説明

薬剤をα−粒子エミッターによって放射標識するための安定化組成物および方法

酸化剤(たとえば、N-クロロスクシンイミド)を用いて、α-粒子エミッター標識化合物(たとえば、放射標識薬剤またはそれを調製するために用いられる放射標識前駆体)を形成するその後の反応の前に、α-粒子エミッター(たとえば、211At)溶液を安定化させることができる。特に、酸化剤の使用は、求電子置換、求核置換、錯体、交換、または金属結合が含まれる起こりうる多数のメカニズムを伴う可能性があるこの反応を促進する化学型でα-粒子エミッターを維持することが見いだされている。このようにしてα-粒子エミッターによって標識された化合物は、特に癌の処置において広範囲の治療応用を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全内容物が参照により本明細書に組み入れられる、2005年12月22日に提出された米国特許出願第60/752,370号の優先権の恩典を主張する。
【0002】
本発明は、米国政府の機関(国立衛生研究所)との契約2R37-CA42324-17下でなされた。したがって、米国政府は、本発明において一定の権利を保有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、腫瘍細胞のような体内の標的化領域に放射線を送達する薬剤(例えば、モノクローナル抗体)を放射標識するために用いられるα-粒子エミッター(たとえば、211At)の安定化に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
α粒子(すなわち、ヘリウム核)は、従来の外部光線療法または市販の放射線免疫治療物質Zevalin(登録商標)およびBexxar(登録商標)においてそれぞれ用いられる90Yおよび131Lのようなβ粒子エミッターより、腫瘍細胞を殺すために有意に有効である。これはα-粒子の高い線形エネルギー転移(〜100 keV/μm)および短い路程(<100μm)による。このようにそれらは、ごく数セルの直径に対して大量のエネルギーを集中させることができる。これらの特性によって、周辺の健康な組織に対する損傷を最小限にして特異的腫瘍細胞をターゲティングすることができる。
【0005】
可能性があるα-粒子エミッターの中で、211Atは標的化放射線小胞にとって特に望ましい。安定な209Biのα-粒子線によるサイクロトロン衝突によって産生される211Atは、半減期7.2時間を有する。理論的に、これは、放射性薬剤を調製するためにおよび離れた位置に放射活性の治療的有効レベルを送達するためにも十分である。これらの検討により、様々な分子に211Atを付着させる研究が行われた。Zalutsky, M. et al, CURR PHARM DES. 6:1433-1455 (2000);Wilbur, D., et al, NUCL MED BlOL. 20:917-927 (1993);Wilbur, D. et al., BiOCONJUG CHEM. 15:203-223 (2004);およびLink, E., HYBRIDOMA 18:77-82 (1999)。211At標識薬剤の癌細胞に対する毒性が、細胞株において調べられている。Larsen, R. et al, INT J RADIAT BlOL. 72:79-90 (1997);Larsen, R. et al., RADIAT RES. 149:155-162 (1998);Walicka, M. et al., RADIAT RES. 150:263-268 (1998);およびZalutsky, M. et al, Proc Am Assoc Cancer Res. 43:481 (2002)。動物モデルにおいてこれらの物質による腫瘍の処置も同様に行われている。Larsen, R. et al., BR J CANCER 77:1115-1122 (1998);Garg, P. et al., CANCER RES. 50:3514-3520 (1990);Andersson, H. et al., ANTICANCER RES. 21:409-412 (2001)。Duke大学医療センターでは、211At標識モノクローナル抗体による臨床試験が行われている。Zalutsky, M. et al., NEURO-ONCOLOGY 4(suppl):S103 (2002)およびZalutsky, M. BR J CANCER 90:1469-1473 (2004)。
【0006】
しかし、実際問題として、211At治療の可能性がある恩典は実現されていない。211Atが産生するα放射線は、アスタチンを、薬剤または前駆化合物に容易に組み入れられない化学型に変換する。その結果、211At-標識薬剤または211At標識前駆化合物の収率は、放射線量の増加と共に劇的に減少する。
【0007】
放射標識薬剤の調製における放射線分解効果の一般的な重要性が報告されている。Bayly, R. et al., J LABELLED COMPD. 2:1-34 (1966)。同様に、安定性に及ぼすラジカルスキャベンジャーの効果を含む、陽電子射出放射性薬剤の安定性が調べられている。Fukumura, T., et al. APPL RADIAT ISOT. 61:1279-1287 (2004);Bogni, A. et al, J RADIOANAL NUCL CHEM. 256:199-203 (2003);Fukumura, T. et al., NUCL MED BlOL. 30:389- 395 (2004);およびFukumura, T. et al, RADIOCHIM ACTA 92:119-123 (2004)。より最近、癌治療にとって有意に重要な211At-標識前駆化合物の収率に及ぼす溶媒のタイプ、放射線量、および他の変数の効果が評価されている。 Pozzi, O. et al., J NUCL MED. 46:1393-1400 (2005)およびPozzi, O. et al., J NUCL MED. 46:700-706 (2005)。
【0008】
治療応用にとって十分な放射活性レベルで211Atまたは他のα-粒子エミッターによって標識された薬剤を産生するためには、実質的な問題が残っている。放射標識薬剤を調製する場合における、試薬溶液調製、保存および使用の過程におけるこれらの高い放射活性レベルによって、必ず標識化学にとって有害なα-粒子からの累積放射線量が起こる。望ましくない放射線分解効果には、反応溶液の放射線分解によって生成されたフリーラジカルとの相互作用による前駆体(たとえば、有機スズ化合物)および反応性211Atの喪失が含まれる。たとえば、特に酸性条件でメタノールによって吸収されるα放射線の場合、還元種(たとえば、水素およびホルムアルデヒド)の形成は、211At-標識化合物の収量の喪失に関与すると考えられている。
【0009】
上記の有害な放射線分解効果により、治療的有効レベルの放射活性を有するα-粒子エミッター標識薬剤の合成は非常に複雑となった。これは、α-粒子エミッターの産生位置から離れた場所でこれらの薬剤を調製することが望ましい場合には特に当てはまる。運送のために必要な時間は、α-粒子エミッター含有試薬溶液によって吸収される(received)放射線量を必然的に増加させ、それによって放射線分解効果を促進し、これはα-粒子エミッター標識薬剤最終製品の収量を減少させることが示されている。
【発明の開示】
【0010】
発明の簡単な概要
α-粒子エミッター標識薬剤の治療における完全な潜在性を実現するためのこれまでの試みが成功していないにもかかわらず、現在では、そのような薬剤を高収率および高レベルの放射活性で調製することができる方法で、211Atおよび他のα-粒子エミッターを安定化することができると認識されている。標識化学に及ぼす放射線分解の有害な効果は、これまで禁止と考えられてきたα-粒子放射線量であっても、克服される。本発明に従う安定化の結果として、実質的に増加した量のα-粒子エミッター放射活性を、α-粒子エミッターと有機金属前駆体との反応によって形成される化合物のような、所望のα-粒子エミッター標識化合物に組み入れることができる。これらの前駆体から作製されたα-粒子エミッター標識薬剤に対応する高レベルの放射活性は、実際の治療応用にとって適している。本発明に従う安定化効果のために、α-粒子エミッター標識薬剤は、α-粒子エミッターが産生されたしばらく後でも(または離れた位置でも)調製することができる。
【0011】
特に、本発明は、α-粒子エミッター標識化合物(すなわち、放射活性薬剤またはそれを調製するために用いられる放射活性前駆体)を形成するその後の反応前に、酸化剤を含有する溶液においてα-粒子エミッターを安定化することができるという発見に基づく。酸化剤を用いることは、たとえば、求電子置換を伴う可能性があるこれらの反応を促進する化学型でα-粒子エミッターを維持することが見いだされている。この化学型は、そうでなければ放射線分解効果により経時的に生成される、有意に反応性がより低い(または完全に無反応性の)α-粒子エミッター種と比較して、より高い酸化状態を有する可能性がある。α-粒子エミッターのこれらのより反応性が低いまたは無反応性の1つまたは複数種の産生は、α-粒子エミッターが作製された後直ちにα-粒子エミッターを安定化することによって最小限にすることができる。
【0012】
したがって、1つの態様において、本発明は、α-粒子エミッター標識化合物を調製する方法である。方法は、酸化剤を含有する溶液においてα-粒子エミッターを安定化させる段階、その後α-粒子エミッターを、α-粒子エミッターに反応する化合物と反応させて、α-粒子エミッター標識化合物を提供する段階を含む。もう1つの態様において、溶液は、アルコール(たとえば、メタノール)を含む。もう1つの態様において、酸化剤は、ハロゲン化有機化合物(たとえば、N-クロロスクシンイミド)である。もう1つの態様において、α-粒子エミッターと反応性の化合物は、求電子置換部位を有する。もう1つの態様において、求電子置換部位を有する化合物は、求電子置換部位を有するように改変された薬剤(たとえば、抗体またはペプチド)である。もう1つの態様において、求電子置換部位を有する化合物は、有機金属前駆体(たとえば、N-スクシンイミジル-3-(トリ-メチルスタニル)ベンゾエート、またはN-スクシンイミジル-3-(トリ-n-ブチルスタニル)ベンゾエートのような有機スズ化合物)である。もう1つの態様において、α-粒子エミッターは、211Atである。もう1つの態様において、211Atと反応する化合物は、反応性のアスタチン化部位を有する。もう1つの態様において、反応性のアスタチン化部位は、求電子アスタチン置換部位、求核アスタチン置換部位、アスタチン錯体形成部位、アスタチン交換部位、およびアスタチン-金属結合部位からなる群より選択される。
【0013】
もう1つの態様において、本発明は、α-粒子エミッターによって放射標識された薬剤を調製するための方法である。本方法は、酸化剤を含有する溶液においてα-粒子エミッターを安定化させる段階の後に、α-粒子エミッターを有機金属前駆体と反応させて中間体(たとえば、α-粒子エミッター標識前駆体)を生成する段階、および薬剤を中間体(たとえば、α-粒子エミッター標識前駆体)と共役させて、α-粒子エミッターによって放射標識された薬剤を提供する段階を含む。もう1つの態様において、本方法はさらに、反応させる段階の後に、溶液を中間体(たとえば、α-粒子エミッター標識前駆体)から蒸発させる段階を含む。もう1つの態様において、薬剤は抗体(たとえば、モノクローナル抗体)またはペプチドである。もう1つの態様において、放射標識される薬剤は少なくとも5 mCi(185 MBq)の初回放射活性レベルを有する。もう1つの態様において、溶液中のα-粒子エミッターの少なくとも30%が薬剤を放射標識するために用いられる。
【0014】
もう1つの態様において、本発明は、アスタチン化反応のためにそれを用いる前に211Atを安定化させる方法である。本方法は、211Atを酸化剤を含有する溶液と混合する段階、少なくとも約2,000 Gyの放射線量を吸収するために十分な期間、酸化剤を含有する溶液を保存する段階を含む。
【0015】
もう1つの態様において、本発明は、α-粒子エミッター標識化合物を合成するためにα-粒子エミッターを提供するための方法である。本方法は、第一の場所で、α-粒子エミッターを酸化剤を含有する溶液と混合して、安定化組成物を生じる段階、および安定化組成物を第二の場所に輸送する段階を含む。
【0016】
もう1つの態様において、本発明は、211Atと酸化剤を含有する溶液とを含む安定化組成物である。組成物は、反応性のアスタチン化部位を有する化合物を本質的に含まない。
【0017】
もう1つの態様において、本発明は、本質的にα-粒子エミッター、アルコール、および酸化剤からなる安定化組成物である。
【0018】
もう1つの態様において、本発明は、薬剤を標識するための標識化合物を調製するためのキットである。キットは、α-粒子エミッター、アルコール、および酸化剤を含む第一の組成物と、α-粒子エミッターと反応する化合物を含む第二の組成物を含む。第一の組成物および第二の組成物は、異なる容器でキットに包装される。もう1つの態様において、α-粒子エミッターは211Atであり、α-粒子エミッターと反応性である化合物は、反応性のアスタチン化部位を有する。
【0019】
もう1つの態様において、本発明は、安定化型のα-粒子エミッターを単離する方法である。本方法は、サイクロトロンまたは他の粒子加速標的(たとえば、元素)の照射によってα-粒子エミッターを調製する段階、α-粒子エミッターを精製する段階、および酸化剤を含有する溶液においてα-粒子エミッターを溶出する段階を含む。もう1つの態様において、精製段階は蒸留を含む。
【0020】
これらおよび他の態様は、以下の詳細な説明から明らかである。
【0021】
発明の詳細な説明
本発明は、α-粒子エミッターを、自身の放射線に関連する有害な効果に対して有効に安定化する、または保護することができるという知見に基づいている。特に、これらの効果は、放射標識薬剤の合成にとって必要な重要な反応を容易に受けない酸化状態に対するα-粒子エミッターの還元が含まれると考えられる。そのような反応は、α-粒子エミッターと薬剤(またはα-粒子エミッターと共役させるためにより適した誘導体)との共役による直接合成を伴ってもよい。そうでなければ、間接合成経路は、放射標識薬剤を形成するためにもう1つの分子(たとえば、タンパク質またはペプチドのような薬剤)に共役させることができる中間体またはα-粒子エミッター標識前駆体の調製を伴う。
【0022】
α-粒子エミッターを保存するために用いられる溶液は、それらがα線照射を受けるとその還元能を増加させると考えられている。これは、放射線量を増加させると増加する比較的反応性が低いα-粒子エミッターの形成に関与すると考えられている。たとえば、メタノールにおけるフリーラジカルの生成によって、そのいずれもおそらく211Atを低減させる水素およびホルムアルデヒドの産生が起こりうる。放射線分解副産物およびその後の溶液還元能が経時的に増加するにつれて、薬剤および/または前駆体分子(たとえば、求電子アスタチン化によって)と反応性であるAt+は、1つまたは複数のより反応性の低い(およびより安定な)型に変換され、これには、溶媒および/または不純物と放射線分解によって生成されたアスタチン種とのあいだに形成された錯体が含まれると考えられる。
【0023】
したがって、放射線分解効果の結果として、所定の放射標識薬剤に組み入れれることができる最初に形成されたα-粒子エミッターは、経時的に減少する。その上、α-粒子エミッターをより反応性が低い型に変換する割合は、治療応用(たとえば、癌治療)のための放射標識薬剤を調製するために必要なレベルのような、より高い放射活性レベルで増加する。放射活性レベルのほかに、α-粒子エミッターの保存または運送時間(すなわち、反応までの時間)もまた、吸収された溶液放射線量とその後のα-粒子エミッターがより反応性が低い型に変換される程度を左右する。これらの理由から、当技術分野は、長期間保存された(たとえば、運搬を可能にする程度に)試薬溶液から治療的に有効な放射活性レベルを有するα-粒子エミッター標識薬剤の調製に満足のゆくように取り組んでこなかった。
【0024】
本発明は、酸化剤を有する溶液中でα-粒子エミッターを安定化させることによって、これらの困難を克服する。安定化は、α-粒子エミッター溶液の調製時直ちに、または調製後まもなく起こってもよい。安定化を通してα-粒子エミッターのより反応性が低い型への変換が、最初から防止されるわけではないが、一時中止される。その結果、安定化されたα-粒子エミッターは、放射標識薬剤(または放射標識前駆体)を高い収量で調製するために用いることができる。
【0025】
α-粒子エミッターの安定化に帰因する収量の改善によって、治療応用にとって適した放射活性レベルを有するα-粒子エミッター標識薬剤を合成することができる。1つのバイアルから患者への複数回投与においても十分な放射活性レベルがうられることが可能となる。その上、安定化されたα-粒子エミッター溶液は、α-粒子エミッター標識薬剤の調製にその後用いるため反応性がほとんどまたは全く喪失されることなく、離れた場所に運送することができる。最後に、安定化されたα-粒子エミッター溶液は、それによって包装された試薬(たとえば、(1)安定化されたα-粒子エミッター溶液と、(2)薬剤または改変薬剤、とを含む異なる組成物)が輸送されて、治療的放射活性レベルを有するα-粒子エミッター標識薬剤(またはそれを調製するために用いられるα-粒子エミッター標識前駆体)を提供するために用いられる場所で混合される、単純なキットにおいて用いることができる。上記の知見は、α-粒子エミッターを含有する溶液が、これまでのアプローチが失敗したレベルの2〜50倍、より典型的に5〜25倍に対応する放射線量を吸収する、高い放射活性レベルおよび/または長い保存期間での実験的観察に基づいている。
【0026】
先に述べたように、α-粒子エミッターは、その短い範囲(range)および密度の高い電離放射線のために、腫瘍細胞および微小転移に対する強力な致死的照射源を提供する。本発明は、α-粒子放射によって崩壊する約100個の天然および人工放射性核種(主に原子量が82より大きい元素)のいずれにも応用できる。1つのクラスとして、金属α-粒子エミッターは、本発明に従って安定化される可能性がある元素の代表である。所定の応用に関する特異的α-粒子エミッターの選択基準は当業者に公知であり、これには、半減期(すなわち放射活性同位元素がその初回量の50%に崩壊するために必要な時間)と共に得られた「娘」同位体の特性が含まれる。適したα-粒子エミッターには、211At(半減期7.2時間)、213Bi(半減期46分)、212Bi(半減期60分)、223Ra(半減期11.4日)、225Ac(半減期10.0日)、および212Pb(半減期61分)が含まれる。212Pbは実際にβ粒子を最初に放出することによって崩壊し、得られた同位元素、すなわち212Biはα-粒子エミッターである。ハロゲン211Atは標的化放射線療法の領域において有意な有望性を提供した。
【0027】
本発明に従って、α-粒子エミッター溶液の安定化は、放射標識薬剤または薬剤の放射標識前駆体を形成するために用いる前に起こる。都合がよいことに、α-粒子エミッターは、α-粒子エミッターの試薬溶液(たとえば、メタノール溶液)が調製されるやいなや、または調製後直ちに酸化剤によって安定化される可能性がある。このように、安定化は、溶液が既に酸化剤を含有する、α-粒子エミッターの試薬溶液を調製する段階を伴ってもよい。そうでなければ、α-粒子エミッターを含有する溶液に酸化剤を個別に加えてもよい。α-粒子エミッター試薬溶液の成分を加える順序によらず、重要な検討事項は、酸化剤の非存在下でα線照射に対するα-粒子エミッター含有溶液の持続的またはそうでなければ過剰な曝露を回避することである。
【0028】
α-粒子エミッターが、標的材料(たとえば、209Biのような元素)の衝突(すなわち、照射)および精製(たとえば、蒸留による標的からの所望の放射性核種の分離)によって調製される場合、本発明に従う安定化は、調製および精製されたα-粒子エミッターを酸化剤含有溶液に直接溶出する段階を含んでもよい。この場合、α-粒子エミッターを安定化型で単離することができ、それによって全ての溶液照射が酸化剤の存在下で起こる。これは、溶液を保護して、それによってα-粒子エミッターを最初から有害な放射線分解効果から保護する。たとえば、211Atは、同位元素を酸化剤含有溶液に直接溶出した後、209Bi標的のサイクロトロン衝突によるその合成後の揮発および冷却による回収によって安定化されてもよい。低温冷却蒸留リザーバー(すなわち低温トラップ)から211Atを溶出(または洗浄)するために酸化剤含有アルコール溶液を用いることにより、このα-粒子エミッターを安定化させるための簡便な方法を提供する。
【0029】
α-粒子エミッターが安定化される溶液(すなわち、酸化剤を除く)の平衡は重要ではない。好ましくは、α-粒子エミッターの反応から産生される望ましい放射標識化合物は、完全ではないが部分的に反応培地に可溶性である。この検討と共に、特定の放射標識応用に溶液を適合させることに関連する他の検討は当業者に公知である。適した溶液はアルコール、および特にメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、およびi-イソブタノールのような低級脂肪族アルコールを含む。二級および三級アルコールも同様に、様々な程度の重合化の多価アルコール(たとえば、ポリビニルアルコール)と共に用いてもよい。メタノールは、広範囲の親水性/疎水性に及ぶ化合物を溶解する能力を有し、したがって酸化剤と組み合わせてα-粒子エミッターを安定化させるために有用である。α-粒子エミッターは広い範囲のpHにわたって保存でき、後に反応することができることから、溶液のpHも重要ではない。一般的に、pH約4〜約7、典型的に約5〜約6.5を有するいくぶん酸性の溶液が、保存およびその後の反応にとって適している。非常に酸性の保存条件はα-粒子エミッターの比較的反応性の低い型への変換を加速する可能性がある。
【0030】
溶液中の少量の酸化剤でさえも、上記のように、α-粒子エミッターの反応性に及ぼす有害な放射線分解効果を克服するために有効であることが決定されている。酸化剤は、酸化剤含有溶液の重量で少なくとも0.001%の量で存在してもよい。一般的に量は重量で約0.0001%〜約50%、典型的に重量で約0.005%〜約10%まで変化しえて、しばしば重量で約0.01%〜約1%まで変化する。たとえば、サイクロトロン合成後にメタノールにおけるその溶出の約10分以内に211Atを安定化させるために、約0.02重量%の酸化剤を用いると、重要な211At標識前駆体を調製するためのこのα-粒子エミッターの求電子アスタチン化反応性を有効に保存する。安定化は、酸化剤含有メタノール溶液に対して40,000 Gyを超える、および45,000 Gyものα-粒子放射線量で行われる。酸化剤の非存在下では、この線量レベルは、211Atの大部分を、求電子アスタチン化を伴う反応のような、その後の放射標識反応を容易に受けない型に変換して、それによって211At標識薬剤の可能性がある収率を有意に低下させるであろう。選択した特定の酸化剤に応じて、当業者は本開示を見ることによって、α-粒子エミッターを反応性の喪失に対して安定化するために、加える酸化剤の量に関する有効な範囲を容易に決定することができるであろう。
【0031】
先に述べた範囲の酸化剤の量は、酸化剤含有溶液におけるその安定化の時間からその後の放射標識反応に用いるまで、α-粒子エミッターの化学反応性を保存する。この期間のあいだに、酸化剤含有溶液は少なくとも約2,000 Gyのα-粒子放射線量を名目上吸収し、これらの反応にとって必要な時間を検討すれば、線量はいくぶんより高くなるであろう。以下により詳細に考察するタイプを含む放射標識反応は、約1分〜約3時間、しばしば約5分〜約1時間の範囲の反応時間を通常必要とする。そのような多くの反応は、たとえば約5分〜約30分のあいだに終了する。より典型的に、医学的処置(たとえば、癌の処置)応用にとって必要な高い初回放射活性レベルと共に、放射標識薬剤を調製するために用いられる目的地までα-粒子エミッター試薬溶液を運送するのに必要な時間のために、酸化剤含有溶液は約3,000 Gy〜約150,000 Gy、通常約3,000 Gy〜約50,000 Gy、しばしば約10,000 Gy〜約50,000 Gyの線量を吸収する。酸化剤含有溶液に対する放射線量率は、通常、約1グレイ/秒(Gy/s)を超えないであろう。溶液の容積(特定の放射標識反応および酸化剤の選択に少なくとも部分的に支配される)に応じて、放射線量率は約10 Gy/sまでであってもよく、たとえば約2〜約8 Gy/s、および約4〜約6 Gy/sの代表的な範囲であってもよい。これらの線量および線量率によって、溶液中の酸化剤の非存在下では、α-粒子エミッターの化学反応性が有意に減少して、放射標識薬剤を調製するために必要なその後の化学反応にとってα-粒子エミッターは部分的または完全に使用不可能となる。
【0032】
一定期間(t)での溶液に対する放射線量(D)は、以下の等式に従って、期間の開始時の放射活性(Ai)、α-粒子エミッターの一次崩壊定数(λ)、溶液の質量(m)、および核転移あたりに放射された平均エネルギー(△i)に従って計算してもよく、

式中、D、Ai、λ、t、およびmはそれぞれ、グレイ(Gy)、メガベクレル(MBq)、秒-1(s-1)、秒(s)およびグラム(g)で表記されてもよい。たとえば、α-粒子エミッター211Atに関して、△iに関する1.09×10-3 Gy・g/MBq・sという値は、α-粒子およびα-反跳核からの線量の寄与に基づいて用いられる。Weber et al, SOC NUCL MED.: 406-415 (1989)を参照されたい。所定の放射性核種に関する一次崩壊定数(λ)および半減期(t1/2)は、等式λ=0.693/t1/2に関連する。
【0033】
したがって、α-粒子エミッターを保存するための溶液中の酸化剤の使用は、これらの放射性核種の化学反応性を保存するために有益である。放射線分解によるこの化学反応性の喪失は容易に回復せず、実際に非可逆的となる可能性があると考えられる。したがって、α-粒子エミッターの比較的反応性が低い化学型の生成を防止できることは、α-粒子標識薬剤を産生するために重要な商業的長所を与える。酸化剤が溶液中でα-粒子エミッターのこの重要な保存安定性を提供できるという事実は、安定化剤および/または保存剤が通常、酸化を促進するよりもむしろ防止することによって機能することから、驚きである。抗酸化剤は、たとえば薬学産業において、溶液中の酸化反応を触媒するフリーラジカルまたは金属陽イオンを除去するために広く用いられている。同様に、α-粒子エミッターは、酸化によりその化学反応性を徐々に失うとこれまで考えられていた。このように、α-粒子エミッターを酸化剤含有溶液において保存することは実際には直感に反しているであろう。実際、治療レベルの放射活性薬の調製では、酸化剤ではなくて還元剤が通常用いられている。McDevitt et al, J NUCL MED. 40:1722-1727 (1999)を参照されたい。
【0034】
本発明の酸化剤は、放射標識薬剤の合成に関して低い反応性を有することが示された、一定のα-粒子エミッター型の生成を防止するために必須の酸化力を有する。したがって、適した酸化剤には、水溶液において少なくとも約+0.5ボルト、より典型的に約+0.7ボルト〜約+3ボルト、通常約+0.75ボルト〜約+2ボルトの標準的な還元能を有する酸化剤が含まれる。本発明に従って溶液中でα-粒子エミッターを安定化するために用いてもよい酸化剤の例には、ハロゲン化有機化合物(たとえば、ハロスクシンイミド)、ならびに過酸化水素、アルカリ、およびアルカリ土類金属過酸化物(たとえば、過酸化ナトリウムおよび過酸化マグネシウム)、アルキル過酸化物のような有機過酸化物(たとえば、過酸化ブチル)および尿素過酸化物(カルバミド)のような過酸化物が含まれる。ギ酸、酢酸、過酢酸、硝酸、亜硝酸、過塩素酸、過ヨウ素酸、硫酸、塩酸、臭化水素酸、およびその塩のような酸も同様に、過マンガン酸塩、クロム酸塩、重クロム酸塩、過リン酸塩、過硫酸塩、過塩素酸塩、塩素酸塩、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩、過臭素酸塩、臭素酸塩、亜臭素酸塩、次亜臭素酸塩、過ヨウ素酸塩、ヨウ素酸塩、亜ヨウ素酸塩、次亜ヨウ素酸塩、ビスマス酸塩イオンを生成する、アンモニウム、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属塩(たとえば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、およびバリウム塩)のような酸および塩と共に用いてもよい。他の酸化剤には、酸素、オゾン、塩素、臭素、およびヨウ素分子が含まれる。酸素分子のような気体状酸化剤は、先に記述されたように蒸留によって211Atの回収のために用いられる担体ガスに都合よく組み入れられるであろう。
【0035】
酸化剤のさらなる例には、ハロ置換アミン;Xがハロゲン化物であり、Rがアルキルラジカル(たとえば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル等)、アリールラジカル(たとえば、フェニル)、または他の有機もしくは置換有機ラジカルのような有機部分である、式R-(SO2)-XおよびR-(SO)-Xのスルホニルおよびスルフィニルハロゲン化物;XおよびRが先に定義されたとおりである、式R-P-Xのようなリン含有ハロゲン化化合物;XおよびRが先に定義されたとおりである式X-CO2-Rのハロギ酸塩化合物、が含まれる。反応液において金属イオン(たとえば、Fe+2、Fe+3、Ce+4、Tb+3、Cu+、Cr+6、Mn+3、Mn+4、Ru+3、Ru+4、およびV+5)を生成する化合物、特にこれらの金属酸化状態を示す金属酸化物(たとえば、MnO2およびV2O5)のような、酸化を促進することが知られている他の化学試薬も同様に適している。他の様々な酸化物質には、ヨードシルベンゼン、ヨードキシ安息香酸、酸化メチルモルホリン、クロロ過安息香酸、塩化オキサリル、ジメチルスルホキシド、ピバルデヒド、ペルオキソモノ硫酸カリウム、テトラブチルアンモニウムペルオキシジスルフェート、テトラメチルピペリジニルオキシ、トリアセトキシ過ヨウ素、トリフルオロ過酢酸、およびトリメチルアセトアルデヒドが含まれる。上記の酸化剤の組み合わせも同様に用いてもよい。ハロスクシンイミドのようなハロゲン化有機化合物は特に適した酸化剤である。これらには、N-クロロスクシンイミド(NCS)、N-ブロモスクシンイミド(NBS)、およびそのアルキル置換誘導体(たとえば、2,3-ジメチルN-クロロスクシンイミド)のようなこれらの酸化剤の誘導体が含まれる。酸を酸化剤として用いる場合、非常に低いpH値(たとえば、2.5未満)は、酸をもう1つの非酸酸化剤(たとえば、NCS)と組み合わせる場合を除き、一般的に回避すべきである。
【0036】
本開示の目的に関して「酸化剤」という用語はまた、放射標識反応のために用いられる溶液に付加した場合に、その場で酸化種を生成するであろう物質を包含することを意味する。たとえば、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムのような水酸化化合物は、反応液においてα-粒子エミッターからの放射線に供した場合に水酸化物イオンによって過酸化物ラジカルおよび過酸化水素の形成が起こりえて、これは強い酸化種であることから、酸化剤と見なされる。詳細な実験技法および調べた様々な酸化剤に関して以下に考察する結果を含む本開示を考慮すれば、選択した特定の酸化剤に対する放射標識反応系をルーチンとして作製できるであろう。たとえば、pH制御および酸化剤溶解度のような問題に対処するために、反応系にとって適当なpH範囲および溶媒タイプを所定の酸化剤に関して確立することができるであろう。
【0037】
先に述べたように、酸化剤溶液を用いることによって、α-粒子エミッターの化学的により反応性が低いまたは無反応性型への経時的な望ましくない変換を防止することができる。酸化剤がなければ、この変換の程度は、変換率がα-粒子エミッターの放射活性標識の強い関数であるように、α-粒子エミッターを含有する溶液によって吸収される総放射線量に強く依存する。実際に応用するために(たとえば、腫瘍細胞の処置のための放射標識モノクローナル抗体)放射標識薬剤を調製するために必要な約15 mCi(560 MBq)〜約270 mCi(10 GBq)の最初のα-粒子エミッター溶液の放射活性レベルでは、酸化剤の非存在下ではα-粒子エミッターの実質的な部分が、数時間のあいだに比較的反応性の低い型に変換される可能性がある。
【0038】
しかし、酸化剤を用いることによって、上記の最初の放射活性レベル(すなわち、α-粒子エミッターを含有する溶液の調製直後に測定した場合)を有する溶液における、これらの比較的より反応性が低い型へのα-粒子エミッターの変換が防止される。より高い初回放射活性レベル(たとえば約270 mCi(10 GBq)〜約2700 mCi(100 GBq))を有するα-粒子エミッター溶液も同様に、たとえば患者の多数回投与または長期間の保存期間のために十分な放射活性が望ましい場合に、安定化される可能性がある。しかし、より典型的に、初回溶液放射活性レベルは約20 mCi(750 MBq)〜約270 mCi(10 GBq)、通常約40 mCi(1.5 GBq)〜約200 mCi(7.5 GBq)の範囲である。しばしば、約20 mCi(750 MBq)〜約25 mCi(950 MBq)の範囲の初回放射活性レベルは、治療的に有効な放射標識薬剤または放射標識前駆体を調製するために十分であろう。
【0039】
したがって、本発明の実際の有意な長所は、α-粒子エミッター標識化合物(たとえば、放射標識薬剤または放射標識前駆体)の放射化学反応収率に関連する損失を被ることなく、α-粒子エミッターを溶液中で高い放射活性レベルでおよび/または長期間保存できることである。したがって、α-粒子エミッター標識化合物の放射化学反応収率は一般的に、少なくとも約30%、典型的に少なくとも約50%であり、しばしば約65%〜約95%の範囲であろう。放射化学反応収率は、反応物質の初回量および反応の化学量論に基づいて、および反応の経過におけるα-粒子エミッターの放射活性崩壊を検討して、所望のα-粒子エミッター標識化合物の理論的収率の百分率として表記される。一般的に、α-粒子エミッターは、反応に加えられた総放射活性と比較して、所望の産物の放射活性の百分率に基づいて収率が決定されるような、制限試薬である。
【0040】
全体として、酸化剤含有溶液におけるα-粒子エミッターの安定化によって、一般的に、反応後の所望のα-粒子エミッター標識化合物におけるα-粒子エミッターの初回放射活性の少なくとも約20%を回収できるであろう。すなわち、α-粒子エミッター標識化合物の初回放射活性レベルは一般的に、先に記述した初回α-粒子エミッター溶液の放射活性レベルの少なくとも約20%、典型的に約30%〜約80%、およびしばしば約35%〜約70%である。この量は、溶液中での保存期間のあいだのα-粒子エミッターの放射活性崩壊の程度に依存する。しかし、重要なことは、この量は、酸化剤の安定化量がこの溶液に存在するあいだに溶液が吸収する放射線量とは本質的に無関係である。所望のα-粒子エミッター標識化合物における初回α-粒子エミッターの回収に関して、酸化剤含有溶液を用いるさらなる長所は、保存の際の蒸発または「漏出」によるα-粒子エミッター(たとえば、211At)の喪失の有意な低減およびさらに完全な防止である。このさらなる恩典は、酸化剤の存在下および非存在下で多くの211At/メタノール溶液においてα-粒子エミッターが揮発するという実験的観察に基づいて発見された。したがって、酸化剤含有溶液に保存することは、貴重なα-粒子エミッターの直接喪失を予防するほかにも、放射活性材料の環境への流出に関連する安全性の懸念を緩和する。
【0041】
先に記述したように、酸化剤含有溶液にα-粒子エミッターを保存すると、α-粒子エミッターを伴うその後の反応の収率を大きく改善する。これによって、放射標識化合物を合成するために、酸化剤を含有する溶液において安定化されたα-粒子エミッターを含有する組成物の離れた場所への運送が可能となる。1つの態様において、α-粒子エミッターは、その使用、または放射標識薬剤もしくは放射標識前駆体の型との反応の前少なくとも約1時間のあいだ安定化される。本発明に従う安定化は、そのあいだにα-粒子エミッターが世界中の実質的にいかなる場所にも送られる可能性がある約3時間〜約48時間の保存期間にとって特に商業的に都合がよい。安定化されたα-粒子エミッターの典型的な保存期間は、使用前約5時間〜約24時間の範囲である。
【0042】
酸化剤含有溶液において所定の期間α-粒子エミッターを保存した後、これを、患者に投与するために地域のまたは離れた場所(たとえば、病院)でα-粒子エミッター標識化合物を調製するために用いることができる。一般的に、酸化剤の安定化量を用いることは、その後の反応を受けてα-粒子エミッター標識化合物(すなわち放射標識薬剤またはそれを調製するために用いられる放射標識前駆体)を形成するために適した型(たとえば、酸化状態で)でα-粒子エミッターを維持する。その後の放射標識反応は、求電子置換、求核置換、錯体形成、交換、または金属結合を含む多数の可能性があるメカニズムを伴ってもよい。たとえば、α-粒子エミッター211Atは、求電子アスタチン置換部位、求核アスタチン置換部位、アスタチン錯体形成部位、アスタチン交換部位、またはアスタチン-金属結合部位である反応性のアスタチン化部位を有する化合物と反応させてもよい。
【0043】
全体的に、本発明の安定化α-粒子エミッターは、本開示に関して関心を有する当業者によって認識されるであろうように、その後の広範囲の放射標識反応において適切に使用される可能性がある。いくつかの場合において(たとえば、以下において考察されるように求核置換)、安定化α-粒子エミッターは、所定の放射標識反応をより受けることができる酸化状態に変換されてもよい。いずれにせよ、本発明に従う安定化は、α-粒子エミッターの最小限の損失(たとえば、保存の際の揮発によって)、放射標識薬剤および前駆体の高い収率、ならびにα-粒子エミッターが使用される可能性があるその後の反応のタイプ(そのいくつかを以下に考察する)に関する高い柔軟性を与える。
【0044】
α-粒子エミッターによる放射標識を、求電子置換部位、求核置換部位、錯体形成部位、交換部位、もしくは金属結合部位で受ける可能性がある、またはそうでなければこれらのタイプの反応部位によって改変されてもよい薬剤の適したタイプには、ペプチドおよび抗体が含まれる。たとえば、IgGのようなモノクローナル抗体はα-粒子エミッターによる放射標識を通して、癌治療および処置の領域において有望性を提供する。特定の抗腫瘍抗体には、たとえば、最近の論評記事において記述された抗体が含まれる。Bast, R.C., Jr., Kousparou, C.A., Epenetos, A.A., Zalutsky, M.R., Kreitman, R.J., Sausville, E.A., and Frankel, A.E.: Antibodies. In: CANCER MEDICINE, 6th edition. Kufe, D.W., Pollock, R.E.,Weichselbaum, R.R., Bast, R.C., Jr., Gansler, T.S., Holland, J.F., and Frei III, E., eds., B.C. Decker, Hamilton, Ontario, 2003; 881-898を参照されたい。腫瘍細胞に対して親和性を有し、および本発明に従うα-粒子エミッターによって放射標識されてもよい他のタイプの物質には、チミジン類似体、ペプチドおよび非ペプチド受容体または輸送体結合分子、ならびに金属錯体が含まれる。抗体断片も同様に、本明細書に記述の方法を用いて放射標識してもよい。
【0045】
求電子置換(脱金属化のような)の場合、α-粒子エミッター(たとえば、211At)を、1つまたは複数の求電子置換部位を有する多くの可能性がある基質と反応させて、これらの基質を放射標識してもよい。そのような基質には、薬剤と共に、求電子置換部位を有するように改変された薬剤および求電子置換部位を有する前駆化合物が含まれる。求電子置換部位は、α-粒子エミッターによる求電子攻撃を受けることができ、それによって求電子置換部位とα-粒子エミッターとの交換または置換が起こり、その後α-粒子エミッターの基質に対する結合が起こる、基質上の原子または部分(たとえば、-Sn(C4H9)3のような有機金属部分)を指す。求電子置換部位は、都合のよいことに、基質分子上の起こりうる周辺部位(たとえば、炭素-水素結合)より求電子攻撃に対して有意に感受性がある。この特性によって、高い収率で、しばしば軽度の反応条件で局所特異的置換が可能となる。ハロゲン211Atをα-粒子エミッターとして用いる場合、求電子アスタチン化部位での求電子置換も同様にハロ脱金属反応としての特徴を有してもよい。
【0046】
α-粒子エミッターを受容するための求電子置換部位を有する前駆体を、薬剤との共役(たとえば、放射標識)に関するその反応性に基づいてα-粒子エミッター標識薬剤の調製に用いることができる(すなわち、α-粒子エミッターと反応させて中間体を得る)。典型的なクラスの前駆体には、薬剤と共役することができる有機部分と共にα-粒子エミッターによって置換されてもよい金属部分を有する有機金属化合物が含まれる。N-スクシンイミジルアルキルスタニルベンゾエート(たとえば、N-スクシンイミジル-3-(トリ-メチルスタニル)ベンゾエートまたはN-スクシンイミジル3-(トリ-n-ブチルスタニル)ベンゾエート)のような有機スズ前駆体化合物が適している。求電子置換は、これらの前駆体におけるスズ原子のα-粒子エミッターによる置換を伴う。たとえば、前駆体N-スクシンイミジル-3-(トリメチルスタニル)ベンゾエート(MeSTB)またはN-スクシンイミジル3-(トリ-ブチルスタニル)ベンゾエート(BuSTB)の211Atによる求電子アスタチン化は、N-スクシンイミジル-3-アスタトベンゾエート(SAB)を生じ、これは放射標識モノクローナル抗体のような放射標識薬剤の調製において用いられる重要な放射標識前駆体である。それらはいずれもSAB前駆体を生成するが、これらの前駆体の得られた脱離基(MeSTBおよびBuSTBにおいてそれぞれ、-Sn(CH3)3および-Sn(C4H9)3)の安定性の差は、その求電子アスタチン化反応性において観察されたいくつかの差に関与する。
【0047】
求電子置換部位および薬剤を共役させるための有機部分を有する他の有機金属前駆体には、1つまたは複数の有機部分によって置換されてもよいシランのような他の多価金属化合物が含まれる。たとえばMeSTBおよびBuSTBと相同であるシランおよび他の多価金属化合物を用いてもよい。したがって、これらには、N-スクシンイミジル-3-(トリ-メチルシリル)ベンゾエートまたはN-スクシンイミジル3-(トリ-ブチルシリル)ベンゾエートが含まれる。これらの化合物の特定の相同体が、タリウム、水銀、ホウ素をスズまたはケイ素の代わりに用いることによって生成され、有機金属前駆体として同様に機能する化合物を提供する。N-スクシミジルベンゾエート(succimidyl benzoate)のほかに、他の多数の有機部分を、当業者に認識されるように、ケイ素または他の多価金属原子に連結してもよい。これらには、アルキル含有部分(たとえば、メチル基)、アルコキシ含有部分(たとえば、メトキシ基)、ウレイド含有部分(たとえば、ウレイドアルキル基)、アミノ含有部分(たとえば、アミノアルキル基)、硫黄含有部分(たとえば、メルカプトアルキル基)、エポキシ含有部分(たとえば、グリシドキシアルキル基)、メタクリル含有部分(たとえば、メタクリルオキシアルキル基)、ビニル含有部分(たとえば、ビニルベンジルアミノ基)、ハロアルキル含有部分(たとえば、クロロアルキル基)等が含まれる。したがって、置換されたスズおよびケイ素含有前駆体の代表は、ウレイドプロピルトリメチルスズ、ウレイドプロピルトリメチルシラン、アミノプロピルトリメトキシスズ、アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエチルスズプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリエチルシリルプロピル)テトラスルフィド、メルカプトプロピルトリメチルスズ、メルカプトプロピルトリメチルシラン、イソシアナトプロピルトリエチルスズ、イソシアナトプロピルトリエチルシラン、および他の多くの物質である。
【0048】
求核置換、錯体形成、交換、または金属結合反応も同様に、安定化α-粒子エミッターによる様々な基質の放射標識において用いてもよい。そのような反応を受けることができる基質には、求核置換部位、錯体形成部位、交換部位、または金属結合部位を有する薬剤と共に、それらを有するように改変された薬剤、および求核置換部位、錯体形成部位、交換部位、または金属結合部位を有する前駆体化合物が含まれる。
【0049】
α-粒子エミッターと基質(たとえば、芳香族または脂肪族であってもよい有機分子)との求核置換反応は、比較的単純な単分子(SN1)または二分子(SN2)経路を通して進行する可能性がある。当技術分野において公知であるように、SN1反応は、カルボカチオンの形成を通して進行する。同様にSN2経路は立体特異的である。α-粒子エミッター211Atは、たとえばその放射ハロゲン化型において、SN2反応において、溶媒のプロトン性に依存する求核性(他のハロゲンと比較して)によって攻撃試薬として役立ちうる。求核性のほかに、反応の収率は他の多数の速度論パラメータ(たとえば、脱離基の安定性および電子相互作用)および熱性によって決定される。
【0050】
求核置換反応には、公知の放射性ヨウ素化反応と類似であるが、ヨウ素の代わりにα-粒子エミッターを用いる反応が含まれる。求核置換はまた、同種および異種系のいずれにおいても基質分子におけるヨウ素のアスタチンによる置換を伴ってもよい。たとえば、均一なハロベンゼン/ブチルアミン系におけるベンゼン中のAtによるIの置換に関して、99%までの収率が報告されている。この例および他の例は、Coenen H., et al., RADIOCHIMICA ACTA 34:47-68 (1989);Vasaros L., et al., RADIOCHIMICA ACTA 47:119-128 (1989);Berei K., et al., Recent Advances in the Organic Chemistry of Astatine, Budapest, Hungary: KFKI ATOMIC ENERGY RESEARCH INSTITUTE (1994); Report KFKI-1994-4/J,Kにおいて見いだされる。
【0051】
求核置換を伴う代表的な放射標識反応には、エラスチン様ポリペプチド(ELP)の標識が含まれる。ELPは可逆的な相転移を受けるバイオポリマーであり、局所温熱療法を誘導すると、腫瘍部位での凝集/沈殿が起こる。本発明の1つの態様において、酸化剤含有溶液において保存後のα-粒子エミッターを求核置換部位を有する化合物と反応させて、α-粒子エミッター標識化合物を提供する。この反応の前に、還元剤(たとえば、亜硫酸水素ナトリウム)を溶液に加えることが望ましいかも知れない。これは、より有効な求核分子である還元型(たとえば、アスタチド)にα-粒子エミッター(たとえば、酸化型において保存後)を簡便に変換することができる。
【0052】
錯体形成反応も同様に安定化α-粒子エミッターによる様々な基質の放射標識のために用いてもよい。錯体形成は、キレート物質において存在する基のようなリガンド官能基と、α-粒子エミッターとの反応を指す。一般的に、α-粒子エミッターとリガンドとのあいだの結合特徴がより共有結合的であれば、得られた錯体はより安定となる。したがって、α-粒子エミッターによる様々な基質の異なる酸化状態によって、異なる錯体安定性が得られる。キレート物質には、たとえばスチレンジビニルベンゼンコポリマーに組み入れられてもよいチオセミカルバジドおよびその誘導体のような硫黄原子を有する官能基を有する樹脂、または弱い酸性のAmberlite IRC-50(登録商標)(Rohm and Haas Company, Philadelphia, PA USA)のようなイオン交換樹脂が含まれる。後者の場合、得られたポリマーは、O、N、およびSドナー部位を含有する多座配位キレート環を含有する。
【0053】
代表的なチオセミカルバジド誘導体官能基は、様々な酸化状態で銅と錯体を形成することが見いだされているジアセチル-ビス(N-メチルチオセミカルバゾン)である。芳香族(たとえば、4-フェニルチオセミカルバジド)および脂肪族(たとえば4-メチルチオセミカルバジド)チオセミカルバジド官能基はいずれも錯体形成部位として作用する可能性がある。先に考察したキレート樹脂を錯体形成反応において用いることは、たとえば Kamalika, R. et al., APPLIED RADIATION AND ISOTOPES 60:793-799 (2004);Sugii, A. et al., TALANTA 31:1079 (1984);およびSiddhanta, S. et al., TALANTA 32:457 (1985)において記述されている。ハロゲンであるα-粒子エミッター211Atはこの群における最も重い元素であり、したがって電気的陰性度が最も低い。したがって、211Atは電気的陽性(または金属)特性を示し、上記の錯体反応に対して反応しやすくなる可能性があると企図される。
【0054】
したがって、先に考察したキレート物質および錯体形成部位を有する他の化合物は、α-粒子エミッターによる様々な基質によって標識することができる前駆体として作用してもよい。次に、得られた中間体をもう1つの分子(たとえば、抗体、タンパク質、またはペプチドのような薬剤)に共役させて、放射標識薬剤を形成することができる。したがって、本発明の1つの態様において、酸化剤含有溶液において保存後のα-粒子エミッターを、錯体形成部位を有する化合物と反応させて、α-粒子エミッター標識化合物を提供する。したがって、錯体形成部位を有する化合物は、放射標識薬剤の調製における前駆体(およびα-粒子エミッター標識化合物は中間体であってもよい)であってもよい。
【0055】
交換反応も同様に用いて、安定化α-粒子エミッターによって薬剤および前駆体を放射標識してもよい。これらの反応は、先に記述した一定の求電子置換(脱金属のような)反応の場合のように、有機金属結合(たとえば、炭素-金属)よりむしろ、炭素-水素結合のα-粒子エミッターによる直接攻撃を伴う。放射標識化合物の調製における交換反応の使用は、たとえば有機金属部分による薬剤または前駆体の改変または誘導体化を必ずしも必要としないという点において都合がよい可能性がある。この改変または誘導体化のために用いられる金属(たとえば、スズ)の産物への混入も同様に回避される。交換反応は一般的に、軽度の反応条件、および電子吸引基によるα-粒子エミッターの陽性分極を通して進行する。先に述べたように、α-粒子エミッター211Atは正に分極するようになり、したがって基質の直接求電子ハロゲン化を行うことができる。金属α-粒子エミッターは、同様にそのような交換反応を受ける可能性がある。
【0056】
薬剤または前駆体を放射標識するための手段としての金属結合は、本発明に従う安定化の後にα-粒子エミッターの金属結合部位との直接相互作用および結合を伴う。α-粒子エミッター211Atの場合において、例には、アスタチン-テルリウムコロイドを形成するためのアスタチン-金属結合部位での反応が含まれる。Bloomer, W.D., et al., INT. J. RADIAT. ONCOL. BlOL. PHYS. 10:341-348 (1984)を参照されたい。金属-含有(たとえば、金含有)ナノ粒子に対する結合は、安定化されたα-粒子エミッターによる放射標識のために用いてもよいもう1つのタイプの金属結合反応を表す。
【0057】
先に記述した前駆体(たとえば、求電子置換部位を有する有機金属化合物)を、α-粒子エミッターによって放射標識される薬剤の合成において用いてもよい。本発明に従って、α-粒子エミッターは、酸化剤を含有する溶液において安定化される。安定化されたα-粒子エミッターを、次に前駆体と反応させて、α-粒子エミッターによって前駆体を標識してもよい。全てではないが溶液のほとんどが、放射標識薬剤の最終的な調製における中間体として役立つ、所望の薬剤とα-粒子エミッター標識前駆体との共役の前に蒸発する可能性がある。酸化剤によるα-粒子エミッターの安定化によって、治療的有効レベルの放射活性を有する放射標識薬剤の調製が可能となることから、そのような放射標識薬剤(たとえば、放射標識抗体)を腫瘍細胞生育の阻害および/または癌の処置のような臨床応用において患者に投与してもよい。そのような用途のための放射標識薬剤は一般的に、少なくとも約5 mCi(185 MBq)、典型的に約10 mCi(370 MBq)〜約50 mCi(1.9 GBq)およびしばしば約15 mCi(560 MBq)〜約40 mCi(1.5 GBq)の初回レベルの放射活性(すなわち薬剤が放射標識された直後)を必要とするであろう。α-粒子エミッター標識薬剤に関するこれらのレベルの放射活性は現在では、本発明に従うα-粒子エミッターの安定化を通して可能である。
【0058】
酸化剤含有溶液を用いて達成される保存安定性のために、α-粒子エミッターは、α-粒子エミッター標識化合物を合成するために離れた場所に運送、輸送、送付する、および使用するために提供することができる。この合成は、α-粒子エミッターを含有する安定化組成物が調製された数時間または数日後に起こってもよい。異なる区画または容器(たとえば異なるバイアル)において2つの組成物を含有する単純なキットを用いて、α-粒子エミッター標識化合物を調製してもよい。第一の組成物は、酸化剤を含有する溶液においてα-粒子エミッターを含む安定化組成物である。都合がよいことに、本組成物は、それに対してα-粒子エミッターが次に反応する(すなわち、第一の組成物を第二の組成物と混合した際に)、先に記述した任意の反応性部位(たとえば、反応性のアスタチン化部位)を有する化合物を有効に含まずに(たとえば、非存在下で)含まれてもよい。「有効に含まない」とは、安定化組成物に存在する反応性部位が重量で約10%未満、一般的に重量で約1%未満、および典型的に重量で約0.1%未満の量である化合物を指す。1つの態様において、安定化組成物は、その基礎および新規特徴に物質的影響を及ぼすであろう量の他の任意の成分の非存在下で、α-粒子エミッターと酸化剤含有溶液(たとえば、アルコールおよび酸化剤)を含有する。
【0059】
本発明のキットにおいて用いられる第二の組成物は、先に記述した反応性部位(たとえば、反応性のアスタチン化部位)を有する先に記述した化合物(たとえば、MeSTBまたはBuSTB)を含む。安定化溶液においてα-粒子エミッターを保存する最初の期間の後(たとえば、離れた場所に運送するために必要である場合のように、数時間)、第一および第二の組成物を混合して、α-粒子エミッターを、反応性部位を有する化合物と反応させて、それによってα-粒子エミッター標識薬剤(たとえば、α-粒子エミッター標識モノクローナル抗体)、またはα-粒子エミッター標識前駆体(たとえば、α-粒子エミッター標識SAB)を生成する。
【0060】
全体として、α-粒子エミッターの安定化のために酸化剤含有溶液を用いることによって、その後の反応(たとえば、求電子置換)は所望のα-粒子エミッター標識化合物の高い収率と共に進行することができる。望ましくない副産物の生成は、治療的に投与されるα-粒子エミッター標識薬剤を最終的に調製するために用いられる合成段階を通して、低減され、回避される。これによって、産物純度の改善および貴重な試薬の損失の低減が起こる。
【0061】
全ての米国特許、国際特許および外国の特許および特許出願と共に、要約書および論文(たとえば、雑誌の記事、週刊誌等)が含まれるがこれらに限定されるわけではない本明細書において引用した参考文献は全て、その全内容物が参照により本明細書に組み入れられる。本明細書における参考文献の考察は、著者らによってなされた断定を単に要約することを意図しており、いかなる参考文献も先行技術を構成すると認めたわけではない。出願人は、引用された参考文献の正確度および適切性を吟味する権利を保有する。前述を考慮して、本発明のいくつかの長所が達成され、他の有利な結果が得られることが認められるであろう。
【0062】
上記の方法および組成物に対して様々な変更を行うことができ、それらも本発明の範囲に含まれることから、先に記述した全ての理論的メカニズムおよび/または相互作用様式を含む、本出願に含まれる全ての内容は、説明目的であると解釈され、添付の特許請求の範囲をいかなるようにも制限しないと解釈されると意図される。
【0063】
以下の実施例を、本発明の代表として述べる。これらおよび他の態様は、本開示および添付の特許請求の範囲を考慮して明らかとなるであろうことから、これらの実施例は本発明の範囲を制限すると解釈してはならない。
【0064】
材料および方法
実験の詳細の多くは先の論文において参照されている。Pozzi, O. et al., J NUCL MED. 46:1393-1400 (2005)およびPozzi, O. et al., J NUCL MED. 46:700-706 (2005)を参照されたい。試験は、放射標識N-スクシンイミジル-3-アスタトベンゾエート(SAB)の合成において用いられ、Zalutsky, M. et al., INT J RAD APPL INSTRUM[A] 38:1051-1055 (1987)およびGarg, P.K. et al., INT RAD APPL INSTRUM[A] 40:485-490 (1989)において記述されたように当初調製した、N-スクシンイミジル-3-(トリ-メチルスタニル)ベンゾエート(MeSTB)およびN-スクシンイミジル-3-(トリ-n-ブチルスタニル)ベンゾエート(BuSTB)について実施した。MeSTBおよびBuSTBの純度を、各実験前にTLCによって確認した。溶媒は全て試薬等級かそれより上であり、購入したまま使用した。
【0065】
分析は、ダイオードアレイ検出器およびX線透視検出器を備えたBeckman System Gold HPLCにおいて逆相HPLCを用いて行った。Waters Xterra 4.6×250 mm(10μm)カラムを使用した。溶出は、溶媒A(水/酢酸、0.1 重量%)における溶媒B(アセトニトリル/水/酢酸(95/5/0.1、w/w/w))の勾配をBの勾配48%で13分の後にBの勾配48%〜100%で2分間の後に、溶媒Bの勾配100%でHPLCの最後まで行った。流速は1 ml/分であり、15〜15.5分のあいだ1から1.5 ml/分に増加して、クロマトグラフィーの終了まで維持した。220 nmおよび254 nmでのUVシグナルと共に放射活性シグナルをモニターした。より長い曝露時間(〜24時間)を除き、50μlのアリコートをHPLC分析のために用い、初回放射活性レベルが低い場合、これらの場合において>50μlのアリコートを用いた。試料は得られた直後にHPLCに注入した。全ての実験において、3-ヨード安息香酸(IBA)およびN-スクシンイミジル-3-ヨードベンゾエート(SIB)の真正標準物質を比較のために同様に含めた。
【0066】
211Atは、Duke大学メディカルセンターサイクロトロンによって産生され、Larsen, R. H. et al., APPL RADIAT ISOTOP. 47:135-143 (1996)に記述されるように乾留によって精製した。211At含有試料の放射活性レベルをCRC-7線量キャリブレータ(Capintec, Pittsburgh, PA)を用いて測定した。α-粒子およびα-反跳核崩壊エネルギーは、これらの放射の範囲が反応混合物の寸法と比較して短いことから、全て211At含有溶液に沈着されると仮定した。溶媒における反応物質の均一な分布も同様に仮定した。したがって、吸収線量は、既に記述されたとおりに計算された。
【0067】
実施例1
メタノールにおけるα-粒子エミッター211Atの2つの型の生成
211At試料を209Biのサイクロトロン衝突によって調製して、この標的から揮発させ、メタノールに溶出した。試料を異なる2つのバイアルに分けた。211Atの型に及ぼす得られた異なる放射線量の効果を評価するために、バイアルを3.7時間および21.5時間保存した。メタノールに対する計算放射線量がそれぞれ1,330 Gyおよび3,630 Gyとなったこれらの保存期間の後、これらの2つのバイアルからのアリコートについてHPLC分析を行った。クロマトグラムを図1に示す。
【0068】
21.5時間後のより高い放射線量では、211Atの放射活性は本質的に2つのピークに分かれ(すなわち、アスタチンの異なる2つの型)、以降これをAt(I)およびAt(II)と呼ぶ。第一のピーク(より低い保持時間で観察された)は、新しく調製された211Atについて観察されたピークに対応した。以下に考察するように、この型At(I)は、N-スクシンイミジル-3-[211At]アスタトベンゾエート(SAB)の合成において反応性であることが見いだされた。第二のピークは放射線分解(すなわち、メタノールの放射線照射の結果として)によって生成されるように思われるアスタチンのもう1つの型に対応した。以下に考察するように、この型At(II)は、N-スクシンイミジル-3-[211At]アスタトベンゾエート(SAB)の合成において、At(I)よりかなり反応性が低いことが見いだされた。
【0069】
実施例2
生成された211At型の相対量に及ぼすpHの効果
メタノールにおける211Atのさらに2つのバイアルを、実施例1における同じ211At合成から調製した。これらのバイアルを、メタノールに対する計算放射線量がそれぞれ1,392 Gyおよび3,520 Gyとなるように、HPLC分析の前に4.15および21.9時間保存した。しかし、酢酸を用いると、溶液のpHは保存期間の間に有意に低下した。2つのバイアルのアリコートについてHPLC分析を行い、クロマトグラムを図2に示す。
【0070】
1,392 Gyという比較的低い線量であっても、酢酸の存在による溶液のpHの低減により、本質的に全てのアスタチンがAt(II)型に変換された(より高い保持時間で観察された)。この結論は、211Atを中性pHの溶液中で保存した実施例1におけるピークと比較して、実施例2におけるHPLCクロマトグラムピーク間の比較に基づいた。低いpH値は、還元種の放射線分解生成を増強して、これは最終的にAt(I)をAt(II)に変換した。
【0071】
実施例3
生成された211At型の相対量に及ぼす放射線量の効果
メタノールにおける211Atを実施例1と同様に調製した。増加した計算α-粒子エミッター放射線量レベルに対応する一連の時間でアリコートを採取して、HPLCを用いて分析した。図3は、生成されたアスタチンAt(I)型およびAt(II)型の量の関係を放射線量の関数として示す。211At型はメタノールによって吸収された放射線量に明らかに依存した。
【0072】
At(I)からAt(II)への変換は、メタノールにおける還元種の放射線分解生成に起因し、より長いHPLC保持時間で観察されたアスタチンのAt(II)型はアスタチンの還元型であると考えられた。
【0073】
実施例4
より長いHPLC保持時間で観察されたAt(II)の特徴付け
メタノール460 μlにおける211At溶液を実施例1のとおりに調製した。初回放射活性25μCi(925 kBq)を有するこの溶液の30μlアリコートを、公知の還元剤である亜硫酸水素ナトリウム30μl(2μmol)と混合した。亜硫酸水素ナトリウムを30分間反応させた。亜硫酸水素ナトリウムとの反応前後で、メタノール中の211Atのアリコートに関してHPLCクロマトグラムを生成した。用いた2つのアリコートの容積を調節することによって、ほぼ等しいレベルの放射活性をHPLCに注入した。亜硫酸水素ナトリウム反応の前後でのこれらのアスタチン溶液のアリコートのHPLCクロマトグラムを図4に示す。
【0074】
メタノール中のアスタチンは、公知の還元剤である亜硫酸水素ナトリウムとの反応の結果としてAt(II)に対応する保持時間を有する型にほぼ完全に変換された。これは、より長いHPLC保持時間で観察されたアスタチンのAt(II)型がアスタチンの還元型であるというさらなる証拠を提供した。
【0075】
実施例5
求電子アスタチン化(反応混合物においてNCSとの)に関するAt(I)とAt(II)の反応性
実施例4において調製したメタノール中の211Atの各200μlの2つの試料を、求電子アスタチン化による放射標識前駆体N-スクシンイミジル-3-[211At]アスタトベンゾエート(SAB)の合成において用いた。211Atメタノール溶液をそれぞれN-スクシンイミジル-3-(トリ-n-ブチルスタニル)ベンゾエート(BuSTB)80μgを含むバイアルに注いで、メタノール100μlにおけるN-クロロスクシンイミド(NCS)200μgをこれらのバイアルのそれぞれに加えた。これらの反応混合物は、第一の反応が酢酸12μlの付加によって酸性条件で行われたことを除き同一であった。反応混合物を20分間振とうして、50μlアリコートをHPLC分析のために採取した。酸性および中性条件でのこれらの反応産物溶液のHPLCクロマトグラムを図5に示す。
【0076】
HPLCクロマトグラムに基づいて、At(I)に対応するピークがほぼ完全に消失したことは、このアスタチン型が求電子アスタチン化にとって非常に反応性であることを示した。対照的に、At(II)の有意な部分が残り、このアスタチン型はSABの合成においてかなり反応性が低かったことを示している。同様に保存のあいだにメタノールが吸収した放射線量の結果としてSAB反応の前に既に形成されたAt(II)は、求電子アスタチン化反応の際に酸化剤NCSの存在によってAt(I)へと有効に酸化されなかった。すなわち、放射線分解効果によるAt(II)の形成は容易に逆転されない。それにもかかわらず、反応混合物におけるNCSによって、酸性条件では中性反応条件と比較して、At(II)のより大きい部分が明らかにSABに変換された(それぞれ、約50%対約10%At(II)変換)。
【0077】
実施例6
放射線量(およびAt(II)量)対SAB収量(反応混合物におけるNCSなし)
放射標識前駆体SABを形成するために211AtとBuSTBとの多数の求電子アスタチン化反応を、実施例5に記述したように、しかし酢酸またはNCSを加えずに(すなわち、中性pHで)行った。メタノール溶液における211Atはその保存時間、および従って吸収した放射線量に関して変化した。SABを形成するための211Atの反応後に得られた反応混合物のアリコートをHPLCによって分析して、メタノール中の211Atが吸収した放射線量の関数として、At(II)量およびSAB収量を決定した。これらの結果を図6に示す。
【0078】
SAB収量と反応混合物中に存在するAt(II)の量とのあいだの反比例関係は、さらに、At(II)と表されるアスタチン型がAt(I)と表されるアスタチン型よりSAB合成にとってはるかに反応性が低いことを示した。
【0079】
実施例7
SAB収量に及ぼす反応混合物pHの効果(反応混合物にNCSが存在する場合)
放射標識前駆体SABを形成するために、211Atの2つの試料とBuSTBとの求電子アスタチン化反応を実施例5において記述されるように行った。しかし、実施例5と比較して、211Atを含有するメタノール溶液が反応前に吸収した放射線量はより少なかった。1つの反応混合物を酢酸の添加によって酸性にした。酸性および中性反応産物溶液のアリコートに関するHPLCクロマトグラムを図7に示す。
【0080】
SAB収率は、酸性(73%収量)および中性(74%収量)条件で行った求電子アスタチン化反応の場合と本質的に同じであった。実施例5と比較して、この実験におけるより高いSAB収量は、反応前にメタノールにおける211Atが吸収した低い放射線量に起因した。すなわち、At(II)と表されるアスタチン型は反応混合物に比較的少量存在した。
【0081】
実施例5および7の結果に基づいて、酸性反応環境は、NCSが存在する場合、SAB収量に恩典を与える可能性がある。しかし、これまでの実験では、NCSの非存在下での酸性条件がSAB収量に有害であることを示された。Pozzi, O. et al., J NUCL MED. 46:1393-1400 (2005)。これは、酸性反応環境の放射線分解によって生成された還元種に起因すると考えられた。したがって、NCSを用いることは、At(I)から求電子アスタチン化にとって比較的反応性が低いAt(II)への変換に至るこれらの有害な効果から保護する、または少なくとも部分的に逆転させるように思われる。
【0082】
実施例8
NCSを用いる反応性アスタチン型At(I)の安定化
211Atの試料200μlを、実施例1において記述されるように調製してメタノールにおいて溶出した。この溶出後まもなく、NCS 200μgを加えた。試料のアリコートを2.15時間後にHPLCによって分析して、25.6時間の保存(または「エージング」)の後再度分析し、この時点でメタノールはそれぞれ、1,872 Gyおよび7,961 Gyの計算放射線量を吸収した。実施例1に基づき、これらの放射線量は、当初存在したAt(I)の実質的な部分がAt(II)に変換すると予測されたであろう。この実験からのHPLCクロマトグラムを図8に示す。
【0083】
NCS 200μgを加えたメタノール中の211Atの保護(または安定化)によって、メタノールが計算放射線量7,961 Gyを吸収した後でさえもAt(II)型に対応するピークにおいて測定されたアスタチン放射活性は5%に過ぎなかった。3,630 Gyのみの放射線量によってAt(I)のAt(II)への57%変換が起こった実施例1において得られた結果と比較すると、メタノールにおける211At 200μlにNCSわずか200μgを加えただけで、アスタチンのほぼ全てがその反応性At(I)型で有効に安定化された。
【0084】
実施例9
求電子アスタチン化に関する安定化アスタチンの反応性
NCSにおいて安定化して、25.95時間保存した実施例8において調製したメタノールにおける211Atの試料を、実施例5における技法に従ってSABの合成において用いた。メタノールに溶出した211Atを含有する第二の試料を、200μgではなくて2,100 μgを用いるNCSによって23.8時間の同じ時間で安定化させた。それぞれの場合においてほぼ8,000 Gyの放射線量を吸収した後の反応産物溶液のHPLCクロマトグラムを図9に示す。
【0085】
HPLCクロマトグラムに基づいて、2,l00 μgおよび200μgの量の双方でNCSを用いると、それぞれの溶液に対する7,780 Gyおよび7,970 Gyの計算線量にもかかわらず、求電子アスタチン化に関して211At反応性を安定化させた。NCS 200μgを含有する反応産物の「きれいな」クロマトグラムは、アスタチン反応性がこの少量の酸化剤を用いた場合でも安定化されることを示した。
【0086】
実施例10
高い放射線量での求電子アスタチン化に関するアスタチンの安定化
実施例8において記述されるように、211At試料を調製してメタノールにおいて溶出し、その後直ちにNCSによって安定化させた。しかし、18.7および18.3時間の保存後により高い放射線量を得るために、より高い初回211At放射活性レベルを用いた。次に、試料を、実施例5における技法に従って、酸性(1つの反応)および中性(2つの反応)条件の双方でSABの合成に用いた。それぞれの場合において40,000 Gyを超える放射線量を吸収した後の反応産物溶液の3つのHPLCクロマトグラムを図10に示す。
【0087】
酸性および中性反応条件の双方でのNCSを用いると、それぞれの溶液に対する計算線量が40,922 Gy;41,181 Gy;および45,064 Gyであったにもかかわらず、求電子アスタチン化に関する211At反応性を安定化させた。3つの反応条件は全て「きれいな」産物スレート(すなわち、少数の副産物)を有する>85%のSAB収率を提供したが、実施例5の場合と同様、酸性条件では中性反応条件と比較して(87%および88%SAB収量)いくぶんより高いSAB収量(95%)が得られた。用いた高い放射線量は、多数の患者の線量を有し、数時間の保存(または運送)時間を経た市販のアスタチン試薬溶液にとって必要な線量の代表であった。
【0088】
実施例1〜10に基づいて、アスタチン型At(I)とAt(II)の相対量と、アスタチンが保存されるメタノールによって吸収される放射線量のあいだに強い相関が見いだされた。すなわち、放射線量が増加すると、アスタチンの還元型であると考えられるAt(II)の量も同様に増加する。酸性条件でアスタチンを保存することは、At(I)からAt(II)への変換を促進するように思われた。さらなる実験から、アスタチン型At(II)が求電子アスタチン化にとってAt(I)より有意に反応性が低いことが示された。
【0089】
アスタチンは、新しく作製した211Atをその中に溶出したメタノールに、少量の酸化剤NCSを溶出後まもなく加えることによって、求電子アスタチン化にとって反応性であるそのAt(I)型で保存または安定化されうることが現在では証明されている。この酸化剤の少量を用いることは、40,000 Gyを超えるメタノールに対する放射線量であっても、そうでなければ有害な放射線分解効果に対して保護する。その上、安定化されたアスタチンは、求電子アスタチン化に関して十分に反応性であり、良好な純度で高い収率のSABを提供する。
【0090】
実施例11A
安定化されたアスタチンを用いるヒトIgGの放射標識
初回レベル放射活性15.9 mCi(589 MBq)を有する、メタノールにおいて211At 540 μlを含有するバイアルを、実施例1において記述されるサイクロトロン放射線照射および精製技法によって調製した。この溶出の7分後、NCS 100μgを加えて、At(II)の形成に対してアスタチンを安定化させた。NCS含有メタノールにおいて211Atを23時間保存した後、実施例5の技法に従ってSABを合成するために、溶液を乾燥BuSTB 80μgに加えた。保存期間のあいだに、NCS含有メタノールは計算放射線量50,046 Gyを吸収した。実施例10と同様に、この高い計算放射線量は、市販のアスタチン試薬溶液に関して必要な線量の代表であった。反応産物溶液のHPLCクロマトグラムを図11に示す。
【0091】
実施例10と比較して、溶液に対して50,046Gyという計算された用量にも関わらず、NCSの量の半分(100μg)のみを用いても、求電子アスタチン化に関する211At反応性が安定化された。実施例10と同様に、求電子アスタチン化反応産物SABの高い収量(85%)が少数の副産物と共に得られた。
【0092】
次に、SAB-含有反応産物溶液を蒸発させて、ヒトIgG 10 mgを含有する溶液に注いだ。α-粒子エミッター標識前駆体SABのIgGとの共役に関する反応収率は70%であった。この共役反応の時点で、211At放射活性レベルは1.7 mCi(63 MBq)であった。
【0093】
実施例11B
安定化アスタチンを用いるヒトIgGの放射標識
ヒトIgGの211Atによる放射標識を、実施例11Aにおける同じ技法後に繰り返した。しかし、メタノールにおける211Atの初回量は680 μlであり、バイアルの内容物の初回放射活性レベルは16.7 mCi(618 MBq)であった。NCS含有メタノールを保存する期間に、これは計算放射線量41,768 Gyを吸収した。同様に、乾燥BuSTB 80μgではなくて50μgをSAB合成のために用いたところ、SAB収率は80%であった。α-粒子エミッター標識前駆体SABのIgGとの共役のための反応収率は56%であった(80%SAB収率に関して補正すれば72%)。この共役反応の時点で、211At放射活性レベルは1.86 mCi(69 MBq)であった。
【0094】
実施例11Aおよび11Bは、酸化剤含有溶液において23時間保存した211Atの、α-粒子エミッター標識IgGの調製における使用を証明する。これらの合成について得られたSAB収率および共役収率は、メタノールにおいて新しく調製したアスタチンについて得られた収率と同等であった。
【0095】
実施例12
211AtのNCS含有メタノールへの溶出/高い放射活性を有する放射標識化合物の調製
211At試料200μlを実施例1の記述通りに調製したが、At(I)のAt(II)への変換を最初から防止するためにメタノールではなくてNCS含有メタノール溶液に直接溶出した。次に、共役反応の時点での211At放射活性レベルが有意に高く、17.25 mCi(639 MBq)であり、治療応用にとって十分であることを除き、211Atを用いて実施例11Aおよび11Bにおいて記述されるように放射標識ヒトIgGを調製した。合成を以下に概要する。

【0096】
サイクロトロンにおけるその調製後直ちにNCSによる211Atの安定化および蒸留による回収は、初回放射活性レベル11.87 mCi(439 MBq)を有し、(濾過後に)治療的有効量で患者に投与するための準備ができた放射標識IgGを合成するための手段を提供した。安定化の結果として放射標識IgGに組み入れられた211Atの割合が高いことにより、わずか34.87 mCi(1.29 GBq)のみの初回α-粒子エミッター放射活性レベルで十分であった。このレベルは、サイクロトロンにおける標的209Bi放射線照射のわずか約1時間後に容易に達成された。サイクロトロン衝突から211At標識IgGの調製までの全合成は、わずか31/4時間を必要としたに過ぎなかった。
【0097】
対照的に、211Atの安定化がない場合、治療的有効レベルの放射活性を有する放射標識IgGのこれまでの調製物は、上記と類似のように、4つのパラレル合成からの反応産物を混合することを必要とした。さらに、この実験においてα-粒子エミッター標識IgGの同じ初回レベル(サイクロトロン標的放射線照射時間において同等の増加を必要とする)を得るために、初回α-粒子エミッター放射活性レベルの約5倍増加が必要であった。High-Level Production of a- Particle-Emitting 211At and Prepartion of 211At-labeled Antibodies for Clinical Use, J NUCL MED. 42:1508-1515 (2001)を参照されたい。安定化の非存在下および存在下(前回対今回)での重要な合成パラメータの比較を以下に示す。

【0098】
NCS/MeOHによって作製された蒸留トラップの溶出は、まさに最初からNCSが存在するという「セーフティネット」を提供するのみならず、メタノール単独で行われた溶出よりも蒸留装置からの211At回収においてより効率的であるように思われた。メタノール単独の場合、これまでの実験において達成された最善の溶出回収率は75%であったが、蒸留を行うと標的上の活性ははるかに低かった。さらに、以前に標的上の活性がより高ければ溶出効率がより低くなることが観察された。
【0099】
実施例13
治療的に有効な組成物を調製するためのアスタチン安定化
211At試料を、209Biのサイクロトロン衝突によって調製して、この標的から揮発させ、メタノールにおいて溶出した。試料を、メタノール中に211Atを含有する異なる2つのバイアルに分けて、実施例5において記述される技法に従ってその内容物をSAB合成において用いた。第一のバイアルの内容物を、求電子アスタチン化反応においてほぼ直ちに用いた。第二のバイアルの内容物をNCS 100μgに加えて104分間の保存期間放置した後SAB合成に用いた。合成においてさらなるNCSを用いなかった。第一のバイアルに関連する反応産物溶液は、放射標識反応の過程において、計算放射線量率3.94 Gy/sおよび総計算線量6,152 Gyを吸収した。第二のバイアルに関連する反応産物溶液は、保存期間およびその後の放射標識反応の過程において、計算放射線量率2.27 Gy/sおよび計算総線量17,026 Gyを吸収した。
【0100】
この実験は、反応容積300μlおよび反応時間30分を用いて、初回α-粒子エミッター溶液の放射活性(約22〜23 mCi)の予想レベルと共に、反応産物溶液によって吸収された放射線量率(3〜6 Gy/s)および総放射線量(約6,000〜8,000 Gy)をシミュレーションするために設計された。第一および第二のバイアルの内容物を用いて得られた反応産物溶液のHPLCクロマトグラムをそれぞれ、図12および13に示す。
【0101】
結果は再度、求電子アスタチン化のために使用する前に211At溶液に酸化剤、この場合はNCSを加える恩典を決定的に証明した。第一のバイアル(酸化剤の非存在下)からの211Atを用いた放射標識前駆体SABの反応収率は、第二のバイアルからの211Atを用いて得られた67%と比較してわずか15%であった。この有意な収量の改善によって、第二のバイアルの内容物が保存期間に供したという事実にもかかわらず、かなり高い放射線量の吸収が起こった。その上、この実験における酸化剤NCSは、新しく調製した211Atのメタノールにおける溶出後21分まで加えず、その期間の間に、メタノールは既に計算放射線量率および総放射線量をそれぞれ、3.66 Gy/sおよび4613 Gyを吸収した。これらの結果に基づいて、α-粒子エミッターの安定化は、保存の際に有用であるのみならず、放射標識反応の経過においても、特に治療的応用の代表である、反応溶液が高い放射線量を吸収した場合にも有用である。このように、α-粒子エミッターの安定化は、211At/メタノール溶液のようなα-粒子エミッターを含有する新しく調製した溶液についても有意な検討である。
【0102】
実施例14
非常に高い放射線量でのアスタチン安定化
メタノールにおけるさらに2つの試料の211Atを実施例1において記述したように調製し、実施例11Aにおいて記述された試料(放射標識ヒトIgGの調製において用いられる)より有意に高いレベルの放射活性を示した。At(II)の形成に対してアスタチンを安定化するために、これらの試料にNCS 100μgを加えた。NCS含有メタノールにおける211At試料をしばらく保存した後、実施例5における技法に従ってSABを合成するために用いた。合成にさらなるNCSを用いなかった。保存およびその後の反応期間のあいだに、溶液はそれぞれ、71,500 Gyおよび125,086 Gy計算放射線量を吸収した。高線量を吸収した反応産物溶液のHPLCクロマトグラムを図14に示す。NCS含有メタノールにおける211At試料は、この場合18時間保存された。
【0103】
71,500 Gyおよび125,086 Gyを吸収した反応溶液に関して得られたSAB収率はそれぞれ、65%および82%であり、いずれの場合も非常にきれいなHPLCプロフィールを有した。これらの結果は、反応溶液が非常に高い放射線量を吸収する場合であっても、酸化剤が、治療的に有効な放射活性レベルで211At標識化合物の実際に調製を可能にすることをさらに証明する。これらの場合において吸収された放射線量は、α-粒子エミッターの初回放射活性レベルがそれぞれ、49 mCiおよび86 mCiである場合に、溶液500μlによって5時間で吸収される代表的な線量である。
【0104】
実施例15
様々な酸化剤によるアスタチン安定化
メタノールにおける211Atのさらなる試料を実施例1において記述されたように調製した後、実施例5において記述された技法に従ってSABの合成に用いた。NCSよりむしろ様々な他の酸化剤を211At/メタノール溶液試料に加えた。酸化剤の添加は、メタノールにおける211Atの溶出後可能な限り速やかに行った。次に、酸化剤安定化溶液を特異的保存期間放置して、そのあいだのそれぞれの溶液に対する放射線量および線量率を決定することができる。選択した時間で、それぞれの実験の溶液をBuSTBおよび酢酸を含有するバイアルに注いだ。溶液の量はそれぞれの場合において同じ211At濃度を維持するように調節した。時間、容積、および放射活性レベルを、放射線量率および総線量の正確な計算のために記録した。
【0105】
表1は、211At安定化のために用いたそれぞれの酸化剤、用いた量(マイクロモル)、濃度(重量%)、吸収した総放射線量(Gy)、吸収した線量率(Gy/s)、およびSABの%収率の一覧を提供する。
【表1】

【0106】
表1の4行目および14行目に記述される実験に対応する反応産物溶液のHPLCクロマトグラムをそれぞれ、実施例15および16に示す。これらの実験において、酸化剤亜塩素酸ナトリウム5μmolおよび硝酸セリウム(IV)アンモニウムによる211Atの安定化によって得られたSABの収率はそれぞれ、75%および60%であった。酸化剤の保護機能は、実際の実践において予想されるレベルの代表である放射線レベルに曝露されている放射標識反応溶液の場合においても証明される。
【0107】
本試験の結果は、広く多様な酸化剤が211Atのようなα-粒子エミッターの安定化にとって適しており、高い収率で化合物の放射標識を可能にすることを示している。この時点まで、他の変数を一定に維持すること、酸化剤の量を増加させることは一般的にSAB収率を増加させた。これらの結果を考慮して、本開示と併せると、他の酸化剤を評価して、添加した酸化剤の量を最適化するために上記の実験技法をルーチンで利用することができるであろう。
【0108】
実験結果の結末
溶液に対して高い放射線量でアスタチンの安定化に関連する本明細書に記述の知見および関連する方法論は、アスタチン化される分子とは無関係である。At+によって標識されるいかなる分子も本発明によって恩典を受けることができる。本明細書において記述される発見の結果として後に続く放射標識技法は非常に単純である。これは速やかで、オペレーターによって吸収される放射線量が低く(すなわち、安全である)、容易に自動化される。
【0109】
今日までに行われた実験に基づいて、およびDuke大学のサイクロトロンで作製されたアスタチン含有溶液において現在保存することができる線量を考慮すると、アスタチンは、離れた場所に、海外にさえ送付することができる。治療レベルの211Atを産生することができるサイクロトロンはごく少数(米国において5個未満)であることから、この進歩は特に重要である。アスタチンが50,046 Gyまでを吸収する溶液において保存される実験において、これは500μlにおいて35 mCiの放射活性を5時間送付して、22 mCiがその場所に到達することと同等であろう。ニューヨーク市はDuke大学からこの時間内に到達するであろう。Dukeのサイクロトロンから5時間離れた場所の研究所が受領するであろうこの22 mCiの活性は、先に行ったタンパク質標識実験において化学標識技法を開始するために用いられる活性とほぼ同じである。この放射活性レベルは、患者に投与するために十分であろう。
【0110】
技法は非常に単純で、バイアル2個、たとえばキットにおいて送付する必要があるのみである。バイアル1個は211At/メタノール/NCSを有し、他のバイアルは乾燥STB 50μgを有する。キットの到着時に、ユーザーは放射活性材料を含むバイアルをSTBバイアルに注いで、15分間(SAB形成反応のため)待ち、溶液を蒸発させた後、乾燥SAB上に所望の抗体溶液を注いで抗体をSABに共役させるだけでよい。PD10カラムにおいて精製した後、放射標識抗体の準備ができるであろう。保存することができる放射活性および線量の限界は、それを含有する溶液に対する線量が50,000 Gyを超える場合であっても、本質的に全ての211Atが反応性であるという知見に基づいて、過去の場合より有意に高い。または、1つのバイアルにおける酸化剤の保護能を超える放射線量が必要である場合(今日まで実験的に限界は見いだされていないが、これは、たとえば海外への運送にとって必要な活性を満たすために、非常に高レベルの211At活性が必要である場合には起こりうるであろう)、1個より多い211At/メタノール/NCSバイアルをキットにおいて送付または提供することができるであろう。
【0111】
アスタチン化学に関して
求電子アスタチン化反応のためにAtを用いることは、多くの種類の分子の標識を可能にして、信頼でき、安定な分子を産生することができる。さらに、At+を安定化するために酸化剤を用いて、臨床的に用いるために必要な高レベルの活性および放射線量に達することが現在では可能となっている。同様に、非常に高い線量を保存することができ、サイクロトロンから少なくとも数時間離れた場所の研究所に安定化アスタチンを送付することが可能である。安定化アプローチに起因する反応効率のために、患者の使用にとって十分なアスタチンを、ちょうど1時間のサイクロトロン照射時間で生成することができる。アスタチン安定化の発見に基づいて、この元素および他のα-粒子エミッターは今では広範囲の応用において広く治療的に用いる準備ができている。
【0112】
重要なことは、上記の安定化はアスタチン化される分子とは完全に独立している。これは求電子置換を受けることができるSTBまたはいかなる他の分子も標識するために用いることができる。ペプチドおよび抗体を放射標識するために本発明を応用することは最も明白である。しかし、多くの新規分子をα-粒子エミッター放射標識に応用することは、数年以内に実現されると認識される。したがって、本発明は、これらの分子の標識に等しく十分に適用される。実際に、本発明は、高い放射活性レベルを有するα-粒子エミッターによる放射標識が必要であるいかなる実際の応用にも恩典を与えるであろう。
【0113】
メタノールは、いくぶん脂肪親和性の分子(STBのように)から非常に親水性の分子まで、広い範囲の親水性/疎水性の分子を溶解することができるという長所を有する。メタノールはまた、アスタチンを安定化させるためにNCSと協調して作用する可能性がある。したがって、211At/NCS/メタノール系は、特に、放射標識の分野において有望性を示す、ほとんどではないが多くの新規分子にとって有用であろう。しかし、特定の応用に応じて、他のアルコール、およびアルコール混合物も同様に用いることができる。たとえば、ブタノールを用いてより脂肪親和性の分子を溶解してもよい。二級および三級アルコールは、他のタイプの分子にとって望ましい特性を有する可能性がある。そのため、溶液のタイプは、放射標識される分子のタイプに適合させることができる。
【0114】
本明細書に記述のアスタチン溶液化学に関連する発見は、一般的にアスタチン以外のα-粒子エミッターに適用され、短い半減期を有するα-粒子エミッターが含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】3.7時間および21.5時間メタノールにおいて保存された211AtのHPLCクロマトグラムを示す。これらの保存時間によって、メタノールによって吸収された計算放射線量はそれぞれ1,330 Gyおよび3,630 Gyであった。
【図2】4.15時間および21.9時間メタノール/酢酸において保存された211AtのHPLCクロマトグラムを示す。これらの保存時間によって、メタノール/酢酸によって吸収された計算放射線量はそれぞれ1,392 Gyおよび3,520 Gyであった。
【図3】放射線量の関数としてメタノールにおいて保存されたアスタチン型の相対量の関係を示す。
【図4】還元剤亜硫酸水素ナトリウムとの反応前後でのメタノールにおける211AtのHPLCクロマトグラム。
【図5】N-スクシンイミジル-3-[211At]アスタトベンゾエート(SAB)を形成するために、メタノールにおいて保存された211AtによるN-スクシンイミジル-3-(トリ-n-ブチルスタニル)ベンゾエート(BuSTB)の求電子アスタチン化後の、酸性および中性反応産物溶液のHPLCクロマトグラムを示す。
【図6】211Atが保存されるメタノールによって吸収される放射線量と、211AtによるBuSTBの求電子アスタチン化から得られたSABの収率との関係を示す。
【図7】SABを形成するために、メタノールにおいて保存された211AtによるBuSTBの求電子アスタチン化後の酸性および中性反応産物溶液のさらなるHPLCクロマトグラムを示す。
【図8】その調製直後のN-クロロスクシンイミド(NCS)200μgによって安定化されたメタノールにおける211AtのHPLCクロマトグラムを示す。クロマトグラムは、NCS-含有メタノールによって吸収された計算放射線量がそれぞれ、1,872 Gyおよび7,961 Gyであるように、2.15時間および25.6時間保存後に得た。
【図9】23.8時間および25,95時間、それぞれ保存された2,100μgおよび200μg NCSによって安定化され、SABを形成するためにBuSTBと反応させたメタノール中の211Atを用いた求電子アスタチン化反応産物のHPLCクロマトグラムを示す。211Atが安定化されたNCS-含有メタノールによって吸収された計算放射線量は、保存および反応のあいだそれぞれ、7,780および7,970 Gyであった。
【図10】NCS 200μgによって安定化され、18.7時間(酸性条件で1つの反応および中性条件で2つの反応の1つの場合)および18.3時間(中性条件での2つの反応のもう1つの反応の場合)保存され、およびSABを形成するためにBuSTBと反応させた、メタノール中の211Atを用いた、酸性(1つの反応)および中性(2つの反応)条件での求電子アスタチン化反応産物のHPLCクロマトグラムを示す。211Atが安定化されたNCS含有メタノールによって吸収された計算放射線量は、保存および反応のあいだそれぞれ、40,922 Gy、41,181 Gy、および45,064 Gyであった。
【図11】NCS 100μgによって安定化され、23時間保存されて、SABを形成するためにBuSTBと反応させたメタノール中の211Atを用いた、求電子アスタチン化反応産物のHPLCクロマトグラムを示す。211Atが安定化されたNCS-含有メタノールによって吸収された計算放射線量は、保存および反応のあいだ、50,046 Gyであった。
【図12】新たに調製した211Atのほぼ溶出直後に放射標識反応を行った、酸化剤を含まないメタノール中の211Atを用いて得た求電子アスタチン化反応産物のHPLCクロマトグラムを示す。メタノールによって吸収された計算放射線量率および総線量はそれぞれ、6152 Gyおよび3.94 Gy/sであった。
【図13】放射標識反応をNCS付加後104分の保存期間の後に行った、新たに調製された211Atの溶出後21分に酸化剤NCSを加えたメタノール中の211Atを用いて得られた、求電子アスタチン化反応産物のHPLCクロマトグラムを示す(その期間にメタノールは計算線量率および放射線量それぞれ、3.66 Gy/sおよび4613 Gyを吸収した)。メタノールによって吸収された計算放射線量率および総線量はそれぞれ、2.27 Gy/sおよび17026 Gyであった。
【図14】NCS 100μgによって安定化され、18時間保存され、SABを形成するためにBuSTBと反応させた、メタノール中の211Atを用いた求電子アスタチン化反応産物のHPLCクロマトグラムを示す。211Atが安定化されたNCS-含有メタノールによって吸収された計算放射線量は保存および反応の際に125,086 Gyであった。
【図15】5μmol亜塩素酸ナトリウムによって安定化させ、11時間保存され、SABを形成するためにBuSTBと反応させた、メタノール中での211Atを用いた求電子アスタチン化反応産物のHPLCクロマトグラムを示す。211Atが安定化されたNaClO2-含有メタノールによって吸収された計算放射線量率および総線量は、保存および反応のあいだ、それぞれ1.17 Gy/sおよび48,553 Gyであった。
【図16】硝酸セリウム(IV)アンモニウム5μmolによって安定化され、7.52 時間保存され、SABを形成するためにBuSTBと反応させたメタノール中の211Atを用いた求電子アスタチン化反応産物のHPLCクロマトグラムを示す。211Atが安定化された(NH4)2Ce(NO3)6含有メタノールによって吸収された計算放射線量率および総線量は、保存および反応のあいだそれぞれ、2.6 Gy/sおよび71,997 Gyであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、211At標識化合物を調製するための方法:
酸化剤を含む溶液において211Atを安定化させる段階、およびその後
211At標識化合物を提供するために、反応性のアスタチン化部位を有する化合物と211Atとを反応させる段階。
【請求項2】
安定化段階の前に、加速器の標的の照射によって211Atを調製する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
211Atを調製した後で安定化段階の前に、211Atを蒸留によって精製する段階をさらに含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
安定化段階が、酸化剤を含有する溶液中に211Atを溶出する段階を含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
溶液中の211Atが少なくとも約15 mCi(560 MBq)の初回放射活性レベルを有する、請求項2記載の方法。
【請求項6】
211At標識化合物が、溶液中の211Atの初回放射活性レベルの少なくとも約20%である初回放射活性レベルを有する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
反応段階が、安定化段階後少なくとも1時間行われる、請求項1記載の方法。
【請求項8】
酸化剤を含有する溶液が反応段階の前少なくとも約2,000 Gyの放射線量を吸収する(receive)、請求項1記載の方法。
【請求項9】
放射線量が約3,000〜約100,000 Gyである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
211At標識化合物が少なくとも約30%の放射化学反応収率で提供される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
溶液がアルコールを含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
アルコールがメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、およびi-ブタノールからなる群より選択される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
酸化剤が、ハロゲン化有機化合物である、請求項1記載の方法。
【請求項14】
酸化剤が、ハロスクシンイミドである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
酸化剤が、N-クロロスクシンイミドである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
酸化剤が、アンモニウム、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属からなる群より選択される陽イオンを有し、かつ過マンガン酸塩、クロム酸塩、重クロム酸塩、過ホウ酸塩、過リン酸塩、過硫酸塩、過塩素酸塩、塩素酸塩、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩、過臭素酸塩、臭素酸塩、亜臭素酸塩、次亜臭素酸塩、過ヨウ素酸塩、ヨウ素酸塩、亜ヨウ素酸塩(iodite)、次亜ヨウ素酸塩、およびビスマス酸塩からなる群より選択される陰イオンを有する塩である、請求項1記載の方法。
【請求項17】
アルカリ金属がナトリウムまたはカリウムであって、アルカリ土類金属がカルシウムまたはバリウムである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
酸化剤が、酸素、オゾン、塩素、臭素、およびヨウ素からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項19】
酸化剤が、ハロ置換アミン化合物、スルホニル、またはスルフィニルハロゲン塩化合物、リン含有ハロゲン塩化合物、およびハロギ酸塩化合物からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項20】
酸化剤が溶液中に金属イオンを生成する、請求項1記載の方法。
【請求項21】
金属イオンが、Fe+2、Fe+3、Ce+4、Tb+3、Cu+、Cr+6、Mn+3、Mn+4、Ru+3、Ru+4、およびV+5からなる群より選択される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
酸化剤が鉄、セリウム、テルビウム、銅、クロム、マンガン、ルテニウム、およびバナジウムからなる群より選択される金属の金属酸化物である、請求項1記載の方法。
【請求項23】
酸化剤が、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウム、亜塩素酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、過塩素酸アンモニウム、過酸化水素、クロラミン-T、クロラミン-B、2-クロロ-4-フルオロベンゼンスルホニルクロリド、2-クロロ-1,3,2-ベンゾジオキサホスホリン-4-オン、過ホウ素酸ナトリウム、過硫酸カリウム、硝酸テルビウム(III)、および硝酸セリウム(IV)アンモニウムからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項24】
反応性のアスタチン部位が、求電子アスタチン置換部位、求核アスタチン置換部位、アスタチン錯体形成部位、アスタチン交換部位、およびアスタチン-金属結合部位からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項25】
反応性のアスタチン化部位が、求電子アスタチン置換部位である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
求電子アスタチン置換部位を有する化合物が、求電子アスタチン置換部位を有するように改変された薬剤である、請求項25記載の方法。
【請求項27】
薬剤がペプチドである、請求項26記載の方法。
【請求項28】
薬剤が抗体または抗体断片である、請求項26記載の方法。
【請求項29】
求電子アスタチン置換部位を有する化合物が、有機金属前駆体である、請求項25記載の方法。
【請求項30】
有機金属前駆体が有機スズ前駆体である、請求項29記載の方法。
【請求項31】
有機スズ前駆体が、N-スクシンイミジルアルキルスタニルベンゾエートである、請求項30記載の方法。
【請求項32】
N-スクシンイミジルアルキルスタニルベンゾエートが、N-スクシンイミジル-3-(トリ-メチルスタニル)ベンゾエート、またはN-スクシンイミジル-3-(トリ-n-ブチルスタニル)ベンゾエートであり、標識化合物が、N-スクシンイミジル-3-アスタトベンゾエートである、請求項31記載の方法。
【請求項33】
以下の段階を含む、α-粒子エミッターによって放射標識された薬剤を調製するための方法:
酸化剤を含有する溶液においてα-粒子エミッターを安定化させる段階;その後
α-粒子エミッターを有機金属前駆体と反応させて、中間体を生じさせる段階;および
薬剤を中間体に共役させて、α-粒子エミッターによって放射標識された薬剤を提供する段階。
【請求項34】
反応段階の後に、溶液を中間体から蒸発させる段階をさらに含む、請求項33記載の方法。
【請求項35】
放射標識薬剤が少なくとも約5 mCi(185 MBq)の初回放射活性を有する、請求項33記載の方法。
【請求項36】
放射標識薬剤が、放射標識ペプチドである、請求項33記載の方法。
【請求項37】
放射標識薬剤が、放射標識抗体または放射標識抗体断片である、請求項33記載の方法。
【請求項38】
放射標識抗体が、放射標識モノクローナル抗体または放射標識モノクローナル抗体断片である、請求項37記載の方法。
【請求項39】
放射標識抗体が、放射標識抗腫瘍抗体である、請求項37記載の方法。
【請求項40】
請求項31記載の方法に従って調製された放射標識抗腫瘍抗体の治療的有効量を患者に投与する段階を含む、患者における腫瘍細胞の生育を阻害するための方法。
【請求項41】
以下の段階を含む、アスタチン化反応のために使用する前に、211Atを安定化させる方法:
211Atを酸化剤を含有する溶液と混合する段階;および
少なくとも約2,000 Gyの放射線量を吸収するために十分な期間、酸化剤を含有する溶液を保存する段階。
【請求項42】
以下の段階を含む、α-粒子エミッター標識化合物の合成のためにα-粒子エミッターを提供する方法:
第一の場所で、α-粒子エミッターを、酸化剤を含有する溶液と混合して、安定化組成物を生じさせる段階;および
安定化組成物を第二の場所に輸送する段階。
【請求項43】
反応性のアスタチン化部位を有する化合物を実質上含まない、211Atと酸化剤を含有する溶液とを含む安定化組成物。
【請求項44】
本質的にα-粒子エミッター、アルコール、および酸化剤からなる安定化組成物。
【請求項45】
第一の組成物と第二の組成物とが異なる容器に包装される、以下を含む、α-粒子エミッター標識化合物を調製するためのキット:
α-粒子エミッター、アルコール、および酸化剤を含む第一の組成物;および
α-粒子エミッターと反応性である化合物を含む第二の組成物。
【請求項46】
α-粒子エミッターが211Atであり、α-粒子エミッターと反応する化合物が、反応性のアスタチン化部位を有する、請求項45記載のキット。
【請求項47】
反応性アスタチン化部位が、求電子アスタチン置換部位、求核アスタチン置換部位、アスタチン錯体形成部位、アスタチン交換部位、およびアスタチン-金属結合部位からなる群より選択される、請求項46記載のキット。
【請求項48】
反応性のアスタチン化部位が、求電子アスタチン置換部位である、請求項47記載のキット。
【請求項49】
求電子アスタチン置換部位を有する化合物が、有機金属前駆体である、請求項48記載のキット。
【請求項50】
求電子アスタチン置換部位を有する化合物が、求電子アスタチン置換部位を有するように改変された薬剤である、請求項49記載のキット。
【請求項51】
以下の段階を含む、安定化型のα-粒子エミッターを単離する方法:
加速器標的の照射によってα-粒子エミッターを調製する段階;
α-粒子エミッターを精製する段階;および
酸化剤を含有する溶液にα-粒子エミッターを溶出する段階。
【請求項52】
精製する段階が蒸留を含む、請求項51記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2009−521469(P2009−521469A)
【公表日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−547553(P2008−547553)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【国際出願番号】PCT/US2006/048811
【国際公開番号】WO2007/120251
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(508129805)デューク ユニバーシティー (3)
【Fターム(参考)】