説明

薄膜試料熱物性測定装置および方法

【課題】
薄膜試料測定上の特徴を有する熱物性顕微鏡、すなわち薄膜試料熱物性測定装置の操作をより簡便にして使い勝手をよくする。
【解決手段】
可変の加熱周波数に対する熱反射信号との位相差を模式的に示す曲線であって、該曲線が変曲部分を持つ参照用の加熱周波数−加熱周波数に対する熱反射信号の位相差を示す画面が基板における既知の熱浸透率に対し熱浸透率の小さい薄膜試料,熱浸透率の大きな薄膜試料および熱浸透率の不確定な薄膜試料のいずれかを画面上の指定項目で指定することによって指定に対応してそれぞれ表示され、かつ該画面には試料名,基板名,変曲点,熱浸透率,熱伝導率および単位体積当たりの熱容量が表示される画像表示装置を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周期加熱法あるいは熱反射法を用いて薄膜試料の熱浸透率を測定する装置および方法に関し、特に熱物性顕微鏡を用いて測定試料の微小領域に加熱用レーザビームと測定用レーザビームを集光させ、測定用レーザビームの反射光を検出して薄膜試料の熱浸透率を算出する微小領域熱物性測定装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本件特許出願人は、特許文献1に示す特許出願を行い、特許第3294206号として登録を受けた。特許文献1には、試料表面に金属薄膜を形成し、該金属薄膜を通して前記試料表面を加熱する加熱用レーザビームを発する加熱用レーザと、
該加熱用レーザビームを交流変調する変調器と、
加熱した試料表面に照射する測温用レーザビームを発する測温用レーザと、
前記両レーザビームを前記試料表面のほぼ同一位置に集光させる顕微鏡光学系と、
前記測温用レーザビームの反射光を検出する手段と、
前記検出された反射光に基づいて試料の熱物性値を算出する手段とを備え、
前記測温用レーザビームの反射光強度変化の加熱用レーザビームを強度変化に対する位相遅れ(相対強度)から熱物性値を算出することを特徴とする微小領域熱物性測定装置が記載されている。
【0003】
また、本件特許出願人は、特許文献2に示す特許出願を行った。特許文献2には、レーザー熱物性顕微鏡を用いて基板の熱物性値が既知の薄膜材料の薄膜の特性時間に対する加熱光変調周波数Hと位相遅れδの関係(δ−H曲線)を測定するステップと、
前記ステップにおいて極大値又は極小値を持つδ−H曲線を求めるステップと、
前記極大値又は極小値を持つδ−H曲線から極値をとる点における位相遅れを求めるステップと、
予め計算された熱浸透率比と極値をとる点における位相遅れの関係を用いて、前記ステップで求めた位相遅れから熱浸透率比を求めるステップと、
から成る薄膜熱物性測定法が記載されている。
【0004】
そして、これらの特許文献には、薄膜熱性測定法を実施する装置構成の概念図が記載されている。
【0005】
非特許文献1には次のような事項が記載されている。すなわち、この文献には、
「被測定物に金属薄膜が施されたFigure1のようなモデルを考える。κ,b,dおよびbはそれぞれ、金属薄膜の熱拡散率,熱浸透率,膜厚および被測定物の熱浸透率である。表面に角周波数がωである正弦変調を受けた加熱光を照射すると、表面の温度応答は加熱光に対しある位相遅れを伴った周期的な応答を示す。周期加熱F(t)は次式により与えられるとする。
【0006】

【0007】
ここで、1次元的な熱拡散を仮定した場合、表面温度応答T(t)は以下のように解かれている。
【0008】

【0009】



【0010】


【0011】


【0012】
ここで、δは周期加熱に対する表面温度応答の位相遅れを表す。
【0013】
温度波の位相は、加熱部に強度一定の検出光を照射し、金属薄膜の反射率変化を測定することで求めることができる。したがって、金属薄膜の膜厚および熱物性値が既知であれば、位相遅れδから被測定物の熱浸透率を得ることができる。
【0014】
薄膜表面を周期的に加熱することにより生ずる温度波が、1周期の間に拡散する距離を熱拡散長、Lthと呼び、次式で表される。
【0015】

【0016】
ここで,λは熱伝導率、bは熱浸透率、fは加熱周波数、Cは薄膜の比熱容量、およびρは薄膜の密度である。熱拡散長が薄膜厚さよりも長ければ、1周期の間に熱は薄膜を通過してしまうことを示している。ガラス状のSiOについて、熱拡散長と加熱周波数の関係をFigure2に示す。およそ300kHz以上の周波数において熱拡散長は1μm以下となることが分かる。したがって、高速の加熱周波数を使用することで、サブマイクロメーターの膜厚における熱浸透率測定が可能である。
【0017】
SiO薄膜における、変調周波数に対する位相遅れの測定結果をFigure5に示す。2MHzにおける位相遅れは、SiO膜の膜厚によらずほぼ一定の値を示す。2MHzにおける位相遅れ値から(3)式を用いて求めたそれぞれの膜厚における熱浸透率値をTable1に示す。
【0018】
得られた熱浸透率値は、膜厚1500nmと600nmにおいて一致するが、400nmでは約20%高い値を示した。またこれらの値はSiOガラスより高く、石英よりは低い。Figure6にSiO薄膜のXRD測定の結果を示す。この結果から、SiO膜はα−Crystbalite相の多結晶膜であることがわかり、非晶質のSiOガラスより高い熱浸透率を示したものと考えられる。
【0019】
一方、変調周波数の低下にともない位相遅れの値は緩やかに減少するが、膜厚1500nmでは約200kHz、600nmでは約1.1MHzを境にし、それ以下の周波数において傾きの減少が急峻になることが分かる。これは、上記の周波数より小さくなると熱拡散長がSiO薄膜を通過し、MgO基板に達することが原因と考えられる。このことを明らかにするために、2MHzにおいて求めた熱浸透率値から(6)式を用いて、熱拡散長がそれぞれの膜厚に達する変調周波数fLthを決定する。計算に必要な比熱容量および密度の値はCristobaliteの値[4]、C=708.7J/kgKおよびρ=2330kg/mを用いた。この結果をTable2に示す。Figure5における変曲点の周波数と、Table2において求めたfLthの値は良い一致を示す。したがって、膜厚600nmおよび1500nmのSiO薄膜において、変曲点より高い周波数領域における位相遅れの値はMgO基板の影響を受けておらず、この値を用いてSiO薄膜の熱浸透率を決定することができる。一方で、膜厚400nmにおいては、fLthの値は3600kHzとなり、Table1に示した熱浸透率の値は、すでにMgO基板の影響を受けていると考えられる。」
と記載される。
【0020】
【特許文献1】特開2000−121585号公報
【特許文献2】特開2004−117286号公報
【非特許文献1】第24回日本熱物シンポジウム(2003年10月6日〜8日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
光ディスクや半導体部品,光学部品のコーティングなど、薄膜はいろいろな分野で使用されている。材料を薄膜化することで、さまざまな機能を持たせることが可能である。一方で薄膜はバルク材料とは違った物性を持つことが多く、薄膜状態での物性評価が必要とされることも多い。
【0022】
例えば、SiO薄膜は半導体部品の絶縁膜や光学部品の保護膜に使用される材料である。半導体は年々発熱量が大きくなっており、熱伝導を阻害する要因となる絶縁膜の熱物性を評価することは重要である。
【0023】
熱物性顕微鏡はレーザによる周期加熱とサーモリフレクタンス法による測温を組合わせることで薄膜及び微小領域の非接触測定を実現する。そして、薄膜厚は数百nm以上の試料が測定可能である。薄膜は製造方法で大きく熱物性値が変化する場合があり、詳細な熱設計を行うためには、熱物性顕微鏡を用いて実際の薄膜状態で測定を行なうと良い。
【0024】
熱物性顕微鏡用試料は、表面にモリブデンあるいは他の金属をスパッタリングする以外は、パターンや電極のエッチングが不要なため、製作が容易である。表面は鏡面研磨される必要があるが、薄膜は平滑な基板に成膜されることが多く、成膜面をそのまま使用できる。
【0025】
薄膜はその作製方法から異方性が大きい材料であり、薄膜を横断する熱伝達挙動を明らかにするためには、面垂直方向の熱物性値が必要である。しかし、薄膜の面内方向における熱拡散率は距離変化法などにより比較的容易に測定することが可能であるが、一般に面に垂直な方向の熱物性、すなわち熱浸透率を得ることは困難である。
【0026】
本発明は、上述した薄膜試料測定上の特徴を有する熱物性顕微鏡、すなわち薄膜試料熱物性測定装置の操作をより簡便にして熱物性、特に熱浸透率について計測するに当って使い勝手をよくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、薄膜試料の表面を交流変調した加熱レーザビームによって加熱する加熱手段と、前記加熱手段により加熱された前記薄膜試料の表面に測温レーザビームを照射する測温加熱手段と、前記測温レーザビームの熱反射信号を検出する熱反射信号検出手段と、検出された熱反射信号と前記加熱レーザビームの変調周期の位相差を検出する位相差検出手段と、該位相差に基いて前記薄膜試料の熱浸透率を算出する算出処理手段と、を備えた薄膜試料熱物性測定装置において、基板の既知の熱浸透率が小さい薄膜試料および熱浸透率が大きい薄膜試料のそれぞれに対して、前記加熱レーザビームによる可変の加熱周波数に対する熱反射信号位相差を模式的に示して、変曲部分を持つ曲線情報を生成する手段を備え、前記加熱レーザビームによる可変の加熱周波数に対する熱反射信号位相差を示す曲線と共に、少なくとも薄膜試料名、基板名、前記変曲部分に設定された変曲点もしくは/および設定された計測点および演算結果の熱浸透率を表示する画像表示手段を備えることを特徴とする薄膜試料熱物性測定装置を提供する。
【0028】
および本発明は、薄膜試料の表面を交流変調した加熱レーザビームによって加熱する加熱手段と、前記加熱手段により加熱された前記薄膜試料の表面に測温レーザビームを照射する測温加熱手段と、前記測温レーザビームの熱反射信号を検出する熱反射信号検出手段と、検出された熱反射信号と前記加熱レーザビームの変調周期の位相差を検出する位相差検出手段と、該位相差に基いて前記薄膜試料の熱浸透率を算出する算出処理手段と、を備えた薄膜試料熱物性測定装置による熱物性測定方法において、記憶媒体に、基板における既知の熱浸透率が小さな薄膜試料および熱浸透率が大きな薄膜試料のそれぞれに対して、前記加熱レーザビームによる可変の加熱周波数に対する熱反射信号位相差を模式的に示して、変曲部分を持つ曲線情報を生成、格納し、画像表示手段に、前記加熱レーザビームによる可変の加熱周波数に対する熱反射信号位相差を示す曲線と共に、少なくとも薄膜試料名,基板名,変曲点もしくは/および計測点および熱浸透率を表示することを特徴とする薄膜試料熱物性測定装置による熱物性測定方法を提供する。なお、熱伝導率および単位体積当たりの熱容量の表示は任意としてよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、上述した薄膜試料測定上の特徴を有する熱物性顕微鏡、すなわち薄膜試料物性測定装置の操作をより簡便にして使い勝手をよくして、測定状況を適格に画面上に表示することができ、適格な測定結果を得ることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の実施例である薄膜試料熱物性測定装置は、薄膜試料の表面を交流変調した加熱レーザビームによって加熱する加熱手段と、前記加熱手段により加熱された前記薄膜試料の表面に測温レーザビームを照射する測温加熱手段と、前記測温レーザビームの熱反射信号を検出する熱反射信号検出手段と、検出された熱反射信号と前記加熱レーザビームの変調周期の位相差を検出する位相差検出手段と、該位相差に基いて前記薄膜試料の熱浸透率を算出する算出処理手段と、を備えた薄膜試料熱物性測定装置において、基板の既知の熱浸透率が小さい薄膜試料熱浸透率が大きい薄膜試料および基板の既知の熱浸透率を有する薄膜試料のそれぞれに対して、前記加熱レーザビームによる可変の加熱周波数に対する熱反射信号位相差を模式的に示して、変曲部分を持つ曲線情報を生成する手段を備え、前記加熱レーザビームによる可変の加熱周波数に対する熱反射信号位相差を示す曲線と共に、少なくとも薄膜試料名、基板名、前記変曲部分に設定された変曲点もしくは/および設定された計測点および演算結果の熱浸透率を表示する画像表示手段を備える。また、当該薄膜試料は熱物性測定装置による測定方法を構成する。
【0031】
また、上述の薄膜試料熱物性測定装置は、前記画像表示手段の画面上に表示されたいずれかの曲線上に前記計測点について周波数を指定する計測周波数指定手段と、該計測周波数に基いて熱浸透率を算出する熱浸透率算出処理手段と、を備える。
【0032】
また、上述の薄膜試料熱物性測定装置は、前記2つの基板が熱浸透率の小さな材料によって形成された基板と熱浸透率の大きな材料によって形成された基板とから構成され、これらの構成された2つの基板の上に薄膜試料が形成されて薄膜試料構成手段が構成されることを特徴とする。
【0033】
また、上述の薄膜試料熱物性測定装置は、前記曲線情報は記憶手段に格納され、変曲部分を持つ参照用の加熱周波数−加熱周波数に対する熱反射信号位相差を示す曲線情報によって画面上に比較表示され、もしくは/および画面には各薄膜試料に対応して薄膜試料名,基板名,変曲点もしくは/および計測点、指定された加熱周波数および熱浸透率が比較表示されることを特徴とする。
【0034】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0035】
図1は本発明の薄膜及び微小領域熱物性測定方法を実施するための装置、すなわち薄膜試料熱物性測定装置100の構成を示す概念図である。なお、薄膜試料熱物性測定装置の典型的具体例として熱物性顕微鏡を挙げることができ、ここでは双方の用語を使用することがある。
【0036】
XYステージ1は、XY方向の二次元に移動可能な機構になっており、X軸およびY軸の各方向へXYステージ1を移動させるドライバとそのドライバを動作させるコントローラを備えている。XYステージ1には、Z軸方向へ移動可能なZステージ1aが組み込まれており、そのZステージ1aのドライバとコントローラを備えている。各コントローラは、コンピュータ17によりCCDカメラ16で撮影した試料の座標位置およびレーザスポットに関する画像情報に基づいて制御される。Z軸方向の高さは、上記の自動焦点調整の他に、マニュアルにてモータの動作時間を決め、高さの微調整が行われる。コンピュータ17を通してマニュアル操作し、モータを動作させてZステージを動かす。試料3の表面には顕微鏡光学系4を通過した後に同一光軸上に重なった加熱用レーザビーム6と測温用レーザビーム5が照射される。7‘は第1ビームスプリッターであり、7はミラーである。
【0037】
加熱用レーザビーム6は、正弦波に振幅変調された赤外光であって、半導体レーザより構成される加熱レーザビーム装置(加熱装置)9から発せられる。測温用レーザビーム5は、例えばCWヘリウムネオンレーザまたは半導体レーザ等の光によって構成され、測温レーザビーム装置(測温加熱装置)8から発せられる。ドライバ10は関数発生器11から出力される所定周波数の交流を加熱用レーザビーム6の変調に必要なパワーに処理し、加熱レーザビーム装置9に出力する。
【0038】
顕微鏡光学系4の光軸上には第1ビームスプリッター7‘と第2ビームスプリッター12が配置されている。第1ビームスプリッター7‘は、加熱用レーザビーム6を顕微鏡光学系4の光軸に一致して反射させ、また測温レーザビーム装置8から発せられる測温用レーザビーム5を顕微鏡光学系4の光軸に一致して通過させるよう作用する。
【0039】
第2ビームスプリッター12は、第1ビームスプリッター7‘を通過した加熱用レーザビーム6と第1ビームスプリッター7’にて反射した測温用レーザビーム5を顕微鏡光学系4の光軸に一致して通過させると共に、試料表面で反射した加熱用レーザビーム6と測温用レーザビーム5を光ディテクタ13の入射光軸に一致して反射するよう作用する。
【0040】
第2ビームスプリッター12で反射したレーザ光は、バンドパスフィルタ14により加熱用レーザビーム6の反射光を遮断し、測温用レーザビーム5の反射光のみを通過させて光ディテクタ13で検出する。第2ビームスプリッター12とバンドパスフィルタ14との間には、回転可能なミラー15が配置されており、このミラー15をレーザ光に対し平行に位置させてレーザ光を光ディテクタ13へ入射させ、又はミラー15を所定の角度回転させてレーザ光をCCDカメラ16へ導くようになっている。CCDカメラ16に入射した両反射光によりモニタ19である画像表示手段の画面上に像を映出し、この像を見ながら加熱用レーザビーム6と測温用レーザビーム5の試料表面上のスポットサイズ,位置合わせを行う。
【0041】
ロックインアンプ18は、光ディテクタ13で検出した測温用レーザビーム5の強度変化に応じた検出信号のうち、加熱用レーザビーム6の強度変化に比例する参照信号に同期した成分を増幅し、参照信号に対する熱反射信号の位相差を得る。コンピュータ17は、上述したモニタ19記憶媒体(記憶手段)20および入力部(入力手段)21を備え、更に信号処理手段17A,算出処理手段17Bおよび画像管理手段17Cを備える。
【0042】
熱物性値として代表的なものは熱伝導率λ,熱拡散率κ,熱浸透率b,単位体積あたりの熱容量Cが知られている。
これらの熱物性値には式(1),式(2)の関係がある。
【0043】

【0044】


【0045】
本実施例では、図1に示す薄膜試料熱物性測定装置100(微小領域熱物性測定装置,熱物性顕微鏡)を用いて、単位体積当たりの熱容量を測定する。式(1)より熱伝導率λ、式(2)より熱拡散率κが得られる。
【0046】
熱物性顕微鏡は試料表面を周期加熱し、加熱に対する温度応答を熱反射法により測定し、加熱に対する温度応答の位相差熱浸透率を求める方法について説明する。周期加熱周波数を変えることで、評価する深さを変えることができる。
【0047】
薄膜表面を周期的に加熱することで温度波が発生する。温度波はほぼ1周期で減衰する波である。そのため、熱物性顕微鏡による測定では、温度波1周期分の熱物性値が評価される。1周期の間に拡散する距離を熱拡散長とLthと呼び、先に示したように、次式の式(3)で表される。
【0048】

【0049】
ここで、λは熱伝導率、bは熱浸透率、fは加熱周波数、Cは薄膜の比熱容量、及びρは薄膜の密度である。熱拡散長が薄膜厚さより長いとき、1周期の間に熱は薄膜を通過してしまうことを示している。
【0050】
バルクを測定したときと薄膜を測定したときの各加熱周波数に対する熱反射信号の位相差には違いが生じる。試料及び周波数特性曲線の模式図を図8,図9に示す。図8の斜線部分の測定材料はすべて同一の材料であり測定対象である。基板にはシリコンあるいはパイレックス(登録商標)ガラスを使用する。すなわち、薄膜試料の熱浸透率が1000前後と小さい場合には、基板には熱浸透率が15700と大きいシリコンを使用する、薄膜試料の熱浸透率が数万と高い場合には、基板には熱浸透率が1340と小さなパイレックス(登録商標)ガラスを使用する。薄膜試料は均一な材料である。薄膜試料(1)のほうが、薄膜試料(2)に比べて薄い。熱物性顕微鏡を用いて薄膜試料(1),(2),バルク(測定対象バルク)(3)について加熱周波数に対する反射信号の位相差を測定する。図9に示す薄膜試料(1)及び(2)は、周波数が低くなると、バルク(3)よりも、位相差が急激に小さくなることが予想される。これは、熱拡散長が薄膜厚さより長いために基板の熱浸透率を含めて評価するからである。A点及びB点が基板の熱浸透率の影響が現われはじめる点で、これを屈曲周波数と呼ぶこととする。屈曲周波数を決定するためには、A点に示すように、加熱周波数に対する熱反射信号の位相差に示される、試料(3)およびバルクの特性から分岐する周波数を決定するもので、この屈曲周波数は2つの曲線である薄膜試料およびバルク特性から曲線上に分岐点を見つけ出して変曲点を直接的に求めるものである。変曲点及びそれよりも高い周波数領域における位相差の値は基板の影響を受けなくなった点および領域である。(屈曲周波数決定法1)
【0051】
変化が急峻な試料(2)の特性の場合、曲線上に直接的に変曲点を特定し、または低周波側の接線(漸近線)と高周波側の接線(漸近線)の交点B点(変曲点)を屈曲周波数とする。(屈曲周波数決定法2)
【0052】
このようにして、基板の既知の熱浸透率が小さい薄膜試料および熱浸透率が大きい薄膜試料のそれぞれに対して、前記加熱レーザビームによる可変の加熱周波数に対する熱反射信号位相差を様式的に示して、変曲部分を持つ曲線情報を生成する。
○SiO薄膜の測定と評価
【0053】
試料の厚みは400nmと600nmと1500nmである。図10にSiO薄膜試料の模式図を示す。
【0054】
1)各加熱周波数に対する熱反射信号の位相差の測定
熱物性顕微鏡による測定では、測定周波数を変えることで、薄膜の測定深さが変わる。各加熱周波数に対する熱反射信号の位相差のグラフには、薄膜と基板の熱浸透率の差によりできる屈曲周波数が求められる。図11に各加熱周波数に対する熱反射信号位相差のグラフを示す。
【0055】
膜厚が1500nmのSiO薄膜では(屈曲周波数決定法2により)B点を屈曲周波数と決定する。膜厚600nmのSiO薄膜の測定値では(屈曲周波数決定法1により)A点を屈曲周波数と決定する。膜厚が400nmのSiO薄膜については屈曲周波数は観察されず、2MHzにおいても他のSiO薄膜と測定値が一致していない。屈曲周波数は2MHzよりも高い。膜厚が1500nmのSiO薄膜はB点より高い周波数で、膜厚が600nmのSiO薄膜はA点より高い周波数で測定すれば、その周波数による熱拡散長の薄膜の熱浸透率を決定できる。膜厚が400nmのSiO薄膜は今回測定を行った周波数領域の中では、基板の熱物性値の影響が現われているため熱浸透率の評価はできない。
【0056】
2)SiO薄膜の熱浸透率評価
屈曲周波数は膜厚が600nmのSiO薄膜では1.1MHz(B点)、膜厚が1500nmのSiO薄膜では、200kHz(A点)であり、これ以上の周波数で測定することで薄膜の熱物性値が得られる。よって、600nm及び1500nmの薄膜の熱物性値を周波数2MHzで評価した。
【0057】
なお、基板の熱浸透率が小さい場合や、薄膜と基板の密着性が悪い場合もこの周波数特性曲線により解析ができる。
【0058】
測定結果と文献値からの計算値を表1に示す。測定されたSiO薄膜の熱浸透率は膜厚1500nm,膜厚600nm共に1900Jm−2−0.5−1である。文献値から計算したバルク材料の熱浸透率はSiOガラスが1450Jm−2−0.5−1で、SiO結晶は4540Jm−2−0.5−1であった。
【0059】

【0060】
3)S薄膜の単位体積当たりの熱容量測定
屈曲周波数は膜厚が600nmのSiO薄膜では1.1MHz(B点)、膜厚が1500nmのSiO薄膜では200kHz(A点)であった。
【0061】
2)で求めた熱浸透率1900及び薄膜厚は熱拡散長と等しいことを用いてCρ単位体積当たりの熱容量を求める。
【0062】
式(3)を変形して式(4)を得る。

【0063】
f :屈曲周波数
th:熱拡散長=薄膜厚
より、Cρの単位体積当たりの熱容量が求められる。
600nmの場合、 Cρ≒1700000
1500nmの場合、Cρ≒1600000
これによって、S薄膜の単位体積当たり熱容量が求められる。密度が判っていれば比熱容量で求められる。
【0064】
4)S薄膜の熱伝導率測定
上述の3)の条件で式(3)を変形して式(5)を得る。
λ=(Lth×πfCρ …式(5)
各数を代入する。
600nmの場合、 λ=2.11
1500nmの場合、λ=2.26
このようにしてS薄膜の熱伝導率が求められる。
【0065】
○ 有機薄膜の測定
試料の厚みは240nmである。図12に測定試料の模式図を示す。
【0066】
1)各加熱周波数に対する熱反射信号の位相差
SiO薄膜と同様に、周波数特性曲線を測定し、薄膜部分が評価される周波数で測定した。図13に各加熱周波数に対する熱反射信号の位相差のグラフを示す。グラフには有機薄膜の測定結果と、比較のために有機膜フィルムの測定結果を示した。有機膜フィルムは厚みが24.3μmで今回測定した周波数領域では基板の影響は無い。図7から有機薄膜は(周波数決定法1により)A点を屈曲周波数と決定する。
【0067】
図13では、700kHz(A点)より低い周波数において、有機膜フィルムの位相差よりも、有機薄膜試料の位相差が小さい。有機膜フィルムは十分厚いので基板の影響は無いが、有機薄膜は薄いため基板の影響が現われた。700kHz以上の周波数では基板の影響が無いので、有機薄膜試料のみの熱浸透率が測定される。このようにして有機薄膜試料と有機膜フィルムの2種の曲線情報を使用して変曲点を特定することが可能になる。
【0068】
このようにして加熱レーザビームによる可変の加熱周波数に対する熱反射信号位相差の検出に基板の影響のある薄膜試料と検出に基板の影響のない他の試料が使用されて2つの曲線情報が生成され、両曲線が重なり始める点を変曲点として表示する変曲点表示手段が生成される。
【0069】
○有機薄膜の熱浸透率評価
周波数1MHzで測定した。有機薄膜の熱浸透率は440Jm−2−0.5−1である。
【0070】
図1におけるモニタ19上への画像表示方法について説明する。
熱物性顕微鏡を用いて採用する周波数を示す横軸および位相差を示す縦軸のグラフから求める屈曲周波数を明確にする為には測定対象の熱浸透率があらかじめ予想される場合で熱浸透率が大きい場合(予想される場合を含む、以下同じ)は基板に熱浸透率が小さい基板を使用し、反対に熱浸透率が小さい薄膜の場合熱浸透率の大きい基板を使用し、又熱浸透率が予想できない未確定な場合、あるいは再確認を行うような反確実な場合は熱浸透率の大きい基板と小さい基板の両方を準備する。
【0071】
熱物性顕微鏡に使用する試料の単純形体は3層構造になる。
【0072】
上から一層目 金属(通常はMo 100nm)
二層目 薄膜試料(通常は数百nm〜数μm)
測定周波数 100kHz〜7MHz
薄膜試料の厚さが数十μmの場合、周波数を下げることにより屈曲周波
数が得られる。低い周波数は25kHzまで下げても計測可能であり、
ロックインアンプを変更すれば1Hzからでも可能となる。
三層目 基板
熱浸透率の低い物質の例としてはガラスがある(熱伝導率悪い)
熱浸透率の高い物質の例としてはCuがある(熱伝導率がよい)
【0073】
具体例について説明する。
図14は、基板32に対する既知の熱浸透率が小さい薄膜試料31を準備した例を示し、熱浸透率の小さい薄膜試料31として、例えばSiCが採用され、熱浸透率の大きい基板32としてCuが採用され、表面にMo薄膜33が採用された例である。それぞれの寸法は、図に示した通りである。
【0074】
図15は、基板32に対する既知の熱浸透率が大きい薄膜試料31を準備した例を示し、熱浸透率の大きい薄膜試料31としてSiが採用され、熱浸透率の小さい基板32としてパイレックス(登録商標)が採用され、表面にMo薄膜33が採用された例である。
【0075】
図16は、熱浸透率が未確実(不明)な場合に、熱浸透率が未確実な薄膜試料31に対して熱浸透率の小さい基板32Aとしてパイレックス(登録商標)基板を、そして熱浸透率の大きい基板32BとしてCu基板を採用し、表面にMo薄膜33が採用された例である。
【0076】
図17は、図16に示す基板部分を示す例である。
【0077】
図17の基板で一方の基板32Aは熱浸透率の小さな材料(例えばパイレックス(登録商標))、もう一方の基板32Bは熱浸透率の大きい材料(例えば銅)で構成され、両者は接着部34で接着され片面の表面粗さがRaで10nm以下の熱物性顕微鏡用屈曲周波数測定用試料基板35(薄膜試料構成手段)として構成される。
【0078】
この試料基板の上に測定対象の薄膜を載置して試料を構成する。
【0079】
屈曲周波数を明確にする為に、測定対象薄膜の熱浸透率があらかじめ予想される場合で薄膜の熱浸透率が大きい場合は基板に熱浸透率が小さい基板を使用し、反対に薄膜の熱浸透率が小さい場合、熱浸透率の大きい基板を使用し、又熱浸透率が予想できない場合は熱浸透率の大きい基板と小さい基板の両方を使用する。
【0080】
図18,図19および図20によって画像を表示する画面について説明する。モニタ19の画面は、画像表示部51からなり、この画像表示部51には画面部52,計測結果表示部53,試料内容と表示し、および記憶媒体20に格納,蓄積された各種データを画面部52に表示する場合に各種指定を入力する指定項目部54からなる。従って、画面部52には前述したように計測された加熱周波数−加熱周波数に対する熱反射信号位相差を示す画面が表示されると共に、計測の結果、あるいは,および装置の取扱い説明のために予め記憶媒体に格納,蓄積された加熱周波数−加熱周波数に対する熱反射信号位相差を示す画面が表示される。
【0081】
計測結果表示部53には、グラフ上に計測された変曲点演算のために採用される計測される周波数、位相差−δ(度)、および薄膜試料のバルクにおける熱伝導率,熱拡散率,熱浸透率,比熱容量,密度が表示される。これらを表示する表示手段を備え、またこれらの表示のための算出処理手段を備える。
【0082】
図14に示す例について計測を実施すると、モニタの画面上には図18に示すように、加熱レーザビームによる可変の加熱周波数に基づいて熱反射信号検出手段によって熱反射信号位相差が検出され、複数の観測点55によってグラフ1の特性を有する曲線56が周波数700kHzのところに変曲部分を持つ形で表示される。モニタ19を構成する画像表示手段は、内部に備える記憶媒体17A,算出処理手段17Bおよび画像管理手段17Cの機能によって、画面上に観測点55,曲線56を表示し、計測結果部53に計測結果を、そして指定項目54に各種データ,指定した項目を表示することができる。
【0083】
このように表示された曲線56の上で、ユーザは変曲部分の変曲点よりも右側の方向(大きな方向)に1点を指定して計測周波数を設定することができる。この計測周波数が設定されると、算出処理手段17Bは計測周波数を使用して熱反射信号位相差を演算し、前述した手段に従って、熱伝導率,熱拡散率,比熱容量および密度を演算する。演算結果がある各データは計測結果部53に表示されることになる。
【0084】
グラフ1の特性を有する曲線56について説明すると、次のようになる。
周波数700kHz〜2MHzの範囲では薄膜の熱浸透率に関係した位相差が測定される。
【0085】
周波数100kHz〜700kHzの範囲では薄膜の熱浸透率と基板の熱浸透率に関係した位相差が測定される。約700kHzの屈曲周波数は熱拡散長と薄膜厚みが一致した周波数である。
熱拡散長の式を示す。
【0086】

【0087】
th:熱拡散長 λ:熱伝導率 f:加熱周波数 C:薄膜比熱容量 ρ:密度
b:熱浸透率
図15に示す例について計測を実施すると、モニタ19の画面上には図19に示すように、加熱レーザビームによる可変の加熱周波数に基づいて熱反射信号検出手段によって熱反射信号位相差が検出され、複数の観測点57によって形成したグラフ2の特性を有する曲線58が周波数200kHzのところで変曲部分を持つ形で表示される。この曲線に対して、変曲部分をはさんだ2つの線に対応してそれぞれ接線方向に漸近線a,bが表示され、2つの漸近線a,bの交点から変曲点が特定され、表示されるようにしてもよい。
【0088】
グラフ2の特性を有する曲線58について説明すると、次のようになる。
周波数200kHz〜2MHzの範囲では薄膜の熱浸透率に関係した位相差が測定される。
周波数100kHz〜200kHzの範囲では薄膜の熱浸透率と基板の熱浸透率に関係した位相差が測定される。約200kHzの屈曲周波数は熱拡散長と薄膜厚みが一致した周波数である。
【0089】
基板の熱浸透率bが薄膜試料の熱浸透率bに等しい例について計測を実施すると、モニタ19の画面上には図20に示すように、加熱レーザビームによる可変の加熱周波数に基づいて熱反射信号検出手段によって熱反射信号位相差が検出され、複数の観測点59によってグラフ3の特性を有する曲線60が表示される。この曲線60は変曲部分、従って変曲点を持たない。すなわち屈曲周波数を持たない。図18、図19および図20に示す各種情報記憶手段20に測定毎に格納され、画面上に2つの薄膜試料についての格納された情報を比較して表示することができる。
【0090】
上述した画像表示のために記憶媒体20には、基板における既知の熱浸透率が小さな薄膜試料および熱浸透率が大きな薄膜試料のそれぞれに対して、前記加熱レーザビームによる可変の加熱周波数に対する熱反射信号位相差を模式的に示し、変曲点を持つおよび前記加熱レーザビームによる可変の加熱周波数に対する熱反射信号位相差を模式的に示し、重なり部分を持つ2つの曲線から取得された、前記加熱レーザビームによる可変の加熱周波数に対する熱反射信号位相差の計測値が格納される。
【0091】
そして、薄膜試料熱物性測定装置は、画像表示手段によって、可変の加熱周波数に対する熱反射信号との位相差を模式的に示す曲線であって、該曲線が変曲部分を持つ参照用の加熱周波数−加熱周波数に対する熱反射信号位相差を示す画面が基板における既知の熱浸透率に対し熱浸透率の小さい薄膜試料,熱浸透率の大きな薄膜試料および熱浸透率の未確定な薄膜試料のいずれかを画面上の指定項目で指定することによって指定に対応してそれぞれ表示し、かつ該画面には少なくとも薄膜試料名,基板名,変曲点もしくは/および計測点および熱浸透率等を表示することができる。
熱拡散率および単位体積当りの熱容量を合わせて表示するようにしてもよい。
【0092】
以上のようにして、可変の加熱周波数に対する熱反射信号との位相差を模式的に示す曲線であって、該曲線が変曲部分を持つ参照用の加熱周波数−加熱周波数に対する熱反射信号位相差を示す画面が基板における既知の熱浸透率に対し熱浸透率の小さい薄膜試料,熱浸透率の大きな薄膜試料および熱浸透率の不確定な薄膜試料のいずれかを画面上の指定項目で指定することによって指定に対応してそれぞれ表示され、かつ該画面には試料名,基板名,変曲点もしくは/および計測点,熱浸透率,熱拡散率および単位体積当たりの熱容量が表示される画像表示装置を備える薄膜試料熱物性測定装置が構成される。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の実施例の薄膜試料熱物性測定装置の構成を示す概念図。
【図2】熱物性値の測定フロー図。
【図3】2層系試料の模式図。
【図4】パイレックス(登録商標)上にプラスチック(薄膜試料)が成膜された試料(参照試料)の模式図。
【図5】チタンのバルク試料(参照試料)の模式図。
【図6】基板上に測定対象の薄膜及びMo薄膜が成膜された試料(測定試料)の模式図。
【図7】基板上にMo薄膜または単位体積あたり熱容量の分っている標準薄膜及びMo薄膜が成膜された試料(参照試料)の模式図。
【図8】試料の模式図。
【図9】周波数特性曲線の模式図。
【図10】SiO薄膜試料の模式図。
【図11】加熱周波数に対する熱反射信号位相差(位相差/度)のグラフ図。
【図12】測定試料の模式図。
【図13】有機薄膜の場合の加熱周波数に対する熱反射信号位相差のグラフ図。
【図14】基板に対する既知の熱浸透率が小さな薄膜試料の模式図。
【図15】基板に対する既知の熱浸透率が大きな薄膜試料の模式図。
【図16】熱浸透率が不確実な薄膜試料に対して熱浸透率の小さい基板と熱浸透率の大きい基板を採用した場合の試料の模式図。
【図17】熱物性顕微鏡用屈曲周波数測定用試料基板の模式図。
【図18】画面表示例(1)図。
【図19】画面表示例(2)図。
【図20】画面表示例(3)図。
【符号の説明】
【0094】
3…試料、4…顕微鏡光学系、5…測温用レーザビーム、6…加熱用レーザビーム、8…測温レーザビーム装置、9…加熱レーザビーム装置、17…コンピュータ、17A…信号処理手段、17B…算出処理手段、17C…画像管理手段、19…モニタ、20…記憶媒体(記憶手段)、21…入力部(入力手段)、100…薄膜試料熱物性測定装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜試料の表面を交流変調した加熱レーザビームによって加熱する加熱手段と、
前記加熱手段により加熱された前記薄膜試料の表面に測温レーザビームを照射する測温加熱手段と、
前記測温レーザビームの熱反射信号を検出する熱反射信号検出手段と、
検出された熱反射信号と前記加熱レーザビームの変調周期の位相差を検出する位相差検出手段と、
該位相差に基いて前記薄膜試料の熱浸透率を算出する算出処理手段と、を備えた薄膜試料熱物性測定装置において、
基板の既知の熱浸透率が小さい薄膜試料および熱浸透率が大きい薄膜試料のそれぞれに対して、前記加熱レーザビームによる可変の加熱周波数に対する熱反射信号位相差を模式的に示して、変曲部分を持つ曲線情報を生成する手段を備え、
前記加熱レーザビームによる可変の加熱周波数に対する熱反射信号位相差を示す曲線と共に、少なくとも薄膜試料名、基板名、前記変曲部分に設定された変曲点もしくは/および設定された計測点および演算結果の熱浸透率を表示する画像表示手段を備えること
を特徴とする薄膜試料熱物性測定装置。
【請求項2】
請求項1において、前記画像表示手段は、基板の既知の熱浸透率と等しい熱浸透率を有する薄膜試料について加熱レーザビームによる可変の加熱周波数に対する熱反射信号位相差を示す曲線を表示することを特徴とする薄膜試料熱物性測定装置。
【請求項3】
請求項1において、加熱レーザビームによる可変の加熱周波数に対する熱反射信号位相差の検出に基板の影響のある薄膜試料と検出に基板の影響のない他の試料が使用されて2つの曲線情報が生成され、両曲線が重なり始める点を変曲点として表示する変曲点表示手段を備えることを特徴とする薄膜試料熱物性測定装置。
【請求項4】
請求項1において、前記画像表示手段の画面上で、前記変曲部を形成する曲線の該変曲部分をはさんだ2つの線に対応してそれぞれ漸近線を表示し、2つの漸近線の交点を変曲点として表示する変曲点表示手段を備えることを特徴とする薄膜試料熱物性測定装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかにおいて、前記画像表示手段の画面上に表示されたいずれかの曲線上に前記計測点について周波数を指定する計測周波数指定手段と、該計測周波数に基いて熱浸透率を算出する熱浸透率算出処理手段を備えることを特徴とする薄膜試料熱物性測定装置。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかにおいて、前記2つの基板が熱浸透率の小さな材料によって形成された基板と熱浸透率の大きな材料によって形成された基板とから構成され、これらの構成された2つの基板の上に薄膜試料が形成されて薄膜試料構成手段が構成されることを特徴とする薄膜試料熱物性測定装置。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかにおいて、前記曲線情報は記憶手段に格納され、変曲部分を持つ参照用の加熱周波数−加熱周波数に対する熱反射信号位相差を示す曲線情報によって画面上に比較表示され、もしくは/および画面には各薄膜試料に対応して薄膜試料名,基板名,変曲点もしくは/および計測点、指定された加熱周波数および熱浸透率が比較表示されることを特徴とする薄膜試料熱物性測定装置。
【請求項8】
薄膜試料の表面を交流変調した加熱レーザビームによって加熱する加熱手段と、
前記加熱手段により加熱された前記薄膜試料の表面に測温レーザビームを照射する測温加熱手段と、
前記測温レーザビームの熱反射信号を検出する熱反射信号検出手段と、
検出された熱反射信号と前記加熱レーザビームの変調周期の位相差を検出する位相差検出手段と、
該位相差に基いて前記薄膜試料の熱浸透率を算出する算出処理手段と、を備えた薄膜試料熱物性測定装置による熱物性測定方法において、
記憶媒体に、基板における既知の熱浸透率が小さな薄膜試料および熱浸透率が大きな薄膜試料のそれぞれに対して、前記加熱レーザビームによる可変の加熱周波数に対する熱反射信号位相差を模式的に示して、変曲部分を持つ曲線情報を生成、格納し、
画像表示手段に、前記加熱レーザビームによる可変の加熱周波数に対する熱反射信号位相差を示す曲線と共に、少なくとも薄膜試料名,基板名,変曲点もしくは/および計測点および熱浸透率を表示すること
を特徴とする薄膜試料熱物性測定装置による熱物性測定方法。
【請求項9】
請求項8において、基板の既知の熱浸透率と等しい熱浸透率を有する薄膜試料について加熱レーザビームによる可変の加熱周波数に対する熱反射信号位相差を示す曲線を表示することを特徴とする薄膜試料熱物性測定方法。
【請求項10】
請求項1において、加熱レーザビームによる可変の加熱周波数に対する熱反射信号位相差の検出に基板の影響のある薄膜試料と検出に基板の影響のない他の試料が使用されて2つの曲線情報が生成され、両曲線が重なり始める点を変曲点として表示することを特徴とする薄膜試料熱物性測定方法。
【請求項11】
請求項8または9において、前記画像表示手段の画面上で、前記変曲部を形成する曲線の該変曲部をはさんだ2つの線に対応してそれぞれ漸近線を表示し、2つの漸近線の交点を表示することを特徴とする薄膜試料熱物性測定装置による熱物性測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−64917(P2007−64917A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254587(P2005−254587)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000136941)株式会社ベテル (10)
【Fターム(参考)】