説明

薬剤の取り込み量が多い、薬剤徐放可能なヒドロゲル材料の製造方法

【課題】ゲル内により多くの薬剤を取り込むことができ、かつ薬剤を長時間に渡って放出することが可能なヒドロゲル材料を製造する。
【解決手段】薬剤の取り込み量が多い、薬剤徐放可能なヒドロゲル材料の製造方法であって、(a)ターゲット薬剤、該ターゲット薬剤と物理的架橋構造を形成できる特定官能基を有するモノマー、ならびに架橋剤を含んでなるモノマー混合液を得る工程;(b)該ターゲット薬剤と特定官能基を有するモノマーとの間に生じる複合体を維持したまま重合する工程;ならびに(c)該重合体から該ターゲット薬剤と未反応のモノマーを除去する工程、を包含する製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疾病治療用薬剤をより多く取り込むことが可能であり、かつ長時間に渡り薬剤を徐放することができる、薬剤の取り込み量が多い、薬剤徐放可能なヒドロゲル材料の製造方法に関する。また、本発明のヒドロゲル材料の製造方法によって製造されたヒドロゲル材料からなる薬剤徐放性コンタクトレンズおよび眼内レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ドライアイ、緑内障、結膜炎あるいは角膜上皮障害など眼科領域での主要な疾患に対する薬物治療の第一選択は、専ら点眼薬である。点眼薬は、患者にとっては取扱いが簡単でかつ低侵襲というメリットがあり、医師にとっても取扱い説明が簡単であるため、双方のメリットが大きい。
【0003】
しかしながら、瞬きによる眼瞼の機械的運動や涙液の置換のために、点眼薬を長時間に渡って眼内に保持しておくことは不可能に近い。点眼薬によって投与された薬剤の99%は、涙液によって涙点から涙小管に洗い流されてしまい、薬効はほとんど期待できないことが知られている(M. Patrick, A. K. mitra, Ophthalmic Drug Delivery Systems, A. K. Mitra(Ed.), Chapter 1, Marcel Dekker, New York(1993))。
【0004】
すなわち、点眼薬による薬剤の投与は、一般の内服薬と比較して生体有効利用性が圧倒的に低いのである。したがって、薬効を発揮させるためには頻回の点眼が必要となる。この頻回点眼は、患者にとって煩雑な作業となるだけでなく、患者の服用コンプライアンスが低下し、治るはずの疾患も治り難くなることが問題となっている。
【0005】
さらに、頻回点眼により角結膜上から洗い流され、全身に回る薬剤量も点眼回数に比例して増加する。薬剤の種類によっては、重篤な全身的副作用を引き起こすこともある。眼内においても頻回点眼により、組織内における薬剤濃度は激しく変動し(I. K. Reddy, M. G. Ganesan, Ocular Therapeutics And Drug Delivery, I. K. Reddy(Ed.), Chapter 1, Technomic, Pennsylvania(1996))、眼内局所における副作用の危険性は非常に高くなる。
【0006】
また、眼疾患がある場合に頻回点眼を行なうと、本来の涙液成分(ムチン、ラクトフェリン、IgA、リゾチーム等)を希釈し洗い流してしまうため、逆に疾患の症状が悪化することも多い。さらには、健常人でも人工涙液を頻回点眼すると新たに角膜上皮障害が発生したという報告さえある(眼科 New Insight 2, MEDICAL VIEW(1994))。
【0007】
以上より、眼科領域での疾患に対する薬物治療には、点眼薬が最良であるというわけではなく、点眼薬以外に有効な解決方法がないのが現状なのである。
【0008】
以上をふまえると、理想的な眼内薬物治療法は、以下のような効果をもたらすものである:
(a)薬効の持続性を向上させ、薬剤の生体有効利用性を高める。
(b)投与回数を極力減らし患者の服用コンプライアンスを向上させる。
(c)投与された薬剤のロスを減らし、副作用を低減させる。
(d)患者自身が投与可能(煩雑な作業ではない)である。
(e)低侵襲である。
【0009】
一方、これまでに、コラーゲンシールドやオキュサート(登録商標)などが販売された(M. Friedberg, U. Pleyer, B. J. Mondino, Ophthalmol., 1991, 98, 725-732;S. G. Deshpande, S. Shirolkar, J. Pharm. Pharmacol., 1989, 41, 197-200)。しかし、これらは、プラスチックに起因する装用感の悪さに加え、患者自身の取扱いが許されなかったため医師による装用が必要とされ、患者が頻繁に眼科を訪問しなければならないという欠点を有していた(F. E. Ros, J. W. Tiji, J. A. Faber, CLAO J., 1991, 17, 187-190)。
【0010】
以上のような背景から理想に近いものは、生体との親和性が高く装用感のよいヒドロゲルを用いた薬剤徐放システムであるとされてきた。実際にこれと同じ発想で市販のソフトコンタクトレンズ(以下、SCLと称す)に薬物を染込ませてこれを患者に装用させるという試みは、WaltmanやKaufranらによって1970年にすでに実施されている(S. R. Waltman, H. E. Kaufman, Inv. Ophthalmol., 1970, 9, 250-255;S. M. Podos, B. Becker, C. Asseff, J. Hartstein, Am. J. Ophthalmol., 1972, 73, 336他)。しかし、ヒドロゲル中に拡散した薬剤は、拡散律速にしたがった放出挙動を示すため(M. Negishi, et al, Drug. Dev. Ind. Pharma., 1999, 25, 437-444)、30分以内にほとんどの薬剤は放出されてしまう(M. R. Jain, Bri. Ophthalmol., 1988, 72, 150-154;J. W. Shell, R. Baker, Ann. Ophthalmol., 1974, 6, 1037)。これは、点眼薬1滴の角膜上滞在時間(約5分)と比較すると確かに改善されてはいるものの「薬剤徐放システム」と言うにはほど遠い。
【0011】
さらに、市販のSCL1枚に取込むことのできる薬剤量は非常に少なく、薬効を示すに充分な量の薬剤を保持させることはかなり困難である(A. L. Weiner, Polymeric Drug delivery Systems for the Eye, A. J. Domb(Ed.), Polymeric site-specific pharmacotherapy, John Wiley & Sons, Chichester(1994), 315-346;T. P. Heyman, M. L. McDermott, et al, J. Cat. Ref. Surg., 1989, 15, 169-175)。これらが通常のSCLの持つ最大の欠点であり、このために通常のSCLは薬物キャリアとしての利用法が制限されてきた。
【0012】
したがって、ゲル内に大量の薬剤を保持でき、ゲル内から薬物を緩やかにかつ長時間に渡って放出する材料が望まれている。
【0013】
これらの問題点を解決するために、従来から種々の提案がなされている。例えば、特開昭62−103029号公報には、モノマー混合液中に直接的に薬剤を挿入し、薬物存在下で重合を行なう方法、ならびに、ポリマーヒドロゲルを薬物を含まないで製造し、後から薬物の水溶液中で飽和することでゲル中に薬物を取り込ませる方法によって製造された、架橋重合された親水性ポリマー、アミノ酸ポリマー、架橋剤、および薬物を治療上の有効量含有する持効性のポリマーヒドロゲル剤形が記載されている。しかし、薬物を単にポリマーヒドロゲル中に取り込ませただけの技術であり、この技術を用いても従来のSCLと同様にゲル内に取り込むことが可能な薬物量は少なく、充分な薬効を発揮することが難しい。また、薬物の徐放時間も比較的短いという欠点を有している。また、特開昭62−96417号公報には、重合成分からなる非架橋性の線状ポリマー中に薬剤を溶解させ、続く架橋によって薬剤を取り込ませる方法によって製造された、架橋重合された親水性ポリマー、アミノ酸ポリマー、架橋剤、低級アルキルの極性溶媒、および薬物を治療上有効量含有する持効性のポリマーヒドロゲル剤形が記載されている。しかし、この方法では、低級アルコールの極性溶媒をポリマーの粘度を調整するために加えているため、コンタクトレンズ(以下、CLと称す)を作製した際、重合収縮などにより得られたCLの規格をコントロールするのが非常に難しいという難点がある。
【0014】
また、一方では、あるゲスト化合物の存在下で、これと相互作用するモノマーを一緒に重合させることで、得られたポリマーに分子認識機能を持たせるという方法は、「分子刷り込み」の方法として知られている。すなわち、ある特定のゲスト分子の周りをプラスチックで固め、その後、プラスチックを割ってゲスト分子を洗い出せば、プラスチックの表面にゲスト分子と相補的な形をもった穴ができる。こうして得られたポリマー(インプリントポリマー)は、ゲスト分子の非存在下でモノマーを重合して得られるポリマー(ランダムポリマー)よりも分子認識機能に優れるため、カラム分離や人工酵素などへの応用が期待されている。しかしながら、この方法では、分子認識に関して選択性を持たせるために、架橋濃度を60重量%以上にする必要があり、ヒドロゲル材料としての使用は不可能であった。したがって、このような材料は、装用感などの悪さの点から理想的な薬物治療に使用することが不可能であった。さらに、分子認識機能は、ポリマー表面のみで行われるため、そこに吸着できるゲスト分子の量にも限界があった(Molecular and ionic recognition with imprinted polymers, ACS symposium series 703, Chapter 2, 15)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、分子認識機能を有し、かつ装用感などが良好で薬物治療に理想的な材料を提供することを目的とする。より詳細には、分子認識機能を有し、ゲル内により多くの薬剤を取り込むことができ、かつ薬剤を長時間に渡って放出することができる、薬剤の取り込み量が多い、薬剤徐放可能なヒドロゲル(インプリントゲル)材料を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、薬剤の取り込み量が多い、薬剤徐放可能なヒドロゲル材料の製造方法であって、
(a)ターゲット薬剤、該ターゲット薬剤と物理的架橋構造を形成できる特定官能基を有するモノマー、ならびに架橋剤を含んでなるモノマー混合液を得る工程;
(b)該ターゲット薬剤と特定官能基を有するモノマーとの間に生じる複合体を維持したまま重合する工程;ならびに
(c)該重合体から該ターゲット薬剤と未反応のモノマーを除去する工程、
を包含する製造方法に関する。
【0017】
上記製造方法が、さらに、(d)ターゲット薬剤を前記重合体に取り込ませる工程を包含することが好ましい。
【0018】
上記特定官能基を有するモノマーが、カルボキシル基、スルホン基、およびアミノ基からなる群から選択された少なくとも1種の官能基を有することが好ましい。
【0019】
上記特定官能基を有するモノマーが、(メタ)アクリル酸、スチレンスルホン酸、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、およびジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートからなる群から選択された少なくとも1種のモノマーであることが好ましい。
【0020】
上記モノマー混合液中での架橋剤の濃度が、0.01〜10重量%であることが好ましい。
【0021】
上記モノマー混合液が、さらに親水性モノマーを含むことが好ましい。
【0022】
上記親水性モノマーが、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、およびN−ビニルピロリドンからなる群から選択された少なくとも1種のモノマーであることが好ましい。
【0023】
上記ターゲット薬剤が、緑内障治療剤または涙液分泌亢進剤であることが好ましい。
【0024】
上記緑内障治療剤が、チモロールまたはピロカルピン、あるいはこれらの医療的に許容される塩であることが好ましい。
【0025】
上記涙液分泌亢進剤が、3−イソブチル−1−メチルキサンチンまたはブロムヘキシン、あるいはこれらの医療的に許容される塩であることが好ましい。
【0026】
また、本発明は、上記の製造方法によって製造されたヒドロゲル材料からなる薬剤徐放性コンタクトレンズに関する。
【0027】
また、本発明は、上記の製造方法によって製造されたヒドロゲル材料からなる薬剤徐放性眼内レンズに関する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によって得られたヒドロゲル(インプリントゲル)材料は、同一組成からなる従来型のヒドロゲル(ランダムゲル)材料に比べ、取り込むことの可能な薬剤量が2〜3倍となり、単位体積当たりのゲルへの薬剤の取り込み量が大幅に改善され、薬効を得るために充分な薬剤量をゲル内に確保する効果を奏する。
【0029】
また、本発明によって得られたヒドロゲル(インプリントゲル)材料は、取り込まれた薬剤を24時間以上に渡りゆっくりと放出するため、点眼直後に起こる急激な薬剤濃度上昇による眼内局所における副作用の危険性、頻回点眼による涙液成分の希釈・洗い流しによる眼疾患の悪化などが著しく減少し、長時間に渡り薬剤を徐放させる効果を奏する。さらに、この効果によって、点眼薬の頻回投与の必要性がなくなり、患者のコンプライアンスも向上し、疾患に対しより簡便にかつ安全な薬剤投与を行なうことができるようになる効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本明細書中では、「・・・(メタ)アクリレート」とは、「・・・アクリレート」および「・・・メタクリレート」の2つの化合物を総称するものであり、また、その他の(メタ)アクリル誘導体についても同様である。
【0031】
本発明で製造されるヒドロゲル材料の原料モノマー混合液には、「ゲルの骨格を形成するモノマー」として、親水性モノマーを含むことが好ましい。このゲルの骨格を形成するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、リン含有(メタ)アクリル酸エステル、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート系親水性モノマー;ジアセトンアクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド塩酸塩、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、グリセロールアクリルアミド、アクリルアミド−N−ブリコール酸などのアクリルアミド系親水性モノマー;ビニルスルホン、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などスルホン系親水性モノマー;(メタ)アクリロイルモルホリン;N−ビニルピロリドン;N−ビニルカプロラクタム;N−ビニルオキサゾリン;N−ビニルサクシンイミド;ビニルピリジン;酢酸ビニル;イタコン酸;クロトン酸;N−ビニルイミダゾール;ビニルベンジルアンモニウム塩などがあげられる。これらのうち透明性、成型性、強度の面から、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、およびN−ビニルピロリドンが好ましく、とくにヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアクリルアミド,N−イソプロピルアクリルアミドが好ましい。
【0032】
本明細書中において、「物理的架橋構造」とは、「水素結合および/または静電的相互作用(荷電粒子間のクローン力のほかに、双極子および四極子などの多重極子間相互作用を含む)によって生じる架橋構造」のことをいう。
【0033】
ヒドロゲル材料の原料モノマー混合液には、ターゲット薬剤と物理的架橋構造を形成できるような「特定官能基を有するモノマー」を含有する。特定官能基を有するモノマーとしては、カルボキシル基、スルホン基、またはアミノ基などを含有する化合物があげられる。例えば、カルボキシル基を含有する化合物としては、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸など、スルホン基を含有する化合物としては、ビニルスルホン、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸など、アミノ基を含有する化合物としては、(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなど、またこれらのナトリウム塩、カリウム塩、塩酸塩など種種の塩があげられる。これらのうち、本願発明の効果を充分発揮させる点から、(メタ)アクリル酸、スチレンスルホン酸、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、およびジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートが好ましく、特に(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0034】
特定官能基を有するモノマーの配合量は、0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上である。0.1重量%より少ないと得られたゲル内にターゲット薬剤とそのターゲット薬剤と物理的架橋構造を形成できるような特定官能基の数が少なくなり、充分な薬剤徐放効果を発揮することができなくなる傾向にある。なお、特定官能基を有するモノマーのみで、ヒドロゲル材料として必要な条件を兼ね備えることができるものならば、特定官能基を有するモノマーが100重量%であっても何ら問題はない。
【0035】
ヒドロゲル材料の原料モノマーには任意のモノマーとして、酸素透過性の良好なヒドロゲル材料を得ようとするためには、ペンタメチルジシロキサニルメチル(メタ)アクリレート、ペンタメチルジシロキサニルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、モノ[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]シリルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセロール(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセロール(メタ)アクリレート、モノ[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセロール(メタ)アクリレート、トリメチルシリルエチルテトラメチルジシロキサニルプロピルグリセロール(メタ)アクリレート、トリメチルシリルメチル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピルグリセロール(メタ)アクリレート、ペンタメチルジシロキサニルプロピルグリセロール(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルエチルテトラメチルジシロキサニルメチル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキサニルプロピル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキシビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレートなどのシリコン含有(メタ)アクリレート;トリメチルシリルスチレン、トリス(トリメチルシロキシ)シリルスチレンなどのシリコン含有スチレン誘導体;4−ビニルベンジル−2’,2’,2’−トリフルオロエチルエーテル、4−ビニルベンジル−2’,2’,3’,3’,4’,4’,4’−ヘプタフルオロブチルエーテル、4−ビニルベンジル−3’,3’,3’−トリフルオロプロピルエーテル、4−ビニルベンジル−3’,3’,4’,4’,5’,5’,6’,6’,6’−ノナフルオロヘキシルエーテル、4−ビニルベンジル−4’,4’,5’,5’,6’,6’,7’,7’,8’,8’,8’−ウンデカフルオロオクチルエーテル、o−フルオロスチレン、m−フルオロスチレン、p−フルオロスチレン、トリフルオロスチレン、パーフルオロスチレン、p−トリフルオロメチルスチレン、o−トリフルオロメチルスチレン、m−トリフルオロメチルスチレンなどのフッ素含有スチレン誘導体;2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,2−トリフルオロ−1−トリフルオロメチルエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロ−tert−ペンチル(メタ)アクリレート、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−tert−ヘキシル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6−オクタフルオロヘキシル(メタ)アクリレート、2,3,4,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ビス(トリフルオロメチル)ペンチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−ドデカフルオロオクチル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,7−トリデカフルオロへプチル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10−ヘキサデカフルオロデシル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11−オクタデカフルオロウンデシル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11−ノナデカフルオロウンデシル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12−エイコサフルオロドデシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−4,4,5,5,6,7,7,7−オクタフルオロ−6−トリフルオロメチルヘプチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−4,4,5,5,6,6,7,7,8,9,9,9−ドデカフルオロ−8−トリフルオロメチルノニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,11,11,11−ヘキサデカフルオロ−10−トリフルオロメチルウンデシル(メタ)アクリレートなどのフッ素含有アルキル(メタ)アクリレート;特開平2−188717号公報、特開平2−213820号公報および特開平3−43711号公報に開示されているマクロモノマーなどを含めることが考えられ、また、強度的に優れたヒドロゲル材料を得ようとするためには、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、tert−ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−メチルブチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどの直鎖状、分岐鎖状、環状のアルキル(メタ)アクリレート;スチレン;o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、トリメチルスチレン、tert−ブチルスチレン、パーブロモスチレン、ジメチルアミノスチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン誘導体;(メタ)アクリル酸などを含めることが考えられる。これらのモノマーは、単独でまたは2種以上を同時に用いることができる。
【0036】
ヒドロゲル材料の原料モノマー混合液に加えられる、化学的架橋を形成するための「架橋剤」としては、一般的使われている架橋剤であれば何ら問題はない。この架橋剤としては、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、メタクリロイルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジアリルフマレート、ジアリルフタレート、アジピン酸ジアリル、アジピン酸ジビニル、トリアリルジイソシアネート、α−メチレン−N−ビニルピロリドン、4−ビニルベンジル(メタ)アクリレート、3−ビニルベンジル(メタ)アクリレート、2,2−ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1,3−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1,2−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,3−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,2−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシイソプロピル)ベンゼン、N,N’−ビスアクリロイルシスタミン、メチレンビスアクリルアミドなどがあげられる。これらは、単独または2種以上を混合して用いることができる。これらの中では、ヒドロゲル材料の柔軟性を適度にコントロールでき、良好な機械的強度を付与し、共重合性を向上させる効果が大きいため、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0037】
架橋剤の配合量は0.01〜10重量%、さらに好ましくは0.05〜5重量%である。0.01重量%より少ないと得られた材料が製品(例えば、CL、眼内レンズなど)として必要な形状を保持できなくなる傾向にあり、10重量%より多いと得られた製品が硬く装用感などが悪くなる傾向にあるため好ましくない。
【0038】
「ターゲット薬剤」としては、特定官能基を有するモノマーと物理的架橋構造を形成できるような薬剤を適宜選択すればよい。ターゲット薬剤としては、抗生物質、抗ウイルス剤、抗炎症剤、ステロイド、ペプチド、ポリペプチド、抗アレルギー剤、α−アドレナリン遮断剤、β−アドレナリン遮断剤、抗白内障剤、緑内障治療剤、眼薬、涙液分泌亢進剤、眼の局部的なまたは部分的な麻酔薬などがあげられる。特に眼科領域での薬物による疾患治療や市場での要求性の点で、緑内障治療剤または涙液分泌亢進剤が好ましい。緑内障治療剤としては、特定官能基を有するモノマーと比較的強い物理的架橋構造を形成できる点で、チモロール、ピロカルピンおよびこれらの医療的に許容される塩が好ましい。涙液分泌亢進剤としては、エレドニゾン、グルタチオン、レチノールパルミテート、アテノール、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、シクロフォスファミド、ブロムヘキシン、シクロスポリン酸、ならびにこれらの医療的に許容される塩および同様のものがあげられる。なかでも、特定官能基を有するモノマーと比較的強い物理的架橋構造を形成できる点で、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、ブロムヘキシンおよびこれらの医療的に許容される塩が好ましい。眼の局部的なまたは部分的な麻酔薬としては、リドカイン、コカイン、ベノキシネート、ジブカイン、プロパラカイン、テトラカイン、エチドカイン、プロカイン、ヘキシルカイン、ブピバカイン、メピカイン、プリロカイン、クロロプロカインなどがあげられる。眼薬または他の薬剤としては、イドクスリウジン、カルバコール、ベタネコール、テトラサイクリン、エピネフリン、フェニレフリン、エセリン、ホスホリン、デメカリウム、シクロペントレート、ホマトロピン、スコポラミン、クロルテトラサイクリン、パシトラシン、ネオマイシン、ポリミキシン、グラミシジン、オキシテトラサイクリン、クロラムフェニコール、ゲンタマイシン、ペニシリン、エリスロマイシン、スルファセタミド、ポリミキシンB、トブラマイシン、イソフルロフェート、フルロメタロン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、フルロシノロン、メドリゾン、ポレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、インターフェロン、クロモリン、パントテン酸、パントテノール、N、N−ジメチル−trans−2−フェニルシクロプロピルアミン、タウリン、アミノ酸(アスパラギン酸、アルギニン、グルタミン酸など)、ビタミンA1(レチノール)、ビタミンA2(3−デヒドロレチノール)、ビタミンA3、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンD2(エルゴカシフェノール)、ビタミンD3(コレカシフェロール)、ならびに、これらの医療的に許容される塩および同様のものがあげられる。
【0039】
本明細書中において、「医療的に許容される塩」とは、親化合物の医薬的性質(例えば、毒性、効率など)に有意に、逆に影響をおよぼさない親化合物の塩を意味する。本発明において医薬的に許容される塩としては、塩化物、ヨウ化物、臭化物、塩酸塩、酢酸塩、硝酸塩、ステアリン塩、リン酸塩、硫酸塩などがあげられる。
【0040】
ターゲット薬剤は、0.1重量%以上であることが好ましい。さらには0.5重量%以上が好ましい。ターゲット薬剤の含有量の上限としては、モノマー混合液にターゲット薬剤が溶解できなくなる濃度(飽和濃度)であり、使用するターゲット薬剤によって大きく異なる。飽和濃度は、例えば、チモロールであれば5重量%程度であり、塩酸ブロムヘキシンであれば、3重量%程度である。また、0.1重量%より少ないとゲルが所望の治療効果を発揮することができない傾向にある。
【0041】
本発明において、「ターゲット薬剤」とそのターゲット薬剤と物理的架橋構造を形成できるような「特定官能基を有するモノマー」との間に生ずる複合体を維持したまま重合が完了しなくてはならない。そこで、「ターゲット薬剤」と「特定官能基を有するモノマー」との好ましい組合せとしては、表1の組み合わせがあげられる。
【0042】
【表1】

【0043】
重合方法は、ラジカル重合開始剤を重合成分に配合したのち、室温〜約130℃の温度範囲で徐々または段階的に加熱する方法、あるいはマイクロ波、紫外線、放射線(γ線)などの電磁波を照射する方法が考えられる。重合は、塊状重合法、溶媒などを用いた溶液重合法、またはその他の方法によってなされてもよい。
【0044】
前記ラジカル重合開始剤の代表例としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル(V−65)、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどがあげられる。これらは、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0045】
なお、電磁波照射などを利用して重合させる場合には、光重合開始剤や増感剤をさらに添加することが好ましい。
【0046】
光重合開始剤としては、例えば、メチルオルソベンゾイルベンゾエート、メチルベンゾイルフォルメート、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテルなどのベンゾイン系光重合開始剤;2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(ダロキュア(登録商標)1173)、p−イソプロピル−α−ヒドロキシイソブチルフェノン、p−t−ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、α,α−ジクロロ−4−フェノキシアセトフェノン、N,N−テトラエチル−4,4−ジアミノベンゾフェノンなどのフェノン系光重合開始剤;1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン;1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム;2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントンなどのチオキサントン系光重合開始剤;ジベンゾスバロン;2−エチルアンスラキノン;ベンゾフェノンアクリレート;ベンゾフェノン;ベンジルなどがあげられる。これらは、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0047】
前記重合開始剤や増感剤の使用量は、充分な速度で重合反応を進行させるためには、0.002重量%以上、なかんずく0.01重量%以上となるように調整することが好ましく、また得られるヒドロゲル材料に気泡が発生するおそれをなくすためには、10重量%以下、なかんずく2重量%以下となるように調整することが好ましい。
【0048】
本発明において、ターゲット薬剤と、そのターゲット薬剤と物理的架橋構造を形成できるような特定官能基を有するモノマーとの間に生ずる複合体を維持したまま重合が完了できるように、適宜条件を変更してもよい。
【0049】
重合後、未反応モノマーやターゲット薬剤を除去するために使用する大過剰量の洗浄溶液は、水、食塩水;希塩酸;水酸化ナトリウム水溶液;または、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール;あるいは、これらの混合溶液が考えられる。
【0050】
本発明の薬剤の取り込み量が多い、薬剤徐放可能なヒドロゲル材料は、以下の方法によって製造することができる。すなわち、ヒドロゲル材料のモノマー混合液(ターゲット薬剤と物理的架橋構造を形成できるような特定官能基を有するモノマー、架橋剤、ターゲット薬剤、重合開始剤、さらに必要であればゲルの骨格を形成するモノマー)を調製し、そのモノマー混合液を成形型に注入し、成形型の型締めを行なう。この成形型に紫外線を照射することによりモノマー混合液を重合させ、その後、脱型を行ない、得られたヒドロゲル材料を大過剰量の0.9重量%食塩水によって、3日以上洗浄し、この材料内に存在する未反応モノマー、ターゲット薬剤を除去する。こうして得られたヒドロゲル材料に再度、同一のターゲット薬剤を組み込むため、ターゲット薬剤を溶解もしくは懸濁させた水溶液中にヒドロゲル材料を1時間〜数日間浸漬することで薬剤の取り込み量が多い、薬剤徐放可能なヒドロゲル材料を得ることができる。
【0051】
前記のようにして得られるヒドロゲル材料を用いて薬剤徐放性の、眼用レンズ(コンタクトレンズ、眼内レンズなど)、眼表面シート(角膜バンテージシート、結膜バンテージシートなど)、人工水晶体(水晶体嚢内に充填させ、生体の水晶体と同等な屈折矯正機能を有する透明な人工代替物)、人工硝子体(硝子体内に充填させ、生体の硝子体と同等な機能を有する透明な人工代替物)、眼内埋植物(強膜プラグ(網膜、硝子体などの眼の奥部の組織へ薬剤を到達させるための埋植物)など)、鼻腔内用薬物徐放キャリア、口腔内用薬物徐放キャリア、涙点プラグなどに用いることができる。これらを作製する方法としては、例えば、前記重合体にたとえば切削、研磨などの機械加工を施し、所望の形状の製品を得る方法があるが、その他に所望の形状を与える成形型を用意し、この型のなかで前記各成分を直接重合して成形する方法がある。この場合には、得られた製品には必要に応じて機械的な仕上げ加工を施してもよい。
【0052】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの例に限定されることを意味するものではない。
【0053】
実施例1〜6:インプリントゲル(チモロール)
ヒドロゲル材料の原料モノマーとして、N,N−ジエチルアクリルアミド(DEAA;ゲルの骨格を形成するモノマー)、メタクリル酸(MAAc;特定官能基を有するモノマー)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA;架橋剤)を、それぞれ蒸留によって精製したものを使用した。
【0054】
光重合開始剤としては、あらかじめ蒸留によって精製した2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(ダロキュア(登録商標)1173)を使用した。
【0055】
ヒドロゲル材料に取り込ませるターゲット薬剤としては、以下に示すチモロールマレイン酸塩(チモロール)を使用した:
【化1】

【0056】
表2にしたがい、MAAc、EGDMA、チモロールを2mLのDEAAに溶解させ、この混合液に0.4v/v%のダロキュア1173を20μL加え、ポリプロピレン製の成形型(凸型および凹型の構成;直径20mm×厚み0.3mmの円形プレート状試験試料作成用)に注入し、型組みを行なった。
【0057】
紫外線照射装置(アイグラフィックス株式会社製UX0302−03;測定波長365nm)によって、室温下、照射強度11mW/cm2にて、成形型および成形型中のモノマー混合液に紫外線を50分間照射させ、紫外線照射重合を行なった。
【0058】
重合終了後、成形型を開型し、試験試料を取り出した。
【0059】
得られた試験試料(インプリントゲル)は、大過剰量の0.9重量%食塩水によって3日以上洗浄し、ゲル中に存在する未反応モノマーおよびチモロールを除去した。その後、膨潤状態のゲルを直径16mmのコルクボーラーで打ち抜き、さらに4日間水洗いを行なった。
【0060】
ついで、得られたプレート状(直径:16mm)の乾燥した試験試料(ゲル)1枚を2mMチモロール水溶液10mLが入ったバイアル瓶中に37℃で3日間保存し、チモロールを吸着させた。
【0061】
比較例1〜6:ランダムゲル
チモロールの非存在下で重合させること以外は、実施例1〜6と同様の方法によって試験試料(ランダムゲル)を得た。
【0062】
【表2】

【0063】
実施例7:インプリントゲル(塩酸ブロムヘキシン)
チモロール43.25μgを塩酸ブロムヘキシン20.6μgに変更した以外は、実施例4と同様の方法によって試験試料(インプリントゲル)を得た。
【0064】
ついで、得られたプレート状(直径16mm)の乾燥した試験試料(ゲル)1枚を0.5mM塩酸ブロムヘキシン水溶液5mLが入ったバイアル瓶中に37℃で3日間保存し、塩酸ブロムヘキシンを吸着させた。
【0065】
ターゲット薬剤として使用した塩酸ブロムヘキシンは、以下に示す構造を有する:
【化2】

【0066】
比較例7:ランダムゲル
塩酸ブロムヘキシンの非存在下で重合させること以外は、実施例7と同様の方法によって試験試料(ランダムゲル)を得た。
【0067】
(薬剤徐放試験)
前記実施例および比較例においてプレート状試験試料にターゲット薬剤を吸着させた後、試験試料をバイアル瓶から取り出し、蒸留水で数秒間すすいだ後、直ちに0.9重量%食塩水10mLが入ったバイアル瓶に移し替えた。なお、この間、温度は常に37℃を維持した。
【0068】
このバイアル瓶から溶液の一部(600μL/回)を定期的に採取し、自記分光光度計(株式会社島津製作所製 UV−3150)を用いて特定の波長(チモロールは295nm、塩酸ブロムヘキシンは245nm)における吸光度を測定した。測定後、定期的に取り出した溶液は、元のバイアル瓶には戻さず、代わりに採取した溶液と同量の0.9重量%食塩水を加えた。
【0069】
得られた吸光度の値から、検量線を用いてターゲット薬剤放出量を定量した。
【0070】
図1に各架橋剤濃度におけるゲルからのチモロール放出挙動を示す(架橋剤濃度の異なるインプリントゲルおよびランダムゲルからのチモロールの累積放出量、すなわちゲルに取込むことのできるチモロール量を表す)。
【0071】
図2に架橋剤濃度120mMのゲルからの塩酸ブロムヘキシン放出挙動を示す(架橋剤濃度120mMのインプリントゲルおよびランダムゲルからの塩酸ブロムヘキシンの累積放出量、すなわちゲルに取込むことのできる塩酸ブロムヘキシン量を表す)。
【0072】
ここで、試験試料(プレート状ゲル)は、含水状態でゲルの体積がロット間ですべて同一になるように設計したものを用いた。
【0073】
【表3】

【0074】
図1に示された結果から、架橋剤濃度が低い場合、プレート状ゲル1枚に仕込めるチモロール量について、インプリントゲルとランダムゲルとの間に有意差は認められなかった。
【0075】
インプリントゲルの場合、架橋剤濃度の増加に伴い仕込めるチモロール量も増加し、ランダムゲルの2倍以上のチモロールを取込むことが可能であった。
【0076】
ランダムゲルの場合、ゲルに取込むことのできるチモロール量は、架橋剤濃度に依存せずほぼ一定の値を示した。
【0077】
また、図2に示された結果から、架橋剤濃度120mMのインプリントゲルの場合、取り込むことができる塩酸ブロムヘキシン量は、ランダムゲルの約2倍であった。また、その取り込まれた塩酸ブロムヘキシンは、120時間以上に渡りゆっくりと放出することを示した。
【0078】
インプリントゲルとランダムゲルの配合組成比およびその膨潤挙動は全く同じであるが、ゲル中のポリマー鎖のモノマー配列が唯一異なる。インプリントゲルは、ターゲット薬剤の立体構造に相補的な形の穴を持つため、そのような部位を持たないランダムゲルに比べて、より多くのターゲット薬剤を効果的に取込むことができたと考えられる。
【0079】
さらに、同一配合組成からなるゲルでも本願発明の技術を用いて重合すれば、得られたゲルはより高い親和性で、かつより多くのターゲット薬剤を吸着できた。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】架橋剤濃度の異なるインプリントゲルおよびランダムゲルからのチモロールの累積放出量、すなわちゲルに取込むことのできるチモロール量を表す。
【図2】インプリントゲルおよびランダムゲルからの塩酸ブロムヘキシンの累積放出量、すなわちゲルに取込むことのできる塩酸ブロムヘキシン量を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤の取り込み量が多い、薬剤徐放可能なヒドロゲル材料の製造方法であって、
(a)ターゲット薬剤、該ターゲット薬剤と物理的架橋構造を形成できる特定官能基を有するモノマー、ならびに架橋剤を含んでなるモノマー混合液を得る工程;
(b)該ターゲット薬剤と特定官能基を有するモノマーとの間に生じる複合体を維持したまま重合する工程;ならびに
(c)該重合体から該ターゲット薬剤と未反応のモノマーを除去する工程、
を包含する製造方法。
【請求項2】
さらに、(d)ターゲット薬剤を前記重合体に取り込ませる工程を包含する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記特定官能基を有するモノマーが、カルボキシル基、スルホン基、およびアミノ基からなる群から選択された少なくとも1種の官能基を有する請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
前記特定官能基を有するモノマーが、(メタ)アクリル酸、スチレンスルホン酸、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、およびジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートからなる群から選択された少なくとも1種のモノマーである請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
前記モノマー混合液中での架橋剤の濃度が、0.01〜10重量%である請求項1、2、3または4記載の製造方法。
【請求項6】
前記モノマー混合液が、さらに親水性モノマーを含む請求項1、2、3、4または5記載の製造方法。
【請求項7】
前記親水性モノマーが、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、およびN−ビニルピロリドンからなる群から選択された少なくとも1種のモノマーである請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
前記ターゲット薬剤が、緑内障治療剤または涙液分泌亢進剤である請求項1、2、3、4、5、6または7記載の製造方法。
【請求項9】
前記緑内障治療剤が、チモロールまたはピロカルピン、あるいはこれらの医療的に許容される塩である請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
前記涙液分泌亢進剤が、3−イソブチル−1−メチルキサンチンまたはブロムヘキシン、あるいはこれらの医療的に許容される塩である請求項8記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9または10記載の製造方法によって製造されたヒドロゲル材料からなる薬剤徐放性コンタクトレンズ。
【請求項12】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9または10記載の製造方法によって製造されたヒドロゲル材料からなる薬剤徐放性眼内レンズ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−214640(P2008−214640A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74519(P2008−74519)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【分割の表示】特願2003−587431(P2003−587431)の分割
【原出願日】平成14年8月29日(2002.8.29)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】