説明

薄膜製造方法および薄膜製造装置

【課題】基板面内の膜組成及び膜特性を均一に保持することが可能な薄膜製造方法および薄膜製造装置を提供する。
【解決手段】ステージ52上の基板Wを加熱しつつ、ステージ52と対向するガスヘッド53から、蒸気圧の異なる複数の金属元素を含む第1の成膜用ガスが基板Wの中央に供給され、複数の金属元素を第1の成膜用ガスとは異なる組成比で含む第2の成膜用ガスが基板Wの周縁に供給されることで、基板W上に薄膜が製造される。チャンバ51内では基板W上の中央から周縁に向かってガスの流れが発生するが、第1の成膜用ガスと第2の成膜用ガスとによって、基板W上のガスの分布を最適化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)薄膜等を形成するための薄膜製造方法および薄膜製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、強誘電体メモリ(Ferroelectric Random Access Memory;FeRAM)等に用いられる強誘電体薄膜として、ペロブスカイト構造を有するチタン酸ジルコン酸鉛(Pb1+X(ZrTi1−Y)O3+X;PZT)等の薄膜が知られている。このような誘電体薄膜は、例えば有機金属化学気相成長(Metal Organic Chemical Vapor Deposition;MOCVD)法により、有機金属材料を含むガスと酸化ガスとを高温中で反応させることで製造される。
【0003】
例えば特許文献1には、反応空間である反応室上部からシャワーヘッドを介して反応室内に有機金属原料と酸化ガス等を含む成膜ガスを導入し、加熱基板上でPZTを成膜する薄膜製造装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−56565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記構成の薄膜製造装置では、基板表面に均一な膜特性でPZT薄膜を形成することができないという問題がある。すなわち、成膜ガスに含まれる鉛(Pb)成分が他の金属(Zr,Ti)成分よりも蒸気圧が高いため、成膜温度に加熱された基板表面に形成される膜中のPb成分の再蒸発(気化)が起こりやすい。また、成膜ガスはシャワーヘッドによって基板表面に均一に供給されるが、基板中央部に供給された成膜ガスは基板周縁を通って排気されるため、基板周縁部上のガス中のPb濃度は、基板中央部で再蒸発した鉛成分が加わることで基板中央部上のガス中のPb濃度よりも高くなると予想される。その結果、基板に形成されるPZT薄膜は、基板周縁部の方が基板中央部よりもPb濃度が高くなり、面内において均一な膜組成及び膜特性を有するPZT薄膜を安定に形成することができないと考えられる。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、基板面内の膜組成及び膜特性を均一に保持することが可能な薄膜製造方法および薄膜製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る薄膜製造方法は、チャンバ内に設置されたステージ上に基板を搬送する工程を含む。
上記基板が加熱される。
上記ステージと対向するガス供給部から、蒸気圧の異なる複数の金属元素を含む第1の成膜用ガスを上記基板の中央に供給し、上記複数の金属元素を上記第1の成膜用ガスとは異なる組成比で含む第2の成膜用ガスを上記基板の周縁に供給することで、上記基板上に薄膜が製造される。
【0008】
本発明の一形態に係る薄膜製造装置は、チャンバと、ステージと、第1のガス供給部と、第2のガス供給部と、第1のガス供給ラインと、第2のガス供給ラインとを具備する。
上記ステージは、上記チャンバ内に設置され、基板を支持することが可能であり、上記基板を加熱するための加熱源を含む。
上記第1のガス供給部は、上記ステージ上の上記基板の中央に対向し、第1の成膜用ガスを上記基板の中央に供給することが可能である。
上記第2のガス供給部は、上記ステージ上の上記基板の周縁に対向し、第2の成膜用ガスを上記基板の周縁に供給することが可能である。
上記第1のガス供給ラインは、上記第1のガス供給部に接続され、蒸気圧の異なる複数の金属元素を含むように上記第1の成膜用ガスを生成し、上記第1の成膜用ガスを上記第1のガス供給部に供給することが可能である。
上記第2のガス供給ラインは、上記第2のガス供給部に接続され、上記複数の金属元素を上記第1の成膜用ガスとは異なる組成比で含むように上記第2の成膜用ガスを生成し、上記第2の成膜用ガスを上記第2のガス供給部に供給することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る薄膜製造装置の構成例を示す模式的な図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る薄膜製造装置の要部の構成例を示す模式的な図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るガスヘッドの構成を示す図であり、(A)は概略断面図、(B)は(A)の[A]−[A]方向の概略断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る実施例及び比較例において、形成されたPZT薄膜に含まれる金属元素の基板面内における組成比を示すグラフであり、横軸は基板上での位置を示し、縦軸は形成されたPZT薄膜中の各金属元素におけるモル濃度比を示す。
【図5】本発明の一実施形態に係る実施例及び比較例において、形成されたPZT薄膜における自発分極量の面内分布を示すグラフであり、横軸は基板上での位置を示し、縦軸は形成されたPZT薄膜の各位置に2Vの電圧を印加して分極反転させた際の自発分極量を示す。
【図6】本発明の一実施形態に係る実施例及び比較例において、形成されたPZT薄膜におけるリーク電流値の面内分布を示すグラフであり、横軸は基板上での位置を示し、縦軸は形成されたPZT薄膜の各位置に2Vの電圧を印加した際のリーク電流値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係る薄膜製造方法は、チャンバ内に設置されたステージ上に基板を搬送する工程を含む。
上記基板が加熱される。
上記ステージと対向するガス供給部から、蒸気圧の異なる複数の金属元素を含む第1の成膜用ガスを上記基板の中央に供給し、上記複数の金属元素を上記第1の成膜用ガスとは異なる組成比で含む第2の成膜用ガスを上記基板の周縁に供給することで、上記基板上に薄膜が製造される。
【0011】
上記薄膜製造方法においては、ガス供給部が基板表面に対して成膜用ガスを供給することで、成膜用ガス中の化合物が基板上に析出し、薄膜が形成される。ガス供給部からステージ上の基板の中央に供給された成膜用ガスは、基板の中央からその周縁に向かうガスの流れを形成する。一方、成膜用ガス中の比較的蒸気圧の高い物質は、基板上に固相として析出した後も再蒸発を起こし易い。したがって、基板の中央には常に新しいガスのみが供給されるのに対し、基板の周縁にはガス供給部から新しいガスが供給されると同時に、基板の中央で再蒸発した蒸気圧の高い物質を含むガス等が供給されることになる。さらに、成膜用ガス中に含まれる金属元素の化合物の濃度は成膜温度によって決まっているため、基板周縁において当該化合物の濃度が上昇すると、気体状態を保てずに固体として析出してしまう。
【0012】
そこで上記薄膜製造方法においては、ガス供給部から基板の中央に供給される成膜用ガスと、基板の周縁に供給される成膜用ガスとで、それぞれ異なる組成比の金属元素を含む。すなわち、基板周縁において、基板中央から再蒸発等された分による比較的蒸気圧の高い金属元素の濃度の増加を、ガス供給部から供給される当該金属元素の量を抑えることで調整する。これにより、基板の面内におけるガス濃度あるいはガス種の分布を最適化し、基板面内において均一な組成の薄膜を形成することが可能となる。
【0013】
上記複数の金属元素のうち蒸気圧が最も高い金属元素を第1の金属元素としたときに、上記第1の成膜用ガスは、上記複数の金属元素に対する上記第1の金属元素の濃度比が第1の濃度比で構成され、
上記第2の成膜用ガスは、上記複数の金属元素に対する上記第1の金属元素の濃度比が上記第1の濃度比よりも小さい第2の濃度比で構成される。
【0014】
複数の金属元素のうち蒸気圧が最も高い金属元素を第1の金属元素としたときには、上述のように、基板周縁のガス中において第1の金属元素の濃度が高くなると考えられる。したがって、基板周縁に供給される第2の成膜用ガス中の第1の金属元素の濃度を、基板中央に供給される第1の成膜用ガス中の当該濃度よりも小さくすることで、基板面内におけるガス中の第1の金属元素の濃度の分布を最適化することが可能となる。
【0015】
形成される薄膜は、例えばPZTであり、この場合の第1の金属元素としてPbが挙げられる。この例では、面内においてPb含有量の均一なPZT薄膜を形成することが可能であり、膜特性の面内均一化を実現し、歩留まりの向上に貢献することができる。
【0016】
本発明の一実施形態に係る薄膜製造装置は、チャンバと、ステージと、第1のガス供給部と、第2のガス供給部と、第1のガス供給ラインと、第2のガス供給ラインとを具備する。
上記ステージは、上記チャンバ内に設置され、基板を支持することが可能であり、上記基板を加熱するための加熱源を含む。
上記第1のガス供給部は、上記ステージ上の上記基板の中央に対向し、第1の成膜用ガスを上記基板の中央に供給することが可能である。
上記第2のガス供給部は、上記ステージ上の上記基板の周縁に対向し、第2の成膜用ガスを上記基板の周縁に供給することが可能である。
上記第1のガス供給ラインは、上記第1のガス供給部に接続され、蒸気圧の異なる複数の金属元素を含むように上記第1の成膜用ガスを生成し、上記第1の成膜用ガスを上記第1のガス供給部に供給することが可能である。
上記第2のガス供給ラインは、上記第2のガス供給部に接続され、上記複数の金属元素を上記第1の成膜用ガスとは異なる組成比で含むように上記第2の成膜用ガスを生成し、上記第2の成膜用ガスを上記第2のガス供給部に供給することが可能である。
【0017】
上記薄膜製造装置において、上記第1のガス供給部と上記第2のガス供給部とは、共通のガスヘッドで構成されてもよい。
具体的には、上記ガスヘッドは、
上記第1のガス供給ラインに接続される第1の空間部と、上記第2のガス供給ラインに接続され上記第1の空間部の周囲に形成される環状の第2の空間部とを有する本体と、
上記第1の空間部に導入された上記第1の成膜用ガスを上記ステージ上の上記基板の中央に向けて供給する第1のシャワーノズル部と、上記第2の空間部に導入された上記第2の成膜用ガスを上記ステージ上の上記基板の周縁に向けて供給する環状の第2のシャワーノズル部とを有する、上記本体に取り付けられたシャワープレートとを有してもよい。
【0018】
このことによって、上記薄膜製造装置の構成をいたずらに複雑化することなく、第1の成膜用ガスを基板の中央に、第2の成膜用ガスを基板の周縁にそれぞれ供給することが可能となる。
【0019】
上記薄膜製造装置は、上記第1のガス供給ラインと上記第2のガス供給ラインとに接続され、上記第1の成膜用ガスに含まれる上記複数の金属元素の組成比を第1の組成比とし、上記第2の成膜用ガスに含まれる上記複数の金属元素の組成比を上記第1の組成比とは異なる第2の組成比とすることが可能な制御部をさらに有してもよい。
【0020】
上記制御部は、例えば第1のガス供給ライン及び第2のガス供給ラインに配置される流量制御器と、当該流量制御器へ制御信号を出力するコントローラとを含む。上記制御部は、第1の成膜用ガス及び第2の成膜用ガスに含まれる複数の金属原料溶液または複数の金属原料ガス等の流量をそれぞれ調節する。これにより、第1の成膜用ガスと、第2の成膜用ガスとにそれぞれ含まれる上記複数の金属元素の組成比を容易に制御することが可能になる。
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0022】
[薄膜製造装置]
図1は、本発明の一実施形態に係る薄膜製造装置の構成例を示す模式的な図である。図2は、本実施形態に係る薄膜製造装置の要部の構成例を示す模式的な図であり、具体的には、第1のガス供給ラインに含まれる原料供給部の構成例を示す図である。薄膜製造装置100は、第1のガス供給ラインG1と、第2のガス供給ラインG2と、成膜室50とを有する。第1のガス供給ラインG1と第2のガス供給ラインG2とは、同様の構成を有しており、第1のガス供給ラインG1は、成膜室50内に第1の成膜用ガスを供給し、第2のガス供給ラインG2は、成膜室50内に第2の成膜用ガスを供給する。なお、薄膜製造装置100は、図示しないマルチチャンバ型成膜装置の一部として構成されている。
【0023】
(第1のガス供給ライン)
第1のガス供給ラインG1は、原料供給部10と、気化器20と、混合器30とを有し、さらにこれらに設けられた各配管及び各バルブ等により構成される。原料供給部10は、有機金属材料の有機溶媒溶液を供給する。気化器20は、有機溶媒溶液を気化して有機金属ガスを生成する。混合器30は、有機金属ガスと、有機金属ガスと反応する酸化ガスと、不活性ガスとを混合させて成膜用ガスを生成する。
【0024】
図2に示すように、原料供給部10は、有機金属の原料溶液及び溶媒が貯留されるタンクA1,B1,C1及びD1と、ヘリウムガス(He)を各タンクA1〜D1に供給するための配管11A,11B,11C,11Dと、キャリアガスを供給するための配管12と、配管11A〜11Dへ供給されるHeの流量をそれぞれ制御する流量制御器13A,13B,13C,13Dとを有する。各流量制御器13A〜13Dは、マスフローコントローラ(MFC)や流量制御弁等で構成され、後述するコントローラ90に有線あるいは無線を介して電気的に接続されている。
【0025】
各タンクA1〜D1に貯留された有機金属溶液及び溶媒は、Heが各タンク内へ供給される際の圧力によって、配管12に押し出される。配管12では、供給されるキャリアガスによって、有機金属溶液及び溶媒が気化器20に運搬される。流量制御器13A〜13Dは、配管11A〜11Dへ供給されるHeが所定の流量(圧力)となるように、当該Heガスの流量を制御する。これにより、配管11A〜11Dから配管12へ供給される各有機金属溶液及び溶媒が所定の流量にそれぞれ制御される。コントローラ90は、タンクA1〜D1内の溶液の流量が所定の割合となるように流量制御器13A〜13Dを制御する。
【0026】
本実施形態ではキャリアガスとして窒素(N2)が用いられるが、これに限られず、他の不活性ガスを用いることもできる。同様に、各タンクA1〜D1に供給されるガスもHeに限られず、他の不活性ガスを用いることもできる。
【0027】
本実施形態の薄膜製造装置100で製造される薄膜は、PZT薄膜である。このため、タンクA1〜D1には、PZTに含まれる金属元素であるPb、Zr、Tiを含む各有機金属溶液と、有機系の溶媒がそれぞれ貯留される。Pb、Zr及びTiの有機金属溶液としては、酢酸nブチル溶液が用いられる。また、それぞれのタンクA1〜C1には、各有機金属材料が0.25mol/Lの濃度で溶解している。
【0028】
Pbを含む有機金属材料としては、Pb(thd)2が用いられ、Zrを含む有機金属材料としては、Zr(dmhd)4が用いられる。またTiを含む有機金属材料としては、Ti(iPrO)2(thd)2が用いられる。タンクD1に貯留される溶媒としては酢酸nブチルが用いられる。
【0029】
溶媒に溶解される各有機金属材料は、上記のものに限られない。例えばPbについては、Pb(dmhd)2等を含む材料や、Pb(thd)2及びPb(dmhd)2を両方含む材料や、これらに安定化のためのアダクツを添加した材料などを用いることができる。またZrについては、Zr(iPrO)(thd)等や、これらを一部に含む材料を用いることができる。そしてTiについては、Ti(MMP)4等や、これらを一部に含む材料を用いることもできる。
【0030】
各有機金属原料を溶かす溶媒及びタンクD1に貯留される溶媒も、上記の酢酸nブチルに代えて、例えばオクタン、トルエン、テトラヒドロフロン(THF)、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、又はメチルシクロヘキサン等を用いることもできる。
【0031】
気化器20は、配管12を介して各有機金属溶液及び溶媒の液滴が搬送される。気化器20は図示しない加熱手段を有しており、搬送された有機金属溶液及び溶媒が加熱により気化され、これにより有機金属材料を含むガスが生成される。
【0032】
気化器20は、本実施形態のように有機金属溶液が複数の場合には、複数の溶液を混合して気化させることができる。なお気化効率を向上させるために、有機金属溶液及び溶媒の液滴にガスや超音波等を当てる方法や、微細ノズルを介して予め微細化された液滴を導入する方法等を併用することもできる。また、有機金属溶液が気化する際に発生する残渣や、気化していない液滴が混合器30等へ搬送されるのを抑制するために、パーティクル捕獲器を設けることも可能である。
【0033】
図1に示すように、気化器20には、混合器30に接続される供給用配管21と、排気システム40に接続される排気用配管22とが設けられる。供給用配管21にはバルブV1が設けられ、排気用配管22にはバルブV2が設けられる。
【0034】
混合器30は、気化器20により生成された有機金属ガスと、酸化ガス及び不活性ガスとを混合し、第1の成膜用ガスを生成するものである。そのため、混合器30には酸化ガス供給部31及び不活性ガス供給部32が接続されている。本実施形態では、酸化ガス供給部31によりO2(酸素)が供給され、不活性ガス供給部32によりN2が供給されるが、酸化ガスとして例えば一酸化二窒素やオゾン等が供給されることも可能である。また不活性ガスとして、アルゴン(Ar)等の供給も可能である。
【0035】
混合器30と成膜室50とは、配管33によって接続されている。配管33には、図示しないバルブを接続することもできる。また、配管33には、不純物を除去するためのVCR型パーティクル捕獲器等を接続することもできる。配管33は、後述する、ガスヘッド53の空間(第1の空間部)S1に接続されており、第1のガス供給ラインG1において生成された第1の成膜用ガスを空間S1に供給する。
【0036】
気化器20から成膜室50までの各ライン、各バルブ及び混合器30等を含む各装置は、気化したガスが液化等されないように、図示しない加熱機構により例えば200℃以上の高温状態に保たれる。
【0037】
(第2のガス供給ライン)
第2のガス供給ラインG2は、原料供給部60と、気化器70と、混合器80とを有し、さらにこれらに設けられた各配管及び各バルブ等により構成される。なお、第1のガス供給ラインG1と同様の構成を有する部分については詳細な説明を省略し、異なる点を中心に説明する。
【0038】
原料供給部60は、図2に示す原料供給部10と同様の構成である。すなわち、原料供給部60は、第1のガス供給ラインG1と同様の原材料を貯留することができるタンクA2〜D2と、Heが各タンクA2〜D2に供給される配管61A〜61Dと、キャリアガスが供給される配管62と、配管61A〜61Dへ供給されるHeの流量をそれぞれ制御する流量制御器63A〜63Dとを有する。
【0039】
各有機金属溶液は、タンクA2〜D2からキャリアガスによって配管62を介して気化器70へ運搬され、気化器70で気化する。これによって有機金属ガスが生成される。続いて、有機金属ガスが混合器80で酸化ガス及び不活性ガスと混合され、第2の成膜用ガスが生成される。生成された第2の成膜用ガスは、配管83を介して、後述するガスヘッド53の空間(第2の空間部)S2に供給される。
【0040】
気化器70には、供給用配管71と排気用配管72とが設けられ、排気用配管72は、本実施形態において第1のガス供給ラインG1と共通の排気システム40に接続される。なお、排気システム40に関しては、第1のガス供給ラインG1と別個に設けることも勿論可能である。
【0041】
コントローラ90は、第1のガス供給ラインG1と第2のガス供給ラインG2とにそれぞれ接続され、例えばCPU(Central Processing Unit)や、ROM(Read Only Memory)又はRAM(Random Access Memory)等からなるメインメモリ等を有するコンピュータで構成される。本実施形態において、コントローラ90は、有線あるいは無線を介して、配管11,61に設けられた各流量制御器13A〜13D、63A〜63Dに電気的に接続される。流量制御器13A〜13D、63A〜63Dは、コントローラ90によって配管11A〜11D、61A〜61Dへそれぞれ供給されるHeが所定の流量比となるよう設定されている。すなわち上述のように、コントローラ90は、配管12、62へ押し出されるPb,Zr及びTiを含む各有機金属溶液の流量を、Heの流量を介してそれぞれ制御する。
【0042】
本実施形態において、Pb,Zr及びTiを含む各有機金属溶液の流量の合計は、第1のガス供給ラインG1及び第2のガス供給ラインG2とでほぼ等しくなるように制御されている。ここで、第2のガス供給ラインG2におけるPbを含む有機金属溶液の流量は、第1のガス供給ラインG1における当該流量よりも所定量低くなるよう制御される。このことによって、第2の成膜用ガスに含まれる複数の金属元素Pb,Zr及びTiに対するPbのモル濃度比は、第1の成膜用ガスの当該モル濃度比よりも所定の値だけ低くなるよう調整される。具体的には、本実施形態において、第2の成膜用ガスのZr,Tiに対するPbのモル濃度比を、第1の成膜用ガスの当該モル濃度比の0.85倍以上0.95倍以下とすることができるが、勿論成膜条件等によって適宜設定可能である。
【0043】
また、コントローラ90は、流量制御器13A〜13D、63A〜63Dだけでなく、第1のガス供給ラインG1及び第2のガス供給ラインG2に含まれる各バルブ、加熱機構等を包括的に制御することも可能である。
【0044】
以上のような第1の成膜用ガス及び第2の成膜用ガスが成膜室50へ供給され、薄膜の製造が行われる。以下、成膜室50の構造について説明する。
【0045】
(成膜室)
成膜室50は、チャンバ51と、ステージ52と、ガスヘッド(ガス供給部)53とを有する。ステージ52は、基板Wを支持することが可能であり、チャンバ51内に配置される。ガスヘッド53は、ステージ52と対向するように配置され、第1の成膜用ガス及び第2の成膜用ガスをステージ52上の基板Wに供給することが可能である。またチャンバ51内には、図示しない防着板等の部品が洗浄済みの状態で配置される。
【0046】
ステージ52は、支持部材521を有し、さらに支持部材521は、基板Wを支持することが可能な支持板521aを有する。支持板521aの大きさ及び形状は特に制限されないが、所望の基板を支持できるよう構成される。例えば本実施形態において、基板Wは略円形の8インチ径基板(半径約100mm)である。よって、支持板521aは、半径が約105mmの略円形で構成される。支持板521aが基板Wを支持する方法は、特に制限されず、例えば静電チャック方式等を採用することができる。また、ステージ52は、図示しない駆動源によって、支持部材521を回転または昇降させるように構成されることも可能である。
【0047】
さらに、支持部材521の内部には、基板Wを加熱することが可能なヒータ(加熱源)Hが支持板521aに近接して配置されている。このため、支持板521aは、ヒータHからの熱を基板Wに効率的に伝えることができる材料で構成されており、例えばSiC(炭化ケイ素)、Si(窒化ケイ素)、カーボン等が採用される。これにより、基板Wが支持板521aとほぼ同じ温度に維持されることが可能となる。また、ヒータHとして、例えば抵抗加熱ヒータ等を採用することができる。
【0048】
ガスヘッド53は、本体530と、シャワープレート53aとを有し、本実施形態において、チャンバ51の天井面を構成する上蓋511に取り付けられている。以下、本実施形態に係るガスヘッド53の構成について説明する。
【0049】
図3は、本実施形態に係るガスヘッド53の構成を示す模式的な図であり、(A)は概略断面図、(B)は(A)の[A]−[A]方向の概略断面図である。ガスヘッド53は、全体として、支持板521aと同程度の半径R2を有する略円盤状に構成される。半径R2は、本実施形態において約105mmである。本体530は、内部に隔壁53bで区画された空間(第1の空間部)S1と空間(第2の空間部)S2とを有する。空間S1は、ガスヘッド53の中心からの半径がR1の略円盤状の空間を構成し、第1のガス供給ラインG1の配管33に接続される。ここで、R1はR2より小さく、例えば約70mmである。空間S2は、空間S1の周囲に隔壁53bを隔てて形成された環状の空間を構成し、第2のガス供給ラインG2の配管83に接続される。
【0050】
シャワープレート53aは、本体530の下端に取り付けられており、中心からの半径がR2の略円形の板状に構成されている。シャワープレート53aは、第1のシャワーノズル部N1と、第2のシャワーノズル部N2とを有し、全体として、均一な分布でガス供給用の孔が配置されたシャワーノズルを構成している。
【0051】
第1のシャワーノズル部N1は、空間S1に対応して形成され、支持板521aに配置された基板Wの中央に対向するように配置される。配管33を介して空間S1に供給された第1の成膜用ガスは、第1のシャワーノズル部N1を介して基板Wの中央に供給される。第2のシャワーノズル部N2は、空間S2に対応して形成され、支持板521aに配置された基板Wの周縁に対向するように配置される。配管83を介して空間S2に供給された第2の成膜用ガスは、第2のシャワーノズル部N2を介して基板Wの周縁に供給される。第1の成膜用ガスと第2の成膜用ガスとは、空間S1と空間S2とを区画する隔壁53bによって互いに混合せずに基板W上へ供給される。
【0052】
なお、本実施形態において、第1のシャワーノズル部N1と空間S1とが「第1のガス供給部」を構成し、第2のシャワーノズル部N2と空間S2とが「第2のガス供給部」を構成する。第1のガス供給部と第2のガス供給部とが共通のガスヘッド53で構成されることによって、成膜室50の構成をいたずらに複雑化することなく、第1の成膜用ガスを基板Wの中央に、第2の成膜用ガスを基板Wの周縁にそれぞれ供給することが可能となる。
【0053】
圧力調整バルブ41は、成膜室50の外部に配置され、チャンバ51と排気用配管42によって接続されている。このことから、チャンバ51内の圧力を適宜設定することで、様々な成膜圧力条件に容易に対応することが可能である。さらに、圧力調整バルブ41は、例えばドライポンプやターボ分子ポンプ等を備えた排気システム40に接続される。
【0054】
本実施形態において、排気用配管42は、基板Wを支持する支持板521aより下部で、チャンバ51に接続される。また、成膜工程中には、ガスヘッド53から基板W上に新しい成膜用ガスが供給されると同時に、反応副生成物や成膜中の薄膜から再蒸発したPb化合物などを含むガスは、排気用配管42を介して排気システム40へ排気される。このことにより、ガスヘッド53からステージ52の周囲を介して排気用配管42へ向かうガスの排気経路が形成される。すなわち、チャンバ51内において、ガスの流れは、基板Wの中央から周縁に向かうよう形成されることとなる。
【0055】
なお、圧力調整バルブ41、ヒータH等は、例えば上述したコントローラ90によって制御されるように構成されることも可能である。さらに、コントローラ90は、薄膜製造装置100全体の動作を制御するように構成されることが可能である。
【0056】
次に、以上のような薄膜製造装置100の動作について説明する。なお、第1のガス供給ラインG1と第2のガス供給ラインG2とは、同時に同様の動作を行うようにコントローラ90等によって制御されている。
【0057】
[薄膜製造装置の動作]
図1に示すHeの供給ライン11,61から各タンクA1〜D1、A2〜D2にHeが供給されると、各タンクA1〜D1、A2〜D2の内部圧力が上昇し、各タンクA1〜D1、A2〜D2に貯留されていた有機金属溶液及び溶媒がキャリアガス(N2)とともに配管12、62に押し出される。押し出された有機金属溶液及び溶媒の液滴は、それぞれの流量が所定の流量となるようコントローラ90で制御され、キャリアガスにより気化器20,70に運搬される。
【0058】
気化器20,70では、タンクD1,D2から押し出されキャリアガスにより運搬された溶媒による気化器20,70のノズルフラッシュが始まり、3分ほどで有機金属溶液及び溶媒を気化できる状態になる。この際、排気用配管22、72のバルブV2,Vが開けられ、溶媒の気化ガス及びキャリアガスは排気用配管22,72に捨てられる。
【0059】
予め、チャンバ51内には、NやAr等の不活性ガスが、不活性ガス供給部32,82から配管33,83を介して、例えば約2000sccmで流入している。これにより実際の成膜が開始する前に成膜圧力に調圧される。本実施形態において、成膜圧力は約2Torrである。
【0060】
基板Wがチャンバ51に搬送され支持板521a上に載置されると、ヒータHにより基板Wが加熱される。本実施形態では、基板Wの温度が600℃以上となるよう、コントローラ90等によって制御されている。基板Wの温度は3分程で所定の温度に落ち着く。
【0061】
基板Wの温度が収束する前に、気化器20,70の気化は、溶媒の気化から、成膜する流量に制御された有機金属溶液主体の気化に切り替わる(排気用配管22,72は開けられた状態を保持している)。
【0062】
チャンバ51内における基板Wやガスヘッド53等の温度が所定の温度に飽和すると、排気用配管22,72のバルブV2,Vが閉じられ、供給用配管21、71のバルブV,Vが開けられる。そして気化器20,70により気化された有機金属ガスが混合器30,80に供給される。
【0063】
混合器30,80では、気化器20,70から供給された有機金属ガスと、酸化ガスであるO2と、不活性ガスであるN2とが所定の混合比(モル濃度比)で混合され、それぞれ第1の成膜用ガスと第2の成膜用ガスとが生成される。混合比は、例えば成膜されるPZT薄膜の結晶配向を所期のものとするために適宜設定される。
【0064】
混合器30,80により生成された第1の成膜用ガスと第2の成膜用ガスとは、それぞれ配管33、83を介して空間S1、S2に供給される。そして、空間S1で拡散した第1の成膜用ガスは、第1のシャワーノズル部N1から基板Wの中央に供給される。同様に、空間S2で拡散した第2の成膜用ガスは、第2のシャワーノズル部N2から基板Wの周縁に供給される。
【0065】
第1の成膜用ガスおよび第2の成膜用ガスは、加熱された基板W上へ同時に供給され、PZT薄膜が基板W上に形成される。なお、成膜されるPZT薄膜の厚み、成膜レート等は適宜設定可能である。本実施形態において、第1の成膜用ガスと第2の成膜用ガスとは、基板Wの面上に均一な流量で供給されるよう、設定されている。
【0066】
成膜が終了すると、供給用配管21,71のバルブV1,Vが閉じられ、排気用配管22,72のバルブV2,Vが開けられる。従ってチャンバ51内の基板Wへの成膜用ガスの供給が停止され、成膜用ガスは排気用配管22,72に捨てられる。チャンバ51内には、ガスヘッド53から不活性ガス等が一定の時間(例えば60秒)流される。続いて、次の基板がチャンバ51内に搬送され、同様に成膜が行われる。
【0067】
以上のような構成の薄膜製造装置100に係るガスヘッド53は、第1の成膜用ガスが基板Wの中央に、第2の成膜用ガスが基板Wの周縁に供給されるよう、構成されている。そして、基板Wの中央に供給された第1の成膜用ガスは、基板Wの中央からその周縁に向かうガスの流れを形成する。
【0068】
一方、成膜用ガス中の金属元素のうち蒸気圧が最も高いPbの化合物は、基板W上に固相のPZT薄膜として析出した後も再蒸発を起こし易い。したがって、基板Wの中央では、常に新しい成膜用ガスのみが供給されるのに対して、基板Wの周縁では、新しい成膜用ガスが供給されるだけでなく、基板Wの中央から再蒸発したPb化合物等が供給される。その結果、基板Wの面内においてガス濃度あるいはガス種に分布が生じる。
【0069】
ここで、Pb化合物の成膜用ガス中の濃度は、基板Wの加熱温度によって決定される。このため、成膜用ガス中でこれらの化合物の濃度が高まると、気体状態を保持できず固体として薄膜上に析出してしまう。
【0070】
このことから、本実施形態の薄膜製造装置100では、第2の成膜用ガス中のPbの濃度を、第1の成膜用ガスよりも低くなるよう制御している。すなわち、基板W周縁において、基板Wの中央からのPb化合物等によるPb濃度の増加分を、新しく供給する第2の成膜用ガス中のPb濃度を抑制することによって調整することが可能である。具体的には、本実施形態において、第2の成膜用ガスのZr,Tiに対するPbのモル濃度比は、第1の成膜用ガスの当該モル濃度比の0.85倍以上0.95倍以下である。このような第1の成膜用ガス及び第2の成膜用ガスによって、基板W上のガス中におけるPb化合物の濃度を面内均一に保持することが可能となる。その結果、基板Wの周縁に高濃度に分布するPb化合物の析出を抑制でき、基板Wの面内において均一なPZT薄膜を形成することができる。
【0071】
<実施例>
以下、本実施形態の実施例について説明する。実施例は、上述のように、基板中央に第1の成膜用ガスを供給し、基板周縁に第2の成膜用ガスを供給した例である。比較例は、基板の全面に第1の成膜用ガスと同一の組成の成膜用ガスを供給した例である。実施例、比較例のいずれも、チャンバ内の圧力は2Torrとなるよう制御されており、基板として、シリコン基板上に、二酸化ケイ素(SiO)膜を100nm、イリジウム(Ir)膜を70nm形成した8インチ径の基板を用いた。
【0072】
表1は、実施例及び比較例に係る成膜用ガスがそれぞれ生成されるガス供給ラインにおける、原料供給部から気化器へ運搬される各有機金属溶液のそれぞれの流量を示している。表1より、実施例の第2の成膜用ガスを生成する際のPbを含む有機金属溶液の流量は、第1の成膜用ガスにおける当該流量よりも0.013ml/minだけ低く制御される。一方、第1の成膜用ガス及び第2の成膜用ガスを生成する際のPb,Zr及びTiを含む有機金属溶液の合計は、それぞれ0.621ml/min、0.622ml/minで、ほぼ等しい値となっている。このことから、それぞれのガス供給ラインにおいて生成される成膜用ガスの総量はほぼ変わらないが、それらに含まれる複数の金属元素の組成比は異なっている。
【0073】
【表1】

【0074】
表2は、表1に示される条件を用いて生成された各成膜用ガス中に含まれる金属元素のモル濃度比をそれぞれ示している。表2より、Zr及びTiのモル濃度に対するPbのモル濃度の比について、実施例の第2の成膜用ガスは、第1の成膜用ガスの約0.92(1.1/1.2)倍である。このことから、基板周縁に供給される第2の成膜用ガスにおけるPb濃度は、基板中央に供給される第1の成膜用ガスにおけるPb濃度よりも低い。一方、対照として示したZr及びTiのモル濃度に対するZrのモル濃度の比は、いずれの成膜用ガスについても等しい。
【0075】
【表2】

【0076】
図4は、以上のような条件の実施例および比較例に係る成膜用ガスを用いて、基板上に形成されたPZT薄膜に含まれる金属元素の基板面内における組成比を示すグラフである。横軸は、基板の中心を0mmとした際の、基板中心を通る直線上での位置を示しており、縦軸は、形成されたPZT薄膜中の各金属元素におけるモル濃度比を示している。また、Pb/(Zr+Ti)はZr及びTiのモル濃度に対するPbのモル濃度の比を示し、Zr/(Zr+Ti)はZr及びTiのモル濃度に対するZrのモル濃度の比を示している。
【0077】
また、各元素の組成比の測定は、基板面内の以下の5点で行った。すなわち、基板の中心(「基板中央」)と、基板中心からの半径が約50mmの円周上の2箇所と、基板中心からの半径が約90mmの円周上の2箇所(「基板周縁」)とである。
【0078】
図4より、比較例におけるPb/(Zr+Ti)は、基板中央より基板周縁で若干の上昇が認められる。一方、実施例においては、基板面内でほぼ均一なモル濃度比であることが示された。なお、対照として、成膜条件下でPbより蒸気圧が低いZrの薄膜中のモル濃度比(Zr/(Zr+Ti))についてのデータも示している。
【0079】
この結果は、以下のように考えられる。まず、基板面内均一な成膜用ガスを用いた比較例の場合は、基板中央から基板周縁へのガス流れによって、基板周縁上の成膜用ガスにおけるPb化合物の濃度が高まると考えられる。したがって、基板周縁の気相中におけるPb化合物が気体状態を保てずに、薄膜として析出してしまう。この結果、基板周縁において基板中央よりもPbの濃度が高い膜組成になってしまう。
【0080】
一方、実施例の場合は、基板周縁において、基板中央から供給される第1の成膜用ガスよりもPb濃度が低い第2の成膜用ガスを用いている。このことから、基板周縁におけるガスのPb化合物の濃度が基板中央と同程度に最適化され、基板上のガス中におけるPb濃度の分布が面内で均一となる。その結果、基板周縁においても、Pb化合物が薄膜に過剰に析出せず、基板面内で均一な膜組成となる。したがって、本実施形態に係る薄膜製造方法および薄膜製造装置によって、基板面内で膜組成が一定のPZT薄膜が製造されることが示された。
【0081】
図5は、上記実施例、比較例において、形成されたPZT薄膜における自発分極量の面内分布を示すグラフである。横軸は図4と同様に基板上での位置を示し、縦軸は、形成されたPZT薄膜の各位置に2Vの電圧を印加して分極反転させた際の自発分極量を示している。なお、測定は、図4と同様の5点にて行った。
【0082】
また、図6は、上記実施例、比較例において、形成されたPZT薄膜におけるリーク電流値の面内分布を示すグラフである。横軸は図4と同様に基板上での位置を示し、縦軸は、形成されたPZT薄膜の各位置に2Vの電圧を印加した際のリーク電流の値を示している。なお、測定は、図4と同様の5点にて行った。
【0083】
図5より、比較例では、基板中央よりも基板周縁において自発分極量が低くなることが示された。一方、実施例では、基板面内でほぼ一定で、かつ高い値で自発分極が起こることが示された。また、図6より、比較例では、基板中央よりも基板周縁においてリーク電流値が高くなることが示された。一方、実施例では、基板面内でほぼ一定で、かつリーク電流値が低いことが示された。
【0084】
図5および図6の結果は、次のように考えられる。まず、上述のように、基板周縁にはガスヘッドから新しいガスが供給されるのと同時に、基板中央から再蒸発したPb化合物等や、反応副生成物と呼ばれるガスも供給される。このことから、基板面内で同一の組成の成膜用ガスを用いる比較例の場合は、基板周縁上においてこれらのガス中の濃度が高まり、気体状態を保てずに基板周縁に固体として析出すると考えられる。これにより、過剰なPb等が基板周縁の薄膜の表面やPZT結晶粒界に残存し、膜表面の荒れ等を引き起こす。その結果、特に基板周縁ではPZT薄膜としての所望の強誘電特性が得られなかった。
【0085】
一方、実施例の場合は、第2の成膜用ガスによって、基板面内でガス中のPb化合物濃度が均一となるように調整されているため、基板周縁の薄膜にも過剰なPb等が析出せず、膜表面の荒れが起こらないと考えられる。また、PZT結晶粒界にも影響を及ぼさない。その結果、基板面内で均一な膜特性が得られ、PZT薄膜としての所望の強誘電特性が面内で均一に得られた。
【0086】
以上の結果より、本実施形態に係る薄膜製造方法および薄膜製造装置によって、表1、表2に示す条件の成膜用ガスを用いてPZT薄膜を製造した際、8インチ径基板のような大口径基板であっても、基板面内で均一な膜組成、膜特性を得ることができた。一般的には、成膜条件としての供給ガス濃度、温度等のパラメータは基板面内均一に構成する。しかしながら、発明者らは、蒸気圧の高い化合物における気体と固体(薄膜)との熱平衡状態に着目し、成膜用ガスの流れの上流である基板中央と下流である基板周縁とでは当該化合物の濃度が異なると考えた。これによって、基板面内に供給される成膜用ガスの組成を均一に制御するのではなく、基板周縁のPb濃度を基板中央よりも低く制御するといった、基板面内で不均一な成膜条件をあえて導入している。このことによって、上述のように従来技術と比較して飛躍的な作用効果を生み出すことができた。
【0087】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0088】
以上の実施形態では、コントローラ(制御部)が、原料供給部から気化器へ運搬される各有機金属溶液の流量を制御することによって成膜用ガスの各金属元素の組成比を制御すると説明したが、これに限られない。例えば、各有機金属溶液によって異なる気化器を用い、気化器から混合器へ運搬される各有機金属ガスの流量を制御することによって当該組成比を制御することも可能である。また、原料供給部の各タンクに貯留される各有機金属溶液の濃度を調整することによっても、当該組成比を制御することが可能である。
【0089】
以上の実施形態では、第1のガス供給部と第2のガス供給部とが、同一のガスヘッドを構成すると説明したが、これに限られない。例えば、第1のガス供給部が、基板の中央に対向する円盤状の第1のガスヘッドを構成し、第2のガス供給部が、基板の周縁に対向する環状(ドーナツ状)の第2のガスヘッドを構成することも可能である。また、第1のガス供給部と第2のガス供給部とがガスヘッドではなく、例えば同心円状等に配置され、複数のガス供給孔を有する配管等でそれぞれ構成されることも可能である。
【0090】
以上の実施形態では、PZT薄膜を製造するとして説明したが、勿論これに限られない。薄膜を形成する際に、所定の成膜条件下で蒸気圧が高く、基板周縁において再析出を生じるような化合物が含まれる場合は、本発明を適用することが可能である。例えば、MOCVD法でよく用いられる金属元素として、ガリウム(Ga)が挙げられるが、GaもPbと同様、高温下で蒸気圧が高い。よって、例えば、発光素子等に用いられる窒化ガリウム系の薄膜を形成する際は、本発明を適用することによって、基板面内に均一な薄膜を形成できると考えられる。
【0091】
以上の実施形態では、8インチ径の基板を用いたが、これに限られない。本発明は、例えば、6インチ径以上の大型の基板で特に効果を発揮することができる。また、基板の形状は円形に限られず、矩形でも可能である。
【0092】
また、本実施形態では、有機金属材料を用いたMOCVD法について説明したが、これに限られない。例えば、チャンバ内に有機金属ガスに限られない化合物ガス等を供給し、基板を加熱しながら薄膜を形成する熱CVD法においても本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0093】
10,60…原料供給部
20,70…気化器
30,80…混合器
40・・・排気システム
50・・・成膜室
51…チャンバ
52・・・ステージ
53・・・ガスヘッド(ガス供給部)
53a・・・シャワープレート
530・・・本体
90・・・コントローラ(制御部)
100…薄膜製造装置
W…基板
G1・・・第1のガス供給ライン
G2・・・第2のガス供給ライン
S1・・・空間(第1の空間部)
S2・・・空間(第2の空間部)
N1・・・第1のシャワーノズル部
N2・・・第2のシャワーノズル部
H・・・ヒータ(加熱源)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内に設置されたステージ上に基板を搬送し、
前記基板を加熱し、
前記ステージと対向するガス供給部から、蒸気圧の異なる複数の金属元素を含む第1の成膜用ガスを前記基板の中央に供給し、前記複数の金属元素を前記第1の成膜用ガスとは異なる組成比で含む第2の成膜用ガスを前記基板の周縁に供給することで、前記基板上に薄膜を製造する
薄膜製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の薄膜製造方法であって、
前記複数の金属元素のうち蒸気圧が最も高い金属元素を第1の金属元素としたときに、
前記第1の成膜用ガスは、前記複数の金属元素に対する前記第1の金属元素の濃度比が第1の濃度比で構成され、
前記第2の成膜用ガスは、前記複数の金属元素に対する前記第1の金属元素の濃度比が前記第1の濃度比よりも小さい第2の濃度比で構成される
薄膜製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の薄膜製造方法であって、
前記薄膜は、チタン酸ジルコン酸鉛であり、
前記第1の金属元素は、Pbである
薄膜製造方法。
【請求項4】
チャンバと、
前記チャンバ内に設置され、基板を支持することが可能であり、前記基板を加熱するための加熱源を含むステージと、
前記ステージ上の前記基板の中央に対向し、第1の成膜用ガスを前記基板の中央に供給することが可能な第1のガス供給部と、
前記ステージ上の前記基板の周縁に対向し、第2の成膜用ガスを前記基板の周縁に供給することが可能な第2のガス供給部と、
前記第1のガス供給部に接続され、蒸気圧の異なる複数の金属元素を含むように前記第1の成膜用ガスを生成し、前記第1の成膜用ガスを前記第1のガス供給部に供給することが可能な第1のガス供給ラインと、
前記第2のガス供給部に接続され、前記複数の金属元素を前記第1の成膜用ガスとは異なる組成比で含むように前記第2の成膜用ガスを生成し、前記第2の成膜用ガスを前記第2のガス供給部に供給することが可能な第2のガス供給ラインと
を具備する薄膜製造装置。
【請求項5】
請求項4に記載の薄膜製造装置であって、
前記第1のガス供給部と前記第2のガス供給部とは、共通のガスヘッドで構成される
薄膜製造装置。
【請求項6】
請求項5に記載の薄膜製造装置であって、
前記ガスヘッドは、
前記第1のガス供給ラインに接続される第1の空間部と、前記第2のガス供給ラインに接続され前記第1の空間部の周囲に形成される環状の第2の空間部とを有する本体と、
前記第1の空間部に導入された前記第1の成膜用ガスを前記ステージ上の前記基板の中央に向けて供給する第1のシャワーノズル部と、前記第2の空間部に導入された前記第2の成膜用ガスを前記ステージ上の前記基板の周縁に向けて供給する環状の第2のシャワーノズル部とを有する、前記本体に取り付けられたシャワープレートとを有する
薄膜製造装置。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の薄膜製造装置であって、
前記第1のガス供給ラインと前記第2のガス供給ラインとに接続され、前記第1の成膜用ガスに含まれる前記複数の金属元素の組成比を第1の組成比とし、前記第2の成膜用ガスに含まれる前記複数の金属元素の組成比を前記第1の組成比とは異なる第2の組成比とすることが可能な制御部をさらに有する
薄膜製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−105832(P2013−105832A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247468(P2011−247468)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】