説明

薄膜状試料観察用治具

【課題】薄膜状試料に張力を与えた時に発生するクラックについて、引張り率の変化やさらには温度依存に応じた挙動の詳細な観察を容易かつ簡単にできる薄膜試料観察用治具を提供する。
【解決手段】基板10の載置面10a上に載置された薄膜状試料40を固定する試料固定機構20と、基板10の載置面10a上に固定された薄膜状試料40に張力を付与する張力付与機構30を備え、張力付与機構30は、張力が付与された薄膜状試料40を加熱する加熱手段を含んで構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合成樹脂フィルムなどの薄膜状試料の引っ張り試験や温度試験に用いられる観察用治具に関し、特に引っ張り試験後のナノサイズの現象を走査プローブ顕微鏡により観察する際に使用するのに好適な薄膜状試料観察用治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂フィルムなどの薄膜状試料に張力を付与すると、ナノサイズの欠陥(クラック)が発生することがよく知られている(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。
例えばバリアフィルムを量産する際、ライン上で張力が試料に与えられクラックが発生する場合がある。バリアフィルムにクラックが発生すると、そのクラックから酸素や水蒸気が透過してしまい、バリア性の低下という問題が起こる。つまり、クラックについて、幅や深さ、さらには温度依存性による挙動比較など詳しく調べることは重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−121515号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】透明酸素バリアフィルムの引っ張り酸素透過度測定 日本工業大学 河田哲也 平成7年度卒業研究論文
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、バリアフィルムに発生したクラックについて、その幅や深さ、さらには温度依存性による挙動比較など詳しくは調べられていない。その原因として以下の2つのことが挙げられる。
まず一点目として、合成樹脂フィルムなどの薄膜に引っ張り力などの負荷条件を加えてその薄膜の変化などを観察するような場合、特に観察しようとする現象が極めて小さいものの場合には、SPM(走査型プローブ顕微鏡)などの汎用測定装置が使用されている。
しかしながら、このような汎用測定装置において、試料を配置し測定や観察などを行う測定部は狭い空間であって、この測定空間に観察対象である試料とともに、その試料に対する負荷を加える機構を組み入れることはできないものとなっている。
二点目として、引っ張り試験機により負荷条件を加えて実施し、その後、SPMに移して観察するという方法も考えられるが、一度引っ張り試験機から試料を取り出すときはリリースしなくてはならなく、そのリリースによりナノサイズの欠陥は回復し閉じてしまい観察できない。
このように引っ張った状態で発生したクラックの物性を観察することは非常に難しいという問題がある。
【0006】
本発明は、合成樹脂フィルムなどの薄膜状試料に張力を付与すると、ナノサイズの欠陥(クラック)が発生することがよく知られているが、そのクラックについて、詳しく調べることができないという問題を解決するためになされたものであり、引張り率の変化や、さらには温度依存に応じた挙動の詳細な観察が容易かつ簡単にできる走査プローブ顕微鏡に用いられる薄膜試料観察用治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、薄膜試料観察用治具であって、載置面を有する基板と、前記載置面上に載置された薄膜状試料を固定する固定手段と、前記基板に設けられ前記載置面上に固定された前記薄膜状試料に前記載置面側から離間する方向の押圧力を加えて前記薄膜状試料に張力を付与する張力付与手段と、前記張力が付与された薄膜状試料を加熱する加熱手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1記載の薄膜試料観察用治具において、前記固定手段は、前記載置面上に載置された薄膜状試料の端部を該端部の上面から複数個所で押える複数の押え部材と、前記複数の押え部材をそれぞれ前記基板に固定する複数の固定具とを備えることを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または2記載の薄膜試料観察用治具において、前記張力付与手段は、前記基板に設けられた筒状部材と、前記筒状部材に前記載置面から突出する方向及び該突出方向と反対の方向に移動可能に設けられ前記突出方向への突出量に応じて前記薄膜状試料に付与される張力を変化させる押圧部材とを備え、前記押圧部材は前記加熱手段を含むことを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明は、請求項3記載の薄膜試料観察用治具において、前記筒状部材に半径方向に貫通する雌ねじが形成され、前記張力付与手段は、前記雌ねじに螺合して前記押圧部材を前記筒状部材に固定する固定ねじを備えることを特徴とする。
請求項5の発明は、請求項4記載の薄膜試料観察用治具において、前記基板は、該基板10の長手方向の中間に位置する側面から前記筒状部材の雌ねじに螺合した固定ねじの頭部に達するように形成された固定ねじ操作用の切欠き部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の薄膜試料観察用治具によれば、薄膜状試料に張力を与えた時に発生するクラックについて、引張り率の変化やさらには温度依存に応じた挙動の詳細な観察が容易かつ簡単にできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】走査プローブ顕微鏡に用いられる本発明の薄膜状試料観察用治具を模式的に示した平面図である。
【図2】図1に示す薄膜状試料観察用治具の正面図である。
【図3】本実施の形態にかかる薄膜状試料観察用治具の動作説明図である。
【図4】本実施の形態にかかる薄膜状試料観察用治具に用いられる試料の張力付与機能を備えた加熱機構の説明用斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施の形態1)
本発明の走査プローブ顕微鏡に用いられる薄膜状試料観察用治具について、図1乃至図4を参照して説明する。
薄膜状試料観察用治具、図1及び図2に示すように、基板10、試料固定機構(特許請求の範囲に記載した固定手段に相当する)20、試料の加熱機能を有する張力付与機構(特許請求の範囲に記載した張力付与手段に相当する)30等を含んで構成される。
基板10は、厚さが20mmのアルミ板からなり、長さが100mm、幅が50mmの矩形状を呈している。基板1の一方の面を試料載置面10aとし、この基板10の長手方向の両端部寄りで、上記長手方向の両端縁から内側へ10mm離れた試料載置面1aのそれぞれの箇所には、一対の溝102が基板10の幅方向に延在して互いに平行に形成されている。各溝102は、直径5mm、深さ2mmの凹状の断面形状を呈している。
【0014】
試料固定機構20は、基板10の載置面10a上に載置された薄膜状試料40を固定するものである。この試料固定機構20は、図1及び図2に示すように、一対の押え部材202、一対の押え部材202を薄膜状試料40ごと載置面10a上に固定する複数の固定ねじ204(特許請求の範囲に記載した固定具に相当する)を備える。
一対の押え部材202は、載置面10a上に載置された薄膜状試料40の長手方向の両端部分を、これに対向するそれぞれの溝102に押し込むことで薄膜状試料40を載置面10a上に保持するものである。このために、押え部材202は、溝102の形状に対応させて、直径が5mm、長さが50mmのアルミ材から構成されている。そして、この各押え部材202の長手方向の両端部箇所には、固定ねじ204が挿通される穴202aが形成されている。また、各溝102の底部には、押え部材202のねじ挿通用の穴202aに対応して固定ねじ204が螺合されるねじ穴102aがそれぞれ形成されている。
したがって、薄膜状試料40は押え部材202を固定ねじ204により基板10に固定することで載置面10a上に固定される。
【0015】
試料の加熱機能を有する張力付与機構30は、載置面10a上に試料固定機構20で固定された薄膜状試料40に載置面10aから離間する方向の押圧力を加えることで薄膜状試料40に張力を付与するもので、基板10の中央箇所に設置されている。
張力付与機構30は、図1及び図2に示すように、筒状部材302と、円柱状の押圧部材304などを備える。
筒状部材302は、基板10の中央箇所に基板10の厚さ方向に貫通して設けられた、直径が20mm程度の穴106内に装着されている。また、筒状部材302内には、直径が15mmの円柱状の押圧部材304が基板10の厚さ方向に移動可能に係合されている。そして、載置面10aから突出する押圧部材304の突出量を変えることにより薄膜状試料40に付与される張力を変化させる。また、押圧部材304は、薄膜状試料40を加熱して温度依存に応じた挙動を観察するための加熱機能を有しており、この加熱は走査型プローブ顕微鏡のステージ上にセットされた段階でなされるように構成されている。
また、筒状部材302に半径方向に貫通する雌ねじ303が形成され、張力付与機構30は、雌ねじ303に螺合して押圧部材304を筒状部材302に固定する固定ねじ306を備え、この固定ねじ306を締め付けることで、押圧部材304を張力が調節された位置に固定する。また、基板10には、基板10の長手方向の中間に位置する側面から筒状部材302の雌ねじ303に螺合した固定ねじ306の頭部に達するように形成された切欠き部108が形成されている。この切欠き部108の幅は20mmである。
【0016】
次に、上記のように構成された薄膜状試料観察用治具を用いて薄膜状試料の引張り率の変化や、さらには温度依存に応じた挙動を観察する場合の動作について説明する。
この実施の形態で使用される薄膜状試料40としては、反射防止フィルムやバリアフィルムなどが挙げられるが、今回は厚さが12μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上にSiOxを100nm蒸着したバリアフィルムを用いた。
まず、図3(a)及び図4(a)に示すごとく、張力付与機構30の押圧部材304の上端面が薄膜状試料40と接触しないように、基板10の載置面10aと同一または載置面10aより下方に位置させて固定ねじ306で仮固定しておく。この状態で、SiOxの蒸着面を上にして薄膜状試料40を基板10の載置面10a上に載置する。その後、薄膜状試料40の長手方向の両端を粘着テープで載置面10aに貼り付け、仮止めする。次いで、各溝102と対向する薄膜状試料40の箇所に押え部材202を上方から押し当て、穴202aに挿入した固定ねじ204を基板10のねじ穴102aに螺合して締め付ける。これにより、図3(a)に示すように薄膜状試料40を載置面10a上に固定する。その際、薄膜状試料40はしわがない張った状態にする。
【0017】
次に、固定ねじ306を緩めた後、図3(b)及び図4(b)に示すように、薄膜状試料40に所定の引っ張り率分が生じるまで押圧部材304をその上端面が載置面10aから突出するように移動させて、薄膜状試料40をその中央部分で載置面10aから離れる方向に押し上げる。しかる後、切欠き部108から差し込んだ工具により固定ねじ306を締め付け、押圧部材304を固定する。これにより、薄膜状試料40に張力が付与される。
次に、薄膜状試料40に張力を付与した状態の試料観察用治具を、図示しない走査型プローブ顕微鏡のステージ上に載せ、所定温度まで押圧部材304を加熱する。押圧部材304が所定温度まで上昇したならば、走査型プローブ顕微鏡のプローブをエンゲージしスキャンを始め、観察を行う。その際、張力を付与した薄膜状試料40を傷つけないためにコンタクトモードよりノンコンタクトモードによる測定の方が望ましい。
【0018】
このように本実施の形態による薄膜状試料観察用治具によれば、薄膜状試料に張力を与えた時に発生するクラックについて、引張り率の変化やさらには温度依存に応じた挙動の詳細な観察が容易かつ簡単にでき、実用性に優れた効果を奏することができる。
【0019】
なお、上述の実施の形態では、薄膜状試料に張力を付与し、温度制御のもとで薄膜状試料の観察を行ったが、本発明はこれに限らず、温度依存のみを観察する場合にもこの試料観察用治具は使用できる。この場合は、張力付与機構30の押圧部材304の上端面を基板10の載置面10aと一致する状態に揃え、張力を付与せずに測定することにより可能となる。また、薄膜状試料を加熱せずに張力を付与した状態での観察も勿論可能である。
また、上述の実施の形態では、走査プローブ顕微鏡を用いて引張り率の変化や温度依存に応じた挙動をナノサイズで観察する場合について説明したが、本発明はこれに限らず、大きいマクロサイズの場合は、実体顕微鏡や光学顕微鏡など汎用の顕微鏡で充分である。この場合の治具セット用のステージは充分広いため、本発明にかかる試料観察用治具の転用は容易である。
【符号の説明】
【0020】
10……基板、10a……載置面、108……切欠き部、20……試料固定機構、202……押え部材、204……固定ねじ、30……張力付与機構、302……筒状部材、304……押圧部材、306……固定ねじ、40……薄膜状試料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
載置面を有する基板と、
前記載置面上に載置された薄膜状試料を固定する固定手段と、
前記基板に設けられ前記載置面上に固定された前記薄膜状試料に前記載置面側から離間する方向の押圧力を加えて前記薄膜状試料に張力を付与する張力付与手段と、
前記張力が付与された薄膜状試料を加熱する加熱手段と、
を備えることを特徴とする薄膜試料観察用治具。
【請求項2】
前記固定手段は、前記載置面上に載置された薄膜状試料の端部を該端部の上面から複数個所で押える複数の押え部材と、前記複数の押え部材をそれぞれ前記基板に固定する複数の固定具とを備えることを特徴とする請求項1記載の薄膜試料観察用治具。
【請求項3】
前記張力付与手段は、前記基板に設けられた筒状部材と、前記筒状部材に前記載置面から突出する方向及び該突出方向と反対の方向に移動可能に設けられ前記突出方向への突出量に応じて前記薄膜状試料に付与される張力を変化させる押圧部材とを備え、前記押圧部材は前記加熱手段を含むことを特徴とする請求項1または2記載の薄膜試料観察用治具。
【請求項4】
前記筒状部材に半径方向に貫通する雌ねじが形成され、前記張力付与手段は、前記雌ねじに螺合して前記押圧部材を前記筒状部材に固定する固定ねじを備えることを特徴とする請求項3記載の薄膜試料観察用治具。
【請求項5】
前記基板は、該基板10の長手方向の中間に位置する側面から前記筒状部材の雌ねじに螺合した固定ねじの頭部に達するように形成された固定ねじ操作用の切欠き部を有することを特徴とする請求項4記載の薄膜試料観察用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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