説明

薄膜製造方法および装置

【課題】真空中における薄膜堆積中に、チャンバー内壁堆積物の内部まで確実かつ効率的に酸化処理し、大気解放後の反応を抑制すること。
【解決手段】チャンバー1、真空ポンプ2、巻き出しロール3、搬送ロール4、巻き取りロール5、蒸着ロール6、蒸発源7、電子銃8、シャッター9(閉じた状態)、マスク10、紫外光源ユニット11、ガス供給配管12、基板フィルム13を含む真空蒸着装置100において、シャッター9を開いて基板フィルム13を、巻出しロール3と巻き取りロール5の間を往復させて繰り返し蒸着する途中において、シャッター9を閉じ、ガス供給配管12から酸素あるいはオゾンガスを供給し、紫外光源ユニット11から紫外線をマスク10に照射することによって、マスク10に付着した堆積物を酸化処理することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜の製造方法に関する。より詳しくは、大気と反応する薄膜の製造方法および装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯機器の小型化や多機能化が進み、携帯機器の消費電力量が増加するのに伴って、携帯機器の電源としての二次電池の高容量化が切望されている。この二次電池には、主にリチウムイオン二次電池が使用されている。現在、リチウムイオン二次電池において、負極活物質として炭素材料が主に使用されている。炭素材料の理論容量は372mAh/gである。炭素材料よりも高容量化が可能な活物質として、理論容量が4200mAh/gであるシリコンが有望視されている。したがって、シリコンを含む負極活物質について種々の検討がなされている。
【0003】
従来の活物質成分を含む粒子を使用して塗工法によって活物質層を形成する場合、結着剤や導電材等の活物質以外の成分を混入する必要があるため、活物質層の体積あるいは質量あたりの充放電容量が制限されてしまうという問題があった。一方、真空蒸着法等でシリコン等の活物質層を堆積すると、上記の問題を回避して、充放電容量を最大化することができる(例えば特許文献1参照)。また、シリコン以外の負極活物質や正極活物質においても同様の検討が広く行われている。
【0004】
しかしながら、真空蒸着法等でシリコンを含む活物質層を形成する場合、その堆積厚みは10μm以上になることがあり、蒸着後、装置の内壁に大量のシリコンを含む堆積物が残ることがある。このような状態で蒸着装置を大気解放すると、上記堆積物と大気中の酸素や水分が反応し、急激に温度上昇する等の問題が生じることがある。シリコン以外の活物質材料においても、大気との反応が問題になることがあり、対策が必要となっている。
【0005】
このような問題に対処する方法および装置としては、堆積終了後、大気解放前に酸素を含むガスや水蒸気等とプラズマ、紫外光源等の励起源を組み合わせて内壁の酸化処理を行い、大気解放後の反応を抑制することが行われている(例えば、特許文献2、3参照)。さらに、堆積中においても、同様の酸化処理を行うことができる(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−196970号公報
【特許文献2】特開平6−249583号公報
【特許文献3】特開2008−140864号公報
【特許文献4】特開昭61−075515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来の手法では、堆積終了後に酸化処理を行う場合、本来の堆積プロセス後に余分な処理時間が必要になり、また、堆積物が厚い場合には内部まで酸化処理を行うのが困難、あるいは非常に時間がかかるという問題があった。また、堆積中に酸化処理を行う場合、蒸発源の劣化等、堆積プロセスに悪影響を与えないようにするためには、真空度を維持するために酸化処理用のガスを多量に流すことができず、酸化処理の効率が低いという問題があった。さらに、堆積プロセスによって、酸化処理用のガス吹き出しノズル、励起源に堆積物が付着し、酸化処理を安定して行うことができないという問題もあった。
【0008】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、前記堆積物の酸化処理を堆積中に効率的に行い、かつ堆積物内部まで酸化処理することで、大気解放後の反応を抑制する手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決すべく、本発明は、チャンバーと、真空ポンプと、蒸発源と、成膜面と、ガス供給ノズルと、励起源と、シャッターを含み、前記シャッターは開閉式で、蒸発源と前記成膜面との間に配置されている、蒸着装置を用いて薄膜を製造する方法であって、前記製造途中において、前記シャッターの開閉によって前記薄膜の前記成膜面への堆積を中断し、前記中断中に、前記材料が堆積する前記チャンバー内壁に前記ガス供給ノズルから酸素原子を含むガスを供給するとともに、前記供給ガスを前記励起源で励起することによって、前記チャンバー内壁の堆積物を酸化処理することを特徴とする薄膜の製造方法とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の薄膜製造装置および方法によれば、真空中における薄膜堆積中に、チャンバー内壁堆積物の内部まで確実かつ効率的に酸化処理し、大気解放後の反応を大幅に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1における薄膜製造装置100の構成を模式的に示す縦断面図
【図2】本発明の実施の形態2における薄膜製造装置200の構成を模式的に示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における薄膜製造装置100の構成を模式的に示す縦断面図である。図1において、真空蒸着装置100は、チャンバー1、真空ポンプ2、巻き出しロール3、搬送ロール4、巻き取りロール5、蒸着ロール6、蒸発源7、電子銃8、シャッター9(閉じた状態)、マスク10、紫外光源ユニット11、ガス供給配管12、基板フィルム13を含む。
【0014】
真空蒸着装置100は、マスク10に照射できる紫外光源ユニット11と、ガス供給配管12を有することを特徴とする。シャッター9は水平方向左右に開閉することにより、蒸発源7から蒸発した材料の放出を制御することができる。蒸着ロール6表面の蒸着領域は、マスク10により規制される。また、シャッター9を閉じた状態では、蒸発源7および電子銃8が囲われた領域を真空ポンプ2で排気することになる。
【0015】
かかる構成によれば、シャッター9を開いて基板フィルム13を、巻出しロール3と巻き取りロール5の間を往復させて繰り返し蒸着する途中において、シャッター9を閉じ、ガス供給配管12から酸素あるいはオゾンガスを供給し、紫外光源ユニット11から紫外線をマスク10に照射することによって、マスク10に付着した堆積物を酸化処理することができる。酸化処理中は、チャンバー1内の酸素あるいはオゾンの分圧が高くなって真空度が低下するが、シャッター9で囲われた蒸発源7および電子銃8の領域を優先的に真空ポンプ2で排気する状態となるため、蒸発源7および電子銃8の周囲の真空度低下が抑制され、蒸発源7および電子銃8の酸化による劣化を防ぐことができる。
【0016】
なお、本実施の形態において、堆積物の酸化処理用の励起源として紫外光源ユニット11を設けたが、プラズマ源、イオン源、ラジカル源等としても良い。また、ガス供給配管12から供給するガスは、酸素、オゾン以外でも、酸化反応を起こすガスであれば、他の組成でもよい。蒸発源7は、電子ビーム8によって加熱しているが、通電加熱、誘導加熱等でもよい。
【0017】
(実施の形態2)
図2は、本発明の実施の形態2における薄膜製造装置200の構成を模式的に示す縦断面図である。図2において、図1と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0018】
図2において、シャッター9を開いた状態で紫外光源11を囲う遮蔽板13を含む。紫外光源ユニット11は、シャッター9上に配置され、シャッター開閉動作とともに移動する。ガス供給配管12は、紫外光源ユニット11とともに移動できるように、柔軟な配管材料を用いている。
【0019】
かかる構成によれば、実施の形態1と同様に、シャッター9を閉じた状態で、ガス供給配管12から酸素あるいはオゾンガスを供給し、紫外光源ユニット11から紫外線をマスク10に照射することによって、マスク10に付着した堆積物を酸化処理することができる。シャッター9を開いて成膜を行う状態では、シャッター9および紫外光源11は点線の位置に移動しており、紫外光源11は、遮蔽板13とシャッター9に囲われた領域に入るため、堆積物の付着による性能低下を防止することができる。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明する。
【0021】
(実施例1)
薄膜製造装置100を用いて、リチウムイオン二次電池用シリコン電極を製造した。まず、チャンバー1を、真空ポンプ2により1×10−4Paまで排気した。活物質原料としては、純度99.9999%のシリコン単体((株)高純度化学研究所製)を用いた。この活物質原料を蒸発源7に収容し、電子銃8から電子ビームを照射し、シリコンの蒸発粒子を生成させた。
【0022】
厚み35μmの粗面化銅箔からなる基板13を巻出しロール3から巻出し、蒸着ロール6を通過させて巻き取りロール5に走行させる間、シャッター9を開いてシリコン薄膜を蒸着し、シャッター9を閉じた。シャッター9を閉じている間に、2ヶ所のガス供給配管12に酸素ガスを1SLMずつ流し、紫外光源ユニット13を点灯するとともに、紫外光源ユニット13内部から酸素ガスをチャンバー1に流した。この状態で5分間保持し、マスク10に付着した堆積物の酸化処理を行った。処理中のチャンバー1の真空度は1×10−1Paであった。
【0023】
酸化処理終了後、酸素ガスを止め、紫外光源を消灯して基板13を巻き取りロール5から巻出しロール3に向かって走行させ、シャッター9を開いて再び蒸着を行った。
【0024】
同様の行程を繰り返し、基板13を5往復走行させて蒸着し、その合間に酸化処理を行った。
【0025】
(実施例2)
薄膜製造装置200を用いて、実施例1と同様に往復走行蒸着を行い、その合間に酸化処理を行った。薄膜製造装置200では、シャッター9を開いて蒸着を行っている間、紫外光源11は遮蔽板13とシャッター9に囲まれた領域に格納されるために堆積物がほとんど付着せず、繰り返し蒸着を行っても紫外光源表面の汚染による光量低下によって酸化処理性能が劣化することが無かった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の製造方法および装置は、リチウムイオン二次電池用電極の製造に利用できるだけでなく、蒸着膜を含む各種電子機器の製造にも好適に利用できる。
【符号の説明】
【0027】
1 チャンバー
2 真空ポンプ
3 巻出しロール
4 搬送ロール
5 巻き取りロール
6 蒸着ロール
7 蒸発源
8 電子銃
9 シャッター
10 マスク
11 紫外光源ユニット
12 ガス供給配管
13 基板フィルム
100 薄膜製造装置
200 薄膜製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバーと、真空ポンプと、蒸発源と、成膜面と、ガス供給ノズルと、励起源と、シャッターを含み、前記シャッターは開閉式で、蒸発源と前記成膜面との間に配置されている、蒸着装置を用いて薄膜を製造する方法であって、前記製造途中において、前記シャッターの開閉によって前記薄膜の前記成膜面への堆積を中断し、前記中断中に、前記材料が堆積する前記チャンバー内壁に前記ガス供給ノズルから酸素原子を含むガスを供給するとともに、前記供給ガスを前記励起源で励起することによって、前記チャンバー内壁の堆積物を酸化処理することを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記供給ガスを励起する方法が、プラズマ源、イオン源、ラジカル源、紫外光源のうち少なくとも1つ以上を使用する方法であることを特徴とする請求項1記載の薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記供給ガスがオゾンを含むことを特徴とする請求項1乃至2記載の薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記堆積物がシリコンを含むことを特徴とする請求項1乃至3記載の薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記シャッターを閉じることによって、前記チャンバー内において、前記蒸発源と前記成膜面を含む領域を仕切り、前記成膜面を含む領域側にのみ前記ガス供給ノズルから酸素を含むガスを供給することによって、前記成膜面を含む領域のガス圧力を優先的に上昇させることを特徴とする請求項1乃至4記載の薄膜の製造方法。
【請求項6】
チャンバーと、真空ポンプと、蒸発源と、成膜面と、ガス供給ノズルと、励起源と、シャッターを含み、前記シャッターは開閉式で、蒸発源と前記成膜面との間に配置されている、薄膜を蒸着する製造装置であって、前記シャッターを閉じることによって、前記チャンバー内において、前記蒸発源と前記成膜面を含む領域を仕切る構造であり、前記ガス供給ノズル及び前記励起源が、前記シャッターの前記成膜面を含む領域側の面上に配置されていることを特徴とする薄膜の製造装置。
【請求項7】
チャンバーと、真空ポンプと、蒸発源と、成膜面と、ガス供給ノズルと、励起源と、シャッターを含み、前記シャッターは開閉式で、蒸発源と前記成膜面との間に配置されている、薄膜を蒸着する製造装置であって、前記ガス供給ノズル及び前記励起源が、前記シャッターを開いて、前記成膜面への蒸着を行うときに、前記チャンバー内で、前記蒸発源から蒸発した材料の堆積を防止するための囲われた領域に格納されることを特徴とする薄膜の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−197477(P2012−197477A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61957(P2011−61957)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】