説明

薄膜、及び、薄膜の形成方法

【課題】波長ムラが生じにくく低屈折率の薄膜、及び、薄膜の形成方法を提供する。
【解決手段】薄膜11は、基板12上に形成されている。薄膜11は、蒸着材料からなる蒸着膜により形成されている。また、薄膜11は、基板12に形成された複数のナノ構造体13の集合層から構成されている。ナノ構造体13は、基板12の略垂直方向に柱状に延びるように形成されている。また、ナノ構造体13の集合層は、薄膜11全体として、蒸着材料と空気とが一定割合で混合しており、この割合(薄膜の膜充填密度)により、薄膜11全体の屈折率が決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜、及び、薄膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学レンズ等の光学系では、レンズ表面での反射による光量損失等を抑制するため、レンズ上に反射防止膜(薄膜)が形成されている。このようなレンズを搭載する光学モジュールを実装するカメラ付き携帯電話のような光学機器を製造するには、生産効率を向上させるために、リフロー処理により実装する方法が検討されている。
【0003】
しかし、このような実装方法では、リフロー処理による熱によって、レンズと薄膜との線膨張係数の差によるクラックが発生してしまう。このため、レンズ上に形成する薄膜をより薄くするとともに、低屈折率にすることが検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、プラスチック製光学部品上に、反応性蒸着法により、入射角60°〜75°のSiO斜め蒸着膜を形成することにより、低屈折率の反射防止膜を提供する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−80202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このような反射防止膜では、蒸着膜が斜めに形成されていることから、波長ムラが生じやすいという問題がある。また、薄膜が用いられる用途によっては、親水性などの機能を有することが求められている。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、反射防止、耐リフロー、超親水などの機能を有する薄膜、及び、薄膜の形成方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、波長ムラが生じにくく低屈折率の薄膜、及び、薄膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点にかかる薄膜は、
基板上に形成され、
前記基板の略垂直方向に柱状に延びる複数のナノ構造体の集合層であり、
前記ナノ構造体は、蒸着材料からなる、ことを特徴とする。
【0009】
前記集合層は、例えば、前記蒸着材料の膜充填密度が異なる複数の層が積層されている。
前記集合層は、例えば、前記基板上に形成された光学膜である。
前記集合層は、例えば、前記基板上に形成された反射防止膜である。
前記基板は、例えば、光学機器にリフロー処理により実装される光学レンズである。
【0010】
本発明の第2の観点にかかる薄膜の形成方法は、
基板上に蒸着材料を蒸着して薄膜を形成する薄膜の形成方法であって、
前記基板を回転可能に配置する基板配置工程と、
前記基板配置工程で配置された基板と、前記蒸着材料の蒸着材料源との基板角度を調整する基板角度調整工程と、
前記基板角度調整工程により基板角度が調整された基板上に、前記蒸着材料源からの蒸着材料を蒸着させる蒸着工程と、を備え、
前記蒸着工程では、前記基板を継続的または断続的に回転させながら、当該基板上に蒸着材料を蒸着させる、ことを特徴とする。
【0011】
前記蒸着工程では、例えば、基板上に蒸着材料をらせん状、または、ジグザグ状に蒸着させ、最終的に基板の略垂直方向に柱状に延びる複数のナノ構造体の集合層を形成する。
前記基板角度調整工程では、例えば、前記基板角度を調整することにより、前記蒸着材料の膜充填密度を設定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、波長ムラが生じにくく低屈折率の薄膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の薄膜の一例を示す図である。
【図2】本発明の薄膜の他の例を示す図である。
【図3】本発明の薄膜の形成に用いられる薄膜形成装置の概要を示す図である。
【図4】実施例1の薄膜を示す図である。
【図5】実施例1の薄膜の波長と反射率との関係を示す図である。
【図6】実施例2の薄膜の波長と反射率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の薄膜、及び、薄膜の形成方法について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態の薄膜を示す図である。
【0015】
図1に示すように、薄膜11は、基板12上に形成されている。薄膜11は、蒸着材料からなる蒸着膜により形成されている。蒸着材料としては、例えば、二酸化珪素(SiO)、二フッ化マグネシウム(MgF)、三酸化二アルミニウム(Al)、二酸化チタン(TiO)、五酸化二タンタル(Ta)等が用いられる。また、基板12としては、例えば、ガラス基板、半導体用基板(Si、GaAs等)、合成樹脂基板(PMMA、ポリカーボネイト等)等が用いられる。
【0016】
この蒸着膜(薄膜11)は、図1に示すように、基板12に形成された複数のナノ構造体13の集合層から構成されている。ナノ構造体13は、その幅が、例えば、数十nm〜数百nmであって、基板12の略垂直方向に柱状に延びるように形成されている。このように、ナノ構造体13が基板12に略垂直方向に柱状に延びているので、波長ムラが生じにくくなる。
【0017】
なお、後述するように、本実施の形態の薄膜の形成方法においては、基板12を回転させることにより、ナノ構造体13の集合層を形成しているので、基板12上に蒸着材料がらせん状に蒸着され、最終的に基板12の略垂直方向に柱状に延びる複数のナノ構造体13の集合層が形成される。
【0018】
ナノ構造体13の集合層は、薄膜11全体として、蒸着材料と空気とが一定割合で混合しており、この割合(薄膜の膜充填密度)により、薄膜11全体の屈折率が決定される。なお、後述するように、蒸着源である坩堝と基板との角度(後述する基板角度C)を変えることにより、基板12の上に形成される薄膜11の膜充填密度を変化させることができる。このため、薄膜11は、その膜充填密度、すなわち、後述する基板角度Cを調整することにより、所望の屈折率に設定可能である。
【0019】
このように、薄膜11の屈折率を所望の屈折率に設定可能であることから、例えば、薄膜11を反射防止膜に用いことができる。一般に、基板表面における反射は、基板と空気との界面の屈折率差により生じる。このため、基板の屈折率の1/2乗の屈折率の薄膜を、所望の波長(λ)の(1/4)λの膜厚だけ基板に形成すれば基板表面における反射を防止することができる。例えば、基板12がガラス、合成樹脂などからなる場合、基板12の屈折率が約1.5であることから、屈折率約1.22の薄膜11を基板12に形成すれば、薄膜11は反射防止膜として機能する。
【0020】
ここで、薄膜11の膜充填密度は、次式で表される。
【数1】


(式中、Pは膜充填密度、nは所望する薄膜の屈折率、nは空気の屈折率、nは蒸着材料のバルクの屈折率である。)
【0021】
例えば、蒸着材料としてSiOを用いた場合、SiOの屈折率が1.46、空気の屈折率が1、所望する薄膜11の屈折率が1.22であることから、上式より薄膜11の膜充填密度P=(1.22−1)/(1.46−1)=0.478となる。このため、薄膜11の膜充填密度が0.478となるように、基板角度Cを調整することにより、薄膜11は、反射防止膜として機能する。
【0022】
また、薄膜11には、表面に複数のナノ構造体13が設けられていることから、表面に微細な凹凸が形成されることとなる。この表面の微細な凹凸によって薄膜11の親水効果が強くなる。この結果、薄膜11は、その表面を超親水化する超親水膜としての機能を有する。
【0023】
このように、基板12上に形成された薄膜11が複数のナノ構造体13の集合層から構成されているので、薄膜11全体として、蒸着材料と空気とが一定割合で混合している。このため、薄膜11の屈折率を低くすることができる。また、薄膜11は、その表面を超親水化する超親水膜としての機能を有する。さらに、薄膜11のナノ構造体13が基板12の略垂直方向に柱状に延びるように形成されているので、波長ムラが生じにくくなる。加えて、薄膜11の屈折率を調整することができるので、反射防止膜として機能する薄膜11を容易に形成することができる。
【0024】
なお、薄膜11の複数のナノ構造体13の集合層は、一層に限定されるものではなく、複数の集合層からなる積層構造としてもよい。この場合、集合層を構成するナノ構造体13の幅(膜充填密度)の異なる層を複数層積層することが好ましい。薄膜11の反射防止可能な波長範囲を広くすることができるためである。
【0025】
図2にナノ構造体13の幅の異なる集合層を2層積層した例を示す。図2に示すように、薄膜11は、第1の集合層111と、第2の集合層112とから構成されている。第1の集合層111は、複数のナノ構造体131から構成されている。第2の集合層112は、ナノ構造体131よりも細い複数のナノ構造体132から構成されている。本例では、第2の集合層112の膜充填密度が第1の集合層111の膜充填密度よりも低くなるように、基板12上に第1の集合層111を形成した後、この第1の集合層111上に第2の集合層112を形成している。具体的には、第2の集合層112形成の際の基板角度Cを第1の集合層111形成の際の基板角度Cよりも大きくすることにより、ナノ構造体13の幅の異なる集合層を2層積層した。このように第1の集合層111上に第2の集合層112を形成することにより、第1の集合層111が反射防止可能な波長範囲よりも広い波長範囲について、第2の集合層112により反射防止可能となる。このため、薄膜11の反射防止可能な波長範囲を広くすることができる。
【0026】
次に、以上のような薄膜11の形成方法について説明する。まず、薄膜11の形成に用いられる薄膜形成装置について説明する。図3は、薄膜形成装置の概要を示す図である。
【0027】
図3に示すように、薄膜形成装置21は、真空槽22と、公転ドーム23と、回転板24と、坩堝25と、電子銃26と、水晶膜厚計27と、制御部28と、を備えている。
【0028】
真空槽22は、導体から構成され、接地された密閉容器から構成されている。真空槽22は、公転ドーム23、回転板24、坩堝25、電子銃26、水晶膜厚計27等を収容し、ガス導入口31と排気口32とを備えている。
【0029】
ガス導入口31は、図示しないガス供給装置に接続され、真空槽22の内部にアルゴン(Ar)、酸素(O)等の放電ガス、プロセスガス等の任意のガスを導入する。なお、蒸着材料がSiOの場合には、真空槽へのガス導入は行わなくても問題ないが、蒸着材料がAl、TiO、Taなどのように、酸素が電子銃により乖離しやすいものについては、ガス導入口31からガスを導入することが好ましい。
排気口32は、図示しない真空ポンプなどの排気装置に接続され、真空槽22内のガスを排気する。
【0030】
公転ドーム23は、ドーム状に形成されている。公転ドーム23には、図示しない公転ドーム回転機構が設けられており、成膜処理の間、公転ドーム23を所定の回転数で回転させる。
【0031】
回転板24は、公転ドーム23に接続されている。回転板24には、成膜対象である基板29が配置される。なお、基板29は、回転板24近傍に保持する構成であってもよい。回転板24には、図示しない回転機構が設けられており、成膜処理の間、回転板24を所定の回転数で回転させる。この回転板24の回転により基板29が回転する。このように、基板29自身が回転することにより、基板29に垂直なナノ構造体からなる薄膜の蒸着が可能になる。また、基板29自身が回転しないと、坩堝25と基板29との距離A、Bの差によって、ナノ構造体からなる薄膜の膜厚が不均一になることから、基板29を回転させることにより、薄膜の膜厚を均一に保つことができる。このような構造により、基板29上に、膜厚、ナノ構造体の均一性に優れた薄膜を形成することができる。また、回転板24近傍には、図示しない基板加熱用ヒータが設けられており、基板加熱用ヒータにより、回転板24に配置された基板29を所望の温度に加熱することができる。
【0032】
坩堝25には、プロセスに応じた種類の蒸着材料が充填されている。例えば、SiO、ZrO、TiO等、所望の蒸着材料を用いればよく、複数の坩堝25を配置し、それぞれに異種の蒸着材料を充填してもよい。
電子銃26は、坩堝25内の蒸着材料に電子を衝突させ、蒸発温度まで加熱する。
水晶膜厚計27は、蒸着された薄膜の膜厚を測定、及び成膜速度を制御する。
【0033】
制御部28は、プロセッサ(MPU、CPU等)、RAM、ROM、インタフェースなどから構成されている。制御部28は、この薄膜形成装置21の動作手順を規定する制御データを格納し、薄膜形成装置21内の各部に制御信号を供給して、薄膜形成装置21内の各部を制御する。
【0034】
次に、以上のような薄膜形成装置21を用いた場合を例に、本発明の薄膜の形成方法について説明する。なお、前述のように、薄膜形成装置21内の各部は、制御部28に制御されている。このため、制御部28が以下の薄膜形成装置21内の各部を制御する。
【0035】
まず、回転板24に基板29を配置する。次に、蒸着源である坩堝25と基板29の角度(図3の基板角度C)を調整する。この基板角度Cを変化させることにより、基板12の上に形成される薄膜11の膜充填密度を所望の値に調整することができる。例えば、基板角度Cを大きくすることにより薄膜の膜充填密度が低くなる。このように、薄膜11は、基板角度Cを調整することにより、所望の屈折率に設定可能である。
【0036】
また、坩堝25に、形成する薄膜に応じた蒸着材料、例えば、SiOを充填する。次に、真空槽22内を図示しない排気装置によって、例えば、1Pa〜1×10−5Pa程度の高真空領域まで排気する。また、基板加熱用ヒータにより、回転板24に配置された基板29を所望の温度に加熱する。なお、基板29がPMMAのような合成樹脂からなる場合には、熱による基板29の劣化防止のため、加熱しないことが好ましい。
【0037】
続いて、図示しない公転ドーム回転機構により公転ドーム23を所定の回転数で回転させるとともに、図示しない回転機構により回転板24を所定の回転数で回転させる。続いて、電子銃26から電子ビームを坩堝25内の蒸着材料(SiO)へ照射し、蒸着材料を蒸発温度まで昇温させる。なお、蒸着材料がAl、TiO、Taなどのように、酸素が電子銃により乖離しやすいものについては、ガス導入口31からガスを導入することが好ましい。
【0038】
蒸着材料が蒸発温度まで昇温されると、蒸着材料であるSiOは真空槽22内を飛散し、基板29上に堆積することで緻密なSiO薄膜を形成する。形成されたSiO薄膜は、水晶膜厚計27により、その膜厚を測定する。そして、水晶膜厚計27により、SiO薄膜の膜厚が所定の膜厚、例えば、薄膜を反射防止膜として用いる場合には所望の波長(λ)の(1/4)λの膜厚が形成されていることが測定されると、電子銃26、図示しない基板加熱用ヒータなどを停止させる。最後に、真空槽22内の温度を冷却し、真空槽22内に大気を導入した後、薄膜が形成された基板29を取り出す。これにより、基板29に薄膜が形成できる。
【0039】
このように、基板29自身を回転させながら蒸着材料を基板29に蒸着させているので、基板29上に、基板29の略垂直方向に柱状に延びる複数のナノ構造体の集合層からなる本願発明の薄膜を容易に形成することができる。また、基板角度Cを調整することにより、所望の屈折率の薄膜を形成することができるので、薄膜の屈折率の薄膜を容易に形成することができる。このため、反射防止膜として機能する薄膜11を容易に製造できる。
【0040】
また、このように薄膜が形成された基板をリフロー処理により光学機器に実装すれば、クラックが発生せず、反射防止機能を有する薄膜を光学機器に実装することができる。このように、本発明の薄膜の形成方法は、リフロー処理により光学機器に実装する光学部品に好適である。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を示し、本発明をさらに詳しく説明する。なお、以下の実施例は、本発明の好適な一例を示すものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0042】
(実施例1)
本実施例では、リフロー対応合成樹脂基板の上に、SiOからなる反射防止機能を有する薄膜を形成した。
【0043】
まず、回転板24に基板29を配置した。次に、反射防止機能を有するために所望する薄膜の屈折率が1.22であるため、SiOの膜充填密度が、0.478となるように、基板角度Cを65度に調整した。また、坩堝25にSiOを充填し、真空槽22内を、図示しない排気装置によって、1.6×10−3Paまで排気した。なお、基板29が合成樹脂であることから、熱による基板29の劣化防止のため、基板29の加熱は行わなかった。
【0044】
続いて、図示しない公転ドーム回転機構により公転ドーム23を15rpmで回転させるとともに、図示しない回転機構により回転板24を79rpmで回転させる。次に、電子銃26から電子ビームを坩堝25内のSiOへ照射し、蒸着材料を蒸発温度まで昇温させる。なお、蒸着材料にSiOを用いたため真空槽22へのガス導入は行なかった。また、蒸着レートは、0.4nm/secで蒸着をした。形成されたSiO薄膜の膜厚が、波長530nmで反射率が最小になるような物理膜厚(約108nm)となるように水晶膜厚計27にて制御した。
【0045】
このようにして形成された薄膜のSEM写真を図4に示す。また、この薄膜の波長と反射率との関係を図5に示す。なお、反射率の測定は、株式会社日立ハイテクノロジーズ社の分光光度計U4000を用いて測定をした。
【0046】
図4に示すように、基板29上に形成された薄膜は、基板29の略垂直方向に柱状に延びる複数のナノ構造体の集合層であることが確認できた。また、薄膜の反射率が波長530nm付近で小さくなっていることが確認でき、この波長付近で反射防止機能を有することが確認できた。
【0047】
また、このように形成された薄膜に、注射器により水を一滴たらして接触角を観察したところ、接触角が測れないほど水滴が広がった。このため、この薄膜は超親水膜であることが確認できた。
【0048】
次に、薄膜が形成された基板を加熱してクラックを評価するリフロー試験を3回実施した。なお、リフローは260℃で30秒間、N雰囲気下で実施した。また、加熱方式は対流加熱方式を用いた。クラックの評価は、加熱後の基板をオリンパス製金属顕微鏡で50倍、100倍とし、クラックが発生したか否かを観察することにより判断した。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】


表1に示すように、3回のリフロー試験の実施により、実施例1の基板にクラックが発生していないことが確認できた。
【0050】
続いて、3回のリフロー試験を行った後、付着力試験を実施した。付着力試験は、薄膜が形成された基板面にテープを貼り、基板面に対して垂直方向にテープを剥がす(テープテスト1)、及び、基板面に対して45°方向にテープを剥がす(テープテスト2)の2種類の方法により、膜剥離が有るか否かを観察することにより判断した。なお、テープは、ニチバン製のセロテープ(登録商標)を用いた。結果を表2に示す。
【0051】
【表2】


表2に示すように、付着力試験の実施により、実施例1の基板では膜剥離が生じておらず、付着力を有することが確認できた。また、リフロー試験後の分光反射率変化を測定したところ、その変化は5%未満であった。
【0052】
(実施例2)
本実施例では、リフロー対応合成樹脂基板の上に、SiOからなるナノ構造体13の幅の異なる集合層を2層積層した薄膜を形成した。
【0053】
反射率の低くなる帯域幅を広げるため、集合層の膜充填密度が0.83(屈折率:1.384)となるように、基板角度Cを45度に調整したことを除いて、実施例1と同様の手順で、第1の集合層を97nm形成した。
【0054】
次に、第1の集合層上に、集合層の膜充填密度が0.40(屈折率:1.185)となるように、基板角度Cを70度に調整した後、実施例1と同様の手順で、第2の集合層を110nm形成した。このようにして、ナノ構造体13の幅の異なる集合層を2層積層した薄膜を形成した。
【0055】
このようにして形成された薄膜のSEM写真を確認したところ、図2とほぼ同様の形状であることが確認できた。また、この薄膜の波長と反射率との関係を図6に示す。図6に示すように、実施例1と比較して、反射率が低くなる波長帯域幅が拡大していることが確認できた。
【0056】
また、このように形成された薄膜に、注射器により水を一滴たらして接触角を観察したところ、接触角が測れないほど水滴が広がった。このため、この薄膜は超親水膜であることが確認できた。
【0057】
次に、薄膜が形成された基板について、実施例1と同様に、リフロー試験を3回実施した。結果を表1に示す。表1に示すように、3回のリフロー試験の実施により、実施例2の基板にクラックが発生していないことが確認できた。また、実施例1と同様に、3回のリフロー試験を行った後、付着力試験を実施した。結果を表2に示す。表2に示すように、付着力試験の実施により、実施例2の基板では膜剥離が生じておらず、付着力を有することが確認できた。また、リフロー試験後の分光反射率変化を測定したところ、その変化は5%未満であった。
【0058】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限られず、種々の変形、応用が可能である。例えば、薄膜の形成方法は、基板29自身を回転させながら蒸着材料を基板29に蒸着させ、基板29上に、基板29の略垂直方向に柱状に延びる複数のナノ構造体の集合層からなる薄膜を形成できれば、薄膜形成装置21を用いなくてもよい。
【0059】
また、上記実施の態様では、基板29を一定速度で回転させることにより、基板29上に蒸着材料をらせん状に蒸着させ、最終的に基板29の略垂直方向に柱状に延びる複数のナノ構造体の集合層を形成する場合を例に本発明を説明したが、基板29上に、均一な厚さのナノ構造体の集合層からなる薄膜が形成できればよく、例えば、基板29を停止させた状態で一定時間(t)成膜し、基板29を60度(α)回転させて一定時間成膜し、更に基板29を60度回転させて一定時間成膜する、という動作を繰り返すように、基板12を断続的に回転させてもよい。この場合、基板29上に蒸着材料をジグザグ状に蒸着させ、最終的に基板29の略垂直方向に柱状に延びる複数のナノ構造体の集合層を形成することができる。また、基板回転角度αと時間tとを変更することで、薄膜の状態(屈折率等)を変えることができるため、所望の状態の薄膜構造体を形成することができる。
【0060】
上記実施の態様では、公転ドーム23を回転させるとともに回転板24を回転させた場合を例に本発明を説明したが、例えば、回転板24のみを回転させてもよい。この場合にも、基板29上に、その略垂直方向に柱状に延びる複数のナノ構造体の集合層を形成することができる。
【0061】
上記実施の態様では、実施例2において、第1の集合層を形成した後に基板角度Cを変えて第2の集合層を形成したが、例えば、第1の集合層の形成中に基板角度Cを連続的に変化させてもよい。この場合、薄膜の膜充填密度を連続的に変化させることができる。
【0062】
上記実施の形態では、蒸着材料としてSiOを用いた場合を中心に本実施の形態を説明したが、蒸着材料は基板12の略垂直方向に柱状に延びる複数のナノ構造体13の集合層を形成可能なものであればよく、例えば、MgF、Al、TiO、Taであってもよい。なお、蒸着材料がAl、TiO、Taなどのように、酸素が電子銃により乖離しやすいものについては、この薄膜形成の際には、ガス導入口31からガスを導入することが好ましい。
【0063】
上記実施の形態では、基板29としてリフロー対応合成樹脂基板を用いた場合を中心に本実施の形態を説明したが、基板はガラス基板やSi、GaAs等の半導体用基板、PMMA、ポリカーボネート等の合成樹脂基板であってもよい。なお、基板にガラス基板や半導体用基板を用いた場合には、薄膜形成において、基板加熱用ヒータにより回転板24に配置された基板29を所望の温度に加熱することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、反射防止機能、耐リフロー機能、親水化機能を有する薄膜及び薄膜の形成方法に有用である。
【符号の説明】
【0065】
11 薄膜
12 基板
13 ナノ構造体
21 薄膜形成装置
22 真空槽
23 公転ドーム
24 回転板
25 坩堝
26 電子銃
27 水晶膜厚計
28 制御部
29 基板
31 ガス導入口
32 排気口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成され、
前記基板の略垂直方向に柱状に延びる複数のナノ構造体の集合層であり、
前記ナノ構造体は、蒸着材料からなる、ことを特徴とする薄膜。
【請求項2】
前記集合層は、前記蒸着材料の膜充填密度が異なる複数の層が積層されている、ことを特徴とする請求項1に記載の薄膜。
【請求項3】
前記集合層は、前記基板上に形成された光学膜である、ことを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜。
【請求項4】
前記集合層は、前記基板上に形成された反射防止膜である、ことを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜。
【請求項5】
前記基板は光学機器にリフロー処理により実装される光学レンズである、ことを特徴とする請求項3または4に記載の薄膜。
【請求項6】
基板上に蒸着材料を蒸着して薄膜を形成する薄膜の形成方法であって、
前記基板を回転可能に配置する基板配置工程と、
前記基板配置工程で配置された基板と、前記蒸着材料の蒸着材料源との基板角度を調整する基板角度調整工程と、
前記基板角度調整工程により基板角度が調整された基板上に、前記蒸着材料源からの蒸着材料を蒸着させる蒸着工程と、を備え、
前記蒸着工程では、前記基板を継続的または断続的に回転させながら、当該基板上に蒸着材料を蒸着させる、ことを特徴とする薄膜の形成方法。
【請求項7】
前記蒸着工程では、基板上に蒸着材料をらせん状、または、ジグザグ状に蒸着させ、最終的に基板の略垂直方向に柱状に延びる複数のナノ構造体の集合層を形成する、ことを特徴とする請求項6に記載の薄膜の形成方法。
【請求項8】
前記基板角度調整工程では、前記基板角度を調整することにより、前記蒸着材料の膜充填密度を設定する、ことを特徴とする請求項6または7に記載の薄膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−150154(P2011−150154A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11706(P2010−11706)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000146009)株式会社昭和真空 (72)
【Fターム(参考)】