説明

薄膜形成用組成物、塗布液、及び薄膜形成方法

【課題】露光量が小さくても薄膜を形成することができる薄膜形成用組成物、塗布液、及び薄膜形成方法を提供すること。
【解決手段】金属化合物粒子と、前記金属化合物粒子の表面を修飾する化学式1〜4のいずれかで表される、エチルマルトール等の配位子と、を含む薄膜形成用組成物。その薄膜形成用組成物と、前記薄膜形成用組成物を分散させる分散媒と、を含むことを特徴とする塗布液。その塗布液を、基体の表面に塗布して、塗布膜を形成する塗布膜形成工程と、前記塗布膜に、前記配位子の光吸収帯、又は前記配位子で表面を修飾された前記金属化合物粒子の光吸収帯に属する波長の電磁波を照射する露光工程と、を備えることを特徴とする薄膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体の表面に、例えば、金属化合物等から成る薄膜を形成することができる薄膜形成用組成物、塗布液、及び薄膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微細にパターン化された金属化合物薄膜(例えば金属酸化物薄膜)が、フラットパネルディスプレーの透明導電膜、記憶素子の誘電体膜等として広く用いられている。
パターン化された金属化合物薄膜を得る方法として、特開2010−214290号公報記載の方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法では、少なくとも表面が界面光電気化学反応作用を有する金属化合物から成る粒子であって、表面を有機物で修飾された粒子(以下、有機物修飾粒子とする)を含む塗布液を、基体の表面に塗布して塗布膜を形成する。そして、塗布膜に、フォトマスクのパターンに従い、金属化合物の界面光電気化学反応作用を促進する波長の電磁波を照射する(露光工程)。露光した部分では、塗布膜を構成する有機物修飾粒子の表面を修飾する有機物が光分解され、現像液に溶解し難くなる。一方、露光されていない部分の塗布膜は、現像液に容易に溶解する。よって、露光工程後に現像を行うと、塗布膜のうち、露光した部分のみが残り、結果として、パターン化された金属化合物薄膜が形成される。この方法では、有機物が光分解されるので、金属化合物薄膜中に有機物等が残存し難い。また、高温焼成が必須ではないため、耐熱性が低い基体も使用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−214290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の「有機物」で表面を修飾された金属化合物を用いて、同文献記載の薄膜形成方法を実施する場合、露光工程において、露光量をかなり大きくしないと、その「有機物」を分解できないことがある。特に、金属化合物粒子が、光触媒活性が低いものである場合、その傾向が顕著となる。
【0005】
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、露光量が小さくても薄膜を形成することができる薄膜形成用組成物、塗布液、及び薄膜形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の薄膜形成用組成物は、金属化合物粒子と、前記金属化合物粒子の表面を修飾する化学式1〜4のいずれかで表される配位子とを含むことを特徴とする。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

【0009】
【化3】

【0010】
【化4】

【0011】
化学式1におけるXは、O, S, NH, N-CnH2n+1, CH2のうちのいずれかである。Yは、金属に配位可能な官能基(例えば、-OH, -ONa, -OK, -SH, -NH2,-CN, -COOH等)である。R1, R2は、水素または任意の基である。上記nは、1以上の任意の整数である。
【0012】
化学式2におけるYは、金属に配位し得る基(例えば-OH, -ONa, -OK, -SH, -NH2,-CN, -COOH等)である。R1〜R4は、すべてHか、任意の一つが-OHで残りはHか、互いに隣り合わない二つが-OHで残りがHのいずれかである。R'1〜R'4は、すべてHか、任意の一つが-OHで残りはHか、任意の一つが-SO3Naで残りはHか、互いに隣り合わない二つが-OHで残りがHのいずれかである。
【0013】
化学式3におけるXは、O, S, NH, N-CnH2n+1, CH2のうちのいずれかである。Yは、金属に配位し得る基(例えば、-OH, -ONa, -OK, -SH, -NH2,-CN, -COOH等)である。R1〜R3は、水素または任意の官能基である。R2, R3が結合する炭素は不斉炭素だが、R2, R3の立体化学は特に指定しない。上記nは、1以上の任意の整数である。
【0014】
化学式4におけるXは、O, S, NH, N-CnH2n+1, CH2のうちのいずれかである。Yは、金属に配位し得る基(例えば-OH, -ONa, -OK, -SH, -NH2,-CN, -COOH等)である。R1〜R3は、水素または任意の官能基である。R2, R3が結合する炭素は不斉炭素だが、R2, R3の立体化学は特に指定しない。上記nは、1以上の任意の整数である。
【0015】
本発明の薄膜形成用組成物を用いれば、露光量が少なくても、薄膜(例えばパターン化された薄膜)を形成することができる。
化学式1で表される配位子としては、例えば、表1に示すものがある。また、化学式2で表される配位子としては、例えば、表2に示すものがある。化学式3で表される配位子としては、例えば、表3に示すものがある。化学式4で表される配位子としては、例えば、表4に示すものがある。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
【表3】

【0019】
【表4】

【0020】
前記金属化合物粒子としては、例えば、酸化スズ粒子、酸化鉄粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化セリウム粒子、酸化インジウム粒子、酸化タングステン粒子、酸化ハフニウム粒子、チタン酸ナノチューブ、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化チタン粒子、及び酸化亜鉛粒子から成る群から選ばれる1以上が挙げられる。
【0021】
上述した金属化合物粒子には、伝導帯、価電子帯のエネルギーレベルの関係で、高い光触媒活性が期待できない金属酸化物である酸化スズ、酸化セリウム、酸化インジウム、酸化タングステン等や、バンドギャップエネルギーが大きく光励起されにくい酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、チタン酸ナノチューブ等の粒子が含まれる。また、前記金属化合物粒子は、非晶質のシリカ粒子、アルミナ粒子であってもよい。また、前記金属化合物粒子の表面には、金、銀、パラジウム、白金などの金属微粒子が担持されていてもよい。また、前記金属化合物粒子は、金、銀などの金属ナノ粒子や、上記の金属酸化物のナノ粒子を、非晶質の酸化チタン等で内包したコア―シェルナノ粒子であってもよい。
【0022】
また、前記金属化合物粒子は、高い光触媒活性を示す酸化チタン、酸化亜鉛等のナノ粒子であってもよい。この場合、特許文献1に記載されている1,2-エンジオール型配位子を用いる場合に比べて、より短い露光時間で薄膜のパターンを形成することができる。
【0023】
前記金属化合物粒子としては、例えば、金属酸化物粒子が挙げられる。また、前記金属化合物粒子としては、例えば、金属化合物ナノ粒子が挙げられる。
金属化合物粒子への配位子の修飾は、金属化合物粒子が懸濁でき、所定量の配位子を溶解できる溶媒に、金属化合物粒子と配位子とを分散・溶解し、所定時間攪拌することで行うことができる。攪拌時に加熱を行ってもよい。配位子の添加量は、金属化合物粒子における全金属原子濃度の1/100倍〜10倍、特に1/30倍〜1倍とするのがよい。
【0024】
化学式1〜4の配位子は、金属化合物粒子(例えば金属酸化物ナノ粒子)表面の金属原子と、図1のようなキレート構造を形成していると考えられるが、この配位子および配位子-金属原子の表面錯体の光吸収帯を励起すると配位子が光分解し、この分解産物は、水洗あるいは、加熱で、金属化合物粒子表面から除去される。分解産物が除去されて金属化合物粒子表面が清浄化するに伴い、粒子間の接近・衝突が促進され、その結果、金属化合物粒子間のvan der Waals引力が、金属化合物粒子間の静電反発を上回り、金属化合物粒子同士が凝集して現像液に対して不溶化し、ネガ型パターンの形成が起こると考えられる(図2参照)。
【0025】
本発明の塗布液は、上述した薄膜形成用組成物と、前記薄膜形成用組成物を分散させる分散媒とを含むことを特徴とする。
本発明の塗布液を用いれば、露光量が少なくても、薄膜(例えばパターン化された薄膜)を形成することができる。
【0026】
本発明の薄膜形成方法は、上述した塗布液を、基体の表面に塗布して、塗布膜を形成する塗布膜形成工程と、前記塗布膜に、前記配位子の光吸収帯、又は前記配位子で表面を修飾された前記金属化合物粒子の光吸収帯に属する波長の電磁波を照射する露光工程と、を備えることを特徴とする。
【0027】
本発明の薄膜形成方法によれば、露光工程における露光量が少なくても、薄膜(例えばパターン化された薄膜)を形成することができる。
本発明の薄膜形成方法において、前記露光工程のとき、前記塗布膜のうち、一部のみに前記電磁波を照射するとともに、前記露光工程の後、前記一部以外の部分における前記塗布膜を、前記一部における前記塗布膜よりも溶解しやすい現像液により、前記塗布膜のうち、前記一部以外の部分を除去する現像工程を備えることができる。このようにすることにより、パターン化薄膜を形成することができる。
【0028】
本発明の薄膜形成方法において、例えば、前記露光工程のとき、所望のパターンを描画したフォトマスクを用いて、前記一部を設定することができる。フォトマスクとしては、光を透過すべき部分では、配位子の光吸収帯、又は配位子で表面を修飾された金属化合物粒子の光吸収帯に属する波長の光を十分に透過するものを用いることが好ましい。このようなフォトマスクとしては、例えば、石英基板上に製膜したクロムマスク、パターン部分を抜いた穴空き金属板からなるメタルマスク等が挙げられる。
【0029】
フォトマスクを用いる方法以外としては、例えば、小さく絞ったスポット光をパターンに即して走査する方法、複数の光線の干渉光により露光する方法等が挙げられる。
前記塗布液における分散媒は、金属化合物粒子を懸濁できるものから、適宜選択できるが、塗布性を考えると、エタノール、プロパノール、ブタノール、乳酸エチル、1-メトキシ-2-プロパノール、γ-ブチロラクトン等が好ましい。塗布液中には、例えば、バインダーとして、薄膜形成用組成物以外に、感光性金属アルコキシド等を添加することができる。
【0030】
前記基体は、例えば、塗布液で溶解・変性しないものから、適宜選択することができる。基体としては、例えば、ガラス基板、ポリマー(例えばポリエチレンナフタレート、ポリイミド等)の基板、セラミックス(例えばアルミナ)の基板等を用いることができる。
【0031】
前記塗布液を塗布する方法は、特に限定されない。例えば、スピンコート、ディップコート、フローコート、スプレーコート等の方法を用いることができる。塗布液の塗布後は、配位子が分解・脱離しない温度(例えば100℃程度)で乾燥してから露光することが好ましい。
【0032】
前記露光工程では、配位子の光吸収帯、又は配位子で表面を修飾された金属化合物粒子の光吸収帯に属する波長の光(すなわち、配位子の光吸収帯、又は配位子で表面を修飾された金属化合物粒子の光吸収帯を励起可能な光)を発する光源を用いることができる。具体的には、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、エキシマーランプ、エキシマーレーザー、Nd:YAGレーザー、ブラックライト蛍光管等を用いることができる。露光後には、例えば、露光後ベイク(PEB)を行うことができる。
【0033】
前記現像工程では、例えば、露光後の基体をアルカリ性水溶液からなる現像液に浸漬して、露光されていない部分の塗布膜を除去してパターン化膜を得ることができる。100℃ 以上の温度で数分間、PEBを行うことで、金属化合物粒子の表面から配位子の光分解産物を脱離させ、金属化合物粒子間を近接させて凝集を促進させ、さらに、金属化合物粒子表面水酸基の重合を進めることができ、パターン化に要する露光時間を大幅に短縮できる。
【0034】
アルカリ性水溶液からなる現像液としては、例えば、四級アルキルアンモニウム塩の水溶液(例えば水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液)、アルカノールアミン水溶液、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等を挙げることができる。これらの現像液には、現像残渣を除去しやすくするために、界面活性剤等を添加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】配位子と金属酸化物表面金属原子が取り得る配位構造を表す説明図である。
【図2】ネガ型パターンが形成される原理を表す説明図である。
【図3】SnO2のXRDスペクトルである。
【図4】SnO2ナノ粒子のTEM像である。
【図5】CeO2のXRDスペクトルである。
【図6】CeO2ナノ粒子のTEM像である。
【図7】ZnOのXRDスペクトルである。
【図8】ZnOナノ粒子のTEM像である。
【図9】TiO2のXRDスペクトルである。
【図10】TiO2ナノ粒子のTEM像である。
【図11】エチルマルトール修飾酸化スズを用いた場合において、紫外線露光前にTMAHで現像した際の吸収スペクトル変化を表すグラフである。
【図12】エチルマルトール修飾酸化スズを用いた場合において、2分間の紫外線露光、120℃、3分間の露光後ベイク後に現像した時の吸収スペクトル変化を表すグラフである。
【図13】エチルマルトール修飾酸化スズを用いた場合において、紫外線露光、露光後ベイクによるFT−IRスペクトルの変化を表すグラフである。
【図14】実施例で得られたSnO2パターンの顕微鏡写真である。
【図15】エチルマルトール修飾酸化セリウムを用いた場合において、紫外線露光前、露光前現像後の吸収スペクトルを表すグラフである。
【図16】エチルマルトール修飾酸化セリウムを用いた場合において、紫外線露光前の膜と、2分間の紫外線露光と120℃、2分間の露光後ベイクの後に0.1%TMAHで現像して得た膜の吸収スペクトルを表すグラフである。
【図17】実施例で得られたCeO2パターンの顕微鏡写真である。
【図18】エチルマルトール修飾酸化亜鉛を用いた場合において、紫外線露光前、1%TMAHで現像後の吸収スペクトルを表すグラフである。
【図19】エチルマルトール修飾酸化亜鉛を用いた場合において、紫外線露光前の膜と、2分間の紫外線露光と120℃、2分間の露光後ベイクの後に1%TMAHで現像して得た膜の吸収スペクトルを表すグラフである。
【図20】エチルマルトール修飾チタン酸ナノチューブを用いた場合において、紫外線露光前に現像した際の吸収スペクトル変化を表すグラフである。
【図21】露光前と露光・露光後ベイク・現像後のチタン酸ナノチューブの吸収スペクトルを表すグラフである。
【図22】実施例で得られたチタン酸ナノチューブ膜の顕微鏡写真である。
【図23】エチルマルトール修飾酸化チタンを用いた場合において、露光前、および露光前に現像した際の吸収スペクトル変化を表すグラフである。
【図24】エチルマルトール修飾酸化チタンを用いた場合において、露光前、および露光・露光後ベイク・現像後の吸収スペクトルを表すグラフである。
【図25】エチルマルトール修飾酸化チタンから得たパターン化膜の顕微鏡写真である。
【図26】異なる時間紫外線照射したプロトカテク酸修飾酸化チタンナノ粒子膜の吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の実施形態を説明する。
1.塗布液の調製
以下のようにして、塗布液A〜Fを調製した。
(塗布液A)
塩化スズ(IV)五水和物0.35gと尿素3.7gをミリポア水40mLに溶解し、これに35wt% 塩酸2mLを加えた。この液を、容量125mLのテフロン(登録商標)製耐圧容器(Parr社製Acid digestion bomb)に入れ、90℃で17.5時間水熱処理を行った。水熱処理後の液から、酸化スズナノ粒子を遠心分離により回収した。
【0037】
回収した酸化スズナノ粒子を15mLのDMA((N,N-)ジメチルアセトアミド)に懸濁し、13mgのエチルマルトールを加え、100 ℃で30分間、加熱還流した。これにアセトン、及びヘキサンを添加して粒子を凝集させ、遠心分離で表面修飾酸化スズナノ粒子(表面を配位子であるエチルマルトールで修飾された酸化スズナノ粒子)を回収した。これをアセトンで一回洗浄した後、5〜10mLのエタノールに懸濁し、表面修飾酸化スズナノ粒子塗布液(塗布液A)とした。
【0038】
図3に、得られた表面修飾酸化スズナノ粒子のXRDスペクトルを示す。また、図4に、得られた表面修飾酸化スズナノ粒子のTEM像を示す。XRDスペクトルはルチル型の結晶のスペクトルと一致した。TEMから求められる表面修飾酸化スズナノ粒子の粒径は2〜3nmであった。
(塗布液B)
塩化セリウム(III)六水和物3.88gをミリポア水10mLに溶解し、これにクエン酸1.94gと3Mアンモニア水30mLを加えたのち、50℃で24時間攪拌した。この溶液10mLに1Mの塩酸を滴下し、生じた沈殿(酸化セリウムナノ粒子)を遠心分離で回収した。
【0039】
回収した酸化セリウムナノ粒子を15mLのDMAに懸濁し、80mgのエチルマルトールを加え、100℃で30分間、加熱還流した。これにアセトン、及びヘキサンを添加して粒子を凝集させ、遠心分離で表面修飾酸化セリウムナノ粒子(表面を配位子であるエチルマルトールで修飾された酸化セリウムナノ粒子)を回収した。これをアセトンで一回洗浄した後、10mLのエタノールに懸濁し、表面修飾酸化セリウムナノ粒子塗布液(塗布液B)とした。
【0040】
図5に、得られた表面修飾酸化セリウムナノ粒子のXRDスペクトルを示す。また、図6に、得られた表面修飾酸化セリウムナノ粒子のTEM像を示す。
(塗布液C)
酢酸亜鉛二水和物4.39gを40mLのベンジルアルコールに溶解し、150℃で1時間加熱した。遠心分離で酸化亜鉛ナノ粒子を回収し、アセトンで二回洗浄した。
【0041】
回収した酸化亜鉛ナノ粒子を15mLのDMAに懸濁し、163mgのエチルマルトールを加え、100 ℃で30分間、加熱還流した。これにアセトン、及びヘキサンを添加して粒子を凝集させ、遠心分離で表面修飾酸化亜鉛ナノ粒子(表面を配位子であるエチルマルトールで修飾された酸化亜鉛ナノ粒子)を回収した。これをアセトンで一回洗浄した後、10mLのエタノールに懸濁し、表面修飾酸化亜鉛ナノ粒子塗布液(塗布液C)とした。
【0042】
図7に、得られた表面修飾酸化亜鉛ナノ粒子のXRDスペクトルを示す。また、図8に、得られた表面修飾酸化亜鉛ナノ粒子のTEM像を示す。
(塗布液D)
5wt%のチタン酸ナノチューブ水懸濁液15mLに0.5Mの塩酸を25mL添加してチタン酸ナノチューブを凝集させ、遠心分離で回収した。これを水で一回洗浄し、さらにDMAで一回洗浄した後、15mLのDMAに懸濁した。これにエチルマルトールを0.133g添加し、100 ℃で30分間、加熱還流した。表面修飾チタン酸ナノチューブ(表面を配位子であるエチルマルトールで修飾されたチタン酸ナノチューブ)を遠心分離で回収した後、乳酸エチルで一回洗浄し、35mLのγ-ブチロラクトンに懸濁した。超音波洗浄機で60分間処理することで、表面修飾チタン酸ナノチューブを分散させ、これを塗布液Dとした。
(塗布液E)
チタンテトライソプロポキシドを、その濃度が0.548Mになるように、0.1M塩酸水溶液に滴下し、その後、超音波処理により、生じた加水分解産物を分散させた。この溶液を100 ℃で8時間加熱還流した。この溶液5mLにアセトンを添加して粒子を凝集させ、遠心分離で酸化チタンナノ粒子を回収した。
【0043】
回収した酸化チタンナノ粒子を10mLのDMAに懸濁し、77mgのエチルマルトールを加え、100℃で30分間、加熱還流した。これにアセトン、及びヘキサンを添加して酸化チタンナノ粒子を凝集させ、遠心分離で表面修飾酸化チタンナノ粒子(表面を配位子であるエチルマルトールで修飾された酸化チタンナノ粒子)を回収した。これをアセトンで一回洗浄した後、10mLのエタノールに懸濁し、表面修飾酸化チタンナノ粒子塗布液(塗布液E)とした。
【0044】
図9に、得られた表面修飾酸化チタンナノ粒子のXRDスペクトルを示す。また、図10に、得られた表面修飾酸化チタンナノ粒子のTEM像を示す。XRDスペクトルはアナタース型結晶と一致し、XRDから求められる表面修飾酸化チタンナノ粒子の粒径は5〜7nmであった。
(塗布液F)
基本的には塗布液Eの調製方法と同様であるが、77mgのエチルマルトール加える代わりに、85mgのプロトカテク酸を加えて、表面修飾酸化チタンナノ粒子塗布液(塗布液F)とした。なお、表面修飾酸化チタンナノ粒子は、表面をプロトカテク酸で修飾されている。
【0045】
2.パターン化薄膜の形成
塗布液A〜Eのそれぞれを用い、以下のようにして、パターン化薄膜を形成した。塗布液500μLを、石英板(50x50mm;0.7mm)に、1000rpm、20secの条件でスピンコートし、その後、100℃に保温したホットプレート上で1分間乾燥した。これに、合成石英製のフォトマスクである1951USAFテストターゲット(ネガ型、59153-L; Edmund Optics)を乗せ、250W超高圧水銀ランプ(USH-250BY、ウシオ電機)を装着したランプハウス(ML-251B、ウシオ電機)+照射光学ユニット(PM-25C-75、ウシオ電機)からの紫外光(60〜70 mWcm-2、 365nmでの強度)に所定時間露光した。露光後、100〜120 ℃に保温したホットプレート上で所定時間、露光後ベイクを行い、0.25〜1wt%の水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液で現像した。なお、塗布液ごとの露光時間、露光後ベイクの時間、現像液の濃度の条件を表5に示す。
【0046】
【表5】

【0047】
その結果、塗布液A〜Eを用いた場合は、フォトマスクのパターン通りのパターン化薄膜が得られた。なお、基体として、上述した石英板の代わりに、ソーダライムガラス(50x50mm;0.7mm厚)を用いてもよい。
【0048】
3.塗布液の評価
以下のようにして、各塗布液の特性を評価した。
(塗布液A)
塗布液Aを基板に塗布した試料の紫外吸収スペクトルを図11の「露光前」に示す。酸化スズの吸収に加え、217nmと315nmにエチルマルトールに由来する新たな吸収ピークが見られた。このことから、酸化スズ表面にエチルマルトールが修飾されていることが確認できた。露光せずにこの試料を0.1wt%TMAHで現像し、紫外吸収スペクトルを測定すると、図11の「露光前現像」に示すように、エチルマルトール修飾酸化スズの吸収は消失した。このことから、露光前の塗布液Aの膜は現像液に溶解することが確かめられた。
【0049】
次に、塗布液Aを塗布した試料に対し、露光、露光後ベイク、及び0.1wt%TMAHによる現像を順次行った。露光の方法は、「2.パターン化薄膜の形成」で述べたとおりとし、露光時間は2分間とした。また、露光後ベイクの条件は、120℃、3分間とした。
【0050】
露光前の状態(「露光前」)、露光後の状態(「2min露光」)、及び現像後の状態(「現像後」)でそれぞれ測定した紫外吸収スペクトルを図12に示す。露光前の状態では、315nmと217nmのエチルマルトールの吸収ピークが見られたが、露光後の状態では、それらの吸収ピークは消失していた。現像後の吸収スペクトルは、露光後の吸収スペクトルに比べて大きな変化はなかった。このことから、露光によって膜が不溶化し、ネガ型パターンが形成可能であることが分かった。
【0051】
また、図13に、露光前の状態(「露光前」)、露光後の状態(「2分間露光後」)、露光後ベイク後の状態(「120℃、3分間ベイク後」)におけるFT−IRスペクトルを示す。紫外線露光によりFT−IRスペクトルの形状は大きく変化した。2分間の露光後では、1600cm-1にピークが見られ、配位子の分解産物がナノ粒子表面に残存していることがわかった。120℃で3分間のベイクを行うと、このピークは消失し、粒子上から配位子由来の有機物が除去されていることが確かめられた。これらのスペクトル変化は図2のパターン化メカニズムを支持する。
【0052】
図14に、フォトマスクを使って露光して得たパターン化膜の顕微鏡写真を示す。SnO2ナノ粒子のパターン化膜が形成されていることが確かめられた。
(塗布液B)
塗布液Bを基板に塗布した試料の紫外吸収スペクトルを図15の「露光前」に示す。酸化セリウムの吸収に加え、217nmにエチルマルトールに由来する新たな吸収ピークが見られた。このことから、酸化セリウム表面にエチルマルトールが修飾されていることが確認できた。露光せずにこの試料を0.1wt%TMAHで現像し、紫外吸収スペクトルを測定すると、図15の「現像後」に示すように、エチルマルトール修飾酸化セリウムの吸収は消失した。このことから、露光前の塗布液Bの膜は現像液に溶解することが確かめられた。
【0053】
次に、塗布液Bを塗布した試料に対し、露光、露光後ベイク、及び0.1wt%TMAHによる現像を順次行った。露光の方法は、「2.パターン化薄膜の形成」で述べたとおりとし、露光時間は2分間とした。また、露光後ベイクの条件は、120℃、2分間とした。
【0054】
露光前の状態(「露光前」)、及び現像後の状態(「現像」)でそれぞれ測定した紫外吸収スペクトルを図16に示す。露光前の状態では、217nmのエチルマルトールの吸収ピークが見られたが、現像後の状態では、その吸収ピークは消失していた。その他は、現像後の吸収スペクトルは、露光前の吸収スペクトルに比べて大きな変化はなかった。このことから、露光によって膜が不溶化し、ネガ型パターンが形成可能であることが分かった。
【0055】
また、図17に、フォトマスクを使って露光して得たパターン化膜の顕微鏡写真を示す。酸化セリウムナノ粒子のパターン化膜が形成されていることが確かめられた。
(塗布液C)
塗布液Cを基板に塗布した試料の紫外吸収スペクトルを図18の「露光前」に示す。露光せずにこの試料を1wt%TMAHで現像し、紫外吸収スペクトルを測定すると、図18の「現像後」に示すように、エチルマルトール修飾酸化亜鉛の吸収の大半は消失した。このことから、露光前の塗布液Cの膜は現像液に溶解することが確かめられた。
【0056】
次に、塗布液Cを塗布した試料に対し、露光、露光後ベイク、及び1wt%TMAHによる現像を順次行った。露光の方法は、「2.パターン化薄膜の形成」で述べたとおりとし、露光時間は2分間とした。また、露光後ベイクの条件は、120℃、2分間とした。
【0057】
露光前の状態(「露光前」)、及び現像後の状態(「現像後」)でそれぞれ測定した紫外吸収スペクトルを図19に示す。紫外線露光によって、217nmと315nmのエチルマルトール由来の吸収は消失した。また、現像後の吸収スペクトルは、露光前の吸収スペクトルに比べて大きな変化はなかった。このことから、露光によって膜が不溶化し、ネガ型パターンが形成可能であることが分かった。
(塗布液D)
塗布液Dを基板に塗布した試料の紫外吸収スペクトルを図20の「露光前」に示す。露光せずにこの試料を0.25wt%TMAHで現像し、紫外吸収スペクトルを測定すると、図20の「現像後」に示すように、エチルマルトール修飾チタン酸ナノチューブの吸収は消失した。このことから、露光前の塗布液Dの膜は現像液に溶解することが確かめられた。
【0058】
次に、塗布液Dを塗布した試料に対し、露光、露光後ベイク、及び0.25wt%TMAHによる現像を順次行った。露光の方法は、「2.パターン化薄膜の形成」で述べたとおりとし、露光時間は3分間とした。また、露光後ベイクの条件は、100℃、1分間とした。
【0059】
露光前の状態(「露光前」)、及び露光・現像後の状態(「露光・現像後」)でそれぞれ測定した紫外吸収スペクトルを図21に示す。露光・現像後では、露光前に比べて、200〜250nmの吸収が減少した。これは、エチルマルトール配位子の光分解によるものである。その他は、露光・現像後の吸収スペクトルは、露光前の吸収スペクトルに比べて大きな変化はなかった。このことから、露光によって膜が不溶化し、ネガ型パターンが形成可能であることが分かった。
【0060】
また、図22に、フォトマスクを使って露光して得たパターン化膜の顕微鏡写真を示す。エチルマルトール修飾酸化チタンナノチューブのパターン化膜が形成されていることが確かめられた。
【0061】
光触媒活性の強い酸化チタンナノ粒子の場合でも、エチルマルトールを配位子として用いることで、パターン形成に要する時間を大きく短縮できる。
(塗布液E)
塗布液Eを基板に塗布した試料の紫外吸収スペクトルを図23の「露光前」に示す。露光せずにこの試料を0.25wt%TMAHで現像し、紫外吸収スペクトルを測定すると、図23の「現像後」に示すように、エチルマルトール修飾酸化チタンの吸収は消失した。このことから、露光前の塗布液Eの膜は現像液に溶解することが確かめられた。
【0062】
次に、塗布液Eを塗布した試料に対し、露光、露光後ベイク、及び0.25wt%TMAHによる現像を順次行った。露光の方法は、「2.パターン化薄膜の形成」で述べたとおりとし、露光時間は2分間とした。また、露光後ベイクの条件は、100℃、1分間とした。
【0063】
露光前の状態(「露光前」)、及び露光・現像後の状態(「露光・現像後」)でそれぞれ測定した紫外吸収スペクトルを図24に示す。露光前の状態では、230nm付近のエチルマルトールの吸収ピークが見られたが、露光・現像後の状態では、その吸収ピークは消失していた。その他は、露光・現像後の吸収スペクトルは、露光前の吸収スペクトルに比べて大きな変化はなかった。このことから、露光によって膜が不溶化し、ネガ型パターンが形成可能であることが分かった。
【0064】
また、図25に、フォトマスクを使って露光して得たパターン化膜の顕微鏡写真を示す。酸化チタンナノ粒子のパターン化膜が形成されていることが確かめられた。
(塗布液F)
塗布液Fを塗布した試料に対し、露光を行った。露光の方法は、「2.パターン化薄膜の形成」で述べたとおりとし、露光時間は2分間と15分間の2種類とした。
【0065】
露光前の状態(「露光前」)、2分間の露光後の状態(「2分間露光」)、及び15分間の露光後の状態(「15分間露光(定常」)でそれぞれ測定した紫外吸収スペクトルを図26に示す。露光前の状態、及び2分間の露光後の状態では、プロトカテク酸の吸収スペクトルが見られた。15分間の露光後の状態では、プロトカテク酸の吸収スペクトルは消失した。
【0066】
露光前の状態、及び2分間の露光後の状態では、膜は現像液に対し可溶であり、15分間の露光後の状態では、膜は現像液に対し不溶であった。このことから、膜を不溶化するには、長時間の露光が必要であることが確認できた。
【0067】
なお、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属化合物粒子と、
前記金属化合物粒子の表面を修飾する化学式1〜4のいずれかで表される配位子と、
を含む薄膜形成用組成物。
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

化学式1におけるXは、O, S, NH, N-CnH2n+1, CH2のうちのいずれかである。Yは、金属に配位可能な官能基である。R1, R2は、水素または任意の基である。
化学式2におけるYは、金属に配位し得る基である。R1〜R4は、すべてHか、任意の一つが-OHで残りはHか、互いに隣り合わない二つが-OHで残りがHのいずれかである。R'1〜R'4は、すべてHか、任意の一つが-OHで残りはHか、任意の一つが-SO3Naで残りはHか、互いに隣り合わない二つが-OHで残りがHのいずれかである。
化学式3におけるXは、O, S, NH, N-CnH2n+1, CH2のうちのいずれかである。Yは、金属に配位し得る基である。R1〜R3は、水素または任意の官能基である。
化学式4におけるXは、O, S, NH, N-CnH2n+1, CH2のうちのいずれかである。Yは、金属に配位し得る基である。R1〜R3は、水素または任意の官能基である。
【請求項2】
前記金属化合物粒子が、酸化スズ粒子、酸化鉄粒子、酸化セリウム粒子、酸化インジウム粒子、酸化タングステン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化ハフニウム粒子、チタン酸ナノチューブ、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化チタン粒子、及び酸化亜鉛粒子から成る群から選ばれる1以上であることを特徴とする請求項1記載の薄膜形成用組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の薄膜形成用組成物と、
前記薄膜形成用組成物を分散させる分散媒と、
を含むことを特徴とする塗布液。
【請求項4】
請求項3記載の塗布液を、基体の表面に塗布して、塗布膜を形成する塗布膜形成工程と、
前記塗布膜に、前記配位子の光吸収帯、又は前記配位子で表面を修飾された前記金属化合物粒子の光吸収帯に属する波長の電磁波を照射する露光工程と、
を備えることを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項5】
前記露光工程のとき、前記塗布膜のうち、一部のみに前記電磁波を照射するとともに、
前記露光工程の後、前記一部以外の部分における前記塗布膜を、前記一部における前記塗布膜よりも溶解しやすい現像液により、前記塗布膜のうち、前記一部以外の部分を除去する現像工程を備えることを特徴とする請求項4記載の薄膜形成方法。
【請求項6】
前記露光工程のとき、所定のフォトマスクを用いて、前記一部を設定することを特徴とする請求項5記載の薄膜形成方法。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図20】
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【図23】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図12】
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【図14】
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【図17】
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【図19】
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【図21】
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【図22】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2012−207174(P2012−207174A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75455(P2011−75455)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【Fターム(参考)】