薄膜形成装置
【課題】多数の基板上の特定部分のみに薄膜を形成する作業を簡素化して効率化することにより、薄膜形成時の作業時間を短縮し、成膜作業における費用の低減が可能な薄膜形成装置を提供する。
【解決手段】薄膜形成装置100に備えられた基板保持機構3は、基板の非成膜部分の一部が他の基板と重なり合い、成膜部分が露出するように複数の基板を保持する基板保持部材10〜40と、基板保持部材10〜40を支持する支持部材50と、支持部材50を回転させる回転部材60と、を備え、基板保持部材10〜40は、複数の基板を保持し、成膜源4と複数の基板との間に配設される複数の保持面と、複数の保持面の間に形成され、複数の基板の端部とそれぞれ当接する複数の段差部と、複数の段差部に基板の端部が当接した状態にあるとき、成膜部分に相当する部分の保持面上に形成された複数の開口部と、を有する。
【解決手段】薄膜形成装置100に備えられた基板保持機構3は、基板の非成膜部分の一部が他の基板と重なり合い、成膜部分が露出するように複数の基板を保持する基板保持部材10〜40と、基板保持部材10〜40を支持する支持部材50と、支持部材50を回転させる回転部材60と、を備え、基板保持部材10〜40は、複数の基板を保持し、成膜源4と複数の基板との間に配設される複数の保持面と、複数の保持面の間に形成され、複数の基板の端部とそれぞれ当接する複数の段差部と、複数の段差部に基板の端部が当接した状態にあるとき、成膜部分に相当する部分の保持面上に形成された複数の開口部と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜形成装置に係り、特に、多数の基板上の特定部分に対し、効率よく薄膜を形成することが可能な薄膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやデジタルビデオ等の撮影機器、携帯電話、スマートフォン、携帯ゲーム機等の様々な機器において、基板表面上に薄膜を形成する技術が用いられている。
そして、これらの機器に備えられる基板は、基板全面に亘って薄膜が形成されているものもあるが、基板上のある特定の領域のみに選択的に形成されているものが数多くある。
【0003】
このように、基板上の特定の部分のみに選択的に薄膜を形成するためには、薄膜形成装置内に配設される基板保持機構に保持された基板において、薄膜を形成しない部分(以下、「非成膜部分」と称する)をマスクによって覆う技術が用いられる。しかし、このようにマスクによって基板を覆う技術では、一般に、基板上の薄膜を形成する部分(以下、「成膜部分」と称する)が、互いに重ならないようにそれぞれの基板が基板保持機構に保持されるため、基板保持機構に保持される基板の数を多くすることができない。したがって、多数の基板に対して一括で成膜することができず、成膜効率が低下するという不都合があった。
【0004】
上記の問題に対して、マスクを用いて非成膜部分を形成するのではなく、非成膜部分を他の基板で覆うように、基板を重ね合わせた状態で薄膜を形成する技術が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、特許文献2では、第1のピン及び第2のピンを用いて複数の基板を傾斜させて配設し、基板の端部近傍に薄膜を形成する技術が提案されている。このように、互いに斜状に配置された基板は、基板同士が互いにマスクの作用をするため、成膜時にマスクを備える必要がなく、且つ、基板が互いに重なるように配置されるため、多数の基板を一括で処理することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−266071号公報
【特許文献2】特開平7−34222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1で開示された技術では、最後に基板ホルダーに載置される基板の上には、非成膜部分を覆う防着板が取り付けられる必要があるため、作業効率が低下する。また、特許文献2に開示された技術は、基板をそれぞれ第1のピン及び第2のピンに係止する必要があることから、基板の設置作業が煩雑であり、作業時間が長くなるという不都合がある。
したがって、特許文献1及び特許文献2の技術では、薄膜形成時の作業時間が長くなり、成膜作業において費用が嵩むという問題点があった。
【0008】
さらに、特許文献1及び特許文献2で開示された基板保持機構は、必然的に基板の端部(側面を含む端部)が露出する構成となることから、成膜部分の形状や大きさを細かく設定することが難しい。したがって、基板上に形成可能な成膜部分の形状や大きさが限定されるという不都合があった。
【0009】
本発明の目的は、多数の基板上の特定部分のみに薄膜を形成する作業を簡素化して効率化することにより、薄膜形成時の作業時間を短縮し、成膜作業における費用の削減が可能な薄膜形成装置を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、基板上の特定の部分のみに成膜部分を形成する際、成膜部分の形状や大きさを細かく設定可能な薄膜形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題は本発明の薄膜形成装置によれば、複数の基板を保持する基板保持機構を有し、前記複数の基板上に薄膜を形成する薄膜形成装置であって、前記基板保持機構は、前記複数の基板を保持する基板保持部材と、該基板保持部材を支持する支持部材と、該支持部材を回転させる回転部材と、を備え、前記基板保持部材は、前記複数の基板を保持し、前記薄膜の材料を放出する成膜源と前記複数の基板との間に配設される複数の保持面と、該複数の保持面の間に形成された複数の段差部と、前記複数の保持面にそれぞれ形成された複数の開口部と、を有し、前記複数の基板のうち前記薄膜が形成されない非成膜部分の一部が他の基板と重なり合うと共に、前記薄膜が形成される成膜部分が露出し、前記複数の基板の端部が前記段差部にそれぞれ当接した状態にあるとき、前記成膜部分が、前記開口部を通して前記成膜源側に露出するように、複数の前記基板を搭載可能であること、により解決される。
【0011】
基板上の特定の部分のみに薄膜を形成する技術の効率化を図るため、従来は、非成膜部分を他の基板で覆うように基板を互いに重ねて保持した状態で成膜工程を行っていた。このとき、非成膜部分は他の基板で覆うように配置すると共に、成膜部分が露出するように基板を保持させる作業が煩雑であるという問題点があった。
このような問題点に対し、本発明の薄膜形成装置によれば、基板を保持する保持面、及び段差部に基板を当接させる(載置する)だけで容易に複数の基板を基板保持機構に保持させることができる。そして、成膜源と基板との間に基板保持機構の保持面が備えられ、この保持面には成膜部分に相当する部分に開口部が備えられているため、基板の成膜部分のみが露出し、複雑な取り付け作業を行う必要がない。すなわち、基板の非成膜部分を他の基板で覆うと共に、成膜部分を露出するように基板を保持させる作業を簡素化することができる。したがって、基板を保持させる際、複雑な作業を行う必要がないため効率化できる。その結果、薄膜形成時の作業時間を短縮することができ、成膜作業における費用の削減が可能となる。
また、保持面に開口部を備えることにより基板の成膜部分のみを露出させることができるため、保持面(基板保持部材)がマスクの役割を果たす。したがって、開口部の形状や大きさに依存して成膜部分の形状や大きさを制御することができるため、より緻密な成膜作業を行うことが可能となる。
さらに、基板保持機構において、支持部材(すなわち、基板保持機構)を回転させる回転部材をさらに備えることにより、基板保持部材もまた回転させることができるため、複数の基板上に形成される薄膜を均一な膜質、膜厚で形成することができる。
【0012】
このとき、前記基板保持部材は、前記回転部材の回転方向において2以上12以下に分割されていると好ましい。
そして、基板保持部材を基板保持機構の回転方向において2分割〜12分割とすることにより、基板保持部材が適当な大きさとなり、支持部材に対して容易に取付けることができる。したがって、成膜作業における作業効率が向上し、作業時間を短縮することができる。
【0013】
さらに、前記基板保持部材は、平面視環状に形成され、前記基板保持部材の径方向上で、前記基板保持部材が複数隣り合って配設されると好適である。
このように、環状(ドーナツ状)に形成された基板保持部材を径方向上で隣り合った状態で複数備えることにより、基板保持機構が保持できる基板の数をさらに増やすことができる。したがって、一括で成膜できる基板枚数を増やすことができるため、成膜作業の効率が飛躍的に向上する。
【0014】
また、前記支持部材は、前記基板保持部材の前記複数の保持面と、前記回転部材の回転軸とが成す角度が可変となるように前記基板保持部材を保持すると好ましい。
基板保持部材において、基板を保持する保持面と水平面とが成す角度を変更可能とすることにより、基板上に成膜される薄膜の膜厚を補正することができる。その結果、複数の基板において、より均一な膜厚の薄膜を形成することができ、成膜時に必要な材料を削減することができる。
【0015】
このとき、前記基板保持部材は、前記成膜部分と前記成膜源とを通る第1の仮想線と、前記成膜部分の成膜面に対する垂線とが成す角度が0°以上45°以下となるように前記複数の基板を保持すると好ましい。
基板上に薄膜を形成する際、薄膜の厚さ(膜厚)は、成膜面と薄膜材料を放出する成膜源との相対位置に依存する。より詳細には、膜厚は、成膜面に対して成膜源から薄膜材料が入射する角度に依存する。
したがって、成膜面に対して成膜源から薄膜材料が入射する角度、すなわち、基板の成膜面と成膜源を通る仮想線と、成膜面に対する垂線とが成す角度を上記範囲とすることにより、基板上に形成される薄膜の厚さを制御しやすく、複数の基板においてより均一な膜厚の薄膜を形成することができる。
【0016】
また、前記支持部材は、前記複数の保持面に形成された前記複数の開口部が、前記回転部材の回転軸を中心軸とする仮想ドーム上に位置するように前記基板保持部材を支持すると好適である。
このように、基板保持部材において設けられた開口部が、回転部材の回転軸(すなわち、基板保持機構の回転軸)を中心軸とする仮想ドーム上に位置するように配設されることにより、複数の基板において、より均一な膜厚の薄膜を形成することができる。
【0017】
さらに、前記径方向上で互いに隣り合って配設される前記基板保持部材は、側面視において、一方の前記基板保持部材に形成された前記開口部が、前記成膜源に対し、他方の前記基板保持部材によって遮蔽されない位置に配設されると好ましい。
このように、環状に形成されて互いに径方向上で隣り合って配設される基板保持部材は、基板保持部材に備えられた開口部が、成膜源に対して露出するように配設される。環状に形成された基板保持部材が径方向上で隣り合うように配設された基板保持機構において、基板上に形成される薄膜の厚さは、隣り合って配設される基板保持部材の影響を受けやすい。したがって、基板保持部材に備えられた開口部が成膜源に対して他の基板保持部材によって遮蔽されない位置に備えられることにより、基板上に成膜される薄膜の厚さが基板保持部材の影響を受けにくくなり、膜厚をより均一にすることができる。
【0018】
また、前記支持部材は、平面視環状に形成されて回転方向及び径方向の少なくとも一方において複数配設される前記基板保持部材を支持し、前記径方向上で互いに隣り合って配設される前記基板保持部材は、一方の前記基板保持部材の前記保持面に形成された前記開口部の外周と前記成膜源とを通る第2の仮想線に対し、他方の前記基板保持部材の前記径方向の端部が20mm以上離れた位置に配設されると好適である。
環状に形成された基板保持部材が回転方向及び径方向の少なくとも一方において隣り合うように配設された基板保持機構において、基板上に形成される薄膜の厚さは、隣り合って配設される基板保持部材の影響を受けやすい。したがって、一方の基板保持部材の開口部を、他方の基板保持部材の回転方向及び径方向の少なくとも一方の端部に対して20mm以上離れた位置とすることにより、形成される薄膜の厚さは基板保持部材の影響を受けにくくなり、膜厚をより均一にすることができる。
【0019】
このとき、前記複数の段差部は、前記径方向に対して傾斜する方向に沿って形成され、前記複数の基板は矩形状の板材からなり、前記複数の基板において前記径方向内側の縁辺の長さをそれぞれLとし、前記複数の基板のそれぞれの縁辺の中心点から前記回転部材の回転軸までの距離をrとしたとき、前記基板保持部材は、(L/2)/rの値が0.05以上0.75以下となるように前記複数の基板を保持すると好ましい。
このように、薄膜を形成する基板が特に矩形状である時、基板保持部材を上記構成とすることにより、基板保持部材に保持される基板の数をより多くすることができる。したがって、一括で成膜できる基板枚数を増やすことができるため、成膜作業の効率が飛躍的に向上する。
【0020】
また、前記基板保持部材は、重なり合って保持される前記複数の基板のうち、一方の前記基板の縁辺と、他方の前記基板の縁辺とが成す角度が、0°以上90°以下となるように前記複数の基板を保持すると好適である。
このように、基板保持部材に矩形状の基板を保持させるとき、上記位置関係で配置されることにより、基板保持部材に保持される基板の数をより多くすることができる。したがって、一括で成膜できる基板枚数を増やすことができるため、成膜作業の効率が飛躍的に向上する。
【0021】
さらにまた、前記複数の段差部の高さは、前記複数の基板の厚みと比較して0.05mm以上高く形成されていると好ましい。
このように、基板の縁端が当接する段差部の高さを基板の厚みよりも0.05mm以上高く形成することにより、基板同士を重ねる際、基板表面の損傷を抑制することができる。したがって、品質の良い薄膜付き基板を製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の薄膜形成装置によれば、基板保持部材に対し、複雑な作業を行うことなく、容易に複数の基板を保持させることができる。したがって、基板を保持させる際、複雑な作業を行う必要がないため、成膜作業を効率化できる。その結果、薄膜形成時の作業時間を短縮することができ、成膜作業における費用の削減が可能となる。また、本発明の薄膜形成装置は、基板保持部材に多数の基板を保持させることができるため、一括で成膜可能な基板枚数をより多くすることができ、成膜作業の効率がさらに向上する。
さらに、基板保持機構の基板保持部材の保持面には、成膜部分を露出させるための開口部が備えられているため、保持面(基板保持部材)がマスクの役割を果たす。したがって、開口部の形状や大きさに依存して成膜部分の形状や大きさを制御することができるため、より緻密な成膜作業を行うことが可能となる。
さらにまた、本発明の薄膜形成装置は、基板保持機構に備えられた基板保持部材を上記構成とすることにより、膜厚がより均一となるように薄膜を形成することができる。その結果、成膜時に必要となる材料を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る薄膜形成装置を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る基板保持機構に保持される基板の平面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る基板保持機構の平面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る基板保持部材を構成する保持治具の斜視図である。
【図5】保持治具の平面図である。
【図6】保持治具に1枚目の基板を載置した状態を示す平面図である。
【図7】保持治具にすべての基板を載置した状態を示す平面図である。
【図8】保持治具に基板を載置した状態を示す断面説明図である。
【図9】保持治具に基板を載置した状態を示す断面説明図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る基板保持部材が固定された支持部材と成膜源との位置関係を示す説明図である。
【図11】本発明の実施例1に係る反射防止膜の反射率を示すグラフ図である。
【図12】本発明の比較例1に係る反射防止膜の反射率を示すグラフ図である。
【図13】本発明の比較例2に係る反射防止膜の反射率を示すグラフ図である
【図14】本発明の他の実施形態に係る基板保持部材の説明図である。
【図15】本発明の他の実施形態に係る基板保持部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることは勿論である。
【0025】
図1乃至図13は、本発明の一実施形態に係るもので、図1は薄膜形成装置を示す模式図、図2は基板保持機構に保持される基板の平面図、図3は基板保持機構の平面図、図4は本発明の一実施形態に係る基板保持部材を構成する保持治具の斜視図、図5は保持治具の平面図、図6は保持治具に1枚目の基板を載置した状態を示す平面図、図7は保持治具にすべての基板を載置した状態を示す平面図、図8は保持治具に基板を載置した状態を示す断面説明図、図9は保持治具に基板を載置した状態を示す断面説明図、図10は本発明の一実施形態に係る基板保持部材が固定された支持部材と成膜源との位置関係を示す説明図、図11は本発明の実施例1に係る反射防止膜の反射率を示すグラフ図、図12は本発明の比較例1に係る反射防止膜の反射率を示すグラフ図、図13は本発明の他の比較例2に係る反射防止膜の反射率を示すグラフ図であり、図14及び図15は、本発明の他の実施形態に係るもので、図14は基板保持部材の説明図、図15は基板保持部材の斜視図である。
【0026】
本発明の特徴的な要素である基板保持機構3は、複数の基板Sに対し一括で薄膜を形成するために、薄膜形成装置100に備えられるものである。基板Sは、その表面全体に亘って薄膜が形成されるものではなく、特定の領域にのみ薄膜が形成されるものであり、成膜部分S1と、薄膜が形成されない非成膜部分S2を備えている。基板保持機構3は、成膜部分S1及び非成膜部分S2を有する基板Sに薄膜を形成する際、大量の基板Sを一括で処理するために以下の構成を備えている。
【0027】
<薄膜形成装置の構造>
図1の薄膜形成装置100は、基板Sの表面上に薄膜を形成する真空蒸着装置であり、図1は、薄膜形成装置100の一部を示す概略断面図である。
【0028】
薄膜形成装置100は、真空容器1内を真空状態とし、金属等の薄膜材料を加熱して蒸発させることにより、薄膜材料によって基板Sの表面に薄膜を形成するものである。薄膜形成装置100は、真空容器1と、基板保持機構3と、成膜源4を備えている。
【0029】
真空容器1は、アルミニウムやステンレス等の公知の金属材料からなり、その内部で基板S上に薄膜を形成するためのほぼ円筒中空の容器体である。真空容器1には、真空ポンプ2が接続され、真空容器1の内部は1×10−2〜1×10−5Pa程度の真空状態とすることができる。真空容器1には、内部にガスを導入する不図示のガス導入管,不図示の圧力計を備える。
【0030】
<基板保持機構の構成>
基板保持機構3は、真空容器1の内部に設けられ、複数の基板Sに同時に一括で成膜するため、複数の基板Sを保持する。図1,図3に示すように、側面視で山型形状、平面視で円形状のドーム状に形成されている。図3の矢印は回転部材60の回転方向を示す。
【0031】
基板保持機構3は、同心円状に配設された環状の基板保持部材10,20,30,40、基板保持部材10,20,30,40を支持する支持部材50、支持部材50を回転させる回転部材60を備えている。
【0032】
回転部材60は、公知の回転モータ等からなり、基板保持機構3の中心に備えられ、基板保持機構3の中心において鉛直方向に延びる回転軸Xを有する。
回転部材60は回転軸Xを軸として回転することにより、支持部材50、さらには基板保持部材10,20,30,40が水平方向で回転する。
【0033】
支持部材50は、図1,図3に示すように、長尺の棒状体からなり、一端が回転部材60に固定されて、他端が、回動部材60よりも下方外側に配置されるように配設されている。
【0034】
支持部材50の一部には、基板保持部材10,20,30,40を固定するための固定用板材51aが取り付けられている。固定用板材51aは、金属性からなり、平面状の板部と、この板部から連続し、板部に対して屈曲した支持部材取付部とを備えている。板部と支持部材取付部との角度は、支持部材50と基板保持部材10,20,30,40とが成す角度に等しく、支持部材取付部を支持部材50にボルト締め又は溶接等で固定することにより、板部が基板保持部材10,20,30,40の取付面に平行になるように構成されている。
固定用板材51aの支持部材取付部を支持部材50に取付け、ボルト51によって基板保持部材10,20,30,40を固定することにより、基板保持部材10,20,30,40が支持部材50に支持される。
【0035】
固定用板材51aは、図1に示すように、支持部材50に取付けられる基板保持部材10,20,30,40の数だけ支持部材50に設けられる。本実施形態では、基板保持部材10,20,30,40を合計4列備えているため、各支持部材50には、4つの固定用板材51aが備えられる。
【0036】
支持部材50は、基板保持部材10,20,30,40の分割数と同数設けられ、回転軸Xを中心に相互に一定の角度間隔を有するように、回転部材60に固定されている。回転部材60と支持部材50は、全体として、傘の骨のような形状を有する。本実施形態では、5つの支持部材50を備えている。
支持部材50の回転部材60側の端部は、回転部材60に固定されている。
【0037】
基板保持部材10,20,30,40は、基板Sを複数保持する部材であり、加工が容易で比較的軽量なアルミニウム製からなる。
図3に示すように、基板保持部材10,20,30,40は、同心異径の環状に形成されている。
基板保持部材10,20,30,40は、それぞれ、周方向に支持部材50の数と同数に分割され、支持部材50の数と同数の保持治具の集合体として構成されている。一つの基板保持部材を構成する複数の保持治具は、同一形状から形成される。
そして、本実施形態において、基板保持部材10,20,30,40は、回転部材60の回転方向においてそれぞれ5分割されているが、これ以外の数で分割されていてもよい。このとき、基板保持部材10,20,30,40は、円周方向において2以上12以下に分割されているとよい。
【0038】
このように、基板保持部材10,20,30,40が分割されることにより、基板保持部材10,20,30,40が一体で形成された場合と比較して軽量化される。基板保持部材10,20,30,40は、多数の基板Sを載置した状態で作業者が持ち上げることにより支持部材50に取り付けられるため、基板保持部材10,20,30,40を軽量化することにより、基板保持部材10,20,30,40を取り付けやすくなり、作業効率が向上する。
【0039】
一方、基板保持部材10,20,30,40が12よりも多く分割されると、支持部材50に基板保持部材10,20,30,40を固定する作業時間が長くなり、作業効率が低下するため好ましくない。また、各基板保持部材10,20,30,40全体としてみると、基板Sが相互に重ならない部分や、肉厚部11i,11j等に取られる面積が広くなるため、基板保持部材10,20,30,40に積載可能な基板Sの数が少なくなり、1バッチ毎に処理できる基板Sの数が減少して、成膜処理の効率が低下する。
【0040】
<保持治具の構成>
保持治具11〜15は、基板保持部材10を構成する要素である。すなわち、基板保持部材10は、平面視円弧状の保持治具11〜15に分割される。
基板保持部材10,20,30,40は、その直径が異なる点で相違するが、その基本構造は略同様である。また、保持治具11〜15は、基板保持部材10を等分したものであり、その構成は互いに同様である。以下では、基板保持部材10を構成する保持治具11について説明する。
【0041】
保持治具11は、環状に形成される基板保持部材10を構成するものであり、平面視円弧状に形成されている。複数の基板Sは、保持治具11上に載置されることによって基板保持部材10(保持治具11)に保持され、このとき、保持治具11は、隣り合って保持される基板Sの非成膜部分S2の少なくとも一部が互いに重なり合うと共に、成膜部分S1が露出するようにして複数の基板Sを保持する。
【0042】
保持治具11は、図4に示すように、断面略コ字状(U字状)の板状部材であり、長さ方向の2辺が回転軸Xを中心とした同心の円弧を描いて湾曲した板体からなる底板部11aと、底板部11aの径方向内側端部から上方に向かって立ち上がる内側立壁部11bと、底板部11aの径方向外側端部から上方に向かって立ち上がる外側立壁部11cと、底板部11aの周方向の両端にそれぞれ設けられた肉厚部11i,11jを備えている。
【0043】
底板部11aには、保持治具11に1枚目の基板Sを配置するための最下層基板配置部11Aと、最下層基板配置部11Aよりも反時計回り方向に隣接して設けられ、底面が階段状に形成された階段状部11Bと、が形成されている。なお、時計回り方向及び反時計回り方向は、逆であってもよい。この場合は、すべての構成について逆になった鏡像体として構成される。
図4,図5に示すように、最下層基板配置部11A及び階段状部11Bと、内側立壁部11b,外側立壁部11cとの間には、一定の隙間があり、この隙間は、それぞれ、排気溝11k,11mとなっている。
【0044】
最下層基板配置部11Aは、肉厚部11jと、階段状部11Bの端部と、内側立壁部11bよりも保持治具11の径方向内側に設けられた第一の壁部11nと、外側立壁部11cよりも保持治具11の径方向内側に設けられた第二の壁部11oと、により囲まれた領域として構成されている。
【0045】
肉厚部11jは、保持治具11の回転軸Xを中心とした時計回り方向の端部に設けられ、径方向に延びる壁部として形成されている。肉厚部11jは、略周方向に延びる排気溝11jxが、径方向の内側と外側とに合計2つ設けられている。排気溝11jxは、肉厚部11jの周方向の両端まで亘った凹部からなる。
【0046】
保持治具11は、排気溝11k,11m,11jxを備えることにより、図7のように、複数の基板Sが載置された状態で、基板Sと保持治具11との間にたまる空気を円滑に除去することが可能となり、成膜作業を効率よく行うことができる。
肉厚部11jには、保持治具11の周方向内側が低くなった段差11jsが設けられている。段差11jsは、回転軸X側が保持治具11の時計回り方向の端面に近づくように、同端面に対して傾斜している。段差11jsは、基板Sの端部を当接させることにより、基板Sを位置決め可能にしている。
最下層基板配置部11Aは、階段状部11Bの端部により規定されている。階段状部11Bの端部は、最下層基板配置部11Aに隣接して設けられた階段状部11Bの第一の段差であり、基板Sの厚みと略同じ高さで、最下層基板配置部11Aの底面よりも階段状部11B側が高くなる段差として形成されている。
【0047】
第一の壁部11nは、内側立壁部11bの若干外周側,すなわち保持治具11の内側に設けられ、肉厚部11jの回転軸X側の端部から連続し、略周方向に向かって延設されている。第一の壁部11nは、肉厚部11j側の端部が、最下層基板配置部11Aの階段状部11B側の端部よりも、若干高く形成され、最初に保持治具11に設置される1枚目の基板Sが、階段状部11B側の端部よりも肉厚部11j側が若干高くなるよう傾斜して設置可能になっている。
【0048】
第二の壁部11oは、外側立壁部11cの若干内周側,すなわち保持治具11の内側に設けられ、肉厚部11jの回転軸X逆側の端部から連続し、略周方向に向かって延設されている。
第二の壁部11oには、図4に示すように、肉厚部11j側が高くなった段差部11osが形成され、この段差部11osに基板Sの端部を当接させることにより、基板Sを位置決め可能に形成されている。
第二の壁部11oは、肉厚部11j側の端部が、最下層基板配置部11Aの階段状部11B側の端部よりも、若干高く形成され、最初に保持治具11に設置される1枚目の基板Sが、階段状部11B側の端部よりも肉厚部11j側が若干高くなるよう傾斜して設置可能になっている。
【0049】
また、最下層基板配置部11Aの肉厚部11jと、階段状部11Bの端部と、第一の壁部11nと、第二の壁部11oと、により囲まれた領域の底面は、保持治具11に最初に設置される1枚目の基板Sの下面に当接して支持する支持面11g1と、支持面11g1よりも低く形成された凹面11g2とから構成されている。
支持面11g1は、若干肉厚部11j側が高くなった傾斜面として構成されている。支持面11g1の階段状部11B側の端部に近い位置で、保持治具11の径方向の中央には、保持治具11に設置される1枚目の基板Sの成膜部分S1を成膜源4に対して露出させるための開口部11fが形成されている。
凹面11g2は、保持治具11に最初に設置される1枚目の基板Sの下面よりも低い位置に形成され、基板Sとの間に空間が形成されるようになっている。凹面11g2には、膜厚等の測定を行うため、開口した窓部11hが形成されている。
【0050】
凹面11g2は、保持治具11に最初に載置される基板Sの表面が、肉厚部11jとの摩擦によって損傷することを防ぐ役割を果たす。したがって、基板Sを損傷することによる歩留まりの低下を抑制でき、より効率よく薄膜を形成することが可能となる。
【0051】
階段状部11Bは、保持治具11に設置される2枚目以降の基板Sを、少しずつずらしながら積層して保持する部分であり、2枚目以降の基板Sの成膜部分S1の近傍を支持する複数の保持面11dと、保持面11dの間に設けられた段差部11eと、を備えている。
保持面11dは、階段状部11Bの径方向の全長に亘って延びる平面であり、隣り合う一対の段差部11eの間に形成されている。保持面11dは、支持面11g1と平行な面であり、隣接する一対の段差部11eのうち、一段高い位置にある保持面11dとの間の段差部11e側が低くなるように傾斜している。保持面11dは、階段状部11Bの内周側の端部から外周側の端部まで延びており、外周側に対比して内周側が若干狭くなった平面視略矩形状に構成されている。保持面11dは、保持治具11に設置される基板Sの数より1小さい数設けられている。
【0052】
保持面11dには、基板Sの成膜部分S1を成膜源4に対して露出させるための平面視真円からなる開口部11fが形成されている。開口部11fは、内側立壁部11b及び外側立壁部11cと同心の円弧上に載るように並んで形成されている。なお、開口部11fの形状は、基板Sの成膜部分S1の形状に依存して決定されるものであり、真円以外の形状であってもよいのは勿論である。
【0053】
このように、保持治具11の保持面11dに開口部11fが形成されていることにより、保持治具11がマスクの役割を果たす。したがって、保持治具11以外に基板Sを覆う部材を別に設ける必要がない。また、開口部11fの形状は適宜変更できるので、成膜部分S1の形状、大きさを緻密に制御することが容易となる。
【0054】
段差部11eは、保持治具11に設置される2枚目以降の基板Sのそれぞれの反時計回り方向の端部に当接して位置決めするものであり、隣り合う一対の保持面11dの間に形成されている。段差部11eは、時計回り方向が低くなった段差からなる。段差部11eは、階段状部11Bの内周側の端部から外周側の端部まで、平面視直線状に伸びている。
【0055】
保持治具11は、水平面に対し、一端側が他端側と比較して高くなるように若干傾斜した保持面11dと、その保持面11dの高くなった部分から一段下がるように形成される段差部11eとを交互に連続して備えることにより、保持面11dに形成された開口部11fと、成膜源4との距離を均一にすることができるため、複数の基板Sに対して同様の条件で成膜することができ、均一な膜厚で成膜することができる。
段差部11eは、図5に示すように、径方向R−Rに対して角度を持って傾斜している。
【0056】
段差部11eの高さは、基板Sの厚みと比較して0.05mm以上高く形成されている。より詳細には、段差部11eは、0.05mm以上0.1mm以下の範囲で基板Sの厚みよりも高くなるように形成されている。
このように、段差部11eが基板Sの厚みよりも若干高く形成されていることにより、段差部11eに対して基板Sの端部を当接させやすくすることができる。さらに、保持面11dに基板Sを保持させた際、段差部11eの高さによって重なり合う基板S同士が若干隙間を開けて重ねられるため、基板Sの表面が互いに接触しにくくなり、摩擦により基板Sの表面が損傷するのを抑制することができる。
【0057】
段差部11eの高さと基板Sの厚みとの差が0.05mmよりも小さいと、基板S同士が接触しやすくなるため、好ましくない。また、段差部11eの高さと基板Sの厚みとの差が0.1mmよりも大きいと、複数の基板Sに対して均一な薄膜を形成しにくくなるため、好ましくない。
保持治具11の周方向両端の径方向両端の合計4か所には、図7に示すように、図1の固定用板材51aに保持治具11を取り付けるための取付孔11p,11qがそれぞれ形成されている。
【0058】
成膜源4は、一般的な蒸着装置からなり、円筒形のハースライナーが複数個設けられ、これらハースライナーが円盤状ハースの同心円状の窪みに配設されてなる。成膜源4は、真空容器1の内部下側に配設され、基板Sにむけて薄膜材料を放出する。図1では、便宜上、一つのハースライナーのみを成膜源4として図示している。
【0059】
成膜源4は、電子銃により蒸発される装置に限定されず、例えば抵抗加熱により薄膜材料を蒸発させる装置でもよい。また、基板S上に形成される薄膜の種類や数に依存して、成膜源4の数や配置を適宜変更可能である。
また、例えば、イオンアシスト法により蒸着を行う場合は、正のイオンを基板Sに向けて照射するイオン源、正に帯電した基板Sや基板保持機構3に電子ビームを照射して電荷の中和を行うニュートラライザ等を備えていてもよい。
【0060】
成膜中は、成膜源4の温度は非常に高温になるため、基板Sが加熱されて変形することを抑制するため、公知の基板冷却手段が基板保持機構3の近傍に備えられていてもよい。この基板冷却手段は、基板Sが樹脂製である時、特に有効である。
なお、本実施形態の薄膜形成装置100は、真空蒸着法により薄膜形成を行う装置であるが、スパッタ装置に本発明を適用してもよい。
【0061】
<基板の構成>
図2に示すように、基板Sは、4つの角がR形状になった平面視長方形の平板からなり、下面に薄膜が形成される成膜部分S1と、薄膜が形成されない非成膜部分S2とを備えている。
成膜部分S1は、基板Sの二つの対向する短辺のうち、一方の短辺の近傍で、一方の短辺から若干内側に離間して、基板Sの長尺方向に垂直な方向の中心に形成される。本実施形態では、成膜部分S1は真円状の例を示すが、他の形状であってもよい。
【0062】
基板Sは、厚み0.3〜0.5mm程度のガラス製の板材であり、表面に、装飾等の目的から、予め印刷等の手法により薄膜が形成されていてもよい。なお、本明細書中、「成膜部分S1」とは、薄膜形成装置100で薄膜が形成される特定の領域を指すものであり、予め薄膜が形成された部分を指すものではない。
また、本実施形態では基板Sの形状として矩形の平板状のものを用いているが、これに限定されず、各種改変することができることは勿論である。
【0063】
<基板の設置>
保持治具11には、段差部11eと同数の基板Sが設置される。
1枚目の基板Sは、図6に示すように、一方の短い辺が段差11jsに、他方が、最も時計回り方向側にある段差部11eに当接し、一方の長い辺の中央が内側立壁部11bの保持治具11の径方向内側の面に当接し、他方の長い辺の両端部が外側立壁部11cの保持治具11の径方向外側の面に当接するように配置される。このとき、基板Sは、段差部11e側の端部が段差11js側の端部よりも低くなるように傾斜している。
【0064】
2枚目以降の基板Sは、図7に示すように、順次、1枚前に設置された基板Sと一部を重ねた状態で、設置される。
2枚目以降の基板Sは、一方の短い辺が、1枚前に設置された基板S上に、隣り合う段差部11eの距離分反時計回り方向にずれた位置に配置され、他方が、段差部11eに当接し、一方の長い辺の中央が内側立壁部11bの保持治具11の径方向内側の面に当接し、他方の長い辺の両端部が外側立壁部11cの保持治具11の径方向外側の面に当接するように配置される。
最後に設置される基板Sは、短い辺のうち反時計回り方向にある方の辺が、肉厚部11iに当接する。
【0065】
このように、基板Sの端部が、段差部11e,内側立壁部11b,外側立壁部11c,段差11js,肉厚部11iに当接して保持されるため、基板Sは、保持治具11上で容易に且つ安定して固定され、その保持位置がずれてしまうことがない。
このように設置された基板Sは、図8,図9に示すように、段差部11e側の端部が他方の端部よりも低くなるように傾斜している。
設置された複数の基板Sのうち、先に設置された基板Sと重なっていない部分の下面は、保持面11dに当接し、保持面11dに設けられた開口部11fから、基板Sの下面が保持治具11下方に露出する。この露出した部分は、成膜部分S1として、成膜源4による成膜処理が施される。
【0066】
一つの保持面11dには、1枚の基板Sが保持される。保持治具11に基板Sを順に重ねていくことにより、複数の基板Sは、互いにその一部が重なり、それ以外の部分がずれた状態で保持される。
保持面11dの面積は、基板Sの面積よりも小さく形成されており、隣り合う基板Sの非成膜部分S2が互いに重なるようにして、保持治具11が基板Sを保持する。
【0067】
隣接する基板Sは、同じ方向にある短い辺が、相互に平行ではなく、0°以上90°以下の角度を持っている。保持治具11が円弧状に湾曲したものであり、このように構成しているため、より多くの基板Sを基板保持部材10に保持させることができる。
【0068】
矩形状の基板Sは、保持治具11に、以下の関係となるように保持される。図7において、矩形状の基板Sの長い辺のうち、径方向内側の長い辺の長さをLとし、この長い辺の中心点から、保持治具11が描く円弧の中心点である回転軸Xまでの距離をrとしたとき、距離rに対する長さLの半分の長さ、すなわち(L/2)/r(後述のθ1におけるtanθ1の値)は、0.05以上、0.75以下となるように保持治具11が形成されている。
【0069】
換言すると、図7のように、基板Sの径方向内側の長い辺の中心点と回転軸Xを通る直線と、基板Sの頂点のうち、径方向内側に配置される頂点と回転軸Xを通る直線とが成す角度をθ1としたとき、θ1は、2.9°以上、36.9°以下である。なお、角度θ1は、径方向内側の長い辺の中心点と回転軸Xを通る直線と、基板Sの頂点のうち、径方向内側に配置される頂点と回転軸Xとを通る直線とが成す鋭角を示す。
【0070】
基板保持部材10を構成する保持治具11〜15だけでなく、それぞれ直径が異なる基板保持部材20,30,40を構成するすべての保持治具が、この関係を満たすように形成されている。これにより、基板保持部材10,20,30,40は多数の基板Sを保持することができる。tanθ1及びθ1の値を上記関係とすることにより、一括で大量の基板Sを処理可能となり、薄膜形成作業を極めて効率よく行うことが可能となる。
【0071】
保持治具11〜15及び基板保持部材20,30,40を構成する各保持治具は、支持部材50に取り付けられた固定用板材51aの板部にボルト51でボルト締めすることにより、図1,図3に示すように設置される。
このとき、基板保持部材10,20,30,40は環状に形成され、その中心が、回転部材60の回転軸X上となるように支持部材50によって支持される。そして、基板保持部材10,20,30,40は、最も内側の基板保持部材40から、外側へ向かって基板保持部材30,20,10の順で次第に低くなるようにして、支持部材50に支持されている。
【0072】
それぞれ異なる径を備えた基板保持部材10,20,30,40は、互いにその一部が上下方向で重なるようにして階段状に配設される。基板保持部材10,20,30の内側端部が、基板保持部材10,20,30のそれぞれ一段内側に配設される基板保持部材20,30,40の外側端部よりも径方向内側に配設されている。
【0073】
なお、本実施形態では、基板保持部材10,20,30,40として、径方向上で4つの基板保持部材を備えた構成を例に示したが、これ以外の数としてもよいのは勿論である。このように、径方向上で隣り合う基板保持部材の数を複数とすることにより、成膜される基板Sの数を増やすことができ、成膜作業を効率よく行うことができる。
【0074】
<基板保持部材の位置関係>
図10を参照して、基板保持部材10,20,30,40の相互の位置関係について説明する。図10は、基板保持部材10,20,30,40が固定された支持部材50と成膜源4との位置関係を示す説明図である。
【0075】
基板保持部材10,20,30,40は、基板保持機構3がドーム状に形成され、下方に配設される基板保持部材ほど、その直径が大きくなるように形成されている。基板Sの成膜部分S1を露出する開口部11f,21f,31f,41fは、回転部材60の回転軸Xを軸とする仮想ドーム表面上に位置し、基板S上に均一な厚さの薄膜を形成可能としている。
なお、図10では、開口部11f,21f,31f,41fが載る仮想ドームが円錐台形状のものを例として示したが、所定の曲率の半球状ドームの表面上に開口部11f,21f,31f,41fが配置されていてもよい。
【0076】
また、基板保持部材10,20,30,40の保持面(11d等)は、水平な状態に限定されず、保持面(11d等)と、回転軸Xとが成す角度は、可変となるように構成されていてもよい。なお、図10では、基板保持部材10のみの保持面11dと回転軸Xとの間の角度が可変である構成を図示しているが、基板保持部材20,30,40もまた、同様に同角度を可変としてもよい。
【0077】
このとき、基板Sの成膜部分S1の中心点及び成膜源4のハースライナーの端部を通る第1の仮想線V1と、成膜部分S1の中心点の垂線Pとが成す角度θ2が0°以上45°以下の鋭角であると好適である。なお、図10では、簡略化のため、基板保持部材10上に備えられる複数の基板Sのうち、開口部11fに臨むように載置された基板Sのみを図示している。
【0078】
θ2が45°よりも大きいと、成膜部分S1に薄膜材料が斜めに入射するため、形成される薄膜の密度が低くなり、薄膜の屈折率が低下する。その結果、基板S上に形成される薄膜において、所望の分光特性が得られにくくなる。
【0079】
角度θ2を0°以上45°以下とすることにより、基板S上に形成される薄膜の厚さを制御しやすく、複数の基板においてより均一な膜厚の薄膜を形成することができる。
なお、図10では、基板保持部材10のみが保持面11dを水平面に対して傾斜した状態で配設された構成を図示しているが、その他の基板保持部材20,30,40もまた、同様に傾斜した状態としてもよいのは勿論である。
【0080】
径方向内側に配設される基板保持部材20,30,40の開口部21f,31f,41fは、少なくとも、径方向外側に隣り合って配設される基板保持部材10,20,30の径方向内側の端部よりも内側に配設される。
【0081】
そして、径方向で互いに隣り合って配設される基板保持部材20,30,40と基板保持部材10,20,30は、側面視において、内側の基板保持部材20,30,40に形成された開口部21f,31f,41fが、成膜源4に対し、外側の基板保持部材10,20,30の径方向内側端部によって遮蔽されず露出する位置に配設される。この構成とすることにより、基板S上に形成される薄膜の膜厚を一定とすることができる。
【0082】
より詳細には、径方向で互いに隣り合って配設される基板保持部材20,30,40と基板保持部材10,20,30は、側面視において、内側の基板保持部材20,30,40に形成された開口部21f,31f,41fの外周端部と成膜源4とを通る第2の仮想線V2に対し、外側の基板保持部材10,20,30の径方向内側端部が側面視で20mm以上離れた位置で配設される。なお、図10では、V2,V3は、基板保持部材20,30についてのみ図示している。
【0083】
すなわち、図10において、径方向に隣り合って配設される基板保持部材20,30,40と基板保持部材10,20,30のうち、径方向内側に配設される基板保持部材20,30,40の開口部21f,31f,41fの基板保持部材20,30,40の径方向外側に位置する端部及び、成膜源4のハースライナーの径方向の外側端部を通る直線を仮想線V2とし、仮想線V2に対して平行で、且つ、基板保持部材20,30,40の外側に配設される基板保持部材10,20,30の内側立壁部11b等の上端部を通る直線を仮想線V3とするとき、仮想線V2と仮想線V3の間の距離Iが、20mm以上となるとよい。
【0084】
直径の異なる基板保持部材10,20,30,40が同心円状に配設された基板保持機構3において、基板S上に形成される薄膜の厚さは、互いに隣り合って配設される基板保持部材10,20,30,40の影響を受けやすいが、このように構成しているため、形成される薄膜の厚さが、外側の基板保持部材10,20,30の影響を受けにくくなり、膜厚をより均一にすることができる。
【0085】
基板Sを保持治具11に載置する手順は、以下の通りである。
まず、1枚目の基板Sを、凹面11g2を覆い、短い辺の一方が肉厚部11jの段差11jsに当接し、他方が、最も肉厚部11jに近い段差部11eに当接するように載置する。
【0086】
次に、2枚目の基板Sを1枚目の基板Sの上に重ね、1枚目の基板Sが当接した段差部11eの隣で、反時計回り方向にある段差部11eに反時計回り方向にある短い辺の端部を当接させる。このとき、2枚目の基板Sの成膜部分S1は、1枚目の基板Sに対して重ならず、かつ2枚目の基板Sの非成膜部分S2が1枚目の基板Sに重なるようにする。
【0087】
上記のような手順で複数の基板Sを保持治具11に順次載置して、図7〜図9の状態にした後、保持治具11を、ボルト51により固定用板材51aに固定する。これにより、保持治具11の支持部材50への取付が完了する。同様の手順で、保持治具12〜15と、基板保持部材20,30,40の支持部材50への取付を行う。これにより、図3の基板保持機構3の各基板保持部材10,20,30,40に基板Sが載置された状態となる。
その後、基板Sが載置された基板保持機構3を、真空容器1内へ導入し、薄膜形成を行う。
このように、保持治具11は、成膜部分S1のみを成膜源4に対して露出して保持することができるため、成膜部分S1及び非成膜部分S2を備えた基板Sを、一括で、大量に生産することができる。したがって、成膜作業に必要な時間を短縮することができ、成膜作業における費用の削減が可能となる。
【実施例】
【0088】
(実施例1及び比較例1,2)
上記構成の基板保持機構3によって基板Sを保持し、屈折率が異なる薄膜を積層させることにより反射防止膜(AR膜)を作成し、距離Iの効果について評価した。
なお、反射防止膜を構成する各層の成膜条件は下記のとおりであり、実施例1及び比較例1,2で共通である。
【0089】
基板:ガラス基板
高屈折率誘電体材料: TiO2
低屈折率誘電体材料: SiO2
TiO2の成膜速度: 0.2nm/sec
SiO2の成膜速度: 0.3nm/sec
TiO2/SiO2蒸発時のイオン源条件
導入ガス:酸素50sccm
イオン加速電圧:1000V
イオン電流:500mA
ニュートラライザの条件
ニュートラライザ電流:1000mA
【0090】
上記成膜条件により反射防止膜を形成し、仮想線V2と仮想線V3との距離Iを20mmとしたとき(図11:実施例1)、5mmとしたとき(図12:比較例1)及び10mmとしたとき(図13:比較例2)において、それぞれ隣接する基板保持部材がある場合と、ない場合で成膜した反射防止膜の反射率を比較した。
【0091】
(実施例1)
距離Iを20mmとした場合(図11)において、隣接する基板保持部材がある場合は、隣接する基板保持部材がない場合と比較して、形成される反射防止膜の反射率に大きな差があることが示された。なお、図11において、実線で示す「隣接する基板保持部材がある場合」とは、径方向上で隣り合う基板保持部材のうち、一方の基板保持部材に対して、距離Iが20mmとなるように他方の基板保持部材が配設された状態を示すものである。
反射防止膜の反射防止効果、すなわち反射率は、反射防止膜の厚さに依存する傾向がある。したがって、図11より、距離Iが20mmとなるように基板保持部材を配置したとき、形成される薄膜が隣接する基板保持部材の影響を受けることなく、均一な膜厚の薄膜を形成できることが示されている。
【0092】
(比較例1)
距離Iを5mmとした場合(図12)において、隣接する基板保持部材がある場合は、隣接する基板保持部材がない場合と比較して、形成される反射防止膜の反射率に大きな差があることが示された。なお、図12において、実線で示す「隣接する基板保持部材がある場合」とは、径方向上で隣り合う基板保持部材のうち、一方の基板保持部材に対して、距離Iが5mmとなるように他方の基板保持部材が配設された状態を示すものである。
反射防止膜の反射防止効果、すなわち反射率は、反射防止膜の厚さに依存する傾向がある。したがって、図12より、距離Iが5mmとなるように基板保持部材を配置したとき、形成される薄膜が隣接する基板保持部材の影響を受けることが示されている。
【0093】
(比較例2)
また、図13に示す本発明の比較例2では、距離Iを10mmとした。本比較例2において、距離Iが10mmの状態で隣接する基板保持部材がある場合と、隣接する基板保持部材がない場合とを比較しても、形成される反射防止膜の反射率に若干の差があることが示された。なお、「隣接する基板保持部材がある場合」とは、径方向上で隣り合う基板保持部材のうち、一方の基板保持部材に対して、距離Iが10mmとなるように他方の基板保持部材が配設された状態を示すものである。
図13においてもまた、距離Iが10mmとなるように基板保持部材を配置したとき、形成される薄膜が隣接する基板保持部材の影響を受けることが示されている。
【0094】
したがって、距離Iが少なくとも、5mm以上10mm以下の範囲においては成膜される薄膜の膜厚に対し、近接する基板保持部材10,20,30,40が影響を及ぼすことが示された。そして、さらに、距離Iが大きくなるほど、近接する基板保持部材10,20,30,40が成膜される薄膜に対して与える影響が小さくなることもまた示されている。したがって、距離Iが10mmよりもさらに大きい場合は、薄膜に対して与える影響が小さくなると予想される。
【0095】
そして、実施例1より、距離Iを20mmとすると、成膜される薄膜の膜厚に対し、近接する基板保持部材10,20,30,40がほとんど影響を与えないことが示された。
したがって、距離Iについて、隣り合う基板保持部材の径方向の端部が20mm以上離れた位置に配設されるようにすることにより、基板S上に形成される薄膜の反射率及び膜厚を均一とすることができる。
【0096】
<他の実施形態>
次に、他の実施形態に係る基板保持機構について説明する。
本実施形態の基板保持機構は、図1乃至図10に示す回転部材60及び支持部材50と、基板保持部材とを備える。回転部材60及び支持部材50は、図1乃至図10の実施形態と共通するため、説明を省略する。
基板保持部材は、基板保持部材10,20,30,40の代わりに用いられるものであり、支持部材50の最も外側に固定される基板保持部材10´を、図14に示す。
基板保持部材10´は、平面視で略扇形状の略板体からなり、保持治具11´〜13´を板体上に固定可能に構成されている。
【0097】
基板保持部材10´は、保持部材11´が取り付けられる部分のうち、少なくとも、開口部11f´が形成される部分は、基板Sの成膜部分S1が露出するように開口した構成となっている。基板保持部材10´は、支持部材50に取付けられた不図示の固定用板材にボルト締めするためのボルト孔10h´を備えている。
【0098】
図15に示すように、保持治具11´は、平面視略長方形で断面略コ字状(U字状)の板体からなる。保持治具11´の一対の長辺の端部には、内側と比較して若干肉厚に形成された枠部11r´が設けられ、基板Sの一対の長辺の端部と当接することにより、基板Sが短辺方向に保持治具11´から脱落することを抑制する。
【0099】
保持治具11´は、基板Sを保持する複数の保持面11d´と、複数の保持面11d´の間に形成されて基板Sの短辺の端部とそれぞれ当接する複数の段差部11e´と、基板Sの端部が段差部11e´と当接して保持された状態にあるとき、保持面11d´の成膜部分S1に相当する部分に形成された開口部11f´とを備えている。
【0100】
保持治具11´は、基板Sを保持するための複数の保持面11d´を備えている。そして、隣接する保持面11d´の間には、それぞれ、段差部11e´が形成されている。
【0101】
複数の保持面11d´及び複数の段差部11e´は、断面視で階段状に形成されており、一つの保持面11d´に対して1枚の基板Sが保持される。したがって、この保持治具11´に対し、基板Sを順に重ねていくことにより、複数の基板Sは、互いにその一部が重なり、他の部分がずれて、保持される。
【0102】
段差部11e´は、互いに平行であり、この段差部11e´に基板Sの短辺の端部が当接することにより、複数の基板Sが直線状に保持される。
【0103】
したがって、基板Sの端部が、それぞれ段差部11e´及び枠部11r´に当接して保持されるため、基板Sは、保持治具11´上で容易に且つ安定して固定され、その保持位置がずれてしまうことがない。
【0104】
段差部11e´の高さは、基板Sの厚みよりも若干高くなるように形成されているとよい。この構成により、複数の基板Sが重ねられた状態であっても、基板Sの表面が損傷するのを抑制することができる。
【0105】
保持面11d´には、基板Sの成膜部分S1を成膜源4に対して露出させる開口部11f´が形成されている。開口部11f´は、複数の保持面11d´に亘って一体で形成された長穴となっている。但し、開口部11f´は、長穴状でなく、各保持面11d´毎にそれぞれ個別に分離して形成されていてもよい。
【0106】
保持治具11´の長手方向の一端側であって、基板保持部材10´組付時に回転軸X側となる位置には、基板S取付側の面が平面状に形成された平面部11s´を備えている。
平面部11s´は、最初に保持治具11´に配置される基板Sの非成膜部分S2を支持する。
保持治具12´,13´は、保持治具11´と同様の構成であるため、説明を省略する。
【0107】
本実施形態では、複数の保持治具11´,12´,13´が、基板保持部材10´上で、可能な限り広い面積を覆うことができるように、且つ、開口部11f´が互いに重ならないように配設されている。
【0108】
保持治具11´〜13´が固定された基板保持部材10´は、支持部材50と同数用いられる。支持部材50と同数の基板保持部材10´は、ボルト孔10h´において不図示の固定用板材にボルト締めされることにより、図1乃至図10に示す支持部材50の間に架設されて固定され、全体としてドーム状に支持される。
本実施形態では、支持部材50が5つ設けられるため、基板保持部材10´は、5設けられているが、これ以外の数であってもよい。
【0109】
基板Sを保持治具11´に載置する手順は、以下の通りである。
まず、最初の基板Sを、最も平面部11s´に近い位置に形成されている段差部11e´に一方の短辺の端部を当接させるようにして、平面部11s´に載置する。
【0110】
次に、2枚目の基板Sを1枚目の基板Sの上に重ね、1枚目の基板Sが当接した段差部11e´の隣の段差部11e´に対して2枚目の基板Sの一方の短辺の端部を当接させる。このとき、2枚目の基板Sの成膜部分S1が、1枚目の基板Sに重ならず、2枚目の基板Sの非成膜部分S2が他方の基板Sに重なるようにして、載置される。
【0111】
同様の手順で3枚目以降の複数の基板Sを順次保持治具11´に載置した後、保持治具11´を、不図示のボルトにより、ボルト孔10h´で、不図示の固定用板材に固定する。これにより、一つ目の保持治具11´の支持部材50への取付が完了する。同様の手順で、残りの4つの保持治具11´を、支持部材50に取付ける。これにより、5つの保持治具11´が、5つの支持部材50の間に取付けられ、全体として傘状の形状となる。
その後、基板Sが載置された基板保持機構3を、真空容器1内へ導入し、薄膜形成を行う。
【符号の説明】
【0112】
100 薄膜形成装置
1 真空容器
2 真空ポンプ
3 基板保持機構
4 成膜源
10,20,30,40,10´ 基板保持部材
10h´ ボルト孔
11,12,13,14,15,11´,12´,13´ 保持治具
11A 最下層基板支持部
11B 階段状部
11a 底板部
11b 内側立壁部
11c 外側立壁部
11d,11d´ 保持面
11e,11e´ 段差部
11f,21f,31f,41f,11f´ 開口部
11g1 支持面
11g2 凹面
11h 窓部
11i,11j 肉厚部
11k,11m 排気溝
11js 段差
11jx 排気溝
11n 第一の壁部
11o 第二の壁部
11os 段差部
11p,11q 取付孔
11r´ 枠部
11s´ 平面部
50 支持部材
51 ボルト
51a 固定用板材
60 回転部材
I 距離
P 垂線
S 基板
S1 成膜部分
S2 非成膜部分
V1,V2,V3 仮想線
X 回転軸(中心軸)
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜形成装置に係り、特に、多数の基板上の特定部分に対し、効率よく薄膜を形成することが可能な薄膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやデジタルビデオ等の撮影機器、携帯電話、スマートフォン、携帯ゲーム機等の様々な機器において、基板表面上に薄膜を形成する技術が用いられている。
そして、これらの機器に備えられる基板は、基板全面に亘って薄膜が形成されているものもあるが、基板上のある特定の領域のみに選択的に形成されているものが数多くある。
【0003】
このように、基板上の特定の部分のみに選択的に薄膜を形成するためには、薄膜形成装置内に配設される基板保持機構に保持された基板において、薄膜を形成しない部分(以下、「非成膜部分」と称する)をマスクによって覆う技術が用いられる。しかし、このようにマスクによって基板を覆う技術では、一般に、基板上の薄膜を形成する部分(以下、「成膜部分」と称する)が、互いに重ならないようにそれぞれの基板が基板保持機構に保持されるため、基板保持機構に保持される基板の数を多くすることができない。したがって、多数の基板に対して一括で成膜することができず、成膜効率が低下するという不都合があった。
【0004】
上記の問題に対して、マスクを用いて非成膜部分を形成するのではなく、非成膜部分を他の基板で覆うように、基板を重ね合わせた状態で薄膜を形成する技術が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、特許文献2では、第1のピン及び第2のピンを用いて複数の基板を傾斜させて配設し、基板の端部近傍に薄膜を形成する技術が提案されている。このように、互いに斜状に配置された基板は、基板同士が互いにマスクの作用をするため、成膜時にマスクを備える必要がなく、且つ、基板が互いに重なるように配置されるため、多数の基板を一括で処理することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−266071号公報
【特許文献2】特開平7−34222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1で開示された技術では、最後に基板ホルダーに載置される基板の上には、非成膜部分を覆う防着板が取り付けられる必要があるため、作業効率が低下する。また、特許文献2に開示された技術は、基板をそれぞれ第1のピン及び第2のピンに係止する必要があることから、基板の設置作業が煩雑であり、作業時間が長くなるという不都合がある。
したがって、特許文献1及び特許文献2の技術では、薄膜形成時の作業時間が長くなり、成膜作業において費用が嵩むという問題点があった。
【0008】
さらに、特許文献1及び特許文献2で開示された基板保持機構は、必然的に基板の端部(側面を含む端部)が露出する構成となることから、成膜部分の形状や大きさを細かく設定することが難しい。したがって、基板上に形成可能な成膜部分の形状や大きさが限定されるという不都合があった。
【0009】
本発明の目的は、多数の基板上の特定部分のみに薄膜を形成する作業を簡素化して効率化することにより、薄膜形成時の作業時間を短縮し、成膜作業における費用の削減が可能な薄膜形成装置を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、基板上の特定の部分のみに成膜部分を形成する際、成膜部分の形状や大きさを細かく設定可能な薄膜形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題は本発明の薄膜形成装置によれば、複数の基板を保持する基板保持機構を有し、前記複数の基板上に薄膜を形成する薄膜形成装置であって、前記基板保持機構は、前記複数の基板を保持する基板保持部材と、該基板保持部材を支持する支持部材と、該支持部材を回転させる回転部材と、を備え、前記基板保持部材は、前記複数の基板を保持し、前記薄膜の材料を放出する成膜源と前記複数の基板との間に配設される複数の保持面と、該複数の保持面の間に形成された複数の段差部と、前記複数の保持面にそれぞれ形成された複数の開口部と、を有し、前記複数の基板のうち前記薄膜が形成されない非成膜部分の一部が他の基板と重なり合うと共に、前記薄膜が形成される成膜部分が露出し、前記複数の基板の端部が前記段差部にそれぞれ当接した状態にあるとき、前記成膜部分が、前記開口部を通して前記成膜源側に露出するように、複数の前記基板を搭載可能であること、により解決される。
【0011】
基板上の特定の部分のみに薄膜を形成する技術の効率化を図るため、従来は、非成膜部分を他の基板で覆うように基板を互いに重ねて保持した状態で成膜工程を行っていた。このとき、非成膜部分は他の基板で覆うように配置すると共に、成膜部分が露出するように基板を保持させる作業が煩雑であるという問題点があった。
このような問題点に対し、本発明の薄膜形成装置によれば、基板を保持する保持面、及び段差部に基板を当接させる(載置する)だけで容易に複数の基板を基板保持機構に保持させることができる。そして、成膜源と基板との間に基板保持機構の保持面が備えられ、この保持面には成膜部分に相当する部分に開口部が備えられているため、基板の成膜部分のみが露出し、複雑な取り付け作業を行う必要がない。すなわち、基板の非成膜部分を他の基板で覆うと共に、成膜部分を露出するように基板を保持させる作業を簡素化することができる。したがって、基板を保持させる際、複雑な作業を行う必要がないため効率化できる。その結果、薄膜形成時の作業時間を短縮することができ、成膜作業における費用の削減が可能となる。
また、保持面に開口部を備えることにより基板の成膜部分のみを露出させることができるため、保持面(基板保持部材)がマスクの役割を果たす。したがって、開口部の形状や大きさに依存して成膜部分の形状や大きさを制御することができるため、より緻密な成膜作業を行うことが可能となる。
さらに、基板保持機構において、支持部材(すなわち、基板保持機構)を回転させる回転部材をさらに備えることにより、基板保持部材もまた回転させることができるため、複数の基板上に形成される薄膜を均一な膜質、膜厚で形成することができる。
【0012】
このとき、前記基板保持部材は、前記回転部材の回転方向において2以上12以下に分割されていると好ましい。
そして、基板保持部材を基板保持機構の回転方向において2分割〜12分割とすることにより、基板保持部材が適当な大きさとなり、支持部材に対して容易に取付けることができる。したがって、成膜作業における作業効率が向上し、作業時間を短縮することができる。
【0013】
さらに、前記基板保持部材は、平面視環状に形成され、前記基板保持部材の径方向上で、前記基板保持部材が複数隣り合って配設されると好適である。
このように、環状(ドーナツ状)に形成された基板保持部材を径方向上で隣り合った状態で複数備えることにより、基板保持機構が保持できる基板の数をさらに増やすことができる。したがって、一括で成膜できる基板枚数を増やすことができるため、成膜作業の効率が飛躍的に向上する。
【0014】
また、前記支持部材は、前記基板保持部材の前記複数の保持面と、前記回転部材の回転軸とが成す角度が可変となるように前記基板保持部材を保持すると好ましい。
基板保持部材において、基板を保持する保持面と水平面とが成す角度を変更可能とすることにより、基板上に成膜される薄膜の膜厚を補正することができる。その結果、複数の基板において、より均一な膜厚の薄膜を形成することができ、成膜時に必要な材料を削減することができる。
【0015】
このとき、前記基板保持部材は、前記成膜部分と前記成膜源とを通る第1の仮想線と、前記成膜部分の成膜面に対する垂線とが成す角度が0°以上45°以下となるように前記複数の基板を保持すると好ましい。
基板上に薄膜を形成する際、薄膜の厚さ(膜厚)は、成膜面と薄膜材料を放出する成膜源との相対位置に依存する。より詳細には、膜厚は、成膜面に対して成膜源から薄膜材料が入射する角度に依存する。
したがって、成膜面に対して成膜源から薄膜材料が入射する角度、すなわち、基板の成膜面と成膜源を通る仮想線と、成膜面に対する垂線とが成す角度を上記範囲とすることにより、基板上に形成される薄膜の厚さを制御しやすく、複数の基板においてより均一な膜厚の薄膜を形成することができる。
【0016】
また、前記支持部材は、前記複数の保持面に形成された前記複数の開口部が、前記回転部材の回転軸を中心軸とする仮想ドーム上に位置するように前記基板保持部材を支持すると好適である。
このように、基板保持部材において設けられた開口部が、回転部材の回転軸(すなわち、基板保持機構の回転軸)を中心軸とする仮想ドーム上に位置するように配設されることにより、複数の基板において、より均一な膜厚の薄膜を形成することができる。
【0017】
さらに、前記径方向上で互いに隣り合って配設される前記基板保持部材は、側面視において、一方の前記基板保持部材に形成された前記開口部が、前記成膜源に対し、他方の前記基板保持部材によって遮蔽されない位置に配設されると好ましい。
このように、環状に形成されて互いに径方向上で隣り合って配設される基板保持部材は、基板保持部材に備えられた開口部が、成膜源に対して露出するように配設される。環状に形成された基板保持部材が径方向上で隣り合うように配設された基板保持機構において、基板上に形成される薄膜の厚さは、隣り合って配設される基板保持部材の影響を受けやすい。したがって、基板保持部材に備えられた開口部が成膜源に対して他の基板保持部材によって遮蔽されない位置に備えられることにより、基板上に成膜される薄膜の厚さが基板保持部材の影響を受けにくくなり、膜厚をより均一にすることができる。
【0018】
また、前記支持部材は、平面視環状に形成されて回転方向及び径方向の少なくとも一方において複数配設される前記基板保持部材を支持し、前記径方向上で互いに隣り合って配設される前記基板保持部材は、一方の前記基板保持部材の前記保持面に形成された前記開口部の外周と前記成膜源とを通る第2の仮想線に対し、他方の前記基板保持部材の前記径方向の端部が20mm以上離れた位置に配設されると好適である。
環状に形成された基板保持部材が回転方向及び径方向の少なくとも一方において隣り合うように配設された基板保持機構において、基板上に形成される薄膜の厚さは、隣り合って配設される基板保持部材の影響を受けやすい。したがって、一方の基板保持部材の開口部を、他方の基板保持部材の回転方向及び径方向の少なくとも一方の端部に対して20mm以上離れた位置とすることにより、形成される薄膜の厚さは基板保持部材の影響を受けにくくなり、膜厚をより均一にすることができる。
【0019】
このとき、前記複数の段差部は、前記径方向に対して傾斜する方向に沿って形成され、前記複数の基板は矩形状の板材からなり、前記複数の基板において前記径方向内側の縁辺の長さをそれぞれLとし、前記複数の基板のそれぞれの縁辺の中心点から前記回転部材の回転軸までの距離をrとしたとき、前記基板保持部材は、(L/2)/rの値が0.05以上0.75以下となるように前記複数の基板を保持すると好ましい。
このように、薄膜を形成する基板が特に矩形状である時、基板保持部材を上記構成とすることにより、基板保持部材に保持される基板の数をより多くすることができる。したがって、一括で成膜できる基板枚数を増やすことができるため、成膜作業の効率が飛躍的に向上する。
【0020】
また、前記基板保持部材は、重なり合って保持される前記複数の基板のうち、一方の前記基板の縁辺と、他方の前記基板の縁辺とが成す角度が、0°以上90°以下となるように前記複数の基板を保持すると好適である。
このように、基板保持部材に矩形状の基板を保持させるとき、上記位置関係で配置されることにより、基板保持部材に保持される基板の数をより多くすることができる。したがって、一括で成膜できる基板枚数を増やすことができるため、成膜作業の効率が飛躍的に向上する。
【0021】
さらにまた、前記複数の段差部の高さは、前記複数の基板の厚みと比較して0.05mm以上高く形成されていると好ましい。
このように、基板の縁端が当接する段差部の高さを基板の厚みよりも0.05mm以上高く形成することにより、基板同士を重ねる際、基板表面の損傷を抑制することができる。したがって、品質の良い薄膜付き基板を製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の薄膜形成装置によれば、基板保持部材に対し、複雑な作業を行うことなく、容易に複数の基板を保持させることができる。したがって、基板を保持させる際、複雑な作業を行う必要がないため、成膜作業を効率化できる。その結果、薄膜形成時の作業時間を短縮することができ、成膜作業における費用の削減が可能となる。また、本発明の薄膜形成装置は、基板保持部材に多数の基板を保持させることができるため、一括で成膜可能な基板枚数をより多くすることができ、成膜作業の効率がさらに向上する。
さらに、基板保持機構の基板保持部材の保持面には、成膜部分を露出させるための開口部が備えられているため、保持面(基板保持部材)がマスクの役割を果たす。したがって、開口部の形状や大きさに依存して成膜部分の形状や大きさを制御することができるため、より緻密な成膜作業を行うことが可能となる。
さらにまた、本発明の薄膜形成装置は、基板保持機構に備えられた基板保持部材を上記構成とすることにより、膜厚がより均一となるように薄膜を形成することができる。その結果、成膜時に必要となる材料を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る薄膜形成装置を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る基板保持機構に保持される基板の平面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る基板保持機構の平面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る基板保持部材を構成する保持治具の斜視図である。
【図5】保持治具の平面図である。
【図6】保持治具に1枚目の基板を載置した状態を示す平面図である。
【図7】保持治具にすべての基板を載置した状態を示す平面図である。
【図8】保持治具に基板を載置した状態を示す断面説明図である。
【図9】保持治具に基板を載置した状態を示す断面説明図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る基板保持部材が固定された支持部材と成膜源との位置関係を示す説明図である。
【図11】本発明の実施例1に係る反射防止膜の反射率を示すグラフ図である。
【図12】本発明の比較例1に係る反射防止膜の反射率を示すグラフ図である。
【図13】本発明の比較例2に係る反射防止膜の反射率を示すグラフ図である
【図14】本発明の他の実施形態に係る基板保持部材の説明図である。
【図15】本発明の他の実施形態に係る基板保持部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることは勿論である。
【0025】
図1乃至図13は、本発明の一実施形態に係るもので、図1は薄膜形成装置を示す模式図、図2は基板保持機構に保持される基板の平面図、図3は基板保持機構の平面図、図4は本発明の一実施形態に係る基板保持部材を構成する保持治具の斜視図、図5は保持治具の平面図、図6は保持治具に1枚目の基板を載置した状態を示す平面図、図7は保持治具にすべての基板を載置した状態を示す平面図、図8は保持治具に基板を載置した状態を示す断面説明図、図9は保持治具に基板を載置した状態を示す断面説明図、図10は本発明の一実施形態に係る基板保持部材が固定された支持部材と成膜源との位置関係を示す説明図、図11は本発明の実施例1に係る反射防止膜の反射率を示すグラフ図、図12は本発明の比較例1に係る反射防止膜の反射率を示すグラフ図、図13は本発明の他の比較例2に係る反射防止膜の反射率を示すグラフ図であり、図14及び図15は、本発明の他の実施形態に係るもので、図14は基板保持部材の説明図、図15は基板保持部材の斜視図である。
【0026】
本発明の特徴的な要素である基板保持機構3は、複数の基板Sに対し一括で薄膜を形成するために、薄膜形成装置100に備えられるものである。基板Sは、その表面全体に亘って薄膜が形成されるものではなく、特定の領域にのみ薄膜が形成されるものであり、成膜部分S1と、薄膜が形成されない非成膜部分S2を備えている。基板保持機構3は、成膜部分S1及び非成膜部分S2を有する基板Sに薄膜を形成する際、大量の基板Sを一括で処理するために以下の構成を備えている。
【0027】
<薄膜形成装置の構造>
図1の薄膜形成装置100は、基板Sの表面上に薄膜を形成する真空蒸着装置であり、図1は、薄膜形成装置100の一部を示す概略断面図である。
【0028】
薄膜形成装置100は、真空容器1内を真空状態とし、金属等の薄膜材料を加熱して蒸発させることにより、薄膜材料によって基板Sの表面に薄膜を形成するものである。薄膜形成装置100は、真空容器1と、基板保持機構3と、成膜源4を備えている。
【0029】
真空容器1は、アルミニウムやステンレス等の公知の金属材料からなり、その内部で基板S上に薄膜を形成するためのほぼ円筒中空の容器体である。真空容器1には、真空ポンプ2が接続され、真空容器1の内部は1×10−2〜1×10−5Pa程度の真空状態とすることができる。真空容器1には、内部にガスを導入する不図示のガス導入管,不図示の圧力計を備える。
【0030】
<基板保持機構の構成>
基板保持機構3は、真空容器1の内部に設けられ、複数の基板Sに同時に一括で成膜するため、複数の基板Sを保持する。図1,図3に示すように、側面視で山型形状、平面視で円形状のドーム状に形成されている。図3の矢印は回転部材60の回転方向を示す。
【0031】
基板保持機構3は、同心円状に配設された環状の基板保持部材10,20,30,40、基板保持部材10,20,30,40を支持する支持部材50、支持部材50を回転させる回転部材60を備えている。
【0032】
回転部材60は、公知の回転モータ等からなり、基板保持機構3の中心に備えられ、基板保持機構3の中心において鉛直方向に延びる回転軸Xを有する。
回転部材60は回転軸Xを軸として回転することにより、支持部材50、さらには基板保持部材10,20,30,40が水平方向で回転する。
【0033】
支持部材50は、図1,図3に示すように、長尺の棒状体からなり、一端が回転部材60に固定されて、他端が、回動部材60よりも下方外側に配置されるように配設されている。
【0034】
支持部材50の一部には、基板保持部材10,20,30,40を固定するための固定用板材51aが取り付けられている。固定用板材51aは、金属性からなり、平面状の板部と、この板部から連続し、板部に対して屈曲した支持部材取付部とを備えている。板部と支持部材取付部との角度は、支持部材50と基板保持部材10,20,30,40とが成す角度に等しく、支持部材取付部を支持部材50にボルト締め又は溶接等で固定することにより、板部が基板保持部材10,20,30,40の取付面に平行になるように構成されている。
固定用板材51aの支持部材取付部を支持部材50に取付け、ボルト51によって基板保持部材10,20,30,40を固定することにより、基板保持部材10,20,30,40が支持部材50に支持される。
【0035】
固定用板材51aは、図1に示すように、支持部材50に取付けられる基板保持部材10,20,30,40の数だけ支持部材50に設けられる。本実施形態では、基板保持部材10,20,30,40を合計4列備えているため、各支持部材50には、4つの固定用板材51aが備えられる。
【0036】
支持部材50は、基板保持部材10,20,30,40の分割数と同数設けられ、回転軸Xを中心に相互に一定の角度間隔を有するように、回転部材60に固定されている。回転部材60と支持部材50は、全体として、傘の骨のような形状を有する。本実施形態では、5つの支持部材50を備えている。
支持部材50の回転部材60側の端部は、回転部材60に固定されている。
【0037】
基板保持部材10,20,30,40は、基板Sを複数保持する部材であり、加工が容易で比較的軽量なアルミニウム製からなる。
図3に示すように、基板保持部材10,20,30,40は、同心異径の環状に形成されている。
基板保持部材10,20,30,40は、それぞれ、周方向に支持部材50の数と同数に分割され、支持部材50の数と同数の保持治具の集合体として構成されている。一つの基板保持部材を構成する複数の保持治具は、同一形状から形成される。
そして、本実施形態において、基板保持部材10,20,30,40は、回転部材60の回転方向においてそれぞれ5分割されているが、これ以外の数で分割されていてもよい。このとき、基板保持部材10,20,30,40は、円周方向において2以上12以下に分割されているとよい。
【0038】
このように、基板保持部材10,20,30,40が分割されることにより、基板保持部材10,20,30,40が一体で形成された場合と比較して軽量化される。基板保持部材10,20,30,40は、多数の基板Sを載置した状態で作業者が持ち上げることにより支持部材50に取り付けられるため、基板保持部材10,20,30,40を軽量化することにより、基板保持部材10,20,30,40を取り付けやすくなり、作業効率が向上する。
【0039】
一方、基板保持部材10,20,30,40が12よりも多く分割されると、支持部材50に基板保持部材10,20,30,40を固定する作業時間が長くなり、作業効率が低下するため好ましくない。また、各基板保持部材10,20,30,40全体としてみると、基板Sが相互に重ならない部分や、肉厚部11i,11j等に取られる面積が広くなるため、基板保持部材10,20,30,40に積載可能な基板Sの数が少なくなり、1バッチ毎に処理できる基板Sの数が減少して、成膜処理の効率が低下する。
【0040】
<保持治具の構成>
保持治具11〜15は、基板保持部材10を構成する要素である。すなわち、基板保持部材10は、平面視円弧状の保持治具11〜15に分割される。
基板保持部材10,20,30,40は、その直径が異なる点で相違するが、その基本構造は略同様である。また、保持治具11〜15は、基板保持部材10を等分したものであり、その構成は互いに同様である。以下では、基板保持部材10を構成する保持治具11について説明する。
【0041】
保持治具11は、環状に形成される基板保持部材10を構成するものであり、平面視円弧状に形成されている。複数の基板Sは、保持治具11上に載置されることによって基板保持部材10(保持治具11)に保持され、このとき、保持治具11は、隣り合って保持される基板Sの非成膜部分S2の少なくとも一部が互いに重なり合うと共に、成膜部分S1が露出するようにして複数の基板Sを保持する。
【0042】
保持治具11は、図4に示すように、断面略コ字状(U字状)の板状部材であり、長さ方向の2辺が回転軸Xを中心とした同心の円弧を描いて湾曲した板体からなる底板部11aと、底板部11aの径方向内側端部から上方に向かって立ち上がる内側立壁部11bと、底板部11aの径方向外側端部から上方に向かって立ち上がる外側立壁部11cと、底板部11aの周方向の両端にそれぞれ設けられた肉厚部11i,11jを備えている。
【0043】
底板部11aには、保持治具11に1枚目の基板Sを配置するための最下層基板配置部11Aと、最下層基板配置部11Aよりも反時計回り方向に隣接して設けられ、底面が階段状に形成された階段状部11Bと、が形成されている。なお、時計回り方向及び反時計回り方向は、逆であってもよい。この場合は、すべての構成について逆になった鏡像体として構成される。
図4,図5に示すように、最下層基板配置部11A及び階段状部11Bと、内側立壁部11b,外側立壁部11cとの間には、一定の隙間があり、この隙間は、それぞれ、排気溝11k,11mとなっている。
【0044】
最下層基板配置部11Aは、肉厚部11jと、階段状部11Bの端部と、内側立壁部11bよりも保持治具11の径方向内側に設けられた第一の壁部11nと、外側立壁部11cよりも保持治具11の径方向内側に設けられた第二の壁部11oと、により囲まれた領域として構成されている。
【0045】
肉厚部11jは、保持治具11の回転軸Xを中心とした時計回り方向の端部に設けられ、径方向に延びる壁部として形成されている。肉厚部11jは、略周方向に延びる排気溝11jxが、径方向の内側と外側とに合計2つ設けられている。排気溝11jxは、肉厚部11jの周方向の両端まで亘った凹部からなる。
【0046】
保持治具11は、排気溝11k,11m,11jxを備えることにより、図7のように、複数の基板Sが載置された状態で、基板Sと保持治具11との間にたまる空気を円滑に除去することが可能となり、成膜作業を効率よく行うことができる。
肉厚部11jには、保持治具11の周方向内側が低くなった段差11jsが設けられている。段差11jsは、回転軸X側が保持治具11の時計回り方向の端面に近づくように、同端面に対して傾斜している。段差11jsは、基板Sの端部を当接させることにより、基板Sを位置決め可能にしている。
最下層基板配置部11Aは、階段状部11Bの端部により規定されている。階段状部11Bの端部は、最下層基板配置部11Aに隣接して設けられた階段状部11Bの第一の段差であり、基板Sの厚みと略同じ高さで、最下層基板配置部11Aの底面よりも階段状部11B側が高くなる段差として形成されている。
【0047】
第一の壁部11nは、内側立壁部11bの若干外周側,すなわち保持治具11の内側に設けられ、肉厚部11jの回転軸X側の端部から連続し、略周方向に向かって延設されている。第一の壁部11nは、肉厚部11j側の端部が、最下層基板配置部11Aの階段状部11B側の端部よりも、若干高く形成され、最初に保持治具11に設置される1枚目の基板Sが、階段状部11B側の端部よりも肉厚部11j側が若干高くなるよう傾斜して設置可能になっている。
【0048】
第二の壁部11oは、外側立壁部11cの若干内周側,すなわち保持治具11の内側に設けられ、肉厚部11jの回転軸X逆側の端部から連続し、略周方向に向かって延設されている。
第二の壁部11oには、図4に示すように、肉厚部11j側が高くなった段差部11osが形成され、この段差部11osに基板Sの端部を当接させることにより、基板Sを位置決め可能に形成されている。
第二の壁部11oは、肉厚部11j側の端部が、最下層基板配置部11Aの階段状部11B側の端部よりも、若干高く形成され、最初に保持治具11に設置される1枚目の基板Sが、階段状部11B側の端部よりも肉厚部11j側が若干高くなるよう傾斜して設置可能になっている。
【0049】
また、最下層基板配置部11Aの肉厚部11jと、階段状部11Bの端部と、第一の壁部11nと、第二の壁部11oと、により囲まれた領域の底面は、保持治具11に最初に設置される1枚目の基板Sの下面に当接して支持する支持面11g1と、支持面11g1よりも低く形成された凹面11g2とから構成されている。
支持面11g1は、若干肉厚部11j側が高くなった傾斜面として構成されている。支持面11g1の階段状部11B側の端部に近い位置で、保持治具11の径方向の中央には、保持治具11に設置される1枚目の基板Sの成膜部分S1を成膜源4に対して露出させるための開口部11fが形成されている。
凹面11g2は、保持治具11に最初に設置される1枚目の基板Sの下面よりも低い位置に形成され、基板Sとの間に空間が形成されるようになっている。凹面11g2には、膜厚等の測定を行うため、開口した窓部11hが形成されている。
【0050】
凹面11g2は、保持治具11に最初に載置される基板Sの表面が、肉厚部11jとの摩擦によって損傷することを防ぐ役割を果たす。したがって、基板Sを損傷することによる歩留まりの低下を抑制でき、より効率よく薄膜を形成することが可能となる。
【0051】
階段状部11Bは、保持治具11に設置される2枚目以降の基板Sを、少しずつずらしながら積層して保持する部分であり、2枚目以降の基板Sの成膜部分S1の近傍を支持する複数の保持面11dと、保持面11dの間に設けられた段差部11eと、を備えている。
保持面11dは、階段状部11Bの径方向の全長に亘って延びる平面であり、隣り合う一対の段差部11eの間に形成されている。保持面11dは、支持面11g1と平行な面であり、隣接する一対の段差部11eのうち、一段高い位置にある保持面11dとの間の段差部11e側が低くなるように傾斜している。保持面11dは、階段状部11Bの内周側の端部から外周側の端部まで延びており、外周側に対比して内周側が若干狭くなった平面視略矩形状に構成されている。保持面11dは、保持治具11に設置される基板Sの数より1小さい数設けられている。
【0052】
保持面11dには、基板Sの成膜部分S1を成膜源4に対して露出させるための平面視真円からなる開口部11fが形成されている。開口部11fは、内側立壁部11b及び外側立壁部11cと同心の円弧上に載るように並んで形成されている。なお、開口部11fの形状は、基板Sの成膜部分S1の形状に依存して決定されるものであり、真円以外の形状であってもよいのは勿論である。
【0053】
このように、保持治具11の保持面11dに開口部11fが形成されていることにより、保持治具11がマスクの役割を果たす。したがって、保持治具11以外に基板Sを覆う部材を別に設ける必要がない。また、開口部11fの形状は適宜変更できるので、成膜部分S1の形状、大きさを緻密に制御することが容易となる。
【0054】
段差部11eは、保持治具11に設置される2枚目以降の基板Sのそれぞれの反時計回り方向の端部に当接して位置決めするものであり、隣り合う一対の保持面11dの間に形成されている。段差部11eは、時計回り方向が低くなった段差からなる。段差部11eは、階段状部11Bの内周側の端部から外周側の端部まで、平面視直線状に伸びている。
【0055】
保持治具11は、水平面に対し、一端側が他端側と比較して高くなるように若干傾斜した保持面11dと、その保持面11dの高くなった部分から一段下がるように形成される段差部11eとを交互に連続して備えることにより、保持面11dに形成された開口部11fと、成膜源4との距離を均一にすることができるため、複数の基板Sに対して同様の条件で成膜することができ、均一な膜厚で成膜することができる。
段差部11eは、図5に示すように、径方向R−Rに対して角度を持って傾斜している。
【0056】
段差部11eの高さは、基板Sの厚みと比較して0.05mm以上高く形成されている。より詳細には、段差部11eは、0.05mm以上0.1mm以下の範囲で基板Sの厚みよりも高くなるように形成されている。
このように、段差部11eが基板Sの厚みよりも若干高く形成されていることにより、段差部11eに対して基板Sの端部を当接させやすくすることができる。さらに、保持面11dに基板Sを保持させた際、段差部11eの高さによって重なり合う基板S同士が若干隙間を開けて重ねられるため、基板Sの表面が互いに接触しにくくなり、摩擦により基板Sの表面が損傷するのを抑制することができる。
【0057】
段差部11eの高さと基板Sの厚みとの差が0.05mmよりも小さいと、基板S同士が接触しやすくなるため、好ましくない。また、段差部11eの高さと基板Sの厚みとの差が0.1mmよりも大きいと、複数の基板Sに対して均一な薄膜を形成しにくくなるため、好ましくない。
保持治具11の周方向両端の径方向両端の合計4か所には、図7に示すように、図1の固定用板材51aに保持治具11を取り付けるための取付孔11p,11qがそれぞれ形成されている。
【0058】
成膜源4は、一般的な蒸着装置からなり、円筒形のハースライナーが複数個設けられ、これらハースライナーが円盤状ハースの同心円状の窪みに配設されてなる。成膜源4は、真空容器1の内部下側に配設され、基板Sにむけて薄膜材料を放出する。図1では、便宜上、一つのハースライナーのみを成膜源4として図示している。
【0059】
成膜源4は、電子銃により蒸発される装置に限定されず、例えば抵抗加熱により薄膜材料を蒸発させる装置でもよい。また、基板S上に形成される薄膜の種類や数に依存して、成膜源4の数や配置を適宜変更可能である。
また、例えば、イオンアシスト法により蒸着を行う場合は、正のイオンを基板Sに向けて照射するイオン源、正に帯電した基板Sや基板保持機構3に電子ビームを照射して電荷の中和を行うニュートラライザ等を備えていてもよい。
【0060】
成膜中は、成膜源4の温度は非常に高温になるため、基板Sが加熱されて変形することを抑制するため、公知の基板冷却手段が基板保持機構3の近傍に備えられていてもよい。この基板冷却手段は、基板Sが樹脂製である時、特に有効である。
なお、本実施形態の薄膜形成装置100は、真空蒸着法により薄膜形成を行う装置であるが、スパッタ装置に本発明を適用してもよい。
【0061】
<基板の構成>
図2に示すように、基板Sは、4つの角がR形状になった平面視長方形の平板からなり、下面に薄膜が形成される成膜部分S1と、薄膜が形成されない非成膜部分S2とを備えている。
成膜部分S1は、基板Sの二つの対向する短辺のうち、一方の短辺の近傍で、一方の短辺から若干内側に離間して、基板Sの長尺方向に垂直な方向の中心に形成される。本実施形態では、成膜部分S1は真円状の例を示すが、他の形状であってもよい。
【0062】
基板Sは、厚み0.3〜0.5mm程度のガラス製の板材であり、表面に、装飾等の目的から、予め印刷等の手法により薄膜が形成されていてもよい。なお、本明細書中、「成膜部分S1」とは、薄膜形成装置100で薄膜が形成される特定の領域を指すものであり、予め薄膜が形成された部分を指すものではない。
また、本実施形態では基板Sの形状として矩形の平板状のものを用いているが、これに限定されず、各種改変することができることは勿論である。
【0063】
<基板の設置>
保持治具11には、段差部11eと同数の基板Sが設置される。
1枚目の基板Sは、図6に示すように、一方の短い辺が段差11jsに、他方が、最も時計回り方向側にある段差部11eに当接し、一方の長い辺の中央が内側立壁部11bの保持治具11の径方向内側の面に当接し、他方の長い辺の両端部が外側立壁部11cの保持治具11の径方向外側の面に当接するように配置される。このとき、基板Sは、段差部11e側の端部が段差11js側の端部よりも低くなるように傾斜している。
【0064】
2枚目以降の基板Sは、図7に示すように、順次、1枚前に設置された基板Sと一部を重ねた状態で、設置される。
2枚目以降の基板Sは、一方の短い辺が、1枚前に設置された基板S上に、隣り合う段差部11eの距離分反時計回り方向にずれた位置に配置され、他方が、段差部11eに当接し、一方の長い辺の中央が内側立壁部11bの保持治具11の径方向内側の面に当接し、他方の長い辺の両端部が外側立壁部11cの保持治具11の径方向外側の面に当接するように配置される。
最後に設置される基板Sは、短い辺のうち反時計回り方向にある方の辺が、肉厚部11iに当接する。
【0065】
このように、基板Sの端部が、段差部11e,内側立壁部11b,外側立壁部11c,段差11js,肉厚部11iに当接して保持されるため、基板Sは、保持治具11上で容易に且つ安定して固定され、その保持位置がずれてしまうことがない。
このように設置された基板Sは、図8,図9に示すように、段差部11e側の端部が他方の端部よりも低くなるように傾斜している。
設置された複数の基板Sのうち、先に設置された基板Sと重なっていない部分の下面は、保持面11dに当接し、保持面11dに設けられた開口部11fから、基板Sの下面が保持治具11下方に露出する。この露出した部分は、成膜部分S1として、成膜源4による成膜処理が施される。
【0066】
一つの保持面11dには、1枚の基板Sが保持される。保持治具11に基板Sを順に重ねていくことにより、複数の基板Sは、互いにその一部が重なり、それ以外の部分がずれた状態で保持される。
保持面11dの面積は、基板Sの面積よりも小さく形成されており、隣り合う基板Sの非成膜部分S2が互いに重なるようにして、保持治具11が基板Sを保持する。
【0067】
隣接する基板Sは、同じ方向にある短い辺が、相互に平行ではなく、0°以上90°以下の角度を持っている。保持治具11が円弧状に湾曲したものであり、このように構成しているため、より多くの基板Sを基板保持部材10に保持させることができる。
【0068】
矩形状の基板Sは、保持治具11に、以下の関係となるように保持される。図7において、矩形状の基板Sの長い辺のうち、径方向内側の長い辺の長さをLとし、この長い辺の中心点から、保持治具11が描く円弧の中心点である回転軸Xまでの距離をrとしたとき、距離rに対する長さLの半分の長さ、すなわち(L/2)/r(後述のθ1におけるtanθ1の値)は、0.05以上、0.75以下となるように保持治具11が形成されている。
【0069】
換言すると、図7のように、基板Sの径方向内側の長い辺の中心点と回転軸Xを通る直線と、基板Sの頂点のうち、径方向内側に配置される頂点と回転軸Xを通る直線とが成す角度をθ1としたとき、θ1は、2.9°以上、36.9°以下である。なお、角度θ1は、径方向内側の長い辺の中心点と回転軸Xを通る直線と、基板Sの頂点のうち、径方向内側に配置される頂点と回転軸Xとを通る直線とが成す鋭角を示す。
【0070】
基板保持部材10を構成する保持治具11〜15だけでなく、それぞれ直径が異なる基板保持部材20,30,40を構成するすべての保持治具が、この関係を満たすように形成されている。これにより、基板保持部材10,20,30,40は多数の基板Sを保持することができる。tanθ1及びθ1の値を上記関係とすることにより、一括で大量の基板Sを処理可能となり、薄膜形成作業を極めて効率よく行うことが可能となる。
【0071】
保持治具11〜15及び基板保持部材20,30,40を構成する各保持治具は、支持部材50に取り付けられた固定用板材51aの板部にボルト51でボルト締めすることにより、図1,図3に示すように設置される。
このとき、基板保持部材10,20,30,40は環状に形成され、その中心が、回転部材60の回転軸X上となるように支持部材50によって支持される。そして、基板保持部材10,20,30,40は、最も内側の基板保持部材40から、外側へ向かって基板保持部材30,20,10の順で次第に低くなるようにして、支持部材50に支持されている。
【0072】
それぞれ異なる径を備えた基板保持部材10,20,30,40は、互いにその一部が上下方向で重なるようにして階段状に配設される。基板保持部材10,20,30の内側端部が、基板保持部材10,20,30のそれぞれ一段内側に配設される基板保持部材20,30,40の外側端部よりも径方向内側に配設されている。
【0073】
なお、本実施形態では、基板保持部材10,20,30,40として、径方向上で4つの基板保持部材を備えた構成を例に示したが、これ以外の数としてもよいのは勿論である。このように、径方向上で隣り合う基板保持部材の数を複数とすることにより、成膜される基板Sの数を増やすことができ、成膜作業を効率よく行うことができる。
【0074】
<基板保持部材の位置関係>
図10を参照して、基板保持部材10,20,30,40の相互の位置関係について説明する。図10は、基板保持部材10,20,30,40が固定された支持部材50と成膜源4との位置関係を示す説明図である。
【0075】
基板保持部材10,20,30,40は、基板保持機構3がドーム状に形成され、下方に配設される基板保持部材ほど、その直径が大きくなるように形成されている。基板Sの成膜部分S1を露出する開口部11f,21f,31f,41fは、回転部材60の回転軸Xを軸とする仮想ドーム表面上に位置し、基板S上に均一な厚さの薄膜を形成可能としている。
なお、図10では、開口部11f,21f,31f,41fが載る仮想ドームが円錐台形状のものを例として示したが、所定の曲率の半球状ドームの表面上に開口部11f,21f,31f,41fが配置されていてもよい。
【0076】
また、基板保持部材10,20,30,40の保持面(11d等)は、水平な状態に限定されず、保持面(11d等)と、回転軸Xとが成す角度は、可変となるように構成されていてもよい。なお、図10では、基板保持部材10のみの保持面11dと回転軸Xとの間の角度が可変である構成を図示しているが、基板保持部材20,30,40もまた、同様に同角度を可変としてもよい。
【0077】
このとき、基板Sの成膜部分S1の中心点及び成膜源4のハースライナーの端部を通る第1の仮想線V1と、成膜部分S1の中心点の垂線Pとが成す角度θ2が0°以上45°以下の鋭角であると好適である。なお、図10では、簡略化のため、基板保持部材10上に備えられる複数の基板Sのうち、開口部11fに臨むように載置された基板Sのみを図示している。
【0078】
θ2が45°よりも大きいと、成膜部分S1に薄膜材料が斜めに入射するため、形成される薄膜の密度が低くなり、薄膜の屈折率が低下する。その結果、基板S上に形成される薄膜において、所望の分光特性が得られにくくなる。
【0079】
角度θ2を0°以上45°以下とすることにより、基板S上に形成される薄膜の厚さを制御しやすく、複数の基板においてより均一な膜厚の薄膜を形成することができる。
なお、図10では、基板保持部材10のみが保持面11dを水平面に対して傾斜した状態で配設された構成を図示しているが、その他の基板保持部材20,30,40もまた、同様に傾斜した状態としてもよいのは勿論である。
【0080】
径方向内側に配設される基板保持部材20,30,40の開口部21f,31f,41fは、少なくとも、径方向外側に隣り合って配設される基板保持部材10,20,30の径方向内側の端部よりも内側に配設される。
【0081】
そして、径方向で互いに隣り合って配設される基板保持部材20,30,40と基板保持部材10,20,30は、側面視において、内側の基板保持部材20,30,40に形成された開口部21f,31f,41fが、成膜源4に対し、外側の基板保持部材10,20,30の径方向内側端部によって遮蔽されず露出する位置に配設される。この構成とすることにより、基板S上に形成される薄膜の膜厚を一定とすることができる。
【0082】
より詳細には、径方向で互いに隣り合って配設される基板保持部材20,30,40と基板保持部材10,20,30は、側面視において、内側の基板保持部材20,30,40に形成された開口部21f,31f,41fの外周端部と成膜源4とを通る第2の仮想線V2に対し、外側の基板保持部材10,20,30の径方向内側端部が側面視で20mm以上離れた位置で配設される。なお、図10では、V2,V3は、基板保持部材20,30についてのみ図示している。
【0083】
すなわち、図10において、径方向に隣り合って配設される基板保持部材20,30,40と基板保持部材10,20,30のうち、径方向内側に配設される基板保持部材20,30,40の開口部21f,31f,41fの基板保持部材20,30,40の径方向外側に位置する端部及び、成膜源4のハースライナーの径方向の外側端部を通る直線を仮想線V2とし、仮想線V2に対して平行で、且つ、基板保持部材20,30,40の外側に配設される基板保持部材10,20,30の内側立壁部11b等の上端部を通る直線を仮想線V3とするとき、仮想線V2と仮想線V3の間の距離Iが、20mm以上となるとよい。
【0084】
直径の異なる基板保持部材10,20,30,40が同心円状に配設された基板保持機構3において、基板S上に形成される薄膜の厚さは、互いに隣り合って配設される基板保持部材10,20,30,40の影響を受けやすいが、このように構成しているため、形成される薄膜の厚さが、外側の基板保持部材10,20,30の影響を受けにくくなり、膜厚をより均一にすることができる。
【0085】
基板Sを保持治具11に載置する手順は、以下の通りである。
まず、1枚目の基板Sを、凹面11g2を覆い、短い辺の一方が肉厚部11jの段差11jsに当接し、他方が、最も肉厚部11jに近い段差部11eに当接するように載置する。
【0086】
次に、2枚目の基板Sを1枚目の基板Sの上に重ね、1枚目の基板Sが当接した段差部11eの隣で、反時計回り方向にある段差部11eに反時計回り方向にある短い辺の端部を当接させる。このとき、2枚目の基板Sの成膜部分S1は、1枚目の基板Sに対して重ならず、かつ2枚目の基板Sの非成膜部分S2が1枚目の基板Sに重なるようにする。
【0087】
上記のような手順で複数の基板Sを保持治具11に順次載置して、図7〜図9の状態にした後、保持治具11を、ボルト51により固定用板材51aに固定する。これにより、保持治具11の支持部材50への取付が完了する。同様の手順で、保持治具12〜15と、基板保持部材20,30,40の支持部材50への取付を行う。これにより、図3の基板保持機構3の各基板保持部材10,20,30,40に基板Sが載置された状態となる。
その後、基板Sが載置された基板保持機構3を、真空容器1内へ導入し、薄膜形成を行う。
このように、保持治具11は、成膜部分S1のみを成膜源4に対して露出して保持することができるため、成膜部分S1及び非成膜部分S2を備えた基板Sを、一括で、大量に生産することができる。したがって、成膜作業に必要な時間を短縮することができ、成膜作業における費用の削減が可能となる。
【実施例】
【0088】
(実施例1及び比較例1,2)
上記構成の基板保持機構3によって基板Sを保持し、屈折率が異なる薄膜を積層させることにより反射防止膜(AR膜)を作成し、距離Iの効果について評価した。
なお、反射防止膜を構成する各層の成膜条件は下記のとおりであり、実施例1及び比較例1,2で共通である。
【0089】
基板:ガラス基板
高屈折率誘電体材料: TiO2
低屈折率誘電体材料: SiO2
TiO2の成膜速度: 0.2nm/sec
SiO2の成膜速度: 0.3nm/sec
TiO2/SiO2蒸発時のイオン源条件
導入ガス:酸素50sccm
イオン加速電圧:1000V
イオン電流:500mA
ニュートラライザの条件
ニュートラライザ電流:1000mA
【0090】
上記成膜条件により反射防止膜を形成し、仮想線V2と仮想線V3との距離Iを20mmとしたとき(図11:実施例1)、5mmとしたとき(図12:比較例1)及び10mmとしたとき(図13:比較例2)において、それぞれ隣接する基板保持部材がある場合と、ない場合で成膜した反射防止膜の反射率を比較した。
【0091】
(実施例1)
距離Iを20mmとした場合(図11)において、隣接する基板保持部材がある場合は、隣接する基板保持部材がない場合と比較して、形成される反射防止膜の反射率に大きな差があることが示された。なお、図11において、実線で示す「隣接する基板保持部材がある場合」とは、径方向上で隣り合う基板保持部材のうち、一方の基板保持部材に対して、距離Iが20mmとなるように他方の基板保持部材が配設された状態を示すものである。
反射防止膜の反射防止効果、すなわち反射率は、反射防止膜の厚さに依存する傾向がある。したがって、図11より、距離Iが20mmとなるように基板保持部材を配置したとき、形成される薄膜が隣接する基板保持部材の影響を受けることなく、均一な膜厚の薄膜を形成できることが示されている。
【0092】
(比較例1)
距離Iを5mmとした場合(図12)において、隣接する基板保持部材がある場合は、隣接する基板保持部材がない場合と比較して、形成される反射防止膜の反射率に大きな差があることが示された。なお、図12において、実線で示す「隣接する基板保持部材がある場合」とは、径方向上で隣り合う基板保持部材のうち、一方の基板保持部材に対して、距離Iが5mmとなるように他方の基板保持部材が配設された状態を示すものである。
反射防止膜の反射防止効果、すなわち反射率は、反射防止膜の厚さに依存する傾向がある。したがって、図12より、距離Iが5mmとなるように基板保持部材を配置したとき、形成される薄膜が隣接する基板保持部材の影響を受けることが示されている。
【0093】
(比較例2)
また、図13に示す本発明の比較例2では、距離Iを10mmとした。本比較例2において、距離Iが10mmの状態で隣接する基板保持部材がある場合と、隣接する基板保持部材がない場合とを比較しても、形成される反射防止膜の反射率に若干の差があることが示された。なお、「隣接する基板保持部材がある場合」とは、径方向上で隣り合う基板保持部材のうち、一方の基板保持部材に対して、距離Iが10mmとなるように他方の基板保持部材が配設された状態を示すものである。
図13においてもまた、距離Iが10mmとなるように基板保持部材を配置したとき、形成される薄膜が隣接する基板保持部材の影響を受けることが示されている。
【0094】
したがって、距離Iが少なくとも、5mm以上10mm以下の範囲においては成膜される薄膜の膜厚に対し、近接する基板保持部材10,20,30,40が影響を及ぼすことが示された。そして、さらに、距離Iが大きくなるほど、近接する基板保持部材10,20,30,40が成膜される薄膜に対して与える影響が小さくなることもまた示されている。したがって、距離Iが10mmよりもさらに大きい場合は、薄膜に対して与える影響が小さくなると予想される。
【0095】
そして、実施例1より、距離Iを20mmとすると、成膜される薄膜の膜厚に対し、近接する基板保持部材10,20,30,40がほとんど影響を与えないことが示された。
したがって、距離Iについて、隣り合う基板保持部材の径方向の端部が20mm以上離れた位置に配設されるようにすることにより、基板S上に形成される薄膜の反射率及び膜厚を均一とすることができる。
【0096】
<他の実施形態>
次に、他の実施形態に係る基板保持機構について説明する。
本実施形態の基板保持機構は、図1乃至図10に示す回転部材60及び支持部材50と、基板保持部材とを備える。回転部材60及び支持部材50は、図1乃至図10の実施形態と共通するため、説明を省略する。
基板保持部材は、基板保持部材10,20,30,40の代わりに用いられるものであり、支持部材50の最も外側に固定される基板保持部材10´を、図14に示す。
基板保持部材10´は、平面視で略扇形状の略板体からなり、保持治具11´〜13´を板体上に固定可能に構成されている。
【0097】
基板保持部材10´は、保持部材11´が取り付けられる部分のうち、少なくとも、開口部11f´が形成される部分は、基板Sの成膜部分S1が露出するように開口した構成となっている。基板保持部材10´は、支持部材50に取付けられた不図示の固定用板材にボルト締めするためのボルト孔10h´を備えている。
【0098】
図15に示すように、保持治具11´は、平面視略長方形で断面略コ字状(U字状)の板体からなる。保持治具11´の一対の長辺の端部には、内側と比較して若干肉厚に形成された枠部11r´が設けられ、基板Sの一対の長辺の端部と当接することにより、基板Sが短辺方向に保持治具11´から脱落することを抑制する。
【0099】
保持治具11´は、基板Sを保持する複数の保持面11d´と、複数の保持面11d´の間に形成されて基板Sの短辺の端部とそれぞれ当接する複数の段差部11e´と、基板Sの端部が段差部11e´と当接して保持された状態にあるとき、保持面11d´の成膜部分S1に相当する部分に形成された開口部11f´とを備えている。
【0100】
保持治具11´は、基板Sを保持するための複数の保持面11d´を備えている。そして、隣接する保持面11d´の間には、それぞれ、段差部11e´が形成されている。
【0101】
複数の保持面11d´及び複数の段差部11e´は、断面視で階段状に形成されており、一つの保持面11d´に対して1枚の基板Sが保持される。したがって、この保持治具11´に対し、基板Sを順に重ねていくことにより、複数の基板Sは、互いにその一部が重なり、他の部分がずれて、保持される。
【0102】
段差部11e´は、互いに平行であり、この段差部11e´に基板Sの短辺の端部が当接することにより、複数の基板Sが直線状に保持される。
【0103】
したがって、基板Sの端部が、それぞれ段差部11e´及び枠部11r´に当接して保持されるため、基板Sは、保持治具11´上で容易に且つ安定して固定され、その保持位置がずれてしまうことがない。
【0104】
段差部11e´の高さは、基板Sの厚みよりも若干高くなるように形成されているとよい。この構成により、複数の基板Sが重ねられた状態であっても、基板Sの表面が損傷するのを抑制することができる。
【0105】
保持面11d´には、基板Sの成膜部分S1を成膜源4に対して露出させる開口部11f´が形成されている。開口部11f´は、複数の保持面11d´に亘って一体で形成された長穴となっている。但し、開口部11f´は、長穴状でなく、各保持面11d´毎にそれぞれ個別に分離して形成されていてもよい。
【0106】
保持治具11´の長手方向の一端側であって、基板保持部材10´組付時に回転軸X側となる位置には、基板S取付側の面が平面状に形成された平面部11s´を備えている。
平面部11s´は、最初に保持治具11´に配置される基板Sの非成膜部分S2を支持する。
保持治具12´,13´は、保持治具11´と同様の構成であるため、説明を省略する。
【0107】
本実施形態では、複数の保持治具11´,12´,13´が、基板保持部材10´上で、可能な限り広い面積を覆うことができるように、且つ、開口部11f´が互いに重ならないように配設されている。
【0108】
保持治具11´〜13´が固定された基板保持部材10´は、支持部材50と同数用いられる。支持部材50と同数の基板保持部材10´は、ボルト孔10h´において不図示の固定用板材にボルト締めされることにより、図1乃至図10に示す支持部材50の間に架設されて固定され、全体としてドーム状に支持される。
本実施形態では、支持部材50が5つ設けられるため、基板保持部材10´は、5設けられているが、これ以外の数であってもよい。
【0109】
基板Sを保持治具11´に載置する手順は、以下の通りである。
まず、最初の基板Sを、最も平面部11s´に近い位置に形成されている段差部11e´に一方の短辺の端部を当接させるようにして、平面部11s´に載置する。
【0110】
次に、2枚目の基板Sを1枚目の基板Sの上に重ね、1枚目の基板Sが当接した段差部11e´の隣の段差部11e´に対して2枚目の基板Sの一方の短辺の端部を当接させる。このとき、2枚目の基板Sの成膜部分S1が、1枚目の基板Sに重ならず、2枚目の基板Sの非成膜部分S2が他方の基板Sに重なるようにして、載置される。
【0111】
同様の手順で3枚目以降の複数の基板Sを順次保持治具11´に載置した後、保持治具11´を、不図示のボルトにより、ボルト孔10h´で、不図示の固定用板材に固定する。これにより、一つ目の保持治具11´の支持部材50への取付が完了する。同様の手順で、残りの4つの保持治具11´を、支持部材50に取付ける。これにより、5つの保持治具11´が、5つの支持部材50の間に取付けられ、全体として傘状の形状となる。
その後、基板Sが載置された基板保持機構3を、真空容器1内へ導入し、薄膜形成を行う。
【符号の説明】
【0112】
100 薄膜形成装置
1 真空容器
2 真空ポンプ
3 基板保持機構
4 成膜源
10,20,30,40,10´ 基板保持部材
10h´ ボルト孔
11,12,13,14,15,11´,12´,13´ 保持治具
11A 最下層基板支持部
11B 階段状部
11a 底板部
11b 内側立壁部
11c 外側立壁部
11d,11d´ 保持面
11e,11e´ 段差部
11f,21f,31f,41f,11f´ 開口部
11g1 支持面
11g2 凹面
11h 窓部
11i,11j 肉厚部
11k,11m 排気溝
11js 段差
11jx 排気溝
11n 第一の壁部
11o 第二の壁部
11os 段差部
11p,11q 取付孔
11r´ 枠部
11s´ 平面部
50 支持部材
51 ボルト
51a 固定用板材
60 回転部材
I 距離
P 垂線
S 基板
S1 成膜部分
S2 非成膜部分
V1,V2,V3 仮想線
X 回転軸(中心軸)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の基板を保持する基板保持機構を有し、前記複数の基板上に薄膜を形成する薄膜形成装置であって、
前記基板保持機構は、
前記複数の基板を保持する基板保持部材と、
該基板保持部材を支持する支持部材と、
該支持部材を回転させる回転部材と、を備え、
前記基板保持部材は、
前記複数の基板を保持し、前記薄膜の材料を放出する成膜源と前記複数の基板との間に配設される複数の保持面と、
該複数の保持面の間に形成された複数の段差部と、
前記複数の保持面にそれぞれ形成された複数の開口部と、を有し、
前記複数の基板のうち前記薄膜が形成されない非成膜部分の一部が他の基板と重なり合うと共に、前記薄膜が形成される成膜部分が露出し、前記複数の基板の端部が前記段差部にそれぞれ当接した状態にあるとき、前記成膜部分が、前記開口部を通して前記成膜源側に露出するように、複数の前記基板を搭載可能であることを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項2】
前記基板保持部材は、前記回転部材の回転方向において2以上12以下に分割されていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜形成装置。
【請求項3】
前記基板保持部材は、平面視環状に形成され、前記基板保持部材の径方向上で、前記基板保持部材が複数隣り合って配設されることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜形成装置。
【請求項4】
前記支持部材は、前記基板保持部材の前記複数の保持面と、前記回転部材の回転軸とが成す角度が可変となるように前記基板保持部材を保持することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の薄膜形成装置。
【請求項5】
前記基板保持部材は、前記成膜部分と前記成膜源とを通る第1の仮想線と、前記成膜部分の成膜面に対する垂線とが成す角度が0°以上45°以下となるように前記複数の基板を保持することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の薄膜形成装置。
【請求項6】
前記支持部材は、前記複数の保持面に形成された前記複数の開口部が、前記回転部材の回転軸を中心軸とする仮想ドーム上に位置するように前記基板保持部材を支持することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の薄膜形成装置。
【請求項7】
前記径方向上で互いに隣り合って配設される前記基板保持部材は、側面視において、一方の前記基板保持部材に形成された前記開口部が、前記成膜源に対し、他方の前記基板保持部材によって遮蔽されない位置に配設されることを特徴とする請求項3乃至6のいずれか一項に記載の薄膜形成装置。
【請求項8】
前記支持部材は、平面視環状に形成されて回転方向及び径方向の少なくとも一方において複数配設される前記基板保持部材を支持し、
前記径方向上で互いに隣り合って配設される前記基板保持部材は、一方の前記基板保持部材の前記保持面に形成された前記開口部の外周と前記成膜源とを通る第2の仮想線に対し、他方の前記基板保持部材の前記径方向の端部が20mm以上離れた位置に配設されることを特徴とする請求項3乃至7のいずれか一項に記載の薄膜形成装置。
【請求項9】
前記複数の段差部は、前記径方向に対して傾斜する方向に沿って形成され、
前記複数の基板は矩形状の板材からなり、前記複数の基板において前記径方向内側の縁辺の長さをそれぞれLとし、前記複数の基板のそれぞれの縁辺の中心点から前記回転部材の回転軸までの距離をrとしたとき、
前記基板保持部材は、(L/2)/rの値が0.05以上0.75以下となるように前記複数の基板を保持することを特徴とする請求項3乃至8のいずれか一項に記載の薄膜形成装置。
【請求項10】
前記基板保持部材は、重なり合って保持される前記複数の基板のうち、一方の前記基板の縁辺と、他方の前記基板の縁辺とが成す角度が、0°以上90°以下となるように前記複数の基板を保持することを特徴とする請求項9に記載の薄膜形成装置。
【請求項11】
前記複数の段差部の高さは、前記複数の基板の厚みと比較して0.05mm以上高く形成されていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の薄膜形成装置。
【請求項1】
複数の基板を保持する基板保持機構を有し、前記複数の基板上に薄膜を形成する薄膜形成装置であって、
前記基板保持機構は、
前記複数の基板を保持する基板保持部材と、
該基板保持部材を支持する支持部材と、
該支持部材を回転させる回転部材と、を備え、
前記基板保持部材は、
前記複数の基板を保持し、前記薄膜の材料を放出する成膜源と前記複数の基板との間に配設される複数の保持面と、
該複数の保持面の間に形成された複数の段差部と、
前記複数の保持面にそれぞれ形成された複数の開口部と、を有し、
前記複数の基板のうち前記薄膜が形成されない非成膜部分の一部が他の基板と重なり合うと共に、前記薄膜が形成される成膜部分が露出し、前記複数の基板の端部が前記段差部にそれぞれ当接した状態にあるとき、前記成膜部分が、前記開口部を通して前記成膜源側に露出するように、複数の前記基板を搭載可能であることを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項2】
前記基板保持部材は、前記回転部材の回転方向において2以上12以下に分割されていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜形成装置。
【請求項3】
前記基板保持部材は、平面視環状に形成され、前記基板保持部材の径方向上で、前記基板保持部材が複数隣り合って配設されることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜形成装置。
【請求項4】
前記支持部材は、前記基板保持部材の前記複数の保持面と、前記回転部材の回転軸とが成す角度が可変となるように前記基板保持部材を保持することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の薄膜形成装置。
【請求項5】
前記基板保持部材は、前記成膜部分と前記成膜源とを通る第1の仮想線と、前記成膜部分の成膜面に対する垂線とが成す角度が0°以上45°以下となるように前記複数の基板を保持することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の薄膜形成装置。
【請求項6】
前記支持部材は、前記複数の保持面に形成された前記複数の開口部が、前記回転部材の回転軸を中心軸とする仮想ドーム上に位置するように前記基板保持部材を支持することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の薄膜形成装置。
【請求項7】
前記径方向上で互いに隣り合って配設される前記基板保持部材は、側面視において、一方の前記基板保持部材に形成された前記開口部が、前記成膜源に対し、他方の前記基板保持部材によって遮蔽されない位置に配設されることを特徴とする請求項3乃至6のいずれか一項に記載の薄膜形成装置。
【請求項8】
前記支持部材は、平面視環状に形成されて回転方向及び径方向の少なくとも一方において複数配設される前記基板保持部材を支持し、
前記径方向上で互いに隣り合って配設される前記基板保持部材は、一方の前記基板保持部材の前記保持面に形成された前記開口部の外周と前記成膜源とを通る第2の仮想線に対し、他方の前記基板保持部材の前記径方向の端部が20mm以上離れた位置に配設されることを特徴とする請求項3乃至7のいずれか一項に記載の薄膜形成装置。
【請求項9】
前記複数の段差部は、前記径方向に対して傾斜する方向に沿って形成され、
前記複数の基板は矩形状の板材からなり、前記複数の基板において前記径方向内側の縁辺の長さをそれぞれLとし、前記複数の基板のそれぞれの縁辺の中心点から前記回転部材の回転軸までの距離をrとしたとき、
前記基板保持部材は、(L/2)/rの値が0.05以上0.75以下となるように前記複数の基板を保持することを特徴とする請求項3乃至8のいずれか一項に記載の薄膜形成装置。
【請求項10】
前記基板保持部材は、重なり合って保持される前記複数の基板のうち、一方の前記基板の縁辺と、他方の前記基板の縁辺とが成す角度が、0°以上90°以下となるように前記複数の基板を保持することを特徴とする請求項9に記載の薄膜形成装置。
【請求項11】
前記複数の段差部の高さは、前記複数の基板の厚みと比較して0.05mm以上高く形成されていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の薄膜形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−79440(P2013−79440A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−89510(P2012−89510)
【出願日】平成24年4月10日(2012.4.10)
【出願人】(390007216)株式会社シンクロン (52)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年4月10日(2012.4.10)
【出願人】(390007216)株式会社シンクロン (52)
【Fターム(参考)】
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