説明

薄膜固体二次電池

【課題】 電池性能を確保しつつ、全体として透明度が良好な薄膜固体二次電池を提供することにある。
【解決手段】 基板10上に、正極集電体層20、正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50、負極集電体層20が積層されてなる薄膜固体二次電池1において、いずれの層も透明な薄膜から構成される。正極活物質層30および負極活物質層50は、リチウム−チタン酸化物、五酸化ニオブ、酸化チタン、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニッケル、スズが添加された酸化インジウム(ITO)、アルミニウムが添加された酸化亜鉛(AZO)、ガリウムが添加された酸化亜鉛(GZO)、アンチモンが添加された酸化スズ(ATO)、フッ素が添加された酸化スズ(FTO)、リチウムが添加された酸化ニッケル(NiO−Li)から選択された互いに異なる物質からなる透明な薄膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜固体二次電池に係り、特に優れた付加特性を有する薄膜固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、携帯機器等の電子機器を中心にリチウムイオン二次電池が広く用いられている。これはリチウムイオン二次電池が、ニッカド電池等と比較して、高い電圧を有し、充放電容量が大きく、メモリ効果等の弊害がないことによる。
そして、電子機器等はさらなる小型化・軽量化が進められており、この電子機器等に搭載されるバッテリーとしてリチウムイオン二次電池も小型化・軽量化の開発が進められている。例えばICカードや医療用小型機器等に搭載可能な薄型・小型のリチウムイオン二次電池の開発が進められている。そして、今後もより一層薄型化・小型化が求められることが予想される。
【0003】
従来のリチウムイオン二次電池は、正電極および負電極に金属片または金属箔を用い、これらを電解液に浸積させて容器で覆って使用していた。このため、薄型化や小型化には限界があった。現実的には、薄さ1mm、体積1cm程度が限界と考えられる。
しかし、最近ではさらに薄型化、小型化を可能とするために、電解液ではなく、ゲル状の電解質を用いるポリマー電池(例えば、特許文献1参照)や固体電解質を用いる薄膜固体二次電池(例えば、特許文献2,3参照)が開発されている。
【0004】
特許文献1に記載のポリマー電池は、外装体内部に、正極集電体、内部に高分子固体電解質を含有する複合正極、イオン電導性高分子化合物からなる電解質層、内部に高分子固体電解質を含有する複合負極、負極集電体を順に配置して構成されている。
このようなポリマー電池は、電解液を使う通常のリチウムイオン二次電池よりは薄型化、小型化が可能であるものの、ゲル状の電解質や接合剤、封口部材等を必要とするため、厚さとしては0.1mm程度が限界であり、より一層の薄型化、小型化を進めるには適当ではなかった。
【0005】
一方、薄膜固体二次電池の構成は、特許文献2,3に記載のように、基板上に集電体薄膜、負極活物質薄膜、固体電解質薄膜、正極活物質薄膜、集電体薄膜を順に積層した構成、または、基板上に上記層を逆の順で積層した構成である。
このような構成により、薄膜固体二次電池は、基板を除けば1μm程度の薄さにすることが可能である。また、基板の厚さを薄くしたり、薄膜化した固体電解質フィルムを基板の代わりに使用したりすれば、全体としてより薄型化、小型化を図ることが可能である。
【0006】
【特許文献1】特開平10−74496号公報(第3−6頁、図1−2)
【特許文献2】特開平10−284130号公報(第3−4頁、図1−4)
【特許文献3】特開2002−42863号公報(第9−16頁、図1−16)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、薄膜固体二次電池は薄型化、小型化が期待されるが、特許文献2,3やこれまでに実施された例では、正極活物質層として光の吸収が大きいリチウムを含む金属酸化物(LiMnやLiCoO等)を用いたり、負極活物質層として光の反射が大きいリチウム金属用いたり、集電体層として光の反射が大きいアルミニウム等の金属を用いたりしていた。このように従来の薄膜固体二次電池では、すべての層が透明な物質から作成されていなかった。このため、従来の薄膜固体二次電池は光を遮ってしまうため、太陽電池等の光を利用するデバイスと組み合わせて多機能化を図ることが困難であった。
【0008】
また、従来、充放電時に正負極間の電位差が、負から正または正から負へ連続的に0Vを横切って、正負電位が反転することが可能な二次電池は、これまで作成することができなかった。このような二次電池が作成できれば、過充電、過放電に対して強く、且つ、正負極電位が反転することができる二次電池として広い用途に用いることが可能である。
【0009】
本発明の目的は、電池性能を確保しつつ、全体として透明度が良好な薄膜固体二次電池を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、充放電によって正負極電位が正負反転可能な薄膜固体二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題は、本発明によれば、基板上に、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電体層が積層されてなる薄膜固体二次電池において、いずれの層も透明な薄膜からなることによって解決される。
【0011】
このように、薄膜固体二次電池を構成する正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電体層がすべて透明な薄膜から構成されることによって、全体として透明度が良好な電池を形成し、最外層から各層を透過させて基板にまで光を照射させることが可能となるので、他の光を利用するデバイスと組み合わせて多機能化を図ることができる。例えば、本発明の薄膜固体二次電池を太陽電池と一体に構成した場合には、薄膜固体二次電池を通して光を太陽電池等に照射させることができ、光の照射方向によらずに太陽電池等を作動させることが可能となる。
【0012】
具体的には、前記正極集電体層および前記負極集電体層は、スズが添加された酸化インジウム(ITO)、アルミニウムが添加された酸化亜鉛(AZO)、ガリウムが添加された酸化亜鉛(GZO)、アンチモンが添加された酸化スズ(ATO)、フッ素が添加された酸化スズ(FTO)のいずれかからなる透明導電膜とすることができる。
【0013】
また、前記正極活物質層および前記負極活物質層は、リチウム−チタン酸化物、五酸化ニオブ、酸化チタン、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニッケル、スズが添加された酸化インジウム(ITO)、アルミニウムが添加された酸化亜鉛(AZO)、ガリウムが添加された酸化亜鉛(GZO)、アンチモンが添加された酸化スズ(ATO)、フッ素が添加された酸化スズ(FTO)、リチウムが添加された酸化ニッケル(NiO−Li)のいずれかからなる透明な薄膜とすることができる。
【0014】
また、本発明は、基板上に、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電体層を積層してなる薄膜固体二次電池において、前記正極活物質層および前記負極活物質層は、それぞれリチウムおよび同一の遷移金属を含む酸化物の中から選択された物質からなる薄膜であることを特徴とする。
【0015】
このようにそれぞれ正極活物質層および負極活物質層を、リチウムおよび同一の遷移金属を含む酸化物の中から選択された物質からなる薄膜で形成することによって、充放電に伴って正負極電位差が連続的に0Vを横切って正負反転する薄膜固体二次電池を得ることができる。
【0016】
具体的には、前記正極活物質層および前記負極活物質層は、それぞれ化学式LixMyOzで表される物質からなる薄膜であり、前記化学式中のMは、Ti,Mn,Co,Ni,又はこれらのうち2つ以上の元素からなる混合組成で表されると共に、前記化学式中のx,y,zは、関係式8≦az≦16、4≦a(x+y)≦14、1≦ax≦10を同時に満たすように倍数aを選択可能な関係にある。
【0017】
また、前記固体電解質層は、リン酸リチウム(LiPO)、窒素が添加されたリン酸リチウム(LiPON)のいずれかからなる透明な固体電解質薄膜とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の薄膜固体二次電池によれば、基板上に、光透過性が良好な薄膜(正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電体層)を積層させることによって二次電池を構成するので、電池性能を確保しつつ、全体として透明度を良好とすることができる。これにより、光を透過させることができる。このため、光を透過させる部材(例えば、窓ガラス等)や光を利用するデバイス(例えば、太陽電池,EL等)に本発明の薄膜固体二次電池を付加することができる。
また、本発明の薄膜固体二次電池は、負極活物質層に毒性があり、水分に弱い酸化バナジウム以外の物質を用いて作成することができるので、取り扱いが容易となる。
さらに、本発明の薄膜固体二次電池は、充放電によって正負極電位が正負反転可能である。また、これにより、本発明の薄膜固体二次電池は、過充電・過放電に対する優れた耐性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する部材、配置、構成等は、本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
図1は本発明の一実施形態に係る薄膜固体二次電池の断面図、図2は実施例1の薄膜固体二次電池の分光特性のグラフ、図3は実施例1の薄膜固体二次電池の充放電特性のグラフ、図4は実施例2の薄膜固体二次電池の充放電特性のグラフ、図5は実施例4の薄膜固体二次電池の充放電特性のグラフである。
【0020】
図1に示すように本例のリチウムイオン薄膜固体二次電池1は、基板10上に、正極側の集電体層20、正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50、負極側の集電体層20、水分防止膜60が順に積層されて形成されている。なお、基板10上への積層順序は、負極側の集電体層20、負極活物質層50、固体電解質層40、正極活物質層30、正極側の集電体層20、水分防止膜60の順であってもよい。
【0021】
基板10は、透明なガラス、樹脂基板等の光透過性を有する物質で形成されている。樹脂基板としては、ポリイミドやPET等を用いることができる。また、形が崩れずに取り扱いができるものであれば、基板10に折り曲げが可能な薄い透明なフィルムを用いることができる。
【0022】
集電体層20は、正極(正極活物質層30)および負極(負極活物質層50)との密着性がよく、電気抵抗が低い透明度が良好な透明導電膜を用いることができる。集電体層20が取り出し電極として良好に機能するためには、そのシート抵抗が1kΩ/□以下であることが望ましい。集電体層20の膜厚を0.1μm程度以上に設定すると、集電体層20は抵抗率が1×10−2Ω・cm程度以下の物質によって形成する必要がある。このような物質として、スズが添加された酸化インジウム(ITO)、アルミニウムが添加された酸化亜鉛(AZO)、ガリウムが添加された酸化亜鉛(GZO)、アンチモンが添加された酸化スズ(ATO)、フッ素が添加された酸化スズ(FTO)等を使用することができる。これらの物質によって集電体層20は、できるだけ薄くて電気抵抗も低くなる0.1〜1μm程度の膜厚に形成することができる。
【0023】
正極活物質層30は、リチウムイオンの離脱、吸着が可能なリチウム−チタン酸化物(
LiTi,LiTi12等)、五酸化ニオブ(Nb)、酸化チタン(TiO)、酸化インジウム(In)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、酸化ニッケル(NiO)、スズが添加された酸化インジウム(ITO)、アルミニウムが添加された酸化亜鉛(AZO)、ガリウムが添加された酸化亜鉛(GZO)、アンチモンが添加された酸化スズ(ATO)、フッ素が添加された酸化スズ(FTO)、リチウムが添加された酸化ニッケル(NiO−Li)等の透明度が良好な薄膜を用いることができる。正極活物質層30の膜厚は、できるだけ薄いことが望ましいが、充放電容量を確保できる0.1〜1μm程度とするとよい。
【0024】
固体電解質層40は、リチウムウオンの伝導性が良いリン酸リチウム(LiPO)やこれに窒素を添加した物質(LiPON)等の透明度が良好な薄膜を用いることができる。固体電解質層40の膜厚は、ピンホ−ルの発生が低減され且つできるだけ薄い0.1〜1μm程度が好ましい。
【0025】
負極活物質層50は、リチウムイオンの離脱、吸着が可能なリチウム−チタン酸化物(
LiTi,LiTi12等)、五酸化ニオブ(Nb)、酸化チタン(TiO)、酸化インジウム(In)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、酸化ニッケル(NiO)、スズが添加された酸化インジウム(ITO)、アルミニウムが添加された酸化亜鉛(AZO)、ガリウムが添加された酸化亜鉛(GZO)、アンチモンが添加された酸化スズ(ATO)、フッ素が添加された酸化スズ(FTO)、リチウムが添加された酸化ニッケル(NiO−Li)等の透明度が良好な薄膜を用いることができる。負極活物質層50の膜厚は、できるだけ薄いことが望ましいが、充放電容量を確保できる0.1〜1μm程度とするとよい。
【0026】
本実施形態では、負極活物質層50および正極活物質層30は、同じ物質群の中から異なる物質が選択される。すなわち、薄膜固体二次電池1を電池として機能させるためには、正極と負極の間に電圧差を生じさせる必要があり、このため負極活物質層50に用いる物質は、正極活物質層30に用いる物質より電極電位が低い物質を選択することが望ましい。
【0027】
また、本例の薄膜固体二次電池1では、正極活物質層30に用いる物質および負極活物質層50に用いる物質がともにリチウムを含まない場合には、負極側にリチウムが注入される。例えば、負極層が形成された後、一旦大気中に取り出してリチウム注入装置を用いてリチウムを注入したり、充放電作用によってリチウムを挿入したりすることができる。
【0028】
また、充放電に伴い正負極電位差が連続的に0Vを通過して正負反転可能な薄膜固体二次電池1を作成する場合には、正極活物質層30、負極活物質層50に用いる物質は、リチウムと同一の遷移金属(Ti,Mn,Co,Ni等,またはこれらのうちの2つ以上からなる混合組成)を含む酸化物からそれぞれ選択される。正極活物質層30、負極活物質層50に用いる物質は、化学式LixMyOz(ただし、Mは遷移金属またはその混合組成)で表される。含まれる遷移金属が同じであれば、正極活物質層30、負極活物質層50に同一物質を用いてもよい。このように正極活物質層30,負極活物質層50は、電極電位が比較的近いか同一の物質によって形成される。
【0029】
具体的には、このような物質(LixMyOz)は、リチウム,遷移金属,酸素の構成元素数がそれぞれx,y,zであって、x,y,zは、関係式8≦az≦16、4≦a(x+y)≦14、1≦ax≦10を同時に満たすように倍数aを選択可能な関係にあるものである。より好ましくは、上記物質は、x,y,zが10≦az≦14、9≦a(x+y)≦12、2≦ax≦8を同時に満たすように倍数aを選択可能な関係にあるものである。なお、Mが遷移金属の混合組成である場合は、Mを構成する各元素の構成元素数を合計した数をyとする。
例えば、このような物質(LixMyOz)として、リチウム−チタン酸化物(LiTi,LiTi12,LiTi12,LiTi12等)、リチウム−マンガン酸化物(LiMn,LiMn等)、リチウム−コバルト酸化物(LiCoO,LiCo等)、リチウム−ニッケル酸化物(LiNiO,LiNi等)、リチウム−マンガン−コバルト酸化物(LiMnCoO,LiMnCoO等)が挙げられる。
リチウム−チタン酸化物(LiTi)を例にとると、x,y,zはそれぞれ1,2,4であり、倍数aを例えば3としたとき上記関係式を同時に満たす。
【0030】
また、薄膜固体二次電池1の大気に露出する表面は、水分防止効果のある水分防止膜60で被覆すると良い。このようにすると電池性能をより長く保つことができる。水分防止膜としては、酸化珪素(SiO)や窒化珪素(SiN)等を使用することができる。水分防止膜の膜厚は、できるだけ薄くて水分防止効果も高い0.4μm程度が好ましい。
【0031】
上記の各薄膜の形成方法としては、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、加熱蒸着法等の真空成膜法や、塗布法等を用いることができる。好ましくは、より薄く均一に薄膜を形成できる真空成膜法を用いるのが良い。さらに好ましくは、蒸着物質との原子組成のずれが少なく、均一に成膜ができるスパッタリング法を用いるのが良い。
【0032】
上記の薄膜固体二次電池1は、充電を行うと、正極活物質層30からリチウムがイオンとなって離脱し、固体電解質層40を介して負極活物質層50に吸蔵される。このとき、正極活物質層30から外部へ電子が放出される。
また、放電時には、負極活物質層50からリチウムがイオンとなって離脱し、固体電解質層40を介して正極活物質層30に吸蔵される。このとき、負極活物質層50から外部へ電子が放出される。
【0033】
以上のように本例の薄膜固体二次電池1は、各薄膜(正極側の集電体層20、正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50、負極側の集電体層20、水分防止膜60)が光透過性の良好な透明な薄膜であるので、最外層から各層を介して光を基板10まで透過させることができるという付加特性を有する。
【0034】
また、本例の薄膜固体二次電池1では、基板10を例えば窓ガラスとしてもよく、このような透明性が必要な部材に二次電池の機能を付加できる。
また、本例の薄膜固体二次電池1を太陽電池やEL等の光を透過させる必要があるデバイスの基板として用いることにより、それらのデバイスに二次電池の機能を付加できることができる。すなわち、基板10側に太陽電池やEL等の光デバイスを一体に形成した場合にでも、光の照射方向によらずに太陽電池等に光を届かせることが可能となるので、光デバイスの多機能化に寄与することができる。
【0035】
また、本例の薄膜固体二次電池1では、負極活物質層50として毒性があり、水分に弱い酸化バナジウム等の取り扱いの面倒な物質を用いなくてすむ。これにより、安全性の高い二次電池を供給することができる。
【0036】
また、正極活物質層30、負極活物質層50に、リチウムと同一の遷移金属(Ti,Mn,Co,Ni等)を含む酸化物LixMyOz(ただし、Mは遷移金属またはその混合組成)を選択することによって、充放電に伴い正負極電位差が連続的に0Vを通過して正負反転可能な薄膜固体二次電池1を作成することが可能である。また、本例の薄膜固体二次電池1は、正負極電位が正負反転するという付加特性を有することにより、過充電,過放電に対して強い耐性を有する。
【0037】
次に、本発明の実施例、比較例について説明する。
(実施例1)
実施例1では、図1の構成をなすよう基板10上に、集電体層20、正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50、集電体層20をこの順にスパッタリング法により形成し、薄膜固体二次電池1を作成した。
基板10は、縦100mm、横100mm、厚さ1mmのソーダライムガラスを用いた。
集電体層20は、ITO焼結体ターゲットを用い、DCマグネトロンスパッタリング法にて形成した。DCパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、集電体層20として0.2μmのITO薄膜を形成した。
【0038】
正極活物質層30は、リチウム−チタン酸化物LiTi12の焼結体ターゲットを用い、酸素を導入してRFマグネトロンスパッタリング法にて形成した。RFパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、0.4μmのLiTi12薄膜を形成した。
固体電解質層40は、リン酸リチウム(LiPO)の焼結体ターゲットを用い、窒素ガスを導入してRFマグネトロンスパッタリング法にて形成した。RFパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、0.4μmの窒素が添加されたリン酸リチウム(LIPON)薄膜を形成した。
【0039】
負極活物質層50は、酸化インジウムの焼結体ターゲットを用い、酸素を導入してRFマグネトロンスパッタリング法にて形成した。RFパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、0.2μmの酸化インジウム(In)薄膜を形成した。
【0040】
以上のようにして得られた薄膜固体二次電池1の透明性を評価するために、分光光度計により、測定波長範囲400〜700nmの可視域で、基板10も含めた透過率を測定した。その測定結果を図2に示す。図2に示すように、基板10を含めた透過率は70〜85%の範囲にあり、平均では約78%と透明性は比較的良いことが確認された。
【0041】
次に、本例の薄膜固体二次電池1の電池性能を評価するために、充放電測定器を用いて充放電特性を測定した。測定条件は、充電および放電時の電流はいずれも0.2mA、充電および放電の打ち切りの電圧はそれぞれ3.5V、0.3Vとした。その結果、繰り返し充放電動作を示すことが確認できた。図3に、安定して充放電動作を示した10サイクル目の充放電特性のグラフを示す。図3から放電開始電圧は3.0V、充電容量,放電容量はそれぞれ1.03mAh、1.01mAhであることがわかる。また、本例では、100サイクルまで充放電測定を行ったが、安定してほぼ一定の充放電曲線を示すことが確認された。
【0042】
(実施例2)
実施例2では、図1の構成をなすよう基板10上に、集電体層20、正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50、集電体層20をこの順にスパッタリング法により形成し、薄膜固体二次電池1を作成した。ここで、正極活物質層30および負極活物質50以外の層は、実施例1と同じ物質、膜厚、成膜条件で形成した。
正極活物質層30は、リチウム−チタン酸化物LiTiの焼結体ターゲットを用い、酸素を導入してRFマグネトロンスパッタリング法にて形成した。RFパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、0.4μmのLiTi薄膜を形成した。
【0043】
負極活物質層50は、リチウム−チタン酸化物LiTi12の焼結体ターゲットを用い、酸素を導入してRFマグネトロンスパッタリング法にて形成した。RFパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、0.2μmのLiTi12薄膜を形成した。
【0044】
以上のようにして得られた薄膜固体二次電池1の透明性を評価するために、実施例1と同様に、分光光度計により、基板10も含めた透過率を測定した。そして、実施例2においては、基板10を含めた透過率が70〜85%の範囲(平均76%)にあり、透明性は比較的良いことが確認された。
次に、その薄膜固体二次電池1の電池性能を充放電測定により評価した。測定条件は、実施例1と同様に、充電および放電時の電流を0.2mA、充電および放電の打ち切りの電圧をそれぞれ3.5V、0.3Vとした。
その充放電測定の結果、繰り返し充放電動作を示すことが確認できた。また、100サイクルまで充放電測定を行ったが、安定してほぼ一定の充放電曲線を示すことが確認された。図4に、安定して充放電動作をした10サイクル目の充放電特性のグラフを示す。放電開始電圧は3.1V、充電容量、放電容量はそれぞれ1.01mAh、0.99mAhであった。
【0045】
(実施例3)
実施例3では、負極活物質層50の物質を換えたこと以外は実施例1と同じ物質、膜厚、成膜条件で薄膜固体二次電池1を作成した。正極活物質層30は、リチウム−チタン酸化物LiTi12薄膜である。負極活物質層50に用いた物質は、五酸化ニオブ(Nb)、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、酸化ニッケル(NiO)、スズが添加された酸化インジウム(ITO)、アルミニウムが添加された酸化亜鉛(AZO)、ガリウムが添加された酸化亜鉛(GZO)、アンチモンが添加された酸化スズ(ATO)、フッ素が添加された酸化スズ(FTO)、リチウムが添加された酸化ニッケル(NiO−Li)の11種類である。
【0046】
以上のようにして得られた11種類の薄膜固体二次電池1について、実施例1と同様に、分光光度計により基板10も含めた透過率を測定した。基板10を含めた透過率はいずれも70〜85%の範囲にあり、平均では75〜80%の範囲で、いずれの薄膜固体二次電池1も透明性は比較的良いことが確認された。
次に、これらの薄膜固体二次電池1の電池性能を充放電測定により評価した。測定条件は、実施例1と同様に、充電および放電時の電流はいずれも0.2mA、充電および放電の打ち切りの電圧はそれぞれ3.5V、0.3Vとした。その結果、いずれの薄膜固体二次電池1も繰り返し充放電動作を示し、100サイクルまで安定してほぼ一定の充放電曲線を示すことが確認された。また、放電開始電圧は、いずれの薄膜二次電池も約3.0V、充電容量、放電容量はそれぞれ約1.1mAh、1.0mAhであった。
【0047】
(比較例1)
次に、比較例1として、図1に示すように基板10上に、集電体層20、正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50、集電体層20をこの順にスパッタリング法により形成し、薄膜固体二次電池1aを作成した。ここで、正極活物質層30以外の層は、実施例1と同じ物質、膜厚、成膜条件で形成した。正極活物質層30は、LiMnの焼結ターゲットを用い、RFマグネトロンスパッタリング法にて形成した。RFパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、正極活物質層30として0.4μmのLiMn薄膜を形成した。
【0048】
以上のようにして得られた薄膜固体二次電池1aについて、実施例1と同様に、分光光度計により基板10も含めた透過率を測定した。また、充放電測定により薄膜固体二次電池1aの電池性能を測定評価した。その結果、電池特性については実施例1とほぼ同等な充放電特性を示すことが確認できた。しかしながら、分光特性については、基板を含めた透過率は5〜20%の範囲にあり、平均では9%であった。このように、薄膜固体二次電池1aの透明性は良好ではないことが確認された。また、LiMn薄膜は、見た目でも光の吸収の多い黒い膜であった。
【0049】
すなわち、比較例1では正極活物質層30として、従来から正極活物質として使用されることが多い透明性の低いLiMnが使用されている。これに対し、実施例1〜3では正極活物質層30および負極活物質層50として、透明度が高い金属酸化物が使用されている。このように比較例1のような従来の物質構成の薄膜固体二次電池1aでは、全体として透明度が良好ではないが、実施例1〜3の薄膜固体二次電池1では、透明度が高い物質を用いることによって全体として透明度を良好にすることができた。また、実施例1〜3の薄膜固体二次電池1では、電池特性は従来と比して同等の性能を確保することができた。
【0050】
以上のように、本例の薄膜固体二次電池1は、比較例の薄膜固体二次電池1aで正極活物質として使用されている透明度の低いマンガン酸リチウムLiMn等と異なり、リチウム−チタン酸化物や透明金属酸化物等を使用することにより、電池特性を落とすことなく透明度が良好な全固体型の薄膜二次電池1を作成することができた。
【0051】
(実施例4)
実施例4では、図1の構成をなすよう基板10上に、集電体層20、正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50、集電体層20をこの順にスパッタリング法により形成し、薄膜固体二次電池1を作成した。ここで、正極活物質層30および負極活物質50以外の層は、実施例1と同じ物質、膜厚、成膜条件で形成した。
正極活物質層30は、リチウム−チタン酸化物LiTi12の焼結体ターゲットを用い、酸素を導入してRFマグネトロンスパッタリング法にて形成した。RFパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、0.3μmのLiTi12薄膜を形成した。
【0052】
負極活物質層50は、リチウム−チタン酸化物LiTi12の焼結体ターゲットを用い、酸素を導入してRFマグネトロンスパッタリング法にて形成した。RFパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、0.3μmのLiTi12薄膜を形成した。
【0053】
以上のようにして得られた薄膜固体二次電池1の電池性能を評価するために、充放電測定器を用いて充放電特性を測定した。測定条件は、充電および放電時の電流はいずれも0.01mA、充電および放電の打ち切りの電圧はそれぞれ2.5V、−2.5Vとした。その結果、繰り返し充放電動作を示すことが確認できた。図5に、安定して充放電動作を示した10サイクル目の充放電特性のグラフを示す。
【0054】
図5に示すように本実施例の薄膜固体二次電池1は、充放電に伴って正負極間の電位差が−2.5V〜+2.5Vの間で連続的に0Vを横切って変化していることが分かる。すなわち、本実施例の薄膜固体二次電池1は、LiTi12薄膜,LiTi12薄膜をそれぞれ正極活物質層30,負極活物質層50として形成したが、充放電の状況によってどちらを正極側または負極側とすることも可能となる。また、本例では、100サイクルまで充放電測定を行ったが、安定して図5と略同じ充放電曲線を示すことが確認された。
【0055】
以上のように、本実施例の薄膜固体二次電池1では、正極活物質層30をLiTi12薄膜、負極活物質層50をLiTi12薄膜とした。すなわち、正極活物質層30,負極活物質層50ともにLiTi12スピネル系の物質であり、且つ、リチウム濃度が異なる物質である。このように、正極活物質層30,負極活物質層50を形成する物質を選択することにより、0Vを横切って−2.5V〜+2.5Vの間で繰り返し充放電を行うことが可能な全固体型の薄膜二次電池を作成することができた。また、本例の薄膜固体二次電池1は、実施例1〜3の薄膜固体二次電池1と同様に、いずれの層も透明であり、全体として透明度が良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態に係る薄膜固体二次電池の断面図である。
【図2】実施例1の薄膜固体二次電池の分光特性のグラフである。
【図3】実施例1の薄膜固体二次電池の充放電特性のグラフである。
【図4】実施例2の薄膜固体二次電池の充放電特性のグラフである。
【図5】実施例4の薄膜固体二次電池の充放電特性のグラフである。
【符号の説明】
【0057】
1 薄膜固体二次電池
10 基板
20 集電体層
30 正極活物質層
40 固体電解質層
50 負極活物質層
60 水分防止膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電体層を積層してなる薄膜固体二次電池において、いずれの層も透明な薄膜からなることを特徴とする薄膜固体二次電池。
【請求項2】
前記正極集電体層および前記負極集電体層は、スズが添加された酸化インジウム(ITO)、アルミニウムが添加された酸化亜鉛(AZO)、ガリウムが添加された酸化亜鉛(GZO)、アンチモンが添加された酸化スズ(ATO)、フッ素が添加された酸化スズ(FTO)のいずれかからなる透明導電膜であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜固体二次電池。
【請求項3】
前記正極活物質層および前記負極活物質層は、リチウム−チタン酸化物、五酸化ニオブ、酸化チタン、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニッケル、スズが添加された酸化インジウム(ITO)、アルミニウムが添加された酸化亜鉛(AZO)、ガリウムが添加された酸化亜鉛(GZO)、アンチモンが添加された酸化スズ(ATO)、フッ素が添加された酸化スズ(FTO)、リチウムが添加された酸化ニッケル(NiO−Li)のいずれかからなる透明な薄膜であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜固体二次電池。
【請求項4】
基板上に、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電体層を積層してなる薄膜固体二次電池において、
前記正極活物質層および前記負極活物質層は、それぞれリチウムおよび同一の遷移金属を含む酸化物の中から選択された物質からなる薄膜であることを特徴とする薄膜固体二次電池。
【請求項5】
前記正極活物質層および前記負極活物質層は、それぞれ化学式LixMyOzで表される物質からなる薄膜であり、
前記化学式中のMは、Ti,Mn,Co,Ni,又はこれらのうち2つ以上の元素からなる混合組成で表されると共に、前記化学式中のx,y,zは、関係式8≦az≦16、4≦a(x+y)≦14、1≦ax≦10を同時に満たすように倍数aを選択可能な関係にあることを特徴とする請求項4に記載の薄膜固体二次電池。
【請求項6】
前記固体電解質層は、リン酸リチウム(LiPO)、窒素が添加されたリン酸リチウム(LiPON)のいずれかからなる透明な固体電解質薄膜であることを特徴とする請求項1又は4に記載の薄膜固体二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−216336(P2006−216336A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−27017(P2005−27017)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(591124765)ジオマテック株式会社 (35)
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【Fターム(参考)】