説明

薄片化黒鉛分散液の製造方法、薄片化黒鉛分散液、薄膜の製造方法、樹脂組成物及びモノマー組成物

【課題】 本発明は、薄片化黒鉛が安定的に分散してなる薄片化黒鉛分散液を効率良く製造することができる薄片化黒鉛分散液の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、黒鉛化合物と、テトラヒドロフランやN−メチルピロリドンなどの五員環を含有する環状化合物とを含む被処理液を振とうさせて、上記黒鉛化合物を薄片化することを特徴とするので、黒鉛化合物の層面同士を剥離して薄片化黒鉛が安定的に分散してなる薄片化黒鉛分散液を効率良く製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄片化黒鉛分散液の製造方法及びこの製造方法で得られた薄片化黒鉛分散液、並びに、上記製造方法で得られた薄片化黒鉛分散液を用いた薄膜の製造方法、樹脂組成物及びモノマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素骨格を有し且つ形状異方性の高い物質として、黒鉛をその層面間で剥離し、層面(グラフェン)の重なりが数十層以下になるまで薄片化した薄片化黒鉛が注目されており、薄片化黒鉛は非常に大きな表面積を有するため、樹脂などと複合化すると、少量の薄片化黒鉛の添加で各種機能が発現すると期待されている。
【0003】
上記薄片化黒鉛の製造方法としては、例えば、特許文献1に、硫酸・硝酸及び過マンガン酸カリウムを用いて酸化させた黒鉛層間化合物を精製し、遠心分離した後、上澄みを除去することによって薄片化酸化黒鉛が得られることが提案されている。
【0004】
しかしながら、上記方法では、薄片化酸化黒鉛の製造に長時間を要し又は高温状態を利用するものであるため、薄片化酸化黒鉛の製造効率が低いという問題点を有していた。又、導電材料に使用する場合には、得られた薄片化酸化黒鉛を還元する工程が別途必要である。薄片化黒鉛がより安定的に分散してなる薄片化黒鉛分散液をより効率良く製造することができる製造方法が要望されている。
【0005】
又、薄片化黒鉛分散液を合成樹脂と混合して樹脂組成物を作製する場合、合成樹脂が水溶性合成樹脂であれば、薄片化黒鉛分散液と合成樹脂とを容易に混合することができる。一方、合成樹脂が非水溶性合成樹脂である場合、薄片化黒鉛分散液の溶媒の交換を行ったり、或いは、薄片化黒鉛分散液から薄片化黒鉛を分離して、この薄片化黒鉛を合成樹脂が溶解し得る溶媒に分散させて分散液を作製し、この分散液に非水溶性合成樹脂を添加して混合する必要があり、工程が多くなるという問題がある。更に、薄片化黒鉛分散液から薄片化黒鉛を分離すると、薄片化黒鉛同士が凝集してしまうという問題も生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−53313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、薄片化黒鉛が安定的に分散してなる薄片化黒鉛分散液を効率良く製造することができる薄片化黒鉛分散液の製造方法及びこの製造方法で得られた薄片化黒鉛分散液、並びに、上記製造方法で得られた薄片化黒鉛分散液を用いた薄膜の製造方法、樹脂組成物及びモノマー組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の薄片化黒鉛分散液の製造方法は、黒鉛化合物と五員環を含有する環状化合物とを含む被処理液を振とうさせて、上記黒鉛化合物を薄片化することを特徴とする。
【0009】
本発明において用いられる黒鉛化合物としては、黒鉛、黒鉛層間化合物の何れであってもよい。なお、黒鉛に官能基が化学的に結合してしても、或いは、黒鉛に官能基が弱い相互作用により疑似的に結合していてもよい。
【0010】
本発明においては、黒鉛化合物を酸化工程を経ることなく薄片化することができるため、X線光電子分析(ESCA)により測定した酸素原子の含有率が4%以下である黒鉛化合物を用いることが好ましい。このような黒鉛化合物を用いることによって、得られる薄片化黒鉛は、還元などの処理を施すことなく優れた導電性を有する。なお、黒鉛化合物におけるX線光電子分析(ESCA)により測定した酸素原子の含有率は、黒鉛化合物を構成している原子の総数に対する酸素原子数の百分率である。
【0011】
黒鉛としては、粒子全体で単一の多層構造を有する黒鉛が好ましく、例えば、天然黒鉛、キッシュ黒鉛、高配向性熱分解黒鉛などが挙げられる。天然黒鉛とキッシュ黒鉛は、各層面(基本層)が略単一の方位を有する単独の結晶であり、高配向性熱分解黒鉛の各層面(基本層)は異なる方位を有する多数の小さな化粧の集合体である。
【0012】
黒鉛層間化合物は、上記黒鉛の層面間にインターカレーターを挿入することによって形成されている。黒鉛層間化合物における黒鉛の層面間に挿入されるインターカレーターとしては、特に限定されず、例えば、酸、酸化剤、金属、金属塩、気体、ハロゲン化合物などが挙げられる。インターカレーターは単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0013】
酸としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、カルボン酸、クロム酸、リン酸、ヨウ素酸などが挙げられる。酸化剤としては、例えば、過マンガン酸カリウム、過酸化水素、塩素酸カリウム、臭素酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウムなどが挙げられる。金属としては、例えば、カリウム、ナトリウムなどが挙げられる。金属塩としては、例えば、塩化銅、塩化鉄、塩化銀、塩化アルミニウムなどが挙げられる。気体としては、例えば、水素、塩素などが挙げられる。ハロゲン化合物としては、例えば、塩化ヨウ素、塩化臭素、臭化ヨウ素、フッ化ヨウ素、フッ化臭素、フッ化塩素、フッ素、塩素、塩化アルミニウムなどが挙げられる。
【0014】
黒鉛の層面間にインターカレーターを挿入して黒鉛層間化合物を製造する方法としては、公知の方法を採用することができ、例えば、黒鉛をインターカレーターの溶液に分散させて、分散液中において黒鉛とインターカレーターとを反応させて黒鉛層間化合物を製造する方法、黒鉛と気体状のインターカレーターとを高圧下にて反応させて黒鉛層間化合物を製造する方法、酸化剤を用いてHummers−Offeman法によって黒鉛層間化合物を製造する方法などが挙げられ、酸化剤を用いてHummers−Offeman法によって黒鉛層間化合物を製造する方法が好ましい。
【0015】
黒鉛化合物において、レーザー光回折法により粒度分布を測定した場合に50%径として得られる値は、小さいと、黒鉛化合物を薄片化して得られる薄片化黒鉛において異方性が得られないことがあり、大きいと、黒鉛化合物の層面間に五員環を含有する環状化合物が侵入しにくくなり、黒鉛化合物の薄片化が進行しにくいことがあるので、0.1〜50μmが好ましい。
【0016】
なお、レーザー光回折法により粒度分布を測定した場合に50%径として得られる値が20μm未満である黒鉛化合物は、例えば、SECカーボン社から商品名「SNO−15」などのSNOシリーズにて、中越黒鉛工業所から商品名「CX−3000」にて、伊藤黒鉛社からCNP−シリーズにて、XGSience社から商品名「XGnP−5」にて市販されている。
【0017】
上記黒鉛化合物と五員環を含有する環状化合物とを含有する被処理液を用意する。五員環を含有する環状化合物としては、特に限定されず、例えば、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、ピロール、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール又はこれらの誘導体が挙げられ、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドンが好ましい。なお、五員環を含有する環状化合物は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0018】
五員環を含有する環状化合物が官能基を有している場合、官能基の炭素数は、大きいと、黒鉛化合物の層面間に五員環を含有する環状化合物が進入しにくくなり、黒鉛化合物の薄片化が進みにくくなることがあるので、4以下が好ましい。
【0019】
被処理液中における黒鉛化合物と五員環を有する環式化合物との含有割合は、黒鉛化合物が少ないと、黒鉛化合物に対して多量の溶媒を使用することとなり、環境負荷が大きくなることがあり、黒鉛化合物が多いと、黒鉛化合物の層面間に五員環を有する環式化合物が進入しにくくなることがあるので、黒鉛化合物100重量部に対して五員環を含有する環状化合物100〜100万重量部が好ましく、1000〜10万重量部がより好ましい。
【0020】
黒鉛化合物と五員環を含有する環状化合物とを含有する被処理液を作製する方法としては、特に限定されず、例えば、黒鉛化合物を入れた容器内に五員環を含有する環状化合物を供給してもよいし、五員環を含有する環状化合物中に黒鉛化合物を供給してもよい。
【0021】
そして、被処理液を振とうさせて黒鉛化合物を薄片化して、薄片化黒鉛が五員環を含有する環状化合物中に分散してなる薄片化黒鉛分散液を製造することができる。被処理液の振とう方法としては、特に限定されず、例えば、被処理液を入れた容器を手で上下方向又は左右方向に振ることによって容器内の被処理液を振とうする方法、被処理液を入れた容器を振とう装置に配設して容器を振とうさせて容器内の被処理液を振とうする方法などが挙げられる。
【0022】
このように、被処理液を振とうすることによって黒鉛化合物が薄片化されて、薄片化黒鉛が五員環を含有する環状化合物中に分散してなる薄片化黒鉛分散液が得られる理由は明確には解明されていないが、黒鉛化合物が黒鉛である場合には以下のように推察される。五員環を有する環式化合物は、黒鉛化合物と分子構造が類似しているため、黒鉛化合物の層面間に進入し易く、五員環を含有する環状化合物が黒鉛の層面間に進入することによって、互いに隣接する層面間に働いているファンデルワールス結合を切断することができ、その結果、黒鉛の層面間同士の剥離を容易にし、黒鉛の薄片化を進行させているものと考えられる。
【0023】
又、黒鉛化合物が黒鉛層間化合物又は官能基を有する黒鉛である場合にも、インターカレーターが挿入されていない層面間や、官能基を有していない層面間において、上述の現象が生じる結果、黒鉛化合物の薄片化をより効率良く行うことができるものと考えられる。
【0024】
更に、薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛及び残存する黒鉛化合物における層面間の剥離を更に促進するために、薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛及び残存する黒鉛化合物に剥離処理を施してもよい。このような剥離処理としては、例えば、(1)薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛及び残存する黒鉛化合物に超音波を照射する方法、(2)薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛及び残存する黒鉛化合物にマイクロ波を照射する方法、(3)薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛及び残存する黒鉛化合物に物理的に応力を加える方法などが挙げられる。なお、上記(1)の方法において、超音波の周波数は、低すぎても高すぎても、得られる薄片化黒鉛分散液中の薄片化黒鉛の分散性が低下するので、20〜50kHzが好ましい。又、上記(1)の方法において、超音波の照射時間は、短いと、薄片化黒鉛又は黒鉛化合物の層面間における剥離が充分に進行しないことがあり、長いと、薄片化黒鉛における層面の面方向に沿った大きさが必要以上に小さくなることがあるので、5〜60分が好ましい。なお、薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛及び残存する黒鉛化合物に複数回に亘って超音波を照射する場合、超音波の照射時間の合計が5〜60分であることが好ましい。
【0025】
上述のようにして、黒鉛化合物がその層面間において剥離して薄片化黒鉛が生成し、この薄片化黒鉛が水中に安定的に分散してなる薄片化黒鉛分散液を製造することができる。なお、薄片化黒鉛分散液に沈殿物が生じる場合があるが、この沈殿物は、層面間において充分に剥離しなかった黒鉛化合物であると推定され、このような沈殿物が薄片化黒鉛分散液中に生じた場合は、薄片化黒鉛分散液における沈殿物が存在している下方部分を除いた部分を採取し、この採取液を薄片化黒鉛分散液とすればよい。
【0026】
得られた薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛の層面の積層数は、15層以下が好ましく、5層以下がより好ましい。
【0027】
上述のようにして得られた薄片化黒鉛分散液は、極めて薄い薄片化黒鉛が安定に分散しているため、何ら処理を施すことなく、所望の用途に使用し又は分散液のまま安定的に保管しておくことがきる。薄片化黒鉛分散液の使用方法としては、薄片化黒鉛分散液を所望個所に噴霧し又は塗布する方法の他に、薄片化黒鉛分散液を合成樹脂と混合することによって樹脂組成物を得ることができ、薄片化黒鉛分散液をモノマーと混合することによって高濃度の薄片化黒鉛が含有されるモノマー組成物を容易に得ることができる。
【0028】
合成樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合体などのポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム、ポリフッ素化エチレン、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリブタジエン、ブチルゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ポリジメチルシロキサンなどが挙げられる。なお、合成樹脂は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。又、モノマーとしては、上述の合成樹脂を構成しているモノマーが挙げられ、例えば、アクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、エチレン、プロピレン、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル、ブタジエン、イソプレンなどが挙げられる
【0029】
なお、得られる樹脂組成物、及び、モノマー組成物中のモノマーを重合させて得られる樹脂組成物は、バリア性材料、耐熱性材料、耐候性材料、電気伝導性材料、熱伝導性材料、IR反射性材料などとして用いることができる。
【0030】
そして、薄片化黒鉛分散液を用いて薄片化黒鉛からなる薄膜を形成することができる。具体的には、ガラスや合成樹脂板などの基材上に薄片化黒鉛分散液を塗布、乾燥させることによって薄片化黒鉛からなる薄膜を安定的に形成することができる。
【0031】
又、黒鉛層間化合物を形成するために用いたインターカレーターが酸化剤又は酸である場合、黒鉛層間化合物の各層面は酸化物を形成している。この黒鉛層間化合物を上述の要領で薄片化して得られた薄片化黒鉛はその各層面が酸化しており、各層面は酸化グラフェンと呼ばれる。
【0032】
この酸化グラフェンからなる薄片化黒鉛を導電膜などの用途に用いる場合には、高い導電性を得るために、酸化グラフェンを還元することが好ましい。薄片化黒鉛を構成している酸化グラフェンの還元方法としては、特に限定されず、例えば、薄片化黒鉛を構成している酸化グラフェンに還元剤を接触させる方法が挙げられる。
【0033】
薄片化黒鉛を構成している酸化グラフェンに還元剤を接触させる方法としては、例えば、上述のようにして薄片化黒鉛分散液を用いて薄片化黒鉛を含有する薄膜を形成し、この薄膜に還元剤を接触させることによって酸化グラフェンを還元させることが好ましい。このように、先ず、薄片化黒鉛を含む薄膜を基材上に形成し、この基材上の薄膜に還元剤を接触させることによって、薄片化黒鉛の凝集を防止しつつ、薄片化黒鉛を構成している酸化グラフェンの還元を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明は、黒鉛化合物と五員環を含有する環状化合物とを含む被処理液を振とうさせて、上記黒鉛化合物を薄片化することを特徴とするので、黒鉛化合物の層面同士を剥離して薄片化黒鉛が安定的に分散してなる薄片化黒鉛分散液を効率良く製造することができる。
【0035】
本発明の薄片化黒鉛分散液の製造方法は、黒鉛化合物から黒鉛層間化合物を作製する工程と、黒鉛層間化合物の各層面同士の剥離工程とを別工程で行う必要がなく、黒鉛層間化合物と五員環を有する化合物とを含む被処理液を振とうすることによって黒鉛化合物を薄片化して薄片化黒鉛分散液を得ることが可能であり、工程の簡略化を図ることができる。
【0036】
又、本発明の薄片化黒鉛分散液の製造方法は、黒鉛化合物の酸化物を経ることなく黒鉛化合物を薄片化することができるため、原料となる黒鉛化合物と同様の層面状態を有する薄片化黒鉛を得ることができる。特に、薄片化黒鉛を導電性材料に使用したい場合には、黒鉛化合物の薄片化後に薄片化黒鉛の還元などの工程を経なくても炭素原子含有率が高く且つ導電性の高い薄片化黒鉛を高効率で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
次に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
黒鉛化合物(SECカーボン社製 商品名「SNO−15」、レーザー光回折法により粒度分布を測定した場合に50%径として得られる値:15μm、ESCAにより測定した黒鉛化合物中の酸素原子の含有率:2.9%)を用意した。
【0039】
次に、テトラヒドロフランを用意し、このテトラヒドロフラン18gに上記黒鉛化合物 0.1gを供給して混合して被処理液を作製した。この被処理液を入れた容器を手で把持して上下方向に振ることによって容器内の被処理液を振とうさせて黒鉛化合物をその層面間から剥離し薄片化して薄片化黒鉛を生成し、この薄片化黒鉛がテトラヒドロフラン中に分散してなる薄片化黒鉛分散液を製造した。
【0040】
更に、薄片化黒鉛分散液に周波数28kHz、100Wの条件下にて超音波を5分間に亘って照射し、続いて、周波数45kHz、100Wの条件下にて超音波を10分間に亘って照射して25℃にて2時間に亘って静置し、薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛及び黒鉛化合物における層面間の剥離を更に促進した。なお、薄片化黒鉛分散液中には、黒鉛化合物と推定される沈殿物が残っていたので沈殿物のない上方部分を採取した。採取液は目視にて透明度の高い黒銀色であり、薄片化黒鉛分散液中には高度に薄片化された薄片化黒鉛が分散していると推定された。
【0041】
薄片化黒鉛分散液の上方部分から試験液を3cm3採取し、この試験液を25℃にて24時間に亘って静置したが沈殿物は生成しなかった。
【0042】
又、薄片化黒鉛分散液の上方部分から塗布液を3cm3採取し、この塗布液をガラス板上に塗布し90℃にて乾燥させて薄片化黒鉛からなる薄膜を形成した。この薄片化黒鉛からなる薄膜は、薄灰色で且つ透明性が高かった。
【0043】
(実施例2)
テトラヒドロフランの代わりにN−メチルピロリドンを用いたこと以外は実施例1と同様にして、薄片化黒鉛がN−メチルピロリドン中に分散してなる薄片化黒鉛分散液を得た。なお、薄片化黒鉛分散液中に沈殿物が残っていた。更に、実施例1と同様の要領で、薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛及び黒鉛化合物における層面間の剥離を促進させた。なお、薄片化黒鉛分散液中には黒鉛化合物と推定される沈殿物が残っていたので、薄片化黒鉛分散液の沈殿物のない上方部分を採取した。採取液は目視にて金属様の光沢を有する濃黒銀色の懸濁液であり、薄片化黒鉛分散液中には高度に薄片化された薄片化黒鉛が分散していると推定された。
【0044】
薄片化黒鉛分散液の上方部分から試験液を3cm3採取し、この試験液を25℃にて24時間に亘って静置したが沈殿物は生成しなかった。
【0045】
又、薄片化黒鉛分散液の上方部分から塗布液を3cm3採取し、この塗布液をガラス板上に塗布し90℃にて乾燥させて薄片化黒鉛からなる薄膜を形成した。この薄片化黒鉛からなる薄膜は、薄灰色で且つ透明性が高かった。
【0046】
原料の黒鉛化合物及び得られた薄片化黒鉛分散液をシリコンウエハに塗布、乾燥して、X線回折測定 (Rigaku社製 商品名「RINT1400」、X線出力:50kV/150mA、検出器:シンチレーションカウンターを使用)を行った。薄片化黒鉛分散液の測定結果では、原料となる黒鉛化合物とは異なる位置(2θ=1.23nm、0.727nm)に新たにピークが観測された。この結果と、薄片化黒鉛分散液の観察結果から、原料の黒鉛化合物とは異なる層間距離を有する薄片状粒子が存在しているか、又は、薄片化黒鉛を複数観測しているために上記ピークが観測されるかの何れかである可能性が示唆された。
【0047】
(実施例3)
黒鉛化合物として、XGSience社から商品名「XGnP−5」にて市販されている黒鉛化合物(レーザー光回折法により粒度分布を測定した場合に50%径として得られる値:5μm、ESCAにより測定した黒鉛化合物中の酸素原子の含有率:5.8%)を用いたこと以外は実施例1と同様にして薄片化黒鉛分散液を得た。なお、薄片化黒鉛分散液中には沈殿物が残っていた。更に、実施例1と同様の要領で、薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛及び黒鉛化合物における層面間の剥離を促進させた。なお、薄片化黒鉛分散液中には黒鉛化合物と推定される沈殿物が残っていたので、薄片化黒鉛分散液の沈殿物のない上方部分を採取した。採取液は目視にて透明度の高い濃灰色であり、薄片化黒鉛分散液中には高度に薄片化された薄片化黒鉛が分散していると推定された。
【0048】
薄片化黒鉛分散液の上方部分から試験液を3cm3採取し、この試験液を25℃にて24時間に亘って静置したが沈殿物は生成しなかった。
【0049】
又、薄片化黒鉛分散液の上方部分から塗布液を3cm3採取し、この塗布液をガラス板上に塗布し90℃にて乾燥させて薄片化黒鉛からなる薄膜を形成した。この薄片化黒鉛からなる薄膜は、薄灰色であった。
【0050】
(実施例4)
黒鉛化合物として、XGSience社から商品名「XGnP−5」にて市販されている黒鉛化合物(レーザー光回折法により粒度分布を測定した場合に50%径として得られる値:5μm、ESCAにより測定した黒鉛化合物中の酸素原子の含有率:5.8%)を用いたこと、テトラヒドロフランの代わりにN−メチルピロリドンを用いたこと以外は実施例2と同様にして薄片化黒鉛分散液を得た。なお、薄片化黒鉛分散液中には沈殿物が残っていた。更に、実施例1と同様の要領で、薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛及び黒鉛化合物における層面間の剥離を促進させた。なお、薄片化黒鉛分散液中には黒鉛化合物と推定される沈殿物が残っていたので、薄片化黒鉛分散液の沈殿物のない上方部分を採取した。採取液は目視にて非常に透明度の高い灰色であり、薄片化黒鉛分散液中には高度に薄片化された薄片化黒鉛が分散していると推定された。
【0051】
薄片化黒鉛分散液の上方部分から試験液を3cm3採取し、この試験液を25℃にて24時間に亘って静置したが沈殿物は生成しなかった。
【0052】
又、薄片化黒鉛分散液の上方部分から塗布液を3cm3採取し、この塗布液をガラス板上に塗布し90℃にて乾燥させて薄片化黒鉛からなる薄膜を形成した。この薄片化黒鉛からなる薄膜は、薄灰色であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛化合物と五員環を含有する環状化合物とを含む被処理液を振とうさせて、上記黒鉛化合物を薄片化することを特徴とする薄片化黒鉛分散液の製造方法。
【請求項2】
五員環を含有する環状化合物がテトラヒロドフラン又はN−メチルピロリドンであることを特徴とする請求項1に記載の薄片化黒鉛分散液の製造方法。
【請求項3】
黒鉛化合物におけるX線光電子分析(ESCA)により測定した酸素原子の含有率が4%以下であることを特徴とする請求項1に記載の薄片化黒鉛分散液の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の薄片化黒鉛分散液の製造方法によって製造されてなることを特徴とする薄片化黒鉛分散液。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の薄片化黒鉛分散液の製造方法で得られた薄片化黒鉛分散液を基材に塗布、乾燥させて薄片化黒鉛を含む薄膜を形成することを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の薄片化黒鉛分散液の製造方法で得られた薄片化黒鉛分散液と合成樹脂とを混合してなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の薄片化黒鉛分散液の製造方法で得られた薄片化黒鉛分散液とモノマーとを混合してなることを特徴とするモノマー組成物。

【公開番号】特開2011−136881(P2011−136881A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298850(P2009−298850)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】