説明

薄膜形成方法及びその装置

【課題】複数の異なる構造および膜組成をもつタンデム積層型有機薄膜機能素子を同一真空槽内で効率的に簡便に形成することが可能な有機薄膜形成装置を実現する。
【解決手段】薄膜形成装置において、真空槽、真空槽内部に形成され各々独立の成膜雰囲気を維持可能な複数の小成膜室、各小成膜室に配置される少なくとも1つの蒸着源、蒸着源に対面する所定の成膜位置に基板を配置させる基板保持手段、および、基板保持手段を駆動する移送機構を備え、移送機構を用いて任意の小成膜室内に任意の基板を配置させ、各小成膜室において基板それぞれが独立してかつ所望の時間に成膜される構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜形成方法および薄膜形成装置にかかり、特に、機能素子を構成する有機薄膜の構造が素子特性に対して主要なパラメータとなる有機薄膜機能素子を形成する有機薄膜形成方法および有機薄膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロニクス分野から発生した次世代の表示素子として大きな市場となることが期待される有機EL素子は、高輝度、高効率で視野角が広く、高速応答性を有し、薄型の表示装置が得られることから近年注目されており、フルカラー化と長寿命化による実現化に向け、鋭意研究が行われている。
【0003】
図6に示すように一般的な有機EL素子は、ガラス基板50上に透明導電膜51を形成した後、有機薄膜52〜54を形成し、次いで、有機薄膜54表面に電極55を積層し、最後に缶56による封止を行うことで全体を保護している。
このように作製される有機EL素子は、各有機薄膜52〜54を、正孔輸送層、発光層、電子輸送層として機能させ、透明導電膜51に正電圧、電極55に負電圧を印加すると、発光層である有機薄膜53が電気ショックにより発光し、ガラス基板50を透過したEL光57が外部に放射される。
【0004】
上述の透明導電膜51は、一般にはITO(Indium-Tin Oxide)薄膜が用いられている。その表面に有機薄膜52〜54を真空蒸着により積層する場合には、透明導電膜51が形成されたガラス基板50を用意し、透明導電膜51の表面処理を行った後、有機薄膜形成装置の真空槽内天井に設置する。前記真空槽内には、少なくとも一個以上の有機材料用蒸着源が配置されており、設置されたガラス基板50の透明導電膜51を有機材料用蒸着源に対向させ、該真空槽内を所定圧力まで排気する。前記有機材料用蒸着源には、予め有機蒸着材料を充填しておき、前記有機材料蒸着源を加熱すると、該真空槽内に該有機蒸着材料の蒸気が放出されるようになる。
蒸着速度制御手段により蒸発速度の安定を確認したところで、前記ガラス基板50下に配置されたシャッターを開放すると、有機蒸着材料の蒸気は該ガラス基板50に到達し、表面に一様な膜厚の有機薄膜が形成される。このように、有機薄膜形成装置を用いれば、真空雰囲気中で該ガラス基板50表面に膜質の良い有機薄膜を形成することが可能となっている。
【0005】
ところで、近年では、有機EL素子の表示装置への幅広い実用化に向け、さらなる高効率化、長寿命化が期待されている。前記有機EL素子の高効率化、長寿命化に向けた課題においては種々のパラメータが重畳することが知られている。その主なパラメータとして材料性能があげられ、有機蒸着材料によって特有のHOMO(最高被占軌道)ならびにLUMO(最低空軌道)の大きさ、バンドギャップ、キャリア移動度、ガラス転移温度等を有するため、前記した複数の性能の改善を目的とし有機合成によって多種多様な構造の化合物が合成されている。中でもイリジウム錯体等の三重項燐光発光を利用した新規発光材料や従来よりもキャリア移動度の大きい新規キャリア輸送性材料等の鋭意開発が行われている。
【0006】
また、材料性能以外に、有機EL素子の効率化、長寿命化に効果を及ぼす主なパラメータとして、有機EL素子を構成する各機能層の膜厚の組み合わせ、およびレーザー色素等をホスト材料に混入させたドーピング型素子における該ドーピングのホスト材料に対する重量パーセント濃度等の全体的な素子構造、各層における膜厚ならびに膜の組成があげられる。
そのため、有機蒸着材料は有機EL素子の各機能層として形成させる際、最適な素子構造が各材料により異なるため、各機能層において種々膜厚を変化させ複数の構造の素子を作製し構造の最適化を行っている。
【0007】
有機EL素子は図6に示すような積層構造を有するため、素子形成には複数回の成膜工程を必要とする。一般に、蒸着源の数が多い場合、あるいは、有機物および無機物蒸着の一環型装置の場合、例えば特許文献1に開示されるようなマルチチャンバータイプの製造装置が用いられることが多い。
【0008】
特許文献1は、発光素子の形成から封止までを大気に曝すことなく処理するマルチチャンバータイプの製造装置であり、複数の成膜室のうち、少なくとも2つの成膜室で平行してそれぞれの成膜室に搬入された基板上に蒸着を行うことにより、基板1枚当りの処理時間を短縮させるものである。また、基板と蒸着源ホルダとを相対的に移動させる手段を設けることにより、基板と蒸着源ホルダとの間隔距離を狭め、蒸着材料の利用効率及びスループットの向上をはかるものである。
【特許文献1】特開2004−47452号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
材料性能および構造の最適化を最大限に向上させても、素子の効率面における内部量子効率には限界があると考えられている。そこで、近年では、いわゆるタンデム積層型有機EL素子と呼ばれる高い内部量子効率による長寿命を目指した新しい有機EL構造が発明され、今後の有機EL製品の実用化の中枢的技術として期待されている。本技術は、陽極-有機層-陰極を1ユニットとした場合、複数のユニットを順次積層させていく独特な構造であり、理論的に内部量子効率の限界がなくなるが、ユニットを重ねるためその分、電圧が上昇するデメリットもある。しかし用途によって、例えば家庭内照明などの実用化に向けて各照明製造メーカーなどで鋭意研究開発が行われている。
ユニット間の陰極および陽極は、電荷発生層と呼ばれる電子および正孔を発生可能な材料で、適度な透明度を有する材料が用いられているが、現在、研究の余地の十分残る課題となっている。
【0010】
前述のとおり複数のユニットおよび機能層から構成されるため、各層を蒸着により順次形成させるためには、各層の膜厚をパラメータとしてとらえ、高効率化、長寿命化の最適実験を行うべく素子の作製を行うとすれば膨大な時間が必要となる。したがって、素子構造の最適化実験の効率的な対策が求められてきた。
したがって、これらを解決し簡便かつ効率的にタンデム積層型有機EL素子を自由に選択でき素子構造および膜の組成形態を変化させることができるものが求められている。
【0011】
従来のマルチチャンバータイプの製造装置は、例えばアームロボット等の搬送手段を備える搬送室に複数の成膜室を連結し、各成膜室間の基板の受渡しは搬送室内の搬送手段を用いて行われる。例えば成膜を施そうとする基板を第一の成膜室から第二の成膜室に移動させる場合、第一の成膜室から搬送室に一度基板を移動させ、搬送室から第二の成膜室に移動させる必要があるが、基板の移動にはゲートの開閉や基板の受渡し等が伴うため、成膜室間での基板の受渡し時間が素子の作製時間に大きな影響を及ぼしていた。例えば複雑なタンデム積層型有機EL素子を作製しようとすると、従来装置では基板1枚当り30時間ほどの処理時間要してしまい素子作製の効率化を阻害していた。素子作製の効率化は、タンデム積層型有機EL素子の様に積層数の多い素子の作製において、特に大きな課題である。
【0012】
また、マルチチャンバータイプの製造装置は、搬送室および搬送手段が装置構成を複雑化し面積を占有するため、装置の大型化も課題の一つとしてあげられる。特許文献1は製造時間を短縮させることを課題とし複数の基板に同一の蒸着を平行して行うものであるが、同一蒸着を行う成膜室を複数設ける必要があるため、更なる装置の大型化を免れない。基板1枚あたりの処理時間を短縮するためには同時処理する基板枚数を増加させればよいが、装置の大型化に直結するため基板1枚あたりの処理時間短縮には限界がある。
【0013】
また、マルチチャンバータイプの製造装置は、処理済基板を搬出した成膜室が次処理基板を搬入するまでの間隔が長いため、基板搬入時に蒸着源を稼動させ、搬出時に蒸着源を停止させることが一般的である。蒸着源を稼動させてから蒸発速度が安定するまでには時間を要するため、各成膜室への基板の搬出入の度に無駄な蒸着材料が消費し、更に蒸発速度の安定に要する時間がそのまま素子作製時間に加算されていた。
本発明は、同一真空槽内で効率的に複数の異なる構造および膜組成をもつタンデム積層型有機薄膜機能素子を簡便に形成することが可能な有機薄膜形成装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の側面は、真空槽、真空槽内部に形成され各々独立の成膜雰囲気を維持可能な複数の小成膜室、各小成膜室に配置される少なくとも1つの蒸着源、蒸着源に対面する所定の成膜位置に基板を配置させる基板保持手段、および、基板保持手段を駆動する移送機構を備え、移送機構を用いて任意の小成膜室内に任意の基板を配置させ、各小成膜室において基板それぞれが独立してかつ所望の時間に成膜される薄膜形成装置である。従って、複数の独立した成膜室に配置された基板の一部又は全部を同時に成膜することもできる。
【0015】
上記第1の側面において、小成膜室は基板を搬出入するゲートを有し、小成膜室内の所定の成膜位置に基板を配置させることにより基板保持手段がゲートを閉蓋し、小成膜室内に外部とは独立した空間を形成するものである。また、小成膜室を同心円状に配列し、移送機構が同心円状に配列した基板保持手段を旋回させ、所望の小成膜室のゲート位置まで所望の基板を保持する基板保持手段を配置させた後、ゲート方向に基板保持手段を移動させてゲートを閉蓋し、基板保持手段をゲート方向と逆方向に移動させることにより小成膜室のゲートを開蓋する。更に、移送機構を用いて順次所望の小成膜室内に基板を移送して基板に多層膜を形成する間、小成膜室内に配置した蒸着源の蒸発速度を一定に維持し、稼動する蒸着源をシャッターにより遮蔽した状態で小成膜室を開放する。
【0016】
上記側面において更に、基板保持手段は自転機構を備えて成膜時に基板を自転させ、蒸着源に再蒸発を防止する冷却機構を設け、複数の蒸着マスクパターンを備えて所望の蒸着マスクパターンを基板下に配置する蒸着マスク変換機構を有し、薄膜形成後の基板を外気に暴露することなく切り離し移動するトランスファーベッセルを備え、予め入力された所望の素子構造に基づいて、蒸着源および移送機構を操作する制御装置を備える。
【0017】
本発明の第2の側面は、真空槽内部に各々独立の成膜雰囲気を維持可能な複数の小成膜室形成し、各小成膜室に少なくとも1つの蒸着源配置し、蒸着源に成膜される基板を対向配置させる基板保持手段を備え、基板保持手段を駆動することにより任意の小成膜室内に任意の基板を配置させ、各小成膜室において独立してかつ所望の時間に成膜を行う薄膜形成方法である。従って、複数の独立した成膜室の一部又は全部で同時に成膜を行うこともできる。
【0018】
上記第2の側面において、小成膜室は基板を搬出入するゲートを有し、ゲートの閉蓋手段に基板を保持する。また、基板を順次所望の小成膜室内に移送して多層膜を形成する間、小成膜室内に配置した蒸着源の蒸発速度を一定に維持し、小成膜室の開放時にはシャッターを用いて蒸着源を遮蔽する。
【0019】
本発明の第3の側面は、第1の側面を有する薄膜形成装置を用い、所望の有機材料を備える小成膜室に順次基板を移送することによる有機層の積層、および、電荷発生性材料を備える小成膜室に基板を移送することによる電荷発生層の形成を繰返し、タンデム積層型有機EL素子を作成する制御方法である。第3の側面において、薄膜形成装置が小成膜室内にシャッターを備え、シャッターの開閉により蒸着源から基板への有機材料の飛散を制御するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、複数の素子を同時に成膜することも可能であるため、素子の最適化実験を迅速かつ効率的に行うことが可能となり、研究開発時間を著しく短縮することが可能となった。更に、比較的高価な材料として知られる有機薄膜機能材料の消費も抑えることができるためコスト削減の効果も奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の成膜室はコンパートメントによって複数箇所に区切られた小成膜室を有し、各小成膜室には少なくとも1つの蒸着源が配置される。蒸着源は、抵抗加熱、電子ビーム、レーザー等の加熱手段を用いて蒸着材料を蒸発または昇華させるものであればよく、また、真空蒸着に限らずスパッタリングやイオンプレーティング等他の手段を用いてもよい。コンパートメントにより画定された各小成膜室は各々独立の成膜雰囲気を維持可能であり、隣接する各小成膜室において異種材料を同時蒸着させても蒸着材料が混入することはない。成膜室を複数の小成膜室に区分することにより、単一の成膜室内において異なる蒸着材料を独立かつ同時に成膜することが可能である。
【0022】
成膜を施そうとする基板は基板保持手段に保持され、基板保持手段は任意の基板を任意の小成膜室に移送可能な移送機構に搭載される。移送機構は少なくとも基板を含む基板保持手段の一部を小成膜室内に露呈し、小成膜室内の蒸着源と対面する所定の成膜位置に基板を配置させることが可能である。小成膜室には基板を搬出入するゲートが形成され、基板保持手段をゲートの蓋部として機能させることにより、基板の受渡し動作を省略し、基板を保持したまま各小成膜室への基板の搬出入を行うことが可能となる。これにより基板の搬送時間を大幅に削減し、従来のマルチチャンバのような搬送室を不要とするため、装置の小型化にも貢献する。基板保持手段は、小成膜室内の所定の成膜位置に基板を配置させることによりゲートを閉蓋し、小成膜室内に外部とは独立した空間を形成するよう設計すればよい。例えば小成膜室を同心円状に配列し、公転機構を用いて同じく同心円状に配列した基板ホルダを旋回駆動することにより所望の蒸着材料を配設する小成膜室のゲートに対面する位置に所望の基板を保持する基板保持手段を位置させ、基板保持手段をゲート方向に直線移動させることにより小成膜室を閉蓋することが可能となる。小成膜室を開蓋する際はゲートと反対方向に基板保持手段を直線移動させればよい。また、小成膜室内に配置した基板ホルダに基板自転機構を取り付ければ、均一な膜厚分布が得られにくい小さな小成膜室でも基板上の膜厚分布を極めて良好にすることが可能となる。
【0023】
基板保持手段に保持される基板を各小成膜室に順次移送することにより、基板表面には多層膜を形成することが可能である。多層膜の形成が終了するまでの間、各小成膜室内の蒸着源は、一度蒸発速度を安定させてからは蒸着源をOFFすることなく蒸着材料を継続的に蒸発または昇華させる。蒸発速度はCPUによるフィードバック制御により一定に保てばよい。蒸着源と基板ホルダの間には、基板面に対して蒸着材料を遮蔽するシャッターを設け、成膜時のみシャッターを開放する。成膜開始前、成膜終了後、および、小成膜室の開放時には、稼動する蒸着源をシャッターにより遮蔽して成膜室内に蒸着材料が飛散することを防げばよい。蒸着源を継続的に稼動することにより、蒸発速度が安定するまでの間消費する無駄な蒸着材料を低減し、蒸着材料の効率的利用に貢献する。また、蒸着源のON/OFFを省略することにより処理時間の短縮にも貢献する。
【0024】
図1は本発明の一実施形態の有機薄膜形成装置であり、成膜室と仕込み室の2室構成となっている。図1(a)は装置内部の概略平面図を示し、図1(b)は同じく装置内部の概略側面図を示す。
成膜室1および仕込み室2は、各々独立の排気系統4,5を備え、真空系統を区切るためのゲートバルブ3を介して連結されている。基板6には2行2列の透明導電膜が形成されたガラス基板を用いるものとし、成膜室1では8枚のガラス基板に薄膜を形成するものとするが、素子の配列および基板の処理枚数は自由に設定可能である。実施例は基板6と同数の基板ホルダ7を準備し、基板ホルダ7に基板6をセットした状態で仕込み室に収納するものとするが、基板ホルダ7に複数枚の基板を搭載しても基板ホルダ7を省略してもよい。
【0025】
仕込み室2には8組の基板ホルダ7を収納可能なマガジン8が配置され、底面にはマガジン昇降機構9が取り付けられている。また、マガジン8内に収納された基板ホルダ7を1組ずつ成膜室1に搬送する直線搬送機構10を備え、ゲートバルブ3を開放して成膜室1内に8組の基板ホルダ7を搬入する。成膜室1には基板ホルダ7の保持手段である8台の基板ホルダ設置台12が備えられ、直線搬送機構10により基板ホルダ設置台12に基板ホルダ7が受渡され、基板ホルダ7は基板ホルダ設置台12の所定の位置にセットされる。仕込み室2天井には、素子作製を終了した基板6を、外気に暴露せずに、グローブボックスなどの不活性ガス雰囲気下に移動させることが可能となる、トランスファーベッセル11が取り付けられている。同図の装置は成膜終了後の基板6を仕込み室2に取出すものとするが、取出し室を別に設けてもよい。
【0026】
成膜室1はコンパートメント13により8箇所の小成膜室14に区切られ、各小成膜室14同士の雰囲気の干渉は発生しない構造となっている。図3は小成膜室14の概略分解図であり、コンパートメント13は底板30、底板30に立設される仕切板31、同じく底板30に立設され仕切板31の周囲を覆う側面板32、仕切板31および側面板32の上面を覆う天板33により構成される。説明のため、図3は側面板32の一部を切り剥がし、天板33のみを分解した状態を示している。また小成膜室14内には蒸着源15のみを示している。天板33には8つの貫通孔18が形成され、1つの小成膜室14に1つの貫通孔18が設けられる。天板33に形成された貫通孔18は各小成膜室14内に基板6を搬出入するゲートとして機能し、貫通孔18を閉蓋することにより小成膜室14内部には独立の成膜雰囲気を維持可能な空間が形成される。ゲートの形状、コンパートメントの形状は図示の例に限らず適宜選択すればよい。
【0027】
天板33上方の所定位置に基板ホルダ設置台12が配置されると、少なくとも基板ホルダ7を含む基板ホルダ設置台12の一部がコンパートメント13の貫通孔18に嵌入される。図2(a)は基板ホルダ設置台12が貫通孔18に嵌入される前の状態を、図2(b)は基板ホルダ設置台12が貫通孔18に嵌入された状態を説明する概略断面図である。基板ホルダ設置台12が図2(b)に示す位置に配置されると、貫通孔18は完全に塞がれ、コンパートメント13により独立の雰囲気を維持可能に隔離された8つの空間が形成される。このとき基板ホルダ7にセットされた基板6は小成膜室14内に配置された蒸着源15に対面する所定の成膜位置に配置され、この位置において成膜が施される。コンパートメント13および基板ホルダ設置台12は、基板ホルダ設置台12がゲート部を閉蓋するときに基板6が所望の成膜位置に配置されるよう予め設計すればよい。小成膜室14を開放する際は、基板ホルダ設置台12を貫通孔18から抜き出し、図2(a)に示す状態にすればよい。
【0028】
同図では8箇所の小成膜室14を設け、マガジン8内に8組の基板ホルダ7を収納可能とするが、小成膜室の数およびマガジン内の基板ホルダ収納数は適宜選択すればよい。
小成膜室14の底面には2つの互いに独立した蒸着源15が配置されており、各蒸着源15には各々に対応する独立の水晶発振式膜厚計16が配置されている。蒸着材料19は有機材料に限らず、無機材料も含めて所望の材料を各小成膜室14に配置させればよい。蒸着源15と基板6の間には蒸着材料19の蒸発速度が安定するまでの間、蒸気を遮蔽するシャッター17が取り付けられている。蒸着源15の底面には冷却機構20が設けられ、蒸着源15を長時間稼動し続けた場合でも蒸着源15への熱の蓄積を回避することができる。
【0029】
基板ホルダ設置台12は、60rpm以上の回転数で回転可能な自転機構21を有し、60rpm以上の比較的高回転数で基板ホルダ7を自転させることにより均一な膜厚分布が得られる。成膜室1には、各小成膜室14上に設置された8個の各基板ホルダ設置台12を昇降させる昇降機構22、および、所望の小成膜室14の直上に基板ホルダ設置台12を旋回させる公転機構23が取り付けられている。実施例では駆動源にステッピングモーターを用い、自転機構21にステッピングモーター24を、公転機構23にステッピングモーター25を接続するものとするが、各機構21,23に接続する駆動源は回転動力を与えるものであればこれに限られるものではない。ステッピングモーター24,25は制御装置26に接続される。制御装置26には基板の自転および公転移動を制御するプログラムが入力され、自転機構21が任意の回転数で回転し、公転機構23が任意の回転角度で停止するようモーターを制御する。制御装置26には、昇降機構21、シャッター17、蒸着源15、および、水晶発振式膜厚計16も接続される。
【0030】
一般に有機物蒸着と無機物蒸着とでは異なる蒸着マスクが用いられるため、有機物蒸着を行う小成膜室14と無機物蒸着を行う小成膜室14を設ける場合には、蒸着マスクを変換できる蒸着マスク変換機構27を取り付ければよい。図4に蒸着マスク変換機構27の一例を示す。図中(a)は概略平面図を、図中(b)は概略側面図を示す。例えば、破線Xにて示す有機物蒸着用マスクと、破線Yにて示す無機物蒸着用マスクとを用いる場合、2種の開口パターン(図ではXおよびY)を備えるマスク板40を用意し、駆動機構41により基板6に対する開口パターンを変更させればよい。所望の小成膜室14に蒸着マスク変換機構27を取り付け、すべて独立に駆動する図示しない駆動源に接続し、制御装置26によって自動制御すればよい。駆動機構41には、例えば圧空による往復動作機構を用いてもよい。
更に、基板6近接下に特願2003−390319号に開示されるようなコンビナトリアルマスクを設置すれば、同一の小成膜室内においても異なる構造の素子を作成することができる。
【0031】
次に、成膜動作について説明する。
基板6をセットした状態の基板ホルダ7を8組準備し、大気圧に開放した仕込み室2のマガジン8内に収納する。このときゲートバルブ3は閉塞し、成膜室1は図示しない真空ポンプを含む排気系統4により所定の真空度に維持しておく。仕込み室2を排気系統5により成膜室1に等しい真空度まで真空排気した後、ゲートバルブ3を開放し、8組の基板ホルダ7を、直線搬送機構10および公転機構23を順次動作させることにより仕込み室2から成膜室1内に移送し、基板ホルダ設置台12上に載置させる。公転機構23を駆動し、各小成膜室14に所望の基板ホルダ7を配置させるよう基板ホルダ設置台12を旋回させる。昇降機構22を駆動し、基板ホルダ設置台12を所定位置まで降下させ、各小成膜室14内に独立の成膜雰囲気を形成する。
【0032】
8室の小成膜室14底面に隣接配置された2つの蒸着源15は、セラミックスからなる容器(るつぼ)を有し、内部に有機または無機の蒸着材料19が充填される。るつぼの周囲には図示しない抵抗加熱ヒータが巻回されており、各蒸着源15のヒータに通電加熱させ、蒸着材料19の蒸気を発生させ、小成膜室14内へ蒸気を放出する。該蒸気の蒸発速度は水晶発振式膜厚計16により検出し、制御装置26により図示しない電流電源へフィードバック制御を行い所定の蒸発速度に安定させる。蒸発速度が安定するまでは蒸気遮蔽用シャッター17を閉じ基板6面へ到達する蒸発物質は遮蔽しておく。
【0033】
自転機構21を駆動させ、基板ホルダ7を所定の回転数で回転させる。回転数の安定化を確認後、各基板6の状態が、所望の材料を成膜する位置にある場合、基板ホルダ7下に配置したシャッター17を開放し、加熱によって発生した蒸気を基板表面に付着させる。ただし、基板6の状態によっては、所望の材料が蒸着できる位置にない場合があるが、その際はシャッター17を開放せず、他の材料の蒸着が終了するまで待機する。成膜を開始させた小成膜室14においては、水晶発振式膜厚計16等によって、所望の膜厚まで、膜を基板上に堆積させた後、シャッター17を閉じ、自転機構21を停止させる。このとき蒸着源15の電源はOFFすることなく蒸発速度は安定させたままとする。蒸発速度を一定に保っているため、膜厚は各蒸着源15の蒸気の付着時間により制御できる。
【0034】
成膜中の全ての基板6に所望の材料を目的の膜厚まで蒸着させた後、基板ホルダ設置台12を昇降機構22により上昇させ小成膜室14を開放する。このときすべての小成膜室14内において、シャッター17が基板6面に対して蒸着材料19を遮蔽した状態であるため、蒸着材料19が成膜室14内に飛散することはない。各基板ホルダ7が所望の小成膜室14に配置されるように、公転機構23を用いて基板ホルダ設置台12を旋回移動させ、昇降機構22を用いて基板ホルダ設置台12を降下させ、小成膜室14内に再度独立の成膜雰囲気を形成する。シャッター17を開けば成膜が開始するため、各小成膜室14で所望膜厚まで成膜を行い成膜終了と同時にシャッター17を閉じる。このとき所望の小成膜室14に配置されていない基板6を搬入した小成膜室14ではシャッター17は開放せず閉じたままとすればよい。全ての小成膜室14で成膜が終了した後、同様に全ての小成膜室14を開放し、基板ホルダ設置台12を旋回させればよい。自転動作、成膜動作、昇降動作、公転動作を順次繰り返し、成膜室に搬入した8枚の基板6に、所望の膜厚、構造、膜組成の薄膜を形成し終えた時点で蒸着源15の稼動を停止し、成膜後の基板6は仕込み室のトランスファーベッセル11から真空状態を維持したまま切り離して移動させればよい。公転機構23により層の成膜順などを種々組み合わせることで、多数の構造もしくは組成の素子を同一真空槽内で同時に形成することが可能となる。
【0035】
以下図1に示す装置の制御フローについて説明する。
まず、蒸着開始前に予め制御装置26に所望の素子を作製するための動作プログラムを入力する。動作プログラムには、公転動作のプログラム、蒸着源のプログラム、シャッター開閉のプログラム、自転動作のプログラム、蒸着マスクの変換動作のプログラムが含まれる。プログラムは必要に応じて追加・削除すればよく、また、ここでは公転動作のプログラムにより公転機構22と昇降機構23を制御することとする。小成膜室14には番号を付し、各小成膜室14に配置した蒸着材料19を小成膜室番号に対応させて動作プログラムに入力する。同様に成膜室1内に搭載した基板6に番号を付し、基板番号を入力する。また、基板番号に対応させて所望の素子構造の層番号を付し、層番号に対応する膜厚および膜組成を入力する。
【0036】
公転動作のプログラム入力では、公転の停止位置および蒸着時間を入力する。蒸着源のプログラム入力では、蒸発速度を入力する。シャッター開閉のプログラム入力では、任意の基板番号の素子構造における何層目であるかおよび蒸着時間を入力する。自転動作のプログラム入力では、自転の回転数および蒸着時間を入力する。蒸着マスクの変換動作のプログラム入力では、任意の基板番号および層番号を入力し、蒸着マスク変換のタイミングを設定する。
【0037】
動作プログラムを入力することにより、公転のためのステッピングモーター25を操作して、所望の蒸着材料が配置された位置に設置すること、自転のためのステッピングモーター24を操作して成膜中の基板回転数を目的の回転数に保つこと、また、シャッター開閉動作において基板6を所望の時間蒸着源15に対して露出するようにシャッター17を開くこと、再度、基板公転のためのステッピングモーター25を操作して基板6を次層の小成膜室14に移動することが可能となる。蒸着源15を露出するシャッター17の開時間および自転回転数は適宜選択すればよい。また、有機物用の小成膜室から無機物用の小成膜室に移動する場合等、蒸着マスクの変換が必要となる際は、蒸着マスク変換機構27を操作すればよい。
【0038】
成膜時、自転動作、シャーター開閉は各小成膜室14で行うが、同図の装置では自転動作のON/OFFを1回ずつ、シャッター開閉動作を1回ずつ行った時点で各小成膜室における蒸着を終了するプログラムとする。蒸着は、蒸発速度の安定性と自転回転数を確認後開始する。任意の基板および層番号における所定時間の蒸着後、シャッター17を閉じ、順次所望の材料を配置した小成膜室14へ移動させる。同様に動作プログラムで指定された位置および時間に従い、プログラムされた所定時間の蒸着およびマスクの移動が終了した時点で成膜を終了する。
【0039】
図5に4枚の基板に4層の薄膜を積層する場合の操作フロー図を示す。基板番号は1〜4とし、蒸着材料A´〜D´を備える小成膜室番号をA〜Dとする。説明を簡略化するため4層の薄膜を作製する例を示すが、小成膜室の数、基板数、積層数は適宜選択すればよい。
フロー図には自転動作および公転動作のON/OFFは省略するが、自転動作はシャッター開前にONし、シャッター閉後にOFFするものとし、公転動作は小成膜室への基板搬出前にONし、基板搬入後にOFFするものとする。
【0040】
まず、小成膜室Aのみ蒸着を開始し、基板1に薄膜材料A´を所望の膜厚堆積させる。蒸着源の蒸発速度は一定速度に保っているため、膜厚はシャッター開からシャッター閉までの時間により調整すればよい。小成膜室B〜Dは蒸着源をOFFした状態のため、小成膜室Aの蒸着が終了した時点で全ての小成膜室を開放し、基板の搬出入を行う。
【0041】
次に、小成膜室Bに搬入した基板1の蒸着を開始し、薄膜材料A´上に薄膜材料B´を所望の膜厚堆積させる。同時に小成膜室Aでは次に成膜を開始する基板4に薄膜材料A´を所望の膜厚堆積させる。小成膜室では蒸着源はONしたままの状態であるため、シャッターの開閉のみで成膜を行う。小成膜室C〜Dは蒸着源をOFFした状態のため、小成膜室AおよびBの蒸着が終了した時点で全ての小成膜室を開放し、基板の搬出入を行う。
【0042】
次に、小成膜室Cに搬入した基板1の蒸着を開始し、薄膜材料B´上に薄膜材料C´を所望の膜厚堆積させる。同時に小成膜Aでは基板3に薄膜材料A´を、小成膜室Bでは基板4に薄膜材料B´を所望の膜厚堆積させる。小成膜室A〜Cの全ての蒸着が終了した時点で全ての小成膜室を開放し、基板の搬出入を行う。
【0043】
次に、小成膜室Dに搬入した基板1の蒸着を開始し、薄膜材料C´上に薄膜材料D´を所望の膜厚堆積させる。同時に小成膜室A〜Cにおいても成膜を施し、小成膜室A〜D全ての蒸着が終了した時点で基板の搬出入を行う。
同図では、蒸着材料A´〜D´を4層積層させた時点で所望の素子が作製されるため、この時点で小成膜室Aの蒸着源をOFFする。同様の作業を繰返し、蒸着の終了した小成膜室から順に蒸着源をOFFし、基板1〜4まで全てに所望の素子が作製された時点で、成膜室から基板を取出せばよい。各層の膜厚はシャッターの開閉動作により変更できるため、各基板で膜厚を変更すれば4種の素子を作製可能である。また、蒸着材料の種類を増やせば、或いは複数種の蒸着材料から同時蒸着する場合は各蒸着源の蒸発速度を変更すれば、基板搬出入の動作変更により膜組成の異なる複数種の素子を作成することも可能である。
【0044】
同図では小成膜室を一巡させた時点で成膜を終了させているが、タンデム構造の素子を作製する場合等は、小成膜室間を複数回巡回させて複数のユニットを積層させてもよい。
実施例は、単一真空槽内を小成膜室に区切り有機物用および無機物用の複数の蒸着源を配置し、旋回動作という簡単な基板公転機構で駆動することにより複数の素子を同時に処理することが可能となる。また、基板の受渡しを省略することにより基板の移動時間を削減し、基板1枚当りの処理時間を大幅に削減することが可能となる。更に、小成膜室の数だけ素子が作製可能となり、膜厚、層構造、膜組成などをパラメータとた素子構造の最適化実験であっても効率的にサンプルを作成することが可能となる。加えて、成膜工程が増えるほど同時処理枚数が増加するため、基板1枚当りの処理時間を更に削減することができる。
【0045】
以下、図1に示す有機薄膜形成装置を用い、図8に示すタンデム型構造の有機EL素子を8種作製した例を示す。図8に示す素子は、正孔輸送層、発光層1、発光層2、および、電子輸送層からなる有機層を、電荷発生層を介在させて3ユニット積層させたものである。正孔輸送層として図7(a)に示す化学構造式のジアミン系化合物であるα-NPDを、電子輸送層として図7(b)に示すBalqを、発光層1として図7(c)に示すperyleneを0.5wt%ドープしたBalqを、発光層2として図7(d)に示すrubreneを1wt%ドープしたBalqを、電荷発生層として無機材料であるV2O5を用いている。
【0046】
基板には、ITOからなる厚さ130nmの透明導電膜を2.0mm×2.0mm×4ヶあらかじめパターニング形成した50mm×50mmのガラス基板を用い、該ガラス基板を搭載した基板ホルダは8組準備した。基板番号は1〜8とする。るつぼに装填する有機蒸着材料の深さは4mmとした。蒸発速度は全ての蒸着源において一定となるように安定させ、自転機構の回転速度は60rpmとした。
【0047】
小成膜室番号をA〜Hとすると、各小成膜室に配置した蒸着材料、および蒸発速度は表1に示す通りである。小成膜室EおよびFには蒸着材料を配置せず、成膜は行わないものとする。小成膜室A〜Hは図9に示す通りに配列されるものとし、数字は基板番号を示す。基板の搬出入時は公転機構を矢印方向に45°旋回させるものとし、基板は隣接する矢印方向の小成膜室に移動するものとする。図9(a)は、成膜開始時における基板配置を示し、公転機構を駆動することにより基板は図9(b)に示す位置に移動する。
【0048】
小成膜室の数は異なるが、基板1〜8は図5に示すフローチャートと同様に動かせばよい。図9(a)に示す基板位置から成膜を開始し、各小成膜室を4巡させれば全ての基板に図8に示すタンデム型有機EL素子が作成される。
【0049】
具体的には、小成膜室Aにおいて正孔輸送層を形成後、小成膜室Bにおいて発光層1、小成膜室Cにおいて発光層2、小成膜室Dにおいて電子輸送層を順次積層する。小成膜室Eおよび小成膜室Fにおいて待機後、小成膜室Gにおいて電荷発生層を形成する。その後小成膜室Hにおいて成膜を行わずに待機した後再度小成膜室Aに基板を搬入して次ユニットの形成を開始する。小成膜室A〜DおよびGにおいて2層目のユニットを積層後、小成膜室Hにおいて同様に待機し、再び小成膜室Aに基板を搬入して次ユニットの形成を開始する。小成膜室A〜Dにおいて3層目のユニットを積層後、小成膜室Gでは成膜を行わずに待機し、小成膜室Hにおいて陰極を形成すればよい。また、小成膜室Gおよび小成膜室Hにおいては蒸着マスク変換機構を設け、マスクパターンの変更を行った。
【0050】
小成膜室Aにおける第1層目のユニット形成時のみ、正孔輸送層の蒸着は基板1から8で各60、120、180、240、270、300、330、360秒間とし、α-NPDの蒸気が該ガラス基板のITO膜表面で12nm,24nm,36nm,48nm,54nm,60nm,66nm,72nmの8種類の膜厚になるように堆積させた。第2層目、第3層目のユニット形成時は、正孔輸送層の蒸着は基板1〜8で100秒間とし、20nm堆積させた。
小成膜室Bおよび小成膜室Cでは各発光層を30nm、小成膜室Dでは電子輸送層を20nm、小成膜室Gでは電荷発生層を5nm堆積させた。
小成膜室Hには、モリブデンの材質で形成された蒸着ボートにフッ化リチウムを配置し、蒸着速度0.01nm/sでLiF(フッ化リチウム)を膜厚0.5nm堆積させた後、タングステン製のフィラメントコイルにワイヤ形状のアルミニウム金属を配置させ、フィラメントに通電加熱を行い、蒸着速度1nm/sでアルミニウム金属を膜厚100nm堆積させた。リチウムの化合物であるLiF(フッ化リチウム)は、有機薄膜とアルミニウム金属の間に低仕事関数の中間層として導入される。
【0051】
該ガラス基板上のタンデム型構造における各層の膜厚の組み合わせは用いた真空蒸着装置内の小成膜室の数と同じ8個であり作製された該タンデム型の素子構造を以下に示す。中間層ha省略するが、基板1〜8において中間層の構造は同一である。
(1)ITO(130nm)/α-NPD(12nm)/Balq...../LiF(0.5nm)/Al(100nm),
(2)ITO(130nm)/α-NPD(24nm)/Balq...../LiF(0.5nm)/Al(100nm),
(3)ITO(130nm)/α-NPD(36nm)/Balq...../LiF(0.5nm)/Al(100nm),
(4)ITO(130nm)/α-NPD(48nm)/Balq...../LiF(0.5nm)/Al(100nm),
(5)ITO(130nm)/α-NPD(54nm)/Balq...../LiF(0.5nm)/Al(100nm),
(6)ITO(130nm)/α-NPD(60nm)/Balq...../LiF(0.5nm)/Al(100nm),
(7)ITO(130nm)/α-NPD(66nm)/Balq...../LiF(0.5nm)/Al(100nm),
(8)ITO(130nm)/α-NPD(72nm)/Balq...../LiF(0.5nm)/Al(100nm),
【0052】
前記のような構造を有する8個のタンデム積層型有機EL素子の輝度-電圧特性、視感効率-電圧特性、電流効率-電圧特性の測定を行った結果(7)番目の素子構造であるITO(130nm)/α-NPD(66nm)/ Balq/.....LiF (0.5nm)/Al(100nm)がもっとも光学特性が良いことわかった。本素子作製では第1層目の正孔輸送層の膜厚のみをパラメータとして変化させたが、任意の層の膜厚もしくは膜組成を変化させることにより作製可能な素子構造には際限がない。
【0053】
表2は、上記8種の有機EL素子の作製に要した時間を示す。合計時間は各動作項目に要した時間を加算した時間であり、8枚の基板作製に要した時間である。8つの小成膜室を4巡させているため動作項目(V)、(VII)、(VIII)の動作回数は各々32回であり、基板1枚当り小成膜室Gにおいて2回小成膜室Hにおいて1回成膜が施されるため動作項目(VI)の動作回数は24回となる。従来装置では、複雑なタンデム積層型有機EL素子を作製する際30時間程度要していたが、図1に示す装置を用いることにより作製時間を5時間43分まで短縮した。実施例は同時に8枚の基板を作製しているため、1枚当りの作製時間は43分となり、素子作製の効率を著しく向上させている。本発明の装置を用いれば、従来の方法では素子構造の最適化実験を一素子ずつ成膜することによって時間を要してしまうところを、複数の基板を同時に成膜することによって短縮でき、膨大な研究開発時および研究開発費用を解消することができる。
【0054】
上記した実施の形態および実施例は本発明の技術的思想に基づいて変形することが可能である。
上記実施例では有機EL素子の作製例をあげたが、それ以外の有機薄膜機能素子の作製にも利用できる。例えば、近年注力されている有機薄膜トランジスタの作製プロセスもしくは将来への応用が期待される有機太陽電池の作製プロセスにも利用してもよい。
上記実施例として用いた有機EL素子は、3ユニットとして構成される限定された構造であるが、通常有機ELの素子構造はさらに各機能層を有する積層構造のものが多くこれに利用してもよい。また、レーザー色素等のドーピング材料を添加する素子の作製に応用してもよい。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】有機薄膜形成装置概略図
【図2】小成膜室概略図
【図3】小成膜室概略斜視図
【図4】蒸着マスク変換機構概略図
【図5】操作フロー図
【図6】有機EL素子を示す説明図
【図7】蒸着材料説明図
【図8】タンデム型構造の有機EL素子を示す説明図
【図9】実施例における小成膜室番号および基板番号を示す図
【符号の説明】
【0058】
1 成膜室
2 仕込み室
3 ゲートバルブ
4 排気系統
5 排気系統
6 基板
7 基板ホルダ
8 マガジン
9 マガジン昇降機構
10 直線搬送機構
11 トランスファーベッセル
12 基板ホルダ設置台
13 コンパートメント
14 小成膜室
15 蒸着源
16 水晶発振式膜厚計
17 シャッター
18 貫通孔
19 蒸着材料
20 冷却機構
21 自転機構
22 昇降機構
23 公転機構
24 ステッピングモーター
25 ステッピングモーター
26 制御装置
27 蒸着マスク変換機構
30 底板
31 仕切板
32 側面板
33 天板
40 マスク板
41 駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽、該真空槽内部に形成され各々独立の成膜雰囲気を維持可能な複数の小成膜室、各小成膜室に配置される少なくとも1つの蒸着源、該蒸着源に対面する所定の成膜位置に該基板を配置させる基板保持手段、および、該基板保持手段を駆動する移送機構を備え、該移送機構を用いて任意の小成膜室内に任意の基板を配置させ、各小成膜室において該基板それぞれが独立してかつ所望の時間に成膜されることを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項2】
請求項1記載の薄膜形成装置であって、
該小成膜室は該基板を搬出入するゲートを有し、該小成膜室内の所定の成膜位置に該基板を配置させることにより該基板保持手段が該ゲートを閉蓋し、該小成膜室内に外部とは独立した空間を形成することを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項3】
該小成膜室を同心円状に配列する請求項2記載の薄膜形成装置であって、
該移送機構が、
同心円状に配列した該基板保持手段を旋回させ、所望の小成膜室のゲート位置まで所望の基板を保持する該基板保持手段を配置させた後、該ゲート方向に該基板保持手段を移動させて該ゲートを閉蓋し、該基板保持手段を該ゲート方向と逆方向に移動させることにより該小成膜室のゲートを開蓋することを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項4】
請求項1乃至3記載の薄膜形成装置であって、
該移送機構を用いて順次所望の小成膜室内に該基板を移送して該基板に多層膜を形成する間、該小成膜室内に配置した該蒸着源の蒸発速度を一定に維持し、稼動する該蒸着源をシャッターにより遮蔽した状態で該小成膜室を開放することを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項5】
請求項1乃至4記載の薄膜形成装置であって、
該基板保持手段は自転機構を備え、成膜時に該基板を自転させることを特徴とする薄膜膜形成装置。
【請求項6】
請求項1乃至4記載の薄膜形成装置であって、
複数の蒸着マスクパターンを備え、所望の蒸着マスクパターンを基板下に配置する蒸着マスク変換機構を有することを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項7】
請求項1乃至4記載の薄膜形成装置であって、
該蒸着源に再蒸発を防止する冷却機構を設けたことを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項8】
請求項1乃至4記載の薄膜形成装置であって、
薄膜形成後の該基板を外気に暴露することなく切り離し移動するトランスファーベッセルを備えたことを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項9】
請求項1乃至4記載の薄膜形成装置であって、
予め入力された所望の素子構造に基づいて、該蒸着源および該移送機構を操作する制御装置を備えたことを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項10】
真空槽内部に各々独立の成膜雰囲気を維持可能な複数の小成膜室形成し、各小成膜室に少なくとも1つの蒸着源配置し、該蒸着源に成膜される基板を対向配置させる基板保持手段を備え、該基板保持手段を駆動することにより任意の小成膜室内に任意の基板を配置させ、各小成膜室において独立してかつ所望の時間に成膜を行うことを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項11】
請求項10記載の薄膜形成方法であって、
該小成膜室は該基板を搬出入するゲートを有し、該ゲートの閉蓋手段に該基板が保持されることを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項12】
請求項10記載の薄膜形成方法であって、
該基板を順次所望の小成膜室内に移送して多層膜を形成する間、該小成膜室内に配置した該蒸着源の蒸発速度を一定に維持し、該小成膜室の開放時にはシャッターを用いて該蒸着源を遮蔽することを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項13】
請求項1記載の薄膜形成装置を用い、
所望の有機材料を備える該小成膜室に順次該基板を移送することによる有機層の積層、および、電荷発生性材料を備える該小成膜室に該基板を移送することによる電荷発生層の形成を繰返し、タンデム積層型有機EL素子を作成することを特徴とする制御方法。
【請求項14】
請求項13記載の制御方法であって、該薄膜形成装置が該小成膜室内にシャッターを備え、該シャッターの開閉により該蒸着源から該基板への該有機材料の飛散を制御することを特徴とする制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−274396(P2006−274396A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−98032(P2005−98032)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000146009)株式会社昭和真空 (72)
【Fターム(参考)】