えられるものであって前記第1挟持平面と平行に配置される可動平面部とを有し、前記可動部材に前記弾性部材に抗する外力が働かない場合に前記可動部材の前記可動平面部が前記第1挟持平面の前記突出部より外側に突出し、前記可動部材に前記弾性部材に抗する前記第2押圧部材による外力が働いて前記可動部材を移動させた場合に前記可動部材の前記可動平面部が前記固定部材の前記第1挟持平面と同一平面位置まで移動することを特徴とする請求項6記載の薄板金属の開先加工装置。
【請求項8】
前記第2押圧部材の前記溝部の形状長さを前記第1押圧部材の突出部の長さよりも長くすると共に前記溝部が第2押圧部材の側面を貫通した形状とすることを特徴とする請求項6または7記載の薄板金属の開先加工装置。
【請求項9】
円筒の円周面の形状である第1外周面を有すると共に前記第1外周面の中央部に前記第1外周面の全域にわたって突出部を形成した第1押圧部材と、前記第1押圧部材とで薄板金属をプレスするためのものであって、円筒の円周面の形状である第2外周面を有すると共に前記第2外周面の中央部に前記第2外周面の全域にわたって溝部を形成した第2押圧部材とを有することを特徴とする薄板金属の開先加工装置。
【請求項10】
前記第1押圧部材が第1軸を中心に回転し、前記第2押圧部材が第2軸を中心に回転し、前記第1軸と前記第2軸とが互いに平行な状態を保ちながら同一角度で変位できるようにしたことを特徴とする請求項9記載の薄板金属の開先加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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