説明

薄膜太陽電池用スクライブ装置

【課題】低荷重での微妙な調整を可能にして、太陽電池基板の薄膜をきれいに削り、不規則な薄膜の剥離の発生をなくして直線的できれいなスクライブラインを形成することができるスクライブ装置を提供する。
【解決手段】
集積型薄膜太陽電池基板Wのスクライブ予定ラインに沿って、スクライブヘッド1に取り付けた溝加工ツール4の刃先を太陽電池基板の表面に押圧しながら、太陽電池基板Wに対して溝加工ツール4を相対的に移動させて太陽電池基板Wの表面に形成された薄膜に溝を形成するスクライブ装置であって、スクライブヘッド1に上下移動可能に取り付けられ、かつ、溝加工ツール4を保持するツールホルダ5と、ツールホルダ5を太陽電池基板Wの表面に向けて加圧するエアシリンダ6と、ツールホルダ5を上方に向けて加圧するスプリング7とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集積型薄膜太陽電池製造用のスクライブ装置に関し、さらに詳細には、太陽電池上に溝を形成するための溝加工ツールを保持するスクライブヘッドを備えたスクライブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜太陽電池においては、基板上に複数のユニットセルを直列接続した集積型構造が一般的である。
【0003】
従来のカルコパイライト化合物系集積型薄膜太陽電池の製造方法について説明する。図4は、CIGS薄膜太陽電池の製造工程を示す模式図である。まず、図4(a)に示すように、ソーダライムガラス(SLG)等からなる絶縁基板41上に、プラス側の下部電極となるMo電極層42をスパッタリング法によって形成した後、光吸収層形成前の薄膜太陽電池基板に対してスクライブ加工により下部電極分離用の溝Sを形成する。
【0004】
その後、図4(b)に示すように、Mo電極層42上に、化合物半導体(CIGS)薄膜からなる光吸収層43を蒸着法、スパッタリング法等によって形成し、その上に、ZnO薄膜からなる絶縁層44を形成する。そして、透明電極層形成前の薄膜太陽電池基板に対して、下部電極分離用の溝Sから横方向に所定距離はなれた位置に、スクライブ加工によりMo電極層42にまで到達する電極間コンタクト用の溝M1を形成する。
【0005】
続いて、図4(c)に示すように、絶縁層44の上からZnO:Al薄膜からなる上部電極としての透明電極層45を形成し、光電変換を利用した発電に必要な各機能層を備えた太陽電池基板とし、スクライブ加工により下部のMo電極層42にまで到達する電極分離用の溝M2を形成する。
【0006】
上述した集積型薄膜太陽電池を製造する工程において、溝M1及びM2をスクライブにより溝加工する技術の一つとして、カッターナイフや針のような工具で薄膜の一部を除去するメカニカルスクライブ法が用いられている。しかしながら、薄膜を除去した後の溝幅が一定せず、不必要な部分まで除去しまう不具合が発生することがあった。
そこで、安定した溝幅で加工できるようにするためのメカニカルスクライブ法が提案されている(特許文献1参照)。この文献によれば、例えば板バネ及び加重計を含む加工負荷を調整するための加工負荷調整機構を備えた溝形成工具及び剥離工具を用いるようにしている。そして加工負荷調整機構で加工負荷を調整するようにして、始めは溝形成工具により2本のV字状の溝を形成し、続いて、2本の溝の間の薄膜を剥離工具で除去するようにしている。また、別の方法として空気圧等の方法で加工負荷を調整してもよいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−033498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
集積型薄膜太陽電池の電極用溝M1やM2をメカニカルスクライブ法により溝加工する場合には、スクライブする際に工具の刃先にかかる負荷荷重を一定に調整することが要求される。刃先荷重が設定値より大きくなると刃先の食い込みが多くなって不必要な層まで削られるとともに、刃先に対する負荷の増大によって薄膜が不規則に大きく剥がれてしまい、不必要な部分まで除去してしまうことがあって、太陽電池の特性及び歩留まりが低下するからである。また、逆に圧力が小さいと必要な深さの溝が加工できなくなるからである。しかしながら集積型薄膜太陽電池の溝加工においては、刃先圧力を一定にするだけでは不十分であり、さらに低荷重下での精度の高い荷重制御をできることが要求される。例えば、上述したカルコパイライト化合物系薄膜太陽電池では、Mo電極層42上の化合物半導体(CIGS)薄膜からなる光吸収層43やZnO薄膜からなる絶縁層44並びにAl薄膜からなる透明電極層45は、0.05〜1μmと非常に薄い。そのため、0.1〜0.5N(ニュートン)程度の低荷重で制御することが可能なスクライブヘッドが要求される。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載されている加工負荷調整機構を備えた剥離工具を用いて加工負荷の大きさをコントロールするようにしたとしても、刃先にかかる荷重を、0.1〜0.5N(ニュートン)程度の低荷重の範囲で荷重をコントロールすることができなければ、不必要な層まで削られてしまう不具合が発生することになる。
すなわち、従来の板バネや加重計を用いた加圧方式、あるいは空圧シリンダによる加圧負荷方式だけでは、低荷重での微妙な調整が非常に困難であるため、薄膜太陽電池の溝加工用としては、バラツキが大きくて歩留まりが悪く、また、加工再現性が悪く、耐久性にも問題点があった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、荷重を一定に維持するだけではなく、低荷重での微妙な調整を可能にして、太陽電池基板の薄膜をきれいに削り、不規則な薄膜の剥離の発生をなくして直線的できれいなスクライブラインを形成することができるスクライブ装置を低コストで提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた本発明のスクライブ装置は、太陽電池基板のスクライブ予定ラインに沿って、スクライブヘッドに取り付けた溝加工ツールの刃先を太陽電池基板の表面に押圧しながら、太陽電池基板に対して溝加工ツールを相対的に移動させて太陽電池基板の表面に形成された薄膜に溝を形成するスクライブ装置であって、スクライブヘッドに上下移動可能に取り付けられ、かつ、溝加工ツールを保持するツールホルダと、ツールホルダを太陽電池基板の表面に向けて加圧するエアシリンダと、ツールホルダを上方に向けて加圧するスプリングとからなるようにしている。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、溝加工ツールを含むツールホルダの自重が、補償用のスプリングによって無荷重となるように支えられているので圧力変化に対する応答性が高く、かつ、加圧手段として電空レギュレータによって制御されるエアシリンダを用いたので、低荷重での制御を高速で安定して行うことができ、これにより太陽電池基板の薄膜をきれいに削りとることができるようになり、不規則な薄膜の剥離のない、直線的できれいな溝を形成することができる。加えて、スプリングと電空レギュレータによって制御されるエアシリンダとの組み合わせによって、軽量、かつ、シンプルで低コストのスクライブヘッドを提供することができるといった効果がある。
【0013】
スプリングの張力が、溝加工ツールの刃先が太陽電池基板の表面に接した位置で、溝加工ツールを含むツールホルダの自重が無荷重となるように設定した構成とするのがよい。
これにより、加工時にかかる負荷の変動がただちにエアシリンダに伝わり、電空レギュレータを介して高速かつ正確な低荷重での圧力制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明にかかるスクライブヘッドを用いた集積型薄膜太陽電池用スクライブ装置の一実施形態を示す斜視図。
【図2】スクライブヘッドの斜視図。
【図3】スクライブヘッドにおけるエアシリンダ並びにこれを制御する電空レギュレータの説明図。
【図4】一般的なCIGS系の薄膜太陽電池の製造工程を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下において、本発明の詳細をその実施の形態を示す図面に基づいて詳細に説明する。最初に、本発明にかかるスクライブ装置の全体構成について説明する。
図1は集積型薄膜太陽電池用スクライブ装置の実施形態を示す斜視図である。スクライブ装置は、略水平方向(Y方向)に移動可能で、かつ、水平面内で90度及び角度θ回転可能なテーブル18を備えており、テーブル18は実質的に太陽電池基板Wの保持手段を形成する。
【0016】
テーブル18を挟んで設けてある両側の支持柱20,20と、X方向に延びるガイドバー21とで構成されるブリッジ19は、テーブル18上を跨ぐように設けてある。ガイドバー21に形成したガイド22に沿って移動できるようにスクライブヘッド1が設けられており、モータ24の回転によりX方向に移動する。スクライブヘッド1にはテーブル18上に載置される太陽電池基板Wの薄膜表面をスクライブ加工する溝加工ツール4を保持するツールホルダ5が設けられている。
【0017】
また、X方向及びY方向に移動することが可能な台座25,26にカメラ27,28がそれぞれ設けられている。台座25,26は支持台29上でX方向に延設されたガイド30に沿って移動する。カメラ27,28は、手動操作で上下動することができ、撮像の焦点を調整することができる。カメラ27,28で撮影された画像はモニタ31,32に表示される。
【0018】
テーブル18上に載置された太陽電池基板Wには、各工程により、前工程で形成され、表面から観察できるスクライブライン等が存在する。そのため、各工程において太陽電池基板Wをスクライブする場合、前工程で形成されたスクライブライン等のスクライブ位置を特定するためのマークとして利用する。例えば、スクライブされた下部電極層(Mo電極層)42の上に光吸収層43、及び絶縁層44が形成された太陽電池基板Wに上下電極コンタクト用の溝を形成する場合、下部電極層42に形成されたスクライブラインを溝形成位置特定のためのマークとして利用する。すなわち、カメラ27,28により下部電極層42に形成されたスクライブラインを撮像することにより、太陽電池基板Wの位置を調整する。具体的には、テーブル18に支持された太陽電池基板W表面から観察できる下部電極層42に形成されたスクライブラインを、カメラ27,28により撮像して下部電極層42に形成されたスクライブラインの位置を特定する。特定された下部電極層に形成されたスクライブラインの位置に基づいて、上下電極コンタクト用の溝を形成すべき位置(スクライブ位置)を割り出し、太陽電池基板Wの位置を調整することによりスクライブ位置を調整する。
【0019】
そして、テーブル18をY方向に所定ピッチで移動するごとに、スクライブヘッド1に取り付けた溝加工ツール4の刃先を、後述する細径のエアシリンダ6により太陽電池基板Wの表面に設定値の圧力で押しつけた状態でX方向に移動させ、太陽電池基板Wの表面をX方向に沿ってスクライブ加工する。太陽電池基板Wの表面をY方向に沿ってスクライブ加工する場合は、テーブル18を90度回転させて、上記と同様の動作を行う。
【0020】
次に、本発明にかかるスクライブヘッド1について説明する。
【0021】
スクライブヘッド1は、図2に詳しく示すように、板状のベース2と、このベース2にレール3を介して上下摺動可能に取り付けられ、かつ、溝加工ツール4を保持するツールホルダ5と、溝加工ツール4を加圧するために前記ツールホルダ5の上方位置でベース2に保持された細径のエアシリンダ6とを備えている。ツールホルダ5は、取付ボルト5bを支点として回動可能なツール取付体5aを備え、この取付体5aに溝加工ツール4が取り付けられており、これにより溝加工ツール4の取り付け角度を調整することで、溝加工ツール4の刃先と太陽電池基板Wとの角度を調整できるようにしてある。また、前記細径のエアシリンダ6は、その直径が5mm程度のものが好ましいが、2mm〜8mmの範囲であれば適用することができる。
【0022】
さらに、前記溝加工ツール4を含むツールホルダ5の自重を略無荷重の状態に補償するように、ツールホルダ5とベース2の上部との間にスプリング7が設けられている。この場合、溝加工ツール4の刃先がスクライブすべき太陽電池基板Wの表面に接触する位置で釣り合うようにスプリング7の張力を設定するようにしてある。
【0023】
また、エアシリンダ6の加圧力を設定圧に制御するために電空レギュレータ8が設けられている。この電空レギュレータ8は、図3に示すように、負圧ポート9内のエアの吸引並びに供給を調整し、二次側圧(エアシリンダ6の圧力)を制御する一般的な構造のものが適用される。本実施例では、レギュレータ本体10の一方側に排気ポート11と、ポンプ17に連なる供給ポート12とが形成され、他方側に負圧ポート9が設けられおり、この負圧ポート9がエアシリンダ6に接続されている。
【0024】
レギュレータ本体10には、吸引用電磁弁13並びに供給用電磁弁14が設けられ、吸引用電磁弁13は負圧ポート9内のエア吸引と停止とを切り換え、供給用電磁弁14は負圧ポート9へのエア供給と停止とを切り換える。
【0025】
負圧ポート9には圧力センサ16が設置され、負圧ポート9内の圧力を検知してその信号をコントローラ15に送るようになっている。コントローラ15は、圧力センサ16からの信号と予め入力された基準信号との間に差圧があると、吸引用電磁弁13並びに供給用電磁弁14に信号を送り、弁を開閉する。
すなわち、負圧ポート9の圧力が設定値より低いと、供給用電磁弁14が開いてポンプ17からのエアが負圧ポート9からエアシリンダ6に供給され、負圧ポート9内の圧力が設定値になると供給用電磁弁14が閉じてエアの供給が停止される。また負圧ポート9内の圧力が設定値より高いと吸引用電磁弁13が開いて排気ポート11よりエアが排出され、負圧ポート9内の圧力が設定値になると吸引用電磁弁13が閉じてエアの排出が停止する。
このようにして負圧ポート9内の圧力が常に設定値に維持されるようになっている。
【0026】
上記の構成において、太陽電池基板Wに電極用の溝を加工する場合、前述したように、スクライブヘッド1の溝加工ツール4の刃先を、エアシリンダ6により太陽電池基板Wの表面に設定値の圧力で押しつけた状態で移動させて行う。加工中に、細径シリンダ6の押圧力が変動すると、電空レギュレータ8により設定値に制御される。この場合、溝加工ツール4を含むツールホルダ5の自重が、スプリング7によって刃先が太陽電池基板Wの表面に接した位置で無荷重となるように支えられているので、圧力変化に対する応答性が高く、これにより、0.1〜0.5Nのこれまでにない低荷重での制御が容易に行うことができる。さらに、細径のエアシリンダ6を使用しているので、圧力変化に対する応答性が高くなり、低荷重での微妙な制御性を一層高めることができる。
【0027】
上記の実施例では、スクライブヘッド1をX方向に移動させることでスクライブ加工を実行したが、スクライブヘッド1と、太陽電池基板Wとが相対的に移動できれば足りることから、スクライブヘッド1を移動させることなく、太陽電池基板WのみをX方向及びY方向に移動させてもよい。
【0028】
以上、本発明の代表的な実施例について説明したが、本発明は必ずしも上記の実施例構造のみに特定されるものではない。例えば、実施例では、溝加工ツール4の刃先が太陽電池基板Wの表面に接した位置で溝加工ツール4を含むツールホルダ5の自重が無荷重となるようにスプリング7の張力を設定したが、自重が無荷重となる位置は特に限定されない。その他本発明では、その目的を達成し、請求の範囲を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、カルコパイライト化合物系半導体膜等を用いた集積型薄膜太陽電池の製造方法、及び、これに用いることのできる溝加工ツールに適用することができる。
【符号の説明】
【0030】
W 太陽電池基板
1 スクライブヘッド
4 溝加工ツール
5 ツールホルダ
6 エアシリンダ
7 スプリング
8 電空レギュレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池基板のスクライブ予定ラインに沿って、スクライブヘッドに取り付けた溝加工ツールの刃先を太陽電池基板の表面に押圧しながら、太陽電池基板に対して溝加工ツールを相対的に移動させて太陽電池基板の表面に形成された薄膜に溝を形成するスクライブ装置であって、スクライブヘッドに上下移動可能に取り付けられ、かつ、溝加工ツールを保持するツールホルダと、ツールホルダを太陽電池基板の表面に向けて加圧するエアシリンダと、ツールホルダを上方に向けて加圧するスプリングとからなる薄膜太陽電池用スクライブ装置。
【請求項2】
スプリングの張力が、溝加工ツールの刃先が太陽電池基板の表面に接した位置で溝加工ツールを含むツールホルダの自重が無荷重となるように設定されている請求後1に記載の薄膜太陽電池用スクライブ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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