説明

薄膜トランジスタ、及びその製造方法

【課題】本発明は、優れた半導体特性を有する薄膜トランジスタ、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の薄膜トランジスタは、ゲート電極、ゲート絶縁膜、半導体膜、ソース電極、及びドレイン電極を、基材上に有し、ゲート絶縁膜が、酸化ケイ素を含む層であり、かつゲート絶縁膜の表面の飛行時間型二次イオン質量分析から得られるポジティブイオンスペクトルにおいて、アルゴンとケイ素のピーク強度比(Ar/Si)が2.3×10−5以上である。また、薄膜トランジスタを製造する本発明の方法は、1.00×10−3Torr以下の圧力のアルゴン雰囲気における酸化ケイ素のスパッタリングによって、前記ゲート絶縁膜を堆積させることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた半導体特性を有する薄膜トランジスタ、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタのゲート絶縁膜としては、従来、基材材料であるシリコンを酸化した熱酸化ケイ素が用いられていた。しかしながら、この方式では、トランジスタを構成する際の構成上の制限があり、また熱酸化のために高温を用いなければならないというプロセス上の制限があった。したがって近年では、化学気相堆積(CVD)、物理気相堆積(PVD)等で成膜した酸化ケイ素膜を、薄膜トランジスタのゲート絶縁膜として用いることが考慮されている。
【0003】
しかしながら、化学気相堆積(CVD)、物理気相堆積(PVD)等による酸化ケイ素膜の成膜では、熱酸化による酸化ケイ素膜の成膜と比較して、高品質のゲート絶縁膜を得ることが難しく、また得られたゲート絶縁膜のリーク電流が大きいという問題があった。
【0004】
特に、フレキシブルな基材としてプラスチック基材を用いる場合、高温のプロセスを用いることが難しく、したがって高品質のゲート絶縁膜を得ることが難しかった。
【0005】
ここで、プラスチック基材を用いる薄膜トランジスタとしては、アモルファス酸化物半導体を半導体膜に用いた透明薄膜トランジスタが知られている。このような透明薄膜トランジスタでは、アモルファス酸化物半導体が低温で成膜可能であるので、プラスチック基材に薄膜トランジスタを形成可能であることが1つの利点であるとされている。しかしながら、上記のように、高温のプロセスを用いずに高品質のゲート絶縁膜を得ることは容易ではないので、アモルファス酸化物半導体と組み合わせて用いるための、低温で形成可能な高品質ゲート絶縁膜を得ることが望まれている。なお、アモルファス酸化物半導体と組み合わせて用いる絶縁膜については、多くの研究がなされている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−115807
【特許文献2】特開2008−166716
【特許文献3】特開2009−224479
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、優れた半導体特性を有する薄膜トランジスタ、特にアモルファス酸化物半導体を用いる透明トランジスタを提供する。また、本発明は、このような薄膜トランジスタの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〈1〉ゲート電極、ゲート絶縁膜、半導体膜、ソース電極、及びドレイン電極を、基材上に有する薄膜トランジスタであって、
上記ゲート絶縁膜が、酸化ケイ素を含む層であり、かつ上記ゲート絶縁膜の表面の飛行時間型二次イオン質量分析から得られるポジティブイオンスペクトルにおいて、アルゴンとケイ素のピーク強度比(Ar/Si)が2.3×10−5以上である、薄膜トランジスタ。
〈2〉上記半導体膜が、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、及びスズ(Sn)の少なくとも一つを含む酸化物からなるアモルファス酸化物半導体膜である、上記〈1〉項に記載の薄膜トランジスタ。
〈3〉上記基材が透明基材である、上記〈1〉又は〈2〉項に記載の薄膜トランジスタ。
〈4〉上記基材がプラスチック基材である、上記〈1〉〜〈3〉項のいずれかに記載の薄膜トランジスタ。
〈5〉上記〈1〉〜〈4〉項のいずれかに記載の薄膜トランジスタを有する、フレキシブルデバイス。
〈6〉1.00×10−3Torr以下の圧力のアルゴン雰囲気における酸化ケイ素のスパッタリングによって、上記ゲート絶縁膜を堆積させることを含む、上記〈1〉〜〈5〉項のいずれかに記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の薄膜トランジスタでは、ゲート絶縁膜のリーク電流が少なく、また良好な半導体特性を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明のゲート絶縁膜の構造を説明する概念図である。
【図2】図2は、従来のゲート絶縁膜の構造を説明する概念図である。
【図3】図3は、本発明の薄膜トランジスタの構造を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
《本発明の薄膜トランジスタ》
本発明の薄膜トランジスタは、ゲート電極、ゲート絶縁膜、半導体膜、ソース電極、及びドレイン電極を、基材上に有する。
【0012】
この薄膜トランジスタは例えば、図3に示すように、(a)ボトムゲート・トップコンタクト型(BGTC)、(b)ボトムゲート・ボトムコンタクト型(BGBC)、(c)トップゲート・トップコンタクト型(TGTC)、及び(d)トップゲート・ボトムコンタクト型(TGBC)のいずれであってもよい。
【0013】
これらの薄膜トランジスタ130、140、150及び160では、ソース電極134、144、154、164、ドレイン電極135、145、155、165、ゲート電極131、141、151、161、ゲート絶縁膜132、142、152、162、及び半導体膜133、143、153、163を有し、ゲート絶縁膜によってソース電極及びドレイン電極とゲート電極とを絶縁し、かつゲート電極に印加される電圧によってソース電極からドレイン電極へと半導体膜を通って流れる電流を制御する。
【0014】
《本発明の薄膜トランジスタ−ゲート絶縁膜》
この本発明の薄膜トランジスタでは、ゲート絶縁膜が、酸化ケイ素を含む層、特に実質的に酸化ケイ素からなる層である。このゲート絶縁膜は、酸化ケイ素を好ましくは50質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは99質量%以上含む。
【0015】
また、この本発明の薄膜トランジスタでは、ゲート絶縁膜の表面の飛行時間型二次イオン質量分析から得られるポジティブイオンスペクトルにおいて、アルゴンとケイ素のピーク強度比(Ar/Si)が、2.3×10−5以上、2.5×10−5以上、3.0×10−5以上、3.5×10−5以上、又は4.0×10−5以上である。また、このピーク強度比(Ar/Si)は、10.0×10−5以下又は5.0×10−5以下であってよい。ここで、アルゴンとケイ素のピーク強度比(Ar/Si)が比較的大きいことは、酸化ケイ素に基づくゲート絶縁膜中の空隙に、比較的多量のアルゴンが保持されていることを意味している。
【0016】
酸化ケイ素に基づくゲート絶縁膜中の空隙の周囲では、酸化ケイ素のバルクの性質ではなく、酸化ケイ素の表面の性質が現れる。したがって、図1に示しているように、この空隙の周囲の酸化ケイ素表面では、酸化ケイ素を構成する酸素−ケイ素の結合の欠陥、例えば未結合手(図1の点線)、水酸基(−OH)等が、比較的多く存在している。
【0017】
図1に示すように、このような空隙に希ガスであるアルゴンが保持されている場合、アルゴンが非導電性であること、及びアルゴンが不活性であり、それによって未結合手(図1の点線)、水酸基(−OH)等と作用しないことによって、これらの欠陥の間の導電が妨げられると考えられる。
【0018】
これに対して、このような空隙に他の気体が保持されている場合、これらの気体が、未結合手、水酸基等と作用して、これらの欠陥の間の導電を促進すると考えられる。すなわち例えば、空隙に保持される気体が酸素(O)である場合、図2に示すように、この酸素が、未結合手(図1の点線)、水酸基(−OH)等と作用し、酸素の二重結合を介して、これらの欠陥の間の導電を促進すると考えられる。
【0019】
したがって好ましくは、本発明の薄膜トランジスタのゲート絶縁膜では、酸化ケイ素に基づくゲート絶縁膜中の空隙に、実質的に酸素が含有されておらず、又は空隙におけるアルゴンのアルゴンと酸素との合計に対する割合(Ar/Ar+O)が、0.8以上、0.9以上、又は0.95以上である。
【0020】
本発明の薄膜トランジスタのゲート絶縁膜は、スパッタ法等の物理気相堆積、プラズマ化学気相堆積等の化学気相堆積といった任意の方法で得ることができる。
【0021】
本発明の薄膜トランジスタのゲート絶縁膜は特に、酸化ケイ素(SiO)のターゲットをアルゴン雰囲気中においてスパッタリングして得ることができる。ゲート絶縁膜の製造において、ゲート絶縁膜に保持されるアルゴンの量を比較的多くするためには例えば、ゲート絶縁膜をアルゴン雰囲気でのスパッタリングにより形成し、かつスパッタリングによって形成される膜の緻密性を高くし、それによってゲート絶縁膜に形成される空隙を独立孔として、保持されたアルゴンが膜中から抜けにくいようにすることができる。ここで、膜の緻密性を高くするためには例えば、スパッタリング時の雰囲気の圧力を比較的低くすることができる。
【0022】
言い換えると、ゲート絶縁膜中の緻密度が低く、それによって空隙がゲート絶縁膜の表面までに達する連通孔となっている場合には、成膜時に空隙中に保持したアルゴンがゲート絶縁膜から脱離してしまう。したがって、ゲート絶縁膜に保持されるアルゴンの量を比較的多くするためには、アルゴンの脱離を防ぐ程度に、ゲート絶縁膜を充分に密にする必要がある。
【0023】
《本発明の薄膜トランジスタ−半導体膜》
本発明の薄膜トランジスタで用いる半導体膜は、任意の半導体膜、例えばケイ素に基づく半導体膜であってよい。また、この半導体膜は、アモルファス酸化物半導体、例えばインジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)及びスズ(Sn)の少なくとも一つを含む酸化物からなるアモルファス酸化物半導体膜であってよい。このようなアモルファス酸化物半導体膜は低温で形成できるため、比較的耐熱性の低いプラスチック基材上にも薄膜トランジスタを形成できるため好ましい。
【0024】
このような半導体膜は、スパッタ法等の物理気相堆積、プラズマ化学気相堆積等の化学気相堆積といった任意の方法で得ることができる。
【0025】
《本発明の薄膜トランジスタ−電極》
本発明の薄膜トランジスタの電極、すなわちゲート電極、ソース電極、及びドレイン電極は、任意の導電性材料で作ることができる。この導電性材料としては、金属、特にニッケル(Ni)、クロム(Cr)、ロジウム(Rh)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nd)、チタン(Ti)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、鉛(Pb)、アルミニウム(Al)、並びにこれらの金属の合金、及びこれらの金属のシリサイドを挙げることができる。
【0026】
《本発明の薄膜トランジスタ−基材》
本発明の薄膜トランジスタで用いる基材としては、任意の基材、例えば無機基材、及び有機基材を用いることができる。これらのうちで、有機基材としては、プラスチック基材のような透明基材を用いることができる。
【0027】
基材として透明基材を用い、半導体膜としてアモルファス酸化物半導体膜を用い、かつ導電性層として透明導電性材料を用いた場合には、本発明の薄膜トランジスタ全体を透明の材料でつくることができ、したがって本発明の薄膜トランジスタを透明薄膜トランジスタとすることができる。また、基材として可撓性(フレキシブル)基材を用いた場合には、本発明の薄膜トランジスタを用いて、フレキシブルデバイスを作ることができる。フレキシブルデバイスとしては、電子ペーパー及びフレキシブル有機エレクトロクロミック(EL)ディスプレイのようなフレキシブルディスプレイを挙げることができる。
【実施例】
【0028】
例1〜3では、図3(a)に示すトップゲート・トップコンタクト型の薄膜トランジスタを形成した。具体的には、基材としてガラス基材を用い、ゲート絶縁膜として厚さ200nmの酸化ケイ素層を用い、かつ半導体膜としてアモルファス酸化物半導体である厚さ30nmのインジウム−ガリウム−亜鉛酸化物(IGZO)層を用いた。また、ゲート電極、ソース電極、及びドレイン電極として、厚さ100nmのアルミニウム層を用いた。
【0029】
ここで、例1〜3の薄膜トランジスタは、ゲート絶縁膜として酸化ケイ素膜のスパッタ成膜条件を表1に示すように変更したことを除いて、互いに同様に製造した。
【0030】
得られたゲート絶縁膜及び薄膜トランジスタについての評価結果を表1に示す。
【0031】
なお、ゲート絶縁膜についての飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)は下記の条件で行った:
装置: アルバック・ファイ社製 TRIFT IV
一次イオン: Au1+、30KV、
アパーチャー: 100μm、
測定範囲: 0.5〜1850amu、
測定面積: 200μm角
測定時間: 10分
測定モード: バンチングモード(質量分解能重視)
【0032】
【表1】

【0033】
表1で示されているように、ネガティブイオンスペクトルで得た酸化ケイ素(SiO)とケイ素(Si)とのピーク強度の比(SiO/Si)から、例1〜3のゲート絶縁膜、特に例1及び2のゲート絶縁膜の完全性に有意の差はないと考えられる。
【0034】
しかしながら、表1で示されているように、ポジティブイオンスペクトルで得たアルゴン(Ar)とケイ素(Si)とのピーク強度の比(Ar/Si)からは、ゲート絶縁膜中に保持されているアルゴンの量が、例3、例2、及び例1の順序で多くなっていることが理解される。
【0035】
また、表1に示されているように、例3、例2、及び例1の順序で、ゲート絶縁膜のリーク電流が減少し、かつオン−オフ比(Ion/Ioff比)が改良されている。すなわち、例1〜3の比較によれば、酸化ケイ素に基づくゲート絶縁膜中の空隙に、比較的多量のアルゴンが保持されている場合には、ゲート絶縁膜のリーク電流が減少し、かつオン−オフ比(Ion/Ioff比)が改良されていることが理解される。
【符号の説明】
【0036】
130、140、150、160 薄膜トランジスタ
134、144、154、164 ソース電極
135、145、155、165 ドレイン電極
131、141、151、161 ゲート電極
132、142、152、162 ゲート絶縁膜
133、143、153、163 半導体膜
133a、143a、153a、163a 半導体膜の活性面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート電極、ゲート絶縁膜、半導体膜、ソース電極、及びドレイン電極を、基材上に有する薄膜トランジスタであって、
前記ゲート絶縁膜が、酸化ケイ素を含む層であり、かつ前記ゲート絶縁膜の表面の飛行時間型二次イオン質量分析から得られるポジティブイオンスペクトルにおいて、アルゴンとケイ素のピーク強度比(Ar/Si)が2.3×10−5以上である、薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記半導体膜が、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、及びスズ(Sn)の少なくとも一つを含む酸化物からなるアモルファス酸化物半導体膜である、請求項1に記載の薄層トランジスタ。
【請求項3】
前記基材が透明基材である、請求項1又は2に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記基材がプラスチック基材である、請求項1〜3のいずれかに記載の薄膜トランジスタ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の薄膜トランジスタを有する、フレキシブルデバイス。
【請求項6】
1.00×10−3Torr以下の圧力のアルゴン雰囲気における酸化ケイ素のスパッタリングによって、前記ゲート絶縁膜を堆積させることを含む、請求項1〜5のいずれかに記載の薄膜トランジスタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−119474(P2012−119474A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267508(P2010−267508)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】