説明

薄肉部材と取付部材との溶接構造

【課題】薄肉部材に薄肉部材よりも熱容量の大きな取付部材のフランジ部を重ねてアーク溶接しても、溶け落ちを防止できる溶接構造を得る。
【解決手段】薄肉部材1に薄肉部材1よりも熱容量の大きな取付部材2のフランジ部6を重ね合わせてアーク溶接により薄肉部材1とフランジ部6の外縁とを隅肉溶接する。その際、フランジ部6の外縁の厚さを薄肉部材1の肉厚に応じて薄くした。また、フランジ部6の外縁の厚さTを薄肉部材の肉厚tの0.5倍から2.0倍の間とした。更に、フランジ部6の外縁に沿って段部6bを形成してフランジ部6の外縁端側に薄肉部6aを設けフランジ部6の外縁の厚さを薄くした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄肉部材に薄肉部材よりも熱容量の大きな取付部材のフランジ部を重ね合わせてアーク溶接により薄肉部材とフランジ部の外縁とを隅肉溶接する薄肉部材と取付部材との溶接構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、特許文献1にあるように、排気管を車体に支持するために、排気管に取付部材としてのブラケットを取り付け、ブラケットを介して車体に支持するようにしている。その際、ブラケットのフランジ部を排気管の外周にアーク溶接により排気管とフランジ部の外縁とを隅肉溶接している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−188439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、こうした従来のものでは、重量軽減のために、肉厚を薄くした排気管を用い、それに対して、取付部材の熱容量が大きい場合、アーク溶接すると、特に、MIG溶接をすると、排気管側に溶け落ちが発生して穴が開くため、手直し修正ができず、破棄せざるを得ないという問題があった。
【0005】
本発明の課題は、薄肉部材に薄肉部材よりも熱容量の大きな取付部材のフランジ部を重ねてアーク溶接しても、溶け落ちを防止できる溶接構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を達成すべく、本発明は課題を解決するため次の手段を取った。即ち、
薄肉部材に前記薄肉部材よりも熱容量の大きな取付部材のフランジ部を重ね合わせてアーク溶接により前記薄肉部材と前記フランジ部の外縁とを隅肉溶接する薄肉部材と取付部材との溶接構造において、
前記フランジ部の外縁の厚さを前記薄肉部材の肉厚に応じて薄くしたことを特徴とする薄肉部材と取付部材との溶接構造がそれである。
【0007】
前記フランジ部の外縁の厚さを前記薄肉部材の肉厚の0.5倍から2.0倍の間とすることが好ましい。その際、前記フランジ部の外縁に沿って段部を形成して前記フランジ部の外縁端側に薄肉部を設け前記フランジ部の外縁の厚さを薄くした構成としてもよい。あるいは、前記フランジ部の外縁に沿ってテーパ部を形成して前記フランジ部の外縁端の厚さを薄くした構成としてもよい。更に、前記薄肉部材は排気管で、前記取付部材はセンサーボスであってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の薄肉部材と取付部材との溶接構造は、フランジ部の外縁の厚さを薄肉部材の肉厚に応じて薄くしたので、薄肉部材に薄肉部材よりも熱容量の大きな取付部材のフランジ部を重ねてアーク溶接しても、溶け落ちを防止できるという効果を奏する。
【0009】
また、フランジ部の外縁の厚さを薄肉部材の肉厚の0.5倍から2.0倍の間とすることにより、好適に隅肉溶接を行うことができる。その際、薄肉部を設けてフランジ部の外縁の厚さを薄く、あるいは、テーパ部を形成してフランジ部の外縁端の厚さを薄くすることにより、容易に厚さを薄くできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態としての薄肉部材と取付部材との溶接構造を示す断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態としての薄肉部材と取付部材との溶接構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を実施するための形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示すように、1は排気管等の肉厚tが0.4mmから1.8mm(0.4mm≦t≦1.8mm)の範囲の薄肉部材で、2はセンサ等を取り付けるセンサーボスとしての取付部材である。取付部材2は筒部4の両側にそれぞれフランジ部6,8が形成されており、取付部材2は、一方のフランジ部6が薄肉部材1の外周形状に応じて円弧状に形成されている。
【0012】
尚、薄肉部材1は排気管に限らず、筐体等の側壁を構成する平坦な薄い板材でもよい。また、取付部材2はセンサーボスに限らず、薄肉部材1にフランジ部6を介して溶接により取り付ける取付部材であればよい。
【0013】
取付部材2のフランジ部6は薄肉部材1の肉厚よりもその厚さが厚く、薄肉部材1よりも熱容量が大きく、薄肉部材1と取付部材2との熱容量が大きく異なる。薄肉部材1と取付部材2のフランジ部6とをMIG溶接する際、入熱が大きいと、薄肉部材1の溶融により穴が開く場合があり、入熱が小さいと、取付部材2の溶融が不十分で、十分な溶接強度が得られない場合がある。薄肉部材1と取付部材2とは、穴が開くことなく、十分な溶接強度が得られる溶接を行う溶接条件の選定が困難である部材の組み合わせである。
【0014】
一方のフランジ部6の厚さTは、薄肉部材1の肉厚tよりも厚く、フランジ部6の厚さTは、薄い場合でも2〜2.5mm程度である。フランジ部6の外縁には、外縁に沿って薄肉部6aが形成されている。薄肉部6aはフランジ部6に段部6bが形成されて、フランジ部6の肉厚を薄くして形成されている。
【0015】
薄肉部6aの厚さTは、薄肉部材1の肉厚tの0.5倍から2.0倍の範囲(0.5t≦T≦2.0t)となるように形成されている。薄肉部材1と取付部材2のフランジ部6とを重ね、アーク溶接、例えば、MIG溶接の溶接トーチ14で一方のフランジ部6の薄肉部6aの外縁と薄肉部材1との角を狙って隅肉溶接する。
【0016】
薄肉部6aの厚さTを薄肉部材1の肉厚tの0.5倍よりも薄くすると、一方のフランジ部6側の熱容量が小さくなりすぎて、薄肉部6aが溶融するが、薄肉部材1は溶融し難くなる。また、薄肉部6aの厚さTを薄肉部材1の肉厚tの2.0倍よりも厚くすると、一方のフランジ部6側の熱容量が大きくなりすぎて、薄肉部材1は溶融するが、薄肉部6aは溶融し難くなる。
【0017】
次に、本第1実施形態の溶接構造の作動について説明する。薄肉部材1の外周に取付部材2のフランジ部6を重ねる。重ねた薄肉部材1と取付部材2のフランジ部6とをMIG溶接する。その際、溶接トーチ14により、フランジ部6の薄肉部6aの外縁端と薄肉部材1との角を狙って隅肉溶接が開始され、フランジ部6と薄肉部材1とが溶接される。
【0018】
薄肉部材1とフランジ部6の薄肉部6aとの肉厚が近く、熱容量がほぼ同じであるので、薄肉部材1の肉厚tの隅肉溶接条件で適切な溶接ができ、溶接条件の範囲が広くなり、溶接が容易となる。
【0019】
また、薄肉部6aを設けても、薄肉部6aは溶接により溶融するので、フランジ部6の強度は確保できる。更に、薄肉部6aを設けるので、フランジ部6の重量を軽減できる。
次に、前述した第1実施形態と異なる第2実施形態について、図2によって説明する。尚、前述した第1実施形態と同じ部材については同一番号を付して詳細な説明を省略する。
【0020】
本第2実施形態では、前述した第1実施形態とフランジ部6の外縁の構成が異なり、本第2実施形態では、フランジ部6の外縁にテーパ部6cを形成している。テーパ部6cはフランジ部6の外縁を傾斜させて、テーパ部6cの外側先端であるフランジ部6の外縁端は厚さTが残るように形成されている。
【0021】
また、テーパ部6cの傾斜角度は、例えば、30度から60度程度に形成すればよく、45度程度でもよい。60度を超えて直角に近くなると、フランジ部6の外縁端の熱容量が大きくなり、溶融し難くなる。30度よりも小さくすると、テーパ部6cが大きくなり、フランジ部6の形状が大きくなってしまう。
【0022】
フランジ部6の外縁端の厚さTは、薄肉部材1の肉厚tの0.5倍から2.0倍の範囲(0.5t≦T≦2.0t)となるように形成されている。薄肉部材1と取付部材2のフランジ部6とを重ね、アーク溶接、例えば、MIG溶接の溶接トーチ14で一方のフランジ部6の外縁端と薄肉部材1との角を狙って隅肉溶接する。
【0023】
フランジ部6の外縁端の厚さTを薄肉部材1の肉厚tの0.5倍よりも薄くすると、一方のフランジ部6側の熱容量が小さくなりすぎて、フランジ部6の外縁が溶融するが、薄肉部材1は溶融し難くなる。また、フランジ部6の外縁端の厚さTを薄肉部材1の肉厚tの2.0倍よりも厚くすると、一方のフランジ部6側の熱容量が大きくなりすぎて、薄肉部材1は溶融するが、フランジ部6の外縁端は溶融し難くなる。
【0024】
次に、本第2実施形態の溶接構造の作動について説明する。薄肉部材1の外周に取付部材2のフランジ部6を重ねる。重ねた薄肉部材1と取付部材2のフランジ部6とをMIG溶接する。その際、溶接トーチ14により、フランジ部6の外縁端と薄肉部材1との角を狙って隅肉溶接が開始され、フランジ部6と薄肉部材1とが溶接される。
【0025】
薄肉部材1とフランジ部6の外縁端との肉厚が近く、熱容量がほぼ同じであるので、薄肉部材1の肉厚tの隅肉溶接条件で適切な溶接ができ、溶接条件の範囲が広くなり、溶接が容易となる。
【0026】
また、テーパ部6cを設けても、テーパ部6cは溶接により溶融するので、フランジ部6の強度は確保できる。更に、テーパ部6cを設けるので、それに応じてフランジ部6の重量を軽減できる。
【0027】
以上本発明はこの様な実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。
【符号の説明】
【0028】
1…薄肉部材 2…取付部材
4…筒部 6,8…フランジ部
6a…薄肉部 6b…段部
6c…テーパ部 14…溶接トーチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄肉部材に前記薄肉部材よりも熱容量の大きな取付部材のフランジ部を重ね合わせてアーク溶接により前記薄肉部材と前記フランジ部の外縁とを隅肉溶接する薄肉部材と取付部材との溶接構造において、
前記フランジ部の外縁の厚さを前記薄肉部材の肉厚に応じて薄くしたことを特徴とする薄肉部材と取付部材との溶接構造。
【請求項2】
前記フランジ部の外縁の厚さを前記薄肉部材の肉厚の0.5倍から2.0倍の間としたことを特徴とする請求項1に記載の薄肉部材と取付部材との溶接構造。
【請求項3】
前記フランジ部の外縁に沿って段部を形成して前記フランジ部の外縁端側に薄肉部を設け前記フランジ部の外縁の厚さを薄くしたことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の薄肉部材と取付部材との溶接構造。
【請求項4】
前記フランジ部の外縁に沿ってテーパ部を形成して前記フランジ部の外縁端の厚さを薄くしたことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の薄肉部材と取付部材との溶接構造。
【請求項5】
前記薄肉部材は排気管で、前記取付部材はセンサーボスであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の薄肉部材と取付部材との溶接構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−92120(P2013−92120A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235117(P2011−235117)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(391002498)フタバ産業株式会社 (110)
【Fターム(参考)】