説明

薄膜リチウム二次電池及びその製造方法並びに充電方法

【課題】薄膜リチウム二次電池において安定した充放電を行う技術を提供する。
【解決手段】本発明の薄膜リチウム二次電池1は、基板2上に、コバルト酸リチウムからなる正極層4と、金属リチウムからなる負極層7とが固体電解質層5を挟んで形成され、正極層4の厚さに対する負極層7の厚さの比が1/2以上となるようにしたものである。固体電解質層5は、リン酸リチウムオキシナイトライドガラス電解質からなる。本発明によれば、急速充電が可能な定電圧充電を安定して行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質を用いたリチウム二次電池を製造する技術に関し、特に真空中で薄膜によってリチウム二次電池を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電解質の材料として固体材料を用いた全固体型のリチウム二次電池が提案されており、その開発が進展している(例えば、特許文献1参照)。
特に、固体材料を用いた全固体型のリチウム二次電池として、薄膜からなる全固体型のリチウム二次電池は、カード型の電子部品等の電源用として期待されている。
【0003】
しかし、薄膜からなる全固体型のリチウム二次電池は、安定した充放電を行うことが困難であるという問題がある。
特に、定電圧充電(急速充電)の場合には、安定した充放電を行うことが非常に困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−12324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような従来の技術の課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、薄膜リチウム二次電池において安定した充放電を行う技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意努力を重ねた結果、正極層の厚さに対する金属リチウムからなる負極層の厚さの比を特定の値にすることによって安定した充放電を行いうることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0007】
かかる知見に基づく本発明は、基板上に、コバルト酸リチウムからなる正極層と、金属リチウムからなる負極層とが固体電解質層を挟んで形成され、前記正極層の厚さに対する前記負極層の厚さの比が1/2以上である薄膜リチウム二次電池である。
本発明では、前記固体電解質層がリン酸リチウムオキシナイトライドガラス電解質からなる場合にも効果的である。
また、本発明は、真空中において、基板上に、コバルト酸リチウムからなる正極層を形成する工程と、当該正極層上に固体電解質層を形成する工程と、当該固体電解質層上に金属リチウムからなる負極層とを形成する工程とを有し、前記正極層の厚さに対する前記負極層の厚さの比が1/2以上である薄膜リチウム二次電池の製造方法である。
本発明では、前記固体電解質層がリン酸リチウムオキシナイトライドガラス電解質からなる場合にも効果的である。
さらに、本発明は、上述したいずれかの薄膜リチウム二次電池を用い、定電圧充電を行うステップを有する充電方法である。
【0008】
本発明のメカニズムは詳細には判明していないが、コバルト酸リチウムからなる正極層の厚さに対する金属リチウムからなる負極層の厚さの比を1/2以上にして従来技術に比べ厚くすることによって、充電時における正極層及び負極層間のリーク電流が減少し、これにより安定した充放電を行うことが可能になると考えられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、薄膜リチウム二次電池において安定した充放電を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る薄膜リチウム二次電池の実施の形態の層構成を示す分解斜視図
【図2】同薄膜リチウム二次電池の寸法関係を示す断面図
【図3】比較例の定電流充放電の結果を示すグラフ
【図4】比較例の定電圧充放電の結果を示すグラフ
【図5】実施例の定電圧充放電の結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明に係る薄膜リチウム二次電池の実施の形態の層構成を示す分解斜視図、図2は、同薄膜リチウム二次電池の寸法関係を示す断面図である。
【0012】
図1に示すように、本実施の形態の薄膜リチウム二次電池1は、基板2上に、正極集電層3、正極層4、固体電解質層5、負極集電層6、負極層7、封止層8が順次形成されて構成されるものである。
【0013】
基板2は、例えばガラス等からなるもので、ここでは、矩形状に形成されている。
正極集電層3は、例えば白金/チタン(Pt/Ti)合金によって形成されている。
この正極集電層3は、白金からなるターゲットと、チタンからなるターゲットとを用い、RFスパッタリングによって形成することができる。
【0014】
正極層4は、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO2)によって形成されている。
この正極層4は、コバルト酸リチウムからなるターゲットを用い、RFスパッタリングによって形成することができる。
なお、結晶化を促進する観点からは、正極層4を加熱してアニール処理を行うことがより好ましい。
【0015】
固体電解質層5は、例えばリン酸リチウムオキシナイトライドガラス電解質(LIPON)によって形成されている。
この固体電解質層5は、リン酸リチウムオキシナイトライドガラス電解質からなるターゲットを用い、RFスパッタリングによって形成することができる。
【0016】
負極集電層6は、例えばニッケル/クロム(Ni/Cr)合金によって形成されている。
この負極集電層6は、ニッケルからなるターゲットと、クロムからなるターゲットとを用い、RFスパッタリングによって形成することができる。
【0017】
負極層7は、金属リチウム(Li)によって形成されている。
この負極層7は、蒸発源として金属リチウムを用い、真空蒸着によって形成することができる。
【0018】
封止層8は、ポリ尿素層とアルミナ(Al23)層が交互に積層された層からなる。
ここで、ポリ尿素層は、例えば蒸着重合法によって形成することができる。
【0019】
この場合、蒸着重合用の原料モノマーとしては、ジアミンモノマーとして、例えば、1,12−ジアミノドデカン、酸成分モノマーとして、例えば、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンを好適に用いることができる。
一方、アルミナ層は、例えば酸素(O2)ガス雰囲気下において、アルミニウム(Al)からなるターゲットを用い、RFスパッタリングによって形成することができる。
なお、正極集電層3、正極層4、固体電解質層5、負極集電層6、負極層7、封止層8は、いずれもマスク(図示せず)を介して成膜を行う。
【0020】
図2に示すように、本発明の薄膜リチウム二次電池は、正極層4の厚さTに対する負極層7の厚さtの比が1/2以上となるようにしたものである。
この値は、従来技術に比べて負極層7の厚さを厚く形成することにより達成することができる。
具体的には、正極層4の厚さは1〜15μmの範囲で実現でき、負極層7の厚さは0.5〜7.5μmの範囲で実現できる。
【0021】
また、一般的には、固体電解質層5の厚さは、1〜10μmである。
以上述べた本発明の薄膜リチウム二次電池1によれば、特に、急速充電が可能な定電圧充電を安定して行うことができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例を比較例とともに説明する。
図1及び図2に示す薄膜リチウム二次電池を次の方法で作成した。
【0023】
<実施例>
スパッタリング装置内において、白金からなるターゲットと、チタンからなるターゲットとを用い、ガラスからなる基板上に、RFスパッタリングによって白金/チタン合金からなる正極集電層を形成した。
この正極集電層の厚さは0.1μmとした。
【0024】
次いで、同スパッタリング装置内において、コバルト酸リチウムからなるターゲットを用い、RFスパッタリングによって正極層を形成した。
この正極層の厚さは10μmとした。
そして、この基板を加熱装置に搬入し、温度580℃で10分間アニール処理を行った。
【0025】
次に、この基板を上述したスパッタリング装置に搬入し、リン酸リチウムオキシナイトライドガラス電解質からなるターゲットを用い、RFスパッタリングによって固体電解質層を形成した。
この固体電解質層の厚さは2μmとした。
さらに、同スパッタリング装置内において、ニッケルからなるターゲットと、クロムからなるターゲットとを用い、RFスパッタリングによって負極集電層を形成した。
【0026】
そして、この基板を真空蒸着装置に搬入し、蒸発源として金属リチウムを用い、真空蒸着によって負極層を形成した。
この負極層の厚さは5.1μmとした。
【0027】
さらに、この基板を、蒸着重合室とスパッタリング室を有する成膜装置に搬入し、蒸着重合室において、ジアミンモノマーとして、1,12−ジアミノドデカン、酸成分モノマーとして、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンを用いてポリ尿素層を形成した後、スパッタリング室において、酸素ガス雰囲気下で、アルミニウム(Al)からなるターゲットを用い、RFスパッタリングによってアルミナ層を形成する工程を繰り返して封止層8を形成した。
以上の工程により、実施例の薄膜リチウム二次電池を作成した。
この実施例の場合、正極層の厚さに対する負極層の厚さの比は、0.51である。
【0028】
<比較例>
負極層の厚さを1.7μmとした以外は実施例と同一の工程によって比較例の薄膜リチウム二次電池を作成した。
この比較例の場合、正極層の厚さに対する負極層の厚さの比は、0.17である。
【0029】
<定電流充電>
400μA/cm2の充電電流量の条件で、比較例の薄膜リチウム二次電池に対して定電流充電及び放電を60サイクル行い、容量及び充放電効率を測定・算出した。
その結果を図3に示す。
【0030】
<定電圧充電>
4.2Vの一定電圧の条件で、比較例及び実施例の薄膜リチウム二次電池に対して定電圧充電及び放電を60サイクル行い、容量及び充放電効率を測定・算出した。
その結果を図4及び図5に示す。
【0031】
図3に示すように、定電流充電の場合、比較例は安定して充放電を行うことができた。
一方、定電圧放電の場合、図4に示すように、正極層の厚さに対する負極層の厚さの比が0.17である比較例においては、サイクル数が多くなるに従い、充放電効率のばらつきが大きくなった。
【0032】
これに対し、図5に示すように、正極層の厚さに対する負極層の厚さの比が0.51である実施例においては、充放電効率のばらつきがほとんどなく(99%以上)、安定した充放電を行うことができた。
以上の結果より、本発明の効果を実証することができた。
【符号の説明】
【0033】
1…薄膜リチウム二次電池
2…基板
3…正極集電層
4…正極層
5…固体電解質層
6…負極集電層
7…負極層
8…封止層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、コバルト酸リチウムからなる正極層と、金属リチウムからなる負極層とが固体電解質層を挟んで形成され、
前記正極層の厚さに対する前記負極層の厚さの比が1/2以上である薄膜リチウム二次電池。
【請求項2】
前記固体電解質層がリン酸リチウムオキシナイトライドガラス電解質からなる請求項1記載の薄膜リチウム二次電池。
【請求項3】
真空中において、基板上に、コバルト酸リチウムからなる正極層を形成する工程と、当該正極層上に固体電解質層を形成する工程と、当該固体電解質層上に金属リチウムからなる負極層とを形成する工程とを有し、
前記正極層の厚さに対する前記負極層の厚さの比が1/2以上である薄膜リチウム二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記固体電解質層がリン酸リチウムオキシナイトライドガラス電解質からなる請求項3記載の薄膜リチウム二次電池の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の薄膜リチウム二次電池を用い、定電圧充電を行うステップを有する充電方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−105708(P2013−105708A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250656(P2011−250656)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】