説明

薄膜形成方法および薄膜形成ユニット

【課題】 形成された薄膜の品質が安定している薄膜形成方法および薄膜形成ユニットを提供することである。
【解決手段】 結晶成長工程では、薄膜形成装置11を用いて薄膜を形成する。このとき形成された薄膜の特性値には、プロセス誤差wが含まれている。計測工程では、計測部12によって形成される薄膜の計測特性値を計測する。このとき計測される計測特性値には、計測誤差νが含まれている。仮想結晶成長工程では、仮想的薄膜形成装置13におって形成される薄膜の特性値を演算によって求め、演算特性値を演算する。計測誤差除去工程では、計測誤差除去部14によって、演算特性値と計測特性値とに基づいて、プロセス誤差wおよび計測誤差νのうち計測誤差νだけを計測特性値から除去した予測特性値を演算することができる。さらに装置条件決定工程では、条件設定部15によって予測特性値に基づいて、薄膜形成装置11の新たな装置条件が決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形成された薄膜の特性値に基づいて次に形成する薄膜の特性値をフィードバック制御し、薄膜の特性値を指令値に近づける薄膜形成ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の薄膜形成ユニットでは、薄膜形成装置によって基板に薄膜を形成し、形成された薄膜の特性値を計測する。薄膜形成ユニットでは、計測結果に基づいて、次の薄膜の装置条件を決定する。
【0003】
図9は、従来の第1の技術の薄膜形成ユニット1の構成を概略示すブロック図である。条件設定部2では、入力された特性値に基づいて、装置条件を決定する。薄膜形成装置3では、たとえば分子線エピタキシャル装置(MBE装置)であり、装置条件に基づいて薄膜を形成する。装置条件とは、たとえば照射すべき分子線の材料の温度、基板の温度および分子線の照射時間である。計測部4では、薄膜の膜厚、組成比および発光特性などの特性値を計測し、計測結果を取得する。薄膜形成ユニット1は、たとえば1ロット分の基板の計測結果を取得する。条件設定部2は、計測結果および入力された特性値に基づいて、次の1ロット分の薄膜が入力された特性値を有する薄膜に形成されるように、新たな装置条件を決定する。薄膜形成装置3は、前記新たな装置条件に基づいて、基板に薄膜を形成する。
【0004】
従来の第2の技術では、熱処理容器内の状態変化に対応するモデル関数を用いて、設定パラメータに基づく制御対象パラメータの目標値を算出し、この算出結果をプロセス条件へフィードバックすることにより、膜厚の再現性を向上させる熱処理装置および成膜方法がある。
【0005】
【特許文献1】特開2002−343726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の技術の薄膜形成装置3で形成される薄膜の特性値を計測部4で計測すると、その計測結果には、入力された特性値に対して計測部4の計測器の分解能などに基づく計測誤差および薄膜の形成する工程において生じるプロセス誤差が含まれる。形成された薄膜の実際の特性値は、入力された特性値にプロセス誤差が加わった特性値であり、計測結果の特性値には、実際の特性値に加えてさらに計測誤差が含まれる。したがって計測結果に基づいて薄膜の特性値をフィードバック制御すると、薄膜は、計測誤差が含まれる特性値を入力された特性値に近づけるように形成される。それ故、形成された薄膜の実際の特性値は、計測結果に基づいて薄膜の特性値を繰返しフィードバック制御しても、入力された特性値に収束することなく、形成される薄膜の品質が不安定になり、また歩留まりの低さに繋がっている。また計測誤差およびプロセス誤差の両方を除去することによっても、計測誤差が含まれる場合と同様に、形成された薄膜の実際の特性値が入力特性値に収束せず、形成される薄膜の品質が不安定になり、歩留まりが低い。
【0007】
従来の第2の技術の成膜方法では、既知の周期的なプロセス変動に対して、自己回帰移動平均モデル等の統計的なモデル関数を作成し、このモデル関数によって推定される値をプロセス条件にフィードバックするとともに、成膜後の膜厚の実績値に基づいてモデル関数を更新させている。しかしながら実際のプロセス変動は不規則な変化を含み、さらに膜厚は計測誤差等を含む。したがって、目標に対して正確なフィードバックを行うには、プロセス変動と計測誤差を分離した上で、プロセスの真の状態を推定して装置設定条件に反映させる必要がある。さらに、状態推定の精度を向上させるには、成膜の物理に則ったモデル関数を作成することが望ましい。
【0008】
本発明の目的は、形成された薄膜の品質が安定している薄膜形成方法および薄膜形成ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、薄膜形成装置を用いて薄膜が形成される成膜工程であって、薄膜が、その特性値にプロセス誤差を含んだ状態で形成される成膜工程と、
形成される薄膜の計測特性値を計測する計測工程であって、計測特性値が、計測誤差を含んだ状態で計測される計測工程と、
前記成膜工程における薄膜形成装置の装置条件に基づいて、形成される薄膜の演算特性値を演算によって求める演算工程と、
演算工程で演算された演算特性値と、前記計測工程で計測された計測特性値とに基づいて、プロセス誤差および計測誤差のうち計測誤差だけが計測特性値から除去された予測特性値を演算する計測誤差除去工程と、
計測誤差除去工程で演算された予測特性値に基づいて、次に薄膜を形成する際の成膜工程における薄膜形成装置の新たな装置条件を決定する装置条件決定工程とを有することを特徴とする薄膜の形成方法である。
【0010】
本発明に従えば、成膜工程では、薄膜形成装置を用いて薄膜を形成する。このとき形成された薄膜の特性値には、プロセス誤差が含まれている。計測工程では、前記形成される薄膜の計測特性値を計測する。このとき計測される計測特性値には、計測誤差が含まれている。演算工程では、形成される薄膜の演算特性値を演算によって求める。計測誤差除去工程では、演算特性値と計測特性値とに基づいて、プロセス誤差および計測誤差のうち計測誤差だけを計測特性値から除去した予測特性値を演算することができる。さらに装置条件決定工程では、予測特性値に基づいて、薄膜形成装置の新たな装置条件が決定される。
【0011】
また本発明は、計測誤差除去工程では、さらに計測特性値と演算特性値とに基づいて、成膜工程での成膜状態を推定し、この推定された成膜工程での成膜状態に基づいて、演算工程で演算特性値を演算するために用いられる演算式が補正されることを特徴とする。
【0012】
本発明に従えば、計測誤差除去工程では、さらに計測特性値と演算特性値とに基づいて、成膜工程での成膜状態を推定し、この推定された成膜状態に基づいて、演算装置で前記特性値を演算するために用いられる演算式を補正することができる。
【0013】
本発明は、その特性値にプロセス誤差を含んだ状態で薄膜を形成する薄膜形成装置と、
形成される薄膜の特性値を計測誤差を含んだ状態で計測する計測手段と、
前記薄膜形成装置で薄膜を形成する際の薄膜形成装置の装置条件に基づいて、形成される薄膜の特性値を演算によって求める演算装置と、
演算装置で演算された特性値と、計測手段で計測された特性値とに基づいて、プロセス誤差および計測誤差のうち計測誤差だけが計測特性値から除去された予測特性値を演算する計測誤差除去手段と
計測誤差除去手段によって演算される予測特性値に基づいて、次に薄膜を形成する際の薄膜形成装置の新たな装置条件を決定する装置条件決定手段とを有することを特徴とする薄膜形成ユニットである。
【0014】
本発明に従えば、薄膜形成装置が薄膜を形成し、計測手段によって前記形成される薄膜の計測特性値を計測する。薄膜形成装置で形成される薄膜の特性値には、プロセス誤差が含まれ、計測手段によって計測された計測特性値には、計測誤差が含まれる。演算装置は、形成される薄膜の特性値を演算によって求める。計測誤差除去手段は、演算特性値と計測特性値とに基づいて、プロセス誤差および計測誤差のうち計測誤差だけを計測特性値から除去した予測特性値を演算される。装置条件決定手段は、予測特性値に基づいて、薄膜形成装置の新たな装置条件を決定することができる。
【0015】
また本発明は、計測誤差除去手段は、さらに計測特性値と演算特性値とに基づいて、薄膜形成装置の成膜状態を推定し、この推定された薄膜形成装置の成膜状態に基づいて、計測手段で計測された特性値と演算装置で演算された特性値とに基づいて、演算装置で演算特性値を演算するために用いられる演算式を補正することを特徴とする。
【0016】
本発明に従えば、計測誤差除去手段は、さらに計測特性値と演算特性値とに基づいて、薄膜形成装置の成膜状態を推定し、この推定された薄膜形成装置の成膜状態に基づいて、演算装置で演算特性値を演算するために用いられる演算式を補正することができる。
【0017】
また本発明は、薄膜形成装置は、基板に複数の分子線を照射して薄膜を形成する分子線エピタキシャル装置であり、
演算装置は、基板に照射される各分子線の分子線強度に基づいて分子線量を演算する分子線量演算部と、前記分子線量に基づいて薄膜の組成比を演算する組成比演算部と、前記組成比に基づいて薄膜の演算特性値を演算する特性値演算部とを含むことを特徴とする。
【0018】
本発明に従えば、分子線エピタキシャル(略称MBE)装置で薄膜の形成を実現することができる。また本発明では、分子線量演算部が各分子線によって基板上に照射された分子線量を演算し、組成比演算部が前記分子線量に基づいて組成比を演算する。特性値演算部は、この組成比に基づいて薄膜の演算特性値を演算する。これによって薄膜の特性値を演算することができる。
【0019】
また本発明は、装置条件には、各分子線の蒸着源の温度T、前記各蒸着源の温度上昇幅αおよび各分子線の照射時間tが含まれ、
分子線量演算部は、分子線の材料毎に定められる定数A、アレニウス係数Bおよび装置条件に基づいて、
【0020】
【数2】

【0021】
式(1)によって分子線強度Fxを演算し、さらに前記分子線強度Fxを照射時間tで積分することによって、分子線量を演算することを特徴とする。
本発明に従えば、MBE装置の各分子線の分子線量を演算することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、計測特性値からプロセス誤差および計測誤差のうち計測誤差だけを除去した予測特性値を演算できる。装置条件決定工程は、演算された予測特性値に基づいて、新たな装置条件を決定する。したがって新たな装置条件に基づいて形成される薄膜の特性値は、従来の技術のように計測誤差を含まないので、所望の特性値との偏差が従来の技術の場合より小さくなる。したがって形成された薄膜の品質を安定させることができ、歩留まりも向上させることができる。さらに前記薄膜を備える半導体素子およびそれを備える装置の品質を安定させ、歩留まりも向上させることができる。また予測値特性値には、計測誤差だけが除去され、プロセス誤差が含まれている。したがって繰り返しフィードバック制御された薄膜の特性値は、所望の特性値に収束する。従来のように所望の特性値に計測誤差を加えた特性値および所望の特性値にプロセス誤差を減算した特性値に収束することがなく、所望の特性値により近似させることができる。
【0023】
本発明によれば、演算特性値および計測特性値に基づいて、成膜工程での成膜状態を推定し、この成膜状態に基づいて、演算工程で用いられる演算式を補正する。したがって成膜状態が経時的または環境状態によって変化しても、この成膜状態の変化に追従して演算工程で用いられる演算式が補正される。これによって演算特性値は、成膜状態の変動を加味した演算特性値となり、追従させて補正させない場合に比べて、形成された薄膜の特性値により近似した特性値となる。このような演算特性値と計測特性値とに基づいて、予測特性値を演算しているので、予測特性値をより所望の特性値に近づけることができ、この予測特性値に基づいて決定された装置条件によって形成された薄膜を所望の特性値に近づけることができる。
【0024】
本発明によれば、計測特性値からプロセス誤差および計測誤差のうち計測誤差だけを除去した予測特性値を演算できる。装置条件決定手段は、予測特性値に基づいて、新たな装置条件を決定する。したがって新たな装置条件に基づいて形成される薄膜の特性値は、従来の技術のように計測誤差を含まないので、所望の特性値との偏差が従来の技術の場合より小さくなる。これによって形成された薄膜の品質を安定させることができ、歩留まりも向上させることができる。さらに前記薄膜を備える半導体素子およびそれを備える装置の品質を安定させ、歩留まりも向上させることができる。したがって繰り返しフィードバック制御された薄膜の特性値は、所望の特性値に収束する。従来のように所望の特性値に計測誤差を加えた特性値および所望の特性値にプロセス誤差に収束することがなく、所望の特性値により近似させることができる。
【0025】
本発明によれば、演算特性値および計測特性値に基づいて、薄膜形成装置の成膜状態を推定し、この成膜状態に基づいて、演算装置で用いられる演算式を補正する。成膜状態が経時的に変化しても、この成膜状態の変化に追従して演算装置で用いられる演算式が補正される。これによって演算特性値は、成膜状態の変動を加味した演算特性値となり、追従させて補正させない場合に比べて、実際に形成された薄膜の特性値により近似した特性値となる。このような演算特性値と計測特性値とに基づいて、予測特性値を演算しているので、予測特性値をより所望の特性値に近づけることができ、この予測特性値に基づいて決定された装置条件によって形成された薄膜を所望の特性値に近づけることができる。
【0026】
本発明によれば、分子量演算部、組成比演算部および特性値演算部によって、MBE装置で形成される薄膜の演算特性値を演算することができ、薄膜形成ユニットをMBE装置で実現することができる。
【0027】
本発明によれば、分子線量の演算を実現できる。各材料の組成比は、分子線量に基づいて演算することができ、また薄膜の特性値は、組成比に基づいて演算することができる。したがって分子線量の演算を実現することによって、薄膜の演算特性値を演算することを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を、複数の形態について説明する。各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する場合がある。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。また実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0029】
図1は、本発明の実施の第1の形態である薄膜形成ユニット10の機能をブロック毎に分けて示すブロック図である。薄膜形成ユニット10は、搬送された基板に薄膜を形成するためのユニットであり、前記薄膜を使用者が入力した特性値に近づけるためのユニットである。薄膜形成ユニット10は、この薄膜の特性値を計測および演算し、この計測結果および演算結果に基づいて、形成される薄膜の特性値をフィードバック制御して、形成される薄膜の特性値を使用者が入力した特性値に近づける。特性値には、たとえば薄膜を構成する材料の組成比、膜厚および光学的特性などがある。薄膜形成ユニット10は、たとえば半導体素子を製造するユニットの一部に含まれ、半導体素子の製造工程の1工程を担っている。薄膜形成ユニット10は、基本的には、薄膜形成装置11、計測部12、仮想的薄膜形成装置13(以下、「仮想装置13」と称する場合がある)、計測誤差除去部14および条件設定部15を含む。
【0030】
薄膜形成装置11は、図示しない搬送装置によって搬送される基板を載置し、装置条件に基づいて、複数の材料を基板に結晶成長させて薄膜を形成する装置である。装置条件には、たとえば制御すべき基板および結晶成長させる材料の温度、ならびに結晶成長させる時間が含まれる。薄膜形成装置11は、たとえばCVD装置およびMBE装置であり、本実施の形態ではMBE装置が用いられている。MBE装置は、図示しない搬送装置によって搬送される基板を載置し、複数の坩堝に充填された各材料、本実施の形態ではインジウム(In)、ガリウム(Ga)およびアルミニウム(Al)の3つの材料の分子線を基板に照射して、基板上に前記各材料を結晶成長させて薄膜を形成する装置である。以下では、薄膜形成装置11にMBE装置が適用される場合について説明する。ただしMBE装置が用いられる場合に限定されず、前述のようにCVD装置であってもよい。薄膜形成装置11には、装置条件に基づいて載置される基板の温度および3つの材料In、GaおよびAlの温度の制御を行う温度制御部16、および載置される基板に各分子線を照射し結晶成長させる結晶成長部17を含む。
【0031】
計測手段である計測部12は、計測誤差除去部14に電気的に接続され、結晶成長部17で形成された薄膜の特性値を計測する機能を有する。計測される薄膜の特性値には、入力すべき特性値と少なくとも同種の特性値が含まれる。計測部12には、たとえば組成比を計測するX線回折装置、膜厚を計測するSEM装置、波長を計測するフォトルミネッセンス測定装置が用いられる。計測部12によって計測された特性値(以下、「計測特性値」と称する場合がある)は、計測誤差除去部14に伝送される。薄膜が形成された基板は、計測部12によって計測された後、図示しない半導体製造工程における次工程の装置に搬送される。
【0032】
演算装置である仮想装置13は、計測誤差除去部14に電気的に接続され、装置条件に基づいて、形成される薄膜の特性値を演算によって求める機能を有する。仮想装置13は、仮想設定部18および仮想結晶成長部19とを含む。仮想設定部18では、結晶成長すべき材料モデルを設定する機能を有する。仮想結晶成長部19は、基板モデルに材料モデルを結晶成長させて薄膜を形成した場合の薄膜の特性値を演算式を用いて演算する機能を有する。本実施の形態では、MBE装置で仮想的に薄膜を形成した場合の薄膜の特性値を演算式を用いて演算する機能を有する。演算された特性値(以下、「演算特性値」と称する場合がある)は、計測誤差除去部14に伝送される。
【0033】
計測誤差除去手段である計測誤差除去部14は、条件設定部15に電気的に接続される。計測特性値には、薄膜形成装置11で薄膜を形成する際のプロセス変動に起因するプロセス誤差、および計測部12の計測器の分解能および計測箇所の再現性などに起因する計測誤差が含まれる。計測誤差除去部14は、計測特性値および演算特性値に基づいて、計測特性値から計測誤差だけを除去した特性値を予測し演算する機能を有する。この予測された特性値を予測特性値と称する場合がある。さらに計測誤差除去部14は、計測特性値および演算特性値に基づいて、仮想結晶成長部19で用いられる演算式を補正する機能を有する。仮想結晶成長部19は、次回基板モデルに仮想的に結晶成長させる際、前記補正された演算式を用いて、演算特性値を演算する。計測誤差除去部14は、予測特性値を条件設定部15に伝送する機能を有する。
【0034】
装置条件決定手段である条件設定部15は、薄膜形成装置11および仮想装置13に電気的に接続され、使用者が図示しない操作部によって入力した薄膜の特性値(以下、「入力特性値」と称する場合がある)に基づいて、薄膜形成装置11の装置条件を設定する機能を有する。条件設定部15は、設定した装置条件を薄膜形成装置11および仮想装置13に伝送する。薄膜形成装置11の温度制御部16は、この装置条件に基づいて、載置される基板および各分子線の材料の温度を制御する。結晶成長部17は、基板に前記各材料の分子線を装置条件の成長時間の間、照射し結晶成長させて薄膜を形成する。また仮想装置13は、前記装置条件に基づいて、演算特性値を演算する。条件設定部15は、予測特性値と入力特性値との差に応じて、今回設定された装置条件を補正し、次回の装置条件を決定し設定する機能を有する。薄膜形成装置11は、この装置条件に基づいて、次の薄膜を形成する。換言すると、薄膜形成装置11は、予測特性値に基づいて形成される薄膜の特性をフィードバック制御し、次に形成される薄膜の特性値を入力特性値に近づけていく。また仮想装置13も同様に、前記装置条件に基づいて次に形成される薄膜の特性値を演算する。
【0035】
図2は、薄膜形成ユニット10の薄膜形成処理の手順を示すフローチャートである。薄膜形成処理は、形成された薄膜を計測部12で計測した計測特性値と仮想装置13で演算した演算特性値とに基づいて、薄膜の特性値をフィードバック制御するものである。薄膜形成ユニット10の電源が入ると、製造処理が開始し、ステップs1へ移行する。特性値入力工程であるステップs1では、使用者が操作部によって入力特性値Rを入力する。入力特性値Rが入力されると、ステップs1からステップs2へ移行する。装置条件決定工程であるステップs2では、条件設定部15が、入力特性値Rに基づいて、分子線の材料、基板の温度、材料の温度および結晶成長させる時間などの装置条件を決定する。条件設定部15は、決定された装置条件を薄膜形成装置11および仮想装置13に伝送し、これらの装置をこの装置条件に設定する。さらに計測誤差除去部14に種々の設定定数を入力し決定する。前記装置を装置条件に設定すると、ステップs2からステップs3およびステップs6へ移行する。ステップs3が薄膜形成装置11で実施される処理であり、ステップs6が仮想装置13でそれぞれ実行される処理である。これらの処理は、同時実行される。ただし同時に実行されることに限らず、別々に実行されてもよい。まず薄膜形成装置11の薄膜の形成および特性値の計測について説明する。
【0036】
温度制御工程であるステップs3では、薄膜形成装置11に搬送された基板を装置条件で設定された温度に制御し、分子線の材料を装置条件で設定された温度に制御する。本実施の形態では、MBE装置のセルの温度を制御することによって、各材料の温度を装置条件で設定された温度に制御する。装置条件で設定される温度に制御されると、ステップs3からステップs4へ移行する。
【0037】
結晶成長工程であるステップs4では、装置条件で設定された成長時間(照射時間)、前記基板に各材料の分子線を照射して結晶成長させて、基板上に薄膜を形成する。薄膜形成装置11で薄膜を形成する場合、温度および装置の状態の変化などの製造工程におけるプロセス変動によって、形成された薄膜の実際の特性値は、入力特性値Rにならず、プロセス上の誤差であるプロセス誤差wを含んだ特性値になる。ステップs4で形成される薄膜は、このプロセス誤差wを含んだ状態で形成される。薄膜を形成すると、ステップs4からステップs5へ移行する。
【0038】
計測工程であるステップs5では、計測部12によって、形成された薄膜の計測特性値を計測し、この計測特性値を計測誤差除去部14に伝送する。計測工程で計測される計測特性値には、形成された薄膜の実際の特性値に加えて、計測部12の計測機器の分解能および計測箇所の再現性などに起因する計測誤差νが含まれる。したがって形成された薄膜の計測特性値には、入力特性値Rに対してプロセス誤差wおよび計測誤差νの2つの誤差が含まれる。計測誤差除去部14に計測特性値を伝送すると、ステップs5からステップs8へ移行する。
【0039】
次に仮想装置13による薄膜の特性値の演算について説明する。モデル設定工程であるステップs6では、仮想装置13が、使用者が図示しない操作部によって入力した分子線の材料の種類、材料の温度に基づいて、材料モデルを設定する。材料モデルを設定すると、ステップs6からステップs7へ移行する。
【0040】
仮想結晶成長工程であるステップs7では、ステップs6で設定された材料モデルに基づいて、演算特性値を演算する。以下では、演算特性値の演算方法について説明する。仮想結晶成長部19は、ステップs6で決定された基板および材料の仮想モデルならびにこれらの温度状態に基づいて、式(2)を演算する。
【0041】
【数3】

【0042】
Yが演算特性値、Hが伝達関数、そしてXが、薄膜がどうのようにして形成されたかの状態を示す係数、つまりプロセス状態を表す係数である。プロセス状態Xは、薄膜形成のプロセスにおいて生じるプロセスの変動および外乱などによって生じる特性値の変動に、演算特性値を追従させるための係数である。換言すると、プロセス状態Xは、装置条件に基づく理想的な特性値からプロセス誤差wが含まれた演算特性値を演算するための係数である。伝達関数Hは、プロセスの変動および外乱などを観測可能な物性値に変換するための伝達関数であり、本実施の形態では薄膜の特性値に変換するための伝達関数である。伝達関数Hは、演算特性値Yの演算に用いられる物性値によって与えられる関数である。
【0043】
本実施の形態において、たとえば薄膜のAlの組成比YAlを演算特性値とする場合を考える。まず分子線強度Fxは、定数A、アレニウス係数B、材料のセルの温度T、前記セルの温度上昇幅αおよび照射時間tとして、式(1)で与えられる。
【0044】
【数4】

【0045】
分子線強度Fxの下付xは、分子線の材料を示し、本実施の形態では、前述のようにIn、GaおよびAlである。次に分子線量Fx_sumは、分子線強度Fを照射時間tで積分した式で与えられ、時刻t1から時刻t2まで分子線を基板に照射した場合、式(3)で与えられる。
【0046】
【数5】

【0047】
分子線量Fx_sumの下付xは、分子線の材料を示し、本実施の形態では、前述のようにIn、GaおよびAlである。Alの組成比YAlは、対象材料の分子線量を各材料の分子線量の総和で除したものに比例するので、この分子線量Fx_sumおよびプロセス状態Xを用いて式(4)で与えられる。
【0048】
【数6】

【0049】
Alの組成比YAlは、Alの分子線量を各材料In、GaおよびAlの分子線量の総和で除したものとプロセス状態Xとの積である。式(4)と式(2)比較すると、Alの組成比YAlを演算する場合の伝達関数HAlが式(5)で与えられる。
【0050】
【数7】

【0051】
伝達関数HAlは、Alの分子線量を各材料n、GaおよびAlの分子線量の総和で除したものとなる。仮想装置13は、この伝達関数HAlおよびプロセス状態Xに基づいて、演算特性値YAlを演算する。演算された演算特性値YAlが計測誤差除去部14に伝送され、伝送されると、ステップs7からステップs8へ移行する。
【0052】
フィルタゲイン演算工程であるステップs8では、計測誤差除去部14が、計測部12で計測された計測特性値と仮想装置13で演算された演算特性値とに基づいて、プロセス状態Xを補正するためのフィルタゲインKを演算する、すなわちプロセス状態Xをフィードバック制御するためのフィルタゲインKを演算する。フィルタゲインKは、仮想装置13の演算式で用いられるプロセス状態Xを真のプロセス状態Xtrueに近づけるためのゲインである。真のプロセス状態Xtrueは、計測演算値に基づくプロセス状態から計測誤差νに起因する誤差を除去したプロセス状態であり、形成された薄膜の薄膜形成工程だけを考慮した実際のプロセス状態である。
【0053】
フィルタゲインKは、真のプロセス状態Xtru eとその真のプロセス状態Xtrueの推定値である推定プロセス状態Xestと誤差Xtrue−Xestの分散が最小となるように与えられる。誤差Xtrue−Xestの分散が最小になるようにフィルタゲインKを演算することによって、前述のようにフィルタゲインKを用いて演算される推定プロセス状態Xestを真のプロセス状態Xtrueに近づけることができる。以下では、カルマンフィルタ法を用いたフィルタゲインKの演算方法について具体的に説明する。
【0054】
まず推定プロセス状態Xestの演算方法について説明する。薄膜形成処理では、計測毎に推定プロセス状態Xestを演算して、推定プロセス状態Xestを真のプロセス状態Xtrueの変動に追従させている。したがって推定プロセス状態Xestは、計測回数毎にその値が変動している。以下では、計測回数をt回目(t=1,2,3・・・・)における推定プロセス状態Xestの演算方法について説明する。計測回数t回目とは、計測部12で形成された薄膜の特性値を計測される回数と同義である。計測t回目の薄膜のプロセス状態をX、計測t回目から計測t+1回目に移ったときのプロセス状態Xtの経時変化を表す係数をA、プロセス変動をwとして、プロセス状態Xt+1は、式(6)で与えられる。
【0055】
【数8】

【0056】
プロセス状態Xt+1は、計測t回目のプロセス状態Xtと係数Aとの積に、プロセスの変動wを加えた式で与えられる。係数Aは、経時変化がなければ、その値が1である。
【0057】
計測t−1回目の推定プロセス状態Xt-1/t-1とすると、これに基づいて、式(6)で演算される計測t回目の演算プロセス状態Xt/t-1は、式(7)で与えられる。
【0058】
【数9】

【0059】
計測特性値Yおよび演算特性値Yt/t-1に基づいて、演算プロセス状態Xt/t-1を補正すると、補正されたプロセス状態Xt/tは、フィルタゲインKを用いて、式(8)で与えられる。
【0060】
【数10】

【0061】
補正されたプロセス状態Xt/tは、演算プロセス状態Xt/t-1および、計測特性値Yと演算特性値Yt/t-1との差Y−Yt/t-1とフィルタゲインKとの積の和で表される。補正されたプロセス状態Xt/tは、真のプロセス状態の推定値であり、計測t回目の推定プロセス状態Xestである。
【0062】
演算特性値が式(2)に基づいて演算されているので、前記式(8)に式(2)を代入すると、推定プロセス状態Xt/tは、式(9)で与えられる。
【0063】
【数11】

【0064】
伝達関数Htは、計測t回目時における装置条件に基づいて決定される伝達関数であり、フィルタゲインKは、計測t回目のフィルタゲインKである。推定プロセス状態Xt/tは、演算プロセス状態Xt/t-1および、計測特性値Yと演算特性値H×Xt/t-1との差Y−Ht/t-1とフィルタゲインKとの積の和で表される。この式によって推定プロセス状態Xt/tが演算される。
【0065】
次に前記推定プロセス状態Xestに基づいて、フィルタゲインKの演算方法について説明する。フィルタゲインKは、真のプロセス状態Xtrueと推定プロセス状態Xestとの推定誤差Xtrue−Xestの分散E[(Xtrue−Xest2]を最小にする値に決定される。ここでE[A]は、Aの期待値を表す。計測t回目の真のプロセス状態XtrueをXとし、推定プロセス状態XestをXt/tとすると、これらの推定誤差Xerrは、式(9)に基づいて、式(10)のように演算される。
【0066】
【数12】

【0067】
推定誤差Xerrは、真のプロセス状態Xtから演算プロセス状態Xt/t-1、および計測特性値Ytと演算特性値Htt/t-1との差Yt−Htt/t-1とフィルタゲインKtとの積を減算した値である。
【0068】
ここで計測特性値Ytは、真のプロセス状態で形成された薄膜の特性値、すなわち形成された薄膜の実際の特性値に計測誤差νが加わったものであるので、真のプロセス状態Xtおよび伝達関数H、さらに計測誤差νを用いて、式(11)で与えられる。計測誤差νtは、計測t回目の計測での計測誤差である。
【0069】
【数13】

【0070】
計測特性値Ytは、伝達関数Htと真のプロセス状態Xtとの積に計測誤差νtが加算された値である。
この計測特性値Ytを式(10)に代入すると、式(12)が得られる。
【0071】
【数14】

【0072】
推定誤差Xerrは、1からフィルタゲインKtと伝達関数Htとの積を減算したものと、真のプロセス状態Xから演算プロセス状態Xt/t-1を減算したものとの積からフィルタゲインKtと推定誤差νtとの積を減算した値である。
この推定誤差Xerrに基づいて、分散E[Xerr2]は、式(13)で与えられる。
【0073】
【数15】

【0074】
推定誤差Xerrの分散E[Xerr2]は、真のプロセス状態Xと演算プロセス状態Xt/t-1との分散E[(Xt−Xt/t-12]に1からフィルタゲインKtと伝達関数Htとの積を減算したものを自乗したものとの積、およびフィルタゲインKtを自乗したものと計測誤差νtの分散E[νt2]との積の和である。
【0075】
分散E[Xerr2]は、フィルタゲインKtの関数であるので、分散E[Xerr2]が最小となるには、分散E[Xerr2]に対するフィルタゲインKの微分値が0となる、すなわち式(14)を満たす必要がある。
【0076】
【数16】

【0077】
式(13)に基づいて、式(14)を展開すると、式(15)が与えられる。
【数17】

【0078】
このようにフィルタゲインKtは、伝達関数Ht、分散E[(Xt−Xt/t-12]および[νt2]を用いて、式(15)で与えられる。式(15)を式(13)に代入すると、式(16)が与えられる。
【0079】
【数18】

【0080】
式(15)を用いて、式(16)からE[νt2]を消去すると、式(17)が与えられる。
【数19】

【0081】
また分散E[(Xt−Xt/t-1)2]は、式(6)および(7)に基づいて、式(18)で与えられる。
【0082】
【数20】

【0083】
計測誤差除去部14は、この式(18)および(15)に基づいて、フィルタゲインKtを演算する。カルマンフィルタ法を用いる場合、プロセス変動および計測誤差が正規分布に従うとする。したがってE[wt2]は、プロセス変動wtの分散を表す設定定数であり、使用者が操作部によって予め入力する定数となり、式(19)で与えらる。E[νt2]は、計測誤差νtの分散を表す設定定数であり、使用者が操作部によって予め入力する定数となり、式(20)で与えられる。
【0084】
【数21】

フィルタゲインKtが演算されると、ステップs8からステップs9へ移行する。
【0085】
予測特性値演算工程であるステップ9では、計測誤差除去部14が、ステップs8で演算されたフィルタゲインKtに基づいて、予測特性値Yestを演算する。ここでも、計測回数をt回目(t=1,2,3・・・・)の予測特性値Yestの演算方法について説明する。まずステップs8で演算されたフィルタゲインKtを式(8)に代入し、計測t回目の推定プロセス状態Xt/tを演算する。これによって計測誤差が除去されている推定プロセス状体Xt/tを演算することができる。次にこの推定プロセス状態Xt/t、計測t回目の伝達関数Hおよび式(2)に基づいて、計測t回目の予測特性値YestであるYt/tを演算すると、式(21)が得られる。
【0086】
【数22】

【0087】
予測特性値Yt/tは、伝達関数Htと推定プロセス状態Xt/tの積であり、計測誤差が除去されている特性値である。このようにして予測特性値Yestを演算すると、ステップs9からステップs10へ移行する。
【0088】
再施行確認工程であるステップs10では、薄膜形成を再施行するか否かを判定する。電源が切られるなどして、薄膜の形成を終了する場合は、薄膜形成処理が終了する。薄膜形成を再施行する場合、演算された予測特性値Yestを条件設定部15に伝送して、ステップs10からステップs11へ移行する。
【0089】
プロセス状態演算工程であるステップs11では、推定プロセス状態Xt/tに基づいて、式(7)を用いて計測t+1回目の演算プロセス状態Xt+1/tを演算する。この演算プロセス状態Xt+1/tを仮想装置13に伝送する。仮想装置13は、計測t+1回目において、前記演算プロセス状態Xt+1/tを用いて、演算特性値Yt+1/tを演算する。演算プロセス状態Xt+1/tを仮想装置13に伝送すると、ステップs11からステップs2へ戻る。
【0090】
ステップs11からステップs2に戻ると、条件設定部15は、入力特性値Rと予測特性値Yestとに基づいて、次回の薄膜形成における装置条件を決定する。この決定された装置条件に基づいて、ステップs3以降の工程が進む。このようにして形成される薄膜の特性値をフィードバック制御し、形成される薄膜の特性値を入力特性値Rに近づけていく。
【0091】
本実施の形態において、結晶成長工程が成膜工程に相当し、仮想結晶成長工程が演算工程に相当する。またフィルタゲイン演算工程および予測特性値演算工程が計測誤差除去工程に相当する。
【0092】
以下では、フィルタゲインK、予測特性値Yt/tおよび推定プロセス状態Xt/tの演算の流れについて具体的に説明する。まずステップs2で、使用者が操作部によって、計測誤差の分散E[νt2]、プロセス変動の分散E[wt2]および係数At、ならびに計測回数1回目の予測値である演算プロセス状態X1/0および分散E[(X1−X1/0)2]として、予め定められる値が入力される。ここで計測誤差の分散E[νt2]およびプロセス変動の分散E[wt2]は、フィルタゲインKのチューニングパラメータである。計測誤差の分散E[νt2]の値を大きく設定すると、フィルタゲインKが小さくなり、プロセス変動の分散E[wt2]の値を大きく設定すると、フィルタゲインKが大きくなる。たとえば計測精度が低い場合、計測誤差の分散E[νt2]の値を大きく設定する。またたとえばプロセス変動が頻繁に起こる場合、プロセス変動の分散E[wt2]の値を大きく設定する。また計測回数1回目の予測値である演算プロセス状態X1/0および分散E[(X1−X1/0)2]は、条件出し時の特性に基づいて決定する。
【0093】
ステップs8では、前記入力された値に基づいて、フィルタゲインK1が式(22)で与えられる。
【0094】
【数23】

フィルタゲインKtが演算されると、ステップs8からステップs9へ移行する。
【0095】
ステップs9では、式(22)で与えられるフィルタゲインK1および式(8)に基づいて、推定プロセス状態X1/1が演算され、推定プロセス状態X1/1は式(23)で与えられる。
【0096】
【数24】

【0097】
この式(23)で与えられる推定プロセス状態X1/1と式(21)に基づいて、予測特性値Y1/1を演算すると、予測特性値Y1/1は式(24)で与えられる。
【0098】
【数25】

【0099】
このようにして予測特性値Y1/1が演算されると、ステップs9からステップs10へ移行し、ステップs10で再施行と判断するとステップs11へ移行する。
【0100】
ステップs11では、推定プロセス状態X1/1に基づいて、演算プロセス状態X2/1が演算され、演算プロセス状態X2/1は式(25)で与えられる。
【0101】
【数26】

【0102】
演算プロセス状態X2/1を演算し、仮想装置13に伝送すると、ステップs11からステップs2へ戻る。再度ステップs2で装置条件が決定され、結晶成長および仮想結晶成長などしてステップs8へ移行すると、ステップs8では、分散E[(X1−X1/0)2]に基づいて、推定誤差Xerrの分散E[Xerr 2]を演算する。推定誤差の分散E[Xerr 2]は、式(26)で与えられる。
【0103】
【数27】

【0104】
この式(26)で与えられる分散E[Xerr 2]と式(18)とに基づいて、
分散E[(X2−X2/1)2]を演算すると、分散E[(X2−X2/1)2]は式(27)で与えられる。
【0105】
【数28】

【0106】
この式(27)で与えられる分散E[(X2−X2/1)2]に基づいて、フィルタゲインK2を演算する。このフィルタゲインK2に基づいて、予測特性値Y2/2、演算プロセス状態X3/2を各工程で演算して、ステップs2へ戻る。同様にしてフィルタゲインKt(t=3,4,5・・・)に基づいて、予測特性値Yt/t、演算プロセス状態Xt+1/tを各工程で演算して、薄膜の特性値を入力特性値に近づける。
【0107】
以下では、本実施の形態の薄膜形成ユニット10が奏する効果について説明する。本実施の形態の薄膜形成ユニット10によれば、計測特性値からプロセス誤差wおよび計測誤差νのうち計測誤差νだけを除去した予測特性値を演算できる。装置条件決定工程では、演算された予測特性値に基づいて、新たな装置条件を決定する。したがって新たな装置条件に基づいて形成される薄膜の特性値は、従来の技術のように計測誤差νを含まないので、入力特性値Rとの偏差が従来の技術の場合より小さくなる。したがって形成された薄膜の品質を安定させることができ、歩留まりも向上させることができる。さらに前記薄膜を備える半導体素子およびそれを備える装置の品質を安定させ、歩留まりも向上させることができる。予測値特性値には、計測誤差νだけが除去され、プロセス誤差wが含まれている。したがって繰り返しフィードバック制御された薄膜の特性値は、入力特性値Rに近づけることができる。従来のように入力特性値Rに計測誤差νを加算した特性値および入力特性値Rにプロセス誤差wを減算した特性値に収束することがなく、入力特性値Rにより近似させることができる。
【0108】
本実施の形態の薄膜形成ユニット10によれば、演算特性値および計測特性値に基づいて、プロセス状態演算工程でのプロセス状態を推定し、このプロセス状態に基づいて、仮想結晶成長工程で用いられる演算式(2)のプロセス状態Xを補正する。プロセス状態が経時的に変化しても、このプロセス状態の変化に追従して演算工程で用いられる演算式(2)のプロセス状態Xが補正される。これによって演算特性値は、プロセス状態の変動を加味した演算特性値となり、追従させて補正させない場合に比べて、実際に形成された薄膜の特性値により近似した特性値となる。このような演算特性値と計測特性値とに基づいて、予測特性値を演算しているので、予測特性値をより入力特性値Rに近づけることができ、この予測特性値に基づいて決定された装置条件によって形成された薄膜を入力特性値Rに近づけることができる。
【0109】
本実施の形態の薄膜形成ユニット10によれば、計測特性値からプロセス状態および計測誤差νのうち計測誤差νだけを除去した予測特性値を演算できる。条件設定部15は、予測特性値に基づいて、新たな装置条件を決定する。したがって新たな装置条件に基づいて形成される薄膜の特性値は、従来の技術のように計測誤差νを含まないので、入力特性値Rとの偏差が従来の技術のものより小さくなる。これによって形成された薄膜の品質を安定させることができ、歩留まりも向上させることができる。さらに前記薄膜を備える半導体素子およびそれを備える装置の品質を安定させ、歩留まりも向上させることができる。したがって繰り返しフィードバック制御された薄膜の特性値は、入力特性値Rに近づけることができる。従来のように入力特性値Rに計測誤差νを加えた特性値および入力特性値Rにプロセス誤差wを減算した特性値に収束することがなく、入力特性値Rにより近似させることができる。
【0110】
本実施の形態の薄膜形成ユニット10によれば、演算特性値および計測特性値に基づいて、計測誤差除去部14でプロセス状態を推定し、このプロセス状態に基づいて、仮想装置13で用いられる演算式(2)のプロセス状態Xを補正する。プロセス状態が経時的に変化しても、このプロセス状態の変化に追従して演算工程で用いられる演算式(2)のプロセス状態Xが補正される。これによって演算特性値は、プロセス状態の変動を加味した演算特性値となり、追従させて補正させない場合に比べて、実際に形成された薄膜の特性値により近似した特性値となる。このような演算特性値と計測特性値とに基づいて、予測特性値を演算しているので、予測特性値をより入力特性値Rに近づけることができ、この予測特性値に基づいて決定された装置条件によって形成された薄膜を入力特性値Rに近づけることができる。
【0111】
本実施の形態の薄膜形成ユニット10によれば、フィルタゲインKを真のプロセス状態Xtrueと推定プロセス状態Xestとの分散が最小になるように決定する。したがってフィルタゲインKを用いて演算される推定プロセス状態Xestによって演算される予測特性値は、計測特性値から計測誤差νを除去した特性値であり、プロセス誤差wが含まれる特性値となる。計測誤差νが含まれていない薄膜の特性値、すなわち真の特性値には、その特性値にプロセス誤差wを含んだ状態で形成される。したがって予測特性値にプロセス誤差wを含ませることによって、形成された薄膜の特性値をより入力特性値Rに近づけることができる。
【0112】
また本発明では、フィルタゲインKが真のプロセス状態Xtrueと推定プロセス状態Xestとの分散が最小になるように決定されるので、このフィルタゲインKに基づいて推定される推定プロセス状態Xestは、真のプロセス状態Xtrueに近似している。したがってこの推定プロセス状態Xestに基づいて、演算される予測特性値Yestは、本来の特性値である真の特性値に近似している。このような予測特性値Yestと入力特性値Rとに基づいて装置条件を設定するので、形成された薄膜の特性値は、入力特性値Rに近似させることができる。
【0113】
本実施の形態の薄膜形成ユニット10によれば、計測回数毎に推定プロセス状態を演算し、この推定プロセス状態に基づいて次回の演算プロセス状態を演算する。仮想装置13は、この演算プロセス状態を用いて次回の演算特性値を演算する。つまり計測回数毎に演算プロセス状態を真のプロセス状態に追従させて、演算特性値を演算している。このようにして演算された演算特性値は、演算プロセス状態を真のプロセス状態に追従させていない場合より、真の特性値に近似している。このように真の特性値により近似している演算特性値に基づいて予測特性値を演算するので、より真の特性値に近似する予測特性値を演算できる。
【0114】
本実施の形態の薄膜形成ユニット10によれば、カルマンフィルタ法を用いて計測誤差νの除去を行っている。これによって予測測定値の演算を実現することができ、この演算によって形成される薄膜の特性値を安定させることができ、薄膜の品質を安定させることができる。
【0115】
図3は、本発明の実施の第2の形態の薄膜形成ユニット10Aの機能をブロック毎に分けて示すブロック図である。本発明の実施の第2の形態の薄膜形成ユニット10Aは、実施の第1の形態の薄膜形成ユニット10に構成が類似している。したがって薄膜形成ユニット10Aについては、実勢の第1の形態の薄膜形成ユニット10と異なる構成についてだけ説明し、同一の構成については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0116】
仮想装置13Aは、計測誤差除去部14に電気的に接続され、装置条件に基づいて、形成される薄膜の特性値を演算し、前記薄膜の仮想モデルを作成する機能を有する。仮想装置13Aは、仮想設定部18、分子線量演算部20、組成比演算部21および特性値演算部22とを含む。
【0117】
分子線量演算部20は、仮想設定部18および組成比演算部21に電気的に接続され、装置条件および仮想設定部18で設定される基板の仮想モデルおよび材料の仮想モデルに基づいて、分子線量を演算する機能を有する。分子線量演算部20で演算された分子線量は、組成比演算部21に伝送される。組成比演算部21は、特性値演算部22に電気的に接続され、分子線量演算部20で演算された分子線量に基づいて、薄膜の組成比を演算する機能を有する。組成比演算部21で演算された薄膜の組成比は、特性値演算部22に伝送される。
【0118】
特性値演算部22は、組成比演算部21で演算された薄膜の組成比に基づいて、薄膜の演算特性値を演算する。薄膜の特性値は、たとえば膜厚および光の発振波長など材料の組成比に基づいて演算可能な特性値である。特性値演算部22で演算された演算特性値は、計測誤差除去部14に伝送される。特性値演算部22は、第1の実施の形態の仮想装置13Aと同様に、演算特性値を演算式に基づいて演算する。この演算式も、第1の実施の形態の薄膜形成ユニット10Aと同様に、計測誤差除去部14によって補正される。
【0119】
図4は、薄膜形成ユニット10Aの薄膜形成処理の手順を示すフローチャートである。薄膜形成処理は、計測部12で計測した計測特性値と仮想装置13Aで演算した演算特性値とに基づいて、形成される薄膜の特性値をフィードバック制御するものである。実施の第2の形態の薄膜形成ユニット10Aの薄膜形成処理は、実施の第1の形態の薄膜形成ユニット10Aの薄膜形成処理と類似している。したがって薄膜形成処理の説明については、実施の第1の形態の薄膜形成ユニット10Aの薄膜形成処理の手順と異なる手順についてだけ説明し、同一の手順については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0120】
ステップs6で基板モデルおよび材料モデルを設定すると、ステップa1へ移行する。分子線量演算工程であるステップa1では、分子量演算部が、ステップs6で決定された基板および材料の仮想モデルならびにこれらの温度状態に基づいて、基板に照射された分子線量を演算する。各材料の分子線強度Fxは、定数A、アレニウス係数B、材料の蒸発源のセルの温度T、前記セルの温度上昇幅αおよび照射時間tとして、前記式(1)で与えられる。
【0121】
【数29】

【0122】
分子線強度Fxの下付xは、分子線の材料を示し、本実施の形態では、前述のようにIn、GaおよびAlである。分子線量Fx_sumは、分子線強度Fを照射時間tで積分した式で与えられ、時刻t1から時刻t2まで分子線を基板に照射した場合、前記式(3)で与えられる。
【0123】
【数30】

【0124】
分子線量Fx_sumの下付xは、分子線の材料を示し、本実施の形態では、前述のようにIn、GaおよびAlである。各材料の分子線量が演算されると、ステップa1からステップa2へ移行する。
【0125】
組成比演算工程であるステップa2では、組成比演算部21が各材料の分子線量に基づいて、薄膜の組成比を演算する。たとえばAlの組成比RAlは、In、GaおよびAlの分子線量FIn_sum、FGa_sumおよびFAl_sumとすると、各材料の組成比Rは、式(17)で与えられる。組成比Rは、実施の第1の形態における式(4)で与えられるAlの組成比YAlと異なり、プロセス状態Xが加味されていない演算上の組成比である。
【0126】
【数31】

各材料の組成比を演算すると、ステップa2からステップa3へ移行する。
【0127】
特性値演算工程であるステップa3では、ステップa2で演算された組成比に基づいて、演算特性値を演算する。特性値演算部22は、ステップa1で演算される分子線量およびステップa2で演算される材料の組成比Rxに基づいて、膜厚および光の発振波長などの特性値を演算する。一例として、結晶成長によって半導体を製造した場合、この半導体から発振される光の発振波長λについて具体的に説明する。光の発振波長λである演算特性値Yは、式(29)で与えられる。
【0128】
【数32】

【0129】
ここでhはプランク定数、cは光速、Egはバンドギャップである。ここでバンドギャップEgは、組成比に基づいて決定される値である。この式(29)を用いて演算特性値が演算される。前記特性値が演算されるとステップa3からステップs8へ移行する。
【0130】
図5は、形成された薄膜の特性値と入力特性値Rとの偏差を示すグラフである。図5において、形成されたの薄膜の特性値および入力特性値Rは、フォトルミネッセンス波長であり、図5は、前記特性値のバッチ毎の偏差を示す。図5は、縦軸が偏差を示し、横軸にバッチ番号、いわゆるロット番号を示す。図5のバッチ番号1〜20(以下、「従来グループ」と称する場合がある)には、従来の技術の薄膜形成ユニット10Aで形成された薄膜の特性値が示され、バッチ番号21〜40(以下、「本実施グループ」)には、本実施の形態の薄膜形成処理で形成された薄膜の特性値が示されている。従来グループでは、計測t回目で形成された薄膜にバッチ番号tを付与し、本実施グループでは、計測t回目で形成された薄膜にバッチ番号(t+20)を付与している。
【0131】
従来グループでは、薄膜の特性値が入力特性値Rに収束するようにフィードバック制御されているけれども、フィードバック制御の回数を重ねても偏差がばらついている。したがって薄膜の特性値にばらつきが生じ、薄膜の品質に安定性がない。また偏差が0に向かって収束していないので、入力特性値Rに近似する特性値を有する薄膜が安定して形成されているとは言えない。これに対して、本実施のグループでは、従来グループに対して、フィードバック制御の回数を重ねるごとに偏差が0へ収束していく。従来グループに対し、薄膜の特性値のばらつきが少なく、薄膜の品質が安定性している。また偏差が0へ収束していくので、入力特性値Rに近似する特性値を有する薄膜が安定して形成されている。
【0132】
図6は、形成された薄膜の特性値と入力特性値Rとの偏差の頻度分布を示すグラフである。図6は、縦軸が頻度を示し、横軸が偏差を示す。図6は、一点鎖線が従来グループの偏差の頻度を示し、実線が本実施グループの偏差の頻度を示している。従来グループでは、偏差−3から偏差3までの範囲に分布しており、本実施グループでは、偏差−1から偏差1までの範囲に分布している。この結果から従来グループより本実施グループの方が、その薄膜の特性値が入力特性値Rに追従させて形成されていることがわかる。
【0133】
図7は、各時刻に、薄膜形成ユニット10Aによって、形成された薄膜の特性値を示すグラフである。図8は、各時刻に、薄膜形成ユニット10Aによって、形成された薄膜の特性値を示すグラフである。図7は、プロセス変動が大きく、計測誤差が小さい場合の、真の特性値30、計測特性値31および推定特性値32の時刻変化を示すグラフであり、縦軸が特性値の偏差を示し、横軸が時刻を示す。図8は、プロセス変動が小さく、計測誤差が大きい場合の真の特性値33、計測特性値34および推定特性値35の時刻変化を示すグラフであり、縦軸が特性値の偏差を示し、横軸が時刻を示す。図7で示されるように、プロセス変動にともなって、真の特性値30、観測特性値31および推定特性値32が大きく変動し、これらの特性値30,31,32がプロセス変動の影響を受けていることが見れる。これに対して、図8で示されるように、プロセス変動が小さく計測誤差が大きい場合、計測特性値34は、計測誤差にともなって、大きく変動しているけれども、推定特性値31は、計測誤差が除去されているので、計測誤差の影響を受けず、あまり変動していない。また推定特性値35は、真の特性値33を追従している。このように計測誤差だけを除去し、形成される薄膜の特性値を真の特性値に近づけるようにフィードバック制御することができる。
【0134】
以下では、薄膜形成ユニット10Aが奏する効果について説明する。本実施の形態の薄膜形成ユニット10Aによれば、分子量演算部、組成比演算部21および特性値演算部22によって、MBE装置で形成される薄膜の演算特性値を演算することができ、薄膜形成ユニット10AをMBE装置で実現することができる。
【0135】
本実施の形態の薄膜形成ユニット10Aによれば、分子線量Fx_sumの演算を実現できる。各材料の組成比Rxは、分子線量Fx_sumに基づいて演算することができ、また薄膜の特性値Yは、組成比Rxに基づいて演算することができる。したがって分子線量Fx_sumの演算を実現することによって、薄膜の演算特性値Yを演算することを実現できる。
【0136】
本実施の形態の薄膜形成ユニット10Aによれば、実施の第1の形態の薄膜形成ユニット10Aと同様の効果を奏する。
【0137】
本実施の形態では、結晶成長部17にMBE装置が用いられているけれども、MBE装置に限定されない。MBE装置に換えて化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:略CVD)装置を用いてもよい。この場合の装置条件などを表1に示す。
【0138】
【表1】

【0139】
装置条件としてセル温度に換えてガス流量が用いられる。またMBE装置の制御対象は、分子線強度であるのに対して、CVD装置の制御対象は、ガス流量である。またMBE装置およびCVD装置の計測項目は、計測すべき特性値を意味し、ともに膜厚または発振波長λである。
【0140】
CVD装置を用いた場合について具体的に説明すると、仮想装置13における仮想モデルの膜厚Yは、単位時間当たりのガス流量をF(t)、伝達関数をH、プロセス状態をXとすると、式(30)で与えられる。
【0141】
【数33】

【0142】
したがって伝達関数Hは、式(31)で与えられる。
【数34】

【0143】
この伝達関数Hを用いて、薄膜形成ユニット10,10Aで薄膜形成処理を行うことによって、結晶成長部17にCVD装置を用いた場合であっても、薄膜形成ユニット10,10Aを実現することができる。ただしCVD装置を用いた場合も、特性値は、膜厚に限定されず、単位時間当たりの成膜量および光の発振波長λであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】本発明の実施の第1の形態である薄膜形成ユニット10の機能をブロック毎に分けて示すブロック図である。
【図2】薄膜形成ユニット10の薄膜形成処理の手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の第2の形態の薄膜形成ユニット10Aの機能をブロック毎に分けて示すブロック図である。
【図4】薄膜形成ユニット10Aの薄膜形成処理の手順を示すフローチャートである。
【図5】形成された薄膜の特性値と入力特性値Rとの偏差を示すグラフである。
【図6】形成された薄膜の特性値と入力特性値Rとの偏差の頻度分布を示すグラフである。
【図7】各時刻に、薄膜形成ユニット10Aによって、形成された薄膜の特性値を示すグラフである。
【図8】各時刻に、薄膜形成ユニット10Aによって、形成された薄膜の特性値を示すグラフである。
【図9】従来の第1の技術の薄膜形成ユニット1の構成を概略示すブロック図である。
【符号の説明】
【0145】
10,10A 薄膜形成ユニット
11 薄膜形成装置
12 計測部
13 仮想的薄膜形成装置
14 計測誤差除去部
15 条件設定部
20 分子量演算部
21 組成比演算部
22 特性値演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜形成装置を用いて薄膜が形成される成膜工程であって、薄膜が、その特性値にプロセス誤差を含んだ状態で形成される成膜工程と、
形成される薄膜の計測特性値を計測する計測工程であって、計測特性値が、計測誤差を含んだ状態で計測される計測工程と、
前記成膜工程における薄膜形成装置の装置条件に基づいて、形成される薄膜の演算特性値を演算によって求める演算工程と、
演算工程で演算された演算特性値と、前記計測工程で計測された計測特性値とに基づいて、プロセス誤差および計測誤差のうち計測誤差だけが計測特性値から除去された予測特性値を演算する計測誤差除去工程と、
計測誤差除去工程で演算された予測特性値に基づいて、次に薄膜を形成する際の成膜工程における薄膜形成装置の新たな装置条件を決定する装置条件決定工程とを有することを特徴とする薄膜の形成方法。
【請求項2】
計測誤差除去工程では、さらに計測特性値と演算特性値とに基づいて、成膜工程での成膜状態を推定し、この推定された成膜工程での成膜状態に基づいて、演算工程で演算特性値を演算するために用いられる演算式が補正されることを特徴とする請求項1記載の薄膜形成ユニット。
【請求項3】
その特性値にプロセス誤差を含んだ状態で薄膜を形成する薄膜形成装置と、
形成される薄膜の特性値を計測誤差を含んだ状態で計測する計測手段と、
前記薄膜形成装置で薄膜を形成する際の薄膜形成装置の装置条件に基づいて、形成される薄膜の特性値を演算によって求める演算装置と、
演算装置で演算された特性値と、計測手段で計測された特性値とに基づいて、プロセス誤差および計測誤差のうち計測誤差だけが計測特性値から除去された予測特性値を演算する計測誤差除去手段と
計測誤差除去手段によって演算される予測特性値に基づいて、次に薄膜を形成する際の薄膜形成装置の新たな装置条件を決定する装置条件決定手段とを有することを特徴とする薄膜形成ユニット。
【請求項4】
計測誤差除去手段は、さらに計測特性値と演算特性値とに基づいて、薄膜形成装置の成膜状態を推定し、この推定された薄膜形成装置の成膜状態に基づいて、計測手段で計測された特性値と演算装置で演算された特性値とに基づいて、演算装置で演算特性値を演算するために用いられる演算式を補正することを特徴とする請求項2記載の薄膜形成ユニット。
【請求項5】
薄膜形成装置は、基板に複数の分子線を照射して薄膜を形成する分子線エピタキシャル装置であり、
演算装置は、基板に照射される各分子線の分子線強度に基づいて分子線量を演算する分子線量演算部と、前記分子線量に基づいて薄膜の組成比を演算する組成比演算部と、前記組成比に基づいて薄膜の演算特性値を演算する特性値演算部とを含むことを特徴とする請求項3または4記載の薄膜形成ユニット。
【請求項6】
装置条件には、各分子線の蒸着源の温度T、前記各蒸着源の温度上昇幅αおよび各分子線の照射時間tが含まれ、
分子線量演算部は、分子線の材料毎に定められる定数A、アレニウス係数Bおよび装置条件に基づいて、
【数1】

式(1)によって分子線強度Fxを演算し、さらに前記分子線強度Fxを照射時間tで積分することによって、分子線量を演算することを特徴とする請求項5記載の薄膜形成ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−80963(P2007−80963A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−264086(P2005−264086)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】