説明

薄片試料作製方法

【課題】気体イオンビーム装置とFIBとSEMを用いて、効率よくTEM試料作製ができる複合荷電粒子ビーム装置としての構成方法を提供する。
【解決手段】FIB鏡筒1と、SEM鏡筒2と、気体イオンビーム鏡筒3と、ユーセントリックチルト機構とユーセントリックチルト軸8と直交する回転軸10とを持つ回転試料ステージ9と、を含む複合荷電粒子ビーム装置であり、集束イオンビーム4と電子ビーム5と気体イオンビーム6とは、1点で交わり、かつFIB鏡筒1の軸とSEM鏡筒2の軸はそれぞれユーセントリックチルト軸8と直交し、かつFIB鏡筒1の軸と気体イオンビーム鏡筒3の軸とユーセントリックチルト軸8とは一つの平面内にあるように配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は複数の荷電粒子ビーム装置を結合した、複合荷電粒子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスのパターン微細化に伴い、その半導体デバイスの特定微少部を透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)によって観察し、評価する技術の重要性が高まっている。このような特定微少部となる薄片化試料を作製するには、集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)装置が広く用いられているが、要求される試料厚みが小さくなるにつれて、集束イオンビームによるダメージが問題となってきており、ダメージを除去するための方法が必要とされている。
【0003】
上述した状況における解決策として、例えば、アルゴンなどの化学的活性の低い元素をイオン種とするイオンビームを数キロボルト以下の低い加速電圧で照射する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
一方で、半導体の特定微少部を含むTEM試料を正確に作製するために、例えば特許文献2で開示されているようなFIBと走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を結合した装置も提案されている。これらの装置では作製される薄片化試料が観察したい特定部位を含むように注意深くSEMで観察しながらFIBを用いた微細加工をしている。
【0005】
また、これらのメリットを併せ持つことができるようにFIB、SEM及び気体イオンビームの3本のビームを併せ持つ装置も提案されている(非特許文献1)。このような3種類の荷電粒子ビーム装置を統合した複合荷電粒子ビーム装置においては、それぞれの荷電粒子ビーム装置の配置や試料ステージの自由度との関係が、それぞれの荷電粒子ビーム装置の特性を活かしながら効率的に作業できるような装置を設計する上で非常に重要な要素となる。それは、以下に述べるような理由による。
【0006】
第一に、一般にFIBはSEMおよび気体イオンビーム照射装置ではビームの集束に有利なように試料の近くに置くことが要求されるが、統合するビーム装置の数が増えるほど、全てを良い条件の場所に配置することが難しくなる。第二に半導体ウェーハ等の試料を傾斜させて観察、加工するために試料室内に試料を傾斜させるための空間の確保が必要であるため、荷電粒子ビーム装置を自由に配置できる空間が更に限定される。第三に、試料ステージについてであるが、スペース、精度、剛性、コストといった観点からステージの自由度は全ての荷電粒子ビームに対して十分な自由度を持たせることは難しい。そのため、ステージの自由度と荷電粒子ビーム装置の配置の関係により使い勝手が大きく左右される。
【0007】
以上述べたように、それぞれの荷電粒子ビーム装置の配置や試料ステージの自由度との関係が、それぞれの荷電粒子ビーム装置の特性を活かしながら効率的に作業できるような装置を設計する上で非常に重要な要素となってはいるが従来の開示に於いてはこれらの点について触れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−221227号公報
【特許文献2】特許第3041403号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】藤井利昭、試料作製時のダメージを抑制できるFIB装置「SMI3000シリーズ」,電子材料 2004年6月号 p36−38
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような事情に鑑み、アルゴンなどの不活性ガスイオンを低加速で照射することによるダメージ低減効果や、高性能FIBによる高精度な試料作製技術、および半導体微細パターンの特定部位を薄片化するための高性能SEMによる薄片化加工の終点観察などの機能を損なうことなく、効率よくTEM試料作製ができる複合荷電粒子ビーム装置としての構成方法を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の第1の形態は、少なくとも、集束イオンビーム装置と、走査電子顕微鏡と、気体イオンビーム装置と、試料ステージとを備えた複合荷電粒子ビーム装置であり、前記試料ステージは、少なくとも試料を同一高さで傾斜させるためのユーセントリックチルト機構と、前記ユーセントリックチルト機構の軸であるユーセントリックチルト軸と直交する回転軸とを有し、前記集束イオンビーム装置と前記走査電子顕微鏡と前記気体イオンビーム装置とは、前記集束イオンビーム装置から照射される集束イオンビームと、前記走査電子顕微鏡から照射される電子ビームと、前記気体イオンビーム装置から照射される気体イオンビームとが、1点と見なせる領域で交わるよう配置及び調整され、かつ前記集束イオンビーム装置の鏡筒の軸と前記電子顕微鏡の鏡筒の軸はそれぞれ前記ユーセントリックチルト軸と実質的に直交し、かつ前記集束イオンビームの鏡筒の軸と前記気体イオンビームの鏡筒の軸と前記ユーセントリックチルト軸とは一つの平面内にあると見なせるように配置されることを特徴とする、複合荷電粒子ビーム装置である。
【0012】
上記課題を解決する本発明の第1の形態による作用は、前記集束イオンビームと前記電子ビームと前記気体イオンビームが、1点と見なせる領域で交わるよう配置及び調整されることで、前記集束イオンビームと前記電子ビームと前記気体イオンビームを試料上の1点に照射することができる。また、前記集束イオンビームの鏡筒の軸と前記電子ビーム鏡筒の軸がそれぞれ前記ユーセントリックチルト軸と実質的に直交し、かつ前記集束イオンビーム鏡筒の軸と前記気体イオンビーム鏡筒の軸と前記ユーセントリックチルト軸とが実用上一つの平面内にあると見なせるように配置されることで、前記平面と平行な方向に前記集束イオンビームで加工した加工面に対して、試料を適当な角度だけ傾けることで前記気体イオンビームを浅い角度で前記加工面に照射することが可能であり、なおかつ前記走査型電子顕微鏡に対しては加工中の試料の表面を観察するのに十分な深い角度を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、FIB装置にて薄片化試料を作る際、試料表面がSEM側になるように薄片化加工を行うと、加工中にSEMで表面を観察するのにステージの移動なく作業することができる。この状態で薄片化が終了すると、気体イオンビームの軸は薄片化した試料の表面と平行な状態になっている。ダメージの少ない試料作製のためには気体イオンビームは、浅い角度で照射することが望ましいので、FIBによる薄片化が終了した段階で、気体イオンビームを照射するために、試料を適当な角度だけ傾けることで気体イオンビームによる仕上げ加工が可能となる。この際、気体イオンビームを薄片化試料表面に浅い角度で入射すると、薄片化試料表面はSEMに対しては比較的深い角度を保つことができるため、そのままの状態でも試料の状態を観察することが可能である。また、試料をSEMに正対した状態で観察する必要がある場合でも、少ないステージ移動で観察位置に試料を移動させることができる。このように、本発明によれば気体イオンを低加速で照射することによるダメージ低減効果や、高性能FIBによる高精度な試料作製技術、および半導体微細パターンの特定部位を薄片化するための高性能SEMによる薄片化加工の終点観察などの機能を損なうことなく、効率よくTEM試料作製ができる複合荷電粒子ビーム装置を構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態1に係る複合荷電粒子ビーム装置の概略図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る複合荷電粒子ビーム装置の試料と荷電粒子ビームの位置関係を表す概略図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る複合荷電粒子ビーム装置の試料と荷電粒子ビームの位置関係を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態について説明する。なお、本実施形態の説明は例示であり、本発明の構成は以下の説明に限定されない。
【0016】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る複合荷電粒子ビーム装置の概略を示す概略図である。本発明におい気体イオンビーム6としてどのイオンを用いるかは本質ではないが、本実施例においては、気体イオンビーム6としてアルゴンイオンビームを用いた。
【0017】
図に示したように、FIB鏡筒1とSEM鏡筒2および気体イオンビーム鏡筒3はそれらの軸が1点で交わるように設計され、実際のビームの交点も1点になるように調整する機構が備えられている。以降、この節ではFIB鏡筒1、SEM鏡筒2、気体イオンビーム鏡筒3、ユーセントリックチルト軸8および回転軸10との関係を表すために、前記ビーム交点を原点とする座標系を用いることとする。各軸の向きは、水平面からの角度(以降仰角と呼ぶ)と、軸を水平面に投影したときの水平面上での角度関係(以降方位角と呼ぶ)で表す。
【0018】
本実施例においては、FIB鏡筒1は水平面に対し垂直方向に取り付けられ、SEM鏡筒2と気体イオンビーム鏡筒3とは方位角の差が90度となるように配置する。この場合のSEM鏡筒2と気体イオンビーム鏡筒3の仰角は本発明を規定するものではないが、一例を挙げればSEM鏡筒2の仰角が35度、気体イオンビーム装置3の仰角が45度である。
【0019】
試料ステージは、直交3軸ステージ12と回転ステージ9とからなり、チルト機構の上に直交3軸ステージ12を介して回転ステージ9を配置した。チルト機構は、回転作用部7と、回転作用部7の回転に連動して動く試料ステージ台とからなる。このような構成とすることで、チルト機構の軸8とFIB鏡筒1とSEM鏡筒2と気体イオンビーム装置3の位置関係はステージの動作によらず不変であるため、チルト機構の軸そのものがユーセントリックチルト軸8となる。複数のビームが1点で公差する複合荷電粒子ビーム装置においては、ビームの交点をユーセントリックチルト軸8上設定することで、試料をビームの交点に持ってくることが容易になる。回転ステージ9の回転軸10は直交3軸ステージ12の動作により、必ずしも垂直に配置されたFIB鏡筒1の軸とは一致しないが、直交3軸ステージ12の動作を伴うことで、擬似的にFIB鏡筒1の軸上での回転が可能となる。この部分は本発明の本質には関係しないので、以降説明を簡単にするために、回転軸10はFIB鏡筒1の軸と一致しており、試料は回転軸上に配置されているものとして説明を行う。試料ステージ9のユーセントリックチルト軸8は気体イオンビーム装置3の軸の方位角と同じになるように構成する。言い換えれば、気体イオンビーム装置3の軸を水平面に投影した場合、ユーセントリックチルト軸8と一致する。
【0020】
図2は、FIB鏡筒1からのFIB4を用いて薄片化試料11を作製中の状態を表す概略図である。図に示したように薄片化試料の表面がSEM鏡筒2の正面になるようにすると、SEM鏡筒からの電子ビーム5が薄片化試料11に対して深い角度で当たるため薄片化の進行状況を詳細に観察することができる。FIB4による薄片化が終了すると、気体イオンビーム鏡筒3からの気体イオンビーム6を照射して仕上げ加工を行うため試料を回転させる。一般に気体イオンビームによる仕上げ加工は、浅い角度で試料表面に入射させた方が状態良く仕上げることができる。一方、入射角度が浅いほど試料表面の仕上げ加工は時間を要する。このため、試料作製にかけられる時間と求める質の関係で入射角度を決定する。多くの場合10度乃至20度の角度が用いられる。FIB4による薄片化加工が終了した状態では、気体イオンビーム6の入射角度は0度であるため、図3に示したように、薄片化試料11を回転させることで所望の入射角を得られるようにする。気体イオンビーム6の薄片化試料11への入射角は前述のように小さな角度であるため、電子ビーム5の薄片化試料11への入射角は図2の状態にくらべ大きく減ることは無く、試料ステージの移動を伴うことなく、気体イオンビーム6による薄片化試料11の仕上げ加工の進行状況を観察することができる。半導体デバイスなどの特定微少部を観察する必要のある試料などの場合、進行状況を見ながら徐々に仕上げ加工を進めることが多いため、SEM鏡筒2による観察は非常に重要な工程である。これらの工程が試料ステージの移動なしに繰り返すことが可能であることは、TEM試料作製において大きな作業効率の向上をもたらす。
【0021】
(他の実施形態)
上述した実施形態1ではFIB鏡筒1が水平面に対し垂直の配置であったが、これに特に限定されず、例えばSEM鏡筒2を垂直にして、FIB鏡筒1と気体イオンビーム鏡筒3の軸を含む平面をチルト軸8の周りに適当な角度傾けた配置としても、請求項1で示される要件を満たす。また、FIB鏡筒1あるいはSEM鏡筒2のどちらかの鏡筒が垂直である必要も同様にして無い。
【0022】
また、実施形態1では回転ステージ9を回転させることで気体イオンビーム6の入射角度を決定したが、同様にユーセントリックチルト機構を動作させて気体イオンビーム6の入射角度を決定することもできる。この場合でも、入射角度が小さい場合は電子ビーム5の薄片化試料11の表面に対する角度は、大きく減ることはないのでそのままの状態で観察することができる。
【符号の説明】
【0023】
1 FIB鏡筒
2 SEM鏡筒
3 気体イオンビーム鏡筒
4 集束イオンビーム
5 電子ビーム
6 気体イオンビーム
7 ユーセントリックチルト機構の回転作用部
8 ユーセントリックチルト軸
9 回転ステージ
10 回転軸
11 薄片化試料
12 直交3軸ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集束イオンビームと気体イオンビームにより薄片試料を作製する薄片試料作製方法において、
試料に前記集束イオンビームを照射し、前記薄片試料を作製する薄片化工程と、
前記薄片試料の表面に前記気体イオンビームを照射するために、前記薄片試料を載置する試料ステージを回転させる試料ステージ回転工程と、
前記表面に前記気体イオンビームを照射し、前記薄片試料の仕上げ加工を行う仕上げ加工工程と、からなる薄片試料作製方法。
【請求項2】
前記試料ステージ回転工程は、前記集束イオンビームの照射方向を中心として前記試料ステージを回転させる請求項1に記載の薄片試料作製方法。
【請求項3】
前記薄片化工程は、前記集束イオンビームの照射方向と前記気体イオンビームの照射方向とで形成される平面に対し略平行になるように前記表面を作製する請求項1または2に記載の薄片試料作製方法。
【請求項4】
前記試料ステージ回転工程は、前記集束イオンビームの照射方向と前記気体イオンビームの照射方向とで形成される平面と前記表面がなす角度が10度乃至20度になるように前記試料ステージを回転させる請求項1から3のいずれか一つに記載の薄片試料作製方法。
【請求項5】
前記仕上げ加工工程は、前記仕上げ加工中に前記薄片試料をSEM観察する請求項1から4のいずれか一つに記載の薄片試料作製方法。
【請求項6】
前記SEM観察は、前記気体イオンビームに対し、略垂直方向から電子ビームを照射する請求項5に記載の薄片試料作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−203266(P2011−203266A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119227(P2011−119227)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【分割の表示】特願2005−355734(P2005−355734)の分割
【原出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】