薄膜製造における改善
均一に分散したカーボンナノチューブを含む薄膜を製造する方法。この方法は、分子半導体を適応させて可溶性にする工程、分子半導体を適応させて高度の分子秩序及び隣接分子間フロンティア軌道重複の形成を容易にする工程、カーボンナノチューブを適応させて可溶性にする工程、可溶性カーボンナノチューブと可溶性分子半導体を溶媒中で組み合わせて溶液を形成する工程、および、溶液から薄膜を製造する工程を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体を使用する電子デバイスのための薄膜の製造における改善に関する。具体的には、本発明は、均一に分散されたカーボンナノチューブを有する有機半導体の薄膜、及びそのような薄膜を組み込んだデバイスを製造する改善された方法に関する。
【0002】
本願において、カーボンナノチューブ(CNT)とは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、又は双方の混合物を意味することに注意すべきである。更に、カーボンナノチューブは幾つかの異なる方法(例えば、化学気相成長法(CVD)、アーク放電、及びレーザアブレーション)によって合成されてよいので、本願はカーボンナノチューブ製造の特定の方法に限定されないことに注意すべきである。
【背景技術】
【0003】
カーボンナノチューブ製造の分野では、非常に多くの研究及び開発が行われてきた。本願の出願人は、以前に、カーボンナノチューブ製造に関する特許出願を行った。1つのそのような出願(PCT/GB02/003438(WO03/011755))は、低温でのカーボンナノチューブの製造に関し、低コストでの可撓性プラスチック上へのカーボンナノチューブの析出を可能にした。
【0004】
有機半導体は、スピン塗布又は印刷手法を使用して室温で大面積薄膜に加工することができる。有機半導体に基づく電子デバイスの開発は近年急速に進歩し、有機発光ダイオード(OLED)の分野ほど進歩した分野はない。OLEDは隙間産業的応用として市場に現れたが、これらのデバイスの潜在能力は、特に、大面積ディスプレイの分野で発揮されていない。
【0005】
更に、有機太陽電池は、電力変換効率及びデバイス耐久性における顕著な改善なくして、太陽からエネルギーを収穫する経済的に実現可能な道としての潜在能力を実現し始めることすらできない。通常のシリコン太陽電池は、高い効率とデバイス耐久性を示すが、製造コストが法外に高い。クリーンで低コストのエネルギー解決法に対する切迫した世界的必要性の見地から、太陽電池は有機半導体の最も重要な潜在的応用の1つである。
【0006】
有機半導体材料及びデバイスについて、多大な研究及び開発が行われてきた。有機半導体は、分子量に従って大きく次のように分類できる。
【0007】
(i)共役ポリマーは、10,000原子質量単位(amu)を超える分子量を有し、スピン塗布又は印刷手法を使用して溶液から析出してよい。
【0008】
(ii)オリゴマーを含む共役小分子は、数千amuより小さい分子量を有し、通常、真空蒸発によって析出する。小分子有機半導体は、一般的に、分子半導体と呼ばれる。真空蒸発を使用して析出した分子半導体は、通常、溶液から加工できない。通常の有機溶媒中では溶解度が低いからである。
【0009】
薄膜の製作に使用される溶液を製造するため、カーボンナノチューブとポリマー半導体とを組み合わせることは公知である。しかし、この方法は幾つかの欠点を有する。例えば、カーボンナノチューブは、通常、ポリマー半導体の溶液中で安定な分散体を形成しない。即ち、カーボンナノチューブは溶液中で長い時間にわたっては保持されず、沈殿する傾向がある。結果として、溶液は、カーボンナノチューブを再分散するため、薄膜析出の直
前に超音波でかき混ぜなければならない。膜へ加工する直前に複合体を超音波でかき混ぜることは、現在の印刷技術と両立せず、製造コストを上げ、製造の観点から非実用的である。かき混ぜ加工は、更に、有機半導体を損傷する可能性がある。限定された数の特定ポリマー構造のみが、溶液中でカーボンナノチューブを安定化させることが知られており、したがって潜在的応用の範囲が限定される。更に、半導体ポリマーにおける可溶化官能基は、しばしば、最密充填分子配列の形成を妨げる。これは電荷キャリヤの移動度を低減する。
【0010】
通常は真空蒸発によって析出した分子半導体を溶液中に置くことは、溶解度が低いために困難であることが広く知られている。しかし、分子半導体を可溶化側基で官能基化することによって、分子半導体を含む溶液を製造できることが示された。こうして、有機太陽電池で使用される有機半導体膜を析出させるため、この溶液を使用することができる。しかし、そのようなデバイスの性能は、非常に乏しいことが報告されている。
【0011】
更に、カーボンナノチューブの外面に吸着された小量の可溶性分子半導体を使用することが公知である。これらの実験は、特定の共役芳香族化合物とカーボンナノチューブ外面との相互作用の研究、及びこの方法を使用してカーボンナノチューブの溶解度を向上させることへ向けられている。通常、生じた乾燥化合物について特定の実験を実行する前には、化合物は処理及び乾燥される。しかし、溶液も、官能基化されたカーボンナノチューブから生じた乾燥化合物も、薄膜有機電子デバイスの製造に関連した製造加工に適していない。
【0012】
更に、有機半導体物質又は特定の金属で空隙を充填することによって、カーボンナノチューブの内部空隙を官能基化することも公知である。カーボンナノチューブを通常の溶媒中で可溶化するため、内部空隙を充填することは公知でない。内部空隙を充填することは、カーボンナノチューブの光及び/又は電子特性を改良する手段である。これらの実験は基礎科学研究の目的で実行された。更なる加工なしでは、生じた化合物は、電子デバイスの作成に関連する製造加工に適さない。
【0013】
更に、薄膜有機半導体層を使用したデバイス、例えば、有機太陽電池(光電変換デバイス)を製造することが公知である。もし有機太陽電池が日光からエネルギーを得る商業的に実現可能な手段であるとすれば、有機太陽電池は効率的で、耐久性があり、低コストでなければならない。
【0014】
ポリマー半導体を使用する有機太陽電池は、低コストの溶液処理手法、例えば、インクジェット印刷、スピン塗布、ドクターブレード、又はスクリーン印刷を使用して製造することができる。しかし、大部分のポリマー半導体は、2〜3eVの光バンドギャップを有する。太陽電池応用の場合、これはデバイス効率を限定する。なぜなら、太陽スペクトルの大部分は得られないからである。分子半導体のバンドギャップ(1.4〜3.2eV)は、太陽スペクトルの利用に貢献しない。しかし、これは、通常、真空蒸着法を必要とする。真空蒸着法は、太陽電池を製造するとき、ポリマー類似物よりも非常にコストがかかる。一方では、ポリマー半導体は、典型的に、分子半導体よりも物理的及び化学的劣化を受けやすい。もし有機太陽電池が、クリーンな低コストエネルギー解決法として潜在能力を発揮するのであれば、これらのデバイスの電力効率及び耐久性は、溶液処理のコスト的利点を維持しながら改善されなければならない。
【0015】
大部分の有機半導体は、低い電荷キャリヤ移動度を有する。これは、この種の半導体を利用するデバイスの効率を決定するときの限定因子である。電荷が分子間を移動する容易度は、隣接分子のフロンティア軌道、即ち、最高被占分子軌道(HOMO)及び最低被占分子軌道(LUMO)間の重複の程度によって決定され、したがって固体内の分子配列の
関数である。したがって、分子固体内の電荷キャリヤ移動度は、高度に秩序づけられた固体で最高である。しかし、デバイスを製造する費用効率の良い方法(例えば、印刷及びスピン塗布)は、通常、結晶格子の形成に貢献しない。印刷及びスピン塗布手法を使用して作製された有機半導体は、非晶状態と酷似している。結果として、電荷キャリヤ移動度は低く(10−6cm2V−1s−1〜10−3cm2V−1s−1)、主としてデバイス直列抵抗へ寄与する。
【0016】
弱い分子間相互作用の更なる結果は、有機半導体内の限定された励起子拡散長である。これは有機太陽電池内の吸収層の厚さを限定し、それによって光密度及び電力変換効率を限定する。ポリマー半導体内の励起子拡散長は、典型的には、分子半導体におけるよりも著しく低い。
【0017】
ワング(Wang)らによる最近の研究(材料科学及びエンジニアリング、2005年、296〜301ページ(Materials Science and Engineering 2005 pp.296−301))において、カーボンナノチューブと分子半導体の複合体の製造が説明された。この研究は、光誘発電荷移動を容易にするため、カーボンナノチューブと染料分子との間の界面を改善することを目的とする。更に、アルキル鎖で官能基化されることによって、分子半導体が可溶化されることが示される。しかし、製造された膜は1ミクロンの厚さにすぎない。即ち、「キャスト塗布」される。更に、半導電性マトリックス内の分子秩序も、電子構造も取り上げられておらず、電子デバイスでの使用には適しない膜に帰着する。
【0018】
更に、周囲の水分及び酸素の有害効果から有機デバイスを保護することに関連する多くの問題に対するエンジニアリング解決法は、現在確立されている。しかし、これらのデバイスにおける乏しい熱管理は、重大な問題として残っている。特に、長期間の極端な温度に耐えねばならない太陽電池の応用についてそうである。電気的(ジュール熱)及び光学的に生成される熱は、有機層を熱処理して相互に拡散させ、界面接着の損失を含む形態構造変化を受けさせる。製造段階で被制御形態構造変化を誘発する熱処理は、幾つかのデバイス(例えば、二重膜ヘテロ接合太陽電池)の性能を向上させるが、最終的に熱はデバイスの寿命に有害である。ジュール熱を最小に保つため、デバイスの直列抵抗が最小にされなければならない。光学熱は、赤外線光子が効率的に得られない太陽電池デバイスで、特に問題となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、前述した問題の幾つか又は全てを克服又は少なくとも軽減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
1つの態様において、本発明は、均一に分散したカーボンナノチューブを含む薄膜を製造する方法を提供する。この方法は、分子半導体を適応させて可溶性にする工程、該分子半導体を適応させて高度の分子秩序及び隣接分子間フロンティア軌道重複の形成を容易にする工程、カーボンナノチューブを適応させて可溶性にする工程、該可溶性カーボンナノチューブと該可溶性分子半導体を溶媒中で組み合わせて溶液を形成する工程、該溶液から薄膜を製造する工程を含む。
【0021】
本発明の1つの態様において、カーボンナノチューブ複合体は、分子半導体の可溶性誘導体のみを使用して薄膜へ調製される。この可溶性誘導体は、通常、真空蒸着法を使用して析出するタイプである。これらの物質を通常の有機溶媒中で可溶化するため、共役されたコアが可溶化部位によって周辺又は非周辺位置で官能基化される。大部分の半導電性ポ
リマーとは異なり、これらのタイプの有機半導体は、溶液から非晶基板、例えば、ガラスの上に加工されるとき、高度の分子秩序(即ち、半結晶状態)を示すことができる。可溶化官能基の位置及び性質を注意深く選択することによって、隣接分子のフロンティア分子軌道間で最大重複を有する分子コンフィギュレーションを選択し、電荷キャリヤ移動度及び励起子拡散長を最大化することができる。官能基化は、更に、分子半導体の電子構造を特定の応用のために調整する万能手段である。カーボンナノチューブは、可溶性分子半導体との非共有結合相互作用、適切な溶媒、又は可溶化部位を使用する直接化学官能基化によって、溶液中で安定化させることができる。溶液中でのカーボンナノチューブ安定化の方法は、特定の方法に限定されない。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、有機半導体技術の顕著な進歩を代表し、改善された安定性及びデバイス効率を介してデバイス性能を良好にする。更に具体的には、本発明は、有機太陽電池の商業的利用の将来性を大きくする。即ち、太陽電池は、高い効率性、良好な動作安定性、及び大面積析出能力を提供する。
【0023】
カーボンナノチューブと分子半導体の複合体は、薄膜に加工されるとき、有機電子デバイスの中の機能材料として巨大な潜在能力を有する。これらの物質は、次のものを提供する。
【0024】
i.有機電子デバイス内の改善された熱管理。これはCNTの高い熱伝達度によるもので、デバイスの寿命を延長する。
ii.効率的な電荷キャリヤ注入/抽出に起因するデバイス効率の向上。
iii.デバイス直列抵抗の低減に起因するデバイス効率の向上。
iv.太陽電池における光捕捉の向上。これはカーボンナノチューブの光を散乱する性癖による。
v.分子半導体及びカーボンナノチューブの両者の電子及び光学特性を調整する能力に起因する万能性。これは潜在的応用を最大にする。
vi.可撓性低コスト基板と既存の低コスト大面積溶液処理技術との両立性。
本特許出願で説明されるように、分子半導体を使用することの更なる利点は、次のとおりである。
【0025】
(a)適切に官能基化された分子半導体は、高度の分子秩序を有する薄膜を形成するように加工することができる。分子秩序が望ましい理由は、それが電荷キャリヤ移動度及び励起子拡散長を最大化し、デバイス効率を向上させ、最終的にはデバイス寿命を向上させるからである。
【0026】
(b)分子半導体は、典型的に、半導体ポリマーよりも、化学的及び熱的に安定であって、デバイスの寿命を延長する。
【0027】
(c)容易に入手可能な分子半導体は、バンドギャップの範囲が大きく、この範囲は適切な官能基を使用して調整することができる。
【0028】
添付の図面を参照して、本発明の具体的実施形態を、単なる例として今から説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
第1の実施形態
カーボンナノチューブと分子半導体物質の複合体を組み込んだ薄膜デバイスを製造するためには、幾つかの段階が必要である。即ち、(i)カーボンナノチューブ及び分子半導体の安定な複合体溶液を調製する段階、(ii)複合体溶液を加工して、カーボンナノチ
ューブが均一に分散された薄膜を形成する段階、(iii)カーボンナノチューブ・分子半導体薄膜を利用して電子デバイスを製造する段階である。
【0030】
第1の段階は、公知のカーボンナノチューブ成長法を使用して、カーボンナノチューブ物質を成長させることである。前述したように、カーボンナノチューブは幾つかの異なる方法によって合成されてよい。そのような方法には、化学気相成長法(CVD)、アーク放電法、及びレーザアブレーション法が含まれる。この実施形態において、カーボンナノチューブは、当技術分野で周知の高温CVD法を使用して成長させられる。
【0031】
生じたカーボンナノチューブは束ねられている。したがって、この状態から解放する必要がある。カーボンナノチューブの安定な濃縮分散液を製造するため、この実施形態において、カーボンナノチューブは酸処理などで酸化され、カーボンナノチューブの外面に極性基が作り出される。極性基の中にはカルボン酸部位が含まれる。この方法は酸官能基化と呼ばれ、カーボンナノチューブを水に可溶化する。即ち、カーボンナノチューブは可溶性となるように適応、すなわち官能基化される。
【0032】
安定なカーボンナノチューブ分散液の調製は、これから説明するように、ナノ複合体薄膜製造の秘訣である。可溶化部位は、次の少なくとも1つを有することが好ましい。
【0033】
(i)電子官能性。
(ii)低い表面密度。これは半導体マトリックスからカーボンナノチューブを隔離しないためである。
(iii)適切な寸法。これはカーボンナノチューブと半導体マトリックスとの間の電荷キャリヤの流れを著しく阻害しないためである(即ち、<1nmの長さ)。
【0034】
この実施形態において、10nmの典型的な直径を有する多層カーボンナノチューブが、硫酸と硝酸の比が3:1の濃縮混合物の中へ入れられる。次に、混合物は50℃の一定温度へ加熱され、超音波を使用して6時間かき混ぜられる。この処理は、官能基を含む極性酸素をカーボンナノチューブの外面へ導入し、カーボンナノチューブを水に可溶化し、カーボンナノチューブの作業機能を増大させる。カーボンナノチューブは、更に、この手順によって短く切り刻まれる。
【0035】
濃縮された酸からカーボンナノチューブを分離するため、溶液は脱イオン水で希釈される。溶液の非常に低いpHによって、酸官能基化カーボンナノチューブは24時間の間沈殿し、酸の90%がデカントされる。残りの溶液及びカーボンナノチューブは、更に、脱イオン水を使用して希釈され、0.1nmポリカーボネート(又はPTFE)濾過器を使用して濾過され、洗液がpH中性になるまで脱イオン水で洗われる。次に、カーボンナノチューブで被覆された濾過紙が小量の脱イオン水の中に浸される。そのとき、カーボンナノチューブは自然に溶液の中へ分散する。結果として生じる水中の安定なカーボンナノチューブの分散液は遠心分離機にかけられ、残留微粒子混濁物が溶液から除去される。
【0036】
図1Aは、この実施形態で利用された官能基化金属フタロシアニン化合物の図を示す。テトラスルフォン酸テトラナトリウム塩官能基は、フタロシアニンのコアを水に可溶化する。
【0037】
図1Bは、この後で説明するように、図1Aで示された化合物のスピンキャスト膜における典型的な分子コンフィギュレーションの図を示す。
【0038】
この実施形態で使用された分子半導体は、フタロシアニン(Pc)大環状系化合物(macrocycle)の大きな族の一員である。Pcは金属を含まないか、この実施形態で使用され
るように、大員環の中央空隙に保持された金属イオンを有することができる。周縁部又は非周縁部官能基化によって、Pcは通常の溶媒に可溶化される。可溶化基の数、タイプ、及び位置は、図1Bで示されるように、その化合物が薄膜に加工されるとき、分子の秩序及びコンフィギュレーションの程度に深刻な影響を有する。該分子は柱状積層を形成する。結晶秩序は局所化され、通常は巨視的区域へ広がらない。固相における秩序度は、オプトエレクトロニクス特性(例えば、電荷キャリヤ移動度及び励起子拡散長)に強く影響を与える。これらの化合物の溶解度及び膜形成特性に影響することに加えて、誘導性も分子半導体の電子構造及び光吸収特徴を調整する有効な手段である。フタロシアニンは平面構造を有し、集合(アグリゲーション)の推進力となるものは大環状化合物の間のπ−π相互作用である。スピンキャストされるとき、官能基化されたPcの全ての形態が所望の分子コンフィギュレーションを与えるものではなく、したがって官能基の選択は注意深く行わなければならない。
【0039】
この実施形態において、(i)分子半導体を水溶性にするため、(ii)分子イオン化電位を増加するため(電子構造を調整するため)、(iii)後で説明するように、デバイスに応用するため化合物が固体薄膜へキャストされるとき柱状分子配列を促進するため、銅フタロシアニン分子半導体は、その周縁部においてテトラスルフォン酸テトラナトリウム塩官能基によって官能基化される。
【0040】
次に、分子半導体は適切な溶媒中に溶解される。溶媒は、この実施形態においては水である。分子半導体溶液は、しばしば飽和に近い濃度(>10mg ml−1)で使用され、半導体溶液をカーボンナノチューブと混合する前に、好ましくは0.1ミクロン濾過器を使用して濾過することが必要である。
【0041】
次の工程は、カーボンナノチューブを分子半導体と組み合わせることを含む。即ち、カーボンナノチューブが適切な溶媒の中に入れられる。溶媒は、この実施形態では水である。次に、カーボンナノチューブ混合物は、分子半導体を含む溶媒混合物へ加えられる。このカーボンナノチューブ・分子半導体の混合物は安定な分散液を形成する。
【0042】
次に、薄膜を作るために、溶媒中の分子半導体及びカーボンナノチューブの溶液が使用される。この実施形態において、スピン塗布技術が利用される。スピン塗布技術は、簡単で高速な膜形成方法であって、デバイスを工業規模で製造するのに魅力的である。典型的には、複合体溶液の一滴が回転基板の上に落とされる。接触すると、液滴は基板を横切って均一に広がる。膜の厚さは、液滴量、溶液濃度、基板回転速度、及び使用される溶媒の関数である。生じた膜は、典型的には、厚さで100nmよりも小さく、分子半導体マトリックスの全体に均一に分散したカーボンナノチューブを含む。半導体マトリックスは高度の分子秩序を有する。
【0043】
この実施形態において、薄膜は150℃の乾燥空気の中で30分間焼かれる。これは、薄膜へ加工された直後に、残留水分を除去するために行われる。
【0044】
図4は、図3で示される酸官能基化カーボンナノチューブ及び図1Aで示される水溶性銅フタロシアニン複合体のガラス上スピンキャスト膜の3x3μm AFM局所解析画像を示す。膜を析出させた後、該膜は400℃の空気中で長時間加熱された。これは有機マトリックスを部分的に分解し、埋め込まれたカーボンナノチューブを露出させるためである。露出されたカーボンナノチューブが、画像の全体にわたって見られる。高さの尺度は15nmである。
【0045】
図5は、図3で示される酸官能基化カーボンナノチューブ及び図1Aで示される水溶性銅フタロシアニン複合体の、ニッケルTEM格子上にある滴キャスト膜の1x1μm透過
型電子顕微鏡画像を示す。複合体はニッケルTEM格子上にキャストされた。画像内の複合体膜の厚さは100nmよりも小さい。カーボンナノチューブがフタロシアニン・マトリックス内で均一に分散されていることを、明らかに見ることができる。
【0046】
図6は、(i)希釈水溶液(実線)、(ii)濃縮水溶液からの薄膜スピンキャスト(破線)、(iii)図3の切り刻み酸官能基化カーボンナノチューブと組み合わせた図1Aの化合物の濃縮水溶液からの薄膜スピンキャスト(カーボンナノチューブ重量百分率は11.8%)(中空円)からの、図1Aで示される化合物のQバンド吸収を示す。
【0047】
双方の薄膜のスペクトルにおけるQバンドは広くなり、溶液よりも青色シフトしている。このことは膜内での共表面分子配列を示している。双方の薄膜スペクトルにおけるQバンドは同じ形状及びピーク位置を有する。これはカーボンナノチューブが、分子秩序の程度をそれほど混乱させないことを示す。希釈水溶液中のQバンドは、モノマー吸収(〜665nm)及び集合吸収(〜625)の両者からの寄与を有する。
【0048】
図6は、カーボンナノチューブが分子秩序の程度をそれほど混乱させないことを示す。その理由は、カーボンナノチューブを有する薄膜及び有しない薄膜の吸収スペクトル内のQバンドの位置及び形状が類似するからである。図5において、複合体内のカーボンナノチューブの重量百分率は11.8%である。しかし、分子半導体に対するカーボンナノチューブの重量百分率は、応用に従って変化し、パーコレーション閾値を超えても超えなくてもよい。ポリマーマトリックス内で均一に分散した多層カーボンナノチューブのパーコレーション閾値は、0.06%と低いことが報告されている。
【0049】
この応用に適した分子半導体を選択することが重要である。そのためには、次のような2つのテストを実行することができる。分子半導体が、薄膜に加工されるとき、高度の分子秩序を有することを保証するテスト、および分子半導体の可溶化官能基が、薄膜に加工されるとき、柱状(傾斜又は非傾斜)分子配列の形成を少なくとも妨げないことを保証するテストである。更に、分子半導体と共にカーボンナノチューブを導入して複合体物質を形成することが、分子半導体相の中の分子配列を混乱させないことを保証するテストを実行することができる。
【0050】
1.第1のテストは、薄膜を形成する可溶性分子半導体が、溶液から基板上の薄膜へ加工されるとき、高度の分子秩序を有することを示す。
【0051】
この条件をテストするため、下記のテスト(a)又は(b)の1つが使用され得る。もし1つのテストの結果が不明瞭であれば、第2のテストが使用され、分子半導体が適切かどうかを決定することができる。
【0052】
(a)支持された分子半導体膜のX線回折。
「高度の分子秩序」を有する膜は、回折パターンの中で1つ又は複数の強いピークを有する。強いピークとは、十分に目立つX線回折パターン内のピークであって、支持基板及び背景ノイズの単調な特徴から明瞭に区別できるピークとして定義される。
【0053】
非晶物質は、広範で単調な特徴のX線回折パターンによって特徴づけられる。
(b)紫外・可視分光法(UV−VIS)。
【0054】
分子半導体内のHOMO−LUMO(即ち、フロンティア軌道)遷移は、通常、紫外線又は可視光を使用して探査可能である。HOMO−LUMO遷移は、隣接分子の近接度に非常に敏感であり、したがって結晶秩序の良好な指標である。
【0055】
分子半導体の非常に薄い溶液のUV−VISスペクトルは、非晶状態のそれに対応する。
【0056】
「高度の分子秩序」を示す支持された分子半導体膜のUV−VISスペクトルは、非晶状態のそれとは差異がなければならない。ここで、スペクトルの差異とは、HOMO−LUMO電子遷移へ割り当てられて公知の分子配列を示す吸収ピークの形状及び/又は位置の区別可能な変化として定義される。
【0057】
2.第2のテストにおいて、分子半導体の可溶化官能基は、溶液から薄膜へ加工されるとき、柱状(傾斜又は非傾斜)分子配列の形成を促進するか、少なくとも妨げないことが示される。柱状分子配列とは、本明細書では、芳香族コアの面と面(face-to-face)のスタッキングであって、隣接する共役コア間で少なくとも50%の面積が重複するものとして定義される。
【0058】
平面芳香族分子半導体、例えば、本願で説明される半導体の場合、隣接する分子の芳香族分子コアの面と面(face-to-face)の配列についてのみ、高い分子間重複が実現される。結果として、柱状(傾斜又は非傾斜)は、最も好ましい分子コンフィギュレーションである。
【0059】
この条件をテストするため、テスト(a)、(b)、又は(c)の1つを使用することができる。
【0060】
(a)紫外・可視分光法(UV−VIS)。
分子半導体の非常に薄い溶液のUV−VISスペクトルは、非晶状態のそれに相当する。
【0061】
分子半導体内のHOMO−LUMO(即ち、フロンティア軌道)遷移は、通常、紫外線又は可視光を使用して探査可能である。HOMO−LUMO遷移は、隣接分子の近接度に非常に敏感であり、したがって分子構造の良好な指標である。分子半導体の薄膜(透明基板の上に支持される)のUV−VIS吸収スペクトルを、非晶状態のそれと比較することによって、膜内の分子コンフィギュレーションが、しばしば確かめられる。
【0062】
(b)結晶固体内の分子コンフィギュレーションを決定するため、X線回折が広く使用される。
【0063】
(c)顕微鏡検査法:分子コンフィギュレーションを撮像するため、走査型トンネル顕微鏡検査法STMなどが使用可能である。
【0064】
3.第3のテストでは、複合体物質の中で、カーボンナノチューブは分子半導体相内の分子配列を混乱させないことが決定される。
【0065】
このテストにおいて、カーボンナノチューブの添加は、複合体の分子半導体相内の「高度の分子秩序」を混乱させないことが示される。
【0066】
(a)紫外・可視分光法(UV−VIS)が使用される。
低いカーボンナノチューブ濃度、例えば、重量百分率<15%の場合、複合体膜の分子半導体成分内のHOMO−LUMO遷移に対応するバンドのピーク位置及び形状は、純粋な半導体の膜スペクトルにおけるそれらと異なってはならない。
【0067】
カーボンナノチューブと分子半導体の相互作用に割り当てられる新しいピークが現れる
ことがある。全てのピークは、カーボンナノチューブに関連したバックグラウンド吸収の上に重畳される。カーボンナノチューブの重量百分率>15%の場合、カーボンナノチューブ分子半導体に関連したピークがスペクトルを支配し始めて、解釈を複雑にすることがある。
【0068】
本発明は、任意のタイプの電子デバイスで利用されてよい。この実施形態において、電子デバイスは有機太陽電池(OSC)である。しかし、本発明はこれらのデバイスに限定されない。
【0069】
有機太陽電池は、2つの電極間に挟まれた1つ又は複数の半導体有機膜から作られる。
図7Aは、この実施形態に従った二重膜OSCデバイスの略図を示す。このデバイスは、<100オーム毎平方のシート抵抗を有するインジウムスズ酸化物(ITO)被覆ガラスから作られた透明陽極303を含む。ガラス基板上のITO被覆は、典型的には、100〜300nmの厚さである。透明陽極303の隣に、2つの有機層、即ち、ナノ複合体物質から形成されたドナー層305及びアクセプタ層307が存在する。アクセプタ層307の隣に、陰極309が存在する。負荷310も図面の中に示される。光301は透明陽極303を通過してデバイスへ入り、有機層(305、307)によって吸収される。
【0070】
図7Bは、図7Aに示されるOSCデバイスに対応するバンド図を示す。光が有機層(305、307)によって吸収されるとき、しっかり結合された電子・正孔の対(励起子)がドナー層及びアクセプタ層の両者で作り出される。有機界面では励起子が分割され、自由電荷が電極へ輸送される。そのとき自由電荷は陰極を介して外部回路へ抽出される。
【0071】
ナノ複合体物質は、図7Aで示されたデバイス構造の中でドナー層を形成する。この場合、アクセプタ層及び上部電極の真空蒸着によって、半導体ヘテロ接合が完了する。アクセプタ層はフラーレン(C60)の50nm層を含む。陰極は、50nmのアルミニウム層を含む。前述したOSCは、7.4%重量カーボンナノチューブを含むナノ複合体ドナー層を使用する。ナノ複合体膜は、図1Aで示される化合物の12.5mg ml−1及び1mg ml−1酸官能基化カーボンナノチューブ(図3)を含む水溶液からスピンキャストされ、約15nmの厚さである。ナノ複合体膜は、他の適切な厚さ、例えば、10〜200nmであってよいことが理解されるであろう。
【0072】
カーボンナノチューブは高い導電率を有し、したがって有機半導体に分散したとき、生じた複合体の導電率を向上させることができる。もしカーボンナノチューブの濃度がパーコレーション閾値を超過するならば、分散したカーボンナノチューブは、半導体マトリックスの中に埋め込まれた連続導電網を形成する。これらの状況の下では、複合体はもはや半導体ではない。しかし、カーボンナノチューブの相互貫通網目構造は、OSCにとって次のような重要な利点を有する。即ち、(i)カーボンナノチューブ網は、ナノメータ・ヒートシンクとして機能し、デバイスの作動中に電気的又は光学的に生成された熱を感熱半導体マトリックスから外へ導き、デバイスの寿命を延長する。(ii)高面積網電極は、太陽電池内で有効な電荷キャリヤ抽出を容易にし、電力変換効率及びこれらデバイスの寿命を向上させる。(iii)カーボンナノチューブは光を散乱し、有機半導体層による吸収可能性を増加する。
【0073】
図8は、酸官能基化カーボンナノチューブ(図3)及び図1Aの分子半導体から成る複合体をドナー層として利用する二重膜有機太陽電池について、模擬太陽照明(AM1.5D、100mW cm−2(1 sun))を有する場合及び有しない場合の、印加バイアスの関数としての電流密度を示すグラフである。太陽電池の電力変換効率は曲線因子に比例する。図8で示される特徴を有するデバイスの曲線因子は、このような単純な電池構造では比較的に大きい。励起子妨害層を付加し、層の厚さ及びカーボンナノチューブの充
填を最適化することによって、電力変換効率の顕著な改善を期待することができる。更に、製造加工は環境にやさしく、安全である。なぜなら、有機溶媒の使用を必要としないからである。
【0074】
第2の実施形態
本発明は、更に、この実施形態で説明されるように、有機発光ダイオード(OLED)で利用されてよい。
【0075】
OLEDは、2つの電極間に挟まれた1つ又は複数の半導体有機膜から作られる。
図9Aは、この実施形態に従ったモデル二重膜OLEDデバイスの略図を示す。デバイスは透明陽極901を含む。透明陽極901の隣に、2つの有機層、即ち、正孔輸送層902及び発光層903が存在する。発光層の隣に、陰極904が存在する。外部電源905も図に示される。光(906)は発光層903で生産され、正孔輸送層902及び陽極901を通ってデバイスから出る。
【0076】
図9Bは、図9Aで示されるOLEDデバイスに対応するバンド図を示す。順方向バイアスが外部電源(905)から電極を横切って印加されるとき、正孔は陽極(901)から正孔輸送層(902)へ注入され、電子は陰極から発光層(903)へ注入される。電子及び正孔は再結合し、正孔輸送層(902)の界面に近い発光層(903)の中に励起子を形成する。発光層の中に形成された励起子は、光(906)の放出と共に崩壊することができる。光は、正孔輸送層及び陽極(901)を通ってデバイスから出る。
【0077】
この実施形態で使用されたモデル二重膜OLEDは、ITOガラス陽極/50nm TPD/50nm Alq3/50nm Alを含む。ここで、TPDは、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミンであり、Alq3はトリス(キノリン−8−オラト)アルミニウムであり、Alはアルミニウムである。TPD、Alq3、及びAl層は真空蒸着される。
【0078】
第1の実施形態で説明されたナノ複合体のスピンキャスト薄膜は、図9Aで示された真空蒸着OLEDのITOガラス陽極とTPD正孔輸送層との間に組み込まれる。スピンキャスト膜は、約25nmの厚さである。しかし、膜は、任意の適切な厚さ、例えば、10〜100nmであってよい。11.8%重量百分率カーボンナノチューブを含むナノ複合体層は、図1Aで示される化合物の7.5mg ml−1及び0.5mg ml−1酸官能基化カーボンナノチューブ(図3)を含む水溶液からスピンキャストされる。この界面において、ナノ複合体は正孔注入層として機能し、デバイスの中への効率的な正電荷キャリヤ注入を容易にする。カーボンナノチューブの高い作業機能及びアスペクト比は、官能基化された銅フタロシアニン・マトリックスのHOMOへの効率的な正孔注入を容易にする。
【0079】
図10は、第1の実施形態で説明されたナノ複合体の層をITO陽極とTPD正孔輸送層との間に有する場合と有しない場合について、発光ダイオードの輝度差を示すグラフである。グラフは、この官能基薄膜をデバイス構造へ組み込むと、複合体層を有しない同じデバイスと比較して、デバイス性能を著しく向上させることを示す。複合体層は点線で示され、実線は複合体層を有しない参照デバイスを示す。グラフは、複合体層を有しない同じデバイス構造と比較したとき、複合体層が利用されるときに達成された増加輝度を、同じ印加電圧について示す。図10は、OLEDへの電荷キャリヤ注入をナノ複合体層が向上させた証明である。
【0080】
更なる実施形態
本発明の実施形態は、本明細書において単なる例として説明されること、及び様々な変
更及び修正は、本発明の範囲から逸脱することなく行われてよいことが理解されるであろう。
【0081】
更に、カーボンナノチューブの安定な分散液の合成は、任意の適切な方法、例えば、次の方法を使用して実行できることが理解されるであろう。カーボンナノチューブは、アミド又はエステル結合を使用して外面を共有結合的に官能基化され、カーボンナノチューブ表面へカップリングされてよい。更に、カーボンナノチューブは、芳香族アミン溶媒、例えば、アニリンへ導入することによって、又はフラーレンを含む特定の分子半導体で官能基化することによって、非共有結合的に官能基化されてよい。
【0082】
カーボンナノチューブは、更に、内部構造を適応させることによって官能基化されてよいことが理解されるであろう。例えば、異なる金属、有機半導体物質(ポリマー又は分子半導体を含む)、又は両者の混合物をカーボンナノチューブの内部空隙へ挿入する。そのような物質の挿入は、カーボンナノチューブの電子特性を変更し、特定の目的にカーボンナノチューブを電子的に調整することができる。
【0083】
本明細書で説明された溶液処理ナノ複合体は、有機ポリマー又は真空蒸着分子半導体、又は両者の組み合わせと共に使用し、完全なデバイスを製造できることが理解されるであろう。
【0084】
更に、説明された溶液処理ナノ複合体を使用して、他のデバイスを形成してよいことが理解されるであろう。ここで薄膜は、本明細書で説明された特性を示すことが必要である。例えば、液晶ディスプレイは、前述した薄膜を含むOLEDを組み込んだバックライトを含んでよい。
【0085】
更に、本明細書で説明された溶液処理ナノ複合体は、任意の適切な加工法、例えば、(i)スピン塗布、(ii)インクジェット印刷、(iii)スクリーン印刷、(iv)ドクターブレードを使用して、有機電子デバイスでの応用に適した薄膜へ加工できることが理解されるであろう。
【0086】
更に、分子半導体は、任意の適切なタイプの共役分子半導体、更には2つ以上の異なる共役分子半導体の混合物であってよいことが理解されるであろう。例えば、分子半導体は、銅フタロシアニン及び金属非含有フタロシアニンの混合物であってよい。
【0087】
官能基化されて可溶化されたとき、高秩序の薄膜を形成できる可能性のある分子半導体の他の例は、ポルフィリン、ペリレン、アセン、及びオリゴチオフェン誘導体を含む。これら物質の全ては、市販されているか、必要に応じて合成できる。例えば、分子半導体は、図2Aで示されるように、金属非含有フタロシアニンであってよい。ここで、M=(H+)2及びR=(CH2)7CH3である。アルキル官能基は、フタロシアニンのコアをクロロフォルムに可溶化する。これは、クロロフォルム溶液からスピンキャストされるとき、図2Bで示されるような杉綾模様分子コンフィギュレーションの膜を製造する。分子は傾斜柱状積層を形成する。結晶秩序は局所化され、通常では巨視的区域へ広がらない。
【0088】
更に、本発明は、システムオンチップ(SoC)デバイスで利用されてよい。例えば、非限定的に、共通プラットフォーム上にOSC、OLED、バッテリ、マイクロプロセッサ、及びドライブエレクトロニクスを集積されたカーボンナノチューブ・ガスセンサがある。このSoCは、OSCを使用して充電されるバッテリによって電力を与えられる完全集積ガスセンサとして機能する。ガス検知に関する情報は遠隔デバイスへ中継され、赤外線OLEDを利用して処理される。
【0089】
OSCデバイスでは、ナノ複合体物質が、ドナー層の代わりに、又はドナー層と同じく、アクセプタ層と置き換わってよいことが理解されるであろう。選択される半導体及びカーボンナノチューブのタイプ並びに官能基は、どの層が置き換えられるかに依存する。
【0090】
OLEDデバイスにおいて、ナノ複合体物質は、もし陰極と発光層の間に組み込まれるならば、電子注入層として機能することが理解されるであろう。選択される半導体及びカーボンナノチューブのタイプ並びに官能基は、ナノ複合体が電子注入層として機能するか、正孔注入層として機能するかに依存する。
【0091】
前述した薄膜が利用されてよいデバイスの他の例は、任意のタイプの光検出器又はセンサ、ガス検知器又はセンサ、トランジスタ又は電界放出ディスプレイである。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1A】官能基化された金属(銅)フタロシアニン化合物を示す。
【図1B】図1Aで示された化合物の膜が水溶液からスピンキャストされたときの分子コンフィギュレーション(共表面)を示す。
【図2A】官能基化された金属非含有フタロシアニン分子を示す。
【図2B】図2Aで示される分子の膜がクロロフォルム溶液からスピンキャストされたときの分子コンフィギュレーション(杉綾模様)を示す。
【図3】水溶液から雲母基板へキャストされた切り刻み多層酸官能基化カーボンナノチューブ滴の原子間力顕微鏡(AFM)画像を示す。
【図4】図3で示された酸官能基化カーボンナノチューブ及び図1Aで示された水溶性銅フタロシアニンから成る複合体を使用するスピンキャスト薄膜のAFM画像を示し、カーボンナノチューブを露出させるために該薄膜は部分的に分解された。
【図5】図3で示された酸官能基化カーボンナノチューブ(重量百分率3.4%)及び図1Aで示された水溶性銅フタロシアニンより成る複合体の滴キャスト膜の1x1μm透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
【図6】(i)希釈水溶液(実線)、(ii)濃縮水溶液からスピンキャストされた薄膜(破線)、(iii)図3の切り刻み酸官能基化カーボンナノチューブを組み合わせられた図1Aの化合物の濃縮水溶液からスピンキャストされた薄膜(カーボンナノチューブの重量百分率は11.8%)(中空円)からの、図1Aで示された化合物のQバンド吸収を示す。
【図7A】二重膜有機太陽電池の略図を示す。
【図7B】二重膜有機太陽電池のバンド図を示す。
【図8】酸官能基化カーボンナノチューブ(図3)及び図1Aの分子半導体より成る複合体をドナー層として利用する二重膜有機太陽電池について、模擬太陽照明を有する場合及び有しない場合の、印加バイアスの関数としての電流密度を示すグラフである。
【図9A】二重膜有機発光ダイオードの略図を示す。
【図9B】二重膜有機発光ダイオードのバンド図を示す。
【図10】酸官能基化カーボンナノチューブ(図3)及び図1Aで示される分子半導体から成る複合体層をデバイスへ組み込まれた場合及び組み込まれない場合の、二重膜有機発光ダイオードの輝度特性のグラフを示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体を使用する電子デバイスのための薄膜の製造における改善に関する。具体的には、本発明は、均一に分散されたカーボンナノチューブを有する有機半導体の薄膜、及びそのような薄膜を組み込んだデバイスを製造する改善された方法に関する。
【0002】
本願において、カーボンナノチューブ(CNT)とは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、又は双方の混合物を意味することに注意すべきである。更に、カーボンナノチューブは幾つかの異なる方法(例えば、化学気相成長法(CVD)、アーク放電、及びレーザアブレーション)によって合成されてよいので、本願はカーボンナノチューブ製造の特定の方法に限定されないことに注意すべきである。
【背景技術】
【0003】
カーボンナノチューブ製造の分野では、非常に多くの研究及び開発が行われてきた。本願の出願人は、以前に、カーボンナノチューブ製造に関する特許出願を行った。1つのそのような出願(PCT/GB02/003438(WO03/011755))は、低温でのカーボンナノチューブの製造に関し、低コストでの可撓性プラスチック上へのカーボンナノチューブの析出を可能にした。
【0004】
有機半導体は、スピン塗布又は印刷手法を使用して室温で大面積薄膜に加工することができる。有機半導体に基づく電子デバイスの開発は近年急速に進歩し、有機発光ダイオード(OLED)の分野ほど進歩した分野はない。OLEDは隙間産業的応用として市場に現れたが、これらのデバイスの潜在能力は、特に、大面積ディスプレイの分野で発揮されていない。
【0005】
更に、有機太陽電池は、電力変換効率及びデバイス耐久性における顕著な改善なくして、太陽からエネルギーを収穫する経済的に実現可能な道としての潜在能力を実現し始めることすらできない。通常のシリコン太陽電池は、高い効率とデバイス耐久性を示すが、製造コストが法外に高い。クリーンで低コストのエネルギー解決法に対する切迫した世界的必要性の見地から、太陽電池は有機半導体の最も重要な潜在的応用の1つである。
【0006】
有機半導体材料及びデバイスについて、多大な研究及び開発が行われてきた。有機半導体は、分子量に従って大きく次のように分類できる。
【0007】
(i)共役ポリマーは、10,000原子質量単位(amu)を超える分子量を有し、スピン塗布又は印刷手法を使用して溶液から析出してよい。
【0008】
(ii)オリゴマーを含む共役小分子は、数千amuより小さい分子量を有し、通常、真空蒸発によって析出する。小分子有機半導体は、一般的に、分子半導体と呼ばれる。真空蒸発を使用して析出した分子半導体は、通常、溶液から加工できない。通常の有機溶媒中では溶解度が低いからである。
【0009】
薄膜の製作に使用される溶液を製造するため、カーボンナノチューブとポリマー半導体とを組み合わせることは公知である。しかし、この方法は幾つかの欠点を有する。例えば、カーボンナノチューブは、通常、ポリマー半導体の溶液中で安定な分散体を形成しない。即ち、カーボンナノチューブは溶液中で長い時間にわたっては保持されず、沈殿する傾向がある。結果として、溶液は、カーボンナノチューブを再分散するため、薄膜析出の直
前に超音波でかき混ぜなければならない。膜へ加工する直前に複合体を超音波でかき混ぜることは、現在の印刷技術と両立せず、製造コストを上げ、製造の観点から非実用的である。かき混ぜ加工は、更に、有機半導体を損傷する可能性がある。限定された数の特定ポリマー構造のみが、溶液中でカーボンナノチューブを安定化させることが知られており、したがって潜在的応用の範囲が限定される。更に、半導体ポリマーにおける可溶化官能基は、しばしば、最密充填分子配列の形成を妨げる。これは電荷キャリヤの移動度を低減する。
【0010】
通常は真空蒸発によって析出した分子半導体を溶液中に置くことは、溶解度が低いために困難であることが広く知られている。しかし、分子半導体を可溶化側基で官能基化することによって、分子半導体を含む溶液を製造できることが示された。こうして、有機太陽電池で使用される有機半導体膜を析出させるため、この溶液を使用することができる。しかし、そのようなデバイスの性能は、非常に乏しいことが報告されている。
【0011】
更に、カーボンナノチューブの外面に吸着された小量の可溶性分子半導体を使用することが公知である。これらの実験は、特定の共役芳香族化合物とカーボンナノチューブ外面との相互作用の研究、及びこの方法を使用してカーボンナノチューブの溶解度を向上させることへ向けられている。通常、生じた乾燥化合物について特定の実験を実行する前には、化合物は処理及び乾燥される。しかし、溶液も、官能基化されたカーボンナノチューブから生じた乾燥化合物も、薄膜有機電子デバイスの製造に関連した製造加工に適していない。
【0012】
更に、有機半導体物質又は特定の金属で空隙を充填することによって、カーボンナノチューブの内部空隙を官能基化することも公知である。カーボンナノチューブを通常の溶媒中で可溶化するため、内部空隙を充填することは公知でない。内部空隙を充填することは、カーボンナノチューブの光及び/又は電子特性を改良する手段である。これらの実験は基礎科学研究の目的で実行された。更なる加工なしでは、生じた化合物は、電子デバイスの作成に関連する製造加工に適さない。
【0013】
更に、薄膜有機半導体層を使用したデバイス、例えば、有機太陽電池(光電変換デバイス)を製造することが公知である。もし有機太陽電池が日光からエネルギーを得る商業的に実現可能な手段であるとすれば、有機太陽電池は効率的で、耐久性があり、低コストでなければならない。
【0014】
ポリマー半導体を使用する有機太陽電池は、低コストの溶液処理手法、例えば、インクジェット印刷、スピン塗布、ドクターブレード、又はスクリーン印刷を使用して製造することができる。しかし、大部分のポリマー半導体は、2〜3eVの光バンドギャップを有する。太陽電池応用の場合、これはデバイス効率を限定する。なぜなら、太陽スペクトルの大部分は得られないからである。分子半導体のバンドギャップ(1.4〜3.2eV)は、太陽スペクトルの利用に貢献しない。しかし、これは、通常、真空蒸着法を必要とする。真空蒸着法は、太陽電池を製造するとき、ポリマー類似物よりも非常にコストがかかる。一方では、ポリマー半導体は、典型的に、分子半導体よりも物理的及び化学的劣化を受けやすい。もし有機太陽電池が、クリーンな低コストエネルギー解決法として潜在能力を発揮するのであれば、これらのデバイスの電力効率及び耐久性は、溶液処理のコスト的利点を維持しながら改善されなければならない。
【0015】
大部分の有機半導体は、低い電荷キャリヤ移動度を有する。これは、この種の半導体を利用するデバイスの効率を決定するときの限定因子である。電荷が分子間を移動する容易度は、隣接分子のフロンティア軌道、即ち、最高被占分子軌道(HOMO)及び最低被占分子軌道(LUMO)間の重複の程度によって決定され、したがって固体内の分子配列の
関数である。したがって、分子固体内の電荷キャリヤ移動度は、高度に秩序づけられた固体で最高である。しかし、デバイスを製造する費用効率の良い方法(例えば、印刷及びスピン塗布)は、通常、結晶格子の形成に貢献しない。印刷及びスピン塗布手法を使用して作製された有機半導体は、非晶状態と酷似している。結果として、電荷キャリヤ移動度は低く(10−6cm2V−1s−1〜10−3cm2V−1s−1)、主としてデバイス直列抵抗へ寄与する。
【0016】
弱い分子間相互作用の更なる結果は、有機半導体内の限定された励起子拡散長である。これは有機太陽電池内の吸収層の厚さを限定し、それによって光密度及び電力変換効率を限定する。ポリマー半導体内の励起子拡散長は、典型的には、分子半導体におけるよりも著しく低い。
【0017】
ワング(Wang)らによる最近の研究(材料科学及びエンジニアリング、2005年、296〜301ページ(Materials Science and Engineering 2005 pp.296−301))において、カーボンナノチューブと分子半導体の複合体の製造が説明された。この研究は、光誘発電荷移動を容易にするため、カーボンナノチューブと染料分子との間の界面を改善することを目的とする。更に、アルキル鎖で官能基化されることによって、分子半導体が可溶化されることが示される。しかし、製造された膜は1ミクロンの厚さにすぎない。即ち、「キャスト塗布」される。更に、半導電性マトリックス内の分子秩序も、電子構造も取り上げられておらず、電子デバイスでの使用には適しない膜に帰着する。
【0018】
更に、周囲の水分及び酸素の有害効果から有機デバイスを保護することに関連する多くの問題に対するエンジニアリング解決法は、現在確立されている。しかし、これらのデバイスにおける乏しい熱管理は、重大な問題として残っている。特に、長期間の極端な温度に耐えねばならない太陽電池の応用についてそうである。電気的(ジュール熱)及び光学的に生成される熱は、有機層を熱処理して相互に拡散させ、界面接着の損失を含む形態構造変化を受けさせる。製造段階で被制御形態構造変化を誘発する熱処理は、幾つかのデバイス(例えば、二重膜ヘテロ接合太陽電池)の性能を向上させるが、最終的に熱はデバイスの寿命に有害である。ジュール熱を最小に保つため、デバイスの直列抵抗が最小にされなければならない。光学熱は、赤外線光子が効率的に得られない太陽電池デバイスで、特に問題となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、前述した問題の幾つか又は全てを克服又は少なくとも軽減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
1つの態様において、本発明は、均一に分散したカーボンナノチューブを含む薄膜を製造する方法を提供する。この方法は、分子半導体を適応させて可溶性にする工程、該分子半導体を適応させて高度の分子秩序及び隣接分子間フロンティア軌道重複の形成を容易にする工程、カーボンナノチューブを適応させて可溶性にする工程、該可溶性カーボンナノチューブと該可溶性分子半導体を溶媒中で組み合わせて溶液を形成する工程、該溶液から薄膜を製造する工程を含む。
【0021】
本発明の1つの態様において、カーボンナノチューブ複合体は、分子半導体の可溶性誘導体のみを使用して薄膜へ調製される。この可溶性誘導体は、通常、真空蒸着法を使用して析出するタイプである。これらの物質を通常の有機溶媒中で可溶化するため、共役されたコアが可溶化部位によって周辺又は非周辺位置で官能基化される。大部分の半導電性ポ
リマーとは異なり、これらのタイプの有機半導体は、溶液から非晶基板、例えば、ガラスの上に加工されるとき、高度の分子秩序(即ち、半結晶状態)を示すことができる。可溶化官能基の位置及び性質を注意深く選択することによって、隣接分子のフロンティア分子軌道間で最大重複を有する分子コンフィギュレーションを選択し、電荷キャリヤ移動度及び励起子拡散長を最大化することができる。官能基化は、更に、分子半導体の電子構造を特定の応用のために調整する万能手段である。カーボンナノチューブは、可溶性分子半導体との非共有結合相互作用、適切な溶媒、又は可溶化部位を使用する直接化学官能基化によって、溶液中で安定化させることができる。溶液中でのカーボンナノチューブ安定化の方法は、特定の方法に限定されない。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、有機半導体技術の顕著な進歩を代表し、改善された安定性及びデバイス効率を介してデバイス性能を良好にする。更に具体的には、本発明は、有機太陽電池の商業的利用の将来性を大きくする。即ち、太陽電池は、高い効率性、良好な動作安定性、及び大面積析出能力を提供する。
【0023】
カーボンナノチューブと分子半導体の複合体は、薄膜に加工されるとき、有機電子デバイスの中の機能材料として巨大な潜在能力を有する。これらの物質は、次のものを提供する。
【0024】
i.有機電子デバイス内の改善された熱管理。これはCNTの高い熱伝達度によるもので、デバイスの寿命を延長する。
ii.効率的な電荷キャリヤ注入/抽出に起因するデバイス効率の向上。
iii.デバイス直列抵抗の低減に起因するデバイス効率の向上。
iv.太陽電池における光捕捉の向上。これはカーボンナノチューブの光を散乱する性癖による。
v.分子半導体及びカーボンナノチューブの両者の電子及び光学特性を調整する能力に起因する万能性。これは潜在的応用を最大にする。
vi.可撓性低コスト基板と既存の低コスト大面積溶液処理技術との両立性。
本特許出願で説明されるように、分子半導体を使用することの更なる利点は、次のとおりである。
【0025】
(a)適切に官能基化された分子半導体は、高度の分子秩序を有する薄膜を形成するように加工することができる。分子秩序が望ましい理由は、それが電荷キャリヤ移動度及び励起子拡散長を最大化し、デバイス効率を向上させ、最終的にはデバイス寿命を向上させるからである。
【0026】
(b)分子半導体は、典型的に、半導体ポリマーよりも、化学的及び熱的に安定であって、デバイスの寿命を延長する。
【0027】
(c)容易に入手可能な分子半導体は、バンドギャップの範囲が大きく、この範囲は適切な官能基を使用して調整することができる。
【0028】
添付の図面を参照して、本発明の具体的実施形態を、単なる例として今から説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
第1の実施形態
カーボンナノチューブと分子半導体物質の複合体を組み込んだ薄膜デバイスを製造するためには、幾つかの段階が必要である。即ち、(i)カーボンナノチューブ及び分子半導体の安定な複合体溶液を調製する段階、(ii)複合体溶液を加工して、カーボンナノチ
ューブが均一に分散された薄膜を形成する段階、(iii)カーボンナノチューブ・分子半導体薄膜を利用して電子デバイスを製造する段階である。
【0030】
第1の段階は、公知のカーボンナノチューブ成長法を使用して、カーボンナノチューブ物質を成長させることである。前述したように、カーボンナノチューブは幾つかの異なる方法によって合成されてよい。そのような方法には、化学気相成長法(CVD)、アーク放電法、及びレーザアブレーション法が含まれる。この実施形態において、カーボンナノチューブは、当技術分野で周知の高温CVD法を使用して成長させられる。
【0031】
生じたカーボンナノチューブは束ねられている。したがって、この状態から解放する必要がある。カーボンナノチューブの安定な濃縮分散液を製造するため、この実施形態において、カーボンナノチューブは酸処理などで酸化され、カーボンナノチューブの外面に極性基が作り出される。極性基の中にはカルボン酸部位が含まれる。この方法は酸官能基化と呼ばれ、カーボンナノチューブを水に可溶化する。即ち、カーボンナノチューブは可溶性となるように適応、すなわち官能基化される。
【0032】
安定なカーボンナノチューブ分散液の調製は、これから説明するように、ナノ複合体薄膜製造の秘訣である。可溶化部位は、次の少なくとも1つを有することが好ましい。
【0033】
(i)電子官能性。
(ii)低い表面密度。これは半導体マトリックスからカーボンナノチューブを隔離しないためである。
(iii)適切な寸法。これはカーボンナノチューブと半導体マトリックスとの間の電荷キャリヤの流れを著しく阻害しないためである(即ち、<1nmの長さ)。
【0034】
この実施形態において、10nmの典型的な直径を有する多層カーボンナノチューブが、硫酸と硝酸の比が3:1の濃縮混合物の中へ入れられる。次に、混合物は50℃の一定温度へ加熱され、超音波を使用して6時間かき混ぜられる。この処理は、官能基を含む極性酸素をカーボンナノチューブの外面へ導入し、カーボンナノチューブを水に可溶化し、カーボンナノチューブの作業機能を増大させる。カーボンナノチューブは、更に、この手順によって短く切り刻まれる。
【0035】
濃縮された酸からカーボンナノチューブを分離するため、溶液は脱イオン水で希釈される。溶液の非常に低いpHによって、酸官能基化カーボンナノチューブは24時間の間沈殿し、酸の90%がデカントされる。残りの溶液及びカーボンナノチューブは、更に、脱イオン水を使用して希釈され、0.1nmポリカーボネート(又はPTFE)濾過器を使用して濾過され、洗液がpH中性になるまで脱イオン水で洗われる。次に、カーボンナノチューブで被覆された濾過紙が小量の脱イオン水の中に浸される。そのとき、カーボンナノチューブは自然に溶液の中へ分散する。結果として生じる水中の安定なカーボンナノチューブの分散液は遠心分離機にかけられ、残留微粒子混濁物が溶液から除去される。
【0036】
図1Aは、この実施形態で利用された官能基化金属フタロシアニン化合物の図を示す。テトラスルフォン酸テトラナトリウム塩官能基は、フタロシアニンのコアを水に可溶化する。
【0037】
図1Bは、この後で説明するように、図1Aで示された化合物のスピンキャスト膜における典型的な分子コンフィギュレーションの図を示す。
【0038】
この実施形態で使用された分子半導体は、フタロシアニン(Pc)大環状系化合物(macrocycle)の大きな族の一員である。Pcは金属を含まないか、この実施形態で使用され
るように、大員環の中央空隙に保持された金属イオンを有することができる。周縁部又は非周縁部官能基化によって、Pcは通常の溶媒に可溶化される。可溶化基の数、タイプ、及び位置は、図1Bで示されるように、その化合物が薄膜に加工されるとき、分子の秩序及びコンフィギュレーションの程度に深刻な影響を有する。該分子は柱状積層を形成する。結晶秩序は局所化され、通常は巨視的区域へ広がらない。固相における秩序度は、オプトエレクトロニクス特性(例えば、電荷キャリヤ移動度及び励起子拡散長)に強く影響を与える。これらの化合物の溶解度及び膜形成特性に影響することに加えて、誘導性も分子半導体の電子構造及び光吸収特徴を調整する有効な手段である。フタロシアニンは平面構造を有し、集合(アグリゲーション)の推進力となるものは大環状化合物の間のπ−π相互作用である。スピンキャストされるとき、官能基化されたPcの全ての形態が所望の分子コンフィギュレーションを与えるものではなく、したがって官能基の選択は注意深く行わなければならない。
【0039】
この実施形態において、(i)分子半導体を水溶性にするため、(ii)分子イオン化電位を増加するため(電子構造を調整するため)、(iii)後で説明するように、デバイスに応用するため化合物が固体薄膜へキャストされるとき柱状分子配列を促進するため、銅フタロシアニン分子半導体は、その周縁部においてテトラスルフォン酸テトラナトリウム塩官能基によって官能基化される。
【0040】
次に、分子半導体は適切な溶媒中に溶解される。溶媒は、この実施形態においては水である。分子半導体溶液は、しばしば飽和に近い濃度(>10mg ml−1)で使用され、半導体溶液をカーボンナノチューブと混合する前に、好ましくは0.1ミクロン濾過器を使用して濾過することが必要である。
【0041】
次の工程は、カーボンナノチューブを分子半導体と組み合わせることを含む。即ち、カーボンナノチューブが適切な溶媒の中に入れられる。溶媒は、この実施形態では水である。次に、カーボンナノチューブ混合物は、分子半導体を含む溶媒混合物へ加えられる。このカーボンナノチューブ・分子半導体の混合物は安定な分散液を形成する。
【0042】
次に、薄膜を作るために、溶媒中の分子半導体及びカーボンナノチューブの溶液が使用される。この実施形態において、スピン塗布技術が利用される。スピン塗布技術は、簡単で高速な膜形成方法であって、デバイスを工業規模で製造するのに魅力的である。典型的には、複合体溶液の一滴が回転基板の上に落とされる。接触すると、液滴は基板を横切って均一に広がる。膜の厚さは、液滴量、溶液濃度、基板回転速度、及び使用される溶媒の関数である。生じた膜は、典型的には、厚さで100nmよりも小さく、分子半導体マトリックスの全体に均一に分散したカーボンナノチューブを含む。半導体マトリックスは高度の分子秩序を有する。
【0043】
この実施形態において、薄膜は150℃の乾燥空気の中で30分間焼かれる。これは、薄膜へ加工された直後に、残留水分を除去するために行われる。
【0044】
図4は、図3で示される酸官能基化カーボンナノチューブ及び図1Aで示される水溶性銅フタロシアニン複合体のガラス上スピンキャスト膜の3x3μm AFM局所解析画像を示す。膜を析出させた後、該膜は400℃の空気中で長時間加熱された。これは有機マトリックスを部分的に分解し、埋め込まれたカーボンナノチューブを露出させるためである。露出されたカーボンナノチューブが、画像の全体にわたって見られる。高さの尺度は15nmである。
【0045】
図5は、図3で示される酸官能基化カーボンナノチューブ及び図1Aで示される水溶性銅フタロシアニン複合体の、ニッケルTEM格子上にある滴キャスト膜の1x1μm透過
型電子顕微鏡画像を示す。複合体はニッケルTEM格子上にキャストされた。画像内の複合体膜の厚さは100nmよりも小さい。カーボンナノチューブがフタロシアニン・マトリックス内で均一に分散されていることを、明らかに見ることができる。
【0046】
図6は、(i)希釈水溶液(実線)、(ii)濃縮水溶液からの薄膜スピンキャスト(破線)、(iii)図3の切り刻み酸官能基化カーボンナノチューブと組み合わせた図1Aの化合物の濃縮水溶液からの薄膜スピンキャスト(カーボンナノチューブ重量百分率は11.8%)(中空円)からの、図1Aで示される化合物のQバンド吸収を示す。
【0047】
双方の薄膜のスペクトルにおけるQバンドは広くなり、溶液よりも青色シフトしている。このことは膜内での共表面分子配列を示している。双方の薄膜スペクトルにおけるQバンドは同じ形状及びピーク位置を有する。これはカーボンナノチューブが、分子秩序の程度をそれほど混乱させないことを示す。希釈水溶液中のQバンドは、モノマー吸収(〜665nm)及び集合吸収(〜625)の両者からの寄与を有する。
【0048】
図6は、カーボンナノチューブが分子秩序の程度をそれほど混乱させないことを示す。その理由は、カーボンナノチューブを有する薄膜及び有しない薄膜の吸収スペクトル内のQバンドの位置及び形状が類似するからである。図5において、複合体内のカーボンナノチューブの重量百分率は11.8%である。しかし、分子半導体に対するカーボンナノチューブの重量百分率は、応用に従って変化し、パーコレーション閾値を超えても超えなくてもよい。ポリマーマトリックス内で均一に分散した多層カーボンナノチューブのパーコレーション閾値は、0.06%と低いことが報告されている。
【0049】
この応用に適した分子半導体を選択することが重要である。そのためには、次のような2つのテストを実行することができる。分子半導体が、薄膜に加工されるとき、高度の分子秩序を有することを保証するテスト、および分子半導体の可溶化官能基が、薄膜に加工されるとき、柱状(傾斜又は非傾斜)分子配列の形成を少なくとも妨げないことを保証するテストである。更に、分子半導体と共にカーボンナノチューブを導入して複合体物質を形成することが、分子半導体相の中の分子配列を混乱させないことを保証するテストを実行することができる。
【0050】
1.第1のテストは、薄膜を形成する可溶性分子半導体が、溶液から基板上の薄膜へ加工されるとき、高度の分子秩序を有することを示す。
【0051】
この条件をテストするため、下記のテスト(a)又は(b)の1つが使用され得る。もし1つのテストの結果が不明瞭であれば、第2のテストが使用され、分子半導体が適切かどうかを決定することができる。
【0052】
(a)支持された分子半導体膜のX線回折。
「高度の分子秩序」を有する膜は、回折パターンの中で1つ又は複数の強いピークを有する。強いピークとは、十分に目立つX線回折パターン内のピークであって、支持基板及び背景ノイズの単調な特徴から明瞭に区別できるピークとして定義される。
【0053】
非晶物質は、広範で単調な特徴のX線回折パターンによって特徴づけられる。
(b)紫外・可視分光法(UV−VIS)。
【0054】
分子半導体内のHOMO−LUMO(即ち、フロンティア軌道)遷移は、通常、紫外線又は可視光を使用して探査可能である。HOMO−LUMO遷移は、隣接分子の近接度に非常に敏感であり、したがって結晶秩序の良好な指標である。
【0055】
分子半導体の非常に薄い溶液のUV−VISスペクトルは、非晶状態のそれに対応する。
【0056】
「高度の分子秩序」を示す支持された分子半導体膜のUV−VISスペクトルは、非晶状態のそれとは差異がなければならない。ここで、スペクトルの差異とは、HOMO−LUMO電子遷移へ割り当てられて公知の分子配列を示す吸収ピークの形状及び/又は位置の区別可能な変化として定義される。
【0057】
2.第2のテストにおいて、分子半導体の可溶化官能基は、溶液から薄膜へ加工されるとき、柱状(傾斜又は非傾斜)分子配列の形成を促進するか、少なくとも妨げないことが示される。柱状分子配列とは、本明細書では、芳香族コアの面と面(face-to-face)のスタッキングであって、隣接する共役コア間で少なくとも50%の面積が重複するものとして定義される。
【0058】
平面芳香族分子半導体、例えば、本願で説明される半導体の場合、隣接する分子の芳香族分子コアの面と面(face-to-face)の配列についてのみ、高い分子間重複が実現される。結果として、柱状(傾斜又は非傾斜)は、最も好ましい分子コンフィギュレーションである。
【0059】
この条件をテストするため、テスト(a)、(b)、又は(c)の1つを使用することができる。
【0060】
(a)紫外・可視分光法(UV−VIS)。
分子半導体の非常に薄い溶液のUV−VISスペクトルは、非晶状態のそれに相当する。
【0061】
分子半導体内のHOMO−LUMO(即ち、フロンティア軌道)遷移は、通常、紫外線又は可視光を使用して探査可能である。HOMO−LUMO遷移は、隣接分子の近接度に非常に敏感であり、したがって分子構造の良好な指標である。分子半導体の薄膜(透明基板の上に支持される)のUV−VIS吸収スペクトルを、非晶状態のそれと比較することによって、膜内の分子コンフィギュレーションが、しばしば確かめられる。
【0062】
(b)結晶固体内の分子コンフィギュレーションを決定するため、X線回折が広く使用される。
【0063】
(c)顕微鏡検査法:分子コンフィギュレーションを撮像するため、走査型トンネル顕微鏡検査法STMなどが使用可能である。
【0064】
3.第3のテストでは、複合体物質の中で、カーボンナノチューブは分子半導体相内の分子配列を混乱させないことが決定される。
【0065】
このテストにおいて、カーボンナノチューブの添加は、複合体の分子半導体相内の「高度の分子秩序」を混乱させないことが示される。
【0066】
(a)紫外・可視分光法(UV−VIS)が使用される。
低いカーボンナノチューブ濃度、例えば、重量百分率<15%の場合、複合体膜の分子半導体成分内のHOMO−LUMO遷移に対応するバンドのピーク位置及び形状は、純粋な半導体の膜スペクトルにおけるそれらと異なってはならない。
【0067】
カーボンナノチューブと分子半導体の相互作用に割り当てられる新しいピークが現れる
ことがある。全てのピークは、カーボンナノチューブに関連したバックグラウンド吸収の上に重畳される。カーボンナノチューブの重量百分率>15%の場合、カーボンナノチューブ分子半導体に関連したピークがスペクトルを支配し始めて、解釈を複雑にすることがある。
【0068】
本発明は、任意のタイプの電子デバイスで利用されてよい。この実施形態において、電子デバイスは有機太陽電池(OSC)である。しかし、本発明はこれらのデバイスに限定されない。
【0069】
有機太陽電池は、2つの電極間に挟まれた1つ又は複数の半導体有機膜から作られる。
図7Aは、この実施形態に従った二重膜OSCデバイスの略図を示す。このデバイスは、<100オーム毎平方のシート抵抗を有するインジウムスズ酸化物(ITO)被覆ガラスから作られた透明陽極303を含む。ガラス基板上のITO被覆は、典型的には、100〜300nmの厚さである。透明陽極303の隣に、2つの有機層、即ち、ナノ複合体物質から形成されたドナー層305及びアクセプタ層307が存在する。アクセプタ層307の隣に、陰極309が存在する。負荷310も図面の中に示される。光301は透明陽極303を通過してデバイスへ入り、有機層(305、307)によって吸収される。
【0070】
図7Bは、図7Aに示されるOSCデバイスに対応するバンド図を示す。光が有機層(305、307)によって吸収されるとき、しっかり結合された電子・正孔の対(励起子)がドナー層及びアクセプタ層の両者で作り出される。有機界面では励起子が分割され、自由電荷が電極へ輸送される。そのとき自由電荷は陰極を介して外部回路へ抽出される。
【0071】
ナノ複合体物質は、図7Aで示されたデバイス構造の中でドナー層を形成する。この場合、アクセプタ層及び上部電極の真空蒸着によって、半導体ヘテロ接合が完了する。アクセプタ層はフラーレン(C60)の50nm層を含む。陰極は、50nmのアルミニウム層を含む。前述したOSCは、7.4%重量カーボンナノチューブを含むナノ複合体ドナー層を使用する。ナノ複合体膜は、図1Aで示される化合物の12.5mg ml−1及び1mg ml−1酸官能基化カーボンナノチューブ(図3)を含む水溶液からスピンキャストされ、約15nmの厚さである。ナノ複合体膜は、他の適切な厚さ、例えば、10〜200nmであってよいことが理解されるであろう。
【0072】
カーボンナノチューブは高い導電率を有し、したがって有機半導体に分散したとき、生じた複合体の導電率を向上させることができる。もしカーボンナノチューブの濃度がパーコレーション閾値を超過するならば、分散したカーボンナノチューブは、半導体マトリックスの中に埋め込まれた連続導電網を形成する。これらの状況の下では、複合体はもはや半導体ではない。しかし、カーボンナノチューブの相互貫通網目構造は、OSCにとって次のような重要な利点を有する。即ち、(i)カーボンナノチューブ網は、ナノメータ・ヒートシンクとして機能し、デバイスの作動中に電気的又は光学的に生成された熱を感熱半導体マトリックスから外へ導き、デバイスの寿命を延長する。(ii)高面積網電極は、太陽電池内で有効な電荷キャリヤ抽出を容易にし、電力変換効率及びこれらデバイスの寿命を向上させる。(iii)カーボンナノチューブは光を散乱し、有機半導体層による吸収可能性を増加する。
【0073】
図8は、酸官能基化カーボンナノチューブ(図3)及び図1Aの分子半導体から成る複合体をドナー層として利用する二重膜有機太陽電池について、模擬太陽照明(AM1.5D、100mW cm−2(1 sun))を有する場合及び有しない場合の、印加バイアスの関数としての電流密度を示すグラフである。太陽電池の電力変換効率は曲線因子に比例する。図8で示される特徴を有するデバイスの曲線因子は、このような単純な電池構造では比較的に大きい。励起子妨害層を付加し、層の厚さ及びカーボンナノチューブの充
填を最適化することによって、電力変換効率の顕著な改善を期待することができる。更に、製造加工は環境にやさしく、安全である。なぜなら、有機溶媒の使用を必要としないからである。
【0074】
第2の実施形態
本発明は、更に、この実施形態で説明されるように、有機発光ダイオード(OLED)で利用されてよい。
【0075】
OLEDは、2つの電極間に挟まれた1つ又は複数の半導体有機膜から作られる。
図9Aは、この実施形態に従ったモデル二重膜OLEDデバイスの略図を示す。デバイスは透明陽極901を含む。透明陽極901の隣に、2つの有機層、即ち、正孔輸送層902及び発光層903が存在する。発光層の隣に、陰極904が存在する。外部電源905も図に示される。光(906)は発光層903で生産され、正孔輸送層902及び陽極901を通ってデバイスから出る。
【0076】
図9Bは、図9Aで示されるOLEDデバイスに対応するバンド図を示す。順方向バイアスが外部電源(905)から電極を横切って印加されるとき、正孔は陽極(901)から正孔輸送層(902)へ注入され、電子は陰極から発光層(903)へ注入される。電子及び正孔は再結合し、正孔輸送層(902)の界面に近い発光層(903)の中に励起子を形成する。発光層の中に形成された励起子は、光(906)の放出と共に崩壊することができる。光は、正孔輸送層及び陽極(901)を通ってデバイスから出る。
【0077】
この実施形態で使用されたモデル二重膜OLEDは、ITOガラス陽極/50nm TPD/50nm Alq3/50nm Alを含む。ここで、TPDは、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミンであり、Alq3はトリス(キノリン−8−オラト)アルミニウムであり、Alはアルミニウムである。TPD、Alq3、及びAl層は真空蒸着される。
【0078】
第1の実施形態で説明されたナノ複合体のスピンキャスト薄膜は、図9Aで示された真空蒸着OLEDのITOガラス陽極とTPD正孔輸送層との間に組み込まれる。スピンキャスト膜は、約25nmの厚さである。しかし、膜は、任意の適切な厚さ、例えば、10〜100nmであってよい。11.8%重量百分率カーボンナノチューブを含むナノ複合体層は、図1Aで示される化合物の7.5mg ml−1及び0.5mg ml−1酸官能基化カーボンナノチューブ(図3)を含む水溶液からスピンキャストされる。この界面において、ナノ複合体は正孔注入層として機能し、デバイスの中への効率的な正電荷キャリヤ注入を容易にする。カーボンナノチューブの高い作業機能及びアスペクト比は、官能基化された銅フタロシアニン・マトリックスのHOMOへの効率的な正孔注入を容易にする。
【0079】
図10は、第1の実施形態で説明されたナノ複合体の層をITO陽極とTPD正孔輸送層との間に有する場合と有しない場合について、発光ダイオードの輝度差を示すグラフである。グラフは、この官能基薄膜をデバイス構造へ組み込むと、複合体層を有しない同じデバイスと比較して、デバイス性能を著しく向上させることを示す。複合体層は点線で示され、実線は複合体層を有しない参照デバイスを示す。グラフは、複合体層を有しない同じデバイス構造と比較したとき、複合体層が利用されるときに達成された増加輝度を、同じ印加電圧について示す。図10は、OLEDへの電荷キャリヤ注入をナノ複合体層が向上させた証明である。
【0080】
更なる実施形態
本発明の実施形態は、本明細書において単なる例として説明されること、及び様々な変
更及び修正は、本発明の範囲から逸脱することなく行われてよいことが理解されるであろう。
【0081】
更に、カーボンナノチューブの安定な分散液の合成は、任意の適切な方法、例えば、次の方法を使用して実行できることが理解されるであろう。カーボンナノチューブは、アミド又はエステル結合を使用して外面を共有結合的に官能基化され、カーボンナノチューブ表面へカップリングされてよい。更に、カーボンナノチューブは、芳香族アミン溶媒、例えば、アニリンへ導入することによって、又はフラーレンを含む特定の分子半導体で官能基化することによって、非共有結合的に官能基化されてよい。
【0082】
カーボンナノチューブは、更に、内部構造を適応させることによって官能基化されてよいことが理解されるであろう。例えば、異なる金属、有機半導体物質(ポリマー又は分子半導体を含む)、又は両者の混合物をカーボンナノチューブの内部空隙へ挿入する。そのような物質の挿入は、カーボンナノチューブの電子特性を変更し、特定の目的にカーボンナノチューブを電子的に調整することができる。
【0083】
本明細書で説明された溶液処理ナノ複合体は、有機ポリマー又は真空蒸着分子半導体、又は両者の組み合わせと共に使用し、完全なデバイスを製造できることが理解されるであろう。
【0084】
更に、説明された溶液処理ナノ複合体を使用して、他のデバイスを形成してよいことが理解されるであろう。ここで薄膜は、本明細書で説明された特性を示すことが必要である。例えば、液晶ディスプレイは、前述した薄膜を含むOLEDを組み込んだバックライトを含んでよい。
【0085】
更に、本明細書で説明された溶液処理ナノ複合体は、任意の適切な加工法、例えば、(i)スピン塗布、(ii)インクジェット印刷、(iii)スクリーン印刷、(iv)ドクターブレードを使用して、有機電子デバイスでの応用に適した薄膜へ加工できることが理解されるであろう。
【0086】
更に、分子半導体は、任意の適切なタイプの共役分子半導体、更には2つ以上の異なる共役分子半導体の混合物であってよいことが理解されるであろう。例えば、分子半導体は、銅フタロシアニン及び金属非含有フタロシアニンの混合物であってよい。
【0087】
官能基化されて可溶化されたとき、高秩序の薄膜を形成できる可能性のある分子半導体の他の例は、ポルフィリン、ペリレン、アセン、及びオリゴチオフェン誘導体を含む。これら物質の全ては、市販されているか、必要に応じて合成できる。例えば、分子半導体は、図2Aで示されるように、金属非含有フタロシアニンであってよい。ここで、M=(H+)2及びR=(CH2)7CH3である。アルキル官能基は、フタロシアニンのコアをクロロフォルムに可溶化する。これは、クロロフォルム溶液からスピンキャストされるとき、図2Bで示されるような杉綾模様分子コンフィギュレーションの膜を製造する。分子は傾斜柱状積層を形成する。結晶秩序は局所化され、通常では巨視的区域へ広がらない。
【0088】
更に、本発明は、システムオンチップ(SoC)デバイスで利用されてよい。例えば、非限定的に、共通プラットフォーム上にOSC、OLED、バッテリ、マイクロプロセッサ、及びドライブエレクトロニクスを集積されたカーボンナノチューブ・ガスセンサがある。このSoCは、OSCを使用して充電されるバッテリによって電力を与えられる完全集積ガスセンサとして機能する。ガス検知に関する情報は遠隔デバイスへ中継され、赤外線OLEDを利用して処理される。
【0089】
OSCデバイスでは、ナノ複合体物質が、ドナー層の代わりに、又はドナー層と同じく、アクセプタ層と置き換わってよいことが理解されるであろう。選択される半導体及びカーボンナノチューブのタイプ並びに官能基は、どの層が置き換えられるかに依存する。
【0090】
OLEDデバイスにおいて、ナノ複合体物質は、もし陰極と発光層の間に組み込まれるならば、電子注入層として機能することが理解されるであろう。選択される半導体及びカーボンナノチューブのタイプ並びに官能基は、ナノ複合体が電子注入層として機能するか、正孔注入層として機能するかに依存する。
【0091】
前述した薄膜が利用されてよいデバイスの他の例は、任意のタイプの光検出器又はセンサ、ガス検知器又はセンサ、トランジスタ又は電界放出ディスプレイである。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1A】官能基化された金属(銅)フタロシアニン化合物を示す。
【図1B】図1Aで示された化合物の膜が水溶液からスピンキャストされたときの分子コンフィギュレーション(共表面)を示す。
【図2A】官能基化された金属非含有フタロシアニン分子を示す。
【図2B】図2Aで示される分子の膜がクロロフォルム溶液からスピンキャストされたときの分子コンフィギュレーション(杉綾模様)を示す。
【図3】水溶液から雲母基板へキャストされた切り刻み多層酸官能基化カーボンナノチューブ滴の原子間力顕微鏡(AFM)画像を示す。
【図4】図3で示された酸官能基化カーボンナノチューブ及び図1Aで示された水溶性銅フタロシアニンから成る複合体を使用するスピンキャスト薄膜のAFM画像を示し、カーボンナノチューブを露出させるために該薄膜は部分的に分解された。
【図5】図3で示された酸官能基化カーボンナノチューブ(重量百分率3.4%)及び図1Aで示された水溶性銅フタロシアニンより成る複合体の滴キャスト膜の1x1μm透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
【図6】(i)希釈水溶液(実線)、(ii)濃縮水溶液からスピンキャストされた薄膜(破線)、(iii)図3の切り刻み酸官能基化カーボンナノチューブを組み合わせられた図1Aの化合物の濃縮水溶液からスピンキャストされた薄膜(カーボンナノチューブの重量百分率は11.8%)(中空円)からの、図1Aで示された化合物のQバンド吸収を示す。
【図7A】二重膜有機太陽電池の略図を示す。
【図7B】二重膜有機太陽電池のバンド図を示す。
【図8】酸官能基化カーボンナノチューブ(図3)及び図1Aの分子半導体より成る複合体をドナー層として利用する二重膜有機太陽電池について、模擬太陽照明を有する場合及び有しない場合の、印加バイアスの関数としての電流密度を示すグラフである。
【図9A】二重膜有機発光ダイオードの略図を示す。
【図9B】二重膜有機発光ダイオードのバンド図を示す。
【図10】酸官能基化カーボンナノチューブ(図3)及び図1Aで示される分子半導体から成る複合体層をデバイスへ組み込まれた場合及び組み込まれない場合の、二重膜有機発光ダイオードの輝度特性のグラフを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
均一に分散したカーボンナノチューブを含む薄膜を製造する方法であって、
分子半導体を適応させて可溶性にする工程と、
該分子半導体を適応させて、高度の分子秩序及び隣接分子間フロンティア軌道重複の形成を容易にする工程と、
該カーボンナノチューブを適応させて可溶性にする工程と、
該可溶性カーボンナノチューブ及び該可溶性分子半導体を溶媒中で組み合わせて溶液を形成する工程と、
該溶液から該薄膜を製造する
工程を含む方法。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブを適応させる工程が、前記組み合わせ工程間に非共有結合法を使用して実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
更に、前記分子半導体と組み合わせる前に、前記カーボンナノチューブを溶媒と混合する工程を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
更に、前記カーボンナノチューブと組み合わせる前に、前記分子半導体を溶媒と混合する工程を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
更に、前記カーボンナノチューブを溶媒に混合してカーボンナノチューブ溶液を製造し、該カーボンナノチューブ溶液を前記分子半導体溶液へ加える工程を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記溶媒が芳香族アミンである、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項7】
前記芳香族アミンがアニリンである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブを適応させる工程が、共有結合法を使用して実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブがアミド又はエステル結合を使用して適応させられる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記分子半導体適応工程の少なくとも1つが、半導体分子の共役コアの周縁部を部位で修飾することによって実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記分子半導体適応工程の少なくとも1つが、半導体分子の共役コアの非周縁部を部位で修飾することによって実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記カーボンナノチューブを外面で適応させて、電気又は光学特性を調整する更なる工程を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記カーボンナノチューブを内面で適応させて、電気又は光学特性を調整する更なる工程を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記内面の適応が、内部空隙を金属で充填する工程を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記内面の適応が、内部空隙を分子半導体で充填する工程を含む、請求項14に記載の
方法。
【請求項16】
前記分子半導体を適応させて電気又は光学特性を調整する更なる工程を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記分子半導体が金属非含有フタロシアニンである、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記分子半導体が金属非含有ポルフィリンである、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
電子デバイスを製造する方法であって、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法を使用して薄膜層を製造する工程を含む方法。
【請求項20】
電子デバイスが太陽電池である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
電子デバイスが発光ダイオードである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
電子デバイスが、液晶ディスプレイで使用されるように適応させられたバックライトである、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
電子デバイスがシステムオンチップ・デバイスである、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法を使用して製造された薄膜を含む電子デバイス。
【請求項25】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法を使用して製造された薄膜を含む太陽電池デバイス。
【請求項26】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法を使用して製造された薄膜を含む発光デバイス。
【請求項27】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法を使用して製造された薄膜を含むバックライト・デバイス。
【請求項28】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法を使用して製造された薄膜を含むシステムオンチップ・デバイス。
【請求項1】
均一に分散したカーボンナノチューブを含む薄膜を製造する方法であって、
分子半導体を適応させて可溶性にする工程と、
該分子半導体を適応させて、高度の分子秩序及び隣接分子間フロンティア軌道重複の形成を容易にする工程と、
該カーボンナノチューブを適応させて可溶性にする工程と、
該可溶性カーボンナノチューブ及び該可溶性分子半導体を溶媒中で組み合わせて溶液を形成する工程と、
該溶液から該薄膜を製造する
工程を含む方法。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブを適応させる工程が、前記組み合わせ工程間に非共有結合法を使用して実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
更に、前記分子半導体と組み合わせる前に、前記カーボンナノチューブを溶媒と混合する工程を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
更に、前記カーボンナノチューブと組み合わせる前に、前記分子半導体を溶媒と混合する工程を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
更に、前記カーボンナノチューブを溶媒に混合してカーボンナノチューブ溶液を製造し、該カーボンナノチューブ溶液を前記分子半導体溶液へ加える工程を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記溶媒が芳香族アミンである、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項7】
前記芳香族アミンがアニリンである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブを適応させる工程が、共有結合法を使用して実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブがアミド又はエステル結合を使用して適応させられる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記分子半導体適応工程の少なくとも1つが、半導体分子の共役コアの周縁部を部位で修飾することによって実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記分子半導体適応工程の少なくとも1つが、半導体分子の共役コアの非周縁部を部位で修飾することによって実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記カーボンナノチューブを外面で適応させて、電気又は光学特性を調整する更なる工程を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記カーボンナノチューブを内面で適応させて、電気又は光学特性を調整する更なる工程を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記内面の適応が、内部空隙を金属で充填する工程を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記内面の適応が、内部空隙を分子半導体で充填する工程を含む、請求項14に記載の
方法。
【請求項16】
前記分子半導体を適応させて電気又は光学特性を調整する更なる工程を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記分子半導体が金属非含有フタロシアニンである、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記分子半導体が金属非含有ポルフィリンである、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
電子デバイスを製造する方法であって、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法を使用して薄膜層を製造する工程を含む方法。
【請求項20】
電子デバイスが太陽電池である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
電子デバイスが発光ダイオードである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
電子デバイスが、液晶ディスプレイで使用されるように適応させられたバックライトである、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
電子デバイスがシステムオンチップ・デバイスである、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法を使用して製造された薄膜を含む電子デバイス。
【請求項25】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法を使用して製造された薄膜を含む太陽電池デバイス。
【請求項26】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法を使用して製造された薄膜を含む発光デバイス。
【請求項27】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法を使用して製造された薄膜を含むバックライト・デバイス。
【請求項28】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法を使用して製造された薄膜を含むシステムオンチップ・デバイス。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図8】
【図9A】
【図10】
【図7B】
【図9B】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図8】
【図9A】
【図10】
【図7B】
【図9B】
【公表番号】特表2008−544946(P2008−544946A)
【公表日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−520003(P2008−520003)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【国際出願番号】PCT/GB2006/002528
【国際公開番号】WO2007/007061
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(595042184)ユニバーシティ オブ サリー (7)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【国際出願番号】PCT/GB2006/002528
【国際公開番号】WO2007/007061
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(595042184)ユニバーシティ オブ サリー (7)
【Fターム(参考)】
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