説明

薄膜形成装置及び有機ELデバイス製造装置

【課題】有機材料の利用効率の向上と装置設置面積の削減とを両立させて、有機ELデバイスの製造コストを低減できる薄膜形成装置及びインライン型の有機ELデバイス製造装置を提供する。
【解決手段】基板16の搬入位置20に配置され、基板16と蒸着マスク17とを相対的に移動させて位置合わせする位置合せ機構15と、基板16が組み込まれた蒸着マスク17を搬送する搬送機構14と、基板16と蒸着マスク17が移動しながら、蒸着マスク17の開口部を通して基板16上に有機材料を積層する成膜機構13と、を備え、少なくとも成膜機構13の前段もしくは後段のいずれか一方において、基板16の搬入位置20もしくは搬出位置21の搬送機構14a、14cと成膜区間の搬送機構14bとが並列配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空環境下で基板上に薄膜を形成する薄膜形成装置、及び該薄膜形成装置を成膜室として1以上備えたインライン型の有機エレクトロルミネッセンス(EL)デバイス製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機ELデバイスの量産化に対応可能な有機ELデバイス製造装置の開発が進められている。有機ELデバイスは水分に弱いという特性から、現在はドライプロセスによる製造が主流であり、真空環境下において有機材料を加熱により気化または昇華させて基板上に堆積させる真空蒸着法が多く用いられている。
【0003】
有機ELデバイスを製造する装置としては、真空環境での使用に対応した搬送ロボットを中央に配置し、その周囲に放射状に真空蒸着装置を配置したクラスタ型の有機ELデバイス製造装置が広く用いられている。このクラスタ型の有機ELデバイス製造装置においては、中央に配置された搬送ロボットが基板を真空環境下で各真空蒸着装置に搬送する。そして、真空蒸着装置内に予め配置されている蒸着マスクと基板との位置合わせの完了後に、成膜が開始される。そのため、位置合わせに要する時間においても、非常に高価な有機材料が消費されてしまう。したがって、有機材料の使用効率が低下し、結果的に有機ELデバイスの製造コストを上昇させる要因となっている。
【0004】
そこで、有機材料を効率的に使用可能な製造装置が求められており、例えば、基板と蒸着マスクを連続して搬送すると同時に成膜を行うインライン型の有機ELデバイス製造装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−85605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の有機ELデバイス製造装置によれば、搬送体としての基板及び蒸着マスクを連続して搬送しているが、搬送体の間隔を狭めるために、搬送体の長さよりも長い緩衝区間を設け、先行の搬送体に追い着かせている。具体的には、搬送体の移動開始位置から成膜区間開始位置までの距離は、位置合わせ機構と緩衝区間の移動機構とを含めると、少なくとも2以上の搬送体の長さが必要となる。また、成膜区間終了位置から移動終了位置までの距離についても、緩衝区間の移動機構と分離機構とを含めると、少なくとも2以上の搬送体の長さが必要となる。そのために成膜区間の前後において、少なくとも4以上の搬送体の長さが必要となり、装置の設置面積を増大させている。
【0007】
また、フルカラー塗分けプロセスを想定した有機ELデバイス製造装置においては、上述したように真空蒸着装置が複数配置されるため、装置設置面積の増大がより顕著になると考えられる。装置設置面積の増大はクリーンルームの占有面積の増大を招き、クリーンルームの投資コスト及び運転コストを含めると、有機ELデバイスの製造コストを増大させている。
【0008】
そこで本発明は、有機材料の利用効率の向上と装置設置面積の削減とを両立させて、有機ELデバイスの製造コストを低減できる薄膜形成装置、及び該薄膜形成装置を成膜室として備えるインライン型有機ELデバイス製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成すべく成された本発明の構成は以下の通りである。
【0010】
即ち、本発明に係る薄膜形成装置は、基板の搬入位置に配置され、基板と蒸着マスクとを相対的に移動させて位置合わせする位置合せ機構と、前記基板が組み込まれた前記蒸着マスクを搬送する搬送機構と、前記基板と前記蒸着マスクが移動しながら、前記蒸着マスクの開口部を通して前記基板上に有機材料を積層する成膜機構と、を備え、
少なくとも成膜機構の前段もしくは後段のいずれか一方において、基板の搬入位置もしくは搬出位置の搬送機構と成膜区間の搬送機構とが並列配置されていることを特徴とする薄膜形成装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、少なくとも成膜機構の前段もしくは後段のいずれか一方において、基板の搬入位置もしくは搬出位置の搬送機構と成膜区間の搬送機構とが並列配置されている。また、基板の搬入位置に位置合せ機構が配置されている。
【0012】
したがって、基板の搬入位置もしくは搬出位置の搬送機構と成膜区間の搬送機構を直列配置するよりも装置設置面積を削減することができる。また、装置設置面積の削減は装置自体をコンパクト化することができ、装置の低コスト化が期待できる。さらに、装置設置面積の削減によりクリーンルーム面積の削減が可能となり、クリーンルームの投資コストとランニングコストを削減することができる。よって、有機材料の利用効率の向上と装置設置面積の削減を両立でき、有機ELデバイスの製造コストを低減することができるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る薄膜形成装置の一実施の形態を示す概略図である。
【図2】本実施形態のインライン型有機ELデバイス製造装置を示す平面図である。
【図3】実施例の薄膜形成装置における搬送時間と搬送速度の関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は本実施形態に限定されない。なお、本明細書で特に図示または記載されない部分に関しては、当該技術分野の周知または公知技術を適用する。
【0015】
まず図1及び図2を参照して、本発明に係る有機ELデバイス製造装置の一実施の形態について説明する。図1は、本発明に係る薄膜形成装置の一実施の形態を示す概略図である。図2は、本実施形態のインライン型有機ELデバイス製造装置を示す平面図である。
【0016】
<インライン型有機ELデバイス製造装置>
図2に示すように、本実施形態のインライン型有機ELデバイス製造装置は、真空環境下で基板16と蒸着マスク17を連続して搬送すると同時に有機材料の積層を行う装置である。本実施形態のインライン型有機ELデバイス製造装置には、ローダー室2、前段の搬送室3a、3基の成膜室1、後段の搬送室3b及びアンローダー室8が、それぞれゲートバルブ22を介して直列に配置されている。
【0017】
ローダー室2は基板16が最初に投入される収容室であって、大気圧環境下で投入された基板16を真空環境下へと処理する真空排気機構を備えている。
【0018】
前段の搬送室3aは、ローダー室2と1段目の成膜室1との間に介設されており、該搬送室内に真空環境に対応する搬送ロボット23aを備えている。さらに、この搬送室3aは、ゲートバルブ22を介して、基板16を前処理する前処理室4を備えている。前処理室4では、基板16に加熱処理やUV処理などの必要な前処理が施される。
【0019】
成膜室1は基板上に薄膜を形成する処理室であって、本実施形態では、3基の成膜室1を直列に配置することにより、フルカラー有機ELデバイスを製造することが可能な装置構成となっている。具体的には、各成膜室1において、例えば、R(赤),G(緑),B(青)の有機材料が順に積層される。各成膜室1には、蒸着マスク17を収容するマスク室9、蒸着マスク17上に基板16を組み込む組込室11、基板16と蒸着マスクとを分離する分離室12及び蒸着マスク17が折り返すマスクリターン室10が備えられている。
【0020】
後段の搬送室3bは、3段目の成膜室1と処理後の基板を搬出するアンローダー室8との間に介設されており、該搬送室内に真空環境に対応する搬送ロボット23bを備えている。この搬送室3bには、有機材料を積層した基板16に電極を形成する電極形成室5、貼り合せ基板を投入する貼り合せ基板用ローダー7、及び有機材料を積層した基板16と貼り合せ基板とを貼り合わせる貼り合せ室6が備えられている。電極形成室5は電極を形成する機構を、貼り合せ室6は基板同士を貼り合わせる機構を備えている。
【0021】
アンローダー室8は、処理後の基板を収容する収容室であって、真空環境下の処理基板を真空環境へと処理する真空排気機構を備えている。
【0022】
<薄膜形成装置>
本実施形態の薄膜形成装置は、例えば、上記インライン型有機ELデバイス製造装置の成膜室1として構成される。図1(a)に示すように、成膜室1には、位置合せ機構15、成膜機構13、搬送機構14、昇降機構18,19、不図示の真空排気機構、不活性ガス導入機構及び圧力測定機構が備えられている。ここで、搬送機構14は、成膜機構13の前段及び後段における基板搬入位置20及び搬出位置21の搬送機構14a,14cと、成膜機構13の上部又は下部に配置され、成膜機構13の前段及び後段において搬送速度可変な成膜区間の搬送機構14bとからなる。
【0023】
上記組込室11から成膜室1の搬入位置20の搬送機構14a上に基板16が組み込まれた蒸着マスク17が搬入される。
【0024】
位置合わせ機構15は、組込室11から成膜室1に搬送された基板16と、マスク室9から供給される蒸着マスク17とを相対的に位置合せする機構である。本実施形態の位置合わせ機構15は、基板16の搬入位置20に配置されている。
【0025】
昇降機構19は、位置合せ機構15で位置合わせされた基板16と蒸着マスク17を成膜区間の搬送機構14bへと移載する機構である。本実施形態の構成では、位置合せ機構15に昇降機構19を付加することにより、装置の簡略化を図っている。したがって、成膜機構13の前段における基板搬入位置20の搬送機構14aと成膜区間の搬送機構14bとは並列配置されている。まず、昇降機構19は、位置合せ機構15により位置合せされた基板16と蒸着マスク17を搬送機構14aから受け取る。その後、搬送機構14aは基板16と蒸着マスク17が通過できる幅に広がり、基板16及び蒸着マスク17に干渉しない位置へと移動する。次に、昇降機構19により基板16と蒸着マスク17を搬送機構14bへ受け渡す。尚、受け渡し後、昇降機構19と搬送機構14aは次の基板の受取に備え、元の位置に戻る。基板16と蒸着マスク17の受け渡し方法はこれに限られず、搬送機構14aを昇降機構19により昇降移動可能に構成する等、基板16と蒸着マスク17が搬送機構14aから搬送機構14bに受け渡せる構成であれば良い。
【0026】
搬送機構14bの途中には、1以上の蒸着源が並んだ成膜機構13が設けられている。本実施形態では、成膜機構13の上に基板16及び蒸着マスク17を搬送する搬送機構14bが配置されているので、蒸着源は上方に臨んで配置されている。すなわち、基板16が組み込まれた蒸着マスク17が成膜機構13の上を通過することにより、蒸着マスク17の開口部を通して基板16上に有機材料が堆積する。
【0027】
搬送機構14bの後段には昇降機構18が配置されており、この昇降機構18により、成膜機構13を通過した基板16と蒸着マスク17は搬出位置21の搬送機構14cへと移載される。したがって、成膜機構13の後段における基板搬出位置21の搬送機構14cと成膜区間の搬送機構14bとは並列配置されている。まず、搬送機構14cは、基板16と蒸着マスク17が通過できる幅に広がり、基板16及び蒸着マスク17に干渉しない位置へと移動する。その後、昇降機構18は降下し、成膜終了後の基板16と蒸着マスク17を搬送機構14bから受け取る。次に、昇降機構18は、保持した基板16と蒸着マスク17を搬送機構14cへ受け渡す位置へと上昇する。その後、搬送機構14cは、基板16と蒸着マスク17を搬送可能な位置へ戻り、昇降機構18から基板16と蒸着マスク17を受け取る。基板16と蒸着マスク17の受け渡し方法はこれに限られず、搬送機構14cを昇降機構18により昇降移動可能に構成する等、基板16と蒸着マスク17が搬送機構14bから搬送機構14cに受け渡せる構成であれば良い。
【0028】
この成膜室1の搬出位置21の後方には上記分離室12が配置されており、基板16及び蒸着マスク17は搬送機構14cによって分離室12へと搬送される。
【0029】
次に、本実施形態のインライン型有機ELデバイス製造装置の作用について説明する。ローダー室2から基板16が有機ELデバイス製造装置へ投入される。ローダー室2は、大気圧環境下で投入された基板16を真空環境へと処理する。
【0030】
ローダー室2が真空環境になった後、ゲートバルブ22を開放し、搬送室3aに設けられた搬送ロボット23aによって基板16を前処理室4に搬送する。前処理室4では、基板16に加熱処理やUV処理などの必要な前処理が施される。
【0031】
前処理が施された基板16は再び搬送室3aの搬送ロボット23aにより組込室11へと搬送される。組込室11では、蒸着マスク17上に基板16が組み込まれる。基板16が組み込まれた蒸着マスク17は成膜室(薄膜形成装置)1の搬入位置20に搬送される。
【0032】
成膜室1に搬送された基板16と蒸着マスク17は、位置合せ機構15によって相対的な位置合せが行われる。なお、具体的な位置合わせ処理については、後述する実施例で詳述する。
【0033】
位置合せが行われた基板16と蒸着マスク17は、昇降機構19により成膜区間の搬送機構14bへと移載される。成膜区間の搬送機構14bに移載された基板16と蒸着マスク17は1以上の蒸着源が並んだ成膜機構13を通過することにより、蒸着マスク17の開口部を通して基板16に有機材料が堆積し、例えばR層が積層される。成膜機構13を通過した基板16及び蒸着マスク17は、昇降機構18により成膜室1の搬出位置21へと移載される。
【0034】
成膜室1の搬出位置21へと移載された基板16及び蒸着マスク17は分離室12へと搬送され基板16と蒸着マスク17とが分離される。そして、分離室12において分離された基板16のみを次の組込室11へと搬送する。同様にして、例えばG層及びB層の各層が積層される。
【0035】
RGBの有機材料が成膜された基板16は、搬送室3bに設けられた搬送ロボット23bにより電極形成室5に搬送される。電極形成室5では、例えばスパッタリング法により上部電極が形成される。
【0036】
上部電極が形成された基板16は搬送室3bの搬送ロボット23bにより貼り合せ室6へと搬送される。貼り合せ室6では、貼り合せ基板用ローダー室7から貼り合せ基板を投入することで、この貼り合せ基板と有機材料を積層した基板16とを貼り合わせ処理する。
【0037】
貼り合せ終了後の基板16は、搬送室3bの搬送ロボット23bによりアンローダー室8へと搬送される。アンローダー室8では、基板16を真空環境から大気圧環境へと処理し、大気圧環境下で基板を取り出すことができる。
【0038】
以上説明したように本実施形態の有機ELデバイス製造装置によれば、成膜機構13の前段及び後段における基板搬入位置20及び搬出位置21の搬送機構14a,14cと成膜区間の搬送機構14bとが並列配置されている。したがって、基板搬入位置20の搬送機構14a、成膜区間の搬送機構14b、及び搬出位置21の搬送機構14cを直列配置するよりも、装置設置面積を削減することができる。本発明はこれに限定されず、少なくとも成膜機構13の前段もしくは後段のいずれか一方において、基板搬入位置20の搬送機構14aもしくは搬出位置21の搬送機構14cと成膜区間の搬送機構14bとが並列配置されていればよい。本実施形態では、基板搬入位置20に位置合せ機構15が配置されている。
【0039】
また、装置設置面積の削減は装置自体をコンパクト化することができ、装置の低コスト化が期待できる。さらに、装置設置面積の削減によりクリーンルーム面積の削減が可能となり、クリーンルームの投資コストとランニングコストを削減することができる。よって、有機材料の利用効率の向上と装置設置面積の削減とを両立でき、有機ELデバイスの製造コストを低減することができる。
【0040】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、これは本発明の説明のための例示であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態とは異なる種々の態様で実施することができる。
【0041】
例えば、基板が大判化した際に基板姿勢が縦型に設定した場合においても同様の作用効果を奏する。大判化に伴う生産性向上も合せると、更なるコストダウン効果を発揮する。
【実施例】
【0042】
次に、本発明に係る薄膜形成装置の実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明する。本実施例では、図1の構成の薄膜形成装置を作製して搬送時間の検討を行なった。本実施例で使用した基板16の外形サイズは、460mm×720mm×0.5mmであり、蒸着マスク17の外形サイズは500mm×800mm×25mmである。
【0043】
まず図1(a)に示すように、成膜室1の前段である組込室11にて蒸着マスク17に基板16が組み込まれる。組み込まれた基板16と蒸着マスク17は成膜室1の搬入位置20の搬送機構14aへと搬送される。本実施例では、搬入位置20に位置合せ機構15が配置されている。また、成膜室1の前段で基板16と蒸着マスク17を組み込む構成としたが、これに限定されず、例えば、搬入位置20にて基板16と蒸着マスク17を組み込んでもよい。
【0044】
次に図1(b)に示すように、投入された基板16と蒸着マスク17は一度分離され、位置合せ機構15は、基板16と蒸着マスク17が非接触の状態にて相対的に位置を合せる。具体的に説明すると、位置合せ機構15には、基板16及び蒸着マスク17にマーキングされているそれぞれの位置合せ用マークを認識するための撮像素子と、撮像素子から入力された画像情報を演算するための画像処理機構が備えられている。さらに、画像処理機構の演算結果に基づいて、基板16と蒸着マスク17を相対的に移動させる移動手段が設けられている。本実施例では蒸着マスク17を固定し、基板16を移動させることにより位置合せを行った。
【0045】
位置合せ処理の終了後に、再び基板16と蒸着マスク17を密着させる。このときに、再度画像処理にて基板16と蒸着マスク17の相対位置を演算して「ずれ量」が規定値以内であるかどうかを確認し、規定値以内であれば次の工程へと進み、規定値を外れているときは再度基板16と蒸着マスク17を分離して位置合せ処理を行う。
【0046】
次に図1(c)に示すように、再密着後の「ずれ量」が規定値以内となった基板16と蒸着マスク17は、先行の基板16及び蒸着マスク17が搬送機構14b内の不図示のセンサーにて所望の位置へとなった場合に搬送機構14bへと移載される。本実施例では7分タクトを想定しており、位置合せに必要な時間は経験上3分以内には完了するため基板16と蒸着マスク17の搬入動作を考慮しても十分な時間がある。そのため、位置合せ動作終了後に位置合せ機構15にて待ちの時間が発生する。
【0047】
搬送機構14bへの移載には位置合せ機構15に付加された昇降機構19を用いる。移載時の移動量は、基板16の厚さと蒸着マスク17の厚さ及び搬送ローラーの厚さ以上であればよく、本実施例では80mmのクリアランスがあれば十分である。80mmの距離を移動する時間は10sec程度である。また、位置合せ機構部(搬入位置)20の搬送機構14aは、基板16及び蒸着マスク17の移載時には干渉しない位置へと移動する機能を備えている。本実施例では、搬送方向に対して垂直方向にスライドすることで蒸着マスク17の幅より広くなる位置へと移動する。
【0048】
次に図1(d)に示すように、搬送機構14bへと移載された基板16と蒸着マスク17は成膜に必要な速度へと加速される。本実施例では、成膜時の搬送速度を2mm/sec、加速時の加速度を20mm/sec2とした。2mm/secまで加速するのに必要な時間は0.1secである。よって、位置合せ機構15から搬送機構14bに移載する際の時間が10sec程度であるため、先行の基板16と蒸着マスク17との間隔を20mm程度とすることができる。搬送機構14bにより成膜速度まで加速された基板16と蒸着マスク17は、成膜機構13によって所望の膜厚まで成膜される。
【0049】
本実施例では単数層の場合を例示したが、蒸着源を進行方向に複数列並べることにより複数層の成膜を行うことができる。成膜が終わった基板16と蒸着マスク17は所定の位置にて停止する。減速時の減速度も20mm/sec2で設定されているため、2mm/secから停止するまで減速するのに必要な時間は0.1secである。
【0050】
図3は、本実施例の薄膜形成装置における搬送時間と搬送速度の関係を示す説明図であり、成膜機構通過時を0secとしたときの前後における基板及び蒸着マスクの搬送速度を示すグラフである。従来例においては、先行の基板16及び蒸着マスク17に追い着くために、成膜時の搬送速度以上に加速する必要がある。また、最大速度20mm/sec、加速度を20mm/sec2とすると、先行の基板16及び蒸着マスク17に追い着くためには40sec程度の時間が必要となる。基板が大判化したときには更に時間が掛かるか、追い着き時の速度を更に上げる必要があり、前者の場合は位置合わせに掛けられる時間が短くなってしまい、後者の場合は加減速により位置合わせ後の基板16と蒸着マスク17にずれが生じる可能性がある。
【0051】
停止した基板16と蒸着マスク17は、昇降機構18によって成膜室1の搬出位置21の搬送機構14cへと移載される。昇降時の移動距離も80mmのクリアランスがあれば十分であり、80mmの距離を移動する時間は10sec程度である。成膜室1の搬出位置21に移載された基板16と蒸着マスク17は分離室12へと搬送される。本実施例では、基板16と蒸着マスク17を成膜室1の後段で分離する構成としたが、例えば成膜室1の搬出位置21において基板16と蒸着マスク17を分離してもよい。
【0052】
本実施例によれば、成膜機構13の前段及び後段における基板搬入位置20及び搬出位置21の搬送機構14a,14cと成膜区間の搬送機構14bとを並列配置することにより、装置設置面積を削減することが可能となる。その結果、有機材料の利用効率の向上と装置設置面積の削減を両立でき、有機ELデバイスの製造コストを低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係る薄膜形成装置は有機ELデバイス製造装置に限らず、基板と蒸着マスクを用いる薄膜形成について広く使用することが可能である。例えば、スパッタリング法やCVD法等の基板と蒸着マスクを用いて成膜する装置においても、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 成膜室、13 成膜機構、14 搬送機構、15 位置合せ機構、16 基板、17 蒸着マスク、20 搬入位置、21 搬出位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の搬入位置に配置され、基板と蒸着マスクとを相対的に移動させて位置合わせする位置合せ機構と、
前記基板が組み込まれた前記蒸着マスクを搬送する搬送機構と、
前記基板と前記蒸着マスクが移動しながら、前記蒸着マスクの開口部を通して前記基板上に有機材料を積層する成膜機構と、
を備え、
少なくとも成膜機構の前段もしくは後段のいずれか一方において、基板の搬入位置もしくは搬出位置の搬送機構と成膜区間の搬送機構とが並列配置されていることを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項2】
前記搬入位置もしくは前記搬出位置の搬送機構は、それぞれに備えられた昇降機構により昇降移動されることを特徴とする請求項1に記載の薄膜形成装置。
【請求項3】
真空環境下で基板と蒸着マスクを連続して搬送すると共に有機材料の積層を行うインライン型の有機ELデバイス製造装置において、
請求項1または2に記載の薄膜形成装置を成膜室として備えていることを特徴とする有機ELデバイス製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−97330(P2012−97330A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246381(P2010−246381)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】