説明

薄膜形成用の蒸着材及び該薄膜を備える薄膜シート並びに積層シート

【課題】透明性及びガスバリア性に優れた薄膜の形成に好適な蒸着材及び該薄膜を備える薄膜シート並びに積層シートを提供する。
【解決手段】第1酸化物粉末と第2酸化物粉末とを混合して作られた蒸着材において、第1酸化物粉末がMgO粉末であって、第1酸化物粉末の第1酸化物純度が98%以上であり、第2酸化物粉末がCaO及びZnOの混合粉末であって、第2酸化物粉末の第2酸化物純度が98%以上であり、蒸着材が第1酸化物粒子と第2酸化物粒子を含有するペレットからなり、蒸着材中の第1酸化物と第2酸化物とのモル比が5〜90:95〜10であり、かつ、ペレットの塩基度が0.1以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、ガスバリア性等の諸特性に優れた薄膜の形成に好適な蒸着材及び該薄膜を備える薄膜シート並びに積層シートに関する。更に詳しくは、これらの諸特性に優れ、特に液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ又は太陽電池モジュール等のガスバリア材として好適な薄膜の形成に用いる蒸着材及び該薄膜を備える薄膜シート並びに積層シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ或いは太陽電池等の機器は、一般に湿気に弱く、吸湿によって急速にその特性を劣化させるため、高防湿性、即ち酸素や水蒸気等の透過又は侵入を防止するガスバリア性を有する部品を装備することが不可欠である。
【0003】
例えば、太陽電池の例では、太陽電池モジュールの受光面とは反対側の裏面にバックシートが設けられている。このバックシートは、基材に、高防湿性を有するガスバリア材と、それらを保護する部材等から構成されたものが代表的である。
【0004】
このような太陽電池モジュールを構成するバックシートとしては、例えば、高強度の耐熱性耐候性樹脂により防湿性金属箔をサンドイッチし、更にその一方にガラス質の蒸着皮膜を設けてなる太陽電池モジュールの裏面保護用シート材料が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。このシート材料では、ガスバリア材として、アルミニウム箔、亜鉛メッキ鉄箔、錫メッキ鉄箔等の金属箔が用いられている。また、高防湿フィルムと高耐候フィルムとを積層して一体化してなる太陽電池カバー材を、裏面側保護部材に用いた太陽電池が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。この太陽電池カバー材における高防湿フィルムには、PETフィルム等の基材フィルムに、ガスバリア材として、CVD(化学蒸着)、PVD(反応蒸着)法等によってシリカ、アルミナ等の無機酸化物のコーティング膜よりなる防湿膜を形成したものが用いられている。また、無機酸化物層を呈するプラスチックフィルム又はプラスチック複合材からなるバリア層を備えた光起電モジュールが開示されている(例えば、特許文献3参照。)。この無機酸化物層には、酸化アルミニウム又は酸化珪素がそのコーティング材料として使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平2−44995号公報(実用新案登録請求の範囲及びカラム5の41〜44行目)
【特許文献2】特開2000−174296号公報(請求項1、請求項7及び段落[0019])
【特許文献3】特表2002−520820号公報(請求項1、及び段落[0019])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に示された裏面保護用シート材料は、ガスバリア材として、アルミニウム箔等の金属箔が使用されているため、このシート材料を太陽電池モジュールのバックシートに適用すると、耐電圧性が低下し、電流がリークするおそれがある。また、金属箔を使用したシート材料は、金属箔の厚さが20μm以下になると、耐熱性耐候性樹脂と金属箔との間に発生するピンホールが増加し、ガスバリア性が著しく低下する。一方、金属箔の厚さを厚くすれば、製造コストが上がってしまうという問題が生じる。また、上記特許文献2及び3において使用されているシリカ、アルミナ等の無機酸化物の場合、高いガスバリア性を得るには膜の厚さを100nm以上確保しなければならず、それでもガスバリア性が十分であるとは言えない。
【0007】
本発明の目的は、透明性及びガスバリア性に優れた薄膜を形成するのに好適であり、大気中での保存安定性に優れた蒸着材を提供することにある。
【0008】
本発明の別の目的は、透明性及びガスバリア性に優れた薄膜を備える薄膜シート及び積層シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点は、第1酸化物粉末と第2酸化物粉末とを混合して作られた蒸着材において、上記第1酸化物粉末がMgO粉末であって、この第1酸化物粉末の第1酸化物純度が98%以上であり、上記第2酸化物粉末がCaO及びZnOの混合粉末であって、この第2酸化物粉末の第2酸化物純度が98%以上であり、蒸着材が第1酸化物粒子と第2酸化物粒子を含有するペレットからなり、蒸着材中の第1酸化物と第2酸化物とのモル比が5〜90:95〜10であり、かつ、ペレットの塩基度が0.1以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に第1酸化物粒子の平均粒径が0.1〜10μmであり、かつ第2酸化物粒子の平均粒径が0.1〜10μmであることを特徴とする。
【0011】
本発明の第3の観点は、図1に示すように、第1又は第2の観点に基づく蒸着材をターゲット材として用いた真空成膜法により第1基材フィルム11上に第1酸化物に含まれる金属元素A及び第2酸化物に含まれる金属元素Bを含む酸化物薄膜12を形成してなり、上記薄膜12中の全金属元素の含有割合を100モル%としたとき、金属元素Aの含有割合が5〜90モル%であり、金属元素Bの含有割合が95〜10モル%である薄膜シート10である。
【0012】
本発明の第4の観点は、第3の観点に基づく発明であって、更に真空成膜法が電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、反応性プラズマ蒸着法、抵抗加熱法又は誘導加熱法のいずれかであることを特徴とする。
【0013】
本発明の第5の観点は、図1に示すように、第3又は第4の観点に基づく薄膜シート10の薄膜12形成側に接着層13を介して第2基材フィルム14を積層してなる積層シート20である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の観点の蒸着材では、第1酸化物粉末がMgO粉末であって、この第1酸化物粉末の第1酸化物純度が98%以上であり、上記第2酸化物粉末がCaO及びZnOの混合粉末であって、この第2酸化物粉末の第2酸化物純度が98%以上であり、蒸着材が第1酸化物粒子と第2酸化物粒子を含有するペレットからなり、蒸着材中の第1酸化物と第2酸化物とのモル比が5〜90:95〜10であり、かつ、ペレットの塩基度が0.1以上であることにより、従来のガスバリア材よりも、ガスバリア性が大幅に向上する薄膜を形成することができる。また、蒸着材の大気中での保存安定性に優れる。
【0015】
本発明の第2の観点の蒸着材では、第1酸化物粒子の平均粒径が0.1〜10μmであり、かつ第2酸化物粒子の平均粒径が0.1〜10μmであることにより、蒸着効率の良い、稠密な蒸着膜に形成できるので、高いガスバリア性を維持し安定化させることができる。
【0016】
本発明の第3の観点の薄膜シートでは、第1酸化物に含まれる金属元素A及び第2酸化物に含まれる金属元素Bを含む薄膜中の全金属元素の含有割合を100モル%としたとき、金属元素Aの含有割合が5〜90モル%であり、金属元素Bの含有割合が95〜10モル%である薄膜を備えることにより、優れた透明性及びガスバリア性を有する。
【0017】
本発明の第5の観点の薄膜シートでは、第3又は第4の観点の薄膜シートの薄膜形成側に、更に接着層を介して第2基材フィルムが積層する構造をとる。これにより、第2基材フィルムが薄膜を保護できるため、高いガスバリア性を維持し安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明実施形態の薄膜シート及び積層シートの積層構造を模式的に表した断面図である。
【図2】従来の薄膜シートの断面構造を模式的に表した図である。
【図3】本発明実施形態の薄膜シートの断面構造を模式的に表した図である。
【図4】蒸着材の保存安定性の評価結果を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。本発明の蒸着材は、薄膜の形成に好適に用いることができる。この蒸着材を用いて形成される薄膜は、酸素や水蒸気等の透過又は侵入を防止するガスバリア材として機能するものである。
【0020】
この蒸着材は、第1酸化物粉末と第2酸化物粉末とを混合して作られる。蒸着材の作製に用いる第1酸化物粉末はMgO粉末であって、この第1酸化物粉末の第1酸化物純度は98%以上、好ましくは98.4%以上であり、第2酸化物粉末はCaO及びZnOの混合粉末であって、この第2酸化物粉末の第2酸化物純度は98%以上、好ましくは99.5%以上である。ここで、第1酸化物粉末における第1酸化物純度を98%以上に限定したのは、98%未満では不純物により結晶性が悪化し、結果的にバリア特性が低下する理由からである。また、第2酸化物粉末の第2酸化物純度を98%以上に限定したのは、98%未満では不純物により結晶性が悪化し、結果的にバリア特性が低下する理由からである。なお、本明細書における粉末の純度とは、分光分析法(誘導結合プラズマ発光分析装置:日本ジャーレルアッシュ製 ICAP−88)によって測定したものである。
【0021】
また、この蒸着材に含まれる第1酸化物粒子の平均粒径は0.1〜10μmであり、かつ第2酸化物粒子の平均粒径は0.1〜10μmであり、蒸着材中の第1酸化物と第2酸化物とのモル比が5〜90:95〜10である。更に、ペレットの塩基度が0.1以上である。このように微細化した第1酸化物粒子並びに第2酸化物粒子を所定の割合で含有させることにより、この蒸着材を用いて形成される膜に、高いガスバリア性を発現させることができる。
【0022】
その技術的な理由は、通常、(1)第1酸化物粒子のみで第2酸化物粒子を含まない蒸着材、(2)第2酸化物粒子のみで第1酸化物粒子を含まない蒸着材、(3)第1酸化物粒子及び第2酸化物粒子の双方を含むが第1酸化物粒子の含有割合が少ない蒸着材、或いは(4)第1酸化物粒子及び第2酸化物粒子の双方を含むが第2酸化物粒子の含有割合が少ない蒸着材を用いた場合、図2に示す薄膜シート30のように、第1基材フィルム11上に形成される酸化物薄膜32は、柱状晶の結晶がガスの浸透方向に対して平行に集合した構造になる。水蒸気等のガス分子は平行に集合した粒界の界面に沿って進むため、上記柱状晶の結晶が平行に集合した構造の薄膜32ではバリア性が低いことになる。一方、微細化した第1酸化物粒子又は第2酸化物粒子を所定の割合となるように含有させた蒸着材を用いた場合、図3に示すように、第1基材フィルム11上に形成される酸化物薄膜12は、単一組成の蒸着材を用いた際に形成されていた柱状晶の一部が崩れ、アモルファス状態に近い緻密な微細構造になる。アモルファス状態に近い緻密な微細構造では水蒸気等のガス分子は迷路状の中を長距離にわたり移動する必要があるため、上記アモルファス状態に近い緻密な微細構造の薄膜12ではバリア性が向上することになる。このように、結晶構造が柱状晶ではなく、水分等の透過又は侵入を防ぐのに好適な構造に成膜されることによって、ガスバリア性が向上するものと推定される。また、含有する第1酸化物粒子及び第2酸化物粒子の双方が微細化されていれば、蒸着法により膜を成長させる際に、僅かな電子ビーム又はプラズマの量で成膜できるため、緻密な膜が形成でき、これによりガスバリア性が向上するとも考えられる。ここで、蒸着材、即ちペレットに含まれる第1酸化物粒子及び第2酸化物粒子の双方の平均粒径を上記範囲に限定したのは、各々の平均粒径が下限値未満では、蒸着材の製造工程において、粉末の凝集が著しくなり、均一な混合が妨げられるからである。また、平均粒径が下限値未満の粉末を用いると、耐久性に優れた膜が得られ難い傾向が見られるからである。これは、平均粒径が非常に小さい粉末を原料に用いれば、より稠密な膜構造が得られるが、その一方で一粒界の比表面積が増大し、膜内に拡散した水蒸気によるダメージがより大きく影響するためと推察される。一方、各々の平均粒径が上限値を越えると、ガスバリア性向上に寄与する擬似固溶体を形成する効果が十分に得られないからである。このうち、第1酸化物粒子の平均粒径は0.1〜10μmの範囲内が、第2酸化物粒子の平均粒径は0.1〜10μmの範囲内であることが特に好ましい。なお、本明細書中、平均粒径とは、レーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)に従い、日機装社製(FRA型)を用い、分散剤としてヘキサメタりん酸Naを使用し、1回の測定時間を30秒として3回測定した値を平均化したものである。
【0023】
また、蒸着材に含まれる第1酸化物と第2酸化物とのモル比を上記範囲に限定したのは、第1酸化物のモル比が5未満或いは第2酸化物のモル比が10未満では、第1酸化物粒子或いは第2酸化物粒子の含有割合が少なくなりすぎて、単一組成に近づくことで、柱状晶の結晶がガスの浸透方向に対して平行に集合した構造をとり易くなるため、緻密な微細構造を有する薄膜が形成できないからである。このうち、蒸着材中の第1酸化物と第2酸化物とのモル比は60〜90:40〜10であることが好ましい。また、第2酸化物として含まれるCaOは大気中のH2OやCO2により、下記式(1)又は式(2)の反応が進むため、蒸着材にCaOを含有させると、製造後に大気中で保存した場合に蒸着材のペレット形状が崩れる傾向にある。
【0024】
CaO + CO2 → CaCO3 (1)
CaO + H2O → Ca(OH)2 (2)
そのため、CaO粉末を用いて製造した蒸着材は、製造後に真空パックやデシケータ中に保存する必要があるが、減圧下で保存した場合でもCaOが若干水分を含んでしまうため、成膜性を悪化させる。また、形成後の薄膜シートにおいて水蒸気バリア性を低下させる要因となる。一方、本発明の蒸着材では、第1酸化物と第2酸化物を上記範囲の割合で含み、更に第2酸化物としてCaO以外にZnOを含むことにより、上記式(1)又は式(2)に示されるCaOの大気中での反応が抑制され、蒸着材の大気中での保存安定性が得られる。保存安定性を向上させるには、蒸着材中に第2酸化物として含まれるZnOの全蒸着材中のモル比が少なくも5以上であることが好ましく、10〜20であることが特に好ましい。
【0025】
更に、ペレットの塩基度を0.1以上に規定したのは、0.1未満では、薄膜が、柱状晶の一部が崩れたアモルファス状態に近い緻密な微細構造をとり難くなるためである。この「塩基度」は、森永健次らにより提案されたものであり、例えば彼の著書「K.Morinaga, H.Yoshida And H.Takebe:J.Am Cerm.Soc.,77,3113(1994)」の中で以下に示すような式を用いてガラス粉末の塩基度を規定している。この抜粋を以下に示す。
【0026】
「酸化物MiOのMi−O間の結合力は陽イオン−酸素イオン間引力Aiとして次式で与えられる。
【0027】
i=Zi・Z02-/(ri+r02-2=Zi・2/(ri+1.40)2
i:陽イオンの価数,酸素イオンは2
i:陽イオンのイオン半径(Å),酸素イオンは1.40Å
このAiの逆数Bi(1/Ai)を単成分酸化物MiOの酸素供与能力とする。
【0028】
i≡1/Ai
このBiをBCaO=1、BSiO2=0と規格化すると、各単成分酸化物のBi−指標が与えられる。この各成分のBi−指標を陽イオン分率により多成分系へ拡張すると、任意の組成のガラス酸化物の融体のB−指標(=塩基度)が算出できる。B=Σni・Bi
i:陽イオン分率
このようにして規定された塩基度は上記のように酸素供与能力をあらわし、値が大きいほど酸素を供与し易く、他の金属酸化物との酸素の授受が起こり易い。」
本発明では、ガラス粉末の塩基度の指標について、ガラスを酸化物と置き換えて解釈することで、酸化物混合物の塩基度を薄膜におけるアモルファス状態に近い緻密な微細構造になり易さの指標として整理したものである。ガラスの場合は溶融という概念であるが、本発明では、成膜時にガラス形成のメカニズムが発生することを基本としている。蒸着材から昇華された元素がイオン状態になり、基板上で非平衡な状態で元素が堆積する。このとき上記式により得られるペレットの塩基度が0.1以上であれば、ガラス状(アモルファス)で膜が成長し、非常に緻密な状態で整然と元素が配列されていく。
【0029】
本発明の蒸着材を用いて形成される薄膜は、高いガスバリア性を有することから、太陽電池のバックシートを構成する防湿膜等のガスバリア材の用途の他に、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ又は照明用有機ELディスプレイ等のガスバリア材としても好適に利用できる。また、この薄膜は、透過率が85〜95%程度の透明性を有するため、高いガスバリア性が要求され、なおかつ光の透過が要求されるような部材、例えば、太陽電池の受光面側や、ディスプレイの画像視覚側等に用いられるガスバリア材等としても好適である。
【0030】
次に、本発明の蒸着材の製造方法を焼結法により作製する場合を代表して説明する。先ず第1酸化物粉末として純度が98%以上の高純度粉末と、第2酸化物粉末として純度が98%以上の高純度粉末と、バインダと、有機溶媒とを混合して、濃度が30〜75質量%のスラリーを調製する。好ましくは40〜65質量%のスラリーを調製する。なお、第1酸化物粉末と第2酸化物粉末は、製造後の蒸着材中の第1酸化物と第2酸化物とのモル比が上記範囲を満たすように調整し混合する。スラリーの濃度を30〜75質量%に限定したのは、75質量%を越えると上記スラリーが非水系であるため、安定した混合造粒が難しい問題点があり、30質量%未満では均一な組織を有する緻密な焼結体が得られないからである。また、使用する第1酸化物粉末の平均粒径、第2酸化物粉末の平均粒径は、製造後の蒸着材に含まれる第1酸化物粉末の平均粒径、第2酸化物粒子の平均粒径を上述した範囲に調整する理由から、第1酸化物粉末を0.1〜10μmの範囲内、第2酸化物粉末を0.1〜10μmの範囲内とするのが好ましい。
【0031】
バインダとしてはポリエチレングリコールやポリビニールブチラール等を、有機溶媒としてはエタノールやプロパノール等を用いることが好ましい。バインダは0.2〜5.0質量%添加することが好ましい。
【0032】
また高純度粉末とバインダと有機溶媒との湿式混合、特に高純度粉末と分散媒である有機溶媒との湿式混合は、湿式ボールミル又は撹拌ミルにより行われる。湿式ボールミルでは、ZrO2製ボールを用いる場合には、直径5〜10mmの多数のZrO2製ボールを用いて8〜24時間、好ましくは20〜24時間湿式混合される。ZrO2製ボールの直径を5〜10mmと限定したのは、5mm未満では混合が不十分となることからであり、10mmを越えると不純物が増える不具合があるからである。また混合時間が最長24時間と長いのは、長時間連続混合しても不純物の発生が少ないからである。
【0033】
撹拌ミルでは、直径1〜3mmのZrO2製ボールを用いて0.5〜1時間湿式混合される。ZrO2製ボールの直径を1〜3mmと限定したのは、1mm未満では混合が不十分となるからであり、3mmを越えると不純物が増える不具合があるからである。また混合時間が最長1時間と短いのは、1時間を越えると原料の混合のみならずボール自体が摩損するため、不純物の発生の原因となり、また1時間もあれば十分に混合できるからである。
【0034】
次に上記スラリーを噴霧乾燥して平均粒径が50〜250μm、好ましくは50〜200μmの混合造粒粉末を得る。この造粒粉末を所定の型に入れて所定の圧力で成形する。上記噴霧乾燥はスプレードライヤを用いて行われることが好ましく、所定の型は一軸プレス装置又は冷間静水圧(CIP;Cold Isostatic Press)成形装置が用いられる。一軸プレス装置では、造粒粉末を750〜2000kg/cm2(73.55〜196.1MPa)、好ましくは1000〜1500kg/cm2(98.1〜147.1MPa)の圧力で一軸加圧成形し、CIP成形装置では、造粒粉末を1000〜3000kg/cm2(98.1〜294.2MPa)、好ましくは1500〜2000kg/cm2(147.1〜196.1MPa)の圧力でCIP成形する。圧力を上記範囲に限定したのは、成形体の密度を高めるとともに焼結後の変形を防止し、後加工を不要にするためである。
【0035】
更に成形体を所定の温度で焼結する。焼結は大気、不活性ガス、真空又は還元ガス雰囲気中で1000℃以上、好ましくは1200〜1400℃の温度で1〜10時間、好ましくは2〜5時間行う。上記焼結は大気圧下で行うが、ホットプレス(HP)焼結や熱間静水圧プレス(HIP;Hot Isostatic Press)焼結のように加圧焼結を行う場合には、不活性ガス、真空又は還元ガス雰囲気中で1000℃以上の温度で1〜5時間行うことが好ましい。
【0036】
続いて、本発明の薄膜シート及び積層シートについて、その製造方法とともに説明する。図1に示すように、本発明の薄膜シート10は、第1基材フィルム11と、好ましくは上記蒸着材を用いて形成された本発明の薄膜12を有する。そして、本発明の積層シート20は、上記本発明の薄膜シート10と、この薄膜シート10の薄膜形成側に接着層13を介して接着された第2基材フィルム14とを有する。
【0037】
第1基材フィルム11及び第2基材フィルム14は、長時間の高温高湿度環境試験に耐え得る機械的強度や耐候性等を有するものが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフテレート(PET)、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアリレート、ポリエーテルスルフォン、トリアセチルセルロース(TAC)、環状オレフィン(コ)ポリマー等の樹脂フィルムが挙げられる。これらの樹脂フィルムは、必要に応じて難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等が配合されていても構わない。第1基材フィルム11及び第2基材フィルム14の厚さは、好ましくは5〜300μm、更に好ましくは10〜150μmである。
【0038】
この第1基材フィルム11上に、好ましくは上述した本発明の蒸着材を用いて、ガスバリア材としての薄膜12が形成される。薄膜12中の全金属元素の含有割合を100モル%としたとき、第1酸化物に含まれる金属元素Aの含有割合は5〜90モル%、第2酸化物に含まれる金属元素Bの含有割合は95〜10モル%である。薄膜12中の金属元素A,Bの含有割合が上記範囲外になると、それぞれ各酸化物の結晶状態が優先となり、アモルファス状で緻密で微細な構造を得られないといった不具合を生じる。このうち、金属元素Aの含有割合が60〜90モル%であり、金属元素Bの含有割合が40〜10モル%であることが好ましい。薄膜12の厚さは10〜200nmの範囲内が好ましい。下限値未満では、ガスバリア材としての十分なガスバリア性が得られ難く、また、膜の耐久性が低下し易い。一方、上限値を越えると材料が無駄になり、また、厚み効果により、折り曲げ等の外力によるクラックが生じ易くなる。このうち、薄膜12の厚さは、20〜100nmの範囲内が特に好ましい。蒸着材を用いた薄膜12の形成方法としては、電子ビーム蒸着法(Electron Beam Evaporation Method 以下、EB法という)、イオンプレーティング法、反応性プラズマ蒸着法(Reactive Plasma Deposition Method 以下、RPD法という)、抵抗加熱法又は誘導加熱法等の真空成膜法が好ましい。
【0039】
なお、図1には図示しないが、第1基材フィルム11上には薄膜12との密着強度を向上させるため、必要に応じて、アクリルポリオール、イソシアネート、シランカップリング剤からなるプライマーコーティング層を設けるか、或いは蒸着工程前にプラズマ等を用いた表面処理を施しても構わない。
【0040】
一方、形成した薄膜12表面が剥き出しの状態では、シートを取扱う際に、膜の表面にキズがついたり、こすれたりすると、ガスバリア性に大きな影響を与える。そのため、薄膜12上には、図示しない薄膜12表面を保護するガスバリア性被膜等を設けるのが好ましい。このガスバリア性被膜は、例えばアルコキシル基を有するケイ素化合物、チタン化合物、ジルコニア化合物、錫化合物又はその加水分解物と水酸基を有する水溶性高分子とを混合した溶液を、薄膜12表面に塗布した後、加熱乾燥して形成することができる。このガスバリア性被膜は、薄膜12の保護層として機能するだけではなく、ガスバリア性を向上させる効果も有する。
【0041】
このように形成された本発明の薄膜シート10は、例えば、温度20℃、相対湿度50%RHの条件で1時間放置した後、温度40℃、相対湿度90%RHの条件で測定した水蒸気透過度Sが0.3g/m2・day以下を示す。また、温度20℃、相対湿度50%RHの条件で1時間放置した後、温度85℃、相対湿度90%RHの条件で更に100時間放置し、その後上記と同条件で測定した水蒸気透過度をTとするとき、水蒸気透過度Tの水蒸気透過度Sに対する変化率(T/S×100)が200%以下を示す。即ちこの薄膜シート10は、非常に高く、かつ時間経過による劣化が少ないガスバリア性を有する。
【0042】
更に、本発明の積層シート20では、上記本発明の薄膜シート10の薄膜形成側、即ち薄膜12上又は上記ガスバリア性被膜上に、接着層13が形成され、この接着層13は、薄膜12が形成された第1基材フィルム11と第2基材フィルム14とを貼り合わせるための接着剤として機能するものである。そのため、接着強度が長期間にわたって劣化せず、デラミネーション等を生じないこと、また、黄変しないこと等の条件が必要であり、例えばポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエステル−ポリウレタン系、ポリカーボネート系、ポリエポキシ−アミン系、ホットメルト系接着剤等が挙げられる。接着層13の積層方法は、ドライラミネート法等の公知の方法で積層することができる。
【0043】
この接着層13上に第2基材フィルム14を接着して貼り合わせることにより、積層シート20が完成する。なお、薄膜12と接着層13は、図1に示すように、それぞれが1層ずつ積層したものに限定する必要はなく、薄膜12と接着層13を交互に、或いは薄膜12、上記ガスバリア性被膜等の他の部材及び接着層13を交互又はランダムに積層した2〜10層の複層としても良い。これにより、更にガスバリア性や耐候性も向上させることができる。
【0044】
この積層シート20は、太陽電池モジュールのバックシート、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイ又は照明用有機ELディスプレイ等の用途として好適に利用できる。
【実施例】
【0045】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0046】
<実施例1>
先ず、第1酸化物粉末、第2酸化物粉末、バインダ及び有機溶媒をボールミルによる湿式混合により所定の割合で混合して、濃度が40質量%のスラリーを調製した。このとき、第1酸化物粉末として平均粒径が0.9μm、純度が99.7%の高純度MgO粉末を、第2酸化物粉末として平均粒径が0.6μm、純度が99.8%の高純度CaO粉末と平均粒径が0.8μm、純度が99.8%の高純度ZnO粉末との混合粉末を、バインダとしてポリビニルブチラールを、有機溶媒としてエタノールをそれぞれ使用した。また、MgO粉末並びに上記混合粉末の混合量は、形成後の蒸着材に含まれるMgOが5モル%、CaOとZnOがそれぞれ90モル%、5モル%となるように調整した。
【0047】
次に、調製したスラリーをスプレードライヤを用いて噴霧乾燥し、平均粒径が200μmの混合造粒粉末を得た後、この造粒粉末を所定の型に入れて一軸プレス装置によりプレス成形した。得られた成形体を、大気雰囲気中1300℃の温度で5時間焼結させて、蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるMgO粒子、CaO粒子及びZnO粒子の平均粒径、また、蒸着材に含まれるMgO、CaO、ZnOの含有量、ペレットの塩基度を以下の表1に示す。
【0048】
<実施例2>
MgO粉末並びに上記混合粉末の混合量を、形成後の蒸着材に含まれるMgOが30モル%、CaOとZnOがそれぞれ50モル%、20モル%となるように調整したこと以外は、実施例1と同様に、蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるMgO粒子、CaO粒子及びZnO粒子の平均粒径、また、蒸着材に含まれるMgO、CaO、ZnOの含有量、ペレットの塩基度を以下の表1に示す。
【0049】
<実施例3>
MgO粉末並びに上記混合粉末の混合量を、形成後の蒸着材に含まれるMgOが50モル%、CaOとZnOがそれぞれ30モル%、20モル%となるように調整したこと以外は、実施例1と同様に、蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるMgO粒子、CaO粒子及びZnO粒子の平均粒径、また、蒸着材に含まれるMgO、CaO、ZnOの含有量、ペレットの塩基度を以下の表1に示す。
【0050】
<実施例4>
MgO粉末並びに上記混合粉末の混合量を、形成後の蒸着材に含まれるMgOが60モル%、CaOとZnOがそれぞれ20モル%、20モル%となるように調整したこと以外は、実施例1と同様に、蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるMgO粒子、CaO粒子及びZnO粒子の平均粒径、また、蒸着材に含まれるMgO、CaO、ZnOの含有量、ペレットの塩基度を以下の表1に示す。
【0051】
<実施例5>
MgO粉末並びに上記混合粉末の混合量を、形成後の蒸着材に含まれるMgOが70モル%、CaOとZnOがそれぞれ20モル%、10モル%となるように調整したこと以外は、実施例1と同様に、蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるMgO粒子、CaO粒子及びZnO粒子の平均粒径、また、蒸着材に含まれるMgO、CaO、ZnOの含有量、ペレットの塩基度を以下の表1に示す。
【0052】
<実施例6>
MgO粉末並びに上記混合粉末の混合量を、形成後の蒸着材に含まれるMgOが70モル%、CaOとZnOがそれぞれ10モル%、20モル%となるように調整したこと以外は、実施例1と同様に、蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるMgO粒子、CaO粒子及びZnO粒子の平均粒径、また、蒸着材に含まれるMgO、CaO、ZnOの含有量、ペレットの塩基度を以下の表1に示す。
【0053】
<実施例7>
MgO粉末並びに上記混合粉末の混合量を、形成後の蒸着材に含まれるMgOが80モル%、CaOとZnOがそれぞれ10モル%となるように調整したこと以外は、実施例1と同様に、蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるMgO粒子、CaO粒子及びZnO粒子の平均粒径、また、蒸着材に含まれるMgO、CaO、ZnOの含有量、ペレットの塩基度を以下の表1に示す。
【0054】
<実施例8>
MgO粉末並びに上記混合粉末の混合量を、形成後の蒸着材に含まれるMgOが90モル%、CaOとZnOがそれぞれ5モル%となるように調整したこと以外は、実施例1と同様に、蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるMgO粒子、CaO粒子及びZnO粒子の平均粒径、また、蒸着材に含まれるMgO、CaO、ZnOの含有量、ペレットの塩基度を以下の表1に示す。
【0055】
<実施例9>
実施例2と同じ条件で蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるMgO粒子、CaO粒子及びZnO粒子の平均粒径、また、蒸着材に含まれるMgO、CaO、ZnOの含有量、ペレットの塩基度を以下の表1に示す。
【0056】
<実施例10>
実施例3と同じ条件で蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるMgO粒子、CaO粒子及びZnO粒子の平均粒径、また、蒸着材に含まれるMgO、CaO、ZnOの含有量、ペレットの塩基度を以下の表1に示す。
【0057】
<実施例11>
実施例2と同じ条件で蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるMgO粒子、CaO粒子及びZnO粒子の平均粒径、また、蒸着材に含まれるMgO、CaO、ZnOの含有量、ペレットの塩基度を以下の表1に示す。
【0058】
<実施例12>
実施例3と同じ条件で蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるMgO粒子、CaO粒子及びZnO粒子の平均粒径、また、蒸着材に含まれるMgO、CaO、ZnOの含有量、ペレットの塩基度を以下の表1に示す。
【0059】
<実施例13>
実施例2と同じ条件で蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるMgO粒子、CaO粒子及びZnO粒子の平均粒径、また、蒸着材に含まれるMgO、CaO、ZnOの含有量、ペレットの塩基度を以下の表1に示す。
【0060】
<実施例14>
実施例2と同じ条件で蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるMgO粒子、CaO粒子及びZnO粒子の平均粒径、また、蒸着材に含まれるMgO、CaO、ZnOの含有量、ペレットの塩基度を以下の表1に示す。
【0061】
<実施例15>
第1酸化物粉末として平均粒径が0.1μm、純度が99.7%の高純度MgO粉末を、第2酸化物粉末として平均粒径が10μm、純度が99.8%の高純度CaO粉末と平均粒径が10μm、純度が99.8%の高純度ZnO粉末との混合粉末を用いたこと以外は、実施例8と同様に、蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるMgO粒子、CaO粒子及びZnO粒子の平均粒径、また、蒸着材に含まれるMgO、CaO、ZnOの含有量、ペレットの塩基度を以下の表1に示す。
【0062】
<実施例16>
第1酸化物粉末として平均粒径が10μm、純度が99.7%の高純度MgO粉末を、第2酸化物粉末として平均粒径が0.1μm、純度が99.8%の高純度CaO粉末と平均粒径が0.1μm、純度が99.8%の高純度ZnO粉末との混合粉末を用いたこと以外は、実施例8と同様に、蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるMgO粒子、CaO粒子及びZnO粒子の平均粒径、また、蒸着材に含まれるMgO、CaO、ZnOの含有量、ペレットの塩基度を以下の表1に示す。
【0063】
<実施例17>
第1酸化物粉末として平均粒径が0.05μm、純度が99.7%の高純度MgO粉末を用いたこと以外は、実施例8と同様に、蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるMgO粒子、CaO粒子及びZnO粒子の平均粒径、また、蒸着材に含まれるMgO、CaO、ZnOの含有量、ペレットの塩基度を以下の表1に示す。
【0064】
<実施例18>
第2酸化物粉末として平均粒径が15μm、純度が99.8%の高純度CaO粉末と平均粒径が15μm、純度が99.8%の高純度ZnO粉末との混合粉末を用いたこと以外は、実施例8と同様に、蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるMgO粒子、CaO粒子及びZnO粒子の平均粒径、また、蒸着材に含まれるMgO、CaO、ZnOの含有量、ペレットの塩基度を以下の表1に示す。
【0065】
<比較例1>
第1酸化物粒子を混合せずに調整したこと、及び第2酸化物粉末として平均粒径が0.6μm、純度が99.8%の高純度CaO粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様に、蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるCaO粒子の平均粒径、ペレットの塩基度を以下の表2に示す。
【0066】
<比較例2>
第2酸化物粉末として平均粒径が0.6μm、純度が99.8%の高純度CaO粉末を用いたこと、及びMgO粉末並びにCaO粉末の混合量を、形成後の蒸着材に含まれるMgOが3モル%、CaOが97モル%となるように調整したこと以外は、実施例1と同様に、蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるMgO粒子及びCaO粒子の平均粒径、また、蒸着材に含まれるMgO、CaOの含有量、ペレットの塩基度を以下の表2に示す。

<比較例3>
第2酸化物粒子を混合せずに調整したこと以外は、実施例1と同様に、蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるMgO粒子の平均粒径、ペレットの塩基度を以下の表2に示す。
【0067】
<比較例4>
比較例1と同じ条件で蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるCaO粒子の平均粒径、ペレットの塩基度を以下の表2に示す。
【0068】
<比較例5>
比較例3と同じ条件で蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるMgO粒子の平均粒径、ペレットの塩基度を以下の表2に示す。
【0069】
<比較例6>
比較例1と同じ条件で蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるCaO粒子の平均粒径、ペレットの塩基度を以下の表2に示す。
【0070】
<比較例7>
比較例3と同じ条件で蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるMgO粒子の平均粒径、ペレットの塩基度を以下の表2に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

<比較試験及び評価1>
実施例1〜18及び比較例1〜7で得られた蒸着材を用いて、厚さ75μmのPETフィルム上に、以下の表3及び表4に示す方法により蒸着を行って薄膜を成膜し、薄膜シートを形成した。これらの薄膜シートについて、水蒸気透過度を測定し、ガスバリア性を評価した。また、上記ガスバリア性評価における条件よりも高温、高湿度条件下で長時間放置した後の水蒸気透過度及びその変化率から耐久性を評価した。更に、これらの薄膜シートについて、光透過率を測定し、透明性を評価した。これらの結果を以下の表3及び表4に示す。
【0073】
(1) ガスバリア性:薄膜シートを、温度20℃、相対湿度50%RHに設定したクリーンルーム内に1時間放置した後、MOCON社製の水蒸気透過率測定装置(型名:PERMATRAN−Wタイプ3/33)を用い、温度40℃、相対湿度90%RHの条件で水蒸気透過度Sを測定した。
【0074】
(2) 耐久性:温度20℃、相対湿度50%RHに設定したクリーンルーム内に1時間放置した後の薄膜シートについて、PETフィルムの水蒸気による劣化を防ぐため、薄膜シートの薄膜が外側になるように同じ薄膜シートをそれぞれ2枚ずつ重ね合わせ、四辺をヒートシーラーで接合した。これを温度85℃、相対湿度90%RHに設定した恒温恒湿装置に入れ、100時間放置した。その後、上記ガスバリア性評価と同様に、水蒸気透過率測定装置を用い、温度40℃、相対湿度90%RHの条件で水蒸気透過度Tを測定した。また、測定した水蒸気透過度Tの、上記水蒸気透過度Sに対する変化率(T/S×100)を算出した。
【0075】
(3) 光透過率:薄膜シートを株式会社日立製作所社製の分光光度計(型名:U−4000)を用いて、波長380〜780nmにおける光透過率を測定した。
【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

表3及び表4から明らかなように、実施例1〜8及び比較例1〜3を比較すると、実施例1〜8では、温度20℃、相対湿度50%RHの条件で1時間放置したときの水蒸気透過度Sは、0.26g/m2・day以下であり、このうち、実施例3〜7では、0.1g/m2・day以下であった。一方、CaOの単一組成である比較例1、及び第1酸化物であるMgOの含有量が5%未満の比較例2では水蒸気透過度Sが大きくなった。特にCaOの単一組成である比較例1では、実施例4等と比較すると水蒸気透過度Sが非常に大きくなり、また、比較例1、比較例2では、温度85℃、相対湿度90%RHの条件下で更に100時間放置した後の水蒸気透過度Tが非常に大きくなり、顕著な劣化が見られた。
【0078】
また、比較例1、及びMgOの単一組成である比較例3では、温度85℃、相対湿度90%RHの条件下で更に100時間放置した後の水蒸気透過度Tの、水蒸気透過度Sに対する変化率が大きく、耐久性が低い結果となった。一方、実施例1〜8では、高温、高湿度環境下で長時間放置した場合でも、水蒸気透過度Tの、水蒸気透過度Sに対する変化率は200%以下に抑えられ、耐久性の面でも優れていることが判る。
【0079】
また、光透過率に関しては、実施例1〜8は比較例1〜3と遜色ない結果が得られていた。
更に、同じ条件で得た蒸着材を用い、かつ異なる方法でそれぞれ成膜を行った実施例2,9,11や、実施例3,10,12、比較例1,4,6、比較例3,5,7についてそれぞれ比較すると、EB法で成膜した実施例9,10、抵抗加熱法で成膜した実施例11,12の薄膜も、RPD法で成膜した薄膜と同等の十分なガスバリア性、耐久性並びに透明性を備えることが判る。
【0080】
また、実施例2と実施例13を比較すると、イオンプレーティング法で成膜した実施例13の薄膜も、RPD法で成膜した実施例2の薄膜と比べ、水蒸気透過度及びその変化率、そして光透過率がほぼ同等の値を示しており、十分なガスバリア性、耐久性並びに透明性を備えることが判る。また、実施例2と実施例14を比較すると、誘導加熱法で成膜した実施例14の薄膜は、RPD法で成膜した実施例2の薄膜と比べ、水蒸気透過度は若干大きい値を示したものの、水蒸気透過度の変化率及び光透過率はほぼ同等の値を示しており、十分なガスバリア性、耐久性並びに透明性を備えることが判る。
【0081】
また、実施例15,16と実施例17,18を比較すると、蒸着材の製造に平均粒径が0.1μmに満たないMgO粉末を用いた実施例17では、水蒸気透過度Sについては、実施例15,16の薄膜と同等の値を示し、十分なガスバリア性が得られた。一方、温度85℃、相対湿度90%RHの条件下で更に100時間放置した後の水蒸気透過度Tが、一般的なバリア膜に要求される1.0よりも大きくなり、水蒸気透過度の変化率も200%を超えたことから、耐久性の面で、実施例17,18の薄膜よりも若干劣る結果となった。これは、平均粒径が非常に小さい粉末を原料としたことで、一粒界の比表面積が増大し、膜内に拡散した水蒸気によるダメージがより大きく影響した結果であると考えられる。また、平均粒径が10μmを越えるCaO粉末とZnO粉末の混合粉末を用いた実施例18では、水蒸気透過度の変化率はそれほど大きくなかったものの、水蒸気透過度Sが若干大きくなり、また水蒸気透過度Tも一般的なバリア膜に要求される1.0を超えたことから、ガスバリア性が、実施例15,16よりも多少劣る結果となった。これは、平均粒径が大きい粉末を原料としたことで、膜構造が稠密になり難かったことが原因と考えられる。一方、平均粒径が共に0.1〜10μmの範囲にあるMgO粉末、及びCaO粉末とZnO粉末の混合粉末を用いた実施例15,16では、十分なガスバリア性を備える薄膜が形成できることが確認された。
【0082】
これらの結果から、本発明の蒸着材を用いて形成された薄膜は、非常に優れたガスバリア性、透明性並びに耐久性を有することが確認された。
【0083】
<比較試験及び評価2>
実施例4〜7及び比較例2で得られた蒸着材について、大気中での保存安定性を評価した。その結果を次の表5及び図4に示す。具体的には、製造直後の蒸着材、及び大気中、室温で3日、10日、20日間それぞれ保存した後の蒸着材のペレット形状を目視により観察した。このとき、製造直後の蒸着材のペレット形状を維持できた場合を「A」、製造直後の形状の一部に崩れが確認された場合を「B」、製造直後の形状がほぼ維持できなかった場合を「C」とした。
【0084】
【表5】

表5及び図4から明らかなように、比較例2で得られた蒸着材は製造直後のペレット形状は良好であったが、大気中、室温で3日間保存した場合にはペレット全体の形状が崩れ、製造直後のペレット形状は全く認められなかった。一方、実施例4〜7で得られた本発明の蒸着材は、大気中、室温で3日、10日、20日間保存した場合でも、製造直後のペレット形状を維持することができ、大気中での保存安定性にも優れることが確認された。
【符号の説明】
【0085】
10 薄膜シート
11 第1基材フィルム
12 薄膜
13 接着層
14 第2基材フィルム
20 積層シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1酸化物粉末と第2酸化物粉末とを混合して作られた蒸着材において、
前記第1酸化物粉末がMgO粉末であって、前記第1酸化物粉末の第1酸化物純度が98%以上であり、
前記第2酸化物粉末がCaO及びZnOの混合粉末であって、前記第2酸化物粉末の第2酸化物純度が98%以上であり、
前記蒸着材が前記第1酸化物粒子と前記第2酸化物粒子を含有するペレットからなり、
前記蒸着材中の第1酸化物と第2酸化物とのモル比が5〜90:95〜10であり、かつ、前記ペレットの塩基度が0.1以上であることを特徴とする蒸着材。
【請求項2】
前記第1酸化物粒子の平均粒径が0.1〜10μmであり、かつ前記第2酸化物粒子の平均粒径が0.1〜10μmである請求項1記載の蒸着材。
【請求項3】
請求項1又は2記載の蒸着材をターゲット材として用いた真空成膜法により第1基材フィルム上に前記第1酸化物に含まれる金属元素A及び前記第2酸化物に含まれる金属元素Bを含む酸化物薄膜を形成してなり、
前記薄膜中の全金属元素の含有割合を100モル%としたとき、前記金属元素Aの含有割合が5〜90モル%であり、前記金属元素Bの含有割合が95〜10モル%である薄膜シート。
【請求項4】
前記真空成膜法が電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、反応性プラズマ蒸着法、抵抗加熱法又は誘導加熱法のいずれかである請求項3記載の薄膜シート。
【請求項5】
請求項3又は4記載の薄膜シートの薄膜形成側に接着層を介して第2基材フィルムを積層してなる積層シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−92429(P2012−92429A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182339(P2011−182339)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】