説明

薄膜太陽電池用ポリマー厚膜銀電極組成物

本発明は、(a)導電性銀フレークと、(b)(1)フェノキシ有機高分子バインダーおよび(2)有機溶媒を含む有機媒体とを含むポリマー厚膜銀組成物に関する。組成物は、全ての溶媒を除去するために必要とされる時間およびエネルギーで加工されてよい。
本発明は、さらに、薄膜太陽電池上部での格子形成方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜太陽電池用のポリマー厚膜(PTF)銀導体組成物に関する。一実施形態において、PTF銀組成物は、インジウムスズ酸化物などの透明導電酸化物(TCO)上のスクリーン印刷格子として使用される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0002】
本発明は、(a)銀フレーク、(b)(1)有機高分子バインダーと、(2)溶媒と、(3)印刷助剤とを含む有機媒体を含むポリマー厚膜組成物に関する。組成物は、全ての溶媒を除去するために必要とされる時間および温度で加工されてよい。銀フレークは、全組成物の76.0〜92.0重量パーセントであってよく、フェノキシ樹脂は、全組成物の2.0〜6.5重量パーセントであってよく、そして有機媒体は全組成物の8.0〜24.0重量パーセントであってよい。
【0003】
本発明は、さらに、そのような組成物を使用する薄膜太陽電池上での電極格子形成方法、ならびにそのような方法および/または組成物から形成された物品に関する。
【発明を実施するための形態】
【0004】
本発明は、薄膜太陽(PV)電池用のポリマー厚膜銀組成物を記載する。これは典型的に、電池の電気効率を改善するために使用される。Agの格子状パターンが、透明導電酸化物(TCO)上に印刷される。薄膜太陽電池は、通常、非晶質シリコン、銅のインジウムガリウムジセレニド(CIGS)またはカドミウムテルル化物などの光吸収半導体によって特徴づけられる。これらのことから、薄膜太陽電池は、従来の結晶質シリコンベースのPV電池とは区別される。薄膜とは、結晶質シリコンに関しての30〜50ミクロンとは対照的に、薄膜電池に関しては典型的に2ミクロン程度である半導体の厚さを指す。薄膜と、c−シリコン太陽電池とのもう1つの差異は、関連する温度制限である。薄膜電池は、薄膜内で使用される半導体および/または基板が高温に耐え得ないため、200℃未満で処理されなければならない。従来のc−シリコン太陽電池は、800℃までの温度で処理されてもよい。したがって、PTF組成物自体は、約200℃までのみ安定であるため、上部電極格子としてのPTF Ag組成物の使用が必要とされる。
【0005】
一般に、厚膜組成物は、適切な電気的機能特性を組成物に与える機能相を含む。機能相は、機能相の担体として作用する有機媒体中に分散された電気的機能粉末を含む。一般に、組成物は、有機物を焼き、電気的機能特性を与えるために燃やされる。しかしながら、ポリマー厚膜の場合、乾燥後、有機物は組成物の欠くことのできない部分として残留する。燃やす前の処理要件として、厚膜技術の当業者に知られている乾燥、硬化、リフローなどの任意の熱処理が含まれてよい。「有機物」には、厚膜組成物のポリマーまたは樹脂成分が含まれる。
【0006】
厚膜導体組成物の主要成分は、ポリマー樹脂と溶媒とを含む有機媒体中に分散された導電性粉末である。成分について、本明細書中、以下に検討する。
【0007】
A.導電性粉末
一実施形態において、本発明の厚膜組成物中の導電性粉末は、Ag導体粉末であり、Ag金属粉末、Ag金属粉末の合金またはそれらの混合物を含んでよい。金属粉末の様々な粒子直径および形状が予想される。一実施形態において、導電性粉末は、球状粒子、フレーク(ロッド形、円錐形、板形)およびそれらの混合物を含むいかなる形状の銀粉末も含んでよい。一実施形態において、導電性粉末は銀フレークを含んでよい。
【0008】
一実施形態において、導電性粉末の粒径分布は1〜100ミクロンであってよく、さらなる実施形態において、2〜10ミクロンであってよい。
【0009】
一実施形態において、銀粒子の表面積/重量比は0.1〜2.0m/gの範囲であってよい。さらなる実施形態において、銀粒子の表面積/重量比は0.3〜1.0m/gの範囲であってよい。さらなる実施形態において、銀粒子の表面積/重量比は0.4〜0.7m/gの範囲であってよい。
【0010】
さらにまた、導体の特性を改善するために少量の他の金属が銀導体組成物に添加されてもよいことが知られている。そのような金属のいくつかの例としては、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、プラチナ、パラジウム、モリブデン、タングステン、タンタル、スズ、インジウム、ランタン、ガドリニウム、ホウ素、ルテニウム、コバルト、チタン、イットリウム、ユウロピウム、ガリウム、硫黄、亜鉛、シリコン、マグネシウム、バリウム、セリウム、ストロンチウム、鉛、アンチモン、導電性炭素およびそれらの組み合わせ、ならびに厚膜組成物技術で一般的な他のものが挙げられる。さらなる金属は、全組成物の約1.0重量%まで含まれてよい。
【0011】
一実施形態において、銀フレークは、組成物の全重量の76〜92重量%、77〜88重量%または78〜83重量%で存在してよい。
【0012】
B.有機媒体
粉末は、典型的に、機械的に混合することによって有機媒体(溶剤)と混合されて、印刷に適切な粘稠性およびレオロジーを有する「ペースト」と呼ばれるペースト様組成物を形成する。有機媒体として多種多様な不活性液体を使用することができる。有機媒体は、十分な程度の安定性で固体が分散可能であるものでなければならない。媒体の流動学的な特性は、それらが組成物に良好な適用特性を与えるようなものでなければならない。そのような特性としては、十分な程度の安定性を有する固体の分散、組成物の良好な適用、適切な粘度、チキソトロピー、基板および固体の適切な湿潤性、良好な乾燥速度、ならびに乱暴な取扱いに耐えるのに十分な乾燥膜強度が挙げられる。
【0013】
ポリマー樹脂としては、フェノキシ樹脂が挙げられる。高重量の銀フレークの装填を可能にし、したがって、薄膜太陽電池の銀電極に関する2つの重要な特性であるインジウムスズ酸化物基板への良好な接着と、低い接触抵抗率の両方を達成することに役立つ。一実施形態において、フェノキシ樹脂は、組成物の全重量の2.0〜6.5重量%、2.2〜5.9重量%または2.5〜5.7重量%であってよい。一実施形態において、フェノキシ樹脂は、全組成物の1.5〜6重量%であってよい。
【0014】
ポリマー厚膜組成物に適切な溶媒は当業者によって認識され、アセテートおよびアルファまたはベータテルピネオールなどのテルペン、あるいはケロシン、ジブチルフタレート、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、ヘキシレングリコールならびに高沸点アルコールおよびアルコールエステルなどの他の溶媒とのそれらの混合物が挙げられる。一実施形態において、溶媒は、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート(カルビトールアセテート)、二塩基性エステルおよびC−11ケトンからなる群から選択される1つ以上の成分を含んでよい。加えて、基板上での適用後に迅速な硬化を促進するための揮発性液体も溶剤に含まれてよい。本発明の多くの実施形態において、グリコールエーテル、ケトン、エステルおよび同様の沸点の他の溶媒(180℃〜250℃の範囲)、ならびにそれらの混合物などの溶媒が使用されてよい。好ましい媒体は、グリコールエーテル類およびβ−テルピネオールをベースとする。所望の粘度および揮発性要件を得るために、これらおよび他の溶媒の様々な組み合わせが調製される。
【0015】
スクリーン印刷は、ポリマー厚膜銀沈着のための一般的な方法であるが、ステンシル印刷、シリンジディスペンシングまたは他の沈着もしくはコーティング技術を含む他のいずれの従来の方法も利用されてよい。
【0016】
一実施形態において、有機媒体は、組成物の全重量の8.0〜24.0重量%、10.0〜22.0重量%または12.0〜21.0重量%で存在してよい。
【0017】
一実施形態において、Ag対フェノキシ樹脂の比は13:1〜35:1の間であってもよい。さらなる実施形態において、Ag対フェノキシ樹脂の比は15:1〜30:1の間であってもよい。
【0018】
厚膜の適用
「ペースト」としても知られるポリマー厚膜銀組成物は典型的に、気体および水分が不浸透性のスパッタポリエステルなどの基板上に沈着される。基板は、ポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどの不浸透性プラスチックなどの可撓性材料のシート、またはその上に沈着された任意の金属もしくは誘電層とのプラスチックシートの組み合わせから構成される複合材料であってもよい。一実施形態において、基板は、金属化(ステンレス鋼)ポリエステルの層、それに続く、半導体層(例えば、CIGS)、それに続く、薄CdS層、それに続く、スパッタインジウムスズ酸化物の積層であり得る。もう1つの実施形態において、薄膜太陽電池の透明導電酸化物(TCO)として、インジウムスズ酸化物の代わりに酸化亜鉛を使用してもよい。
【0019】
ポリマー厚膜銀組成物の沈着は、好ましくは、スクリーン印刷によって実行されるが、ステンシル印刷、シリンジディスペンシングまたはコーティング技術などの他の沈着技術も利用可能である。スクリーン印刷の場合、スクリーンメッシュサイズによって、沈着される厚膜の厚さが制御される。
【0020】
沈着された厚膜は、典型的に140℃で10〜15分間熱に暴露することによって乾燥され、そのようにして薄膜太陽電池が形成される。
【0021】
実施例を挙げることによって、本発明をさらに詳細に検討する。しかしながら、本発明の範囲は、いずれの様式でも、これらの実施例によって限定されることはない。
【実施例】
【0022】
実施例1
7μm(2〜15ミクロンの範囲であった)の平均粒径を有する銀フレークと、Phenoxy Associates,Inc.から入手可能なポリヒドロキシエーテル樹脂(別名フェノキシ樹脂)から構成される有機媒体とを混合することによって、PTF銀電極ペーストを調製した。樹脂の分子量は約20,000であった。銀フレークを添加する前に完全にフェノキシ樹脂を溶解するために、溶媒を使用した。その溶媒は、カルビトールアセテート(Eastman Chemical)であった。
【0023】
組成物銀導体Cは、以下のとおりである。
81.55重量% フレーク状銀
15.53重量% 有機媒体(23.0重量%のフェノキシ樹脂/77.0重量%の溶媒)
2.92重量% カルビトールアセテート溶媒
【0024】
この組成物を遊星ミキサーで30分間混合した。次いで、3本ロールミルに組成物を移し、100psiおよび200psiで2回の通過を受けた。この時点で、組成物を使用して、インジウムスズ酸化物(80オーム/sq抵抗率)スパッタポリエステル上で銀格子パターンをスクリーン印刷した。280メッシュステンレス鋼スクリーンを使用し、一連の線を印刷し、そして銀ペーストを強制空気ボックスオーブン中で15分間150℃で乾燥した。次いで、接触抵抗率は、2×10−3オームcmとして測定された。比較として、銀導体Aなどの標準組成物は、ITOに対する接着力が乏しいため、測定不可であった。銀導体Bなどのもう1つの標準製品は、3×10−1オームcmを示した。銀導体Cに関する接触抵抗率のこのような予想外の大きな改善は、薄膜PV銀組成物の鍵となる特性であり、これによってほとんどの用途での使用が可能となり、太陽電池効率を改善する。以下にまとめの表を示す。
【0025】
【表1】

【0026】
比較例2
実施例1に従って、7μmの平均粒径を有する銀フレークと、ポリヒドロキシエーテル(フェノキシ樹脂)から構成される有機媒体とを混合することによって、PTF銀電極ペーストDを調製した。使用された溶媒は、実施例1と同じものであった(カルビトールアセテート)。Dの組成は以下のとおりである:
70.0重量% フレーク状銀
29.0重量% 有機媒体(19.0重量%フェノキシ樹脂/81重量%溶媒)
1.0重量% カルビトールアセテート溶媒
【0027】
実施例1に従って、組成物を混合し、ロールミルした。実施例1で示されるものと正確に同じように、ペーストをスクリーン印刷し、乾燥させた。測定された接触抵抗率は、銀導体Cより約2桁低い8×10−1オームcmであった。ITOへの接着力を測定したが、銀導体Cより明らかに劣っていた。
【0028】
本明細書に記載されるように製造および試験されるさらなる組成物については、表2に示される。
【0029】
【表2】

【0030】
本明細書の実施例において、ITOへの接着力は、ASTMテープ方法を使用して測定された。銀インクの印刷/乾燥パターンに、600グレードのテープを貼り付けた。連続的な様式でテープを除去し、そして1〜5の任意のスケールに基づき、除去された銀インク材料の量を算定した。ここで5は、材料除去がないこと(すなわち優れた接着力)を表わす。
【0031】
本明細書の実施例において、接触抵抗率は、一連の銀線を、間隔を変えて、酸化透明導電(インジウムスズ酸化物)に印刷することで測定した。銀インクを標準状態で乾燥させた。接触抵抗率を算出するために、間隔に対する線の抵抗をプロットすることによる伝送線路法を使用した。y切片は、2×接触抵抗率を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)銀フレークを含む導電性組成物を、
(b)(i)フェノキシ樹脂を、(ii)有機溶媒中に溶解させて含む有機媒体、
に分散させて含む組成物であって、
前記銀フレークが全組成物の76.0〜92.0重量パーセントであり、前記フェノキシ樹脂が全組成物の2.0〜6.5重量パーセントである組成物
【請求項2】
前記有機媒体が全組成物の8.0〜24.0重量パーセントである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記フェノキシ樹脂が全組成物の2.2〜5.9重量パーセントである請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記有機溶媒が、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート(カルビトールアセテート)、二塩基性エステルおよびC−11ケトンからなる群から選択される1つ以上の成分を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
(a)銀フレークを含む導電性組成物と、
(b)(i)フェノキシ樹脂、(ii)有機溶媒を含む有機媒体と、
を含む組成物であって、
銀対フェノキシ樹脂の比が13:1〜35:1の間である組成物。
【請求項6】
薄膜太陽電池上で銀格子を形成する方法であって、
(a)スパッタポリエステルである基板に請求項1に記載の組成物を適用する工程と、
(b)前記組成物を前記基板上で乾燥させる工程と
を含む方法。
【請求項7】
前記ポリエステルがインジウムスズ酸化物でスパッタされる請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1に記載の組成物を含む銀格子線を含む薄膜太陽電池。
【請求項9】
請求項6に記載の方法によって形成された薄膜太陽電池。
【請求項10】
前記ポリエステルが酸化亜鉛でスパッタされる請求項6に記載の方法。

【公表番号】特表2011−529121(P2011−529121A)
【公表日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−520155(P2011−520155)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【国際出願番号】PCT/US2009/051357
【国際公開番号】WO2010/011719
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】