説明

薬剤の希釈装置

【課題】半導体、液晶などの製造工程に使用される現像液などの薬剤を高濃度の原液を超純水などで希釈し、所望の濃度に調整するにあたり、不純物の混入を防ぐことができ、かつ設備がコンパクトな希釈装置を提供する。
【解決手段】薬剤及び希釈液が導入される希釈タンク1を備えている薬剤の希釈装置であって、希釈タンク1に、希釈タンク1内の液体を撹拌するための磁気浮上ポンプ2を設けるとともに、薬剤の濃度を測定する濃度計3を備え、薬剤の所望の濃度に基づいて、上記測定値を上記所望の濃度に近づけるように薬剤の量と希釈液の量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤を希釈する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の製造工程において、希釈されて所望の濃度に調整された薬剤が用いられている。例えば、半導体、液晶などの製造工程に使用される現像液は、使用する前に、高濃度の原液を超純水などで希釈し、所望の濃度に調整されたものである必要がある。
【0003】
所望の濃度を有する薬剤を調整する装置として、特許文献1には、高濃度の試薬を希釈することによって使用濃度に調整し、臨床検査装置に供給する試薬調整装置が記載されている。また、特許文献2および3には、調合槽内の液を、循環ポンプを用いて混合する、現像液の自動希釈装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−33538号公報(1997年2月7日公開)
【特許文献2】特開平5−216241号公報(1993年8月27日公開)
【特許文献3】特開平6−61136号公報(1994年3月4日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、薬剤(例えば、半導体の製造に用いられる現像液の原液等)を希釈する際には、正確に所望の濃度とするために、あるいは薬剤の劣化を防ぐために、不純物の混入を抑えなければならない。特に半導体、液晶製造等に用いられる現像液等は、不純物(金属不純物、パーティクル等)などの混入をできるだけ抑制しなければならない。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された装置では、調製タンク内の混合を撹拌翼により行うが、この撹拌翼を回転させるための軸(撹拌軸)が調製タンクを貫通した構造となっており、この貫通箇所(軸シール部等)から不純物がタンク内に混入し、又は軸シール材等の摺動、磨耗等により発生する不純物がタンク内に混入し、タンク内が汚染されるという問題を孕んでいる。また、撹拌翼、撹拌軸等は、その強度を確保するためにステンレス鋼(SUS)等の金属により構成され、さらにその表面をフッ素樹脂等でコーティングされることが多く、このような場合には、コーティング剤の劣化等により、母材である金属が溶出するという危険性をも孕んでいる。さらに、撹拌翼の回転による摩擦によって磨耗した撹拌翼またはその周辺の部材の屑が不純物となる場合もある。
【0007】
特許文献2および3に記載された装置は、タンク内の液体をタンク外の配管に排出した後タンクに戻すので、混合に長時間を要するとともに、タンク外に循環ポンプ、配管等の設備を必要とするので、装置が複雑になるとともに大きくなってしまう。
【0008】
本発明は、上述した従来技術が有する問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、不純物の混入を防ぐことができ、かつ設備がコンパクトな希釈装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明に係る希釈装置は、薬剤及び希釈液が導入される容器を備えている薬剤の希釈装置であって、上記容器に、当該容器内の液体を撹拌するための磁気浮上ポンプが設けられていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る希釈装置では、上記容器内の液体における上記薬剤の濃度を測定する濃度計をさらに備えていることがより好ましい。
【0011】
また、本発明に係る希釈装置では、上記容器に導入される上記薬剤の量を調節する第1の調節手段と、上記容器に導入される上記希釈液の量を調節する第2の調節手段と、上記濃度計における測定値を受信し、上記測定値および予め入力された上記薬剤の所望の濃度に基づいて、上記測定値を上記所望の濃度に近づけるように第1の調節手段及び第2の調節手段を制御する制御手段と、をさらに備えていることがより好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る希釈装置は、以上のように、薬剤及び希釈液が導入される容器を備えている薬剤の希釈装置であって、上記容器に、当該容器内の液体を撹拌するための磁気浮上ポンプが設けられているので、不純物の混入を防ぐことができ、かつ設備がコンパクトな希釈装置を提供するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態における希釈装置の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る希釈装置の一実施形態について、図1を参照して以下に説明する。図1は、本発明の一実施形態における希釈装置の構成を模式的に示す図である。
【0015】
なお、本発明に係る希釈装置は、薬剤を希釈液で希釈する装置であり、当該薬剤としてどのようなものにも適用することができる。本発明は、特に不純物が混入されることが好ましくない薬剤に好適に適用できる。本発明が好適に適用できる薬剤としては、現像液の原液、フッ化水素(HF)、アンモニウム水(NHOH)、洗浄液の原液等が挙げられる。また、本発明における薬剤は、1つであってもよいが、複数であってもよい。すなわち、本発明に係る希釈装置は、複数の薬剤を混合し、かつ希釈液で希釈する場合にも好適に適用できるので、例えば各種の混酸等の調製をも行うことができる。混酸としては、HF、H及び純水の混合物が挙げられる。本発明により混酸を調製する例としては、所定量のHFを希釈タンク1内に導入し、その後、所定量のHを導入した上で、純水を混合する方法が挙げられる。HF及びHを純水と混合する場合、濃度計として近赤外線分光光度計を用いることが好ましい。
【0016】
例えば、半導体、液晶等の製造工程において使用される現像液は、不純物の混入を特に厳格に抑制しなければならない。これに関し、本発明に係る希釈装置は、希釈の際に不純物の混入を防ぐことができるので、上述した場合に現像液の原液を希釈する際にも好適に用いることができる。
【0017】
本発明に用いる希釈液は、本発明が適用される薬剤を希釈するための液体であり、当該薬剤に溶媒として用いることができるものであればよい。
【0018】
本実施形態においては、薬剤として現像液の原液を用い、希釈液として超純水を用いる場合について説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施形態に係る希釈装置は、希釈タンク(容器)1を備えている。
【0020】
希釈タンク1は、現像液の原液を希釈するための容器であり、現像液の原液と超純水とが導入され、混合されることで希釈される。
【0021】
また、希釈タンク1の下部には、内部の液体を排出するための配管が接続されており、この配管には、調節弁10が設けられている。調節弁10の開閉によって、希釈タンク1内の液体の排出を開始したり停止したりすることができる。
【0022】
さらに、希釈タンク1の下部には、希釈タンク1内の液体を撹拌するための磁気浮上ポンプ2が設けられており、希釈タンク1と磁気浮上ポンプ2とは一体化されている。
【0023】
磁気浮上ポンプ2は、磁気力により浮上させた回転部を、磁気力により非接触にて回転させることにより、液体を吸い込んだり排出したりするポンプである。磁気浮上ポンプ2には、希釈タンク1内に向けて吸引口(図示せず)と複数の排出口(図示せず)とを有している。磁気浮上ポンプ2は、図1中に矢印で示すように、吸引口から希釈タンク1内の液体を吸い込んだ後、複数の排出口から希釈タンク1内に該液体を噴出することにより、希釈タンク1内の液体を混合させる。これにより、現像液の原液と超純水とが混合される。このように、磁気浮上ポンプ2には、希釈タンク1内に液体を噴出する複数の噴出口が設けられているので、希釈タンク1内の液体を効率よく撹拌することができる。
【0024】
ここで、磁気浮上ポンプ2としては、例えば、回転することにより液体を吸い込み、排出するインペラ等の回転部と、磁気力により該回転部を浮上させて支持する支持部と、磁気力により非接触のまま該回転部を回転駆動させる駆動部とを備えているポンプ等を用いることができる。また、磁気浮上ポンプ2としては、例えばLEVITRONIX社製のPTMシリーズの磁気浮上ポンプ等を用いることができる。
【0025】
なお、本発明における磁気浮上ポンプが設けられる場所は、特に希釈タンクの下部に限定されず、希釈タンク内の液体に浸る位置であれば、例えば希釈タンク内の上部又は側部等であってもよい。
【0026】
本実施形態における希釈装置は、磁気浮上ポンプ2を用いることにより、回転部を回転させるための軸等を希釈タンク1の壁等に貫通させる必要がない。したがって、軸等をタンクの壁に貫通させた場合にその貫通箇所から混入し得る不純物等を防いだり、軸の回転による摩擦によって磨耗した軸、その周辺の部材等の屑が不純物として混入することを防いだりすることができるため、本発明は、不純物等の混入を厳格に抑制しなければならない場合にも好適に用いることができる。また、磁気浮上ポンプ2は希釈タンク1に設けられて一体化され、希釈タンク1内のみで液体を混合させるので、希釈タンク1の外側に、液体を循環させるための循環ポンプ、配管等を設ける必要がないため、設備がコンパクトになるとともに、希釈タンク1内の液体を短時間で混合させることができる。
【0027】
希釈タンク1には、濃度計3と、ロードセル4とが取り付けられている。また、超純水槽5と、原液槽6とが、配管を介して希釈タンク1に接続されている。
【0028】
濃度計3は、希釈タンク1内の液体における現像液の濃度を測定する計器である。濃度計3としては、例えば導電率式、超音波式、屈折率式のもの等を用いることができる。濃度計3により、希釈タンク1内の現像液の濃度を確認できるので、これに基づいて濃度の補正を行うことが可能となる。なお、本実施形態においては、後述するプログラマブルコントローラ7により濃度の補正を行っているが、濃度の補正は手動で行ってもよい。このように濃度の補正を行うことにより、薬剤の希釈を正確に行うことができる。
【0029】
なお、濃度計3は、希釈タンク1に、例えば直付け等により直接設けられていることが好ましい。これにより、希釈タンク1のみで濃度の確認ができるとともに、設備がよりコンパクトになる。
【0030】
ロードセル4は、希釈タンク1内の液量を測定する計器である。ロードセル4が設けられることによって、希釈タンク1内の液量の管理が可能となる。なお、ロードセルに限らず、液面計等を用いてもよい。
【0031】
超純水槽5は、希釈液としての超純水が貯められている水槽であり、配管を介して希釈タンク1に超純水を供給する。超純水槽5と希釈タンク1とを接続する配管には、調節弁(第2の調節手段)8が設けられており、調節弁8は、その開閉によって、希釈タンク1に導入される超純水の量を調節する。
【0032】
原液槽6は、薬剤としての現像液の原液が貯められている水槽であり、配管を介して希釈タンク1に現像液の原液を供給する。原液槽6と希釈タンク1とを接続する配管には、調節弁(第1の調節手段)9が設けられており、調節弁9は、その開閉によって、希釈タンク1に導入される現像液の原液の量を調節する。
【0033】
本実施形態における希釈装置には、プログラマブルコントローラ(制御手段)7がさらに設けられている。プログラマブルコントローラ7は、濃度計3及びロードセル4における測定値に基づいて、調節弁8及び9の開閉を制御する制御装置であり、信号線を介して濃度計3、ロードセル4、ならびに調節弁8及び9に接続されている。信号線は、図1において点線で示されている。
【0034】
以下に、プログラマブルコントローラ7により調節弁8及び9の開閉を制御する方法について説明する。
【0035】
プログラマブルコントローラ7には、予め、現像液の所望の濃度が入力されている。なお、「所望の濃度」とは、本発明の希釈装置を用いて希釈して最終的に取得したい溶液における、薬剤の所望の濃度である。
【0036】
プログラマブルコントローラ7は、濃度計3から、希釈タンク1内の液体における現像液の濃度の測定値を受信する。
【0037】
次に、プログラマブルコントローラ7は、当該測定値および予め入力された現像液の所望の濃度に基づいて、該測定値を該所望の濃度に近づけるように調節弁8及び9の開閉を制御する。すなわちプログラマブルコントローラ7は、該測定値と、該所望の濃度とを比較し、これらが異なる場合には、該測定値が該所望の濃度に近づくように、希釈タンク1に導入されるべき超純水の量及び現像液の原液の量を算出する。そして、この算出された量に基づいて、調節弁8及び9の開閉を制御するための信号を送信する。
【0038】
次に、プログラマブルコントローラ7からの信号にしたがって、調節弁8及び9が開閉する。これにより、希釈タンク1に導入される超純水の量及び現像液の原液の量を調節することができる。
【0039】
このように、本実施形態における希釈装置では、プログラマブルコントローラ7が調節弁8及び9の開閉を制御することにより、希釈タンク1内の液体における現像液の濃度が所望の濃度に近づくように補正することができる。また、上述したプログラマブルコントローラ7による制御を繰り返すことにより、希釈タンク1内の液体における現像液の濃度が所望の濃度と等しくなるよう補正することも可能である。このように、プログラマブルコントローラ7によって、薬剤の濃度の補正を正確に行うことができるので、正確な薬剤の希釈が可能となる。
【0040】
また、プログラマブルコントローラ7は、ロードセル4から希釈タンク1内の液量の測定値を受信する。これにより、導入された超純水の量及び現像液の原液の量を正確に測定することができるとともに、希釈タンク1内の液量がその容量を超えないように、導入される超純水の量及び現像液の原液の量を調節することもできる。したがって、希釈タンク1内の液量を好適に管理することができる。
【0041】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係る希釈装置は、不純物の混入を防ぐことができ、かつ設備がコンパクトなため、現像液の原液等の薬剤の希釈、さらには希釈された薬剤を使用する種々の製造工程に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 希釈タンク(容器)
2 磁気浮上ポンプ
3 濃度計
4 ロードセル
5 超純水槽
6 原液槽
7 プログラマブルコントローラ(制御手段)
8 調節弁(第2の調節手段)
9 調節弁(第1の調節手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤及び希釈液が導入される容器を備えている薬剤の希釈装置であって、
上記容器に、当該容器内の液体を撹拌するための磁気浮上ポンプが設けられていることを特徴とする薬剤の希釈装置。
【請求項2】
上記容器内の液体における上記薬剤の濃度を測定する濃度計をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の希釈装置。
【請求項3】
上記容器に導入される上記薬剤の量を調節する第1の調節手段と、
上記容器に導入される上記希釈液の量を調節する第2の調節手段と、
上記濃度計における測定値を受信し、上記測定値および予め入力された上記薬剤の所望の濃度に基づいて、上記測定値を上記所望の濃度に近づけるように第1の調節手段及び第2の調節手段を制御する制御手段と、
をさらに備えていることを特徴とする請求項2に記載の希釈装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−267181(P2010−267181A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119554(P2009−119554)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(390027029)住友ケミカルエンジニアリング株式会社 (8)
【Fターム(参考)】