説明

薄膜成形ロール及び薄膜成形装置

【課題】外セルを駆動でき、偏心量が可変であり、かつスラスト荷重が発生することなく内ロールと外セルとを回転駆動させることができる薄膜成形ロール及び薄膜成形装置を提供する。
【解決手段】本発明の薄膜成形ロールは、金属薄膜で形成された外セル1と、外セル1内に二重管構造により設けられた内ロール2と、内ロール2を支持し、駆動伝達する軸6と、内ロール2を被覆するゴム3と、外セル1が内ロール2に対して偏心可能に設けられている。本発明の薄膜成形ロールは、外セル1の両端部を支持する外セル軸11と、内ロール2の駆動力を外セル軸11に伝達する駆動力伝達部材と、外セル1と内ロール2とを軸平行に回転させる平行保持部材と、外セル1と内ロール2との軸方向の位置決めをする軸方向位置決め部材と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Tダイ等から吐出された溶融プラスチックを主冷却ロールに押し付ける薄膜成形ロール及び薄膜成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薄膜フィルム・シート製造用の成形ロールとしては、ゴム被覆ロールを金属ロールに押付けるプレス成形ロールが一般に用いられている。
【0003】
特許文献1では、2重管ロールで薄肉外筒厚さtを内筒の厚さの1/2〜1/10にした成形ロールが開示されている。すなわち外筒(外セル)と内筒(内ロール)の二重構造で外セルを金属性の薄肉構造にしてロール外径にクラウンを付与してニップ接触幅を広くし、またロール幅方向に均一なニップを得るようにしている。
【0004】
特許文献2では2重管ロールで薄肉外筒厚さtをロール半径の0.03倍以下にした成形ロールが開示されている。すなわち外セルと内ロールの二重構造で外セルを金属性の薄肉構造にして外セルが主ロールに対する押し荷重によって主ロールの外周に倣って弾性変形するものである。
【0005】
また、長尺のシート状材料を1対のロールで加圧成形するロールとしては、油圧均等圧を利用したロールや多数の油圧ピストンを利用したクラウン調整ロールなどが開示されている(特許文献3、4参照)。
【0006】
また、樹脂フィルム・シート製造用のロールとしては、特許文献5に、弾性変形可能な薄い金属薄膜からなる外円筒と、外円筒内部に弾性変形及び回転可能な弾性体ロールを備えた成形用ロールが開示されている。また、特許文献6には薄肉外筒厚さtをロール半径の0.03以下にした2重管ロールが開示されている。
【0007】
また、特許文献7には、内接ゴムロールタイプであるが、回転駆動する軸を持つ内接ゴムロールであり、非回転の偏心側板で薄肉金属外筒を回転支持し、前記非回転の偏心側板と薄肉金属外筒で囲まれる内部空間に温調液を満たしロータリージョイントで温調液を回流させるシート・フィルム成形用タッチロールが開示されている。
【特許文献1】特開2002−36332号公報
【特許文献2】特許第3194904号公報
【特許文献3】特公昭58−46599号公報
【特許文献4】特開平6−65889号公報
【特許文献5】特許3422798号公報
【特許文献6】特開平11−235747号公報
【特許文献7】特開2007−83577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ゴム被覆ロールを金属ロールに押付ける一般的なプレス成形ロールの場合、ほぼ均一な線圧を得られるがゴムの熱伝導率が低いため、ロール内部の熱をシート材料に伝達できない。このため、シート材料をゴムロール側から冷却・加熱できず、冷却用途の成形ロールには使用できない。
【0009】
特許文献1及び特許文献2の成形ロールはいずれも、外セルと内ロールの二重構造であり、外セルの金属製薄肉セルが押し荷重によって主ロールの外周に倣って弾性変形するものであり、ロール間の接触幅を広くして、かつロール幅方向に均一なニップを得るようにしている。しかしながら、この種のロールは線圧(ニップ圧)を変えた場合、幅方向に均等な圧力が得られないという問題点がある。たとえば、特許文献1のロールに2倍の荷重を加えると軸中央部分が低い凹形になり、反対に1/2荷重では凸形になる。このため、実用運転では設計線圧の近傍でのみ使用でき、荷重を変えると幅方向に均等な圧力が得られない。従って特許文献1の成形ロールでは、成形するシートの厚さ、材料の変化に応じてニップ圧を変更する要求に適応することが困難である。
【0010】
特許文献3及び特許文献4に開示されている成形ロールの場合、完全に均一ニップが得られ、またクラウン調整可能であるが、油圧装置が必要で装置が大型になりコストが高価な設備になる。また薄肉金属外筒での薄いシート成形には適用できない。
【0011】
特許文献5に開示されている成形ロールは、非回転の中心支軸に薄肉金属外筒を同心状態で回転可能に取り付けて、薄肉金属外筒の筒内において中心支軸にゴムロールを偏心状態で回転可能に取り付けて、偏心によってゴムロールの外周面が薄肉金属外筒の内周面に接触させ、主ロールに対する押し荷重による薄肉金属外筒の弾性変形をゴムロールのゴム弾性によって受け持つようにしている。しかしながら、このロールは中心支軸が非回転であるので、成形ロールを回転駆動する場合には、薄肉金属外筒とモータとをベルトなどで駆動連結しなくてはならず、駆動系が複雑になる。従って、一般的な既存のシート・フィルム成形装置に使用することができない。
【0012】
また、特許文献5に開示されている成形ロールは、ゴムロールの偏心支持部が液密構造の薄肉金属外筒の内部にあるため、ゴムロールの偏心支持部の部品交換、メンテナンスをする場合には、薄肉金属外筒の取り付け部全体を分解する必要があり、保守性に問題がある。またロール内部に冷却液とベアリングが接していて、加圧状態の温調液(150℃)を使用する場合もあるので、スラストベアリングを使うなど、ベアリングの使用条件が厳しい。
【0013】
特許文献7に開示されている成形ロールは、特許文献5に開示されている成形ロールと同様の内接ゴムロールタイプであるが、回転駆動する軸を有するゴムロールであり、非回転の偏心側板で薄肉金属外筒を回転支持し、非回転の偏心側板と薄肉金属外筒で囲まれる内部空間に温調液を満たしロータリジョイントで温調液を回流させるシート・フィルム成形用タッチロールである。
【0014】
この特許文献7の成形ロールは外筒を薄肉金属外筒として特許文献5のものと同様に薄肉シートを成形することが可能である。しかしながら、偏心側板が固定されているので、高速運転の際、偏心側板の外周側の温調液のシールと偏心側板の内周側のシールとのリップ摺動速度が共に大きくなるとともに、循環する温調液の圧力も作用することで摺動抵抗が大きくなり、耐久性の面で不利である。
【0015】
また外筒は内部ゴムロール接触圧力摩擦によるつれ回りなので完全には駆動できない。
【0016】
内ロールを駆動させ、かつ外セルを同じ速度で回転駆動させるには、内ロールと外セルとを機械的に連結すればよいが、単に連結しただけでは、互いに偏心させて回転駆動することができない。また、内ロールと外セルとの間の温調液が漏洩しないような構造にする必要もある。そこで、内ロールと外セルとの両端部を同心円の多段の金属薄板からなる蛇腹部材で連結することが考えられる。しかしながら、この蛇腹部材は、金属薄板からなるため、同心円の蛇腹部材は変形の自由度が高いため、軸方向に伸縮することで外セルの軸受にスラスト荷重がかかってしまう。このため、蛇腹部材の場合、軸受けの耐久性を低下してしまう場合があり、この問題を解決するため、軸方向の移動を規制しようとすると構造が複雑となりコストがかかってしまう。
【0017】
そこで、本発明は、外セルを駆動でき、偏心量が可変であり、かつスラスト荷重が発生することなく内ロールと外セルとを回転駆動させることができる薄膜成形ロール及び薄膜成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため、本発明の薄膜成形ロールは、金属薄膜で形成された外セルと、外セル内に二重管構造により設けられた内ロールと、内ロールを支持し、駆動伝達する軸と、内ロールを被覆するゴムと、外セルが内ロールに対して偏心可能に設けられた薄膜成形ロールにおいて、
外セルの両端部を支持する外セル軸と、
内ロールの駆動力を外セル軸に伝達する駆動力伝達部材と、
外セルと内ロールとを軸平行に回転させる平行保持部材と、
外セルと内ロールとの軸方向の位置決めをする軸方向位置決め部材と、を有することを特徴とする。
【0019】
上記のとおり、本発明の薄膜成形ロールは、軸方向位置決め部材によって外セルと内ロールとの軸方向の位置決めしている。これにより、スラスト荷重の発生を抑えている。また、駆動力伝達部材により内ロールの駆動力が外セルの両端部を支持する外セル軸に伝達される。これにより、内ロールと外セルとを回転駆動させることができる。さらに、外セル内に二重管構造により内ロールが設けられていることから外セルが内ロールに対して偏心可能である。
【0020】
また、本発明の薄膜成形ロールは、駆動力伝達部材、平行保持部材及び軸方向位置決め部材が、外セル軸と、内ロールの両端部の軸とを連結する複数の金属製の棒材からなる撓み軸により構成されているものであってもよい。
【0021】
また、本発明の薄膜成形ロールは、撓み軸が、第1の軸部と、第1の軸部よりも軸径が細い第2の軸部とを有するものであってもよい。
【0022】
また、本発明の薄膜成形ロールは、駆動力伝達部材及び軸方向位置決め部材が、2枚のハブと、各ハブの間に配置されたスペーサと、各ハブとスペーサとの間に配置された複数枚の鋼製薄板のディスクとを有するフランジ型軸継手により構成されているものであってもよい。
【0023】
また、本発明の薄膜成形ロールは、平行保持部材が、軸に、軸の軸方向に離間して配置されて外セル軸を保持する複数の軸受により構成されているものであってもよい。
【0024】
また、本発明の薄膜成形ロールは、外セルが、外セル軸に設けた滑り軸受で支持されているものであってもよい。
【0025】
また、本発明の薄膜成形ロールは、外セルが、外セル軸に設けたゴムリングで支持されているものであってもよい。
【0026】
また、本発明の薄膜成形ロールは、外セルと内ロールとの間に温調液を水密に保持するシールを有するものであってもよい。
【0027】
また、本発明の薄膜成形ロールは、シールが外セルの内周面と内ロールの外周面との間に配置されているものであってもよい。
【0028】
また、本発明の薄膜成形ロールは、シールが外セルの内周面と外セル軸との間に配置されており、シールは内ロールの側端面と外セル軸との間に配置されているものであってもよい。
【0029】
また、本発明の薄膜成形ロールは、外セル軸と内ロールの軸との間に偏心カムが配置されているものであってもよい。
【0030】
また、本発明の薄膜成形ロールは、偏心カムが、中空構造の第1のカムと、中空構造の第2のカムとを有する偏心軸であり、第1のカムは第1のカム内を挿通する軸に支持されており、第2のカムは第2のカム内に嵌め込まれた第1のカムに支持されているものであってもよい。
【0031】
また、本発明の薄膜成形ロールは、外セル軸と軸との偏心量を表示する位置ゲージを有するものであってもよい。
【0032】
本発明の薄膜形成装置は、本発明の薄膜成形ロールを備える。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、本発明は、スラスト荷重が発生することなく内ロールと外セルとを回転駆動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本明細書において、『線圧』とは、1対のロールを押し当てた時のロール長さ方向1cmあたりの力Nを意味し、線圧はニップ圧とも呼称する(例:100N/cm)。
【0035】
また、『クラウン』とは、ロール中央の直径とロール端部の直径との差を意味し、ロール中央の直径をD1、ロール端部の直径をD2とすると、クラウン=D1−D2となる。
【0036】
1対のロールを押し当てるとロールが撓み、ロール幅の中心の線圧が小さくなる。そこで、クラウン加工することでロール外径をあらかじめ中央を端部より太く造り、荷重をかけたときに幅方向に均一な線圧が得られるようにする。なお、クラウンは通常円弧状に加工される。本発明に一例としては、内ロールのゴムにクラウン加工が施されている。
(第1の実施形態)
図1に本実施形態の成形ロールの適用例であるフィルム成形機の構成を示す。
【0037】
本実施形態のフィルム成形機は、Tダイ24と、本発明の特徴を備えた成形ロール20と、成形ロール21、22とを有する。各成形ロール20、21、22は並列配置されている。
【0038】
Tダイ24は押出機(不図示)からの樹脂材料をシート状に押し出し、1対の成形ロール21、20のニップ隙間に導く。シート25としては0.01mmから3mm程度までの透明クリアシートでPC(ポリカーボネイト)、PMMA(ポロメタクリル酸メチル)樹脂材料が例として挙げられる。成形ロール21は固定設置され、その他の成形ロールは押付装置で水平方向に移動できる。また、成形ロール21、20は通常同速度で回り、ロール幅に均一の圧力で一定厚さに成形する。シート25は成形ロール21側に巻きつけて、成形ロール22でニップ成形した後、下流に流して冷却した後、巻き取りまたはシート切断してシートを製造する。
【0039】
次に、図2に、図1に示す成形ロール20のA−A線における断面図を示す。また、図3に、図2におけるB部の詳細を示す。また、図4に、成形ロール20の負荷時と休止時におけるロール動作を説明する成形ロール20の軸方向断面図を示す。また、さらに、図5に成形ロール20と軸受箱の関係を説明するための詳細な断面図をそれぞれ示す。
【0040】
また、成形ロール20の主要仕様を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
成形ロール20は、金属薄膜で形成された外セル1と、外セル1内に二重管構造により設けられた内ロール2と、内ロール2を支持する軸6と、内ロール2を被覆するゴム3と、外セル1が内ロール2に対して偏心可能に設けられた薄膜成形ロールである。また、成形ロール20は、外セル1の両端部を支持する外セル軸11を有する。さらに成形ロール20は、撓み軸7aで構成されるを軸継手7を有する。この撓み軸7aは、後述するように、内ロール2の駆動力を外セル軸11に伝達する駆動力伝達部材として機能し、また、外セル1と内ロール2とを軸平行に回転させる平行保持部材として機能し、さらに、外セル1と内ロール2との軸方向の位置決めをする軸方向位置決め部材として機能する。
【0043】
軸6は軸受14に回転可能に支持されており、軸6の一端側(駆動側)にはモータ27が連結され、他端側(操作側)にはロータリジョイント28が設けられている。
【0044】
モータ27は成形ロール20を所定の回転速度で回転駆動させる駆動装置である。ロータリジョイント28は軸回転時においても連続的に成形ロール20への温調液16の流出入を可能とする継手である。
【0045】
成形ロール20全体の軸6を支持する軸受14、及び軸受箱39は、水平方向、すなわち、成形ロール21側に向けて押圧力を印加できる加圧装置26に設けられている。この加圧装置26により成形ロール20を成形ロール21に対して押し付ける方向に加圧する。加圧装置26としては、空気式、または油圧式シリンダが適用可能である。
[内ロールおよびゴム]
外セル1内に二重管構造で設けられた内ロール2は高剛性に造られており、軸6に溶接結合されている。軸6内にはロータリジョイントのパイプ13が挿入されており、また、軸6に多数の穴15が形成されており、パイプ13、穴15を介して温調液16が流れる構造となっている。温調液16は操作側のロータリジョイント28から流入し、パイプ13内を通り、駆動側軸の穴15を通り、内ロール2のゴム3と外セル1の隙間を流れ、操作側から流出する。
【0046】
また、運転時には本実施形態の成形ロール20は、外セル1が偏心調整可能な構成である。このため、図4(b)に示すように偏心させ、ニップと反対側のゴム3表面と外セル1との間の隙間19が拡大している。すわなち、ニップと反対側に成形ロール20が回ってくると外セル1の偏心量に応じてゴム3表面と外セルの隙間19が拡大して隙間19に温調液16が流れ込み、温調液16とセルが熱伝達する。本実施形態の成形ロール20はこれを一回転毎に繰り返すため、成形材料を冷却・加熱する能力が高い。なお、成形ロール20は、図4(a)に示すように、休止時の場合、概ね内ロール2と外セル1とは同じ軸芯上に位置させる。
【0047】
温調液16として水を使用した場合、水の比熱が大きいので加熱、冷却性能が高い。一方、温調液16としてオイルを使用した場合、比熱が水に比べて低いため(例えば0.5)、水を温調液として使用する場合に比べて流速を上げ、加熱、冷却性能を向上させることができる。
【0048】
ゴム3のバネ常数はゴム硬度、耐強度、厚さから計算し、決定する。またゴム3の外周は線圧(ニップの大きさ)に応じてクラウン形状に形成されている。すわなち、ゴム3は、その厚みが軸方向の両端部から中央部に向かうにつれて徐々に厚くなる形状に形成されている。
[外セル]
外セル1は内ロールより長く造られ、外セル1両端には中空形状の外セル軸11を有する。外セル軸11は軸継手7によって内ロール2の端面に連結されている。
【0049】
外セル1は薄肉に造られ、薄いシートを成形する用途に使用する。外セル1の内径は内ロールの外径とわずかに数mm程度大きく造られている。またゴム3の外周は線圧(ニップの大きさ)とロール面長、内ロールの剛性に応じたクラウン形状に形成されている。外セル1と内ロール2に被覆されたゴム3との隙間は数ミリ程度であり、通常の剛体冷却ロールよりは狭い。従って、本実施形態の成形ロール20の偏心量は数ミリ程度である。
【0050】
外セル1が薄肉金属で形成されていると、相手ロールに接触する幅が増し、シート成形のニップ線圧を面で受けることになる。また、ロール幅方向でも柔軟性が増すので薄いシートでも圧着ムラが出来にくく、その結果、両面ロールタッチの透明シートが得られる。
【0051】
本実施形態に成形ロール20も、内ロール2のバックアップで線圧を受けて、幅方向に均一な線圧が得られる。また線圧を2倍または1/2程度に変更してもゴムバックアップの効果でほぼ均一な線圧が得られる。ロール幅が大きい2m以上では線圧にもよるが、軸方向の中央部が高くなるようにゴム3の表面にクラウンをつけるのが好ましいが、本実施形態では、1m幅程度であるため、特にクラウンは必要ない。
[外セル軸]
外セル軸11の軸方向の両端部側には外セル軸11aが取り付けられている。外セル軸11と外セル軸11aとは一体的な構造であってもよい。外セル軸11aの外周には軸受36が設けられており、さらにこの軸受36を介して外セル軸11用の軸受箱37が設けられている。軸受箱37は、外セル偏心装置46のボルト42によって偏心可能に保持されている。
【0052】
図3に示すように、外セル軸11と外セル1は滑り軸受17により支持されている。滑り軸受17はゴムリング外周に摩擦係数の少ない樹脂層を巻いた構造を有し、外力が加わると回転、及びスライドする。また、外セル1が軸方向に抜けるのを防止するため外セル軸11の外セル1側にはストッパ12、18が設けられている。ストッパ18は、樹脂製で柔軟であるので、外セル1を傷つけない。つまり、外セル1と外セル軸11はボルトや溶接などの固定結合ではなく、自由結合によって互いに連結、拘束しあう構成となっている。
[外セル偏心装置]
外セル偏心装置46は、回転する外セル1、外セル軸11の位置決めをするとともにこれらに対して外部から偏心方向に押力を与えるための装置である。外セル偏心装置46は2列配置された軸受60によって軸6に支持されているとともに、外セル偏心装置46自体が回転しないように回り止め51によって軸受箱39に取り付けられている。本実施形態では回り止め51はボルトであり、このボルトにより外セル偏心装置46を軸受箱39に固定している。
【0053】
外セル偏心装置46は図5に示すように複数のボルト42を有しており、ボルト42の先端部分を軸受箱37に当接させている。図5に示す例では、軸受箱37は外周に配置された外セル偏心装置46とボルト42とによってガイドされている。本実施形態では外セル偏心装置46には貫通したタップ穴が形成されており、ボルト42がこれらタップ穴にねじ込まれている。ボルト42は、その軸方向が相手方となる成形ロール21に対して延びた方向となるように配置されている。すなわち、ボルト42をねじ込む、あるいは緩めることで、相手方となる成形ロール21に対して外セル1を近接させる方向、あるいは離間させる方向にスライドできるようにするためである。また、外セル偏心装置46は、偏心位置決め後のボルト42の緩みを防止するための緩み止め用のナット43を有する。
【0054】
このように、外セル偏心装置46は、ボルト42をねじ込む、あるいは緩めることで、軸受箱37を偏心方向にスライドさせ、これにより外セル1を偏心方向にスライドさせることができるようにしたものである。偏心量eは、通常、図4(b)に示すように、外セル1内面と、内ロール2の外面に設けられたゴム3とが接触する位置に調整される。偏心量eは過大調整されるのを防止するため、図5に示すように軸受箱37と外セル偏心装置46の偏心方向の隙間が制限されている。すなわち、偏心量eを過大に調整しようとしても、軸受箱37がストッパ47として機能する外セル偏心装置46に突き当たり、それ以上は偏心量eを大きくならないようにしている。
[位置ゲージ]
外セル軸11と内ロールの軸6との偏心量eの計測は図5に示す位置ゲージ30により行われる。位置ゲージ30は成形ロールの操作側と駆動側に各々設けられており、外セル偏心装置46に取り付けられている。位置ゲージ30としてはマイクロゲージが適用可能である。なお、成形運転時には位置ゲージ30は後退させて振動などで破損しないようにしている。
[軸継手]
軸継手7は、ロールの片側に6本ずつ設けられた、合計12本の、丸ロッド形状の鋼で形成された撓み軸7aで構成されている。各撓み軸7aは、偏心がない時には、撓み軸7aの長手方向が軸6の軸方向と平行となるように配置されている。また、片側6本の撓み軸7aは、軸6の周りに等間隔で配置されている。撓み軸7aは両端にネジ部を有し、内ロール2と外セル軸11とを連結している。
【0055】
また、撓み軸7aは第1の軸部7a1と、第1の軸部7a1よりも軸径が細い第2の軸部7a2を有する。本実施形態では、撓み軸7aは、中央部分に第1の軸部7a1に有し、両端部に第2の軸部7a2を有する。撓み軸7aは細長いロッドなので横荷重がかかると数ミリ程度の弾性変形が可能である。また第1の軸部7a1よりも第2の軸部7a2を細くしていることで、撓み軸7aの、外セル軸11及び内ロール2の接合部分における弾性変形をより容易にしている。
【0056】
軸継手7を構成する撓み軸7aは、内ロール2の駆動力を外セル軸11に伝達する駆動力伝達部材としての機能を有する。すなわち、撓み軸7aは、内ロール2と外セル軸11とを機械的に連結しているため、内ロール2の駆動力を外セル軸11に伝達することができる。
【0057】
また、撓み軸7aは、外セル1と内ロール2とを軸平行に回転させる平行保持部材として機能する。すなわち、後述するように複数の撓み軸7aが平行リンクとして機能することで外セル1と内ロール2とを軸平行に移動させることができる。
【0058】
さらに、撓み軸7aは、外セル1と内ロール2との軸方向の位置決めをする軸方向位置決め部材として機能する。撓み軸7aは、内ロール2と外セル軸11と軸方向に向けて機械的に連結しているため、外セル1と内ロール2との軸方向の動きを規制している。
【0059】
次に、図6に撓み軸7aの偏心動作を示す。図6(a)は、荷重が印加されていない状態を示しており、図6(b)は、運転時、ボルト42で外セル軸11を偏心させ、撓み軸7aが平行リンク状に変形して偏心eが生じている状態を示す。
【0060】
撓み軸7aにロール軸芯に対して直交方向の偏心荷重Fを印加すると、撓み軸7aはその両端が固定支持されているので荷重Fに応じて撓みが生じる。このように外セル軸11は内ロール2の軸芯に対して偏心可能な構造になっている。撓み軸7aはどの方向にでも偏心するので、外セル1は、内ロール2が外セル軸11と一体で回転しても偏心した状態で回転可能である。また撓み軸7aは、成形ロール20の片側につき3本以上の複数本設けられていることで平行リンクのように変形し、外セル軸11の軸芯はロール軸6と常に平行を保つようになっている。
【0061】
上述したように撓み軸7aは、外セル1と内ロール2が偏心した状態で回転する。また軸継手7としての回転ネジリ剛性は、偏心撓み剛性と同じになるが、実用運転しても差し支えない強度を得ている。また撓み軸7aの平行リンク機構によって、外セル軸11と外セル1とは偏心状態で回転駆動でき、軸受36を回転中心として安定した回転を得ている。
【0062】
また偏心量eは、外セル偏心装置46によって調整できるため、運転停止時には偏心を開放してゴム3の表面と外セル1との接触を開放するとともに、撓み軸7aの曲げ応力も開放できる。この開放により、ゴム3の表面や薄肉金属外筒の外セル1の永久変形を防止できる。
【0063】
また撓み軸7aの平行リンク機構により外セル軸11は軸芯を内ロール2の軸6と常に平行となっているので、外セル1を簡易な滑り軸受17で自由支持とすることができる。
【0064】
さらに、撓み軸7aは、外セル軸11および外セル1を横方向に位置決めしているため、外セル軸11を支える軸受36にスラスト力はかからないようになっている。
【0065】
成形ロール20は、上述したようにシート成形運転時には外セル1の軸芯を内ロール2の軸芯に対して偏心させてロール駆動する。偏心させるための押力は外セル偏心装置46のボルト42をねじ込むことで行うが、この際撓み軸7aを弾性変形させる力が必要となる。そうすると、撓み軸7aを弾性変形させる力に対するこの反力が発生するが、この反力は外セル偏心装置46の軸受60で受ける。また反力による回転モーメントは、軸受60が配置された軸6によって受けることとなる。すなわち、軸6が撓み軸7aを弾性変形させる力に対する反力と、偏心した状態で回転する外セル1による回転モーメントとの双方を受けることとなる。このように本実施形態の成形ロール21の偏心により生じる力は成形ロール20の内部で収まることとなる。ただし、外セル偏心装置46の回り止めは、外セル偏心装置46を回り止め51によって軸受箱39に結合することでなされている。
[シール構造]
内ロール2の両端にはサポート63を介してシール5が設置されている。シール5が設けられており、外セル1の偏心eが生じてもシール面を保つ構造としている。シール5は、リップ長さを大きくして偏心量の増大に対応している。シール5としては、油圧シリンダピストンなどに使うUパッキンの使用が可能である。
【0066】
なお、本発明の成形ロールは、偏心量が小さく、ゴム3の外周速度と外セル1の内周速度との差を極小にして、外セル1の内ロール2に対するスリップを最小にしている。このため外セル1の直接的に駆動することが可能となる。
【0067】
本実施形態では、内ロール2に対する外セル1の偏心量は小さくなる構成としているが、偏心が過度に大きくなった場合、一時的な回転ズレが生じる。そこで、一時的な回転ズレを吸収すべく、安全対策として外セル1を滑り軸受17で支持している。なお、本実施形態の成形ロールにおいては、通常の運転では回転ズレは生じない。このためシール5の外側リップの周速度は偏心eに伴うすりこぎ運動のみであり、極低速度である。
【0068】
ここで温調液16の流れについて説明する。
【0069】
温調液16は操作側であるロータリジョイント28から流入し、パイプ13内を流れ、駆動側軸の穴15を通り、内ロール2のゴム3と外セル1内周の偏心した隙間19を流れた後、操作側から流出する。
【0070】
本実施形態の成形ロール20は偏心量eと隙間19を最小限にしているので、温調液16の流れ抵抗が大きくなる。このため、成形ロール20の温調液16は粘度が低いオイルを使用するのが好適である。また、偏心eが無い場合と、外セル1の内面に内ロール2が接触する偏心の場合とでは、同じ流量の温調液16の流れ抵抗圧力は2.5倍程度異なり、偏心eがある場合、温調液16は流れ易くなる。実際のロール運転では、温調液16を循環させるための出入りのフレキシブルホースの抵抗が大部分であり、成形ロール20の内部における流れ抵抗は問題ない。
[クラウン調整機能]
本ロールは、ゴム3に外セル1を押付け、偏心量を可変して外セル1の押付け力を調整できるので、ロール端近辺のクラウンを調整できる。
【0071】
図7に本ロールの外セルクラウン変形モデルを示す。
【0072】
図7(A)は、外セル偏心装置46が引き動作(相手方ロール22から成形ロール21を引き離す方向に外セル1に力を印加)を行った状態であり、凸形クラウン変形で外セル1の偏心を過度に与えた形状のモデル図である。外セル偏心装置46の引き動作により、外セル1にF1方向の力が印加される。本実施形態の成形ロール20は薄肉金属外筒なので外セル1が曲がるほどの偏心力はかけられない。よって、このような変形はロール端部に限定され、ロール中央部はフラットなままになる。
【0073】
図7(B)は、外セル1を内ロール2に接触させ、その接触圧力は最小限の状態を示す。この状態では線圧を相手ロール21に加えた時にロール幅方向に均一なニップが得られる。図7(B)よりも、さらに偏心量を小さくすると、薄肉金属外筒の外セル1のエッジ部の変形が大きくなってしまい実用的ではない。またロールの変形は、ロールの片側のみ調整することもでき、また図7(A)の状態と図7(B)を軸の片側ごとに混在して調整することもできる。従って本ロールでの実用上の形態は図7(B)の状態が主体であり、場合によっては図7(A)の状態としたり、あるいは図7(B)に図7(A)の状態を混在させてもよい。
[クサビ潤滑効果]
次に、外セル1と内ロール2の速度差及びクサビ潤滑効果について説明する。
【0074】
本実施形態の成形ロール20は外セル1と内ロール2とは、軸継手7によって一体的な構造となっているので、外セル1と内ロール2との角速度は同じであるが、半径が異なるため、周速度が異なる。成形ロール20の外セル1は、内ロール2の表面のゴム3との間に数ミリ程度の隙間19があり、内ロール2との速度差は1.5%程度である。
【0075】
本実施形態の成形ロール20はこのように外セル1と内ロール2の隙間が小さいことと、循環する温調液16の粘性とによって、偏心した隙間19に温調液16が入りクサビ潤滑効果を生じる。温調液16は成形ロール20の内部の隙間19を成形ロール20の軸芯方向に流れると共に、外セル1と内ロール2が共に回転するため偏心のクサビ部分に高速に流れ込む。温調液16のクサビ潤滑効果を示す潤滑液圧力分布のモデルを図8に示す。このクサビ潤滑効果は高速になればなるほど高くなる。
【0076】
外セル1の内面との内ロール2のゴム3の外周面での摩擦力のみによる潤滑方式の場合、高速回転域において潤滑に限界がある。しかし、本実施形態においては、表1の構造で速度25m/minで0.1mm厚さのPMMAシートを成形運転した場合、外セル1の内面との内ロール2のゴム3の外周面とは、隙間が小さいこととニップ線圧が少ないことでクサビ潤滑効果を生じるため、外セル1の内面は連続してスリップし、振動など発生せず問題なくロール回転を行うことができる。
【0077】
上述した構成の本実施形態の成形ロール20は、基本的にシール5以外に可動摺動部分がない。また、撓み軸7は疲労強度応力以下で造られること、高温の温調液16に曝される箇所は耐熱、耐食性の高いシール5とゴム被覆されていること、また、それ以外の部分は金属性で耐熱、耐圧に強く、シンプルな構造で耐久性がある。また、軸受類は全て温調液16から隔離された、乾燥した場所に設けられているため、耐久性、メンテナンス性がよい。
(第2の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態の構成より偏心量eを大きくすることができる例について説明する。なお、基本的な構成は、第1の実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略するとともに、同じ構成要素については第1の実施形態で用いた符号と同じ符号を用いて説明するものとする。
【0078】
偏心量eが増大すると撓み軸7aの撓み量を確保するため、撓み軸を長くする、または細くする必要があるが、そうすると回転剛性が低下してしまう。撓み軸7の回転剛性が減少すると内ロール2からの回転トルクが外セル1に伝達しにくくなり、部材の破損や振動などが発生しやすくなる。このため本実施形態では、以下の構造にしている。
1.シール5を端面シールとする。
2.軸継手7は、撓み軸7aと他の軸継手、例えばフランジ型軸継手等と組み合わせたものにする。
【0079】
図9に本実施形態の成形ロールの一部側断面図を示す。
【0080】
まず、本実施形態のシーリングについて詳細に説明する。
【0081】
第1の実施形態では、シール5は、内ロール2のサポート63と外セル1との間に設けられていた。
【0082】
これに対して、本実施形態の場合、外セル軸11の、外セル1の内周面に面する位置にシール5aが設けられているとともに、外セル軸11の、ロール端面に面する位置にも端面シール5bが設けられている。
【0083】
シール5aは、外セル軸11と外セル1の内周面との間をシールしており、その断面形状はU型である。このシール5aは、滑り軸受17よりも内側に配置されている。シール5aは、外セル1と内ロール2の偏心が比較的大きい場合でも温調液16が漏れることなくシールすることができる。また外セル1への回転駆動力は、滑り軸受17およびシール5aの摩擦力によって伝達できる。
【0084】
シール5bは、外セル軸11と内ロール2のロール端面との間をシールしており、その断面形状はシール5aと同様にU型である。端面シール5bは、偏心量eが比較的大きい場合のシーリングには好適である。外セル軸11は撓み軸7aのリンク作用で軸芯を軸6と平行に保ち、偏心状態で回転する。従って外セル軸11に設けた端面シール5bは、内ロール2のロール両側の端面シール部と近接した状態で偏心すりこぎ運動をする。
【0085】
なお、偏心量eをさらに大きくした構造の場合、外セル1の内面と内ロール2の表面の速度差がさらに大きくなるので滑り軸受は薄肉型のベアリングを設けてもよい。この場合であっても、シール5aの摩擦力により外セル1へと回転駆動力を伝達できるのでシートタッチ前のロール無負荷回転でもロールは一体に回転できる。
【0086】
また線圧が高い場合、外セル1の内面と内ロール2の表面との速度差があると外セル1に連続的なズレが生じることとなる。しかしながら、その速度差は半径の差であることから、本実施形態の構成においては、シール5a、シール5b、滑り軸受17の速度と、ロール速度との速度差は数%に過ぎないため、摩耗は少なく、耐久性に有利である。
【0087】
次に、本実施形態の軸継手の構成について詳細に説明する。
【0088】
本実施形態の軸継手7は、撓み軸7aのほか、フランジ型軸継手70を有する。撓み軸7aに加え、撓み軸7aが取り付けられた、内ロール2の端面及び外セル軸11との間をさらにフランジ型軸継手70で連結することで回転トルクを増大可能な構成としている。
【0089】
フランジ型軸継手70は、2枚のハブ70d1と、スペーサ70d2と、複数枚の鋼製薄板であるディスク70d3とからなる。スペーサ70d2は2枚のハブ70d1の間に配置され、複数枚のディスク70d3はハブ70d1とスペーサ70d2との間に配置されている。一方のハブ70d1は内ロール2の端面にネジ結合され、他方のハブ70d1は外セル軸11にネジ結合されている。ディスク70d3には円周方向に等間隔で貫通穴が形成されており、そのうちの一部の貫通穴はハブ70d1とのネジ結合に用いられ、他の貫通穴はスペーサ70d2とのネジ結合に用いられる。フランジ型軸継手70は、ハブ70d1とスペーサ70d2とが複数枚の板ばねであるディスク70d3を介して連結されていることで内ロール2に対して外セル1を偏心させることができる。また、2枚のハブ70d1は、スペーサ70d2、ディスク70d3、これらを互いに結合するネジにより一体化されているため、外セル1と内ロール2のトルク伝達を可能としている。
【0090】
一方、撓み軸7aは偏心量eを増大させつつ、平行リンクとしての機能を残すため、第1の実施形態の撓み軸に比べ、撓み軸を長くする、または細くしている。
(第3の実施形態)
本実施形態の成形ロールは、偏心カムを用いており、軸継手が第2の実施形態で説明したフランジ型軸継手のみで構成されており、さらに外セル軸と外セルはゴムリングで固定された構造となっている。以下に本実施形態の成形ロールについて説明するが、上述した各実施形態と同様の構成については、詳細な説明は省略するとともに、同じ構成要素については上述した各実施形態で用いた符号と同じ符号を用いて説明するものとする。
【0091】
図10に本実施形態の成形ロールの一部断面図を示す。
【0092】
図10に示すように、本実施形態の成形ロール20は、外セル偏心機構として偏心軸31を有する。また、本実施形態の成形ロール20は、軸継手7がフランジ型軸継手70のみで構成されている。
【0093】
偏心軸31は、二つの中空カムを組み合わせた二重偏心軸構造であり、インナー軸32とアウター軸33とからなる。
【0094】
第1のカムであるインナー軸32は偏心した中空カム軸構造であり、内ロール2の軸6に2つの軸受60で支持され、さらに軸受箱39に回り止め51で固定されている。2つの軸受60は軸6の軸方向に互いに離れて配置されている。
【0095】
インナー軸32には複数の切欠が形成されており、位置決めのボルト位置を替えることで回り止め位置を変更できる。また、インナー軸32は偏心量調整用のウオーム歯車74を有する。
【0096】
第2のカムであるアウター軸33は外面が偏心した中空カム軸構造であり、インナー軸32にブシュ75で支持され、さらに外面は2つの軸受65で外セル軸11を回転自在に支持している。2つの軸受65は外セル軸11の軸方向に離れた位置を支持するように配置されている。アウター軸33はウオームホイル73を有し、このウオームホイル73はインナー軸32のウオーム歯車74と噛み合っており、ウオームホイル73を回転させることで偏心量を調整する。インナー軸32のウオーム歯車74とアウター軸33のウオームホイル73は安全カバーにより覆われている。
【0097】
偏心軸31は上述したようにインナー軸32が回り止め51によって固定されているため、回転しない。また、この偏心軸31を構成するインナー軸32は軸6の軸方向に互いに離れて配置された2つの軸受60によって軸6に支持されている。また、外セル軸11はこのような偏心軸31のアウター軸33の2つの軸受65により支持されている。2つの軸受60は互いに離間して配置されているので軸6と外セル軸11とを軸平行な関係に維持することができる。よって、本実施形態では、第2の実施形態と異なり、平行リンクとして機能する撓み軸7aがなくともフランジ型軸継手70のみで外セル軸11を軸6に対して軸平行とすることができる。
【0098】
すなわち、互いに離間して配置された2つの軸受60が外セル1と内ロール2とを軸平行に回転させる平行保持部材としての機能を有する。なお、フランジ型軸継手70は、内ロール2の駆動力を外セル軸11に伝達する駆動力伝達部材と、外セル1と内ロール2との軸方向の位置決めをする軸方向位置決め部材としての機能を有する。
【0099】
本実施形態では、軸6に設けられた2つの軸受60は、インナー軸32を保持することで間接的に外セル軸11を平行に保持しているが、偏心軸31を有しない構成とする場合、軸受60が外セル軸11を直接保持するものであってもよい。また、本実施形態は、撓み軸7aを有しない構成例について説明したが、必要に応じて撓み軸7aを有する構成としてもよい。
【0100】
次に、図11を用いて本実施形態の成形ロールにおける偏心量の調整方法について説明する。
【0101】
アウター軸33のウオームホイル73を回転させることでインナー軸32とアウター軸33とを互いに回転させることで偏心量の調整が行われる。アウター軸33及びインナー軸32は外周に不図示の位置目盛を有しており、偏心位置と量がわかるようになっている。
【0102】
図11は、偏心量の変化をモデル化したモデル図である。
【0103】
図中、偏心量E0は軸6とアウター軸33との外周中心のずれであり、偏心量E1はインナー軸32の偏心量、偏心量E2はアウター軸33の偏心量である。
【0104】
アウター軸33とインナー軸32の偏心方向を同じ向きにしたとき(E0=E1+E2)のときに偏心E0は最大となる(図11(a))。これとは逆にアウター軸33とインナー軸32の偏心方向を反対向きにしたとき(E0=E1−E2)のときに偏心E0は最小となる(図11(b))。
【0105】
インナー軸32の回転位置を一定方向に固定したまま、アウター軸33の回転位置のみを変えると偏心量のみ調整することができる。アウター軸33の回転位置のみならずインナー軸32の回転位置も変えると、偏心方向と偏心量の双方を調整することができる。インナー軸32及びアウター軸33の各位置目盛によって偏心の方向と量が判るようになっている。
【0106】
本発明の成形ロールは、外セル1と外セル軸11の支持は固定結合であるが、外セル1の内径と内ロール2の外径との差がわずかであること、また上述した温調液16のクサビ効果によって外セル1と内ロール2とは連続的にスリップして運転できる。すなわち、本実施形態の成形ロール20も上述した各実施形態と同様に、薄肉金属外筒の外セル1を内ロール2と共に直接回転駆動させることができる。
【0107】
本発明の成形ロールで用いられている各軸受は全て温調液16から隔離され、乾燥した場所にあるとともに、スラスト荷重も発生しないので小型のものが適用可能である。
【0108】
なお、シール5が万一破損し、温調液16がリークしたときには、温調液16が軸受60、65を通じて、または別途穴空けした穴(不図示)より外部に流出させ、検知することができるような構造としてもよい。
(他の実施形態)
本実施形態は上述した構成のほか、以下の構成としてもよい。
【0109】
第3の実施形態では、偏心軸31をインナー軸32とアウター軸33とによる二重偏心軸構造とすることで偏心量を変更可能とした。しかし、偏心量を変更しないのであれば、二重の偏心軸構造とする必要はない。この場合、偏心軸31を一体的な構造とし、外セル1と内ロール2とが軽く接触する状態の構成としてもよい。構造がシンプルになり安価になる。
【0110】
また、第1及び第2の実施形態では外セル偏心装置46を軸6に設置した例を示したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、図12に示すように、外セル偏心装置46を内ロール2の軸受箱39のロール側に固定設置してもよい。この場合、軸受箱39に偏心反力のモーメント荷重がかかるので成形ロール20の軸受14は複列軸受または単列軸受を2個配置して曲げ荷重に耐える構造とするのが好ましい。
【0111】
また、本実施形態の成形ロールは、第1の実施形態で説明したように外セル1と外セル軸11との連結は滑り軸構造でも、通常の軸受でもよいし、Oリングなどのゴムリングによる固定支持方法でもよい。また外セル1を金属リングで挟み込むことで外セル軸11と一体構造としたものでもよい。
【0112】
クラウン調整の機能は外セル1の厚さが増すと外セル1への荷重がロール中央まで影響を及ぼし、また内ロール2のゴム3の被覆厚さが大きく、硬度が低いとその弾性が小さくなり、クラウン調整機能が増す。従って、外セル1の厚さが1〜2mm程度でクラウン調整の機能が増す成形ロールが得られる。

以上説明した本発明の成形ロールにより得られる効果は以下のとおりである。
1.スラスト荷重の発生を抑制できる
シール5が内ロール2の両側に対称に取り付けられているので、偏心機構へ熱媒液のスラスト荷重がかからない。
【0113】
また、撓み軸7aは、内ロール2及び外セル1の軸方向に向けて内ロール2と外セル1とを機械的に連結させている。このため、内ロール2と外セル1とは互いに軸方向には固定されているので、内ロール2と外セル1との間でのスラスト荷重が発生しない。
2.内ロールと外セルとを軸平行状態で偏心させ得る
軸継手7を、複数本の撓み軸7aからなる平行リンクとすることで内ロール2と外セル1とを軸平行状態で偏心させることができる。
3.外セルを駆動する成形ロールである
本発明の成形ロールは、外セル軸11と内ロール2が軸継手7で連結されている。このため、外セル軸11と内ロール2とは互いに偏心可能であるが同じ回転速度で回転することとなる。また、外セル1は、軸受(滑り軸受)、あるいはOリングなどによって外セル軸11に固定支持されているため、外セル1と外セル軸11とは同速度で回転駆動されることとなる。すなわち、本発明の成形ロール20は、内ロール2を回転駆動することで外セル1が同じ速度で回転する、換言すれば、成形ロール全体としては同じ速度で回転するものである。この点で、無負荷の状態では外セルは静止しており、負荷が加わった状態ではじめて外セルが回転する方式とは、基本的に構造が異なる。
4.高速運転が可能な成形ロールである
本発明の成形ロールは外セルを駆動する方式であるので高速化しても外セルに遅れが発生せず、または遅れが発生しにくい。このため、本発明の成形ロールは無負荷の状態では外セルは静止しており、負荷が加わった状態ではじめて外セルが回転する方式よりも高速運転ができる。
5.伝達可能な回転トルクの許容範囲の増大
本発明の成形ロールは、内ロール2と外セル1とが変形量の小さい撓み軸7aで機械的に連結されている。また、駆動力伝達部材のフランジ型軸継手も設置できる。このため、内ロール2と外セル1との間に滑りを生じることがないとともに、金属薄板で形成された蛇腹部材やゴム等の弾性部材に比べて大きなトルクを伝達することができる。
6.成形ロールとして、成形材料への冷却、加熱能力がある
本発明の成形ロールは、外セルと内ロールとの隙間、および偏心量eが数ミリ程度で小さいが熱媒液を必要量流せるので成形ロールとして冷却、加熱能力を有する。なお、本発明の成形ロールはシートの非巻き付きロール(タッチロール)に適用されるのでシート冷却熱は小さくても差し支えない。
7.部品の耐久性が高い
温調液のシールリップ部の速度は従来より桁違いに小さいため、摩耗が少なく、シール耐久性も高い。また軸受類は温調液にさらされることが無く、温調液から離れ、乾燥した場所に配置されている。また、軸受類はスラスト荷重を受けないので小型化できる。
8.線圧を変更してもほぼ均一な線圧を得ることができる
本発明の成形ロールはゴムによるバックアップがあるので、線圧を0.5倍〜2倍に変化させてもシート幅(ロール幅)方向にほぼ均一な線圧が得られる。
9.軽荷重ロール及び中荷重ロールを得ることができる
薄肉外セルを有する本発明の成形ロールは、主に線圧100N/cm程度の軽荷重ロールであるが、外セルの厚みを厚くし、各部材の強度を高めることで、300N/cm程度の線圧の中荷重ロールにも適用可能である。
10.クラウン調整が可能である
クラウン調整機能があるロールを得る。但し、薄肉外筒ロールではロール外筒が変形するほどの荷重が掛けられず、ロール端の荷重・線圧を調整する程度の機能であるが、中荷重ロールではクラウン調整できるロールを得る。
11.運転休止時における内ロールのゴムの変形及び外セルの変形を防ぐことができる
成形ロールの運転時には、外セルの内面と内ロールのゴム表面が接触して運転する場合(クラウン調整時やゴムクラウンが付いている場合など)がある。運転終了後、外セルの内面と内ロールのゴム表面とを接触させたまま、長時間運転を放置しておくとゴム面に永久歪が生じるおそれがある。本発明の成形ロールは偏心量を調整できるので運転休止時は偏心を戻し、外セルの内面と内ロールのゴム表面とを非接触の状態にして変形を防ぐことができる。
12.薄肉金属外セルの取り付けが容易である
外セルの厚みが薄い場合、外セルの両端に剛体フランジを溶接によって結合することは困難である。このため、薄肉金属製の外セルは剛体フランジにゴムなどによって簡易に自由結合で支持することとなる。本発明ロールでは、外セル軸の軸芯が内ロールの軸の軸芯に対して平行に移動するので、外セルを簡易な自由結合で支持することができる。
13.成形シートの表裏面のドロー調整ができるのでシート断面方向のせん断応力を減少または調整できる
成形ロール21と本発明の成形ロール20との速度差を個々に調整できるのでシート表裏の速度を調整できるので薄膜シートの走行方向のせん断応力を調整でき、シートの偏光、応力などの変化に敏感な光学用途シートを成形できる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の第1の実施形態の成形ロールを適用した一例であるフィルム成形機の構成図である。
【図2】図1に示す本発明の成形ロールのA−A線における断面図である。
【図3】本発明の成形ロールにおける外セル軸、軸継手、及び外セル偏心装置の構成を説明するための一部拡大図である。
【図4】本発明の成形ロールの負荷時と無負荷時におけるロール動作を説明する成形ロールの軸方向断面図である。
【図5】成形ロール20と軸受箱の関係を説明するための断面図である。
【図6】撓み軸の偏心動作を示す断面図である。
【図7】本発明のクラウン調整時の変形モデルである。
【図8】温調液のクサビ潤滑効果を示す潤滑液圧力分布のモデル図である。
【図9】本発明の第2の実施形態の成形ロールの、撓み軸及びフランジ型軸継手からなる軸継手部分の断面図である。
【図10】本発明の第3の実施形態の成形ロールの、インナー軸及びアウター軸からなる外セル偏心軸部分の断面図である。
【図11】外セル偏心軸の偏心量及び偏心方向を説明するための図である。
【図12】本発明の成形ロールの一例であり、外セル偏心装置を、内ロールの軸を軸支する軸受箱に設けた構成例を示した断面図である。
【符号の説明】
【0115】
1 外セル
2 内ロール
3 ゴム
4 溝
5、5a、5b シール
5b 端面シール
6 ロール軸
6 軸
7 軸継手
7a 撓み軸
7a1 第1の軸部
7a2 第2の軸部
11、11a 外セル軸
12 ストッパ
13 パイプ
14 軸受
15 穴
16 温調液
17 滑り軸受
19 隙間
20、21、22 成形ロール
24 Tダイ
25 シート
26 加圧装置
27 モータ
28 ロータリジョイント
30 位置ゲージ
31 偏心軸
32 インナー軸
33 アウター軸
36、60、65 軸受
37 軸受箱
39 軸受箱
42 ボルト
43 ナット
46 外セル偏心装置
47 ストッパ
63 サポート
70d2 スペーサ
70d3 ディスク
70d1 ハブ
70 フランジ型軸継手
73 ウオームホイル
74 ウオーム歯車
75 ブシュ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属薄膜で形成された外セル(1)と、前記外セル(1)内に二重管構造により設けられた内ロール(2)と、前記内ロール(2)を支持し、駆動伝達する軸(6)と、前記内ロール(2)を被覆するゴム(3)と、前記外セル(1)が前記内ロール(2)に対して偏心可能に設けられた薄膜成形ロールにおいて、
前記外セル(1)の両端部を支持する外セル軸(11)と、
前記内ロール(2)の駆動力を前記外セル軸(11)に伝達する駆動力伝達部材と、
前記外セル(1)と前記内ロール(2)とを軸平行に回転させる平行保持部材と、
前記外セル(1)と前記内ロール(2)との軸方向の位置決めをする軸方向位置決め部材と、を有することを特徴とする薄膜成形ロール。
【請求項2】
前記駆動力伝達部材、前記平行保持部材及び前記軸方向位置決め部材が、前記外セル軸(11)と、前記内ロール(2)の両端部の前記軸(6)とを連結する複数の金属製の棒材からなる撓み軸(7a)により構成されている請求項1に記載の薄膜成形ロール。
【請求項3】
前記撓み軸(7a)は、第1の軸部と、前記第1の軸部よりも軸径が細い第2の軸部とを有する、請求項1または2に記載の薄膜成形ロール。
【請求項4】
前記駆動力伝達部材及び前記軸方向位置決め部材が、2枚のハブ70(d1)と、前記各ハブ70(d1)の間に配置されたスペーサ(70d2)と、前記各ハブ70(d1)と前記スペーサ(70d2)との間に配置された複数枚の鋼製薄板のディスク(70d3)とを有するフランジ型軸継手(70)により構成されている請求項1ないし3のいずれか1項に記載の薄膜成形ロール。
【請求項5】
前記平行保持部材が、前記軸(6)に、前記軸(6)の軸方向に離間して配置されて前記外セル軸(11)を保持する複数の軸受(60)により構成されている請求項4に記載の薄膜成形ロール。
【請求項6】
前記外セル(1)は、前記外セル軸(11)に設けた滑り軸受(17)で支持されている、請求項1ないし5に記載の薄膜成形ロール。
【請求項7】
前記外セル(1)は、前記外セル軸(11)に設けたゴムリング(76)で支持されている、請求項1ないし5に記載の薄膜成形ロール。
【請求項8】
前記外セル(1)と前記内ロール(2)との間に温調液(16)を水密に保持するシール(5、5a、5b)を有する請求項1ないし7のいずれか1項に記載の薄膜成形ロール。
【請求項9】
前記シール(5)は前記外セル(1)の内周面と前記内ロール(2)の外周面との間に配置されている、請求項8に記載の薄膜成形ロール。
【請求項10】
前記シール(5a)は前記外セル(1)の内周面と前記外セル軸(11)との間に配置されており、前記シール(5b)は前記内ロール(2)の側端面と前記外セル軸(11)との間に配置されている請求項8に記載の薄膜成形ロール。
【請求項11】
前記外セル軸(11)と前記内ロール(2)の軸(6)との間に偏心カムが配置されている、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の薄膜成形ロール。
【請求項12】
前記偏心カムは、中空構造の第1のカム(32)と、中空構造の第2のカム(33)とを有する偏心軸(31)であり、前記第1のカム(32)は前記第1のカム(32)内を挿通する前記軸(6)に支持されており、前記第2のカム(33)は前記第2のカム(33)内に嵌め込まれた前記第1のカム(32)に支持されている、請求項11に記載の薄膜成形ロール。
【請求項13】
前記外セル軸(11)と前記軸(6)との偏心量を表示する位置ゲージ(30)を有する、請求項1ないし12のいずれか1項に記載の薄膜成形ロール。
【請求項14】
請求項1ないし12のいずれか1項に記載の薄膜成形ロールを備えた薄膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−190367(P2009−190367A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36081(P2008−36081)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】