説明

薄膜及び光学部材の製造方法

【課題】レンズが着色せず、良好な帯電防止性及び撥水性を有する薄膜及び光学部材の製造方法を提供する。
【解決手段】(a)パーフルオロアルキル基を有する撥水剤、(b)シランカップリング剤、側鎖及び/又は両末端に有機基を導入した変性シリコーンオイル及びパーフルオロエーテル化合物との混合物、及び(c)フラーレン類、カーボンナノチューブ類及び黒鉛化合物から選ばれる少なくとも1種類の導電性物質とを混合してなる撥水剤溶液を用い、真空蒸着法にて薄膜を形成する薄膜の製造方法、並びに、光学基板上に多層反射防止膜を形成する光学部材の製造方法において、該多層反射防止膜上に、前述の本発明の薄膜製造方法により薄膜をさらに形成する光学部材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜及び光学部材の製造方法に関し、特に、レンズが着色せず、良好な帯電防止性及び撥水性を有する薄膜及び光学部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラスチック基材に、無機物質等を蒸着してなる反射防止膜を設けた光学部材が知られている。かかる光学部材は優れた反射防止性、耐擦傷性を有している。しかしながら、このような反射防止膜を有する光学部材は、プラスチック基材であるため、帯電防止効果が十分ではない。その課題を解決する方法として、例えば、プラスチック基材上にハードコート層と導電性及びハードコート性を有する帯電防止性ハードコート層とを順次設けることが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、不定量の酸素を金属に反応させた導電性を有する金属酸化物からなる光学薄膜を反射防止膜中に導入することによって、帯電防止効果を付与することが知られている(例えば、特許文献2参照)。さらに、撥水性材料の中に、カーボンペーストなどの導電性物質を添加した薄膜形成材料を電子銃を用いて蒸発させて薄膜を製造する方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0003】
しかしながら、特許文献1などに開示されている帯電防止性ハードコート層は、帯電防止効果は十分あるものの、可視光の吸収が大きく、レンズが着色しまうという課題を有していた。また、特許文献2などに開示されている光学部材は、帯電防止効果は十分あるものの、表面の耐擦傷性に課題を有していた。また、特許文献3に開示されている薄膜の製造方法は、撥水性材料の中に導電性物質が含有されていることにより電子銃を用いて安定的に撥水膜を施すことが可能となるが、帯電防止効果が充分でない。仮に、帯電防止効果を具備させようとして電子銃のパワーを強くして、薄膜形成材料を蒸発させた場合、帯電防止効果がレンズ面で不均一になる。この場合においても薄膜の帯電防止効果が充分でなかった。
【特許文献1】特開2002−329598号公報
【特許文献2】欧州特許公開第0834092号公報
【特許文献3】特開平11−310869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたもので、その目的は、レンズが着色せず、良好な帯電防止性及び撥水性を有する薄膜及び光学部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、前記の課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、(a)パーフルオロアルキル基を有する撥水剤、(b)シランカップリング剤、側鎖及び/又は両末端に有機基を導入した変性シリコーンオイル及びパーフルオロエーテル化合物との混合物、及び(c)フラーレン類、カーボンナノチューブ類及び黒鉛化合物から選ばれる少なくとも1種の導電性物質とを混合してなる撥水剤溶液を用いて真空蒸着法にて薄膜を形成することにより、前記の目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0006】
すなわち、本発明は、(a)パーフルオロアルキル基を有する撥水剤、(b)シランカップリング剤、側鎖及び/又は両末端に有機基を導入した変性シリコーンオイル及びパーフルオロエーテル化合物との混合物、及び(c)フラーレン類、カーボンナノチューブ類及び黒鉛化合物から選ばれる少なくとも1種類の導電性物質とを混合してなる撥水剤溶液を用い、真空蒸着法にて薄膜を形成する薄膜の製造方法、並びに、光学基板上に多層反射防止膜を形成する光学部材の製造方法において、該多層反射防止膜上に、前述の本発明の薄膜製造方法により薄膜をさらに形成する光学部材の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によると、レンズが着色せず、良好な帯電防止性及び撥水性を有する薄膜及び該薄膜を有する光学部材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の薄膜の製造方法では、(a)パーフルオロアルキル基を有する撥水剤、(b)シランカップリング剤、側鎖及び/又は両末端に有機基を導入した変性シリコーンオイル及びパーフルオロエーテル化合物との混合物、及び(c)フラーレン類、カーボンナノチューブ類及び黒鉛化合物から選ばれる少なくとも1種の導電性物質とを混合してなる撥水剤溶液を用い、真空蒸着法にて薄膜を形成する。
また、本発明の光学部材の製造方法では、光学基板上に形成された多層反射防止膜上に、前述の本発明の薄膜の製造方法により薄膜をさらに形成する。
【0009】
本発明で用いる前記(a)パーフルオロアルキル基を有する撥水剤は、撥水性、撥油性を有するものであれば特に限定されず、特開昭61−130902号公報、特開昭58−172246号公報、特開昭58−122979号公報、特開昭58−172242、特開昭60−40254号公報、特開昭50−6615号公報、特開昭60−221470号公報、特開昭62−148902号公報、特開平9−157582号公報、特開平9−202648号公報、特開平9−263728号公報に開示されるものが挙げられる。パーフルオロアルキル基の炭素数は、1〜100が好ましく、5〜20がより好ましい。
このパーフルオロアルキル基を有する撥水剤の具体例としては、下記一般式(I)〜(IV)で表される化合物等が挙げられる。
【0010】
【化1】

【0011】
[式中、Rfは炭素数1〜16の直鎖状のパーフルオロアルキル基(アルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等)、Xは水素原子又は炭素数1〜5の低級アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等)、R1は加水分解可能な基(例えば、アミノ基、アルコキシ基等)又はハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等)、mは1〜50(好ましくは1〜30)の整数、nは0〜2(好ましくは1〜2)の整数、pは1〜10(好ましくは1〜8)の整数である。]
【0012】
q2q+1CH2CH2Si(NH2)3 (II)
(ただし、qは1以上、好ましくは2〜20の整数である)。
一般式(II)で表される化合物としては、n−トリフロロ(1,1,2,2−テトラヒドロ)プロピルシラザン(n−CF3CH2CH2Si(NH23)、n−ヘプタフロロ(1,1,2,2−テトラヒドロ)ペンチルシラザン(n−C37CH2CH2Si(NH23)、n−ノナフロロ(1,1,2,2−テトラヒドロ)ヘキシルシラザン(n−C49CH2CH2Si(NH23)、n−トリデカフロロ(1,1,2,2−テトラヒドロ)オクチルシラザン(n−C613CH2CH2Si(NH23)、n−ヘプタデカフロロ(1,1,2,2−テトラヒドロ)デシルシラザン(n−C817CH2CH2Si(NH23)等を例示することができる。
【0013】
q'2q'+1CH2CH2Si(OCH3)3 (III)
(ただし、q'は1以上、好ましくは1〜20の整数である)
一般式(III)で表される化合物としては、2−(パーフルオロオクチル)エチルトリメトキシシラン(n−C817CH2CH2Si(OCH3)3)等を例示することができる。
【0014】
【化2】

【0015】
[式中、Rf'は、−(Ck2k)O−(kは1〜6の整数である)で表わされる2価の直鎖状オキシパーフルオロアルキレン基であり、Rは、それぞれ独立に炭素原子数1〜8の一価炭化水素基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基等)であり、X’は独立に加水分解可能な基(例えば、アミノ基、アルコキシ基等)又はハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等)であり、n’は独立に0〜2(好ましくは1〜2)の整数であり、m’は独立に1〜5(好ましくは1〜2)の整数であり、a及びbは独立に2又は3である。]
【0016】
また、市販されているパーフルオロアルキル基を有する撥水剤として、KP801M(商品名、信越化学工業(株)製)、KY130(商品名、信越化学工業(株)製)、X−71−130(商品名、信越化学工業(株)製)、オプツ−ルDSX(商品名、ダイキン工業(株)製)などの撥水剤が好ましく挙げられる。
本発明で用いる撥水剤溶液に含まれる(a)成分の量は、(a)〜(c)成分の合計の30〜90重量%が好ましく、35〜80重量%がより好ましい。
【0017】
本発明で用いる(b)成分は、シランカップリング剤、側鎖及び/又は両末端に有機基を導入した変性シリコーンオイルおよびパーフルオロエーテル化合物の混合物であり、成膜された撥水膜の膜厚を確保する為に用いられる。(b)成分の使用により、従来の撥水層とは異なり、透明性を減少させずに厚い膜厚を確保することが可能となる。膜厚を増大させることは、導電性物質((c)成分)の薄膜中の含有量を増加することとなるので、帯電防止効果と耐久性の向上を確保できる。
【0018】
(b)成分であるシランカップリング剤としては、下記一般式(V)で表される化合物が好ましく用いられる。
1nSi(OR24-n (V)
(式中、R1は官能基を有する若しくは有しない炭素数1〜20の一価の炭化水素基、R2は炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基または炭素数2〜10のアシル基、nは0、1または2を示し、R1が複数ある場合、複数のR1はたがいに同一でも異なっていてもよいし、複数のR2Oはたがいに同一でも異なっていてもよい。)
その中でアミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノプロピルトリアルコキシシランが好ましく用いられる。
【0019】
(b)成分である側鎖及び/又は両末端に有機基を導入した変性シリコーンオイルとしては、次の一般式(VI)、(VII)で示される変性シリコーンオイルが好ましく用いられる。
式(VI):ポリシロキサンの側鎖の一部に有機基を導入した側鎖変性シリコーンオイル
【化3】

(式中、mおよびnはそれぞれ独立して1以上の整数を表し、“有機基”は
【化4】

から選ばれる変性基を表し、nが2以上の整数の場合、2以上の“有機基”は同一でも異なっていてもよく、Rは、炭素数1〜10の炭化水素基を表し、R’は、炭素数1〜10の炭化水素基を表す)。
【0020】
式(VII):ポリシロキサンの両末端に有機基を導入した両末端変性シリコーンオイル
【化5】

(式中、nは1以上の整数を表し、2つの“有機基”は同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立して
【化6】

から選ばれる変性基を表し、Rは、炭素数1〜10の炭化水素基を表し、aは1〜6の整数、bは1〜6の整数を表す)。
上記変性シリコーンオイルのうち、エポキシ変性シリコーンオイルが好ましく用いられる。
【0021】
パーフルオロエーテル化合物としては下記一般式(VIII)で示される化合物が好ましく用いられる。
n2n+1OCn'2n'+1 (VIII)
(式中、nおよびn’は独立して1以上の整数を表す)。
好ましいパーフルオロエーテル化合物としては、パーフルオロブチルエーテル、メチルパーフルオロブチルエーテル、ブチルパーフルオロメチルエーテル、プロピルパーフルオロエチルエーテルなどが挙げられる。
【0022】
本発明で用いる撥水剤溶液に含まれる(b)成分の量は、(a)〜(c)成分の合計の9.5〜69.5重量%が好ましく、18.5〜50重量%がより好ましい。(b)成分と(a)成分の重量比(b)/(a)は0.7〜1.1が好ましい。
シランカップリング剤と変性シリコーンオイルとの割合は重量比で1:3〜3:1の範囲が好ましい。また、パーフルオロエーテル化合物の使用割合は、シランカップリング剤と変性シリコーンオイルとの合計量1重量部に対して、0.1〜0.8重量部が好ましい。
【0023】
本発明で用いる(c)成分は、フラーレン類、カーボンナノチューブ類および黒鉛化合物から選ばれる少なくとも1種の導電性物質である。フラーレン類は、Cz(zは60〜120の整数であり、好ましくは60〜95の整数である)の球状構造あるいはサッカーボール構造の化合物およびその誘導体から選ばれる少なくとも1種類であり、特にC60フラーレン、C72フラーレン及びその誘導体が好ましい。このフラーレン類の具体例としては、C6060、C602、C60HBr、C60(CH3)2、C60H(OH)、C60H(NH2)、C60(CN)2、および下記式(IX)、(X)、(XI)の化合物が挙げられる。
【0024】
【化7】

X=CH2:3’H−シクロプロパ[1,9](C60−Ih)[5,6]フラーレン;
X=CHBr:3’−ブロモ−3’H−シクロプロパ[1,9](C60−Ih)[5,6]フラーレン;
X=O:オキシレノ[1,9](C60−Ih)[5,6]フラーレン;
X=NH:1’H−アジレノ[1,9](C60−Ih)[5,6]フラーレン、
【0025】
【化8】

シクロブタ[b]ナフタレノ[1’2’:1,9](C60−Ih)[5,6]フラーレン
【0026】
【化9】

X=CH2:1(2)a−ホモ(C60−Ih)[5,6]フラーレン;
X=O:1a−オキサ−1(2)a−ホモ(C60−Ih)[5,6]フラーレン;
X=NH:1aH−1a−アザ−1(2)a−ホモ(C60−Ih)[5,6]フラーレン
以上の例におけるC60はC70であっても良い。なお、以上の具体例は、IUPAC 2002縮合命名法 によって命名している。
【0027】
本発明で用いる(c)成分のカーボンナノチューブ(Carbon nanotube、以下、CNTと略すことがある)は、炭素によって作られる六員環ネットワーク(グラフェンシート)が単層あるいは多層の同軸管状になったものであり、単層のものをシングルウォールナノチューブ(SWNT)、複層のものをマルチウォールナノチューブ(MWNT)という。特に二層のものはダブルウォールナノチューブ(DWNT)とも呼ばれる。本発明においては、これらの中でもSWTN,DWNTが好ましい。
【0028】
本発明で用いる(c)成分の黒鉛化合物は、グラファイト構造を有する化合物であり、カーボングラファイト(黒鉛)、弗化黒鉛及び膨張黒鉛等が挙げられる。カーボングラファイト(黒鉛)は公知のものであり、炭素の同素体の一つでベンゼン環が二次元の平面上に広がっており、この平面構造がいくつもの段になっている。平面と平面はファンデルワールス結合で結合しており、平面と平面はわずかにずれて重なっている。また、弗化黒鉛とは、前記カーボングラファイトの弗化物であり、膨張黒鉛とは、天然鱗片状黒鉛を化学処理することにより、製造されたもので難燃性である。
【0029】
また、本発明においては、市販のフラーレン類、カーボンナノチューブ類及び黒鉛化合物を自動乳鉢を使用して二次加工し、粒径を整えるのが好ましい。それぞれの調整後の粒径は、80μm以下であると好ましく、50μm以下であるとより好ましく、20〜50μmであると特に好ましい。20μm以上であれば2次凝集体の発生が無く、80μm以下であれば界面活性剤(分散剤)との親和性が良好で、チップ注入時にカーボン類が残留することが無い。また、前記粒径とするため、自動乳鉢の撹拌速度は100rpm以下が好ましく、100〜50rpmの範囲である。撹拌時間は通常60分以下で、20〜60分の間であると好ましい。
【0030】
本発明で用いる撥水剤溶液に含まれる(c)成分の量は、0.5〜30重量%が好ましく、1.5〜15重量%がより好ましい。
【0031】
本発明で用いる撥水剤溶液には、前記(a)〜(c)成分に加え、溶媒、ケイ素非含有パーフルオロポリエーテルなどを含有することも可能である。前記溶媒としては、m−キシレンヘキサフロライドなどのフッ素系溶媒等が挙げられる。
【0032】
前記ケイ素非含有パ−フルオロポリエ−テル(以下「PFPE」ということがある)としては、種々の構造のものを用いることができる。その例として、下記の一般式(XII)
−(R’O)− (XII)
(式中、R’は炭素数1〜3のパーフルオロアルキレン基である。)
で表される単位を含むポリエーテルが挙げられる。重量平均分子量は好ましくは1000〜10000、より好ましくは2000〜10000である。R’は具体的には、CF2,CF2CF2,CF2CF2CF2,CF(CF3)CF2等の基が挙げられる。これらのPFPEは常温で液状であり、いわゆるフッ素オイルと称されるものである。
PFPEの市販品としては、例えば、ダイキン工業(株)製の商品名デムナムシリーズ(S−20(平均分子量2700)、S−65(平均分子量4500)、S−100(平均分子量5600)、S−200(平均分子量8400))、NOKクリューバー社製の商品名バリエルタシリーズ、旭硝子(株)製の商品名フォンブリンシリーズ、デュポン社製の商品名KRYTOXシリーズ、ダウコ−ニング社製の商品名モリコ−トHF−30オイルなどが挙げられる。
【0033】
前述した撥水剤溶液に含まれる各成分は、撹拌を行いながら混合することが望ましく、攪拌の回転速度としては200〜1000rpmが好ましい。撹拌時間は2分〜24時間であると好ましい。また、撥水剤溶液の調製手順としては、下記第1表に示される手順を用いることが望ましい。なお、各原料使用量は、適宜増減を行っても良い。
【0034】
本発明の薄膜は、真空蒸着法で形成される。また、膜強度及び薄膜と基板との密着性を良好にするために、イオン銃、プラズマ銃等で成膜前処理を実施することが好ましい。
成膜時の加熱源としては、電子銃、ハロゲンヒータ、抵抗加熱、セラミックヒータ等の何れかを用いることが可能であるが、電子銃が好ましい。
本発明における撥水剤溶液は、はそのまま容器に入れて加熱しても良いが、均一な蒸着膜が多く得られるとの観点から、多孔性材料に含浸させることがより好ましい。多孔性材料としては、銅やステンレスなどの熱伝導性の高い金属粉末を焼結した焼結フィルターを用いることが好ましい。すなわち、前記撥水剤溶液を、多孔性材料からなる焼結フィルターに含浸させ、真空中で該焼結フィルターを加熱して薄膜を形成することが好ましい。また、多孔性材料のメッシュは、適度な蒸着速度が得られるという観点から、40〜200μmが好ましく、80〜120μmがより好ましい。
【0035】
本発明において、撥水剤溶液は、減圧下、原料を加熱して蒸着する加熱蒸着によって基板やその上に形成された反射防止膜上に蒸着することが好ましい。その場合の真空蒸着装置内の真空度としては、特に限定はないが、均質な撥水膜を得るとの観点から、1.33×10-1〜1.33×10-6Pa(10-3〜10-8Torr)が好ましく、6.66×10-1〜8.00×10-4Pa(5.0×10-3〜6.0×10-6Torr)であるとより好ましい。
【0036】
撥水剤溶液を加熱する際の温度は、前記(a)〜(c)成分の種類、蒸着する真空条件により異なるが、所望の真空度における前記(a)〜(c)成分の蒸着開始温度以上から前記(a)〜(c)成分の分解温度を超えない範囲で行うことが好ましい。ここで蒸着開始温度とは前記(a)〜(c)成分を含む溶液の蒸気圧が真空度と等しくなったときの温度をいい、また分解温度とは1分間に(a)〜(c)成分の50%が分解する温度(窒素雰囲気下、(a)〜(c)成分と反応性のある物質が存在しない条件で)をいう。
【0037】
また、撥水剤溶液の蒸着速度は、4〜7nm/minであると好ましく、前記蒸着速度を達成する方法としては、前記撥水剤溶液に電子ビ−ムを照射する方法が好ましく挙げられる。電子ビ−ムを発生する方法は、従来、蒸着装置で用いられている電子銃を用いることができる。電子銃を用いれば、前記撥水剤溶液全体に、均一にエネルギ−を照射することができ均一な撥水膜を形成しやすくなる。電子銃のパワーは、使用物質、蒸着装置、真空度、照射面積によって異なるが、加速電圧が6kV前後で、印加電流5〜80mA程度が好ましい。
【0038】
本発明の光学部材の光学基板としては、特に限定されないが、例えば、メチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレートと1種以上の他のモノマーとの共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート単独重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと1種以上の他のモノマーとの共重合体、イオウ含有共重合体、ハロゲン含有共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタンなどのプラスチック製光学基板、あるいは無機ガラス製光学基板などが挙げられる。また、上記基板は基板上にハードコード層を有するものであってもよい。ハードコード層としては、例えば、有機ケイ素化合物、アクリル化合物等を含んだ硬化膜などが挙げられる。
【0039】
また、前記光学基板上に形成される反射防止膜(蒸着膜)としては、例えば、レンズ等の光学基板表面の反射を減少させるために使用されるZrO2、SiO2、TiO2、Ta25、Y23、MgF2、Al23などから形成される単層又は多層膜、及びCrO2などから形成される着色膜が挙げられる。なお、反射防止膜の最外層に二酸化ケイ素を主成分とする層を用いることが好ましい。ここで二酸化ケイ素を主成分とするとは、実質的に二酸化ケイ素からなる層、あるいは二酸化ケイ素、酸化アルミニウム及び有機化合物からなるハイブリッド層をいう。
【0040】
前記反射防止膜の層構成の具体例としては、基材側から空気側へ順に、以下の7層からなる膜が好ましく挙げられる。
第1層:常温常圧下で液体である有機ケイ素化合物及び/又は常温常圧下で液体であるケイ素非含有有機化合物と、二酸化ケイ素を含有する無機物質とを蒸着原料として形成されるハイブリッド層
第2層:酸化タンタルを少なくとも50重量%含有している層
第3層:常温常圧下で液体である有機ケイ素化合物及び/又は常温常圧下で液体であるケイ素非含有有機化合物と、二酸化ケイ素を含有する無機物質とを蒸着原料として形成されるハイブリッド層
第4層:酸化タンタルを少なくとも50重量%含有している層
第5層:常温常圧下で液体である有機ケイ素化合物及び/又は常温常圧下で液体であるケイ素非含有有機化合物と、二酸化ケイ素を含有する無機物質とを蒸着原料として形成されるハイブリッド層
第6層:酸化タンタルを少なくとも50重量%含有している層
第7層:常温常圧下で液体である有機ケイ素化合物及び/又は常温常圧下で液体であるケイ素非含有有機化合物と、二酸化ケイ素を含有する無機物質とを蒸着原料として形成されるハイブリッド層
【0041】
前記反射防止膜における前記有機ケイ素化合物としては、例えば、下記一般式(a)〜(d)で表される化合物が挙げられる。
【0042】
一般式(a):シラン又はシロキサン化合物
【化10】

【0043】
一般式(b):シラザン化合物
【化11】

【0044】
一般式(c):シクロシロキサン化合物
【化12】

【0045】
一般式(d):シクロシラザン化合物
【化13】

【0046】
一般式(a)〜(d)において、式中のm、nは、それぞれ独立に0以上の整数を表す。また、X1〜X8はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6の炭化水素基(飽和・不飽和双方を含む)、−OR1基、−CH2OR2基、−COOR3基、−OCOR4基、−SR5基、−CH2SR6基、−NR72基、または、−CH2NR82基(R1〜R8は水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基(飽和・不飽和双方を含む)を表す。前記X1〜X8及びR1〜R8の示す炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等が挙げられる。
【0047】
また、前記反射防止膜における前記ケイ素非含有有機化合物としては、例えば、下記一般式(e)〜(g)で表される化合物が挙げられる。
【0048】
一般式(e):片末端にエポキシ基を有する、炭素及び水素を必須成分とするケイ素非含有有機化合物
【化14】

【0049】
一般式(f):両末端にエポキシ基を有する、炭素及び水素を必須成分とするケイ素非含有有機化合物
【化15】

【0050】
一般式(g):不飽和結合を含む、炭素及び水素を必須成分とするケイ素非含有有機化合物
CX910=CX1112 (g)
【0051】
一般式(e)及び(f)において、R9は水素原子、又は酸素を含んでいてもよい炭素数1〜10の炭化水素基、R10は、酸素を含んでいてもよい炭素数1〜7の二価の炭化水素基を表す。一般式(g)において、X9〜X12は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、又は炭素数1〜10の炭素原子、水素原子を必須成分とし、さらに酸素及び窒素の少なくとも一方を必須成分とする有機基を表す。
前記R9及びX9〜X12の示す炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、等が挙げられる。
前記R10の示す二価の炭化水素基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、等が挙げられる。
前記X9〜X12の示す有機基としては、例えば、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、ポリエーテル基、等が挙げられる。
本発明の製造方法によって得られる光学部材はプラスチックレンズであると好ましい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において得られた光学部材の物性評価は以下のようにして行った。
【0053】
(1)視感透過率
プラスチックレンズの視感透過率Yは、両面に反射防止膜を有するプラスチックレンズをサンプルとして、日立分光光度計U−4100、U−3410を用い測定した。
【0054】
(2)視感反射率
プラスチックレンズの視感反射率Zは、両面に反射防止膜を有するプラスチックレンズをサンプルとして、日立分光光度計U−4100、U−3410を用い測定した。
【0055】
(3)耐衝撃性
レンズ中心部厚さが1.0mm又は2.0mm(CTと記載する)で、レンズ度数パワ−が0.00D(ディオプタ−)のレンズを作製してFDA(Food and Drug Administration)で定められているドロップボールテストを行い、以下の基準で評価した。
○:合格 ×:不合格
なお、ボ−ルの重さは16gであった。合格の基準は、ドロップボールテスト後、レンズの皹または割れが生じたものを不合格、ドロップボールテスト前とレンズの外観が変わらないものを合格とした。
【0056】
(4)密着性
プラスチックレンズの表面に剃刀にて1mm×1mmの升目を100個作成し、升目上にセロハンテープ(ニチバン社製造販売)を貼り、一気にテープをはがし、升目の残存率(残った升目の数/100)で評価した。
【0057】
(5)耐摩耗性
プラスチックレンズの表面にスチールウール(規格#0000,日本スチ−ルウ−ル社製)にて1kgf/cm2(0.1Mpa)の荷重をかけ、10ストローク擦り、表面状態により以下の基準で評価した。
UA:殆ど傷なし
A:細い傷数本あり
B:細い傷多数、太い傷数本あり
C:細い傷多数、太い傷多数あり
D:殆ど膜はげ状態
【0058】
(6)耐熱性
プラスチックレンズをドライオーブンで60℃から、5℃ずつ上昇させて1時間加熱し、クラックの発生温度を測定した。
【0059】
(7)耐アルカリ性
プラスチックレンズをNaOH10重量%水溶液に20℃、1時間浸漬し、表面状態により以下の基準で評価した。
UA:殆ど変化なし
A:点状の膜はげ数個あり
B:点状の膜はげが全面にあり
C:点状の膜はげが全面、面状の膜はげ数個あり
D:殆ど全面膜はげ
【0060】
(8)Bayer値
摩耗試験機 BTE Abrasion Tester(商品名、米COLTS社製)及び、ヘイズ値測定装置(村上色彩技術研究所社製)を使用し、基準レンズとのヘイズ値変化の差によりBayer値を測定した。
(サンプル数、測定方法)
(a) 基準レンズ(CR39基材)3枚、サンプルレンズ3枚を用意。
(b) 摩耗テスト前ヘイズ(haze)値の測定。
(c) BTE Abrasion Testerにて、摩耗性テスト。(砂による表面摩耗600往復)
(d) 摩耗テスト後ヘイズ値の測定。
(e) Bayer値算出 (3枚分の平均値とする)
(Bayer値=基準レンズの透過率変化/サンプルレンズの透過率変化)
【0061】
(9)帯電電圧
ティッシュペーパーを用いて、プラスチックレンズの凸面を100回手で擦り、その時の帯電電圧を静電メータFMX−002(シムコジャパン社製(商品名))を用いて測定した。帯電電圧は経時変化するため、100回擦った後、5、10、20、40、80、160、320秒後の帯電電圧を測定し、結果をV1=V0exp(−at)でフィッティングした。ここでV1、V0、1/a、tはそれぞれ、帯電電圧(V)、推定初期帯電電圧(V)、1/a減期(秒)、経過時間(秒)である。
この結果より、以下の基準で帯電防止効果のありなしを判断した。
0≦300V、かつ1/a≦50秒:帯電防止効果あり
0>300V、又は1/a>50秒:帯電防止効果なし
【0062】
(10)処理液(撥水剤溶液)導電性の測定
ガラス上に滴下した処理液(撥水剤溶液)の抵抗値をテスターで測定し、処理液の導電性を測定した。処理液0.2ccをスライドガラス上に滴下し、直径10mmの円形に広げ、乾燥前にテスター測定子間隔約5mmで抵抗値を測定した。
以下の基準で処理液の帯電防止効果を判断した。
測定値 10MΩ以下:帯電防止効果が十分得られる。
測定値 10MΩ超:帯電防止効果が不十分となる。
【0063】
(11)撥水性
協和界面科学接触角計で水の接触角を測定した。
【0064】
以下のようにして撥水剤溶液を調製した。撥水剤溶液の調製に使用した使用原料の性状を以下に示す。
(a)成分:パーフルオロアルキル基を有する撥水剤
KY130:信越化学工業(株)製 撥水剤
(b)成分:シランカップリング剤、変性シリコーンオイル、パーフルオロエーテル化合物
KBE903:信越化学工業(株)製 シランカップリング剤(アミノ基含有)
KF101:信越化学工業(株)製 変性シリコーンオイル(側鎖エポキシ変性)
KF105:信越化学工業(株)製 変性シリコーンオイル(両末端エポキシ変性)
HFE7100:住友スリーエム(株)パーフルオロエーテル化合物
HFE7200:住友スリーエム(株)パーフルオロエーテル化合物
【0065】
前記シランカップリング剤、変性シリコーンオイル、パーフルオロエーテル化合物の構造式を以下に示す。
KBE903:(C25O)3SiC36NH2
KF101:
【化16】

KF105:
【化17】

HFE7100:C49OCH3
HFE7200:C37OC25
【0066】
(c)成分:導電性物質
CNT:本荘ケミカル製 カーボンナノチューブ(初期粒径;2〜20nm)
C60及びC70:関東科学 カーボンクラスター(初期粒径;5nm)
CBG:東海カーボン製 導電性カーボンブラック #3855(初期粒径;24nm)
これらの導電性物質を自動乳鉢を用いて粒径20〜50μmにした。
【0067】
製造例1(処理液の調製)
1.撹拌子を挿入したガラス容器に、粉砕したCNT(CBG又はC60/C70)を1.0g投入した。ここで、“CNT(CBG又はC60/C70)”との表記は、CNTの代わりに、CBG、又は、C60及び/又はC70を用いても良く、同様の効果が得られることを示している。
2.次に4gのKBE903を前記ガラス容器に注入し、120秒撹拌した。撹拌子回転数は500rpmとした。
3.次に、4gのKF105を前記容器に注入し24時間撹拌した。
前記1から3の混合物をフィラーAと呼称する。
4.120分攪拌後、別容器に準備した7.0gの撥水剤KY130中にフィラーAを3.5g 注入し120秒撹拌した。
5.次いで、パーフルオロエーテル化合物としてHFE7200を3g前記ガラス容器に注入し、24時間攪拌し、処理液(撥水剤溶液)を作成した。固形分中のカーボン率(CNT(CBG又はC60/C70)の含量)は7.91重量%であった。
以上の手順を第1表に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
実施例1〜5及び比較例1〜4
第2表−1/5〜5/5及び第3表−1/4〜4/4に記載したように、プラスチックレンズ基材A〜D上に硬化膜A〜Bを形成し(工程1)、前処理イオン照射を行った後(工程2)、第1〜7層からなる反射防止膜を設け(工程3)、前処理イオン照射を行った後(工程4)、薄膜(撥水+帯電防止層)を形成し(工程5)、撥水及び帯電防止層を有するプラスチックレンズを得た。
【0070】
実施例及び比較例において使用した材料の種類、製造方法及び各種処理方法は、次の通りである。
プラスチックレンズ基板
基材A:ジエチレングリコ−ルビスアリルカ−ボネ−ト、屈折率1.50、中心厚2.0mm、レンズ度数0.00
基材B:EYRY基材(商品名、HOYA(株)製、エピチオ基を有する化合物を用いた重合体)屈折率1.70、中心厚1.0mm、レンズ度数0.00
基材C:EYNOA基材(商品名、HOYA(株)製造、ポリチオウレタン樹脂)屈折率1.67、中心厚1.0mm、レンズ度数0.00
【0071】
実施例2においては、基材と硬化被膜との間にプライマ−層を施した。そのプライマ−層の形成方法は次の通りである。
ポリエステルタイプのポリオール(住友バイエルウレタン社、デスモフェンA−670(商品名)使用)6.65重量部、ブロック型ポリイソシアネート(住友バイエルウレタン社の商品名、BL−3175(商品名)使用)6.08重量部、硬化触媒としてジブチル錫ジラウレート0.17重量部、レベリング剤としてフッ素系レベリング剤(住友スリーエム社、フロラードFC−430(商品名)使用)0.17重量部、及び溶媒としてジアセトンアルコール95.71重量部からなる混合物を均一な状態になるまで充分攪拌した。かくして得られた液状プライマーを、アルカリ前処理したプラスチックレンズ基板上に浸漬法(引き上げ速度:24cm/分)にて塗布し、100℃で40分加熱硬化し、厚さ2〜3μmのプライマー層を形成した。
【0072】
工程1:硬化膜の形成
(1−1)コ−ティング組成物Aの作製
5℃雰囲気下、変性酸化第二スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン−酸化珪素複合体メタノールゾル45重量部とγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン15重量部及びテトラエトキシシラン3重量部とを混合し、1時間攪拌した。その後、0.001モル/L濃度の塩酸4.5重量部を添加し、50時間攪拌した。その後、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテル25重量部、ダイアセトンアルコール9重量部及びアルミニウムトリスアセチルアセトネート1.8重量部、過塩素酸アルミニウム0.05重量部を順次添加し、150時間攪拌した。得られた溶液を0.5μmフィルターでろ過してコ−ティング組成物Aを得た。
【0073】
(1−2)硬化膜Aの作製
前記基材Aを60℃、10重量%水酸化ナトリウム水溶液中に300秒間浸漬し、その後、超音波28kHz印加の下、イオン交換水を用いて300秒間洗浄した。最後に、70℃雰囲気下、乾燥させる一連の工程を基材前処理とした。
前処理を施した基材Aを、ディッピング法にてコーティング組成物Aに30秒間浸漬し、30cm/分にて引き上げた後、コーティング組成物Aを120℃、60分間の条件にて硬化させ硬化膜Aを作製した。
【0074】
(1’−1)コ−ティング組成物Bの作製
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン100重量部を攪拌しながら0.01モル/L濃度塩酸1.4重量部、水23重量部を添加し、24時間攪拌してγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物を得た。次に、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化珪素を主体とする複合体微粒子ゾル200重量部とエチルセロソルブ100重量部、シリコーン系界面活性剤0.5重量部及びアルミニウムアセチルアセトネート3.0重量部とを混合し、前記γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物に加え、十分攪拌した後に、ろ過してコ−ティング組成物Bを得た。
【0075】
(1’−2)硬化膜Bの作製
アルカリ水溶液で前処理した基材B又は基材Cを、ディッピング法にてコーティング組成物Bに30秒間浸漬し、20cm/分にて引き上げた後、コーティング組成物Bを120℃、120分間の条件にて硬化させ硬化膜Bを作製した。
【0076】
工程2:硬化膜のイオン銃処理(前処理)
硬化膜上に、表に記載したイオン加速電圧、照射時間、ガス雰囲気下の条件で、前処理としてイオン銃にてイオン照射を行った。
【0077】
工程3:反射防止膜の作製
前処理イオン照射を行った後、第1〜7層からなる反射防止膜を形成した。
なお、ハイブリッド層は、無機物質の蒸着と有機物質との蒸着との二元蒸着として、ほぼ同時に蒸着するように条件を設定した。有機物質の蒸着の際は、外部加熱タンクにて気化し、気化した有機物を、ガスバルブ、マスフローコントローラを使用して、蒸着装置内に導入した。ハイブリッド層を形成する際には、アルゴンガス、酸素ガスとの混合ガスの雰囲気下にてイオンアシスト法を用いた。
【0078】
表中のCM1は有機ケイ素化合物、CM2はケイ素非含有有機化合物であることを表す。表中に記載されている有機化合物は以下の通りである。
エポライト70P(プロピレングリコ−ルジグリシジルエ−テル、分子量約188、共栄社化学社製)
デナコールEX920(ポリプロピレングリコ−ルジグリシジルエ−テル、分子量約300、ナガセケムテックス社製)
エピオ−ルP200(ポリプロピレングリコ−ルグリシジルエ−テル、平均分子量約304、日本油脂(株)製)
【0079】
工程4:反射防止膜のイオン銃処理(前処理)
反射防止膜上に、表に記載したイオン加速電圧、照射時間、ガス雰囲気下の条件で、前処理としてイオン銃にてイオン照射を行った。
【0080】
工程5:薄膜(撥水+帯電防止層)の形成
まず、製造例1で作製した処理液を使用し成膜用のチップを作製した。チップの作成はSUS製バイオカラムに分注器を使用して上記処理液を注入量0.3ccで注入し、80℃、約2時間で室温乾燥(又はドライオーブン)にて乾燥させ成膜用チップを得た。
得られたチップを用いEB(電子銃)を使用し、真空蒸着により反射防止膜上に薄膜を成膜した。成膜条件は以下のようである。
使用蒸着装置:BMC−1050−HP((株)シンクロン製)
成膜条件:開始真空度 2×10-3Pa
成膜時EB出力:20mA
なお、比較例で使用した、DOTITE D−550(藤倉化成社製(商品名))は銀系導電性ペーストであり、DOTITE XC−12(藤倉化成社製(商品名))はカーボン系導電性ペーストであり、KP801Pは信越化学工業(株)製の撥水剤である。
【0081】
以上のようにして得られた薄膜を有するプラスチックレンズについて、前記(1)〜(11)の試験を行った。その結果を第4表−1/2〜2/2に示す。
第4表に示したように、実施例1〜5のプラスチックレンズの処理液の導電性は10MΩ以下、初期帯電電圧300V以下と優れた帯電防止性能を有しており、撥水性能は水の接触角において107℃以上を有していた。
【0082】
【表2】

【0083】
【表3】

【0084】
【表4】

【0085】
【表5】

【0086】
【表6】

【0087】
【表7】

【0088】
【表8】

【0089】
【表9】

【0090】
【表10】

【0091】
【表11】

【0092】
【表12】

【産業上の利用可能性】
【0093】
以上詳細に説明したように、本発明の製造方法によると、レンズが着色せず、良好な帯電防止性及び撥水性を有する薄膜及び光学部材が得られる。このためプラスチックレンズ等として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)パーフルオロアルキル基を有する撥水剤、(b)シランカップリング剤、側鎖及び/又は両末端に有機基を導入した変性シリコーンオイル及びパーフルオロエーテル化合物との混合物、及び(c)フラーレン類、カーボンナノチューブ類及び黒鉛化合物から選ばれる少なくとも1種類の導電性物質とを混合してなる撥水剤溶液を用い、真空蒸着法にて薄膜を形成する薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記パーフルオロエーテル化合物が下記一般式(VIII)で表される請求項1記載の薄膜の製造方法。
n2n+1OCn'2n'+1 (VIII)
(式中、nおよびn’は独立して1以上の整数を表す)。
【請求項3】
前記シランカップリング剤が下記一般式(V)で表される請求項1又は2記載の薄膜の製造方法。
1nSi(OR24-n (V)
(式中、R1は官能基を有する若しくは有しない炭素数1〜20の一価の炭化水素基、R2は炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基または炭素数2〜10のアシル基、nは0、1または2を示し、R1が複数ある場合、複数のR1はたがいに同一でも異なっていてもよいし、複数のR2Oはたがいに同一でも異なっていてもよい)。
【請求項4】
前記シランカップリング剤は、アミノプロピルトリアルコキシシランである請求項3記載の薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記アミノプロピルトリアルコキシシランは、アミノプロピルトリメトキシシランまたはアミノプロピルトリエトキシシランである請求項4記載の薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記側鎖及び/又は両末端に有機基を導入した変性シリコーンオイルが下記一般式(VI)又は(VII)で表される請求項1〜6のいずれかに記載の薄膜の製造方法。
【化1】

【化2】

【請求項7】
前記フラーレン類が、Cz(zは40〜120の整数)の球状構造を有する化合物から選ばれる少なくとも1種類である請求項1〜7のいずれかに記載の薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記フラーレン類が、C60及びC72の球状構造を有する化合物から選ばれる少なくとも1種類である請求項7記載の薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブ類が、多層カーボンナノチューブ(MWNT)及び単層カーボンナノチューブ(SWNT)から選ばれる少なくとも1種類である請求項1〜8のいずれかに記載の薄膜の製造方法。
【請求項10】
前記黒鉛化合物が、カーボングラファイト、弗化黒鉛及び膨張黒鉛から選ばれる少なくとも1種類である請求項1〜8のいずれかに記載の薄膜の製造方法。
【請求項11】
前記フラーレン類、カーボンナノチューブ類及び黒鉛化合物の粒径が、それぞれ80μm以下である請求項1〜10のいずれかに記載の薄膜の製造方法。
【請求項12】
前記撥水剤溶液を、多孔性材料からなる焼結フィルターに含浸させ、真空中で該焼結フィルターを加熱して薄膜を形成する請求項1〜11のいずれかに記載の薄膜の製造方法。
【請求項13】
光学基板上形成された多層反射防止膜上に、(a)パーフルオロアルキル基を有する撥水剤、(b)シランカップリング剤、側鎖及び/又は両末端に有機基を導入した変性シリコーンオイル及びパーフルオロエーテル化合物との混合物、及び(c)フラーレン類、カーボンナノチューブ類及び黒鉛化合物から選ばれる少なくとも1種類の導電性物質とを混合してなる撥水剤溶液を用い、真空蒸着法にて薄膜を形成する光学部材の製造方法。
【請求項14】
前記光学部材が、プラスチックレンズである請求項13に記載の光学部材の製造方法。

【公開番号】特開2007−155802(P2007−155802A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−346724(P2005−346724)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】