説明

薄片状酸化アルミニウムの製造方法

【課題】本発明の目的は、良好な外観を得ることができる薄片状酸化アルミニウムを安価に製造する方法を提供することにある。
【解決手段】本発明の薄片状酸化アルミニウムの製造方法は、アルミニウムまたはアルミニウム合金と、ヒドロキシ基を有する有機溶媒とを接触させることにより第1溶液を得る工程と、アルミニウム、アルミニウム合金、またはアルミニウム化合物をアルカリ溶液に溶解することにより第2溶液を得る工程と、弗化アンモニウムおよび酢酸を含有する第3溶液を準備する工程と、該第2溶液と該第3溶液とを混合することにより第4溶液を得る工程と、該第4溶液に、該第1溶液を添加することによりゾルを得る工程と、該ゾルから固形物を分離する工程と、該固形物を焼成することにより焼成物を得る工程と、該焼成物を粉砕し、分級することにより薄片状酸化アルミニウムを得る工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄片状酸化アルミニウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料または塗料に配合して使用される無機顔料として、従来、タルク、マイカ、セリサイト等の天然由来の薄片状粉体が一般的に使用されてきた。また最近では、合成によって得られる薄片状粉体の検討がなされており、例えば、合成マイカ、板状硫酸バリウム、窒化ホウ素、酸化アルミニウム等を挙げることができる。
【0003】
天然由来の薄片状粉体は、価格が手頃であるが、AsやHgあるいは放射性物質を含む危険性は避けられず、しかも、形状や表面状態が不均一で品質が安定せず、表面処理などにより着色しても良好な色調は得られないという問題があった。
【0004】
一方、合成による薄片状粉体は、比較的品質は安定しているが、価格が高くなるという問題がある。このような合成薄片状粉体のうち、薄片状酸化アルミニウムについては、特開昭62−012711号公報(特許文献1)、特開平09−227337号公報(特許文献2)、特開2001−302452号公報(特許文献3)で提案されており、品質の安定性、形状、厚みの均一性などに特徴がある。
【0005】
また、特開平09−077512号公報(特許文献4)および特開2005−082441号公報(特許文献5)で提案されている薄片状酸化アルミニウムは、比較的アスペクト比の高い薄片状酸化アルミニウムを提供することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−012711号公報
【特許文献2】特開平09−227337号公報
【特許文献3】特開2001−302452号公報
【特許文献4】特開平09−077512号公報
【特許文献5】特開2005−082441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1〜3に記載されている方法では、粒径が小さすぎることや、アスペクト比が小さい(偏平化が不十分)などの問題があり、化粧品原料や塗料用原料として使用した場合に、十分な外観や隠蔽性が得られないという問題があった。さらに、使用する材料が高価なため、価格が高くなるという問題もあった。
【0008】
また、特許文献4および特許文献5に記載されている方法は、比較的アスペクト比の高い薄片状酸化アルミニウムを得ることが可能であるものの、高価な原料を必要とするため、やはり価格が高くなるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、化粧料、塗料、樹脂成形品等の各種用途において好適に使用することができ、良好な外観を得ることができる薄片状酸化アルミニウムを安価に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の薄片状酸化アルミニウムの製造方法は、
アルミニウムまたはアルミニウム合金と、ヒドロキシ基を有する有機溶媒とを接触させることにより第1溶液を得る工程と、
アルミニウム、アルミニウム合金、またはアルミニウム化合物をアルカリ溶液に溶解することにより第2溶液を得る工程と、
弗化アンモニウムおよび酢酸を含有する第3溶液を準備する工程と、
該第2溶液と該第3溶液とを混合することにより第4溶液を得る工程と、
該第4溶液に、該第1溶液を添加することによりゾルを得る工程と、
該ゾルから固形物を分離する工程と、
該固形物を焼成することにより焼成物を得る工程と、
該焼成物を粉砕し、分級することにより薄片状酸化アルミニウムを得る工程と、
を含むことを特徴とする。
【0011】
ここで、上記第2溶液は、Liの水酸化物、Naの水酸化物、およびKの水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の水酸化物を含む水溶液である該アルカリ溶液に、アルミニウムまたはアルミニウム合金を溶解することにより得られるものとすることが好ましい。また、該第1溶液を得る工程は、ハロゲン化アルミニウムの存在下に行なわれることが好ましく、上記固形物を焼成する温度は、800℃〜1300℃であることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、上記の薄片状酸化アルミニウムの製造方法により製造された薄片状酸化アルミニウムにも係わり、該薄片状酸化アルミニウムを含有する樹脂組成物にも係わる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の薄片状酸化アルミニウムの製造方法は、各種用途において好適に使用することができ、良好な外観を得ることができる薄片状酸化アルミニウムを安価に製造することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の薄片状酸化アルミニウムの製造方法は、安価なアルミニウム廃材やアルミニウム粗粉を原料とし、高品質の薄片状酸化アルミニウムを安価に製造することができるという特徴を有する。また、本発明の製造方法によれば、厚みが薄くかつ粒径の大きい、アスペクト比の高い薄片状酸化アルミニウムが得られる。また、焼成条件等を調整することにより、イオン導電性を有するβ−アルミナ質の薄片状酸化アルミニウムを提供することが可能である。
【0015】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
<薄片状酸化アルミニウムの製造方法>
本発明の薄片状酸化アルミニウムの製造方法は、アルミニウムまたはアルミニウム合金と、ヒドロキシ基を有する有機溶媒とを接触させることにより第1溶液を得る工程と、アルミニウム、アルミニウム合金、またはアルミニウム化合物をアルカリ溶液に溶解することにより第2溶液を得る工程と、弗化アンモニウムおよび酢酸を含有する第3溶液を準備する工程と、該第2溶液と該第3溶液とを混合することにより第4溶液を得る工程と、該第4溶液に、該第1溶液を添加することによりゾルを得る工程と、該ゾルから固形物を分離する工程と、該固形物を焼成することにより焼成物を得る工程と、該焼成物を粉砕し、分級することにより薄片状酸化アルミニウムを得る工程と、を含むことを特徴としている。本発明の製造方法は、上記の各工程を含む限り、他の工程が含まれていても差し支えない。以下、各工程について詳述する。
【0016】
<第1溶液を得る工程>
第1溶液を得る工程は、アルミニウムまたはアルミニウム合金と、ヒドロキシ基を有する有機溶媒とを接触させることにより実行される。
【0017】
ここで、アルミニウムまたはアルミニウム合金としては、特に限定はなく従来公知のものをいずれも使用することができる。たとえば、アルミニウム合金としては、1000系合金、2000系合金、3000系合金、4000系合金、5000系合金、6000系合金、7000系合金等を好適に使用することができる。特に1000系合金、3000系合金、および5000系合金が好ましい。
【0018】
また、用いるアルミニウムまたはアルミニウム合金の形状としては、切削片、シート、粉末等が好適に使用される。大きさについては0.1μm〜数十mmの範囲のものを使用することができる。なお、アルミニウムまたはアルミニウム合金は、それぞれを各単独で用いても良いし、両者をともに用いても良い。また、アルミニウム合金を用いる場合は、1種のものを単独で用いても良いし、2種以上のものを混合して用いても良い。
【0019】
また、ヒドロキシ基を有する有機溶媒としては、分子中にヒドロキシ基を有する有機溶媒である限り特に限定されることはなく、たとえば下記のものが例示される。すなわち、各種アルコール類およびフェノール類を挙げることができる。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、エチレングリコールなどを挙げることができ、フェノール類としては、たとえばフェノール、クレゾール、ジブチルヒドロキシトルエン、ナフトールなどを挙げることができる。
【0020】
そして、このようなヒドロキシ基を有する有機溶媒としては、アルミニウムのアノード内部分極曲線の標準式量電極電位または半波電位より貴なカソード内部分極曲線の標準式量電位または半波電位を示すアルコール類またはフェノール類を用いること特に好ましい。このようなアルコール類またはフェノール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、エチレングリコール、フェノールなどを挙げることができる。
【0021】
なお、ヒドロキシ基を有する有機溶媒は、1種のものを単独で用いても良いし、2種類以上を混合して使用しても良い。このようなヒドロキシ基を有する有機溶媒は、水を含有しないこと(水分量を0.1質量%以下とすること)が特に好ましい。
【0022】
一方、アルミニウムまたはアルミニウム合金と、ヒドロキシ基を有する有機溶媒とを接触させる方法としては、たとえばアルミニウムまたはアルミニウム合金にヒドロキシ基を有する有機溶媒を加え、1〜24時間、溶液が透明になるまで攪拌する方法を挙げることができるが、このような方法のみに限られるものではなく、アルミニウムまたはアルミニウム合金と、ヒドロキシ基を有する有機溶媒とを接触させる限りその接触方法は特に限定されない。なお、使用量は、アルミニウムまたはアルミニウム合金10質量部に対し、ヒドロキシ基を有する有機溶媒を50〜1000質量部使用することが好ましい。反応温度(接触温度)は、20〜100℃、より好ましくは40〜80℃であり、反応時間(接触時間)は、1〜10時間である。
【0023】
本発明においては、この第1溶液を得る工程、すなわちアルミニウムまたはアルミニウム合金と、ヒドロキシ基を有する有機溶媒との接触は、ハロゲン化アルミニウムの存在下に行なわれることが好ましい。ハロゲン化アルミニウムがアルミニウムまたはアルミニウム合金の酸化皮膜を侵食し、ヒドロキシ基を有する有機溶媒との反応を促進する効果を有するためである。このようなハロゲン化アルミニウムとしては、たとえば塩化アルミニウム、弗化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム等を挙げることができ、特に塩化アルミニウムを用いることが好ましい。なお、ハロゲン化アルミニウムは、無水物であることが特に好ましい。ハロゲン化アルミニウムの使用量は、アルミニウムまたはアルミニウム合金10質量部に対し、ハロゲン化アルミニウムを1〜100質量部使用することが好ましい。
【0024】
上記のようにして得られる第1溶液は、アルミニウムの腐食生成物がヒドロキシ基を有する有機溶媒に溶解された状態のものであると考えられる。なお、本発明で用いる「溶液」という用語は、溶質が溶媒に完全に溶解した状態のもののみを意味するのではなく、溶質が一部溶解せず、分散状態にあるものも含むものとする。
【0025】
<第2溶液を得る工程>
第2溶液を得る工程は、アルミニウム、アルミニウム合金、またはアルミニウム化合物をアルカリ溶液に溶解することにより実行される。
【0026】
ここで、アルミニウムまたはアルミニウム合金としては、上記の第1溶液を得る工程で説明したものと同様である。また、アルミニウム化合物としては、たとえば塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム等を挙げることができる。アルミニウム、アルミニウム合金、またはアルミニウム化合物は、各単独で用いても良いし、2種以上のものを組み合わせて用いても良い。
【0027】
また、アルカリ溶液としては、たとえばNa、K、Li、Mg、Ca等の金属の水酸化物の水溶液を挙げることができる。このような金属は、1種単独で用いても良いし、2種以上のものを組み合わせて用いても良い。アルミニウム、アルミニウム合金、またはアルミニウム化合物の溶解は、アルミニウム、アルミニウム合金、またはアルミニウム化合物をアルカリ溶液に浸漬し攪拌することによって行なうことができる。
【0028】
そして、本発明の第2溶液は、Liの水酸化物(水酸化リチウム)、Naの水酸化物(水酸化ナトリウム)、およびKの水酸化物(水酸化カリウム)からなる群より選ばれる少なくとも1種の水酸化物を含む水溶液である該アルカリ溶液に、アルミニウムまたはアルミニウム合金を溶解することにより得られるものとすることが好ましい。安価なアルミニウム廃材やアルミニウム粗粉を利用することができ、それにより製造コストを削減できるためである。該アルカリ溶液は、pH値が12以上になるように調整することが好ましい。
【0029】
上記溶解は、アルミニウム、アルミニウム合金、またはアルミニウム化合物10質量部に対し、金属水酸化物を10〜500質量部、水を1000〜10000質量部用いて行なうことが好ましい。なお、反応温度は50〜100℃が好ましく、反応時間は30分〜5時間が好ましい。
【0030】
<第3溶液を準備する工程>
本工程は、弗化アンモニウムおよび酢酸を含有する第3溶液を準備する工程である。かかる第3溶液は、弗化アンモニウムおよび酢酸を水に溶解させた溶液であり、弗化アンモニウム10質量部に対し、酢酸を10〜200質量部、水を1000〜10000質量部とする配合が好ましい。なお、溶解させる温度は10〜60℃が好ましく、溶解時間は10分〜1時間が好ましい。
【0031】
<第4溶液を得る工程>
本工程は、上記第2溶液と上記第3溶液とを混合することにより第4溶液を得る工程である。このような第4溶液において、薄片状酸化アルミニウムを成長させる核が生成すると考えられる。両者の配合量は、上記第2溶液100質量部に対し、上記第3溶液を100〜500質量部混合することが好ましい。混合する条件としては特に限定はなく、20〜50℃程度の温度で混合すれば良い。また、混合時間は10分〜1時間が好ましい。
【0032】
<ゾルを得る工程>
本工程は、上記で得られた第4溶液に、上記第1溶液を添加することによりゾルを得る工程である。上記添加は、下記の添加時間となるように第1溶液を徐々に添加させることが好ましい。両者の配合量は、第4溶液100質量部に対し、第1溶液を5〜50質量部とすることが好ましく、特に添加後の溶液のpH値が9〜11となり、溶液が白濁するまで(すなわちゾルが生成するまで)添加することが好ましい。添加時間は10分〜120分が好ましい。温度は10〜80℃程度が好ましい。
【0033】
<固形物を分離する工程>
本工程は、上記ゾルから固形物を分離する工程である。分離は、遠心分離、濾過等の方法により行なうことができる。
【0034】
なお、上記のようにして分離された固形物に水を加え、再度遠心分離または濾過を行なうことにより、固形物中のアルカリ金属を除去することが好ましい。この操作を溶液のpH値が9以下になるまで、2〜10回繰返し、固形物中のアルカリ金属を除去することがより好ましい。
【0035】
また、所望によりアルカリ金属の除去工程を省略し、アルカリ金属を故意に残しても良い。アルカリ金属を故意に残すことにより、β−アルミナ構造を有する薄片状酸化アルミニウムを得ることができるようになる。
【0036】
<焼成物を得る工程>
本工程は、上記で得られた固形物を焼成することにより焼成物を得る工程である。
【0037】
まず、上記で分離された固形物を80〜100℃で乾燥した後、600〜1500℃、好ましくは800〜1300℃で焼成する。焼成温度が600℃よりも低い場合には薄片状酸化アルミニウムが得られ難く、1500℃より高い場合は生成物の凝集が生じたり、粒度が粗くなるという問題を生じる場合がある。なお、焼成時間は、0.5〜10時間である。
【0038】
なお、焼成雰囲気は空気中でも良いし、不活性雰囲気中でも良い。焼成装置としては、たとえばバッチ式高温炉、連続式高温炉、ロータリーキルン、マイクロ波加熱装置等を好適に使用することができる。
【0039】
<薄片状酸化アルミニウムを得る工程>
本工程は、上記焼成物を粉砕し、分級することにより薄片状酸化アルミニウムを得る工程である。上記で焼成された生成物(焼成物)は、凝集体を形成しているため、最終的に粉砕および分級することを要する。粉砕方法としては、ロールミル、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、超音波粉砕機等を好適に使用することにより実行することができる。分級方法としては、風力式分級機、篩い分け装置、遠心式湿式分級機等を好適に使用することにより実行することができる。
【0040】
<薄片状酸化アルミニウムおよび樹脂組成物>
本発明は、上記のようにして製造された薄片状酸化アルミニウムにも係わる。本発明の薄片状酸化アルミニウムの粒度としては、体積平均径で5〜30μm、最大粒径で100μm以下が好適である。また、厚みについては0.05〜2μm、より好ましくは0.1〜1μmである。本発明の薄片状酸化アルミニウムは、このように高いアスペクト比(粒度/厚み)を有することを特徴とする。
【0041】
なお、上記のような粒度および厚みは、上記の各工程の条件(特に各溶液の配合条件と焼成温度)によって調整することができる。たとえば、第4溶液に第1溶液を添加する速度、使用するアルミニウム合金の種類、第2溶液中のアルミニウムと水酸化物の比率、第3溶液中の弗化アンモニウムおよび酢酸の濃度等によって、薄片状酸化アルミニウムの厚みと粒径を調整することができる。
【0042】
このような薄片状酸化アルミニウムは、化粧品、塗料、インキ、樹脂成形品等において、効果顔料として好適に使用することができる。
【0043】
また本発明は、上記薄片状酸化アルミニウムを含有する樹脂組成物にも係わる。このような樹脂組成物としては、たとえば化粧料、塗料、インキ、樹脂成形品などが含まれる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
<実施例1>
(第1溶液を得る工程)
アルミニウム合金片(3000系合金であるA3003合金、厚み50μm、2mm角)3gに、ハロゲン化アルミニウムとして無水塩化アルミニウム20g、ヒドロキシ基を有する有機溶媒としてメタノール(水分量0.1質量%以下)250gを、還流管付き反応容器に挿入し、スターラーで攪拌しながら68℃で3時間還流加熱することにより、アルミニウム合金とメタノールとを接触させた。その結果、第1溶液として灰黒色の溶液が得られた。
【0046】
(第2溶液を得る工程)
アルミニウム合金片(上記と同じ)0.5gに水酸化ナトリウム20g、イオン交換水150gを加え、100℃で2時間攪拌することにより、アルミニウム合金をアルカリ溶液に溶解させた。その結果、第2溶液として透明の水溶液が得られた。
【0047】
(第3溶液を準備する工程)
300gの水に、酢酸10g、弗化アンモニウム1gを加え、20℃で攪拌することにより溶解させ、第3溶液を準備した。
【0048】
(第4溶液を得る工程)
上記で得られた第2溶液に、上記で得られた第3溶液を加えて、20℃で30分間両者を混合することにより第4溶液を得た。
【0049】
(ゾルを得る工程)
上記で得られた第4溶液に、上記で得られた第1溶液60gを、20℃で60分間かけて滴下し、添加した。その結果、溶液が白濁し、ゾルが得られた。溶液のpH値は10.0であった。
【0050】
(固形物を分離する工程)
上記で得られたゾル(白濁液)をガラス容器に入れて遠心分離機にかけ、固形分を沈殿させた後、上澄み液を除去した。続いて、沈殿物にイオン交換水500gを加え、軽く攪拌した後、再度遠心分離機にかけ、上澄み液を除去した。この操作をさらに2回繰返した後、沈殿物を回収することにより、アルカリが除去された固形物をゾルから分離することにより得た。この時の上澄み液のpH値は9.0であった。
【0051】
(焼成物を得る工程)
上記で得られた固形物(沈殿物)をシャーレに移し、100℃で7時間乾燥した。その後、その乾燥物をアルミナ容器に移し、バッチ式高温炉にて、1200℃で2時間焼成することにより焼成物を得た。この時の焼成雰囲気は空気中であった。
【0052】
(薄片状酸化アルミニウムを得る工程)
上記で得られた焼成物をジェットミルで粉砕した後、目開き45μmの篩にかけて分級し、篩を通過した粉末を回収することにより、薄片状酸化アルミニウムを得た。この薄片状酸化アルミニウムを走査電子顕微鏡で観察した結果、平均厚みは0.5μmであった。
【0053】
平均厚みの測定は、薄片状酸化アルミニウム20質量部と樹脂100質量部とを含む塗料(固形分50質量%)をPETフィルムに塗布し、塗膜を切り出した後、その断面をイオンビームで研磨し、研磨された断面を走査電子顕微鏡で観察することにより、薄片状酸化アルミニウム1000個の厚みを測定し、その平均値とした。なお、上記塗料を構成する樹脂と溶媒の種類は特に限定されない。
【0054】
また、この薄片状酸化アルミニウムを粉末X線回折装置で分析した結果、α−アルミナ単相であり、また、レーザー回折式粒度分布測定装置でこの粉末の粒度を測定した結果、中心径は10μmであり、最大粒径は55μmであった。
【0055】
<実施例2>
実施例1において、アルミニウム合金片をアルミニウム合金粉末(1000系合金であるA1100合金、平均粒径30μm)に変更し、ヒドロキシ基を有する有機溶媒としてメタノールに代えてエタノール250g(水分量0.1質量%以下)を用いることを除き、他は全て実施例1と同様にして薄片状酸化アルミニウムを得た。
【0056】
この薄片状酸化アルミニウムを実施例1と同様にして分析した結果、結晶相はα−アルミナ、中心径は15μm、最大粒径は71μm、厚みは0.7μmであった。
【0057】
<実施例3>
実施例1において、固形物を分離する工程における固液分離回数を4回から1回に減らすことを除き、他は全て実施例1と同様にして薄片状酸化アルミニウムを得た。
【0058】
この薄片状酸化アルミニウムを実施例1と同様にして分析した結果、結晶相はβ−アルミナ、中心径は12μm、最大粒径は65μm、厚みは0.2μmであった。
【0059】
上記の実施例1〜3で得られた薄片状酸化アルミニウムは、いずれも化粧料、塗料、インキ、樹脂成形品等の樹脂組成物において好適に使用することができた。
【0060】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0061】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金と、ヒドロキシ基を有する有機溶媒とを接触させることにより第1溶液を得る工程と、
アルミニウム、アルミニウム合金、またはアルミニウム化合物をアルカリ溶液に溶解することにより第2溶液を得る工程と、
弗化アンモニウムおよび酢酸を含有する第3溶液を準備する工程と、
前記第2溶液と前記第3溶液とを混合することにより第4溶液を得る工程と、
前記第4溶液に、前記第1溶液を添加することによりゾルを得る工程と、
前記ゾルから固形物を分離する工程と、
前記固形物を焼成することにより焼成物を得る工程と、
前記焼成物を粉砕し、分級することにより薄片状酸化アルミニウムを得る工程と、
を含む、薄片状酸化アルミニウムの製造方法。
【請求項2】
前記第2溶液は、Liの水酸化物、Naの水酸化物、およびKの水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の水酸化物を含む水溶液である前記アルカリ溶液に、アルミニウムまたはアルミニウム合金を溶解することにより得られる、請求項1記載の薄片状酸化アルミニウムの製造方法。
【請求項3】
前記第1溶液を得る工程は、ハロゲン化アルミニウムの存在下に行なわれる、請求項1または2記載の薄片状酸化アルミニウムの製造方法。
【請求項4】
前記固形物を焼成する温度は、800℃〜1300℃である、請求項1〜3のいずれかに記載の薄片状酸化アルミニウムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の薄片状酸化アルミニウムの製造方法により製造された薄片状酸化アルミニウム。
【請求項6】
請求項5記載の薄片状酸化アルミニウムを含有する、樹脂組成物。

【公開番号】特開2013−18662(P2013−18662A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150939(P2011−150939)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】