薄膜トランジスタ及びその製造方法
【課題】新規な非シリコン系半導体薄膜を用いた薄膜トランジスタを提供する。
【解決手段】ガリウムが酸化インジウムに固溶していて、原子比Ga/(Ga+In)が0.001〜0.12であり、全金属原子に対するインジウムとガリウムの含有率が80原子%以上であり、In2O3のビックスバイト構造を有する酸化物薄膜を用いることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【解決手段】ガリウムが酸化インジウムに固溶していて、原子比Ga/(Ga+In)が0.001〜0.12であり、全金属原子に対するインジウムとガリウムの含有率が80原子%以上であり、In2O3のビックスバイト構造を有する酸化物薄膜を用いることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガリウムが固溶している酸化インジウム酸化物焼結体、それからなるスパッタリングターゲット、そのターゲットを用いて作製される薄膜及びその薄膜を含む薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置の発展は目覚ましく、液晶表示装置やEL表示装置等、種々の表示装置がパソコンやワ−プロ等のOA機器へ活発に導入されている。これらの表示装置は、いずれも表示素子を透明導電膜で挟み込んだサンドイッチ構造を有している。
【0003】
それら表示装置を駆動させるスイッチング素子には、現在、シリコン系の半導体膜が主流を占めている。それは、シリコン系薄膜の安定性、加工性の良さの他、スイッチング速度が速い等のためである。このシリコン系薄膜は、一般に化学蒸気析出法(CVD)法により作製されている。
【0004】
しかしながら、シリコン系薄膜は非晶質の場合、スイッチング速度が比較的遅く、高速な動画等を表示する場合は画像を表示できないという難点を有している。また、結晶質のシリコン系薄膜の場合には、スイッチング速度は比較的速いが、結晶化に800℃以上の高温や、レーザーによる加熱等が必要であり、製造に対して多大なエネルギーと工程を要している。また、シリコン系の薄膜は、電圧素子としても性能は優れているものの、電流を流した場合、その特性の経時変化が問題となっている。
【0005】
そこでシリコン系薄膜以外の膜が検討されている。
シリコン系薄膜よりも安定性に優れるとともにITO膜と同等の光透過率を有する透明半導体膜、及びそれを得るためのターゲットとして、酸化インジウム、酸化ガリウム及び酸化亜鉛からなる透明半導体薄膜や、酸化亜鉛と酸化マグネシウムからなる透明半導体薄膜が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0006】
特許文献2には、酸化インジウム及び酸化ガリウムを主成分とする組成物であって、InGaO3化合物を含有する組成物が開示されている。当該文献は、透明導電膜に関する。
【0007】
特許文献3には、Gaを1〜10原子%を含有するIn2O3からなる透明導電膜の記載がある。この透明導電膜は、In2O3ターゲット上に金属Gaを置いて共スパッタして作製される。
【0008】
特許文献4には、Ga/(In+Ga)が0.35以上1.0未満で、(Ga,In)2O3相を含む、透明導電膜用の焼結体組成物に関する記載がある。特許文献5には、Ga/(In+Ga)が0.65以上1.0未満で、(Ga,In)2O3相を含む、透明導電膜用の酸化物焼結体に関する記載がある。
【0009】
特許文献6には、ガリウム元素を49.1〜65原子%含む酸化インジウム−酸化ガリウム焼結体に関する記載がある。特許文献7には、Ga/In比が、0.97〜1.86の組成を有する焼結体を用いたスパッタリングターゲットに関する記載がある。特許文献8、特許文献9には、それぞれGaを35〜45原子%、15〜49原子%含有する酸化インジウム−酸化ガリウム焼結体に関する記載がある。
【0010】
しかしながら、特許文献6〜9のGa含有領域では、結晶質の酸化インジウム−酸化ガリウムからなる酸化物半導体膜は得られない。また、これらの組成では、InGaO3からなる絶縁性の高い結晶相を生成する場合があり、スパッタリング中に異常放電を起こしたり、ノジュールが発生する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−119525号公報
【特許文献2】特開平7−182924号公報
【特許文献3】特開平9−50711号公報
【特許文献4】特開2007−277039号公報
【特許文献5】特開2007−210823号公報
【特許文献6】特開2007−224386号公報
【特許文献7】特開2007−113026号公報
【特許文献8】特開2005−347215号公報
【特許文献9】特開平09−259640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は新規な非シリコン系半導体薄膜を用いた薄膜トランジスタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下の酸化物焼結体、スパッタリングターゲット、酸化物薄膜、薄膜トランジスタ及びこれらの製造方法を提供する。
1.ガリウムが酸化インジウムに固溶していて、原子比Ga/(Ga+In)が0.001〜0.12であり、全金属原子に対するインジウムとガリウムの含有率が80原子%以上であり、In2O3のビックスバイト構造を有することを特徴とする酸化物焼結体。
2.前記Ga/(Ga+In)が0.001〜0.10である1に記載の酸化物焼結体。
3.前記Ga/(Ga+In)が、0.005〜0.08であることを特徴とする1に記載の酸化物焼結体。
4.前記ビックスバイト構造の格子定数が、10.05Å以上10.118Å未満であることを特徴とする1〜3のいずれかに記載の酸化物焼結体。
5.密度が6.5〜7.1g/cm3であることを特徴とする1〜4のいずれかに記載の酸化物焼結体。
6.バルク抵抗が10mΩcm以下であることを特徴とする1〜5のいずれかに記載の酸化物焼結体。
7.分散しているGaの集合体の直径が1μm未満であることを特徴とする1〜6のいずれかに記載の酸化物焼結体。
8.正4価以上の金属イオンの含有量が100原子ppm以下であることを特徴とする1〜7のいずれかに記載の酸化物焼結体。
9.正2価以下の金属イオンの含有量が100原子ppm以下であり、かつ、正4価の金属イオン濃度≦正2価の金属イオン濃度であることを特徴とする1〜8のいずれかに記載の酸化物焼結体。
10.酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化アルミニウム及び酸化ホウ素から選ばれる1種又は2種以上の酸化物が添加されていることを特徴とする1〜9のいずれかに記載の酸化物焼結体。
11.酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化アルミニウム及び酸化ホウ素から選ばれる1種又は2種以上の酸化物が0.01〜5原子%添加されていることを特徴とする10に記載の酸化物焼結体。
12.平均粒径が2μm未満のインジウム化合物粉末と、平均粒径が2μm未満のガリウム化合物粉末を、ガリウムとインジウムの原子比Ga/(In+Ga)=0.001〜0.12で混合する工程、前記混合物を成形する工程、及び前記成形体を1200℃〜1600℃で2〜96時間焼成する工程を含むことを特徴とする1〜11のいずれかに記載の酸化物焼結体の製造方法。
13.焼成を酸素雰囲気中又は加圧下で行うことを特徴とする12に記載の酸化物焼結体の製造方法。
14.上記1〜11のいずれかに記載の酸化物焼結体からなることを特徴とするスパッタリングターゲット。
15.上記14に記載のスパッタリングターゲットを用いて成膜されたことを特徴とする酸化物薄膜。
16.ガリウムが酸化インジウムに固溶していて、原子比Ga/(Ga+In)が0.001〜0.12であり、全金属原子に対するインジウムとガリウムの含有率が80原子%以上であり、In2O3のビックスバイト構造を有することを特徴とする酸化物薄膜。
17.前記原子比Ga/(Ga+In)が0.001〜0.10であることを特徴とする16に記載の酸化物薄膜。
18.前記原子比Ga/(Ga+In)が0.005〜0.08であることを特徴とする16に記載の酸化物薄膜。
19.前記ビックスバイト構造の格子定数が、10.01Å以上10.118Å未満であることを特徴とする16〜18のいずれかに記載の酸化物薄膜。
20.分散しているGaの集合体の直径が1μm未満であることを特徴とする16〜19のいずれかに記載の酸化物薄膜。
21.酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化アルミニウム及び酸化ホウ素から選ばれる1種又は2種以上の酸化物を含有していることを特徴とする16〜20のいずれかに記載の酸化物薄膜。
22.酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化アルミニウム及び酸化ホウ素から選ばれる1種又は2種以上の酸化物が0.01〜5原子%添加されていることを特徴とする21に記載の酸化物薄膜。
23.上記15〜22のいずれかに記載の酸化物薄膜を用いることを特徴とする薄膜トランジスタ。
24.チャンネルエッチ型の薄膜トランジスタであることを特徴とする23に記載の薄膜トランジスタ。
25.エッチストッパー型の薄膜トランジスタであることを特徴とする23に記載の薄膜トランジスタ。
26.上記14に記載のスパッタリングターゲットを用いて酸化物薄膜を形成する工程、及び前記酸化物薄膜を、酸素雰囲気中で熱処理して結晶化する工程を含むことを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
27.前記酸化物薄膜形成工程において、酸素の含有量が10体積%以上の成膜ガスにおいて酸化物薄膜を形成することを特徴とする26に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
28.前記結晶化工程において、前記酸化物薄膜を、250〜500℃、0.5〜1200分で熱処理して結晶化することを特徴とする26又は27に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
29.さらに、前記熱処理した酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程を含むことを特徴とする26〜28のいずれかに記載の薄膜トランジスタの製造方法。
30.上記23〜25のいずれかに記載の薄膜トランジスタを備えたことを特徴とする半導体素子。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、新規な非シリコン系半導体薄膜を用いた薄膜トランジスタが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】参考例1で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図2】参考例2で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図3】参考例3で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図4】参考例4で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図5】参考例5で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図6】参考例6で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図7】参考例7で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図8】参考例8で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図9】参考例9で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図10】参考例10で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図11】参考例11で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図12】比較例1で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図13】比較例2で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図14】比較例3で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図15】比較例4で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図16】比較例5で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図17】参考例1〜11及び比較例1のGa、(Ga+X)添加量と格子定数の関係を示す図である。
【図18】実施例4で製造したチャンネルエッチ型薄膜トランジスタの構造を示す図である。
【図19】実施例5,8で製造したエッチストッパー型薄膜トランジスタの構造を示す図である。
【図20】実施例1〜7及び比較例6のGa、(Ga+X)添加量と格子定数の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の酸化物焼結体は、ガリウムが酸化インジウムに固溶している。この酸化物焼結体において、全金属原子に対するインジウムとガリウムの含有率は80原子%以上である。ガリウム金属とインジウム金属の原子比は、Ga/(In+Ga)=0.001〜0.12である。この原子比においてガリウムが酸化インジウムにほぼ完全固溶する。好ましくは、酸化インジウム結晶格子中のインジウム元素の位置にガリウム等のインジウム以外の元素がイオンとして入る。
【0017】
Ga/(In+Ga)が0.001未満では、酸化インジウム結晶の格子定数の変化が小さくなり、ガリウムを添加する効果が現れない場合があり、0.12超では、InGaO3等が析出する場合がある。InGaO3等が析出するほど、得られる酸化物薄膜が結晶化しにくくなり、結晶質薄膜が得られない場合がある。
【0018】
ガリウム金属とインジウム金属の原子比は好ましくはGa/(In+Ga)=0.001〜0.10、より好ましくはGa/(In+Ga)=0.005〜0.08である。さらに好ましくはGa/(In+Ga)=0.01〜0.05、特に好ましくはGa/(In+Ga)=0.02〜0.04である。
【0019】
また、本発明の酸化物焼結体は、In2O3ビックスバイト構造を有することが好ましい。さらに好ましくはGaが完全にIn2O3ビックスバイト構造に固溶分散することにより、スパッタリングターゲットと用いた場合に異常放電が起こりにくいため、In2O3のビックスバイト構造の単相からなる。ビックスバイト構造は全体の結晶構造のうち、90%以上が好ましく、95%以上がさらに好ましく、97%以上が特に好ましい。結晶構造の割合は、EPMA分析により結晶相を同定し、その画像解析により求めることができる。
本発明の酸化物焼結体のビックスバイト構造の格子定数は、下限は特にないが、好ましくは10.05Å以上10.118Å未満である。ビックスバイト構造はX線回析により確認できる。
【0020】
本発明の酸化物焼結体の密度は好ましくは6.5〜7.2g/cm3である。密度が低いと、酸化物焼結体から形成するスパッタリングターゲットの表面が黒化したりし、異常放電を誘発し、スパッタ速度が低下したりする場合がある。
焼結体の密度を上げるためには、原料の粒子径を10μm以下のものを使用し、原料を均質に混合する。粒子径が大きいとインジウム化合物とガリウム化合物の反応が進まない恐れがある。均質に混合されない場合も同様に未反応や異常粒成長した粒子が存在し密度が上がらない恐れがある。
【0021】
また、本発明の酸化物焼結体は、酸化インジウムにGaが分散しているが、分散しているGaの集合体の直径は1μm未満であることが好ましい。ここでいう分散とは酸化インジウム結晶中にガリウムイオンが固溶している場合でもよく、酸化インジウム粒内にGa化合物粒子が細かく分散していてもよい。Gaが細かく分散することにより、安定したスパッタ放電ができる。Gaの集合体の直径はEPMA(電子線マイクロアナライザ)により測定できる。
【0022】
本発明の酸化物焼結体のバルク抵抗は、好ましくは10mΩcm以下である。完全に固溶していないで、Ga2O3等が観察される場合には、異常放電の原因になる場合がある。より好ましくは、5mΩcm以下である。下限は特にないが、1mΩcm未満にする必要はない。
【0023】
本発明の酸化物焼結体中の正4価以上の金属イオン(例えばスズ、チタン、ジルコニウム、ゲルマニウム等)の含有量が100ppm以下であることが好ましい。100ppmを超える量の正4価以上の金属イオンが含まれる場合、得られた結晶質酸化物薄膜が半導体化せずに、導電性になる場合がある。好ましくは、50ppm以下、より好ましくは30ppm以下である。
【0024】
不純物量を100ppm以下とするためには、99.99%以上の純度の原料を用いるのがよい。
【0025】
酸化インジウムは原料中に100ppm以上の正4価以上の金属、特にスズが含まれるものが多いが、作製される薄膜中ではキャリアを生成するため半導体として使用できなくなる恐れがある。
【0026】
本発明の酸化物焼結体中の正2価以下の金属イオン(例えば亜鉛、マグネシウム、銅、鉄、ニッケル、コバルト等)の含有量が100ppm以下であることが好ましい。100ppm以上の正2価以下の金属イオンが含まれる場合には、得られる酸化物半導体の移動度が低下する場合がある。
【0027】
また、正4価の金属イオン濃度≦正2価の金属イオン濃度であることが、好ましい。
正4価の金属イオン濃度>正2価の金属イオン濃度の場合、正4価の金属イオンが酸化インジウムの結晶にドープされキャリヤー密度を大きくし、得られる酸化物薄膜の導電性が大きくなり、半導体にならない場合がある。好ましくは、50ppm以下、より好ましくは30ppm以下である。
【0028】
本発明の酸化物焼結体に、酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化アルミニウム、酸化ホウ素から選ばれる1種又は2種以上の酸化物を添加することが好ましい。酸化物は、好ましくは酸化物焼結体に対して0.01〜5原子%になるように添加される。これらの酸化物を含有させることにより、この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして使用して得られる薄膜の格子定数が、酸化インジウム単体からなる薄膜の格子定数がより小さくなり、金属間距離が小さくなる。その結果、このような薄膜を用いる薄膜トランジスタの移動度が速まる。
【0029】
本発明の酸化物焼結体の製造方法は、
(a)平均粒径が2μm未満のIn化合物粉末と、平均粒径が2μm未満のGa化合物粉末を、ガリウムとインジウムの原子比Ga/(In+Ga)=0.001〜0.12で混合して混合物を調製する工程;
(b)前記混合物を成形して成形体を調製する工程;及び
(c)前記成形体を1200℃〜1600℃で2〜96時間焼成する工程を含む。
尚、平均粒径はJIS R 1619に記載の方法により測定する。
【0030】
原料化合物粉末を混合する工程において、用いる原料粉末のインジウム化合物及びガリウム化合物は、酸化物又は焼成後に酸化物になるもの(酸化物前駆体)であればよい。インジウム酸化物前駆体及びスズ酸化物前駆体としては、インジウム又はスズの、硫化物、硫酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物(塩化物、臭化物等)、炭酸塩、有機酸塩(酢酸塩、プロピオン酸塩、ナフテン酸塩等)、アルコキシド(メトキシド、エトキシド等)、有機金属錯体(アセチルアセトナート等)等が挙げられる。
【0031】
この中でも、低温で完全に熱分解し、不純物が残存しないようにするためには、硝酸塩、有機酸塩、アルコキシド又は有機金属錯体が好ましい。尚、各金属の酸化物を用いるのが最適である。
【0032】
上記各原料の純度は、通常99.9質量%(3N)以上、好ましくは99.99質量%(4N)以上、さらに好ましくは99.995質量%以上、特に好ましくは99.999質量%(5N)以上である。各原料の純度が99.9質量%(3N)以上であれば、正四価以上の金属やFe、Ni、Cu等の不純物により半導体特性が低下することもなく、信頼性を十分に保持できる。特にNa、K、Caの含有量が100ppm以下であると薄膜を作製した際に電気抵抗が経年劣化しないため好ましい。
【0033】
混合は、(i)溶液法(共沈法)又は(ii)物理混合法により実施するのが好ましい。より好ましくは、コスト低減のため、物理混合法である。
【0034】
物理混合法では、上記のインジウム化合物及びガリウム化合物を含む原料粉体を、ボールミル、ジェットミル、パールミル、ビーズミル等の混合器に入れ、均一に混合する。
【0035】
混合時間は1〜200時間とするのが好ましい。1時間未満では分散する元素の均一化が不十分となるおそれがあり、200時間を超えると時間がかかりすぎ、生産性が悪くなるおそれがある。特に好ましい混合時間は10〜60時間である。
【0036】
混合した結果、得られる原料混合粉末の平均粒子径が0.01〜1.0μmになることが好ましい。粒子径が0.01μm未満では粉末が凝集しやすく、ハンドリングが悪く、また、緻密な焼結体が得られない場合がある。一方、1.0μmを超えると緻密な焼結体が得られない場合がある。
【0037】
本発明では、原料粉末の混合後、得られた混合物を仮焼する工程を含んでもよい。
【0038】
仮焼工程では、上記工程で得られた混合物が仮焼される。仮焼を行うことにより、最終的に得られるスパッタリングターゲットの密度を上げることが容易になる。
【0039】
仮焼工程においては、好ましくは200〜1000℃で、1〜100時間、より好ましくは2〜50時間の条件で(a)工程で得られた混合物を熱処理することが好ましい。200℃以上かつ1時間以上の熱処理条件であれば、原料化合物の熱分解が十分に行われるので好ましい。熱処理条件が、1000℃以下及び100時間以下であれば、粒子が粗大化することもないので好適である。
【0040】
さらに、ここで得られた仮焼き後の混合物を、続く成形工程及び焼結工程の前に粉砕することが好ましい。この仮焼き後の混合物の粉砕は、ボールミル、ロールミル、パールミル、ジェットミル等を用いて行うことが適当である。粉砕後に得られた仮焼き後の混合物の平均粒径は、例えば、0.01〜3.0μm、好ましくは0.1〜2.0μmであることが適当である。得られた仮焼き後の混合物の平均粒径が0.01μm以上であれば、十分な嵩比重を保持することができ、かつ取り扱いが容易になるので好ましい。また、仮焼き後の混合物の平均粒径が3.0μm以下であれば最終的に得られるスパッタリングターゲットの密度を上げることが容易になる。尚、原料粉末の平均粒径は、JIS R 1619に記載の方法によって測定することができる。
【0041】
混合した原料粉末の成形は公知の方法、例えば、加圧成形、冷間静水圧加圧が採用できる。
加圧成形は、コールドプレス(Cold Press)法やホットプレス(Hot Press)法等、公知の成形方法を用いることができる。例えば、得られた混合粉を金型に充填し、コールドプレス機にて加圧成形する。加圧成形は、例えば、常温(25℃)下、100〜100000kg/cm2で行われる。
【0042】
原料粉末の成形体を焼成することにより酸化物焼結体を製造する。
焼結温度は1200〜1600℃であり、好ましくは1250〜1580℃であり、特に好ましくは1300〜1550℃である。
【0043】
上記の焼結温度の範囲において、酸化インジウムにガリウムが固溶しやすく、バルク抵抗を下げることができる。
また、焼結温度を1600℃以下とすることにより、Gaの蒸散を抑制することができる。
【0044】
焼結時間は2〜96時間、より好ましくは10〜72時間である。
【0045】
焼結時間を2時間以上とすることにより、得られる酸化物焼結体の焼結密度を向上させ、表面の加工が可能とすることができる。また、焼結時間を96時間以下とすることにより、適当な時間で焼結を行うことできる。
【0046】
焼結は、好ましくは酸素ガス雰囲気下で行う。酸素ガス雰囲気下で焼結を行うことにより、得られる酸化物焼結体の密度を高めることができ、酸化物焼結体のスパッタリング時の異常放電を抑制することができる。酸素ガス雰囲気は、酸素濃度が、例えば10〜100vol%の雰囲気であるとよい。ただし、非酸化性雰囲気、例えば、真空あるいは窒素雰囲気下で行ってもよい。
【0047】
また、焼結は大気圧下又は加圧下で行うことができる。圧力は、例えば9800〜1000000Pa、好ましくは100000〜500000Paである。
【0048】
本発明の酸化物焼結体は、上述した方法により製造することができる。本発明の酸化物焼結体はスパッタリングターゲットとして使用できる。本発明の酸化物焼結体は高い導電性を有することから、スパッタリングターゲットとした場合に成膜速度が速いDCスパッタリング法を適用することができる。
【0049】
本発明のスパッタリングターゲットは、上記DCスパッタリング法に加えて、RFスパッタリング法、ACスパッタリング法、パルスDCスパッタリング法等いずれのスパッタリング法も適用することができ、異常放電のないスパッタリングが可能である。
【0050】
酸化物薄膜は、上記の酸化物焼結体を用いて、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザー蒸着法等により作製できる。スパッタリングの方法としては、例えばRFマグネトロンスパッタ法、DCマグネトロンスパッタ法、ACマグネトロンスパッタ法、パルスDCマグネトロンスパッタ法等が挙げられる。
【0051】
スパッタリングガスとしてはアルゴンと酸化性ガスの混合ガスを用いることができる。酸化性ガスとはO2、CO2、O3、H2O等が挙げられる。スパッタリング成膜時の酸素分圧を0.1%以上、20%以下にすることが好ましい。0.1%未満では、成膜直後の透明非晶質膜は、導電性を有し、酸化物半導体しての使用が困難な場合がある。一方、20%超では、透明非晶質膜が絶縁体化し、酸化物半導体しての使用が困難な場合がある。好ましくは、1〜10%である。
【0052】
本発明の酸化物薄膜は、ガリウムが酸化インジウムに固溶しており、全金属元素に対するガリウムとインジウムの含有率は80原子%以上である。ガリウムとインジウムの金属比Ga/(Ga+In)は0.001〜0.12である。好ましくは0.001〜0.10であり、特に好ましくは0.005〜0.08である。
【0053】
酸化ガリウムは、酸化インジウムの格子定数を小さくする効果があり、従って移動度を大きくする効果がある。また、酸素との結合力が強く、多結晶化酸化インジウム薄膜の酸素欠損量を低減する効果がある。酸化ガリウムは、酸化インジウムと完全固溶する領域を有し、結晶化した酸化インジウムと完全に一体化し、格子定数を低下させることができる。固溶限界以上の酸化ガリウムを加えると、析出した酸化ガリウムが電子の散乱原因となったり、酸化インジウムの結晶化を阻害したりする場合がある。
【0054】
本発明の酸化物薄膜はビックスバイト構造の単相からなり、ビックスバイト構造の格子定数は、下限は特に限定しないが、好ましくは10.01Å以上10.118Å未満である。格子定数が低いことは、結晶格子が縮小され金属間距離が小さいことを意味している。金属間距離が小さくなることより,金属の軌道上を移動する電子の動く速度が早まり、得られる薄膜トランジスタの移動度が速くなる。格子定数が大きすぎると、酸化インジウムそのものの結晶格子と等しくなり、移動度が向上しない。
【0055】
本発明の酸化物薄膜は、好ましくは、分散しているGaの集合体の直径が1μm未満である。
【0056】
本発明の酸化物薄膜は、好ましくは酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化アルミニウム、酸化ホウ素から選ばれる1種又は2種以上の酸化物を含有する。酸化物は、好ましくは酸化物薄膜に対して0.01〜5原子%含有される。これらの酸化物は、酸化ガリウムと同様に、酸化インジウムと完全固溶する領域を有し、結晶化した酸化インジウムと完全に一体化し、格子定数を低下させることができる。格子定数を低下させることにより、結晶中のインジウム同士の5s軌道の重なりが大きくなり、移動度が向上することが期待される。
【0057】
本発明の酸化物薄膜は、上記の本発明のスパッタリングターゲットを用いて製造できる。
【0058】
低ガリウム濃度の膜は結晶化しやすいので、結晶質膜を形成するときは低ガリウム濃度のスパッタリングターゲットを用いる。高ガリウム濃度の膜は非結晶となりやすいので、非結晶質膜を形成するときは高ガリウム濃度のスパッタリングターゲットを用いる。具体的には、Gaが0.05〜0.12付近では非晶質と結晶膜の双方が作製可能であり、約0.05以下では結晶膜となる。薄膜の作製方法ほぼ同じである。
【0059】
Ga/(In+Ga)<0.05の低ガリウム濃度のスパッタリングターゲットを用いれば結晶質膜が得られる。
ただし、Ga/(In+Ga)<0.05の領域において薄膜の均一性を向上するために非晶質の膜を以下の方法で作製することもできる。例えば、基板温度を室温以下にしたり、スパッタリングガス中に0.1Pa以下の水蒸気を添加したり、スパッタリングガス圧5Pa以上にする等のスパッタリングの条件よっては非晶質膜も作製することが、薄膜を作製後に後述する後加熱の工程で結晶質膜ができる。
【0060】
0.05≦Ga/(In+Ga)<0.12の高ガリウム濃度のスパッタリングターゲットを用いて結晶質膜を形成するときは、成膜時の基板温度は、室温から450℃が好ましい。室温未満に冷却するにはコストがかかりすぎ、450℃超にする場合も装置コストがかかりすぎる。好ましくは、室温(基板加熱なし)から200℃である。連続してスパッタする場合には、スパッタ中のプラズマにより基板が加熱される場合があり、フィルム基板等の場合には室温程度に保つために冷却しながら行うのも好ましい。
【0061】
製膜時の基板加熱を行わない場合は結晶化を行う後加熱の工程が必要である。ただし、基板加熱を行った場合にも後加熱を行うこともできる。
【0062】
酸化物薄膜が製膜した基板等を150℃〜450℃に加熱すると、薄膜が結晶化し半導体特性が得られる。150℃未満では、結晶化が不十分であり、薄膜の絶縁性が損なわれリークが起こる可能性がある。450℃以上では基板の反りや半導体素子を作製した時に各薄膜層が剥離する恐れがある。より好ましくは200℃〜350℃であり、さらに好ましくは、240〜300℃である。
【0063】
加熱時間は、0.5分〜120分がよい。レーザー等の高出力加熱では0.5分程度で十分結晶化が起こるが、0.5分未満では結晶化が不十分な場合があり、120分超では、加熱時間が長すぎてコストがかかりすぎる恐れがある。より好ましくは0.5〜90分、さらに好ましくは1〜60分である。
【0064】
また、加熱の雰囲気は、特に限定されるわけではないが、大気雰囲気、酸素流通雰囲気、窒素雰囲気、低真空雰囲気が好ましいが、キャリアの制御のしやすさの点で大気雰囲気、酸素流通雰囲気がより好ましい。結晶質酸化物半導体薄膜の場合、膜中の余分な酸素や水分は雰囲気の酸素と交換すると考えられる。よって酸素を含む雰囲気では、半導体特性を安定化する点で好ましい。但し、純酸素中で高温に加熱すると、酸素欠損が完全に消失し、絶縁体化する場合がある。好ましい酸素濃度は、19%〜50%である。
【0065】
本発明の酸化物薄膜は薄膜トランジスタに使用できる。特にチャネル層として使用できる。酸化物薄膜はそのまま又は熱処理して使用できる。
【0066】
本発明の薄膜トランジスタは、チャンネルエッチ型でもよい。本発明の薄膜は、結晶質であり耐久性があるので、本発明の薄膜を用いた薄膜トランジスタの製造において、Al等の金属薄膜をエッチングしてソース・ドレイン電極、チャンネル部を形成するフォトリソ工程も可能となる。
【0067】
また、本発明の薄膜トランジスタは、エッチストッパー型でもよい。本発明の薄膜は、エッチストッパーが半導体層からなるチャンネル部を保護することができ、且つ、成膜時に半導体膜に酸素を大量に取り込ませておくことができるため、エッチストッパー層を介して外部より酸素を供給する必要がなくなる。また、成膜直後には非晶質膜であるので、Al等の金属薄膜をエッチングしてソース・ドレイン電極、チャンネル部を形成すると同時に、半導体層をエッチングできフォトリソ工程を短縮することも可能となる。
【0068】
本発明の薄膜トランジスタの製造方法は、本発明のスパッタリングターゲットを用いて酸化物薄膜を形成する工程、前記酸化物薄膜を酸素雰囲気中で熱処理する工程、及び前記熱処理した酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程を含む。熱処理により結晶化する。
【0069】
薄膜トランジスタにおいて、好ましくは、熱処理した酸化物薄膜上に半導体特性の経時劣化を防ぐために、酸化物絶縁体層を形成する。
【0070】
好ましくは、酸素の含有量が10体積%以上の成膜ガスにおいて、酸化物薄膜を形成する。成膜ガスとしては、例えばアルゴン及び酸素の混合ガスを用いる。
【0071】
成膜ガス中の酸素濃度を10体積%以上とすることで、後に続く結晶化を安定化することができる。酸素の含有量が10体積%未満の場合、結晶化に必要な酸素を外部から供給する必要があり、半導体内部の酸素欠損が完全に消失する恐れがある。また、この様な欠損が生じた場合、結晶は正常に成長せず散乱因子を内在することになり、移動度の低下を招く場合がある。
【0072】
酸素濃度に上限は特にないが、酸素100体積%でスパッタリングを行なう場合には、スパッタ速度が低下する場合があり、酸素は50体積%以下にすることが好ましい。より好ましくは40体積%以下、さらに好ましくは30体積%以下である。半導体内部に大量に取り込まれた余分な酸素は、次の結晶化工程で容易に外部に放出され、格子欠損の少ない酸化インジウム結晶薄膜が得られる。
【0073】
酸化物薄膜の結晶化工程においては、酸素の存在下又は不存在下でランプアニール装置、レーザーアニール装置、熱プラズマ装置、熱風加熱装置、接触加熱装置等を用いることができる。この場合、早く昇温することが好ましい。昇温速度が低いと結晶粒子が異常成長することがあり、その粒子界面の格子のずれが大きくなり、散乱の原因となる。短時間で結晶化させることにより、小さな結晶粒子を生成させ、結晶格子のずれを小さくすることが可能となり、移動度向上の効果が大きくなる。結晶格子のずれは、結晶方位の異なる結晶の界面の結晶方位の不整合と見なすことができる。結晶粒子間の結晶方位が近い方が散乱は少なくなる。
【0074】
昇温速度は、通常40℃/分以上であり、好ましくは70℃/分以上、より好ましくは80℃/分、さらに好ましくは100℃/分以上である。加熱速度に上限は無く、レーザー加熱、熱プラズマによる加熱の場合には、瞬間的に所望の熱処理温度まで昇温可能である。
冷却速度も高い方が好ましいが、基板速度が大きすぎる場合は基板が割れたり、薄膜に内部応力が残るために電気特性が下がる恐れがある。冷却速度が低すぎる場合は、アニール効果により、結晶が異常に成長する可能性があり、加熱速度と同様に冷却速度を設定することが好ましい。冷却速度は、通常、5〜300℃/分、より好ましくは10〜200℃/分、さらに好ましくは、20〜100℃/分である。
【0075】
酸化物薄膜の熱処理は好ましくは250〜500℃、0.5〜1200分で行う。250℃未満では、結晶化が達成されない場合があり、500℃超では、基板や半導体膜にダメージを与える場合がある。また、0.5分未満では、熱処理時間が短すぎて、結晶化が達成されない場合があり、1200分では、時間がかかりすぎる場合がある。
【実施例】
【0076】
続いて、本発明を実施例により比較例と対比しながら説明する。尚、本実施例は好適な例を示すものであり、これらに本発明が制限されるものではない。従って、本発明の技術思想に基づく変形又は他の実施例は本発明に包含される。
【0077】
参考例1〜8:酸化物焼結体の製造
原料粉体として、下記の酸化物粉末を使用した。尚、平均粒径はレーザ回折式粒度分布測定装置SALD−300V(島津製作所製)で、比表面積はBET法で測定した。
(a)酸化インジウム粉:比表面積6m2/g、平均粒径1.2μm
(b)酸化ガリウム粉:比表面積6m2/g、平均粒径1.5μm
(a)及び(b)からなる原料混合粉体全体の比表面積は6.0m2/gであった。
【0078】
上記の粉体を、表1に示すGa/(In+Ga)比となるように秤量し、湿式媒体撹拌ミルを使用して混合粉砕した。粉砕媒体として1mmφのジルコニアビーズを使用した。粉砕処理中、混合粉体の比表面積を確認しながら、比表面積を原料混合粉体の比表面積より2m2/g増加させた。
【0079】
粉砕後、スプレードライヤーで乾燥させて得た混合粉を金型(150mmφ20mm厚)に充填し、コールドプレス機にて加圧成形した。成形後、酸素を流通させながら酸素雰囲気中、表1に示す温度で24時間焼結して、焼結体を製造した。
【0080】
製造した焼結体の密度を、一定の大きさに切り出した焼結体の重量と外形寸法より算出した。このように、仮焼工程を行うことなく、焼結体の密度が高いスパッタリングターゲット用焼結体を得ることができた。
また、この焼結体のバルク抵抗(導電性)(mΩcm)を、抵抗率計(三菱油化製、ロレスタ)を使用し四探針法により測定した。
【0081】
焼結体の不純物濃度は以下のようにして求めた。
焼結体を採取し、その一部で溶解し水溶液化しICP法(誘導結合プラズマ発光分光分析法)で定量測定して、不純物濃度を測定した。
上記の評価結果を表1に示す。
【0082】
得られた焼結体についてX線回折を実施した。図1〜8に各参考例のX線チャートを示す。
チャートを分析した結果、参考例1〜8の焼結体中には、In2O3のビックスバイト構造が観察された。
【0083】
参考例1〜8について、X線回折より格子定数を求めた。立方晶In2O3の格子定数10.118Åに対する格子定数は表1の通りである。
上記X線回折測定(XRD)の測定条件は以下の通りである。
装置:(株)リガク製Ultima−III
X線:Cu−Kα線(波長1.5406Å、グラファイトモノクロメータにて単色化)
出力:50kV−120mA
2θ−θ反射法、連続スキャン(1.0°/分)
サンプリング間隔:0.02°
スリット DS、SS:2/3°、RS:0.6mm
ピーク強度はピーク分離を行い、そのピークの面積から求めた。
【0084】
得られた焼結体のEPMA測定によりGaの分散を確認したところ、1μm以上のGaの集合体は確認されなかった。
【0085】
また、得られた焼結体を切削加工し、バッキングプレートに貼り合わせ、4インチφのスパッタリングターゲットとした。このスパッタリングターゲットを、DCスパッタ装置に装着し、スパッタガスとしてアルゴンを用いて、0.3Pa、DC出力400Wにて、10kWhr連続スパッタを行い、スパッタ中の電圧変動をデータロガーに蓄積し、異常放電の有無を確認した。異常放電の有無は、電圧変動をモニターし異常放電を検出することにより行った。結果を表1に示す。5分間の測定時間中に発生する電圧変動がスパッタ運転中の定常電圧の10%以上あった場合を異常放電とした。
マイクロアークが発生するとは、スパッタ放電の異常放電のことをいい、スパッタ電圧が0.1秒間に±10%変動することで検地できるとなることをいい、マイクロアークが発生すると、素子の歩留まりが低下し、量産化には適さないおそれがある。
【0086】
参考例9〜11:酸化物焼結体の製造
原料粉体として、下記の酸化物粉末を使用した。尚、平均粒径はレーザー回折式粒度分布測定装置SALD−300V(島津製作所製)で、比表面積はBET法で測定した。
(a)酸化インジウム粉:比表面積6m2/g、平均粒径1.2μm
(b)酸化ガリウム粉:比表面積6m2/g、平均粒径1.5μm
(c)酸化スカンジウム:比表面積6m2/g、平均粒径1.5μm
(d)酸化イットリウム:比表面積6m2/g、平均粒径1.5μm
(e)酸化アルミニウム:比表面積6m2/g、平均粒径1.5μm
(a)及び(b)に、(c)、(d)又は(e)を、表2に示すGa/(In+Ga)比及びX/(In+Ga+X)比(Xは添加元素)と成るように秤量し、混合して原料混合粉体を調製した。全体の比表面積は6.0m2/gであった。
【0087】
上記の原料混合粉体を用いたことと、表2に示す温度で焼結した他は、参考例1と同様にして焼結体を製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0088】
また、得られた焼結体について参考例1と同じ条件でX線回折を実施した。図9〜11に各参考例のX線チャートを示す。
チャートを分析した結果、参考例9〜11の焼結体中には、In2O3のビックスバイト構造が観察された。
【0089】
X線回折より求めた立方晶In2O3の格子定数10.118に対する格子定数は表2の通りである。
【0090】
比較例1〜4:酸化物焼結体の製造
表3に示すGa/(In+Ga)比で原料粉末を混合し、表3に示す温度で焼結した他は、参考例1と同様に焼結体を製造し、評価した。結果を表3に示す。
X線回折により得られたチャートを図12〜15に示す。X線回折チャートにおいてIn2O3相とInGaO3相もしくはGa2O3相が観察された。
【0091】
比較例5:酸化物焼結体の製造
表1に示すGa/(In+Ga)比で原料粉末を混合し、表1に示す温度で焼結した他は、参考例1と同様に焼結体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
X線回折により得られたチャートを図16に示す。X線回折チャートにおいてIn2O3相とInGaO3相のメインピーク強度比はInGaO3/In2O3=1.2であった。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
参考例1〜11及び比較例1のGa又は(Ga+X)の添加量と格子定数の分布を図17に示す。図において、Rは参考例を、Cは比較例を示す。この図から、参考例1〜11の焼結体は格子定数が低いことが分かる。
【0096】
実施例1:薄膜トランジスタの製造
100nm厚みの熱酸化膜(SiO2膜)付きの導電性シリコン基板上と、石英ガラス基板上に、それぞれ、参考例4で得られた酸化インジウム(金属として97原子%)−酸化ガリウム(金属として3原子%)からなるターゲット(Ga/(In+Ga)=0.03)を用いて、スパッタリング法により50nm半導体膜を成膜した。スパッタリングは、背圧が5×10−4Paとなるまで真空排気したあと、アルゴンを8.5asccm、酸素1.5sccm流しながら、圧力を0.2Paに調整し、スパッタパワー100Wにて、室温で行った。
【0097】
上記薄膜を形成した導電性シリコン基板上に、金属マスクを設置し、L:200μm、W:1000μmのチャンネル部を形成し、ソース・ドレイン電極として金を蒸着して形成した。
当該素子を、空気中、350℃に加熱した加熱炉内に投入し、30分間熱処理行った。
その上にプラズマCVD法により、SiO2膜を作製した。
【0098】
その結果、電界効果移動度91.4cm2/V・sec、On−Off比4.5×107でノーマリーオフの特性を示す薄膜トランジスタが得られた。出力特性は明瞭なピンチオフを示した。S値は0.45であった。また、ゲートに20V電圧を100分かけた後のVthのシフト電圧は0.2V以下であった。
【0099】
上記薄膜を形成した石英ガラス基板を、同様に空気中、350℃、30分間熱風加熱炉内で熱処理した。この薄膜のXRDを測定したところ、酸化インジウムのビックスバイト構造の単相であるピークが観察された。同様に、空気中、450℃、5時間の熱処理を行い、同じくXRD測定をおこない、350℃にて熱処理したXRDのピーク強度を比較したところ、350℃で得られたピーク強度は、450℃で得られたピーク強度とほぼ同等であり、ビックスバイト構造の単相からなることが分かった。この結晶化酸化インジウム薄膜の格子定数を測定したところ、10.10285Åであった。
また、この薄膜のキャリア濃度をHall効果測定で調べたところ、1.4×1018/cm-3であった。
【0100】
実施例2:薄膜トランジスタの製造
参考例7で得られた酸化インジウム(金属として92.8原子%)−酸化ガリウム(金属として7.2原子%)からなるターゲット(Ga/(In+Ga)=0.072)を用いて、実施例1と同様にして薄膜トランジスタを作製しその特性を評価した。
その結果、電界効果移動度123.7cm2/V・sec、On−Off比4.7×108でノーマリーオフの特性を示す薄膜トランジスタが得られた。出力特性は明瞭なピンチオフを示した。S値は0.5であった。また、ゲートに20V電圧を100分かけた後のVthのシフト電圧は0.2V以下であった。
【0101】
実施例1と同様に石英ガラス基板上に形成した薄膜を熱処理して評価した。XRD測定の結果、酸化インジウムのビックスバイト構造のピークが観察された。350℃で得られたピーク強度は、450℃で得られたピーク強度とほぼ同等であり、ビックスバイト構造の単相からなることが分かった。薄膜の格子定数は10.04692Åであった。
また、この薄膜のキャリア濃度をHall効果測定で調べたところ、1.2×1018/cm-3であった。
【0102】
実施例3:薄膜トランジスタの製造
配合を変えた他は、参考例1と同様にして得られた酸化インジウム(金属として88.6原子%)−酸化ガリウム(金属として11.4原子%)からなるターゲット(Ga/(In+Ga)=0.114)を用いて、実施例1と同様にして薄膜トランジスタを作製しその特性を評価した。
その結果、電界効果移動度64.5cm2/V・sec、On−Off比4.2×109でノーマリーオフの特性を示す薄膜トランジスタが得られた。出力特性は明瞭なピンチオフを示した。S値は0.45であった。また、ゲートに20V電圧を100分かけた後のVthのシフト電圧は0.2V以下であった。
【0103】
実施例1と同様に石英ガラス基板上に形成した薄膜を熱処理して評価した。XRD測定の結果、酸化インジウムのビックスバイト構造のピークが観察された。350℃で得られたピーク強度は、450℃で得られたピーク強度とほぼ同等であり、ビックスバイト構造の単相からなることが分かった。薄膜の格子定数は10.01289Åであり、キャリア濃度は1.5×1018/cm-3であった。
【0104】
実施例4:薄膜トランジスタの製造
100nm厚みの熱酸化膜(SiO2膜)付きの導電性シリコン基板上及び石英基板上に、それぞれ、参考例1で得られた酸化インジウム(金属として98原子%)−酸化ガリウム(金属として2原子%)からなるターゲット(Ga/(In+Ga)=0.02)を用いて、実施例1と同様に、室温で成膜した。
当該素子を、空気中、300℃、30分間熱処理を熱風加熱炉内で行った。
その後、上記導電性シリコン基板上に、モリブデン金属を300nm成膜した。
【0105】
この素子に、レジストを塗布し、80℃にて15分間プレベークを行い、300mJ/cm2の光強度のUV光をマスクに通して照射し、その後、3重量%のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドにて、現像を行い、純水で洗浄後、ポストベークを130℃、15分行い、所望の形状のソース・ドレイン電極形状のレジストパターンを形成した。
【0106】
当該、レジストパターン付き基板を、燐酸・酢酸・硝酸の混合酸にて、モリブデン金属をエッチングし、純水で洗浄後、エアーブローして乾燥後、チャンネルエッチ型薄膜トランジスタの特性を評価した。作製したチャンネルエッチ型薄膜トランジスタの構造を図18に示す。図において、10は導電性シリコン基板、20は導電性シリコン部材、30は熱酸化膜(SiO2膜)である。導電性シリコン部材20がゲート電極として、熱酸化膜30がゲート絶縁膜として機能する。40はターゲットから形成された半導体膜であり、50,52はそれぞれモリブテン金属からなるソース電極、ドレイン電極であり、60はチャンネル部である。
【0107】
その結果、電界効果移動度60.2cm2/V・sec、On−Off比4.5×106でノーマリーオフの特性を示す薄膜トランジスタが得られた。出力特性は明瞭なピンチオフを示した。S値は0.9であった。また、ゲートに20V電圧を100分かけた後のVthのシフト電圧は0.2V以下であった。
【0108】
実施例1と同様に石英ガラス基板上に形成した薄膜を熱処理して評価した。XRD測定の結果、酸化インジウムのビックスバイト構造のピークが観察された。350℃で得られたピーク強度は、450℃で得られたピーク強度とほぼ同等であり、ビックスバイト構造の単相からなることが分かった。薄膜の格子定数は10.10628Åであり、キャリア濃度は1.5×1018/cm-3であった。
【0109】
実施例5:薄膜トランジスタの製造
100nm厚みの熱酸化膜(SiO2膜)付きの導電性シリコン基板上及び石英基板上に、それぞれ、参考例9と同様にして得られた酸化インジウム(金属として93原子%)−酸化ガリウム(金属として5原子%)−酸化スカンジウム(金属として2原子%)からなるターゲット(Ga/(In+Ga)=0.051、Sc/(In+Ga+Sc)=0.02)を用いて、実施例1と同様に、室温で成膜した。
【0110】
その後、上記酸化物薄膜付き導電性シリコン基板上に、金属マスクを装着して、酸化アルミナからなるエッチストッパーを形成した。次に、金属マスクを取り除き、全面にモリブデン金属を300nm成膜した。
この素子に、レジストを塗布し、80℃にて15分間プレベークを行い、300mJ/cm2の光強度のUV光をマスクを通して照射し、その後、3重量%のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドにて、現像を行い、純水で洗浄後、ポストベークを130℃、15分行い、所望の形状のソース・ドレイン電極形状のレジストパターンを形成した。
【0111】
当該、レジストパターン付き基板を、燐酸・酢酸・硝酸の混合酸にて、モリブデン金属、及び酸化物薄膜を同時にエッチングし、純水で洗浄後、エアーブローして乾燥後、当該素子を、空気中、350℃、30分間熱処理を熱風加熱炉内で行った。得られたエッチストッパー型薄膜トランジスタの特性を評価した。作製したエッチストッパー型薄膜トランジスタの構造を図19に示す。図において、10は導電性シリコン基板、20は導電性シリコン部材、30は熱酸化膜(SiO2膜)である。導電性シリコン部材20がゲート電極として、熱酸化膜30がゲート絶縁膜として機能する。40はターゲットから形成された半導体膜であり、50,52はそれぞれモリブテン金属からなるソース電極、ドレイン電極である。60はチャンネル部であり、70はエッチストッパーである。
【0112】
その結果、電界効果移動度42.5cm2/V・sec、On−Off比9.5×107でノーマリーオフの特性を示す薄膜トランジスタが得られた。出力特性は明瞭なピンチオフを示した。S値は0.8であった。また、ゲートに20V電圧を100分かけた後のVthのシフト電圧は0.2V以下であった。
【0113】
実施例1と同様に石英ガラス基板上に形成した薄膜を熱処理して評価した。XRD測定の結果、酸化インジウムのビックスバイト構造のピークが観察された。350℃で得られたピーク強度は、450℃で得られたピーク強度とほぼ同等であり、ビックスバイト構造の単相からなることが分かった。薄膜の格子定数は10.0624Åであり、キャリア濃度は2.1×1018/cm-3であった
【0114】
実施例6:薄膜トランジスタの製造
参考例11と同様にして得られた酸化インジウム(金属として90.9原子%)−酸化ガリウム(金属として7.2原子%)−酸化アルミニウム(金属として1.9原子%)から成るターゲット(Ga/(In+Ga)=0.073、Al/(In+Ga+Al)=0.019)を用いて、実施例1と同様にして薄膜トランジスタを作製しその特性を評価した。
【0115】
その結果、電界効果移動度46.5cm2/V・sec、On−Off比4.4×107でノーマリーオフの特性を示す薄膜トランジスタが得られた。出力特性は明瞭なピンチオフを示した。S値は0.7であった。また、ゲートに20V電圧を100分かけた後のVthのシフト電圧は0.2V以下であった。
【0116】
実施例1と同様に石英ガラス基板上に形成した薄膜を熱処理して評価した。XRD測定の結果、酸化インジウムのビックスバイト構造のピークが観察された。350℃で得られたピーク強度は、450℃で得られたピーク強度とほぼ同等であり、ビックスバイト構造の単相からなることが分かった。薄膜の格子定数は10.04992Åであり、キャリア濃度は2.0×1018/cm-3であった。
【0117】
実施例7:薄膜トランジスタの製造
酸化ホウ素を使用し配合を変えた他は、参考例9と同様にして得られた酸化インジウム(金属として95.1原子%)−酸化ガリウム(金属として4原子%)−酸化ホウ素(金属として0.9原子%)から成るターゲット(Ga/(In+Ga)=0.040、B/(In+Ga+B)=0.009)を用いて、実施例1と同様にして薄膜トランジスタを作製しその特性を評価した。
【0118】
その結果、電界効果移動度49.7cm2/V・sec、On−Off比9.96×107でノーマリーオフの特性を示す薄膜トランジスタが得られた。出力特性は明瞭なピンチオフを示した。S値は0.45であった。また、ゲートに20V電圧を100分かけた後のVthのシフト電圧は0.2V以下であった。
【0119】
実施例1と同様に石英ガラス基板上に形成した薄膜を熱処理して評価した。XRD測定の結果、酸化インジウムのビックスバイト構造のピークが観察された。350℃で得られたピーク強度は、450℃で得られたピーク強度とほぼ同等であり、ビックスバイト構造の単相からなることが分かった。薄膜の格子定数は10.08936Åであり、キャリア濃度は2.4×1018/cm-3であった。
【0120】
実施例8:薄膜トランジスタの製造
100nm厚みの熱酸化膜(SiO2膜)付きの導電性シリコン基板上及び石英基板上に、それぞれ、参考例9と同様にして得られた酸化インジウム(金属として97原子%)−酸化ガリウム(金属として2原子%)−酸化スカンジウム(金属として1原子%)からなるターゲット(Ga/(In+Ga)=0.021、Sc/(In+Ga+Sc)=0.01)を用いて、実施例5と同様に、室温で成膜し、その後、図19に示すエッチストッパー型薄膜トランジスタを作成し、評価した。
【0121】
その結果、電界効果移動度62.5cm2/V・sec、On−Off比3.5×106でノーマリーオフの特性を示す薄膜トランジスタが得られた。出力特性は明瞭なピンチオフを示した。S値は0.7であった。また、ゲートに20V電圧を100分かけた後のVthのシフト電圧は0.2V以下であった。
【0122】
実施例1と同様に石英ガラス基板上に形成した薄膜を熱処理して評価した。XRD測定の結果、酸化インジウムのビックスバイト構造のピークが観察された。350℃で得られたピーク強度は、450℃で得られたピーク強度とほぼ同等であり、ビックスバイト構造の単相からなることが分かった。薄膜の格子定数は10.0728Åであり、キャリア濃度は1.1×1018/cm-3であった
【0123】
比較例6:薄膜トランジスタの製造
100nm厚みの熱酸化膜(SiO2膜)付きの導電性シリコン基板上に、酸化インジウム(金属として100原子%)からなるターゲットを用いて、実施例1と同様にして薄膜トランジスタを作製しその特性を評価した。
その結果、電界効果移動度25.2cm2/V・sec、On−Off比107、でノーマリーオンの特性を示す薄膜トランジスタが得られた。出力特性は明瞭なピンチオフを示した。S値は1.4であった。
【0124】
実施例1と同様に石英ガラス基板上に形成した薄膜を熱処理して評価した。XRD測定の結果、酸化インジウムのビックスバイト構造のピークが観察された。350℃で得られたピーク強度は、450℃で得られたピーク強度とほぼ同等でビックスバイト構造の単相からなることが分かった。薄膜の格子定数は10.1250Åであり、キャリア濃度は6.5×1018/cm-3であった。
【0125】
比較例7:薄膜トランジスタの製造
100nm厚みの熱酸化膜(SiO2膜)付きの導電性シリコン基板上に、酸化インジウム(金属として70原子%)−酸化ガリウム(金属として30原子%)からなるターゲット(Ga/(In+Ga)=0.3)を用いて、実施例1と同様にして薄膜トランジスタを作製しその特性を評価した。
その結果、電界効果移動度15.7cm2/V・sec、On−Off比106でノーマリーオンの特性を示す薄膜トランジスタが得られた。出力特性は明瞭なピンチオフを示した。S値は1.4であった。
【0126】
実施例1と同様に石英ガラス基板上に形成した薄膜を熱処理して評価した。XRD測定の結果、酸化インジウムのビックスバイト構造のピークは観察されなかった。このことから当該酸化インジウムと酸化ガリウムからなる薄膜は非晶質であると判断した。薄膜のキャリア濃度は10.2×1018/cm-3であった。
【0127】
実施例4で用いた燐酸・酢酸・硝酸の混合酸にて、液温25℃に設定し、10分間浸漬し、耐酸性を試みたところ、当該酸化インジウムと酸化ガリウムからなる非晶質膜は溶解し、耐酸性が無いことが判明した。
【0128】
比較例8:薄膜トランジスタの製造
100nm厚みの熱酸化膜(SiO2膜)付きの導電性シリコン基板上に、酸化インジウム(金属として86原子%)−酸化ガリウム(金属として14原子%)からなるターゲット(Ga/(In+Ga)=0.14)を用いて、実施例1と同様にして薄膜トランジスタを作製しその特性を評価した。
その結果、電界効果移動度22.3cm2/V・sec、On−Off比106でノーマリーオンの特性を示す薄膜トランジスタが得られた。出力特性は明瞭なピンチオフを示した。S値は1.3であった。
実施例1と同様に石英ガラス基板上に形成した薄膜を熱処理して評価した。XRD測定の結果、酸化インジウムのビックスバイト構造の明確なピークは観察されなかった。このことから当該酸化インジウムと酸化ガリウムからなる薄膜は大部分が非晶質であると判断した。薄膜のキャリア濃度は10.2×1018/cm-3であった。
実施例4で用いた燐酸・酢酸・硝酸の混合酸にて、液温25℃に設定し、10分間浸漬し、耐酸性を試みたところ、当該酸化インジウムと酸化ガリウムからなる非晶質膜は溶解し、耐酸性が無いことが判明した。
また、スパッタ放電時に、マイクロアークも観察された。
【0129】
実施例1〜7及び比較例6のGa又は(Ga+X)の添加量と格子定数の分布を図20に示す。図において、Eは実施例を、Cは比較例を示す。この図から、実施例1〜7の薄膜は格子定数が低いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の酸化物焼結体はスパッタリングターゲットとして使用できる。本発明のスパッタリングターゲットを用いて形成した薄膜は、薄膜トランジスタに使用できる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガリウムが固溶している酸化インジウム酸化物焼結体、それからなるスパッタリングターゲット、そのターゲットを用いて作製される薄膜及びその薄膜を含む薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置の発展は目覚ましく、液晶表示装置やEL表示装置等、種々の表示装置がパソコンやワ−プロ等のOA機器へ活発に導入されている。これらの表示装置は、いずれも表示素子を透明導電膜で挟み込んだサンドイッチ構造を有している。
【0003】
それら表示装置を駆動させるスイッチング素子には、現在、シリコン系の半導体膜が主流を占めている。それは、シリコン系薄膜の安定性、加工性の良さの他、スイッチング速度が速い等のためである。このシリコン系薄膜は、一般に化学蒸気析出法(CVD)法により作製されている。
【0004】
しかしながら、シリコン系薄膜は非晶質の場合、スイッチング速度が比較的遅く、高速な動画等を表示する場合は画像を表示できないという難点を有している。また、結晶質のシリコン系薄膜の場合には、スイッチング速度は比較的速いが、結晶化に800℃以上の高温や、レーザーによる加熱等が必要であり、製造に対して多大なエネルギーと工程を要している。また、シリコン系の薄膜は、電圧素子としても性能は優れているものの、電流を流した場合、その特性の経時変化が問題となっている。
【0005】
そこでシリコン系薄膜以外の膜が検討されている。
シリコン系薄膜よりも安定性に優れるとともにITO膜と同等の光透過率を有する透明半導体膜、及びそれを得るためのターゲットとして、酸化インジウム、酸化ガリウム及び酸化亜鉛からなる透明半導体薄膜や、酸化亜鉛と酸化マグネシウムからなる透明半導体薄膜が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0006】
特許文献2には、酸化インジウム及び酸化ガリウムを主成分とする組成物であって、InGaO3化合物を含有する組成物が開示されている。当該文献は、透明導電膜に関する。
【0007】
特許文献3には、Gaを1〜10原子%を含有するIn2O3からなる透明導電膜の記載がある。この透明導電膜は、In2O3ターゲット上に金属Gaを置いて共スパッタして作製される。
【0008】
特許文献4には、Ga/(In+Ga)が0.35以上1.0未満で、(Ga,In)2O3相を含む、透明導電膜用の焼結体組成物に関する記載がある。特許文献5には、Ga/(In+Ga)が0.65以上1.0未満で、(Ga,In)2O3相を含む、透明導電膜用の酸化物焼結体に関する記載がある。
【0009】
特許文献6には、ガリウム元素を49.1〜65原子%含む酸化インジウム−酸化ガリウム焼結体に関する記載がある。特許文献7には、Ga/In比が、0.97〜1.86の組成を有する焼結体を用いたスパッタリングターゲットに関する記載がある。特許文献8、特許文献9には、それぞれGaを35〜45原子%、15〜49原子%含有する酸化インジウム−酸化ガリウム焼結体に関する記載がある。
【0010】
しかしながら、特許文献6〜9のGa含有領域では、結晶質の酸化インジウム−酸化ガリウムからなる酸化物半導体膜は得られない。また、これらの組成では、InGaO3からなる絶縁性の高い結晶相を生成する場合があり、スパッタリング中に異常放電を起こしたり、ノジュールが発生する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−119525号公報
【特許文献2】特開平7−182924号公報
【特許文献3】特開平9−50711号公報
【特許文献4】特開2007−277039号公報
【特許文献5】特開2007−210823号公報
【特許文献6】特開2007−224386号公報
【特許文献7】特開2007−113026号公報
【特許文献8】特開2005−347215号公報
【特許文献9】特開平09−259640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は新規な非シリコン系半導体薄膜を用いた薄膜トランジスタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下の酸化物焼結体、スパッタリングターゲット、酸化物薄膜、薄膜トランジスタ及びこれらの製造方法を提供する。
1.ガリウムが酸化インジウムに固溶していて、原子比Ga/(Ga+In)が0.001〜0.12であり、全金属原子に対するインジウムとガリウムの含有率が80原子%以上であり、In2O3のビックスバイト構造を有することを特徴とする酸化物焼結体。
2.前記Ga/(Ga+In)が0.001〜0.10である1に記載の酸化物焼結体。
3.前記Ga/(Ga+In)が、0.005〜0.08であることを特徴とする1に記載の酸化物焼結体。
4.前記ビックスバイト構造の格子定数が、10.05Å以上10.118Å未満であることを特徴とする1〜3のいずれかに記載の酸化物焼結体。
5.密度が6.5〜7.1g/cm3であることを特徴とする1〜4のいずれかに記載の酸化物焼結体。
6.バルク抵抗が10mΩcm以下であることを特徴とする1〜5のいずれかに記載の酸化物焼結体。
7.分散しているGaの集合体の直径が1μm未満であることを特徴とする1〜6のいずれかに記載の酸化物焼結体。
8.正4価以上の金属イオンの含有量が100原子ppm以下であることを特徴とする1〜7のいずれかに記載の酸化物焼結体。
9.正2価以下の金属イオンの含有量が100原子ppm以下であり、かつ、正4価の金属イオン濃度≦正2価の金属イオン濃度であることを特徴とする1〜8のいずれかに記載の酸化物焼結体。
10.酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化アルミニウム及び酸化ホウ素から選ばれる1種又は2種以上の酸化物が添加されていることを特徴とする1〜9のいずれかに記載の酸化物焼結体。
11.酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化アルミニウム及び酸化ホウ素から選ばれる1種又は2種以上の酸化物が0.01〜5原子%添加されていることを特徴とする10に記載の酸化物焼結体。
12.平均粒径が2μm未満のインジウム化合物粉末と、平均粒径が2μm未満のガリウム化合物粉末を、ガリウムとインジウムの原子比Ga/(In+Ga)=0.001〜0.12で混合する工程、前記混合物を成形する工程、及び前記成形体を1200℃〜1600℃で2〜96時間焼成する工程を含むことを特徴とする1〜11のいずれかに記載の酸化物焼結体の製造方法。
13.焼成を酸素雰囲気中又は加圧下で行うことを特徴とする12に記載の酸化物焼結体の製造方法。
14.上記1〜11のいずれかに記載の酸化物焼結体からなることを特徴とするスパッタリングターゲット。
15.上記14に記載のスパッタリングターゲットを用いて成膜されたことを特徴とする酸化物薄膜。
16.ガリウムが酸化インジウムに固溶していて、原子比Ga/(Ga+In)が0.001〜0.12であり、全金属原子に対するインジウムとガリウムの含有率が80原子%以上であり、In2O3のビックスバイト構造を有することを特徴とする酸化物薄膜。
17.前記原子比Ga/(Ga+In)が0.001〜0.10であることを特徴とする16に記載の酸化物薄膜。
18.前記原子比Ga/(Ga+In)が0.005〜0.08であることを特徴とする16に記載の酸化物薄膜。
19.前記ビックスバイト構造の格子定数が、10.01Å以上10.118Å未満であることを特徴とする16〜18のいずれかに記載の酸化物薄膜。
20.分散しているGaの集合体の直径が1μm未満であることを特徴とする16〜19のいずれかに記載の酸化物薄膜。
21.酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化アルミニウム及び酸化ホウ素から選ばれる1種又は2種以上の酸化物を含有していることを特徴とする16〜20のいずれかに記載の酸化物薄膜。
22.酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化アルミニウム及び酸化ホウ素から選ばれる1種又は2種以上の酸化物が0.01〜5原子%添加されていることを特徴とする21に記載の酸化物薄膜。
23.上記15〜22のいずれかに記載の酸化物薄膜を用いることを特徴とする薄膜トランジスタ。
24.チャンネルエッチ型の薄膜トランジスタであることを特徴とする23に記載の薄膜トランジスタ。
25.エッチストッパー型の薄膜トランジスタであることを特徴とする23に記載の薄膜トランジスタ。
26.上記14に記載のスパッタリングターゲットを用いて酸化物薄膜を形成する工程、及び前記酸化物薄膜を、酸素雰囲気中で熱処理して結晶化する工程を含むことを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
27.前記酸化物薄膜形成工程において、酸素の含有量が10体積%以上の成膜ガスにおいて酸化物薄膜を形成することを特徴とする26に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
28.前記結晶化工程において、前記酸化物薄膜を、250〜500℃、0.5〜1200分で熱処理して結晶化することを特徴とする26又は27に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
29.さらに、前記熱処理した酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程を含むことを特徴とする26〜28のいずれかに記載の薄膜トランジスタの製造方法。
30.上記23〜25のいずれかに記載の薄膜トランジスタを備えたことを特徴とする半導体素子。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、新規な非シリコン系半導体薄膜を用いた薄膜トランジスタが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】参考例1で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図2】参考例2で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図3】参考例3で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図4】参考例4で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図5】参考例5で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図6】参考例6で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図7】参考例7で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図8】参考例8で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図9】参考例9で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図10】参考例10で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図11】参考例11で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図12】比較例1で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図13】比較例2で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図14】比較例3で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図15】比較例4で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図16】比較例5で得られた酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図17】参考例1〜11及び比較例1のGa、(Ga+X)添加量と格子定数の関係を示す図である。
【図18】実施例4で製造したチャンネルエッチ型薄膜トランジスタの構造を示す図である。
【図19】実施例5,8で製造したエッチストッパー型薄膜トランジスタの構造を示す図である。
【図20】実施例1〜7及び比較例6のGa、(Ga+X)添加量と格子定数の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の酸化物焼結体は、ガリウムが酸化インジウムに固溶している。この酸化物焼結体において、全金属原子に対するインジウムとガリウムの含有率は80原子%以上である。ガリウム金属とインジウム金属の原子比は、Ga/(In+Ga)=0.001〜0.12である。この原子比においてガリウムが酸化インジウムにほぼ完全固溶する。好ましくは、酸化インジウム結晶格子中のインジウム元素の位置にガリウム等のインジウム以外の元素がイオンとして入る。
【0017】
Ga/(In+Ga)が0.001未満では、酸化インジウム結晶の格子定数の変化が小さくなり、ガリウムを添加する効果が現れない場合があり、0.12超では、InGaO3等が析出する場合がある。InGaO3等が析出するほど、得られる酸化物薄膜が結晶化しにくくなり、結晶質薄膜が得られない場合がある。
【0018】
ガリウム金属とインジウム金属の原子比は好ましくはGa/(In+Ga)=0.001〜0.10、より好ましくはGa/(In+Ga)=0.005〜0.08である。さらに好ましくはGa/(In+Ga)=0.01〜0.05、特に好ましくはGa/(In+Ga)=0.02〜0.04である。
【0019】
また、本発明の酸化物焼結体は、In2O3ビックスバイト構造を有することが好ましい。さらに好ましくはGaが完全にIn2O3ビックスバイト構造に固溶分散することにより、スパッタリングターゲットと用いた場合に異常放電が起こりにくいため、In2O3のビックスバイト構造の単相からなる。ビックスバイト構造は全体の結晶構造のうち、90%以上が好ましく、95%以上がさらに好ましく、97%以上が特に好ましい。結晶構造の割合は、EPMA分析により結晶相を同定し、その画像解析により求めることができる。
本発明の酸化物焼結体のビックスバイト構造の格子定数は、下限は特にないが、好ましくは10.05Å以上10.118Å未満である。ビックスバイト構造はX線回析により確認できる。
【0020】
本発明の酸化物焼結体の密度は好ましくは6.5〜7.2g/cm3である。密度が低いと、酸化物焼結体から形成するスパッタリングターゲットの表面が黒化したりし、異常放電を誘発し、スパッタ速度が低下したりする場合がある。
焼結体の密度を上げるためには、原料の粒子径を10μm以下のものを使用し、原料を均質に混合する。粒子径が大きいとインジウム化合物とガリウム化合物の反応が進まない恐れがある。均質に混合されない場合も同様に未反応や異常粒成長した粒子が存在し密度が上がらない恐れがある。
【0021】
また、本発明の酸化物焼結体は、酸化インジウムにGaが分散しているが、分散しているGaの集合体の直径は1μm未満であることが好ましい。ここでいう分散とは酸化インジウム結晶中にガリウムイオンが固溶している場合でもよく、酸化インジウム粒内にGa化合物粒子が細かく分散していてもよい。Gaが細かく分散することにより、安定したスパッタ放電ができる。Gaの集合体の直径はEPMA(電子線マイクロアナライザ)により測定できる。
【0022】
本発明の酸化物焼結体のバルク抵抗は、好ましくは10mΩcm以下である。完全に固溶していないで、Ga2O3等が観察される場合には、異常放電の原因になる場合がある。より好ましくは、5mΩcm以下である。下限は特にないが、1mΩcm未満にする必要はない。
【0023】
本発明の酸化物焼結体中の正4価以上の金属イオン(例えばスズ、チタン、ジルコニウム、ゲルマニウム等)の含有量が100ppm以下であることが好ましい。100ppmを超える量の正4価以上の金属イオンが含まれる場合、得られた結晶質酸化物薄膜が半導体化せずに、導電性になる場合がある。好ましくは、50ppm以下、より好ましくは30ppm以下である。
【0024】
不純物量を100ppm以下とするためには、99.99%以上の純度の原料を用いるのがよい。
【0025】
酸化インジウムは原料中に100ppm以上の正4価以上の金属、特にスズが含まれるものが多いが、作製される薄膜中ではキャリアを生成するため半導体として使用できなくなる恐れがある。
【0026】
本発明の酸化物焼結体中の正2価以下の金属イオン(例えば亜鉛、マグネシウム、銅、鉄、ニッケル、コバルト等)の含有量が100ppm以下であることが好ましい。100ppm以上の正2価以下の金属イオンが含まれる場合には、得られる酸化物半導体の移動度が低下する場合がある。
【0027】
また、正4価の金属イオン濃度≦正2価の金属イオン濃度であることが、好ましい。
正4価の金属イオン濃度>正2価の金属イオン濃度の場合、正4価の金属イオンが酸化インジウムの結晶にドープされキャリヤー密度を大きくし、得られる酸化物薄膜の導電性が大きくなり、半導体にならない場合がある。好ましくは、50ppm以下、より好ましくは30ppm以下である。
【0028】
本発明の酸化物焼結体に、酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化アルミニウム、酸化ホウ素から選ばれる1種又は2種以上の酸化物を添加することが好ましい。酸化物は、好ましくは酸化物焼結体に対して0.01〜5原子%になるように添加される。これらの酸化物を含有させることにより、この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして使用して得られる薄膜の格子定数が、酸化インジウム単体からなる薄膜の格子定数がより小さくなり、金属間距離が小さくなる。その結果、このような薄膜を用いる薄膜トランジスタの移動度が速まる。
【0029】
本発明の酸化物焼結体の製造方法は、
(a)平均粒径が2μm未満のIn化合物粉末と、平均粒径が2μm未満のGa化合物粉末を、ガリウムとインジウムの原子比Ga/(In+Ga)=0.001〜0.12で混合して混合物を調製する工程;
(b)前記混合物を成形して成形体を調製する工程;及び
(c)前記成形体を1200℃〜1600℃で2〜96時間焼成する工程を含む。
尚、平均粒径はJIS R 1619に記載の方法により測定する。
【0030】
原料化合物粉末を混合する工程において、用いる原料粉末のインジウム化合物及びガリウム化合物は、酸化物又は焼成後に酸化物になるもの(酸化物前駆体)であればよい。インジウム酸化物前駆体及びスズ酸化物前駆体としては、インジウム又はスズの、硫化物、硫酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物(塩化物、臭化物等)、炭酸塩、有機酸塩(酢酸塩、プロピオン酸塩、ナフテン酸塩等)、アルコキシド(メトキシド、エトキシド等)、有機金属錯体(アセチルアセトナート等)等が挙げられる。
【0031】
この中でも、低温で完全に熱分解し、不純物が残存しないようにするためには、硝酸塩、有機酸塩、アルコキシド又は有機金属錯体が好ましい。尚、各金属の酸化物を用いるのが最適である。
【0032】
上記各原料の純度は、通常99.9質量%(3N)以上、好ましくは99.99質量%(4N)以上、さらに好ましくは99.995質量%以上、特に好ましくは99.999質量%(5N)以上である。各原料の純度が99.9質量%(3N)以上であれば、正四価以上の金属やFe、Ni、Cu等の不純物により半導体特性が低下することもなく、信頼性を十分に保持できる。特にNa、K、Caの含有量が100ppm以下であると薄膜を作製した際に電気抵抗が経年劣化しないため好ましい。
【0033】
混合は、(i)溶液法(共沈法)又は(ii)物理混合法により実施するのが好ましい。より好ましくは、コスト低減のため、物理混合法である。
【0034】
物理混合法では、上記のインジウム化合物及びガリウム化合物を含む原料粉体を、ボールミル、ジェットミル、パールミル、ビーズミル等の混合器に入れ、均一に混合する。
【0035】
混合時間は1〜200時間とするのが好ましい。1時間未満では分散する元素の均一化が不十分となるおそれがあり、200時間を超えると時間がかかりすぎ、生産性が悪くなるおそれがある。特に好ましい混合時間は10〜60時間である。
【0036】
混合した結果、得られる原料混合粉末の平均粒子径が0.01〜1.0μmになることが好ましい。粒子径が0.01μm未満では粉末が凝集しやすく、ハンドリングが悪く、また、緻密な焼結体が得られない場合がある。一方、1.0μmを超えると緻密な焼結体が得られない場合がある。
【0037】
本発明では、原料粉末の混合後、得られた混合物を仮焼する工程を含んでもよい。
【0038】
仮焼工程では、上記工程で得られた混合物が仮焼される。仮焼を行うことにより、最終的に得られるスパッタリングターゲットの密度を上げることが容易になる。
【0039】
仮焼工程においては、好ましくは200〜1000℃で、1〜100時間、より好ましくは2〜50時間の条件で(a)工程で得られた混合物を熱処理することが好ましい。200℃以上かつ1時間以上の熱処理条件であれば、原料化合物の熱分解が十分に行われるので好ましい。熱処理条件が、1000℃以下及び100時間以下であれば、粒子が粗大化することもないので好適である。
【0040】
さらに、ここで得られた仮焼き後の混合物を、続く成形工程及び焼結工程の前に粉砕することが好ましい。この仮焼き後の混合物の粉砕は、ボールミル、ロールミル、パールミル、ジェットミル等を用いて行うことが適当である。粉砕後に得られた仮焼き後の混合物の平均粒径は、例えば、0.01〜3.0μm、好ましくは0.1〜2.0μmであることが適当である。得られた仮焼き後の混合物の平均粒径が0.01μm以上であれば、十分な嵩比重を保持することができ、かつ取り扱いが容易になるので好ましい。また、仮焼き後の混合物の平均粒径が3.0μm以下であれば最終的に得られるスパッタリングターゲットの密度を上げることが容易になる。尚、原料粉末の平均粒径は、JIS R 1619に記載の方法によって測定することができる。
【0041】
混合した原料粉末の成形は公知の方法、例えば、加圧成形、冷間静水圧加圧が採用できる。
加圧成形は、コールドプレス(Cold Press)法やホットプレス(Hot Press)法等、公知の成形方法を用いることができる。例えば、得られた混合粉を金型に充填し、コールドプレス機にて加圧成形する。加圧成形は、例えば、常温(25℃)下、100〜100000kg/cm2で行われる。
【0042】
原料粉末の成形体を焼成することにより酸化物焼結体を製造する。
焼結温度は1200〜1600℃であり、好ましくは1250〜1580℃であり、特に好ましくは1300〜1550℃である。
【0043】
上記の焼結温度の範囲において、酸化インジウムにガリウムが固溶しやすく、バルク抵抗を下げることができる。
また、焼結温度を1600℃以下とすることにより、Gaの蒸散を抑制することができる。
【0044】
焼結時間は2〜96時間、より好ましくは10〜72時間である。
【0045】
焼結時間を2時間以上とすることにより、得られる酸化物焼結体の焼結密度を向上させ、表面の加工が可能とすることができる。また、焼結時間を96時間以下とすることにより、適当な時間で焼結を行うことできる。
【0046】
焼結は、好ましくは酸素ガス雰囲気下で行う。酸素ガス雰囲気下で焼結を行うことにより、得られる酸化物焼結体の密度を高めることができ、酸化物焼結体のスパッタリング時の異常放電を抑制することができる。酸素ガス雰囲気は、酸素濃度が、例えば10〜100vol%の雰囲気であるとよい。ただし、非酸化性雰囲気、例えば、真空あるいは窒素雰囲気下で行ってもよい。
【0047】
また、焼結は大気圧下又は加圧下で行うことができる。圧力は、例えば9800〜1000000Pa、好ましくは100000〜500000Paである。
【0048】
本発明の酸化物焼結体は、上述した方法により製造することができる。本発明の酸化物焼結体はスパッタリングターゲットとして使用できる。本発明の酸化物焼結体は高い導電性を有することから、スパッタリングターゲットとした場合に成膜速度が速いDCスパッタリング法を適用することができる。
【0049】
本発明のスパッタリングターゲットは、上記DCスパッタリング法に加えて、RFスパッタリング法、ACスパッタリング法、パルスDCスパッタリング法等いずれのスパッタリング法も適用することができ、異常放電のないスパッタリングが可能である。
【0050】
酸化物薄膜は、上記の酸化物焼結体を用いて、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザー蒸着法等により作製できる。スパッタリングの方法としては、例えばRFマグネトロンスパッタ法、DCマグネトロンスパッタ法、ACマグネトロンスパッタ法、パルスDCマグネトロンスパッタ法等が挙げられる。
【0051】
スパッタリングガスとしてはアルゴンと酸化性ガスの混合ガスを用いることができる。酸化性ガスとはO2、CO2、O3、H2O等が挙げられる。スパッタリング成膜時の酸素分圧を0.1%以上、20%以下にすることが好ましい。0.1%未満では、成膜直後の透明非晶質膜は、導電性を有し、酸化物半導体しての使用が困難な場合がある。一方、20%超では、透明非晶質膜が絶縁体化し、酸化物半導体しての使用が困難な場合がある。好ましくは、1〜10%である。
【0052】
本発明の酸化物薄膜は、ガリウムが酸化インジウムに固溶しており、全金属元素に対するガリウムとインジウムの含有率は80原子%以上である。ガリウムとインジウムの金属比Ga/(Ga+In)は0.001〜0.12である。好ましくは0.001〜0.10であり、特に好ましくは0.005〜0.08である。
【0053】
酸化ガリウムは、酸化インジウムの格子定数を小さくする効果があり、従って移動度を大きくする効果がある。また、酸素との結合力が強く、多結晶化酸化インジウム薄膜の酸素欠損量を低減する効果がある。酸化ガリウムは、酸化インジウムと完全固溶する領域を有し、結晶化した酸化インジウムと完全に一体化し、格子定数を低下させることができる。固溶限界以上の酸化ガリウムを加えると、析出した酸化ガリウムが電子の散乱原因となったり、酸化インジウムの結晶化を阻害したりする場合がある。
【0054】
本発明の酸化物薄膜はビックスバイト構造の単相からなり、ビックスバイト構造の格子定数は、下限は特に限定しないが、好ましくは10.01Å以上10.118Å未満である。格子定数が低いことは、結晶格子が縮小され金属間距離が小さいことを意味している。金属間距離が小さくなることより,金属の軌道上を移動する電子の動く速度が早まり、得られる薄膜トランジスタの移動度が速くなる。格子定数が大きすぎると、酸化インジウムそのものの結晶格子と等しくなり、移動度が向上しない。
【0055】
本発明の酸化物薄膜は、好ましくは、分散しているGaの集合体の直径が1μm未満である。
【0056】
本発明の酸化物薄膜は、好ましくは酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化アルミニウム、酸化ホウ素から選ばれる1種又は2種以上の酸化物を含有する。酸化物は、好ましくは酸化物薄膜に対して0.01〜5原子%含有される。これらの酸化物は、酸化ガリウムと同様に、酸化インジウムと完全固溶する領域を有し、結晶化した酸化インジウムと完全に一体化し、格子定数を低下させることができる。格子定数を低下させることにより、結晶中のインジウム同士の5s軌道の重なりが大きくなり、移動度が向上することが期待される。
【0057】
本発明の酸化物薄膜は、上記の本発明のスパッタリングターゲットを用いて製造できる。
【0058】
低ガリウム濃度の膜は結晶化しやすいので、結晶質膜を形成するときは低ガリウム濃度のスパッタリングターゲットを用いる。高ガリウム濃度の膜は非結晶となりやすいので、非結晶質膜を形成するときは高ガリウム濃度のスパッタリングターゲットを用いる。具体的には、Gaが0.05〜0.12付近では非晶質と結晶膜の双方が作製可能であり、約0.05以下では結晶膜となる。薄膜の作製方法ほぼ同じである。
【0059】
Ga/(In+Ga)<0.05の低ガリウム濃度のスパッタリングターゲットを用いれば結晶質膜が得られる。
ただし、Ga/(In+Ga)<0.05の領域において薄膜の均一性を向上するために非晶質の膜を以下の方法で作製することもできる。例えば、基板温度を室温以下にしたり、スパッタリングガス中に0.1Pa以下の水蒸気を添加したり、スパッタリングガス圧5Pa以上にする等のスパッタリングの条件よっては非晶質膜も作製することが、薄膜を作製後に後述する後加熱の工程で結晶質膜ができる。
【0060】
0.05≦Ga/(In+Ga)<0.12の高ガリウム濃度のスパッタリングターゲットを用いて結晶質膜を形成するときは、成膜時の基板温度は、室温から450℃が好ましい。室温未満に冷却するにはコストがかかりすぎ、450℃超にする場合も装置コストがかかりすぎる。好ましくは、室温(基板加熱なし)から200℃である。連続してスパッタする場合には、スパッタ中のプラズマにより基板が加熱される場合があり、フィルム基板等の場合には室温程度に保つために冷却しながら行うのも好ましい。
【0061】
製膜時の基板加熱を行わない場合は結晶化を行う後加熱の工程が必要である。ただし、基板加熱を行った場合にも後加熱を行うこともできる。
【0062】
酸化物薄膜が製膜した基板等を150℃〜450℃に加熱すると、薄膜が結晶化し半導体特性が得られる。150℃未満では、結晶化が不十分であり、薄膜の絶縁性が損なわれリークが起こる可能性がある。450℃以上では基板の反りや半導体素子を作製した時に各薄膜層が剥離する恐れがある。より好ましくは200℃〜350℃であり、さらに好ましくは、240〜300℃である。
【0063】
加熱時間は、0.5分〜120分がよい。レーザー等の高出力加熱では0.5分程度で十分結晶化が起こるが、0.5分未満では結晶化が不十分な場合があり、120分超では、加熱時間が長すぎてコストがかかりすぎる恐れがある。より好ましくは0.5〜90分、さらに好ましくは1〜60分である。
【0064】
また、加熱の雰囲気は、特に限定されるわけではないが、大気雰囲気、酸素流通雰囲気、窒素雰囲気、低真空雰囲気が好ましいが、キャリアの制御のしやすさの点で大気雰囲気、酸素流通雰囲気がより好ましい。結晶質酸化物半導体薄膜の場合、膜中の余分な酸素や水分は雰囲気の酸素と交換すると考えられる。よって酸素を含む雰囲気では、半導体特性を安定化する点で好ましい。但し、純酸素中で高温に加熱すると、酸素欠損が完全に消失し、絶縁体化する場合がある。好ましい酸素濃度は、19%〜50%である。
【0065】
本発明の酸化物薄膜は薄膜トランジスタに使用できる。特にチャネル層として使用できる。酸化物薄膜はそのまま又は熱処理して使用できる。
【0066】
本発明の薄膜トランジスタは、チャンネルエッチ型でもよい。本発明の薄膜は、結晶質であり耐久性があるので、本発明の薄膜を用いた薄膜トランジスタの製造において、Al等の金属薄膜をエッチングしてソース・ドレイン電極、チャンネル部を形成するフォトリソ工程も可能となる。
【0067】
また、本発明の薄膜トランジスタは、エッチストッパー型でもよい。本発明の薄膜は、エッチストッパーが半導体層からなるチャンネル部を保護することができ、且つ、成膜時に半導体膜に酸素を大量に取り込ませておくことができるため、エッチストッパー層を介して外部より酸素を供給する必要がなくなる。また、成膜直後には非晶質膜であるので、Al等の金属薄膜をエッチングしてソース・ドレイン電極、チャンネル部を形成すると同時に、半導体層をエッチングできフォトリソ工程を短縮することも可能となる。
【0068】
本発明の薄膜トランジスタの製造方法は、本発明のスパッタリングターゲットを用いて酸化物薄膜を形成する工程、前記酸化物薄膜を酸素雰囲気中で熱処理する工程、及び前記熱処理した酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程を含む。熱処理により結晶化する。
【0069】
薄膜トランジスタにおいて、好ましくは、熱処理した酸化物薄膜上に半導体特性の経時劣化を防ぐために、酸化物絶縁体層を形成する。
【0070】
好ましくは、酸素の含有量が10体積%以上の成膜ガスにおいて、酸化物薄膜を形成する。成膜ガスとしては、例えばアルゴン及び酸素の混合ガスを用いる。
【0071】
成膜ガス中の酸素濃度を10体積%以上とすることで、後に続く結晶化を安定化することができる。酸素の含有量が10体積%未満の場合、結晶化に必要な酸素を外部から供給する必要があり、半導体内部の酸素欠損が完全に消失する恐れがある。また、この様な欠損が生じた場合、結晶は正常に成長せず散乱因子を内在することになり、移動度の低下を招く場合がある。
【0072】
酸素濃度に上限は特にないが、酸素100体積%でスパッタリングを行なう場合には、スパッタ速度が低下する場合があり、酸素は50体積%以下にすることが好ましい。より好ましくは40体積%以下、さらに好ましくは30体積%以下である。半導体内部に大量に取り込まれた余分な酸素は、次の結晶化工程で容易に外部に放出され、格子欠損の少ない酸化インジウム結晶薄膜が得られる。
【0073】
酸化物薄膜の結晶化工程においては、酸素の存在下又は不存在下でランプアニール装置、レーザーアニール装置、熱プラズマ装置、熱風加熱装置、接触加熱装置等を用いることができる。この場合、早く昇温することが好ましい。昇温速度が低いと結晶粒子が異常成長することがあり、その粒子界面の格子のずれが大きくなり、散乱の原因となる。短時間で結晶化させることにより、小さな結晶粒子を生成させ、結晶格子のずれを小さくすることが可能となり、移動度向上の効果が大きくなる。結晶格子のずれは、結晶方位の異なる結晶の界面の結晶方位の不整合と見なすことができる。結晶粒子間の結晶方位が近い方が散乱は少なくなる。
【0074】
昇温速度は、通常40℃/分以上であり、好ましくは70℃/分以上、より好ましくは80℃/分、さらに好ましくは100℃/分以上である。加熱速度に上限は無く、レーザー加熱、熱プラズマによる加熱の場合には、瞬間的に所望の熱処理温度まで昇温可能である。
冷却速度も高い方が好ましいが、基板速度が大きすぎる場合は基板が割れたり、薄膜に内部応力が残るために電気特性が下がる恐れがある。冷却速度が低すぎる場合は、アニール効果により、結晶が異常に成長する可能性があり、加熱速度と同様に冷却速度を設定することが好ましい。冷却速度は、通常、5〜300℃/分、より好ましくは10〜200℃/分、さらに好ましくは、20〜100℃/分である。
【0075】
酸化物薄膜の熱処理は好ましくは250〜500℃、0.5〜1200分で行う。250℃未満では、結晶化が達成されない場合があり、500℃超では、基板や半導体膜にダメージを与える場合がある。また、0.5分未満では、熱処理時間が短すぎて、結晶化が達成されない場合があり、1200分では、時間がかかりすぎる場合がある。
【実施例】
【0076】
続いて、本発明を実施例により比較例と対比しながら説明する。尚、本実施例は好適な例を示すものであり、これらに本発明が制限されるものではない。従って、本発明の技術思想に基づく変形又は他の実施例は本発明に包含される。
【0077】
参考例1〜8:酸化物焼結体の製造
原料粉体として、下記の酸化物粉末を使用した。尚、平均粒径はレーザ回折式粒度分布測定装置SALD−300V(島津製作所製)で、比表面積はBET法で測定した。
(a)酸化インジウム粉:比表面積6m2/g、平均粒径1.2μm
(b)酸化ガリウム粉:比表面積6m2/g、平均粒径1.5μm
(a)及び(b)からなる原料混合粉体全体の比表面積は6.0m2/gであった。
【0078】
上記の粉体を、表1に示すGa/(In+Ga)比となるように秤量し、湿式媒体撹拌ミルを使用して混合粉砕した。粉砕媒体として1mmφのジルコニアビーズを使用した。粉砕処理中、混合粉体の比表面積を確認しながら、比表面積を原料混合粉体の比表面積より2m2/g増加させた。
【0079】
粉砕後、スプレードライヤーで乾燥させて得た混合粉を金型(150mmφ20mm厚)に充填し、コールドプレス機にて加圧成形した。成形後、酸素を流通させながら酸素雰囲気中、表1に示す温度で24時間焼結して、焼結体を製造した。
【0080】
製造した焼結体の密度を、一定の大きさに切り出した焼結体の重量と外形寸法より算出した。このように、仮焼工程を行うことなく、焼結体の密度が高いスパッタリングターゲット用焼結体を得ることができた。
また、この焼結体のバルク抵抗(導電性)(mΩcm)を、抵抗率計(三菱油化製、ロレスタ)を使用し四探針法により測定した。
【0081】
焼結体の不純物濃度は以下のようにして求めた。
焼結体を採取し、その一部で溶解し水溶液化しICP法(誘導結合プラズマ発光分光分析法)で定量測定して、不純物濃度を測定した。
上記の評価結果を表1に示す。
【0082】
得られた焼結体についてX線回折を実施した。図1〜8に各参考例のX線チャートを示す。
チャートを分析した結果、参考例1〜8の焼結体中には、In2O3のビックスバイト構造が観察された。
【0083】
参考例1〜8について、X線回折より格子定数を求めた。立方晶In2O3の格子定数10.118Åに対する格子定数は表1の通りである。
上記X線回折測定(XRD)の測定条件は以下の通りである。
装置:(株)リガク製Ultima−III
X線:Cu−Kα線(波長1.5406Å、グラファイトモノクロメータにて単色化)
出力:50kV−120mA
2θ−θ反射法、連続スキャン(1.0°/分)
サンプリング間隔:0.02°
スリット DS、SS:2/3°、RS:0.6mm
ピーク強度はピーク分離を行い、そのピークの面積から求めた。
【0084】
得られた焼結体のEPMA測定によりGaの分散を確認したところ、1μm以上のGaの集合体は確認されなかった。
【0085】
また、得られた焼結体を切削加工し、バッキングプレートに貼り合わせ、4インチφのスパッタリングターゲットとした。このスパッタリングターゲットを、DCスパッタ装置に装着し、スパッタガスとしてアルゴンを用いて、0.3Pa、DC出力400Wにて、10kWhr連続スパッタを行い、スパッタ中の電圧変動をデータロガーに蓄積し、異常放電の有無を確認した。異常放電の有無は、電圧変動をモニターし異常放電を検出することにより行った。結果を表1に示す。5分間の測定時間中に発生する電圧変動がスパッタ運転中の定常電圧の10%以上あった場合を異常放電とした。
マイクロアークが発生するとは、スパッタ放電の異常放電のことをいい、スパッタ電圧が0.1秒間に±10%変動することで検地できるとなることをいい、マイクロアークが発生すると、素子の歩留まりが低下し、量産化には適さないおそれがある。
【0086】
参考例9〜11:酸化物焼結体の製造
原料粉体として、下記の酸化物粉末を使用した。尚、平均粒径はレーザー回折式粒度分布測定装置SALD−300V(島津製作所製)で、比表面積はBET法で測定した。
(a)酸化インジウム粉:比表面積6m2/g、平均粒径1.2μm
(b)酸化ガリウム粉:比表面積6m2/g、平均粒径1.5μm
(c)酸化スカンジウム:比表面積6m2/g、平均粒径1.5μm
(d)酸化イットリウム:比表面積6m2/g、平均粒径1.5μm
(e)酸化アルミニウム:比表面積6m2/g、平均粒径1.5μm
(a)及び(b)に、(c)、(d)又は(e)を、表2に示すGa/(In+Ga)比及びX/(In+Ga+X)比(Xは添加元素)と成るように秤量し、混合して原料混合粉体を調製した。全体の比表面積は6.0m2/gであった。
【0087】
上記の原料混合粉体を用いたことと、表2に示す温度で焼結した他は、参考例1と同様にして焼結体を製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0088】
また、得られた焼結体について参考例1と同じ条件でX線回折を実施した。図9〜11に各参考例のX線チャートを示す。
チャートを分析した結果、参考例9〜11の焼結体中には、In2O3のビックスバイト構造が観察された。
【0089】
X線回折より求めた立方晶In2O3の格子定数10.118に対する格子定数は表2の通りである。
【0090】
比較例1〜4:酸化物焼結体の製造
表3に示すGa/(In+Ga)比で原料粉末を混合し、表3に示す温度で焼結した他は、参考例1と同様に焼結体を製造し、評価した。結果を表3に示す。
X線回折により得られたチャートを図12〜15に示す。X線回折チャートにおいてIn2O3相とInGaO3相もしくはGa2O3相が観察された。
【0091】
比較例5:酸化物焼結体の製造
表1に示すGa/(In+Ga)比で原料粉末を混合し、表1に示す温度で焼結した他は、参考例1と同様に焼結体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
X線回折により得られたチャートを図16に示す。X線回折チャートにおいてIn2O3相とInGaO3相のメインピーク強度比はInGaO3/In2O3=1.2であった。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
参考例1〜11及び比較例1のGa又は(Ga+X)の添加量と格子定数の分布を図17に示す。図において、Rは参考例を、Cは比較例を示す。この図から、参考例1〜11の焼結体は格子定数が低いことが分かる。
【0096】
実施例1:薄膜トランジスタの製造
100nm厚みの熱酸化膜(SiO2膜)付きの導電性シリコン基板上と、石英ガラス基板上に、それぞれ、参考例4で得られた酸化インジウム(金属として97原子%)−酸化ガリウム(金属として3原子%)からなるターゲット(Ga/(In+Ga)=0.03)を用いて、スパッタリング法により50nm半導体膜を成膜した。スパッタリングは、背圧が5×10−4Paとなるまで真空排気したあと、アルゴンを8.5asccm、酸素1.5sccm流しながら、圧力を0.2Paに調整し、スパッタパワー100Wにて、室温で行った。
【0097】
上記薄膜を形成した導電性シリコン基板上に、金属マスクを設置し、L:200μm、W:1000μmのチャンネル部を形成し、ソース・ドレイン電極として金を蒸着して形成した。
当該素子を、空気中、350℃に加熱した加熱炉内に投入し、30分間熱処理行った。
その上にプラズマCVD法により、SiO2膜を作製した。
【0098】
その結果、電界効果移動度91.4cm2/V・sec、On−Off比4.5×107でノーマリーオフの特性を示す薄膜トランジスタが得られた。出力特性は明瞭なピンチオフを示した。S値は0.45であった。また、ゲートに20V電圧を100分かけた後のVthのシフト電圧は0.2V以下であった。
【0099】
上記薄膜を形成した石英ガラス基板を、同様に空気中、350℃、30分間熱風加熱炉内で熱処理した。この薄膜のXRDを測定したところ、酸化インジウムのビックスバイト構造の単相であるピークが観察された。同様に、空気中、450℃、5時間の熱処理を行い、同じくXRD測定をおこない、350℃にて熱処理したXRDのピーク強度を比較したところ、350℃で得られたピーク強度は、450℃で得られたピーク強度とほぼ同等であり、ビックスバイト構造の単相からなることが分かった。この結晶化酸化インジウム薄膜の格子定数を測定したところ、10.10285Åであった。
また、この薄膜のキャリア濃度をHall効果測定で調べたところ、1.4×1018/cm-3であった。
【0100】
実施例2:薄膜トランジスタの製造
参考例7で得られた酸化インジウム(金属として92.8原子%)−酸化ガリウム(金属として7.2原子%)からなるターゲット(Ga/(In+Ga)=0.072)を用いて、実施例1と同様にして薄膜トランジスタを作製しその特性を評価した。
その結果、電界効果移動度123.7cm2/V・sec、On−Off比4.7×108でノーマリーオフの特性を示す薄膜トランジスタが得られた。出力特性は明瞭なピンチオフを示した。S値は0.5であった。また、ゲートに20V電圧を100分かけた後のVthのシフト電圧は0.2V以下であった。
【0101】
実施例1と同様に石英ガラス基板上に形成した薄膜を熱処理して評価した。XRD測定の結果、酸化インジウムのビックスバイト構造のピークが観察された。350℃で得られたピーク強度は、450℃で得られたピーク強度とほぼ同等であり、ビックスバイト構造の単相からなることが分かった。薄膜の格子定数は10.04692Åであった。
また、この薄膜のキャリア濃度をHall効果測定で調べたところ、1.2×1018/cm-3であった。
【0102】
実施例3:薄膜トランジスタの製造
配合を変えた他は、参考例1と同様にして得られた酸化インジウム(金属として88.6原子%)−酸化ガリウム(金属として11.4原子%)からなるターゲット(Ga/(In+Ga)=0.114)を用いて、実施例1と同様にして薄膜トランジスタを作製しその特性を評価した。
その結果、電界効果移動度64.5cm2/V・sec、On−Off比4.2×109でノーマリーオフの特性を示す薄膜トランジスタが得られた。出力特性は明瞭なピンチオフを示した。S値は0.45であった。また、ゲートに20V電圧を100分かけた後のVthのシフト電圧は0.2V以下であった。
【0103】
実施例1と同様に石英ガラス基板上に形成した薄膜を熱処理して評価した。XRD測定の結果、酸化インジウムのビックスバイト構造のピークが観察された。350℃で得られたピーク強度は、450℃で得られたピーク強度とほぼ同等であり、ビックスバイト構造の単相からなることが分かった。薄膜の格子定数は10.01289Åであり、キャリア濃度は1.5×1018/cm-3であった。
【0104】
実施例4:薄膜トランジスタの製造
100nm厚みの熱酸化膜(SiO2膜)付きの導電性シリコン基板上及び石英基板上に、それぞれ、参考例1で得られた酸化インジウム(金属として98原子%)−酸化ガリウム(金属として2原子%)からなるターゲット(Ga/(In+Ga)=0.02)を用いて、実施例1と同様に、室温で成膜した。
当該素子を、空気中、300℃、30分間熱処理を熱風加熱炉内で行った。
その後、上記導電性シリコン基板上に、モリブデン金属を300nm成膜した。
【0105】
この素子に、レジストを塗布し、80℃にて15分間プレベークを行い、300mJ/cm2の光強度のUV光をマスクに通して照射し、その後、3重量%のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドにて、現像を行い、純水で洗浄後、ポストベークを130℃、15分行い、所望の形状のソース・ドレイン電極形状のレジストパターンを形成した。
【0106】
当該、レジストパターン付き基板を、燐酸・酢酸・硝酸の混合酸にて、モリブデン金属をエッチングし、純水で洗浄後、エアーブローして乾燥後、チャンネルエッチ型薄膜トランジスタの特性を評価した。作製したチャンネルエッチ型薄膜トランジスタの構造を図18に示す。図において、10は導電性シリコン基板、20は導電性シリコン部材、30は熱酸化膜(SiO2膜)である。導電性シリコン部材20がゲート電極として、熱酸化膜30がゲート絶縁膜として機能する。40はターゲットから形成された半導体膜であり、50,52はそれぞれモリブテン金属からなるソース電極、ドレイン電極であり、60はチャンネル部である。
【0107】
その結果、電界効果移動度60.2cm2/V・sec、On−Off比4.5×106でノーマリーオフの特性を示す薄膜トランジスタが得られた。出力特性は明瞭なピンチオフを示した。S値は0.9であった。また、ゲートに20V電圧を100分かけた後のVthのシフト電圧は0.2V以下であった。
【0108】
実施例1と同様に石英ガラス基板上に形成した薄膜を熱処理して評価した。XRD測定の結果、酸化インジウムのビックスバイト構造のピークが観察された。350℃で得られたピーク強度は、450℃で得られたピーク強度とほぼ同等であり、ビックスバイト構造の単相からなることが分かった。薄膜の格子定数は10.10628Åであり、キャリア濃度は1.5×1018/cm-3であった。
【0109】
実施例5:薄膜トランジスタの製造
100nm厚みの熱酸化膜(SiO2膜)付きの導電性シリコン基板上及び石英基板上に、それぞれ、参考例9と同様にして得られた酸化インジウム(金属として93原子%)−酸化ガリウム(金属として5原子%)−酸化スカンジウム(金属として2原子%)からなるターゲット(Ga/(In+Ga)=0.051、Sc/(In+Ga+Sc)=0.02)を用いて、実施例1と同様に、室温で成膜した。
【0110】
その後、上記酸化物薄膜付き導電性シリコン基板上に、金属マスクを装着して、酸化アルミナからなるエッチストッパーを形成した。次に、金属マスクを取り除き、全面にモリブデン金属を300nm成膜した。
この素子に、レジストを塗布し、80℃にて15分間プレベークを行い、300mJ/cm2の光強度のUV光をマスクを通して照射し、その後、3重量%のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドにて、現像を行い、純水で洗浄後、ポストベークを130℃、15分行い、所望の形状のソース・ドレイン電極形状のレジストパターンを形成した。
【0111】
当該、レジストパターン付き基板を、燐酸・酢酸・硝酸の混合酸にて、モリブデン金属、及び酸化物薄膜を同時にエッチングし、純水で洗浄後、エアーブローして乾燥後、当該素子を、空気中、350℃、30分間熱処理を熱風加熱炉内で行った。得られたエッチストッパー型薄膜トランジスタの特性を評価した。作製したエッチストッパー型薄膜トランジスタの構造を図19に示す。図において、10は導電性シリコン基板、20は導電性シリコン部材、30は熱酸化膜(SiO2膜)である。導電性シリコン部材20がゲート電極として、熱酸化膜30がゲート絶縁膜として機能する。40はターゲットから形成された半導体膜であり、50,52はそれぞれモリブテン金属からなるソース電極、ドレイン電極である。60はチャンネル部であり、70はエッチストッパーである。
【0112】
その結果、電界効果移動度42.5cm2/V・sec、On−Off比9.5×107でノーマリーオフの特性を示す薄膜トランジスタが得られた。出力特性は明瞭なピンチオフを示した。S値は0.8であった。また、ゲートに20V電圧を100分かけた後のVthのシフト電圧は0.2V以下であった。
【0113】
実施例1と同様に石英ガラス基板上に形成した薄膜を熱処理して評価した。XRD測定の結果、酸化インジウムのビックスバイト構造のピークが観察された。350℃で得られたピーク強度は、450℃で得られたピーク強度とほぼ同等であり、ビックスバイト構造の単相からなることが分かった。薄膜の格子定数は10.0624Åであり、キャリア濃度は2.1×1018/cm-3であった
【0114】
実施例6:薄膜トランジスタの製造
参考例11と同様にして得られた酸化インジウム(金属として90.9原子%)−酸化ガリウム(金属として7.2原子%)−酸化アルミニウム(金属として1.9原子%)から成るターゲット(Ga/(In+Ga)=0.073、Al/(In+Ga+Al)=0.019)を用いて、実施例1と同様にして薄膜トランジスタを作製しその特性を評価した。
【0115】
その結果、電界効果移動度46.5cm2/V・sec、On−Off比4.4×107でノーマリーオフの特性を示す薄膜トランジスタが得られた。出力特性は明瞭なピンチオフを示した。S値は0.7であった。また、ゲートに20V電圧を100分かけた後のVthのシフト電圧は0.2V以下であった。
【0116】
実施例1と同様に石英ガラス基板上に形成した薄膜を熱処理して評価した。XRD測定の結果、酸化インジウムのビックスバイト構造のピークが観察された。350℃で得られたピーク強度は、450℃で得られたピーク強度とほぼ同等であり、ビックスバイト構造の単相からなることが分かった。薄膜の格子定数は10.04992Åであり、キャリア濃度は2.0×1018/cm-3であった。
【0117】
実施例7:薄膜トランジスタの製造
酸化ホウ素を使用し配合を変えた他は、参考例9と同様にして得られた酸化インジウム(金属として95.1原子%)−酸化ガリウム(金属として4原子%)−酸化ホウ素(金属として0.9原子%)から成るターゲット(Ga/(In+Ga)=0.040、B/(In+Ga+B)=0.009)を用いて、実施例1と同様にして薄膜トランジスタを作製しその特性を評価した。
【0118】
その結果、電界効果移動度49.7cm2/V・sec、On−Off比9.96×107でノーマリーオフの特性を示す薄膜トランジスタが得られた。出力特性は明瞭なピンチオフを示した。S値は0.45であった。また、ゲートに20V電圧を100分かけた後のVthのシフト電圧は0.2V以下であった。
【0119】
実施例1と同様に石英ガラス基板上に形成した薄膜を熱処理して評価した。XRD測定の結果、酸化インジウムのビックスバイト構造のピークが観察された。350℃で得られたピーク強度は、450℃で得られたピーク強度とほぼ同等であり、ビックスバイト構造の単相からなることが分かった。薄膜の格子定数は10.08936Åであり、キャリア濃度は2.4×1018/cm-3であった。
【0120】
実施例8:薄膜トランジスタの製造
100nm厚みの熱酸化膜(SiO2膜)付きの導電性シリコン基板上及び石英基板上に、それぞれ、参考例9と同様にして得られた酸化インジウム(金属として97原子%)−酸化ガリウム(金属として2原子%)−酸化スカンジウム(金属として1原子%)からなるターゲット(Ga/(In+Ga)=0.021、Sc/(In+Ga+Sc)=0.01)を用いて、実施例5と同様に、室温で成膜し、その後、図19に示すエッチストッパー型薄膜トランジスタを作成し、評価した。
【0121】
その結果、電界効果移動度62.5cm2/V・sec、On−Off比3.5×106でノーマリーオフの特性を示す薄膜トランジスタが得られた。出力特性は明瞭なピンチオフを示した。S値は0.7であった。また、ゲートに20V電圧を100分かけた後のVthのシフト電圧は0.2V以下であった。
【0122】
実施例1と同様に石英ガラス基板上に形成した薄膜を熱処理して評価した。XRD測定の結果、酸化インジウムのビックスバイト構造のピークが観察された。350℃で得られたピーク強度は、450℃で得られたピーク強度とほぼ同等であり、ビックスバイト構造の単相からなることが分かった。薄膜の格子定数は10.0728Åであり、キャリア濃度は1.1×1018/cm-3であった
【0123】
比較例6:薄膜トランジスタの製造
100nm厚みの熱酸化膜(SiO2膜)付きの導電性シリコン基板上に、酸化インジウム(金属として100原子%)からなるターゲットを用いて、実施例1と同様にして薄膜トランジスタを作製しその特性を評価した。
その結果、電界効果移動度25.2cm2/V・sec、On−Off比107、でノーマリーオンの特性を示す薄膜トランジスタが得られた。出力特性は明瞭なピンチオフを示した。S値は1.4であった。
【0124】
実施例1と同様に石英ガラス基板上に形成した薄膜を熱処理して評価した。XRD測定の結果、酸化インジウムのビックスバイト構造のピークが観察された。350℃で得られたピーク強度は、450℃で得られたピーク強度とほぼ同等でビックスバイト構造の単相からなることが分かった。薄膜の格子定数は10.1250Åであり、キャリア濃度は6.5×1018/cm-3であった。
【0125】
比較例7:薄膜トランジスタの製造
100nm厚みの熱酸化膜(SiO2膜)付きの導電性シリコン基板上に、酸化インジウム(金属として70原子%)−酸化ガリウム(金属として30原子%)からなるターゲット(Ga/(In+Ga)=0.3)を用いて、実施例1と同様にして薄膜トランジスタを作製しその特性を評価した。
その結果、電界効果移動度15.7cm2/V・sec、On−Off比106でノーマリーオンの特性を示す薄膜トランジスタが得られた。出力特性は明瞭なピンチオフを示した。S値は1.4であった。
【0126】
実施例1と同様に石英ガラス基板上に形成した薄膜を熱処理して評価した。XRD測定の結果、酸化インジウムのビックスバイト構造のピークは観察されなかった。このことから当該酸化インジウムと酸化ガリウムからなる薄膜は非晶質であると判断した。薄膜のキャリア濃度は10.2×1018/cm-3であった。
【0127】
実施例4で用いた燐酸・酢酸・硝酸の混合酸にて、液温25℃に設定し、10分間浸漬し、耐酸性を試みたところ、当該酸化インジウムと酸化ガリウムからなる非晶質膜は溶解し、耐酸性が無いことが判明した。
【0128】
比較例8:薄膜トランジスタの製造
100nm厚みの熱酸化膜(SiO2膜)付きの導電性シリコン基板上に、酸化インジウム(金属として86原子%)−酸化ガリウム(金属として14原子%)からなるターゲット(Ga/(In+Ga)=0.14)を用いて、実施例1と同様にして薄膜トランジスタを作製しその特性を評価した。
その結果、電界効果移動度22.3cm2/V・sec、On−Off比106でノーマリーオンの特性を示す薄膜トランジスタが得られた。出力特性は明瞭なピンチオフを示した。S値は1.3であった。
実施例1と同様に石英ガラス基板上に形成した薄膜を熱処理して評価した。XRD測定の結果、酸化インジウムのビックスバイト構造の明確なピークは観察されなかった。このことから当該酸化インジウムと酸化ガリウムからなる薄膜は大部分が非晶質であると判断した。薄膜のキャリア濃度は10.2×1018/cm-3であった。
実施例4で用いた燐酸・酢酸・硝酸の混合酸にて、液温25℃に設定し、10分間浸漬し、耐酸性を試みたところ、当該酸化インジウムと酸化ガリウムからなる非晶質膜は溶解し、耐酸性が無いことが判明した。
また、スパッタ放電時に、マイクロアークも観察された。
【0129】
実施例1〜7及び比較例6のGa又は(Ga+X)の添加量と格子定数の分布を図20に示す。図において、Eは実施例を、Cは比較例を示す。この図から、実施例1〜7の薄膜は格子定数が低いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の酸化物焼結体はスパッタリングターゲットとして使用できる。本発明のスパッタリングターゲットを用いて形成した薄膜は、薄膜トランジスタに使用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガリウムが酸化インジウムに固溶していて、
原子比Ga/(Ga+In)が0.001〜0.12であり、
全金属原子に対するインジウムとガリウムの含有率が80原子%以上であり、
In2O3のビックスバイト構造を有することを特徴とする酸化物薄膜を用いることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項2】
チャンネルエッチ型の薄膜トランジスタであることを特徴とする請求項2に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項3】
エッチストッパー型の薄膜トランジスタであることを特徴とする請求項2に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記酸化物薄膜が、チャネル層又は半導体膜であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の薄膜トランジスタ。
【請求項5】
ガリウムが酸化インジウムに固溶していて、原子比Ga/(Ga+In)が0.001〜0.12であり、全金属原子に対するインジウムとガリウムの含有率が80原子%以上であり、In2O3のビックスバイト構造を有する酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットを用いて酸化物薄膜を形成する工程、及び
前記酸化物薄膜を、酸素雰囲気中で熱処理して結晶化する工程を含むことを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項6】
前記酸化物薄膜形成工程において、酸素の含有量が10体積%以上の成膜ガスにおいて酸化物薄膜を形成することを特徴とする請求項5に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項7】
前記結晶化工程において、前記酸化物薄膜を、250〜500℃、0.5〜1200分で熱処理して結晶化することを特徴とする請求項5又は6に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項8】
前記酸化物薄膜が、チャネル層又は半導体膜であることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項9】
さらに、前記熱処理した酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程を含むことを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれかに記載の薄膜トランジスタを備えたことを特徴とする半導体素子。
【請求項1】
ガリウムが酸化インジウムに固溶していて、
原子比Ga/(Ga+In)が0.001〜0.12であり、
全金属原子に対するインジウムとガリウムの含有率が80原子%以上であり、
In2O3のビックスバイト構造を有することを特徴とする酸化物薄膜を用いることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項2】
チャンネルエッチ型の薄膜トランジスタであることを特徴とする請求項2に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項3】
エッチストッパー型の薄膜トランジスタであることを特徴とする請求項2に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記酸化物薄膜が、チャネル層又は半導体膜であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の薄膜トランジスタ。
【請求項5】
ガリウムが酸化インジウムに固溶していて、原子比Ga/(Ga+In)が0.001〜0.12であり、全金属原子に対するインジウムとガリウムの含有率が80原子%以上であり、In2O3のビックスバイト構造を有する酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットを用いて酸化物薄膜を形成する工程、及び
前記酸化物薄膜を、酸素雰囲気中で熱処理して結晶化する工程を含むことを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項6】
前記酸化物薄膜形成工程において、酸素の含有量が10体積%以上の成膜ガスにおいて酸化物薄膜を形成することを特徴とする請求項5に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項7】
前記結晶化工程において、前記酸化物薄膜を、250〜500℃、0.5〜1200分で熱処理して結晶化することを特徴とする請求項5又は6に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項8】
前記酸化物薄膜が、チャネル層又は半導体膜であることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項9】
さらに、前記熱処理した酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程を含むことを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれかに記載の薄膜トランジスタを備えたことを特徴とする半導体素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2012−250910(P2012−250910A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−144098(P2012−144098)
【出願日】平成24年6月27日(2012.6.27)
【分割の表示】特願2010−529618(P2010−529618)の分割
【原出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年6月27日(2012.6.27)
【分割の表示】特願2010−529618(P2010−529618)の分割
【原出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]