説明

薄肉耐摩耗電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物、および、薄肉耐摩耗電線

【課題】薄い被覆層であっても、耐摩耗性、耐寒性、および、耐熱性の全てを満足させることができる薄肉耐摩耗電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリ塩化ビニル100重量部に対して、可塑剤として、下記化学式(1)中R1、R2、および、R3で示される基の50%以上が、炭素数が8以上の直鎖状アルキル基であるトリメリテート系可塑剤と、下記化学式(2)中R4、および、R5で示される基の50%以上が、炭素数が10以上の直鎖状アルキル基であるフタレート系可塑剤とが、計20重量部以上40重量部以下配合されており、かつ、前記トリメリテート系可塑剤の配合量が、前記フタレート系可塑剤の配合量の50%以上95%以下である薄肉耐摩耗電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄肉耐摩耗電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物、および、そのような樹脂組成物から構成された絶縁層を有する薄肉耐摩耗電線に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用低圧電線に関する国際規格であるISO6722には被覆層の厚さが0.2mmの電線について記載がある。このような厚さの被覆層において、用いる塩化ビニル樹脂組成物の硬度を高めることで耐摩耗性を向上させることができるが、このとき、耐寒性が悪化する。耐寒性を向上させるために、耐寒性を有する可塑剤(フタル酸ジイソデシル(DIDP)、セバシン酸ジ2-エチルヘキシル(DOS)、アゼライン酸ジ2-エチルヘキシル(DOZ)等)の使用による解決が考えられるが、これら耐寒性を有する可塑剤を使用すると、耐熱性が極端に低下してしまう。
【0003】
ここで、特開平11−176240号公報(特許文献1)記載の技術では可塑剤として直鎖率の高いトリメリテートを用いることにより、上述のような薄肉被覆層であっても105℃までの耐熱性を有する組成物を得ているが、この技術では、耐寒性が低下するという問題点を有している。
【0004】
また、特開平9−82141号公報(特許文献2)記載の技術では、ウィスカー状の充填剤を使用することにより、0.2mm厚の被覆層であっても高い耐摩耗性を得ることに成功しているが、やはり耐寒性が低下するという問題点を有している。
【0005】
このように、薄い被覆層であっても、耐摩耗性、耐寒性、および、耐熱性の全てを満足させることができる薄肉耐摩耗電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−176240号公報
【特許文献2】特開平9−82141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、薄い被覆層であっても、耐摩耗性、耐寒性、および、耐熱性の全てを満足させることができる薄肉耐摩耗電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物、および、そのような組成物から構成された被覆層を備えた薄肉耐摩耗電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の薄肉耐摩耗電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物は上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、ポリ塩化ビニル100重量部に対して、可塑剤として、下記化学式(1)中R1、R2、および、R3で示される基の50%以上が、炭素数が8以上の直鎖状アルキル基であるトリメリテート系可塑剤と、下記化学式(2)中R4、および、R5で示される基の50%以上が、炭素数が10以上の直鎖状アルキル基であるフタレート系可塑剤とが、計20重量部以上40重量部以下配合されており、かつ、前記トリメリテート系可塑剤の配合量が、前記フタレート系可塑剤の配合量の50%以上95%以下であることを特徴とする薄肉耐摩耗電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物である。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
また、本発明の薄肉耐摩耗電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物は、請求項2に記載の通り、請求項1に記載の薄肉耐摩耗電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物において、前記トリメリテート系可塑剤の配合量が、前記フタレート系可塑剤の配合量の90%以上95%以下であり、前記化学式(1)中R1、R2、および、R3で示される基の80%以上が、直鎖状アルキル基であり、かつ、前記化学式(2)中R4、および、R5で示される基の80%以上が、炭素数が10以上の直鎖状アルキル基であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の薄肉耐摩耗電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物は、請求項3に記載の通り、請求項1または請求項2に記載の薄肉耐摩耗電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物において、前記ポリ塩化ビニルの重合度が1000以上2500以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の薄肉耐摩耗電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物によれば、薄い被覆層であっても、自動車用薄肉電線として求められる耐摩耗性、耐寒性、および、耐熱性の全てを満足させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は実施例で作製した本発明に係る薄肉体摩耗性電線のモデル断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の薄肉耐摩耗電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物は、ポリ塩化ビニル100重量部をベース樹脂として含有する。
【0016】
ポリ塩化ビニルの重合度としては、1000以上2500以下であることが好ましい。1000未満であると耐熱性が悪くなりやすく、2500超であると電線の被覆層形成時の押出し成形性が低下する。
【0017】
上記ベース樹脂100重量部に対して、後述するトリメリテート系可塑剤とフタレート系可塑剤との2種類を必須の可塑剤として、計20重量部以上40重量部以下含有する。
【0018】
本発明で必須のトリメリテート系可塑剤としては、化学式(1)中R1、R2、および、R3で示される基の50%以上が、炭素数が平均8以上の直鎖状アルキル基であるトリメリテート系可塑剤である。このとき炭素数の上限は平均が13であり,この値を超えると耐寒性が低下しやすくなる。
【0019】
【化3】

【0020】
この条件が満たされない、すなわち、例えば、R1、R2、および、R3で示される基の50%以上が、炭素数が平均7以下の直鎖状アルキル基であると耐熱性が低下して実用的ではなくなり、また、R1、R2、および、R3で示される基の50%以上が分岐のあるアルキル基である場合には耐寒性が低下して実用的ではなくなる。
【0021】
また、本発明で必須のフタレート系可塑剤としては、下記化学式(2)中R4、および、R5で示される基の50%以上が、炭素数が平均10以上の直鎖状アルキル基であるフタレート系可塑剤である。このとき炭素数の上限は平均13である。
【0022】
【化4】

【0023】
この条件が満たされない、すなわち、例えば、R4、および、R5で示される基の50%以上が、炭素数が10以下の直鎖状アルキル基が50%以上であると耐熱性が低下し、また、R4、および、R5で示される基の50%以上が分岐のあるアルキル基である場合には耐寒性が低下する。
となる。
【0024】
これら2つの必須の可塑剤は、トリメリテート系可塑剤の配合量が、フタレート系可塑剤の配合量の50%以上95%以下となるように配合する。この比が50%未満であると耐熱性が低下し、95%超であると耐熱性が低下する。
【0025】
さらに上記の必須のトリメリテート系可塑剤の配合量が、上記必須のフタレート系可塑剤の配合量の90%以上95%以下とし、化学式(1)中R1、R2、および、R3で示される基の80%以上が、直鎖状アルキル基であり、かつ、前記化学式(2)中R4、および、R5で示される基の80%以上が、炭素数が10以上の直鎖状アルキル基であると、耐寒性、及び、耐熱性に優れるので好ましい。
【0026】
本発明の薄肉耐摩耗電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物には、上記必須の2種の可塑剤以外の可塑剤を含有していても良い。このような可塑剤としてピロメリット酸、ポリエステル可塑剤などが挙げられる。
【0027】
本発明の薄肉耐摩耗電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物には、上述の必須成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で安定剤、無機充填剤、滑剤、難燃剤、難燃助剤等を配合しても良い。安定剤は鉛やバリウム等の重金属を用いないものを用いることが環境への配慮となり好ましい。このような重金属を有しない安定剤としてはハイドロタルサイト、カルシウムと亜鉛等の金属との塩、エポキシ系亜リン酸塩が挙げられる。
【0028】
本発明の薄肉耐摩耗電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物はこれらの成分を例えばミキサーなどで混合して得られるが、押出成形機などで一旦ペレット化して用いても良い。
【0029】
本発明の薄肉耐摩耗電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物は一般の電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物同様に導線周囲に押出成形することにより被覆電線の被覆層とすることができる。このとき、0.2mmの薄い被覆層であっても、自動車用電線として求められる耐摩耗性、耐寒性、および、耐熱性の全てを満足させることができる
【実施例】
【0030】
以下に本発明の薄肉耐摩耗電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物の実施例について具体的に説明する。
【0031】
用いる原料の詳細について表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【化5】

【0034】
【化6】

【0035】
これら原料を用いて、表2〜4に示す配合量(重量部)になるように配合し、ミキサーにより混連して、実施例1〜9、比較例1〜10の計19種類の薄肉耐摩耗電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物を得て、これらそれぞれを7本撚り線の導体(直径0.27mm)周囲に押出す押出成形(加熱温度:170〜230℃の範囲で樹脂にあわせて調整)によって、9種類0.2mmの被覆層を有する絶縁電線を得た(図1にその断面図をモデル的に示した)。
【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
また、ポリ塩化ビニルの重合度はJIS K7367−2に準拠して測定した値である。
【0040】
得られたこれら電線について、耐熱性を、電気用品『有機絶縁物類上限値試験』に準拠し、具体的にはギア式老化試験器で加熱履歴を加えた後に引張試験を行い、サンプルの伸びを測定して評価した。自動車用電線としては、100℃以上での耐熱性が求められる。
【0041】
また、耐寒性はISO6722「低温特性」に準拠して評価した。自動車用電線としては、−40℃以下での耐寒性が求められる。
【0042】
さらに、耐摩耗性についてもISO6722「スクレーブ摩耗試験」に準拠して評価を行った。自動車用電線としては、300回以上の耐摩耗性が求められる。これら評価結果を表2〜4に併せて記載した。
【0043】
表2〜4より、本発明の薄肉耐摩耗電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物によれば耐摩耗性、耐寒性、および、耐熱性の全てを満足させることができることが判る。
【符号の説明】
【0044】
A 本発明に係る薄肉体摩耗電線
1 導体
2 被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニル100重量部に対して、可塑剤として、
下記化学式(1)中R1、R2、および、R3で示される基の50%以上が、炭素数が8以上の直鎖状アルキル基であるトリメリテート系可塑剤と、
下記化学式(2)中R4、および、R5で示される基の50%以上が、炭素数が10以上の直鎖状アルキル基であるフタレート系可塑剤とが、
計20重量部以上40重量部以下配合されており、かつ、
前記トリメリテート系可塑剤の配合量が、前記フタレート系可塑剤の配合量の50%以上95%以下である
ことを特徴とする薄肉耐摩耗電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物。
【化1】

【化2】

【請求項2】
前記トリメリテート系可塑剤の配合量が、前記フタレート系可塑剤の配合量の90%以上95%以下であり、
前記化学式(1)中R1、R2、および、R3で示される基の80%以上が、直鎖状アルキル基であり、かつ、
前記化学式(2)中R4、および、R5で示される基の80%以上が、炭素数が10以上の直鎖状アルキル基であることを特徴とする請求項1に記載の薄肉耐摩耗電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリ塩化ビニルの重合度が1000以上2500以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の薄肉耐摩耗電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2013−40268(P2013−40268A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177314(P2011−177314)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(501418498)矢崎エナジーシステム株式会社 (79)
【Fターム(参考)】