説明

薄畳の製造方法及びそれに用いる畳表の折り曲げ用刃物

【課題】
本発明は、畳の端部において畳表が膨らむことのない薄畳の製造方法及びそれに用いる畳表の折り曲げ用刃物を提供することを目的とする。
【解決手段】
端部を鋭角に裁断した畳床11に畳表12を被せて薄畳1を製造する方法において、畳床11よりも大きめに裁断した畳表12を畳床11に固定して畳表12の耳部121を形成し、該耳部121の付け根部分の畳表内側に折り曲げ溝122を畳床11に沿って形成し、耳部121を畳床11の側面に沿って折り曲げて、余った耳部121を畳床11の裏面に沿うように折り曲げて固定することを特徴とする薄畳の製造方法及びそれに適した折り曲げ用刃物により上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄畳の製造方法及びそれに用いる畳表の折り曲げ用刃物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示したように、畳床を裁断する際に畳床の表面に対して端部を鋭角に裁断する技術が知られている。
【0003】
特許文献1の図8に記載されているように、鋭角に裁断された畳床に畳表を被せてなる畳を、床に並べると、隣接する畳の間に空間が形成される。この空間は、畳表の藺草を折り曲げたときに生じる膨らみを収める空間として機能する。
【0004】
畳床を鋭角に裁断しておけば、畳表が多少膨らんだとしても、膨らみを上記の空間に収めることができるので、畳の側面において畳表が膨らむことに起因する寸法誤差のない畳として重宝されている。
【0005】
近年では、フローリングに並べて使用するパネル型薄畳が使用されている。パネル型薄畳を用いれば簡易に和室に模様変えすることができ、また軽量で取り扱いが容易であるため、多数の消費者の支持を得ているものと思われる。
【0006】
パネル型薄畳は、畳床の厚みが薄いため、畳表が畳床の側面から浮かないように畳床に被せることが困難であった。結果として、畳床の端部を鋭角に裁断したとしても、畳表を被せると畳の端部が膨らんでしまい、寸法に誤差が生じるという問題があった。
【0007】
特に特許文献2や特許文献3のような、畳表の折り曲げ機を用いて畳床に畳表を被せる場合に、膨らみを抑えることが難しく、上記の問題が顕著であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−166174号公報
【特許文献2】特開2011−12429号公報
【特許文献3】特開2007−2638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、畳の側面において畳表が膨らむことのない薄畳の製造方法及びそれに用いる畳表の折り曲げ用刃物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
側面を鋭角に裁断した畳床に畳表を被せて薄畳を製造する方法において、畳床よりも大きめに裁断した畳表を畳床に固定して畳表の耳部を形成し、該耳部の付け根部分の畳表内側に折り曲げ溝を畳床に沿って形成し、耳部を畳床の側面に沿って折り曲げて、余った耳部を畳床の裏面に沿うように折り曲げて固定することを特徴とする薄畳の製造方法により上記の課題を解決する。上記折り曲げ溝の幅は、畳表を構成する天然藺草や人工藺草の繊維の直径と同程度にすることが好ましい。より具体的には、上記折り曲げ溝の幅は、1.0〜5.0mmとすることが好ましく、より好ましくは2.0〜4.0mmである。溝部の幅がこれより小さいと、溝部の端部が緩衝して畳表が曲げにくくなる。一方、溝部の幅がこれより大きいと、後述のように何度も刃物を引かなければならなくなり、煩雑である。溝部の深さは過度に溝が深くなると、畳表が脆化したり、畳を使用している際に切断された藺草繊維が抜け落ちたりするので藺草繊維の直径の1/2〜3/4の深さにすることが好ましい。
【0011】
上述の折り曲げ溝は、刀身と、刀身に配される溝切歯と、刀身が取り付けられるグリップ部とからなる畳表の折り曲げ用刃物により容易に形成することができる。溝切歯はその幅が細過ぎると、刃物を引いた際に意図せず畳表を切断することがあるのである程度の幅を持たせて切れ味を鈍くする必要がある。一方、刃の幅が大きすぎると切れ味が鈍くなり、溝部を形成するために何度も刃物を引くことになる。したがって、溝切歯の幅Wは上記と同様に畳表を構成する天然藺草や人工藺草の繊維の直径と同程度にすることが好ましい。より具体的には、幅1.0〜5.0mmとすることが好ましく、より好ましくは2.0〜4.0mmとする。
【0012】
上記の溝切歯は、刀身が切っ先に向けて湾曲する部分に設けることが好ましい。このように構成すれば、畳表の折り曲げ用刃物に力を加えやすくなり、1〜2回引くだけで、畳表を切断することなく折り曲げ溝を容易に形成することができる。
【0013】
上記の溝切歯は、個々の刃先が2つの端部を有する形状とすることが好ましい。建築用の工具として一般的に使用される溝切歯は、刃先が1つの端部を有する形状、つまり三角形状であるが、畳表の溝部の形成に使用すると切れ味が良すぎて、畳表を意図せず切断することがある。したがって、個々の刃先は、端部を2つ有する四角形等の形状として、切れ味をある程度鈍くすることが好ましい。
【0014】
畳床と畳表を固定する方法は特に限定されないが、公知のホットメルト接着剤を畳床及び畳表に塗布し、それを熱プレスして固定すると簡便である。熱プレスする際に、畳床の裏面に熱可塑性樹脂の発泡樹脂シートをあてて熱プレスを行えば、クッション性に富む薄畳を簡便に製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
畳表の耳部の付根部分(畳床の端部と畳表の耳部の境目)に沿って、上記の畳表の折り曲げ用刃物を引いて、畳表の内側(畳床が当接する面)に折り曲げ溝を形成することで、畳表を畳床に沿って容易に折り曲げることが可能となる。畳表の折り曲げ用刃物を畳表の付け根部分に沿って引くだけであるので、既存の畳表の折り曲げ機の工程に組み込むことができ、機械による折り曲げにおいても畳表が畳の端部において膨らむことがない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】畳床を畳表に固定した状態を示した斜視図である。折り曲げ溝を形成する箇所を破線で示した。
【図2】畳表の耳部を畳床の裏面に沿って折り曲げて固定した状態の畳を示す斜視図である。
【図3】図2のA−A箇所における断面図である。
【図4】側面を鋭角に裁断した畳同士を隣接させた状態の断面図である。
【図5】折り曲げ溝を形成するための折り曲げ用刃物の側面図である。
【図6】図5の折り曲げ用刃物の先端部分の拡大図である。
【図7】折り曲げ用刃物の別の実施例を示した側面図である。
【図8】図7の折り曲げ用刃物の先端部分の拡大図である。
【図9】図5の折り曲げ用刃物を下方から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【0018】
本発明は、側面を鋭角に裁断した畳床11に畳表12を被せて薄畳1を製造する方法において、畳床11よりも大きめに裁断した畳表12を畳床11に固定して畳表12の耳部121を形成し、該耳部121の付け根部分の畳表内側に折り曲げ溝122を畳床11に沿って形成し、耳部121を畳床11の側面に沿って折り曲げて、余った耳部121を畳床11の裏面に沿うように折り曲げて固定することを特徴とする薄畳1の製造方法である。
【0019】
上述のように、畳床11を鋭角に裁断しておけば、図4に示したように薄畳1を隣接させた際に、畳と畳の間に隙間が形成される。このように畳床11を鋭角に裁断しておけば、畳表12が多少膨らんだとしても、膨らみを上記の空間に収めることができるので、畳の側面において畳表12が膨らむことに起因する寸法誤差を吸収することができる。しかし、薄畳1の場合は畳床11の厚みが薄いため、畳表12が畳床の側面において膨らみやすく、畳床11の側面を鋭角に裁断した意義が失われるという問題がった。そこで、本発明では畳表12を畳床11に対して固定した状態で、畳表12の耳部121の付け根部分に折り曲げ溝122を畳床11に沿って形成したのである。
【0020】
折り曲げ溝122は、図5又は図7に示した刀身21と、刀身21に配される溝切歯22,24と、刀身21を取り付けるグリップ部23とからなる畳表12の折り曲げ用刃物2により形成する。
【0021】
上述のように、刃物2の切れ味が良すぎると、畳表12を意図せず切断することがある。したがって、個々の刃先は、図6及び図8に示したように端部を2つ有する四角形等の形状として、切れ味をある程度鈍くすることが好ましい。図6は刃先に方形の切り欠きを一定のピッチで連続して設けてなるラック(棒歯車)状の溝切歯22である。図8は半円形の切り欠きを一定のピッチで連続して設けてなるラック(棒歯車)状の溝切歯24である。
【0022】
溝切歯22,24はいずれも刀身21が切っ先に向けて湾曲する部分に設けられているため、刃物2に軽く力を掛けるだけで容易に折り曲げ溝122を形成することができる。
【0023】
上述のように、刀身21に配される溝切歯22,24の幅Wは、畳表12を構成する藺草繊維の直径と同程度とすることが好ましい。幅Wをそのように設定することで、畳表12の折り曲げに適した折り曲げ溝122を簡便に形成することができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例によりさらに具体的に本発明を説明する。
【0025】
[実施例1]
50cm×50cmの厚み6mmのハードボード(畳床)に、市販のホットメルト接着剤をスプレーで塗布した。その上に直径3.0mmの天然藺草(七島草)で編み上げた70cm×70cmの畳表を被せて、59℃で熱プレスして、畳床と畳表を固定した(以下、畳と称する)。図1に示したように、畳表の四つ角を切り落として、折り畳みやすいようにした。畳床の端部の裁断角度は82°とした。
【0026】
前記の畳を、特開2011−12429号の図8に記載した縁なし畳の折り曲げ機にセットした。この畳の折り曲げ機は、畳を載置するテーブルと、畳を位置固定するための畳押えと、テーブルから突出する畳表の耳部を畳床の側面に沿うように折り曲げる旋回折り曲げ部材と、畳床から突出する耳部を畳床の裏面に沿うように折り曲げる折り曲げ板と、畳床をテーブルに固定するとともに畳床の裏面に沿うように折り曲げられた畳表を上からプレスする畳床端押えと、を備えている。前記テーブルに畳表が下となるように畳を配置し、畳押え及び畳床端押えで位置固定した。この状態で、畳表の耳部の付け根部分の畳表内側に折り曲げ溝を形成した。
【0027】
折り曲げ溝の形成は、図5及び図6に示した折り曲げ用刃物を耳部の付け根部分に沿って2回引いて形成した。溝切歯の幅Wは3.0mmのものを使用した。刃先の方形の切り欠きは約2mm四方とし、それを2ミリ間隔で連設したものである。折り曲げ溝の深さは2.0mm、幅は3.0mmであった。
【0028】
前記装置の旋回折り曲げ部材を稼働させて、折り曲げ溝を形成した畳表を畳床の側面に沿うように畳表を折り曲げた。次いで、畳床端押えを上昇させて、畳床の裏面の接着部123(図1参照)に市販のホットメルト接着剤を塗布し、前記折り曲げ板を前進させて畳表を畳床の裏面に沿うように折り曲げたあと、上部から畳床端押えでプレスし、図2のような薄畳とした。
【0029】
薄畳の端部を目視で確認したところ、薄畳の端部に畳表の浮きがみられず鋭角の状態が保たれていた。薄畳の端部の角度を測定したところ、畳床の裁断角度とほぼ同じの83°であった。この薄畳をフローリングの一室に敷き詰めたところ、畳表の浮きに起因する寸法誤差が生ずることなく、薄畳を床一面に敷き詰めることができた。畳表の藺草繊維を傷つけたことに起因する藺草繊維の脱落も見られなかった。
【0030】
[実施例2]
畳表を直径2.0mmの人工藺草からなる畳表(大建工業株式会社、清流ちゅら)に変更し、折り曲げ用刃物を図7及び図8に示したものに変更し、溝切歯の幅Wを2.0mmに変更した以外は、実施例1と同様の構成及び方法で畳表を折り曲げて薄畳を製造した。刃先の円形の切り欠きは半径約2mmの半円とし、それを2ミリ間隔で連設した。折り曲げ溝の深さは1.2mm、幅は2.0mmであった。
【0031】
薄畳の端部を目視で確認したところ、薄畳の端部に畳表の浮きがみられず鋭角の状態が保たれていた。薄畳の端部の角度を測定したところ、畳床の裁断角度とほぼ同じの83°であった。この薄畳をフローリングの一室に敷き詰めたところ、畳表の浮きに起因する寸法誤差が生ずることなく、薄畳を床一面に敷き詰めることができた。畳表の藺草繊維を傷つけたことに起因する藺草繊維の脱落も見られなかった。
【符号の説明】
【0032】
1 薄畳
11 畳床
12 畳表
121 耳部
122 折り曲げ溝
2 折り曲げ用刃物
21 刀身
22 溝切歯
23 グリップ部
24 溝切歯



【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面を鋭角に裁断した畳床に畳表を被せて薄畳を製造する方法において、
畳床よりも大きめに裁断した畳表を畳床に固定して畳表の耳部を形成し、該耳部の付け根部分の畳表内側に折り曲げ溝を畳床に沿って形成し、耳部を畳床の側面に沿って折り曲げて、余った耳部を畳床の裏面に沿うように折り曲げて固定することを特徴とする薄畳の製造方法。
【請求項2】
折り曲げ溝は、溝の幅を畳表を構成する藺草繊維の直径とした請求項1に記載の薄畳の製造方法。
【請求項3】
折り曲げ溝は、溝の深さを畳表を構成する藺草繊維の直径の1/2〜3/4の深さとした請求項1又は2の何れかに記載の薄畳の製造方法。
【請求項4】
畳床よりも大きめに裁断した畳表を畳床に固定して畳表の耳部を形成し、該耳部の付け根部分の畳表内側に折り曲げ溝を畳床に沿って形成するための刃物であって、
刀身と、刀身に配される溝切歯と、刀身を取り付けるグリップ部とからなる畳表の折り曲げ用刃物。
【請求項5】
刀身に配される溝切歯は、幅を畳表を構成する藺草繊維の直径とした請求項4に記載の畳表の折り曲げ用刃物。
【請求項6】
溝切歯は、刀身が切っ先に向けて湾曲する部分に設けられる請求項4又は5のいずれかに記載の畳表の折り曲げ用刃物。
【請求項7】
溝切歯を形成する個々の刃先は2つの端部を有するものである請求項4〜6のいずれかに記載の畳表の折り曲げ用刃物。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−7163(P2013−7163A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138606(P2011−138606)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(599095953)株式会社カネハ (4)
【Fターム(参考)】