説明

薄膜組成比検査方法及び製膜装置

【課題】基板が移動する系において当該基板上に蒸着された化合物の組成比を検査する。
【解決手段】基板2上に第IIIB族元素(Y)、第VIB族元素(Z)を蒸着する第1工程の製膜ゾーン11とこの製膜ゾーン11で形成された薄膜に第IB族元素(X)、第VIB族元素を蒸着する第2工程の製膜ゾーン12と、製膜ゾーン12を経た薄膜に第IIIB族元素、第VIB族元素を蒸着させる第3工程の製膜ゾーン13を有する製膜装置において、製膜ゾーン12にて基板2上に形成されたXYZ2薄膜化合物が化学量論的組成比となる製膜ゾーン12の位置に基づき、製膜ゾーン13の終点におけるXYZ2薄膜化合物の第IB族元素と第IIIB族元素の組成比を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化合物半導体膜の製膜技術に関する。
【背景技術】
【0002】
CuInSe2、CuInGaSe2、Cu(In,Ga)(S,Se)2、CuGaSe2等(以下、全てをまとめてCIGS系)は、光吸収率が極めて高いことから、従来のSi系の太陽電池と比較して発電層の厚さを約100分の1程度の数μmと薄くすることが可能である。これにより、材料コストを低く抑えることができるほか、製造時の投入エネルギーも節約できる。また、理論的な発電効率が25〜30%と高いことから、CIGS系太陽電池は「変換効率でSiと同等でしかも発電コストがSi系の半分」が可能となる非常に魅力的な電池である。CIGS太陽電池は目的の組成に制御して製膜すればSi並みの効率を得ることができるが、組成の制御ができないと極端に効率が低下する。また、組成を変えることで吸収波長域を制御できる性質があるため、組成を厚み方向に分布を形成することで吸収波長域を広げ、発電効率を高めることができる。
【0003】
CIGS系の製膜法としては、多源蒸着法、セレン化法、スパッタ法、スプレー法、電着法、スクリーン印刷法、レーザブレーション法、ハロゲン輸送法、ホットウォール法、MOCVD法(Metal−Organic Chemical Vapor Deposion:有機金属化学気相蒸着法)などの多くの製膜法が知られている。
【0004】
特に、多源蒸着法の一種である3段階法は高効率化を図ったCIGS太陽電池の製膜技術の中では最も優れた方法である(例えば、特許文献1,2参照)。この方法は、第1段階でIn、Ga、Seを基板に蒸着し、(In,Ga)2Se3を形成する。次に、第2段階で、基板温度を上昇して、Cu、Seを同時蒸着しCu過剰組成とする。この段階における膜は、Cu2Se−In2Se3擬2元系相図から、液相Cu2-xSeと固相CIGSの2相共存状態となり、Cu2-xSeがフラックスとして働き結晶粒の急激な大粒径化が起こる。Cu2-xSeは、低抵抗であり、太陽電池特性に悪影響を与えるため、第3段階で、In、Ga、Seをさらに同時蒸着してわずかに第IIIB族元素が過剰な組成となるように制御する。このようにして得られたCIGS薄膜はカルコパイライト型構造となり、大粒径で、従来の蒸着法に比べて結晶学的に高品質な薄膜結晶となる。また、Mo基板側に向かってGa濃度が直線的に増加し、それに伴い禁制帯幅が連続的に変化したグレーデッド・バンドギャップCu(In,Ga)Se2薄膜が形成される。この3段階法がインライン装置に適用された製膜装置が公知となっている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平10−513606号公報
【特許文献2】特開平8−2916号公報
【特許文献3】特表2007−527121号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】小長井誠編著,「薄膜太陽電池の基礎と応用」第5章Cu(In,Ga)Se2系薄膜太陽電池,オーム社,2001年1月,p.178−192
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CIGS薄膜の組成制御は太陽電池の特性に直接関係するため非常に重要な開発要素である。基板が移動しないバッチタイプの装置であればその制御は比較的容易に行うことが可能であるが、バッチタイプの装置はCIGS薄膜の大量生産に向かないという課題がある。
【0008】
一方、インライン装置のような基板が移動する装置システムでの製膜の組成制御(特許文献3)は非常に困難である。すなわち、インライン蒸着装置でCIGS薄膜を製膜する場合、製膜数の増加につれて蒸着源の金属量が減少する等、装置内での背圧が変化する。これに伴い、CIGS薄膜の組成は微妙に変化し、CIGS系太陽電池の特性に影響を及ぼす。そこで、定期的にCIGS薄膜の組成(第IB族元素(Cu)/第IIIB族元素(Ga,In)比)を調べて、その数値が規定の組成範囲に収まっているかどうかを検査する必要がある。現在では、製膜後のCIGS薄膜の組成をEPMA等の分析装置等で分析しているが、製膜中(In−situ)に、製膜後のCIGS薄膜の組成がわかるシステムは確立されていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、前記課題を解決するための薄膜組成比検査方法は、インライン方式により基板に対してXが第IB族元素、Yが第IIIB族元素、Zが第VIB族元素であるXYZ2化合物薄膜を形成させる製膜装置の薄膜組成比検査方法であって、基板上に第IIIB族元素、第VIB族元素を蒸着し、薄膜を形成する第1工程と、この第1工程で形成された薄膜に第IB族元素、第VIB族元素を蒸着し、XYZ2の化学量論的組成比に対して第IB族元素が過剰である組成の薄膜を形成する第2工程と、この第2工程で形成された薄膜に第IIIB族元素、第VIB族元素を蒸着し、第IIIB族元素がXYZ2の化学量論的組成比に対して過剰である組成の薄膜を形成する第3工程とを有し、前記第2工程の製膜ゾーンにある基板へ光照射し、該光照射の散乱光の強度を検出し、該散乱光の強度変化に基づいて、前記第3工程を終了した基板におけるXYZ2の組成比を算出することを特徴としている。
【0010】
また、上記薄膜組成検査方法において、前記第IB族元素はCuであり、前記第IIIB族元素はIn,Gaであり、第VIB族元素はSeである様態が挙げられる。
【0011】
また、上記薄膜組成検査方法において、前記第2工程の製膜ゾーンの位置と前記散乱光の強度の関数を作成し、この関数の2階の導関数に基づいて前記関数の変曲点を算出し、該変曲点の位置を前記基板におけるXYZ2の組成比が化学量論的組成比となる位置とし、該変曲点の位置に基づいて前記第3工程を終了した基板におけるXYZ2の組成比を算出するとよい。
【0012】
また、上記薄膜組成検査方法において、前記第2工程の製膜ゾーンの位置と前記散乱光の強度の関数を作成し、この関数の3階の導関数に基づいて前記関数の変曲点を算出し、該変曲点の位置を前記基板におけるXYZ2の組成比が化学量論的組成比となる位置とし、該変曲点の位置に基づいて前記第3工程を終了した基板におけるXYZ2の組成比を算出してもよい。
【0013】
また、上記課題を解決するための製膜装置は、インライン方式により基板に対してXが第IB族元素、Yが第IIIB族元素、Zが第VIB族元素であるXYZ2化合物薄膜を形成させる製膜装置であって、基板上に第IIIB族元素、第VIB族元素を蒸着し、薄膜を形成する第1工程の製膜ゾーンと、この第1工程の製膜ゾーンで形成された薄膜に第IB族元素、第VIB族元素を蒸着し、XYZ2の化学量論的組成比に対して第IB族元素が過剰である組成の薄膜を形成する第2工程の製膜ゾーンと、この第2工程の製膜ゾーンで形成された薄膜に第IIIB族元素、第VIB族元素を蒸着し、第IIIB族元素がXYZ2の化学量論的組成比に対して過剰である組成の薄膜を形成する第3工程の製膜ゾーンと、前記第2工程の製膜ゾーンにある基板へ光照射し、該光照射の散乱光の強度を検出し、該散乱光の強度変化に基づいて、前記基板に形成されたXYZ2化合物薄膜が化学量論的組成比となる位置を検出する位置検出手段と、前記位置検出手段により検出された位置に基づいて、前記第3工程を終了した基板におけるXYZ2化合物薄膜の組成比を算出する組成比算出手段とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
以上の発明によれば、基板が移動する製膜装置において、当該基板上に蒸着される化合物の組成を製膜中に把握することに貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】発明の実施形態に係る製膜装置の概略構成図である。
【図2】発明の実施形態に係る位置検出装置の概略構成図である。
【図3】第2段階の製膜ゾーンの最上流からの距離と散乱光の強度との関係を例示した特性図である。
【図4】第2段階の製膜ゾーンの最上流からの距離と散乱光の強度との関係、該関係の2階の導関数、及び前記関係の3階の導関数を示した特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に示された本発明の実施形態に係る製膜装置1は、3段階法の第1段階と第3段階の第IIIB族元素(In,Ga)、第VIB族元素(Se)の蒸着条件(セル温度、製膜ゾーンの幅、基板加熱温度、基板搬送速度等)及び、第2段階の第IB族元素(Cu)、第VIB族元素(Se)の蒸着条件を固定して基板2にCIGS薄膜を形成し、第2段階で製膜されたCIGS膜の第IB族元素(Cu)とIIIB族元素(IN,Ga)の組成比がCu(In,Ga)Se2の化学量論的組成比(第IB族元素(Cu)/IIIB族元素(IN,Ga)=1)となる位置を検出し、該検出結果に基づいて、第3段階終了後のCIGS薄膜の組成比の検査を行うものである。
【0017】
製膜装置1は真空下で基板2が供されるインライン式の反応室3を含む。基板2の供給ラインにはLL(ロードロック)室4、ゲートバルブ5、予備加熱室6、ゲートバルブ7が順次配置されている。基板2の搬出ラインにもゲートバルブ8、LL室9が順次配置されている。
【0018】
反応室3内には基板2を水平搬送させる搬送路10に沿って第1段階の製膜ゾーン11、第2段階の製膜ゾーン12、第3段階の製膜ゾーン13が上流側から下流側にかけて順次形成されている。
【0019】
第1段階の製膜ゾーン11(第1工程)では、搬送路10内を移動する基板2に対して第IIIB族元素、第VIB族元素を蒸着してこれらの元素成分からなる薄膜を形成する。第IIIB族元素であるGa、Inはそれぞれ蒸着源14a、15aから供給される。第VIB族元素であるSeは蒸着源16aから供給される。蒸着源14a〜16aには元素材料を蒸発させるセル(坩堝)の開口部を開閉させるセルシャッター141a〜161aが具備されている。蒸着源14a〜16aから供された各元素成分は開口部17を介して搬送路10内に導入される。
【0020】
第IIIB族元素(In,Ga)の蒸着量は第1段階と第3段階の合計であるため第3段階が終了後の第IB族元素(Cu)と第IIIB族元素(In,Ga)の組成比(第IB族元素/第IIIB族元素)は第2段階の製膜条件に依存する。
【0021】
第2段階の製膜ゾーン12(第2工程)では、Cu(第IB族元素)、Se(第VIB族元素)が蒸着される。第IB族元素(Cu)と第IIIB族元素(Ga,In)が化学量論的組成比(Cu/(Ga,In)=1)となる点は、粒径の変化によって光散乱特性が変化することを利用して検出することができる。
【0022】
第2段階の製膜ゾーン12では、製膜ゾーン11で形成された薄膜に対して第IB族元素(Cu)、第VIB族元素(Se)を蒸着し、XYZ2(ただし、Xが第IB族元素(Cu)、Yが第IIIB族(In,Ga)、Zが第VIB族元素(Se)である)の化学量論的組成比に対して第IB族元素が過剰である組成の薄膜を形成する。
【0023】
第IB族元素であるCuは蒸着源18aから供給される。第VIB族元素であるSeは蒸着源19aから供給される。蒸着源18a,19aは製膜ゾーン12に係る。蒸着源14a〜16aと同様に蒸着源18a,19aには元素材料を蒸発させるセル(坩堝)の開口部を開閉させるセルシャッター181a,191aが具備されている。蒸着源18a,19aから供された各元素成分は開口部20を介して搬送路10内に導入される。
【0024】
第3段階の製膜ゾーン13(第3工程)では、製膜ゾーン12で形成された薄膜に第IIIB族元素、第VIB族元素を蒸着し、第IIIB族元素が化学量論的組成比に対して過剰である組成の薄膜を形成する。第IIIB族元素であるGa、Inはそれぞれ蒸着源14b、15bから供給される。第VIB族元素であるSeは蒸着源16bから供給される。蒸着源14a〜16aと同様に蒸着源14b〜16bには元素材料を蒸発させるセル(坩堝)の開口部を開閉させるセルシャッター141b〜161bが具備されている。蒸着源14b〜16bから供された各元素成分は開口部21を介して搬送路10内に導入される。
【0025】
搬送路10内には基板2の搬送手段として図示省略の基板ホルダーが具備されている。また、搬送路10の製膜ゾーン11〜13に対応した開口部17,20,21はメインシャッター22〜24によって開閉自在となっている。さらに、搬送路10内には路内の雰囲気を加熱するための加熱手段としてヒータ25が基板2の搬送方向に沿って複数配置されている。
【0026】
製膜装置1の外部には図2に例示された位置検出装置26と組成比算出手段27とが具備される。
【0027】
位置検出装置26は製膜ゾーン12にある基板2上に形成されたXYZ2薄膜化合物の組成比が化学量論的組成比となる位置(化学量論点)を検出する。位置検出装置26は光源30とカメラ31と位置検出手段32とを備える。光源30は照射光が第2段階の製膜ゾーン12全体に当たるように設置される。
【0028】
光源30としては、例えば、赤色レーザー、緑色レーザー、青色レーザー、LED、蒸着源18a,19aのセルからの輻射光(外部から光源を与えない)等が挙げられる。光源30はその他上記の代替となるものであればかまわない。カメラ31は第2段階の製膜ゾーン12全体が写るように設置される。
【0029】
位置検出手段32はカメラ31によって得た画像からRGBのいずれかの色を抽出してラインプロファイルを実施する。光源30の光照射による基板2から散乱した光の強度の変化を算出する。そして、位置検出手段32はこの算出した光強度の変化に基づき製膜ゾーン12における基板2上のXYZ2薄膜の組成比が化学量論的組成比となる位置(化学量論点)を算出する。
【0030】
位置検出手段32は前記プロファイル機能のプログラム及び前記位置の算出を実行する位置計算プログラムをコンピュータ等の電子計算機にインストールすれば実現する。前記計算プログラムは後述の図3に例示された第2段階の製膜ゾーン12の左端(最上流)からの距離と製膜ゾーン12にある基板2からの散乱光の強度(強度の単位は任意)との関係に基づき構築できる。
【0031】
組成比算出手段27は、位置検出手段32により算出された化学量論点の情報に基づいて、第3段階の製膜ゾーン13での製膜終了時での第IB族元素(Cu)と第IIIB族元素(Ga,In)の組成比を算出する機能を有する。
【0032】
組成比算出手段27には、予め第2段階の第IB族元素(Cu)、第VIB族元素(Se)の蒸着条件(例えば、製膜ゾーン12の幅、基板2搬送速度等)、及び第3段階の第IIIB族元素(In,Ga)、第VIB族元素(Se)の蒸着条件(例えば、製膜ゾーン13の幅、基板2搬送速度等)が入力される。この入力された蒸着条件、及び位置検出手段32より入力される化学量論点の情報に基づいて、組成比算出手段27は、第3段階終了後の第IB族元素(Cu)と第IIIB族元素(Ga,In)の組成比を算出する。
【0033】
組成比算出手段27は前記組成比を算出する組成比計算プログラムをコンピュータ等の電子計算機にインストールすれば実現できる。前記組成比計算プログラムも前記位置計算プログラムと同様に図3に例示された製膜ゾーン12の左端(最上流)からの距離と製膜ゾーン12にある基板2からの散乱光の強度(強度の単位は任意)との関係に基づき構築できる。
【0034】
組成比算出手段27と位置検出手段32は単一の機能部に統合してもよい。すなわち、組成比算出手段27に位置検出手段32の機能を具備するようにしてもよい。
【0035】
製膜反応に供される基板2は、特に限定するものでなく、Mo層がコーティングされた板ガラスや金属箔等が例示される。
【0036】
図1を参照しながら製膜装置1の動作例について説明する。
【0037】
第1段階の製膜ゾーン11では第IIIB族元素(In,Ga)と第VIB元素(Se)が基板2に蒸着処理される。すなわち、搬送路10内の基板2は基板ホルダーによって製膜ゾーン11に誘導される。搬送路10の開口部17はメインシャッター22によって開口される。蒸着源14a〜16aからはそれぞれセルシャッター141a〜161aが開に設定されてそれぞれGa、In、Seが放出される。これらの成分は開口部17を介して搬送路10内を移動する基板2に供される。
【0038】
第2段階の製膜ゾーン12では第IB族元素(Cu)と第VIB族元素(Se)を蒸着する。製膜ゾーン11を介した基板2は基板ホルダーによって製膜ゾーン12に誘導される。搬送路10の開口部20はメインシャッター23によって開口される。蒸着源18aからはセルシャッター181aが開に設定されてCuが放出され、蒸着源19aからはセルシャッター191aが開に設定されてSeが放出される。これらの成分は開口部20を介して搬送路10内を移動する基板2に供されて蒸着される。
【0039】
製膜ゾーン12では必ず第IB族元素(Cu)と第IIIB族元素(Ga,In)との比(Cu/(Ga,In))が1を超えるような条件で製膜される。具体的には、第IB族元素(Cu)と第IIIB族元素(Ga,In)との比(Cu/(Ga,In))が1を超えるように、製膜ゾーンの幅、蒸着源のセル数、セルシャッターの開度、セル温度等の蒸着条件を設定することで製膜を制御する。
【0040】
また、製膜ゾーン12では図2に示したように基板2の蒸着表面に対して光源30から光が照射されると共に当該表面がカメラ31によって、照射された光の散乱光が撮影される。カメラ31で得られた画像は位置検出手段32にてRGBモードに変換され、ラインプロファイルが実行される。図3に、ラインプロファイルにより得られる特性図の例を示す。なお、図3に示すようなノイズの多いデータに関しては平滑化処理を行うとよい。平滑化処理は、既知の方法を用いればよく、例えば、平滑化スプライン関数や移動平均を用いる方法が挙げられる。ラインプロファイルにあたり、光源30の光をライン状でなく基板2全体に当てて、基板2の面全体でプロファイルを実施してもよい。
【0041】
図3の特性図において横軸(x軸)は第2段階の製膜ゾーン12の左端(最上流)からの距離を示し、縦軸は緑の散乱光の強度(強度の単位は任意)を示す。図示されたようにXYZ2薄膜化合物において、第IB族元素(Cu)と第IIIB族元素の組成比が化学量論的組成比(第IB族元素(Cu)/第IIIB族元素(Ga,In)=1)より第IB族元素(Cu)元素が多くなると散乱光の強度が強くなる。これを利用して基板2上で第IB族元素(Cu)元素と第IIIB族元素(Ga,In)の組成比が化学量論的組成比となる位置(化学量論点)を決定する。
【0042】
図4を参照して、具体的な化学量論点の算出方法を説明する。
【0043】
位置算出手段32は、カメラ31で得られた画像のラインプロファイルにより得られる特性図の平滑処理を行う。平滑化処理を行った曲線を図4の曲線Aで示す。次に、曲線Aを2階微分することにより曲線Bを得る。曲線Bのピーク値(図4ではx=20付近)が、曲線Aの変曲点(散乱光強度が変化する点)であり、この点が位置検出手段32により算出された製膜ゾーン12における化学量論点である。
【0044】
なお、曲線Aを3階微分した曲線(図4の曲線C)がx軸と交差する点を求めることでも、具体的な化学量論点を算出することができる。また、光散乱強度の変化量のしきい値を予め位置検出手段32に設定し、前記変化量がそのしきい値以上となった点が化学量論的組成比となる位置と定義することにより製膜ゾーン12における化学量論の位置を決定してもよい。
【0045】
このようにして製膜ゾーン12における化学量論点が決定できる。そして、この化学量論点の情報は、組成比算出手段27に入力される。組成比算出手段27は、製膜ゾーン12における化学量論点に基づいて、第3段階の製膜ゾーン13での製膜が終了する時点での第IB族元素と第IIIB族元素との比を算出する。
【0046】
第3段階の製膜ゾーン13では第IIIB族元素(In,Ga)と第VIB元素(Se)が基板2に蒸着処理される。すなわち、搬送路10内の基板2は基板ホルダーによって製膜ゾーン13に誘導される。搬送路10の開口部21はメインシャッター24によって開口される。蒸着源14b〜16bからはセルシャッター141b〜161bが開に設定されてGa、In、Seが放出される。これらの成分は開口部21を介して搬送路10内を移動する基板2に供される。
【0047】
以下に、本発明の実施形態に係る製膜装置1の製膜工程における組成比検査方法の実施例を示す。
【0048】
(実施例)
位置検出装置26に係る光源30には緑色レーザー(Global Laser製Fire Fly 532nm)を採用した。光源30から基板2に緑色レーザーを照射し、基板2からの散乱光に基づいて位置検出手段32が製膜ゾーン12における化学量論点を検出した。この算出には上記の位置算出プログラムを適用した。
【0049】
そして、この化学量論点の情報は、組成比算出手段27に入力され、組成比算出手段27は、入力された化学量論点の情報に基づき製膜ゾーン13の終了時での第IB族元素と第IIIB族元素の組成比を算出した。
【0050】
表1に組成比算出手段27によって算出された最終的な第IB族元素(Cu)/第IIIB族元素(Ga,In)比(第IB族元素(Cu)と第IIIB族元素(Ga,In)との比)の算出値と、分析装置(島津製作所製EPMA-8705)によって計測された第IB族元素(Cu)/第IIIB族元素(Ga,In)比の実測値を示す。再現性を検証するために前記算出値及び実測値についてそれぞれ複数回計算を行った。表1には各々6つの計算結果を示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示すように、組成比算出手段27による第IB族元素(Cu)/第IIIB族元素(Ga,In)比の算出値と分析計による第IB族元素(Cu)/第IIIB族元素(Ga,In)比の実測値とがほぼ一致することが確認された。また、算出値と実測値の開示は省略されているが、光源30に、赤色レーザー、青色レーザー、LED、蒸着源のセルからの輻射光(外部から光源を与えない)等を用いた場合においても、実施例と同様に、算出値と実測値がほぼ一致していることが確認されている。
【0053】
以上のように本発明の実施形態に係る製膜装置1によれば、基板が移動する系において当該基板上に蒸着される化合物の組成の検査を簡便な方法で行うことができる。また、第2段階の製膜工程において、第3段階終了後の薄膜組成がわかるので、例えば、検査結果が規定の組成範囲に収まっていない場合には、第3段階の蒸着条件を変更する等の対策をとることができる。
【符号の説明】
【0054】
1…製膜装置
2…基板
11,12,13…製膜ゾーン
26…位置検出装置
27…組成比算出手段
30…光源
31…カメラ
32…位置検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インライン方式により基板に対してXが第IB族元素、Yが第IIIB族元素、Zが第VIB族元素であるXYZ2化合物薄膜を形成させる製膜装置の薄膜組成比検査方法であって、
基板上に第IIIB族元素、第VIB族元素を蒸着し、薄膜を形成する第1工程と、
この第1工程で形成された薄膜に第IB族元素、第VIB族元素を蒸着し、XYZ2の化学量論的組成比に対して第IB族元素が過剰である組成の薄膜を形成する第2工程と、
この第2工程で形成された薄膜に第IIIB族元素、第VIB族元素を蒸着し、第IIIB族元素がXYZ2の化学量論的組成比に対して過剰である組成の薄膜を形成する第3工程と
を有し、
前記第2工程の製膜ゾーンにある基板へ光照射し、該光照射の散乱光の強度を検出し、該散乱光の強度変化に基づいて、前記第3工程を終了した基板におけるXYZ2の組成比を算出すること
を特徴とする薄膜組成比検査方法。
【請求項2】
前記第IB族元素はCuであり、前記第IIIB族元素はIn,Gaであり、第VIB族元素はSeであること
を特徴とする請求項1に記載の薄膜組成比検査方法。
【請求項3】
前記第2工程の製膜ゾーンの位置と前記散乱光の強度の関数を作成し、この関数の2階の導関数に基づいて前記関数の変曲点を算出し、該変曲点の位置を前記基板におけるXYZ2の組成比が化学量論的組成比となる位置とし、該変曲点の位置に基づいて前記第3工程を終了した基板におけるXYZ2の組成比を算出すること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の薄膜組成比検査方法。
【請求項4】
前記第2工程の製膜ゾーンの位置と前記散乱光の強度の関数を作成し、この関数の3階の導関数に基づいて前記関数の変曲点を算出し、該変曲点の位置を前記基板におけるXYZ2の組成比が化学量論的組成比となる位置とし、該変曲点の位置に基づいて前記第3工程を終了した基板におけるXYZ2の組成比を算出すること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の薄膜組成比検査方法。
【請求項5】
インライン方式により基板に対してXが第IB族元素、Yが第IIIB族元素、Zが第VIB族元素であるXYZ2化合物薄膜を形成させる製膜装置であって、
基板上に第IIIB族元素、第VIB族元素を蒸着し、薄膜を形成する第1工程の製膜ゾーンと、
この第1工程の製膜ゾーンで形成された薄膜に第IB族元素、第VIB族元素を蒸着し、XYZ2の化学量論的組成比に対して第IB族元素が過剰である組成の薄膜を形成する第2工程の製膜ゾーンと、
この第2工程の製膜ゾーンで形成された薄膜に第IIIB族元素、第VIB族元素を蒸着し、第IIIB族元素がXYZ2の化学量論的組成比に対して過剰である組成の薄膜を形成する第3工程の製膜ゾーンと、
前記第2工程の製膜ゾーンにある基板へ光照射し、該光照射の散乱光の強度を検出し、該散乱光の強度変化に基づいて、前記基板に形成されたXYZ2化合物薄膜が化学量論的組成比となる位置を検出する位置検出手段と、
前記位置検出手段により検出された位置に基づいて、前記第3工程を終了した基板におけるXYZ2化合物薄膜の組成比を算出する組成比算出手段と
を備えたこと
を特徴とする製膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−253165(P2012−253165A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123893(P2011−123893)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】