説明

薄肉の中間成形品の製造方法

【課題】PPSの結晶化度を低く抑えることで二次加工が容易になり、製造効率を高めることで、二酸化炭素の排出量の減少ができる、好適な薄肉の中間成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】非晶状態のポリフェニレンスルフィド(PPS)を含む樹脂組成物からなるシートを得る工程、前記シートをPPSのガラス転移温度(Tg)+20℃以上の温度から、冷結晶化温度(Tcc)+10℃以下の温度に予熱する工程、予熱したシートを10〜150℃に設定した金型内に入れて熱成形した後、さらに前記温度範囲で保持してPPSの結晶化度が20%以下である薄肉成形品を得る工程、有している薄肉の中間成形品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンスルフィド(PPS)の性質を利用した各種製品の製造中間体として好適な薄肉の中間成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PPS及び無機充填剤を含む樹脂組成物は、成形物が優れた機械的性質、耐熱性、耐薬品性、電気特性を有するため、自動車、電気・電子部品、化学機器等の部品材料として汎用されている。
【0003】
PPSからなる成形品では、PPSの結晶化度が高いと二次加工が困難になるため、二次加工するときは、溶融させることで結晶化度を下げる必要がある。そうすると、工数も増加し、消費エネルギーも増加するため、製造効率が低下してしまい、二酸化炭素の排出量の増加にもつながる。
【0004】
特許文献1、2では、高い結晶化度のPPSからなる樹脂成形品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−38485号公報
【特許文献2】特開平5−269830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、PPSの結晶化度を低く抑えることで、最終製品を得るための二次加工が容易になり、製造効率を高めることで、二酸化炭素の排出量の減少ができる、PPSの性質を利用した各種製品の製造中間体として好適な薄肉の中間成形品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願請求項1の発明は、課題の解決手段として、
非晶状態のポリフェニレンスルフィド(PPS)を含む樹脂組成物からなるシートを得る工程、
前記シートをPPSのガラス転移温度(Tg)+20℃以上の温度から、冷結晶化温度(Tcc)+10℃以下の温度に予熱する工程、
予熱したシートを10〜150℃に設定した金型内に入れて熱成形した後、さらに前記温度範囲で保持してPPSの結晶化度が20%以下である薄肉成形品を得る工程、
を有している薄肉の中間成形品の製造方法を提供する。
【0008】
本願請求項2の発明は、課題の他の解決手段として、
結晶状態のポリフェニレンスルフィド(PPS)を含む樹脂組成物からなるシートを得る工程、
前記シートをPPSの融点(Tm)−40℃以上から融点(Tm)−20℃までの温度で予熱する工程、
予熱したシートを10〜150℃に設定した金型内に入れて熱成形した後、さらに前記温度範囲で保持してPPSの結晶化度が20%以下である薄肉の中間成形品を得る工程、
を有している薄肉の中間成形品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法により得られる薄肉の中間成形品は、結晶化度が20%以下であることから二次加工が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1)第1の製造方法
最初の工程にて、非晶状態のポリフェニレンスルフィド(PPS)を含む樹脂組成物からなるシートを得る。
【0011】
この工程は、例えば押出機とTダイを組み合わせた公知の方法(例えば特許文献2の実施例に記載の方法)を適用してシートを得ることができる。
【0012】
本発明で用いる樹脂組成物に含まれるPPSは、ホモポリマーでもよいし、コポリマーでもよい。ホモポリマーの場合は線状ポリマーが好ましい。
【0013】
コポリマーは、p−フェニレン基を含む構成単位と、他のアリーレン基(好ましくはm−フェニレン基)を含む構成単位のコポリマーを挙げることができるが、成形性、耐熱性、機械的特性の点から、p−フェニレン基を含む構成単位の比率が60モル%以上のものが好ましく、70モル%以上のものがより好ましい。コポリマーは、ランダム結合でも、ブロック結合でもよいが、ブロック結合のものの方が、耐熱性、機械的特性の点から好ましい。
【0014】
PPS(ホモポリマー又はコポリマー)は、溶融粘度(測定条件:温度310℃,剪断速度1200s-1)が350〜1000Pa・sであり、好ましくは450〜600Pa・sである。
【0015】
本発明で用いる樹脂組成物には、必要に応じて、本発明の課題を解決できる範囲の量及び種類の熱可塑性を配合することができる。
このような熱可塑性樹脂はPPSよりも融点が低いものが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン又はこれらの変性重合体等のポリオレフィンを主体とするオレフィン系重合体又は共重合体;ナイロン6、ナイロン66、その他のポリアミド系重合体又は共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等を主体とするポリエステル重合体又は共重合体;液晶性ポリエステル重合体;ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ABS等のスチレン系重合体;ポリアルキルアクリレート等のアクリル系重合体;ポリカーボネート、ポリフェニレンオキサイド、ポリアセタール等を挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂は、2種以上を使用することができる。
【0016】
本発明で用いる樹脂組成物には、薄肉成形品に要求される性質等に応じて、粒状、繊維状又はフレーク状(板状)充填材から選ばれる1種又は2種以上を配合することができる。
【0017】
繊維状充填材としては、ガラス繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニウム繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維のほか、ステンレス、アルミニウム、チタン、銅、黄銅等の繊維を挙げることができ、これらの中でも、ガラス繊維、カーボン繊維が好ましい。
【0018】
繊維状充填材は、平均繊維長が1〜800μmのものが好ましく、より好ましくは5〜600μmのものである。前記範囲のものを用いると、薄肉成形品の寸法安定性が良くなり、外観も良くなる。平均繊維長さは、計数法(走査型電子顕微鏡で観察し、充填材の大きさを測定する方法)によって求める。
【0019】
粒状充填材としては、カーボンブラック、黒鉛、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、ウォラストナイトのような珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、アルミナのような金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムのような金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムのような金属の硫酸塩、その他、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素、各種金属粉末等を挙げることができる。
【0020】
粒状充填材は、平均粒径が1〜800μmのものが好ましく、より好ましくは5〜600μmのものである。前記範囲のものを用いると、薄肉成形品の寸法安定性が良くなり、外観も良くなる。平均粒径は、計数法(走査型電子顕微鏡で観察し、充填材の大きさを測定する方法)によって求める。
【0021】
フレーク状充填材としては、マイカ、ガラスフレーク、各種金属箔等を挙げることができる。
【0022】
フレーク状充填材は、平均最大長さが1〜800μmのものが好ましく、より好ましくは5〜600μmのものである。前記範囲のものを用いると、薄肉成形品の寸法安定性が良くなり、外観も良くなる。平均最大長さは、計数法(走査型電子顕微鏡で観察し、充填材の大きさを測定する方法)によって求める。
【0023】
これらの充填材は、必要に応じて、次亜燐酸又はその塩を表面に付着させたものを用いてもよく、収束剤を用いて収束したものを用いてもよく、表面処理剤(エポキシ系化合物、イソシアナート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物)を用いて表面処理したものを用いてもよい。
【0024】
これらの充填材の配合量は、PPS100質量部に対して1〜200質量部が好ましく、5〜100質量部がより好ましく、10〜50質量部が更に好ましい。
【0025】
また、上記充填材とは別に、必要に応じて有機質充填材を補助的に配合することができる。有機質充填材としては、フッ素樹脂、芳香族ポリアミド等の高融点の繊維状又は粉粒状の重合体を用いることができる。
【0026】
また樹脂組成物には、最終製品の用途に応じて、各種添加剤、例えば、顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、難燃剤、離型剤、その他の公知の添加剤を配合することができる。
【0027】
次の工程にて、前工程で得られたシートをPPSのガラス転移温度(Tg)+20℃以上の温度から、冷結晶化温度(Tcc)+10℃以下の温度に予熱する。
【0028】
この予熱は、次工程で使用する成形機(真空成形機又は圧空成形機等)により行うことができる。
予熱温度は、Tg+25℃からTcc+5℃以下の温度範囲が好ましい。予熱時間は、シートが上記温度範囲になるまでの時間である。
【0029】
予熱温度が前記下限値以上であると、寸法精度良く中間成形品を得ることができ、予熱温度が前記上限値以下であると、成形時のドローダウンが防止できる。
【0030】
次の工程にて、予熱したシートを10〜150℃に設定した金型内に入れて熱成形した後、さらに前記温度範囲で保持してPPSの結晶化度が20%以下である薄肉の中間成形品を得る。前記温度範囲は30〜80℃が好ましい。
【0031】
金型温度が前記下限値以上であると、寸法精度良く薄肉の中間形品を得ることができ、金型温度が前記上限値以下であると、PPSが結晶化度20%以下に結晶化される。
【0032】
薄肉の中間成形品の結晶化度は、20%以下であり、0%(非晶状態)でもよい。
【0033】
薄肉の中間成形品の厚みは、二次加工品の形態に応じて適宜決定することができる。
【0034】
中間成形品の形状は、目的とする二次加工に対応した形状にすることができる。例えば、底の浅いトレー、前記トレーの開口部にフランジ(鍔)が付いたもの、円筒、深絞り成形品(絞り比が1以上)にすることができる。
【0035】
(2)第2の製造方法
最初の工程にて、結晶状態のポリフェニレンスルフィド(PPS)を含む樹脂組成物からなるシートを得る。
この工程では、第1の製造方法と同じ方法によりシートを得た後、PPSの結晶化温度範囲内で保持して結晶状態にする。
【0036】
次の工程にて、前工程で得られたシートをPPSの融点(Tm)−40℃以上から融点(Tm)−20℃までの温度で予熱する。
【0037】
この予熱は、次工程で使用する成形機(真空成形機又は圧空成形機等)により行うことができる。予熱時間は、シートが上記温度範囲になるまでの時間である。
【0038】
予熱温度が前記下限値以上であると、寸法精度良く中間成形品を得ることができ、予熱温度が前記上限値以下であると、成形時のドローダウンが防止できる。
【0039】
次の工程にて、予熱したシートを10〜150℃に設定した金型内に入れて熱成形した後、さらに前記温度範囲で保持してPPSの結晶化度が20%以下である薄肉の中間成形品を得る。前記温度範囲は30〜80℃が好ましい。
【0040】
金型温度が前記下限値以上であると、寸法精度良く薄肉の中間形品を得ることができ、金型温度が前記上限値以下であると、PPSが結晶化度20%以下に結晶化される。
【0041】
薄肉の中間成形品の結晶化度は、20%以下であり、0%(非晶状態)でもよい。
【0042】
第2の製造方法で得られた薄肉の中間成形品の結晶化度、厚さ、形状は、第1の製造方法で得られたものと同じである。
【0043】
本発明の製造方法により得られる中間成形品は、PPS、繊維強化PPSもしくは他の樹脂又はそれらの成形体と一体化することにより、新たな用途の部材として使用するためのものである。前記一体化方法としては、金型内で溶融樹脂と接着させる方法、熱板溶着工法、超音波溶着工法、レーザー溶着工法、振動溶着工法、スピン溶着工法、熱線溶着工法、高周波誘電過熱溶着工法等が挙げられる。
【実施例】
【0044】
(1)温度測定
JIS K−7121に準じた。PPSのガラス転移温度(Tg)、冷結晶化温度(Tcc)、融点(Tm)は、示差走査熱量測定計(DSC)を用い、20℃/分の速度で昇温したときの熱量曲線の変曲点又は発熱ピークから求めた。
【0045】
(2)成形性
真空成形時の成形性を下記の基準で評価した。
○:良好である(ドローダウンもなく、金型に対応した形状の成形品が得られた)。
△:成形品の形状が甘い(金型に対応した形状の成形品が得られない)か、或いは成形品が変形した。
×:ドローダウンが大きいか、或いはドローダウンが大きく、かつ成形品の形状も甘い(金型に対応した形状の成形品が得られない)。
【0046】
(3)結晶化度
比重法により算出した。
【0047】
(4)接着性(他の樹脂との接着性)
縦10cm、横10cm、厚み3mmのPPS板を300℃に加熱し、溶融させた後に、成形品を載せ、更に100gの錘を置き、23℃の下で冷却固化させ、PPS樹脂と成形品の接着強度を測定した。
◎:50N以上
○:20N以上、50N未満
△:5N以上、20N未満
×:5N未満
【0048】
(5)寸法精度
底面から7mmの深さ位置で4つの側面において各1点(計4点)の厚みを計測し、平均厚み(t1)を求めた。
同様に底面から15mmの深さ位置で4つの側面において各1点(計4点)の厚みを計測し、平均厚み(t2)を求めた。
t1/t2を算出して、その比が1.0に近いほど、寸法精度が良いことを意味する。
なお、成形品の寸法は、マイクロメータを用いて測定した。
【0049】
実施例1、2及び比較例1〜3
(シートの成形工程)
池貝社製のVS40-25押出機(スクリュー径40mm)にコートハンガーダイ(Tダイ:リップ300mm幅)を取り付けたものを用い、表1に示す(Tg、Tcc、Tm)のPPS(ポリプラスチックス(株)製)を溶融押出した。
押出後、外径200mmの冷却ロール(ロール温度50℃)にて冷却して、厚み0.8mmの非晶状態のシートを得た。結晶化度は1.7%であった。
【0050】
(予熱工程)
圧空真空成形機(FK−0431−10(株)浅野研究所製)内にて、シート(250mm×250mm)が表1に示す温度になるまで予熱した。
【0051】
(成形工程)
真空成形用の金型として下記のものを用い、表1に示す金型温度及び保持時間で真空成形した。
【0052】
金型:テーパー付き長方形開口トレイ
深さ:2cm
開口部:長さ7.1cm、幅5.4cm
底部:長さ6.75cm、幅5.05cm
【0053】
実施例3及び比較例4〜6
(シートの成形工程)
冷却ロール温度を150℃とした以外、実施例1、2と同様にして0.8mmの結晶状態のシートにした。PPSはポリプラスチックス(株)の製品を用いた。結晶化度は、25.5%であった。
【0054】
(予熱工程)
圧空真空成形機(FK−0431−10,(株)浅野研究所製)内にて、シート(250mm×250mm)が表1に示す温度になるまで予熱した。
【0055】
(成形工程)
予熱したシートを用い、実施例1、2と同様にして真空成形して、中間成形品を得た。
【0056】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶状態のポリフェニレンスルフィド(PPS)を含む樹脂組成物からなるシートを得る工程、
前記シートをPPSのガラス転移温度(Tg)+20℃以上の温度から、冷結晶化温度(Tcc)+10℃以下の温度に予熱する工程、
予熱したシートを10〜150℃に設定した金型内に入れて熱成形した後、さらに前記温度範囲で保持してPPSの結晶化度が20%以下である薄肉成形品を得る工程、
を有している薄肉の中間成形品の製造方法。
【請求項2】
結晶状態のポリフェニレンスルフィド(PPS)を含む樹脂組成物からなるシートを得る工程、
前記シートをPPSの融点(Tm)−40℃以上から融点(Tm)−20℃までの温度で予熱する工程、
予熱したシートを10〜150℃に設定した金型内に入れて熱成形した後、さらに前記温度範囲で保持してPPSの結晶化度が20%以下である薄肉の中間成形品を得る工程、
を有している薄肉の中間成形品の製造方法。

【公開番号】特開2012−30471(P2012−30471A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171724(P2010−171724)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(501073426)ダイセルパックシステムズ株式会社 (20)
【Fターム(参考)】