説明

薄膜トランジスタ及びその製造方法

【目的】 能動領域が薄く、ソース及びドレイン領域が厚く、かつ能動領域とソース及びドレイン領域との接合欠陥をなくすことによって、高速化・高性能化・低消費電力化・微細化・高集積化が可能な薄膜トランジスタを構成する。。
【構成】 基板上に半導体層を積層し、窒化珪素膜層を積層・パターニングした後、窒化珪素膜層の開孔部の半導体層を熱酸化させ、窒化珪素膜層を除去した後、熱酸化膜をマスクとして不純物イオンを導入し、ソース及びドレイン領域と薄い不純物領域と能動領域を形成した後、熱酸化膜を除去し、ゲート絶縁膜とゲート電極を形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、液晶表示装置や半導体集積回路などへの応用が有効な、薄膜トランジスタ及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】図3(a)〜(c)は、従来の技術による薄膜トランジスタの1例を製造工程ごとの素子断面図により説明した図である。まず、図3(a)に示すように、絶縁基板301上に半導体層302を積層した後、ゲート絶縁膜303を熱酸化法を用いて形成する。ついで、ゲート電極となる半導体層304を積層しパターニングした後、前記残された半導体層304をマスクとして、不純物イオン305を打ち込み、不純物の活性化を行うことによって、ソース及びドレイン領域306と能動領域307を形成する。この状態が図3(b)である。その後、図3(c)に示すように層間絶縁膜308を積層し、コンタクトホール309を開口した後、ソース及びドレイン電極端子310を形成して、薄膜トランジスタが完成する。
【0003】また、図4(a)〜(c)は、従来の技術により形成した薄膜トランジスタの別の例を製造工程ごとの素子断面図により説明した図である。まず、絶縁基板401上に高濃度不純物を添加した半導体層を積層し、パターニングしてソース及びドレイン領域402とする。その後、不純物を含まない半導体層を積層、パターニングして能動領域403とし、ゲート絶縁膜404と、ゲート電極となる導体層を順次積層し、前記導体層をパターニングしてゲート電極405となし、図4(b)を得る。ついで、層間絶縁膜406を積層し、コンタクトホール407を開口した後、ソース及びドレイン電極端子408を形成して図4(c)とし、薄膜トランジスタが完成する。
【0004】前述の従来の技術では、基板として絶縁基板を用いて説明したが、基板として導体基板を用いた場合には、導体基板上に絶縁薄膜を形成した後に、前述の製造方法により薄膜トランジスタを形成することが可能である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】近年、液晶表示装置及び半導体集積回路の発達にともなって、これに用いられる薄膜トランジスタにも、高性能化及び高速化、高集積化が望まれている。薄膜トランジスタの高速化及び高性能化を実現する方法として、能動領域の半導体層を薄くする試みがなされている。しかしながら、先の図3により説明した従来の技術により形成された薄膜トランジスタでは、能動領域の半導体層を薄くすると、必然的にソース及びドレイン領域の部分も薄くなり、従ってソース及びドレイン領域の部分のシート抵抗値が上がり、オン電流が抑えられるため、高速化及び高性能化が困難であった。また、前記能動領域及びソース及びドレイン領域の層を配線層として用いる場合にも、やはり配線抵抗が高いため、薄膜トランジスタの高集積化が困難であった。また、ソース及びドレイン領域の部分が薄い場合には、ソース及びドレイン領域とソース及びドレイン電極端子とのコンタクトを直接取ることが困難であった。一方、図4の従来の技術により説明した薄膜トランジスタに於いては、能動領域を薄くしてもソース及びドレイン領域は厚く形成できるため、ソース及びドレイン領域または、配線層のシート抵抗または配線抵抗の低抵抗化が可能である。また、ソース及びドレイン電極端子と、ソース及びドレイン領域とのコンタクトを取ることも容易である。しかし、能動領域とソース及びドレイン領域とを別の層で形成しているため、能動領域とソース及びドレイン領域との接合部分での接合欠陥が発生し、逆バイアスをかけたときのリーク電流が非常に大きくなり、従って低消費電力化が困難であった。また、薄膜トランジスタの微細化及び高集積化が望まれているが、この場合問題となるのが短チャネル効果である。これを防ぐための手段として、ソース及びドレイン領域と能動領域との間に薄い不純物層を有する、LDD(Lightly Doped Drain)構造が検討されているが、従来に技術ではLDD構造を形成するために、2度のイオン打ち込み法を用いなければならないなどのプロセスの複雑さが問題となっている。
【0006】本発明は、このような薄膜トランジスタ及びその製造方法の問題点を解決するもので、その目的とするところは、高速化・高性能化・低消費電力化が可能で、かつ微細化及び高集積化が可能な薄膜トランジスタ及びその製造方法を提供するところにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】ソース及びドレイン領域と能動領域とゲート絶縁膜とゲート電極とを有する薄膜トランジスタに於て、ソース及びドレイン領域と能動領域が同一の層からなり、かつ能動領域の膜厚がソース及びドレイン領域の膜厚より薄いことを特徴とする。
【0008】
【作用】本発明の薄膜トランジスタの構造及びその製造方法によれば、半導体層と窒化珪素膜層を積層し、前記窒化珪素膜をパターニングしてその開口部分の半導体層を酸化させた後窒化珪素膜を除去し、不純物イオンを導入することによって、半導体層中に濃い不純物領域と薄い不純物領域とを形成し、その後前記半導体層の酸化部分を除去してゲート絶縁膜とゲート電極とを形成しているため、能動領域の部分は薄く形成でき、薄膜トランジスタの高速化及び高性能化が実現できる。また、ソース及びドレイン領域と配線層の部分は厚いままのため、シート抵抗及び配線抵抗を小さくすることができ、高速化及び基板の大面積化が可能である。しかも、能動領域とソース及びドレイン領域とは同一の層であるため、接合部分がなくリーク電流を少なくすることができるため、低消費電力化が可能である。また、先の1度の不純物打ち込みにより、不純物の薄い層と濃い層が形成できるため、LDD構造を簡単なプロセスにより形成することができる。従って、微細化及び高集積化が実現できる。
【0009】
【実施例】本発明の実施例の1つを、図1(a)〜(d)までの製造工程ごとの素子断面図により説明してゆく。まず図1(a)に示すように、絶縁基板101上に半導体層102を2000Å〜4000Å程度の厚さに積層し、次いで窒化珪素膜103を1000Å〜2000Å程度の厚さに積層、所望の形状にパターニングした後、熱酸化法を用いて前記窒化珪素膜103の開口部の半導体層102を酸化させ、熱酸化膜104を形成する。前記半導体層102の形成には、減圧CVD法やプラズマCVD法などが用いられる。前記半導体薄膜層102はソース及びドレイン領域を形成するため、少なくとも1000Å以上であることが望ましい。一方、前記半導体薄膜層102の酸化されて残った部分は、能動領域を形成するため、少なくとも500Å以下であることが望ましい。また、前記窒化珪素膜層103の形成には、減圧CVD法、熱窒化法、プラズマCVD法、ECRプラズマCVD法などが用いられる。また、前記窒化珪素膜103の代わりに二酸化珪素膜と窒化珪素膜の2層構造を用いて、窒化珪素膜によるストレスを緩和することも可能である。また、熱酸化法の温度は1000℃前後であり、前記熱酸化膜104の厚さは、酸化時間を変えることで調整できる。本実施例に於ては、半導体薄膜102を3000Åの厚さに積層し、窒化珪素膜103を1500Åとし、1000℃で60分の熱酸化をしたところ、半導体薄膜102は約2500Å酸化され、熱酸化膜は約5500Åとなり、能動領域となる部分の半導体薄膜102は500Åであった。次いで、前記窒化珪素膜103を除去し、熱酸化膜をマスクとして全面に不純物イオン105を、イオンインプランテーション法やイオンドーピング法などのイオン打ち込み法により導入し、活性化のための熱処理を施して、ソース及びドレイン領域106となる濃い不純物領域と、薄い不純物領域107及び能動領域108を形成して図1(b)となす。前記打ち込まれる不純物としては、N型の薄膜トランジスタを形成する場合にはリンや砒素が用いられ、P型の薄膜トランジスタを形成する場合には、ボロンやガリウムなどが用いられる。その後、前記熱酸化膜104を除去し、全面にゲート絶縁膜109を形成した後、ゲート電極となる導体層を積層、パターニングしてゲート電極110を形成し、図1(c)を得る。前記ゲート絶縁膜109としては、熱酸化法や熱窒化法または常圧CVD法、減圧CVD法、プラズマCVD法、ECRプラズマCVD法、スパッタ法などによって形成される、二酸化珪素膜や窒化珪素膜あるいはこれらの組合せによる絶縁膜が用いられる。また、前記ゲート電極110としては、高濃度不純物を添加した半導体層や、クロミウムやアルミニウム、タンタルやタングステンなどの金属薄膜が用いられる。その後、層間絶縁膜111を全面に積層し、コンタクトホール112を開口した後、ソース及びドレイン電極端子113を形成して、図1(d)とし、薄膜トランジスタが完成する。前記層間絶縁膜111としては、前記ゲート絶縁膜109に用いられるのと同様の薄膜の他に、ポリイミドなどの有機薄膜が用いられることもある。
【0010】本実施例に於いては、基板として絶縁基板を用いて説明したが、導体基板を用いる場合には、導体基板上に絶縁薄膜を積層した後、前記の製造方法を用いて薄膜トランジスタを形成することも可能である。また、本実施例に於いては、ゲート電極が能動領域に対して基板と反対側に位置するスタガード構造の例を用いて、本発明の製造方法について説明したが、ゲート電極が能動領域に対して基板側に位置する逆スタガード構造についても、本発明の製造方法が応用可能なことは言うまでもない。図2は、本発明の薄膜トランジスタを逆スタガード構造に応用した場合の素子断面図である。201は基板、202はゲート電極、203はゲート絶縁膜、204はソース及びドレイン領域、205は薄い不純物領域、206は能動領域、207は層間絶縁膜、208はコンタクトホール、209はソース及びドレイン電極端子をそれぞれ表わしている。
【0011】
【発明の効果】以上、製造工程ごとに簡単に説明した薄膜トランジスタ及びその製造方法によれば、以下に述べる数多くの効果が得られる。
【0012】1)能動領域を薄膜化できるため、薄膜トランジスタの高性能化・高速度化が可能である。
【0013】2)ソース及びドレイン領域が厚く形成されている為、シート抵抗を小さくすることができ、それによってオン電流が抑えられることが無くなり、高性能化及び高速化が可能になる。
【0014】3)ソース及びドレイン領域と同じ層で配線層を形成する場合には、配線抵抗の低抵抗化が可能であり、基板の大面積化及び高集積化が可能である。
【0015】4)ソース及びドレイン領域を厚くできる為、直接ソース及びドレイン電極端子とのコンタクトを取ることが可能である。
【0016】5)ソース及びドレイン領域と、能動領域とは、同じ層であるため接合部分がなく、従って逆バイアス時のリーク電流が小さく、低消費電力化が可能である。
【0017】6)チャネル部の膜厚は、熱酸化膜を形成するときの酸化時間で調整することができる。
【0018】7)1回のイオン打ち込みにより、LDD構造を形成することができ、それによって短チャネル効果を防ぐことができ、微細化及び高集積化が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の薄膜トランジスタの、実施例に示した製造工程ごとの素子断面図。
【図2】 本発明の薄膜トランジスタを、逆スタガード構造に応用した場合の素子断面図。
【図3】 従来の技術における薄膜トランジスタの、製造工程ごとの素子断面図。
【図4】 従来の技術における別の薄膜トランジスタの、製造工程ごとの素子断面図。
【符号の説明】
101,201,301,401・・・絶縁基板
102,302・・・半導体層
103・・・窒化珪素膜層
104・・・熱酸化膜
105,305・・・不純物イオン
106,204,306,402・・・ソース及びドレイン領域
107,205・・・薄い不純物領域
108,206,307,403・・・能動領域
109,203,303,404・・・ゲート絶縁膜
110,202,304,405・・・ゲート電極
111,207,308,406・・・層間絶縁膜
112,208,309,407・・・コンタクトホール
113,209,310,408・・・ソース及びドレイン電極端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】ソース及びドレイン領域と能動領域とゲート絶縁膜とゲート電極とを有する薄膜トランジスタに於て、ソース及びドレイン領域と能動領域が同一の層からなり、かつ能動領域の膜厚がソース及びドレイン領域の膜厚より薄いことを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項2】前記請求項1に記載の薄膜トランジスタに於て、能動領域の膜厚がソース及びドレイン領域の膜厚の半分かまたはそれ以下であることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項3】絶縁基板上あるいは導体基板上で、ソース及びドレイン領域を形成する工程と、能動領域を形成する工程と、ゲート絶縁膜を形成する工程と、ゲート電極を形成する工程とを含む、薄膜トランジスタの製造方法に於て、ゲート絶縁膜形成後または形成前に、半導体層と窒化珪素膜層を順次積層し、前記窒化珪素膜層をレジストを用いてパターニングする工程と、熱酸化法を用いて、前記窒化珪素膜層の開孔部の半導体層を酸化させる工程と、前記窒化珪素膜層を除去する工程と、不純物イオンを導入し、ソース及びドレイン領域と薄い不純物領域と能動領域を形成する工程と、前記熱酸化膜を除去する工程とを含むことを特徴とする、薄膜トランジスタの製造方法。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開平5−136414
【公開日】平成5年(1993)6月1日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−294475
【出願日】平成3年(1991)11月11日
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)