説明

薬剤のスクリーニング方法

【課題】動物を試験に用いることなく、安価かつ簡便に、多型核白血球の細胞接着及び/又は細胞移動を抑制する物質をスクリーニング可能な薬剤のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】固体支持体上にコーティングされた接着性基質に、少なくとも多型核白血球と、被験物質と、前記多型核白血球の活性化剤とを添加し、前記接着基質への前記多型核白血球の接着細胞を測定することにより、前記多型核白血球の細胞接着能を評価する。動物実験を行うことなく、安価で、短時間かつ簡便に、多型核白血球の細胞接着及び/又は細胞移動を抑制する物質をスクリーニングすることが可能であり、医薬の開発をより効率的に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞接着及び/又は細胞移動を抑制するのに有効な薬剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多型核白血球(以下、PMNsと称す)は病原細菌・微生物などに対する感染防御の第一線を担う細胞であり、病原細菌感染などの様々な刺激によって細胞接着分子であるインテグリンを介して細胞接着を起こすことが知られている。また、こうしてインテグリンを介して接着したPMNsは細胞内アクチン骨格の再編成により伸展(spreading)し、これが基質への強固な接着や細胞移動(遊走)、および貪食の基盤となることが知られている。
【0003】
具体的には、生体内に病原細菌や微生物等が侵入すると、血管内を循環しているPMNsがこれを感知して活性化し、(1)血管内皮への接着、(2)血管外への漏出、(3)炎症部位への遊走・集積、(4)細菌・微生物等の貪食、そして(5)殺菌、といった一連の過程を経て生体を防御している。この殺菌の工程では、PMNsが貪食された細菌に対して種々の顆粒内酵素や活性酸素を放出することによって、殺菌が行われている。また、これらの顆粒内酵素や活性酸素の作用は病原細菌に対して特異的なものではなく、宿主組織に対しても傷害作用を示すことが知られている。
【0004】
このため、PMNsの機能は時間的・空間的に厳密に制御される必要がある。しかし、これらの制御が乱れると宿主組織へのPMNsの過剰な集積が生じる。そして、PMNsは自己の正常な細胞までを攻撃して様々な組織傷害を惹起し各種の炎症疾患、例えば、慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患の他、喘息などのアレルギー疾患などをもたらす。さらに、医療用器具等の体内移植後のPMNsの細胞接着に起因した炎症反応をももたらしており、この炎症反応については、主にフィブリノーゲンなどの宿主タンパク質が移植器具をコーティングすることによって、PMNsの接着が誘導されるためと考えられている。
【0005】
上述のPMNsの過剰な集積を対処するには、PMNsの細胞接着及び/又は細胞移動を抑制する必要があり、PMNsに対してこのような抑制効果を示す物質の発見や開発が望まれている。
【0006】
一方、薬効物質のスクリーニング方法として、例えば特許文献1には、アトピー性皮膚炎モデル動物に対して、被験物質を投与し、アトピー性皮膚炎の改善効果を検定することを特徴とするアトピー性皮膚炎の治療用物質のスクリーニング方法が提案されている。このように、薬効物質のスクリーニングは、基本的に種々の物質を、薬効が評価できる病態モデル動物にランダムに投与してその効果を調べ、薬効を発揮する物質を選択していくというものであった。
【特許文献1】特開2004−41123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、病態モデル動物を用いた動物実験によるスクリーニング方法では、無数にある物質から薬効物質をスクリーニングするため、
かなりの手間と多額の費用を要するという問題があった。
【0008】
本発明は上記問題点を解決しようとするものであり、動物実験を行うことなく、安価かつ簡便に、多型核白血球の細胞接着及び/又は細胞移動を抑制する物質をスクリーニングできる薬剤のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を鑑みて鋭意検討した結果、多型核白血球(PMNs)の機能過剰によるとされる自己免疫疾患などの疾患への対策として、血管内へのPMNsの細胞接着及び/又は細胞移動を阻止又は抑制する薬剤を用いることが考えられる。そこで、血管壁を擬似的に再現したプレートを用いて、このプレートに、PMNsと、被験物質と、前記PMNsの活性化剤とを添加し、その後前記プレートに接着したPMNsの細胞数又は細胞量を測定することによって、安価かつ簡便に、しかも短時間に薬剤のPMN機能抑制効果を評価できることを見出し、本発明に想到した。
【0010】
本発明の請求項1記載の薬剤のスクリーニング方法は、多型核白血球の細胞接着及び/又は細胞移動を抑制するのに有効な薬剤のスクリーニング方法であって、固体支持体上にコーティングされた接着性基質に、少なくとも多型核白血球と、被験物質と、前記多型核白血球の活性化剤とを添加し、前記接着基質への前記多型核白血球の接着細胞数又は接着細胞量を測定することにより、前記多型核白血球の細胞接着能を評価することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項2記載の薬剤のスクリーニング方法は、請求項1において、前記接着性基質がフィブリノーゲンであることを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明の請求項3記載の薬剤のスクリーニング方法は、請求項1又は2において、前記活性化剤がホルボールミリスチン酸アセテートであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項4記載の薬剤のスクリーニング方法は、請求項1又は2において、前記活性化剤がホルボールミリスチン酸アセテート及びマグネシウムイオンであることを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明の請求項5記載の薬剤のスクリーニング方法は、請求項1〜4のいずれか1項において、前記接着細胞数を、位相差顕微鏡を用いて測定することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項6記載の薬剤のスクリーニング方法は、請求項1〜4のいずれか1項において、クリスタルバイオレットを含む水溶液により接着細胞を染色し、前記接着細胞量を分光光度計を用いて測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1記載の薬剤のスクリーニング方法によれば、動物実験を行うことなく、安価で、短時間かつ簡便に、多型核白血球の細胞接着及び/又は細胞移動を抑制する物質をスクリーニングすることが可能であり、医薬の開発をより効率的に行うことができる。また、多型核白血球の細胞接着に起因する疾患、例えば慢性関節リウマチ,喘息,アレルギー性疾患,炎症性皮膚疾患,アトピー性皮膚疾患,移植拒絶疾患,移植拒絶疾患などに対する薬剤をスクリーニングするのに有用である。
【0017】
本発明の請求項2記載の薬剤のスクリーニング方法によれば、血漿中に多量に存在し、調整が容易なフィブリノーゲンを用いて細胞接着能を評価するので、他の高価な接着性基質(例えば、フィブロネクチン,コラーゲン,ICAM−1など)に比べ多種類の検体のスクリーニングを安価に行うことが可能である。
【0018】
本発明の請求項3記載の薬剤のスクリーニング方法によれば、ホルボールミリスチン酸アセテートにより、多型核白血球に発現するインテグリンを直接活性化させ、細胞接着を促すことができる。
【0019】
本発明の請求項4記載の薬剤のスクリーニング方法によれば、ホルボールミリスチン酸アセテートおよびマグネシウムイオンにより、多型核白血球に発現するインテグリンをより活性化させ、細胞接着を促すことができる。
【0020】
本発明の請求項5記載の薬剤のスクリーニング方法によれば、汎用の実験機器で、安価かつ短時間に測定可能である。
【0021】
本発明の請求項6記載の薬剤のスクリーニング方法によれば、汎用の実験機器で、安価かつ短時間に測定可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。本発明の薬剤のスクリーニング方法は、多型核白血球の細胞接着及び/又は細胞移動を抑制するのに有効な薬剤のスクリーニング方法であって、固体支持体上にコーティングされた接着性基質に、少なくとも多型核白血球と、被験物質と、前記多型核白血球の活性化剤とを添加し、前記接着基質への前記多型核白血球の接着細胞を測定することにより、前記多型核白血球の細胞接着能を評価することを特徴とするものである。
【0023】
本発明でいう細胞接着とは、細胞が基質に付着(attachment)し、かつ基質に付着した後扁平に広がって伸展(spreading)を起こしている状態を意味する。なお、細胞が伸展するためには、細胞内アクチン骨格系の再編成が必要である。
【0024】
本発明で使用される接着性基質とは、多型核白血球(PMNs)の細胞表面に発現している細胞接着分子の一つであるβ2−インテグリン(CD11b/CD18)と結合する種々の基質を包含する。具体的には、細胞外基質であるフィブリノーゲン,血管内皮細胞上に発現しているICAM−1,または補体C3の分解産物であるiC3bなどが挙げられる。
【0025】
また、本発明で使用される支持体とは、接着性基質を固定化するのに適した培養プレートなどを含む。
【0026】
本発明で使用される多型核白血球の活性化剤とは、PMNsを刺激することによってβ2インテグリンは活性化し、β2インテグリンを介したPMNsの細胞接着を誘導する物質である。具体的には、ホルボールミリスチン酸アセテート(phorbol 12-myristate 13-acetate、PMA)やMg2+などが挙げられる。なお、PMAでプロテインキナーゼC(PKC)を直接活性化することによってインテグリンの活性化を誘導することが知られている(Fagerholm S, et al, J Biol Chem 277(3),1728-1738,2002)。また、Mg2+がCD11b鎖の細胞外領域のMg2+/Ca2+結合部位に結合することによって、基質結合能を大幅に増大することが知られている(Yan SR, et al,J Inflamm 45(4),297-311,1995)。さらに、Ca2+はインテグリンの基質結合に直接には関与しておらず、活性化インテグリン分子の構造維持に寄与していると考えられている。
【0027】
本発明においては、接着基質へのPMNsの接着細胞を測定することにより、PMNsの細胞接着能を評価する。この接着細胞を測定し評価する方法としては、以下に示す2つの方法を挙げることができる。
【0028】
1.形態学的評価
固体支持体上にコーティングされた接着性基質に、被験物質,Mg2+,及びPMNsを添加し、細胞接着を誘導する。その後、細胞の形態的な変化を、例えば、位相差顕微鏡(例として、倍率:200−600倍)などの汎用の実験機器で観察し、接着性基質に接着して扁平している伸展した細胞数および接着していない細胞数を測定し、伸展(spreading)率を算出後、伸展評価を行う。
【0029】
2.クリスタルバイオレット染色法
固体支持体上にコーティングされた接着性基質に、被験物質,Mg2+,及びPMNsを添加し、細胞接着を誘導する。その後、HEPES緩衝液で洗浄して、非接着細胞を除去し、接着細胞が残存しているプレートに、クリスタルバイオレット染色を添加して細胞核を染色する。染色後、染色液を除去し、HEPES緩衝液で洗浄することによって、余分な染色液を除去する。次に、溶出液(Elution buffer)を添加後、攪拌してクリスタルバイオレットを溶出し、波長540nmの吸光度を測定し、相対接着率(%)を算出後、細胞接着の評価を行う。
【0030】
本発明の薬剤のスクリーニング方法は、動物実験を行うことなく、汎用の実験機器を用いて、安価で、短時間かつ簡便に、多型核白血球の細胞接着及び/又は細胞移動を抑制する物質をスクリーニングすることが可能である。さらに、短時間かつ簡便にスクリーニングできる特性を利用して、有効成分の詳細な分析を行うことができる。すなわち、有効成分を有する物質を精製後、得られた各フラクションを本発明のスクリーニング方法にかけることによって候補化合物を絞り込むことにより、有効成分を特定でき、薬剤の開発をより効率的に行うことができる。
【0031】
また、本発明の薬剤のスクリーニング方法は、PMNsによる組織傷害を伴う疾患、例えば慢性関節リウマチ,喘息,アレルギー性疾患,炎症性皮膚疾患,アトピー性皮膚疾患,移植拒絶疾患などに対する薬剤をスクリーニングするのに有用である。
【0032】
さらに、細胞と細胞外基質の接着に関与する細胞外マトリックス分子(例えば、フィブロネクチンなど)はガンの転移過程においてガン細胞の接着、細胞移動にも関与していることが知られている。そこで、ガン転移抑制剤として作用する薬剤の開発に、本発明のスクリーニング方法における多型核白血球をガン細胞に代替して用いてもよい。
【0033】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例1】
【0034】
以下に、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。
【0035】
PMNs細胞接着能試験による薬剤の抗炎症効果の評価:本評価法は、フィブリノーゲンコートを施した表面に対するPMNsの接着能を測定することにより、抗炎症効果を評価するものである。具体的には、被験物質を含む溶液にPMNsを懸濁し、PMNsの活性化剤であるMg2+とホルボールミリスチン酸アセテート(phorbol 12-myristate 13-acetate、PMA)による刺激で接着を誘導し、写真撮影による形態学的評価及び細胞のクリスタルバイオレット染色/染色液抽出による比色定量評価を行った。以下に作業手順を述べる。
【0036】
(1)フィブリノーゲンコートプレートの作成
フィブリノーゲンをHEPES緩衝液(5mM HEPES/150mM NaCl/5mM glucose)に溶解し、このフィブリノーゲン溶液(1mg/mL)を96穴プラスチックマイクロプレートに300μLずつ分注し、室温にて1時間以上静置後、溶液を捨て、HEPES緩衝液で3回洗浄し、フィブリノーゲンコートプレートを作成した。
【0037】
(2)接着能試験1:形態学的評価
上記(1)のように作製したフィブリノーゲンコートプレートに、被験物質,Mg2+(終濃度0.6mM),及びPMNs(終濃度3×106cells/mL)を添加し、HEPES緩衝液でメスアップして最終容量を100μLとした。次に、攪拌後、37℃で10分間プレインキュベーションし、PMAをHEPES緩衝液で50μg/mLに希釈して、このPMAをPMNsなどを添加したフィブリノーゲンコートプレートに終濃度1μg/mLとなるように添加した。さらに37℃で20分間インキュベートして細胞接着を誘導した。位相差顕微鏡による細胞の顕微鏡像をデジタルカメラで撮影し、写真よりそれぞれフィブリノーゲンに接着後扁平している伸展した細胞数および接着していない細胞数を測定して、伸展評価を行った。なお、伸展率は、伸展したPMNs数/全PMNs数×100(%)として、伸展率(Spreading)(%)を算出した。細胞数のカウントにおいては、ランダムに撮影したものについてそれぞれ行い、その平均値±標準偏差で示した。
【0038】
(3)接着能試験2:クリスタルバイオレット染色法
上記(2)に示したように、PMAによる接着誘導後、100μLのHEPES緩衝液で3回洗浄して、非接着細胞を除去した。接着細胞が残存しているプレートに、クリスタルバイオレット染色の0.4wt/v%水溶液100μLを添加して細胞核を30分間染色した。染色後、染色液を除去し、HEPES緩衝液で洗浄することによって、余分な染色液を除去した。溶出液100μLを添加後、攪拌してクリスタルバイオレットを溶出し、波長540nmの吸光度を測定した。なお、細胞接着の評価は、フィブリノーゲンコートプレートに0.6mMのMg2+および1μg/mLのPMAを添加したときの細胞接着(ポジティブコントロール)を100%として、相対接着率(%)を算出した。
【0039】
(4)細胞外pHの影響
HEPES緩衝液のpHをそれぞれ7.2,6.9,6.6,6.3,6.0に変化させた時のPMNsの伸展率および相対接着率について調べた。なお、被験物質としては各pHのHEPES緩衝液を用いて、pH以外の条件は上述した接着能試験1および2と同様の方法で伸展率および相対接着率を算出した。
【0040】
その結果を図1〜3に示す。図1は、形態学的評価においてHEPES緩衝液のpHを(a)pH7.2,(b)pH6.9,(c)pH6.6,(d)pH6.3,(e)pH6.0に変化させたときの細胞の顕微鏡像を示す。図中、黒色の細胞はフィブリノーゲンに接着・扁平して伸展した細胞を示し、一方、白色の細胞は扁平していない細胞を示す。図2は、図1の写真から伸展したPMNs数および全PMNs数をカウントして伸展率(%)を算出し、伸展に対する細胞外pHの影響を示すグラフである。なお、検定は4回行いスタンダードエラー・バーを付した。図3は、細胞接着に対する細胞外pHの影響を示すグラフである。図1〜3に示すように、pHの低下にしたがって、細胞接着および接着後の伸展の減少が見られた。なお、図2の形態学的評価と図3のクリスタルバイオレット染色法とを比較すると、クリスタルバイオレット染色法によって得られた相対接着率の方が、形態学的評価から得られた伸展率よりもpHの影響が少なかった。これは、PMNs細胞が偏平まで至らないが、フィブリノーゲンに接着しているPMNsが存在するためであると考えられる。
【実施例2】
【0041】
被験物質としてクレソン抽出物を用いた多型核白血球の細胞接着能試験:
クレソン粉末を熱湯抽出し、凍結乾燥によって抽出物を粉末後、更に100%メタノールで抽出したメタノール抽出物を回収した。その後、メタノール抽出物に含まれるメタノールを蒸発除去した。このメタノールを除去した抽出物をHEPES緩衝液(pH7.2)に溶解(100mg当量/mL)したものを被験物質として用いた。また、実施例1記載の形態学的評価法と同様の方法で伸展率(%)を算出した。なお、検定は4回行いスタンダードエラー・バーを付した。結果を図4に示す。さらに、実施例1記載のクリスタルバイオレット染色法と同様の方法で相対接着率(%)を算出した。なお、検定は3回行いスタンダードエラー・バーを付した。結果を図5に示す。
【0042】
図4に示されるように、クレソン抽出物を添加していないもの(濃度0mg当量/mL)は約78%が伸展を示したのに対し、クレソン抽出物を添加したもの(濃度100mg当量/mL)は約10%のみが伸展を示した。一方、図5に示されるように、クレソン抽出物を添加していないもの(濃度0mg当量/mL)はPMNs細胞が約100%フィブリノーゲンに接着し、クレソン抽出物を添加したもの(濃度100mg当量/mL)はPMNs細胞が約80%フィブリノーゲンに接着した。この結果より、有意にクレソン抽出成分が多型核白血球の伸展を抑制していることが認められた。また、細胞接着とは、細胞が基質に付着し、かつ伸展を起こしている状態を示すものであるため、クレソン抽出物は伸展のみを抑制し、付着は抑制していないと考えられる。また、クレソンは従来、喘息に効果があると言われており、本発明の方法においてもクレソン抽出物が多型核白血球の細胞伸展を抑制していることから、本発明の方法は喘息などのアレルギー疾患に有効な薬剤のスクリーニングに有用であると考えられる。
【実施例3】
【0043】
被験物質としてアクチンの重合阻害剤であるサイトカラシン(cytochalasin)Bを用いた多型核白血球の細胞接着能試験:
まず、実施例1記載の形態学的評価法と同様の方法で伸展率(%)を算出した。なお、検定は4回行いスタンダードエラー・バーを付した。結果を図6に示す。次に、実施例1記載のクリスタルバイオレット染色法と同様の方法で相対接着率(%)を算出した。なお、検定は3回行いスタンダードエラー・バーを付した。結果を図7に示す。
【0044】
図6に示されるように、サイトカラシンBを添加しないとき(濃度0μM)およびサイトカラシンBを添加したとき(濃度2μM)の伸展率は、それぞれ約77%および約21%であった。一方、図7に示されるように、サイトカラシンBを添加しないとき(濃度0μM)およびサイトカラシンBを添加したとき(濃度2μM)の相対接着率(%)はそれぞれ約109%および約118%であった。これより、細胞接着とは、細胞が基質に付着し、かつ伸展を起こしている状態を示すものであるため、サイトカラシンBは伸展のみを抑制し、付着は抑制していないと考えられる。また、細胞接着後の伸展が細胞内アクチン骨格系の再編成を必要とすることから、アクチンの重合阻害剤として知られているサイトカラシンBがアクチンの重合を阻害したことにより伸展が抑制されたことが本発明の方法により認められた。したがって、本発明の方法は、被験物質(薬剤など)の多型核白血球の機能抑制効果を評価し、さらに細胞接着のみならず細胞移動を抑制するのに有効な薬剤のスクリーニングが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施例1の形態学的評価においてHEPES緩衝液のpHを(a)pH7.2,(b)pH6.9,(c)pH6.6,(d)pH6.3,(e)pH6.0に変化させたときの細胞の顕微鏡像を示す。
【図2】本発明の実施例1の細胞伸展に対する細胞外pHの影響を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例1の細胞接着に対するに対する細胞外pHの影響を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例2のクレソン抽出物による細胞伸展の結果を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例2のクレソン抽出物による細胞接着の結果を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例3のサイトカラシンBによる細胞伸展の結果を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例3のサイトカラシンBによる細胞接着の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多型核白血球の細胞接着及び/又は細胞移動を抑制するのに有効な薬剤のスクリーニング方法であって、固体支持体上にコーティングされた接着性基質に、少なくとも多型核白血球と、被験物質と、前記多型核白血球の活性化剤とを添加し、前記接着基質への前記多型核白血球の接着細胞数又は接着細胞量を測定することにより、前記多型核白血球の細胞接着能を評価することを特徴とする薬剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
前記接着性基質が、フィブリノーゲンであることを特徴とする請求項1記載の薬剤のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記活性化剤が、ホルボールミリスチン酸アセテートであることを特徴とする請求項1又は2記載の薬剤のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記活性化剤が、ホルボールミリスチン酸アセテート及びマグネシウムイオンであることを特徴とする請求項1又は2記載の薬剤のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記接着細胞数を、位相差顕微鏡を用いて測定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の薬剤のスクリーニング方法。
【請求項6】
クリスタルバイオレットを含む水溶液により接着細胞を染色し、前記接着細胞量を分光光度計を用いて測定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の薬剤のスクリーニング方法。


【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【公開番号】特開2006−75140(P2006−75140A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−266045(P2004−266045)
【出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】