説明

薄膜ポアソン比の測定方法及び測定装置

【課題】薄膜のポアソン比を簡易且つ直接求め得る薄膜ポアソン比の測定方法、及び測定装置を提供すること。
【解決手段】薄膜ポアソン比の測定方法は基板上に堆積された薄膜のポアソン比を測定する方法である。薄膜の面内方向における二軸熱応力の温度勾配と、薄膜に垂直な方向における膜厚に沿った熱膨張歪と、膜厚の弾性率と、基板の熱膨張係数を測定又は算出し、これらを所定の式に導入して演算する。
上述の薄膜ポアソン比の測定方法を実行する装置である。二軸熱応力の温度勾配を求めるため基板の曲率測定を行うレーザー光測定手段と、熱膨張歪を求めるX線反射率測定手段と、基板と薄膜を加熱及び冷却する熱処理手段と、基板と薄膜を収容し内部に不活性ガスを充填・排出する試料収容器と、所定の式に従って演算処理をする演算処理手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜ポアソン比の測定方法及び測定装置に係り、更に詳細には、薄膜のポアソン比を簡易且つ直接求め得る薄膜ポアソン比の測定方法、及び薄膜ポアソン比の測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超大規模集積回路の加工寸法を最小化することは、半導体業界において、様々な先端デバイスのパフォーマンスの向上を加速する原動力となっている。小さい回路の集積では、低又は高誘電率薄膜、金属及びバリア層などの種々の極めて薄い層を含むので、これらの層の間に多くの界面が存在することになる。
【0003】
薄膜の低い機械強度、並びに隣接する2つの材料間の機械的及び熱機械的性質の差異は、脆弱な薄膜のひび割れや界面の剥離を起こすことがある。そのため、新しい材料の集積や半導体プロセスの最適化のみならず、コンピュータモデリングやシミュレーションを用いたデバイス設計及び寿命予測についても、ポアソン比、ヤング率、熱応力や熱膨張率などの機械的及び熱機械的性質は、薄膜層にとって重要なパラメータである。
特に、ポアソン比は、薄膜デバイスの信頼性を予測するときに、他の重要な機械的及び熱機械的性質に、直接的に且つ大きく影響を与えることが知られている。
【0004】
ところが、薄膜のポアソン比を求めるための極端な困難さはよく知られており、これに関する研究は少ししか報告されていない(例えば、非特許文献1参照。)。
また、これらの手法では、仮定されたポアソン比及び/又はポアソン比を含む弾性率を用いたデータが、一般的に用いられている。
【非許文献1】
【0005】
C.M.Flannery, T.Wittkowski, K.Jung, andB.Hillebrands and M.R.Baklanov, Appl.Phys.Lett.,80,4594(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、かかる従来の極薄膜のポアソン比の測定方法においては、仮定値を用いるため、必ずしも正確とは言い難く、また数値のバラツキも少なくないという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、薄膜のポアソン比を簡易且つ直接求め得る薄膜ポアソン比の測定方法、及び測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、薄膜表面の面内方向における温度勾配と、薄膜表面に垂直な方向における熱膨張歪に着目することにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の薄膜ポアソン比の測定方法は、基板上に堆積された薄膜のポアソン比を測定するに当たり、
上記薄膜の面内方向における二軸熱応力の温度勾配(Δσ/ΔT)と、上記薄膜に垂直な方向における膜厚に沿った熱膨張歪(Δd/dΔT)と、上記膜厚の弾性率(E)と、上記基板の熱膨張係数(α)を測定又は算出し、
これらを次式(A)
【数2】

(式中のVfは上記薄膜のポアソン比、Δσは加熱時二軸熱応力の変化、Tは加熱温度、ΔTは加熱温度、dは初期薄膜厚み、Δdは加熱時膜厚の変化を示す。)に導入して演算することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の薄膜ポアソン比の測定方法の好適形態は、上記二軸熱応力の温度勾配(Δσ/ΔT)を上記基板の曲率測定によって求め、上記膜厚に沿った熱膨張歪(Δd/dΔT)をX線反射法によって求め、上記膜厚の弾性率(E)をナノインデンテーションによって求めることを特徴とする。
【0011】
更に、本発明の薄膜ポアソン比の測定装置は、上述の如き薄膜ポアソン比の測定方法を実行する装置であって、
上記二軸熱応力の温度勾配(Δσ/ΔT)を求めるための上記基板の曲率測定を行うレーザー光測定手段と、
上記熱膨張歪(Δd/dΔT)を求めるX線反射率測定手段と、
上記基板及び薄膜を加熱及び冷却する熱処理手段と、
上記基板及び薄膜を収容するとともに、その内部に不活性ガスを充填及び排出できる試料収容器と、
上記(A)式に従って演算処理を実行する演算処理手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、薄膜表面の面内方向における温度勾配と、薄膜表面に垂直な方向における熱膨張歪に着目することとしたため、薄膜のポアソン比を簡易且つ直接求め得る薄膜ポアソン比の測定方法、及び測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の薄膜ポアソン比の測定方法につき詳細に説明する。なお、本明細書において、濃度、含有量及び充填量などについての「%」は、特記しない限り質量百分率を表すものとする。
【0014】
本発明の薄膜ポアソン比の測定方法は、上述の如く、基板上に堆積された薄膜のポアソン比を測定する方法であり、この薄膜の面内方向における直交二軸熱応力の温度勾配(Δσ/ΔT)と、この薄膜に垂直な方向における膜厚に沿った熱膨張歪(Δd/dΔT)と、この膜厚の弾性率(E)と、上記基板の熱膨張係数(α)を測定又は算出することを骨子とするものである。
【0015】
図1は、本発明の薄膜ポアソン比の測定方法の一実施形態を概略的に示す断面説明図である。
同図に示すように、本発明の薄膜ポアソン比の測定方法では、基板20上に堆積された薄膜10のポアソン比を測定するに当たり、まず、
(a)薄膜10を図示しない加熱装置で加熱しながら、薄膜10にレーザ光を入射しその反射レーザー光を計測することにより、薄膜10の面内方向における二軸熱応力の温度勾配(Δσ/ΔT)を求め、
(b)且つ薄膜10にX線を入射してその反射X線を計測することにより薄膜10に垂直な方向における膜厚に沿った熱膨張歪(Δd/dΔT)を求める。
【0016】
図2は、(a)の二軸熱応力の温度勾配((Δσ/ΔT)を求める原理を示す断面説明図である。
同図に示すように、基板20上の薄膜10に対し、平行レーザー光群(A,B)を同時に照射し、これらの反射レーザー光をCCDなどで検出する。位置のズレ(B−B’)から、次式(1)
【0017】
【数3】

【0018】
(式中のσは薄膜の内部応力、Eは基板20のヤング率、νは基板20のポアソン比、1/Rは薄膜10の曲率、hは基板20の厚さ、hは薄膜10の厚さ、Lは測定距離、dはレーザースポットの距離、dはレーザースポットの基準距離、δdはレーザースポットの変位量、αは反射角、aは定数を示す。)を用いて内部応力(σ)を算出する。
【0019】
ここで、基板20の厚さが一般的に薄膜10の厚さよりかなり大きく、また、薄膜10内では、二軸間で弾性的に等方的な状態が存在する(σ=0及びσ=σ)。ゆえに、薄膜10内の二軸歪は、基板20の熱膨張歪に等しい。
よって、薄膜10内の二軸熱応力Δσ/ΔTは、次の(1)’式
【0020】
【数4】

【0021】
(式中のΔσは薄膜の内部応力変化、ΔTは温度変化、Eは薄膜10のヤング率、αは基板20の熱膨張率、αは薄膜10の熱膨張率、νxyは薄膜10における面内のポアソン比を示す。)で表される。
【0022】
一方、図3は、上記(b)の薄膜10に垂直な方向における膜厚に沿った熱膨張歪(Δd/dΔT)を求める原理を示す断面説明図である。
図3(A)に示すように、薄膜10に対してX線を入射してその干渉現象を利用することにより、薄膜10の膜厚を測定することができる。
なお、図3(B)に示すように、薄膜10の膜厚が増加すると、フリンジが短周期化するので、これにより、膜厚の増減を計測できる。
【0023】
ここで、薄膜10の表面に垂直な方向における膜厚方向の全体の熱膨張変形(Δε)は、同じ方向の弾性歪及び純熱膨張変位の和である。また、ΔεはΔd/d(dは薄膜が加熱される前の初期厚さ、Δdは加熱中の膜厚の変化を示す。)にも等しい。
薄膜面内の方向及び膜面に垂直な方向の熱膨張率に顕著な差がない場合、Δd/d及び膜面に垂直な方向の弾性及び熱歪の変化における関係は、次式(2)式
【0024】
【数5】

【0025】
(式中のΔε、d、Δd、E、Δσ、α及びΔTは上記と同じもの、νxz及びνyzは薄膜10に垂直な方向のポアソン比を示す。)で表される。
そして、薄膜10のポアソン比が等方的である場合(ν=νxz=νyz=νxy)、式(1)’及び(2)を変形すると、薄膜10のポアソン比νは、次の(3)式
【0026】
【数6】

【0027】
(式中のνは薄膜10のポアソン比、d、Δd、E、Δσ、α、α、ΔT及びΔσは上記と同じものを示す。)で表される。
【0028】
ところで、薄膜10のヤング率Eは、一般的に用いられるナノインデンテーション法によって簡単に求められる、弾性率Eに変換することができる。
即ち、1/E=(1−ν)+(1−ν)/Eが成立する。但し、ν及びEは、インデンタプローブのポアソン比及びヤング率である。
一般的に、測定にはダイアモンドのプローブが用いられ、薄膜10に比べて、そのポアソン比ν(=0.07)はかなり小さく、ヤング率E(=1141GPa)は極めて大きい。ゆえに、ヤング率Eは、E=(1−ν)Eで与えられる。
結果的に、薄膜10のポアソン比及び熱膨張率が等方的ならば、薄膜10のポアソン比(ν)をΔσ/ΔT、Δd/dΔT及びEから、次の式(A)から求めることができる。
【0029】
【数7】

【0030】
本発明の薄膜ポアソン比の測定方法は、上述のような原理の上に成立するものであるが、測定可能な薄膜の厚さとしては、X線干渉法を用いた場合、典型的には10〜1000nmであり、好ましくは10〜600nmである。また、レーザー光干渉法を用いた場合、典型的には10nm〜10μmである。
薄膜の厚さが50nm未満では、原子間力顕微鏡法を用いた測定を行う必要があり、膜厚が10μmを超えると、光の共集光法や熱機械分析法などの他の測定法でも対処可能となる。
また、基板の厚さとしては、典型的には、薄膜の膜厚の10〜10万倍である。
【0031】
更に、薄膜の材質としては、上記のレーザ光及びX線計測が可能な限り特に限定されるものではないが、有機材料、無機材料、金属材料、セラミックス又は生物材料、及びこれらの組み合わせなどを挙げることができる。
【0032】
同様に、基板の材質も特に限定されるものではなく、有機材料、無機材料、金属材料、セラミックス又は生物材料、及びこれらの組み合わせなどを挙げることができる。
【0033】
次に、本発明の薄膜ポアソン比の測定装置について説明する。
図4は、本発明の薄膜ポアソン比の測定装置の一実施形態を示す装置図である。
同図において、この薄膜ポアソン比測定装置は、レーザー源32とCCD検出器から成るレーザー光測定手段と、X線源42とX線集光ミラー44と結晶46と検出器48から成るX線反射率測定手段と、基板20と薄膜10を加熱・冷却する熱処理手段(図示せず)を備えている。
【0034】
また、このポアソン比測定装置は、基板20と薄膜10を収容可能で、その内部に不活性ガスを充填・排出できる試料容器(図示せず)と、演算処理手段(図示せず)を備えている。
【0035】
このポアソン比測定装置において、上記レーザー光測定手段は上記二軸熱応力の温度勾配を求めるためのお基板20の曲率測定を行い、上記X線反射率測定手段は上記熱膨張歪を求める。
また、上記演算処理手段は、上記(A)式に従って演算処理を行う。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の薄膜ポアソン比の測定方法の一実施形態を概略的に示す断面説明図である。
【図2】二軸熱応力の温度勾配((Δσ/ΔT)を求める原理を示す断面説明図である。
【図3】薄膜に垂直な方向における膜厚に沿った熱膨張歪(Δd/dΔT)を求める原理を示す断面説明図である。
【図4】本発明の薄膜ポアソン比の測定装置の一実施形態を示す装置図である。
【符号の説明】
【0037】
10 薄膜
20 基板
32 レーザー源
34 CCD検出器
42 X線源
44 X線集光ミラー
46 結晶
48 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に堆積された薄膜のポアソン比を測定するに当たり、
上記薄膜の面内方向における二軸熱応力の温度勾配(Δσ/ΔT)と、上記薄膜に垂直な方向における膜厚に沿った熱膨張歪(Δd/dΔT)と、上記膜厚の弾性率(E)と、上記基板の熱膨張係数(α)を測定又は算出し、
これらを次式(A)
【数1】

(式中のVfは上記薄膜のポアソン比、Δσは加熱時二軸熱応力の変化、Tは加熱温度、ΔTは加熱温度、dは初期薄膜厚み、Δdは加熱時膜厚の変化を示す。)に導入して演算することを特徴とする、薄膜ポアソン比の測定方法。
【請求項2】
上記二軸熱応力の温度勾配(Δσ/ΔT)を上記基板の曲率測定によって求め、上記膜厚に沿った熱膨張歪(Δd/dΔT)をX線反射法によって求め、上記膜厚の弾性率(E)をナノインデンテーションによって求めることを特徴とする請求項1に記載の薄膜ポアソン比の測定方法。
【請求項3】
上記薄膜の膜厚dが10〜1000nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜ポアソン比の測定方法。
【請求項4】
上記基板の厚さが薄膜の膜厚10〜10万倍であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の薄膜ポアソン比の測定方法。
【請求項5】
上記薄膜が、有機材料、無機材料、金属材料、セラミックス及び生物材料から成る群より選ばれた少なくとも1種のものから成ることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の薄膜ポアソン比の測定方法。
【請求項6】
上記基板が、有機材料、無機材料、金属材料、セラミックス及び生物材料から成る群より選ばれた少なくとも1種のものから成ることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の薄膜ポアソン比の測定方法。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれか1つの項に記載の薄膜ポアソン比の測定方法を実行する装置であって、
上記二軸熱応力の温度勾配(Δσ/ΔT)を求めるための上記基板の曲率測定を行うレーザー光測定手段と、
上記熱膨張歪(Δd/dΔT)を求めるX線反射率測定手段と、
上記基板及び薄膜を加熱及び冷却する熱処理手段と、
上記基板及び薄膜を収容するとともに、その内部に不活性ガスを充填及び排出できる試料収容器と、
上記(A)式に従って演算処理を実行する演算処理手段と、を備えることを特徴とする薄膜ポアソン比の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−285725(P2007−285725A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−110167(P2006−110167)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(500403365)株式会社日産アーク (2)
【Fターム(参考)】