説明

薄膜トランジスタおよびその製造方法、並びに表示装置

【課題】チャネルへの不純物添加を行うことなく閾値電圧を大きくすることが可能な薄膜トランジスタおよびその製造方法、並びに表示装置を提供する。
【解決手段】基板11にゲート電極20を形成したのち、このゲート電極20の表面から厚み方向における一部を、熱処理またはプラズマ処理を用いて酸化させることにより、ゲート電極20のゲート絶縁膜30との界面20Aから厚み方向における一部を、金属酸化物よりなる界面層21とする。ゲート電極20のゲート絶縁膜30との界面20Aにおける仕事関数が大きくなるので、ゲート電極20と酸化物半導体膜40との仕事関数差φMSが大きくなり、閾値電圧Vthが大きくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタ(TFT;Thin Film Transistor)およびその製造方法、並びにこの薄膜トランジスタを備えた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛または酸化インジウムガリウム亜鉛(IGZO)等の酸化物半導体は、半導体デバイスの活性層として優れた性質を示し、近年、TFT,発光デバイス,透明導電膜などへの応用を目指して開発が進められている。
【0003】
例えば、酸化物半導体を用いたTFTは、従来液晶表示装置に用いられているアモルファスシリコン(a−Si:H)をチャネルに用いたものと比較して、電子移動度が大きく、優れた電気特性を有している。また、室温付近の低温で成膜したチャネルでも高い移動度が期待できるという利点もある。
【0004】
一方、酸化物半導体は耐熱性が充分でなく、TFT製造プロセス中の熱処理により酸素や亜鉛などが脱離して格子欠陥を形成することが知られている。この格子欠陥は、電気的には浅い不純物準位を形成し、酸化物半導体層の低抵抗化を引き起こす。そのため、酸化物半導体を活性層に用いたTFTでは、ゲート電圧を印加しなくてもドレイン電流が流れるノーマリーオン型すなわちデプレッション型の動作となり、欠陥準位の増大と共に閾値電圧が小さくなり、リーク電流が増大する。
【0005】
一方、上述した格子欠陥以外に酸化物半導体中に浅い不純物準位を形成する元素として、水素が報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。従って、格子欠陥以外にもTFT製造工程で導入される水素等の元素が酸化物半導体を用いたTFTの特性に影響を与えると考えられる。このために、酸化物半導体をチャネルに持つトランジスタはチャネル中のキャリア濃度が増大しやすい傾向にあり、閾値電圧がマイナスになりやすいという傾向がある。
【0006】
また、酸化物半導体をチャネルに用いたTFTはPチャネルを形成することが困難なために、Nチャネルトランジスタのみで回路を形成する必要がある。この際に閾値電圧がマイナスになると回路構成が複雑になってしまうという問題がある。この問題を解決するためには閾値電圧を制御する必要がある。閾値電圧は以下の数1で表される。
【0007】
【数1】

(式中、Vthは閾値電圧、φMSはゲート電極と酸化物半導体膜との仕事関数差、Qfは固定電荷、COXはゲート絶縁膜容量、φfはチャネルとしての酸化物半導体膜のフェルミ準位、NAはアクセプタ密度、εSは酸化物半導体膜の比誘電率、ε0は真空の誘電率をそれぞれ表す。)
【0008】
閾値電圧を変える方法として、薄膜トランジスタのチャネルとゲート絶縁膜の界面にあるチャネルの一部に不純物をドープしたり、あるいは、酸化物半導体の構成元素の比率を変えることによってチャネルとしての酸化物半導体のフェルミ準位を変えることによって閾値電圧を変える試みがなされている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2007−519256号公報
【特許文献2】特開2008−85048号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Cetin Kilic 、外1名,”n-type doping of oxides by hydrogen ”,Applied Physics Letters ,2002年7月1日,第81巻,第1号,p.73−75
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、チャネルへのドープは薄膜トランジスタの特性劣化を引き起こす懸念があった。また、酸化物半導体の活性層は一般的に多元素系の材料により構成され、成膜方法としてはスパッタ法が用いられる。そのため、チャネルへのドープをスパッタ法で行う場合には、多元素系であるがゆえに、活性層の元素比率制御は非常に困難になっていた。
【0012】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、チャネルへの不純物添加を行うことなく閾値電圧を大きくすることが可能な薄膜トランジスタおよびその製造方法、並びにこの薄膜トランジスタを備えた表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による薄膜トランジスタは、以下の(A)〜(D)の構成要素を備えたものである。
(A)酸化物半導体膜
(B)対向する二つの面を有し、二つの面の一方が酸化物半導体膜に接しているゲート絶縁膜
(C)ゲート絶縁膜の二つの面の他方に接して設けられ、ゲート絶縁膜との界面から厚み方向における少なくとも一部が金属酸化物により構成されたゲート電極
(D)酸化物半導体膜に電気的に接続されたソース電極およびドレイン電極
【0014】
本発明の薄膜トランジスタでは、ゲート電極のゲート絶縁膜との界面から厚み方向における少なくとも一部が金属酸化物により構成されているので、ゲート電極のゲート絶縁膜との界面における仕事関数が大きくなる。よって、数2においてゲート電極と酸化物半導体膜との仕事関数差φMSが大きくなり、閾値電圧Vthが大きくなる。
【0015】
【数2】

(式中、Vthは閾値電圧、φMSはゲート電極と酸化物半導体膜との仕事関数差、Qfは固定電荷、COXはゲート絶縁膜容量、φfはチャネルとしての酸化物半導体膜のフェルミ準位、NAはアクセプタ密度、εSは酸化物半導体膜の比誘電率、ε0は真空の誘電率をそれぞれ表す。)
【0016】
本発明による第1の薄膜トランジスタの製造方法は、以下の(A)〜(E)の工程を含むものである。
(A)基板にゲート電極を形成する工程
(B)ゲート電極の表面から厚み方向における少なくとも一部を、熱処理またはプラズマ処理を用いて酸化させることにより金属酸化物により構成する工程
(C)ゲート電極の上にゲート絶縁膜を形成する工程
(D)ゲート絶縁膜の上に酸化物半導体膜を形成する工程
(E)酸化物半導体膜の上にソース電極およびドレイン電極を形成する工程
【0017】
本発明による第2の薄膜トランジスタの製造方法は、以下の(A)〜(D)の工程を含むものである。
(A)基板にゲート電極を形成すると共に、ゲート電極の表面から厚み方向における少なくとも一部を、酸化ガスを添加して成膜することにより金属酸化物により構成する工程
(B)ゲート電極の上にゲート絶縁膜を形成する工程
(C)ゲート絶縁膜の上に酸化物半導体膜を形成する工程
(D)酸化物半導体膜の上にソース電極およびドレイン電極を形成する工程
【0018】
本発明による第3の薄膜トランジスタの製造方法は、以下の(A)〜(D)の工程を含むものである。
(A)基板に、ソース電極およびドレイン電極を形成する工程
(B)ソース電極および前記ドレイン電極の上に酸化物半導体膜を形成する工程
(C)酸化物半導体膜の上にゲート絶縁膜を形成する工程
(D)ゲート絶縁膜の上に、金属よりなるゲート電極を形成すると共に、ゲート電極のゲート絶縁膜との界面から厚み方向における少なくとも一部を、酸化ガスを添加して成膜することにより金属酸化物により構成する工程
【0019】
本発明による表示装置は、薄膜トランジスタおよび画素を備え、薄膜トランジスタは、上記本発明の薄膜トランジスタにより構成されたものである。
【0020】
本発明の表示装置では、上記本発明の薄膜トランジスタによって画素が駆動され、画像表示がなされる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の薄膜トランジスタ、または本発明の表示装置によれば、ゲート電極のゲート絶縁膜との界面から厚み方向における少なくとも一部を金属酸化物により構成するようにしたので、チャネルへの不純物添加を行うことなく閾値電圧を大きくすることが可能となる。
【0022】
本発明の第1の薄膜トランジスタの製造方法によれば、基板にゲート電極を形成したのち、このゲート電極の表面から厚み方向における少なくとも一部を、熱処理またはプラズマ処理を用いて酸化させることにより金属酸化物により構成するようにしたので、チャネルへの不純物添加を行う必要をなくし、本発明の薄膜トランジスタを簡素な工程で製造することが可能となる。
【0023】
本発明の第2の薄膜トランジスタの製造方法によれば、基板にゲート電極を形成すると共に、このゲート電極の表面から厚み方向における少なくとも一部を、酸化ガスを添加して成膜することにより金属酸化物により構成するようにしたので、チャネルへの不純物添加を行う必要をなくし、本発明の薄膜トランジスタを簡素な工程で製造することが可能となる。
【0024】
本発明の第3の薄膜トランジスタの製造方法によれば、基板に、ソース電極およびドレイン電極、酸化物半導体膜、ゲート絶縁膜を順に形成したのち、ゲート絶縁膜の上にゲート電極を形成すると共に、ゲート電極のゲート絶縁膜との界面から厚み方向における少なくとも一部を、酸化ガスを添加して成膜することにより金属酸化物により構成するようにしたので、チャネルへの不純物添加を行う必要をなくし、本発明の薄膜トランジスタを簡素な工程で製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る薄膜トランジスタの構造を表す断面図である。
【図2】図1に示した薄膜トランジスタの製造方法を工程順に表す断面図である。
【図3】図2に続く工程を表す断面図である。
【図4】モリブデンよりなるゲート電極をプラズマ処理で酸化した場合の、深さ方向における仕事関数プロファイルを表す図である。
【図5】チタンよりなるゲート電極をプラズマ処理で酸化した場合の、深さ方向における仕事関数プロファイルを表す図である。
【図6】モリブデンよりなるゲート電極の表面にシリコン酸化膜またはシリコン窒化膜を積層した場合の深さ方向における仕事関数プロファイルを表す図である。
【図7】モリブデンよりなるゲート電極を用いたTFTの伝達特性を表す図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る薄膜トランジスタの製造方法を工程順に表す断面図である。
【図9】図8に続く工程を表す断面図である。
【図10】本発明の第3の実施の形態に係る薄膜トランジスタの構造を表す断面図である。
【図11】図10に示した薄膜トランジスタの製造方法を工程順に表す断面図である。
【図12】図11に続く工程を表す断面図である。
【図13】本発明の第4の実施の形態に係る薄膜トランジスタの構造を表す断面図である。
【図14】図13に示した薄膜トランジスタの製造方法を工程順に表す断面図である。
【図15】図14に続く工程を表す断面図である。
【図16】本発明の第5の実施の形態に係る薄膜トランジスタの構造を表す断面図である。
【図17】図16に示した薄膜トランジスタの製造方法を工程順に表す断面図である。
【図18】適用例1に係る表示装置の回路構成を表す図である。
【図19】図18に示した画素駆動回路の一例を表す等価回路図である。
【図20】適用例2の外観を表す斜視図である。
【図21】(A)は適用例3の表側から見た外観を表す斜視図であり、(B)は裏側から見た外観を表す斜視図である。
【図22】適用例4の外観を表す斜視図である。
【図23】適用例5の外観を表す斜視図である。
【図24】(A)は適用例6の開いた状態の正面図、(B)はその側面図、(C)は閉じた状態の正面図、(D)は左側面図、(E)は右側面図、(F)は上面図、(G)は下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(ボトムゲート型薄膜トランジスタ;ゲート電極の厚み方向の一部を、プラズマ処理を用いて酸化させることにより金属酸化物により構成した例)
2.第2の実施の形態(ボトムゲート型薄膜トランジスタ;ゲート電極の厚み方向の一部を、酸化ガスを添加して成膜することにより金属酸化物により構成した例)
3.第3の実施の形態(ボトムゲート型薄膜トランジスタ;ゲート電極の厚み方向の全部を、金属酸化物により構成した例)
4.第4の実施の形態(トップゲート型薄膜トランジスタ;ゲート電極の厚み方向の一部を、金属酸化物により構成した例)
5.第5の実施の形態(トップゲート型薄膜トランジスタ;ゲート電極の厚み方向の全部を、金属酸化物により構成した例)
6.適用例
【0027】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る薄膜トランジスタ1の断面構造を表すものである。薄膜トランジスタ1は、液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイなどの駆動素子として用いられるものであり、例えば、基板11にゲート電極20,ゲート絶縁膜30,酸化物半導体膜40,チャネル保護膜50,ソース電極60Sおよびドレイン電極60Dがこの順に積層されたボトムゲート型の構造(逆スタガ構造)を有している。
【0028】
基板11は、ガラス基板やプラスチックフィルムなどにより構成されている。プラスチック材料としては、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)などが挙げられる。後述のスパッタ法において、基板11を加熱することなく酸化物半導体膜40を成膜するため、安価なプラスチックフィルムを用いることができる。
【0029】
ゲート電極20は、薄膜トランジスタ1にゲート電圧を印加し、このゲート電圧により酸化物半導体膜40中の電子密度を制御する役割を有するものである。ゲート電極20は、基板11上の選択的な領域に設けられ、例えば、厚みが10nm〜500nmであり、白金(Pt),チタン(Ti),ルテニウム(Ru),モリブデン(Mo),銅(Cu),タングステン(W),およびニッケル(Ni)からなる群のうち少なくとも1種を含む金属単体または合金により構成されている。
【0030】
ゲート電極20は、ゲート絶縁膜30との界面20Aから厚み方向における一部に、金属酸化物よりなる界面層21を有している。これにより、この薄膜トランジスタ1では、チャネルへの不純物添加を行うことなく閾値電圧を大きくすることが可能となっている。
【0031】
具体的には、ゲート電極20の界面層21は、白金(Pt),チタン(Ti),ルテニウム(Ru),モリブデン(Mo),銅(Cu),タングステン(W)およびニッケル(Ni)からなる群のうち少なくとも1種を含む金属酸化物により構成されている。ゲート電極20の厚み方向における残部は、上述した金属単体または合金により構成された金属層22である。
【0032】
ゲート絶縁膜30は、対向する二つの面30A,30Bを有し、一方の面30Aで酸化物半導体膜40に接し、他方の面30Bでゲート電極20に接している。ゲート絶縁膜30は、例えば、厚みが50nm〜1μmであり、シリコン酸化膜,シリコン窒化膜,シリコン窒化酸化膜または酸化アルミニウム膜などの単層膜または積層膜により構成されている。
【0033】
ゲート絶縁膜30は、ゲート電極20との界面30Bに接して、低還元性材料よりなる膜、例えばシリコン酸化膜を含むことが好ましい。ゲート電極20の界面層21が還元されて仕事関数が低下してしまうのを抑えることが可能となるからである。
【0034】
このような低還元性材料よりなる膜としては、例えば、化学気相成長法により作製したシリコン酸化膜,スパッタリング法により作製したシリコン酸化膜,スパッタリング法により作製したシリコン窒化膜,スパッタリング法により作製した酸化アルミニウム膜,およびスパッタリング法により作製した窒化アルミニウム膜のうち少なくとも1種が好ましい。
【0035】
具体的には、ゲート絶縁膜30は、例えば、ゲート電極20の側から、低還元性材料よりなる膜としてのシリコン酸化膜31と、シリコン窒化膜32と、シリコン酸化膜33とをこの順に積層した構成を有している。
【0036】
酸化物半導体膜40は、ソース電極60Sおよびドレイン電極60Dとの間にチャネル領域を有している。酸化物半導体膜40は、例えば、酸化亜鉛を主成分とする透明な酸化物半導体、例えばIGZO(酸化インジウムガリウム亜鉛),酸化亜鉛,AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)またはGZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)により構成されている。ここで酸化物半導体とは、インジウム,ガリウム,亜鉛,スズ等の元素と、酸素とを含む化合物である。酸化物半導体膜40の厚みは、製造工程でのアニールによる酸素供給効率を考慮すると、例えば5nm〜100nmであることが望ましい。
【0037】
チャネル保護膜50は、酸化物半導体膜40のチャネル領域上に設けられ、例えば、厚みが50nm〜500nmであり、シリコン酸化膜,シリコン窒化膜または酸化アルミニウム膜により構成されている。
【0038】
ソース電極60Sおよびドレイン電極60Dは、チャネル保護膜50の両側の酸化物半導体膜40上に設けられ、酸化物半導体膜40に電気的に接続されている。ソース電極60Sおよびドレイン電極60Dは、例えば、モリブデン,アルミニウム,銅,チタン等の金属膜、ITO(Indium Tin Oxide;酸化インジウムスズ),酸化チタンなどの酸素を含む金属膜、またはこれらの積層膜により構成されている。具体的には、ソース電極60Sおよびドレイン電極60Dは、例えば、厚み50nmのモリブデン層と、厚み500nmのアルミニウム層と、厚み50nmのモリブデン層とを順に積層した構造を有している。
【0039】
ソース電極60Sおよびドレイン電極60Dは、ITOまたは酸化チタンなどの酸素を含む金属膜により構成されていることが好ましい。酸化物半導体膜40は、酸素を引き抜きやすい金属と接触することで酸素が脱離して格子欠陥が形成される。ソース電極60Sおよびドレイン電極60Dを、酸素を含む金属膜により構成することにより、酸化物半導体膜40から酸素が脱離するのを抑え、薄膜トランジスタ1の電気特性を安定させることが可能となる。
【0040】
この薄膜トランジスタ1は、例えば次のようにして製造することができる。
【0041】
図2および図3は、薄膜トランジスタ1の製造方法を工程順に表したものである。まず、基板11上の全面に例えばスパッタリング法や蒸着法を用いて、ゲート電極20の材料となる金属膜を形成する。次いで、図2(A)に示したように、基板11上に形成した金属膜を、例えばフォトリソグラフィ法を用いてパターニングすることにより、ゲート電極20を形成する。
【0042】
続いて、図2(B)に示したように、ゲート電極20の表面20Aから厚み方向における一部を、例えば、一酸化二窒素または酸素を含むガスプラズマPに曝して酸化させることにより、金属酸化物よりなる界面層21を形成する。
【0043】
界面層21を形成するための表面処理としては、上述したプラズマ処理のほか、熱処理でもよい。熱処理の場合には、ゲート電極20の表面20Aから厚み方向における一部を、酸素や水蒸気を含む雰囲気中でアニール処理を施して酸化させることにより、金属酸化物よりなる界面層21を形成する。
【0044】
そののち、基板11およびゲート電極20の界面層21の全面にゲート絶縁膜30を形成する。このとき、ゲート電極20との界面30Bに接して、低還元性材料よりなる膜を形成することが好ましい。界面層21上にCVD法で直接シリコン窒化膜のような還元性の強い膜を形成すると、界面層21が還元されて仕事関数が低下してしまうからである。
【0045】
低還元性材料よりなる膜としては、例えば、CVD法により作製したシリコン酸化膜,スパッタリング法により作製したシリコン酸化膜,スパッタリング法により作製したシリコン窒化膜,スパッタリング法により作製した酸化アルミニウム膜,およびスパッタリング法により作製した窒化アルミニウム膜のうち少なくとも1種を用いることが好ましい。これらの膜は、還元性の低い状態で成膜することが可能だからである。
【0046】
このようなゲート絶縁膜30の成膜方法としては、例えば、シリコン窒化膜またはシリコン酸化膜の積層膜をプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition;化学気相成長)法で形成する場合と、シリコン窒化膜,シリコン酸化膜,酸化アルミニウム膜または窒化アルミニウム膜をスパッタリング法などにより形成する場合とが挙げられる。
【0047】
具体的には、図2(C)に示したように、例えばプラズマCVD法により、ゲート電極20の側から、シリコン酸化膜31と、シリコン窒化膜32と、シリコン酸化膜33とをこの順に積層し、ゲート絶縁膜30を形成する。シリコン窒化膜32は、原料ガスとしてシラン,アンモニア,窒素等のガスを用いたプラズマCVD法により形成する。シリコン酸化膜31,33は、原料ガスとしてシラン,一酸化二窒素を含むガスを用いたプラズマCVD法により形成する。
【0048】
また、スパッタリング法を用いる場合には、例えば、ゲート電極20の側から、シリコン窒化膜およびシリコン酸化膜をこの順に積層することにより、ゲート絶縁膜30を形成する。スパッタリングのターゲットとしてはシリコンを用い、スパッタリングの放電雰囲気中に酸素,水蒸気,窒素などを用いて反応性プラズマスパッタリングとすることで、シリコン窒化膜またはシリコン酸化膜を形成する。
【0049】
この場合、ゲート電極20の表面をプラズマ処理する工程とゲート絶縁膜30を形成する工程とを真空中で連続して行うことが好ましい。なぜなら、表面処理後に大気中に曝すことで、大気中の炭素系のコンタミネーションが表面付着して表面処理の効果を軽減してしまうおそれがあるからである。
【0050】
ゲート絶縁膜30を形成したのち、図3(A)に示したように、例えばスパッタリング法により、ゲート絶縁膜30の上に酸化物半導体膜40を形成し、所望の形状にパターニングする。
【0051】
酸化物半導体膜40をIGZO(酸化インジウムガリウム亜鉛)により構成する場合には、酸化インジウムガリウム亜鉛のセラミックをターゲットとしたDCスパッタリング法を用い、アルゴンと酸素の混合ガスによるプラズマ放電にてゲート絶縁膜30上に酸化物半導体膜40を形成する。なお、プラズマ放電の前に真空容器内の真空度が1×10-4Pa以下になるまで排気した後、アルゴンと酸素の混合ガスを導入する。
【0052】
酸化物半導体膜40を酸化亜鉛により構成する場合には、酸化亜鉛のセラミックをターゲットとしたRFスパッタリング法、または亜鉛の金属ターゲットを用いてアルゴンと酸素を含むガス雰囲気中でDC電源を用いたスパッタリング法により、酸化物半導体膜40を形成することが可能である。
【0053】
このとき、チャネルとなる酸化物半導体膜40中のキャリア濃度は、酸化物形成の際のアルゴンと酸素の流量比を変化させることで制御することが可能である。
【0054】
酸化物半導体膜40を形成したのち、酸化物半導体膜40の上に、例えばCVD法またはスパッタリング法により、シリコン酸化膜またはシリコン窒化膜を形成し、パターニングすることにより、図3(B)に示したように、上述した厚みおよび材料よりなるチャネル保護膜50を形成する。
【0055】
チャネル保護膜50を形成したのち、例えばスパッタリング法により、厚み50nmのモリブデン層、厚み500nmのアルミニウム層および厚み50nmのモリブデン層を順に形成し、3層の積層構造を形成する。続いて、この積層構造を、リン酸,硝酸および酢酸を含む混合液を用いたウェットエッチング法によりパターニングして、図3(C)に示したようにソース電極60Sおよびドレイン電極60Dを形成する。以上により、図1に示した薄膜トランジスタ1が完成する。
【0056】
この薄膜トランジスタ1では、図示しない配線層を通じてゲート電極20に所定のしきい値電圧以上の電圧(ゲート電圧)が印加されると、ソース電極60Sとドレイン電極60Dとの間の酸化物半導体膜40のチャネル領域中に電流(ドレイン電流)が生じる。
【0057】
ここでは、ゲート電極20のゲート絶縁膜30との界面20Aから厚み方向における一部が金属酸化物よりなる界面層21とされているので、ゲート電極20のゲート絶縁膜30との界面20Aにおける仕事関数が大きくなる。よって、数3においてゲート電極20と酸化物半導体膜40との仕事関数差φMSが大きくなり、閾値電圧Vthが大きくなる(プラス方向にシフトする)。
【0058】
【数3】

(式中、Vthは閾値電圧、φMSはゲート電極と酸化物半導体膜との仕事関数差、Qfは固定電荷、COXはゲート絶縁膜容量、φfはチャネルとしての酸化物半導体膜のフェルミ準位、NAはアクセプタ密度、εSは酸化物半導体膜の比誘電率、ε0は真空の誘電率をそれぞれ表す。)
【0059】
図4および図5は、モリブデンおよびチタンよりなる金属膜の表面をプラズマ処理で酸化した後に深さ方向の仕事関数分析を行った結果をそれぞれ表したものである。図4および図5から、金属膜の表面近傍で仕事関数が増加していることが分かる。プラズマ処理としては、O2ガスまたはN2Oガス雰囲気を用いたものであり、高温化、処理時間の増加で酸化の程度が大きくなり、仕事関数が増加することが分かっている。
【0060】
図6は、ゲート電極としてモリブデンを用い、ゲート電極の表面を酸化処理した場合と酸化していない場合とについて、TFTの伝達特性をそれぞれ表したものである。図7から分かるように、ゲート電極の表面を酸化処理したTFTは、酸化していないTFTに比べて、伝達特性を約0.5Vプラス方向にシフトさせることが可能となる。
【0061】
また、ゲート絶縁膜30は、ゲート電極20との界面30Bに接して、低還元性材料よりなる膜、例えばシリコン酸化膜を含んでいるので、ゲート電極20の界面層21が還元されて仕事関数が低下してしまうのが抑えられる。よって、閾値電圧Vthが小さくなってしまう(マイナス方向にシフトしてしまう)ことが回避される。
【0062】
図7は、モリブデンよりなる金属膜の表面にシリコン酸化膜を成膜した場合と、シリコン窒化膜を成膜した場合と、何も成膜しない場合とについて、仕事関数の深さ方向プロファイルを表したものである。図7からは、シリコン窒化膜→シリコン酸化膜→金属表面膜無しの順に仕事関数が増加していることが分かり、還元性の低い膜を成膜することで仕事関数の低下が軽減できることが分かる。
【0063】
このように本実施の形態の薄膜トランジスタ1では、ゲート電極20のゲート絶縁膜30との界面20Aから厚み方向における一部を、金属酸化物よりなる界面層21とするようにしたので、チャネルへの不純物添加を行うことなく閾値電圧を大きくすることが可能となる。よって、この薄膜トランジスタ1を用いて液晶や有機ELなどの表示装置の周辺回路を構成した場合に回路構成が複雑になってしまうことが回避される。
【0064】
また、本実施の形態の薄膜トランジスタ1の製造方法では、基板11にゲート電極20を形成したのち、このゲート電極20の表面から厚み方向における一部を、熱処理またはプラズマ処理を用いて酸化させることにより金属酸化物よりなる界面層21を形成するようにしたので、チャネルへの不純物添加を行う必要をなくし、本実施の形態の薄膜トランジスタ1を簡素な工程で製造することが可能となる。
【0065】
(第2の実施の形態)
図8および図9は、本発明の第2の実施の形態に係る薄膜トランジスタ1の製造方法を工程順に表したものである。この製造方法は、ゲート電極20を形成する際に、酸化ガスを添加して成膜することにより界面層21を形成するようにしたことにおいて、上記第1の実施の形態の製造方法と異なるものである。よって、同一の工程については、図2および図3を参照して説明する。
【0066】
まず、図8(A)に示したように、基板11の全面に、例えばスパッタリング法により、ゲート電極20の材料となる金属膜23を形成する。その際、ゲート電極20の表面20Aから厚み方向における一部を、酸化ガスを添加して成膜することにより、金属酸化物よりなる界面層21を形成する。
【0067】
次いで、図8(B)に示したように、金属膜23および界面層21を、例えばフォトリソグラフィを用いてパターニングすることにより、ゲート電極20を形成する。
【0068】
続いて、基板11およびゲート電極20の界面層21の全面にゲート絶縁膜30を形成する。このとき、第1の実施の形態と同様に、ゲート電極20との界面30Bに接して、低還元性材料よりなる膜を形成することが好ましい。具体的には、図8(C)に示したように、例えばプラズマCVD法により、ゲート電極20の側から、低還元性材料よりなる膜としてのシリコン酸化膜31と、シリコン窒化膜32と、シリコン酸化膜33とをこの順に積層し、ゲート絶縁膜30を形成する。
【0069】
ゲート絶縁膜30を形成したのち、第1の実施の形態と同様にして、図9(A)に示したように、例えばスパッタリング法により、ゲート絶縁膜30の上に酸化物半導体膜40を形成し、所望の形状にパターニングする。
【0070】
酸化物半導体膜40を形成したのち、第1の実施の形態と同様にして、酸化物半導体膜40の上に、図9(B)に示したように、上述した厚みおよび材料よりなるチャネル保護膜50を形成する。
【0071】
チャネル保護膜50を形成したのち、第1の実施の形態と同様にして、図9(C)に示したように、上述した厚みおよび材料よりなるソース電極60Sおよびドレイン電極60Dを形成する。以上により、図1に示した薄膜トランジスタ1が完成する。
【0072】
このように本実施の形態の薄膜トランジスタ1の製造方法では、基板11にゲート電極20を形成すると共に、このゲート電極20の表面20Aから厚み方向における一部を、酸化ガスを添加して成膜することにより金属酸化物よりなる界面層21を形成するようにしたので、チャネルへの不純物添加を行う必要をなくし、第1の実施の形態と同様に、薄膜トランジスタ1を簡素な工程で製造することが可能となる。
【0073】
(第3の実施の形態)
図10は、本発明の第3の実施の形態に係る薄膜トランジスタ1Aの断面構成を表したものである。この薄膜トランジスタ1Aは、ゲート電極20のゲート絶縁膜30との界面20Aから厚み方向における全部が金属酸化膜により構成されていることを除いては、上記第1の実施の形態と同様の構成を有している。よって、対応する構成要素には同一の符号を付して説明する。
【0074】
図11および図12は、この薄膜トランジスタ1Aの製造方法を工程順に表したものである。まず、図11(A)に示したように、基板11にゲート電極20を形成する際に、ゲート電極20の表面20Aから厚み方向における全部を金属酸化物により構成する。
【0075】
このようなゲート電極20の形成方法としては、第1の実施の形態と同様に、基板11上にゲート電極20を形成したのち、ゲート電極20の表面20Aから厚み方向における全部を、熱処理またはプラズマ処理を用いて酸化させるようにしてもよい。
【0076】
あるいは、ゲート電極20は、第2の実施の形態と同様に、基板11の全面に、例えばスパッタリング法により、ゲート電極20の材料となる金属膜を形成する際に、ゲート電極20の表面20Aから厚み方向における全部を、酸化ガスを添加して成膜するようにしてもよい。
【0077】
次いで、基板11およびゲート電極20の界面層21の全面にゲート絶縁膜30を形成する。このとき、第1の実施の形態と同様に、ゲート電極20との界面30Bに接して、低還元性材料よりなる膜を形成することが好ましい。具体的には、図11(B)に示したように、例えばプラズマCVD法により、ゲート電極20の側から、低還元性材料よりなる膜としてのシリコン酸化膜31と、シリコン窒化膜32と、シリコン酸化膜33とをこの順に積層し、ゲート絶縁膜30を形成する。
【0078】
ゲート絶縁膜30を形成したのち、第1の実施の形態と同様にして、図11(C)に示したように、例えばスパッタリング法により、ゲート絶縁膜30の上に酸化物半導体膜40を形成し、所望の形状にパターニングする。
【0079】
酸化物半導体膜40を形成したのち、第1の実施の形態と同様にして、酸化物半導体膜40の上に、図12(A)に示したように、上述した厚みおよび材料よりなるチャネル保護膜50を形成する。
【0080】
チャネル保護膜50を形成したのち、第1の実施の形態と同様にして、図12(B)に示したように、上述した厚みおよび材料よりなるソース電極60Sおよびドレイン電極60Dを形成する。以上により、図10に示した薄膜トランジスタ1Aが完成する。
【0081】
この薄膜トランジスタ1Aの作用および効果は、第1および第2の実施の形態と同様である。
【0082】
(第4の実施の形態)
図13は、本発明の第4の実施の形態に係る薄膜トランジスタ1Bの断面構成を表したものである。この薄膜トランジスタ1Bは、基板11に、ソース電極60Sおよびドレイン電極60D,酸化物半導体膜40,ゲート絶縁膜30,並びにゲート電極20がこの順に積層されたトップゲート型TFT(スタガ構造)のものである。このことを除いては、薄膜トランジスタ1Bは上記第1の実施の形態と同様の構成を有している。よって、対応する構成要素には同一の符号を付して説明する。
【0083】
図14および図15は、この薄膜トランジスタ1Bの製造方法を工程順に表したものである。まず、図14(A)に示したように、基板11に、第1の実施の形態と同様にして、上述した厚みおよび材料よりなるソース電極60Sおよびドレイン電極60Dを形成する。
【0084】
次いで、図14(B)に示したように、第1の実施の形態と同様にして、例えばスパッタリング法により、ゲート絶縁膜30の上に酸化物半導体膜40を形成し、所望の形状にパターニングする。
【0085】
続いて、図14(C)に示したように、基板11および酸化物半導体膜40の全面にゲート絶縁膜30を形成する。ゲート絶縁膜30としては、例えば、シリコン窒化膜またはシリコン酸化膜の積層膜をプラズマCVD法で形成してもよいし、あるいは、シリコン窒化膜,シリコン酸化膜,酸化アルミニウム膜または窒化アルミニウム膜をスパッタリング法などにより形成してもよい。
【0086】
そののち、例えばスパッタリング法により、ゲート絶縁膜30の上にゲート電極20を形成する。その際、まず、図15(A)に示したように、ゲート電極20のゲート絶縁膜30との界面20Aから厚み方向の一部を、酸化ガスを添加して成膜することにより、金属酸化物よりなる界面層21を形成する。
【0087】
続いて、同じく図15(A)に示したように、酸化ガスの添加を停止してゲート電極20の厚み方向における残部を形成する。これにより、ゲート電極20の厚み方向における残部は金属層22となる。
【0088】
そののち、図15(B)に示したように、金属層22および界面層21を、例えばフォトリソグラフィを用いてパターニングすることにより、ゲート電極20を形成する。本実施の形態では、界面層21の表面は金属層22で被覆されるので、ゲート電極20形成後のゲート絶縁膜30による還元効果は考慮する必要がない。ただし、界面層21を熱処理やプラズマ処理などの表面処理により形成することは難しいので、成膜時の酸化ガスの添加が必要となる。以上により、図13に示した薄膜トランジスタ1Bが完成する。
【0089】
この薄膜トランジスタ1Bの作用および効果は第1および第2の実施の形態と同様である。
【0090】
本実施の形態の薄膜トランジスタ1Bの製造方法によれば、基板11に、ソース電極60Sおよびドレイン電極60D、酸化物半導体膜40、ゲート絶縁膜30を順に形成したのち、ゲート絶縁膜30の上にゲート電極20を形成すると共に、ゲート電極20のゲート絶縁膜30との界面20Aから厚み方向における一部を、酸化ガスを添加して成膜することにより、金属酸化物よりなる界面層21を形成するようにしたので、チャネルへの不純物添加を行う必要をなくし、薄膜トランジスタ1Bを簡素な工程で製造することが可能となる。
【0091】
(第5の実施の形態)
図16は、本発明の第5の実施の形態に係る薄膜トランジスタ1Cの断面構成を表したものである。この薄膜トランジスタ1Cは、ゲート電極20のゲート絶縁膜30との界面20Aから厚み方向における全部が金属酸化膜により構成されていることを除いては、上記第4の実施の形態と同様の構成を有している。よって、対応する構成要素には同一の符号を付して説明する。
【0092】
図17は、この薄膜トランジスタ1Cの製造方法を工程順に表したものである。まず、図17(A)に示したように、基板11に、第1の実施の形態と同様にして、上述した厚みおよび材料よりなるソース電極60Sおよびドレイン電極60Dを形成する。
【0093】
次いで、図17(B)に示したように、第1の実施の形態と同様にして、例えばスパッタリング法により、ゲート絶縁膜30の上に酸化物半導体膜40を形成し、所望の形状にパターニングする。
【0094】
続いて、図17(C)に示したように、基板11および酸化物半導体膜40の全面にゲート絶縁膜30を形成する。ゲート絶縁膜30としては、例えば、シリコン窒化膜またはシリコン酸化膜の積層膜をプラズマCVD法で形成してもよいし、あるいは、シリコン窒化膜,シリコン酸化膜,酸化アルミニウム膜または窒化アルミニウム膜をスパッタリング法などにより形成してもよい。
【0095】
そののち、図17(D)に示したように、例えばスパッタリング法により、ゲート絶縁膜30の上にゲート電極20を形成し、例えばフォトリソグラフィによりパターニングする。その際、ゲート電極20のゲート絶縁膜30との界面20Aから厚み方向の全部を、酸化ガスを添加して成膜することにより、ゲート電極20の全体を金属酸化物により構成する。以上により、図16に示した薄膜トランジスタ1Cが完成する。
【0096】
この薄膜トランジスタ1Cの作用および効果は第1および第2の実施の形態と同様である。
【0097】
<適用例1>
図18は、この薄膜トランジスタ1を駆動素子として備えた表示装置の回路構成を表すものである。表示装置70は、例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどであり、駆動パネル80上に、マトリクス状に配設された複数の画素10R,10G,10Bと、これらの画素10R,10G,10Bを駆動するための各種駆動回路とが形成されたものである。画素10R,10G,10Bはそれぞれ、赤色(R:Red ),緑色(G:Green )および青色(B:Blue)の色光を発する液晶表示素子や有機EL素子などである。これら3つの画素10R,10G,10Bを一つのピクセルとして、複数のピクセルにより表示領域110が構成されている。駆動パネル80上には、駆動回路として、例えば映像表示用のドライバである信号線駆動回路120および走査線駆動回路130と、画素駆動回路150とが配設されている。この駆動パネル80には、図示しない封止パネルが貼り合わせられ、この封止パネルにより画素10R,10G,10Bおよび上記駆動回路が封止されている。
【0098】
図19は、画素駆動回路150の等価回路図である。画素駆動回路150は、上記薄膜トランジスタ1,1A〜1Cとして、トランジスタTr1,Tr2が配設されたアクティブ型の駆動回路である。トランジスタTr1,Tr2の間にはキャパシタCsが設けられ、第1の電源ライン(Vcc)および第2の電源ライン(GND)の間において、画素10R(または画素10G,10B)がトランジスタTr1に直列に接続されている。このような画素駆動回路150では、列方向に信号線120Aが複数配置され、行方向に走査線130Aが複数配置されている。各信号線120Aは、信号線駆動回路120に接続され、この信号線駆動回路120から信号線120Aを介してトランジスタTr2のソース電極に画像信号が供給されるようになっている。各走査線130Aは走査線駆動回路130に接続され、この走査線駆動回路130から走査線130Aを介してトランジスタTr2のゲート電極に走査信号が順次供給されるようになっている。このような表示装置70は、例えば次の適用例2〜6に示した電子機器に搭載することができる。
【0099】
<適用例2>
図20は、テレビジョン装置の外観を表したものである。このテレビジョン装置は、例えば、フロントパネル310およびフィルターガラス320を含む映像表示画面部300を有している。
【0100】
<適用例3>
図21は、デジタルスチルカメラの外観を表したものである。このデジタルスチルカメラは、例えば、フラッシュ用の発光部410、表示部420、メニュースイッチ430およびシャッターボタン440を有している。
【0101】
<適用例4>
図22は、ノート型パーソナルコンピュータの外観を表したものである。このノート型パーソナルコンピュータは、例えば、本体510,文字等の入力操作のためのキーボード520および画像を表示する表示部530を有している。
【0102】
<適用例5>
図23は、ビデオカメラの外観を表したものである。このビデオカメラは、例えば、本体部610,この本体部610の前方側面に設けられた被写体撮影用のレンズ620,撮影時のスタート/ストップスイッチ630および表示部640を有している。
【0103】
<適用例6>
図24は、携帯電話機の外観を表したものである。この携帯電話機は、例えば、上側筐体710と下側筐体720とを連結部(ヒンジ部)730で連結したものであり、ディスプレイ740,サブディスプレイ750,ピクチャーライト760およびカメラ770を有している。
【0104】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態において説明した各層の材料および厚み、または成膜方法および成膜条件などは限定されるものではなく、他の材料および厚みとしてもよく、または他の成膜方法および成膜条件としてもよい。
【0105】
更に、本発明は、液晶ディスプレイおよび有機ELディスプレイのほか、無機エレクトロルミネッセンス素子、またはエレクトロデポジション型もしくエレクトロクロミック型の表示素子などの他の表示素子を用いた表示装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0106】
1…薄膜トランジスタ、11…基板、20…ゲート電極、30…ゲート絶縁膜、40…酸化物半導体膜、41…チャネル領域、50…チャネル保護膜、60S…ソース電極、60D…ドレイン電極領域、70…表示装置、80…駆動パネル、10R,10G,10B…画素、110…表示領域、120…信号線駆動回路、130…走査線駆動回路、150…画素駆動回路、Tr1,Tr2…トランジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物半導体膜と、
対向する二つの面を有し、前記二つの面の一方が前記酸化物半導体膜に接しているゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜の二つの面の他方に接して設けられ、前記ゲート絶縁膜との界面から厚み方向における少なくとも一部が金属酸化物により構成されたゲート電極と、
前記酸化物半導体膜に電気的に接続されたソース電極およびドレイン電極と
を備えた薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記ゲート絶縁膜は、前記ゲート電極との界面に接して、低還元性材料よりなる膜を含む
請求項1記載の薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記ゲート絶縁膜は、前記ゲート電極との界面に接して、シリコン酸化膜を含む
請求項2記載の薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記ゲート電極の厚み方向における少なくとも一部は、白金(Pt),チタン(Ti),ルテニウム(Ru),モリブデン(Mo),銅(Cu),タングステン(W)およびニッケル(Ni)からなる群のうち少なくとも1種を含む金属酸化物により構成されている
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項5】
基板に、前記ゲート電極,前記ゲート絶縁膜,前記酸化物半導体膜,並びに前記ソース電極および前記ドレイン電極がこの順に積層されている
請求項4記載の薄膜トランジスタ。
【請求項6】
基板に、前記ソース電極および前記ドレイン電極,前記酸化物半導体膜,前記ゲート絶縁膜,並びに前記ゲート電極がこの順に積層されている
請求項4記載の薄膜トランジスタ。
【請求項7】
基板にゲート電極を形成する工程と、
前記ゲート電極の表面から厚み方向における少なくとも一部を、熱処理またはプラズマ処理を用いて酸化させることにより金属酸化物により構成する工程と、
前記ゲート電極の上にゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜の上に酸化物半導体膜を形成する工程と、
前記酸化物半導体膜の上にソース電極およびドレイン電極を形成する工程と
を含む薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項8】
前記ゲート絶縁膜を形成する工程において、前記ゲート電極との界面に接して、低還元性材料よりなる膜を形成する
請求項7記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項9】
前記低還元性材料よりなる膜として、化学気相成長法により作製したシリコン酸化膜,スパッタリング法により作製したシリコン酸化膜,スパッタリング法により作製したシリコン窒化膜,スパッタリング法により作製した酸化アルミニウム膜,およびスパッタリング法により作製した窒化アルミニウム膜のうち少なくとも1種を用いる
請求項8記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項10】
前記ゲート電極の表面をプラズマ処理する工程と前記ゲート絶縁膜を形成する工程とを真空中で連続して行う
請求項7記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項11】
基板にゲート電極を形成すると共に、前記ゲート電極の表面から厚み方向における少なくとも一部を、酸化ガスを添加して成膜することにより金属酸化物により構成する工程と、
前記ゲート電極の上にゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜の上に酸化物半導体膜を形成する工程と、
前記酸化物半導体膜の上にソース電極およびドレイン電極を形成する工程と
を含む薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項12】
前記ゲート絶縁膜を形成する工程において、前記ゲート電極との界面に接して、低還元性材料よりなる膜を形成する
請求項11記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項13】
前記低還元性材料よりなる膜として、化学気相成長法により作製したシリコン酸化膜,スパッタリング法により作製したシリコン酸化膜,スパッタリング法により作製したシリコン窒化膜,スパッタリング法により作製した酸化アルミニウム膜,およびスパッタリング法により作製した窒化アルミニウム膜のうち少なくとも1種を用いる
請求項12記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項14】
基板に、ソース電極およびドレイン電極を形成する工程と、
前記ソース電極および前記ドレイン電極の上に酸化物半導体膜を形成する工程と、
前記酸化物半導体膜の上にゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜の上にゲート電極を形成すると共に、前記ゲート電極の前記ゲート絶縁膜との界面から厚み方向における少なくとも一部を、酸化ガスを添加して成膜することにより金属酸化物により構成する工程と
を含む薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項15】
前記ゲート絶縁膜を形成する工程において、前記ゲート電極との界面に接して、低還元性材料よりなる膜を形成する
請求項14記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項16】
前記低還元性材料よりなる膜として、化学気相成長法により作製したシリコン酸化膜,スパッタリング法により作製したシリコン酸化膜,スパッタリング法により作製したシリコン窒化膜,スパッタリング法により作製した酸化アルミニウム膜,およびスパッタリング法により作製した窒化アルミニウム膜のうち少なくとも1種を用いる
請求項15記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項17】
薄膜トランジスタおよび画素を備え、
前記薄膜トランジスタは、
酸化物半導体膜と、
対向する二つの面を有し、前記二つの面の一方が前記酸化物半導体膜に接しているゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜の二つの面の他方に接して設けられ、前記ゲート絶縁膜との界面から厚み方向における少なくとも一部が金属酸化物により構成されたゲート電極と、
前記酸化物半導体膜に電気的に接続されたソース電極およびドレイン電極と
を備えた表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−159908(P2011−159908A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22160(P2010−22160)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】