薄膜の製造方法、薄膜製造装置、及び液晶表示装置の製造方法
【課題】アーキングの発生回数を抑制しつつも、基板への異物の付着を抑制することが可能な薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の薄膜の製造方法では、ターゲット94と向かい合う上面に第1の極性を有する第1の磁石51と、上面に第2の極性を有し、第1の磁石51の周囲に配置される第2の磁石52と、を含む磁石ユニット5を配置し、ターゲット94の使用量の増加に応じて、磁石ユニット5の外縁52aとターゲット94の外縁94aとのY方向の最近接距離を減少させる。
【解決手段】本発明の薄膜の製造方法では、ターゲット94と向かい合う上面に第1の極性を有する第1の磁石51と、上面に第2の極性を有し、第1の磁石51の周囲に配置される第2の磁石52と、を含む磁石ユニット5を配置し、ターゲット94の使用量の増加に応じて、磁石ユニット5の外縁52aとターゲット94の外縁94aとのY方向の最近接距離を減少させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜の製造方法、薄膜製造装置、及び液晶表示装置の製造方法に関し、特には、マグネトロンスパッタリングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、成膜方法の1つとしてマグネトロンスパッタリングが知られている。マグネトロンスパッタリングでは、薄膜の原材料となるターゲットの一方の面と対向して基板が配置され、ターゲットの他方の面と対向して磁石ユニットが配置される。磁石ユニットが生成する磁場によりターゲットの表面近傍にプラズマを集中させることで、成膜速度が高められる。また、マグネトロンスパッタリングでは、ターゲットの利用効率を高めるためにターゲットに対して磁石ユニットを揺動させることがある。特許文献1には、マグネトロンスパッタリングにより透明導電性を有する酸化物を基板上に成膜する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−74181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、図15に示されるように、ターゲットTの表面のうち、プラズマによってスパッタされるエロージョン領域Eから飛び散ったターゲットの粒子は、プラズマによってスパッタされない非エロージョン領域Nに付着する。非エロージョン領域Nは、ターゲットTの外縁に沿って形成される。酸化物からなるターゲットを用いた場合、非エロージョン領域Nに付着したターゲットの粒子は、ターゲットTの表面から剥がれて、基板Bの表面に異物として付着する傾向にある。また、ターゲットTの使用量が増加するのに伴って、基板Bの表面に付着する異物の数が増加することも分かっている。
【0005】
なお、基板Bへの異物の付着を抑制するためには、ターゲットTの外縁と磁石ユニットMの外縁との距離Lを縮めることで、ターゲットの粒子が付着する非エロージョン領域Nを狭めることが好ましい。しかし、距離Lを縮め過ぎると、ターゲットTの周囲の配置された接地シールドGにプラズマ中の荷電粒子が流れ込むアーキングの発生回数が増加してしまう。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みて為されたものであり、アーキングの発生回数を抑制しつつも、基板への異物の付着を抑制することが可能な薄膜の製造方法、薄膜製造装置、及び液晶表示装置の製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の薄膜の製造方法は、ターゲットをスパッタして酸化物からなる薄膜を形成する薄膜の製造方法であって、前記ターゲットのスパッタされる面とは反対の面と向かい合う面に第1の極性を有する第1の磁石と、前記反対の面と向かい合う面に第2の極性を有し、前記第1の磁石の両側に配置される第2の磁石と、を含む磁石ユニットを配置し、前記ターゲットの使用量の増加に応じて、前記磁石ユニットの外縁と前記ターゲットの外縁との面内方向の最近接距離を減少させる、ことを特徴とする。
【0008】
マグネトロンスパッタリングにおいてプラズマが最も集中する位置は、磁石ユニットが生成する磁場の水平成分(ターゲットの面内方向の成分)が0となる位置である。磁石ユニットにおいて第1の磁石の周囲に第2の磁石を配置した場合、内側に位置する第1の磁石では、外側に位置する第2の磁石と比較して、自身で閉じられる磁場の量が少ない。このため、第1の磁石と第2の磁石との間の磁場の水平成分が0となる位置は、磁石ユニットから離れるに従って外側にずれる(図2Bを参照)。このことは、ターゲットの厚さが減少するのに従って、最もスパッタされる位置が内側にずれ、非エロージョン領域が拡大することを意味する(図6を参照)。
【0009】
そこで、本発明では、ターゲットの使用量の増加に応じて磁石ユニットの外縁とターゲットの外縁との面内方向の最近接距離を減少させることによって、アーキングの発生回数を抑制しつつ、非エロージョン領域の拡大を抑制している。これにより、基板への異物の付着を抑制することが可能である。また、ターゲットの利用効率を高めることが出来る。
【0010】
また、本発明の一態様では、前記第1の磁石は、長辺を有する帯状に構成され、前記磁石ユニットの外縁は、前記第2の磁石のうち、前記第1の磁石の長辺と略平行な外縁である。これによると、第1の磁石の幅方向において非エロージョン領域の拡大を抑制することが可能である。また、ターゲットの利用効率を高めることが出来る。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記磁石ユニットを前記面内方向に揺動させる。これによると、ターゲットの利用効率を高めることが可能である。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記第1の磁石及び前記第2の磁石の少なくとも一方は、配列する複数の磁石で構成される。これによると、複数の磁石の配列によって、第1の磁石及び第2の磁石の形状の自由度を高めることが可能である。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記磁石ユニットの面内において前記第1の磁石の長辺方向に対して垂直方向の前記第1の磁石の長さが、前記第1の磁石の両側に配置された前記第2の磁石の前記垂直方向の長さの合計と略同じであることが好ましい。
【0014】
また、本発明の一態様では、前記薄膜は、スズ添加酸化インジウム(ITO)からなる。これによると、異物の付着が抑制されたITO薄膜を得ることが可能である。
【0015】
また、本発明の薄膜の製造方法は、ターゲットをスパッタして酸化物からなる薄膜を形成する薄膜の製造方法であって、前記ターゲットのスパッタされる面とは反対の面と向かい合う面に第1の極性を有する第1の磁石と、前記反対の面と向かい合う面に第2の極性を有し、前記第1の磁石の両側に配置される第2の磁石と、を含む磁石ユニットを配置し、前記ターゲットの使用量の増加に応じて、前記磁石ユニットと前記ターゲットとの面外方向の最近接距離を増加させる、ことを特徴とする。
【0016】
本発明によると、ターゲットの使用量の増加に応じて磁石ユニットとターゲットとの面外方向の最近接距離を増加させることによって、アーキングの発生回数を抑制しつつ、非エロージョン領域の拡大を抑制している。これにより、基板への異物の付着を抑制することが可能である。また、ターゲットの利用効率を高めることが出来る。
【0017】
また、本発明の薄膜の製造方法は、ターゲットをスパッタして酸化物からなる薄膜を形成する薄膜の製造方法であって、前記ターゲットのスパッタされる面とは反対の面と向かい合う面に第1の極性を有する第1の磁石と、前記反対の面と向かい合う面に第2の極性を有する第2の磁石と、を含む磁石ユニットであって、前記第1の磁石と第2の磁石との間に生じる磁場の水平成分がゼロとなる部分が前記第1の磁石の面または前記第2の磁石の面から前記ターゲットに近づくに従って前記第2の磁石側に傾くように配置し、前記ターゲットがスパッタされる領域の外郭と前記ターゲットの外縁との最短距離が略一定になるように前記ターゲットまたは前記磁石ユニットを制御する、ことを特徴とする。
【0018】
本発明によると、ターゲットがスパッタされる領域の外郭とターゲットの外縁との最短距離を略一定として、非エロージョン領域の拡大を抑制している。これにより、基板への異物の付着を抑制することが可能である。また、ターゲットの利用効率を高めることが出来る。
【0019】
また、本発明の液晶表示装置の製造方法は、上記本発明の薄膜の製造方法で薄膜を製造する工程を含むことを特徴とする。本発明によると、異物の付着が抑制された酸化物薄膜を備える液晶表示装置を得ることが可能である。
【0020】
また、本発明の薄膜製造装置は、ターゲットをスパッタして酸化物からなる薄膜を形成する薄膜製造装置であって、前記ターゲットのスパッタされる面とは反対の面と向かい合う面に第1の極性を有する第1の磁石と、前記反対の面と向かい合う面に第2の極性を有し、前記第1の磁石の両側に配置される第2の磁石と、を含む磁石ユニットと、前記ターゲット及び前記磁石ユニットの一方を他方に対して揺動させる揺動手段であって、前記ターゲットの使用量の増加に応じて、前記磁石ユニットの外縁と前記ターゲットの外縁との面内方向の最近接距離を減少させる揺動手段と、を備えることを特徴とする。
【0021】
本発明によると、ターゲットの使用量の増加に応じて磁石ユニットの外縁とターゲットの外縁との面内方向の最近接距離を減少させることによって、アーキングの発生回数を抑制しつつ、非エロージョン領域の拡大を抑制している。これにより、基板への異物の付着を抑制することが可能である。また、ターゲットの利用効率を高めることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る薄膜製造装置を概略的に表す図である。
【図2A】磁石ユニットの平面図である。
【図2B】磁石ユニットの断面図である。
【図3】変形例に係る磁石ユニットの平面図である。
【図4】変形例に係る磁石ユニットの平面図である。
【図5】磁石ユニットの第1の移動例を表す図である。
【図6】従来技術を表す図である。
【図7】ターゲットの状態を表す図である。
【図8】磁石ユニットの第1の移動例を表す図である。
【図9】ターゲットの状態を表す図である。
【図10】磁石ユニットの第2の移動例を表す図である。
【図11】磁石ユニットの第3の移動例を表す図である。
【図12】ターゲット使用量と外縁間距離との関係例を表す図である。
【図13】比較例の実験結果を表す図である。
【図14】実施例の実験結果を表す図である。
【図15】従来技術を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の薄膜の製造方法、薄膜製造装置、及び液晶表示装置の製造方法の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係る薄膜製造装置1を概略的に表す図である。薄膜製造装置1は、マグネトロンスパッタリングを実行する装置である。薄膜製造装置1は、チャンバー2を備えており、チャンバー2の内部には、基板92を支持するトレイ3と、ターゲット94を支持するプレート4と、磁石ユニット5と、ターゲット94の周囲に配置される接地されたシールド6と、が配置されている。以下では、説明の便宜上、ターゲット94に対して基板92が配置される方向を上方とし、ターゲット94に対して磁石ユニット5が配置される方向を下方とするが、実際の使用方法としてはターゲット94の外縁を上方または下方とする場合もある。
【0025】
基板92を支持するトレイ3は、基板92の下面がターゲット94の上面と向かい合うように、基板92の外縁部を支持する。基板92の下面には、マグネトロンスパッタリングを実行することにより薄膜が形成される。ターゲット94を支持するプレート4には、電極7が設けられており、この電極7は、チャンバー2の外部に配置された電源11に接続されている。電源11は、チャンバー2の内部にプラズマを誘起するため、負の直流電圧または高周波電圧を出力する。
【0026】
チャンバー2には、ガス導入口2a及びガス排気口2bが設けられている。このうち、ガス排気口2bには、チャンバー2の内部の気体を外部へ排出するためのポンプ12が設けられている。マグネトロンスパッタリングは、チャンバー2の内部を真空にした後、Ar等の希ガスを導入した雰囲気において実行される。
【0027】
磁石ユニット5は、ターゲット94の上面近傍に形成される磁場により、ターゲット94の上面近傍にプラズマを集中させることで、基板92に形成される薄膜の成膜速度を高める。モーター8は、揺動手段の一例であり、磁石ユニット5をターゲット94に対して揺動させる。磁石ユニット5の構成例及び移動例については、後に詳しく述べる。
【0028】
本実施形態では、薄膜製造装置1でマグネトロンスパッタリングを実行することにより、透明導電性を有する酸化物からなる薄膜を基板92の下面に形成する。透明導電性を有する酸化物としては、スズ添加酸化インジウム(ITO)が代表的である。この場合、ターゲット94としては、In2O3とSnO2の焼結体などが用いられる。他の酸化物としては、酸化インジウム・亜鉛(IZO)や酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)などがある。
【0029】
図2Aは、磁石ユニット5の平面図である。図2Bは、図2Aの破断線における磁石ユニット5の断面図である。以下の説明において、X,Y方向は、ターゲット94及び磁石ユニット5の面内方向である。また、Z方向は、ターゲット94及び磁石ユニット5の面外方向(すなわち、ターゲット94の上面に対して垂直な方向)である。図2Bでは、磁石ユニット5が生成する磁場を表す磁力線Mを実線で示し、磁場の水平成分が0となる点を結んだ線Hを二点鎖線で示している。
【0030】
磁石ユニット5は、第1の磁石51と、第1の磁石51の面内方向の周囲に配置される環状の第2の磁石52と、第1の磁石51及び第2の磁石52が載置されるプレート53と、を備えている。第1の磁石51は、ターゲット94の下面と向かい合う上面に第1の極性(例えばN極)を有しており、下面に第2の極性(例えばS極)を有している。第2の磁石52は、ターゲット94の下面と向かい合う上面に第2の極性を有しており、下面に第1の極性を有している。
【0031】
第1の磁石51は、配列する複数のブロック状の磁石513で構成されており、全体としてX方向に延伸する帯状に形成されており、X方向に延伸する長辺51aを有している。第2の磁石52は、配列する複数のブロック状の磁石523で構成されており、全体としてX方向に延伸する環状に形成されており、X方向に延伸する一対の長辺部52cを有している。これら長辺部52cは、第1の磁石51に対してY方向の両側に配置されている。
【0032】
第1の磁石51のY方向の幅は、第2の磁石52に含まれる一対の長辺部52cのY方向の幅の合計と、ほぼ等しくなるように設定されている。また、第1の磁石51のX方向の両端部と、第2の磁石52のX方向の両端部は、第1の磁石51と第2の磁石52の間隔が均一化されるように窄んだ形状となっている。なお、第1の磁石51を包囲する第2の磁石52は、完全に閉じていなくてもよく、複数の磁石523の間に空隙があってもよい。
【0033】
以上のような磁石ユニット5では、図2Bに示されるように、第1の磁石51の上面から第2の磁石52の上面へ向けて(又はその逆)、山なりの磁場が形成される。第1の磁石51は第2の磁石52に包囲されているため、第1の磁石51と第2の磁石52との間の磁場は、基本的に放射状に形成される。但し、第1の磁石51と、その両側に配置される第2の磁石52の一対の長辺部52cと、がX方向に延伸していることから、第1の磁石51と各々の長辺部52cとの間の磁場は、主にY方向に沿って形成される。
【0034】
また、第2の磁石52の磁場の一部は、第2の磁石52の上面から下面へ回り込んで自身で閉じられる。このように、第2の磁石52の磁場の一部は自身で閉じられるのに対し、第1の磁石51の磁場は自身で閉じられ難いため、第1の磁石51と第2の磁石52との間の磁場の水平成分が0となる点を結んだ線Hは、磁石ユニット5からZ方向に離れるに従ってY方向の外側にずれる。
【0035】
なお、図2Aに示されるように、磁石ユニット5のX方向の両端部では、第1の磁石51の磁場が第2の磁石52の磁場と比較して小さいため、磁場の水平成分が0となる点を結んだ線Hは、他の部分よりも第1の磁石51に近づいている。
【0036】
図3及び図4は、変形例に係る磁石ユニット5の平面図である。上記実施形態と重複する構成については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。図3に示される変形例では、第2の磁石52のX方向の両端部が閉じられておらず、第2の磁石52は、第1の磁石51に対してY方向の両側に配置された、X方向に延伸する一対の長辺部52cからなる。このような態様であっても、上記図2A及び図2Bの実施形態と同様の磁場プロファイルが得られる。
【0037】
また、図4に示される変形例では、第2の磁石52の一対の長辺部52cを構成する複数の磁石523のうち端の一部が、他部よりも第1の磁石51から離れて配置されている。このような態様であっても、上記図2A及び図2Bの実施形態と同様の磁場プロファイルが得られる上、一部の磁石523の位置をずらすことで、磁場の強弱、ひいてはスパッタの強弱を位置に応じて調整することが可能である。
【0038】
図5は、磁石ユニット5の第1の移動例を表す図である。磁石ユニット5は、矩形板状のターゲット94の下方に配置されており、平面視においてターゲット94の範囲内に包含されている。ターゲット94のX方向の幅と磁石ユニット5のX方向の幅との差は比較的小さいのに対し、ターゲット94のY方向の幅と磁石ユニット5のY方向の幅との差は比較的大きい。
【0039】
図中の破線は、磁石ユニット5の外縁を表している。ここで、磁石ユニット5の外縁とは、磁性を有する部分の外縁を意味し、上記図2A及び図2Bに示される磁石ユニット5では、第2の磁石52の外縁52aがそれに該当する。
【0040】
磁石ユニット5を駆動するモーター8は、マグネトロンスパッタリングを実行する間、ターゲット94の利用効率を高めるために、図中の矢印に示されるように磁石ユニット5をY方向に揺動させる。モーター8には、磁石ユニット5が指定される範囲内で往復移動するように不図示のコントローラーから電流が与えられる。
【0041】
ここで、磁石ユニット5を駆動するモーター8は、ターゲット94の使用量の増加に応じて、磁石ユニット5の外縁とターゲット94の外縁とのY方向の最近接距離を減少させるように制御される。例えば、磁石ユニット5は、当初、磁石ユニット5のY方向の外縁52aとターゲット94のY方向の外縁94aとの最近接距離がL1となる範囲内で揺動するが、ターゲット94の使用量が増加すると、最近接距離がL1より小さいL2となる範囲内で揺動する。
【0042】
最近接距離は、例えば、図12に示されるようにターゲット94の使用量の増加に応じて段階的に減少していく。これに限られず、直線的に減少してもよい。ターゲット94の使用量は、例えば、プラズマを誘起するために電源11が出力した電力(kW)と、出力した時間(h)との積で管理される。これに限られず、単にスパッタ総時間で管理してもよい。
【0043】
本実施形態の作用及び効果を説明する前に、図6を用いて、最近接距離Lcを変化させない従来技術について説明する。マグネトロンスパッタリングにおいてプラズマが最も集中する位置は、磁場の水平成分が0となる位置であるため、図6(a)に示されるように、ターゲット94が最もスパッタされる位置Pは、磁場の水平成分が0となる点を結んだ線Hと、ターゲット94の上面とが交わる位置となる。ところが、磁場の水平成分が0となる点は磁石ユニット5の上面からZ方向に離れるに従ってY方向の外側にずれていることから、図6(b)に示されるように、ターゲット94の使用量が増加してターゲット94の厚さが減少すると、ターゲット94が最もスパッタされる位置Pは、Y方向の内側にずれてしまう。その結果、プラズマによりスパッタされるエロージョン領域E’はY方向の内側に縮小し、プラズマによりスパッタされない非エロージョン領域N’はY方向の内側に拡大してしまう。
【0044】
また、図7は、従来技術におけるターゲット94の(a)平面図及び(b)断面図である。ターゲット94の上面は、徐々にスパッタされて徐々に窪んでいき、全体として凹状の表面を形成する。スパッタが進行(すなわち、ターゲット94の使用量が増加)していくと、ターゲット94がスパッタされる領域の外郭94bと、ターゲット94の外縁94aとの距離が徐々に大きくなる。
【0045】
これに対し、図8に示されるように、本実施形態では、ターゲット94の使用量の増加に応じて、磁石ユニット5の外縁とターゲット94の外縁とのY方向の最近接距離をL1からL2に減少させている。このため、図8(b)に示されるように、ターゲット94の使用量が増加してターゲット94の厚さが減少しても、ターゲット94が最もスパッタされる位置PがY方向の内側にずれることが抑制される。その結果、エロージョン領域Eの縮小及び非エロージョン領域Nの拡大を抑制することが可能となり、非エロージョン領域Nがほぼ一定となる。また、ターゲットの利用効率を高めることが出来る。
【0046】
また、最近接距離をL1からL2に減少させても、ターゲット94が最もスパッタされる位置P(すなわち、プラズマが最も集中する位置)が図8中のY方向のターゲット94の外縁94aに近づくことが抑制されるので、アーキングの発生回数を抑制することも可能である。ターゲット94が最もスパッタされる位置Pは、最近接距離をL1からL2に減少させたときに、Y方向に変化しないようにすることが好ましい。
【0047】
また、図9は、本実施形態におけるターゲット94の(a)平面図及び(b)断面図である。本実施形態では、スパッタが進行(すなわち、ターゲット94の使用量が増加)しても、ターゲット94がスパッタされる領域の外郭94bと、ターゲット94の外縁94a(少なくともY方向の外縁)との距離が略一定となる。
【0048】
図10は、磁石ユニット5の第2の移動例を表す図である。本例において、磁石ユニット5を駆動するモーター8は、マグネトロンスパッタリングを実行する間、図中の矢印に示されるように磁石ユニット5をX方向とY方向に揺動させる。具体的には、磁石ユニット5は、Y方向の一方の端から他方の端まで移動し、X方向に移動し、Y方向の他方の端から一方の端まで移動し、X方向に移動するという動作を繰り返す。このように、磁石ユニット5は蛇行するように移動する(すなわちY方向に往復し、X方向に進行する)。
【0049】
本例においても、上記図5及び図8に示される第1の移動例と同様に、磁石ユニット5は、ターゲット94の使用量の増加に応じて、磁石ユニット5のY方向の外縁52aとターゲット94のY方向の外縁94aとのY方向の最近接距離がL1からL2に減少するように揺動する。これにより、本例においても、非エロージョン領域Nの拡大を抑制することが可能であり、アーキングの発生回数を抑制することが可能である。また、ターゲットの利用効率を高めることが出来る。
【0050】
なお、図2Aに示されるように、磁石ユニット5のX方向の両端部では、第1の磁石51と第2の磁石52の間の磁場が比較的小さく、磁場の水平成分が0となる点を結んだ線Hが他の部分よりも第1の磁石51の近いことから、アーキングが発生しにくい。このため、本例では、ターゲット94の使用量の増加に応じてY方向の最近接距離のみを減少させており、X方向の最近接距離がY方向の最近接距離を下回ることがあっても問題としない。
【0051】
図11は、磁石ユニット5の第3の移動例を表す図である。本例において、磁石ユニット5は、ターゲット94の使用量の増加に応じて、磁石ユニット5とターゲット94とのZ方向の最近接距離を増加させる。例えば、当初、磁石ユニット5とターゲット94とのZ方向の最近接距離がD1であるが、ターゲット94の使用量が増加すると、最近接距離がD1より大きいD2となる。これによると、図11(b)に示されるように、ターゲット94の使用量が増加してターゲット94の厚さが減少しても、ターゲット94が最もスパッタされる位置PがY方向の内側にずれることが抑制される。その結果、エロージョン領域E’の縮小及び非エロージョン領域N’の拡大を抑制することが可能となる。その結果、ターゲット94の利用効率を高めることも可能となる。
【0052】
また、最近接距離をD1からD2に増加させても、ターゲット94が最もスパッタされる位置P(すなわち、プラズマが最も集中する位置)がY方向の外側にずれることが抑制されるので、アーキングの発生回数を抑制することも可能である。ターゲット94が最もスパッタされる位置Pは、最近接距離をD1からD2に増加させたときに、Y方向に変化しないようにすることが好ましい。なお、本例では、マグネトロンスパッタリングを実行する間、ターゲット94の利用効率を高めるために、磁石ユニット5をZ方向に揺動させてもよい。
【0053】
以上に本発明の実施形態を開示したが、本発明の範囲はこれらの実施形態に限られるものではない。例えば、以下に記載された発明も含む。
【0054】
本発明は、ターゲットのスパッタされる面とは反対の面と向かい合う面に第1の極性を有する第1の磁石と、スパッタされる面とは反対の面と向かい合う面に第2の極性を有する第2の磁石と、を含む磁石ユニットを備える。この磁石ユニットは、第1の磁石と第2の磁石との間に生じる磁場の水平成分がゼロとなる部分が、第1の磁石の面または第2の磁石の面からターゲットに近づくに従って、つまり磁石ユニットから離れるに従って、第2の磁石側に傾くように配置されている。この磁石ユニットを使用してターゲットをスパッタすることにより酸化物からなる薄膜を形成する薄膜の製造方法である。または、この磁石ユニットを備える薄膜製造装置に関する。
【0055】
そして、ターゲットのスパッタされない非エロージョン領域が出来る限り拡大しないようにターゲットまたは磁石ユニットを制御しながらスパッタを実施する。つまり、ターゲットをスパッタして薄膜を製造する際に、ターゲットがスパッタされる領域の外郭とターゲットの外縁との最短距離が、ターゲットの使用中に略一定となるように、ターゲットまたは磁石ユニットを制御しながら調整するものである。
【0056】
以下、本発明の効果を確認するために実施した実験について説明する。図13は、比較例の実験結果を表す図である。図14は、実施例の実験結果を表す図である。実施例は、上記図5及び図7に示された実施形態であり、比較例は、上記図6に示された従来技術である。
【0057】
図13(a)及び図14(a)は、ターゲット94の使用量と、基板92に付着する異物の平均異物個数との関係を表すグラフである。0−33%における平均異物個数を1.00とし、それに対する相対値を表している。基板92に付着した異物の個数の測定には、レーザーの散乱を利用したパーティクル測定器を用いた。ターゲット94の使用量は、所定の重量が消失する電力と時間の積(kW・h)を基準とするパーセント比を表している。なお、33%到達時、65%到達時、99%到達時のそれぞれで異物の個数を測定した後、ターゲット94の非エロ−ジョン領域Nの付着物を取り除いた。
【0058】
図13(a)に示される比較例では、ターゲット94の使用量の増加に応じて平均異物個数が増加している。これは、ターゲット94の使用量の増加に応じてターゲット94の非エロ−ジョン領域Nが拡大したためであると考えられる。チャンバー2の内部に配置された部材のうち、ターゲット94以外の部材の表面には、付着物が剥がれ落ちないようにするための表面処理が施されている。このため、平均異物個数の増加は、ターゲット94の非エロ−ジョン領域Nの拡大と相関があると言うことができる。
【0059】
これに対し、図14(a)に示される実施例では、ターゲット94の使用量が増加しても、平均異物個数がほとんど変化していない。これは、ターゲット94の使用量が増加しても、ターゲット94の非エロ−ジョン領域Nの拡大が抑制されていることを表していると考えられる。
【0060】
図13(b)及び図14(b)は、磁石ユニット5の外縁とターゲット94の外縁との外縁間距離と、アーキングの発生回数との関係を表すグラフである。図13(b)は、ターゲット94の使用量が5%の場合を表している。この図によると、外縁間距離がある閾値を下回ると急激にアーキングの発生回数が増加することがわかる。
【0061】
また、図14(b)は、ターゲット94の使用量が5%の場合と65%の場合とを表している。この図によると、ターゲット94の使用量の増加に伴って、アーキングの発生回数が増加する閾値が減少することがわかる。すなわち、ターゲット94の使用量の増加に応じて外縁間距離を減少させても、アーキングの発生回数が増加しないことがわかる。
【0062】
以下、本実施形態に係る薄膜製造装置1を利用して液晶表示装置を製造する工程について説明する。始めに、薄膜トランジスタ、ゲートライン、データライン及び画素電極を含むTFT基板が製造される。これらの導体の少なくとも一部は、ITO等からなる透明導電膜で構成される。この透明導電膜は、本実施形態に係る薄膜製造装置1においてマグネトロンスパッタリングを実行することにより形成される。次いで、カラーフィルタを含むCF基板が製造される。次いで、TFT基板とCF基板の間に液晶を注入することで、液晶表示パネルが製造される。その後、液晶表示パネルに回路等の部品を組み付けることで、液晶表示装置が製造される。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が当業者にとって可能であるのはもちろんである。
【0064】
例えば、上記実施形態では、磁石ユニット5をターゲット94に対して移動させていたが、これに限られず、ターゲット94を磁石ユニット5に対して移動させてもよい。また、薄膜製造装置1が磁石ユニット5を揺動させる機構を備えていない場合であっても、例えば、ターゲット94の使用量に応じて、大きさの異なる磁石ユニット5を交換すること等によっても、磁石ユニット5の外縁とターゲット94の外縁との最近接距離を変更することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 薄膜製造装置、2 チャンバー、2a ガス導入口、2b ガス排気口、3 トレイ、4 プレート、5 磁石ユニット、6 シールド、7 電極、8 モーター、11 電源、12 ポンプ、51 第1の磁石、51a 長辺、513 磁石、52 第2の磁石、52a 外縁、52c 長辺部、523 磁石、53 プレート、92 基板、94 ターゲット、94a 外縁、94b 外郭、M 磁力線、H 磁場の水平成分が0の点を結ぶ線、E エロージョン領域、N 非エロージョン領域、P 最もスパッタされる位置、L1,L2 最近接距離、D1,D2 最近接距離。
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜の製造方法、薄膜製造装置、及び液晶表示装置の製造方法に関し、特には、マグネトロンスパッタリングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、成膜方法の1つとしてマグネトロンスパッタリングが知られている。マグネトロンスパッタリングでは、薄膜の原材料となるターゲットの一方の面と対向して基板が配置され、ターゲットの他方の面と対向して磁石ユニットが配置される。磁石ユニットが生成する磁場によりターゲットの表面近傍にプラズマを集中させることで、成膜速度が高められる。また、マグネトロンスパッタリングでは、ターゲットの利用効率を高めるためにターゲットに対して磁石ユニットを揺動させることがある。特許文献1には、マグネトロンスパッタリングにより透明導電性を有する酸化物を基板上に成膜する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−74181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、図15に示されるように、ターゲットTの表面のうち、プラズマによってスパッタされるエロージョン領域Eから飛び散ったターゲットの粒子は、プラズマによってスパッタされない非エロージョン領域Nに付着する。非エロージョン領域Nは、ターゲットTの外縁に沿って形成される。酸化物からなるターゲットを用いた場合、非エロージョン領域Nに付着したターゲットの粒子は、ターゲットTの表面から剥がれて、基板Bの表面に異物として付着する傾向にある。また、ターゲットTの使用量が増加するのに伴って、基板Bの表面に付着する異物の数が増加することも分かっている。
【0005】
なお、基板Bへの異物の付着を抑制するためには、ターゲットTの外縁と磁石ユニットMの外縁との距離Lを縮めることで、ターゲットの粒子が付着する非エロージョン領域Nを狭めることが好ましい。しかし、距離Lを縮め過ぎると、ターゲットTの周囲の配置された接地シールドGにプラズマ中の荷電粒子が流れ込むアーキングの発生回数が増加してしまう。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みて為されたものであり、アーキングの発生回数を抑制しつつも、基板への異物の付着を抑制することが可能な薄膜の製造方法、薄膜製造装置、及び液晶表示装置の製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の薄膜の製造方法は、ターゲットをスパッタして酸化物からなる薄膜を形成する薄膜の製造方法であって、前記ターゲットのスパッタされる面とは反対の面と向かい合う面に第1の極性を有する第1の磁石と、前記反対の面と向かい合う面に第2の極性を有し、前記第1の磁石の両側に配置される第2の磁石と、を含む磁石ユニットを配置し、前記ターゲットの使用量の増加に応じて、前記磁石ユニットの外縁と前記ターゲットの外縁との面内方向の最近接距離を減少させる、ことを特徴とする。
【0008】
マグネトロンスパッタリングにおいてプラズマが最も集中する位置は、磁石ユニットが生成する磁場の水平成分(ターゲットの面内方向の成分)が0となる位置である。磁石ユニットにおいて第1の磁石の周囲に第2の磁石を配置した場合、内側に位置する第1の磁石では、外側に位置する第2の磁石と比較して、自身で閉じられる磁場の量が少ない。このため、第1の磁石と第2の磁石との間の磁場の水平成分が0となる位置は、磁石ユニットから離れるに従って外側にずれる(図2Bを参照)。このことは、ターゲットの厚さが減少するのに従って、最もスパッタされる位置が内側にずれ、非エロージョン領域が拡大することを意味する(図6を参照)。
【0009】
そこで、本発明では、ターゲットの使用量の増加に応じて磁石ユニットの外縁とターゲットの外縁との面内方向の最近接距離を減少させることによって、アーキングの発生回数を抑制しつつ、非エロージョン領域の拡大を抑制している。これにより、基板への異物の付着を抑制することが可能である。また、ターゲットの利用効率を高めることが出来る。
【0010】
また、本発明の一態様では、前記第1の磁石は、長辺を有する帯状に構成され、前記磁石ユニットの外縁は、前記第2の磁石のうち、前記第1の磁石の長辺と略平行な外縁である。これによると、第1の磁石の幅方向において非エロージョン領域の拡大を抑制することが可能である。また、ターゲットの利用効率を高めることが出来る。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記磁石ユニットを前記面内方向に揺動させる。これによると、ターゲットの利用効率を高めることが可能である。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記第1の磁石及び前記第2の磁石の少なくとも一方は、配列する複数の磁石で構成される。これによると、複数の磁石の配列によって、第1の磁石及び第2の磁石の形状の自由度を高めることが可能である。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記磁石ユニットの面内において前記第1の磁石の長辺方向に対して垂直方向の前記第1の磁石の長さが、前記第1の磁石の両側に配置された前記第2の磁石の前記垂直方向の長さの合計と略同じであることが好ましい。
【0014】
また、本発明の一態様では、前記薄膜は、スズ添加酸化インジウム(ITO)からなる。これによると、異物の付着が抑制されたITO薄膜を得ることが可能である。
【0015】
また、本発明の薄膜の製造方法は、ターゲットをスパッタして酸化物からなる薄膜を形成する薄膜の製造方法であって、前記ターゲットのスパッタされる面とは反対の面と向かい合う面に第1の極性を有する第1の磁石と、前記反対の面と向かい合う面に第2の極性を有し、前記第1の磁石の両側に配置される第2の磁石と、を含む磁石ユニットを配置し、前記ターゲットの使用量の増加に応じて、前記磁石ユニットと前記ターゲットとの面外方向の最近接距離を増加させる、ことを特徴とする。
【0016】
本発明によると、ターゲットの使用量の増加に応じて磁石ユニットとターゲットとの面外方向の最近接距離を増加させることによって、アーキングの発生回数を抑制しつつ、非エロージョン領域の拡大を抑制している。これにより、基板への異物の付着を抑制することが可能である。また、ターゲットの利用効率を高めることが出来る。
【0017】
また、本発明の薄膜の製造方法は、ターゲットをスパッタして酸化物からなる薄膜を形成する薄膜の製造方法であって、前記ターゲットのスパッタされる面とは反対の面と向かい合う面に第1の極性を有する第1の磁石と、前記反対の面と向かい合う面に第2の極性を有する第2の磁石と、を含む磁石ユニットであって、前記第1の磁石と第2の磁石との間に生じる磁場の水平成分がゼロとなる部分が前記第1の磁石の面または前記第2の磁石の面から前記ターゲットに近づくに従って前記第2の磁石側に傾くように配置し、前記ターゲットがスパッタされる領域の外郭と前記ターゲットの外縁との最短距離が略一定になるように前記ターゲットまたは前記磁石ユニットを制御する、ことを特徴とする。
【0018】
本発明によると、ターゲットがスパッタされる領域の外郭とターゲットの外縁との最短距離を略一定として、非エロージョン領域の拡大を抑制している。これにより、基板への異物の付着を抑制することが可能である。また、ターゲットの利用効率を高めることが出来る。
【0019】
また、本発明の液晶表示装置の製造方法は、上記本発明の薄膜の製造方法で薄膜を製造する工程を含むことを特徴とする。本発明によると、異物の付着が抑制された酸化物薄膜を備える液晶表示装置を得ることが可能である。
【0020】
また、本発明の薄膜製造装置は、ターゲットをスパッタして酸化物からなる薄膜を形成する薄膜製造装置であって、前記ターゲットのスパッタされる面とは反対の面と向かい合う面に第1の極性を有する第1の磁石と、前記反対の面と向かい合う面に第2の極性を有し、前記第1の磁石の両側に配置される第2の磁石と、を含む磁石ユニットと、前記ターゲット及び前記磁石ユニットの一方を他方に対して揺動させる揺動手段であって、前記ターゲットの使用量の増加に応じて、前記磁石ユニットの外縁と前記ターゲットの外縁との面内方向の最近接距離を減少させる揺動手段と、を備えることを特徴とする。
【0021】
本発明によると、ターゲットの使用量の増加に応じて磁石ユニットの外縁とターゲットの外縁との面内方向の最近接距離を減少させることによって、アーキングの発生回数を抑制しつつ、非エロージョン領域の拡大を抑制している。これにより、基板への異物の付着を抑制することが可能である。また、ターゲットの利用効率を高めることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る薄膜製造装置を概略的に表す図である。
【図2A】磁石ユニットの平面図である。
【図2B】磁石ユニットの断面図である。
【図3】変形例に係る磁石ユニットの平面図である。
【図4】変形例に係る磁石ユニットの平面図である。
【図5】磁石ユニットの第1の移動例を表す図である。
【図6】従来技術を表す図である。
【図7】ターゲットの状態を表す図である。
【図8】磁石ユニットの第1の移動例を表す図である。
【図9】ターゲットの状態を表す図である。
【図10】磁石ユニットの第2の移動例を表す図である。
【図11】磁石ユニットの第3の移動例を表す図である。
【図12】ターゲット使用量と外縁間距離との関係例を表す図である。
【図13】比較例の実験結果を表す図である。
【図14】実施例の実験結果を表す図である。
【図15】従来技術を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の薄膜の製造方法、薄膜製造装置、及び液晶表示装置の製造方法の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係る薄膜製造装置1を概略的に表す図である。薄膜製造装置1は、マグネトロンスパッタリングを実行する装置である。薄膜製造装置1は、チャンバー2を備えており、チャンバー2の内部には、基板92を支持するトレイ3と、ターゲット94を支持するプレート4と、磁石ユニット5と、ターゲット94の周囲に配置される接地されたシールド6と、が配置されている。以下では、説明の便宜上、ターゲット94に対して基板92が配置される方向を上方とし、ターゲット94に対して磁石ユニット5が配置される方向を下方とするが、実際の使用方法としてはターゲット94の外縁を上方または下方とする場合もある。
【0025】
基板92を支持するトレイ3は、基板92の下面がターゲット94の上面と向かい合うように、基板92の外縁部を支持する。基板92の下面には、マグネトロンスパッタリングを実行することにより薄膜が形成される。ターゲット94を支持するプレート4には、電極7が設けられており、この電極7は、チャンバー2の外部に配置された電源11に接続されている。電源11は、チャンバー2の内部にプラズマを誘起するため、負の直流電圧または高周波電圧を出力する。
【0026】
チャンバー2には、ガス導入口2a及びガス排気口2bが設けられている。このうち、ガス排気口2bには、チャンバー2の内部の気体を外部へ排出するためのポンプ12が設けられている。マグネトロンスパッタリングは、チャンバー2の内部を真空にした後、Ar等の希ガスを導入した雰囲気において実行される。
【0027】
磁石ユニット5は、ターゲット94の上面近傍に形成される磁場により、ターゲット94の上面近傍にプラズマを集中させることで、基板92に形成される薄膜の成膜速度を高める。モーター8は、揺動手段の一例であり、磁石ユニット5をターゲット94に対して揺動させる。磁石ユニット5の構成例及び移動例については、後に詳しく述べる。
【0028】
本実施形態では、薄膜製造装置1でマグネトロンスパッタリングを実行することにより、透明導電性を有する酸化物からなる薄膜を基板92の下面に形成する。透明導電性を有する酸化物としては、スズ添加酸化インジウム(ITO)が代表的である。この場合、ターゲット94としては、In2O3とSnO2の焼結体などが用いられる。他の酸化物としては、酸化インジウム・亜鉛(IZO)や酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)などがある。
【0029】
図2Aは、磁石ユニット5の平面図である。図2Bは、図2Aの破断線における磁石ユニット5の断面図である。以下の説明において、X,Y方向は、ターゲット94及び磁石ユニット5の面内方向である。また、Z方向は、ターゲット94及び磁石ユニット5の面外方向(すなわち、ターゲット94の上面に対して垂直な方向)である。図2Bでは、磁石ユニット5が生成する磁場を表す磁力線Mを実線で示し、磁場の水平成分が0となる点を結んだ線Hを二点鎖線で示している。
【0030】
磁石ユニット5は、第1の磁石51と、第1の磁石51の面内方向の周囲に配置される環状の第2の磁石52と、第1の磁石51及び第2の磁石52が載置されるプレート53と、を備えている。第1の磁石51は、ターゲット94の下面と向かい合う上面に第1の極性(例えばN極)を有しており、下面に第2の極性(例えばS極)を有している。第2の磁石52は、ターゲット94の下面と向かい合う上面に第2の極性を有しており、下面に第1の極性を有している。
【0031】
第1の磁石51は、配列する複数のブロック状の磁石513で構成されており、全体としてX方向に延伸する帯状に形成されており、X方向に延伸する長辺51aを有している。第2の磁石52は、配列する複数のブロック状の磁石523で構成されており、全体としてX方向に延伸する環状に形成されており、X方向に延伸する一対の長辺部52cを有している。これら長辺部52cは、第1の磁石51に対してY方向の両側に配置されている。
【0032】
第1の磁石51のY方向の幅は、第2の磁石52に含まれる一対の長辺部52cのY方向の幅の合計と、ほぼ等しくなるように設定されている。また、第1の磁石51のX方向の両端部と、第2の磁石52のX方向の両端部は、第1の磁石51と第2の磁石52の間隔が均一化されるように窄んだ形状となっている。なお、第1の磁石51を包囲する第2の磁石52は、完全に閉じていなくてもよく、複数の磁石523の間に空隙があってもよい。
【0033】
以上のような磁石ユニット5では、図2Bに示されるように、第1の磁石51の上面から第2の磁石52の上面へ向けて(又はその逆)、山なりの磁場が形成される。第1の磁石51は第2の磁石52に包囲されているため、第1の磁石51と第2の磁石52との間の磁場は、基本的に放射状に形成される。但し、第1の磁石51と、その両側に配置される第2の磁石52の一対の長辺部52cと、がX方向に延伸していることから、第1の磁石51と各々の長辺部52cとの間の磁場は、主にY方向に沿って形成される。
【0034】
また、第2の磁石52の磁場の一部は、第2の磁石52の上面から下面へ回り込んで自身で閉じられる。このように、第2の磁石52の磁場の一部は自身で閉じられるのに対し、第1の磁石51の磁場は自身で閉じられ難いため、第1の磁石51と第2の磁石52との間の磁場の水平成分が0となる点を結んだ線Hは、磁石ユニット5からZ方向に離れるに従ってY方向の外側にずれる。
【0035】
なお、図2Aに示されるように、磁石ユニット5のX方向の両端部では、第1の磁石51の磁場が第2の磁石52の磁場と比較して小さいため、磁場の水平成分が0となる点を結んだ線Hは、他の部分よりも第1の磁石51に近づいている。
【0036】
図3及び図4は、変形例に係る磁石ユニット5の平面図である。上記実施形態と重複する構成については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。図3に示される変形例では、第2の磁石52のX方向の両端部が閉じられておらず、第2の磁石52は、第1の磁石51に対してY方向の両側に配置された、X方向に延伸する一対の長辺部52cからなる。このような態様であっても、上記図2A及び図2Bの実施形態と同様の磁場プロファイルが得られる。
【0037】
また、図4に示される変形例では、第2の磁石52の一対の長辺部52cを構成する複数の磁石523のうち端の一部が、他部よりも第1の磁石51から離れて配置されている。このような態様であっても、上記図2A及び図2Bの実施形態と同様の磁場プロファイルが得られる上、一部の磁石523の位置をずらすことで、磁場の強弱、ひいてはスパッタの強弱を位置に応じて調整することが可能である。
【0038】
図5は、磁石ユニット5の第1の移動例を表す図である。磁石ユニット5は、矩形板状のターゲット94の下方に配置されており、平面視においてターゲット94の範囲内に包含されている。ターゲット94のX方向の幅と磁石ユニット5のX方向の幅との差は比較的小さいのに対し、ターゲット94のY方向の幅と磁石ユニット5のY方向の幅との差は比較的大きい。
【0039】
図中の破線は、磁石ユニット5の外縁を表している。ここで、磁石ユニット5の外縁とは、磁性を有する部分の外縁を意味し、上記図2A及び図2Bに示される磁石ユニット5では、第2の磁石52の外縁52aがそれに該当する。
【0040】
磁石ユニット5を駆動するモーター8は、マグネトロンスパッタリングを実行する間、ターゲット94の利用効率を高めるために、図中の矢印に示されるように磁石ユニット5をY方向に揺動させる。モーター8には、磁石ユニット5が指定される範囲内で往復移動するように不図示のコントローラーから電流が与えられる。
【0041】
ここで、磁石ユニット5を駆動するモーター8は、ターゲット94の使用量の増加に応じて、磁石ユニット5の外縁とターゲット94の外縁とのY方向の最近接距離を減少させるように制御される。例えば、磁石ユニット5は、当初、磁石ユニット5のY方向の外縁52aとターゲット94のY方向の外縁94aとの最近接距離がL1となる範囲内で揺動するが、ターゲット94の使用量が増加すると、最近接距離がL1より小さいL2となる範囲内で揺動する。
【0042】
最近接距離は、例えば、図12に示されるようにターゲット94の使用量の増加に応じて段階的に減少していく。これに限られず、直線的に減少してもよい。ターゲット94の使用量は、例えば、プラズマを誘起するために電源11が出力した電力(kW)と、出力した時間(h)との積で管理される。これに限られず、単にスパッタ総時間で管理してもよい。
【0043】
本実施形態の作用及び効果を説明する前に、図6を用いて、最近接距離Lcを変化させない従来技術について説明する。マグネトロンスパッタリングにおいてプラズマが最も集中する位置は、磁場の水平成分が0となる位置であるため、図6(a)に示されるように、ターゲット94が最もスパッタされる位置Pは、磁場の水平成分が0となる点を結んだ線Hと、ターゲット94の上面とが交わる位置となる。ところが、磁場の水平成分が0となる点は磁石ユニット5の上面からZ方向に離れるに従ってY方向の外側にずれていることから、図6(b)に示されるように、ターゲット94の使用量が増加してターゲット94の厚さが減少すると、ターゲット94が最もスパッタされる位置Pは、Y方向の内側にずれてしまう。その結果、プラズマによりスパッタされるエロージョン領域E’はY方向の内側に縮小し、プラズマによりスパッタされない非エロージョン領域N’はY方向の内側に拡大してしまう。
【0044】
また、図7は、従来技術におけるターゲット94の(a)平面図及び(b)断面図である。ターゲット94の上面は、徐々にスパッタされて徐々に窪んでいき、全体として凹状の表面を形成する。スパッタが進行(すなわち、ターゲット94の使用量が増加)していくと、ターゲット94がスパッタされる領域の外郭94bと、ターゲット94の外縁94aとの距離が徐々に大きくなる。
【0045】
これに対し、図8に示されるように、本実施形態では、ターゲット94の使用量の増加に応じて、磁石ユニット5の外縁とターゲット94の外縁とのY方向の最近接距離をL1からL2に減少させている。このため、図8(b)に示されるように、ターゲット94の使用量が増加してターゲット94の厚さが減少しても、ターゲット94が最もスパッタされる位置PがY方向の内側にずれることが抑制される。その結果、エロージョン領域Eの縮小及び非エロージョン領域Nの拡大を抑制することが可能となり、非エロージョン領域Nがほぼ一定となる。また、ターゲットの利用効率を高めることが出来る。
【0046】
また、最近接距離をL1からL2に減少させても、ターゲット94が最もスパッタされる位置P(すなわち、プラズマが最も集中する位置)が図8中のY方向のターゲット94の外縁94aに近づくことが抑制されるので、アーキングの発生回数を抑制することも可能である。ターゲット94が最もスパッタされる位置Pは、最近接距離をL1からL2に減少させたときに、Y方向に変化しないようにすることが好ましい。
【0047】
また、図9は、本実施形態におけるターゲット94の(a)平面図及び(b)断面図である。本実施形態では、スパッタが進行(すなわち、ターゲット94の使用量が増加)しても、ターゲット94がスパッタされる領域の外郭94bと、ターゲット94の外縁94a(少なくともY方向の外縁)との距離が略一定となる。
【0048】
図10は、磁石ユニット5の第2の移動例を表す図である。本例において、磁石ユニット5を駆動するモーター8は、マグネトロンスパッタリングを実行する間、図中の矢印に示されるように磁石ユニット5をX方向とY方向に揺動させる。具体的には、磁石ユニット5は、Y方向の一方の端から他方の端まで移動し、X方向に移動し、Y方向の他方の端から一方の端まで移動し、X方向に移動するという動作を繰り返す。このように、磁石ユニット5は蛇行するように移動する(すなわちY方向に往復し、X方向に進行する)。
【0049】
本例においても、上記図5及び図8に示される第1の移動例と同様に、磁石ユニット5は、ターゲット94の使用量の増加に応じて、磁石ユニット5のY方向の外縁52aとターゲット94のY方向の外縁94aとのY方向の最近接距離がL1からL2に減少するように揺動する。これにより、本例においても、非エロージョン領域Nの拡大を抑制することが可能であり、アーキングの発生回数を抑制することが可能である。また、ターゲットの利用効率を高めることが出来る。
【0050】
なお、図2Aに示されるように、磁石ユニット5のX方向の両端部では、第1の磁石51と第2の磁石52の間の磁場が比較的小さく、磁場の水平成分が0となる点を結んだ線Hが他の部分よりも第1の磁石51の近いことから、アーキングが発生しにくい。このため、本例では、ターゲット94の使用量の増加に応じてY方向の最近接距離のみを減少させており、X方向の最近接距離がY方向の最近接距離を下回ることがあっても問題としない。
【0051】
図11は、磁石ユニット5の第3の移動例を表す図である。本例において、磁石ユニット5は、ターゲット94の使用量の増加に応じて、磁石ユニット5とターゲット94とのZ方向の最近接距離を増加させる。例えば、当初、磁石ユニット5とターゲット94とのZ方向の最近接距離がD1であるが、ターゲット94の使用量が増加すると、最近接距離がD1より大きいD2となる。これによると、図11(b)に示されるように、ターゲット94の使用量が増加してターゲット94の厚さが減少しても、ターゲット94が最もスパッタされる位置PがY方向の内側にずれることが抑制される。その結果、エロージョン領域E’の縮小及び非エロージョン領域N’の拡大を抑制することが可能となる。その結果、ターゲット94の利用効率を高めることも可能となる。
【0052】
また、最近接距離をD1からD2に増加させても、ターゲット94が最もスパッタされる位置P(すなわち、プラズマが最も集中する位置)がY方向の外側にずれることが抑制されるので、アーキングの発生回数を抑制することも可能である。ターゲット94が最もスパッタされる位置Pは、最近接距離をD1からD2に増加させたときに、Y方向に変化しないようにすることが好ましい。なお、本例では、マグネトロンスパッタリングを実行する間、ターゲット94の利用効率を高めるために、磁石ユニット5をZ方向に揺動させてもよい。
【0053】
以上に本発明の実施形態を開示したが、本発明の範囲はこれらの実施形態に限られるものではない。例えば、以下に記載された発明も含む。
【0054】
本発明は、ターゲットのスパッタされる面とは反対の面と向かい合う面に第1の極性を有する第1の磁石と、スパッタされる面とは反対の面と向かい合う面に第2の極性を有する第2の磁石と、を含む磁石ユニットを備える。この磁石ユニットは、第1の磁石と第2の磁石との間に生じる磁場の水平成分がゼロとなる部分が、第1の磁石の面または第2の磁石の面からターゲットに近づくに従って、つまり磁石ユニットから離れるに従って、第2の磁石側に傾くように配置されている。この磁石ユニットを使用してターゲットをスパッタすることにより酸化物からなる薄膜を形成する薄膜の製造方法である。または、この磁石ユニットを備える薄膜製造装置に関する。
【0055】
そして、ターゲットのスパッタされない非エロージョン領域が出来る限り拡大しないようにターゲットまたは磁石ユニットを制御しながらスパッタを実施する。つまり、ターゲットをスパッタして薄膜を製造する際に、ターゲットがスパッタされる領域の外郭とターゲットの外縁との最短距離が、ターゲットの使用中に略一定となるように、ターゲットまたは磁石ユニットを制御しながら調整するものである。
【0056】
以下、本発明の効果を確認するために実施した実験について説明する。図13は、比較例の実験結果を表す図である。図14は、実施例の実験結果を表す図である。実施例は、上記図5及び図7に示された実施形態であり、比較例は、上記図6に示された従来技術である。
【0057】
図13(a)及び図14(a)は、ターゲット94の使用量と、基板92に付着する異物の平均異物個数との関係を表すグラフである。0−33%における平均異物個数を1.00とし、それに対する相対値を表している。基板92に付着した異物の個数の測定には、レーザーの散乱を利用したパーティクル測定器を用いた。ターゲット94の使用量は、所定の重量が消失する電力と時間の積(kW・h)を基準とするパーセント比を表している。なお、33%到達時、65%到達時、99%到達時のそれぞれで異物の個数を測定した後、ターゲット94の非エロ−ジョン領域Nの付着物を取り除いた。
【0058】
図13(a)に示される比較例では、ターゲット94の使用量の増加に応じて平均異物個数が増加している。これは、ターゲット94の使用量の増加に応じてターゲット94の非エロ−ジョン領域Nが拡大したためであると考えられる。チャンバー2の内部に配置された部材のうち、ターゲット94以外の部材の表面には、付着物が剥がれ落ちないようにするための表面処理が施されている。このため、平均異物個数の増加は、ターゲット94の非エロ−ジョン領域Nの拡大と相関があると言うことができる。
【0059】
これに対し、図14(a)に示される実施例では、ターゲット94の使用量が増加しても、平均異物個数がほとんど変化していない。これは、ターゲット94の使用量が増加しても、ターゲット94の非エロ−ジョン領域Nの拡大が抑制されていることを表していると考えられる。
【0060】
図13(b)及び図14(b)は、磁石ユニット5の外縁とターゲット94の外縁との外縁間距離と、アーキングの発生回数との関係を表すグラフである。図13(b)は、ターゲット94の使用量が5%の場合を表している。この図によると、外縁間距離がある閾値を下回ると急激にアーキングの発生回数が増加することがわかる。
【0061】
また、図14(b)は、ターゲット94の使用量が5%の場合と65%の場合とを表している。この図によると、ターゲット94の使用量の増加に伴って、アーキングの発生回数が増加する閾値が減少することがわかる。すなわち、ターゲット94の使用量の増加に応じて外縁間距離を減少させても、アーキングの発生回数が増加しないことがわかる。
【0062】
以下、本実施形態に係る薄膜製造装置1を利用して液晶表示装置を製造する工程について説明する。始めに、薄膜トランジスタ、ゲートライン、データライン及び画素電極を含むTFT基板が製造される。これらの導体の少なくとも一部は、ITO等からなる透明導電膜で構成される。この透明導電膜は、本実施形態に係る薄膜製造装置1においてマグネトロンスパッタリングを実行することにより形成される。次いで、カラーフィルタを含むCF基板が製造される。次いで、TFT基板とCF基板の間に液晶を注入することで、液晶表示パネルが製造される。その後、液晶表示パネルに回路等の部品を組み付けることで、液晶表示装置が製造される。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が当業者にとって可能であるのはもちろんである。
【0064】
例えば、上記実施形態では、磁石ユニット5をターゲット94に対して移動させていたが、これに限られず、ターゲット94を磁石ユニット5に対して移動させてもよい。また、薄膜製造装置1が磁石ユニット5を揺動させる機構を備えていない場合であっても、例えば、ターゲット94の使用量に応じて、大きさの異なる磁石ユニット5を交換すること等によっても、磁石ユニット5の外縁とターゲット94の外縁との最近接距離を変更することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 薄膜製造装置、2 チャンバー、2a ガス導入口、2b ガス排気口、3 トレイ、4 プレート、5 磁石ユニット、6 シールド、7 電極、8 モーター、11 電源、12 ポンプ、51 第1の磁石、51a 長辺、513 磁石、52 第2の磁石、52a 外縁、52c 長辺部、523 磁石、53 プレート、92 基板、94 ターゲット、94a 外縁、94b 外郭、M 磁力線、H 磁場の水平成分が0の点を結ぶ線、E エロージョン領域、N 非エロージョン領域、P 最もスパッタされる位置、L1,L2 最近接距離、D1,D2 最近接距離。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットをスパッタして酸化物からなる薄膜を形成する薄膜の製造方法であって、
前記ターゲットのスパッタされる面とは反対の面と向かい合う面に第1の極性を有する第1の磁石と、前記反対の面と向かい合う面に第2の極性を有し、前記第1の磁石の両側に配置される第2の磁石と、を含む磁石ユニットを配置し、
前記ターゲットの使用量の増加に応じて、前記磁石ユニットの外縁と前記ターゲットの外縁との面内方向の最近接距離を減少させる、
ことを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記第1の磁石は、長辺を有する帯状に構成され、
前記磁石ユニットの外縁は、前記第2の磁石のうち、前記第1の磁石の長辺と略平行な外縁である、
請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記磁石ユニットを前記面内方向に揺動させる、
請求項1または2に記載の薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記第1の磁石及び前記第2の磁石の少なくとも一方は、配列する複数の磁石で構成される、
請求項1ないし3の何れかに記載の薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記磁石ユニットの面内において前記第1の磁石の長辺方向に対して垂直方向の前記第1の磁石の長さが、前記第1の磁石の両側に配置された前記第2の磁石の前記垂直方向の長さの合計と略同じである、
請求項1ないし4の何れかに記載の薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記薄膜は、スズ添加酸化インジウムからなる、
請求項1ないし5の何れかに記載の薄膜の製造方法。
【請求項7】
ターゲットをスパッタして酸化物からなる薄膜を形成する薄膜の製造方法であって、
前記ターゲットのスパッタされる面とは反対の面と向かい合う面に第1の極性を有する第1の磁石と、前記反対の面と向かい合う面に第2の極性を有し、前記第1の磁石の両側に配置される第2の磁石と、を含む磁石ユニットを配置し、
前記ターゲットの使用量の増加に応じて、前記磁石ユニットと前記ターゲットとの面外方向の最近接距離を増加させる、
ことを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項8】
ターゲットをスパッタして酸化物からなる薄膜を形成する薄膜の製造方法であって、
前記ターゲットのスパッタされる面とは反対の面と向かい合う面に第1の極性を有する第1の磁石と、前記反対の面と向かい合う面に第2の極性を有する第2の磁石と、を含む磁石ユニットであって、前記第1の磁石と第2の磁石との間に生じる磁場の水平成分がゼロとなる部分が前記第1の磁石の面または前記第2の磁石の面から前記ターゲットに近づくに従って前記第2の磁石側に傾くように配置し、
前記ターゲットがスパッタされる領域の外郭と前記ターゲットの外縁との最短距離が略一定になるように前記ターゲットまたは前記磁石ユニットを制御する、
ことを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし8の何れかに記載の薄膜の製造方法で薄膜を製造する工程を含むことを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項10】
ターゲットをスパッタして酸化物からなる薄膜を形成する薄膜製造装置であって、
前記ターゲットのスパッタされる面とは反対の面と向かい合う面に第1の極性を有する第1の磁石と、前記反対の面と向かい合う面に第2の極性を有し、前記第1の磁石の両側に配置される第2の磁石と、を含む磁石ユニットと、
前記ターゲット及び前記磁石ユニットの一方を他方に対して揺動させる揺動手段であって、前記ターゲットの使用量の増加に応じて、前記磁石ユニットの外縁と前記ターゲットの外縁との面内方向の最近接距離を減少させる揺動手段と、
を備えることを特徴とする薄膜製造装置。
【請求項1】
ターゲットをスパッタして酸化物からなる薄膜を形成する薄膜の製造方法であって、
前記ターゲットのスパッタされる面とは反対の面と向かい合う面に第1の極性を有する第1の磁石と、前記反対の面と向かい合う面に第2の極性を有し、前記第1の磁石の両側に配置される第2の磁石と、を含む磁石ユニットを配置し、
前記ターゲットの使用量の増加に応じて、前記磁石ユニットの外縁と前記ターゲットの外縁との面内方向の最近接距離を減少させる、
ことを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記第1の磁石は、長辺を有する帯状に構成され、
前記磁石ユニットの外縁は、前記第2の磁石のうち、前記第1の磁石の長辺と略平行な外縁である、
請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記磁石ユニットを前記面内方向に揺動させる、
請求項1または2に記載の薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記第1の磁石及び前記第2の磁石の少なくとも一方は、配列する複数の磁石で構成される、
請求項1ないし3の何れかに記載の薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記磁石ユニットの面内において前記第1の磁石の長辺方向に対して垂直方向の前記第1の磁石の長さが、前記第1の磁石の両側に配置された前記第2の磁石の前記垂直方向の長さの合計と略同じである、
請求項1ないし4の何れかに記載の薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記薄膜は、スズ添加酸化インジウムからなる、
請求項1ないし5の何れかに記載の薄膜の製造方法。
【請求項7】
ターゲットをスパッタして酸化物からなる薄膜を形成する薄膜の製造方法であって、
前記ターゲットのスパッタされる面とは反対の面と向かい合う面に第1の極性を有する第1の磁石と、前記反対の面と向かい合う面に第2の極性を有し、前記第1の磁石の両側に配置される第2の磁石と、を含む磁石ユニットを配置し、
前記ターゲットの使用量の増加に応じて、前記磁石ユニットと前記ターゲットとの面外方向の最近接距離を増加させる、
ことを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項8】
ターゲットをスパッタして酸化物からなる薄膜を形成する薄膜の製造方法であって、
前記ターゲットのスパッタされる面とは反対の面と向かい合う面に第1の極性を有する第1の磁石と、前記反対の面と向かい合う面に第2の極性を有する第2の磁石と、を含む磁石ユニットであって、前記第1の磁石と第2の磁石との間に生じる磁場の水平成分がゼロとなる部分が前記第1の磁石の面または前記第2の磁石の面から前記ターゲットに近づくに従って前記第2の磁石側に傾くように配置し、
前記ターゲットがスパッタされる領域の外郭と前記ターゲットの外縁との最短距離が略一定になるように前記ターゲットまたは前記磁石ユニットを制御する、
ことを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし8の何れかに記載の薄膜の製造方法で薄膜を製造する工程を含むことを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項10】
ターゲットをスパッタして酸化物からなる薄膜を形成する薄膜製造装置であって、
前記ターゲットのスパッタされる面とは反対の面と向かい合う面に第1の極性を有する第1の磁石と、前記反対の面と向かい合う面に第2の極性を有し、前記第1の磁石の両側に配置される第2の磁石と、を含む磁石ユニットと、
前記ターゲット及び前記磁石ユニットの一方を他方に対して揺動させる揺動手段であって、前記ターゲットの使用量の増加に応じて、前記磁石ユニットの外縁と前記ターゲットの外縁との面内方向の最近接距離を減少させる揺動手段と、
を備えることを特徴とする薄膜製造装置。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−112838(P2013−112838A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258804(P2011−258804)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(506087819)パナソニック液晶ディスプレイ株式会社 (443)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(506087819)パナソニック液晶ディスプレイ株式会社 (443)
【Fターム(参考)】
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